JP3483107B2 - ヘキサフルオロリン酸リチウムの精製法 - Google Patents

ヘキサフルオロリン酸リチウムの精製法

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Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、リチウム電池およ
びリチウムイオン電池の電解質として有用なヘキサフル
オロリン酸リチウムの精製法に関する。
【0002】
【従来の技術および発明が解決しようとする問題点】ヘ
キサフルオロリン酸リチウム(LiPF6)の製造方法
は種々検討されており、例えば無溶媒で固体のフッ化リ
チウムと気体の五フッ化リンを反応させる方法(特開昭
64-72901号公報)や無水フッ化水素を溶媒とし
て、溶解したフッ化リチウムと気体状の五フッ化リンを
反応させる方法(J.Chem.Soc.Part4,
4408(1963))があるが、反応収率、ハンドリ
ングの容易さ、純度等の点から好ましい方法ではない。
反応溶媒として無水フッ化水素を用いた場合、以下の反
応式に示す方法である。 LiF + PF5 → LiPF6
【0003】しかし、反応溶媒として無水フッ化水素を
使用しているために、生成したヘキサフルオロリン酸リ
チウム中にフッ化水素が残存するという問題があった。
この残存するフッ化水素は電池として使用する場合、電
池反応を阻害したり、電極を腐食するといった問題が生
じてきた。
【0004】また、有機溶媒にヘキサフルオロリン酸リ
チウムを溶解して再結晶することにより、不純物の除去
を行う方法もいくつか提案されているが、有機溶媒から
結晶化を行う際、溶媒分子とヘキサフルオロリン酸リチ
ウム分子が付加物結晶を形成したり、その飽和溶液自体
の蒸気圧が低いために、減圧乾燥を行ったとしても、生
成したヘキサフルオロリン酸リチウム中に不純物として
残存してしまう。また、減圧乾燥を行う際、飽和溶液自
体の蒸気圧は低く、またヘキサフルオロリン酸リチウム
と飽和溶液との蒸気圧の差が小さいため、除去に長時間
を要する。また、時間をかけて処理を行ったとしても、
以下の解離反応が進行し、収率が低下してしまう。(こ
こでいう解離とはLiF濃度、つまり遊離F濃度から遊
離酸濃度を差し引いた値で判断できる。) LiPF6 → LiF + PF5
【0005】また、ヘキサフルオロリン酸リチウム中の
溶媒分子が、粒界ではなく、結晶中に存在すると考える
と減圧脱気のみでの除去は困難であり、この溶媒分子を
減圧等で強制的に除去するとヘキサフルオロリン酸リチ
ウムの分解が促進されるため、この方法も実用的ではな
い。
【0006】そこで、リチウム電池電解液用非水溶媒で
あるジメチルカーボネート(DMC)中でフッ化リチウ
ムと五フッ化リンとを反応させる方法の発明(特願平9
-64959号)を本出願人は出願したが、この方法
は、リチウム電池電解液用の各種の非水溶媒の中でもジ
メチルカーボネートのみが特異的に20℃より低い温度
領域において付加物結晶を形成しないため、効率的にヘ
キサフルオロリン酸リチウムを製造することを可能にし
た。
【0007】ただし、生成したヘキサフルオロリン酸リ
チウムをヘキサフルオロリン酸リチウムとジメチルカー
ボネートの飽和溶液から濾別分離し、減圧乾燥した際
に、飽和溶液の除去が不十分であると、ジメチルカーボ
ネート以外の溶媒を使用して電池を作製する場合、飽和
溶液の残留物が不純物として電池特性に悪影響を及ぼす
可能性がある。また、減圧乾燥する際に、温度条件が、
70℃以下では、飽和溶液自体の蒸気圧は低く、また飽
和溶液とヘキサフルオロリン酸リチウムの蒸気圧差も小
さいため、除去が困難であり、70℃以上の温度領域に
なるとヘキサフルオロリン酸リチウムの蒸気圧が3〜4
torr以上となるためヘキサフルオロリン酸リチウム
の解離を促進してしまう。
【0008】
【問題点を解決するための具体的手段】本発明者らは、
かかる従来技術の問題点に鑑み鋭意検討の結果、密閉容
器内での加熱、脱気を行うことで、不純物である溶媒を
500ppm以下まで除去可能としたもので、ヘキサフ
ルオロリン酸リチウムとジメチルカーボネートまたはジ
エチルカーボネートの飽和溶液中に生成したヘキサフル
オロリン酸リチウムを濾過分離し、容器内にて減圧密
封、または、大気圧密封し、100〜170℃の温度範
囲で加熱処理することでヘキサフルオロリン酸リチウム
の分解を抑えたまま、ヘキサフルオロリン酸リチウム中
のジメチルカーボネートまたはジエチルカーボネートを
除去することが可能であること、更に、加熱処理の前処
理として、20〜70℃の温度範囲で減圧乾燥すること
により、更に効率よく除去することが可能であることを
見出し、本発明に到達したものである。
【0009】すなわち本発明は、本出願人が出願した特
願平9-64959号明細書に記載したようなジエチル
カーボネートまたはジメチルカーボネート中で蒸発濃縮
によって得られるヘキサフルオロリン酸リチウムの精製
方法として、減圧下、または、大気圧下で容器を密封
し、100〜170℃の温度範囲で加熱した後、60〜
90℃の温度範囲で減圧脱気すること、更に、前処理と
して20〜70℃の温度範囲、1〜10torrの圧力
範囲で減圧乾燥を行うことを特徴とするヘキサフルオロ
リン酸リチウムの精製方法を提供するものである。
【0010】本発明の精製方法は、ヘキサフルオロリン
酸リチウムの分解を抑制したまま、効率よく、残存する
ジメチルカーボネートまたはジエチルカーボネートを除
去できる点で十分満足できるものである。
【0011】以下、本発明を詳細に説明する。本発明の
精製方法においてより効率的で、遊離酸の少ない精製の
ために重要となるのは、前処理の減圧乾燥で、約200
0〜5000ppmまで溶媒を除去し、後処理において
密閉容器中にて減圧密閉、または、大気圧密封したまま
加熱処理を行うことで、溶媒残存量500ppm以下の
ヘキサフルオロリン酸リチウムに精製するところにあ
る。例えば溶媒中に生成したヘキサフルオロリン酸リチ
ウムを常温で減圧濾過した後の残存ジメチルカーボネー
ト量は、通常約5〜10%程度である。従って、前処理
の減圧乾燥を行わずに、そのまま容器内に密閉し加熱処
理(後処理)を行うと、多量の溶媒が結晶中に残存して
いるため、除去に長時間を要す。また、残存溶媒とヘキ
サフルオロリン酸リチウムの熱による何らかの反応が起
こり遊離酸の増加を招き好ましくない。
【0012】まず、前処理として、20〜70℃の温度
範囲、好ましくは50〜70℃の温度範囲で、圧力範囲
1〜10torr、好ましくは、3〜10torrの圧
力を保持しながら減圧乾燥を行う。この温度範囲が20
℃以下になるとヘキサフルオロリン酸リチウムとジメチ
ルカーボネートの飽和溶液の蒸気圧が低下し乾燥に時間
がかかる。また、70℃以上になると、ヘキサフルオロ
リン酸リチウム自体の蒸気圧が3〜4torrあり、解
離反応が進行してしまう。また、圧力範囲が1torr
以下になると、ヘキサフルオロリン酸リチウムの温度範
囲60〜70℃での蒸気圧が約2torr以上であるた
め目的物であるヘキサフルオロリン酸リチウムまで解離
してしまう恐れがある。また、この前処理時間は、温
度、圧力にもよるが5〜15時間で十分である。この前
処理の減圧乾燥によって乾燥時間にもよるが残存溶媒濃
度は約2000〜5000ppmまで除去可能となる。
【0013】後処理では、残存溶媒を約2000〜50
00ppmまで除去した結晶を、減圧密閉もしくは大気
圧密閉し、100〜170℃の温度範囲、好ましくは1
30〜150℃の温度範囲で、保持時間1時間以上、好
ましくは2〜3時間加熱する。その後、温度を60〜9
0℃まで降温し減圧脱気(5torr以下)を行う。温
度範囲が 100℃以下では残存溶媒の除去に長時間を
要するし、また、170℃以上の温度ではヘキサフルオ
ロリン酸リチウムと残存溶媒との熱による何らかの反応
が起こり遊離酸の増加を招く。また、減圧脱気におい
て、90℃以上の温度で行わない理由は、この温度以上
では、ヘキサフルオロリン酸リチウムの蒸気圧が6to
rr以上もあり、ヘキサフルオロリン酸リチウムの解離
を促進してしまうためである。また、60℃以下では、
一旦蒸発した残存溶媒が再度凝縮し、脱気効率が悪くな
るので効果は少ない。この後処理を行った時点で、残存
溶媒濃度500ppm以下のヘキサフルオロリン酸リチ
ウムが得られる。
【0014】以上の方法によりヘキサフルオロリン酸リ
チウムの精製を行えば、不純物としての残存溶媒濃度は
500ppm以下、遊離酸(フッ化水素)濃度は50p
pm以下の純度の高いヘキサフルオロリン酸リチウム結
晶が得られる。
【0015】
【実施例】以下実施例により本発明を具体的に説明する
が、本発明はかかる実施例により限定されるものではな
い。
【0016】実施例1、比較例1、2 PFA(テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキ
ルビニルエーテル共重合体)製容器中にジメチルカーボ
ネート中にヘキサフルオロリン酸リチウムを40.5%
溶解した飽和溶液400gを入れ、50℃で16時間蒸
発、濃縮し晶析を行った。ここで得られたスラリーを減
圧濾別し、前処理として、SUS304製容器にて50
℃、10時間、圧力範囲5〜6torrで減圧乾燥し
た。得られた結晶は135gであり、この結晶の残存ジ
メチルカーボネート濃度をガスクロマトグラフィで定量
分析したところ5500ppmであった。また、このと
きの遊離酸は、25ppm、遊離Fは、120ppmで
あった。次に後処理として、SUS304製容器に入れ
たまま、減圧下(初期圧力:5torr)で密閉し、以
下の表1に示した条件で精製を行い(脱気は、N2で脱
気置換した)、その結果を表1に示した。
【0017】
【表1】
【0018】比較例3 実施例1、比較例1、2と同様の結晶サンプル100g
(DMC:5500ppm,遊離酸:25ppm,遊離
F:120ppm)をSUS304製容器に入れ、減圧
乾燥せずに、10torr以下で減圧しながら150
℃、1時間で加熱処理した。減圧脱気は行わなかった処
理後のサンプル量は87g、残存ジメチルカーボネート
量は30ppm、遊離酸増加量は20ppm、遊離F増
加量は約3%であった。
【0019】実施例2〜6 40.5%のジメチルカーボネートとヘキサフルオロリ
ン酸リチウムの飽和溶液400gに対し、実施例1、比
較例1、2と同様の方法で蒸発、濃縮し晶析を行った。
ここで得られたスラリーを25℃、1時間減圧濾別し、
得られた結晶量は142g、また結晶中の残存ジメチル
カーボネート量は10.5%であった。また、このとき
の遊離酸は、20ppm、遊離Fは、135ppmであ
った。この結晶をSUS304製容器に入れ、以下の表
2に示した条件で精製を行い(脱気は、N2で脱気置換
した)、その結果を表2に示した。
【0020】
【表2】
【0021】実施例7 PFA製容器中にジエチルカーボネート中にヘキサフル
オロリン酸リチウムを39.0%溶解させた飽和溶液4
00gを入れ、50℃、16時間蒸発、濃縮し晶析を行
った。ここで得られたスラリーを50℃で減圧濾別し、
SUS304製容器にて60℃、10時間、圧力範囲3
〜4torrで減圧乾燥した。得られた結晶は122g
であり、この結晶の残存ジエチルカーボネート濃度をガ
スクロマトグラフィで定量分析したところ6200pp
mであった。また、このときの遊離酸は、20ppm、
遊離Fは、135ppmであった。その結晶をSUS3
04製容器に入れたまま、減圧下(初期圧力:5tor
r)で密閉し、135℃、3時間加熱処理した後、90
℃まで降温しN2で脱気置換した。得られた結晶の残存
ジエチルカーボネート量は300ppm、遊離酸増加量
は20ppm、遊離F増加量は250ppmであった。
【0022】
【発明の効果】本発明によれば、従来の乾燥方法に比
べ、残存溶媒濃度が非常に低い高純度なヘキサフルオロ
リン酸リチウムを提供することができる。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (51)Int.Cl.7 識別記号 FI H01M 10/40 H01M 10/40 B (72)発明者 徳永 敦之 山口県宇部市大字沖宇部5253番地 セン トラル硝子株式会社化学研究所内 (72)発明者 高畑 満夫 山口県宇部市大字沖宇部5253番地 セン トラル硝子株式会社化学研究所内 (56)参考文献 特開 平6−298507(JP,A) 特開 平6−298506(JP,A) (58)調査した分野(Int.Cl.7,DB名) C01B 25/455

Claims (2)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 ヘキサフルオロリン酸リチウムをヘキサ
    フルオロリン酸リチウムとジエチルカーボネートまたは
    ジメチルカーボネートからなる飽和溶液中より蒸発、濃
    縮により晶析させ、濾別したものを容器に入れ密閉し1
    00〜170℃の温度範囲で加熱した後、60〜90℃
    の温度範囲で減圧脱気することを特徴とするヘキサフル
    オロリン酸リチウムの精製法。
  2. 【請求項2】 請求項1に記載の精製方法において、濾
    別したものを容器に入れ密閉する前に、前処理として2
    0〜70℃の温度範囲で、圧力を1〜10torrに保
    持したまま減圧乾燥処理し、後処理として、減圧下、ま
    たは、大気圧下で容器を密閉し、100〜170℃の温
    度範囲で加熱した後、60〜90℃の温度範囲で減圧脱
    気することを特徴とするヘキサフルオロリン酸リチウム
    の精製法。
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