JP3343136B2 - 耐熱性および絶縁性ワニス組成物およびそれを用いた被膜の形成方法 - Google Patents
耐熱性および絶縁性ワニス組成物およびそれを用いた被膜の形成方法Info
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Description
あるいはそれらの部品に、耐熱性および電気絶縁性を付
与することができるワニス組成物に関する。さらに本発
明は、そのようなワニス組成物を用いて絶縁性に優れた
被膜を形成する方法、および該絶縁性に優れた被膜を有
する導電電線の製造方法に関する。
や部品の表面に、絶縁性や防湿性を付与するため、ある
いは保護膜を形成するためにワニスが広く用いられ、機
器や部品の、耐久性および信頼性の向上に貢献してい
る。一般に、操作の簡易性およびコスト面から有機系ワ
ニスが広く用いられている。
ステル、ポリウレタンなどのポリマーであり、C-C結合
やC-O-C結合を骨格とするため、加熱によって酸化また
は分解され易く、使用限界温度は150℃程度である。従
って、有機系ワニスに耐熱性を付与するためには難燃剤
を添加する必要がある。さらに有機系ワニスは温度が上
昇するにつれて電気絶縁性が低下したり、高周波によっ
て発熱し溶融するなどの問題点がある。あるいは有機系
ワニスは、はっ水性が比較的低く、吸収した水分が放出
されにくく、その結果、絶縁性などの電気的特性が著し
く低下する。さらに、一般に有機溶剤、化学薬品に弱
く、紫外線による劣化も起こりやすい。
スとして、シロキサン結合(Si-O-Si)からなる無機部
分とメチル基やフェニル基からなる有機部分とを有する
シリコーンワニスがある。シリコーンワニスは、有機系
ワニスに比較して、耐熱性、電気特性、吸水性などの性
質は改善されるものの、機械的強度、耐薬品性は充分で
はない。さらにシリコーンワニスは、200℃以上でも安
定であるが、260℃のハンダの溶融点に近い温度での安
定性は不十分である。そして、シリコーン系の樹脂は、
耐湿性がエポキシフェノールノボラック系の樹脂よりも
低く、内部応力も高いためコーティング剤または封止剤
としては、好ましくない。
ニスとしては、ポリイミド樹脂を主成分とするワニスが
ある。ポリイミド樹脂は、ガラス転移温度(Tg)が、240
〜250℃と高いため、高温時の電気特性の低下が少な
く、熱膨張率も小さい。さらに、導体に対する接着力お
よび硬度も高い。しかし、銅箔に対する接着力や同種の
樹脂からなる層間の接着力が小さい、吸水性が高いなど
の欠点がある。さらに、ポリイミド樹脂は非常に高価で
あるため、実用上コストの問題もある。
線を絶縁被膜で覆い、絶縁電線を形成する際にも用いら
れる。近年、電子機器の軽量化および小型化が進み、変
圧器、モーターなどの電子部品も軽量化および小型化さ
れている。しかし、このような小型の部品は、放熱効率
が悪く、部分的に高温になりやすいため、このような用
途に用いられる絶縁電線は、絶縁層の厚みが薄くても耐
熱性に優れている必要がある。さらに、火力発電所、溶
鉱炉、原子炉などで高温に曝される部分に用いられる電
線や、人工衛星、宇宙ロケット、ミサイルなどに用いら
れる電線は、特に優れた耐熱性が要求される。
縁材料として有機系樹脂を主成分とするワニス組成物を
用いると、ガスを発生したり絶縁層が剥がれて絶縁性が
低下するなどの問題が生じる。耐熱性に優れた有機ポリ
マーとして知られているポリイミド樹脂で被覆した絶縁
電線が製造されているが、ポリイミド樹脂は、上記のよ
うに、銅に対する接着力や同種の樹脂でなる層の間の接
着力が弱く、吸水性が高い、高価であるなどの問題点が
ある。
スを絶縁電線の絶縁層に用いる研究もなされている。し
かし、セラミックスは、耐熱性は非常に優れているが、
柔軟性に欠け、巻線加工の際クラックが生じたり、たわ
みによってブリスターが生じるなどの問題がある。
クスなどの無機材料と、有機ポリマーとを組み合せて用
いる方法が提案されている。例えば、特開昭63ー36085号
公報には、導電芯線を熱処理して芯線表面に金属酸化物
の層を形成させ、その上に、無機高分子物質と無機物粉
末との混合物の層を形成し、さらに最上層として可撓性
のある有機樹脂を主成分とする有機層を形成する方法が
開示されている。特開昭63ー36086号公報には、無機高分
子バインダー(例えば、シランカップリング剤の重縮合
物)と無機物粉末とを混合した無機層を芯線上に数層積
層し、さらに最外層として有機樹脂の層を形成する方法
が開示されている。これらの方法で得られた絶縁電線
は、高温に曝すと有機ポリマーが分解してガスを発生し
たり、有機ポリマーが炭化して絶縁層が、減量し、絶縁
性が低下するなどの問題がある。さらに、導電芯線を被
覆する無機層や有機層が単に物理的に積層されているだ
けであるため、芯線と各層との線膨張係数の差によっ
て、絶縁層の剥離やクラックが生じやすい。
メル塗料にメタホウ酸を配合した塗料を絶縁層に用いた
耐熱マグネットワイヤが開示されている。このマグネッ
トワイヤは、300℃の高温に耐え、かなりの耐熱性を有
するが、高湿条件下ではメタホウ酸がオルトホウ酸に変
化する結果、吸湿性もしくは吸水性が高くなりクラック
を生じ、あるいは絶縁層が剥離する。
欠点を解決するものであり、その目的とするところは、
電気または電子機器、あるいはそれらの部品などに、優
れた耐熱性を付与することのできるワニス組成物を提供
することにある。特に、本発明の目的は、例えば、絶縁
電線の絶縁層として、耐熱性に優れた絶縁層を形成し得
るワニス組成物を提供することにある。さらに本発明の
他の目的は、このようなワニス組成物を用いて耐熱性に
優れた絶縁被膜を形成する方法を提供することにある。
縁性ワニス組成物は、ポリアミドイミド、ホウ素化合
物、塩基性触媒および溶媒を含有し、そのことにより上
記目的が達成される。
記ワニス組成物を基材表面に付与する工程、および該組
成物が付与された導電芯線を、150〜350℃の範囲の温度
で熱処理することにより、該基材表面に絶縁性を有する
被膜を形成させる工程とを包含し、そのことにより上記
目的が達成される。
は、ケイ素含有アルコキシドおよび金属アルコキシド、
シランカップリング剤、およびゾル−ゲル法触媒を含有
する前処理液を基材表面に付与する工程;該前処理液が
付与された基材を常温付近で乾燥させ、離型性被膜を基
材表面に形成させる工程;該離型性被膜表面に、上記ワ
ニス組成物を付与する工程;および該組成物が付与され
た基材を、150〜350℃の範囲の温度で熱処理することに
より、該離型性被膜表面に絶縁性を有する被膜を形成さ
せる工程;を包含する。
の製造方法は、ケイ素含有アルコキシドおよび金属アル
コキシド、シランカップリング剤、およびゾル−ゲル法
触媒を含有する前処理液を導電電線基材表面の所定箇所
に付与する工程;該前処理液が付与された基材を常温付
近で乾燥させ、離型性被膜を基材表面に形成させる工
程;該離型性被膜が形成された乾燥後の基材表面に上記
ワニス組成物を付与する工程;および該ワニス組成物が
付与された基材を、150〜350℃の範囲の温度で熱処理す
ることにより、該基材および基材上の該離型性被膜表面
に絶縁性を有する被膜を形成させる工程;を包含する。
ては、アミド結合とイミド結合とを繰り返し単位として
有する通常のポリアミドイミドのいずれもが使用され得
る。特に、以下の繰り返し単位を有するポリアミドイミ
ドが好適に用いられる。芳香環上に置換基を有するポリ
アミドイミドも利用可能である。
ホウ酸、四ホウ酸、酸化ホウ素、およびホウ酸トリアル
キル(ホウ酸トリメチル、ホウ酸トリエチルなど)でな
る群から選択される。特に、ポリアミドイミドととも
に、以下に示す溶媒に容易に溶解し得、均質な溶液を生
成し得る、メタホウ酸またはホウ酸トリメチルが好まし
く使用される。これらのホウ素化合物は、上記のポリア
ミドイミド100重量部に対して1〜20重量部、好ましく
は、5〜15重量部の割合で用いられる。
触媒は、実質的に水に不溶で有機溶媒に可溶な第三アミ
ンが好ましい。例えば、N,N-ジメチルベンジルアミン、
トリプロピルアミン、トリブチルアミン、トリペンチル
アミンなどがあり、特に、N,N-ジメチルベンジルアミン
が好ましく用いられる。このような触媒の使用量は、上
記のポリアミドイミドとホウ素化合物との合計量100重
量部に対して、0.001〜0.005重量部が好ましい。
しては、ポリアミドイミドを溶解し得る溶媒が用いられ
る。それには、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチ
ルアセトアミド、Nーメチル2-ピロリドンなどがある。特
に、N,N-ジメチルホルムアミドが好ましい。このような
溶媒の使用量は、通常、上記のポリアミドイミド、ホウ
素化合物、および触媒の合計量100重量部に対して、30
〜100重量部である。
ジルコニウムアルコキシドが添加される。ジルコニウム
アルコキシドを加えることによって、ワニス組成物の耐
熱性および耐アルカリ性が向上する。ジルコニウムアル
コキシドとしては、Zr(O-CH3)4、Zr(O-C2H5)4、Zr(O-is
o-C3H7)4、Zr(O-C4H9)4などが用いられ得る。このよう
なジルコニウムアルコキシドの添加量は、ポリアミドイ
ミド100重量部に対して3.5重量部以下、好ましくは0.05
〜1.52重量部である。
塩基性触媒、溶媒、および必要に応じてジルコニウムア
ルコキシドを、例えば次のように混合すると均一なポリ
マー液が得られ、これがワニスとして用いられる。ま
ず、上記のポリアミドイミドとホウ素化合物とを約120
℃に加温しながら攪拌して分散させ、次に上記の溶媒を
加えて、均一なポリマー液を調製する。このポリマー液
に上記の塩基性触媒を加えて混合すると、ワニスが得ら
れる。
板、トランジスタ、ICなどの保護用ワニス;絶縁電線の
絶縁層用ワニス;コイルを絶縁膜で被覆するためのコイ
ル含浸用ワニス;ガラスファイバー積層板、マイカ用バ
インダー;ガラスクロス用ワニス;プリント基板に素子
を実装するための接着剤;半導体素子の封止用ワニスな
どに用いられる。したがって、本発明のワニス組成物で
被覆され得る基材としては、各種プリント基板、トラン
ジスタ、IC、導電芯線、コイル、ガラス板、マイカ板
などが用いられ得る。
絶縁被膜が形成される。まず、本発明のワニス組成物
(上記混合物であるポリマー液)を、上記の基板の表面
に塗布するか、あるいは、この基板をこのワニス組成物
に浸漬するなどの方法により、基板に付与する。この基
板を、150℃〜350℃、好ましくは250〜350℃の範囲の温
度で3〜5分間加熱することによって、芯線の表面に絶
縁層が形成され、耐熱性に優れた絶縁被膜が形成され
る。好ましくは、この操作を数回繰り返し実施して、複
数の層を形成する。それによって、最終的に得られる被
膜の耐熱性および絶縁性が増大し、例えば被膜電線であ
れば被膜の破壊電圧も著しく高くなる。さらに好ましく
は、このようにして得られた上記単層もしくは複数層の
被膜基板を常温に冷却した後、150〜350℃の範囲の温度
で再度30秒〜10分間加熱するか、あるいは、高周波処理
を行って乾燥させる。これによって、絶縁層の耐水性が
著しく向上し、高温多湿な条件下や、熱水中でも剥離や
クラックが生じない絶縁被膜が形成される。
の絶縁層用として好適に用いられる。このような絶縁電
線の芯材料として用いられる導電芯線としては、導電性
を有する長尺物のいずれもが使用され得る。例えば、銅
線、銀線、ニッケルメッキ銅線、銀メッキ銅線などの金
属線が用いられる。このような導電芯線を用いて上記の
方法により絶縁被膜を形成すると、耐熱性および絶縁性
に優れた電線が得られる。
い。従って、例えば導電電線基材表面に絶縁被膜を形成
した場合に、電線末端部分のような所定の部分の被膜を
除去し(いわゆる電線端末の口出し操作を行い)、端子
などに接続しようとすると、この被膜を除去する操作が
容易ではない。このような場合には、基材と上記絶縁被
膜との間に離型性の被膜を設けることにより上記絶縁被
膜が容易に除去され得る。
ケイ素含有アルコキシドおよび金属アルコキシド、シラ
ンカップリング剤、およびゾル−ゲル法触媒を含有する
溶液である。ケイ素含有アルコキシドとしては低級アル
コキシ基を有するシリケートが用いられる。本明細書に
おいて低級アルコキシ基とは炭素数1〜4のアルコキシ
基をさしていう。このようなケイ素含有アルコキシドと
してはメチルシリケート、エチルシリケート、プロピル
シリケートなどがある。金属アルコキシドとしては低級
アルコキシ基を有する金属アルコキシドが用いられる。
含有される金属としては、Al、Ti、Zrなどがあり、金属
アルコキシドとしては、チタンテトライソプロポキシ
ド、アルミニウムイソプロポキシド、ジルコニウムテト
ラブトキシドなどがある。
ランカップリング剤のいずれもが用いられ得、特にエポ
キシ基を有するシランカップリング剤が好適に用いられ
る。このようなシランカップリング剤としては、γ−グ
リシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシド
キシプロピルメチルジエトキシシラン、β−(3,4-エポ
キシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランなどが
ある。シランカップリング剤は、上記ケイ素含有アルコ
キシドおよび金属アルコキシドの合計量100重量部に対
して0.5〜50重量部の割合で含有される。
/または塩基触媒が用いられる。シランカップリング剤
としてエポキシ基を有する化合物を使用する場合には酸
および塩基触媒を併用することが好ましい。酸触媒とし
ては無機または有機の酸、あるいは酸無水物が用いられ
得る。無機酸としては、塩酸、硝酸、硫酸などがあり、
有機酸としては酢酸、シュウ酸、コハク酸、マロン酸、
フタル酸、マレイン酸、酒石酸などがある。酸無水物と
しては、無水酢酸、無水マレイン酸、無水フタル酸など
がある。塩化水素ガスなども利用され得る。塩基触媒と
しては、無機または有機塩基が用いられ得る。無機塩基
としてはアンモニア、水酸化カリウム、水酸化ナトリウ
ムなどがある。有機塩基としては、1級、2級または3
級のアミンが用いられ得、特に有機溶媒に可溶で水に実
質的に不溶な3級アミンが好適に用いられる。例えば、
N,N-ジメチルベンジルアミン、トリブチルアミン、トリ
-n-プロピルアミン、トリペンチルアミン、トリプロパ
ルギルアミン、N,N,N-トリメチルエチレンジアミン、ト
リ-n-ヘキシルアミンなどが利用され得る。そのなかで
も、特に、N,N-ジメチルベンジルアミンが好適である。
酸触媒および塩基触媒は、ケイ素含有アルコキシドおよ
び金属アルコキシドの合計量100重量部に対してそれぞ
れ0.5〜10重量部および0.01〜5重量部の割合で使用さ
れる。
水が用いられ、他の水溶性有機触媒が含有されていても
よい。アルコールおよび水は、ケイ素含有アルコキシド
および金属アルコキシドの合計量100重量部に対して、
それぞれ50〜300重量部および5〜50重量部の割合で含
有される。
せるには、まず、基材表面の所定の場所に上記前処理液
を付与する。通常、非常に薄く塗布され、その乾燥後の
厚みは0.1μm以下、通常、約0.01μm程度である。これ
を常温付近の温度で乾燥させる。ここで常温付近とは約
50℃以下の温度をさしていい、通常20〜30℃である。例
えば25℃にて乾燥を行うと数秒間で溶媒が揮発する。次
いで、このようにして形成された離型性被膜表面を含む
基材表面に、上記ワニス組成物(ポリマー液)が付与さ
れ、熱処理がなされる。ワニス組成物の付与および熱処
理の条件は、上記と同様である。このようにして耐熱性
絶縁被膜が形成され、基材上に直接形成された被膜は基
材に強固に密着しており、離型性被膜を介して形成され
た被膜は、基材から容易に剥離する。例えば、導電電線
基材の末端部分のみに下記前処理液を塗布・乾燥した
後、ワニスを塗布・乾燥し、熱処理すると耐熱性絶縁被
膜を有する導電電線が得られ、その末端部分の被膜のみ
が物理的圧力、例えば指先による引きちぎりにより(例
えば鞘状に)容易に剥離する。
ると、組成物は容易に硬化して耐熱性に優れた絶縁膜を
形成する。これは、ワニス組成物中のポリアミドイミド
とホウ素化合物とが、化学的に結合し、安定な複合体を
形成するためと考えられる。つまり、塩基性触媒によっ
て、ポリアミドイミドのアミド基の窒素原子からプロト
ンが奪取され、窒素原子の孤立電子対が電子不足のホウ
素原子と共有結合(N-B結合)を形成し、その結果、ホ
ウ素原子を中心とする正四面体型の安定な結合配置を形
成するためと考えられる。さらに、絶縁被膜に耐アルカ
リ性が要求される場合には、上記のように、ワニス組成
物にジルコニウムアルコキシドを添加することが好まし
い。ジルコニウムアルコキシドを添加することにより、
Zr-O-B結合が形成され、被膜の耐アルカリ性が著しく改
善される。
膜を常温に戻し、さらに、150〜350℃、好ましくは、25
0〜300℃の温度で再加熱、あるいは、高周波処理するこ
とにより耐水性が強化される。これは、上記の処理によ
り、ホウ素原子と窒素原子との結合が安定化する結果、
ホウ酸自身が有する吸水性の性質がなくなり、絶縁被膜
の耐水性が良好となるためと考えられる。
物との複合体でなる絶縁被膜は、ポリアミドイミドに由
来する有機部分とホウ素化合物に由来する無機部分とを
合わせ持つ。そのため、柔軟性や加工性が良好であると
ともに、軟化点が高く、熱による劣化や体積の減少が起
こりにくく、熱劣化による絶縁性の低下がない。特に、
絶縁被膜の柔軟性は、絶縁電線に使用した場合、JIS C3
003の巻線規格を充分に満足するものである。そして、
このように被膜が柔軟であるため、基材、例えば、導電
芯線と被膜との膨張係数の差が緩和され、温度変化によ
る絶縁層の剥離やクラックなどが生じにくい。さらに、
この絶縁被膜は、熱伝導率が低く、緻密な構造を有する
ため、基材に高温が伝わりにくく、かつ外部に存在する
酸素などの化学物質から基材を効果的に遮断する。その
結果、優れた耐熱性、耐溶剤性、および耐化学薬品性が
得られる。
て得られる絶縁被膜は、絶縁性、および耐熱性に富んで
いる。例えば、本発明のワニス組成物を用いて製造され
る絶縁電線の絶縁層の絶縁破壊電圧は4kV以上である。
そして、この絶縁電線は、300℃で20,000時間放置して
も、絶縁層の剥離、ブリスター、クラックなどが見られ
ず、絶縁性も低下しない。さらに、この絶縁電線は、80
℃の温水に3日間浸しても、絶縁層の変色、剥離などの
変化が見られず、優れた耐水性を有する。
アミドイミド)と無機質部分(ホウ素化合物および必要
に応じてジルコニウムアルコキシド)の比率を変えるこ
とによって、基材の使用目的に応じた特性の被膜を得る
ことができる。例えば、電気部品用被膜は、耐熱性、電
気絶縁性の他に、コロナ放電、アーク放電に対する耐性
が要求される。このような被膜を得るためには、ワニス
組成物中の無機質部分の比率を高めることが好ましい。
マイカ用バインダー、ガラスクロス用絶縁被膜として使
用する場合には、柔軟性が要求されるので、有機部分の
比率を高めることが好ましい。このように、本発明のワ
ニス組成物は、基材の用途に応じて容易に被膜の特性を
調節することが可能であり、幅広い用途に使用すること
ができる。
被膜が離型性を有するのは次の理由によると考えられ
る。まず、前処理液が基材表面に塗布・乾燥されると、
このときにゾル−ゲル法触媒の働きによりケイ素含有ア
ルコキシドおよび金属アルコキシドの加水分解および重
縮合が起きる。シランカップリング剤もこの重縮合反応
に加わり、エポキシ基を有するシランカップリング剤は
開環し、生じたOH基が重縮合反応に関与する。このよう
にして、無機および有機部分を有する被膜が形成され
る。この表面に上記ワニスが付与され、熱処理がなされ
ると基材との膨張係数の差により離型性被膜のクラック
が生じる。例えば導電電線基材の前処理液を塗布・乾燥
し、ワニスを付与した後加熱処理すると前処理液から得
られる離型性被膜およびワニスにより形成される被膜
は、いずれも基材とともに膨張する。その後室温にもど
すと、ワニスから形成される被膜は基材に追従して収縮
するが、離型性被膜は追従しきれずにクラックを引き起
こす。このようにして、離型性被膜を介して形成された
耐熱性被膜は、容易に除去することが可能となる。この
ような離型性被膜は、導電電線の末端部分、プリント基
板の端子接続を必要とする部分などに設けられる。離型
性被膜の設けられた部分は、耐熱絶縁性能がさらに向上
する。
ス組成物をコイル含浸用ワニスとして用いた。
時間放置しエージングして、ワニスを調製した。
し、このコイルを120〜170℃の温度で加熱して乾燥させ
た。このコイルを室温にまで冷却した後、高周波処理し
て、絶縁被膜で被覆されたコイルを得た。得られたコイ
ルは、優れた耐熱性を有し、300℃で20,000時間以上の
連続使用が可能であった。この結果は、ポリイミド樹脂
の絶縁被膜を上回るものである。絶縁被膜が形成された
コイルの電気特性を評価した結果を表2に示す。
ス組成物を用いて絶縁電線を作製した。
直径1mmの銅線を、0.1m/secの速度で通過させた。この
銅線をダイスに通して、塗工された組成物の厚さを一定
に調整して、直ちに300〜450℃の乾燥炉を通過させた。
この操作を4〜6回繰り返して絶縁被膜の層を積層し
た。この銅線を一旦常温に戻した後、300℃の炉内で2
分間加熱して、絶縁電線を得た。絶縁被膜は透明であ
り、得られた絶縁電線は茶黄色の外観を呈した。この絶
縁電線は、JCS392号の0種ポリエステルイミド−ポリア
ミド銅線規格を満足した。さらに、この絶縁電線を80℃
の温水中に3日間浸しても、変色や絶縁層の剥離などは
認められず、非常に優れた耐水性を示した。そして、こ
の耐水性試験の後の、絶縁層の絶縁抵抗は、3.14×1010
Ω以上(DC500V)であり、絶縁破壊電圧は、4kV以上
であった。
ら混合して、ワニスを調製した。このワニスを用いて、
実施例2と同様にして、絶縁電線を作製した。
種ポリエステルイミド−ポリアミド銅線規格を充分に満
足した。さらに、10%水酸化ナトリウム水溶液中に、24
時間浸したところ、絶縁層に全く変化はなく、7Hの硬
度を示した。
れている方法により、絶縁電線を作製した。
ン社製バイルML)の樹脂分100重量部に対してメタホ
ウ酸10重量部を配合した。このワニス塗料を直径1mmの
銅線に塗布し、ダイスを通して塗料の厚みを調整した
後、炉温450℃、有効炉長5mの乾燥炉内を20m/minの速
度で通過させた。得られた絶縁電線を、80℃の温水中に
浸すと、2時間で絶縁層に剥離および亀裂が生じた。
処理液を調製した。
に塗布し、室温で乾燥させた。この銅線を実施例2と同
様に処理し、ワニスを用いて絶縁電線を得た。ワニスが
直接銅線上に塗布された部分は実施例2で得られた絶縁
銅線と同様の性能を有し、被膜と銅線との密着性が高か
ったが、前処理液が付与された部分については絶縁被膜
を指先で容易に除去することが可能であった。
いると、優れた絶縁性、耐熱性、耐化学薬品性、耐水性
および加工性を有する被膜を基材に付与することができ
る。したがって、本発明のワニス組成物は、種々の電子
機器または電気機器の被覆用に用いられ得る。
用の絶縁被膜として好適であり、優れた耐熱性を有する
絶縁電線を提供する。離型性被膜が所定の部分に設けら
れた絶縁電線については、該部分の絶縁被膜を容易に除
去することが可能となる。本発明の方法によって製造さ
れる絶縁電線は、例えば、火力発電所、溶鉱炉、原子炉
などで用いられる電線、人工衛星、宇宙ロケット、ミサ
イルなどの部品として用いられる電線として好適に用い
られる。さらに、本発明のワニス組成物は、非常に薄い
絶縁被膜を形成することが可能であるので、コンピュー
タなどに使用される細い絶縁電線にも有効に利用され得
る。
Claims (6)
- 【請求項1】 ポリアミドイミド、ホウ素化合物、塩基
性触媒、ジルコニウムアルコキシドおよび溶媒を含有す
る、耐熱性および絶縁性ワニス組成物であって、該塩基
性触媒が、N,N−ジメチルベンジルアミン、トリプロ
ピルアミン、トリブチルアミン、およびトリペンチルア
ミンからなる群から選択され、該ホウ素化合物がメタホ
ウ酸およびホウ酸トリメチルからなる群から選択され
る、耐熱性および絶縁性ワニス組成物。 - 【請求項2】前記塩基性触媒が、N,N−ジメチルベン
ジルアミンである、請求項1に記載のワニス組成物。 - 【請求項3】前記溶媒が、N,N−ジメチルホルムアミ
ド、N,N−ジメチルアセトアミド、およびN−メチル
−2−ピロリドンで成る群から選択される、請求項1に
記載のワニス組成物。 - 【請求項4】 請求項1から3のいずれかに記載のワニ
ス組成物を基材表面に付与する工程;および該組成物が
付与された基材を、150〜350℃の範囲の温度で熱
処理することにより、該基材の表面に絶縁性を有する被
膜を形成させる工程、 を包含する、耐熱性絶縁被膜の形成方法。 - 【請求項5】 ケイ素含有アルコキシドおよび金属アル
コキシド、シランカップリング剤、およびゾル−ゲル法
触媒を含有する前処理液を基材表面に付与する工程; 該前処理液が付与された基材を常温付近で乾燥させ、離
型性被膜を基材表面に形成させる工程; 該離型性被膜表面に、請求項1から3のいずれかに記載
のワニス組成物を付与する工程;および該組成物が付与
された基材を、150〜350℃の範囲の温度で熱処理
することにより、該離型性被膜表面に絶縁性を有する被
膜を形成させる工程; を包含する、離型性耐熱性絶縁被膜の形成方法であっ
て、 該ケイ素含有アルコキシドが、メチルシリケート、エチ
ルシリケートおよびプロピルシリケートからなる群から
選択される一種であり、 該金属アルコキシドが、金属としてアルミニウム、チタ
ニウムおよびジルコニウムからなる群から選択される一
種を含む金属アルコキシドであり、 該シランカップリング剤が、エポキシ基を有するシラン
カップリング剤であり、該ゾル−ゲル法触媒が、酸触媒
および/または塩基触媒である、離型性耐熱性絶縁被膜
の形成方法。 - 【請求項6】 ケイ素含有アルコキシドおよび金属アル
コキシド、シランカップリング剤、およびゾル−ゲル法
触媒を含有する前処理液を導電電線基材表面の所定箇所
に付与する工程; 該前処理液が付与された基材を常温付近で乾燥させ、離
型性被膜を基材表面に形成させる工程; 該離型性被膜が形成された乾燥後の表面に、請求項1か
ら3のいずれかに記載のワニス組成物を付与する工程;
および該ワニス組成物が付与された基材を、150〜3
50℃の範囲の温度で熱処理することにより、該基材お
よび基材上の離型性被膜表面に絶縁性を有する被膜を形
成させる工程; を包含する、耐熱性絶縁被膜を有する導電電線の製造方
法であって、 該ケイ素含有アルコキシドが、メチルシリケート、エチ
ルシリケートおよびプロピルシリケートからなる群から
選択される一種であり、 該金属アルコキシドが、金属としてアルミニウム、チタ
ニウムおよびジルコニウムからなる群から選択される一
種を含む金属アルコキシドであり、 該シランカップリング剤が、エポキシ基を有するシラン
カップリング剤であり、該ゾル−ゲル法触媒が、酸触媒
および/または塩基触媒である、導電電線の製造方法。
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