JP3397255B2 - 無機系多孔質体の製造方法 - Google Patents

無機系多孔質体の製造方法

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【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】この発明は無機多孔質材料の製造
方法に関する。この発明の製造方法は、クロマトグラフ
ィー用充填剤や、血液分離用多孔質、あるいは酵素担体
用多孔質の製造に好適に利用される。
【0002】
【従来の技術】この種のクロマトグラフィー用カラムと
しては、スチレン・ジビニルベンゼン共重合体等の有機
ポリマーよりなるものと、シリカゲル等の無機系充填剤
を筒内に充填したものが知られている。
【0003】有機系の材質で構成されたカラムは、低強
度のために耐圧性が低い、溶媒により膨潤・収縮してし
まう、加熱殺菌不可能である等の難点がある。従って、
こうした難点がない無機系のもの、特にシリカゲルが、
汎用されている。
【0004】一般にシリカゲル等の無機質多孔体は、液
相反応であるゾル−ゲル法によって作製される。ゾル−
ゲル法とは、重合可能な低分子化合物を生成し、最終的
に凝集体や重合体を得る方法一般のことを指す。例え
ば、金属アルコキシドの加水分解のほか、金属塩化物の
加水分解、カルボキシル基、β−ジケトンのような加水
分解性の官能基を持つ金属塩あるいは配位化合物の加水
分解、金属アミン類の加水分解が挙げられる。
【0005】多孔材料を各種担体として利用する場合に
は、孔の表面に担持されて機能を発現する物質の大きさ
に依存した、最適の中心細孔径とできるだけ狭い細孔径
分布とが必要である。従って、ゾル−ゲル法によって得
られる多孔体についても、ゲル合成時の反応条件を制御
することによって、細孔サイズを制御する試みがなされ
てきた。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】しかし、ゾル−ゲル法
で得られる従来の多孔体は、典型的な平均細孔径が数ナ
ノメートル以下で、しかも分布が広いものに限られてい
た。すなわち、細孔サイズとその分布を自在に制御する
ことができなかった。これは、細孔が3次元的に束縛さ
れた網目の中に存在しているので、ゲル調製後に非破壊
的な手段で外部から細孔構造を変えることができないか
らである。
【0007】また、アミド系の共存物質を用いたり、ケ
イ素アルコキシドからシリカゲルを製造する場合には塩
基性触媒のもとでゲル化を行うことにより、平均細孔径
を大きくできることが知られているが、これらの材料は
せいぜい中心細孔径20ナノメートル以下の細孔のみを
持ち、しかもおもに細孔径の小さい側へ広がった分布を
示す。
【0008】このような多孔材料は、細かく粉砕したり
粉砕物を結着させた状態で、フィルターや担体材料とし
て利用可能であるが、粉砕物の充填や結着によって生じ
る多孔体粒子間の隙間は一般に不規則である上、細孔の
分布状態そのものを変える有効な手段とはなり得ない。
【0009】そこで本発明者等が研究したところ、まず
約100ナノメートル以上の巨大空孔となる溶媒リッチ
相を持つゲルをゾル−ゲル法によって作製し、そのバル
ク状ゲルを粉砕せずに様々な組成を持つ水溶液に浸漬す
ることにより、巨大空孔の内壁が最大20ナノメートル
程度の狭い細孔分布を持った、二重気孔の多孔質体に変
化することが分かった。
【0010】この発明はこのような知見に基づいてなさ
れたものである。その目的は、従来の多孔体において避
け得なかった広い細孔径分布ではなく、所望する中心細
孔径と狭い分布を持つ細孔構造を再現性良く与える、無
機系多孔質体の製造方法を確立することにある。
【0011】
【課題を解決するための手段】その手段は、ゾル−ゲル
法により、平均直径100ナノメートル以上の3次元網
目状に連続した溶媒に富む溶媒リッチ相と無機物質に富
み表面に細孔を有する骨格相とからなるゲルを調製し、
前記無機物質を溶解し得る液体中にそのゲルを浸漬した
後、ゲルを乾燥し、加熱することを特徴とする。この手
段において、望ましいのは、無機物質をシリカSiO2
とし、無機物質を溶解し得る液体をアンモニア水溶液と
する場合である。
【0012】同じく望ましいのは、ゾル−ゲル法により
前記ゲルを調製する過程が、水溶性高分子を酸性水溶液
に溶かし、それに加水分解性の官能基を有する金属化合
物を添加して加水分解反応を行い、生成物が固化するま
で放置するものであり、 無機物質を溶解しうる前記液体
が、塩基性水溶液である場合である。
【0013】本発明において最も有効に細孔構造を制御
することができる無機多孔質の作製法としては、金属ア
ルコキシドを出発原料とし、適当な共存物質を原料に添
加して、巨大空孔となる溶媒リッチ相を持つ構造を生じ
せしめる、ゾル−ゲル法を挙げることができる。適当な
共存物質とは、ゾル−ゲル転移と相分離過程とを同時に
誘起する働きをもつ物質であり、これによって溶媒リッ
チ相と骨格相とに分離すると同時にゲル化する。共存物
質としては溶媒が水である場合ポリエチレンオキシドの
ように水溶性高分子が望ましい。
【0014】
【作用】水溶性高分子を酸性水溶液に溶かし、それに加
水分解性の官能基を有する金属化合物を添加して加水分
解反応を行うと、溶媒リッチ相と骨格相とに分離したゲ
ルが生成する。生成物(ゲル)が固化した後、適当な熟
成時間を経た後、あらかじめ酸あるいは塩基性に調節し
第二の水溶液中に浸漬することによって、溶媒リッチ
相と第二水溶液とが置換され、骨格相の内壁面と水溶液
とが気液接触を開始する。そして、第二水溶液がその内
壁面を浸食し、内壁面の凹凸状態を変えることによって
細孔径を徐々に拡大する。
【0015】シリカを主成分とするゲルの場合には、酸
性あるいは中性領域においては変化の度合は非常に小さ
いが、水溶液の塩基性を増すにつれて、細孔を構成する
部分が溶解し、より平坦な部分に再析出することによっ
て、平均細孔径が大きくなる反応が顕著に起こるように
なる。
【0016】巨大空孔を持たず3次元的に束縛された細
孔のみを持つゲルでは、平衡条件としては溶解し得る部
分でも、溶出物質が外部の溶液にまで拡散できないため
に、元の細孔構造が相当な割合で残る。これに対して巨
大空孔となる溶媒リッチ相を持つゲルにおいては、2次
元的にしか束縛されていない細孔が多く、外部の水溶液
との物質のやり取りが十分頻繁に起こるため、大きい細
孔の発達に並行して小さい細孔は消滅し、全体の細孔径
分布は顕著に広がることがない。なお、浸漬過程におい
ては、水溶液の交換を一定時間毎に行い、定常状態の細
孔構造に近づく過程を促進することが有効である。
【0017】水溶液の具体的な成分としては、塩基性を
与える物質としてアンモニアあるいは水酸化ナトリウム
等を利用できるが、後述する実施例にも示すように、水
溶液のpH値が重要な条件であるので、塩基性を与える
成分であれば特に制限はない。また、酸性物質であって
も、フッ化水素酸のようにシリカを溶解する性質のある
ものは、同様に利用できる。
【0018】浸漬による現象としての溶解・再析出反応
が定常状態に達し、これに対応する細孔構造を得るため
に要する、必要な浸漬時間は、巨大空孔の大きさや試料
の体積によって変化するので、それぞれの処理条件にお
いて実質的に細孔構造が変化しなくなる、最短処理時間
を決定することが必要である。
【0019】浸漬処理の結果、溶媒置換を終えたゲル
は、新たに入った溶媒(水系の場合は前記の第二水溶
液)を気化させることによって収縮を伴って乾燥し、乾
燥ゲルとなる。この乾燥ゲル中には、出発溶液中の共存
物質が残存する可能性があるので、適当な温度で熱処理
を行い、有機物等を熱分解することによって、目的の無
機系多孔質体を得ることができる。
【0020】
【実施例】
−実施例1− まず水溶性高分子であるポリエチレンオキシド(アルド
リッチ製 商品番号85,645-2)0.70gを0.001規定酢酸水
溶液10gに溶解し、この溶液にテトラメトキシシラン5ml
をかくはん下で加えて、加水分解反応を行った。数分か
くはんしたのち、得られた透明溶液を密閉容器に移し、
40℃の恒温漕中に保持したところ約40分後に固化し
た。
【0021】固化して得られたゲルをさらに数時間熟成
させ、0.1規定アンモニア水溶液中に、40℃で1日毎
に溶液を更新しながら3日間以上浸漬した。このとき、
アンモニア水溶液のpH値は約10であった。この処理
の後、ゲルを60℃で乾燥し、100℃/hの昇温速度
で600℃まで加熱した。これによって、非晶質シリカ
よりなる多孔質体を得た。
【0022】得られた多孔質体中には中心孔径1.6μ
m(=1600nm)程度の揃った貫通孔が3次元網目
状に絡み合った構造で存在していることが電子顕微鏡お
よび水銀圧入測定によって確かめられた。その空孔分布
を図1に示す。そして、その貫通孔の内壁に直径10n
m程度の細孔が多数存在していることが、窒素吸着測定
によって確かめられた。
【0023】なお、アンモニア溶液浸漬の温度を25℃
あるいは60℃に変化させた以外は上記と同一条件で多
孔質体を製造したところ、貫通孔の空孔分布は変わらな
いが、窒素吸着法によって計られる中心細孔径はそれぞ
れ、約6nmあるいは13nmに変化した。アンモニア
溶液の温度をパラメータとする細孔分布を図2に示す。
このことから、アンモニア溶液浸漬の温度が高いほど大
きい中心細孔径が得られることが分かった。
【0024】−実施例2− 浸漬するアンモニア溶液の濃度を1規定にし、pH値を
10.7とした以外は実施例1と同一条件で多孔質体を
製造した。
【0025】すると、アンモニア溶液の温度25℃、4
0℃および60℃において、中心細孔径はそれぞれ10
nm、12nmおよび18nmとなった。アンモニア溶
液の温度をパラメータとする細孔分布を図3に示す。こ
のことから、アンモニア濃度を上げるほど、すなわち、
pHを上げるほど得られる多孔質体の中心細孔径は大き
くなることが分かった。
【0026】
【発明の効果】以上のように本発明によれば、所望の細
孔分布に制御された多孔質体を製造することができる。
しかも巨大空孔と細孔との二重気孔構造の多孔質体であ
ることから、筒内に粒子を充填してなる充填型カラムの
充填剤としてのみならず、それ自体でカラムとなる一体
型カラムとしても適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例1で得られた多孔質体の空孔分布曲線で
ある。白抜きが累積空孔容積を、黒抜きが微分空孔容積
を表す。
【図2】0.1規定アンモニア水溶液に10日間浸漬し
たゲルの、乾燥・熱処理後の細孔径分布である。
【図3】1規定アンモニア水溶液に10日間浸漬したゲ
ルの、乾燥・熱処理後の細孔径分布である。

Claims (4)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 ゾル−ゲル法により、溶媒に富み平均直
    径100ナノメートル以上の3次元網目状に連続した
    大空孔となる溶媒リッチ相と無機物質に富み表面に細孔
    を有する骨格相とからなるゲルを調製し、前記無機物質
    を溶解し得る液体中にそのゲルを浸漬した後、ゲルを乾
    燥し、加熱することを特徴とする無機系多孔質体の製造
    方法。
  2. 【請求項2】 無機物質がシリカであり、無機物質を溶
    解し得る液体がアンモニア水溶液である請求項1に記載
    の無機系多孔質体の製造方法。
  3. 【請求項3】 無機物質がシリカであり、無機物質を溶
    解し得る液体がフッ素イオンを含む水溶液である請求項
    1に記載の無機系多孔質体の製造方法。
  4. 【請求項4】 ゾル−ゲル法により前記ゲルを調製する
    過程が、水溶性高分子を酸性水溶液に溶かし、それに加
    水分解性の官能基を有する金属化合物を添加して加水分
    解反応を行い、生成物が固化するまで放置するものであ
    り、 無機物質を溶解しうる前記液体が、 塩基性水溶液である
    請求項1に記載の無機系多孔質体の製造方法。
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