JP3254032B2 - レールエンクローズアーク溶接用被覆アーク溶接棒 - Google Patents

レールエンクローズアーク溶接用被覆アーク溶接棒

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JP3254032B2
JP3254032B2 JP05261293A JP5261293A JP3254032B2 JP 3254032 B2 JP3254032 B2 JP 3254032B2 JP 05261293 A JP05261293 A JP 05261293A JP 5261293 A JP5261293 A JP 5261293A JP 3254032 B2 JP3254032 B2 JP 3254032B2
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Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、鉄道レール又はクレー
ンレールのエンクローズアーク溶接に用いる被覆アーク
溶接棒に関するものである。
【0002】
【従来の技術】図1はレールの断面を示し、1は足部、
2は腹部、3は頭部、4は頭表面である。従来からレー
ルの突き合わせ溶接又は肉盛溶接では接合レール端面を
開先加工して逐次多層溶接する方法、あるいはI開先で
突き合わせた後、レール足部を多層溶接し、その後、腹
部2、頭部3をエンクローズ当金材で取り囲み、連続的
に溶接するエンクローズアーク溶接法が多用されてい
る。又、レールの頭表面4の硬化肉盛溶接、レールの局
部的なキズ、摩耗部分を肉盛補修する方法などがある。
【0003】レールは、その使用目的から頭表面では車
輪ところがり接触に対する耐摩耗性と、疲労亀裂に対す
る耐疲労損傷性の大きいことが要求される。一方、足部
と腹部では車輪通過時の衝撃と曲げ荷重に耐え得るだけ
の静的強度と疲労強度が要求される。更に溶接割れなど
の溶接欠陥についても極力少なくする必要がある。
【0004】現在、世界の鉄道用普通レールの化学成分
は、C:0.40〜0.82%、Si:0.05〜0.
35%、Mn:0.60〜1.25%を含有しており、
パーライト組織となっている。更に最近レールに関する
研究が活発になされ、耐摩耗性、疲労損傷性の改善には
パーライト組織の金属が最も優れ、かつ高硬度で、炭素
含有量が多いほど優れた性能を示すことが明らかとなっ
た。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】本発明者らは、上記知
見を基にレール母材と同一の化学成分を有する溶着金属
が得られ、溶着金属組織もパーライト組織となり、かつ
溶着金属の耐割れ性、溶接欠陥発生が少なく溶接作業性
の良好なレールエンクローズアーク溶接棒の研究を進め
た。その結果、特開昭63−160799号公報、特開
平1−266990号公報、特開平2−229693号
公報及び特開平2−258193号公報で明らかの通
り、高炭素系レールエンクローズアーク溶接棒の技術を
確立した。現在、本発明により製造されたレールエンク
ローズアーク溶接棒は、好評の内に使用されレール継手
部の追跡調査において溶着金属の耐摩耗性、耐割れ性な
ど満足する結果が得られている。
【0006】しかしながら通常の状態での施工では問題
はないが実施工数が増加するにつれ多様な条件で施工さ
れるようになった。そのなかでレール敷設作業に伴うレ
ール溶接作業において、高架上のレール溶接作業、片側
運転中の溶接作業がある。これらの環境では、高架及び
列車通過時の強風発生など苛酷な条件での溶接作業とな
る。しかもレール敷設作業では、軌道上には付帯設備、
例えば防風設備などの設置は困難であり、溶接箇所に適
切な防風処置はとれないのが現状である。その結果、特
にレール足部の多層溶接部にブローホールが発生する。
一方腹部、頭部の溶接ではブローホール発生は認められ
ない。足部多層溶接は、なんら防風処置はできないが腹
部、頭部の溶接では、銅当金で溶接部分を囲って溶接す
ることから強風下においても防風処置は十分であり、溶
接部のシールドも正常な状態を保ち得るのでブローホー
ルの発生はない。これらのことからブローホール発生原
因はシールド不足によるものである。
【0007】本発明はこのような状況から、苛酷な条件
下においても耐ブローホール性の優れた溶接棒を提供す
る。即ち、合金剤、スラグ生成剤及び被覆剤中の炭素量
の検討を行った結果、適正な炭酸塩、金属フッ化物及び
グラファイト量を調整することにより耐ブローホール性
の優れたレールエンクローズアーク溶接用被覆アーク溶
接棒を提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するため
に本発明は、重量%でC:0.03〜1.5%、P+
S:0.015%以下を含有する鋼心線の外周に、炭酸
塩:52〜65%、金属フッ化物:17〜27%、ルチ
ール:0.5〜6.5%、グラファイト:0.3〜7.
0%、その他として塗装剤、アーク安定剤を含有し、か
つ、被覆剤中のCaO/CaF2 の比が1.4〜2.0
の範囲にある被覆剤が溶接棒全重量に対して15〜35
%被覆され、溶接棒全重量でC:0.35〜1.5%、
Si:0.2〜2.2%、Mn:0.6〜2.5%含有
することを必須とし、更に必要に応じて、Cr:1.3
%以下、Mo:0.3%以下、V:0.3%以下、N
b:0.1%以下、Ni:2.0%以下、Cu:0.3
%以下でこれらの1種又は2種以上を含有することを特
徴とするレールのエンクローズアーク溶接用被覆アーク
溶接棒である。
【0009】
【作用】以下に本発明のレールエンクローズアーク溶接
用被覆アーク溶接棒の限定理由について詳細に説明す
る。まず、鋼心線の炭素量については0.03%未満で
は、アークの吹き付けが弱くなり溶融スラグが溶接棒先
端にからみ安定した溶接ができない。又、その結果スパ
ッタが増加するなど好ましくない。しかし、1.5%超
では、溶着金属の炭素量が高くなり溶着金属に割れが発
生する。又、心線に1.5%の炭素量があれば本発明の
目的とする溶着金属炭素量には十分であることから心線
の炭素量は0.03〜1.5%の範囲に規定した。
【0010】次に鋼心線中のP+S量であるが、一般的
に溶接金属中の炭素量が高いと凝固割れ感受性が高くな
ることはよく知られている。高炭素系溶着金属中に発生
した微小な凝固(高温)割れについてその割れ先端部分
と、健全部の溶着金属との主要成分をX線マイクロアナ
ライザーで比較検討した結果、割れ先端部分では、健全
部の成分と比較してCで2倍、Pで3倍及びS約10倍
の局部偏析が認められた。凝固割れについては、この富
化された部分の濃度レベルを低くし、割れ発生の危険性
を軽減するには、C,P及びSの全体の平均濃度を軽減
することが大切である。しかし、本発明の主旨から炭素
量は、レール母材と同程度のレベルが不可避であり、
P,Sの低減に主眼をおいて検討を進めた。図2に0.
7C−0.7Si−0.9Mn−0.25Cr系の溶着
金属をベースにP,Sの異なる溶接棒を用いU溝スリッ
ト1パス割れ試験を行いP,S量と凝固割れの関係を調
査、整理した結果を示す。この図から明らかのように、
溶着金属中のP,S量と凝固割れ発生率を見ると、溶着
金属中のP+S量が0.015%を境に増加すると凝固
割れが急激に増加する。本発明はこのような知見に基づ
いてなしたものである。即ち、不純物である溶着金属中
のP+S量は、溶接材料及び溶接母材から富化される
が、特に溶接材料、ここでは溶接棒のP+S量に支配さ
れる。
【0011】溶接棒は、合金剤、スラブ剤などの被覆剤
及び鋼心線で構成されているが、溶着金属に及ぼす被覆
剤からのP+S量の増加は微量であり、鋼心線からのP
+S量を十分規制することが溶着金属中のP+S量の軽
減に効果的である。溶着金属中のP+S量を0.015
%以下に規制するには、溶接棒、特に心線中のP+S量
を0.015%以下の心線を用いれば被覆剤及び心線か
らのP+S量はスラグなどに一部取り込まれることを考
慮して溶着金属中のP+S量は0.015%以下にする
ことが可能となり、溶着金属の割れも少なくなるので心
線中のP+S量を0.015%以下と規定した。
【0012】次に被覆剤の組成を規定した理由について
述べる。炭酸塩(本発明で言う炭酸塩とは主に炭酸カル
シウム、炭酸バリウム、炭酸マグネシウムであり、本発
明ではその1種又は2種以上を組合せて用いる。)は、
溶接時に炭酸ガスを発生し、溶融プールを大気より遮断
するためピット、ブローホールの発生防止に著しい効果
がある。しかも炭酸カルシウムを例にとると、配合量の
半分が溶接中に分解して炭酸ガスを発生し、溶融プール
を大気から遮断し、ブローホール、ピット発生を防止す
る。又、エンクローズアーク溶接では、安定したアーク
を持続できる程度に極力スラグ量を少なくする必要があ
り、炭酸塩から発生するスラグ量は溶接中にCO2 分解
することにより配合量の半分程度がスラグになる程度で
スラグ量の発生を少なくすることができる。又、アーク
安定性及びスラグ剥離性の改善に効果があり、スラグの
粘性調整にも著しく効果は大きいことから溶接棒の主要
な原材料として使用されている。しかし、炭酸塩52%
未満では、前述した強風下での溶接作業ではシールドが
不十分であり、ブローホールが発生する。又、65%超
では、スラグ量が多くスラグ粘性も高くなり、安定した
溶接ができない。銅当金で溶接部を囲いその中を連続的
に溶接するエンクローズアーク溶接では、アーク安定性
を損なわない程度のより少量のスラグと、アーク直下の
スラグがスムースに溶接後方に排除することが重要であ
るがスラグ量及びスラグ粘性過多となり安定した溶接が
できないことから、被覆剤中の炭酸塩量を52〜65%
の範囲に規定した。
【0013】金属フッ化物(本発明で言う金属フッ化物
とは、主としてフッ化カルシウム、フッ化ナトリウム、
フッ化マグネシウムであり、本発明ではその1種又は2
種以上を組合せて用いる。)は、スラグの粘性、流動性
調整に効果があり、金属フッ化物を適正に調整すること
で溶接ビードの広がりが大きくなる。しかし、金属フッ
化物の1種又は2種以上が17%未満では、スラグ流動
性が悪く溶接棒先端にスラグがからみ安定した溶接がで
きない。27%超では、スラグ量が過多となること及び
粘性が低くなり、スラグ流動性が大きくなることから、
溶接前方に必要以上にスラグが流失し安定した溶接がで
きないので被覆剤中の金属フッ化物量の範囲を17〜2
7%に規定した。
【0014】ルチールは、スラグ粘性を良好に保ちアー
ク安定性に効果がある。しかし、0.5%未満では、そ
の効果も十分でなくスパッタの発生など問題が多い。
6.5%超では、スラグ粘性が大となり、安定した溶接
ができない。又スラグの軟化点を測定すれば他の材料に
比べ、ルチールのスラグ軟化点に及ぼす影響が大きく支
配的であり、被覆剤中のルチール量の範囲を0.5〜
6.5%に規定した。
【0015】グラファイトは、溶着金属の加炭剤として
一般的に使用される。本発明では、このグラファイトは
安定して炭素を調整する加炭剤として又、溶接雰囲気中
の酸素と反応し、炭酸ガスを多量に発生させてシールド
効果を向上させる効果に、着目した。しかし、0.3%
未満では、シールド効果も十分でなくブローホールの発
生が見られた。7.0%超では、グラファイトは比重が
他の原料に比べ軽く容量が多量となるため混合しても偏
析を起こし均一な混合ができないことから加炭剤として
溶着金属の炭素量が安定しない、又、心線への被覆の固
着が悪くなるので被覆剤中のグラファイト量の範囲を
0.3〜7.0%に規定した。
【0016】次に被覆剤中のCaO/CaF2 の比を規
定した理由について述べる。本発明者らは、既に特開平
1−266990号公報、特開平2−229693号公
報及び特開平2−258193号公報で開示した如くル
チール量及びCaO/CaF2 の比とスラグ軟化点に明
瞭な関係があることを見いだし、ルチール量及びCaO
/CaF2 の比を限定することでレールエンクローズア
ーク溶接用として優れた溶接作業性を有する被覆アーク
溶接棒を開発、提供した。しかし、本発明者らは更に被
覆アーク溶接棒の開発を進めた結果、ルチール量が0.
5〜6.5%の範囲に限定することで、図3で明らかの
ようにCaO/CaF2 の比によるスラグ軟化点が変化
し、更に溶接作業性、特にスラグ流動性が良好となるこ
とを見いだした。即ち、CaO/CaF2 の比が1.4
未満ではスラグの軟化点が高くなりスラグ流動性に欠
け、溶接プール近傍からスムースにスラグが排除されず
棒先端にからむなど安定した溶接ができない。一方2.
0超では、溶接スラグの軟化点が再び高くなり、スラグ
流動性に欠けることから安定した溶接ができないのでC
aO/CaF2 の比を1.4〜2.0の範囲に限定し
た。尚、ここで言うスラグの軟化点とは、粉砕した溶接
スラグを2mm×2mm×3mmの形状にプレスし、固めた試
料を大気中で加熱、溶融させた試料がもとの高さの1/
2になった温度を、その試料の軟化点と規定した。
【0017】次に、被覆剤を溶接棒全重量に対して15
〜35%塗布する理由について述べる。被覆率は下記
(1)式で求める。
【0018】
【数1】 (1)式で計算される被覆率が15%未満では、保護筒
も弱く溶接中に被覆の欠落が発生し、シールドが十分で
きないことからスパッタが多量に発生する。又、35%
超では、スラグ量が増加し溶融プールから溶融スラグの
スムースな排除ができず安定した溶接ができないので
(1)式で求められる被覆率を15〜35%の範囲に規
定した。
【0019】次に溶接棒全重量の合金成分を規定した理
由について述べる。Cは、溶着金属にレール母材と類似
のパーライト組織を生成させるための必須成分である。
又、溶着金属を高炭素系C:0.3〜1.0%に調整
し、その凝固温度をレール母材とほぼ同レベルに調整す
ることで溶融境界層における高温液化割れを防止するも
のである。しかし、溶接棒全重量で0.35%未満で
は、溶着金属の炭素量が0.3%以下になることがあ
り、レール母材との溶融境界部に高温液化割れが発生す
ること。又、溶着金属組織に、ベーナイト組織などが析
出し、目的とするパーライト組織にならない。又、1.
5%超では、溶着金属の炭素量が1.0%を超えること
があり、溶着金属に初析セメンタイトが析出して溶着金
属が脆化し、耐割れ性が問題となるので溶接棒全重量に
対するC量を0.35〜1.5%の範囲に規定した。
【0020】Siは、脱酸剤としての効果、パーライト
組織におけるフェライトを強化して強度を上昇させ耐疲
労損傷性を向上させる。しかし、溶接棒全重量のSiが
0.2%未満では、脱酸効果も十分でなくブローホー
ル、ピットの原因となる。又2.2%超では、溶着金属
のSi量が1.0%を超え継手性能の劣化と、溶接作業
性の面でスラグ粘性が高くなりすぎ、安定した溶接がで
きなくなることから溶接棒全重量のSi量を0.2〜
2.2%の範囲に規定した。
【0021】Mnは、Si同様に脱酸剤としての効果と
Mnはパーライト変態を遅滞させる元素であって、添加
量によりパーライト変態の開始が変化し、強度も変化す
るので溶着金属のMn量は、レール母材のMn量とほぼ
同量に調整する必要がある。溶接棒全重量のMn量が
0.6%未満では溶着金属のMn量が低くなり溶着金属
の強度低下、延性の劣化となる。又、2.5%超では、
溶着金属中のMn量が過多になり溶着金属中に析出した
マルテンサイトをパーライトに変態する後熱処理が著し
く困難になるので溶接棒全重量のMn量を0.6〜2.
5%の範囲に規定した。
【0022】レール母材が前記C,Si,Mnの他に必
要に応じてCr,Mo,V,Nb,Ni及びCuなどの
内1種又は2種以上含有する場合は、溶着金属中にも同
レベルもしくはそれ以下の量を添加する必要がある。即
ち、Cr,Mo,Vの場合はMnと同様にパーライト変
態を遅滞させる元素であり、添加量によりパーライト変
態の開始が変化し強度も変化する。又、溶接のまま、溶
接後の熱処理によってレール母材と類似の金属組織、硬
さ及び継手引張強さが得られない。従って溶接棒全重量
のCr,Mo,V量は、Cr:1.3%以下、Mo:
0.3%以下、V:0.3%以下の範囲に規定した。
【0023】Nbは、パーライト変態の終了時間を大幅
に短縮させる元素であるため溶接後の冷却中に生成され
る有害なマルテンサイト析出を防止する効果がある。し
かし、溶着金属のNb量が0.1%を超えると巨大な炭
化物、窒化物が生じ靭性、疲労強度を劣化させるので溶
接棒全重量のNb量を0.1%以下の範囲に規定した。
【0024】Cuは、耐食性の改善に効果があり、レー
ル母材の耐食性の改善を目的に添加されることもあり、
通常0.3%以下のCuの添加をする。溶着金属におい
てもレール母材と同量の添加が必要であるが0.3%超
では、熱間脆性を起こし表面疵が発生するので溶接棒全
重量でCu量を0.3%以下の範囲に規定した。
【0025】Niは、溶着金属に添加すると延性、靭性
の改善に効果があるが、レール母材の場合、延性、靭性
が低くても使用可能であり、レール母材に添加されるこ
とは少ない。しかし、溶着金属には、上記改善効果を目
的に添加できるが溶接棒全重量のNiが2.0%を超え
ると溶着金属に凝固割れが発生しやすくなるので溶接棒
全重量のNi量を2.0%以下の範囲に規定した。
【0026】以上詳述したように、本発明のレールエン
クローズアーク溶接棒は高架上及び列車通過時の強風下
においてもブローホールの発生が少なく溶接欠陥の少な
い溶接が可能となり、溶接後適切な後熱処理を施すこと
によりレール母材と同等の強度と金属組織が得られレー
ル溶接の問題点を解決したレールエンクローズアーク溶
接棒である。以下に実施例により、本発明の効果を更に
具体的に説明する。
【0027】
【実施例】表1にエンクローズアーク溶接用被覆アーク
溶接棒の成分組成(溶接棒の化学成分は、特定成分のみ
記載)を示す。棒寸法は全て5.0×450mmとした。
表2に使用した鋼心線の成分組成(特定成分のみ記
載)、表3に試験に供したレール母材を示す。溶接棒の
評価方法は、I開先に加工したレールを400〜500
℃の予熱を行い溶接電流220A(電源特性:DCE
P)で足部溶接、その後、銅当金で囲いエンクローズ溶
接を腹部及び頭表面に実施した。溶接完了後、多孔バー
ナで800〜1000℃に加熱し放冷した。その後、レ
ール継手部の断面マクロを研磨後、PT試験及び光学顕
微鏡で観察し、割れの有無を確認した。割れが認められ
ないものは○印、認められるものは×印とした。溶接棒
のブローホール試験は、レール母材上に300℃予熱
後、大型送風機で溶接アークに強烈な風を直接当てた状
態で、ビード長さ200mmの1層5パス溶接を行いX線
によるブローホール観察を行い、ブローホールの発生が
ないものは○印、ブローホールの発生が認められたもの
は×印とした。
【0028】これらの結果を表4に示す。
【0029】
【表1】
【0030】
【表2】
【0031】
【表3】
【0032】
【表4】
【0033】
【表5】
【0034】
【表6】
【0035】
【表7】
【0036】本発明例で示した溶接棒記号ER−1〜E
R−10は、溶接作業性も、特に高架上及び列車通過時
に発生する強風下での溶接作業においても溶着金属にブ
ローホールの発生もなく良好であり、かつ、溶接金属、
熱影響部にも割れが発生せず健全なレール溶接継手性能
が得られた。
【0037】一方比較例で示したER−11は、本発明
から被覆率が上限を超えスラグ量が過多に発生し、スラ
グの溶接プールからのスムースな排除ができない。又、
溶接棒のSi,Mn量が低く、溶着金属にブローホール
が発生するなど溶接作業性に問題があった。溶接棒記号
ER−12は、被覆率、ルチールの量が本発明の上限を
超え、又、CaO/CaF2 比及び溶接棒中のSi,M
n量が本発明範囲の下限を割っている。被覆率は上記E
R−12と同様にスラグ量が過多になり、ルチール量が
多くCaO/CaF2 比が低いことから溶接スラグの軟
化点が高くスラグ流動性に欠け溶接作業性が悪い。又、
Si,Mn量が少ないことから溶着金属にブローホール
が認められた。溶接棒記号ER−13は、被覆率、溶接
棒中のSi量が低いことから、スラグ量が少なく保護筒
も生成されずスパッタが多くなるなど安定した溶接がで
きない。しかもCaO/CaF2 比が低いので溶接スラ
グの軟化点が高くスラグ流動性に欠け溶接作業性が悪
い。又、使用心線は、表2の心線記号Eであり、P+S
量が本発明の上限を超えていることから溶着金属に凝固
割れが認められた。
【0038】溶接棒記号ER−14は、炭酸塩が下限を
割って溶接棒中のMn,V及びCu量が多いこと又、使
用心線のP+S量が本発明の上限を超えている。これら
のことからブローホールの発生が認められ、心線中のP
+S量及びV,Cu量が多いため溶着金属に割れが認め
られた。溶接棒ER−15は、金属フッ化物が上限を超
えCaO/CaF2 比が下限を割っている。又、溶接棒
中のNb,Cuが上限を超えているのでCaO/CaF
2 比による溶接スラグの軟化点が高く、スラグ流動性が
悪くなりしかも金属フッ化物が多いため、そのスラグ量
が多くなるためブローホールなどの発生、溶接棒先端に
スラグがからむなど安定した溶接ができない。又、溶接
棒中のNb,Cuが多く溶着金属にNb炭化物の析出が
認められると同時に微小な割れも認められた。溶接棒E
R−16は、金属フッ化物が下限を割ってCaO/Ca
2 比及び溶接棒中のSiが上限を超えていることから
溶接スラグの軟化点が高くスラグの粘性が大きくなりス
ラグ流動性に欠け安定した溶接ができない。又、溶接棒
中のMn量が上限を超え使用心線のP+S量が多いこと
から溶着金属に割れが認められると同時に残留オーステ
ナイトが認められ目標とするパーライト組織にならなか
った。
【0039】溶接棒ER−17は、溶接棒中のC量が下
限を割っており、Cr,Nb量が上限を超えていること
から溶着金属のC量が本発明の下限である0.3%を割
ったため凝固割れが認められた。又、Cr量が多く金属
組織にマルテンサイトが析出し、目的とするパーライト
組織にならなかった。溶接棒ER−18は、溶接棒中の
Mo,Ni量が上限を超えていることから溶着金属の引
張強さが大きくなり過ぎることと微小な凝固割れが認め
られた。溶接棒ER−19は、溶接棒中のC量が低く使
用心線のP+S量も多いことから溶着金属に凝固割れが
認められた。
【0040】
【発明の効果】以上述べたように本発明によるレールエ
ンクローズアーク被覆アーク溶接棒は、苛酷な溶接環境
においても良好な溶接作業性を示し、レール継手性能も
良好であり、レール溶接の信頼性を大幅に向上し得るこ
とが可能となりその工業的価値は極めて大きい。
【図面の簡単な説明】
【図1】レール母材の断面図である。
【図2】溶接棒中のP+S量と溶着金属の高温割れの関
係を示した図である。
【図3】被覆剤中のルチール量及びCaO/CaF2
スラグ軟化点との関係を示した図である。
【符号の説明】
1 レール足部 2 レール腹部 3 レール頭部 4 レール頭表面
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (72)発明者 奥村 誠 千葉県富津市新富20−1 新日本製鐵株 式会社 技術開発本部内 (72)発明者 狩峰 健一 千葉県富津市新富20−1 新日本製鐵株 式会社 技術開発本部内 (56)参考文献 特開 平2−200379(JP,A) 特開 平2−229693(JP,A) 特開 昭59−54493(JP,A) 特開 平1−233091(JP,A) 特開 平3−258489(JP,A) (58)調査した分野(Int.Cl.7,DB名) B23K 35/30,35/365

Claims (2)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 重量%でC:0.03〜1.5%、P+
    S:0.015%以下を含有する鋼心線の外周に、炭酸
    塩:52〜65%、金属フッ化物:17〜27%、ルチ
    ール:0.5〜6.5%、グラファイト:0.3〜7.
    0%、その他として塗装剤、アーク安定剤を含有し、か
    つ、被覆剤中のCaO/CaF2 の比が1.4〜2.0
    の範囲にある被覆剤が溶接棒全重量に対して15〜35
    %被覆され、溶接棒全重量でC:0.35〜1.5%、
    Si:0.2〜2.2%、Mn:0.6〜2.5%を含
    有することを特徴とするレールのエンクローズアーク溶
    接用被覆アーク溶接棒。
  2. 【請求項2】 重量%でC:0.03〜1.5%、P+
    S:0.015%以下を含有する鋼心線の外周に、炭酸
    塩:52〜65%、金属フッ化物:17〜27%、ルチ
    ール:0.5〜6.5%、グラファイト:0.3〜7.
    0%、その他として塗装剤、アーク安定剤を含有し、か
    つ、被覆剤中のCaO/CaF2 の比が1.4〜2.0
    の範囲にある被覆剤が溶接棒全重量に対して15〜35
    %被覆され、溶接棒全重量でC:0.35〜1.5%、
    Si:0.2〜2.2%、Mn:0.6〜2.5%を含
    有し、更にCr:1.3%以下、Mo:0.3%以下、
    V:0.3%以下、Nb:0.1%以下、Ni:2.0
    %以下、Cu:0.3%以下であって、これらの1種又
    は2種以上を含有することを特徴とするレールのエンク
    ローズアーク溶接用被覆アーク溶接棒。
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