JP2004113046A - 発酵調味料の製造方法 - Google Patents

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前 橋 明 佳
Toshiyuki Aoki
青 木 利 之
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藤 塚 征 昭
Yukihiro Matsuura
松 浦 幸 宏
Mineo Suzuki
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KATSUO GIJUTSU KENKYUSHO KK
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YANAGIYA HONTEN KK
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Abstract

【課題】本発明は、生臭が弱いにもかかわらず、魚本来の風味を生かした発酵調味料を得ることができる発酵調味料の製造方法を提供する。
【解決手段】発酵調味料の製造方法は、魚介類、塩水、麹、酵素を混合時に耐塩性酵母スタ−タ−を添加することにより、乳酸発酵を制御し、発酵熟成せしめ、濾液の分析値がpH5.0以上且つ有機酸総量が1.0g/dl以下にしたものである。

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、発酵調味料の製造方法に係り、特に、魚介類を原料とした新規な発酵調味料の製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
一般的に魚醤油と呼ばれる調味料としては、日本では鰯、イカを原料とした石川県地方の「いしる」、ハタハタを原料とした「しょっつる」、東南アジア諸国は鰯類を原料としたタイの「ナンプラ−」、ベトナムの「ニョクマム」等が良く知られている。
【0003】
これら伝統的な魚醤油の製造方法は、一般的には原料魚介類に、雑菌による腐敗防止の目的で20%以上となるように塩を配合して、樽、タンク等の容器に漬け込み、時々攪拌しながら、数ケ月〜3年間程度の自己消化工程を経た後、固液分離、火入れ、精製、殺菌等の工程を行ったものである。製造工程中の、原料魚介類の内臓等に含まれる蛋白質分解酵素による自己消化により、原料魚介類に含まれる蛋白質がペプチド、アミノ酸に分解され、これらペプチド、アミノ酸が魚醤油特有の「後味のコク」「あつみ」「複雑味」等の呈味をもたらすとされており、これら魚醤油は各種調味料、食品に添加、利用されている。
【0004】
伝統的な魚醤油は、上記のような特有な呈味を持っている反面、生臭み等の特有のクセのある香りが強い、塩分含量が非常に高いために利用しにくい、自己消化に要する期間が長く、工業化した場合に効率的な生産がしにくい、ロット差が大きい等の欠点が挙げられており、これらの課題を解決するために種々の製造法が検討、開示されている。
【0005】
生臭が弱く醤油風味を有する魚醤油の製造方法としては、生魚や加熱魚肉を固体麹を用いて発酵熟成をさせる方法が知られている。具体的には、乳酸菌や酵母スタ−タ−は用いないで固体麹を用いて製造する公知の製法としては、例えば、特開平6−209738号公報記載の「魚醤油の製造方法」があるが、この方法は減圧濃縮工程を必要とする。又、特開平8−23917号公報記載の「魚醤油の製造方法」は魚介類を自己消化あるいは酵素剤による酵素分解処理工程を組み入れた後に固体麹を混合する方法である。
【0006】
一方、乳酸菌と酵母スタ−タ−と固体麹を併用する公知の方法としては、特開平8−256727号公報に記載の「魚醤油の製造方法」、特開平11−178540号公報に記載の「調味料の製造法」、特開2002−191321号公報に記載の「魚醤油の製造方法」があるが、乳酸発酵により生成される有機酸の働きにより魚らしさが抑えられ、一般的な醤油とほとんど変わらない風味となる。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、このような実情の元になされたもので、乳酸発酵を抑え、pH5.0以上且つ、有機酸総量を1.0g/dl以下であり、生臭が弱いにもかかわらず、魚本来の風味を生かした発酵調味料の製造方法を提供することを目的としている。
【0008】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、請求項1記載の発酵調味料の製造方法は、魚介類、塩水、麹、酵素を混合時に耐塩性酵母スタ−タ−を添加することにより、乳酸発酵を制御し、発酵熟成せしめ、濾液の分析値がpH5.0以上且つ有機酸総量が1.0g/dl以下にしたものである。
【0009】
また、請求項2記載の発酵調味料の製造方法は、請求項1記載の発酵調味料の製造方法において、魚介類を65℃以上、80℃未満の温度で熱水抽出処理した後に、酵母、塩水、麹、酵素を混合し、発酵熟成させるものである。
【0010】
また、請求項3記載の発酵調味料の製造方法は、請求項1記載の発酵調味料の製造方法において、魚介類を35℃以上、65℃未満の温度、塩分8%〜24%の存在下で自己消化処理した後に、酵母、塩水、麹、酵素を混合し、発酵熟成させるものである。
【0011】
また、請求項4記載の発酵調味料の製造方法は、請求項1〜3記載の発酵調味料の製造方法において、魚介類由来の全窒素と麹由来の全窒素の比率が、5:5〜8:2である。
【0012】
また、請求項5記載の発酵調味料の製造方法は、請求項1〜4記載の発酵調味料の製造方法において、魚介類は、鰹、鮪の加工処理時に生じる、頭部、ハラモ、内臓、皮、ヒレ、尾の何れかである。
【0013】
【発明の実施の形態】
本発明の発酵調味料の製造方法においては、魚介類、酵母、塩水、麹、酵素を混合し、発酵熟成させる。本発明に使用する好適な原料は、鰹、鮪の加工処理時に生じる、頭部、ハラモ、内臓、皮、ヒレ、尾の何れかが良い。
【0014】
本発明の発酵調味料の製造方法に用いる麹の製法は、特に限定されるものではなく、従来一般的に行われている方法を用いる事が出来る。麹の原料としては、小麦、脱脂大豆、米等を単独、又はこれらの混合物を用いる事ができるが、好ましくは小麦単独、又は小麦と米の混合物を用いることである。これによって、魚介類の風味を生かす点で良い結果を与える。
【0015】
麹製麹用の微生物、すなわち糸状菌はアスペルギルス属の徹生物であって、例えばアスペルギルス・オリーゼ(Aspergillus oryzae)、アスペルギルス・ソーヤ(Aspergillus soyae )、アスペルギルス・サイトイ(Aspergillus saitoi )、アスペルギルス・アワモリ(Aspergillus awamori)、並びにモナスカス属の微生物を挙げることができ、好ましくはモナスカス・アンカ(Monascus anka)を挙げることができる。これら糸状菌は1種類又は2種類以上混合して使用できる。また、上記糸状菌は、醤油用種麹、味噌用種麹などとして市販されており、容易に入手できる。
【0016】
麹の他に、スターターや酵素の併用もできる。この場合、スターターカルチャーとして用いる微生物は、チゴサッカロマイセス・ルキシー(Zygosaccharomyces rouxii)などの耐塩性酵母であり、これら微生物は醸造用酵母スターターとして市販されており、容易に入手できる。又、酵素の使用量は、その蛋白質分解酵素活性の強さにより多少異なるが、限定されるものではない。
【0017】
本発明でいう「自己消化」とは、鰹、鮪類内臓のうち幽門垂由来の蛋白質分解酵素活性により原料由来の蛋白質がペプチド、アミン酸に分解することをいう。
【0018】
幽門垂の使用量は、その蛋白質分解酵素活性の強さにより多少異なるが、通常は、幽門垂100重量部に対して、その他の原料100〜1200重量部、望ましくは400〜800重量部を使用し、これらをミンチ、混合する。ミンチには通常のチコッパ−、カッタ−、ミキサ−等を用いることができるが、手段は特に限定されるものではない。
【0019】
次に、前記ミンチ品100重量部に対して、0〜100重量部、望ましくは10〜50重量部の加水を行う。
【0020】
熱水抽出の温度は、65℃以上、80℃未満に調整する。熱水抽出処理は、0(達温)〜72時間行う。過剰な熱水抽出処理を行うと、発酵調味料の特徴である「後味のコク」「あつみ」「複雑味」が弱まる。
【0021】
自己消化処理温度は、35℃以上、65℃未満に調整する。自己消化処理は、0(達温)〜72時間行う。過剰な自己消化処理を行うと、発酵調味料の特徴である「後味のコク」「あつみ」「複雑味」が弱まる。
【0022】
本発明の発酵調味料の製造方法に用いられる好適な魚介類と麹との割合(重量比)は、魚介類由来の全窒素と麹由来の全窒素の比率が、5(魚介類):5(麹)〜8(魚介類):2(麹)になるように混合した後に、酵母、塩水、麹、酵素を混合し、発酵熟成させるものである。
【0023】
本発明の発酵調味料の製造方法に用いられる好適な一態様は、魚介類を65℃以上、80℃未満の温度で熱水抽出処理したものと麹との割合(重量比)は、魚介類由来の全窒素と麹由来の全窒素の比率が、5(魚介類):5(麹)〜8(魚介類):2(麹)になるように混合した後に、酵母、塩水、麹、酵素を混合し、発酵熟成させるものである。
【0024】
本発明の発酵調味料の製造方法に用いられる好適な他の一態様は、魚介類を35℃以上、65℃未満の温度で自己消化処理したものと麹との割合(重量比)は、魚介類由来の全窒素と麹由来の全窒素の比率が、5(魚介類):5(麹)〜8(魚介類):2(麹)になるように混合した後に、酵母、塩水、麹、酵素を混合し、発酵熟成させるものである。
【0025】
発酵熟成終了後、濾布を用いて濾過し生揚げを得た。この生揚げを、火入れ処置した後、珪藻土濾過を経て液部分を得る。得られた液部分はそのままで、あるいは加熱殺菌を行って使用することも可能であるが、適宜、活性炭やイオン交換樹脂による処理により着色物質や、不快な生臭みの原因である香気成分を除去して使用することもできる。静置によりチロシン等の難溶性アミノ酸や不溶性蛋白質等のオリが生成する場合があるので必要に応じて濾過により除去する。
【0026】
このようにして得られた発酵調味料は素材として単品使用される他、エキス加工品、調味料等の原料として利用することができ、各種食品、調味料に「後味のコク」「あつみ」「複雑味」等を付与することができることが判明した。これは発酵調味料に含まれるアミノ酸、ペプチドによるものと推定した。
【0027】
【実施例】
以下、発酵調味料の製造方法について実施例を挙げて説明する。なお、本発明の技術的範囲はこれら実施例によって制限されるものではない。
【0028】
(実施例1)
鰹(頭部、ハラモ、内臓)をチョッパ−によりミンチ処理したもの667gに、小麦麹339g、市水595g、塩229g、耐塩性酵母スタ−タ−1.0gを加え、均一になるように良く混合した。
30℃、20日程度発酵熟成を行った後、濾布を用いて濾過し生揚げを得た。この生揚げを火入れ処置した後、珪藻土濾過を経て液部分を得た。
【0029】
このようにして得られた発酵調味料の分析値を表1に示した。表1、表2に記載した「従来法」とは、乳酸菌・酵母と麹を併用する公知の方法で製造した魚醤油である。
【0030】
「従来法」は、鰹(頭部、ハラモ、内臓)もチョッパ−によりミンチ処理したもの667gに、小麦麹339g、市水595g、塩229g、耐塩性乳酸菌スタ−タ−4.0g、耐塩性酵母スタ−タ−1.0gを加え、均一になるように良く混合し、30℃、45日程度発酵熟成を行った後、濾布を用いて濾過し生揚げを得た。この生揚げを火入れ処置した後、珪藻土濾過を経て液部分を得たものである。
【表1】
Figure 2004113046
【0031】
また、得られた発酵調味料の官能評価結果を表2に示した。官能評価(被験者の数5人)は固形分2%の温水溶液系で行った。実施例1の発酵調味料は魚醤油の特徴である「後味のコク」「あつみ」「複雑味」を従来法とほぼ同等に保持していた。また生臭みは、乳酸発酵を制御していない他の従来法に比べ若干強いが、魚らしさも強く特徴が強く現れていた。
【表2】
Figure 2004113046
【0032】
(実施例2)
鰹(頭部、ハラモ、内臓)をチョッパ−によりミンチ処理したもの6.2kgに、市水2.6kg、塩1.2kgを加え、均一になるように良く混合した。混合したものを45℃で24時間自己消化させた。
【0033】
自己消化させた後、固形分を除去するために、濾過した。濾過は、例えば、10メッシュのものを用いた。濾過液は6.6kgで、残渣3.2kgであり、全窒素1.43%、食塩分は13.8%であった。濾過後に、鰹由来の全窒素と麹由来の全窒素の比率を、5(鰹自己消化物):5(麹)〜8(鰹自己消化物):2(麹)になるように調整した。
具体的には、実験区1、濾過液735g、小麦麹[全窒素2.7%]392g、市水389g、塩148g、耐塩性酵母スタ−タ−1.0gを混合した[5(鰹由来の全窒素):5(麹由来の全窒素)]。実験区2、濾過液883g、小麦麹[全窒素2.7%]314g、市水339g、塩128g、耐塩性酵母スタ−タ−1.0gを混合した[6(鰹由来の全窒素):4(麹由来の全窒素)]。実験区3、濾過液1030g、小麦麹[全窒素2.7%]235g、市水291g、塩108g、耐塩性酵母スタ−タ−1.0gを混合した[7(鰹由来の全窒素):3(麹由来の全窒素)]。実験区4、濾過液1177g、小麦麹[全窒素2.7%]157g、市水242g、塩88g、耐塩性酵母スタ−タ−1.0gを混合した[8(鰹由来の全窒素):2(麹由来の全窒素)]。
30℃、20日程度発酵熟成を行った後、濾布を用いて濾過し生揚げを得た。この生揚げを火入れ処置した後、珪藻土濾過を経て液部分を得た。
このようにして得られた発酵調味料の分析値を表3に示した。
【表3】
Figure 2004113046
【0034】
また、得られた発酵調味料の官能評価結果を表4に示した。官能評価は固形分2%の温水溶液系で行った。鰹由来の全窒素の混合比率が増えることで、魚らしさが強くなる傾向が見られた。
【表4】
Figure 2004113046
【0035】
上述の実施例では、魚介類を35℃以上、65℃未満の温度、塩分16.5%、16.8%、17.7%としたが、魚介類を35℃以上、65℃未満の温度、塩分8%〜24%の存在下で自己消化させても良いし、また、本発明にあたっては、これに限らず、塩分を加えない状態で、熱水抽出処理させても良い。この場合、魚介類を65℃以上、80℃未満の温度で熱水抽出処理させる。
このように、魚介類を35℃以上、65℃未満の温度、塩分8%〜24%の存在下で自己消化処理(1次発酵)、または、魚介類を65以上、80℃未満の温度で熱水抽出処理(1次処理)した後、酵母、塩水、麹、酵素を混合し、発酵熟成(2次発酵)と発酵段階と設けることにより、原料の品質(塩分濃度、全窒素濃度)に応じて、2次発酵の調整を図ることができる。
【0036】
また、上述の実施例では、魚介類を35℃以上、65℃未満の温度、塩分8%〜24%の存在下で自己消化処理(1次発酵)した後、酵母、塩水、麹、酵素を混合し、発酵熟成(2次発酵)と発酵段階を2段階としているが、本発明にあっては、これに限らず、魚介類、酵母、塩水、麹、酵素を混合し、発酵熟成させる、つまり、同時に発酵させて発酵調味料を製造しても良い。
【0037】
【発明の効果】
請求項1記載の発酵調味料の製造方法によれば、乳酸発酵を抑え、発酵熟成せしめ、pH5.0以上且つ、有機酸総量を1.0g/dl以下であり、生臭が弱いにもかかわらず、魚本来の風味を生かした発酵調味料を得ることができる。
【0038】
また、請求項2〜4記載の発酵調味料の製造方法によれば、上述した請求項1記載の発明の効果に加え、魚介類を35℃以上、65℃未満の温度、塩分8〜24%の存在下で自己消化処理、または、65℃以上、80℃未満の温度で熱水抽出処理するため、魚介類の腐敗を防止しつつ、熱水抽出することができ、しかも、魚介類の品質に差があっても、1次発酵の状態を見て、2次発酵において、酵母、塩水、麹、酵素の混合の割合を変えてより品質を均一化させた発酵調味料を得ることができる。
【0039】
また、請求項5記載の発酵調味料の製造方法によれば、上述した請求項1〜4記載の発明の効果に加え、鰹、鮪の加工処理時に生じる、頭部、ハラモ、内臓、皮、ヒレ、尾等の魚介類を利用することができる。

Claims (5)

  1. 魚介類、塩水、麹、酵素を混合時に耐塩性酵母スタ−タ−を添加することにより、乳酸発酵を制御し、発酵熟成せしめ、濾液の分析値がpH5.0以上且つ有機酸総量が1.0g/dl以下にしたことを特徴とする発酵調味料の製造方法。
  2. 魚介類を65℃以上、80℃未満の温度で熱水抽出処理した後に、酵母、塩水、麹、酵素を混合し、発酵熟成させることを特徴とする請求項1記載の発酵調味料の製造方法。
  3. 魚介類を35℃以上、65℃未満の温度、塩分8%〜24%の存在下で自己消化処理した後に、酵母、塩水、麹、酵素を混合し、発酵熟成させることを特徴とする請求項1記載の発酵調味料の製造方法。
  4. 魚介類由来の全窒素と麹由来の全窒素の比率が、5:5〜8:2であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載の発酵調味料の製造方法。
  5. 魚介類は、鰹、鮪の加工処理時に生じる、頭部、ハラモ、内臓、皮、ヒレ、尾の何れかであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項記載の発酵調味料の製造方法。
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