JP3502959B2 - 吸着固定に用いる多孔質シートおよび該多孔質シートを用いる吸着固定方法 - Google Patents

吸着固定に用いる多孔質シートおよび該多孔質シートを用いる吸着固定方法

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Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は吸着固定に用いる超高分
子量ポリエチレン(以下、「UHMWPE」という)か
ら成る多孔質シート、および該多孔質シートを用いる吸
着固定方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】液晶用ガラス板や半導体ウェハの精密切
断、液晶用ガラス板や半導体ウェハへの精密塗工、偏光
板と位相差板あるいはこれらとガラス板との精密貼り合
わせ等の加工に際しては、これらの被加工体が位置ズレ
しないように固定して作業している。
【0003】上記被加工体の固定には真空吸着法が採用
されている。この方法は、例えば、図1に示すように、
上面に所定個数の通気孔1を設けると共に所定位置に吸
引孔2を設けた基台(金属等の機械的強度を有する材料
から成る)3を用い、基台3の通気孔形成面上に被加工
体4を載置し、吸引孔2に接続された真空ポンプ(図示
省略)により減圧し基台1の内部を減圧状態とすること
により、被加工体4を基台1上に吸着固定しその位置ズ
レを防止して、これを加工するものである。
【0004】上記真空吸着法は被加工体の固定が容易で
あり、また、加工時の位置ズレを防止できる利点を有す
る反面、被加工体表面に基台との接触摩擦による微小な
傷を生じ易い。この微小傷の発生を回避するため、基台
3の通気孔形成面上にゴムシート、紙あるいは不織布を
保護材5として介在させることが提案されている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】しかし、ゴムシートは
摩擦係数が大きいため、加工の途中や終了後に被加工体
を移動させる際の作業性が悪いという問題がある。ま
た、紙や不織布は摩擦係数がゴムシートよりも小さく被
加工体の移動の容易性という点ではゴムシートよりも有
利なものの、被加工体の接触により損傷され易くて寿命
が短いため頻繁に交換する必要がある。
【0006】従って、本発明は摩擦係数が低く、且つ、
長寿命である吸着固定用シートを提供することを目的と
する。
【0007】
【課題を解決するための手段】本発明者は従来技術の有
する上記問題を解決するため鋭意研究の結果、特定の材
質から成ると共に特定の物性値を有する多孔質シートに
より所期の目的を達成できることを見い出し、本発明を
完成するに至ったものである。
【0008】即ち、本発明に係る吸着固定に用いる多孔
質シートはUHMWPEから成り、且つ、摩擦係数が
0.3以下であることを特徴とするものである。
【0009】本発明の多孔質シートはUHMWPEから
形成されたものである。UHMWPEは、一般のポリエ
チレンの分子量(粘度法による測定値)が約10万以下
であるのに対し、約50万以上の高い値を示す点で特異
である。かようなUHMWPEは、例えば、三井石油化
学工業社から「ハイゼックス・ミリオン」、ヘキスト社
から「ホスタレンGUR」等の商品名で市販されてい
る。
【0010】また、このUHMWPE多孔質シートはそ
の摩擦係数が0.3以下(好ましくは0.2以下、より
好ましくは0.1以下)である必要がある。摩擦係数が
0.3を超えると吸着固定に用いたときの寿命が短くな
るので好ましくない。
【0011】このUHMWPE多孔質シートの厚さ、気
孔率、孔径は特に限定されないが、通常、厚さ0.05
〜10mm、気孔率5〜60%、孔径5〜200μmで
ある。
【0012】次に、このUHMWPE多孔質シートの製
造法の一例を述べる。この方法はUHMWPE粉末を金
型に充填し、次いで、これをUHMWPEの融点以上の
温度に加熱された水蒸気雰囲気中で焼結してブロック状
成形体とした後冷却し、この成形体を所定厚さのシート
に切削するものである。
【0013】この方法においては、先ず、UHMWPE
粉末(粒径は通常30〜200μm)を金型に充填し、
次いで、これをUHMWPEの融点以上に加熱された水
蒸気雰囲気中で焼結してブロック状成形体とする。この
ようにUHMWPE粉末を金型に充填し、これを加熱さ
れた水蒸気雰囲気中で焼結するので、金型としては少な
くとも一つの開口部(加熱水蒸気導入用)を有するもの
を用いる。焼結に要する時間は粉末の充填量や水蒸気の
温度等によって変わるが、通常、約1〜12時間であ
る。
【0014】この際に用いる水蒸気はUHMWPEの融
点以上に昇温させるため、加圧状態とされるので、金型
に充填されたUHMWPE粉末間に容易に進入すること
ができる。なお、UHMWPE粉末間への加熱水蒸気の
進入をより容易にするため、該粉末を金型に充填し、こ
の金型を耐圧容器に入れ、減圧状態とする脱気操作を施
し、その後加熱された水蒸気雰囲気中で焼結するように
してもよい。この際の減圧度合いは特に限定されない
が、約1〜100mmHgが好ましい。
【0015】従って、金型に充填されたUHMWPE粉
末の焼結は、前記耐圧容器に水蒸気導入管およびその開
閉バルブを設けておき、該粉末間の空気を脱気した後、
減圧を止めあるいは減圧を続けながら、水蒸気バルブを
開いて加熱水蒸気を導入する方法によって行うことがで
きる。
【0016】この焼結時において、UHMWPE粉末は
融点以上の温度に加熱されるがその溶融粘度が高いので
あまり流動せず、その粉末形状を一部乃至大部分維持
し、隣接する粉末相互がその接触部位において熱融着し
多孔質のブロック状成形体(粉末相互の非接触部が該多
孔質成形体の微孔となる)が形成される。なお、焼結に
際し、所望により加圧することもできるが、その圧力
は、通常、約10kg/cm2 以下とするのが好まし
い。
【0017】上記のようにして焼結を行った後、冷却す
る。冷却に際してはブロック状成形体への亀裂の発生を
防止するため、急冷を避けるのが好ましく、例えば、室
温に放置して冷却する方法を採用できる。なお、冷却は
ブロック状成形体を金型に入れたまま行ってもよく、あ
るいは金型から取り出して行ってもよい。このようにし
てブロック状成形体を冷却した後、旋盤等により所定厚
さに切削することにより、多孔質シートを得ることがで
きる。
【0018】上記方法により得られる多孔質シートの微
孔の孔径、気孔率は用いるUHMWPE粉末の粒径や焼
結時における加圧の有無によって決定される。他の条件
が同じであれば、用いた粉末の粒径が大きい程微孔の孔
径が大きく、気孔率の高い多孔質シートが得られる。ま
た、焼結時に加圧しない場合は加圧した場合に比べ微孔
の孔径が大きく、気孔率の高い多孔質シートが得られ
る。更に、焼結時に加圧した場合はその圧力が高い程微
孔の孔径が小さく、気孔率の低い多孔質シートが得られ
る。
【0019】かような方法によって得られるUHMWP
E多孔質シートは、上記したように隣接するUHMWP
E粉末がその形状の一部乃至大部分を維持すると共に粉
末相互がその接触部位において熱融着してシート形状を
呈し、且つ、粉末相互の非接触部位を微孔とするミクロ
構造を有している。この多孔質シートのミクロ構造は、
例えば、多孔質シートを厚さ方向に沿って切断し、その
切断面を走査型電子顕微鏡を用いて観察(倍率は適宜設
定するが、通常、約100〜1000倍である)するこ
とができる。
【0020】本発明に係る多孔質シートは帯電防止処理
されたものであってもよい。帯電防止処理を施すことに
より、例えば、半導体ウェハのダイシング工程において
多孔質シートの帯電によるスパークを回避でき、スパー
クに起因するウェハの損傷を防止できる。また、塵やゴ
ミが半導体ウェハ等の被加工体に付着することも防止で
きる。
【0021】多孔質シートへの帯電防止処理は格別であ
る必要はなく、通常の方法を採用できる。例えば、上記
方法により多孔質シートを製造する場合にはUHMWP
E粉末の金型への充填に先立ち、該粉末と帯電防止剤を
混合し、この混合物を用いて作業すればよい。また、多
孔質のブロック状成形体またはこれを切削した多孔質シ
ートを帯電防止剤含有液と接触(浸漬、塗布等)させ、
該成形体またはシートに帯電防止剤を含浸させる方法を
採用することもできる。この処理を行う場合の帯電防止
剤の使用量は特に限定されないが、通常、処理済み多孔
質シートの重量中に占める帯電防止剤の割合が0.5〜
2重量%の範囲となるようにする。
【0022】上記帯電防止剤としては「エレクノンOR
W(ニューファインケミカル株式会社製)」、「エレク
トロストリッパー(花王株式会社製)」等の市販品を用
いることができ、また、カーボンブラック粉末、金属粉
末等の無機質導電性材料を用いることができる。
【0023】本発明に係る多孔質シートは着色されたも
のであってもよい。UHMWPE多孔質シートは白色不
透明であるが、これを任意の色に着色した場合には、例
えば、次のような利点がある。UHMWPE多孔質シー
トを液晶用ガラス板の切断に用いた場合、スクライビン
グ工程においてガラス板にスクライブ痕を生じるが、多
孔質シートが白色であるとこのスクライブ痕の視認が困
難となり、加工不良(スクライブ深さが設計どおりでな
い、設計場所以外にスクライブ痕がある等の不良)を見
逃す恐れがある。しかし、UHMWPE多孔シートを白
色以外の任意の色に着色しておけば、スクライブ痕の白
色と多孔質シートの色の対比により、このスクライブ痕
を容易に視認でき、不良品をより確実に捕捉除去でき
る。この着色された多孔質シートを上記の方法により得
るには、例えば、UHMWPE粉末の金型への充填に先
立ち、該粉末と顔料を混合し、この混合物を用いて作業
すればよい。
【0024】本発明に係る多孔質シートを用いて被加工
体を吸着固定するには、図1に示すのと同様な通気孔を
有する基台上に、上記のUHMWPE多孔質シートを配
置し、この多孔質シート上に被加工体を載置し、前記通
気孔を介して基台における多孔質シート配置側の反対側
を減圧する。この減圧により被加工体は多孔質シート上
に吸着固定される。
【0025】本発明に係る多孔質シートは上記のように
基台上に配置して用いるので、その片面に部分的(筋
状、点状、網目状等)に接着剤層を設けておけば、基台
上への配置が容易となるばかりでなく、その後の位置ズ
レをより確実に防止できるので好ましい。なお、接着剤
としては基台への接着作業性、および該シートを交換す
る際における基台からの剥離の容易性を考慮すると感圧
性接着剤が好ましいが、ホットメルト接着剤や熱硬化型
接着剤等を用いることもできる。
【0026】
【実施例】以下、実施例により本発明を更に詳細に説明
する。
【0027】実施例1 内径105mmの円筒状金型(上面開口、底面閉鎖)に
UHMWPE粉末(分子量600万、融点135℃、平
均粒径110μm)を充填し、該粉末を90g/cm2
の割合で加圧する。
【0028】これを金属製耐圧容器(水蒸気導入管およ
びその開閉バルブを備える)に入れ、真空ポンプを作動
させて雰囲気圧を30mmHgまで減圧することによ
り、充填された粉末間の空気を脱気する。
【0029】脱気後、真空ポンプを止め、水蒸気導入バ
ルブを開き水蒸気(温度158℃、6気圧)を導入して
60分間加熱することによりUHMWPE粉末を焼結
し、丸棒状多孔質体を得る。
【0030】次に、これを温度25℃の部屋に3時間放
置して冷却した後金型から丸棒状成形体(外径約105
mm)を取り出し、旋盤によりその周方向に沿って厚さ
500μmに切削して白色不透明の多孔質シート(気孔
率30%、平均孔径30μm)を得た。
【0031】実施例2 実施例1で用いたのと同じUHMWPE粉末97.5重
量部、帯電防止剤(花王株式会社製、エレクトロストリ
ッパー3S)1.5重量部および青色顔料1重量部を混
合する。この混合物を用いること以外は実施例1と同様
に作業して、厚さ500μm、気孔率30%、平均孔径
30μmの青色の帯電防止性多孔質シートを得た。
【0032】比較例1 分子量200万、平均粒径30μmのUHMWPE粉末
10重量部をデカリン90重量部に溶解し、この溶液を
スクリュー押出機を用いて温度180℃でシート状に押
し出し、このシートを水浴中で冷却する。次に、このシ
ートを70℃に加熱しデカリンを蒸発除去することによ
り多孔質化し、厚さ250μm、気孔率28%、平均孔
径2μmの白色不透明の多孔質シートを得た。
【0033】比較例2 厚さ200μmの紙製吸着固定用シート(市販品)を用
意した。
【0034】上記実施例および比較例のシートの特性を
下記要領で測定し、得られた結果を表1に示す。
【0035】A.摩擦係数 バーデンレーベン式摩擦試験機(株式会社オリエンテッ
ク製、AST−15B型往復動摩擦摩耗試験機)を用い
て摩擦係数を測定した。なお、相手材としては厚さ50
μmのポリエチレンテレフタレートフィルムを用い、荷
重200g、移動速度150mm/minに設定した。
【0036】B.実装試験 図1に示すのと同構造の金属製基台上に実施例および比
較例で得た吸着固定用シートを配置し、このシート上に
液晶用ガラス板(厚さ0.8mm、縦350mm、横2
50mm)を載置する。そして、真空ポンプにより吸引
して該ガラス板をシート上に吸着固定し、ダイヤモンド
カッターによるスクライブ加工(ガラス板に所定の傷を
入れる加工、本試験では傷の深さを約70μmに設定し
た)を行う。スクライブ加工の終了したガラス板を未加
工のガラス板と交換し、同様に加工する。このスクライ
ブ加工を繰り返すとガラス板のエッジで吸着固定用シー
トがじょじょに損傷され、そのためスクライブ加工の直
線精度が損なわれるようになり、ブレーク工程(スクラ
イブ加工後に、スクライブ痕を起点としてガラス板を割
る工程)において割れ面の精度が損なわれるようにな
る。この割れ面の平面精度が0.2mm/250mmを
越えるまでに加工できるガラス板の枚数を数えた。
【0037】
【表1】
【0038】
【発明の効果】本発明は上記のように構成され、シート
をUHMWPEにより形成すると共に多孔質としたの
で、摩擦係数が低く、また、寿命が長いという利点があ
る。
【図面の簡単な説明】
【図1】吸着固定法の実例を示す正面図である。
【符号の説明】
1 通気孔 2 吸引孔 3 基台 4 被加工体 5 保護材
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (72)発明者 飯田 博之 大阪府茨木市下穂積1丁目1番2号 日 東電工株式会社内 (72)発明者 森山 順一 大阪府茨木市下穂積1丁目1番2号 日 東電工株式会社内 (72)発明者 長井 陽三 大阪府茨木市下穂積1丁目1番2号 日 東電工株式会社内 (56)参考文献 特開 昭63−210148(JP,A) 特開 平5−1165(JP,A) (58)調査した分野(Int.Cl.7,DB名) C08J 9/00,9/04,9/24 B23Q 3/08

Claims (3)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 超高分子量ポリエチレンから成り、且
    つ、摩擦係数が0.3以下であることを特徴とする吸着
    固定に用いる多孔質シート。
  2. 【請求項2】 帯電防止処理を施された請求項1記載の
    吸着固定に用いる多孔質シート。
  3. 【請求項3】通気孔を有する基台上に、超高分子量ポリ
    エチレンから成り、且つ、摩擦係数が0.3以下である
    多孔質シートを配置し、この多孔質シート上に被加工体
    を載置し、前記通気孔を介して減圧することにより被加
    工体を多孔質シート上に固定することを特徴とする吸着
    固定方法。
JP31468094A 1994-12-19 1994-12-19 吸着固定に用いる多孔質シートおよび該多孔質シートを用いる吸着固定方法 Expired - Lifetime JP3502959B2 (ja)

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