JP3194338B2 - 無方向性珪素鋼板の耐熱性に優れた絶縁被膜用コ−テイング剤、およびその絶縁被膜の形成方法 - Google Patents

無方向性珪素鋼板の耐熱性に優れた絶縁被膜用コ−テイング剤、およびその絶縁被膜の形成方法

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Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】この発明は、無方向性珪素鋼板の
製造において、特に、高級無方向性珪素鋼板を高周波用
途で使用した場合に優れた磁気特性を発揮させるため
に、高い層間抵抗を有し、且つ、歪取り焼鈍を施した後
でも優れた層間抵抗を有する、耐熱性の優れた絶縁被膜
用コ−テイ ング剤、および、その塗布、焼き付けによる
絶縁被膜の形成方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】無方向性珪素鋼板は、モ−タ−やトラン
スなどの鉄芯材料として広く使用されている。珪素鋼板
は、Si含有量の増加と共に、磁気特性が向上し、Si含有
量が6.5%において最高となるが、一方、材質が脆くなる
ため工業的に製造可能であるのは、Siの含有量が3.5%ま
でであった。しかし、近年、化学蒸着法による珪素鋼板
の製造プロセスが実用化され、珪素含有量が3.5%超の高
級無方向性珪素鋼板も量産が可能となった。
【0003】このような高級無方向性珪素鋼板は、例え
ば400 〜30KHZの高周波領域で使用すると、鉄損が著
しく小さくなるという特長を有し、電気機器の高周波化
・小型化・低騒音化に対応できる優れた材料である。
【0004】通常、珪素鋼板の表面には、鉄損の一部を
構成する渦電流損を低減させるために絶縁被膜がコ−テ
イ ングされている。高周波領域で鉄芯を交番磁化する
と、鉄損に占める渦電流損の割合が増大するため、高級
無方向性珪素鋼板には、従来の無方向性珪素鋼板よりも
高い層間抵抗の絶縁被膜が必要となる。絶縁被膜を有す
る無方向性珪素鋼板としては、用途によっても異なる
が、歪取り焼鈍を行なった後に、層間抵抗(その測定方
法はJIS C2550による。以下同じ)が30Ω・cm2
/枚以上あることが必要である。
【0005】無方向性珪素鋼板の絶縁被膜として、従
来、無機質被膜、有機質被膜および無機質+有機質被膜
があり、広く実用化されている。これらの絶縁被膜は、
層間抵抗の他に打ち抜き性、溶接性、被膜密着性、耐食
性、滑り性、占積率、耐冷媒性、および耐熱性の多岐に
わたる特性を有し、需要家のニ−ズに応じて使い分けら
れている。
【0006】有機質被膜および無機質被膜+有機質被膜
は、打ち抜き性に優れているが、有機物を含んでいるた
め歪取り焼鈍を施すと層間抵抗は大幅に低下し、即ち、
劣化する。これに対して、無機質被膜は、耐熱性に優
れ、しかも歪取り焼鈍後の層間抵抗の劣化が少ない。
【0007】このような無機質被膜による絶縁被膜の形
成方法として、リン酸塩を主成分とし、これに少量の耐
熱性向上剤としてシリカゾル、ホウ酸またはミョウバン
を添加した絶縁被膜コ−テイ ング剤が、特開昭60-15268
1 号公報(以下、先行技術1という)、特開昭62-44581
号公報(以下、先行技術2という)、特公昭55-1348号
公報(以下、先行技術3という)、特開平4-99878 号公
報(以下、先行技術4という)および特開昭54-130449
号公報(以下、先行技術5という)に開示されている。
【0008】また、方向性珪素鋼板を対象とした無機質
被膜として、被膜の張力を強化するためにリン酸塩とシ
リカゾルが主成分である絶縁被膜コ−テイ ング剤が、特
公昭53-28375号公報(以下、先行技術6という)、特公
昭56-52117号公報(以下、先行技術7という)、特公昭
62-60468号公報(以下、先行技術8という)および特開
平4-236785号公報(以下、先行技術9という)に開示さ
れている。通常、方向性珪素鋼板においては、焼鈍分離
剤を鋼板表面に塗布した後最終仕上げ焼鈍を行うことに
よって、ゴス方位に2次再結晶を成長させる。このとき
鋼板表面に、焼鈍分離剤と鋼板との反応生成物であるフ
ォルステライト被膜が形成される。先行技術6〜9にお
いてはいずれも、このフォルステライト被膜を介して、
被膜密着性に優れた無機質絶縁被膜が形成されている。
【0009】更に、リン酸塩とシリカゾルを主成分とし
たコ−テイ ング剤において、コ−テイング剤の成分比率
の最適化、および被膜形成時の焼付け条件の最適化によ
って、鋼板表面にフォルステライト被膜が形成されてい
ない場合であっても、歪取り焼鈍後の被膜剥離がなく、
かつ張力の優れた絶縁被膜を形成させる方法が、特開平
3-130377号公報(以下、先行技術10という)および特開
昭56-55574号公報(以下、先行技術11という)に開示さ
れている。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、先行技
術1〜5に開示された方法で形成された無機質被膜はい
ずれも、リン酸塩を主成分にしているため、歪取り焼鈍
を施した後の層間抵抗が劣化し、例えば30Ω・cm2
枚以上の層間抵抗を得るためには、被膜厚さが4〜6 μm
のコ−テイ ングをしなければならない。しかし、この
ような被膜厚さでは積層鉄芯のコア積み時の占積率が低
下し、また、被膜密着性に劣り、実用的ではない。
【0011】先行技術6〜9に開示された方法で形成さ
れた無機質被膜はいずれも、鋼板表面に別途形成された
フォルステライト被膜を介して、無機質絶縁被膜が形成
されたものである。このものは、被膜密着性には優れて
いるけれども、歪取り焼鈍後の層間抵抗は十分でなく、
例えば30Ω・cm2/枚を得るためには被膜厚さ2μm以
上のコ−テイングが必要であり、占積率が低下する。ま
た、無方向性珪素鋼板は、本来、鋼板表面にフォルステ
ライト被膜を持たず、その必要性もない。従って、フォ
ルステライト被膜を持たない無方向性珪素鋼板表面に、
先行技術6〜9に開示された被膜を形成した場合は、歪
取り焼鈍後に被膜が剥離するので、問題の解決にならな
い。
【0012】先行技術10および11に開示された方法で形
成された無機質被膜はいずれも、被膜密着性および張力
付加性には優れているけれども、歪取り焼鈍後の層間抵
抗は著しく低下し、30Ω・cm2/枚以上の層間抵抗を
得ることができないことが判明した。後述するが、恐ら
くこれは、クロム酸化合物がコ−テイング剤中に多量に
含まれているためで、歪取り焼鈍によりクロム酸化合物
は、耐熱性の劣るクロム酸化物となり、歪取り焼鈍後の
層間抵抗が著しく低下するものと考えられる。
【0013】従って、この発明の目的は、無機質絶縁被
膜に関する上述した問題を解決し、歪取り焼鈍後におい
て、層間抵抗に優れ(例えば、被膜厚さが1.0 〜2.0 μ
m の範囲内において30Ω・cm2/枚以上)、しかも被
膜密着性および耐食性についても優れた、無方向性珪素
鋼板の耐熱性に優れた絶縁被膜用コ−テイ ング剤、およ
びその絶縁被膜の形成方法を提供することにある。
【0014】
【課題を解決するための手段】本発明者等は、上述した
問題を解決すべく鋭意研究を重ねた。その結果、シリカ
ゾルと、所定の範囲内のAl2O3とP2O5とのモル比を有す
るリン酸アルミニウムとを含み、シリカゾル中のSiO
2と、リン酸アルミニウム中のAl2O3+P2O5との重量比を
所定の範囲内に設定した水溶液をコ−テイ ング剤とし、
これを所定の条件下で焼き付けることによって、歪取り
焼鈍後において、層間抵抗に優れ、しかも被膜密着性お
よび耐食性についても優れた、無方向性珪素鋼板の絶縁
被膜を形成することができることを知見した。
【0015】この発明の絶縁被膜用コ−テイ ング剤は、
上記知見に基づいてなされたものであり、即ち、この発
明は、実質的に、シリカゾルと、Al2O3とP2O5とのル比
率が0.25〜0.37の範囲内のリン酸アルミニウムとを、前
記シリカゾル中のSiO2と前記リン酸アルミニウム中のAl
2O3 とP2O5との和との重量比が、70:30以上、90:10
以下の範囲内で含有する水溶液に、更に、下記(イ)か
ら(ハ)までの3種: (イ)無水クロム酸およびクロム酸塩のうちの少なくと
も1つ:前記水溶液100重量部に対して、CrO3として0.1
〜0.6 重量部 (ロ)ホウ酸:前記水溶液 100重量部に対して、0.2 〜
15重量部、 (ハ)水溶性でかつ分子量が2,000 〜2,000,000 であ
る、アクリル酸またはメタクリル酸の重合体、アクリル
酸とメタクリル酸との共重合体、および前記重合体また
は前記共重合体の塩のうち少なくとも1つ:前記水溶液
100重量部に対して、0.01〜0.5 重量部が含まれている
ことに特徴を有するものである。
【0016】
【作用】この発明において、コ−テイ ング剤を構成する
シリカゾルは粒子径が数μm から数百μm のSiO2の微粒
子がコロイド状で安定して懸濁しており、そしてSiO2
絶縁性および耐熱性に優れているので、この発明の目的
達成の絶縁被膜の主要成分として適する。
【0017】また、リン酸アルミニウムはSiO2粒子の鋼
板に対するバインダ−として作用する。即ち、焼付け過
程において脱水縮合反応を起こしてリン酸塩ポリマ−を
形成し、被膜密着性に優れた無機質絶縁被膜を形成す
る。水溶液として安定して存在するリン酸塩によって上
記リン酸塩ポリマ−が形成されるが、特にリン酸アルミ
ニウムは、被膜形成後の吸湿性が少なく耐熱性に優れて
おり、この発明の目的達成に適する。
【0018】この発明において、実質的に、SiO2と、Al
2O3とP2O5との和との重量比を、70:30以上、90:10以
下の範囲内で含有する水溶液に限定した理由について説
明する。
【0019】シリカゾルとリン酸アルミニウムとの比
率: 表1の配合No.A1 〜A11 に示したように、シリカゾルと
リン酸アルミニウムの配合比率を、SiO2とAl2O3+P2O5
との重量比として95:5から30:70 まで変化させた全固形
分20wt.%の水溶液である絶縁被膜用コ−テイ ング剤(但
し、リン酸アルミニウムのAl2O3とP2O5とのモル比は0.3
5で一定)を調製した。シリカゾルはSiO2濃度20wt.%の
市販の試薬(以下、作用の項において同じ)を、そし
て、リン酸アルミニウムは75wt.%オルソリン酸と水酸化
アルミニウムを水中で加熱しながら反応させ(以下、作
用の項において同じ)、Al2O3とP2O5とのモル比率が種
々異なり、Al2O3とP2O5との合計濃度は41wt.%で一定の
リン酸アルミニウム水溶液を調製した。このようにして
調製されたコ−テイ ング剤を、板厚0.35mmの3.0%Siの無
方向性珪素鋼板の表面に塗布し、板温400 ℃で60秒間の
焼付け処理を施し、厚さ1.1 〜1.3 μm の被膜を形成さ
せ、次に、上記絶縁被膜が形成された鋼板を窒素雰囲気
下で800 ℃、2 時間の歪取り焼鈍を施した。
【0020】
【表1】
【0021】このようにして絶縁被膜が形成された鋼板
について、層間抵抗および被膜密着性の試験をした。な
お、被膜密着性については平板状態において密着された
セロテ−プ剥離後の被膜の剥離面積割合(%) で評価した
(以下、被膜密着性についての試験方法および評価方法
はこれと同じである)。それらの結果を図1および図2
に示した。
【0022】図1は、絶縁被膜が形成された珪素鋼板の
焼鈍後の層間抵抗に及ぼす、シリカゾルとリン酸アルミ
ニウムとを含むコ−テイ ング剤中のSiO2とAl2O3+P2O5
との重量比の影響を示すグラフであり、図2は、同じく
被膜密着性に及ぼすSiO2とAl2O3+P2O5との重量比の影
響を示すグラフである。
【0023】図1および図2から下記事項を知見した。
シリカゾルとリン酸アルミニウムとを含むコ−テイ ング
剤中のSiO2とAl2O3+P2O5との重量比において、SiO2
比率が増大しAl2O3+P2O5の比率が減少するとともに、
歪取り焼鈍後の絶縁被膜コ−テイ ング珪素鋼板の層間抵
抗は大きくなり、SiO2とAl2O3+P2O5との重量比が70:3
0以上の場合に、層間抵抗は30Ω・cm2/枚以上となる。
一方、焼鈍後の被膜密着性は、SiO2の比率が増大し、Si
O2とAl2O3+P2O5との重量比が90:10までは良好である
が90:10を超えると劣化する。
【0024】従って、この発明のコ−テイ ング剤中のSi
O2とAl2O3+P2O5との重量比は、70:30以上90:10以下
に限定すべきである。
【0025】リン酸アルミニウムのAl2O3とP2O5との
モル比率: 次に、本発明において、リン酸アルミニウムのAl2O3とP
2O5とのモル比率を0.25〜0.37の範囲内に限定した理由
について説明する。
【0026】リン酸アルミニウムのAl2O3とP2O5とのモ
ル比率を、表2の配合No.A12〜A21に示したように、0.0
1から0.37まで変化させた水溶液である絶縁被膜用コ−
テイング剤(但し、シリカゾルとリン酸アルミニウムと
の比率は、SiO2とAl2O3+P2O5との重量比が80:20 で一
定)を、板厚0.35mmの3.0%Siの無方向性珪素鋼板の表面
に塗布し、板温400 ℃で60秒間の焼付け処理を施し、厚
さ1.1 〜1.3 μm の被膜を形成させ、次に、上記絶縁被
膜が形成された鋼板を窒素雰囲気下で800 ℃、2 時間の
歪取り焼鈍を施した。なお、Al2O3とP2O5とのモル比率
が0.37超の場合は、リン酸アルミニウムが水溶液として
安定に存在しないためこの発明の範囲外である。
【0027】
【表2】
【0028】このようにして絶縁被膜が形成された鋼板
について層間抵抗試験をした。その結果を図3に示し
た。図3は、絶縁被膜が形成された珪素鋼板の焼鈍後の
層間抵抗に及ぼす、リン酸アルミニウムのAl2O3とP2O5
とのモル比率の影響を示すグラフである。
【0029】図3から下記事項を知見した。シリカゾル
とリン酸アルミニウムとを含むコ−テイ ング剤中のリン
酸アルミニウムのAl2O3とP2O5とのモル比率が増大する
とともに、歪取り焼鈍後の絶縁被膜コ−テイ ング珪素鋼
板の層間抵抗は大きくなり、そのモル比率が0.25以上の
場合に、層間抵抗は30Ω・cm2/枚以上となる。なお、A
l2O3とP2O5とのモル比率が0.37超の場合は、リン酸アル
ミニウムが水溶液として安定して存在しないためこの発
明の目的のコ−テイ ング剤として不適当である。
【0030】従って、この発明のコ−テイ ング剤中のリ
ン酸アルミニウムのAl2O3とP2O5とのモル比率は、0.25
〜0.37の範囲内に限定すべきである。
【0031】上述した条件を実質的に満たすシリカゾル
とリン酸アルミニウムとからなる水溶液に、更に、下記
(イ)〜(ハ)の条件: (イ)無水クロム酸およびクロム酸塩のうちの少なくと
も1つ:前記水溶液 100重量部に対して、CrO3として0.
1 〜0.6 重量部 (ロ)ホウ酸:前記水溶液 100重量部に対して、0.2 〜
15重量部、 (ハ)水溶性でかつ分子量が2,000 〜2,000,000 であ
る、アクリル酸またはメタクリル酸の重合体、アクリル
酸とメタクリル酸との共重合体、および前記重合体また
は前記共重合体の塩のうち少なくとも1つ:前記水溶液
100重量部に対して、0.01〜0.5 重量部を含有させるこ
とによって耐熱性に優れた絶縁被膜の形成が可能であ
る。以下、その理由について説明する。
【0032】無水クロム酸またはクロム酸塩: クロム酸化合物は、塗布された上記コ−テイ ング剤が鋼
板と反応するのを抑制する作用を有し、特に、鋼板から
の鉄イオンの溶出および水素ガスの発生を抑制する。こ
のようなクロム酸化合物としては、無水クロム酸、クロ
ム酸塩が適しており、単独添加または2種の添加のいず
れでもよい。クロム酸化合物をCrO3換算で0.1 重量部以
上添加すると、水素ガスの発生が抑制されて平滑な絶縁
被膜が形成され、更に、絶縁被膜中に取り込まれる鉄イ
オンが少なくなり歪取り焼鈍後の層間抵抗が向上する。
しかしながら、CrO3換算で0.6 重量部超を添加するとク
ロム酸化物自体が耐熱性に劣るため、絶縁被膜の歪取り
焼鈍の層間抵抗が低下する。
【0033】従って、無水クロム酸およびクロム酸塩の
うち少なくとも1つの総量を、CrO3として0.1 〜0.6 重
量部の範囲内において上記コ−テイ ング剤に添加する必
要がある。
【0034】ホウ酸: ホウ酸には、この発明のコ−テイ ング剤に含まれるリン
酸アルミニウムによる吸湿を防止する効果がある。即
ち、リン酸アルミニウムは、絶縁被膜形成後において徐
々に吸湿するため被膜の耐食性が徐々に劣化するが、ホ
ウ酸の添加によってそれが防止される。しかし、その添
加量が0.2 重量部未満ではではその効果が十分発揮され
ない。一方、ホウ酸の添加量が15重量部超では、コ−テ
イ ング剤に不溶となり、未溶解部分が沈殿するため、こ
のようなコ−テイ ング剤を塗布すると均一な被膜が形成
されず、また、歪取り焼鈍後の層間抵抗が低下し、被膜
密着性および耐食性も低下する。
【0035】従って、ホウ酸を0.2 〜15重量部の範囲内
において、上記コ−テイ ング剤に添加することが望まし
い。なお、ホウ酸の添加量を15重量部超とすべきではな
い。
【0036】界面活性機能を有する高分子: 鋼板にこの発明のコ−テイ ング剤を塗布する際、鋼板と
の濡れ性を向上させるために、界面活性機能を有する高
分子を添加することが望ましい。界面活性機能を有する
高分子としては、この発明のコ−テイ ング剤と相溶性の
良好なものが選ばれる。
【0037】そのような高分子としては、水溶性のポリ
アクリル酸、またはポリアクリル酸ソ−ダに代表される
ような水溶性の、アクリル酸またはメタクリル酸の重合
体、アクリル酸とメタクリル酸との共重合体、および前
記重合体または前記共重合体の塩が望ましい。ここで、
塩の種類としては、ナトリウム塩、アンモニウム塩、マ
グネシウム塩、カルシウム塩、アルミニウム塩等が適す
る。そして、上記界面活性機能を有する高分子の分子量
および添加量の適正範囲が存在する。
【0038】この発明のコ−テイ ング剤において、上記
高分子の分子量が2,000 未満では、コ−テイ ング剤中に
クロム酸化合物が存在するときは、これと反応して沈殿
物を生ずる。一方、分子量が2,000,000 超では、上記高
分子がゲル化して、溶解しなくなる。このような沈殿物
あるいは未溶解物があるものを塗布すれば、コ−テイン
グ剤の塗布ムラが発生して均一な被膜は形成されず、ま
た、歪取り焼鈍後の層間抵抗が低下するとともに、被膜
密着性および耐食性も劣化する。
【0039】界面活性機能を有する高分子は、コ−テイ
ング剤に添加されて、鋼板との濡れ性を向上させ、塗布
時において微細なはじきがなくなり、より均一な被膜が
形成される。しかし、その添加量は、0.01重量部未満で
はその効果が十分発揮されない。一方、0.5 重量部超添
加されても濡れ性はそれ以上向上せず、その上歪取り焼
鈍後の層間抵抗の低下が著しい。
【0040】従って、この発明のコ−テイ ング剤には、
界面活性機能を有する高分子が添加されるべきであり、
その分子量は2,000 〜2,000,000 の範囲内とすべきであ
って、添加量は0.01〜0.5 重量部の範囲内である必要が
ある。なお、添加量を0.5 重量部超とすべきではない。
【0041】次に、絶縁被膜コ−テイ ング剤の焼付け方
法の限定理由について説明する。所定の方法で前述した
絶縁被膜コ−テイ ング剤を塗布した鋼板を、電気ヒ−タ
−、ラジアントチュ−ブヒ−タ−またはインダクション
ヒ−タ−等の加熱炉において、焼付け処理する。焼付け
温度は、板温で350 ℃未満では低すぎるため被膜の形成
が不十分であり、被膜密着性が劣る。その上、歪取り焼
鈍を施した後でも被膜密着性が向上せず、また層間抵抗
も低い。このように、被膜形成には350 ℃以上の焼付け
温度が必要であるが、一方、大気雰囲気で焼き付ける場
合、550 ℃超になると外観が青紫色に変色し、被膜密着
性が劣化し、歪取り焼鈍後に被膜が剥離し易く実用に耐
えない。
【0042】従って、この発明の絶縁被膜用コ−テイ ン
グ剤の鋼板への焼付け温度は、板温で350 〜550 ℃の範
囲内とすべきである。
【0043】
【実施例】次に、この発明を実施例に基づいて更に説明
する。
【0044】(実施例1) 表3および表4の配合No.1〜21に示した、本発明の範
囲内の化学成分配合の固形分20wt.%の水溶液(以下、本
発明コ−テイ ング剤という)および本発明の範囲外の化
学成分配合の固形分20wt.%の水溶液(以下、比較用コ−
テイ ング剤という)を調製し、板厚0.2 mm、3.0%Si含有
の無方向性珪素鋼帯の表面に、ピックアップロ−ル、ト
ランスファ−ロ−ルおよびアプリケ−タ−ロ−ルを備え
たロ−ルコ−タ−を用いて塗布し、そして、電気ヒ−タ
−方式の大気雰囲気加熱炉で板温450 ℃、40秒間焼付け
処理を行なった。コ−テイ ングは焼付け後の被膜厚さが
片面あたり1.0 から1.4 μm の範囲内となるように調節
した。更に、窒素雰囲気下で800 ℃、2 時間の歪取り焼
鈍を行なった。
【0045】
【表3】
【0046】
【表4】
【0047】このようにして絶縁被膜がコ−テイ ングさ
れた鋼帯の歪取り焼鈍前および後の試験材について、以
下に述べる試験を行なった。供試材は、本発明コ−テイ
ング剤による絶縁被膜を有するもの(以下、本発明供試
材という)および比較用コ−テイ ング剤による絶縁被膜
を有するもの(以下、比較供試材という)からなり、供
試材No.1 〜21の21個の各々について歪取り焼鈍前
および後の計42個である。評価試験は、層間抵抗、被
膜密着性および耐食性について実施した。なお、耐食性
については、50℃、80%RH の恒温恒湿試験槽内に試験片
を5日間保持した後の発錆面積の割合(%) で評価した
(以下、耐食性についての試験方法および評価方法はこ
れと同じである)。表5および表6に、上記試験結果を
示した。
【0048】
【表5】
【0049】
【表6】
【0050】表5および表6からつぎの結果が得られ
た。
【0051】 供試材No.1〜10は、いずれも、CrO
3、ホウ酸および界面活性剤の添加条件が本発明範囲内
にあるが、そのうち供試材No.1、5は、SiO2の重量比率
が本発明の範囲外である。
【0052】比較用供試材についてみると、供試材No.
1は、SiO2の重量比率が本発明の範囲外に低いので、歪
取り焼鈍後の層間抵抗が劣り、供試材No.5は、SiO2
重量比率が本発明の範囲外に高いので、被膜密着性が劣
り、供試材No.6は、Al2O3とP2O5とのモル比率が本発
明範囲外に低いので、歪取り焼鈍後の層間抵抗が劣って
いる。これに対して、供試材No.2〜4、7〜10は、本
発明供試材であるので、いずれも、歪取り焼鈍後の各特
性値は優れている。
【0053】 供試材No.11および12は、いずれ
も、シリカゾル、リン酸アルミニウム、ホウ酸および界
面活性剤の添加条件が本発明範囲内にあるが、供試材N
o.12は、CrO3の添加量が本発明の範囲外に多いので、
歪取り焼鈍後の層間抵抗が劣っている。これに対して、
供試材No.11は、本発明供試材であるので、歪取り焼
鈍前および後の各特性値は優れている。そして、供試材
No.11は、CrO3が本発明範囲内で適量添加されている
ので、歪取り焼鈍後の層間抵抗が優れている。
【0054】 供試材No.13〜18は、いずれも、
シリカゾル、リン酸アルミニウム、CrO3およびホウ酸の
添加条件が本発明範囲内にある。
【0055】しかし、供試材No.13は、界面活性剤の
分子量が本発明の範囲外に低く、供試材No.16は、そ
の分子量が本発明の範囲外に高い。そのためコ−テイ ン
グ剤の塗布むらが発生し均一な絶縁被膜が形成されなか
った。従って、各特性値の測定をすることはできなかっ
た。また、供試材No.18は、界面活性剤の添加量が本
発明の範囲外に多かったので、歪取り焼鈍後の層間抵抗
が劣っている。
【0056】これに対して、供試材No.14、15、1
7は、いずれも、本発明供試材であるので、歪取り焼鈍
前および後の各特性値が優れている。
【0057】 比較用供試材中、供試材No.19、2
0、21は、それぞれ先行技術4、5、6、7に開示さ
れたコ−テイ ング剤を使用した場合であり、コ−テイ ン
グ剤はいずれも本発明の範囲外のものである。
【0058】供試材No.19は、SiO2の配合率がこの発
明の範囲外で極めて少なく、また、クロム酸化合物の配
合率がこの発明の範囲外で極めて過剰なので、歪取り焼
鈍後の層間抵抗が著しく低い。更に、フォルステライト
被膜を中間層に持たないため、歪取り焼鈍後の被膜密着
性が劣っている。
【0059】供試材No.20は、SiO2の配合率がこの発
明の範囲外で極めて少なく、また、クロム酸化合物の配
合率がこの発明の範囲外で極めて過剰なので、歪取り焼
鈍後の層間抵抗が著しく低い。更に、フォルステライト
被膜を中間層に持たないため、歪取り焼鈍後の被膜密着
性が劣っている。
【0060】供試材No.21は、SiO2の配合率がこの発
明の範囲外で極めて少なく、また、クロム酸化合物の配
合率がこの発明の範囲外で極めて過剰なので、歪取り焼
鈍後の層間抵抗が著しく低い。
【0061】(実施例2) 板厚0.1 mm、6.5%Si含有の無方向性珪素鋼帯の表面に形
成させた以外は実施例1と同じ方法および条件で絶縁被
膜を形成させ、得られた試験材について同じ評価試験を
実施した。即ち、表3および表4の配合No.1〜21に示
した本発明コ−テイ ング剤および比較用コ−テイ ング剤
を調製し、板厚0.1 mm、6.5%Si含有の無方向性珪素鋼帯
の表面に、実施例1と同じ方法で塗布し、実施例1と同
じ条件で焼付け処理を行なった。焼付け後被膜厚さを片
面あたり1.0 から1.4 μm の範囲内となるようにコーテ
ィングを調節し、更に、窒素雰囲気下で800 ℃、2 時間
で歪取り焼鈍を行ない、いずれも実施例1と同じ条件で
ある。
【0062】このようにして絶縁被膜がコ−テイ ングさ
れた鋼帯の歪取り焼鈍前および後の試験材について試験
した。供試材は、本発明供試材と比較用供試材とからな
り、供試材No.1〜21の21個の各々について歪取り
焼鈍前および後の計42個である。評価試験項目(層間
抵抗、被膜密着性および耐食性)および試験方法・条件
についても実施例1と同じように行なった。表7および
表8に、上記試験結果を示した。
【0063】
【表7】
【0064】
【表8】
【0065】表7および表8からつぎの結果が得られ
た。
【0066】 供試材No.101〜110は、いずれ
も、クロム化合物、ホウ酸および界面活性剤の添加条件
が本発明範囲内にあるが、そのうち供試材No.101
、105は、SiO2の重量比率が本発明の範囲外であ
る。
【0067】比較用供試材についてみると、供試材No.
101 は、SiO2の重量比率が本発明の範囲外に低いの
で、歪取り焼鈍後の層間抵抗が劣り、供試材No.105
は、SiO2の重量比率が本発明の範囲外に高いので、被
膜密着性が劣っている。これに対して、供試材No.10
2〜104、107〜110は、本発明供試材であるの
で、いずれも、歪取り焼鈍後の各特性値は優れている。
【0068】 供試材No.111および112は、い
ずれも、シリカゾル、リン酸アルミニウム、ホウ酸およ
び界面活性剤の添加条件が本発明範囲内にあるが、供試
材No.112は、CrO3の添加量が本発明の範囲外に多い
ので、歪取り焼鈍の層間抵抗が劣っている。これに対し
て、供試材No.111は、本発明供試材であるので、歪
取り焼鈍前および後の各特性値は優れている。そして、
供試材No.111は、CrO3が本発明範囲内で適量添加さ
れているので、歪取り焼鈍後の層間抵抗が優れている。
【0069】 供試材No.113〜118は、いずれ
も、シリカゾルおよびリン酸アルミニウムの添加条件が
本発明の範囲内であり、しかもCrO3およびホウ酸の添加
条件が本発明範囲内にある。
【0070】しかし、供試材No.113は、界面活性剤
の分子量が本発明の範囲外に低く、供試材No.116
は、その分子量が本発明の範囲外に高い。そのため、い
ずれもコ−テイ ング剤の塗布むらが発生し均一な絶縁被
膜が形成されなかった。従って、各特性値の測定をする
ことはできなかった。また、供試材No.118は、界面
活性剤の添加量が本発明の範囲外に多かったので、歪取
り焼鈍後の層間抵抗がやや劣っている。
【0071】これに対して、供試材No.114、11
5、117は、本発明供試材であるので、いずれも、歪
取り焼鈍前および後の各特性値が優れている。
【0072】 比較用供試材中、供試材No.119、
120、121は、それぞれ先行技術4、5、6、7に
開示されたコ−テイ ング剤を使用した場合であり、コ−
テイング剤はいずれも本発明の範囲外のものである。
【0073】供試材No.119は、SiO2の配合率がこの
発明の範囲外で極めて少なく、また、クロム酸化合物の
配合率がこの発明の範囲外で極めて過剰なので、歪取り
焼鈍後の層間抵抗が著しく低い。更に、フォルステライ
ト被膜を中間層に持たないため、歪取り焼鈍後の被膜密
着性が劣っている。
【0074】供試材No.120は、SiO2の配合率がこの
発明の範囲外で極めて少なく、また、クロム酸化合物の
配合率がこの発明の範囲外で極めて過剰なので、歪取り
焼鈍後の層間抵抗が著しく低い。更に、フォルステライ
ト被膜を中間層に持たないため、歪取り焼鈍後の被膜密
着性が劣っている。
【0075】供試材No.121は、SiO2の配合率がこの
発明の範囲外で極めて少なく、また、クロム酸化合物の
配合率がこの発明の範囲外で極めて過剰なので、歪取り
焼鈍後の層間抵抗が著しく低い。
【0076】(実施例3) 表3に示した、配合No.3の本発明コ−テイ ング剤を板
厚0.2 mm、3.0%Si含有の無方向性珪素鋼帯の表面に、実
施例1と同じ方法で塗布し、電気ヒ−タ−方式の大気雰
囲気加熱炉で板温200 〜600 ℃、40秒間焼付け処理を行
なった。コ−テイ ングは焼付け後の被膜厚さが片面あた
り1.0 μm となるように調節した。更に、窒素雰囲気下
で800 ℃、2 時間の歪取り焼鈍を行なった。このように
して絶縁被膜がコ−テイ ングされた鋼帯の歪取り焼鈍後
の試験材について、層間抵抗および被膜密着性の試験を
実施した。評価方法は実施例1と同じである。その結果
を図4および図5に示す。
【0077】図4は、本発明コ−テイ ング剤により形成
された絶縁被膜の歪取り焼鈍後の層間抵抗に及ぼす焼付
け温度の影響を示すグラフであり、図5は同じく被膜密
着性に及ぼす焼付け温度の影響を示すグラフである。
図4および図5から明らかなように、焼付け温度が350
〜550 ℃の範囲内において、層間抵抗および被膜密着性
ともに優れた、耐熱性に優れた絶縁被膜が形成された。
【0078】なお、以上の実施例において、鋼板に焼付
け後の被膜厚さを片面あたり1.0 〜2.0 μm の範囲内と
なるようにコ−テイ ングを調節した。被膜厚さが1.0 μ
m 未満では、歪取り焼鈍後の層間抵抗が十分大きくな
く、一方、2.0 μm 超では、積層鉄芯のコア積み時の占
積率が低下して望ましくない。
【0079】以上の実施例から明らかなように、本発明
によるコ−テイ ング剤を用い、本発明による方法で無方
向性珪素鋼板の表面に被膜を形成させることによって、
耐熱性に優れた絶縁被膜を得ることができた。
【0080】
【発明の効果】以上述べたように、この発明によれば、
歪取り焼鈍後においても層間抵抗の高い、耐熱性の優れ
た絶縁被膜を形成することができるので、無方向性珪素
鋼板が高周波領域で使用される場合でも著しく鉄損の少
ない優れた絶縁被膜を提供することができる、工業上有
用な効果がもたらされる。
【図面の簡単な説明】
【図1】絶縁被膜が形成された珪素鋼板の、焼鈍後の層
間抵抗に及ぼすシリカゾルとリン酸アルミニウムとを含
むコ−テイ ング剤中のSiO2とAl2O3+P2O5との重量比の
影響を示すグラフである。
【図2】絶縁被膜が形成された珪素鋼板の、焼鈍後の被
膜密着性に及ぼすシリカゾルとリン酸アルミニウムとを
含むコ−テイ ング剤中のSiO2とAl2O3+P2O5との重量比
の影響を示すグラフである。
【図3】絶縁被膜が形成された珪素鋼板の、焼鈍後の層
間抵抗に及ぼす、リン酸アルミニウムのAl2O3とP2O5
のモル比率の影響を示すグラフである。
【図4】本発明コ−テイ ング剤により形成された絶縁被
膜を有する珪素鋼板の、歪取り焼鈍後の層間抵抗に及ぼ
す焼付け温度の影響を示すグラフである。
【図5】本発明コ−テイ ング剤により形成された絶縁被
膜を有する珪素鋼板の、歪取り焼鈍後の被膜密着性に及
ぼす焼付け温度の影響を示すグラフである。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (72)発明者 山下 正明 東京都千代田区丸の内一丁目1番2号 日本鋼管株式会社内 (56)参考文献 特開 昭56−81681(JP,A) 特開 昭62−44581(JP,A) 特開 昭48−39338(JP,A) 特開 昭53−28043(JP,A) (58)調査した分野(Int.Cl.7,DB名) C23C 22/00 - 22/86

Claims (2)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 実質的に、シリカゾルと、Al2O3とP2O5
    とのモル比率が0.25〜0.37の範囲内のリン酸アルミニウ
    ムとを、前記シリカゾル中のSiO2と前記リン酸アルミニ
    ウム中のAl2O3とP2O5との和との重量比が、70:30以
    上、90:10以下の範囲内で含有する水溶液に、更に、下
    記(イ)から(ハ)までの3種: (イ)無水クロム酸およびクロム酸塩のうちの少なくと
    も1つ:前記水溶液100重量部に対して、CrO3として0.1
    〜0.6重量部 (ロ)ホウ酸:前記水溶液100重量部に対して、0.2〜15
    重量部 (ハ)水溶性でかつ分子量が2,000 〜2,000,000 であ
    る、アクリル酸またはメタクリル酸の重合体、アクリル
    酸とメタクリル酸との共重合体、および前記重合体また
    は前記共重合体の塩のうち少なくとも1つ:前記水溶液
    100重量部に対して、0.01〜0.5重量部が含まれているこ
    とを特徴とする、無方向性珪素鋼板の耐熱性に優れた絶
    縁被膜用コ−テイ ング剤。
  2. 【請求項2】 請求項1記載の前記絶縁被膜用コ−テイ
    ング剤を鋼板表面に塗布し、次いで前記鋼板を350 〜55
    0℃の温度範囲内で焼付け処理をすることを特徴とす
    る、無方向性珪素鋼板の耐熱性に優れた絶縁被膜の形成
    方法。
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