JP3949834B2 - 薄鋼板の冷間圧延方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、水中油型エマルション油を冷間圧延油として使用し、回収して再度使用する(以下、循環使用と記す)薄鋼板の冷間圧延方法において、高い表面品質が要求される薄鋼板の高能率圧延が可能な冷間圧延方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
一般に、普通鋼の薄鋼板を冷間圧延する際に圧延油として使用される水中油型エマルション油は、水中に油の粒子を乳化剤の助けを借りて分散させたもの(以下、単にエマルション油と記す)である。エマルション油を使用するのは、圧延時の潤滑と圧延後の鋼板の表面品質を確保するためである。
【0003】
しかし、エマルション油を使用する際には以下のような問題が生じる。
【0004】
(1)潤滑性や鋼板の表面品質は、エマルション油中の油粒子の大きさ(以後、単に粒径と記す)および濃度の均一度により大きく影響される。しかし、エマルション油タンクは数十キロリットルから200キロリットルと大きく、このタンク内のエマルション油中の油粒子の大きさを均一化し、かつ均一に分散させることは容易ではなく、また長時間を要する。
【0005】
また、このエマルション油はもともと不安定な系であるため、循環使用中に圧延材等の摩耗粉の混入および機械油や油圧油等の異種油の混入等により経時的に性状が変化し易い。
【0006】
具体的には、エマルション油は循環使用されるが、そのため被圧延材等の摩耗粉がエマルション油中の油粒子に取り込まれ、油粒子の粘性が高まる。そのため、鋼板やロールへの油分付着が増し潤滑性が増す。しかし、摩耗粉量が増加すと粘凋なスカムとなり、部分的に付着量が過多となり、圧延中にスリップやチャタマークが生じたり油模様等に起因する光沢むらが発生する。チャタマークは、チャタリングにより生じる鋼板の幅方向に縞模様となる表面欠陥で、特にステンレス鋼板の圧延で総圧下率が50%を超え、しかも高速圧延の場合に発生し易い。
【0007】
(2)機械油や油圧油等の乳化していない潤滑性の低い異種油が混入した際には、比較例粒子径が大きなエマルション油の場合は、異種油を取り込んで一層大きな粒子径となり、乳化状態が一層不安定となる。その結果、スリップや油模様が発生することになる。乳化剤を多く含んだ細粒の油粒子の場合は、油粒径の変化は少ないが、過剰な乳化剤の作用で異種油を乳化させて潤滑性の低い成分が入り込むため焼付きが発生する。
機械油や油圧油等の混入はシール性の強化や管理強化で防止できるが、摩耗粉の混入は圧延上不可避である。したがって、摩耗粉の混入に対して安定なエマルション油とすることが重要である。
【0008】
(3)油粒子の粒度分布を定常値にした使用中のエマルション油中に、濃度調整、液面レベル調整のために新液として圧延油原液と水を補給する際に、新液の油粒子の粒度分布が使用液と一致していないと圧延中にスリップや焼き付きを引き起こすことが多い。
【0009】
例えば、圧延油原液と水とを別々にタンクに投入すると当然濃度むらが生じ、またエマルションとなった油粒子も大きい。このため、濃度調整、液面レベル調整のために新液が補給される際には圧延速度を低下させて圧延するか、油粒子粒の分布が定常値になるまで一時的に圧延を中止する等の対策がとられていた。すなわち、圧延を中止して、エマルション油を循環させて、圧延機入り側のノズルからの噴射により油の粒子を小さくするのである。特に、光沢性を高めるために油粒子を粒径の安定した状態とするのにある程度の時間を要する。したがって、使用中のエマルション油に新液を補給する場合、できるだけ短時間で補給前のエマルション油の粒子径と同じになるように調整することが要求される。
【0010】
特開昭60−120799号公報には、渦巻ポンプ、ラインミキサー、スタティックミキサーを用いることにより、油に充分なせん断力を与えて細かい油粒子のエマルション油を形成することのできる圧延油のプレミキシング方法が開示されている。しかし、この方法を実施するには、種々の装置が必要となり、設備費が嵩む。
【0011】
特開平3−99717には、高頻度の高剪断によって油脂滴を細粒化、かつ粒度を均一化する圧延油油脂粒調整方法開が示されている。しかし、この方法においても高頻度剪断機なる装置が必要でかつ、一旦大きな油粒子となったものをさらにその装置で細粒化する方法は非効率で処理に時間を要する。
【0012】
(4)油粒子が均一に分布したエマルション油を得るのは上記したように困難であり、また経時的に変化が生じるので、高光沢が要求されるステンレス鋼板の冷間圧延には、エマルション油を使用することができなかった。
【0013】
したがって、高光沢が要求されるステンレス鋼板の冷間圧延には、鉱油を主成分としたニート油が主に使用されていた。ところが、ニート油では潤滑性不足が生じたり、着火事故防止のために400mpmを超える高速での圧延ができない等の問題があった。
【0014】
しかし、近年、生産性を向上させるため、ロール径が大きいタンデムミルでの高光沢圧延が試みられるようになり、特開平4−118101号および特開平5−78690号各公報には、高粘度で細粒径のエマルション油を用いる圧延方法が開示されている。しかし、圧延能率は向上するものの、未だ充分な表面光沢が得られておらず、また圧延機の定期補修後等で圧延が長時間停止した後の圧延開始時や圧延油の補給時には油粒子の粒径が変化し、油模様による光沢のむらが生じ、従来のニート油を用いて圧延した場合と同様の高光沢度を得ることができない。
【0015】
また、普通鋼のブライト材の圧延では、比較的高粘度でかつ乳化し難い平均粒径の大きなエマルション油が使用されている。そのため、ステンレス鋼板の圧延と同様に圧延が長時間停止した後の圧延開始時や圧延油の補給時に油粒子粒径や濃度が不安定となり、スリップ、焼付きや光沢むらが発生する等の問題があった。
【0016】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記問題点を解消するためになされたもので、下記の冷間圧延方法を提供することを課題とする。
【0017】
▲1▼エマルション油の更新や新液の補給に要する時間を短縮した生産効率のよい冷間圧延方法。
【0018】
▲2▼高速圧延しても、圧延中に焼き付き、チャタリングや光沢むらが発生しない冷間圧延方法。
【0019】
【課題を解決するための手段】
本発明の要旨は下記の通りである。
【0020】
(1)冷間圧延油として水中型エマルション油を用いて薄鋼板を冷間圧延する方法において、断面積が20mm2以下の一つ以上の開口部を備えたノズルから乳化剤を含む圧延油原液を、圧延機入り側に水中エマルション油を供給するためのタンク内の水中型エマルション油中、タンクから圧延機までの供給配管内の水中型エマルション油中およびタンクへの水供給管内の水中のうちの少なくとも1液体中に流速1〜50m/秒で圧入して圧延油原液を補給しながら冷間圧延する薄鋼板の冷間圧延方法。
【0021】
(2)タンク内の水中型エマルション油を調整するに際し、タンク内に水を供給して、その水中に断面積が20mm2以下の一つ以上の開口部を備えたノズルから乳化剤を含む圧延油原液を、流速1〜50m/秒で圧入する上記(1)記載の薄鋼板の冷間圧延方法。
【0022】
(3)圧延油原液成分中の乳化剤として、ノニオン系乳化剤とアニオン系乳化剤を含み、乳化剤の総量が5〜25%である圧延油原液を使用する上記(1)または(2)に記載の薄鋼板の冷間圧延方法。
【0023】
ここで、圧延油原油とは、油が100%の原油以外に、エマルション油として使用する濃度を超える濃度に予め水で希釈したエマルション油も含むものとする。
【0024】
本発明者らは、圧延油原液から所定の油粒子径で均一に分散したエマルション油へ短時間に調整し、新液の補充を迅速におこなうことにより冷間圧延効率を高めると共に、圧延時に焼き付きチャタリングおよび光沢むら等を発生させない圧延方法を開発するため種々実験、検討した。その結果、下記の知見を得て本発明を完成するに至った。
【0025】
a)焼き付き、チャタリング、スリップおよび光沢むらの発生は、エマルション油中の油粒子の粒度分布範囲が大きい(小径粒から大粒径の分布範囲が広い)と生じ易い。すなわち、粒度分布が大きいとエマルション油への摩耗粉や異種油の混入時に油粒子径が変化し易く、潤滑性が不安定となるからである。
【0026】
b)したがって、エマルション油の油粒子の粒度分布範囲を小さくするのがよい。
【0027】
c)油粒子の粒度分布範囲の小さいエマルション油は、断面積が20mm2以下の一つ以上の開口部を備えたノズルから圧延油原液を水中またはエマルション油中に流速1〜50m/秒で圧入することにより得られる。
【0028】
d)この方法では、圧入時に圧延油原液に剪断力が働き均一に乳化、分散され、かつ粒径がその際の流速で決定されるので、エマルション油の調整、および使用中のマルション油の油粒径と同じ粒径のエマルション油の補給が短時間で可能になる。
【0029】
e)圧延油原液に添加されている乳化剤には、ノニオン系乳化剤とアニオン系乳化剤を含み、乳化剤の総量が5〜25重量%と 比較的多くすることにより安定で均質なエマルション油が得られる。
【0030】
【発明の実施の形態】
図1は、本発明の冷間圧延方法を実施するのに用いる装置の概略図である。
【0031】
タンク1内のエマルション油2は、供給管7、送液ポンプ12cを介して圧延機9の入り側に設けたノズル8に供給され圧延時の潤滑油として使用される。使用後のエマルション油は、回収器10により回収されてタンク1に戻される。
【0032】
本発明の方法における圧延油原液の補給は、タンク1内の水中型エマルション油2中、タンクから圧延機までの供給配管7内の水中型エマルション油中およびタンクへの水供給管内3の水中のうちの少なくとも一つの液体中に、断面積が20mm2以下の一つ以上の開口部を備えたノズル(4a、4b、4c)から乳化剤を含む圧延油原液を、流速1〜50m/秒で圧入しておこなう。
【0033】
なお、更新時等の最初のタンク内のエマルション油の形成方法は、特に限定するものではないが、タンク内に水のみを供給し、次いでその水中に浸漬したノズル4aから圧延油原液を圧延入する方法が、目標の油粒径と濃度に短時間で調整ができるので好ましい。
【0034】
以下、本発明の冷間圧延方法において規定した各条件について説明する。
【0035】
(1)断面積が20mm2以下の一つ以上の開口部を備えたノズル
圧延油原液が開口部を通して液体中に圧入された際、圧延油原液にかかる剪断力により水中油型のエマルション油が形成される。圧延油原液の液送ポンプの流量あるいは圧力を一定にすれば均質な油粒子が得られる。
【0036】
開口部の断面積を20mm2以下としたのは、開口部の断面積が20mm2を超えると油粒子の粒度分布の範囲が広くなり、エマルション油の経時変化を防止する効果が得られないためである。
【0037】
開口部の断面積の下限は限定するものではないが、0.1mm2未満の場合は油粒子の粒径が小さくなり過ぎ能率が低下すると共に潤滑性も低下し、また開口部が詰まり易くなるので0.1mm2以上とするのが好ましい。
【0038】
また、ノズルの開口部は円形や楕円あるいは幅(W)と長さ(L)の比(L/W)が1〜50程度のスリット状であってもよい。さらに、開口部は1つに限らず、複数個の方が効率的であるので、エマルション油の調製量により決めればよい。
【0039】
(2)ノズルからの圧延油原液の流速
ノズルの開口部を通過する圧延油原液の流速が1m/秒未満の場合は、エマルションの粒径分布の範囲が広くなり、エマルション油の経時変化を防止する効果が得られない。
【0040】
一方、圧延油原液の流速が50m/秒を超えると粒径が細粒になり過ぎ、潤滑性が不足し、焼付き疵が発生し易くなるため高速圧延ができなるので、上限を50m/秒とした。
【0041】
なお、本発明の方法ではエマルション油の濃度(体積比)は40%の高濃度まで調整可能であるが、実際の冷間圧延では25体積%を超えると光沢むらやスリップが発生し易くなる。一方0.5体積%未満では焼付きが発生し易くなり、高速圧延ができなくなるので0.5〜25%の範囲内とするのが好ましく、より好ましい範囲は1〜20体積%である。
【0042】
また、圧延油原液は、前記したように油100%のものでなくてもよく、予め水を混入してエマルション化したものでもよい。濃度は、実際に使用するエマルション油の濃度以上であればよく、好ましいのは2%以上である。なお、濃度が50%以上になると油中水型のクリーム状のエマルションとなり、極めて高粘度となるため、ノズルから圧入するための液送ポンプの能力を高める必要が生じる。しかし、圧入後のエマルションは、粘性の高いクリーム状の微細粒子が水中に分散した状態となって付着性の強い均質なエマルションとなるため、潤滑性が要求される圧延には好適である。逆に、濃度が45%以下になると粘性が極めて低くなり、圧入用の液送ポンプの能力を下げることができる。また、既に油はあるは程度の小さな粒子になっているので、小さな圧入流速であっても安定で均質なエマルションとすることができる。
【0043】
(3)圧延油原液を、タンク内の水中型エマルション油中、タンクから圧延機までの供給配管内の水中型エマルション油中およびタンクへの水供給管内の水中のうちの少なくとも一つの液体中に圧入する。
【0044】
圧延原液のノズルからの供給は、タンク内のエマルション油2中、タンクから圧延機までの供給配管7内のエマルション油中および水供給管3内の水中のうちの少なくとも一つの液体中に圧入することによりおこなう。タンク内のエマルション油中に圧入する場合は、ノズルをエマルション油に浸漬するのみでよいので簡単である。供給管3、7中の液体中にも圧入すると供給がより短時間におこなうことができる。
(4)乳化剤
原液中の乳化剤は、圧延油原液をエマルション化するのに必要であり、乳化剤の種類や総量を規定したのは以下の理由による。
【0045】
ノニオン系乳化剤は細粒径化するが摩耗粉の混入に対して影響を受け易く、粒径を粗大化させる作用がある一方、アニオン系乳化剤は摩耗粉の混入に対して影響を受け難いが、粒径を細粒径化するには多量(20体積%以上)の添加が必要であり、また、アニオン系乳化剤はそれ自身の潤滑性が極めて低いため、これだけ多量に使用すると圧延油としての潤滑性が不足してくる。
【0046】
ノニオン系乳化剤とアニオン系乳化剤を併せて使用すると、乳化剤としての添加総量が5〜25体積%の範囲で粒度分布範囲が狭くなり、摩耗粉や異種油の混入に対して変化の少ないエマルション油とすることができる。
【0047】
ここで、乳化剤の添加総量が5体積%未満では圧延油原液が開口部を通過し、水中に圧入される際の剪断力で一時的に均一な油粒子となるが、乳化剤の絶対量が少ないため、経時的に油粒子の合体が進み粗大粒化し、光沢むらやスリップの発生原因となる。また、25体積%を超えると、油粒が細粒になり過ぎるだけでなく、潤滑性が低下し、焼き付きが発生する。
【0048】
なお、エマルション油中の油粒子径は、平均粒径を3μm以下とすると、極めて安定なエマルション油となり、光沢性が要求されるステンレス鋼板の圧延に最適な性状となる。一方、平均粒径が10μmを超えるとタンク内で水と油粒子とが分離し易くなり、油粒子が浮上し易くなる。
【0049】
本発明の方法では、エマルションとして使用する圧延油を用いるものであり、圧延油原液の粘度、組成に影響されない。したがって、広範囲の粘度および組成の圧延油に適用できる。例えば、ベース油は鉱油、合成エステル、油脂にかかわらない。粘度は40℃において5cSt程度の低粘度から、500cSt程度の高粘度までエマルションとして使用される圧延油であれば鹸化価や酸価についても同様に制約されない。
【0050】
圧延する鋼板はステンレス板に限らず、低炭素鋼板、高炭素鋼板、珪素鋼板等にも適用すると効果がある。ステンレス鋼板の鋼種は限定されないが、優れた光沢性が要求されるフェライト系ステンレス鋼に好適である。
【0051】
なお、油粒子の粒度分布は電気抵抗方式のコールターカウンタやレーザ散乱光測定方法等で求めることができる。
【0052】
【実施例】
以下、実施例により、本発明の効果について詳しく説明する。
【0053】
(実施例1)
まず、図1に示す装置(ただし、ノズル4bと4cは設けず)を用いて、容量が400リットルのタンク内に水を張り、その中に圧延油原液を入れてエマルション油を形成(メイクアップ)した。
表1に示す組成と性状の圧延油原液を用い、表2に示す条件で表3に示す1〜30体積%の濃度範囲内のエマルション油を調製した。
【0054】
なお、表1の圧延油No.▲1▼〜▲4▼は、ステンレス鋼板用で、▲5▼〜▲8▼は普通鋼板用であり、▲4▼および▲7▼は兼用型である。
【0055】
【表1】
【0056】
【表2】
【0057】
本発明例では、最大圧力25kgf/cm2のポンプで、表2に示す各種の開口部を有するノズルを水を張ったタンク内に取り付けてエマルション油が各濃度になるまで圧延油原液を圧入した。また、濃度を均一にするため、タンク内の水は500rpmのプロペラ式撹拌機で撹拌した。
【0058】
圧入が終了した時点で、圧延時と同様の吐出量が70リットル/分で圧力が最大5kgf/cm2のポンプで圧延機に供給し、圧延機入り側で圧力5kgf/cm2時の8リットル/分のノズル12本からスプレー噴射して使用し、その後タンクへと回収した。
【0059】
一方、従来方法として、水を張ったタンク内に所定濃度量の圧延油原液を供給管から低圧で流し込み、500rpmのプロペラ式撹拌機で撹拌しながら、上記と同じ条件で圧延機入り側への供給をおこないノズルから噴射して、ポンプおよびノズル通過時の剪断力で油粒子径を調整した。なお、表の従来例No.1は配管1本から、No.2は配管2本から圧延油原液を流し込んだ。
【0060】
タンク内の水の中に圧延油原液を入れ始めてから表3に示す各エマルション油の濃度になるまでの時間を測定し、表2に循環開始までに要した時間として示した。
【0061】
エマルション油の循環を開始後の表3に示す時間毎に、エマルション粒径を測定し、平均粒径を求めた。また、循環後40分経過したエマルション油については粒度分布を求めた。その結果を表3に示す。
【0062】
【表3】
【0063】
表3の粒度分布度を示す記号は、下記式により求めた粒度分布度(R)の範囲を示す。
【0064】
R=(平均粒径の50〜200%の範囲に入る粒径の積算体積/粒子全体の積算体積)×100
◎: R>80%(分布範囲が極めて狭い)
○:80%≧R>70%(分布範囲が狭い)
△:70%≧R≧65%(分布範囲がやや狭い)
×: R<65%(布範囲広い)
表3から明らかなように、所定の開口部を有するノズルを使用して圧延油原液を水中に圧入する本発明の方法では、循環開始時に油粒子の平均粒径がほぼ目的とする小さい状態となっており、循環開始から20分以内に安定した平均粒径となった。
【0065】
一方、従来例では少なくとも60分以上の間循環させて細粒にする必要があった。また、本発明で規定する範囲から外れる比較例では、従来例と同様に60分以上循環させなければ細粒にならなかった。また、循環時間20分以内に細粒になる場合でも粒径の分布幅が広く安定した粒径が得られなかった。また、平均粒径が極めて小さくなかった。
【0066】
(実施例2)
次に、平均粒径およひ粒径分布の異なるエマルション油を用いて、ステンレス鋼板と普通鋼板とを圧延し、圧延後の鋼板表面性状を調べた。
【0067】
表3に示すメイクアップ40分後のエマルション油を用いて、本発明例のNo.1〜6までと比較例のNo.3、5については、次に示すステンレス鋼板の圧延をおこない、本発明例 のNo.7〜11までと従来および比較例の1、2、4および5については、後に示す普通鋼板の圧延を実施した。
【0068】
ステンレス鋼板の圧延は、直径が100mm、表面粗さがRa0.13μmの材質SKD11のワークロールとバックアップロールの直径が350mmの4Hi圧延機により、厚さ:3.2mm、幅:100mm、長さ:300mのSUS430ステンレス鋼板の熱延後焼鈍酸洗材を、表4に示す圧延条件で9パスの圧延を実施した。
【0069】
【表4】
【0070】
普通鋼板の圧延は、直径が350mm、表面粗さがRa0.25μmの材質SUJ−2の2Hi圧延機により、厚さ:3.2mm、幅:100mm、長さ:300mのSPHC低炭素鋼板の熱延後酸洗材を、表5に示す圧延条件で5パスの圧延を実施した。
【0071】
【表5】
【0072】
表面性状の測定はステンレス鋼板圧延材の場合について、表面の鏡面光沢度(JIS Z 8741に規定するGs60゜)を測定した。
【0073】
また、光沢むら、焼付、スリップ、チャタマークの発生の程度は、ステンレス鋼板および普通鋼板圧延材の両方とも目視判定により評価した。その結果を表6に示した。なお、光沢むら、焼付き、スリップ、チャタマークの発生度の評価基準は以下の通りとした。
【0074】
[光沢むら]
○:なし、 □:僅か、△軽度、▲:顕著
[焼付発生程度]
○:なし、 □:僅か、△軽度、▲:顕著
[スリップの発生程度]
○:なし、 □:僅か、△軽度、▲:顕著
[チャタマークの発生程度]
○:なし、 □:僅か、△軽度、▲:顕著
なお、すべて「軽度」は品質が許容される下限で、顕著は製品に適さない程度である。
【0075】
【表6】
【0076】
表6から明らかなように、本発明例ではすべての評価において良いが、従来例および比較例ともいずれかの評価がわるく、すべての評価が良好な例はなかった。このことは、メイクアップ40分後のエマルション油の粒度分布が大きく影響していることを示している。
【0077】
(実施例3)
実施例1と同様の方法でエマルション油をメイクアップし、次いで60分間エマルション油を圧延機とタンク間を循環させた後、タンクの底から250リットル排出した。タンク内のエマルション油に、圧延油原液を補給して濃度を1.25倍に変更するためタンク内のエマルション油の1.67倍の圧延油原液を150リットル補給した。
【0078】
圧延油原液補給操作終了の10分後に実施例2と同様の圧延をおこない、油粒子径の変化状態を調べると共に、圧延後の鋼板について実施例2と同様の方法で表面の鏡面光沢度、目視判定による光沢むら、焼付、スリップ、チャタマークの発生の程度を調査した。その結果を表7に示す。
【0079】
【表7】
【0080】
油粒子径の変化度は、下記式により変化率を求めて下記の評価基準で評価した。
【0081】
補給前後の平均粒径変化率=1-(補給前の平均粒径/補給後10分時の平均粒径)
[平均粒径変化率の評価基準]
○:±5%未満、 □:+5%〜+10%未満、
△:+10%〜+15%未満、 ▲:+15%を超える
また、補給後10分経過時にタンク中層での濃度を測定し、濃度で徐算した値を補給効率とした。なお、評価はいずれも以下に示す基準とした。
【0082】
【補給効率の評価基準】
○:R≧95%、 □:95%>R≧90%、 △:90%>R≧80%、 ▲:80%未満
表7から明らかなように、本発明例では、エマルション油のメイクアップ直後およびエマルション油を補給した濃度調整時においても油粒子径が早期に安定し、エマルション補給時の濃度変更時に目標濃度になりやすく、補給効率が高いことが分かる。
【0083】
また、光沢性が要求されるステンレス鋼板(SUS430)の圧延において、いずれも光沢度(Gs60゜)が400以上の光沢度が得られ、かつ高速圧延をおこなっても焼付や光沢むらの発生がないか軽微であった。さらに、高潤滑が要求される低炭素鋼板の圧延でも、焼付き、スリップ、チャタリングの発生がないか軽微であり、安定して高速圧延がおこなえた。
【0084】
【発明の効果】
本発明の方法によれば、エマルション油の更新および濃度調整、液面レベル調整のための新液の補給が短時間ででき、油粒子の分布範囲の狭いエマルション油が得られ、かつ油粒子径の経時変化を少なくすることができ、その結果潤滑性あるいは高光沢が要求される鋼板の高速圧延が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の方法を実施するのに用いる装置例の概略図である。
【符号の説明】
1 エマルション油タンク
2 水供給管
4a、4b、4c ノズル
5 圧延油原液供給管
8 圧延油スプレーノズル
9 圧延装置
Claims (3)
- 冷間圧延油として水中型エマルション油を用いて薄鋼板を冷間圧延する方法において、断面積が20mm2以下の一つ以上の開口部を備えたノズルから、圧延機入り側に水中エマルション油を供給するためのタンク内の水中型エマルション油中、タンクから圧延機までの供給配管内の水中型エマルション油中およびタンクへの水供給管内の水中のうちの少なくとも1液体中に乳化剤を含む圧延油原液を、流速1〜50m/秒で圧入補給しながら冷間圧延することを特徴とする薄鋼板の冷間圧延方法。
- タンク内の水中型エマルション油が、タンク内に水を供給して、その水中に断面積が20mm2以下の一つ以上の開口部を備えたノズルから乳化剤を含む圧延油原液を、流速1〜50m/秒で圧入することにより調整された水中エマルション油である請求項1記載の薄鋼板の冷間圧延方法。
- 圧延油原液成分中の乳化剤が、ノニオン系乳化剤とアニオン系乳化剤を含み、乳化剤の総量が5〜25%である圧延油原液を使用する請求項1または2に記載の薄鋼板の冷間圧延方法。
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Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
---|---|---|---|
JP34241198A JP3949834B2 (ja) | 1998-12-02 | 1998-12-02 | 薄鋼板の冷間圧延方法 |
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