JP2999441B2 - 抗アレルギー魚醤油 - Google Patents

抗アレルギー魚醤油

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一治 筬島
克裕 筬島
泰徳 大石
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Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、魚類を主原料とし
て用いた、低分子ペプチドを主成分とする抗アレルギー
魚醤油に関するものである。
【0002】
【従来の技術】一般に、食物性アレルギーは、特定の食
物を摂取したときに、異常な過敏反応を生じ、その結果
病的な状態に陥る現象を意味し、最近では、卵、牛乳、
大豆、小麦、米などによる発症が多くみられ、年々、増
加する傾向にある。食物性アレルギーの治療法として
は、薬物による対症療法、又はアレルゲンとなる食物を
患者の食事から取り除き、体質改善を図る、いわゆる除
去食療法がある。この除去食療法において、三大アレル
ゲンの一つであるところの大豆を原料とする醤油は、食
物性アレルギー発症に対する要注意調味料とされてお
り、調味料としての一般的な使用がなされていないのが
現状である。
【0003】また、大豆、小麦等を原料とする醤油に替
わるものとして、一部の地方において、しょっつる、こ
うなご醤油、いか醤油、あさり醤油等魚介類を原料とす
る魚醤油が製造されている。これらは、その大半が独特
の臭気や味があり、塩分濃度が高く、製造に長期間を有
し、しかも、タンパク質の大部分はアミノ酸にまで分解
されており、アレルギーに対する配慮はほとんどなされ
ていない。
【0004】それにもかかわらず、魚醤油は、大豆を原
料とする醤油に比べればアレルゲンが少ないからという
理由で、やむを得ず使用されてはいるものの、調味料と
しては充分に満足できるものではなく、旨味やコク味と
いった調味料が具備すべき品質が不足しており、そのた
め、従来の大豆等を原料とした醤油と同様の使用法、い
わゆるつけ醤油、かけ醤油としての使用が可能な品質で
はないのが技術の現状である。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、このような
技術の現状に鑑み、またアレルギー症が増加している現
状に鑑み、大豆等を原料とした従来の醤油の代替品、抗
アレルギー醤油を開発する目的でなされたものである。
【0006】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、上記目的
を達成するため、大豆等を原料とした従来の醤油に比し
てアレルゲンが少ない魚醤油にあらためて着目し、各方
面から検討を行った結果、アレルゲンとなりうる物質
は、タンパク質、多糖、脂質、核酸など高分子物質であ
り、一般に分子量が大きく複雑な構造をもつ物質ほど、
強いアレルゲンとなり特にタンパク質と多糖が強いアレ
ルゲンとなるが、分子量が5000以下の物質はアレル
ゲンとならないという知見を得た。しかしながら、タン
パク質を全て、アミノ酸まで分解してしまうと、ヒスタ
ミン等の様な低分子のアレルゲンを生成する物質が生成
される可能性が高くなるという知見を得た。
【0007】そこで、本発明者らは、魚類を原料とし
た、アレルゲンを含まないないしアレルゲン含量の少な
い、低分子ペプチドを主成分とする魚醤油の製造を新規
技術課題として新たに設定した。そして、各方面から鋭
意研究した結果、その解決に成功し、遂に本発明の完成
に至ったものである。以下、本発明について詳述する。
【0008】本発明を実施するには、先ず、魚類を主原
料とし、自己消化酵素処理及び/又は蛋白質分解酵素等
の酵素剤で処理する。魚類としては、イワシ、アジ、マ
グロ、カツオ、サンマ、サバ等赤身魚;ヒラメ、タイ、
キス、メルルーサ、イシモチ、コノシロ、タラ、ニシ
ン、ブリ等白身魚;サメ、エイ等軟骨魚肉;ワカサギ、
コイ、イワナ、ヤマメ等淡水魚肉;アイザメ、アンコウ
等深海魚肉等が適宜使用できるが、アレルゲンが少ない
魚類を使用するのが好適であり、特に白身魚の使用は好
ましいものである。
【0009】このような新鮮原料魚をデボーナー等で処
理して、採肉する。採肉した魚肉質に水を加えた後、魚
肉自体に含まれる自己消化酵素及び/又はプロテアーゼ
等の酵素剤を作用させる。この際、加水量は、採肉した
魚肉質の攪拌と分解反応がスムースに行える程度であれ
ば良く、原料魚肉や使用酵素の種類等によって適宜選択
するが、通常の場合、原料肉質の50〜200%の範囲
内で選択される。
【0010】次いで、加水した原料魚肉は、自己消化酵
素処理及び/又は蛋白質分解酵素処理を行う。これらの
酵素処理は、単独でもよいし、両者を併用してもよい。
自己消化酵素処理は、常法にしたがえばよく、例えば加
水原料魚肉を40〜55℃程度(原料によって適宜選択
すればよい)に一定時間維持すればよい。また、蛋白質
分解酵素処理は、使用する酵素にしたがい、適温(20
〜60℃)、適pH(酸性又は微酸性(pH3〜
7))、3〜24時間程度にて実施すればよい。
【0011】蛋白分解酵素としては、蛋白質を分解し得
る酵素であればすべての酵素が単独で又は混合して使用
し得る。その起源は、動植物のほかに微生物に求めるこ
とができ、ペプシン、レニン、トリプシン、キモトリプ
シン、パパイン、ブロメレインのほか、細菌プロテアー
ゼ、糸状菌プロテアーゼ、放線菌プロテアーゼ等も広く
利用できる。これらの酵素は、通常、市販されている酵
素剤が使用されるが、未精製の酵素、酵素を含有した培
養液、麹といった固体又は液体の酵素含有物も、目的に
より必要に応じて使用することができる。酵素の添加量
としては0.1%〜5.0%程度でもよい。
【0012】こ(れら)の酵素処理により、魚肉質を液
化し、タンパク質を分解するが、その際、魚肉タンパク
質が低分子ペプチドの状態まで分解された時点にて反応
を停止する。反応停止は常法によればよく、例えば15
分程度煮沸して酵素失活を行い、分解を停止すればよ
い。
【0013】加熱失活処理後、バイブロスクリーン(5
0〜500メッシュ)等によって粗分離し、必要により
ジェクター処理(500〜10,000rpm)した
後、シャープレス遠心分離機等で遠心分離処理(5,0
00〜30,000rpm)し、魚醤油原液を得る。得
られた魚醤油原液は、必要ある場合には、更に濃縮、分
離精製処理を必要回数くり返して行い、次いで熟成し、
本発明に係る抗アレルギー魚醤油を得る。熟成処理は、
少なくとも一夜行うのがよく、また、必要あれば、魚醤
油原液に食塩を添加してもよいし、他のミネラル、有機
酸、酸味料、調味料、甘味料等の成分を添加してもよ
い。
【0014】このようにして製造した抗アレルギー魚醤
油は、アレルギー患者がこれを従来の大豆由来醤油と同
様に使用しても、アレルギー発症は全く認められず、風
味も非常に良好であることが確認された。この点を試験
例として後記し、また、本発明に係る抗アレルギー魚醤
油の製造の実例を以下の実施例において具体的に説明す
るが、本発明は以下の実施例のみに限定されるものでは
ない。
【0015】
【実施例1】新鮮なメルルーサ及びイシモチを各々デボ
ーナーで処理して採肉した。採肉した魚肉質を10kg
のすり身に分割した。メルルーサすり身70kgとイシ
モチ30kgを粉砕機で混合した後、等量の水を加えて
45〜48℃に加熱し、これを攪拌タンクに移して同温
にて3時間保持して自己消化分解せしめた。次いでpH
を4.0に調節した。これにデナプシン(市販Aspe
rgillus sp.起源プロテアーゼ製剤商品名)
の0.1%液を加え、45℃にて18時間保持して酵素
分解を行った。中和し、次いで15分間煮沸して酵素を
失活せしめた。これをバイブロスクリーン(150メッ
シュ)で濾過し、瀘液を5000rpmでジェクター処
理した後、シャープレス遠心分離機で処理(15000
rpm)し、20BXとなるまで常圧加熱濃縮し、そし
て再度シャープレス遠心分離機で処理(15000rp
m)し、魚醤油原液を得た。この魚醤油原液の塩分が約
10%となる様、天然塩にて調節した後、液温を室温ま
で冷却し、熟成タンクに移し、攪拌しながら一夜熟成せ
しめた後、殺菌し、ビン詰めして、抗アレルギー魚醤油
を得た。
【0016】前記で得られた魚醤油に関し、セファデッ
クスG−25を用いたゲルクロマトグラフィーによる分
子量分画を行った。分子量分画には分子量既知の標準ペ
プチドを用い、その溶出位置から区分した。分子量分画
の結果、分子量200付近に最大ピークをもつシャープ
なクロマトグラムが得られた。また分子量5000以上
の位置にはピークが検出されなかった。従って、本発明
に係る魚醤油は、分子量300〜200程度の低分子ペ
プチドが主成分で、分子量5000以上のマクロペプチ
ドを含まない抗アレルギー魚醤油であることが明らかと
なった。図1に、本発明に係る魚醤油の分子量分画を行
ったクロマトグラムを示した。上記からそしてまた下記
するところから、本発明に係る魚醤油において、分子量
が5,000以上の物質を含有しない、好ましくは分子
量が1,500以上の物質を含有しない方が抗アレルギ
ー性の面で有効であることを認めた。
【0017】
【試験例1】更に、上記方法で得た魚醤油を調味料とし
て使用した除去食を十分な管理下において摂取する、ア
レルギー発症に関する試験を実施した。この試験は大豆
のみにアレルギーが認められる患者11名、大豆以外の
食物アレルギーが認められる患者12名、大豆を含めた
複数の食物にアレルギーが認められる患者12名、合計
35名のアレルギー患者を対象に実施した。
【0018】まず、予備試験として、本発明に係る魚醤
油を天然白身魚の刺身につけ醤油として使用し摂取、次
いで白菜漬物にかけ醤油として使用し摂取した。この予
備試験にて、被験者全員にアレルギーの発症及び症状の
悪化は認められなかった。従って、上述の被験者35名
に関し、本発明に係る魚醤油を、調味料として使用する
摂取試験を1ヶ月間実施した。尚、試験期間中の除去食
に関しては、本発明に係る魚醤油を調味料として使用す
ること以外は、各々のアレルギー症状の程度に応じた食
材を摂取した。
【0019】試験終了後、被験者35名全員にアレルギ
ー症状及び除去食の味に関するアンケート調査を実施し
た。調査結果は表1に示した。
【0020】
【表1】
【0021】上述の試験を実施した結果、被験者である
アレルギー患者35名全員に関し、試験期間中に新たな
発症は認められず、又、試験開始時点で発症していた被
験者の症状の悪化も認められなかった。従って、本発明
に係る魚醤油は抗アレルギー食材の調味料として使用し
ても、その特質を失わせることはなく、また大豆を原料
とした醤油の代替が十分可能な品質であると考えられ
る。
【0022】
【発明の効果】本発明により、実質的にアレルゲンを含
まず、しかも従来の大豆を原料とする醤油との代替が可
能な新しい魚醤油の製造方法が、開発された。本発明に
よって得られた魚醤油は、アレルゲンを含まないだけで
はなく、必須アミノ酸をバランス良く含み、栄養面で
も、安全性の面でも、全く問題はない。従って、本発明
に係る魚醤油は、食物性アレルギーの治療法の一つであ
る除去食療法にて供される食物の抗アレルギー食材とし
ての特質を失うことなく、食味の改善を可能とし、更に
抗アレルギー食材の多様化を可能とする。更に、本発明
に係る抗アレルギー魚醤油は調味料として、一般の食
品、健康食品等各種用途に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】抗アレルギー魚醤油のゲル瀘過による分子量分
布を図示したものである。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (56)参考文献 特開 平8−231414(JP,A) 特開 平7−264992(JP,A) 特開 平5−5000(JP,A) (58)調査した分野(Int.Cl.7,DB名) A23L 1/238

Claims (4)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 新鮮な魚類を主原料とし、魚肉自体が有
    する自己消化酵素で処理するか、又は、自己消化酵素お
    よび蛋白質分解酵素で処理することにより、魚肉質を液
    化した後、アレルゲンとなる可能性のある高分子のタン
    パク質、脂質等を除去すること、を特徴とする低分子ペ
    プチドを主成分とする魚醤油の製造方法。
  2. 【請求項2】 魚類として白身魚を使用すること、を特
    徴とする請求項1に記載の方法。
  3. 【請求項3】 請求項1又は2に記載の方法で製造して
    なる、呈味性にすぐれた抗アレルギー魚醤油。
  4. 【請求項4】 分子量が5000以上の物質を含有しな
    いこと、を特徴とする請求項3に記載の呈味性にすぐれ
    抗アレルギー魚醤油。
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