JP3205240B2 - 磁気記録媒体 - Google Patents

磁気記録媒体

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JP3205240B2
JP3205240B2 JP31085095A JP31085095A JP3205240B2 JP 3205240 B2 JP3205240 B2 JP 3205240B2 JP 31085095 A JP31085095 A JP 31085095A JP 31085095 A JP31085095 A JP 31085095A JP 3205240 B2 JP3205240 B2 JP 3205240B2
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Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、例えば磁気潜像を
磁性トナーで現像して顕像化し、この像を記録紙に転写
してコピー画像を得る磁気印刷装置に備えられ、上記磁
気潜像を形成するための磁気記録媒体に関するものであ
る。
【0002】
【従来の技術】ハードコピーを得る磁気印写法は、一般
にマグネトグラフィーと呼ばれている。この方式のプリ
ンタとしては、磁気記録媒体を加熱してこの磁気記録媒
体の保磁力を低減させ、さらにバイアス磁界を印加して
磁化方向を反転させることにより磁気潜像を形成する熱
磁気記録方式を利用した熱磁気プリンタが知られてい
る。
【0003】上記磁気潜像を形成する方法は、磁化の向
きという観点から、図14(a)に示すように、磁化の
向きが磁気記録媒体の表面と平行である面内記録方式
と、同図(b)に示すように、磁化の向きが磁気記録媒
体の表面と垂直である垂直記録方式とに分けることがで
きる。これら両記録方式の比較では、例えば電子写真学
会誌(1985年、第4号、第24巻、第14頁)にお
いて、面内記録方式の優位性が以下のように説かれてい
る。
【0004】一般に、磁気記録媒体に記録する場合に
は、記録領域にて生じる反磁界のために記録磁界の減少
が見られる。しかしながら、厚さ1〜5μmの一般的な
記録媒体に対して通常行われるように幅10〜200μ
mで記録する場合、面内記録方式の方が垂直記録方式よ
りも反磁界が小さい。従って、面内記録方式の方が記録
磁界が大きくなり、記録効率の点で有利である。また、
磁気記録媒体の磁化方向を予め一方向に揃えて初期化
し、この初期の方向とは磁化方向が逆向きの磁化領域を
形成することで磁気潜像を得る方式では、面内記録方式
の方が磁性トナーに対して大きな磁気吸引力が発生する
ことから、熱磁気プリンタの記録方式として適してい
る。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】熱磁気プリンタ用の記
録媒体は、前記電子写真学会誌にて説明されているよう
に、保磁力が大きく、磁化曲線のヒステリシスループの
角形比が良く、かつキュリー点の低い材料が好ましい。
このような特性を満たす従来の面内記録方式用の磁気記
録媒体としては、CrO2 を樹脂に分散させて塗布した
ものが、特開昭59−71076号に開示されている。
しかしながら、上記CrO2 は、その成分であるCrの
毒性が従来から指摘されており、環境問題等を考慮した
場合、使用を極力避けるのが好ましい。また、最近では
CrO2 の入手自体が困難な情勢となりつつある。
【0006】一方、CrO2 以外の磁気記録媒体材料と
しては、希土類−遷移金属からなるアモルファス磁性体
を挙げることができる。特開昭62−100767号、
特開昭63−142361号、および特開昭64−46
766号には、NdDyFeCoおよびこれにTi、A
l、Cu、Cr等の元素を添加した材料を使用するアモ
ルファス磁性体が開示されている。しかしながら、上記
アモルファス磁性体は、垂直記録方式に使用する材料で
あるため、そのままでは面内記録方式に使用することが
できないものである。
【0007】上記アモルファス磁性体により面内記録方
式に使用可能な面内磁化膜を作製するには、希土類金属
の組成比を小さくする必要があるものの、このような組
成比にするとキュリー点が高くなる。また、このような
磁気記録媒体を記録時にキュリー点以上、あるいはキュ
リー点近くまで加熱するには、大きい熱入力が必要であ
り、消費電力が増大する。これを抑制するには、キュリ
ー点よりも低い温度で記録を行う必要がある。しかしな
がら、上記磁気記録媒体は、キュリー点が高いため、キ
ュリー点よりも低い温度で加熱した場合、温度上昇によ
る保磁力の低下が小さい。従って、初期化により一方向
に飽和された磁化方向を反転させて磁気潜像を形成する
ためには、初期化での磁化方向とは逆方向の磁界を印加
するためのバイアイス磁界を大きくする必要がある。し
かしながら、このような大きなバイアス磁界を磁気記録
媒体に印加した場合には、未記録領域の磁化が減磁され
て磁気吸引力が低下し、良好な磁気潜像を得ることがで
きないという問題点を招来する。この問題を以下に具体
的に説明する。
【0008】従来の磁気記録媒体の室温でのヒステリシ
スループは、図15に示すものとなっており、上記磁気
記録媒体における保磁力の温度依存性は図16に示すも
のとなっている。図15より、上記磁気記録媒体は、保
磁力が600(Oe)、残留磁化が200(emu/c
c)、最大エネルギー積を与える磁界の大きさが300
(Oe)、最大エネルギー積を与える磁化の大きさが1
20(emu/cc)であることが分かる。
【0009】上記磁気記録媒体に、初期化により磁化方
向を一方向に飽和させた後、磁化方向が反転した磁気潜
像を記録するには、記録時の加熱温度が例えば100℃
の場合、図16より330(Oe)以上のバイアイス磁
界が必要である。
【0010】そこで、初期化により磁化方向が一方向に
飽和した上記磁気記録媒体に対し、磁気潜像記録領域の
温度が100℃となるように熱入力を行うとともに、3
30(Oe)のバイアス磁界を印加して記録を行ったと
ころ、磁化方向の反転した磁気潜像が得られた。しかし
ながら、熱入力されていない未記録領域の磁化がバイア
ス磁界によって図15のA点に示す値に減磁され、その
結果として磁気吸引力が低下した。
【0011】上記の問題が生じるのは以下の理由によ
る。即ち、磁気記録媒体を飽和磁化させた後、飽和磁化
方向とは逆向きに弱磁界を印加したときの磁化曲線の変
化は図17に示すものとなる。同図において、磁気記録
媒体は、初期化により飽和磁化されたときM0 の残留磁
化を有する。しかしながら、その後、飽和磁化方向とは
逆向きにH1 の弱磁界を印加すると、磁化曲線はA1
からB点へ移動して、磁化の強さはM1 となる。ここで
磁界を取り去ると、磁化曲線はB点からA2 点(図15
のA点)へ矢印に沿って移動し、M2の残留磁化を有す
る状態となる。尚、磁気記録媒体に対し再びH1 の磁界
を印加した後に取り去るという操作を繰り返すと、その
磁化曲線は、同図に示すように、B点とA2 点との間を
矢印に沿って往復する、いわゆるマイナーループと呼ば
れる磁化の軌跡を描く。即ち、未記録領域の磁化の強さ
は、330(Oe)のバイアス磁界が印加されることに
より、マイナーループを辿ってA点の値に減磁されるこ
とになる。この結果、形成された磁気潜像における磁化
反転領域での磁性トナーに対する磁気吸引力が減少する
ことになる。
【0012】尚、上記未記録領域の磁化の強さを低減さ
せないことのみを考えれば、バイアス磁界の大きさを小
さくすればよい。この場合、例えばバイアス磁界の大き
さを150(Oe)に設定すると、図16より磁気記録
媒体を180℃以上に昇温させる必要がある。しかしな
がら、磁気記録媒体の昇温は、昇温による磁気記録媒体
の劣化を考慮して一般に150℃以下と考えられてお
り、磁気記録媒体を180℃以上に昇温させることは、
実質的に不可能である。
【0013】上記のように、従来の磁気記録媒体では、
磁性トナーに対して十分な磁気吸引力を有する状態で磁
気潜像を形成することができないという問題点を有して
いる。
【0014】本発明は、上記従来の問題点に鑑みてなさ
れたものであり、面内記録方式の磁気記録媒体におい
て、キュリー点が高い場合でも、大きな磁気吸引力を有
する状態で磁気潜像を形成することができる磁気記録媒
体の提供を目的としている。
【0015】
【課題を解決するための手段】上記の課題を解決するた
めに、請求項1の発明の磁気記録媒体は、磁化方向が表
面と平行であり、保磁力が温度上昇に伴って低下し、キ
ュリー点以下の所定温度に加熱された状態にて初期状態
の磁化方向とは逆方向のバイアス磁界が印加されること
により、磁性トナーにて現像される磁気潜像を形成する
磁気記録媒体において、磁気潜像記録時の前記所定温度
での保磁力が、室温でのヒステリシスループにおける最
大エネルギー積を与える磁界の大きさよりも小さく、こ
の最大エネルギー積を与える磁界の大きさと前記所定温
度での保磁力との間を前記バイアス磁界の大きさの設定
範囲とすることを特徴としている。
【0016】上記の構成によれば良好な磁気潜像を形成
することができる。即ち、磁気記録媒体の室温での平行
四辺形に近い角形比の良好なヒステリシスループにおい
ては、磁界の大きさが最大エネルギー積を与える磁界の
大きさを超えると、磁化の大きさが急激に低下する。従
って、磁気潜像の記録時において上記最大エネルギー積
を与える磁界の大きさ以上のバイアス磁界を印加した場
合、所定温度に昇温されていない部分までも残留磁化の
大きさが低下することになる。そこで、本磁気記録媒体
においては、上記最大エネルギー積を与える磁界の大き
さに着目し、この磁界の大きさよりも小さい大きさのバ
イアス磁界を印加することとした。
【0017】また、バイアス磁界によって磁気記録を行
うためには、バイアス磁界の大きさが記録時に所定温度
に加熱された磁気記録媒体の保磁力よりも大きいことが
必要である。そこで、本磁気記録媒体では、所定温度に
加熱されたときの保磁力が、上記最大エネルギー積を与
える磁界の大きさよりも小さくなるようにし、この最大
エネルギー積を与える磁界の大きさと前記所定温度での
保磁力との間をバイアス磁界の大きさの設定範囲とし
た。
【0018】このような構成により、本磁気記録媒体で
は、キュリー点に左右されることなく磁気潜像記録時の
加熱温度を設定し得るとともに、適切なバイアス磁界を
設定することができ、この結果、大きな磁気吸引力を有
する良好な磁気潜像を形成することができる。
【0019】請求項2の発明の磁気記録媒体は、請求項
1の発明の磁気記録媒体において、室温でのヒステリシ
スループにおける最大エネルギー積を与える磁化の大き
さが、室温での残留磁化の大きさの70%以上であるこ
とを特徴としている。
【0020】上記の構成によれば、磁気記録媒体の室温
でのヒステリシスループの形状により磁気潜像の磁化の
大きさが小さくなる事態を回避することができる。
【0021】即ち、請求項1の発明の磁気記録媒体であ
っても、室温でのヒステリシスループにおいて、最大エ
ネルギー積を与える磁化の大きさが残留磁化の大きさに
対して大幅に低い位置にある場合には、磁気潜像を記録
したときの磁化の大きさが小さくなってしまう。このよ
うな事態を避けるためには、前記最大エネルギー積を与
える磁化の大きさが、室温での残留磁化の大きさの70
%以上であることが最低限必要であることが研究の結果
分かった。従って、本磁気記録媒体では、前記最大エネ
ルギー積を与える磁化の大きさを前記のように設定する
ことにより、さらに良好な磁気潜像の記録が可能となっ
ている。
【0022】請求項3の発明の磁気記録媒体は、請求項
1または2の発明の磁気記録媒体において、室温での保
磁力が200〜1000(Oe)であることを特徴とし
ている。
【0023】上記の構成によれば、磁気記録媒体に必要
な保磁力を適切な範囲に設定することができる。
【0024】即ち、磁気記録媒体の室温での保磁力が2
00(Oe)未満の場合、保磁力が小さいために記録さ
れた磁気潜像が不鮮明なものとなり、また、保磁力が小
さいので、磁気潜像が安定に存在せず、外部から小さい
磁力が加わっただけで、記録が消えてしまうことがあ
る。一方、保磁力が1000(Oe)を超えると、これ
に応じて磁気潜像の記録に非常に大きなバイアス磁界が
必要となり、コストアップ等の要因となる。従って、磁
気記録媒体の室温での保磁力を上記の範囲に設定すれ
ば、鮮明でしかも安定に存在する磁気潜像を得ることが
でき、かつバイアス磁界の大きさを適当なものとするこ
とができる。
【0025】請求項4の発明の磁気記録媒体は、請求項
1から3の何れかの発明の磁気記録媒体において、所定
温度での保磁力が室温でのヒステリシスループの最大エ
ネルギー積を与える磁界の大きさよりも小さくなる温度
が60℃以上であることを特徴としている。
【0026】上記の構成によれば、磁気記録媒体への熱
入力量を抑制し、かつ気温の影響を排除して、良好な磁
気潜像を得ることができる。
【0027】即ち、保磁力が室温でのヒステリシスルー
プの最大エネルギー積を与える磁界の大きさよりも小さ
くなる温度が60℃未満とした場合、気温が高い環境下
での磁気潜像記録時に、記録したくない部分までも記録
されてしまう虞がある。一方、前記温度の下限設定を6
0℃にした場合、この60℃という温度は、意図的に加
熱しなければ達しない温度であり、またサーマルヘッド
やレーザ光等で熱入力する場合に60℃以上に磁気記録
媒体を昇温することは容易であるので、下限値としては
最適である。
【0028】従って、上記のような設定により、磁気潜
像記録において気温の影響を排除して正確な磁気潜像を
形成し得るとともに、磁気記録媒体への熱入力量を抑制
することができる。
【0029】
【発明の実施の形態】本発明の一実施の形態を図1ない
し図13に基づいて以下に説明する。磁気印写装置であ
る熱磁気プリンタは、図4に示す画像形成部を備えてい
る。この画像形成部は、磁気潜像形成体となる回転する
磁気ドラム1を備え、この磁気ドラム1の周りには、一
方向磁化磁石2、サーマルヘッド装置3、バイアス磁界
印加用磁石4、現像器5、転写ローラ6、搬送ベルト7
およびクリーニング装置8が矢印で示す磁気ドラム1の
回転方向にほぼこの順序に設けられている。
【0030】磁気ドラム1は、図5に示すように、円筒
形のドラムベース11の外周面に、磁気記録媒体12が
層状に形成され、この磁気記録媒体12の上に保護膜1
3が形成されたものである。
【0031】一方向磁化磁石2は、磁気記録媒体12の
磁化方向が一方向に揃うように初期化するものである。
サーマルヘッド装置3は、磁気ドラム1の外方側に設け
られ、磁気記録媒体12を所定温度まで加熱するための
熱入力を行うものである。バイアス磁界印加用磁石4
は、磁気ドラム1の内方側にサーマルヘッド装置3と対
向して配置されている。このバイアス磁界印加用磁石4
は、一方向磁化磁石2による初期化方向とは逆方向のバ
イアス磁界を磁気記録媒体12に印加して、磁気記録媒
体12に磁気潜像を形成するものである。
【0032】現像器5は、内部に磁性トナー14を収容
し、磁気潜像が形成された磁気ドラム1に上記磁性トナ
ー14を供給するものである。転写ローラ6は、搬送ベ
ルト7を介して磁気ドラム1と対向配置され、図示しな
い記録紙に磁性トナー14を転写させるものである。搬
送ベルト7は、上記記録紙を図示しない定着器に搬送す
るものである。この定着器は、記録紙上の磁性トナーを
記録紙に定着させるものである。クリーニング装置8
は、記録紙に転写されずに磁気ドラム1の表面に残留し
ている磁性トナー14を除去するものである。
【0033】上記構成の熱磁気プリンタは以下のように
動作する。 図4において、磁気ドラム1は矢印で示す方向に回転
し、磁気記録媒体12が一方向磁化磁石2により磁化方
向が一方向に飽和するように初期化される。次に、磁気
記録媒体12に対してサーマルヘッド装置3により熱入
力が行われ、磁気記録媒体12が所定温度に加熱される
とともに、この状態の磁気記録媒体12にバイアス磁界
印加用磁石4により上記初期化の方向とは逆方向の磁界
が印加される。このバイアス磁界の印加動作は、形成す
べき画像信号に応じて図示しない制御装置により制御さ
れる。これにより、磁化方向が反転した磁気潜像が磁気
記録媒体12に形成される。
【0034】次に、上記磁気潜像は、現像器5から供
給される磁性トナー14に現像されて可視像となる。こ
のトナー像は転写ローラ6により記録紙に転写される。
【0035】その後、記録紙は搬送ベルト7により定
着器に搬送され、この定着器によりトナー像が記録紙上
に定着される。一方、磁気ドラム1の表面に残留した磁
性トナー14は、クリーニング装置8により除去され
る。
【0036】以上が一つの画像を得る場合の動作である
が、続けて別の画像を得る場合には、上記〜の動作
が繰り返される。また、同一の画像を複数得る場合、即
ちマルチコピーの場合には、上記およびの動作が繰
り返される。
【0037】次に、上記磁気ドラム1の構成を詳細に説
明する。磁気記録媒体12は、所定の組成を有するTb
Co膜、DyCo膜、GdCo膜、TbFeCo膜、D
yFeCo膜あるいはGdFeCo膜等の希土類−遷移
金属のアモルファス合金膜からなる。この膜は、スパッ
タリングあるいは蒸着法等によりドラムベース11上に
形成される。磁気記録媒体12の膜厚は、磁気吸引力を
大きくするには厚いほどよいものの、厚くなり過ぎると
磁気記録媒体12の作製工程に長時間を要する。従っ
て、上記膜厚は0.5〜5.0μmの範囲が好ましい。
【0038】保護膜13は、AlN、TiN等の窒化物
により形成される。この材料の選択は、磁気記録媒体1
2の耐環境性を考慮するとともに、記録時にサーマルヘ
ッド装置3と磁気ドラム1とが接触することから、耐摩
耗性を考慮したものである。この保護膜13も上記スパ
ッタリングあるいは蒸着法等により形成され、その膜厚
は0.01〜1.0μmの範囲が好ましい。尚、レーザ等に
よる非接触の熱入力を行う場合、保護膜13の材料とし
ては耐環境性のみを考慮して、高分子材料を使用するこ
とも可能である。
【0039】上記磁気記録媒体12は、磁化方向が表面
と平行であり、保磁力が温度上昇に伴って低下し、キュ
リー点以下の所定温度に加熱された状態にて初期状態の
磁化方向とは逆方向のバイアス磁界が印加されることに
より磁気潜像を形成する。この磁気記録媒体12の室温
でのヒステリシスループは例えば図1に示すものとな
る。磁気記録媒体12は、磁気潜像記録時の前記所定温
度での保磁力が上記ヒステリシスループにおける最大エ
ネルギー積を与える磁界の大きさHMAよりも小さく、前
記バイアス磁界の大きさが前記最大エネルギー積を与え
る磁界の大きさと前記所定温度での保磁力との間に設定
されるものとなっている。従って、前記バイアス磁界印
加用磁石4は、上記の範囲のバイアス磁界を印加するも
のとなっている。
【0040】磁気記録媒体12は、上記の構成により良
好な磁気潜像を形成することができる。即ち、図1に示
す平行四辺形に近い角形比の良好なヒステリシスループ
においては、磁界の大きさが最大エネルギー積を与える
磁界の大きさHMAを超えると、磁化の大きさが急激に低
下する。従って、磁気潜像の記録時において最大エネル
ギー積を与える磁界の大きさHMA以上のバイアス磁界を
印加した場合、所定温度に昇温されていない部分までも
残留磁化の大きさが低下することになる。そこで、本磁
気記録媒体12においては、最大エネルギー積を与える
磁界の大きさHMAよりも小さい大きさのバイアス磁界を
印加することとしている。
【0041】また、バイアス磁界によって磁気記録を行
うためには、バイアス磁界の大きさが記録時に所定温度
に加熱された磁気記録媒体12の保磁力よりも大きいこ
とが必要である。そこで、本磁気記録媒体12では、所
定温度に加熱されたときの保磁力が、最大エネルギー積
を与える磁界の大きさHMAよりも小さくなるようにし、
この最大エネルギー積を与える磁界の大きさHMAと前記
所定温度での保磁力との間をバイアス磁界の大きさの設
定範囲としている。
【0042】このような構成により、本磁気記録媒体1
2では、キュリー点に左右されることなく磁気潜像記録
時の加熱温度を設定し得るとともに、適切なバイアス磁
界を設定することができ、この結果、良好な磁気潜像を
形成することができる。
【0043】また、磁気記録媒体12は、室温でのヒス
テリシスループにおける最大エネルギー積を与える磁化
の大きさIMAが、室温での残留磁化の大きさの70%以
上となっている。
【0044】このような構成により、本磁気記録媒体1
2では、磁気記録媒体の室温でのヒステリシスループの
形状により磁気潜像の磁化の大きさが小さくなる事態を
回避することができる。即ち、室温でのヒステリシスル
ープにおいて、最大エネルギー積を与える磁化の大きさ
MAが残留磁化の大きさに対して大幅に低い位置にある
場合には、磁気潜像を記録したときの磁化の大きさが小
さくなってしまう。このような事態を避けるためには、
最大エネルギー積を与える磁化の大きさIMAが、室温で
の残留磁化の大きさの70%以上であることが最低限必
要である。
【0045】また、このような構成であれば、バイアス
磁界により未記録領域の残留磁化が減磁された場合で
も、磁性トナーに対して十分な磁気吸引力を維持するこ
とができ、良好な磁気潜像を形成することができる。
【0046】また、磁気記録媒体12は、室温での保磁
力が200〜1000(Oe)となっている。これによ
り、本磁気記録媒体12では、保磁力が適切な範囲とな
っている。
【0047】即ち、磁気記録媒体12の室温での保磁力
が200(Oe)未満の場合、保磁力が小さいために記
録された磁気潜像が不鮮明なものとなる。一方、保磁力
が1000(Oe)を超えると、これに応じて磁気潜像
の記録に非常に大きなバイアス磁界が必要となり、コス
トアップ等の要因となる。
【0048】また、磁気記録媒体12は、保磁力が室温
でのヒステリシスループの最大エネルギー積を与える磁
界の大きさよりも小さくなる温度が60℃以上となって
いる。これにより、本磁気記録媒体では、磁気潜像記録
時の熱入力量を抑制し、かつ室温の影響を排除して、良
好な磁気潜像を得ることができる。
【0049】即ち、保磁力が室温でのヒステリシスルー
プの最大エネルギー積を与える磁界の大きさよりも小さ
くなる温度が60℃未満とした場合、気温が高い環境下
での磁気潜像記録時に、記録したくない部分までも記録
されてしまう虞がある。一方、前記温度の下限設定を6
0℃にした場合、この60℃という温度は、意図的に加
熱しなければ達しない温度であり、またサーマルヘッド
やレーザ光等で熱入力する場合に60℃以上に磁気記録
媒体を昇温することは容易であるので、下限値としては
最適である。
【0050】また、本熱磁気プリンタの画像形成部は、
図4に示すように磁気ドラム1を備えたものとしている
が、図6に示すように、磁気ドラム1に代えて磁気ベル
ト21を備えたものとしてよい。同図において、磁気ベ
ルト21は3個のローラ22…により支持され、ローラ
22…の回転に伴い図中矢印方向に移動する。磁気ベル
ト21の周りには、一方向磁化磁石2、クリーニング装
置23、サーマルヘッド装置3、バイアス磁界印加用磁
石4、現像器5、転写ローラ6および搬送ベルト7が設
けられている。
【0051】磁気ベルト21は、フィルムシート24の
表面に前記磁気記録媒体12が形成されたものである。
フィルムシート24は、ポリイミド、ポリエチレンテレ
フタレート等の高分子からなるものでもよい。この熱磁
気プリンタの動作は、前記磁気ドラム1を備えたものと
同様である。
【0052】次に、磁気記録媒体12が有する上記の機
能を確認した各実施例について以下に説明する。
【0053】(実施例1)上記のような熱磁気プリンタ
に用いる磁気記録媒体を検討するために、図7に示す構
成の磁気潜像形成体である試料41を作製して評価を行
なった。この試料41は、ガラス基板31上に磁気記録
媒体12および保護膜13をこの順に積層して形成した
ものである。上記ガラス基板31にはコーニング社製の
ものを、また現像器5の磁性トナー14には日立金属
(株)社製(H700、磁粉量70%、平均粒径12.
2μm)のものをそれぞれ使用した。
【0054】本実施例においては、ガラス基板31上に
所定組成の磁気記録媒体12を得るために、Coターゲ
ット上にTbのチップを乗せた複合ターゲットを用い
て、スパッタリング法により1.5μmのTbCoのア
モルファス合金薄膜を形成した。さらに、保護膜13と
して0.1μmのTiN膜を同じくスパッタリング法に
て形成し、上記試料41の積層構造を有する試料Aを得
た。上記TbCo膜はTb組成がatm%で11.0%
であった。尚、上記のスパッタリングとしてはバイアス
電圧をかけない高周波スパッタリング法を使用した。
【0055】上記試料Aにおける磁気記録媒体12の室
温での磁気特性を示すヒステリシスループと保磁力の温
度依存性を調べたところ、それぞれ、図1と図2に示す
ものとなった。図1から、磁気記録媒体12は室温での
保磁力が560(Oe)、残留磁化が190(emu/
cc)であることが分かる。また、最大エネルギー積を
与える磁界の大きさHMAが420(Oe)、最大エネル
ギー積を与える磁化の大きさが180(emu/cc)
であることが分かる。この磁化の大きさIMAは、残留磁
化の大きさである190(emu/cc)の94.7%
である。
【0056】一方、図2から、磁気記録媒体12はその
保磁力が温度上昇とともに低下することが分かる。そし
て、サーマルヘッド装置3により熱入力を行い、磁気記
録媒体12の温度が約60℃以上となった場合、この温
度での磁気記録媒体12の保磁力は420(Oe)以下
となり、磁気記録媒体12の最大エネルギー積を与える
磁界の大きさHMAよりも小さくなることが分かる。これ
は、バイアス磁界の大きさが420(Oe)以下であれ
ば、磁気記録媒体の温度が60℃以上にならない限り磁
化方向が反転した磁気潜像が形成されないことを示して
いる。従って、この磁気記録媒体12を用いた熱磁気プ
リンタを通常の環境で使用する限り、熱入力されていな
い領域に磁化方向が反転した磁気潜像が形成されたり、
あるいは、未記録領域の磁化の大きさが、バイアス磁界
によって大きく減磁されてしまうといった問題が生じな
い。また、一般的に、磁気潜像記録時にサーマルヘッド
装置3で熱入力した時の磁気記録媒体12の温度は15
0℃以下である。従って、本実施例の磁気記録媒体12
は、一般的な磁気潜像記録動作において、その保磁力が
室温での最大エネルギー積を与える磁界の大きさHMA
ある420(Oe)以下となる温度に昇温可能である。
【0057】次に、上記試料Aにバイアス磁界の大きさ
を例えば300(Oe)として磁気潜像を形成する方法
について説明する。図2より、磁気記録媒体12の保磁
力が300(Oe)以下になるのは100℃以上であ
る。そこで、この試料Aに、予め面内一方向に飽和する
まで初期化磁界を加え、その後、サーマルヘッド装置3
にて熱入力を行い、かつ初期化磁界の方向とは逆向きに
300(Oe)のバイアス磁界を印加しながら磁気潜像
を形成したところ、磁気記録媒体12の温度が100℃
以上となる領域に磁化反転領域が形成された。また、バ
イアス磁界の大きさが、最大エネルギー積を与える磁界
の大きさHMAの420(Oe)よりも小さいので、未記
録領域の磁化は、バイアス磁界を取り去った後に、マイ
ナーループを辿って図3のC点に示す187(emu/
cc)の大きさとなり、最大エネルギー積を与える磁化
の大きさIMAよりも大きな残留磁化となった。
【0058】しかも、最大エネルギー積を与える磁化の
大きさIMAが、室温での残留磁化の大きさの94.7%
であるので、バイアス磁界によって未記録領域の残留磁
化は70%以下に減磁されることがない。これにより、
記録された磁気潜像からの磁気吸引力が大きくなり、磁
化反転領域に十分な量の磁性トナーが付着して、良好な
顕像が得られた。
【0059】(実施例2)本実施例では、実施例1で示
した試料Aを使用し、実施例1と同様の熱入力を行い、
初期化磁界の方向とは逆向きに実施例1の場合とは異な
る350(Oe)のバイアス磁界を印加して磁気潜像を
形成した。このように本実施例ではバイアス磁界の大き
さを変更することにより、磁気潜像の幅を変えることが
できた。
【0060】図2より、磁気記録媒体12の保磁力が3
50(Oe)以下になるのは、84℃以上であることが
分かる。この試料Aに対して、予め面内一方向に飽和す
るまで初期化磁界を加え、その後、初期化磁界の方向と
は逆向きに350(Oe)のバイアス磁界を印加しなが
ら、実施例1と同様の熱入力を行い、磁気潜像を形成し
た。この結果、磁気記録媒体12の温度が84℃以上と
なる領域に磁化反転領域が形成された。そして、磁気記
録媒体12の温度が84℃以上となる領域は、実施例1
の100℃以上となる領域に対して、面積比で1.5倍
の大きさになった。即ち、本実施例では、実施例1の場
合と比較して、面積比で1.5倍の大きさの磁気潜像を
形成することができた。
【0061】また、バイアス磁界の大きさが、室温での
最大エネルギー積を与える磁界の大きさHMAの420
(Oe)よりも小さいので、未記録領域の磁化は、バイ
アス磁界を取り去った後に、マイナーループを辿って図
3のD点に示す184(emu/cc)の大きさとな
り、室温での最大エネルギー積を与える磁化の大きさよ
りも大きな残留磁化となった。
【0062】しかも、最大エネルギー積を与える磁化の
大きさIMAが、室温での残留磁化の大きさの70%以上
の94.7%であるので、バイアス磁界によって未記録
領域の残留磁化は70%以下に減磁されることがない。
これにより、記録された磁気潜像からの磁気吸引力が大
きくなり、磁化反転領域に十分な量の磁性トナーが付着
して、良好な顕像が得られた。
【0063】(比較例1)実施例1で示した試料Aを使
用し、実施例1と同様の熱入力を行うとともに、初期化
磁界の方向とは逆向きに200(Oe)のバイアス磁界
を印加して、磁気潜像の形成試験を行った。この結果、
磁気記録媒体12の温度が磁気記録媒体12の保磁力が
200(Oe)以下となる130℃以上に上昇せず、磁
気潜像が形成されなかった。このため、磁性トナーによ
る現像試験を行ったが、磁性トナーの付着は見られなか
った。
【0064】そこで、磁気記録媒体12の保磁力をバイ
アス磁界の大きさよりも小さくするために、磁気記録媒
体12の温度が130℃以上となるように熱入力を大き
くしした状態で、再度潜像の形成試験を行った。この結
果、磁気記録媒体12の温度が130℃以上となる領域
に磁化方向が反転した磁気潜像が形成され、これを磁性
トナーで現像テストしたところ、良好な顕像が得られ
た。
【0065】(比較例2)実施例1で示した試料Aを使
用し、実施例1と同様の熱入力を行い、初期化磁界の方
向と同じ向きに300(Oe)のバイアス磁界を印加し
て磁気潜像の形成試験を行った。この結果、熱入力され
た領域は初期化磁化と同一方向に磁化されるので磁気潜
像が形成されず、磁性トナーで現像試験を行っても磁性
トナーの付着は見られなかった。
【0066】(比較例3)前記試料Aと同様の製法によ
り、試料41の積層構造を有する試料Bを作製した。こ
の試料Bは、Tb組成がatm%で12.0%であり、
厚さ1.5μmのTbCoアモルファス合金薄膜からな
る磁気記録媒体12を有している。この試料Bの室温で
の磁気特性を調べたところ、図8に示すように、室温で
の保磁力が600(Oe)、残留磁化の大きさが200
(emu/cc)、室温でのヒステリシスループの最大
エネルギー積を与える磁界の大きさHMAが300(O
e)、最大エネルギー積を与える磁化の大きさIMAが1
20(emu/cc)であった。この磁化の大きさIMA
は、室温での残留磁化の60%である。
【0067】この磁気記録媒体12の保磁力の温度依存
性は、図9に示すものであった。図9より、この磁気記
録媒体12の保磁力が最大エネルギー積を与える磁界の
大きさHMAの300(Oe)以下である例えば290
(Oe)となる温度は、90℃である。
【0068】そこで、この試料Bに対して、予め面内一
方向に飽和するまで初期化磁界を加え、その後、初期化
磁界の方向とは逆向きに290(Oe)のバイアス磁界
を印加しながら、磁気記録媒体12の記録したい領域の
温度が90℃以上となる領域に熱入力を行い、磁気潜像
を形成した。この結果、磁気記録媒体12の温度が90
℃以上となる領域に磁化方向が反転した磁気潜像が形成
された。
【0069】しかしながら、290(Oe)のバイアス
磁界を印加すると、熱入力されていない未記録領域の磁
化は、図8に示すE点になり、バイアス磁界を取り去る
と、未記録領域の残留磁化は、マイナーループを矢印方
向に辿り、F点である160(emu/cc)にまで減
磁されてしまう。これは、最大エネルギー積を与える磁
化の大きさIMAが、室温での残留磁化の60%と低く、
バイアス磁界によって熱入力されていない未記録領域の
磁化が大きく減磁されてしまうことに起因する。この結
果、磁化反転領域からの磁気吸引力が低下し、磁性トナ
ーにて現像試験を行ったところ、十分な磁性トナーの付
着は見られなかった。
【0070】ここで、室温での残留磁化に対する室温で
の最大エネルギー積を与える磁化の大きさIMAの割合
と、磁気記録媒体に形成された磁気潜像への磁性トナー
の付着状態との関係をさらに細かく調べた結果について
示す。この関係を調べるために、Tb組成や磁気記録媒
体を作製する際のスパッタリング条件等を種々変えて、
様々な磁気特性を持つ磁気記録媒体を作製し、これら磁
気記録媒体について上記の関係を検討したところ、表1
に示す結果が得られた。
【0071】同表に示すように、室温での最大エネルギ
ー積を与える磁化の大きさIMAが室温での残留磁化の7
0%以上である場合には、記録された磁気潜像の磁化反
転領域に十分な量の磁気トナーが付着して、良好な顕像
が得られた。一方、室温での最大エネルギー積を与える
磁化の大きさIMAが、室温での残留磁化の70%よりも
小さくなる場合には、磁性トナーの良好な付着は見られ
なかった。これは、熱入力されていない未記録領域の磁
化がバイアス磁界によって大きく減磁されてしまい、磁
化反転領域からの磁気吸引力が低下するためである。
【0072】
【表1】
【0073】(比較例4)前記試料Aと同様の製法によ
り、試料41の積層構造を有する試料Cを作製した。こ
の試料Cは、Tb組成がatm%で10.0%であり、
厚さ1.5μmのTbCoアモルファス合金薄膜からな
る磁気記録媒体12を有している。この試料Cの室温で
の磁気特性を調べたところ、図10に示すように、室温
での保磁力が400(Oe)、残留磁化の大きさが25
0(emu/cc)、室温でのヒステリシスループの最
大エネルギー積を与える磁界の大きさHMAが230(O
e)、最大エネルギー積を与える磁化の大きさIMAが2
20(emu/cc)であった。この磁化の大きさIMA
は室温での残留磁化の88%である。
【0074】この磁気記録媒体12の保磁力の温度依存
性は、図11に示すものであった。図11より、この磁
気記録媒体12の保磁力が、最大エネルギー積を与える
磁界の大きさHMAの230(Oe)以下となるのは、4
50℃以上である。しかしながら、一般的には、磁気潜
像記録時にサーマルヘッド装置3にて熱入力した時の磁
気記録媒体12の温度は150℃以下であると考えられ
る。従って、上記450℃というのは、サーマルヘッド
装置3による熱入力では実質的に昇温不可能な温度であ
る。
【0075】このため、試料Cの磁気記録媒体12を用
いて磁気潜像を記録するには、図11より、磁気記録媒
体12の150℃での保磁力である350(Oe)のバ
イアス磁界が最低限必要となる。また、バイアス磁界の
大きさは、350(Oe)の場合、磁気記録媒体12の
記録したい領域の温度を150℃以上にすることができ
ないので、実際には、350(Oe)より大きくする必
要がある。例えば、バイアス磁界の大きさを355(O
e)とした場合、磁気潜像記録時に磁気記録媒体12の
保磁力を355(Oe)以下とする必要があり、このた
めの温度は、図11より、145℃以上である。
【0076】そこで、この試料Cに対して、予め面内一
方向に飽和するまで初期化磁界を加え、その後、初期化
磁界の方向とは逆向きに355(Oe)のバイアス磁界
を印加しながら、磁気記録媒体12の記録した領域の温
度が145℃以上となるように熱入力を行って、磁気潜
像を形成した。この結果、磁気記録媒体12の温度が1
45℃以上となる領域に磁化方向が反転した磁気潜像が
形成された。
【0077】しかしながら、355(Oe)のバイアス
磁界を印加すると、熱入力されていない未記録領域の磁
化は、図10のG点になり、バイアス磁界を取り去る
と、マイナーループを矢印方向に辿り、H点の130
(emu/cc)にまで減磁されてしまう。これは、磁
気潜像記録時の温度での保磁力が、磁気記録媒体の室温
でのヒステリシスループの最大エネルギー積を与える磁
界の大きさHMAよりも大きいために、熱入力されていな
い未記録領域の磁化がバイアス磁界によって大きく減磁
されてしまうためである。この結果、磁化反転領域から
の磁気吸引力が低下するので、磁性トナーにて現像試験
を行ったところ、十分な磁性トナーの付着は見られなか
った。
【0078】(実施例3)本実施例においては、ガラス
基板31上に所定組成の磁気記録媒体12を得るため
に、Coターゲット上にDyのチップを乗せた複合ター
ゲットを用いて、スパッタリング法により1.5μmの
DyCoのアモルファス合金薄膜からなる磁気記録媒体
12を形成した。さらに、保護膜13として0.1μm
のTiN膜を同じくスパッタリング法にて形成し、上記
試料41の積層構造を有する試料Dを得た。上記DyC
o膜はDy組成がatm%で13.7%であった。尚、
上記のスパッタリングとしてはバイアス電圧をかけない
高周波スパッタリング法を使用した。
【0079】上記試料Dにおける磁気記録媒体12の室
温での磁気特性を示すヒステリシスループと保磁力の温
度依存性を調べたところ、それぞれ、図12と図13に
示すものとなった。図12より、磁気記録媒体12は室
温での保磁力が260(Oe)、最大エネルギー積を与
える磁界の大きさHMAが220(Oe)であることが分
かる。また、最大エネルギー積を与える磁化の大きさI
MAが150(emu/cc)であることが分かる。この
磁化の大きさIMAは、残留磁化の大きさである170
(emu/cc)の88.2%である。
【0080】一方、図13から、磁気記録媒体12はそ
の保磁力が温度上昇とともに低下することが分かる。そ
して、サーマルヘッド装置3により熱入力を行い、磁気
記録媒体の温度が70℃以上となった場合、この温度で
の磁気記録媒体12の保磁力は220(Oe)以下とな
り、磁気記録媒体12の最大エネルギー積を与える磁界
の大きさHMAよりも小さくなることが分かる。これは、
バイアス磁界の大きさが220(Oe)以下であれば、
磁気記録媒体の温度が70℃以上にならない限り磁化方
向が反転した磁気潜像が形成されないことを示してい
る。従って、通常の使用環境では磁気記録媒体12の熱
入力されていない領域の温度が60℃以上となることが
なく、この磁気記録媒体12を用いた熱磁気プリンタを
通常の環境で使用する限り、熱入力されていない領域に
磁化方向が反転した磁気潜像が形成されたり、あるい
は、未記録領域の磁化の大きさが、バイアス磁界によっ
て大きく減磁されてしまうといった問題が生じない。ま
た、一般的に、磁気潜像記録時にサーマルヘッド装置3
で熱入力した時の磁気記録媒体12の温度は150℃以
下である。従って、本実施例の磁気記録媒体12は、一
般的な磁気潜像記録動作において、その保磁力が室温で
の最大エネルギー積を与える磁界の大きさHMAである2
20(Oe)以下となる温度に昇温可能である。
【0081】次に、上記試料Dにバイアス磁界の大きさ
を例えば160(Oe)として磁気潜像を形成する方法
について説明する。図13より、磁気記録媒体12の保
磁力が160(Oe)以下になるのは140℃以上であ
る。そこで、この試料Dに、予め面内一方向に飽和する
まで初期化磁界を加え、その後、初期化磁界の方向とは
逆向きに160(Oe)のバイアス磁界を印加しなが
ら、磁気記録媒体12の記録したい領域の温度が140
℃以上となるように熱入力を行い、磁気潜像を形成した
ところ、磁気記録媒体12の温度が140℃以上となる
領域に磁化反転領域が形成された。また、バイアス磁界
の大きさが、室温での最大エネルギー積を与える磁界の
大きさHMAの220(Oe)よりも小さいので、未記録
領域の磁化は、バイアス磁界を取り去った後に、マイナ
ーループを辿って図12のI点に示す165(emu/
cc)の大きさとなり、室温での最大エネルギー積を与
える磁化の大きさIMAよりも大きな残留磁化となった。
【0082】しかも、最大エネルギー積を与える磁化の
大きさIMAが、室温での残留磁化の大きさの70%以上
である88.2%であるので、バイアス磁界によって未
記録領域の残留磁化は70%以下に減磁されることがな
い。従って、記録された磁気潜像からの磁気吸引力が大
きくなり、磁化反転領域に十分な磁性トナーが付着し
て、良好な顕像が得られた。
【0083】(実施例4)本実施例では、実施例3に示
した試料Dを使用し、以下に示すように、実施例3と同
様の熱入力を行い、初期化磁界の方向とは逆向きに20
0(Oe)のバイアス磁界を印加して磁気潜像を形成し
た。
【0084】図13より、磁気記録媒体12の保磁力が
200(Oe)以下になるのは、90℃以上であること
が分かる。この試料Dに対して、予め面内一方向に飽和
するまで初期化磁界を加え、その後、初期化磁界の方向
とは逆向きに200(Oe)のバイアス磁界を印加しな
がら、実施例3と同様の熱入力を行い、磁気潜像を形成
した。この結果、磁気記録媒体12の温度が90℃以上
となる領域に磁化反転領域が形成された。そして、磁気
記録媒体12の温度が90℃以上となる領域は、実施例
3の140℃以上となる領域に対して、面積比で1.7
倍の大きさになった。即ち、本実施例では、実施例3の
場合と比較して、面積比で1.7倍の大きさの磁気潜像
を形成することができた。
【0085】また、バイアス磁界の大きさが、室温での
最大エネルギー積を与える磁界の大きさHMAの220
(Oe)よりも小さいので、未記録領域の磁化は、バイ
アス磁界を取り去った後に、マイナーループを辿って図
12のJ点に示す161(emu/cc)の大きさとな
り、室温での最大エネルギー積を与える磁化の大きさよ
りも大きな残留磁化となる。
【0086】しかも、最大エネルギー積を与える磁化の
大きさIMAが、室温での残留磁化の大きさの70%以上
の88.2%であるので、バイアス磁界によって未記録
領域の残留磁化は70%以下に減磁されることがない。
従って、記録された磁気潜像からの磁気吸引力が大きく
なり、磁化反転領域に十分な量の磁性トナーが付着し
て、良好な顕像が得られた。
【0087】(比較例5)実施例3で示した試料Dを使
用し、実施例3と同様の熱入力を行い、初期化磁界の方
向と同じ向きに160(Oe)のバイアス磁界を印加し
て磁気潜像の形成試験を行った。この結果、熱入力され
た領域は初期化磁化と同一方向に磁化されるので磁気潜
像が形成されず、磁性トナーで現像試験を行っても磁性
トナーの付着は見られなかった。
【0088】
【発明の効果】以上のように、請求項1の発明の磁気記
録媒体は、磁気潜像記録時の所定温度に加熱された状態
での保磁力が、室温でのヒステリシスループにおける最
大エネルギー積を与える磁界の大きさよりも小さく、こ
の最大エネルギー積を与える磁界の大きさと前記所定温
度での保磁力との間を前記バイアス磁界の大きさの設定
範囲とする構成である。
【0089】これにより、本磁気記録媒体では、キュリ
ー点に左右されることなく磁気潜像記録時の加熱温度を
設定し得るとともに、適切なバイアス磁界を設定するこ
とができ、この結果、大きな磁気吸引力を有する良好な
磁気潜像を形成することができるという効果を奏する。
【0090】請求項2の発明の磁気記録媒体は、請求項
1の発明の磁気記録媒体において、室温でのヒステリシ
スループにおける最大エネルギー積を与える磁化の大き
さが、室温での残留磁化の大きさの70%以上となって
いる構成である。
【0091】これにより、本磁気記録媒体では、磁気記
録媒体の室温でのヒステリシスループの形状により磁気
潜像の磁化の大きさが小さくなる事態を回避することが
でき、さらに良好な磁気潜像を形成することができると
いう効果を奏する。
【0092】請求項3の発明の磁気記録媒体は、請求項
1または2の発明の磁気記録媒体において、室温での保
磁力が200〜1000(Oe)となっている構成であ
る。
【0093】これにより、本磁気記録媒体では、鮮明な
磁気潜像を得ることができ、かつバイアス磁界の大きさ
を適当なものとすることができるという効果を奏する。
【0094】請求項4の発明の磁気記録媒体は、請求項
1から3の何れかの発明の磁気記録媒体において、所定
温度での保磁力が室温でのヒステリシスループの最大エ
ネルギー積を与える磁界の大きさよりも小さくなる温度
が60℃以上となっている構成である。
【0095】これにより、本磁気記録媒体では、磁気潜
像記録において気温の影響を排除して正確な磁気潜像を
形成し得るとともに、磁気記録媒体への熱入力量を抑制
することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施例の磁気記録媒体における常温
でのヒステリシスループを示すグラフである。
【図2】図1のヒステリシスループを有する磁気記録媒
体における保磁力の温度依存性を示すグラフである。
【図3】図1に示したヒステリシスループにおいて、各
バイアス磁界に応じて形成されるマイナーループの説明
図である。
【図4】前記磁気記録媒体を有する磁気ドラムを備えた
熱磁気プリンタにおける画像形成部の構成を示す説明図
である。
【図5】図4に示した磁気ドラムの縦断面図である。
【図6】上記磁気ドラムに代えて磁気ベルトを備えた熱
磁気プリンタにおける画像形成部の構成を示す説明図で
ある。
【図7】上記磁気記録媒体の評価を行うための試料にお
ける要部の構成を示す縦断面図である。
【図8】比較例となる試料の磁気記録媒体における常温
でのヒステリシスループを示すグラフである。
【図9】図8のヒステリシスループを有する磁気記録媒
体における保磁力の温度依存性を示すグラフである。
【図10】他の比較例となる試料の磁気記録媒体におけ
る常温でのヒステリシスループを示すグラフである。
【図11】図10のヒステリシスループを有する磁気記
録媒体における保磁力の温度依存性を示すグラフであ
る。
【図12】本発明の他の実施例の磁気記録媒体における
常温でのヒステリシスループを示すグラフである。
【図13】図12のヒステリシスループを有する磁気記
録媒体における保磁力の温度依存性を示すグラフであ
る。
【図14】同図(a)は面内記録方式の説明図、同図
(b)は垂直記録方式の説明図である。
【図15】従来の磁気記録媒体における常温でのヒステ
リシスループを示すグラフである。
【図16】図15のヒステリシスループを有する磁気記
録媒体における保磁力の温度依存性を示すグラフであ
る。
【図17】図15に示したヒステリシスループにおい
て、バイアス磁界に応じて形成されるマイナーループの
説明図である。
【符号の説明】
1 磁気ドラム 2 一方向磁化磁石 3 サーマルヘッド装置 4 バイアス磁界印加用磁石 5 現像器 12 磁気記録媒体 13 保護膜 14 磁性トナー HMA 最大エネルギー積を与える磁界の大きさ IMA 最大エネルギー積を与える磁化の大きさ
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (56)参考文献 特開 昭59−53855(JP,A) 特開 昭62−100767(JP,A) 特開 昭64−46766(JP,A) 特開 昭58−35576(JP,A) (58)調査した分野(Int.Cl.7,DB名) G03G 5/16,9/08

Claims (4)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】磁化方向が表面と平行であり、保磁力が温
    度上昇に伴って低下し、キュリー点以下の所定温度に加
    熱された状態にて初期状態の磁化方向とは逆方向のバイ
    アス磁界が印加されることにより、磁性トナーにて現像
    される磁気潜像を形成する磁気記録媒体において、 磁気潜像記録時の前記所定温度での保磁力が、室温での
    ヒステリシスループにおける最大エネルギー積を与える
    磁界の大きさよりも小さく、この最大エネルギー積を与
    える磁界の大きさと前記所定温度での保磁力との間を前
    記バイアス磁界の大きさの設定範囲とすることを特徴と
    する磁気記録媒体。
  2. 【請求項2】室温でのヒステリシスループにおける最大
    エネルギー積を与える磁化の大きさが、室温での残留磁
    化の大きさの70%以上であることを特徴とする請求項
    1に記載の磁気記録媒体。
  3. 【請求項3】室温での保磁力が200〜1000(O
    e)であることを特徴とする請求項1または2に記載の
    磁気記録媒体。
  4. 【請求項4】所定温度での保磁力が室温でのヒステリシ
    スループの最大エネルギー積を与える磁界の大きさより
    も小さくなる温度が60℃以上であることを特徴とする
    請求項1から3の何れかに記載の磁気記録媒体。
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