JP3173850B2 - 光学活性イノシトール誘導体の製造法 - Google Patents

光学活性イノシトール誘導体の製造法

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Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は光学活性myo−イノシ
トール誘導体および光学活性イノシトールリン酸化合物
の製造法に関する。更に詳細には、D−myo−イノシ
トール−1,4,5−トリフォスフェート(以下、イノ
シトールトリフォスフェートともいう)合成の中間体で
ある光学活性myo−イノシトール誘導体を、酵素を用
いた位置選択的及び立体選択的アシル化によって製造す
る方法、非アシル化体として取得する方法および該アシ
ル化されていないmyo−イノシトール誘導体を合成原
料としてイノシトールトリフォスフェートを製造する方
法に関する。
【0002】イノシトールトリフォスフェートは、イノ
シトールビスフォスフェート(これらを以下、イノシト
ールポリフォスフェートという)と共にセカンドメッセ
ンジャーとして、近年その生理的重要性が明らかにされ
てきている。つまり、これらのイノシトールポリフォス
フェートが細胞質ソルに拡散してはいることによって、
小胞体のCa2+を易動化して放出する。放出されたCa
2+はいろいろな細胞内蛋白を活性化する作用を有してい
る。
【0003】このように、イノシトールポリフォスフェ
ートはセカンドメッセンジャーとしての機能を備えてい
る重要な物質であり、飼料添加物、乳幼児や高齢者のた
めの植物性飲料などへの応用が期待されている。
【0004】
【従来の技術】光学活性なイノシトールトリフォスフェ
ートの製造法としては、他のキラル化合物から光学活性
なmyo−イノシトールを分離する方法〔Proc. Natl.
Acad.Sci. USA, 86巻,94頁(1989)、J. Org. Chem.,
54巻,5851頁(1989)、Chem.Lett., 1987巻,123頁、T
etrahedron Lett., 31巻,1433頁(1990)〕が報告され
ている。
【0005】更にラセミ体やメソ−myo−イノシトー
ル誘導体から得る方法など、数多く報告されている。例
えば4,5−ジ−O−アリル−3,6−ジ−ベンジル−
myo−イノシトールを1−1−メントキシ酢酸エステ
ルにかえて光学分割した後、そのL体を加水分解し、さ
らに段階的にアルキル化して1,4,5−トリ−O−ア
リル−2,3,6−トリ−O−ベンジル誘導体とし、ウ
イルキンソン触媒による異性化を利用してアリル保護基
を除去する方法〔Tetrahedron Lett., 27巻,3157頁(1
986)〕、p−トルエンスルホン酸の存在下でイノシト
ールとエトキシシクロヘキセンの反応によってビスシク
ロヘキシリデン誘導体を得、これから2,3−O−ジベ
ンジル−4,5−O−ビス(メトキシベンジル)−イノ
シトールを調製したのち、これをキラルなHPLCカラ
ムを用いて光学分割する方法〔Chem. Lett., 1988巻,7
7頁〕などが挙げられる。
【0006】最近になって酵素の選択的加水分解作用を
利用した製造法が報告されている。例えば3,4−ジ−
O−アセチル−1,2:5,6−ジ−O−シクロヘキシ
リデン−myo−イノシトールにコレステロールエステ
ラーゼを作用させることによって、(+)−1,2:
5,6−ジ−O−シクロヘキシリデン−myo−イノシ
トールを生成し、これを3−O−アセチル−4−O−ベ
ンジル誘導体とした後、トルエンスルホン酸/ジクロロ
メタンおよび1N−水酸化カリウム/メタノールで加水
分解し、4−O−ベンジル−1,2−O−シクロヘキシ
リデン−myo−イノシトールとし、これをN,N−ジ
イソプロピルアミド亜リン酸ジベンジル/テトラゾール
/メタクロル過安息香酸(以下、MCPBAという)で
リン酸化してトリリン酸エステルとしてから保護基を除
去する方法〔Tetrahedron Lett., 30巻,1617頁(198
9)〕が報告されている。
【0007】しかしながら、これらの方法では光学選択
性が低く、その収率も低く、精製するために再結晶の操
作等が必要であった。
【0008】また、現在までに酵素を用いて有機溶媒中
での選択的エステル化を行うことによって光学活性物質
を得る方法としては数々報告されているが、イノシトー
ル誘導体については報告されていない。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】本発明者は特定のイノ
シトール誘導体のラセミ体にアシル化剤を有機溶媒中で
加水分解酵素存在下で作用させることによって、一方の
エナンチオマーを位置選択的、立体選択的にアシル化
し、他方のエナンチオマーを非アシル化体の光学活性イ
ノシトール誘導体を製造し、得られた光学活性体を用い
てイノシトールトリフォスフェートを製造することに成
功し、本発明を完成した。
【0010】
【課題を解決するための手段】本発明者は光学活性イノ
シトールリン酸誘導体の合成のための中間体としては、
ラセミ体である下記式で表される1,2:5,6−ジ−
O−シクロヘキシリデン−myo−イノシトール:化合
物(I)
【0011】
【化8】
【0012】および1,2:3,4−ジ−O−シクロヘ
キシリデン−myo−イノシトール:化合物(V)
【0013】
【化9】
【0014】を基質として用い、アシル化剤を有機溶媒
中で加水分解酵素の存在下で作用させてアシル化を行っ
た。
【0015】本発明に使用する加水分解酵素としてはリ
パーゼが好ましく用いられ、特にシュードモナス(Ps
eudomonus)属の生産するリパーゼ、例えばリ
パーゼP(商品名:天野製薬製)やキャンディダ・シリ
ンドラセ(Candidacylindracea)の
生産するリパーゼ、例えばリパーゼAY(商品名:天野
製薬製)がより好ましく用いられる。用いる酵素は粗製
品であっても、精製されたものであってもよい。又、こ
れらの酵素を生産する菌体も利用できる。
【0016】用いるリパーゼを選択することによって位
置選択的にアセチル化を行うことが可能である。
【0017】使用するアシル化剤としては、通常のアシ
ル化剤が使用できるが例えば無水酢酸、ビニルアセテー
ト、トリクロロエチルアセテート、フェニルアセテー
ト、パラニトロフェニルアセテート、無水プロピオン
酸、無水カプロン酸、無水ラウリン酸などが使用できる
【0018】有機溶媒としては、エチルエーテル、ベン
ゼン、酢酸エチルエステルなどが好適に用いられる。
【0019】本発明の反応は通常、0〜40℃、1〜1
20時間で行い、反応系を攪拌するように行うのが好ま
しい。又、このようなリパーゼはそのまま用いてもよい
が、適当な担体に担持させて固定化リアクターとしても
よい。以下、実施例により本発明をより具体的に詳述す
るが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0020】
【実施例】
実施例1 無水エチルエーテル(80ml)にラセミ体の1,2:
5,6−ジ−O−シクロヘキシリデン−myo−イノシ
トール:化合物(I)
【0021】
【化10】
【0022】1.06g(3.13mmol)を溶解
し、2.37gの酵素(リパーゼPあるいはリパーゼA
Y)、を懸濁させ、1.2ml(12.73mmol)
の無水酢酸を添加する。反応液を室温で23時間又は1
6時間攪拌反応する。反応過程をTLCを用いて追跡
し、反応終了後、酵素をろ去し、ろ液を水飽和食塩水で
洗浄・分液し、有機層を濃縮して生成物をシリカゲルク
ロマトグラフィー(エチルエーテル/クロロホルム=1
/3)で精製した。光学純度はHPLC(キラルセルO
D カラム、イソプロパノール/ヘキサン=1/25)
で分析した。その結果を表1に示す。
【0023】
【表1】
【0024】リパーゼAYを用いたときには、D−エナ
ンチオマーのC−4位が選択的にアセチル化された化合
物(III)
【0025】
【化11】
【0026】と化合物(IV)
【0027】
【化12】
【0028】が得られる。それに対して、リパーゼPを
用いたときには、D−エナンチオマーのC−3位が選択
的にアセチル化された化合物(II)
【0029】
【化13】
【0030】と化合物(IV)
【0031】
【化14】
【0032】が得られる。 化合物(II)の各種データ Rf値 0.18(クロロホルム:ジエチルエーテ
ル=3:1) NMR(90MHz) δ4.90(1H t H3) δ4.50(1H dd H2) δ4.25(1H t H1) δ4.00(1H dd H4) δ3.80(1H dd H6) δ3.38(1H dd H5) δ2.08(3H s Ac) δ1.48(20H m シクロヘキシリテ゛ン×2)
【0033】化合物(III)の各種データ Rf値 0.50(クロロホルム:ジエチルエーテ
ル=3:1) NMR(270MHz) δ5.08 (1H dd J=8.54 J=2.7
5) δ4.35 (1H dd J=7.02 J=3.6
6) δ4.28 (1H t J=7.32) δ4.10 (1H dd J=10.68 J=7.
63) δ3.79 (1H t J=3.36) δ3.50 (1H dd J=10.68 J=8.
54) δ2.2 (1H s OH) δ2.1 (3H s Ac) δ1.70-1.10 (20H m シクロヘキシリテ゛ン×2)
【0034】化合物(IV)の各種データ Rf値 0.18(クロロホルム:ジエチルエーテ
ル=3:1) mp 144〜146℃ [α]D 24 19.3
【0035】光学純度と絶対配置決定のために、0.5
N−水酸化カリウム/メタノールで加水分解(10当
量、室温、2時間)し、シリカゲルクロマトグラフィー
で精製後、HPLCで測定した。その絶対配置は、D−
(−)1,2:5,6−ジ−O−シクロヘキシリデン−
myo−イノシトールの文献値〔Tetrahedron Lett., 3
0巻,1617頁(1989)〕と一致した。
【0036】実施例2 ラセミ体の1,2:3,4−ジ−O−シクロヘキシリデ
ン−myo−イノシトール:化合物(V)
【0037】
【化15】
【0038】について、実施例1と同様にしてリパーゼ
AYを作用させることによって選択的に5位をアセチル
化した化合物(VI)
【0039】
【化16】
【0040】と化合物(VII)
【0041】
【化17】
【0042】を得た。反応溶媒として、エチルエーテ
ル、ベンゼン、酢酸エチルエーテル、アセトン、テトラ
ヒドロフランおよびジオキサンを使用した。得られた化
合物の光学純度は実施例1と同様にして測定した。その
結果を表2に示す。
【0043】
【表2】
【0044】反応溶媒としては、エチルエーテル、ベン
ゼンがこの反応に適している。アセトン、テトラヒドロ
フランやジオキサンのような水溶性溶媒はリパーゼAY
を失活させる。
【0045】化合物(VI)の各種データ Rf値 0.55(クロロホルム:ジエチルエーテ
ル=3:2) NMR(270MHz) δ4.55 (1H dd J=9.46 J=2.7
4) δ4.52 (1H dd J=3.66 J=6.
9) δ4.27 (1H dd J=6.9 J=2.7
4) δ4.05 (1H t J=10) δ3.82 (1H t J=2.44) δ3.70 (1H dd J=10 J=3.66) δ2.0 (3H s Ac) δ1.45 (20H m シクロヘキシリテ゛ン×2)
【0046】化合物(VII)の各種データ Rf値 0.16(クロロホルム:ジエチルエーテ
ル=3:2) mp 149〜151℃ NMR(270MHz) δ4.48 (1H dd J=3.36 J=5.8
0) δ4.14 (1H dd J=5.80 J=4.8
9) δ3.84 (1H dd J=10.07 J=8.
85) δ3.67 (1H dd J=10.07 J=3.
36) δ3.62 (1H t J=4.88) δ3.55 (1H dd J=5.19 J=8.8
5) δ1.44 (20H m シクロヘキシリテ゛ン×2)
【0047】実施例3 実施例1で得られた化合物(IV)
【0048】
【化18】
【0049】に酸化ジ−n−ブチルスズ 1.1当量を
メタノール溶液中で2時間還流させた。メタノールを減
圧にて蒸発除去後、溶媒としてジメチルホルムアミドを
加え、臭化ベンジル 1.5当量及びフッ化セシウム
2.5当量を加え、60℃に5時間加熱した。ジメチル
ホルムアミドを減圧留去後、酢酸エチルと水を加え、酢
酸エチル層をとり、無水硫酸ナトリウムで乾燥、酢酸エ
チルを留去後、シリカゲルカラムクロマトグラフィーに
よって化合物(VIII)
【0050】
【化19】
【0051】を得た。化合物(VIII)を無水酢酸:
ピリジン=1:2の溶液に溶かし、触媒量の4−ジメチ
ルアミノピリジンを加え、110℃に1時間加熱、溶媒
を減圧留去後、上記と同様に酢酸エチル−水で処理し、
化合物(IX)
【0052】
【化20】
【0053】を得た。化合物(IX)に1.1当量のエ
チレングリコールと0.05当量のトルエンスルホン酸
をクロロホルムに溶かし、室温で0.5時間攪拌した。
クロロホルムを留去後、1N−KOH/メタノールを加
え、室温で1時間攪拌し後処理を行い化合物(X)
【0054】
【化21】
【0055】を得た。化合物(X)とテトラゾール 6
当量をジクロロメタンに溶かし、室温でN,N−ジイソ
プロピルアミド亜リン酸ジベンジル 6当量を加え1時
間攪拌後、−42℃にてMCPBA 6当量を加え、室
温にて0.5時間攪拌して化合物(XI)
【0056】
【化22】
【0057】を得た。化合物(XI)と10%パラジウ
ム/カーボンを95%エタノールに溶かし、水素ガスに
て室温で1夜還元し、触媒を濾過後、溶媒を留去した。
次いで80%酢酸に溶かし、1時間還流後、溶媒を留去
した。残渣をアビセルカラムにかけてD−myo−イノ
シトール−1,4,5−トリフォスフェートを得た。
【0058】
【発明の効果】本発明によって光学純度の高いイノシト
ール誘導体が得られ、本物質はD−myo−イノシトー
ル−1,4,5−トリフォスフェート合成の重要な中間
体である。さらにこの中間体を用いて、新規な方法でD
−myo−イノシトール−1,4,5−トリフォスフェ
ートを合成する事が可能である。

Claims (2)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】化合物(I) 【化1】 のラセミ体にアシル化剤を有機溶媒中でリパーゼ存在下
    で作用させ、一般式(II) 【化2】 (式中、Rはアシル基を示す。)或いは一般式(II
    I) 【化3】 (式中、Rはアシル基を示す。)および化合物(IV) 【化4】 を製造する方法。
  2. 【請求項2】化合物(V) 【化5】 のラセミ体にアシル化剤を有機溶媒中でリパーゼ存在下
    で作用させ、一般式(VI) 【化6】 (式中、Rはアシル基を示す。)および化合物(VI
    I) 【化7】 を製造する方法。
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