JP2687008B2 - レールのエンクローズアーク溶接用被覆アーク溶接棒 - Google Patents

レールのエンクローズアーク溶接用被覆アーク溶接棒

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JP2687008B2 JP5065089A JP5065089A JP2687008B2 JP 2687008 B2 JP2687008 B2 JP 2687008B2 JP 5065089 A JP5065089 A JP 5065089A JP 5065089 A JP5065089 A JP 5065089A JP 2687008 B2 JP2687008 B2 JP 2687008B2
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Description

【発明の詳細な説明】 〔産業上の利用分野〕 本発明は鉄道レールまたはクレーンレールを突合わせ
溶接又は肉盛溶接する際に用いる被覆アーク溶接棒に関
するものである。
〔従来の技術〕
第1図はレールの断面を示し、1は足部,2は腹部,3は
頭部,4は頭表面である。従来からレールを突合せ溶接ま
たは肉盛溶接するには、接合レール端面を開先加工して
逐次多層溶接する方法、あるいはI型開先で突合わせた
後レール足部1を多層溶接し、その後腹部2と頭部3を
エンクローズド当金材で取り囲み、連続的に溶接するエ
ンクローズドアーク溶接法が用いられている。また、レ
ールの肉盛溶接には突合せ溶接部のレール頭表面4を硬
化肉盛したり、レールの局部的な表面疵または摩耗部分
を肉盛補修する方法がある。
レールは使用目的から頭表面では車輪とのころがり接
触に対する耐摩耗性と疲労亀裂に対する抵抗力、すなわ
ち耐疲労損傷性の大きい性質が要求されている。一方、
足部と腹部では車輪通過時の衝撃あるいは曲げ荷重に耐
え得るだけの静的強度と疲労強度が必要とされており、
さらに溶接割れ等の溶接欠陥についても皆無または実用
的にさしつかえない程度以下に極力少なくなっていなけ
ればならない。
現在世界の鉄道用普通レールの化学成分は第1表に示
すように重量%でC:0.40〜0.82%,Si:0.05〜0.35%,Mn:
0.60〜1.25%を含有しており、その金属組織はパーライ
トで、引張り強さは70kg/mm2以上である。
最近、レール使用性能に関する研究は多く、耐摩耗性
と疲労損傷性はパーライト組織が最も優れ、マルテンサ
イト組織は有害で、同じパーライト組織であれば硬さが
大きくC含有量の多い方が優れていることが明らかにさ
れている。
〔発明が解決しようとする課題〕
これらの性能をさらに高めるため前記の普通レールの
頭表部または全体を熱処理した硬頭レールまたは前記普
通レールの成分にSi:1.0%以下、Mn:1.5%以下まで高め
さらにCr,Ni,Mo,V,Nb,Cuのうち1種または2種以上でC
r:1.3%以下、Ni:2.0%以下、MoまたはV:0.3%以下、N
b:0.1%以下、Cu:0.3%以下添加した合金鋼レールおよ
び両方を併用した合金鋼熱処理レールが実用化されてい
る。
従来、レールを突合せ溶接または肉盛溶接する際に用
いられる被覆アーク溶接棒は第2表に示すようにJISZ32
13低合金高張力鋼用被覆アーク溶接棒である。
これらの溶接棒は通常厚鋼板等に使用されるため、JI
SZ3503被覆アーク溶接棒心線用線材またはJISG3505軟鋼
線材で定められるC:0.25%以下、Mn:0.65%以下の線材
にNi,CrおよびMoの1種または2種以上の合金成分剤を
含有するフラックスを被覆したものである。従って、こ
のような溶接棒をレールに適用した場合に形成される溶
接金属はC:0.3%以下で、Si,Mnの他にNi,Cr,Moの1種ま
たは2種以上を0.1%以上含有する。このためレール母
材の溶融境界部近傍に高温割れが発生する。この高温割
れはレール鋼の溶融点が約1470℃であるのに対し、溶接
金属はそれより高く約1530℃であるために理論的に避け
られない。さらにこの溶融境界部近傍には溶接のままで
多量のマルテンサイト組織を生成し、疲労強度が著しく
低下するので、通常溶接後710℃以下の温度で焼き戻し
または焼きなましをしなければならない。その結果、溶
接金属の組織は耐摩耗性の低い焼き戻しマルテンサイト
を生成するため、前記の溶接棒を用いたレールの溶接部
はたとえ硬さが母材レールと同じでも溶接金属層が局部
的に早期に摩耗する。このような高温割れおよび局部摩
耗は母材レールが高Cで合金鋼化すなわち高強度化すれ
ばするほど顕著になり、高強度レールにおいては実際に
溶接不能の状態になっていた。
またレールの肉盛溶接法には第2表で示すようなJISZ
3251硬化肉盛用被覆アーク溶接棒のDF2AまたはDF2Bに該
当する溶接棒が用いられている。DF2Aに該当する溶接棒
は前記低合金高張力鋼用溶接棒とほとんど変わらないの
で、前記の問題がそのまま当てはまる。DF2Bで形成され
る溶接金属は溶接のままではマルテンサイト組織を生成
するので、溶接後焼き戻し処理を施さざるを得ない。こ
のため、溶接金属は焼き戻しマルテンサント組織となっ
てパーライト組織が得られないだけでなく、熱処理レー
ルではこのような後熱処理をすると、この熱影響を受け
る母材レール頭表部が軟化し、かえって摩耗が著しくな
るという事態が発生していた。
本発明者らは広範囲な研究を行った結果、第2表に示
すような従来の被覆アーク溶接棒によって形成された溶
着金属は母材レールと著しく異なった成分となるため前
記のような問題が発生することを知見し、溶着金属が従
来溶接には不適当とされてきた母材レールと類似の高C
型パーライト組織となる高炭素含有被覆アーク溶接棒組
成を見いだした。又一方溶接作業性の面からみると、高
炭素含有被覆アーク溶接棒はスラグ流動性、耐ブローホ
ール性が劣化することは良く知られている。特に本発明
に見られるように、レール腹部をエンクローズド当金材
で取り囲み連続的に溶接するエンクローズアーク溶接で
は、安定したスラグ流動性、適正なスラグ発生量および
アーク安定性が健全な溶接継手を得る上で重要となる。
本発明者らは、被覆アーク溶接棒の合金組成およびスラ
グ生成剤の検討を行い、本発明をなしえたものである。
〔課題を解決するための手段〕
本発明の要旨は、重量%でC:1.0〜1.5%を含有する心
線の外周に炭酸塩の1種又は2種以上を42〜55%、金属
フッ化物の1種又は2種以上を13〜23%、ルチール:0.5
〜9.5%、被覆剤中のCaO/CaF2の比が1.2〜1.8の範囲に
ある被覆剤が溶接棒全重量に対して15〜32%被覆され、
かつ溶接棒全重量%でC:0.65〜1.5%、Si:0.2〜2.2%、
Mn:0.6〜2.5%または上記の他にCr:1.3%以下、Mo又は
Vは0.3%以下、Nb:0.1%以下、Ni:2.0%以下、Cu:0.3
%以下の1種又は2種以上を含有することを特徴とする
レールのエンクローズアーク溶接用被覆アーク溶接棒に
ある。
〔作 用〕
以下本発明のレールのエンクローズアーク溶接用被覆
アーク溶接棒の限定理由について詳細に説明する。
高炭素含有被覆アーク溶接棒を設計するにあたり、硬
鋼心線を用いた理由として 高炭素溶着金属が安定して得られる、 溶接作業性特に溶接スラグの流動性が安定する、 など軟鋼心線に比べ硬鋼心線が優れている理由による。
高炭素溶着金属を得るには、被覆剤より炭素を添加す
る方法が簡単かつ低コストな方法として一般的である。
しかしこの方法は溶接条件や施工条件により炭素の溶着
金属に対する歩留が変化したり、又、被覆剤の欠け落ち
などにより炭素量は変化することもあり、安定した炭素
量を得ることは難かしい。しかも被覆剤中の炭素添加量
が増加すればする程この傾向は顕著となる。
一方、高炭素含有心線を用い心線より添加する方法は
歩留も良く、溶着金属の炭素量は安定することはよく知
られているが、本発明者らは溶接作業性の改善において
も高炭素含有伸線の使用が有利であることを以下の如く
して確かめた。即ち、本発明者らは、スラグ流動性の改
善をスラグ組成の検討と同時に心線の化学組成によるア
ーク力の違いに着目し検討を行い第2図の知見を得た。
即ち、得られる各溶着金属の炭素量が同一組成になるよ
うに調整された溶接棒において心線中の炭素,酸素量に
より棒先端のスラグのからみ度合が異なることを見出し
た。
第2図はレーザ背光シュリレーン観察装置を用いて溶
接時の棒先端にスラグがからむ時間と溶接時間との割合
を架橋率として求め、溶着金属のC量との関係で整理し
たものである。この試験結果により、同一炭素量の溶着
金属を得るには、高炭素含有心線の方が架橋率(スラグ
のからみ)が少ないことがわかり、溶接作業性の面から
も高炭素含有心線の使用が有利であることがわかった。
しかしながら心線中の炭素含有量が1.0%未満では被覆
剤からの炭素添加量が増えると同時に、レーザ背光シュ
リレーン観察装置を用い架橋率を測定した結果も悪く棒
先端にスラグがからむなど溶接作業性が劣化するので好
ましくない。一方心線中の炭素含有量が1.5%超では、
心線加工中において伸線性に欠け線材の硬化が激しく焼
鈍回数が増加するなど生産性の面で問題がある。よって
溶接作業性,線材の加工性を考慮し心線中の炭素量を1.
0〜1.5%と規定した。
次に被覆材の限定理由について述べる。
先ず炭酸塩(ここでいう炭酸塩とは、炭酸石灰,炭酸
バリウム,炭酸マグネシウムをいう)は、溶接時にCO2
ガスを発生し、溶融プールを大気より保護し、ピット,
ブローホールの発生防止、アーク安定性およびスラグ剥
離性の改善に効果がある。又、スラグ粘性調整などにも
効果は著しく、溶接材料の設計には重要な原材料として
使用されている。しかし、炭酸塩1種又は2種以上が42
%未満では溶接棒先端の保護筒が適正に生成されずシー
ルド効果の劣化を招き、アーク安定性が悪化してスパッ
タの発生が多くなり好ましくない。又、55%を超えると
過大にCO2ガスが発生しスパッタ量が増加すると共にス
ラグ量が多くなり、且つスラグ粘性が過大となる。
特にスラグ量およびスラグ粘性が増加することはエン
クローズアーク溶接用の溶接棒としては、溶接作業性の
面で大きな障害となる。
レール腹部を当金材で取り囲み連続的に溶接するエン
クローズアーク溶接では、溶接スラグの挙動が健全な溶
接金属を得るために重要な因子となる。即ち、アーク安
定性を損わない程度のスラグ量とシールド効果を維持
し、かつ、スラグの粘性を低く抑えアーク直下より円滑
に溶接スラグを溶接プール後方に排除することが必要で
あり、溶接棒先端にスラグがからむ状態になるとアーク
が遮断されアーク切れを起し健全な溶接作業が行われ
ず、従って健全な溶接金属は得られない。これらの理由
により炭酸塩の1種又は2種以上を42〜55%と規定し
た。
次に金属フッ化物(ここでいう金属フッ化物とは、フ
ッ化カルシウム、フッ化ソーダ、フッ化マグネシウムを
いう)については、スラグの粘性,流動性の調整、およ
び保護筒の生成に効果がある。しかし金属フッ化物の1
種又は2種以上が13%未満ではスラグ粘性が過大とな
り、溶接棒先端にスラグがからみ安定した溶接ができな
い。一方、23%を超えると、スラグ量が増加すると同時
にスラグ粘性が極度に低下し、溶接プール前方にスラグ
が回り込み、安定した溶接作業ができない。これらの理
由により金属フッ化物の1種又は2種以上を13〜23%と
規定した。
ルチールについてはスラグの粘性を良好に保ち、アー
クの安定性改善に効果は大きい。しかし、0.5%未満で
はその効果はなく、スパッタの発生が多く好ましくな
い。又9.5%を超えるとスラグの粘性が過大となり溶接
棒先端にスラグがからむなど安定した溶接作業ができな
いことからルチールを0.5〜9.5%と規定した。
次に被覆剤中のCaO/CaF2の比を1.2〜1.8の範囲に限定
した理由について述べる。
本発明者らは、レールのエンクローズアーク溶接にお
いて、被覆剤中の主成分である炭酸石灰,フッ化カルシ
ウム,ルチールと溶接作業性との関係を調査した。その
結果第3図に示す知見を得た。被覆剤中のCaOとCaF2
比と、ルチールとの関係において被覆剤の軟化点が大き
く影響されることが分かる。又、その結果、エンクロー
ズアーク溶接における溶接作業性の優劣も支配されるこ
とが判明した。即ち、被覆剤中のCaO/CaF2の比が1.2未
満ではスラグの粘性が高く、溶接プール近傍から円滑に
スラグが排除されず、溶接棒先端に溶接スラグがからむ
など溶接作業性は好ましくない。又CaO/CaF2の比が1.8
を超えると、溶接スラグの粘性が高くなると同時にスラ
グ発生量が多くなり、健全な溶接ができない。これらの
理由により被覆剤中のCaO/CaF2の比を1.2〜1.8と規定し
た。
尚、ここでいう被覆剤の軟化点とは、粉砕した溶接ス
ラグを2mmφ×3mmtの形状にプレスし、固めた試料を大
気炉中で加熱し、その試料が溶融し、元の試料の高さの
1/2になった時の温度をその被覆剤の軟化点と規定し
た。
次に被覆剤を溶接棒全重量に対して15〜32%塗布する
理由について述べる。
(1)式で示す計算式により求めた値、すなわち被覆
率が15%未満では安定したシールド効果が奏されず、ま
たアークを発生するために必要な溶接棒先端の保護筒の
強度が低くなり、溶接途中で欠け落ち、安定した溶接が
出来ない。又、溶接棒製造時に被覆の厚さが薄いため円
滑な塗布ができない。一方被覆率が32%を超えると、ス
ラグ量が増加し溶接スラグが溶融プール上に留まり安定
した溶接ができないことから溶接棒全重量に対する被覆
剤の量を15〜32%と規定した。
Fw:被覆剤重量 Rw:心線重量 次に溶接棒全重量に対する合金成分量を規定した理由
について述べる。
Cは溶着金属にレール鋼と類似のパーライト組織を生
成させるための必須成分であると同時に、溶着金属を高
炭素成分系、すなわちC:0.4〜1.0%に調整して、この凝
固温度をレール鋼とほぼ同等にすることによって、従来
技術で発生していた母材レールの溶融境界層における高
温液化割れを防止するもので本発明の最大の特徴をなす
ものである。更に、溶着金属のC含有量が増加するに従
い継手引張り強さおよび硬さが増加するため溶接金属の
対摩耗性および対疲労損傷性を向上させることができ
る。溶接棒全重量に対するC含有量が0.65%未満では溶
着金属のC量が0.4%未満となる場合が生じ、母材レー
ルの溶融境界層に高温割れが発生すると共に溶着金属の
パーライト組織が少なくなり、継手引張り強さの70kg/m
m2以上が得られない。一方被覆アーク溶接棒のC含有量
が1.5%を超えると溶着金属のC量が1.0%超となり、溶
接金属に初析セメンタイトが析出し、溶接金属が著しく
脆化する。又溶接作業性の面においてもスラグの粘性が
低下し、溶接プールの前方(溶接方向)に回り込み溶接
棒先端にからみ円滑な溶接ができないことから、溶接棒
全重量に対するC量を0.65〜1.5%と規定した。
Siは通常溶着金属の脱酸剤として含有されるものであ
るが、必要に応じてその量をコントロールし溶着金属中
のSi含有量を0.1〜1.0%の範囲に入れるようにする。レ
ール鋼のSi含有量は通常0.1%以上であり、Siはパーラ
イト組織においてフェライトを強化して強度を上昇させ
ると同時に耐疲労損傷性を向上させ、さらにパーライト
変態の開始時間,温度におよぼす影響が小さいため溶着
金属のSi量がレール鋼より多く含有されていても1.0%
以下であれば有害にはならない。これらの理由により溶
接棒全重量に対して0.2%未満ではレール鋼のSi含有量
を下廻り、脱酸効果も十分でなく、ブロホール,ピット
などが発生する。又、2.2%を超えると溶着金属のSi含
有量が1.0%超となり、継手性能が劣化すると同時に溶
接作業性においてもスラグ粘性過多となり、安定した溶
接ができなくなることから溶接棒全重量に対するSi量を
を0.2〜2.2%と規定した。
MnはSiと同様溶着金属の脱酸剤として添加される。レ
ール鋼のMn含有量は0.6%以上であり、Mnはパーライト
変態を遅滞させる元素であって添加量によりパーライト
の変態の開始が変化し強度も変化するので、溶着金属の
Mn含有量はレール鋼とほぼ対応したものでなければなら
ない。溶接棒全重量に対するMn量が0.6%未満では溶着
金属のMn量が低くなり、溶着金属の引張り強さまたは伸
び、すなわち延性が低下する。溶接棒全重量に対するMn
量が2.5%を超えると溶着金属のMn量が増加し、溶接金
属中に形成されたマルテンサイトをパーライトに変態さ
せる後熱処理が著しく困難となることから溶接棒全重量
に対するMn量を0.6〜2.5%と規定した。
母材レールが前記C,Si,Mnの他にCr,Mo,V,Nb,Cuのうち
1種または2種以上含有する場合には、溶着金属にもこ
れらの合金成分を母材レールと同等もしくはそれ以下の
量だけ含有しなければならない場合がある。すなわち、
Cr,Mo,VはMnと同様パーライト変態を遅滞させる元素で
あって、添加量によりパーライト変態の開始が変化し強
度も変化するので、母材レールがこれらの合金成分を含
有する合金鋼である場合には、すくなくともレール頭頂
面に用いる被覆アーク溶接棒にもこれらの合金成分を含
有していないと、溶接ままで、または溶接後の熱処理に
よって、母材レールと類似の金属組織,硬さおよび継手
引張り強さが得られない。従って被覆アーク溶接棒のC
r,Mo,V含有量はCr:1.3%以下、Mo,V:0.3%以下にする。
Nbはパーライト変態の終了時間を大幅に短縮させる元
素であるため、溶接後の冷却中に有害なマルテンサイト
が生成するのを防止する効果がある。しかし溶着金属の
Nb含有量が0.1%を超えると巨大な炭・窒化物を生じ、
靭性,疲労強度を低下させるので、被覆アーク溶接棒の
Nb含有量は0.1%以下とする。
Cuはレール鋼の耐食性を向上するのに効果のある合金
成分であり、耐食性レールには0.3%以下含有される。
従って、耐食性レールの溶接には溶着金属にも0.3%以
下のCuを含有しないと母材レールと同様の耐食性が得ら
れない。しかし溶着金属のCu含有量が0.3%超では、熱
間脆性を起こし表面疵が発生するので、被覆アーク溶接
棒のCu含有量は0.3%以下とする。
Niはレール鋼の延性または靭性を向上する合金成分で
あるが、レール鋼はもともと延性または靭性が低くても
使用可能な鋼材であるため、レールに添加する場合は少
ない。しかし溶着金属が2.0%以下含有すると溶接部の
延性または靭性が向上するので、溶着金属にNiを添加す
る必要のある場合がある。しかし溶着金属がNiを2.0%
を超えて含有すると、溶着金属に高温凝固割れが発生し
やすくなるので、被覆アーク溶接棒のNi含有量は2.0%
以下とする。
以上詳述したように、本発明の被覆アーク溶接棒を用
い、通常の溶接条件のもとでレール鋼に対して突合せ溶
接,肉盛溶接を行っても、高温割れ等の溶接欠陥が発生
することなく施工でき、溶接後適切な後熱処理を組み合
わせることにより有害組織がなく母材レールと同等の硬
さとパーライト組織を有する溶接継手を得ることができ
る。
以下に実施例によって本発明の効果をさらに具体的に
説明する。
〔実施例〕
以下本発明の実施例を示す。
第3表にエンクローズアーク溶接用被覆アーク溶接棒
を示す。棒寸法は全て5.0φ×450mmとした。
第4表に使用したレール母材を示す。又、溶接条件は
直流逆極性溶接電流220Aで溶接した。溶接に際して、溶
接施工開始時点でレール足部の開先面を400から500℃に
予熱し、溶接完了後レール断面全周を均等に加熱する多
孔ノズルバーナを用いて800〜1000℃に加熱し放冷し
た。
第5表に試験結果を示す。溶接作業性はスラグ発生量
の多少,棒先端へのスラグのからみ,又、スパッタ発生
量の多少を観察し、実用上あまり問題とならないものに
は○、実用上問題となるものについては×と評価した。
溶着金属の割れについては溶接中央部の縦断面マクロ試
験片を採取し、研磨後カラーチェック,検鏡により割れ
の有無を確認をした。
本発明例で示した棒記号E−1〜E−10については、
溶接作業性も十分実用可能であり、かつ溶着金属および
熱影響部にも割れは認められず実用可能な継手性能が得
られた。
一方、比較例で示したE−11は被覆率が高く、スラグ
発生量の増加,スラグ流動性の劣化およびスパッタ発生
の増加などがあり、溶接作業性が悪く、又Si,Mnが低い
ことなどからブローホールの発生もみられた。
E−12は被覆率が高く、ルチール量が上限を超えてい
ることからE−11と同様の溶接作業性を示した。又溶接
棒成分のSi量が高く、Mn量が低いことから熱影響部に微
細な割れが認められた。
E−13は被覆率が低く、ルチール量が上限を超えてい
ることから溶接棒先端の保護筒が十分確保できず、スパ
ッタが多く、溶接棒成分のSi,Mn量が低いことからブロ
ーホールの発生が認められた。
E−14はCaF2量が高すぎて被覆剤のCaO/CaF2比が低
く、溶接スラグの軟化点が高くスパッタ量も多い。又溶
接棒成分のMn量が上限を超えておりスラグ剥離性も劣化
した。
E−15は被覆剤の金属フッ化物量が下限を割っている
ことからCaO/CaF2比も高くスパッタ量が多くかつスラグ
流動性も悪く溶接作業性の面で問題があると同時に、溶
接棒成分のC,Crが上限を超えていることから、溶着金属
に割れが認められた。
E−16は被覆剤の金属フッ化物が上限を超え炭酸塩が
下限を割っていることからCaO/CaF2の比が低くルチール
が無添加であることからスラグ流動性が過度になりすぎ
てビード表面に均一にスラグが被包せずスパッタ量も多
い。又、溶接棒成分のNiが上限を超えていることから母
材熱影響部に割れが認められた。
E−17は被覆剤の炭酸塩が低く、CaO/CaF2比が下限を
割っていることから、スラグ流動性が悪い。又溶接棒成
分のV,Nb,Cuが上限を超えていることから、溶着金属に
割れが認められた。
E−18は被覆剤の炭酸塩が上限を超えており、スラグ
発生量、スパッタが多く、スラグ流動性が悪いなど溶接
作業性の面で問題があった。
〔発明の効果〕 以上述べたように本発明によるレールエンクローズア
ーク溶接用被覆アーク溶接棒は、良好な溶接作業性と継
手性能が得られレール溶接の信頼性を大幅に向上しうる
ことが可能となりその工業的価値は極めて大きい。
【図面の簡単な説明】 第1図はレール鋼の断面図、第2図は溶着金属の炭素量
と架橋率の関係を示した図、第3図は被覆剤のCaO/CaF2
比と軟化点の関係を示した図である。 1……レール足部、2……レール腹部、3……レール頭
部、4……レール頭表面
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (72)発明者 奥村 誠 神奈川県相模原市淵野辺5―10―1 新 日本製鐵株式會社第2技術研究所内 (72)発明者 狩峰 健一 神奈川県相模原市淵野辺5―10―1 新 日本製鐵株式會社第2技術研究所内 (56)参考文献 特公 平4−55793(JP,B2) 特公 平5−63267(JP,B2)

Claims (2)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】重量%でC:1.0〜1.5% を含有する心線の外周に炭酸塩の1種又は2種以上を42
    〜55%,金属フッ化物の1種又は2種以上を13〜23%,
    ルチール:0.5〜9.5%,被覆剤中のCaO/CaF2の比が1.2〜
    1.8の範囲にある被覆剤が溶接棒全重量に対して15〜32
    %被覆され、かつ溶接棒全重量%でC:0.65〜1.5%,Si:
    0.2〜2.2%,Mn:0.6〜2.5%含有することを特徴とするレ
    ールのエンクローズアーク溶接用被覆アーク溶接棒。
  2. 【請求項2】重量%でC:1.0〜1.5% を含有する心線の外周に炭酸塩の1種又は2種以上を42
    〜55%,金属フッ化物の1種又は2種以上を13〜23%,
    ルチール:0.5〜9.5%,被覆剤中のCaO/CaF2の比が1.2〜
    1.8の範囲にある被覆剤が溶接棒全重量に対して15〜32
    %被覆され、かつ溶接棒全重量%でC:0.65〜1.5%,Si:
    0.2〜2.2%,Mn:0.6〜2.5%,更にCr:1.3%以下,Mo:0.3
    %以下,V:0.3%以下,Nb:0.1%以下,Ni:2.0%以下,Cu:0.
    3%以下の1種又は2種以上を含有することを特徴とす
    るレールのエンクローズアーク溶接用被覆アーク溶接
    棒。
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