JP3279710B2 - 液晶光学素子 - Google Patents

液晶光学素子

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Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、液晶が高分子樹脂マト
リクス中に分散保持され、重合開始剤を用いて製造され
高分子分散型液晶を用いた液晶光学素子に関するもの
である。
【0002】
【従来の技術】近年、液晶分子の屈折率と同じ屈折率を
有する高分子に、ネマチック液晶を分散保持させた高分
子分散型液晶を、電極を有する上下一対の基板間に挟み
込み、電界の有無により、液晶の屈折率を変化させ、散
乱状態と透過状態とを切り換える液晶光学素子が、多く
の研究、開発者の注目を集めている(特表昭58−50
1631号公報、特開昭60−252687号公報、特
表昭61−502128号公報参照)。
【0003】図2は、この液晶光学素子の表示原理を示
す概略図である。電圧無印加状態(同図(a))では、
液晶24の分子軸がランダムな方向を向くため液晶領域
の屈折率が周囲の高分子25の屈折率と異なり、液晶
光学素子に入射した光(入射光22)は散乱光23とな
り、その結果、散乱状態が得られる。一方、透明電
1に電界を印加した状態(同図(b))では、液晶24
の分子軸が電界方向に配列し、基板に垂直に入射した光
に対しては、液晶領域の屈折率が周囲の高分子25の
屈折率とほぼ一致するため、液晶光学素子に入射した光
(入射光22)は、透過光26となり、その結果、透過
状態が得られる。
【0004】この高分子分散型液晶を用いた液晶光学素
子は、光の散乱を利用するため、偏光板を使用する必要
がなく、従来のツイステッドネマチック(TN)型の液
晶光学素子のように、直線偏光を得るために、偏光板を
使用しなければならない液晶光学素子に比べ、明るく、
視野角の広い表示が可能になる。
【0005】高分子分散型液晶の製造法には、高分子と
液晶を共通の溶媒に溶解し、基板上にキャストする溶媒
キャスト法(J.Membrance Sci.,vol.11,p.39-52,Jan.,1
982) 高分子多孔質膜の空孔中に、液晶を含浸させる
含浸法(Applied physicsLetters,vol.48,no.1,p.22-2
4,Jan.1982)、高分子の水溶液に液晶を乳化、分散させ
てキャストする乳化法(SID Int.Symp.Dig.Tech.,vol.1
6.p.68,1985)、液晶と重合性モノマーの均一溶液を作
り、これを重合によって相分離し、相分離構造を形成す
る重合法(Applied physics Letters,vol.48,no.4,p.26
9-271,Jan.1985)等がある。
【0006】これらの製造法のうち、含浸法は、工業的
に応用した例は少ない。乳化法、溶媒キャスト法、重合
法は応用例はあるが、高分子分散型液晶を液晶光学素子
等ディスプレイ用に応用する場合、高分子分散型液晶を
電極を有する基板上に形成し、精密に上下一対の基板の
位置を合わせる必要があり、分散溶媒である水や溶剤を
基板上で揮発する必要のある乳化法、溶媒キャスト法で
は基板の貼り合わせが困難でる。従って、ディスプレイ
に応用する際には、溶媒を必要としない重合法が適して
おり、特に、重合時間が短く、製造が極めて簡単に行え
る光重合法がよく用いられ、投射型ディスプレイへの応
用が検討されている(特開平1−229232号
)。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】ところが、重合法によ
って作製した高分子分散型液晶では、重合が十分でな
く、重合開始の未重合の物質がその内部に残存する場
合がしばしば起こる。このような未重合物質が残存した
高分子分散型液晶を用いた液晶光学素子を投射型ディス
プレイ等のディスプレイに応用した場合、光源等からの
光によって、上記未重合物質が不純物となり、液晶材料
や高分子材料の光劣化反応を誘発し、その結果、液晶光
学素子の表示性能の劣化を引き起こす。
【0008】
【課題を解決するための手段】本発明の液晶光学素子
は、液晶が高分子樹脂マトリクス中に分散保持され、所
定の波長の領域に吸収帯を有する重合開始剤を用いて製
造された高分子分散型液晶を一対の電極付き基板間に挟
持して成る液晶光学素子において、 前記高分子分散型液
晶中に残存した前記重合開始剤への光を遮断する前記所
定の波長の光カット手段が設けられている液晶光学素子
である。
【0009】
【課題を解決するための手段】本発明の液晶光学素子
は、液晶と重合性の高分子材料及び重合開始剤から成る
組成物を、少なくとも一方が透明な電極を有する一対の
基板間に挟持し、光照射によって重合を行い作製した液
晶光学素子に、残存した重合開始剤への光を遮断する所
定の波長の光カット手段を備え付けた液晶光学素子であ
る。
【0010】
【作用】高分子分散型液晶を用いた液晶光学素子に残存
した重合開始剤への光を遮断する所定の波長の光カット
手段を備えることで、重合完了後に高分子分散型液晶中
に残存した未重合の物質への光吸収を遮断することがで
きる。その結果、光による液晶材料や高分子材料の劣化
は起こらず、従って、液晶光学素子の信頼性が大幅に向
上する。
【0011】
【実施例】以下、本発明の実施例について図面を参照し
て説明する。
【0012】図1は、本発明の一実施例にかかる高分子
分散型液晶を用いて作製した液晶表示素子の概略を示す
図である。その基本的製造方法は、インジウム・錫酸化
物よりなる透明電極15を形成した上下一対の基板1
1、12を用意し、スペーサ兼シール樹脂17を介して
貼り合わせ、空セルを完成する。その後、空セルの開口
部より液晶13と未重合の紫外線重合の未重合高分子
材料14を加熱、撹拌した溶解物を注入する。注入後、
開口部を封止し、紫外線により樹脂を重合させ、いわゆ
る高分子分散型液晶からなる液晶セルを作製した。この
ように作製した液晶セルに、図9に示す光透過特性を有
する紫外線カットフィルター16(東芝色ガラスフィル
ター:商品名Y−43)を備え付け、本発明の液晶光学
素子を完成した。
【0013】以下、具体的実施例をあげさらに詳しく説
明する。
【0014】インジウム・錫酸化物よりなる透明電極を
形成したガラス基板を2枚用意し、図3に示すようにそ
の片方の支持板(例えば下側基板32)の表面にスペー
サ兼シール樹脂33として直径13μmのガラス繊維を
分散した酸無水物硬化型エポキシ樹脂を1辺のみ辺の中
央に5mmの幅を残して他の周辺に0.2mm幅で印刷
した上で、上側基板31と下側基板32を対向させた状
態で加圧し、140℃で4時間加熱して硬化接着し、空
セルを完成した。
【0015】次に、液晶材料として、メルク(株)製液
晶(商品名:ZLI−4792)を8.200g、高分
子形成モノマーとして、アクリル系モノマーを0.95
4g、オリゴマーとしてアクリル系のオリゴマーを0.
808g、光重合開始剤としてベンジルジメチルケター
ル(日本化薬(株)製)を0.038gを用意し、上記
した成分から成る組成物を55℃で十分撹拌し、溶解物
(以下溶解物Aとする)を調整した。図4〜図6に上記
構成成分の光吸収スペクトルを示す。すなわち、図4は
液晶材料(ZLI4792)の光吸収スペクトル、図5
はモノマー材料の光吸収スペクトル、図6はオリゴマー
材料の光吸収スペクトルを示す。光吸収スペクトルは、
石英セルを用いて測定した。
【0016】次に、上記した製造法で作製した空セルに
55℃で、その開口部34から溶解物Aを注入した。注
入完了後、開口部34を封止し、55℃で、光源に高圧
水銀を用い、紫外線(24.5mW/cm2)を10秒
照射し、高分子分散型液晶からなる液晶光学素子(以下
液晶光学素子Aとする)を作製した。こうして作製した
液晶光学素子内の高分子分散型液晶の光吸収を調べるた
め、高分子分散型液晶を挟持する基板だけを石英基板に
変え、同様の操作により液晶光学素子(以下液晶光学素
子Bとする)を作製した。
【0017】液晶光学素子Bの光吸収スペクトルを図8
(a)に示す。スペクトルは、図4の液晶のスペクトル
に類似した形になっているが、より長波長側にテイル
(尾)を引いた形となっており、その波長領域から考え
ると、高分子分散型液晶中に重合開始剤が残存している
ことが分かる(図7に示すように、用いた重合開始剤
は、300〜400nmに吸収帯を有する)。次に、液
晶光学素子Aの表示面に、図9に示す光透過特性を有す
る紫外線カットフィルター(東芝色ガラスフィルター:
商品名Y−43)を備え付け目的とする液晶光学素子
(以下液晶光学素子Cとする)を完成した。こうして完
成した液晶光学素子Cについて、図10に示す分光特性
を有するキセノンランプ(出力6kW,放射照度610
W/m2)を用いて、光暴露試験を行った。その結果を
(表1)に示す。
【0018】
【表1】
【0019】液晶光学素子Cの特性評価は、フレーム周
期30Hz、電圧±5V、ON時間60μsecの矩形
波を液晶光学素子に印加したときの電圧の保持特性の変
化を指標にして調べた。電圧の保持特性は、電圧保持率
として定量化し、ON時間内に蓄積された電圧が、その
後フレーム期間に渡り電圧変化が全く起こらないものを
電圧保持率100%とした。液晶光学素子の性能の劣化
により、電圧の保持特性が悪くなるに従って、電圧保持
率は徐々に低下する。測定温度は、40℃である。(表
1)から、今回作製した液晶光学素子Cの電圧保持率
は、キセノンランプ1000時間暴露後も、ランプ暴露
前の電圧保持率とほとんど変化無く、液晶光学素子の性
能は劣化していないことが分かる。 (比較例1) 実施例1記載と同種、同量の液晶、モノマー、オリゴマ
ー及び光重合開始剤を使用し、実施例1と同様の操作に
より高分子分散型液晶からなる液晶光学素子を作製し
た。この液晶光学素子中の高分子分散型液晶の光吸収ス
ペクトルは、図8のaと同じものであった。この液晶光
学素子には、紫外線カットフィルターを備え付けていな
い。この液晶光学素子について、実施例1に記載した同
様の光暴露試験を行った。結果を(表1)に示すが、暴
露時間が、5時間で、すでに電圧保持率が暴露前の約半
分に低下し、液晶光学素子の性能は大きく劣化している
ことが分かる。
【0020】尚、使用する液晶材料は、上記したZLI
−4792に限定されるものではなく種々のネマチック
液晶さらにはコレステリック液晶等を用いてもよい。今
回の実施例では、高分子分散型液晶中の液晶の割合は、
82重量%にしているが、これに限定されるものでな
い。高分子形成モノマーとしては、今回用いたアクリル
系モノマーに限定されるものではなく、一般に市販され
ているアクリル系以外の市販品も応用可能である。オリ
ゴマーも上記したアクリル系のオリゴマーに限定される
ものでない。
【0021】また、重合開始剤もベンジルジメチルケタ
ール(日本化薬(株)製)に限定されるものでなく、メ
ルク(株)製のダロキュア1173、ダロキュア111
6やイルガキュア651(チバガイキー(株)製)など
でもよい。
【0022】また、本発明の実施例では、紫外線カット
フィルターを液晶光学素子の表示面の片面に設けたが、
両面に設けても構わないし、設置法は、本発明の実施例
のように、高分子分散型液晶の支持基板に直接接する形
でもよいし、それ以外に基板と紫外線カットフィルター
間に間隔をおいて設置してもよい。また、ガラス基板の
代わりに、紫外線吸収剤を予め含有したフィルム基板を
用いても同様の効果が得られる。
【0023】
【発明の効果】以上述べたところから明らかなように、
本発明は、高分子分散型液晶を用いた液晶光学素子に
残存した重合開始剤への光を遮断する所定の波長の光カ
ット手段を備えることで、液晶光学素子の信頼性を大幅
に向上できるものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の液晶光学素子の一実施例の構成を示す
断面図である。
【図2】高分子分散型液晶を用いて作製した液晶光学素
子の表示原理を示す概略図である。
【図3】本発明の液晶光学素子の一実施例の概略を示す
平面図である。
【図4】実施例1に記載した、液晶材料(ZLI479
2)の光吸収スペクトルを示す図である。
【図5】実施例1に記載した、モノマー材料の光吸収ス
ペクトルを示す図である。
【図6】実施例1に記載した、オリゴマー材料の光吸収
スペクトルを示す図である。
【図7】実施例1に記載した、重合開始剤(ベンジルジ
メチルケタール)の光吸収スペクトルを示す図である。
【図8】実施例1及び比較例1に記載した作製条件によ
り完成した高分子分散型液晶の光吸収スペクトルを示す
図である。
【図9】実施例1に記載した紫外線カットフィルターの
光透過特性を示す図である。
【図10】暴露試験に用いたキセノンランプの分光特性
を示す図である。
【符号の説明】
11 上側基板 12 下側基板 13 液晶 14 高分子材料 15 透明電極 16 紫外線カットフィルター 17 スペーサ兼シール樹脂 21 透明電極 22 入射光 23 散乱光 24 液晶分子 25 高分子 26 透過光 31 上側基板 32 下側基板 33 スペーサ兼シール樹脂 34 開口部
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (56)参考文献 特開 平2−208629(JP,A) 特開 昭56−168635(JP,A) 特開 昭52−73757(JP,A) 実開 昭61−4927(JP,U) (58)調査した分野(Int.Cl.7,DB名) G02F 1/1335

Claims (1)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 液晶が高分子樹脂マトリクス中に分散保
    され、所定の波長の領域に吸収帯を有する重合開始剤
    を用いて製造された高分子分散型液晶を一対の電極付き
    基板間に挟持して成る液晶光学素子において、 前記高分子分散型液晶中に残存した前記重合開始剤への
    光を遮断する前記所定の波長の光カット手段が設けられ
    ていることを特徴とする液晶光学素子。
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