JP3442748B2 - 表面処理用硝酸クロム溶液及びその製造方法 - Google Patents

表面処理用硝酸クロム溶液及びその製造方法

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【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は硝酸クロム溶液、特
に金属などの表面処理に使用される硝酸クロム溶液及び
その製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】金属の表面処理には永らくクロム(VI)
あるいはその塩が利用されてきた。しかし、クロム(V
I)は人体に有害であるため、製品にはクロム(VI)は
ごく僅かでも残留することが嫌われている。そのため、
例えばクロムを使用しない表面処理鋼板などの提案が数
多く行われている。しかしながらクロムは、優れた表面
処理被膜を形成するのに有利に作用するものであり、ク
ロム(III)を含有する溶液は人体に無害の表面処理被膜
形成用処理液として利用されている。そのようなクロム
(III)を含有する表面処理溶液として硝酸クロム溶液が
ある。
【0003】このような硝酸クロム溶液の製造方法とし
ては、無機化学中巻(千谷利三著)等の文献に記載され
ている方法がある。この方法では、まず、塩化クロム
(III)もしくは硫酸クロム(III)等の三価クロム塩類
の水溶液を、アルカリで中和して水酸化クロムの沈殿物
を作り、これを濾別及び洗浄した後、硝酸に溶解して硝
酸クロム溶液を得る。この方法は、製造工程が長く、か
つ複雑であるためコスト高となり工業的に適さない。ま
た、水酸化クロムの沈殿物中にClやSO4等の表面処理に
とって悪影響を及ぼす不純物が混入しやすいため、表面
処理用溶液として適さない。このような不純物の混入を
避けるためには、市販の硝酸クロム一級試薬(例えば和
光純薬製)を純水に溶解して硝酸クロム溶液とすること
もできる。しかしこの方法はコスト的に極めて不利であ
り工業的に採用できない。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】本発明はこのような従
来技術の問題点を解決することを目的とし、ClやSO4
の不純物が少なく、表面処理用として好適に利用できる
硝酸クロム溶液を経済的に提供し得る手段を提案するも
のである。
【0005】
【課題を解決する手段】本発明者は、三酸化クロムに対
して化学量論的に硝酸クロムを生ずるに必要な量以上の
硝酸を加えた溶液にでんぷん、ブドウ等などの有機還元
剤を過剰に加えて三酸化クロムのすべてを還元して得た
硝酸クロム溶液が表面処理用としての硝酸クロム溶液と
して好ましい特性を有していることを見出し、本発明に
至った。
【0006】本発明の表面処理用硝酸クロム溶液は、Cr
と結合しないフリー硝酸イオンを質量比で全硝酸イオン
量の6%以下、全有機炭素を質量比で硝酸クロムのクロム
に対して0.3〜3%含有している。
【0007】上記表面処理用硝酸クロム溶液を製造する
に当たっては、三酸化クロムに硝酸を硝酸クロムの生成
当量を超えて過剰に配合して三酸化クロム−硝酸混合溶
液を準備する段階と、前記段階によって得られた三酸化
クロム−硝酸混合溶液に単糖類、二糖類あるいはでんぷ
ん類から選ばれる炭水化物又は該炭水化物から誘導され
るアルコール、アルデヒド、カルボン酸又はこれらの混
合物からなる有機還元剤を過剰に混じて三酸化クロムを
還元して硝酸クロムを生成させる段階と、を順次行うの
がよい。その際、硝酸を硝酸クロムの生成当量に対して
当量比で1〜6%過剰に配合し、かつ還元剤を、三酸化ク
ロムを還元するに必要な量に対して当量比で2〜10%過剰
に添加するのがよい。なお、この硝酸は反応中に揮散す
る量を見こんで添加すべきである。また、有機還元剤の
使用量は、反応速度によって変え、例えばブドウ糖のよ
うに反応の速いものでは3%程度の過剰とし、でんぷんの
ように反応速度の遅いものでは8%程度の過剰とするのが
より好ましい。
【0008】以下、本発明を質量比で約40%の硝酸クロ
ム溶液を製造する場合を例にとって具体的に説明する。
本発明により硝酸クロム溶液を得る典型的な基礎反応式
を、還元剤をでんぷんとした場合、及びブドウ糖とした
場合について示すと次のとおりである。 (a)でんぷんを還元剤とする場合 CrO3 + 3HNO3 + 1/8C6H10O5 → Cr(NO3)3 + 3/4CO2 + 1
7/8H2O (b)ブドウ糖を還元剤とする場合 CrO3 + 3HNO3 + 1/8C6H12O6・H2O → Cr(NO3)3 + 3/4CO
2 + 19/8H2O
【0009】本発明の硝酸クロム溶液はCrと結合しない
フリー硝酸イオンを質量比で全硝酸イオン量の6%以下の
範囲で含有する。すなわち、硝酸イオンを化学量論的に
硝酸クロムを生成するのに十分な量に対して過剰に含有
している。しかし、その量が多いときは、図1に示すよ
うに硝酸クロムの溶解度が低下し、たとえば冬期におい
て溶液の温度が5℃以下となったとき硝酸クロム結晶が
析出する場合があり、したがってその濃度を下げる必要
があり、好ましくない。したがって、フリー硝酸イオン
の量は質量比で全硝酸イオン量の6%以下、好ましくは1
〜5%の範囲とする。
【0010】本発明の硝酸クロム溶液は、全有機炭素を
質量比で硝酸クロムのクロムに対して0.3〜3%含有して
いる。全有機炭素(TOC)とは有機物として溶液中に残
留しているCの総量であって、例えば、島津製作所製TOC
5000型全有機炭素計によって定量される。市場で通常販
売される硝酸クロム溶液にはこのような有機炭素の存在
は認められないが、本発明の場合は、クロム(VI)を確実
に消滅させる効果をもたらしている。しかし、その存在
量が多いときには、硝酸クロム溶液の粘性が上昇し取り
扱いが困難になり、また表面処理剤が焼き付けられたと
き金属板上に炭素系の異物を発生する危険があるので、
その最大値は硝酸クロムのクロムに対して質量比で3%と
する。なお、好ましくは、硝酸クロムのクロムに対して
0.3〜2%とするのがよい。
【0011】本発明にかかる硝酸クロム溶液を製造する
には、まず三酸化クロムに硝酸を硝酸クロムの生成当量
以上に配合して三酸化クロム−硝酸混合溶液を準備す
る。硝酸を過剰に添加するのは、クロムイオンに対して
化学量論的に硝酸イオンが不足することがないようにす
るためである。しかし先にも述べたように、硝酸イオン
の存在量があまりに多いときには、冬期における溶液の
取り扱い性が低下するので硝酸の過剰量は硝酸クロムの
生成当量に対して当量比で1〜6%とするのがよい。
【0012】次いでこのようにして準備された三酸化ク
ロム−硝酸混合溶液に還元剤を加わえて、三酸化クロム
を還元させるとともに還元された生成物を硝酸と反応さ
せて硝酸クロムに転換させる。この際、還元剤の使用量
は化学量論的に三酸化クロムを還元するに足る量よりい
くらか過剰にする。これにより三酸化クロムの還元が完
全に行われ、溶液中にクロム(VI)が残留することがな
い。その結果、溶液中には未分解の還元剤が残留する。
しかし、先にも述べたように還元剤の分解生成物である
全有機炭素(TOC)が高すぎると焼き付けられて形成さ
れた被膜上異物が残留することもあるので、還元剤の過
剰添加量は三酸化クロムを還元するのに必要な量に対し
て当量比で2〜10%とするのがよい。
【0013】還元剤として使用できる物質としては、ま
ずブドウ糖などの単糖類、蔗糖などの二糖類あるいはで
んぷん類等の炭水化物がある。これらのうちブドウ糖
は、反応性がよく上記三酸化クロムに対する過剰添加量
を比較的低く押さえることができる利点がある。また、
でんぷんを利用した場合にはその原料に由来するにおい
が製品中に残る場合があるが、ブドウ糖を使用する場合
はこのような問題が生じない。上記のほか、これら炭化
水素を酸化して生成されるアルコール類、アルデヒド
類、エチレングリコールあるいはカルボン酸も利用でき
る。
【0014】
【実施例】以下実施例により本発明の硝酸クロム溶液の
製造工程を一層具体的に示す。三酸化クロムを2lフラス
コ中で水に溶解して60質量%溶液にした。この三酸化ク
ロム溶液に表1に示す比率で濃硝酸を添加し、撹拌しな
がら70℃まで加温して三酸化クロム−硝酸混合溶液とし
た。
【0015】得られた三酸化クロム−硝酸溶液に同じく
表1に示すような還元剤比率で、でんぷんあるいはブド
ウ糖を撹拌しながら添加し、液温をほぼ95℃に維持しな
がら還元反応を進行させた。還元剤を添加し終えてから
ジフェニールカルバジドを試薬として反応液中のクロム
(VI)の有無を確認し、クロム(VI)が検出されなくなる
まで撹拌を継続した。試験No.4の場合を除き0.5〜1.5時
間で還元反応が完了した。しかし、試験No.4の場合は、
上記時間内に還元反応が完了しなかった。でんぷんの反
応速度が遅く、その当量過剰添加比率が5%では実用的な
反応速度に達しなかったためであろうと考えられる。反
応終了後、常温まで冷却し、水を加えて所定の濃度(硝
酸クロム濃度40質量%)に調整した。得られた製品の分
析値を表2に示す。
【0016】
【表1】
【0017】
【表2】
【0018】表2に示すようにこのようにして得られた
硝酸クロム溶液を常法でクロメート処理を行ったとこ
ろ、クロム(VI)の溶出がなく、かつSO4やClが少な
く、浴安定性が高く、耐食性が優れた被膜が生成した。
なお。No.4の場合はクロム(VI)が残存していたので、ク
ロメート処理には使用しなかった。
【0019】
【発明の効果】本発明は上記のように構成したので表面
処理用に適した硝酸クロム溶液を経済的に製造すること
ができ、またそれを用いて優れた表面処理をすることが
できる。また、本発明の硝酸クロム溶液はクロム(VI)
を含有しないので、それによる健康障害などを引き起こ
すことがない。
【図面の簡単な説明】
【図1】 硝酸クロムの溶解度に及ぼす硝酸濃度の影響
を示すグラフである。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (58)調査した分野(Int.Cl.7,DB名) C23C 22/48 C01G 37/00 C23C 22/30

Claims (3)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 Crと結合しないフリー硝酸イオンを質量
    比で全硝酸イオン量の6%以下、全有機炭素を質量比で硝
    酸クロムのクロムに対して0.3〜3%含有することを特徴
    とする表面処理用硝酸クロム溶液。
  2. 【請求項2】 三酸化クロムに硝酸を硝酸クロムの生成
    当量以上に配合して三酸化クロム−硝酸混合溶液を準備
    する段階と、 前記段階によって得られた三酸化クロム−硝酸混合溶液
    に単糖類、二糖類あるいはでんぷん類から選ばれる炭水
    化物又は該炭水化物から誘導されるアルコール、アルデ
    ヒド、カルボン酸又はこれらの混合物からなる有機還元
    剤を過剰に混じて三酸化クロムを還元して硝酸クロムを
    生成させる段階と、を順次行うことを特徴とする表面処
    理用硝酸クロム溶液の製造方法。
  3. 【請求項3】 硝酸を硝酸クロムの生成当量に対して当
    量比で1〜6%過剰に配合し、かつ還元剤を、三酸化クロ
    ムを還元するに必要な量に対して当量比で2〜10%過剰に
    添加することを特徴とする請求項2記載の表面処理用硝
    酸クロム溶液の製造方法。
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