JP2928672B2 - 発蛍光性カリックス〔4〕アレーン誘導体 - Google Patents

発蛍光性カリックス〔4〕アレーン誘導体

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JP2928672B2 JP35706391A JP35706391A JP2928672B2 JP 2928672 B2 JP2928672 B2 JP 2928672B2 JP 35706391 A JP35706391 A JP 35706391A JP 35706391 A JP35706391 A JP 35706391A JP 2928672 B2 JP2928672 B2 JP 2928672B2
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Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、カリックスアレーン誘
導体に関し、特に、金属イオンの分析に用いるのに好適
な発蛍光性カリックス〔4〕アレーン誘導体に関する。
【0002】
【従来の技術とその課題】アルカリ金属を始めとする金
属イオンの分析は、河川や海水などの環境分析、セメン
ト、ガラス、食器などの各種産業製品の組成分析、ある
いは臨床的観点からの血液検査や薬物動態のモニタリン
グなど、いろいろな分野で重要である。
【0003】特に、ナトリウムイオン濃度の分析は、病
気の診断との関連や健康食品に対する関心の高まりから
その必要性が増大している。また、ナトリウムイオン
は、それを制御しなくてはならない多くの工業プロセス
やその廃水を処理する点からもその濃度測定が重要であ
る。
【0004】金属イオンの分析の中心となる技術は、発
光分光法、炎光法および原子吸光法であるが、いずれも
比較的大型の機器を必要とし、また、操作も面倒であ
る。したがって、実用的には、軽量ないしは小型の装置
を用いる簡便で迅速な分析法が用いられている。それら
は、電気化学的分析法と光学的分析法に分けられること
ができ、後者の代表的方法が、蛍光法である。
【0005】蛍光法は、金属イオンと錯体を形成するこ
とによって蛍光を発する物質(蛍光プローブ)を用いて
金属イオンの分析を行うものであり、感度や特異性の高
いものが得られると期待されている。
【0006】従来より用いられている蛍光プローブは、
単一の化合物中に(1)金属イオンを認識し捕捉する部分
と、(2)このイオン捕捉による摂動を受けて蛍光を発す
る(発蛍光性に転換する)部分とが存在する化学構造を
有している。これらのうち、アルカリおよびアルカリ土
類金属イオンの蛍光プローブを例にとると、(1)の部分
としては、クラウン(環状ポリエーテル)化合物やアザ
クラウン(含窒素環状ポリエーテル)化合物なとが使用
され、特に、感度の点からアザクラウン化合物を使用し
たものが優れている。また、(2)の部分としては、各種
の蛍光性物質または分子団の利用が可能であるが、感度
および選択性の点から、フェノール性水酸基を有するも
のが優れている。従来から用いられているこのような蛍
光プローブの代表的なものの幾つかは次のような化合物
化21、化22、化23である。
【0007】
【化21】
【0008】
【化22】
【0009】
【化23】
【0010】しかしながら、このように(1)の部分とし
てアザクラウン化合物を使用した蛍光プローブは、含有
する窒素原子が強い塩基性であるためにアルカリ金属イ
オン以外に水素イオンも強く捕捉して蛍光を発する。し
たがって、塩酸などの無機酸または酢酸誘導体などの有
機酸が共存する試料においては、これら酸の影響を受
け、目的とする金属イオンの分析ができない。また(2)
の部分としてフェノール性水酸基を有する化合物は塩基
性領域でプロトン解離することにより蛍光を発する。し
たがって、水酸化アルカリなどの無機塩基またはアミン
誘導体などの有機塩基が共存する試料においては、これ
らの塩基の影響を受け、目的とする金属イオンの分析が
できない。また、含水系試料の分析においては、試料中
の水素イオン濃度、すなわちpHに影響されるといる制
約を受ける。さらに、クラウン化合物を使用するこれら
の蛍光プローブは、特定の金属イオンに対する選択性が
必ずしも充分ではなかった。
【0011】
【課題を解決するための手段と発明の効果】本発明の目
的は、従来の技術における上に述べたような欠点をなく
し、金属イオン、特にナトリウムイオンの分析に好適な
新規な発蛍光性物質を提供することにある。
【0012】本発明者は、研究を重ねた結果、特定構造
のカリックスアレーン誘導体が上記の目的を果たし得る
ことを見出した。
【0013】カリックスアレーンは、複数個のフェノー
ル単位がメチレン基で結合された環状オリゴマーであ
り、最近、その特徴的な構造の解析が進むにしたがい、
ホスト/ゲスト化学の研究の対象として研究者の注目の
的になっている。それとともに、カリックスアレーン
は、機能性材料としての応用も研究され始めている。
【0014】このカリックスアレーンは、しばしば、フ
ェノール性OH基の存する側を底縁(lower rim)、そ
の反対側を上縁(upper rim)とする杯に見たてられ
る。本発明者は、フェノール単位が4個のカリックスア
レーン、すなわち、カリックス〔4〕アレーンの底縁側
に特定の原子団が配置されたカリックス〔4〕アレーン
誘導体が蛍光プローブとして好適なことを見出した。
【0015】かくして、本発明に従えば、カリックス
〔4〕アレーン分子の底縁側に、金属イオンを捕捉する
のに好適な空腔を与える空腔形成部、蛍光性原子団、お
よび該蛍光性原子団に対する消光原子団が存在すること
を特徴とするカリックス〔4〕アレーン誘導体が提供さ
れる。
【0016】このようなカリックスアレーン誘導体は、
従来使用されていたクラウン系化合物に比べて、カリッ
クス〔4〕アレーン自体が有する構造的な硬さにより、
金属イオン、特にアルカリ金属イオンを捕捉するのに適
している。かくして、カリックス〔4〕アレーンの底縁
側に、検知すべき金属イオンに応じて適当な原子団を配
置して空腔形成部を付与することにより、金属イオンに
対する高い選択性を実現することができる。
【0017】また、従来からのクラウン系化合物をベー
スとする蛍光プローブの場合は、前述したように、化合
物の構造上、サンプル中に共存する酸・塩基およびサン
プルのpHの影響を受けざるを得なかった。すなわち、
塩酸などの無機酸および酢酸誘導体などの有機酸、およ
び水酸化アルカリなどの無機塩基およびアミン誘導体な
どの有機塩基の共存下では、これら酸および塩基に応答
して蛍光を発するために、目的とする金属イオンの分析
ができない。また、含水系のサンプルにおいてはサンプ
ルのpHの影響を受ける。
【0018】これに対して、本発明の発蛍光性化合物
は、カリックス〔4〕アレーンをベースとして分子全体
が中性になるように、金属に対する空腔形成部、蛍光性
原子団および消光性原子団が配置された構造を有するの
で、使用に際して共存する酸・塩基およびpHの制約を
受けず、かつ特定の金属イオンに対して選択的で高感度
な蛍光プローブを提供する。
【0019】空腔形成部を与えるのに好適な原子団の例
は、エーテル、エステル、ケトン、アミドなどの官能基
を有するものである。蛍光性原子団としては多環縮合芳
香族化合物が好ましく、また、その蛍光に対する消光原
子団としては、ニトロベンゼン類が好ましい。
【0020】本発明の特に好ましい態様に従えば、次の
一般式化24で示されるカリックス〔4〕アレーン誘導
体が提供される。このカリックス〔4〕アレーン誘導体
は特にナトリウムイオン分析用蛍光プローブとして好適
である。
【0021】
【化24】 但し、式中、Aは蛍光性原子団であり、下記化25、化
26、化27、化28、化29、化30または化31か
ら選ばれる。
【0022】
【化25】
【0023】
【化26】
【0024】
【化27】
【0025】
【化28】
【0026】
【化29】
【0027】
【化30】
【0028】
【化31】
【0029】Bは、Aに対する消光原子団であり、下記
化32、化33または化34から選ばれる。
【0030】
【化32】
【0031】
【化33】
【0032】
【化34】
【0033】X1、X2、X3およびX4は、ナトリウムイ
オンを捕捉するのに好適な空隙を与える空隙形成部であ
る。X1、X2、X3およびX4は、互いに同一であっても
別異であってもよく、次の原子団化35〜化38から選
ばれる。
【0034】
【化35】
【0035】
【化36】
【0036】
【化37】
【0037】または
【化38】 但し、nは0、1、2または3である。
【0038】YおよびZは、当該カリックスアレーン誘
導体の蛍光性を損なわない限り、任意の原子団または官
能基から選ばれる。すなわち、Yの典型例としては、飽
和および不飽和、分枝・環状および直鎖のアルキル基が
挙げられる。式中の2つのYは、一般には同一であるが
別異のものであってもよい。また、Zとしては、一般
に、Cn2n+1(n=0,1,2・・・・)で表わされる飽和の分
枝および直鎖のアルキル基および水素原子が挙げられ
る。式(1)のカリックスアレーン誘導体を、Zを介して
他の分子に結合させて用いるような場合には、Zは、ハ
ロゲン、ハロゲン化アルキル、含不飽和アルキル、含チ
オール基および含アルデヒドなどの原子団から構成され
る。
【0039】蛍光性原子団Aとして特に好ましいのは、
下記化39、化40、化41または化42である。
【0040】
【化39】
【0041】
【化40】
【0042】
【化41】
【0043】
【化42】 また、消光原子団Bとしては、下記化43が特に好まし
い。
【0044】
【化43】
【0045】これらの蛍光性原子団と消光原子団の組み
合せは、感度および選択性の点から好ましい。すなわ
ち、ピレンおよびアントラセン分子は、比較的長波長領
域に光吸収および蛍光スペクトルを有し、試料中に混在
する他の蛍光性不純物の影響を受けにくく、したがって
目的とする金属イオンの選択的な分析が可能である。ま
たピレンおよびアントラセン分子は非常に強い蛍光を発
するため、これらの蛍光性原子団を使用することによ
り、非常に高感度な分析が可能である。また、消光原子
団としては、適度な消光能を有する原子団が必要であ
り、消光能が強すぎても弱すぎても不適である。例え
ば、ベンゼンやシアノベンゼンでは消光能が弱すぎてま
ったく不適であり、ジおよびトリニトロベンゼンはやや
消光能が強すぎるため、感度の低下を招くことがある。
この点、モノニトロベンゼンは適度な消光能を有し、高
感度な蛍光プローブを提供するのに適している。
【0046】ナトリウムイオンに対する空腔形成部を付
与するX1、X2、X3およびX4として特に好ましいの
は、-CH2-COO-、-CH2-CO-または-CH2-CO
N<である。
【0047】その理由は、これらの原子団によって形成
される空隙の大きさが、ナトリウムイオンの大きさに良
く適合するからであり、他のサイズの異なるイオンに対
する高い選択性を付与することができるからである。
【0048】本発明の発蛍光性カリックス〔4〕アレー
ン誘導体は、次のような方法で合成することができる。
【0049】すなわち、ハロゲン化(CH2)nCOO-
M、ハロゲン化(CH2)nCO-M、ハロゲン化化合物化
44、またはハロゲン化(CH2)nO-M〔M、M1および
2は、蛍光性原子団、消光原子団または当該カリック
スアレーン誘導体の蛍光性を損なわない任意の原子団ま
たは官能基〕の適当な組み合せを溶液中で、塩基存在下
において順次、カリックス〔4〕アレーンに反応させ
る。
【0050】
【化44】
【0051】ここで塩基には炭酸ナトリウム、炭酸カリ
ウム、水素化ナトリウム、水素化カルシウム、水酸化ア
ルカリ、水酸化アルカリ土類、酸化バリウム、金属アル
コラートなどの単独または組み合せが好適に用いられ
る。また溶媒は目的の反応を阻害するものでなければ任
意のものが使用可能であるが、特にアセトン、テトラヒ
ドロフラン、N,N-ジメチルホルムアミド、アセトニト
リルなどが好適に用いられる。反応温度は目的反応の反
応性に応じて異なるが、通常室温から溶媒の沸点温度ま
でが使われる。また余分な副反応を避けるために、窒素
ガスなどの不活性雰囲気下で反応を行うことが望まし
い。また、一般式化24中のZは、この反応の前に導入
しても良く、またこの反応の後に導入しても良い。
【0052】蛍光性原子団としてピレン基、消光原子団
としてニトロベンゼン基、X1、X2、X3およびX4とし
て、-CH2COO-基、Yとしてエチル基、Zとして水
素原子を用いた本発明のカリックスアレーン誘導体の好
ましい例に沿って合成法をさらに詳述すれば次のように
なる。反応スキームは図1に示されている。
【0053】カリックス〔4〕アレーン(反応スキーム
中の化合物1)1モルに対し、アセトン溶媒中、2モル
当量の炭酸カリウム存在下でブロモ酢酸エチルを反応さ
せて化合物2を得る。続いてN,N-ジメチルホルムアミ
ド溶媒中、化合物2を1モルに対して4モル当量の水素
化カルシウム存在下で4-ニトロベンジルブロモアセテ
ートを反応させて化合物3を得る。さらに続いて、アセ
トン溶媒中、化合物3を1モルに対して4モル当量の炭
酸カリウム存在下で1-ピレニルメチルブロモアセテー
トを反応させて目的物である化合物4を得ることができ
る。
【0054】このようにして得られる本発明のカリック
スアレーン誘導体は次のようなメカニズムで蛍光を発す
ると考えられる。金属イオンの不存在下ではカリックス
アレーン構造のコンホメーションは固定されず、ピレン
のような蛍光性原子団は、対面に配置されたニトロベン
ゼン類のような消光原子団と接触的に相互作用を起こ
し、蛍光が消光される。この消光は、「光誘起分子内電
子移動」に基づくものである。金属イオンが結合すると
コンホメーションが固定され、蛍光性原子団と消光原子
団は空間的に隔てられて相互作用が無くなり、蛍光性原
子団の機能が発揮され発蛍光性に転換する。このような
メカニズムを概示したものが図2である。
【0055】ここで、本発明のカリックスアレーン誘導
体は、カリックスアレーン構造が本来的に有する硬さに
より、特定の金属イオンを選択的に結合する大きさに調
整され得る融通性を有している。特に、前述の一般式化
24のカリックス〔4〕アレーン誘導体は、Na+(ナ
トリウムイオン)に極めて選択的であり、Na+に対す
る特異的な蛍光プローブとなる。また、カリックス
〔4〕アレーンをベースとする本発明の発蛍光物質にお
いては、ピレンやアントラセンのような多環縮合芳香族
化合物由来の蛍光性原子団と、それに対する強力な消光
作用を有するニトロベンゼン類のような消光原子団とを
光誘起電子移動に基づく効果的な消光/蛍光が得られる
ように空間配置できるので、蛍光測定の感度が高い。す
なわち、ゲスト(金属イオン)不存在下の消光状態とゲ
スト捕捉時の発光状態の差により非常に大きな蛍光増感
が発現される。さらにカリックスアレーン構造に、多環
縮合芳香族系原子団とニトロベンゼン類を用いる本発明
の発蛍光性物質は、従来の発蛍光性化合物とは異なり、
分子全体にわたり中性であるので使用に際して共存する
酸・塩基物質およびpHの影響を受けない。
【0056】また、蛍光性原子団としてのピレンやアン
トラセンのごとき多環縮合芳香族系原子団の使用は、化
学的に安定であること、あるいは、比較的長波長領域に
励起・蛍光スペクトルを有するので共存物質の影響を受
けにくく特異性が高くなる等の理由によっても、優れた
発蛍光性物質を提供する。
【0057】本発明のカリックスアレーン誘導体を蛍光
プローブとして使用するには各種の態様があり、特に限
定されるものではない。一般的には、ナトリウムイオン
のごとき被測定金属イオンを含有する溶液に本発明のカ
リックス〔4〕アレーン誘導体を溶解してその蛍光強度
を測定する。また、本発明のカリックス〔4〕アレーン
誘導体を水に不溶性の有機溶媒に溶解し、試料水から金
属イオンを抽出し、有機層の蛍光強度を測定することも
できる。さらに別の態様として、本発明のカリックスア
レーン誘導体を他の膜成分と混合して適当な膜状物とし
て、例えば、オプトロードに用いることもできる。ま
た、本発明のカリックスアレーン誘導体は、そのまま単
一の化合物として用いるのみならず、他の化合物、例え
ば、適当なポリマー鎖と化学結合した複合化合物の構成
成分として使用することもできる。
【0058】以下、本発明の特徴をさらに明らかにする
ため、実施例に沿って本発明を説明する。
【0059】
【実施例】
《実施例1》図1のフローチャートに沿って本発明のカ
リックスアレーン誘導体4を調製した。
【0060】化合物2の調製:カリックス〔4〕アレー
ン(3.5ミリモル)、ブロモ酢酸エチル(35ミリモ
ル)、および炭酸カリウム(7.0ミリモル)をアセト
ン(50ml)中に添加し、この溶液を窒素気流下、室温
にて24時間攪拌した。この溶液を水(500ml)に注
ぎ、クロロホルム(150ml)で抽出した。有機層を分
離し、0.1M塩酸で1回、続いて1M NaCl水溶液
で2回洗浄した後、硫酸マグネシウムで乾燥した。溶液
を濃縮した後、n-ヘキサンで処理して白色の固形分を
得た。この固形分をさらにクロロホルムとn-ヘキサン
の混合溶媒から再結晶して純粋な化合物2(白色結晶、
2.8ミリモル)を得た。
【0061】化合物3の調製:化合物2(2.5ミリモ
ル)、4-ニトロベンジルブロモアセテート(3.8ミリ
モル)および水素化カルシウム(10ミリモル)をN,
N-ジメチルホルムアミド(25ml)中に添加し、窒素
気流下60℃で48時間攪拌した。この溶液を濾過した
後、水(300ml)を注ぎ、クロロホルム(150ml)
で抽出した。有機層を分離し、0.1M塩酸で1回、続
いて1M NaCl水溶液で2回洗浄した後、硫酸マグ
ネシウムで乾燥した。この溶液を濃縮した後、トルエン
とクロロホルムの混合溶媒を展開溶媒としてシリカゲル
(ワコーゲル C-300)を充填したカラムで分離・精製し
て純粋な化合物3(白色粉末、1.2ミリモル)を得
た。
【0062】化合物4の調製:化合物3(0.9ミリモ
ル)、1-ピレニルメチルブロモアセテート(1.1ミリ
モル)および炭酸カリウム(3.6ミリモル)をアセト
ン(20ml)中に添加し、窒素気流下24時間還流加熱
した。この溶液を水(300ml)中に注ぎ、クロロホル
ム(100ml)で抽出した。有機層を分離し、0.1M
塩酸で1回、続いて1M NaCl水溶液で2回洗浄し
た後、硫酸マグネシウムで乾燥した。この溶液を濃縮し
た後、クロロホルムとn-ヘキサンの混合溶媒を展開溶
媒としてシリカゲル(ワコーゲル C-300)を充填したカ
ラムで分離・精製して純粋な化合物4(白色粉末、0.
45ミリモル)を得た。得られたものについて以下の分
析を行った。 (1)融点 73℃ (2)赤外吸収スペクトル ν(COO)1757cm-1 (3)1H-核磁気共鳴スペクトル (結果を図3として添付する) 測定溶媒:重クロロホルム プロトン共鳴周波数:400MHz 標準物質:テトラメチルシラン NMRスペクトルにおけるピーク位置(ppm)とその
帰属を構造式に沿って示したのが図5である。図5中、
(a)1.1〜1.2ppmおよび4.1〜4.2ppm、(b)4.5ppm、(c)3.2
〜3.3ppmおよび4.7〜4.9ppm、(d)4.8ppm、(e)5.0および
5.1ppm、(f)5.9ppm、(g)6.2〜6.5ppmおよび6.7〜7.0pp
m、(h)6.9〜7.0ppm、(i)7.6〜7.7ppm、(j)8.0〜8.4pp
m。(i)のシグナルは(h)のシグナルと重なったため、2
次元(COSY)NMRの手法により化学シフトを決定
した。また、積分によって得られた水素量の比は目的物
のそれに一致した。
【0063】(4)質量分析スペクトル m/e=1062(M+) (5)元素分析
【0064】
【表1】 以上の測定結果より、生成物が純粋な目的物であること
が確認された。
【0065】比較化合物5の調製:前記の化合物3の調
製法において、4-ニトロベンジルアセテートの代わり
にベンジルブロモアセテートを使用した以外は、すべ
て、化合物3及び4の調製法と同様の操作により、次に
示す化合物5(化45、白色粉末、融点69℃)を得
た。
【0066】
【化45】
【0067】比較化合物6の調製:フェノール(1.0
ミリモル)、1-ピレニルメチルブロモアセテート(0.
9ミリモル)及び炭酸カリウム(2.5ミリモル)をア
セトン20ml中に添加し、室温にて20時間攪拌した。
この溶液を濾過した後、減圧下でアセトンを留去し、残
渣をクロロホルム(100ml)に溶解した。この溶液を
0.1M塩酸で1回、水で2回洗浄した後、硫酸マグネ
シウムで乾燥した。減圧下でクロロホルムを留去したの
ち、メタノールから再結晶して次に示す化合物6(化4
6、白色針状晶、融点94℃)を得た。
【0068】
【化46】
【0069】応用例1 10mlの容量フラスコにジエチルエーテル約8mlを入
れ、この中に化合物4の1ミリM クロロホルム溶液1
0μl、アルカリ金属(リチウム、ナトリウム、カリウ
ムまたはセシウム)のチオシアン酸塩、チオシアン酸ア
ンモニウム、酢酸、安息香酸、メチルアミンまたはアニ
リンの100ミリM メタノール溶液10μl及びアセト
ニトリル300μlを注入し、ジエチルエーテルで正し
く10mlに希釈した。これらの溶液の蛍光強度を下記の
条件にて測定した。 条件:分光蛍光光度計 ・・・・ 日立F−2000形分光蛍
光光度計 セル ・・・・ 石英製1cm角形セル 励起波長 ・・・・ 342nm 蛍光波長 ・・・・ 378nm 温度 ・・・・ 25℃ 各測定液の蛍光強度は金属塩を添加しない場合の蛍光強
度を1.0とし、これに対する相対値として示した。結
果を表2に示す。尚、比較例として、化合物4の代わり
に、化合物5及び6を用いて同様の方法で試験した結果
を表2に併せて示した。
【0070】
【表2】 ─────────────────────────────────── 実施例 比較例 番号 金属塩または酸・塩基 化合物4 化合物5 化合物6 ─────────────────────────────────── 1 添加せず 1.0 1.0 1.0 2 LiSCN 1.0 1.0 1.0 3 NaSCN 6.3 1.0 1.0 4 KSCN 1.1 1.0 1.0 5 CsSCN 1.1 1.0 1.0 6 NH4SCN 1.0 1.0 1.0 7 CH3COOH 1.0 − − 8 C6H5COOH 1.0 − − 9 CH3NH2 1.0 − − 10 C6H5NH2 1.0 − − 11 NaSCN + CH3COOH 6.3 − − 12 NaSCN + CH3NH2 6.3 − − ───────────────────────────────────
【0071】表2中、番号1〜6より、化合物5および
6は金属塩にまったく応答しないのに対し、化合物4は
ナトリウムに特異的に応答し、ナトリウムの優れた蛍光
プローブであることは明らかである。また、表2中番号
7〜10より明らかなように、化合物4は酢酸等の酸お
よびメチルアミン等の塩基には応答せず、さらに表2中
番号11および12から明らかなように、酢酸およびメ
チルアミン共存下においてもこれらの影響を受けること
なく、ナトリウムに応答し、ナトリウムの特異的な蛍光
プローブである。
【0072】応用例2 10mlの容量フラスコに、ジエチルエーテル約8mlを入
れ、この中に化合物4の1ミリM クロロホルム溶液1
0μl、NaSCNの0、1、10、20、40、6
0、80、100および200ミリM メタノール溶液
10μl、およびアセトニトリル300μlを注入し、ジ
エチルエーテルで正しく10mlに希釈した。これらの溶
液の蛍光強度を前記応用例1と同様の条件にて測定し
た。結果は蛍光強度と添加したNaSCN濃度の関係と
して図4に示した。
【0073】応用例2から明らかなように、化合物4は
ナトリウムイオンの濃度に比例して蛍光強度が増大し、
従ってこの蛍光強度から被検液中のナトリウム濃度を分
析することができる。
【0074】《実施例2》蛍光性原子団としてアントラ
セン、消光原子団としてニトロベンゼン、空腔形成部と
してエステル基およびアミド基を付与したカリックス
〔4〕アレーン誘導体(化合物7)を、実施例1と同様
の方法により調製した。化合物7の構造式を下記化47
に示す。
【0075】
【化47】
【0076】ただし、実施例1中の化合物2の調製にお
いてブロモ酢酸エチルの代わりに2-クロロ-N,N-ジエ
チルアセトアミドを使用し、化合物4の調製において1
-ピレニルメチルブロモアセテートの代わりに9-アント
ラセンメチルブロモアセテートを使用した。
【0077】化合物7を使用し、実施例1中の応用例1
と同様の方法で、アルカリ金属イオンに対する蛍光の応
答を調べた。その結果、ナトリウムの添加により約5倍
の蛍光強度の増大が見られたほかは、他のアルカリ金属
イオンに対しては全く応答しなかった。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明のカリックス〔4〕アレーン誘導体を合
成するための反応スキームを示す。
【図2】本発明のカリックス〔4〕アレーン誘導体によ
る発蛍光メカニズムを示す。
【図3】本発明のカリックス〔4〕アレーン誘導体のN
MRスペクトルである。
【図4】本発明のカリックス〔4〕アレーン誘導体を用
いた場合の蛍光強度とNaSCN濃度の関係を示すグラ
フである。
【図5】本発明のカリックス〔4〕アレーン誘導体のN
MRスペクトルにおけるピーク位置とその帰属を構造式
に沿って示したものである。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (51)Int.Cl.6 識別記号 FI G01N 31/22 122 G01N 31/22 122 (58)調査した分野(Int.Cl.6,DB名) C07C 1/00 - 409/00 CA(STN) REGISTRY(STN)

Claims (3)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 次の一般式化1で示されることを特徴と
    する発蛍光性カリックス〔4〕アレーン誘導体。 【化1】 〔但し、式中、Aは蛍光性原子団であり、下記の化2、
    化3、化4、化5、化7または化8から選ばれ、 【化2】 【化3】 【化4】 【化5】 【化6】 【化7】 【化8】 Bは該蛍光性原子団に対する消光原子団であり、下記の
    化9、化10または化11から選ばれ、 【化9】 【化10】 【化11】 、X、XおよびXは、ナトリウムイオンに対
    する空隙形成部を与える互いに同一または別異の原子団
    であり、下記の化12、化13、化14または化15か
    ら選ばれ(但し、化12〜化14のnは0、1、2また
    は3であり、また、化12〜化14の−CH側がO原
    子に結合し、他方側がA、BまたはYと結合する)、 【化12】 【化13】 【化14】 【化15】 Yは飽和または不飽和の分枝、環状または直鎖のアルキ
    ル基であり、2つのYは同一または別異のものであり、
    Zは、飽和の分枝もしくは直鎖のアルキル基または水素
    原子であるが、化1のカリックスアレーン誘導体がZを
    介して他の分子に結合させて用いる場合には、Zは、ハ
    ロゲンまたはハロゲン化アルキルから成る。〕
  2. 【請求項2】 蛍光性原子団Aが下記の化16、化1
    7、化18または化19から選ばれ、 【化16】 【化17】 【化18】 【化19】 消光原子団Bが下記の化20であり、 【化20】 、X、X、およびXが、−CH−COO
    −、−CH−CO−または−CH−CON<から選
    ばれる(但し、−CH側がO原子に結合し、他方側が
    A、BまたはYと結合する)ことを特徴とする請求項1
    に記載のカリックス〔4〕アレーン誘導体。
  3. 【請求項3】 請求項1に記載のカリックス〔4〕アレー
    ン誘導体を含むことを特徴とするナトリウムイオン分析
    用蛍光プローブ。
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