JP3421912B6 - 冷間圧延機における圧延油供給方法 - Google Patents
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Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
この発明は冷間圧延機における圧延油供給方法に係り、特に循環式圧延油供給方式を使用する冷間圧延機における圧延油供給方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
冷間圧延では、圧延中に鋼板とロールの間の摩擦を減少させるために潤滑油が必要となる。また、摩擦発熱および加工発熱を除去するためにロールならびに鋼板の冷却が必要となる。通常冷間圧延においてはエマルション圧延油を用いて潤滑が行われる。エマルションとは、圧延油の粒子が水に安定して懸濁した状態の混合液体である。エマルションは濃度および粒径で特徴付けられる。エマルション濃度とは、エマルション全体積中の油分体積の比率である。粒径とは、エマルション中の圧延油の粒子の径である。また、エマルションを作成するために、界面活性剤を添加する。その添加量は圧延油量に対する濃度(対油濃度)で、所定の量を添加し、攪拌およびポンプによるせん断を加え、エマルション液とする。また、冷間圧延におけるエマルション圧延油の供給方式には、直接方式(ダイレクト方式)、循環方式(リサーキュレーション方式)、およびその折衷であるハイブリッド方式がある。
【0003】
直接式圧延油供給方式(ダイレクト方式)は、潤滑の目的で高濃度のエマルション圧延油を鋼板にスプレーし、冷却の目的で水をロールにスプレーするため、潤滑性と冷却性に優れる。しかし、循環方式と異なり、エマルション圧延油を循環使用しないため、圧延油の原単位が高い。
【0004】
一方、循環式圧延油供給方式(リサーキュレーション方式)は、圧延油と冷却水をあらかじめ混合、攪拌して作成した低濃度のエマルション圧延油を、循環しながら潤滑と冷却の目的で鋼板およびロールにスプレーするため、圧延油の原単位が低い。しかし、直接式圧延油供給方式と比較して、潤滑性および冷却性が劣ることは否定できない。そのため、従来の循環方式では、特に、仕上板厚0.2mm以下の薄物材の高速圧延時には潤滑不足となり、チャタリングと呼ばれる圧延機の振動や、ヒートスクラッチと呼ばれる表面疵が発生するため、圧延速度が上げられないという問題があった。
【0005】
これに対し、循環式圧延油供給方式の潤滑性改善を目的とした従来技術として、特公昭59−24888号公報では、濃度10%以上の圧延油を、噛み込み直前の鋼板下面に直接供給する方法が提示されている。また、低濃度かつ低温のエマルションを供給する循環式圧延油供給系統とは別に、高濃度かつ高温のエマルションを鋼板に供給して潤滑性を改善する折衷方法であるハイブリッド方式が提示されている。
【0006】
特公昭58−5731号公報および特開平9−122733号公報では、高濃度エマルションを高温(75℃)に加熱し、噛み込み直前の鋼板に直接噴射し、高濃度エマルションは循環系エマルションからの抽出液に圧延油を添加して作成する方法が提示されている。
【0007】
特開平2−37911号公報では、高濃度エマルションに添加する界面活性剤を、循環系統のエマルションと同一種とし、添加量のみ異ならせて乳化安定性指数(ESI)を低くし、鋼板に直接噴射する方法が提示されている。
【0008】
また、特公昭63−5167号公報では、塩形成をさせないか、もしくは、塩形成率の低いイオン性界面活性剤を用いて乳化不安定なエマルションとして鋼板に直接噴射し、循環系統のタンク内に水溶性の反対イオン性物質を過剰に添加させておき、循環系統のタンクへ混入後に乳化安定化させる方法が提示されている。
【0009】
しかし、上記従来技術には、以下のような問題点があった。
【0010】
特公昭59−24888号公報に提示されている従来技術では、以下の理由により、十分な潤滑性改善効果を得られなかった。
【0011】
a)スプレーされるエマルションに含まれる油分量に対し、鋼板表面にプレートアウト(鋼板への油分の付着)する油分量の比率(以下、付着効率と称す)と濃度の関係を調査すると、エマルション濃度のみを高くすると付着効率は低下するため、濃度の上昇だけでは充分なプレートアウト量を得られなかった。
【0012】
b)高速圧延時には、鋼板下面側だけでなく、上面側にもヒートスクラッチ疵が発生することがある。高速圧延域においては下面だけではなく上面のプレートアウト量の減少もみられ、鋼板下面のみの潤滑性改善では不十分である。
【0013】
特公昭58−5731号公報および特開平9−122733号公報に提示されている従来技術は、以下の理由により、十分な潤滑性改善効果を得られなかった。
【0014】
a)エマルションの温度を高くすることの効果を実機で確かめてみると、エマルションを構成する乳化分散剤によっては必ずしもエマルションの温度を高くしても付着効率が増加せず、その場合にはエマルションを高温にすることは効果がない。またエマルションの濃度を高くすると付着効率は低下するため、濃度の上昇だけでは効率よくプレートアウト量を増加できない。そのため濃度上昇による付着効率の低下を補おうとして供給流量を過大に増加させるなどの方法によらなければならない等の問題があった。またエマルションを加熱、加圧するためにはヒーター等の余分な装置が必要になる一方、温度の高いエマルションが循環式圧延油供給系統に混入すると、循環式圧延油供給系統のエマルションの温度が上昇するために、循環式圧延油供給系統には大型のクーラー等の余計な設備が必要になる。
【0015】
b)ハイブリッド系のエマルションを循環系のエマルションからの抽出により得ようとすると、循環系エマルションはESI、鉄分濃度、鹸化価、酸価などの特性が一定でなく、安定した抽出液を得るためには化学処理や鉄分除去フィルターなどの複雑な設備が必要になる。また、ひとたび抽出液の特性が変化するとそれに対応して、ハイブリッド系のエマルションの特性や物性も変化し本来目的としていた安定した潤滑性改善が達成できない。
【0016】
特開平2−37911号公報に提示されている従来技術では、循環式圧延油供給タンク内にハイブリッド系のESIの低い乳化分散性の不安定なエマルションが混入することにより、循環系統のエマルションのESIが経時的に変化して乳化分散性が不安定になり、それが供給されると過潤滑となり、全スタンドにわたってスリップが発生し圧延が不安定になるなどの問題があった。
【0017】
一般的に、循環式圧延油供給タンクは10000L程度の大容量であるが、特公昭63−5167号公報に提示されている従来技術では、循環系統のタンク内にあらかじめ反対イオン性物質を大量に添加しておく必要があり、過剰な反対イオン性物質により循環系統のタンク内のエマルションの乳化分散安定性にばらつきを生じることがある。また塩形成率の低いイオン性界面活性剤を用いたエマルションとの塩形成反応が生じにくく、結果として循環系統のタンク内のエマルションが不安定化するなどの問題があった。
【0018】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、循環式圧延油供給方式において、循環式圧延油供給系統(第1の圧延油供給系統)とは別に、第2の圧延油供給系統を設けて、循環式圧延油供給系統よりも平均粒径が大きく、付着効率の高いエマルションを鋼板上下面に供給することにより潤滑性を向上させるとともに、循環式圧延油供給タンクに混入後もエマルションの乳化分散安定性を保持できる圧延油供給方法を提供するものである。
【0019】
【課題を解決するための手段】
本第1発明は、冷間圧延におけるエマルション圧延油の循環式供給方法において、循環式圧延油供給系統(第1の圧延油供給系統)とは別に第2の圧延油供給系統を設け、循環式圧延油供給系統のエマルションと同一種類でかつ循環式圧延油供給系統よりも低い対油濃度の界面活性剤を添加し、循環式圧延油供給系統よりも大きな平均粒径(例えば20μm以上)となるように調整した付着効率の高いエマルションを、圧延スタンド入側の鋼板上面、および下面に供給し、その後、鋼板に付着しなかったエマルションを回収し、循環式圧延油供給系統の界面活性剤の対油濃度と同一となるように界面活性剤を投入し、機械的攪拌を加えた後、循環式圧延油供給系統のエマルションに合流させることを特徴とする冷間圧延機における圧延油供給方法である。
【0020】
本第2発明は、第2の圧延油供給系統から循環式圧延油供給系統のタンクへ混入する油分量が、循環式圧延油供給系統の油分ロス量よりも多い場合、循環式圧延油供給系統のタンク内の濃度が一定となるように希釈水を補充し、第2の圧延油供給系統から循環式圧延油供給系統のタンクへ混入する油分量が、循環式圧延油供給系統の油分ロス量よりも少ない場合、第2の圧延油供給系統のエマルションを循環式圧延油供給系統に合流させる工程で、界面活性剤の対油濃度を循環式圧延油供給系統のエマルションと同一となるように追添加して調整したエマルションを循環式圧延油供給系統のタンクへ補充するとともに、希釈水を補充することを特徴とする第1発明の冷間圧延機における圧延油供給方法である。
【0021】
以下、本第1発明の原理を説明する。
【0022】
発明者らは、エマルションを鋼板に供給したとき、付着効率を向上させる手段について鋭意検討した結果、界面活性剤の添加濃度を調整してエマルションの平均粒径を増加させると、付着効率が大幅に向上することを見出した。
【0023】
図3に界面活性剤の添加量とエマルションの平均粒径の関係を示す。なお、このとき、機械的攪拌、せん断は充分に与えてエマルションを作成した。例えば、図3(a)は、カチオン系分散型の界面活性剤の場合であり、界面活性剤の対油濃度0.4%以上で平均粒径8〜15μmの安定エマルションとなる。循環式圧延油供給系統の添加量はこの範囲である。一方、対油濃度0.005〜0.2%で平均粒径20μm以上のエマルションとなる。図3(b)は、ノニオン系乳化型の界面活性剤の場合であり、対油濃度0.3%以上で平均粒径10μm以下の安定エマルションとなる。また、対油濃度0.003〜0.2%で20μm以上のエマルションとなる。対油濃度0.003%より低濃度の場合、自己乳化作用で20μm以下の小粒径エマルションとなることがある。
【0024】
図4に、プレートアウト試験機を用いて、エマルションの平均粒径と付着効率の関係を調査した結果を示すが、平均粒径の増加とともに付着効率が増加する。特に、平均粒径が20μm以上で、急激に付着効率が増加する。
【0025】
また、図5にエマルション濃度と付着効率の関係を示すが、濃度上昇とともに付着効率は減少する。しかし、エマルションの平均粒径が20μm以上と大きくなるとエマルション濃度に対する付着効率の低下は小さい。
【0026】
特に高速圧延域では、速度の上昇とともにスプレー時間が短くなり、鋼板の単位面積当たりの供給圧延油量が減少するため、従来技術のようにエマルションを高濃度、高温化しても付着効率の低い条件では充分な潤滑性改善効果はなく、本発明のように平均粒径を大きくした付着効率の高いエマルションを用いると効果的である。また、高速圧延時には、鋼板下面側だけでなく、上面側にもヒートスクラッチ疵が発生することがあるため、鋼板の上面側の潤滑性の改善が必要であり、上面側にも平均粒径を大きくした付着効率の高いエマルションを供給する必要がある。
【0027】
第2の圧延油供給系統のエマルションは、安定した潤滑性を得るために、圧延油原液、界面活性剤、および希釈水を新たに調合して作成する。乳化分散のために添加する界面活性剤は、第2の圧延油供給系統のエマルションが循環式圧延油供給タンクに混入したときの影響をなくすために、循環式圧延油供給系統と同一種類の界面活性剤とし、界面活性剤の添加濃度を調整して平均粒径の大きなエマルションを得る。
【0028】
本第1発明で、循環式圧延油供給系統と同一種で、かつ、より低い対油濃度の界面活性剤を添加し、循環式圧延油供給系統よりも大きな平均粒径のエマルションを、圧延スタンド入側の鋼板の上下面に供給するとしたのは、以上のような検討結果に基づくものである。
【0029】
第2の圧延油供給系統から鋼板の上面、下面へ供給されるエマルションのうち、鋼板に付着しなかったエマルションを回収し循環式圧延油供給タンクへ合流させる工程において、界面活性剤を追添加した後、機械的攪拌を加えて循環系エマルションと同じ粒径まで細分化された安定なエマルションとすることにより、循環式圧延油供給系統の乳化安定性を維持することができる。このときの界面活性剤の追添加量は、式(6)に基づいて決定する。
【0030】
【数1】
【0031】
ただし、qe(L/min)は、界面活性剤の添加量、q1(L/min)は、第2の圧延油供給系統のエマルション供給量、f(%)は、第2の圧延油供給系統のエマルションの付着効率であり、式中のq1・(1−f/100)は、鋼板の上面、下面に付着しなかったエマルション量を表す。c(%)は、第2の圧延油供給系統のエマルション濃度、c0(%)は、循環式圧延油供給系統のエマルション濃度、ce(%)は、第2の圧延油供給系統の界面活性剤の対油濃度、ce0(%)は、循環式圧延油供給系統の界面活性剤の対油濃度を表す。
【0032】
なお界面活性剤の追添加および付加的な攪拌およびせん断により循環系エマルションと同じ粒径まで細分化された安定なエマルションを得る方法としては、以下に示すようなものがある。
【0033】
(1)循環系統のタンク内に界面活性剤を追添加し、循環系統のタンク内のアジテータの回転数を増すことによりエマルションに強攪拌を加える方法。
【0034】
(2)エマルションを回収するオイルパンから循環式圧延油供給系統のエマルション貯蔵タンクへの戻り配管の途中で界面活性剤を追添加し、配管の途中にオリフィスを設けるか攪拌ポンプを設置する方法。
【0035】
(3)エマルションを回収するオイルパン内で界面活性剤を追添加し、オイルパンから循環式圧延油供給系統のエマルション貯蔵タンクへの戻り配管の途中にオリフィスを設けるか攪拌ポンプを設置する方法。
【0036】
(4)循環式圧延油供給系統のエマルション貯蔵タンクとは別に回収のためのバッファータンクを設け、その中で回収されたエマルションに界面活性剤を追添加し、アジテータを設けて攪拌・せん断を加える方法。
【0037】
また、図6は、プレートアウト試験機を用い、それぞれ異なる界面活性剤a,b,cを乳化分散剤として作成したエマルションについて、エマルション温度と付着効率の関係を調査した結果である。これによると、エマルション温度を高くすることは、界面活性剤cのように乳化分散剤によってはプレートアウト量を低下させる場合もある。界面活性剤a,bのように、プレートアウト量が増加する場合もあるが付着効率の増加は小さく、エマルションを高温に保つためのヒーター等の設備が必要になることを考えれば、エマルションを高温にすることは得策でない。また循環式圧延油供給系統に混入した場合に循環式圧延油供給系統のエマルション温度がどんどん上昇するために、循環式圧延油供給系統にはクーラーが必要になる。したがって本発明では第2の圧延油供給系統と循環式圧延油供給系統のエマルションは同じ温度とする。
【0038】
第2の圧延油供給系統のエマルションの濃度および流量は、以下に説明する条件およびプレートアウト特性を考慮して決定する。第1に、所定のプレートアウト量を確保することが必要条件となる。この必要なプレートアウト量をPφmin(単位はmg/m2 )とする。Pφminはヒートスクラッチ疵やチャタリングの発生しない最低限度の量である。以下、プレートアウト量を記号PΦ(単位はmg/m2 )で表す。第1の条件を式(1)で表す。
【0039】
Pφmin≦PΦ …式(1)
第2に、プレートアウト量は、図7に示すように、一定のエマルション供給量以上では飽和し、付着効率が低下する。このため、エマルション供給量は、プレートアウト量が飽和しない範囲内で設定するのが望ましい。この飽和限界となる供給量を、ωτmax(単位はL/m2 )とする。だだし、ωτはエマルション供給量(単位はL/m2 )を表し、ωは流量密度(単位はL/m2 )、τはスプレー滞留時間(単位はmin)を表す。図7によると、ωτmaxは、約0.1L/m2 である。圧延機の1ヘッダー当たりの流量をQ(L/min)、スプレー部の幅をw(m)、圧延速度をV(m/min)、エマルション供給量をωτ(L/m2 )とすると、Q=(ωτ)・w・Vで計算できる。w=1.2m、V=1800m/min、ωτ=0.1L/m2 のとき、Q=215L/minとなる。このことから、1ヘッダー当たりの流量は、最大215L/minとする。第2の条件を式(2)で表す。
【0040】
ωτ≦ωτmax …式(2)
また、エマルション供給量に対し、プレートアウト量の飽和しない領域では、式(3)でプレートアウト量を計算できる。ただし、PΦはプレートアウト量(単位はmg/m2 )、cは、エマルション濃度(%)、fは付着効率(%)、Kは単位換算係数(mg/L)である。Kは油種によって異なるが、0.89×106 〜0.9×106 程度である。
【0041】
PΦ=K・c/100・ωτ・f/100 …式(3)
第三に、付着効率fは、図5に示すように、エマルション濃度の増加とともに低下するため、できるだけ低濃度とする。また、図4に示すように、付着効率fは、エマルション粒径により影響を受ける。付着効率f(%)と濃度c(%)、油分平均粒径d(μm)の関係を、式(4)で表す。但し、fは関数を表す。
【0042】
f=f(c,d) …式(4)
式(1)、式(3)、および式(4)を整理すると、式(5)の条件が得られる。
【0043】
c・f(c,d)≧Pφmin/ωτ・K …式(5)
以上より、第2の圧延油着供給系統のエマルションの濃度と平均粒径は、式(5)を満足する必要がある。
【0044】
例えば、図4の付着効率を示すエマルションの場合、平均粒径を20μmとしたときの最低濃度の計算例を以下に示す。
【0045】
式(5)中のPΦminは次の手順に従って求める。まず、ヒートスクラッチ疵およびチャタリングの発生と圧延材の鋼板付着油量の関係を調査し、いずれも発生しないときの鋼板付着油量の下限値を0min(単位はmg/m2 )とする。このときの圧延機入側の鋼板表面のプレートアウト量Pφmin(単位はmg/m2 )は、圧延機出側でロール表面にも圧延材の鋼板付着油量と同量の圧延油が付着していると仮定すると、Pφmin=2・0min/(1−rで計算される。ただし、rは圧延時の圧下率を表す。例えば、0minが300mg/m2、圧下率rが0.3のとき、Pφminは860mg/m2 となる。エマルション供給量ωτをωτmaxの50%とすると、図4に示す平均粒径20μmのときのエマルション濃度と付着効率の関係を用い、式(5)を満足するエマルションの最低濃度を求めると6.2%となる。
【0046】
一方、上記例のエマルションを従来の循環式圧延油供給系統のエマルションとして使用する場合、せん断を充分に加えて平均粒径を20μmよりも小さくして乳化安定なエマルションとし、濃度を1.0〜5.0%程度として使用する。
【0047】
この例からも分かるように、上述した式(1)〜式(5)の諸条件を考慮すると第2の圧延油供給系統のエマルション濃度は、循環式圧延油供給系統よりも高くなる。
【0048】
圧延油の噴射圧力については、0.5kg/cm2 〜7kg/cm2 が好ましい。0.5kg/cm2 は、鋼板下面用のヘッダーよりスプレーされたエマルションが鋼板表面に到達できる最低圧力である。また、7kg/cm2 以上となると、鋼板表面に衝突して飛散するエマルション量が多くなり、付着効率は低下する。従って、0.5〜7kg/cm2 程度に設定するのが好ましい。
【0049】
以上に示した本第1発明による圧延油供給方式を用いることにより、従来の循環式圧延油供給系統よりも潤滑性を大きく改善できる。図8は、循環式圧延油供給系統と第2の圧延油供給系統の圧延材の鋼板付着油量の比較結果である。なお、鋼板付着油量の測定は、鋼板表面の油分をヘキサン等の有機溶剤にて抽出し、抽出油分量を測定する方法(溶剤抽出法)により行なった。この時の循環式圧延油供給方式のエマルションの濃度は3.5%、平均粒径は10μmであり、上下ヘッダーからのエマルション供給量は4000L/minである。一方、第2の圧延油供給方式のエマルションの濃度は10%、平均粒径は20μmであり、上下ヘッダーからのエマルション供給量を130L/minとした。本第1発明を用いた時の鋼板付着量は、従来の循環式圧延油供給系統よりも約40%増加しており、供給油分量に対する付着油量の比率で示される付着効率でいえば、従来の約12倍の効果が認められた。
【0050】
また、本第1発明において、第2の圧延油供給系統のエマルションを供給するための、スプレーノズルの位置をロールバイトから離れた上流スタンドにできるだけ近い位置とすることが好ましい。これは以下の理由による。
【0051】
安定したプレートアウト層を形成するためには、水に油が分散したO/Wエマルションの状態から、油に水が分散したW/Oエマルションまたは油分単相へ転相するための時間(以下、転相時間と称す)を確保するのが好ましい。圧延機においては、圧延機入側で鋼板表面へエマルションが供給されてから、送板速度に応じてロールバイトに到達するまでの時間が転相時間に相当する。従って、圧延速度が高くなるほど、転相時間は短くなるため、プレートアウト層を形成しにくくなることが想定される。これに対し、スプレーノズルの位置をロールバイトから離れた上流スタンドにできるだけ近い位置とすることで転相時間を確保できる。
【0052】
本第2発明は、以下の検討結果に基づくものである。
【0053】
循環式圧延油供給方式では、ストリップとともに付着した油分が系外に持ち出される圧延油分、圧延機内での蒸発、リーク、およびスカムアウトで失われる圧延油および水を補充し、タンク内のエマルション液量およびエマルション濃度を一定の水準に保持している。
【0054】
一方、第2の圧延油供給系統から鋼板へのスプレーの後に回収されるエマルションは、循環系統のエマルションよりも濃度は高く、対油界面活性剤の濃度および平均粒径が循環系エマルションと同一となるよう界面活性剤を追添加されるため、循環式圧延油供給系統の補充油として用いることができる。
【0055】
本第2発明はかかる観点に基づいてなされたものである。すなわち、本第2発明は、第2の圧延油供給系統から循環式圧延油供給系統のタンク内へ混入する油分量が、循環式圧延油供給系統の油分ロス量を超える場合には、循環式圧延油供給系統タンク内の濃度が一定となるように希釈水のみを補充する。この時、タンク内のエマルション液量は一定の濃度を保ったまま増加することとなり、予め油分ロス量を補給していることと等価となる。
【0056】
また、第2の圧延油供給系統から循環式圧延油供給系統のタンク内へ混入する油分量が、循環式圧延油供給系統の油分ロス量を上回り、かつ、タンク内のエマルション液量が一定の水準を越えている場合には、新たな油分補給は不要であり、濃度を一定に保持するように希釈水のみを補充する。
【0057】
また、第2の圧延油供給系統から循環系統のタンク内へ混入する油分量が、循環式圧延油供給系統の油分ロス量を下回り、かつ、タンク内のエマルション液量が一定の水準に保持されているか、少ない場合には、第2の圧延油供給系統のエマルションの界面活性剤の対油濃度を循環式圧延油供給系統のエマルションと同一となるように調整したエマルションを循環式圧延油供給タンクへ補充するとともに希釈水を補充する。
【0058】
希釈水および第2の圧延油供給系統のエマルションの補充量は、式(7)に示すように、循環式圧延油供給系統へ混入する第2の圧延油供給系統のエマルションの油分量から循環式圧延油供給系統の油分ロス量を差し引いた油量ΔQoに応じ、式(8)〜式(11)に基づいて決定する。また、第2の圧延油供給系統のエマルションへの界面活性剤の追添加量は、式(12)に基づいて決定する。
【0059】
【数2】
【0060】
【数3】
【0061】
【数4】
【0062】
【数5】
【0063】
【数6】
【0064】
【数7】
【0065】
ただし、ΔQo(L/min)は、循環式圧延油供給系統の油分増加量、ΔQw(L/min)は、循環式圧延油供給系統の水分増加量、QLo(L/min)は、循環式圧延油供給系統の油分ロス量、QLw(L/min)は、循環式圧延油供給系統の水分ロス量、ΔQE(L)は、タンク内のエマルション液量の一定水準からの偏差量、W(L/min)は、希釈水の補給量、q2(L/min)は、第2の圧延油供給系統のタンクから循環式圧延油供給系統のタンクへの補充量、q1(L/min)は、第2の圧延油供給系統から鋼板へのエマルション供給量、qe(L/min)は、界面活性剤の添加量、c(%)は、第2の圧延油供給系統の濃度、c0(%)は、循環式圧延油供給系統の濃度、ce(%)は、第2の圧延油供給系統の界面活性剤の対油濃度、ce0(%)は、循環式圧延油供給系統の界面活性剤の対油濃度、f(%)は、第2の圧延油供給系統のエマルションの付着効率、である。
【0066】
なお第2の圧延油供給系統のタンクから循環式圧延油供給系統のタンクへ補充するエマルションへ界面活性剤を追添加し、付加的な攪拌、およびせん断により循環系統のエマルションと同じ平均粒径の安定なエマルションを得る方法には、以下のようなものがある。
【0067】
(1)第2の圧延油供給系統のエマルションを循環式圧延油供給系統のタンク内に補充したあとで界面活性剤を追添加し、タンク内のアジテータの回転数を増すことによりエマルションに強攪拌、およびせん断を加える方法。
【0068】
(2)第2の圧延油供給系統のタンクから循環式圧延油供給系統のタンクへの送り配管の途中で界面活性剤を追添加したのち、供給ポンプを通過させることにより、エマルションにせん断を加える方法。
【0069】
(3)第2の圧延油供給系統のタンクとは別に、界面活性剤量を調整するためのバッファータンクを設け、その中で界面活性剤を追添加し、アジテータを設けてエマルションに攪拌およびせん断を加える方法。
【0070】
(4)第2の圧延油供給系統のタンクとは別に、循環式圧延油供給系統のエマルションと同一の対油濃度の界面活性剤を添加した補充用エマルションの貯蔵タンクを設ける方法。
【0071】
以上に示した補給方法を用いることにより、第2の圧延油供給系統のエマルションは、循環式供給系統の不足油分の補充も兼ね有効に利用されるため、従来の循環式圧延油供給方式の場合と同様に、圧延油の原単位を低くできる。
【0072】
また、本第2発明によれば、第2の圧延油供給系統は、循環式圧延油供給系統のみを用いて圧延する場合にも、循環式圧延油供給系統の油分ロス量の補充方法として適用できる。第2の圧延油供給系統のエマルション補充量および希釈水は、ΔQo=−QLo、ΔQw=−QLwとし、式(11)に基づいて決定する。
【0073】
【発明の実施の形態】
[実発明の実施形態1]図1は、本第1発明の実施形態の一例であり、全5スタンドのタンデムミルの第4、5スタンドに適用した場合である。第4、5スタンドに適用したのは、後段スタンドほど圧延速度が速く、しかも、板厚が薄くなるため、圧延荷重が高くなり、潤滑条件として厳しくなるためである。図1では、No.1〜3スタンドにおいては、従来の循環式圧延油供給系統による潤滑および冷却を行い、No.4,5スタンドにおいては、潤滑を本発明による第2の圧延油供給系統により行い、冷却を循環式圧延油供給系統により行う圧延油供給方式を示した。なお、循環式圧延油供給系統は、No.1〜3スタンド用、およびNo.4〜5スタンド用の2系統に別れている。
【0074】
図1中の1は第2の圧延油供給系統のエマルションの貯蔵タンクである。温水、原油、界面活性剤は、各タンク2、3、4より供給ポンプ5a,5b,5cを経由し、所定の油分濃度、界面活性剤の対油濃度となるように流量調整弁6a,6b,6cで補給量を調整され、エマルション貯蔵タンク1へ供給される。タンク内のエマルション濃度は、4〜15%の範囲内とし、界面活性剤の種類は循環式圧延油供給系統と同一とし、対油濃度を循環式圧延油供給系統よりも低くする。例えば、カチオン系分散型の界面活性剤の場合、循環式圧延油供給系統の対油濃度を0.5%とするのに対し、第2の圧延油供給系統の対油濃度を、0.005〜0.2%の範囲とする。そして、機械的攪拌をアジテータ7により十分に与えてタンク内の平均粒径を20〜40μmに調整する。また、エマルション温度は、循環式圧延油供給系統と同じ温度とする。
【0075】
この第2の圧延油供給系統のエマルション液は、ポンプ8aにより、圧延油供給ライン9aを経由してヘッダー10a、およびヘッダー10bよりストリップの上下面に供給される。流量は、1ヘッダー当たり最大215L/minとし、圧延材のサイズ、および鋼種に応じて調整する。
【0076】
鋼板へのスプレーの後、鋼板にプレートアウトしないエマルションは、回収オイルパン17bにて、冷却用の循環系統のエマルションとともに回収され、戻りライン30bを経由して攪拌セクション27に投入される。攪拌セクションで、式(6)より決定される界面活性剤量を弁29の開度を調整して追添加し、アジテータ18による付加的攪拌を加えた後、ポンプ28を経由して、循環式圧延油供給タンク13b内に投入する。例えば、循環式圧延油供給系統のエマルションを、濃度2.5%、界面活性剤の対油濃度0.5%とし、第2の圧延油供給系統のエマルションを、濃度10%、界面活性剤の対油濃度0.1%、鋼板へのエマルション供給量を#4STDで20L/min、#5STDで30L/minとする場合、攪拌セクション27への界面活性剤の追添加量は8.4cc/minとなる。
【0077】
図9は、本第1発明による第2の圧延油供給系統を用いたときの、循環系統タンク13b内のエマルションの粒径分布を調査した結果である。比較として、第2の圧延油供給系統のタンク1内のエマルションの粒径分布および第2の圧延油供給系統を用いない場合の循環系統タンク内13b内のエマルションの粒径分布も示した。第2の圧延油供給系統を使用した場合の、循環系統タンク13b内のエマルションは、第2の圧延油供給系統を使用しない場合のエマルションの粒径分布と一致しており、本第1発明によれば、循環式圧延油供給系統の乳化分散性を保持できることがわかる。
【0078】
なお、回収される第2の圧延油供給系統のエマルションに界面活性剤を追添加し、付加的攪拌およびせん断を加える方法として、以下に示す方法を用いてもよい。
【0079】
(1)循環系統タンクに合流させた後、循環系統タンク内に界面活性剤を追添加し、アジテータの回転数を増すことによりエマルションに強攪拌を加える方法。
【0080】
(2)図10に示すように、回収オイルパン17bからの戻り配管30bの途中で、界面活性剤をタンク4より配管32、バルブ33を経由して追添加し、配管途中に設置した攪拌ポンプ34にてエマルションにせん断を加えた後、循環式圧延油供給系統のタンク13bに合流させる方法。
【0081】
(3)図11に示すように、回収オイルパン17b内において、界面活性剤をタンク4より配管35、バルブ36を経由して追添加し、オイルパン17bからタンクへの戻り配管30bの途中に設置した攪拌ポンプ34にてエマルションにせん断を加えた後、循環式圧延油供給系統のタンク13bに合流させる方法。
【0082】
一方、循環式圧延油供給系統のエマルション液は、No.1〜3スタンド用タンク13a、No.4,5スタンド用タンク13bに貯蔵され、攪拌器18により攪拌され、半径の小さい安定なエマルションとなる。エマルション粒径はカチオン系分散型の界面活性剤を用いた場合、対油濃度0.5%のとき、平均粒径8〜15μmであったが、それ以外の乳化型の界面活性剤を用いる場合には平均粒径が10μm以下となる場合もある。エマルション濃度は、通常1〜4%の範囲内である。基油に牛脂を用いる場合、エマルションの温度は55〜70℃である。それ以外の合成エステル系圧延油の場合には、これよりも低くなる場合もある。この循環系統のエマルションは、攪拌タンク13aおよび13bから、ポンプ14a,14bにより圧延油供給ライン15a,15bに送給される。循環系統による潤滑を行うNo.1〜3スタンドについては、ヘッダー19a,19bより、ロールバイトへ向けてエマルションを供給する。その流量は、各ヘッダーごとに1000〜2000L/minの範囲である。また、No.1〜5スタンドの出側では、冷却用エマルション供給系統20より、ストリップ21、ワークロール22、バックアップロール23に向けてスプレーし、ストリップおよびロールを冷却する。その流量は、各ヘッダーごとに、1000〜2000L/minの範囲である。その後、循環系統のエマルションは、回収オイルパン17a,17bにより回収され、戻りライン30a,30bを経由して循環系統のタンク13a,13bに戻される。
【0083】
また、図22は、図1に示す如き実施形態において、第2の圧延油供給系統のエマルションを供給するヘッダーの位置をロールバイトから離れた上流スタンドにできるだけ近い位置とした実施形態である。これにより、O/WエマルションからW/Oエマルション若しくは油分単相へ転相するための時間を確保している。ヘッダー位置は、前スタンド出側のロールおよびストリップの冷却用のクーラントヘッダー20の影響を受ける直後(前スタンド出側より1.0m)とした。なお、スタンド間は4.5mである。
【0084】
[本発明の実施形態2]図2は、本第2発明の実施形態に関し、全5スタンドのタンデムミルに適用した場合の装置構成である。なお、第2の圧延油供給系統の装置構成は、上記実施形態1で示した図1と同様である。
【0085】
第2の圧延油供給系統のタンク1から循環系統のタンク13aおよび13bへ補充するエマルションは、ポンプ8bから供給配管9bを経由し、界面活性剤量を調整するためのオイルパン31へ投入される。ここで、弁6dの開度を調整し、式(12)より決定される所定の量の界面活性剤を追添加した後、供給ポンプ16にてせん断を加えてから循環系統タンク13a,13bに補給される。その補給量は、バルブ26a,26bの開度により調整される。
【0086】
なお第2の圧延油供給系統タンクから循環系統のタンク13a,13bへ補充するエマルションの界面活性剤の対油濃度を循環系統のエマルションと同一となるように調整し、付加的な攪拌およびせん断を加える方法は、以下に示す方法でもよい。
【0087】
(1)第2の圧延油供給系統のエマルションを循環系統のタンク13aおよび13b内に補充したあとで界面活性剤を追添加し、循環系統のタンク内のアジテータの回転数を増すことによりエマルションに強攪拌を加える方法。
【0088】
(2)図12に示すように、第2の圧延油供給系統のタンク1から循環系統のタンク13bへの送り配管38の途中で界面活性剤をバルブ39、配管40を経由して追添加したのち、供給ポンプ41を通過させることにより、エマルションにせん断を加える方法。
【0089】
(3)図13に示すように、循環系統への補充用タンク42を設け、そのエマルション濃度は第2の圧延油供給系統と同じとし、界面活性剤の対油濃度は循環系統と同一となるように、温水タンク2、原油タンク3、界面活性剤タンク4より配管43a,43b,43cを経由し、バルブ44a,44b,44cにて補充量を調整し、補充用タンク42内にてアジテータ45による強攪拌を加えて粒径を細分化し、循環系統のエマルションと同様に安定なエマルションを作成し、補給用ポンプ46により配管47を経由して循環系統タンクへ補給する方法。
【0090】
計算装置24bでは、タンク13bへ補充する第2の圧延油供給系統のエマルションおよび希釈水の補充量および、オイルパン48に追添加する界面活性剤量を計算する。その計算フローを図14に示すが、流量計25にて第2の圧延油供給系統からNo.4,5スタンド入側の鋼板表面で噴霧される供給量q1を計測し、これを基に第2の圧延油供給系統のエマルションの補充量q2、オイルパン48に追添加する界面活性剤量qeおよび、希釈水量Wを、式(7)〜式(12)より計算する。これに基づいて、流量制御弁6d,31,12b,26bが制御される。
【0091】
例えば、No.4,5スタンド用の循環系統のエマルション濃度を3.5%、界面活性剤の対油濃度を0.5%、油分ロス量および水分ロス量を各々1.4L/min、18.4L/min、第2の圧延油供給系統のタンク1のエマルション濃度を10%、界面活性剤の対油濃度を0.1%とした時、鋼板への供給量をNo.4,5スタンドで各々20L/min、30L/minとした場合、循環式圧延油供給系統の油分増加量は、式(7)よりΔQo=2.1L/minとΔQo>0となる。循環式圧延油供給系統のエマルション濃度を一定に保持するために希釈水のみを補給する。その補給量Wは、式(9)より55.3L/minとなる。
【0092】
また、鋼板への供給量をNo.4,5スタンドで各々5L/minとした場合、循環式圧延油供給系統の油分増加量は、式(7)よりΔQo=−0.14L/minとΔQo<0となり、循環式圧延油供給系統への圧延油の補給が必要となる。この時、循環系統のタンク内のエマルション液量が一定の水準に保持されている場合(ΔQE =0)には、第2の圧延油供給系統のエマルションおよび希釈水を補給する。式(11)よりエマルションの送給量q2は1.4L/min、希釈水の補給量Wは、6.4L/minとなり、式(12)により、界面活性剤の追添加量は、0.6cc/minとなる。
【0093】
また、タンク内のエマルション液量が一定の水準よりも多い場合(ΔQE >0)、希釈水のみを補給する。その補給量Wは、式(10)より、33.0L/minとなる。
【0094】
計算装置24aでは、タンク13aへの第2の圧延油供給系統のタンク1からのエマルションおよび希釈水の補充量が計算される。タンク1からのエマルションの送給量q2および希釈水の補充量Wを式(11)、界面活性剤の追添加量qeを式(12)より計算し、これに基づいて、流量制御弁6d,31,12a,26aが制御され、循環式圧延油タンク13aの油分補充がなされる。
【0095】
例えば、No.1〜3スタンド用の循環系統のエマルション濃度が2.5%、界面活性剤の対油濃度が0.5%、油分ロス量および水分ロス量が各々0.6L/min、7.9L/min、そして、第2の圧延油供給系統のタンク1のエマルション濃度が10%、界面活性剤の対油濃度が0.1%の時、希釈水の補給量Wは25.9L/min、第2の圧延油供給系統からのエマルション送給量q2は6L/minとなる。また、界面活性剤の追添加量は、13cc/minとなる。
【0096】
【実施例】
[実施例1]全5スタンドのタンデム圧延機の第4、5スタンドに本第1発明(第1実施形態)を適用し、第4、5スタンドの潤滑を第2の圧延油供給系統により行った。圧延油の基油を牛脂(40℃の粘度45cSt)とし、乳化分散剤としてカチオン系界面活性剤を用いた。第2の圧延油供給系統のエマルションのクーラント温度は、循環式圧延油供給系統と同じ60℃とした。また、第2の圧延油供給系統のエマルション濃度は10%とし、エマルション粒径は、界面活性剤の対油濃度を循環式圧延油供給系統のエマルションよりも低い0.1%として平均粒径を20μmに調整した。また、第2の圧延油供給系統のエマルション供給量を、第4スタンドで100L/min、第5スタンドで130L/minとした。また、他スタンドの潤滑および全スタンドの冷却は、従来通り循環式圧延油供給系統を用いた。循環式圧延油供給系統のエマルション濃度を3.5%、界面活性剤の対油濃度を0.6%、平均粒径を10μmとした。
【0097】
また、本発明の比較として、第4、5スタンドの潤滑を従来通り循環式圧延油供給系統で行う場合のエマルション供給量を、第4スタンドで2500L/min、第5スタンドで4000L/minとした。
【0098】
以上のような圧延油供給を行って、速度を変更しつつ圧延を行い、チャタリングの発生およびヒートスクラッチ疵の発生状況を調査した。対象材は、仕上厚0.2t以下の硬質ブリキ材および軟質ブリキ材の2種類とした。各々の調査結果を以下の表1、表2に示す。
【0099】
(1)対象材1の鋼種は、硬質ブリキ原板であり、その寸法は、母材質1.8mm、仕上げ厚0.18mm、板幅900mmである。
【0100】
表1に示すように、本第1発明を用いると、チャタリングもヒートスクラッチ疵も未発生のまま2100mpmまで加速できた。一方、従来方式では1500mpmでチャタリングが発生し、それ以上の加速は不可能であった。
【0101】
図15、図16に、それぞれ圧延速度と圧延材の鋼板付着油量および、圧延速度と第5スタンドの摩擦係数の関係を本発明による方法と従来方式とを比較して示した。なお、鋼板付着油量は、溶剤抽出法により上下面について各々求めたものの平均値である。
【0102】
従来方式では、800mpm以上の高速域で鋼板付着油量が大きく減少していたのに対し、本発明では高速域においても安定した鋼板付着油量が得られている。また、これに対応し、第5スタンドの摩擦係数の上昇が抑制され、高速域でも安定した摩擦係数が得られており、潤滑不足が解消されているのがわかる。
【0103】
本試験結果が示すように、対象材1を圧延する場合に、第5スタンドの潤滑を従来通り循環式圧延油供給方法で行うと、潤滑不足に起因したチャタリングの発生により圧延速度は1500mpmが限界となり、高速圧延が阻害されていた。これに対し、本第1発明を用いることにより、高速域における潤滑不足を解消できるため、チャタリングの発生を未然に防止でき、2100mpmの高速圧延が可能となる。図17は、従来通りの循環式圧延油供給系統および本第1発明を用いたときの、対象材1を圧延する場合の平均速度の分布を示すものであるが、本第1発明により、平均速度は1350mpmから1700mpmに改善された。
【0104】
【表1】
【0105】
(2)対象材2の鋼種は、軟質ブリキ原板であり、その寸法は、母材厚2.3mm、仕上げ厚0.20mm、板幅1000mmである。
【0106】
対象材2は、対象材1よりも軟質であるが、冷圧率が高いため、従来方式では特に、第5スタンドでのヒートスクラッチ疵の発生頻度が高かった。
【0107】
表2に示すように、本第1発明を用いると、ヒートスクラッチ疵未発生のまま2100mpmまで加速できた。一方、従来方式の場合、1700mpmで軽度のヒートスクラッチ疵が発生し、それ以上の高速域では、顕著なヒートスクラッチ疵が発生した。
【0108】
図18、図19に、それぞれ圧延速度と圧延材の鋼板付着油量および、圧延速度と第5スタンドの摩擦係数の関係を本発明による方法と従来方式とを比較して示した。従来方式では、高速域で鋼板付着量が大きく減少していたのに対し、本発明では高速域においても安定した鋼板付着油量が得られている。また、これに対応し、第5スタンドの摩擦係数の上昇が抑制され、高速域でも安定した摩擦係数が得られており、潤滑の不足が解消されているのがわかる。
【0109】
図20に、圧延速度と第5スタンド出側の鋼板温度の関係を示す。従来方式では、速度とともに温度上昇が大きく、1700mpm以上で170℃を越え、ヒートスクラッチ疵が発生した。一方、本第1発明によると、温度上昇が抑制されヒートスクラッチ疵の発生がなくなっている。この理由は、本第1発明によると高速圧延域での摩擦係数の上昇を抑制できるため、摩擦発熱が低減し、結果として第5スタンド出側の鋼板温度が低下するためである。
【0110】
本試験結果が示すように、対象材2を圧延する場合に、第4,5スタンドの潤滑を従来通り潤滑式圧延油供給方法で行う場合、ヒートスクラッチ疵の発生により圧延速度は1700mpmが限界となり、高速圧延が阻害されていた。しかし、本第1発明を用いることにより、高速域における潤滑不足が解消されるため、ヒートスクラッチ疵の発生を防止でき2100mpmの高速圧延が可能となる。図21は、従来通りの循環式圧延油供給系統と本第1発明を用いた時の、対象材2を圧延する時の平均速度の分布を示すものであるが、本第1発明を用いることにより、平均速度は1550mpmから1900mpmに改善された。
【0111】
【表2】
【0112】
[実施例2]全5スタンドのタンデム圧延機の第4,5スタンドに本第1発明を適用し、第4,5スタンドの潤滑を第2の圧延油供給系統で行う場合に、循環式圧延油供給系統の油分ロス量および水分の補給を本第2発明(実施形態2)により行なった。圧延油の基油を牛脂(40℃の粘度45cSt)とし、乳化分散剤としてカチオン系界面活性剤を用いた。本発明による第2の圧延油供給系統のエマルションの濃度を10%、界面活性剤の対油濃度を、循環式圧延油供給系統のエマルションよりも低い0.1%とし、平均粒径を20μmに調整した。また、循環式圧延油供給系統のエマルションの濃度を3%、界面活性剤の対油濃度を0.6%、平均粒径を9μmとした。なお、エマルションの温度はいずれも同一とし、60℃とした。
【0113】
表3に、対象圧延材を、母材厚1.8〜2.0mm、仕上げ厚0.16〜0.20mm、板幅800〜1200mmの薄物ブリキ原板としたときの、圧延油原単位を本発明による方法と従来方法とを比較して示した。なお、この時の第2の圧延油供給系統からのエマルション供給量は、仕上厚に応じて調整し、仕上厚0.16〜0.20mmの場合、第4スタンドおよび第5スタンドの供給量を、各々100L/min、130L/minとし、仕上厚0.20〜0.25mmの場合、各々5L/min、15L/minとした。一方、従来方式での潤滑としてスプレーされるエマルションの供給量は、第4スタンドで3000L/min、第5スタンドで4000L/minとした。
【0114】
本第2発明によると、圧延油原単位を従来方式(循環方式)よりも低くすることができた。これは、本発明により第2の圧延油供給系統のエマルションを、循環式圧延油供給系統の油分ロスの補充油として有効に利用できる効果と、エマルションの供給量を従来方式よりも少なくできるため、ヒューム等による油分ロス量を従来方式よりも低減できる効果による。
【0115】
【表3】
【0116】
【発明の効果】
以上説明したように本第1発明によれば、付着効率の高い平均粒径20μm以上のエマルションを、圧延スタンド入側の鋼板上面および下面に供給することにより、高速圧延域においても上下面の鋼板付着油量を大幅に向上できる。これにより、仕上板厚0.2mm以下の薄物材を圧延する場合に、従来方式で高速圧延時に発生していた潤滑不足が解消され、チャタリングおよびヒートスクラッチ疵の発生を未然に防止できる。これに伴い、圧延速度を向上できるため、生産性を大幅に向上できる。さらに、本第1発明によれば、循環式圧延油供給系統のエマルションの乳化分散安定性が確保されるため、安定な操業が可能となる。
【0117】
また、本第2発明によれば、第2の圧延油供給系統のエマルションが、循環式圧延油供給系統の補充油としても利用でき、圧延油の原単位を従来の循環式圧延油供給方式よりも低くすることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第1実施形態に関わるタンデム圧延機への適用例を示す図。
【図2】本発明の第2実施形態に関わるタンデム圧延機への適用例を示す図。
【図3】界面活性剤の対油濃度とエマルションの平均粒径との関係を示す図で、( a)は界面活性剤がカチオン系分散剤で、圧延油が牛脂の場合、(b) は界面活性剤がノニオン系乳化剤で、圧延油が合成エステル系圧延油の場合を示す。
【図4】エマルションの平均粒径と付着効率の関係を示す図。
【図5】エマルションの濃度と付着効率の関係を示す図。
【図6】エマルションの温度と付着効率の関係を示す図。
【図7】エマルション供給量ωτとプレートアウト量の関係を示す図。
【図8】循環式圧延油供給系統と第2の圧延油供給系統の圧延材の鋼板付着量の比較図。
【図9】第2の圧延油供給系統使用時と未使用時の循環式圧延油供給系統のエマルション粒径分布の比較を示す図。
【図10】循環系統タンクへの界面活性剤量の補充および付加的攪拌方法の1例を示す図。
【図11】循環系統タンクへの界面活性剤量の補充および付加的攪拌方法の他の例を示す図。
【図12】第2の圧延油供給系統より循環系統タンクへの補充方法の1例を示す図。
【図13】第2の圧延油供給系統より循環系統タンクへの補充方法の他の例を示す図。
【図14】計算装置における計算フローを示す図。
【図15】本発明と従来方式の圧延材の鋼板付着油量の比較(対象材1)を示す図。
【図16】本発明と従来方式の第5スタンドの摩擦係数の比較(対象材1)を示す図。
【図17】本発明と従来方式の圧延速度分布の比較( 対象材1)を示す図。
【図18】本発明と従来方式の圧延材の鋼板付着油量の比較(対象材2)を示す図。
【図19】本発明と従来方式の第5スタンドの摩擦係数の比較(対象材2)を示す図。
【図20】本発明と従来方式の第5スタンド出側の鋼板温度の比較(対象材2)を示す図。
【図21】本発明と従来方式の圧延速度分布の比較( 対象材2)を示す図。
【図22】本発明の実施形態に関わるタンデム圧延機への適用例で、第2の供給系エマルションの供給位置をロールバイトの上流側にした例を示す図。
【符号の説明】
1…貯蔵タンク、2…タンク、3…タンク、4…タンク、5a,5b,5c…供給ポンプ、6a,6b,6c,6d…流量調整弁、7…攪拌器、8a,8b…ポンプ、9a,9b…圧延油供給ライン、10a,10b…ヘッダー、11…圧延油送給ライン、12a,12b…流量制御弁、13a,13b…循環系統タンク、14a,14b…ポンプ、15a,15b…圧延油供給ライン、16…攪拌用ポンプ,17a,17b…回収用オイルパン、18…攪拌器、19a,19b…ヘッダー、20…冷却用エマルション供給系統、21…ストリップ、22…ワークロール、23…バックアップロール、24a,24b…計算装置、25…流量計、26a,26b…流量制御弁、27…攪拌セクション、28…ポンプ、29…流量調整弁、30a,30b…戻りライン、31…流量制御弁、32…配管、33…流量調整弁、34…攪拌用ポンプ、35…配管、36…流量調整弁、37…流量調整弁、38…配管、39…流量調整弁、40…配管、41…ポンプ、42…補充用タンク、43a,43b,43c…配管、44a,44b,44c…流量調整弁、45…アジテータ、46…補充用ポンプ、47…配管、48…オイルパン。
【発明の属する技術分野】
この発明は冷間圧延機における圧延油供給方法に係り、特に循環式圧延油供給方式を使用する冷間圧延機における圧延油供給方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
冷間圧延では、圧延中に鋼板とロールの間の摩擦を減少させるために潤滑油が必要となる。また、摩擦発熱および加工発熱を除去するためにロールならびに鋼板の冷却が必要となる。通常冷間圧延においてはエマルション圧延油を用いて潤滑が行われる。エマルションとは、圧延油の粒子が水に安定して懸濁した状態の混合液体である。エマルションは濃度および粒径で特徴付けられる。エマルション濃度とは、エマルション全体積中の油分体積の比率である。粒径とは、エマルション中の圧延油の粒子の径である。また、エマルションを作成するために、界面活性剤を添加する。その添加量は圧延油量に対する濃度(対油濃度)で、所定の量を添加し、攪拌およびポンプによるせん断を加え、エマルション液とする。また、冷間圧延におけるエマルション圧延油の供給方式には、直接方式(ダイレクト方式)、循環方式(リサーキュレーション方式)、およびその折衷であるハイブリッド方式がある。
【0003】
直接式圧延油供給方式(ダイレクト方式)は、潤滑の目的で高濃度のエマルション圧延油を鋼板にスプレーし、冷却の目的で水をロールにスプレーするため、潤滑性と冷却性に優れる。しかし、循環方式と異なり、エマルション圧延油を循環使用しないため、圧延油の原単位が高い。
【0004】
一方、循環式圧延油供給方式(リサーキュレーション方式)は、圧延油と冷却水をあらかじめ混合、攪拌して作成した低濃度のエマルション圧延油を、循環しながら潤滑と冷却の目的で鋼板およびロールにスプレーするため、圧延油の原単位が低い。しかし、直接式圧延油供給方式と比較して、潤滑性および冷却性が劣ることは否定できない。そのため、従来の循環方式では、特に、仕上板厚0.2mm以下の薄物材の高速圧延時には潤滑不足となり、チャタリングと呼ばれる圧延機の振動や、ヒートスクラッチと呼ばれる表面疵が発生するため、圧延速度が上げられないという問題があった。
【0005】
これに対し、循環式圧延油供給方式の潤滑性改善を目的とした従来技術として、特公昭59−24888号公報では、濃度10%以上の圧延油を、噛み込み直前の鋼板下面に直接供給する方法が提示されている。また、低濃度かつ低温のエマルションを供給する循環式圧延油供給系統とは別に、高濃度かつ高温のエマルションを鋼板に供給して潤滑性を改善する折衷方法であるハイブリッド方式が提示されている。
【0006】
特公昭58−5731号公報および特開平9−122733号公報では、高濃度エマルションを高温(75℃)に加熱し、噛み込み直前の鋼板に直接噴射し、高濃度エマルションは循環系エマルションからの抽出液に圧延油を添加して作成する方法が提示されている。
【0007】
特開平2−37911号公報では、高濃度エマルションに添加する界面活性剤を、循環系統のエマルションと同一種とし、添加量のみ異ならせて乳化安定性指数(ESI)を低くし、鋼板に直接噴射する方法が提示されている。
【0008】
また、特公昭63−5167号公報では、塩形成をさせないか、もしくは、塩形成率の低いイオン性界面活性剤を用いて乳化不安定なエマルションとして鋼板に直接噴射し、循環系統のタンク内に水溶性の反対イオン性物質を過剰に添加させておき、循環系統のタンクへ混入後に乳化安定化させる方法が提示されている。
【0009】
しかし、上記従来技術には、以下のような問題点があった。
【0010】
特公昭59−24888号公報に提示されている従来技術では、以下の理由により、十分な潤滑性改善効果を得られなかった。
【0011】
a)スプレーされるエマルションに含まれる油分量に対し、鋼板表面にプレートアウト(鋼板への油分の付着)する油分量の比率(以下、付着効率と称す)と濃度の関係を調査すると、エマルション濃度のみを高くすると付着効率は低下するため、濃度の上昇だけでは充分なプレートアウト量を得られなかった。
【0012】
b)高速圧延時には、鋼板下面側だけでなく、上面側にもヒートスクラッチ疵が発生することがある。高速圧延域においては下面だけではなく上面のプレートアウト量の減少もみられ、鋼板下面のみの潤滑性改善では不十分である。
【0013】
特公昭58−5731号公報および特開平9−122733号公報に提示されている従来技術は、以下の理由により、十分な潤滑性改善効果を得られなかった。
【0014】
a)エマルションの温度を高くすることの効果を実機で確かめてみると、エマルションを構成する乳化分散剤によっては必ずしもエマルションの温度を高くしても付着効率が増加せず、その場合にはエマルションを高温にすることは効果がない。またエマルションの濃度を高くすると付着効率は低下するため、濃度の上昇だけでは効率よくプレートアウト量を増加できない。そのため濃度上昇による付着効率の低下を補おうとして供給流量を過大に増加させるなどの方法によらなければならない等の問題があった。またエマルションを加熱、加圧するためにはヒーター等の余分な装置が必要になる一方、温度の高いエマルションが循環式圧延油供給系統に混入すると、循環式圧延油供給系統のエマルションの温度が上昇するために、循環式圧延油供給系統には大型のクーラー等の余計な設備が必要になる。
【0015】
b)ハイブリッド系のエマルションを循環系のエマルションからの抽出により得ようとすると、循環系エマルションはESI、鉄分濃度、鹸化価、酸価などの特性が一定でなく、安定した抽出液を得るためには化学処理や鉄分除去フィルターなどの複雑な設備が必要になる。また、ひとたび抽出液の特性が変化するとそれに対応して、ハイブリッド系のエマルションの特性や物性も変化し本来目的としていた安定した潤滑性改善が達成できない。
【0016】
特開平2−37911号公報に提示されている従来技術では、循環式圧延油供給タンク内にハイブリッド系のESIの低い乳化分散性の不安定なエマルションが混入することにより、循環系統のエマルションのESIが経時的に変化して乳化分散性が不安定になり、それが供給されると過潤滑となり、全スタンドにわたってスリップが発生し圧延が不安定になるなどの問題があった。
【0017】
一般的に、循環式圧延油供給タンクは10000L程度の大容量であるが、特公昭63−5167号公報に提示されている従来技術では、循環系統のタンク内にあらかじめ反対イオン性物質を大量に添加しておく必要があり、過剰な反対イオン性物質により循環系統のタンク内のエマルションの乳化分散安定性にばらつきを生じることがある。また塩形成率の低いイオン性界面活性剤を用いたエマルションとの塩形成反応が生じにくく、結果として循環系統のタンク内のエマルションが不安定化するなどの問題があった。
【0018】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、循環式圧延油供給方式において、循環式圧延油供給系統(第1の圧延油供給系統)とは別に、第2の圧延油供給系統を設けて、循環式圧延油供給系統よりも平均粒径が大きく、付着効率の高いエマルションを鋼板上下面に供給することにより潤滑性を向上させるとともに、循環式圧延油供給タンクに混入後もエマルションの乳化分散安定性を保持できる圧延油供給方法を提供するものである。
【0019】
【課題を解決するための手段】
本第1発明は、冷間圧延におけるエマルション圧延油の循環式供給方法において、循環式圧延油供給系統(第1の圧延油供給系統)とは別に第2の圧延油供給系統を設け、循環式圧延油供給系統のエマルションと同一種類でかつ循環式圧延油供給系統よりも低い対油濃度の界面活性剤を添加し、循環式圧延油供給系統よりも大きな平均粒径(例えば20μm以上)となるように調整した付着効率の高いエマルションを、圧延スタンド入側の鋼板上面、および下面に供給し、その後、鋼板に付着しなかったエマルションを回収し、循環式圧延油供給系統の界面活性剤の対油濃度と同一となるように界面活性剤を投入し、機械的攪拌を加えた後、循環式圧延油供給系統のエマルションに合流させることを特徴とする冷間圧延機における圧延油供給方法である。
【0020】
本第2発明は、第2の圧延油供給系統から循環式圧延油供給系統のタンクへ混入する油分量が、循環式圧延油供給系統の油分ロス量よりも多い場合、循環式圧延油供給系統のタンク内の濃度が一定となるように希釈水を補充し、第2の圧延油供給系統から循環式圧延油供給系統のタンクへ混入する油分量が、循環式圧延油供給系統の油分ロス量よりも少ない場合、第2の圧延油供給系統のエマルションを循環式圧延油供給系統に合流させる工程で、界面活性剤の対油濃度を循環式圧延油供給系統のエマルションと同一となるように追添加して調整したエマルションを循環式圧延油供給系統のタンクへ補充するとともに、希釈水を補充することを特徴とする第1発明の冷間圧延機における圧延油供給方法である。
【0021】
以下、本第1発明の原理を説明する。
【0022】
発明者らは、エマルションを鋼板に供給したとき、付着効率を向上させる手段について鋭意検討した結果、界面活性剤の添加濃度を調整してエマルションの平均粒径を増加させると、付着効率が大幅に向上することを見出した。
【0023】
図3に界面活性剤の添加量とエマルションの平均粒径の関係を示す。なお、このとき、機械的攪拌、せん断は充分に与えてエマルションを作成した。例えば、図3(a)は、カチオン系分散型の界面活性剤の場合であり、界面活性剤の対油濃度0.4%以上で平均粒径8〜15μmの安定エマルションとなる。循環式圧延油供給系統の添加量はこの範囲である。一方、対油濃度0.005〜0.2%で平均粒径20μm以上のエマルションとなる。図3(b)は、ノニオン系乳化型の界面活性剤の場合であり、対油濃度0.3%以上で平均粒径10μm以下の安定エマルションとなる。また、対油濃度0.003〜0.2%で20μm以上のエマルションとなる。対油濃度0.003%より低濃度の場合、自己乳化作用で20μm以下の小粒径エマルションとなることがある。
【0024】
図4に、プレートアウト試験機を用いて、エマルションの平均粒径と付着効率の関係を調査した結果を示すが、平均粒径の増加とともに付着効率が増加する。特に、平均粒径が20μm以上で、急激に付着効率が増加する。
【0025】
また、図5にエマルション濃度と付着効率の関係を示すが、濃度上昇とともに付着効率は減少する。しかし、エマルションの平均粒径が20μm以上と大きくなるとエマルション濃度に対する付着効率の低下は小さい。
【0026】
特に高速圧延域では、速度の上昇とともにスプレー時間が短くなり、鋼板の単位面積当たりの供給圧延油量が減少するため、従来技術のようにエマルションを高濃度、高温化しても付着効率の低い条件では充分な潤滑性改善効果はなく、本発明のように平均粒径を大きくした付着効率の高いエマルションを用いると効果的である。また、高速圧延時には、鋼板下面側だけでなく、上面側にもヒートスクラッチ疵が発生することがあるため、鋼板の上面側の潤滑性の改善が必要であり、上面側にも平均粒径を大きくした付着効率の高いエマルションを供給する必要がある。
【0027】
第2の圧延油供給系統のエマルションは、安定した潤滑性を得るために、圧延油原液、界面活性剤、および希釈水を新たに調合して作成する。乳化分散のために添加する界面活性剤は、第2の圧延油供給系統のエマルションが循環式圧延油供給タンクに混入したときの影響をなくすために、循環式圧延油供給系統と同一種類の界面活性剤とし、界面活性剤の添加濃度を調整して平均粒径の大きなエマルションを得る。
【0028】
本第1発明で、循環式圧延油供給系統と同一種で、かつ、より低い対油濃度の界面活性剤を添加し、循環式圧延油供給系統よりも大きな平均粒径のエマルションを、圧延スタンド入側の鋼板の上下面に供給するとしたのは、以上のような検討結果に基づくものである。
【0029】
第2の圧延油供給系統から鋼板の上面、下面へ供給されるエマルションのうち、鋼板に付着しなかったエマルションを回収し循環式圧延油供給タンクへ合流させる工程において、界面活性剤を追添加した後、機械的攪拌を加えて循環系エマルションと同じ粒径まで細分化された安定なエマルションとすることにより、循環式圧延油供給系統の乳化安定性を維持することができる。このときの界面活性剤の追添加量は、式(6)に基づいて決定する。
【0030】
【数1】
【0031】
ただし、qe(L/min)は、界面活性剤の添加量、q1(L/min)は、第2の圧延油供給系統のエマルション供給量、f(%)は、第2の圧延油供給系統のエマルションの付着効率であり、式中のq1・(1−f/100)は、鋼板の上面、下面に付着しなかったエマルション量を表す。c(%)は、第2の圧延油供給系統のエマルション濃度、c0(%)は、循環式圧延油供給系統のエマルション濃度、ce(%)は、第2の圧延油供給系統の界面活性剤の対油濃度、ce0(%)は、循環式圧延油供給系統の界面活性剤の対油濃度を表す。
【0032】
なお界面活性剤の追添加および付加的な攪拌およびせん断により循環系エマルションと同じ粒径まで細分化された安定なエマルションを得る方法としては、以下に示すようなものがある。
【0033】
(1)循環系統のタンク内に界面活性剤を追添加し、循環系統のタンク内のアジテータの回転数を増すことによりエマルションに強攪拌を加える方法。
【0034】
(2)エマルションを回収するオイルパンから循環式圧延油供給系統のエマルション貯蔵タンクへの戻り配管の途中で界面活性剤を追添加し、配管の途中にオリフィスを設けるか攪拌ポンプを設置する方法。
【0035】
(3)エマルションを回収するオイルパン内で界面活性剤を追添加し、オイルパンから循環式圧延油供給系統のエマルション貯蔵タンクへの戻り配管の途中にオリフィスを設けるか攪拌ポンプを設置する方法。
【0036】
(4)循環式圧延油供給系統のエマルション貯蔵タンクとは別に回収のためのバッファータンクを設け、その中で回収されたエマルションに界面活性剤を追添加し、アジテータを設けて攪拌・せん断を加える方法。
【0037】
また、図6は、プレートアウト試験機を用い、それぞれ異なる界面活性剤a,b,cを乳化分散剤として作成したエマルションについて、エマルション温度と付着効率の関係を調査した結果である。これによると、エマルション温度を高くすることは、界面活性剤cのように乳化分散剤によってはプレートアウト量を低下させる場合もある。界面活性剤a,bのように、プレートアウト量が増加する場合もあるが付着効率の増加は小さく、エマルションを高温に保つためのヒーター等の設備が必要になることを考えれば、エマルションを高温にすることは得策でない。また循環式圧延油供給系統に混入した場合に循環式圧延油供給系統のエマルション温度がどんどん上昇するために、循環式圧延油供給系統にはクーラーが必要になる。したがって本発明では第2の圧延油供給系統と循環式圧延油供給系統のエマルションは同じ温度とする。
【0038】
第2の圧延油供給系統のエマルションの濃度および流量は、以下に説明する条件およびプレートアウト特性を考慮して決定する。第1に、所定のプレートアウト量を確保することが必要条件となる。この必要なプレートアウト量をPφmin(単位はmg/m2 )とする。Pφminはヒートスクラッチ疵やチャタリングの発生しない最低限度の量である。以下、プレートアウト量を記号PΦ(単位はmg/m2 )で表す。第1の条件を式(1)で表す。
【0039】
Pφmin≦PΦ …式(1)
第2に、プレートアウト量は、図7に示すように、一定のエマルション供給量以上では飽和し、付着効率が低下する。このため、エマルション供給量は、プレートアウト量が飽和しない範囲内で設定するのが望ましい。この飽和限界となる供給量を、ωτmax(単位はL/m2 )とする。だだし、ωτはエマルション供給量(単位はL/m2 )を表し、ωは流量密度(単位はL/m2 )、τはスプレー滞留時間(単位はmin)を表す。図7によると、ωτmaxは、約0.1L/m2 である。圧延機の1ヘッダー当たりの流量をQ(L/min)、スプレー部の幅をw(m)、圧延速度をV(m/min)、エマルション供給量をωτ(L/m2 )とすると、Q=(ωτ)・w・Vで計算できる。w=1.2m、V=1800m/min、ωτ=0.1L/m2 のとき、Q=215L/minとなる。このことから、1ヘッダー当たりの流量は、最大215L/minとする。第2の条件を式(2)で表す。
【0040】
ωτ≦ωτmax …式(2)
また、エマルション供給量に対し、プレートアウト量の飽和しない領域では、式(3)でプレートアウト量を計算できる。ただし、PΦはプレートアウト量(単位はmg/m2 )、cは、エマルション濃度(%)、fは付着効率(%)、Kは単位換算係数(mg/L)である。Kは油種によって異なるが、0.89×106 〜0.9×106 程度である。
【0041】
PΦ=K・c/100・ωτ・f/100 …式(3)
第三に、付着効率fは、図5に示すように、エマルション濃度の増加とともに低下するため、できるだけ低濃度とする。また、図4に示すように、付着効率fは、エマルション粒径により影響を受ける。付着効率f(%)と濃度c(%)、油分平均粒径d(μm)の関係を、式(4)で表す。但し、fは関数を表す。
【0042】
f=f(c,d) …式(4)
式(1)、式(3)、および式(4)を整理すると、式(5)の条件が得られる。
【0043】
c・f(c,d)≧Pφmin/ωτ・K …式(5)
以上より、第2の圧延油着供給系統のエマルションの濃度と平均粒径は、式(5)を満足する必要がある。
【0044】
例えば、図4の付着効率を示すエマルションの場合、平均粒径を20μmとしたときの最低濃度の計算例を以下に示す。
【0045】
式(5)中のPΦminは次の手順に従って求める。まず、ヒートスクラッチ疵およびチャタリングの発生と圧延材の鋼板付着油量の関係を調査し、いずれも発生しないときの鋼板付着油量の下限値を0min(単位はmg/m2 )とする。このときの圧延機入側の鋼板表面のプレートアウト量Pφmin(単位はmg/m2 )は、圧延機出側でロール表面にも圧延材の鋼板付着油量と同量の圧延油が付着していると仮定すると、Pφmin=2・0min/(1−rで計算される。ただし、rは圧延時の圧下率を表す。例えば、0minが300mg/m2、圧下率rが0.3のとき、Pφminは860mg/m2 となる。エマルション供給量ωτをωτmaxの50%とすると、図4に示す平均粒径20μmのときのエマルション濃度と付着効率の関係を用い、式(5)を満足するエマルションの最低濃度を求めると6.2%となる。
【0046】
一方、上記例のエマルションを従来の循環式圧延油供給系統のエマルションとして使用する場合、せん断を充分に加えて平均粒径を20μmよりも小さくして乳化安定なエマルションとし、濃度を1.0〜5.0%程度として使用する。
【0047】
この例からも分かるように、上述した式(1)〜式(5)の諸条件を考慮すると第2の圧延油供給系統のエマルション濃度は、循環式圧延油供給系統よりも高くなる。
【0048】
圧延油の噴射圧力については、0.5kg/cm2 〜7kg/cm2 が好ましい。0.5kg/cm2 は、鋼板下面用のヘッダーよりスプレーされたエマルションが鋼板表面に到達できる最低圧力である。また、7kg/cm2 以上となると、鋼板表面に衝突して飛散するエマルション量が多くなり、付着効率は低下する。従って、0.5〜7kg/cm2 程度に設定するのが好ましい。
【0049】
以上に示した本第1発明による圧延油供給方式を用いることにより、従来の循環式圧延油供給系統よりも潤滑性を大きく改善できる。図8は、循環式圧延油供給系統と第2の圧延油供給系統の圧延材の鋼板付着油量の比較結果である。なお、鋼板付着油量の測定は、鋼板表面の油分をヘキサン等の有機溶剤にて抽出し、抽出油分量を測定する方法(溶剤抽出法)により行なった。この時の循環式圧延油供給方式のエマルションの濃度は3.5%、平均粒径は10μmであり、上下ヘッダーからのエマルション供給量は4000L/minである。一方、第2の圧延油供給方式のエマルションの濃度は10%、平均粒径は20μmであり、上下ヘッダーからのエマルション供給量を130L/minとした。本第1発明を用いた時の鋼板付着量は、従来の循環式圧延油供給系統よりも約40%増加しており、供給油分量に対する付着油量の比率で示される付着効率でいえば、従来の約12倍の効果が認められた。
【0050】
また、本第1発明において、第2の圧延油供給系統のエマルションを供給するための、スプレーノズルの位置をロールバイトから離れた上流スタンドにできるだけ近い位置とすることが好ましい。これは以下の理由による。
【0051】
安定したプレートアウト層を形成するためには、水に油が分散したO/Wエマルションの状態から、油に水が分散したW/Oエマルションまたは油分単相へ転相するための時間(以下、転相時間と称す)を確保するのが好ましい。圧延機においては、圧延機入側で鋼板表面へエマルションが供給されてから、送板速度に応じてロールバイトに到達するまでの時間が転相時間に相当する。従って、圧延速度が高くなるほど、転相時間は短くなるため、プレートアウト層を形成しにくくなることが想定される。これに対し、スプレーノズルの位置をロールバイトから離れた上流スタンドにできるだけ近い位置とすることで転相時間を確保できる。
【0052】
本第2発明は、以下の検討結果に基づくものである。
【0053】
循環式圧延油供給方式では、ストリップとともに付着した油分が系外に持ち出される圧延油分、圧延機内での蒸発、リーク、およびスカムアウトで失われる圧延油および水を補充し、タンク内のエマルション液量およびエマルション濃度を一定の水準に保持している。
【0054】
一方、第2の圧延油供給系統から鋼板へのスプレーの後に回収されるエマルションは、循環系統のエマルションよりも濃度は高く、対油界面活性剤の濃度および平均粒径が循環系エマルションと同一となるよう界面活性剤を追添加されるため、循環式圧延油供給系統の補充油として用いることができる。
【0055】
本第2発明はかかる観点に基づいてなされたものである。すなわち、本第2発明は、第2の圧延油供給系統から循環式圧延油供給系統のタンク内へ混入する油分量が、循環式圧延油供給系統の油分ロス量を超える場合には、循環式圧延油供給系統タンク内の濃度が一定となるように希釈水のみを補充する。この時、タンク内のエマルション液量は一定の濃度を保ったまま増加することとなり、予め油分ロス量を補給していることと等価となる。
【0056】
また、第2の圧延油供給系統から循環式圧延油供給系統のタンク内へ混入する油分量が、循環式圧延油供給系統の油分ロス量を上回り、かつ、タンク内のエマルション液量が一定の水準を越えている場合には、新たな油分補給は不要であり、濃度を一定に保持するように希釈水のみを補充する。
【0057】
また、第2の圧延油供給系統から循環系統のタンク内へ混入する油分量が、循環式圧延油供給系統の油分ロス量を下回り、かつ、タンク内のエマルション液量が一定の水準に保持されているか、少ない場合には、第2の圧延油供給系統のエマルションの界面活性剤の対油濃度を循環式圧延油供給系統のエマルションと同一となるように調整したエマルションを循環式圧延油供給タンクへ補充するとともに希釈水を補充する。
【0058】
希釈水および第2の圧延油供給系統のエマルションの補充量は、式(7)に示すように、循環式圧延油供給系統へ混入する第2の圧延油供給系統のエマルションの油分量から循環式圧延油供給系統の油分ロス量を差し引いた油量ΔQoに応じ、式(8)〜式(11)に基づいて決定する。また、第2の圧延油供給系統のエマルションへの界面活性剤の追添加量は、式(12)に基づいて決定する。
【0059】
【数2】
【0060】
【数3】
【0061】
【数4】
【0062】
【数5】
【0063】
【数6】
【0064】
【数7】
【0065】
ただし、ΔQo(L/min)は、循環式圧延油供給系統の油分増加量、ΔQw(L/min)は、循環式圧延油供給系統の水分増加量、QLo(L/min)は、循環式圧延油供給系統の油分ロス量、QLw(L/min)は、循環式圧延油供給系統の水分ロス量、ΔQE(L)は、タンク内のエマルション液量の一定水準からの偏差量、W(L/min)は、希釈水の補給量、q2(L/min)は、第2の圧延油供給系統のタンクから循環式圧延油供給系統のタンクへの補充量、q1(L/min)は、第2の圧延油供給系統から鋼板へのエマルション供給量、qe(L/min)は、界面活性剤の添加量、c(%)は、第2の圧延油供給系統の濃度、c0(%)は、循環式圧延油供給系統の濃度、ce(%)は、第2の圧延油供給系統の界面活性剤の対油濃度、ce0(%)は、循環式圧延油供給系統の界面活性剤の対油濃度、f(%)は、第2の圧延油供給系統のエマルションの付着効率、である。
【0066】
なお第2の圧延油供給系統のタンクから循環式圧延油供給系統のタンクへ補充するエマルションへ界面活性剤を追添加し、付加的な攪拌、およびせん断により循環系統のエマルションと同じ平均粒径の安定なエマルションを得る方法には、以下のようなものがある。
【0067】
(1)第2の圧延油供給系統のエマルションを循環式圧延油供給系統のタンク内に補充したあとで界面活性剤を追添加し、タンク内のアジテータの回転数を増すことによりエマルションに強攪拌、およびせん断を加える方法。
【0068】
(2)第2の圧延油供給系統のタンクから循環式圧延油供給系統のタンクへの送り配管の途中で界面活性剤を追添加したのち、供給ポンプを通過させることにより、エマルションにせん断を加える方法。
【0069】
(3)第2の圧延油供給系統のタンクとは別に、界面活性剤量を調整するためのバッファータンクを設け、その中で界面活性剤を追添加し、アジテータを設けてエマルションに攪拌およびせん断を加える方法。
【0070】
(4)第2の圧延油供給系統のタンクとは別に、循環式圧延油供給系統のエマルションと同一の対油濃度の界面活性剤を添加した補充用エマルションの貯蔵タンクを設ける方法。
【0071】
以上に示した補給方法を用いることにより、第2の圧延油供給系統のエマルションは、循環式供給系統の不足油分の補充も兼ね有効に利用されるため、従来の循環式圧延油供給方式の場合と同様に、圧延油の原単位を低くできる。
【0072】
また、本第2発明によれば、第2の圧延油供給系統は、循環式圧延油供給系統のみを用いて圧延する場合にも、循環式圧延油供給系統の油分ロス量の補充方法として適用できる。第2の圧延油供給系統のエマルション補充量および希釈水は、ΔQo=−QLo、ΔQw=−QLwとし、式(11)に基づいて決定する。
【0073】
【発明の実施の形態】
[実発明の実施形態1]図1は、本第1発明の実施形態の一例であり、全5スタンドのタンデムミルの第4、5スタンドに適用した場合である。第4、5スタンドに適用したのは、後段スタンドほど圧延速度が速く、しかも、板厚が薄くなるため、圧延荷重が高くなり、潤滑条件として厳しくなるためである。図1では、No.1〜3スタンドにおいては、従来の循環式圧延油供給系統による潤滑および冷却を行い、No.4,5スタンドにおいては、潤滑を本発明による第2の圧延油供給系統により行い、冷却を循環式圧延油供給系統により行う圧延油供給方式を示した。なお、循環式圧延油供給系統は、No.1〜3スタンド用、およびNo.4〜5スタンド用の2系統に別れている。
【0074】
図1中の1は第2の圧延油供給系統のエマルションの貯蔵タンクである。温水、原油、界面活性剤は、各タンク2、3、4より供給ポンプ5a,5b,5cを経由し、所定の油分濃度、界面活性剤の対油濃度となるように流量調整弁6a,6b,6cで補給量を調整され、エマルション貯蔵タンク1へ供給される。タンク内のエマルション濃度は、4〜15%の範囲内とし、界面活性剤の種類は循環式圧延油供給系統と同一とし、対油濃度を循環式圧延油供給系統よりも低くする。例えば、カチオン系分散型の界面活性剤の場合、循環式圧延油供給系統の対油濃度を0.5%とするのに対し、第2の圧延油供給系統の対油濃度を、0.005〜0.2%の範囲とする。そして、機械的攪拌をアジテータ7により十分に与えてタンク内の平均粒径を20〜40μmに調整する。また、エマルション温度は、循環式圧延油供給系統と同じ温度とする。
【0075】
この第2の圧延油供給系統のエマルション液は、ポンプ8aにより、圧延油供給ライン9aを経由してヘッダー10a、およびヘッダー10bよりストリップの上下面に供給される。流量は、1ヘッダー当たり最大215L/minとし、圧延材のサイズ、および鋼種に応じて調整する。
【0076】
鋼板へのスプレーの後、鋼板にプレートアウトしないエマルションは、回収オイルパン17bにて、冷却用の循環系統のエマルションとともに回収され、戻りライン30bを経由して攪拌セクション27に投入される。攪拌セクションで、式(6)より決定される界面活性剤量を弁29の開度を調整して追添加し、アジテータ18による付加的攪拌を加えた後、ポンプ28を経由して、循環式圧延油供給タンク13b内に投入する。例えば、循環式圧延油供給系統のエマルションを、濃度2.5%、界面活性剤の対油濃度0.5%とし、第2の圧延油供給系統のエマルションを、濃度10%、界面活性剤の対油濃度0.1%、鋼板へのエマルション供給量を#4STDで20L/min、#5STDで30L/minとする場合、攪拌セクション27への界面活性剤の追添加量は8.4cc/minとなる。
【0077】
図9は、本第1発明による第2の圧延油供給系統を用いたときの、循環系統タンク13b内のエマルションの粒径分布を調査した結果である。比較として、第2の圧延油供給系統のタンク1内のエマルションの粒径分布および第2の圧延油供給系統を用いない場合の循環系統タンク内13b内のエマルションの粒径分布も示した。第2の圧延油供給系統を使用した場合の、循環系統タンク13b内のエマルションは、第2の圧延油供給系統を使用しない場合のエマルションの粒径分布と一致しており、本第1発明によれば、循環式圧延油供給系統の乳化分散性を保持できることがわかる。
【0078】
なお、回収される第2の圧延油供給系統のエマルションに界面活性剤を追添加し、付加的攪拌およびせん断を加える方法として、以下に示す方法を用いてもよい。
【0079】
(1)循環系統タンクに合流させた後、循環系統タンク内に界面活性剤を追添加し、アジテータの回転数を増すことによりエマルションに強攪拌を加える方法。
【0080】
(2)図10に示すように、回収オイルパン17bからの戻り配管30bの途中で、界面活性剤をタンク4より配管32、バルブ33を経由して追添加し、配管途中に設置した攪拌ポンプ34にてエマルションにせん断を加えた後、循環式圧延油供給系統のタンク13bに合流させる方法。
【0081】
(3)図11に示すように、回収オイルパン17b内において、界面活性剤をタンク4より配管35、バルブ36を経由して追添加し、オイルパン17bからタンクへの戻り配管30bの途中に設置した攪拌ポンプ34にてエマルションにせん断を加えた後、循環式圧延油供給系統のタンク13bに合流させる方法。
【0082】
一方、循環式圧延油供給系統のエマルション液は、No.1〜3スタンド用タンク13a、No.4,5スタンド用タンク13bに貯蔵され、攪拌器18により攪拌され、半径の小さい安定なエマルションとなる。エマルション粒径はカチオン系分散型の界面活性剤を用いた場合、対油濃度0.5%のとき、平均粒径8〜15μmであったが、それ以外の乳化型の界面活性剤を用いる場合には平均粒径が10μm以下となる場合もある。エマルション濃度は、通常1〜4%の範囲内である。基油に牛脂を用いる場合、エマルションの温度は55〜70℃である。それ以外の合成エステル系圧延油の場合には、これよりも低くなる場合もある。この循環系統のエマルションは、攪拌タンク13aおよび13bから、ポンプ14a,14bにより圧延油供給ライン15a,15bに送給される。循環系統による潤滑を行うNo.1〜3スタンドについては、ヘッダー19a,19bより、ロールバイトへ向けてエマルションを供給する。その流量は、各ヘッダーごとに1000〜2000L/minの範囲である。また、No.1〜5スタンドの出側では、冷却用エマルション供給系統20より、ストリップ21、ワークロール22、バックアップロール23に向けてスプレーし、ストリップおよびロールを冷却する。その流量は、各ヘッダーごとに、1000〜2000L/minの範囲である。その後、循環系統のエマルションは、回収オイルパン17a,17bにより回収され、戻りライン30a,30bを経由して循環系統のタンク13a,13bに戻される。
【0083】
また、図22は、図1に示す如き実施形態において、第2の圧延油供給系統のエマルションを供給するヘッダーの位置をロールバイトから離れた上流スタンドにできるだけ近い位置とした実施形態である。これにより、O/WエマルションからW/Oエマルション若しくは油分単相へ転相するための時間を確保している。ヘッダー位置は、前スタンド出側のロールおよびストリップの冷却用のクーラントヘッダー20の影響を受ける直後(前スタンド出側より1.0m)とした。なお、スタンド間は4.5mである。
【0084】
[本発明の実施形態2]図2は、本第2発明の実施形態に関し、全5スタンドのタンデムミルに適用した場合の装置構成である。なお、第2の圧延油供給系統の装置構成は、上記実施形態1で示した図1と同様である。
【0085】
第2の圧延油供給系統のタンク1から循環系統のタンク13aおよび13bへ補充するエマルションは、ポンプ8bから供給配管9bを経由し、界面活性剤量を調整するためのオイルパン31へ投入される。ここで、弁6dの開度を調整し、式(12)より決定される所定の量の界面活性剤を追添加した後、供給ポンプ16にてせん断を加えてから循環系統タンク13a,13bに補給される。その補給量は、バルブ26a,26bの開度により調整される。
【0086】
なお第2の圧延油供給系統タンクから循環系統のタンク13a,13bへ補充するエマルションの界面活性剤の対油濃度を循環系統のエマルションと同一となるように調整し、付加的な攪拌およびせん断を加える方法は、以下に示す方法でもよい。
【0087】
(1)第2の圧延油供給系統のエマルションを循環系統のタンク13aおよび13b内に補充したあとで界面活性剤を追添加し、循環系統のタンク内のアジテータの回転数を増すことによりエマルションに強攪拌を加える方法。
【0088】
(2)図12に示すように、第2の圧延油供給系統のタンク1から循環系統のタンク13bへの送り配管38の途中で界面活性剤をバルブ39、配管40を経由して追添加したのち、供給ポンプ41を通過させることにより、エマルションにせん断を加える方法。
【0089】
(3)図13に示すように、循環系統への補充用タンク42を設け、そのエマルション濃度は第2の圧延油供給系統と同じとし、界面活性剤の対油濃度は循環系統と同一となるように、温水タンク2、原油タンク3、界面活性剤タンク4より配管43a,43b,43cを経由し、バルブ44a,44b,44cにて補充量を調整し、補充用タンク42内にてアジテータ45による強攪拌を加えて粒径を細分化し、循環系統のエマルションと同様に安定なエマルションを作成し、補給用ポンプ46により配管47を経由して循環系統タンクへ補給する方法。
【0090】
計算装置24bでは、タンク13bへ補充する第2の圧延油供給系統のエマルションおよび希釈水の補充量および、オイルパン48に追添加する界面活性剤量を計算する。その計算フローを図14に示すが、流量計25にて第2の圧延油供給系統からNo.4,5スタンド入側の鋼板表面で噴霧される供給量q1を計測し、これを基に第2の圧延油供給系統のエマルションの補充量q2、オイルパン48に追添加する界面活性剤量qeおよび、希釈水量Wを、式(7)〜式(12)より計算する。これに基づいて、流量制御弁6d,31,12b,26bが制御される。
【0091】
例えば、No.4,5スタンド用の循環系統のエマルション濃度を3.5%、界面活性剤の対油濃度を0.5%、油分ロス量および水分ロス量を各々1.4L/min、18.4L/min、第2の圧延油供給系統のタンク1のエマルション濃度を10%、界面活性剤の対油濃度を0.1%とした時、鋼板への供給量をNo.4,5スタンドで各々20L/min、30L/minとした場合、循環式圧延油供給系統の油分増加量は、式(7)よりΔQo=2.1L/minとΔQo>0となる。循環式圧延油供給系統のエマルション濃度を一定に保持するために希釈水のみを補給する。その補給量Wは、式(9)より55.3L/minとなる。
【0092】
また、鋼板への供給量をNo.4,5スタンドで各々5L/minとした場合、循環式圧延油供給系統の油分増加量は、式(7)よりΔQo=−0.14L/minとΔQo<0となり、循環式圧延油供給系統への圧延油の補給が必要となる。この時、循環系統のタンク内のエマルション液量が一定の水準に保持されている場合(ΔQE =0)には、第2の圧延油供給系統のエマルションおよび希釈水を補給する。式(11)よりエマルションの送給量q2は1.4L/min、希釈水の補給量Wは、6.4L/minとなり、式(12)により、界面活性剤の追添加量は、0.6cc/minとなる。
【0093】
また、タンク内のエマルション液量が一定の水準よりも多い場合(ΔQE >0)、希釈水のみを補給する。その補給量Wは、式(10)より、33.0L/minとなる。
【0094】
計算装置24aでは、タンク13aへの第2の圧延油供給系統のタンク1からのエマルションおよび希釈水の補充量が計算される。タンク1からのエマルションの送給量q2および希釈水の補充量Wを式(11)、界面活性剤の追添加量qeを式(12)より計算し、これに基づいて、流量制御弁6d,31,12a,26aが制御され、循環式圧延油タンク13aの油分補充がなされる。
【0095】
例えば、No.1〜3スタンド用の循環系統のエマルション濃度が2.5%、界面活性剤の対油濃度が0.5%、油分ロス量および水分ロス量が各々0.6L/min、7.9L/min、そして、第2の圧延油供給系統のタンク1のエマルション濃度が10%、界面活性剤の対油濃度が0.1%の時、希釈水の補給量Wは25.9L/min、第2の圧延油供給系統からのエマルション送給量q2は6L/minとなる。また、界面活性剤の追添加量は、13cc/minとなる。
【0096】
【実施例】
[実施例1]全5スタンドのタンデム圧延機の第4、5スタンドに本第1発明(第1実施形態)を適用し、第4、5スタンドの潤滑を第2の圧延油供給系統により行った。圧延油の基油を牛脂(40℃の粘度45cSt)とし、乳化分散剤としてカチオン系界面活性剤を用いた。第2の圧延油供給系統のエマルションのクーラント温度は、循環式圧延油供給系統と同じ60℃とした。また、第2の圧延油供給系統のエマルション濃度は10%とし、エマルション粒径は、界面活性剤の対油濃度を循環式圧延油供給系統のエマルションよりも低い0.1%として平均粒径を20μmに調整した。また、第2の圧延油供給系統のエマルション供給量を、第4スタンドで100L/min、第5スタンドで130L/minとした。また、他スタンドの潤滑および全スタンドの冷却は、従来通り循環式圧延油供給系統を用いた。循環式圧延油供給系統のエマルション濃度を3.5%、界面活性剤の対油濃度を0.6%、平均粒径を10μmとした。
【0097】
また、本発明の比較として、第4、5スタンドの潤滑を従来通り循環式圧延油供給系統で行う場合のエマルション供給量を、第4スタンドで2500L/min、第5スタンドで4000L/minとした。
【0098】
以上のような圧延油供給を行って、速度を変更しつつ圧延を行い、チャタリングの発生およびヒートスクラッチ疵の発生状況を調査した。対象材は、仕上厚0.2t以下の硬質ブリキ材および軟質ブリキ材の2種類とした。各々の調査結果を以下の表1、表2に示す。
【0099】
(1)対象材1の鋼種は、硬質ブリキ原板であり、その寸法は、母材質1.8mm、仕上げ厚0.18mm、板幅900mmである。
【0100】
表1に示すように、本第1発明を用いると、チャタリングもヒートスクラッチ疵も未発生のまま2100mpmまで加速できた。一方、従来方式では1500mpmでチャタリングが発生し、それ以上の加速は不可能であった。
【0101】
図15、図16に、それぞれ圧延速度と圧延材の鋼板付着油量および、圧延速度と第5スタンドの摩擦係数の関係を本発明による方法と従来方式とを比較して示した。なお、鋼板付着油量は、溶剤抽出法により上下面について各々求めたものの平均値である。
【0102】
従来方式では、800mpm以上の高速域で鋼板付着油量が大きく減少していたのに対し、本発明では高速域においても安定した鋼板付着油量が得られている。また、これに対応し、第5スタンドの摩擦係数の上昇が抑制され、高速域でも安定した摩擦係数が得られており、潤滑不足が解消されているのがわかる。
【0103】
本試験結果が示すように、対象材1を圧延する場合に、第5スタンドの潤滑を従来通り循環式圧延油供給方法で行うと、潤滑不足に起因したチャタリングの発生により圧延速度は1500mpmが限界となり、高速圧延が阻害されていた。これに対し、本第1発明を用いることにより、高速域における潤滑不足を解消できるため、チャタリングの発生を未然に防止でき、2100mpmの高速圧延が可能となる。図17は、従来通りの循環式圧延油供給系統および本第1発明を用いたときの、対象材1を圧延する場合の平均速度の分布を示すものであるが、本第1発明により、平均速度は1350mpmから1700mpmに改善された。
【0104】
【表1】
【0105】
(2)対象材2の鋼種は、軟質ブリキ原板であり、その寸法は、母材厚2.3mm、仕上げ厚0.20mm、板幅1000mmである。
【0106】
対象材2は、対象材1よりも軟質であるが、冷圧率が高いため、従来方式では特に、第5スタンドでのヒートスクラッチ疵の発生頻度が高かった。
【0107】
表2に示すように、本第1発明を用いると、ヒートスクラッチ疵未発生のまま2100mpmまで加速できた。一方、従来方式の場合、1700mpmで軽度のヒートスクラッチ疵が発生し、それ以上の高速域では、顕著なヒートスクラッチ疵が発生した。
【0108】
図18、図19に、それぞれ圧延速度と圧延材の鋼板付着油量および、圧延速度と第5スタンドの摩擦係数の関係を本発明による方法と従来方式とを比較して示した。従来方式では、高速域で鋼板付着量が大きく減少していたのに対し、本発明では高速域においても安定した鋼板付着油量が得られている。また、これに対応し、第5スタンドの摩擦係数の上昇が抑制され、高速域でも安定した摩擦係数が得られており、潤滑の不足が解消されているのがわかる。
【0109】
図20に、圧延速度と第5スタンド出側の鋼板温度の関係を示す。従来方式では、速度とともに温度上昇が大きく、1700mpm以上で170℃を越え、ヒートスクラッチ疵が発生した。一方、本第1発明によると、温度上昇が抑制されヒートスクラッチ疵の発生がなくなっている。この理由は、本第1発明によると高速圧延域での摩擦係数の上昇を抑制できるため、摩擦発熱が低減し、結果として第5スタンド出側の鋼板温度が低下するためである。
【0110】
本試験結果が示すように、対象材2を圧延する場合に、第4,5スタンドの潤滑を従来通り潤滑式圧延油供給方法で行う場合、ヒートスクラッチ疵の発生により圧延速度は1700mpmが限界となり、高速圧延が阻害されていた。しかし、本第1発明を用いることにより、高速域における潤滑不足が解消されるため、ヒートスクラッチ疵の発生を防止でき2100mpmの高速圧延が可能となる。図21は、従来通りの循環式圧延油供給系統と本第1発明を用いた時の、対象材2を圧延する時の平均速度の分布を示すものであるが、本第1発明を用いることにより、平均速度は1550mpmから1900mpmに改善された。
【0111】
【表2】
【0112】
[実施例2]全5スタンドのタンデム圧延機の第4,5スタンドに本第1発明を適用し、第4,5スタンドの潤滑を第2の圧延油供給系統で行う場合に、循環式圧延油供給系統の油分ロス量および水分の補給を本第2発明(実施形態2)により行なった。圧延油の基油を牛脂(40℃の粘度45cSt)とし、乳化分散剤としてカチオン系界面活性剤を用いた。本発明による第2の圧延油供給系統のエマルションの濃度を10%、界面活性剤の対油濃度を、循環式圧延油供給系統のエマルションよりも低い0.1%とし、平均粒径を20μmに調整した。また、循環式圧延油供給系統のエマルションの濃度を3%、界面活性剤の対油濃度を0.6%、平均粒径を9μmとした。なお、エマルションの温度はいずれも同一とし、60℃とした。
【0113】
表3に、対象圧延材を、母材厚1.8〜2.0mm、仕上げ厚0.16〜0.20mm、板幅800〜1200mmの薄物ブリキ原板としたときの、圧延油原単位を本発明による方法と従来方法とを比較して示した。なお、この時の第2の圧延油供給系統からのエマルション供給量は、仕上厚に応じて調整し、仕上厚0.16〜0.20mmの場合、第4スタンドおよび第5スタンドの供給量を、各々100L/min、130L/minとし、仕上厚0.20〜0.25mmの場合、各々5L/min、15L/minとした。一方、従来方式での潤滑としてスプレーされるエマルションの供給量は、第4スタンドで3000L/min、第5スタンドで4000L/minとした。
【0114】
本第2発明によると、圧延油原単位を従来方式(循環方式)よりも低くすることができた。これは、本発明により第2の圧延油供給系統のエマルションを、循環式圧延油供給系統の油分ロスの補充油として有効に利用できる効果と、エマルションの供給量を従来方式よりも少なくできるため、ヒューム等による油分ロス量を従来方式よりも低減できる効果による。
【0115】
【表3】
【0116】
【発明の効果】
以上説明したように本第1発明によれば、付着効率の高い平均粒径20μm以上のエマルションを、圧延スタンド入側の鋼板上面および下面に供給することにより、高速圧延域においても上下面の鋼板付着油量を大幅に向上できる。これにより、仕上板厚0.2mm以下の薄物材を圧延する場合に、従来方式で高速圧延時に発生していた潤滑不足が解消され、チャタリングおよびヒートスクラッチ疵の発生を未然に防止できる。これに伴い、圧延速度を向上できるため、生産性を大幅に向上できる。さらに、本第1発明によれば、循環式圧延油供給系統のエマルションの乳化分散安定性が確保されるため、安定な操業が可能となる。
【0117】
また、本第2発明によれば、第2の圧延油供給系統のエマルションが、循環式圧延油供給系統の補充油としても利用でき、圧延油の原単位を従来の循環式圧延油供給方式よりも低くすることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第1実施形態に関わるタンデム圧延機への適用例を示す図。
【図2】本発明の第2実施形態に関わるタンデム圧延機への適用例を示す図。
【図3】界面活性剤の対油濃度とエマルションの平均粒径との関係を示す図で、( a)は界面活性剤がカチオン系分散剤で、圧延油が牛脂の場合、(b) は界面活性剤がノニオン系乳化剤で、圧延油が合成エステル系圧延油の場合を示す。
【図4】エマルションの平均粒径と付着効率の関係を示す図。
【図5】エマルションの濃度と付着効率の関係を示す図。
【図6】エマルションの温度と付着効率の関係を示す図。
【図7】エマルション供給量ωτとプレートアウト量の関係を示す図。
【図8】循環式圧延油供給系統と第2の圧延油供給系統の圧延材の鋼板付着量の比較図。
【図9】第2の圧延油供給系統使用時と未使用時の循環式圧延油供給系統のエマルション粒径分布の比較を示す図。
【図10】循環系統タンクへの界面活性剤量の補充および付加的攪拌方法の1例を示す図。
【図11】循環系統タンクへの界面活性剤量の補充および付加的攪拌方法の他の例を示す図。
【図12】第2の圧延油供給系統より循環系統タンクへの補充方法の1例を示す図。
【図13】第2の圧延油供給系統より循環系統タンクへの補充方法の他の例を示す図。
【図14】計算装置における計算フローを示す図。
【図15】本発明と従来方式の圧延材の鋼板付着油量の比較(対象材1)を示す図。
【図16】本発明と従来方式の第5スタンドの摩擦係数の比較(対象材1)を示す図。
【図17】本発明と従来方式の圧延速度分布の比較( 対象材1)を示す図。
【図18】本発明と従来方式の圧延材の鋼板付着油量の比較(対象材2)を示す図。
【図19】本発明と従来方式の第5スタンドの摩擦係数の比較(対象材2)を示す図。
【図20】本発明と従来方式の第5スタンド出側の鋼板温度の比較(対象材2)を示す図。
【図21】本発明と従来方式の圧延速度分布の比較( 対象材2)を示す図。
【図22】本発明の実施形態に関わるタンデム圧延機への適用例で、第2の供給系エマルションの供給位置をロールバイトの上流側にした例を示す図。
【符号の説明】
1…貯蔵タンク、2…タンク、3…タンク、4…タンク、5a,5b,5c…供給ポンプ、6a,6b,6c,6d…流量調整弁、7…攪拌器、8a,8b…ポンプ、9a,9b…圧延油供給ライン、10a,10b…ヘッダー、11…圧延油送給ライン、12a,12b…流量制御弁、13a,13b…循環系統タンク、14a,14b…ポンプ、15a,15b…圧延油供給ライン、16…攪拌用ポンプ,17a,17b…回収用オイルパン、18…攪拌器、19a,19b…ヘッダー、20…冷却用エマルション供給系統、21…ストリップ、22…ワークロール、23…バックアップロール、24a,24b…計算装置、25…流量計、26a,26b…流量制御弁、27…攪拌セクション、28…ポンプ、29…流量調整弁、30a,30b…戻りライン、31…流量制御弁、32…配管、33…流量調整弁、34…攪拌用ポンプ、35…配管、36…流量調整弁、37…流量調整弁、38…配管、39…流量調整弁、40…配管、41…ポンプ、42…補充用タンク、43a,43b,43c…配管、44a,44b,44c…流量調整弁、45…アジテータ、46…補充用ポンプ、47…配管、48…オイルパン。
Claims (5)
- 冷間圧延におけるエマルション圧延油を 循環式に供給する第1の圧延油供給系統と、エマルショ ン圧延油を鋼板上面および下面に供給する第2の圧延油 供給系統を設け、第2の圧延油供給系統から、鋼板上下 面に、第1の圧延油供給系統のエマルションと同一種類 でかつ第1の圧延油供給系統よりも低い対油濃度の界面 活性剤を添加し、更に、第1の圧延油供給系統のエマル ションより大きな平均粒径となるように調整したエマル ションを供給する工程と、この工程で鋼板に付着しなか ったエマルションを回収し、第1の圧延油供給系統での 界面活性剤の対油濃度と同一となるように界面活性剤を 投入し、機械的攪拌を加えた後、第1の圧延油供給系統 のエマルションに合流させる工程とを備えた冷間圧延機 における圧延油供給方法であって、
第2の圧延油供給系統から第1の圧延油供給系統のタンクへ混入する圧延油分量が、第1の圧延油供給系統の油分ロス量よりも多い場合、第1の圧延油供給系統のタンクへ希釈水を補充して、第1の圧延油供給系統の濃度が一定となるようにする工程と、第2の圧延油供給系統から第1の圧延油供給系統のタンクへ混入する圧延油分量が、第1の圧延油供給系統の油分ロス量よりも少ない場合、第2の圧延油供給系統のエマルションを第1の圧延油供給系統に合流させる工程で、界面活性剤の対油濃度を第1の圧延油供給系統のエマルションと同一となるように追添加して調整したエマルションを第1の圧延油供給系統のタンクへ補充するとともに、希釈水を補充する工程と、を備えたことを特徴とする冷間圧延機における圧延油供給方法。 - 冷間圧延におけるエマルション圧延油を 循環式に供給する第1の圧延油供給系統と、エマルショ ン圧延油を鋼板上面および下面に供給する第2の圧延油 供給系統を設け、第2の圧延油供給系統から、鋼板上下 面に、第1の圧延油供給系統のエマルションと同一種類 でかつ第1の圧延油供給系統よりも低い対油濃度の界面 活性剤を添加し、更に、第1の圧延油供給系統のエマル ションより大きな平均粒径となるように調整したエマル ションを供給する工程と、この工程で鋼板に付着しなか ったエマルションを回収し、第1の圧延油供給系統での 界面活性剤の対油濃度と同一となるように界面活性剤を 投入し、機械的攪拌を加 えた後、第1の圧延油供給系統 のエマルションに合流させる工程とを備えた冷間圧延機 における圧延油供給方法であって、第2の圧延油供給系統のエマルションを第1の圧延油供給系統のエマルションに合流させる工程は、第2の圧延油供給系統のエマルションを循環式圧延油供給系統のタンク内に補充したあとで界面活性剤を追添加し、タンク内のアジテータの回転数を増すことによりエマルションに強攪拌、およびせん断を加える工程を備えていることを特徴とする冷間圧延機における圧延油供給方法。
- 冷間圧延におけるエマルション圧延油を 循環式に供給する第1の圧延油供給系統と、エマルショ ン圧延油を鋼板上面および下面に供給する第2の圧延油 供給系統を設け、第2の圧延油供給系統から、鋼板上下 面に、第1の圧延油供給系統のエマルションと同一種類 でかつ第1の圧延油供給系統よりも低い対油濃度の界面 活性剤を添加し、更に、第1の圧延油供給系統のエマル ションより大きな平均粒径となるように調整したエマル ションを供給する工程と、この工程で鋼板に付着しなか ったエマルションを回収し、第1の圧延油供給系統での 界面活性剤の対油濃度と同一となるように界面活性剤を 投入し、機械的攪拌を加えた後、第1の圧延油供給系統 のエマルションに合流させる工程とを備えた冷間圧延機 における圧延油供給方法であって、第2の圧延油供給系統のエマルションを第1の圧延油供給系統のエマルションに合流させる工程は、第2の圧延油供給系統のタンクから循環式圧延油供給系統のタンクへの送り配管の途中で界面活性剤を追添加したのち、供給ポンプを通過させることにより、エマルションにせん断を加える工程を備えていることを特徴とする冷間圧延機における圧延油供給方法。
- 冷間圧延におけるエマルション圧延油を 循環式に供給する第1の圧延油供給系統と、エマルショ ン圧延油を鋼板上面および下面に供給する第2の圧延油 供給系統を設け、第2の圧延油供給系統から、鋼板上下 面に、第1の圧延油供給系統のエマルションと同一種類 でかつ第1の圧延油供給系統よりも低い対油濃度の界面 活性剤を添加し、更に、第1の圧延油供給系統のエマル ションより大きな平均粒径となるように調整したエマル ションを供給する工程と、この工程で鋼板に付着しなか ったエマルションを回収し、第1の圧延油供給系統での 界面活性剤の対油濃度と同一となるように界面活性剤を 投入し、機械的攪拌を加えた後、第1の圧延油供給系統 のエマルションに合流させる工程とを備えた冷間圧延機 における圧延油供給方法であって、第2の圧延油供給系統のエマルションを第1の圧延油供給系統のエマルションに合流させる工程は、第2の圧延油供給系統のタンクとは別に、界面活性剤量を調整するためのバッファータンクを設け、その中で界面活性剤を追添加し、アジテータを設けてエマルションに攪拌およびせん断を加える工程を備えていることを特徴とする記載の冷間圧延機における圧延油供給方法。
- 冷間圧延におけるエマルション圧延油を 循環式に供給する第1の圧延油供給系統と、エマルショ ン圧延油を鋼板上面および下面に供給する第2の圧延油 供給系統を設け、第2の圧延油供給系統から、鋼板上下 面に、第1の圧延油供給系統のエマルションと同一種類 でかつ第1の圧延油供給系統よりも低い対油濃度の界面 活性剤を添加し、更に、第1の圧延油供給系統のエマル ションより大きな平均粒径となるように調整したエマル ションを供給する工程と、この工程で鋼板に付着しなか ったエマルションを回収し、第1の圧延油供給系統での 界面活性剤の対油濃度と同一となるように界面活性剤を 投入し、機械的攪拌を加えた後、第1の圧延油供給系統 のエマルションに合流させる工程とを備えた冷間圧延機 における圧延油供給方法であって、第2の圧延油供給系統のエマルションを第1の圧延油供給系統のエマルションに合流させる工程は、第2の圧延油供給系統のタンクとは別に、循環式圧延油供給系統のエマルションと同一の対油濃度の界面活性剤を添加した補充用エマルションの貯蔵タンクを設ける工程を備えていることを特徴とする記載の冷間圧延機における圧延油供給方法。
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