JP3447426B2 - 高力ボルトによる摩擦接合構造 - Google Patents

高力ボルトによる摩擦接合構造

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Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、高力ボルトによる摩擦
接合構造に関する。鉄骨構造物等における鋼材を接合す
る高力ボルトによる摩擦接合構造に利用することができ
る。
【0002】
【従来の技術】高力ボルトによる摩擦接合構造とは、鉄
骨構造物等において複数の鋼材を高力ボルトで締め付け
ることによって鋼材間に生じる摩擦力(あるいはすべり
抵抗力)を利用して鋼材同士の応力伝達を行なう結合構
造のことである。鋼材接合のために添板を用いることが
ある。ところで、図5に示すように、高力ボルト1、添
板5を用い、摩擦接合により鋼材(被締付け材)2、3
を接合しようとする場合、摩擦接合部における鋼材2、
3間相互の厚み差(t1 −t2 )から、いわゆる「はだ
すきa」を生ずることがある。従来、はだすきが生じた
場合に対する処理法について、「建築工事標準仕様書・
同解説JASS6鉄骨工事」(日本建築学会)では、以
下のように規定している。 (1)はだすきが、1mm以下なら、処理不要である。 (2)はだすきが、1mmを超えるものには、フィラー
(図5の符号4)を入れる。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】ところが、かかるはだ
すき発生時の処理法には、次のような問題点がある。は
だすきのある高力ボルト摩擦接合部の高力ボルトに張力
を導入すると、添板が曲げ変形するために添板にせん断
力が生じる。この、添板のせん断力は、添板の断面寸
法、高力ボルトのはしあきによって変わる。上記の
(1)の場合については、はだすきが1mm以下であっ
ても、従来の高力ボルトの取付け位置における配置法で
は、添板の断面寸法によってはボルトに張力を導入した
ときに添板に大きなせん断力が生じ、その結果、ボルト
の張力によって得られる接触圧が大きく低減される。そ
のため、摩擦接合部の実際のすべり抵抗力が、設計時の
すべり抵抗力を下回る可能性がある。また、上記の
(2)の場合については、1mm程度のはだすきが生じ
ただけでフィラープレートを挿入するのは、施工が困難
である上にコストも高くかかる。さらに、工期が迫って
いるときは、フィラープレートの摩擦面を形成するには
ショットブラスト処理によるしか方法がないが、ブラス
ト処理の適用できる鋼板の板厚の限度は1.6mmであ
り、1mmのはだすきを埋めるフィラープレートを準備
することは不可能である。
【0004】かかる事情に鑑み、本発明者は、はだすき
が生じても、フィラープレートを用いることなく、しか
も接触圧の高い高力ボルトによる摩擦接合構造について
研究を重ねた。その結果、高力ボルトの取付け位置に着
目し、摩擦接合構造における高力ボルトの配置により上
記の問題点を解消することができた。本発明の目的は、
はだすきの有無を問わず、フィラープレートを用いるこ
となく、高い接触圧を得る高力ボルトによる摩擦接合構
造を提供することにある。
【0005】
【課題を解決するための手段】本発明の高力ボルトによ
る摩擦接合構造は、被締付け材を突き合わせ、該被締付
け材の両側から添板により該被締付け材を挟み、高力ボ
ルトにより該被締付け材を締め付ける高力ボルトによる
摩擦接合構造において、前記の突き合わせする被締付け
材のうち、はだすきを生じている方の側の高力ボルト列
のうちの被締付け材の端部に最も近い高力ボルトの軸心
が下記の式を充足する位置となるように該高力ボルトを
配置したことにより構成される。 〔(5μt)/α〕+d≦e≦〔65×(t/(σy)
1/2 )〕+d ここで、上記の式において、eは、被締付け材の端部と
被締付け材の端部に最も近い高力ボルトとの距離(以
下、ボルトのはしあきという。)、dは、高力ボルトの
軸径、tは、添板の厚さ、σyは、添板の材料の降伏応
力、μは、すべり係数(すべり係数とは、高力ボルトに
よる摩擦接合部の設計時に採用する係数のことで、高力
ボルトの初期導入張力に対するすべり抵抗力の比率をい
う。)、αは、添板の有効断面積/添板の全断面積=添
板の有効断面積比(添板の全断面積とは、添板の厚さ×
添板の巾方向の長さにより求まる面積をいう。添板の有
効断面積とは、添板の全断面積からボルト孔により切り
欠かれる総断面積を引いた添板の断面積をいう。)、で
ある。なお、上記において、被締付け材を突き合わせと
あるが、被締付け材相互間において隙間が無い場合だけ
でなく、若干の隙間のある状態の場合を含む。
【0006】本発明者は、添板の厚さt、ボルト軸径d
がそれぞれ同一であっても、高力ボルトによる接触圧
は、上記のボルトのはしあきeにより左右されることか
ら、高力ボルトによる接触圧の大きさの程度を示す指標
として接触圧比γ%を設定し、すべり係数μと添板の有
効断面積比αとをパラメーターとして種々解析を行なっ
た。上記の接触圧比につき、接触圧比γ=Cn /(P1
+P2 +P3 ・・+Pn )として定義し、Cn は全ボル
トで締め付けたとき、添板との接触により被締付け材に
発生する接触圧の和(単位、kg)、(P1 +P2 +P
3 ・・+Pn )は高力ボルトn本の各張力の和である。
【0007】ここで、はだすきが3mmのときの解析結
果を図2により、例示して説明する。図2において、ボ
ルトのはしあきeについて、添板の厚さt、及びボルト
軸径dとともに、(e−d)/tにより無次元化して横
軸とし、接触圧比γを縦軸として表示する。図2におい
ては、すべり係数μ、添板の有効断面積比αはパラメー
ターであり、μ=0.45、α=0.75の場合を□
印、μ=0.9、α=0.75の場合を×印により示
す。ここで、すべり係数が接触圧比に関与してくるの
は、被締め付け材の断面寸法が同じであっても、すべり
係数によって必要とされるボルト本数が変わるためであ
る。すなわち、大きなすべり係数を採用すると、導入す
る張力に対する添板に生じるせん断力の比率が高くなる
ためである。図2から明らかなように、パラメーターで
あるすべり係数μと添板の有効断面積比αを考慮すべき
要素とし、高力ボルトによる摩擦接合構造の接合効率と
もいうべき接触圧比γを90%以上に保持するには、μ
=0.45、α=0.75の場合には(e−d)/tを
3以上、μ=0.9、α=0.75の場合には(e−
d)/tを6以上にする必要のあることが判る。また、
すべり係数μが0.45のときの解析結果を図4により
例示してあげる。図4において、はだすき量を横軸と
し、接触圧比γを縦軸として表示する。図4において、
はしあきe、添板の有効断面積比αはパラメータであ
り、e=3t+d、α=0.75の場合を□印、e=4
0mm、α=0.75の場合を×印により示す。図4か
ら明らかなように、パラメータであるはしあきeと有効
断面積比αを考慮すべき要素とし、高力ボルトによる摩
擦接合構造の接合効率ともいうべき接触圧比γは、はだ
すきが1mm以下で大きく低下し、はだすきが大きくな
っていっても更なる低下はそれほど大きくはないことが
わかる。
【0008】かかる解析を積み重ね、被締付け材の端部
に最も近い高力ボルトとの距離、すなわちボルトのはし
あきeについて、次の関係式(式(1)という。)、 (5μ)/α≦(e−d)/t −(1) を求めることができた。一方、高力ボルトによる摩擦接
合構造は、軸方向の力に対する座屈に対して対処しなけ
ればならない。摩擦接合部における座屈防止の観点か
ら、次の関係式(式(2)という。)、 (e−d)/t≦65×(1/(σy)1/2 ) −(2) を求めることができた。従って、式(1)と式(2)と
から、ボルトのはしあきeを規制する式(3)が成立す
る。 (5μ)/α≦(e−d)/t≦65×(1/(σy)1/2 ) −(3)
【0009】次に、式(3)を展開し、これと等価な式
として、下記の式(4)を求めることができる。 〔(5μt)/α〕+d≦e≦〔65×(t/(σy)1/2 )〕+d −(4)
【0010】上記式(4)は、はだすきが1mmを超
え、フィラーを設ける必要のある場合に対しても良く適
合する。接合すべき被締付け材間においては、通常板厚
の差を少なくするように製造されるが、はだすきが3m
m程度となる場合が発生しても、式(4)により被締付
け材の端部に最も近い高力ボルトのはしあきeを定め、
その高力ボルトを配置することにより、フィラーを使用
することなく、高力ボルトによる接触圧比を高めること
ができる。なお、式(4)により配置を決める被締付け
材の端部に最も近い高力ボルト以外の高力ボルトの配置
については、従来の各高力ボルトの相互間の距離、間隔
を維持したままでよく、特に変える必要はない。また、
上記式(4)について、添板の板厚の点からは、添板と
して使用頻度のある板厚12〜19mmついてのほか、
厚い方で22mm、薄い方で6mm、9mmに対して充
分適合し、高力ボルトのはしあきeの設定により、フィ
ラーを使用することなく、高力ボルトによる接触圧比を
高めることができる。
【0011】高力ボルトの「はしあき」についての上記
の説明は、はだすきを生じた側の高力ボルトについてで
あり、反対側すなわち被締め付け材の厚さの大きい方の
高力ボルトについては従来と同様の配置にしてもよい。
しかしながら、被締め付け材の厚さの大きい方の高力ボ
ルトのはしあきの数値(図1のfの値)を、被締め付け
材の厚さの小さい方の高力ボルトのはしあきの数値(図
1のeの値)に合わせて同一にすると、ボルト孔が両側
の被締付け材について対称的な位置における配置とする
ことができ、加工上からも、また組立て上からも好まし
い。
【0012】
【作用】本発明の高力ボルトによる摩擦接合構造は、被
締付け材を突き合わせ、該被締付け材の両側から添板に
より該被締付け材を挟み、高力ボルトにより該被締付け
材を締め付ける高力ボルトによる摩擦接合構造におい
て、前記の突き合わせする被締付け材のうち、はだすき
を生じている方の側の高力ボルト列のうちの被締付け材
の端部に最も近い高力ボルトの軸心が本発明における一
定の式を充足する位置となるように該高力ボルトを配置
したことにより、高力ボルトを締め付けると、添板は被
締付け材のはだすき量に応じ、図1におけるA点とB点
において降伏により塑性変形を起こし、充分に変形する
ので、摩擦接合の接合面各部での接触圧差はなくなり、
はだすきの無い場合の接触状態に近づけることができ
る。また、本発明における一定の式を充たすことによ
り、高力ボルトによる摩擦接合部において、圧縮荷重が
作用しても添板が座屈することはない。
【0013】
【実施例】本発明の実施例を図面を参照して説明する。 (実施例1)図3に示す高力ボルトによる摩擦接合構造
について実施した。図3の摩擦接合構造は、被締付け材
1と被締付け材2との両側を添板5により挟み、各被締
付け材に4本、計8本の高力ボルトにより締め付けるこ
とを基本構造とし、被締付け材1と被締付け材2の厚さ
はそれぞれt1 37mmとt2 36mmであり、はだす
きは1.0mmである。 高力ボルトの軸径dは、22mm 添板の厚さtは、19mm 添板の材料の降伏応力σyは、33kgf/mm2 すべり係数μは、0.45 添板の有効断面積比αは、0.75 である。かかる数値から式(4)により、高力ボルトの
はしあきeを80mmと定めた。高力ボルト間のピッチ
は、60mmとし、本例では各被締付け材の高力ボルト
を左右に対称的に配置した。高力ボルト(F10T)を
締付け力22600kgで締め付け、接触圧比は93.
6%であった。更に、これをすべり試験をし、すべり係
数の確認を行ったところ、すべり係数μ=0.53であ
った。従来、通常はしあきを40mmとし、フィラーを
使用しない摩擦接合構造において、接触圧比は74.0
%、すべり係数はμ=0.40であることと対比する
と、接合効率の向上が認められる。
【0014】(実施例2)図3に示す高力ボルトによる
摩擦接合構造について、実施例1とは数値条件を変えた
実施例である。被締付け材1と被締付け材2の厚さはそ
れぞれt1 37.2mmとt2 36.0mmであり、は
だすきは1.2mmである。 高力ボルトの軸径dは、22mm 添板の厚さtは、19mm 添板の材料の降伏応力σyは、33kgf/m2 すべり係数μは、0.45 添板の有効断面積比αは、0.75 である。かかる数値から式(4)により、高力ボルトの
はしあきeを80mmと定めた。高力ボルト間のピッチ
は、60mmとし、本例では各被締付け材の高力ボルト
を左右に対称的に配置した。高力ボルト(F10T)を
締付け力22600kgで締め付け、接触圧比は93.
5%であった。従来、通常はしあきを40mmとし、厚
さ1.6mmのフィラーを使用する摩擦接合構造におい
て、接触圧比は94.1%であることと対比すると、接
触圧比は同等であるが、実施例2はフィラーを使用しな
い点でメリットがある。
【0015】(実施例3)図3に示す高力ボルトによる
摩擦接合構造について、実施例2とは別に数値条件を変
えた実施例である。被締付け材1と被締付け材2の厚さ
はそれぞれt1 39mmとt2 36mmであり、はだす
きは3.0mmである。 高力ボルトの軸径dは、22mm 添板の厚さtは、19mm 添板の材料の降伏応力σyは、33kgf/mm2 すべり係数μは、0.45mm 添板の有効断面積比αは、0.75 である。かかる数値から式(4)により、高力ボルトの
はしあきeを80mmと定めた。高力ボルト間のピッチ
は、60mmとし、本例では各被締付け材の高力ボルト
を左右に対称的に配置した。高力ボルト(F10T)を
締付け力22600kgで締め付け、接触圧比は90.
4%であった。更に、これをすべり試験ですべり係数の
確認を行ったところ、すべり係数μ=0.48であっ
た。従来、通常はしあきを40mmとし、フィラーを使
用する摩擦接合構造において、すべり係数μ=0.51
%であることと対比すると、接触効率は同等であるが、
実施例3はフィラーを使用しない点でメリットがある。
【0016】
【発明の効果】本発明によって、次のような効果を奏す
る。 (1)本発明は、高力ボルトのはしあきを設定して高力
ボルトを配置することにより、摩擦接合部において、接
触圧を高めることができ、その接触圧はボルト張力の総
和の90%以上とすることができる。かかる高い接触圧
を確保できることは、ボルトの高強度化、接触面でのす
べり係数のアップと相まって、摩擦接合部でのボルト本
数を減少させるという設計方針に有効に寄与する。 (2)はだすきが1mmの大きさを超える場合でも、フ
ィラーを用いることなく、高い接触圧を得ることができ
る。また、フィラーを使用しないので、施工上有利であ
り、また被締付け材間で偏心した軸力が働くことがない
ので、構造上優れている。 (3)摩擦接合部での座屈の心配がなく、摩擦接合構造
として信頼性が高い。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の高力ボルトによる摩擦接合構造の基本
構造を説明する図である。
【図2】本発明の高力ボルトのはしあきについて、解析
結果の例を示す図である。
【図3】本発明の実施例を示す図である。
【図4】はだすきの大きさと接触圧比の関係を説明する
図である。
【図5】従来の技術を説明する図である。
【符号の説明】
1 高力ボルト 2 鋼材 3 鋼材 4 フィラー 5 添板
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (58)調査した分野(Int.Cl.7,DB名) E04B 1/38 F16B 5/02

Claims (2)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 被締付け材を突き合わせ、該被締付け材
    の両側から添板により該被締付け材を挟み、高力ボルト
    により該被締付け材を締め付ける高力ボルトによる摩擦
    接合構造において、前記の突き合わせする被締付け材の
    うち、はだすきを生じている方の側の高力ボルト列のう
    ちの被締付け材の端部に最も近い高力ボルトの軸心が下
    記の式を充足する位置となるように該高力ボルトを配置
    したことを特徴とする高力ボルトによる摩擦接合構造。 〔(5μt)/α〕+d≦e≦〔65×(t/(σy)
    1/2 )〕+d ここで、上記の式において、 eは、高力ボルトのはしあき、 dは、高力ボルトの軸径、 tは、添板の厚さ、 σyは、添板の材料の降伏応力、 μは、すべり係数、 αは、添板の有効断面積/添板の全断面積=添板の有効
    断面積比、 である。
  2. 【請求項2】 被締付け材間のはだすきが1mmを超え
    る場合の請求項1の高力ボルトによる摩擦接合構造。
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