JP3283254B2 - 光学活性アルコールの製法 - Google Patents

光学活性アルコールの製法

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Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は光学活性アルコール
の製造法に関する。さらに詳しくは、式(I)で表わさ
れる構造のアルコールのエナンチオマー混合物に作用
し、式(II)で表わされる立体配置をもつアルコールを残
存させうる能力を有する微生物あるいはその処理物を作
用させ、残存する式(II)で表わされる立体配置をもつア
ルコールを採取することを特徴とする光学活性アルコー
ルの製造法に関する。
【0002】
【化2】
【0003】(式中、 nは0〜3の整数を示す。) 式(II)で表わされる光学活性アルコールは液晶、種々の
医農薬品、例えば抗生物質、抗菌剤、カルシウム拮抗
剤、抗結核剤等の重要合成原料である。
【0004】
【従来の技術及び発明が解決しようとする課題】従来、
前記式(II)で表わされる光学活性2−アミノアルコール
を製造する方法として、2−アミノ−1−ブタノールに
ついては、光学活性酒石酸やL−グルタミン酸、L−マ
ンデル酸などを用いて光学分割する方法(例えばPitre
ら、Chimia, 23, 399-400, 1969)、N−アシル−(R,
S)−2−アミノ−1−ブタノールにアシラーゼを作用
させて、(S)−2−アミノ−1−ブタノールを採取す
る方法(DE 2446320、特開昭58−198296号) 、ラセミ
体2−アミノ−1−ブタノールにリパーゼを作用させて
N−カルバミル−2−アミノ−1−ブタノールを合成し
て光学分割する方法(EP 222561)、あるいは逆にN−
カルバミル−2−アミノ−1−ブタノールアセテートに
酵素を作用させて光学分割する方法(EP 239122)、リ
パーゼを用いてエステル交換で光学分割する方法(Bevi
nakattiら、Tetrahedron Asymmetry, 1, 583-6, 1990)
、3−アシル−4−エチル−2−オキサゾロンを
(+)−DIOP−RhCl触媒を用いて還元する方法(US 4
150030) などが知られている。
【0005】2−アミノ−1−プロパノールについては
DあるいはL−アラニンエステルを還元する方法(例え
ばCS 209151)、2−アミノ−1−プロパノールのエナ
ンチオマー混合物に馬肝臓由来のアルコールデヒドロゲ
ナーゼを作用させ、(R)−2−アミノ−1−プロパノ
ールを残存させる方法(Matosら、Bioorg. Chem., 13,12
1-130, 1985)が知られている。
【0006】以上述べたように、前記式(I)で表され
るアルコールのエナンチオマー混合物にシュードモナス
属の微生物を作用させ、式(II)で表される立体配置をも
つ光学活性アルコールを残存させ、残存する光学活性ア
ルコールを採取する方法は、今までまったく知られてい
なかった。
【0007】
【課題を解決するための手段】本発明者等は経済的に優
れ、かつ簡便な方法で光学純度の高い、前記式(II)で表
わされる光学活性アルコールを得る方法として、微生物
を作用させる方法に着目し、この目的に適した微生物を
広く自然界より検索した結果、シュードモナス属に属す
る微生物群から選ばれた微生物が、式(I)で表わされ
るアルコールのエナンチオマー混合物に作用し、式(II)
で表わされる光学活性アルコールを残存させることを見
出し、本発明を完成したものである。
【0008】すなわち本発明は、シュードモナス属に属
し、式(I)で表わされる構造のアルコールのエナンチ
オマー混合物に作用し、式(II)で表わされる立体配置を
もつアルコールを残存させうる能力を有する微生物、あ
るいはその処理物を、式(I)で表わされるアルコール
のエナンチオマー混合物に作用させ、残存する式(II)で
表わされる立体配置をもつアルコールを採取することを
特徴とする光学活性アルコールの製法、およびシュード
モナス属に属し、かつ、式(I)で表されるアルコール
のエナンチオマー混合物に作用し、立体特異的に一方の
エナンチオマーのアルコールを代謝、分解する能力を有
する微生物群から選ばれる新規な微生物を提供する。
【0009】本発明で用いられる式(I)で表されるア
ルコールとしては、例えば、2−アミノ−1−プロパノ
ール、2−アミノ−1−ブタノール、2−アミノ−1−
ペンタノールなどが挙げられる。
【0010】本発明に使用する微生物としては、シュー
ドモナス属(Pseudomonas)に属し、式(I)で表わされ
るアルコールのエナンチオマー混合物に作用し、式(II)
で表わされる光学活性アルコールを残存させる能力を有
する限り、特に制限されない。
【0011】具体的には、シュードモナス プチダ(Ps
eudomonas putida) TRB−2、TRP−4、シュード
モナス スピーシズ(Pseudomonas sp.)TRP−13株な
どが挙げられる。これらの微生物は、野性株、変異株、
または細胞融合、もしくは遺伝子操作などの遺伝的手法
により誘導される組み換え株など、いずれの株でも好適
に用いることができる。また、これらの微生物は、少な
くとも一種使用すればよい。
【0012】シュードモナス プチダ(Pseudomonas pu
tida) TRB−2、TRP−4、シュードモナス スピ
ーシズ(Pseudomonas sp.)TRP−13は、本発明者等が
自然界より分離したもので、式(I)で表わされるアル
コールのエナンチオマーの一方のみを立体特異的に代
謝、分解する能力の高い菌株であり、それぞれ微工研条
寄第3879号(FERM BP−3879) 、微工研条寄第38
80号(FERM BP−3880)、微工研条寄第3882号
(FERM BP−3882) として、1992年6月3日に工
業技術院微生物工業技術研究所に国際寄託されている。
以下にそれらの菌学的性質を示す。
【0013】 TRB−2株 TRP−4株 TRP−13株 (a) 形態 (1)細胞の形および大きさ 桿菌 桿菌 桿菌 0.5〜0.6 μm 0.6〜0.8 μm 0.5μm × ×1.5〜4.0μm ×1.0〜3.5μm 1.0〜2.5μm (2)運動性 + + + (3)グラム染色性 − − − (4)胞子の有無 − − − (5)鞭毛 極鞭毛、>1 極鞭毛、>1 極鞭毛、1 (b) 生理学的性質 (1)オキシダーゼ + + + (2)カタラーゼ + + + (3)アミノペプチダーゼ + + + (4)インドールの生成 − − − (5)VPテスト − − − (6)硝酸塩の還元 − − + (7)脱窒反応 − − + (8)ウレアーゼ ± N.T. N.T. (9)フェニルアラニンデアミナーゼ − − − (10)シュクロースからレバンの生成 − − − (11)レシチナーゼ − − − (12)チロシンの分解 + + N.T. (13)でんぷんの加水分解 − − − (14)ゼラチンの加水分解 − − − (15)カゼインの加水分解 − − − (16)DNAの加水分解 − − − (17)Tween80 の加水分解 − − − (18)エスクリンの加水分解 − − + (19)3%KOH による溶菌 + + + (20)酸素に対する態度 好気的 好気的 好気的 (21)4℃での生育 − − − (22)37℃での生育 + − + (23)41℃での生育 − − − (24)pH5.6 での生育 + + + (25)Mac-Conkey-Agar 培地での生育 + + + (26)SS-Agar 培地での生育 + + + (27)Cetrimid-Agar 培地での生育 + + + (28)色素の生成 蛍光性 + + − ピロシアニン − − − (29)OFテスト O O O (30)グルコースからガスの生成 − − − (31)酸の生成 グルコース + + + フルクトース + + + キシロース + + + (32)PNPG (β−ガラクトシダーゼ) − − − (33)アルギニンジヒドロラーゼ + + + (34)炭素源の利用 酢酸 + + + アジピン酸 − − + カプロン酸 + + + クエン酸 + + + グリコール酸 + − − レブリン酸 − + N.T. リンゴ酸 + + + マロン酸 + − − フェニル酢酸 − + + L−アラビノース + − − フルクトース + + N.T. グルコース + ± + マンノース + − − マルトース − − − キシロース + − − マンニトール + − − グルコン酸 + − ± 2−ケトグルコン酸 + − N.T. N−アセチルグルコサミン − − ± L−セリン + + − D−酒石酸 + − N.T. 馬尿酸 + − N.T. L−酒石酸 + − N.T. m−酒石酸 − + N.T. エタノール + − + 乳酸 + + + スベリン酸 − − − ベンジルアミン + − N.T. アドニトール + − − 酪酸 + N.T. + D−マンデル酸 − − N.T. トレハロース − − − D−グルカル酸 − N.T. − L−ラムノース − − N.T. シトラコン酸 + − N.T. ベンゾイルギ酸 − − − ブチルアミン − + N.T. m−イノシトール − − − L−マンデル酸 − − − トリプタミン − − N.T. イソ酪酸 − + N.T. セバシン酸 − − + ソルビトール − − − エリスリトール − − N.T. L−メチオニン N.T. − N.T. アセトアミド N.T. − − イタコン酸 N.T. − N.T. ピメリン酸 N.T. − N.T. シュクロース N.T. − − アゼライン酸 N.T. − + D−ガラクトース N.T. N.T. + ムコン酸 N.T. N.T. + ゲラニオール N.T. N.T. + プロピレングリコール N.T. N.T. + n−プロパノール N.T. N.T. + N.T.:試験を行っていない 以上の菌学的性質をバージーの細菌分類書〔Bergey's m
anual of SystematicBacteriology(1986)〕に基づいて
分類すると、TRB−2、TRP−4はシュードモナス
プチダ(Pseudomonas putida) と同定された。TRP
−13株は明確に該当する種がなく、シュードモナス属
(Pseudomonas sp.)に属する新菌種であることが明らか
となった。
【0014】本発明に用いる微生物を培養するための培
地は、その微生物が増殖しうるものであれば特に制限は
ない。例えば、炭素源としては、上記微生物が利用可能
であればいずれも使用でき、具体的には、グルコース、
フルクトース、シュクロース、デキストリンなどの糖
類、ソルビトール、グリセロール、 1,2−プロパンジオ
ール、 1,3−プロパンジオール、 1,2−ブタンジオー
ル、2−アミノ−1−プロパノール、2−アミノ−1−
ブタノールなどのアルコール類、フマール酸、クエン
酸、酢酸、プロピオン酸などの有機酸類およびその塩
類、パラフィンなどの炭化水素類など、あるいはこれら
の混合物を使用することができる。窒素源としては例え
ば、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、リン酸アン
モニウムなどの無機酸のアンモニウム塩、フマル酸アン
モニウム、クエン酸アンモニウムなどの有機酸のアンモ
ニウム塩、肉エキス、酵母エキス、コーンスティープリ
カー、カゼイン加水分解物、尿素、などの無機有機含窒
素化合物、あるいはこれらの混合物を使用することがで
きる。他に無機塩、微量金属塩、ビタミン類など、通常
の培養に用いられる栄養源を適宜混合して用いることも
できる。また、必要に応じて微生物の増殖を促進する因
子、本発明の目的化合物の生成能力を高める因子、ある
いは培地のpH保持に有効なCaCO3 などの物質も添加でき
る。
【0015】培養方法としては培地pHは 3.0〜10.0、好
ましくは4〜8、培養温度は20〜45℃、好ましくは25〜
37℃で、嫌気的あるいは好気的に、その微生物の生育に
適した条件下5〜120 時間、好ましくは12〜72時間程度
培養する。
【0016】式(I)で表わされるアルコールのエナン
チオマー混合物から式 (II)で表わされる光学活性なア
ルコールを生成する方法としては、培養液をそのまま用
い、該培養液に式(I)で表わされるアルコールのエナ
ンチオマー混合物を添加する方法、遠心分離などによ
り、菌体を分離し、これをそのまま、あるいは洗浄した
後、緩衝液、水などに再懸濁したものに、式(I)で表
わされるアルコールのエナンチオマー混合物を添加し反
応させる方法などがある。この反応の際、グルコース、
シュクロースなどの炭素源をエネルギー源として添加し
たほうがよい場合もある。また、菌体は生菌体のままで
もよいし、菌体破砕物、アセトン処理、凍結乾燥などの
処理を施したものでもよい。また、これらの菌体あるい
は菌体処理物を、例えばポリアクリルアミドゲル法、含
硫多糖ゲル法(カラギーナンゲル法など)、アルギン酸
ゲル法、寒天ゲル法など公知の方法で固定化して用いる
こともできる。さらに、菌体処理物から、公知の方法を
組み合わせて精製取得した酵素も使用できる。
【0017】式(I)で表わされるアルコールのエナン
チオマー混合物はそのまま、あるいは水に溶解し、また
は反応に影響を与えないような有機溶媒に溶解したり、
界面活性剤などに分散させたり、反応始めから一括にあ
るいは分割して添加してもよい。
【0018】反応はpH3〜10、好ましくはpH5〜9の範
囲で、温度は10〜60℃、好ましくは20〜40℃の範囲で、
1〜120 時間程度、攪拌下あるいは静置下で行う。基質
である式(I)で表わされるアルコールのエナンチオマ
ー混合物の濃度は特に制限されないが、1〜40重量%程
度が好ましい。また必要に応じてNaOH,CaCO3, HCl,H2S
O4 などで反応液のpHを保持すると、良好な結果が得ら
れる場合もある。
【0019】反応によって残存生成した式(II)で表わさ
れる光学活性アルコールの採取は、反応液から直接ある
いは菌体分離後、有機溶媒による抽出、蒸留、カラムク
ロマトグラフィーなどの通常の精製方法を用いれば容易
に行うことができる。また、反応の副生物にアルデヒ
ド、ケトールが生じる場合には、亜硫酸水素ナトリウム
で処理し、除去することも効果的な方法である。
【0020】
【実施例】以下、実施例にて本発明を具体的に説明する
が、本発明はこれら実施例にのみ限定されるものではな
い。尚、例中の%は特記しない限り重量基準である。
【0021】実施例1〜2 下記に示す菌体調製用培地50mlを500ml 容坂口フラスコ
に分注し、 121℃、15分間滅菌した。冷却後、シュード
モナス スピーシズ (Pseudomonas sp.)TRP−13株の
前培養液(下記に示す前培養培地を用い、5ml/φ21mm
試験管、30℃、24時間培養)を0.5 ml植菌した。30℃、
48時間振とう培養した後、遠心集菌し、生菌体を得た。
これを脱イオン水に懸濁し、25mlとなるようにした。表
1に示す各種ラセミ体アルコールの500mM 溶液をそれぞ
れ調製し(NaOHにて、中和し、pH7とした)、菌体懸濁
液2.5ml 、基質溶液2.5ml 、CaCO3 0.05gを混合し、φ
21mm試験管中30℃、12〜24時間振とう反応させた。反応
終了後遠心分離にて菌体を除去し上清を得た。得られた
上清中のアルコールの光学純度、それぞれのエナンチオ
マーの収率を表2及び表3に示す条件でそれぞれ測定し
た。尚、光学純度の測定はすべてダイセル化学工業
(株)製光学分割カラムを用いる高速液体クロマトグラ
フィーによった(φ4.6 ×250mm)。測定結果を表1に示
す。
【0022】<前培養培地> グルコース 0.5% 肉エキス 0.3% 酵母エキス 0.3% ポリペプトン 0.5% KH2PO4 0.07% (NH4)2HPO4 0.13% MgSO4・7H2O 0.05% pH7.2 <菌体調製用培地> ラセミ 1,2−プロパンジオール 1.0% 肉エキス 0.1% 酵母エキス 0.1% ポリペプトン 0.2% KH2PO4 0.07% (NH4)2HPO4 0.13% MgSO4・7H2O 0.05% pH7.2
【0023】
【表1】
【0024】
【表2】
【0025】注) *1 TSK-Gel ODS80-TM :東ソー(株)製、φ 4.6×25
0mm *2 KPB :カリウムリン酸緩衝液 SDS :ドデシル硫酸ナトリウム
【0026】
【表3】
【0027】注) *1 Phcb:フェニルイソシアネートを用いるフェニルカ
ルバモイル化 実施例3〜4 実施例1〜2のTRP−13株と同様にして、シュードモ
ナス プチダ(Pseudomonas putida) TRB−2株につ
いても全く同様の方法にて、ラセミ体アルコールと反応
させた。残存する光学活性アルコールの測定も同様にし
て行った。結果を表4に示す。
【0028】
【表4】
【0029】実施例5〜6 実施例1〜2のTRP−13株と同様にして、シュードモ
ナス プチダ(Pseudomonas putida) TRP−4株につ
いても全く同様の方法にて、ラセミ体アルコールと反応
させた。残存する光学活性アルコールの測定も同様にし
て行った。結果を表5に示す。
【0030】
【表5】
【0031】
【発明の効果】本発明の微生物を用いた光学活性アルコ
ールの製法は、簡便に光学純度の高い光学活性アルコー
ルを製造することを可能にさせるものであり、工業的に
極めて有利である。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (51)Int.Cl.7 識別記号 FI C12R 1:40) C12R 1:40)

Claims (1)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 シュードモナス属に属し、式(I)で表
    わされる構造のアルコールのエナンチオマー混合物に作
    用し、式(II)で表わされる立体配置をもつアルコールを
    残存させうる能力を有する微生物、あるいはその処理物
    を、式(I)で表わされるアルコールのエナンチオマー
    混合物に作用させ、残存する式(II)で表わされる立体配
    置をもつアルコールを採取することを特徴とする光学活
    性アルコールの製法。 【化1】 (式中、 nは0〜3の整数を示す。)
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