JP3812526B2 - 被研磨物保持材 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
シリコンウエハやハードディスクなどの製造工程には、これらの表面を研磨する工程がある。本発明は、前記研磨工程で、シリコンウエハやハードディスクなどの被研磨物を保持するための被研磨物保持材に関する。
【0002】
【従来の技術】
上記被研磨物保持材は、被研磨物を嵌め込んで保持するための貫通穴を板状体に1個ないし複数個配置した構造である。例えば、駆動用のギアを周囲に形成した円板状の被研磨物保持材を用いて研磨を行なう場合には、被研磨物保持材の板面に配置した貫通穴に被研磨物を嵌め込んで研磨装置に装着し、保持材を平面で遊星運動させることにより被研磨物の研磨を行なう。
【0003】
従来、このような被研磨物保持材は、熱硬化性樹脂積層板を加工した板状体で構成されている。前記熱硬化性樹脂積層板は、ガラス繊維織布基材エポキシ樹脂積層板、アラミド繊維不織布基材エポキシ樹脂積層板、綿布基材フェノール樹脂積層板などである。
被研磨物保持材を構成するための上記積層板は、熱硬化性樹脂をガラス繊維織布やアラミド繊維不織布あるいは綿布等の基材に含浸乾燥してプリプレグとし、このプリプレグ1枚もしくは重ね合せた複数枚を加熱加圧成形して製造する。これら積層板を、上述したような被研磨物保持材に加工し、シリコンウエハやハードディスクなどの研磨に使用する。この中でも、アラミド繊維不織布基材エポキシ樹脂積層板を加工した被研磨物保持材を用いると、被研磨物表面に微細なスクラッチ(研磨傷)ができるのを抑えることができるので好都合である(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
【特許文献1】
特許第2974007号公報
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
シリコンウエハやハードディスクなどの被研磨物には、その研磨される表面は勿論のこと、その周囲端面にもスクラッチ発生が極力少ない品質・性能が求められるようになってきた。
上述したように、積層板を加工してなる被研磨物保持材は、積層板がプリプレグを重ねて加熱加圧成形したものであるため、厚さ方向の面には硬い熱硬化性樹脂リッチ層と繊維層とがはっきりと分かれて現れていた。被研磨物保持材の貫通穴に被研磨物を嵌め込んで保持し研磨作業を実施すると、その作業中、被研磨物の周囲端面が貫通穴壁面の硬い熱硬化性樹脂リッチ層に繰返し衝突するので、被研磨物の周囲端面にスクラッチが発生しやすかった。
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、被研磨物の研磨作業において、その研磨される表面と共に周囲端面のスクラッチ発生も抑えることができる被研磨物保持材を提供することである。
【0007】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するために、本発明に係る被研磨物保持材は、メタ系アラミド繊維を主成分とする繊維集積体を加熱圧縮した板状体から実質的になっており、繊維同士が熱融着により固定されていることを特徴とする。
【0008】
本発明に係る被研磨物保持材は、被研磨物を保持する貫通穴の壁面に、実質的にマトリックス樹脂層が存在せず、メタ系アラミド繊維を主成分とする繊維が露出した状態となっている。この露出した繊維がクッション材となって、被研磨物の周囲端面が貫通穴壁面に衝突したときの衝撃を和らげ、被研磨物の周囲端面にスクラッチができにくくしている。
アラミド繊維は、一般的な有機繊維に比べて引張り強度が高く、被研磨物保持材に耐久性を付与し使用寿命を短くしないので好都合である。そして、メタ系アラミド繊維は、溶融温度が340℃近辺であることから、その熱融着により繊維同士を固定することが十分に可能である。また、メタ系アラミド繊維は、その形状がパラ系アラミド繊維に比べて破壊されやすいのでクッション材としての作用が大きく、この繊維の選択は、微細なスクラッチの発生を抑制することに寄与する。
【0009】
本発明に係る別の被研磨物保持材は、メタ系アラミド繊維を主成分としパラ系アラミド繊維を含有する繊維集積体を加熱圧縮した板状体から実質的になっており、繊維同士がメタ系アラミド繊維の熱融着により固定されていることを特徴とする。パラ系アラミド繊維は熱溶融しないが、メタ系アラミド繊維の熱融着により一緒に固定される。この被研磨物保持材も、上記の被研磨物保持材と同様、貫通穴壁面に露出した繊維がクッション材となる。
【0010】
【発明の実施の形態】
上述したように、本発明に係る被研磨物保持材は、メタ系アラミド繊維又はメタ系アラミド繊維を主成分としパラ系アラミド繊維を含む繊維集積体を加熱圧縮した板状体であって、メタ系アラミド繊維の熱融着により繊維同士が固定されたものである。
【0011】
メタ系アラミド繊維は、単繊維を所定長に切断したチョップやチョップを叩解したパルプ、さらには、メタ系アラミドフィルムを叩解したフィブリドをその概念に含む。メタ系アラミド繊維としては、ポリ−m−フェニレンイソフタルアミド繊維が一般的であり、デュポン製「ノーメックス」や帝人製「コーネックス」)が市販されている。
また、パラ系アラミド繊維は、融点を有しない高強度有機繊維であり、単繊維を所定長に切断したチョップやチョップを叩解したパルプをその概念に含む。パラ系アラミド繊維としては、ポリ−p−フェニレンテレフタルアミド繊維(例えば、デュポン製「ケブラー」)やポリ−p−フェニレン3,4’−ジフェニルエーテルテレフタルアミド繊維(例えば、帝人製「テクノーラ」)が市販されている。
【0012】
被研磨物保持材を構成するに当り、上記繊維の集積体は、織布や不織布の形態で用いると取扱いが容易であり、このような形態の繊維集積体を加熱圧縮し繊維同士を熱融着して被研磨物保持材を構成する。不織布形態の集積体を加熱圧縮して繊維同士を熱融着した構成の被研磨物保持材は、被研磨物の周囲端面が衝突することによって起こる貫通穴壁面の繊維毛羽立ちが顕著であり、クッション材としての効果が大きくなるので好ましい。
不織布形態の繊維集積体は、上述したチョップ、パルプ、フィブリドを単体で水中に分散して抄造することにより、あるいは適宜混抄して製造することができる。不織布形態を保持するために、多少の樹脂バインダを適用して繊維同士を結着することは差し支えない。本発明において、「繊維集積体を加熱圧縮した板状体から実質的になる」とは、このように不織布形態とするために多少の樹脂バインダを適用した構成もその概念に含む。
【0013】
繊維集積体の加熱圧縮と繊維同士の熱融着は、例えば、不織布形態や織布形態などシート状の繊維集積体を平坦な金属板に挟み、これを加熱加圧成形することにより実施する。被研磨物の種類や厚さなど研磨条件に合わせて、不織布や織布の重ね合せ枚数を変えて加熱加圧成形を行ない、繊維同士を熱融着する。前記重ね合せにおいては、シート状の他の繊維集積体を適宜選択し組合せてもよい。
【0014】
【実施例】
繊維集積体として、以下のものを準備した。
[アラミド繊維不織布(1)]
パラ系アラミド繊維チョップ(繊維径:1.5デニール,繊維長:5mm,帝人製「テクノーラ」)とメタ系アラミド繊維チョップ(繊維径:3デニール,繊維長:6mm,融点340℃,帝人製「コーネックス」)を混抄し、水溶性エポキシ樹脂バインダ(ガラス転移温度110℃)をスプレーして加熱乾燥し、さらに、一対の熱ロール間に通すことにより加熱圧縮し、繊維同士を結着した不織布である。この不織布は、厚さ80μm、単位質量70g/m2で、パラ系アラミド繊維チョップ/メタ系アラミド繊維チョップ/エポキシ樹脂バインダの配合質量比10/80/10である。
[アラミド繊維不織布(2)]
パラ系アラミド繊維チョップを使用せず、メタ系アラミド繊維チョップ(繊維径:3デニール,繊維長:6mm,融点340℃,帝人製「コーネックス」)だけを使用し、以下、アラミド繊維不織布(1)と同様に製造した不織布である。
[アラミド繊維不織布(3)]
パラ系アラミド繊維チョップを使用せず、メタ系アラミド繊維チョップ(繊維径:3デニール,繊維長:6mm,融点340℃,帝人製「コーネックス」)とメタ系アラミドフィブリドを混抄し、エポキシ樹脂バインダを用いずに製造した不織布である。この不織布は、厚さ80μm、単位質量70g/m2で、メタ系アラミド繊維チョップ/メタ系アラミドフィブリドの質量比90/10である。
[アラミド繊維不織布(4)]
メタ系アラミド繊維チョップ(繊維径:3デニール,繊維長:6mm,軟化温度280℃,帝人製「コーネックス」)とメタ系アラミド繊維パルプ(繊維径:0.1デニール,繊維長:1mm,デュポン製「ノーメックス」)とを混抄し、以下、アラミド繊維不織布(1)と同様に製造した不織布である。この不織布は、厚さ80μm、単位質量70g/m2で、メタ系アラミド繊維チョップ/メタ系アラミド繊維パルプ/エポキシ樹脂バインダの配合質量比65/35/10である。
【0015】
実施例1
アラミド繊維不織布(1)を15枚重ねた層の両表面に離型フィルムを配置しこれをステンレス製鏡面板に挟み込み、その複数組をプレス熱盤間に投入し、熱盤との間にはクラフト紙層からなる厚さ10mmのクッション材を介在させて、温度350℃、圧力4MPaで加熱加圧成形し、厚さ1.0mmの積層板を得た。この積層板は、繊維同士の熱融着により、重ね合せた15枚のアラミド繊維不織布層は完全に一体化している。
【0016】
実施例2
アラミド繊維不織布(2)を15枚重ね、実施例1と同様に加熱加圧成形し厚さ1.0mmの積層板を得た。
【0017】
実施例3
アラミド繊維不織布(3)を15枚重ね、実施例1と同様に加熱加圧成形し厚さ1.0mmの積層板を得た。
【0018】
実施例4
アラミド繊維不織布(4)を15枚重ね、実施例1と同様に加熱加圧成形し厚さ1.0mmの積層板を得た。
【0019】
従来例1
ビスフェノ−ルA型エポキシ樹脂に硬化剤としてジシアンジアミドを、硬化促進剤として2−エチル−4−メチルイミダゾールを配合したエポキシ樹脂ワニスを調製した。
上記のワニスをアラミド繊維不織布(4)に含浸し加熱乾燥してプリプレグを製造した。このプリプレグは、その加熱加圧成形後の厚さが0.1mmになるように、また、加熱加圧成形後のアラミド繊維含有率が50質量%になるように、樹脂付着量を調整したものである。
上記プリプレグを15枚重ね、実施例1と同様にプレス熱盤間に投入し、温度165℃、圧力4MPaで加熱加圧成形して、厚さ1.0mmの積層板を得た。
【0020】
比較例1
従来例1で用いたエポキシ樹脂ワニスをガラス繊維織布(旭シュエ−ベル製「#7628」、厚み:0.18mm)に含浸し加熱乾燥してプリプレグを製造した。このプリプレグは、その加熱加圧成形後の厚さが0.2mmになるように、また、加熱加圧成形後のガラス繊維含有率が58質量%になるように、樹脂付着量を調整したものである。
上記プリプレグを5枚重ね、実施例1と同様にプレス熱盤間に投入し、温度165℃、圧力4MPaで加熱加圧成形して、厚さ1.0mmの積層板を得た。
【0021】
上記の各実施例、従来例1および比較例2の積層板を被研磨物保持材に加工した。この被研磨物保持材は、周囲にギアを形成した直径10インチの円板であり、板面に、被研磨物を嵌め込んで保持するための直径3.5インチの貫通穴を4個配置したものである。以上の各例における被研磨物保持材の仕様を表1に纏めて示す。
【0022】
【表1】
【0023】
以上の各実施例と従来例の被研磨物保持材を使用して研磨作業を行なった。被研磨物は3.5インチアルミニウム製ハードディスクである。
研磨工程で被研磨物の周囲端面に発生するスクラッチの程度と被研磨物保持材の使用寿命を評価した結果を表2に示す。被研磨物の周囲端面に発生するスクラッチの有無は、1000バッチの研磨作業(1バッチは、研磨装置に5個の被研磨物保持材を装着し20個のハードディスクを研磨する)における不良率で示す。被研磨物保持材の使用寿命は、ギア部の摩耗レベルで判断し、繰り返し使用可能なバッチ数を調査し、従来例1の使用寿命を100とした指数(指数が大きいほど使用寿命が長い)で示す。
【0024】
【表2】
【0025】
【発明の効果】
表2から明らかなように、被研磨物を本発明に係る被研磨物保持材に保持して研磨作業を実施することにより、被研磨物の周囲端面にスクラッチが発生するのを抑制して、被研磨物の生産歩留まり向上を図れ、大幅なコスト低減が可能となる。被研磨物の研磨される表面にスクラッチ発生がないのは勿論である。
被研磨物保持材をメタ系アラミド繊維チョップで実質的に構成すると、スクラッチの発生を抑えるだけでなく、被研磨物保持材の使用寿命も延ばすことができる(実施例2参照)。メタ系アラミド繊維にこれより高強度のパラ系アラミド繊維を併用すると、多少のスクラッチ発生はあるものの、被研磨物保持材の使用寿命をさらに延ばすことができる(実施例1参照)。
Claims (3)
- 被研磨物を嵌め込んで保持するための貫通穴を配置した被研磨物保持材であって、
前記保持材は、メタ系アラミド繊維を主成分とする繊維集積体を加熱圧縮した板状体から実質的になっており、繊維同士が熱融着により固定されていることを特徴とする被研磨物保持材。 - 被研磨物を嵌め込んで保持するための貫通穴を配置した被研磨物保持材であって、
前記保持材は、メタ系アラミド繊維を主成分としパラ系アラミド繊維を含む繊維集積体を加熱圧縮した板状体から実質的になっており、繊維同士がメタ系アラミド繊維の熱融着により固定されていることを特徴とする被研磨物保持材。 - 繊維集積体が不織布形態であることを特徴とする請求項1又は2記載の被研磨物保持材。
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