JP2933510B2 - 乳化安定剤及びそれを用いた食品の製造法 - Google Patents

乳化安定剤及びそれを用いた食品の製造法

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JP2933510B2 JP7175431A JP17543195A JP2933510B2 JP 2933510 B2 JP2933510 B2 JP 2933510B2 JP 7175431 A JP7175431 A JP 7175431A JP 17543195 A JP17543195 A JP 17543195A JP 2933510 B2 JP2933510 B2 JP 2933510B2
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Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、乳酸菌が生産するリン
酸化多糖類を有効成分とする乳化安定剤に関する。ま
た、本発明は、乳酸菌が生産するリン酸化多糖類を乳化
安定剤として使用して乳化食品を製造する方法に関す
る。本発明の乳化安定剤を使用すると乳化食品の安定性
をいちじるしく高めることができる。
【0002】
【従来の技術】現在、アイスクリーム、マーガリン、ス
プレッド類、デザート類、ドレッシング類、マヨネーズ
類、ソース類など数多くの乳化食品において、その乳化
状態を安定にする目的で、グアーガム、カラギーナン、
ローカストビーンガム、アラビアガム、トラガントガ
ム、ペクチン、アルギン酸などの植物性多糖類が乳化安
定剤として使用されている。ところが、これらの植物性
多糖類については、生産地における天候の変化により生
産量が変動し、供給や価格が不安定であるという潜在的
な問題があった。また、植物体から多糖類を調製する工
程は、植物体の乾燥、破砕、多糖類の抽出、濃縮、乾燥
など工程が煩雑であり、副産物の処理などの問題もあっ
た。これらの問題の解決策としては、多糖類を産生する
微生物を大量に培養する方法が有効であり、実際に、キ
サンタンガム、デキストラン、プルラン、カードランな
どの多糖類が製造されている。その中、キサンタンガム
は植物性多糖類と組み合わせて多くの食品に利用されて
いる。しかし、キサンタンガムを産生する微生物である
キサントモナス・カンペストリス(Xanthomonas campes
tris) は、食品基準に適合するものではなく、安全性や
近年の食品に対する健康指向を考慮すると必ずしも好ま
しいものとは言えない。また、デキストラン、プルラ
ン、カードランなどはグルコースのみを構成糖とするホ
モ多糖類であり、増粘効果、ゲル形成能、乳化安定効果
など通常の植物性多糖類が発揮する効果以上の機能を有
してはいない。
【0003】一方、発酵乳やチーズなどの発酵食品を製
造する際に利用され、食用微生物として安全であるとい
う認識(GRAS-status:Generally Recognized As Safe)が
完全に定着している乳酸菌の中には、多糖類を生産する
菌種があることが知られており、ストレプトコッカス・
ラクチス(Streptococcus lactis) もしくはラクトコッ
カス・ラクチス(Lactococcus lactis) 、ストレプトコ
ッカス・クレモリス(Streptococcus cremoris) もしく
はラクトコッカス・クレモリス(Lactococcuscremoris)
など一部の菌種がリン酸基を結合したリン酸化多糖類を
生産することも報告されている [特開平3-229702号公
報、Carbohydr. Res., vol.224, pp.245-253, 1992] 。
これらのリン酸化多糖類は、いずれも、グルコースやガ
ラクトースなどの単糖が一定の配列を繰り返して糖鎖を
形成しており、単糖を伴ったリン酸基が側鎖として結合
した構造を持った酸性ヘテロ多糖類であり、通常の多糖
類が示す増粘効果やゲル形成能のみではなく、リン酸基
のイオン性相互作用によるたんぱく質との親和性を有し
ている [特願平7- 54978号] 。また、これらのリン酸化
多糖類については、抗腫瘍活性を有すること [特開平3-
229702号公報] や血清コレステロール上昇抑制効果を有
すること [特開平5- 65229号公報] が報告されている。
さらに、これらのリン酸化多糖類を効率良く生産し、簡
便に分離する方法も提案されている [特願平7- 23456
号] 。しかし、安全性の高い乳酸菌によって生産され、
種々の特徴を有するこのリン酸化多糖類を乳化安定剤と
して使用するという試みはなされていない。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】本発明者らは、安全性
の高い乳酸菌によって生産され、たんぱく質との親和性
が強いリン酸化多糖類の利用について鋭意研究を行った
結果、このようなリン酸化多糖類が乳化安定剤としての
適性を有することを見出した。すなわち、食品基準に適
合する成分を配合して調製した合成培地やホエー、脱脂
乳などの乳成分を配合して調製した天然培地を使用し、
リン酸化多糖類を産生する乳酸菌を培養してリン酸化多
糖類を生産させた後、エタノール沈澱法などの方法によ
り得られる精製又は粗製のリン酸化多糖類、あるいは、
上記のリン酸化多糖類を産生する乳酸菌を培養する際に
使用した培地を含むリン酸化多糖類含有物を、アイスク
リーム、マーガリン、スプレッド類、デザート類、ドレ
ッシング類、マヨネーズ類、ソース類などの乳化食品を
製造する工程中で添加することにより、植物性多糖類又
は微生物多糖類を添加した通常の食品の品質と何ら遜色
ない製品を製造できることを見出し、本発明を完成する
に至った。
【0005】したがって、本発明は、乳酸菌によって生
産され、たんぱく質との親和性が強く、さらには抗腫瘍
活性や血清コレステロール上昇抑制効果などの2次機能
を有するリン酸化多糖類を有効成分とする乳化安定剤を
提供することを課題とする。また、本発明は、乳酸菌に
よって生産され、たんぱく質との親和性が強く、さらに
は抗腫瘍活性や血清コレステロール上昇抑制効果などの
2次機能を有するリン酸化多糖類を乳化安定剤として使
用して、アイスクリーム、マーガリン、スプレッド類、
デザート類、ドレッシング類、マヨネーズ類、ソース類
などの乳化食品を製造する方法を提供することを課題と
する。
【0006】
【課題を解決するための手段】本発明は、乳酸菌が生産
するリン酸化多糖類を有効成分とする乳化安定剤であ
る。また、本発明は、乳酸菌が生産するリン酸化多糖類
を有効成分とする乳化安定剤を使用して乳化食品を製造
する方法である。
【0007】本発明で乳化安定剤の有効成分として使用
するリン酸化多糖類は、精製されたものであっても良い
し、粗製のものであっても良い。また、食品基準に適合
する成分を配合して調製した合成培地やホエー、脱脂乳
などの乳成分を配合して調製した天然培地などでリン酸
化多糖類を産生する乳酸菌を培養して得られるリン酸化
多糖類を含む培地であっても良い。この乳酸菌が生産す
るリン酸化多糖類は、前述したように公知の化合物とし
て知られており [特開平3-229702号公報、Carbohydr. R
es., vol.224, pp.245-253, 1992] 、次の構造式で示す
ことができる。
【0008】
【化1】
【0009】
【化2】 (ただし、式中、Glcはグルコースを、Galはガラ
クトースを、Rhaはラムノースをそれぞれ示す。ま
た、式中の数値はそれぞれの結合部位を、mは0〜3の
整数を、nは繰り返し単位をそれぞれ示す。nは通常
1,000〜5,000 である。)
【0010】本発明の乳酸菌が生産するリン酸化多糖類
を有効成分とする乳化安定剤を使用して乳化食品を製造
するに際しては、この乳化安定剤を食品に対し 0.001〜
5%(w/v) 添加することが好ましい。アイスクリームや
デザート類などの食品においては均質化前の原料混合時
にこの乳化安定剤を添加すれば良く、マーガリン、スプ
レッド類、ドレッシング類やマヨネーズなどの食品にお
いては油脂混合時にこの乳化安定剤を乳化剤と共に添加
すれば良い。
【0011】次に、本発明の乳化安定剤を調製する方法
について説明する。まず、リン酸化多糖類を得るために
リン酸化多糖類を産生する乳酸菌を培養するが、培養に
際しては、食品基準に適合する成分を配合して調製した
合成培地、ホエーや脱脂乳などの乳成分を配合して調製
した天然培地などを使用することが好ましい。合成培地
としては、乳たんぱく質のカゼインを加水分解して得ら
れるカザミノ酸などのアミノ酸混合物やペプトン、トリ
プトン、カシトンなどのペプチド混合物を窒素源として
0.2〜 5.0%(w/v) 配合し、乳糖、グルコース、ガラク
トース、フルクトースなどを糖質として 1.0〜10.0%(w
/v) 配合し、その他、ビタミンやミネラルとして食品添
加物である化合物を適当量配合しても良いし、ビタミン
の供給源として酵母エキスなどを使用しても良い。これ
らの成分を配合した後、あるいはこれらの成分を配合し
ながら、pHを 6.0〜6.5 に調整し、濾過滅菌やオートク
レーブにより滅菌して培地とする。また、天然培地とし
ては、脱脂乳や還元脱脂乳、チーズホエーや還元ホエー
などの乳成分を使用すれば良い。そして、加熱滅菌 (約
115℃で15〜20分間) 又は濾過滅菌して培地とする。さ
らに、可食性の成分からなる液体であり、リン酸化多糖
類を産生する乳酸菌が生育可能であれば、それらの成分
を培地として使用しても構わない。
【0012】リン酸化多糖類を産生する乳酸菌の培養
は、上述した培地に同様の培地で培養した前培養物 1.0
〜 5.0%(v/v) を添加して開始する。なお、乳酸菌培養
中は、水酸化ナトリウムなどのアルカリ溶液を自動滴定
して、pHを 6.0〜6.5 の範囲で一定の値に維持する定pH
培養を行うことが好ましいが、そのまま静置培養を行っ
ても構わない。定pH培養を行った場合には約40〜60時間
後に、静置培養を行った場合には約20〜40時間後に、乳
酸菌の増殖は静止期に至るので、乳酸菌の培養を停止
し、遠心分離 (20,000×g 、60分間) により培地から菌
体を分離した後、この上清に濃度約60%となるようエタ
ノールを添加して、低温下でリン酸化多糖類を沈澱させ
る。そして、遠心分離(5,000×g 、20分間) により沈澱
を回収し、約60〜70%(w/w) のリン酸化多糖類を含有す
る粗製物を得る。
【0013】このリン酸化多糖類粗製物を乾燥し、粉砕
したものを乳化安定剤として使用することができるが、
リン酸化多糖類粗製物を水で溶解してから濃度約60%(v
/v)となるようエタノールを添加し再沈澱させる操作を
2回繰り返した後、トリプシンなど市販のたんぱく質分
解酵素を作用させてリン酸化多糖類粗製物中のたんぱく
質を分解し、再び濃度約60%(v/v) となるようエタノー
ルを添加し沈澱させることにより、約95〜99%(w/w) の
リン酸化多糖類を含有する精製物を得、これを乳化安定
剤として使用することもできる。さらに、リン酸化多糖
類を産生する乳酸菌を培養する際に使用した合成培地や
天然培地、あるいは、菌体を除去した培地を10倍以上に
濃縮するか又は乾燥することにより得られる濃縮物又は
粉末は、リン酸化多糖類を約 1.0〜15.0%(w/w) 含有し
ているので、これらを本発明の乳化安定剤とすることも
できる。なお、静置培養した培地に限り、水酸化ナトリ
ウムなどのアルカリ溶液で中和しておくことが好まし
い。
【0014】従来、食品の製造に使用されている多糖類
は通常やや難溶解性であり、水に溶解し直ちに粘性を示
す多糖類粉末は、だまを形成することが多い。そこで、
この問題を改善するために、多糖類粉末と水が接触して
膨潤状態となる溶解初期段階の効率を向上させる目的で
乳糖やミネラルなどの溶解補助剤を配合することが多
い。また、溶解補助剤を配合しても、多糖類の基本的な
溶解性に基づいて、表1に示した加熱処理などのような
処理が必要であった。しかし、本発明で使用するリン酸
化多糖類は常温で水に可溶であり、また、リン酸化多糖
類を産生する乳酸菌を培養する際に使用した培地を含む
リン酸化多糖類含有物は、培地中に塩類や糖質などが残
存しており、改めて溶解補助剤などを配合する必要がな
いという利点を有する。
【0015】
【表1】 ────────────────────── 成分 溶解条件 ────────────────────── グアーガム 80℃以上の加熱 カラギーナン 50〜70℃で溶解 ローカストビーンガム 70℃以上の加熱 アラビアガム 常温 トラガントガム 70℃以上の加熱 ペクチン 常温 アルギン酸 常温 キサンタンガム 70℃以上の加熱 デキストラン 常温 プルラン 常温 カードラン アルカリ溶液中 リン酸化多糖類 常温 ──────────────────────
【0016】次に、リン酸化多糖類の製造法、リン酸化
多糖類の化学組成及び水溶液の粘度について説明する。
【参考例1】10リットル容ジャーファーメンターを用
い、表2に示した成分を配合して調製した合成培地(pH
6.3)で定pH培養(pH 6.3)により、リン酸化多糖類産生菌
株であるラクトコッカス・ラクチス・サブスピーシーズ
・クレモリス(Lactococcus lactis ssp. cremoris) SB
T0495 (FERM P-10053)を培養した。
【0017】
【表2】 ─────────────────────────── 成分 配合量 ─────────────────────────── グルコース 20.0 (g/リットル) カザミノ酸 8.0 (g/リットル) 酵母エキス 4.0 (g/リットル) 塩化マグネシウム 200.0 (mg/リットル) 塩化カルシウム 200.0 (mg/リットル) 硫酸第一鉄 5.0 (mg/リットル) 硫酸亜鉛 2.5 (mg/リットル) ───────────────────────────
【0018】上記の合成培地と同様の合成培地を用いて
培養した前培養物 5.0%(v/v) をジャーファーメンター
中に添加し、水酸化ナトリウム溶液を自動滴定しながら
定pH培養(pH 6.3)した。培養開始約50時間後に培養を停
止し、遠心分離 (20,000×g、60分間) により培養液か
ら菌体を除去した後、濃度60%(v/v) となるようエタノ
ールを添加し、遠心分離(5,000×g 、20分間) により沈
澱としてリン酸化多糖類を回収した。そして、真空乾燥
し、粗製リン酸化多糖類粉末を得た。
【0019】
【参考例2】50mMリン酸緩衝液(pH 7.0)中で、参考例1
と同様の方法により得られた粗製リン酸化多糖類にたん
ぱく質分解酵素のトリプシンを添加し、25℃で20時間処
理した後、濃度60%(v/v) となるようエタノールを添加
し、遠心分離(5,000×g 、20分間) により沈澱としてリ
ン酸化多糖類を回収した。そして、真空乾燥し、精製リ
ン酸化多糖類粉末を得た。
【0020】
【参考例3】10リットル容ジャーファーメンターを用
い、10%(w/w) 還元ホエーからなる天然培地(pH 6.3)で
定pH培養(pH 6.3)により、リン酸化多糖類産生菌株であ
るラクトコッカス・ラクチス・サブスピーシーズ・クレ
モリス(Lactococcus lactis ssp. cremoris) SBT0495
(FERM P-10053)を培養した。上記の天然培地と同様の天
然培地を用いて培養した前培養物 5.0%(v/v) をジャー
ファーメンター中に添加し、水酸化ナトリウム溶液を自
動滴定しながら定pH培養(pH 6.3)した。培養開始約50時
間後に培養を停止し、遠心分離 (20,000×g、60分間)
により培養液から菌体を除去した後、培養液を約3倍濃
度に濃縮し、噴霧乾燥してリン酸化多糖類含有物粉末を
得た。表3に、参考例1〜3で得られた各リン酸化多糖
類の培地1リットル当たりの乾燥物重量を示す。
【0021】
【表3】 ─────────────────────────── 乾燥物重量 ─────────────────────────── 粗製リン酸化多糖類 (参考例1) 14.0(g/リットル) 精製リン酸化多糖類 (参考例2) 9.6 リン酸化多糖類含有物 (参考例3) 101.8 ─────────────────────────── 表4に、参考例1〜3で得られた各リン酸化多糖類の組
成を示す。
【0022】
【表4】 ──────────────────────────────────── 化学組成(%) ───────────────────── 糖質(リン酸化多糖類) 蛋白質 その他* ──────────────────────────────────── 粗製リン酸化多糖類 (参考例1) 78.5(72.0) 17.9 3.6 精製リン酸化多糖類 (参考例2) 98.9(97.5) 0.8 0.3 リン酸化多糖類含有物 (参考例3) 13.6(10.1) 12.0 74.4 ──────────────────────────────────── *その他の成分は、ミネラル、乳酸及び脂質などである。
【0023】精製リン酸化多糖類にはリン酸化多糖類が
極めて多く含まれており乳化安定剤として好ましい。ま
た、比較的容易に製造することができる粗製リン酸化多
糖類にもリン酸化多糖類が充分多く含まれており乳化安
定剤として好ましい。さらには、リン酸化多糖類含有物
においても、リン酸化多糖類が約10%(w/w) 含有されて
いるので、本発明の乳化安定剤の実質的な添加濃度0.01
〜 0.5%(w/v) を考慮すると、乳化安定剤として充分で
あると言える。
【0024】表5に、参考例1〜3で得られた各リン酸
化多糖類水溶液の粘度を示す。なお、植物性多糖類のア
ラビアガム、グアーガム及びローカストビーンガム、微
生物多糖類のキサンタンガムについても、その水溶液の
粘度を示す。
【0025】
【表5】 ────────────────────────────────── 粘度(mPa.s at 50sec-1) ──────────────────── 0.1%(w/v) 液 1.0%(w/v) 溶液 ────────────────────────────────── アラビアガム 42 190 グアーガム 48 692 ローカストビーンガム 53 905 キサンタンガム 60 2,100 粗製リン酸化多糖類 (参考例1) 51 262 精製リン酸化多糖類 (参考例2) 58 345 リン酸化多糖類含有物 (参考例3) 4 68 ───────────────────────────────────
【0026】通常、食品に添加される多糖類の濃度は0.
01〜 0.5%(w/w) であり、 1.0%(w/v) 溶液は実用的な
濃度ではなく、多糖類の種類により大きな差が見られる
が、精製リン酸化多糖類及び粗製リン酸化多糖類の粘度
は、 0.1%(w/v) 溶液において他の多糖類と同等の水準
であり、 1.0%(w/v) 溶液においてアラビアガムやグア
ーガムと同等の水準である。また、リン酸化多糖類含有
物の粘度は、リン酸化多糖類の含量が反映した値となっ
ている。
【0027】図1に、グアーガム、キサンタンガム及び
精製リン酸化多糖類の 1.0%(w/v)溶液の流動曲線を示
す。グアーガムの水溶液は剪断速度が増加するにつれて
見掛けの粘性率が減少する典型的な擬塑性流動(pseudo-
plastic flow) を示し、キサンタンガムの水溶液はある
一定の剪断力を越えた瞬間から流動が始まるゲル状の流
体であり、降伏値(yield stress:剪断応力曲線のy切
片) を有する塑性流動(plastic flow)を示している。そ
して、精製リン酸化多糖類はグアーガムと同様の流動曲
線を示すが、弱いながらも降伏値を示しており、擬塑性
流動と塑性流動の中間的な性質を示している。また、参
考例1〜3で得られたようなリン酸化多糖類の乳化安定
剤としての適性について、以下のように評価した。
【0028】
【試験例1】水中油型乳化物(O/W型エマルジョン)
に対する乳化安定化作用を調べるモデル実験として、3
%ウシ血清アルブミン(BSA)溶液を調製し、乳化剤
としてショ糖脂肪酸エステル(HLB=10) 0.3%(w/v) 及び
乳化安定剤として各多糖類を配合した。なお、その溶液
が剪断速度 50sec-1において100mPa.sとなるよう各多糖
類を配合した。すなわち、アラビアガム0.37%、グアー
ガム0.17%、ローカストビーンガム0.13%、キサンタン
ガム0.14%、精製リン酸化多糖類0.25%、粗製リン酸化
多糖類0.36%、リン酸化多糖類含有物1.42% (全てw/v)
である。このようにして調製したBSA溶液4容に対し
てコーン油1容を配合し、ホモジナイザーで30℃、10分
間処理して乳化した。そして、この乳化液を30℃で遠心
分離(1,500×g 、10分間) して強制的に油層を分離さ
せ、分離した油層の体積でO/W型エマルジョンに対す
る乳化安定化作用を評価した。その結果を表6に示す。
【0029】
【表6】
【0030】この実験系では油層の分離量が少ないほど
乳化安定化作用が強いと判断することができが、リン酸
化多糖類含有物についても乳化安定剤として充分な性能
を有していると言える。なお、O/W型エマルジョンに
対して他の多糖類よりもやや高い乳化安定化作用を示し
たアラビアガム、キサンタンガム及びリン酸化多糖類
は、いずれも陰イオン性の多糖類を有効成分とするもの
である。多糖類は水溶液中で水性コロイドを形成する
が、O/W型エマルジョンの存在下では、多糖類の一部
がエマルジョン粒子を被覆するものと考えられている。
この時、陰イオン性の多糖類は負の電荷を有しているこ
とから、被覆したエマルジョン粒子間で反発力をもたら
し、エマルジョン同士の再融合を抑制することにより、
中性多糖類以上に乳化安定化効果をもつものと考えられ
る。
【0031】
【試験例2】油中水型乳化物(W/O型エマルジョン)
に対する乳化安定化作用を調べるモデル実験として、3
%BSA溶液1容とコーン油4容を配合し、乳化剤とし
てプロピレングリコール脂肪酸エステル(HLB=3、ペース
ト状)0.5%(w/v) を配合した後、各多糖類を配合した。
なお、各多糖類の配合は、アラビアガム0.37%、グアー
ガム0.17%、ローカストビーンガム0.13%、キサンタン
ガム0.14%、精製リン酸化多糖類0.25%、粗製リン酸化
多糖類0.36%、リン酸化多糖類含有物1.42%(以上、全
てw/v %) である。このようにして調製したものをホモ
ジナイザーで30℃、10分間処理して乳化した。そして、
この乳化液を30℃で遠心分離(2,500×g、10分間) して
強制的にW/O型エマルジョンを沈澱させ、その沈澱物
の体積でW/O型エマルジョンに対する乳化安定化作用
を評価した。その結果を表7に示す。
【0032】
【表7】
【0033】この実験系では沈澱物量が少ないほど乳化
安定化作用が強いと判断することができが、リン酸化多
糖類含有物についても乳化安定剤として充分な性能を有
していると言える。なお、W/O型エマルジョンに対し
て他の多糖類よりもやや高い乳化安定化作用を示したア
ラビアガムとリン酸化多糖類は、その構成糖としてラム
ノースを含んでいる。ラムノースは、一般的な多糖類の
構成糖であるグルコース、ガラクトース、マンノースよ
りも疎水性が強く、それを含む多糖類の水性コロイド
は、非親水性の化合物との親和性を有するものと考えら
れている。したがって、油を連続相に持つW/O型エマ
ルジョンでは、油に対する親和性においてラムノースを
含まない多糖類より優れており、その結果として乳化安
定化作用が高くなったものと考えられる。
【0034】以上の結果から、リン酸化多糖類は乳化安
定剤として二つの利点を有していると言える。一つは、
リン酸基を結合した酸性多糖類としてのO/W型エマル
ジョンに対する乳化安定化作用であり、もう一つは、ラ
ムノースを含有する多糖類としてのW/O型エマルジョ
ンに対する乳化安定化作用である。したがって、リン酸
化多糖類は、これまで乳化安定剤として利用されてきた
多糖類と同等もしくはそれ以上の効果を有し、アイスク
リーム、マーガリン、スプレッド類、デザート類、ドレ
ッシング類、マヨネーズ類、ソース類などの食品を製造
する際に、乳化安定剤として使用することができる。
【0035】次に実施例を示し、本発明を詳しく説明す
る。
【実施例1】参考例1〜3で得られたリン酸化多糖類を
乳化安定剤として用い、アイスクリームを製造した。製
品1kg当たり、30%生クリーム270g、脱脂練乳320g、粉
末水飴30g 及び水380gの割合で配合したものに、乳化剤
としてショ糖脂肪酸エステル(HLB=8) 2g及びソルビタン
脂肪酸エステル(HLB=5) 1gを添加し、さらに、実質的に
添加されるリン酸化多糖類の量が2gとなるよう、精製リ
ン酸化多糖類を使用する場合は2.1g、粗製リン酸化多糖
類を使用する場合は2.8g、リン酸化多糖類含有物を使用
する場合は21g を乳化安定剤として添加し、原料ミック
スを調製した。この原料ミックスを50℃でホモゲナイザ
ー処理し、80℃で20秒間加熱殺菌した。そして、冷却し
て1時間放置した後、フリージング装置を用いてアイス
クリームを製造した。各リン酸化多糖類を乳化安定剤と
して製造したアイスクリームは、ホエー分離などが見ら
れず、口どけなどの食感やオーバーラン(気泡容積増加
分)安定性においても良好な製品であった。
【0036】
【実施例2】参考例1〜3で得られたリン酸化多糖類を
乳化安定剤として用い、マーガリンを製造した。製品1
kg当たり、大豆油240g、ヒマワリ油480g及びパーム油80
g を油脂原料とし、食塩20g 、10%還元脱脂乳170gの割
合で配合したものに、乳化剤としてプロピレングリコー
ル脂肪酸エステル(HLB=3) 5gを添加し、さらに、実質的
に添加されるリン酸化多糖類の量が3gとなるよう、精製
リン酸化多糖類を使用する場合は3.1g、粗製リン酸化多
糖類を使用する場合は4.2g、リン酸化多糖類含有物を使
用する場合は32g を乳化安定剤として添加した。これら
の原料を混合した後、ホモゲナイザーを用いて40℃で20
分間乳化し、その後、直ちに容器中で5℃まで冷却して
マーガリンを製造した。各リン酸化多糖類を乳化安定剤
として製造したマーガリンは、油分や水分の分離がなく
乳化安定性の良好な製品であった。
【0037】
【実施例3】参考例1〜3で得られたリン酸化多糖類を
乳化安定剤として用い、マヨネーズを製造した。製品1
kg当たり、大豆油750g、酢120g、卵黄80g 、水35g 及び
食塩15g を配合したものに、実質的に添加されるリン酸
化多糖類の量が5gとなるよう、精製リン酸化多糖類を使
用する場合は5.2g、粗製リン酸化多糖類を使用する場合
は6.9g、リン酸化多糖類含有物を使用する場合は53g を
乳化安定剤として添加した。これらの原料を混合した
後、ホモゲナイザーを用いて20℃で20分間乳化し、マヨ
ネーズを製造した。各リン酸化多糖類を乳化安定剤とし
て製造したマヨネーズは、油分や水分の分離がなく乳化
安定性の良好な製品であった。
【0038】
【実施例4】参考例1〜3で得られたリン酸化多糖類を
乳化安定剤として用い、ドレッシングを製造した。製品
1kg当たり、コーン油400g、酢150g、水435g及び食塩15
g を配合したものに、実質的に添加されるリン酸化多糖
類の量が8gとなるよう、精製リン酸化多糖類を使用する
場合は8.4g、粗製リン酸化多糖類を使用する場合は11.1
g 、リン酸化多糖類含有物を使用する場合は84g を乳化
安定剤として添加した。これらの原料を混合した後、ホ
モゲナイザーを用いて20℃で20分間乳化し、ドレッシン
グを製造した。各リン酸化多糖類を乳化安定剤として製
造したドレッシングは、乳化安定性及び粘性、流動性な
どのテクスチャーも良好な製品であった。
【0039】
【発明の効果】従来より発酵乳やチーズなどに利用さ
れ、食用微生物として安全であるという認識(GRAS-stat
us:Generally Recognized As Safe)が完全に定着してい
る乳酸菌が生産するリン酸化多糖類は、優れた乳化安定
性を示し、また取り扱いも容易であるので食品の乳化安
定剤として有用である。また、このリン酸化多糖類を乳
化安定剤として使用して乳化食品を製造すると、得られ
る乳化食品の乳化状態を安定に保持することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】グアーガム、キサンタンガム及び精製リン酸化
多糖類の1.0 %溶液の流動曲線を示す。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (72)発明者 岩崎 泰介 オランダ国、9602 ジーケー ホーゲザ ンド、プリンセスラーン 4 (56)参考文献 特開 平8−224060(JP,A) 特開 平3−229702(JP,A) (58)調査した分野(Int.Cl.6,DB名) A23L 1/035 A23D 7/00 500 A23G 9/02 A23L 1/24

Claims (6)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 乳酸菌が生産するリン酸化多糖類を有効
    成分とする乳化安定剤。
  2. 【請求項2】 乳化食品を製造するに当り、乳酸菌が生
    産するリン酸化多糖類を乳化安定剤として使用すること
    を特徴とする乳化食品の製造法。
  3. 【請求項3】 乳化食品がアイスクリームである請求項
    2記載の製造法。
  4. 【請求項4】 乳化食品がマーガリンである請求項2記
    載の製造法。
  5. 【請求項5】 乳化食品がマヨネーズ類である請求項2
    記載の製造法。
  6. 【請求項6】 乳化食品がドレッシング類である請求項
    2記載の製造法。
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