JP2921872B2 - 経粘膜製剤 - Google Patents

経粘膜製剤

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Description

【発明の詳細な説明】 [発明の利用分野] 本発明は、安全性が高く且つ生物学的利用能(Bioava
ilability)の高い、経粘膜製剤(薬物を粘膜から吸収
させることを目的として調整される製剤)に関する。
[発明の背景] 疾病の治療のために用いられる薬物は、種々の形で投
与される。この投与形態は、薬物の性質や治療目的に応
じて適当なものが選択されている。
例えば親水性が高い或は水溶性の薬物は、一般に消化
管吸収性が乏しいため、経口投与により生物学的利用能
を高めることは難しい。そのため、これら親水性の薬物
は通常注射剤として投与される。しかしながら、注射剤
による投与は、有資格者によらなければならず、また、
投与時に患者に苦痛を与える等の理由から、投与回数を
制限せざるを得ない場合が多々ある。このような理由か
ら、生物学的利用能が高く且つ手軽に投与し得る、親水
性薬物の投与方法の開発が切望されている。
このような問題を解決する手段としては、例えば、鼻
腔,直腸,腔等の粘膜から薬物を吸収させる経粘膜製剤
に、シクロデキストリン(以下、CDと略記する。)やそ
のメチル或はアミノ誘導体、好ましくはα−CDを添加し
て、粘膜からの吸収性を改善する方法が報告されている
(特開昭58−189118号公報、特開昭59−21613号公報、
特開昭59−148717号公報。)。
しかしながら、α−CDは溶血活性は低いものの組織
(筋肉)傷害性や粘膜刺激性が高く、また、メチル基等
のアルキル基を導入したCD誘導体は溶血活性、組織(筋
肉)傷害性並びに粘膜刺激性共に高く、これらを含む経
粘膜製剤は使用時の安全性の面で問題があり、更なる改
善が望まれていた。
[発明の目的] 本発明は、上記した如き状況に鑑みなされたもので、
生物学的利用能が高く、且つ組織(筋肉)傷害作用並び
に粘膜刺激性の低い経粘膜製剤を提供することを目的と
する。
[発明の構成] 本発明は、インスリンとCDのヒドロキシアルキル誘導
体とを含有して成る経粘膜製剤の発明である。
即ち、本発明者らは、インスリンの投与に利用し得
る、生物学的利用能が高く且つ組織(筋肉)傷害作用並
び粘膜刺激性の低い経粘膜製剤を開発すべく鋭意研究の
結果、従来から吸収促進剤として利用されているα−CD
やCDのメチル誘導体の代りに、CDのヒドロキシアルキル
誘導体(以下、CD−HAと略記する。)を経粘膜製剤中に
添加した場合には、粘膜に対する刺激性が従来利用され
ていたものより小さくなり、しかも、生物学的利用能に
関しては従来利用されていた吸収促進剤とほぼ同等かそ
れ以上の吸収促進作用を示すことを見出し、生物学的利
用能が高く、且つ従来のものに比較して安全性の高い経
粘膜製剤を調製し得る本発明を完成するに至った。
本発明に於いて用いられるCD−HAとしては、以下のよ
うなものが挙げられる。即ち、例えばα−CD,β−CD,γ
−CD等の通常のCD、或は例えばグリコシルCD,マルトシ
ルCD,ジマルトシルCD等の分岐型CDに、例えば2−ヒド
ロキシエチル基,2−ヒドロキシプロピル基,3−ヒドロキ
シプロピル基,2,3−ジヒドロキシプロピル基,2−ヒドロ
キシ−2−メチルプロピル基等の炭素数4以下のヒドロ
キシアルキル基を1分子当り1〜18個、好ましくは2〜
10個、更に好ましくは2〜7個導入したものが挙げられ
る。尚、本発明に於いて用いられるCD−HAは、導入され
たヒドロキシアルキル基の水酸基に更に同じ又は他のヒ
ドロキシアルキル基が1乃至2以上導入されたものであ
ってもよい。また、CD−HAに導入されたヒドロキシアル
キル基は、通常エーテル結合によりCD本体と結合してい
るが、デオキシ化により結合していてもよい。
これらCD−HAの本発明の経粘膜製剤中の使用濃度とし
ては、主薬の吸収促進作用を阻害したり、主薬の薬効を
著しく低下させない範囲であれば特に限定されないが、
経粘膜製剤中に通常20〜200mM、好ましくは70〜150mMの
濃度範囲で添加される。
本発明に於いて用いられるCD−HAは、例えは米国特許
第3453259号明細書、米国特許第3502601号明細書、特開
昭63−122701号公報、特開昭62−243602号公報等に記載
されている方法に準じて容易に合成し得るので、そのよ
うにして得たものを用いれば足りる。
本発明の経粘膜製剤は、インスリンとCD−HAを共存さ
せる以外は、自体公知の経粘膜製剤の処方に従って調製
されたものであればよく、その剤形は特に限定されず、
固形,半固形,懸濁液,溶液等の剤形から、利用する薬
物の性質及び適用する粘膜部位に応じて適宜選択すれば
よい。また、通常の経粘膜製剤に於いて使用される防腐
剤、緩衝剤、pH調整剤、増粘剤、賦形剤等も、主薬の吸
収促進作用を阻害したり、主薬の薬効を著しく低下させ
ない範囲で適宜選択して利用し得る。
本発明の経粘膜製剤を適用する粘膜部位としては、通
常の経粘膜製剤が適用される眼,鼻,口腔,下気道,
肺,直腸,膣,子宮等の粘膜部位が挙げられ、特に限定
されない。
本発明者らは、先にCD−HAの一部が極めて低溶血性且
つ低筋肉傷害性であることを見出し、特許出願している
(特開昭64−61430号公報)。しかしながら、この時点
に於いては、CD−HAがインスリンの粘膜からの吸収に際
して吸収促進作用を示すこと、及びそれ自身極めて低粘
膜刺激性であることについては未だ確認されておらず、
CD−HAが本発明の如き目的に使用し得るものであるか否
かについてはこれまで全く不明であった。
尚、本発明の経粘膜製剤の特徴をまとめると以下の如
くなる。
i)本発明の経粘膜製剤は、粘膜刺激性、溶血活性、筋
肉刺激性等の局所刺激性や全身毒性が極めて低く、安全
性が高い。
ii)本発明に於いて用いられるCD−HAは、天然のCDに比
較して溶解性が高いので、高濃度溶液の調製が可能であ
り、しかも高温での溶解性が高く(CDのメチル誘導体の
場合には高温になるほど溶解性が低くなる)、調製した
経粘膜製剤は加熱滅菌し得る。
以下に実施例及び実験例を挙げて、本発明を更に詳細
に説明するが、本発明はこれらにより何ら限定されるも
のではない。
[実施例] 実施例1.インスリン含有経粘膜製剤の調製−1 ウシインスリン100IU(約3.9mg、シグマ社製)及びα
−CDの2−ヒドロキシプロピル誘導体(以下、HP−α−
CDと略記する。)(置換基数5.2)0.1gとを等張リン酸
緩衝液(pH7.4)1mlに添加した後、良く撹拌して、鼻腔
投与用のインスリン懸濁液を調製した。
実施例2.インスリン含有経粘膜製剤の調製−2 ウシインスリン125IU(約4.9mg)及びHR−α−CD(置
換基数5.2)0.1gとを等張リン酸緩衝液(pH7.4)1mlに
添加した後、良く撹拌して、直腸投与用のインスリン懸
濁液を調製した。
実施例3.インスリン含有経粘膜製剤の調製−3 ウシインスリン2000IU(約78.0mg)を等張リン酸緩衝
液(pH7.4)5mlに添加、懸濁させた後、1N HC1約1mlを
加えてインスリンを溶解させた。次いで、この溶液を1N
NaOHで中和し、等張リン酸緩衝液(pH7.4)で全量20ml
とした。これにβ−CDの2−ヒドロキシプロピル誘導体
(以下、HP−β−CDと略記する。)(置換基数5.6)を8
0mMとなるように添加溶解して、粘膜投与用のインスリ
ン溶液とした。
実施例4.インスリン含有経粘膜製剤の調製−4 坐剤基質H−15(ダイナマイトノーベル社製)8.9805
gを乳鉢に取り、40〜45℃で加温して溶解した。これに
α−CDの2−ヒドロキシエチル誘導体(置換基数4.4)
1.0g(100メッシュの篩通過分)を加温化に添加して撹
拌した。次いで、これにウシインスリン19.5mgを添加
し、良く撹拌した後、1g用坐剤成型器を用いて、1g坐剤
を調製した。
実施例5.インスリン含有経粘膜製剤の調製−5 ウシインスリン2000IU(約78.0mg)を等張リン酸緩衝
液(pH7.4)5mlに添加、懸濁させた。次いで、これにβ
−CDの2,3−ジヒドロキシロピル誘導体(以下、DHP−β
−CDと略記する。)(置換基数5.9)を添加し、クロロ
ブタノール12.5mgを加えて完全に溶解させた後、生理食
塩水で全量20mlとして、DHP−β−CDを80mM含む鼻腔投
与用のインスリン溶液とした。
実験例1.インスリンの直腸投与試験 (経粘膜製剤) 80mMの各種CD又はその誘導体を含む等張リン酸緩衝液
(pH7.4)1mlにウシインスリン100IUを懸濁させたもの
を経粘膜製剤とした。
(操作法) 16時間絶食させたWistar系雄性ラットをペントバルビ
タールで麻酔したものの直腸内に、経粘膜製剤を0.5ml/
kg投与した。投与後所定時間に、頚静脈より採血して、
常法により血清を分離し、血清中のインスリン濃度及び
グルコース濃度を測定した。
尚、インスリンの測定は市販のインスリン測定試薬
(インシユリンB−テストワコー、和光純薬工業(株)
製)を用い、また、グルコースの測定は市販のグルコー
ス測定試薬(グルコースC−テストワコー、和光純薬工
業(株)製)を用い、各々の現品説明書の標準操作法に
従って行った。
(結果) 経粘膜製剤投与後の血清中のインスリン濃度の経時変
化を測定した結果を第1図に示す。尚、第1図に於い
て、−●−は経粘膜製剤未投与のラットにより得られた
結果を、−○−はCD又はその誘導体無添加の経粘膜製剤
を投与したラットにより得られた結果を、−▲−はα−
CDを含む経粘膜製剤を投与したラットにより得られた結
果を、−□−はヘプタキス(2,6−ジ−O−メチル)−
β−CD(DM−β−CD)(置換基数14)を含む経粘膜製剤
を投与したラットにより得られた結果を、また、−△−
はHP−α−CD(置換基数5.2)を含む経粘膜製剤を投与
したラットにより得られた結果を夫々示す。
第1図の結果から明らかな如く、本発明に係るHP−α
−CDを含む経粘膜製剤を投与されたラットの血中インス
リン濃度は、その他の経粘膜製剤を投与された場合と比
較して有意に高く、本発明の経粘膜製剤の薬物吸収効率
が高いことが判る。
また、経粘膜製剤投与後の血清中のグルコース濃度の
経時変化を測定したデータを、常法により統計処理した
ものを表1に示す。
尚、これらの結果は、5匹のラットにより得られたデ
ータを統計処理したものである。
また、対照として経粘膜製剤未投与のラットにより得
られたデータも表1に併せて示した。
表1より明らかな如く、本発明に係るHP−α−CD或は
HP−β−CDを含む経粘膜製剤を投与されたラットの血清
中グルコース濃度の降下作用比は、その他の経粘膜製剤
を投与された場合と比較して有意に高く、本発明の経粘
膜製剤から吸収されたインスリンは薬理作用が十分に発
揮されていることが判る。
実験例2.鼻粘膜刺激性試験 (還流液) 等張リン酸緩衝液(pH7.4)に各種シクロデキストリ
ンを80mMとなるように添加溶解したものを還流液とし
た。
(操作法) 平井らの方法(後藤茂編「生物薬剤学実験マニュア
ル」清至書院、201〜209貢、1985。)に準じて以下のよ
うに行った。
体重200〜300gのWistar系雄性ラット(カルバミド酸
エチルの25%生理食塩水溶液を、6ml/kg腹腔内に投与し
て麻酔済み)を、背位固定後、頚部を切開して気管を露
出し、切開した。切開部から肺に向けてポリエチレンチ
ューブ(PE−160)を挿入、固定して、気道を確保し
た。更に同切開部から後鼻腔へ向けてもう1本のポリエ
チレンチューブ(PE−160)を組織を傷つけないように
慎重に挿入し、還流用チューブの一端とした。尚、これ
ら2本のポリエチレンチューブを挿入した後、切開部は
縫合した。同様にしてポリエチレンチューブ(PE−16
0)2本を両外鼻孔より挿入し、夫々を瞬間接着剤で固
定した後、テフロン製T字コネクタに接続し、これを還
流用チューブの他端とした。以上2本の還流用チューブ
を用い、37℃の生理食塩水30mlで鼻腔内を2回洗浄した
後、還流液10mlを37℃、流速1.0ml/minで還流させた。
また、還流液の漏れを防ぐため、口腔に開いている鼻腔
蓋管は予め瞬間接着剤で閉鎖しておいた。
還流開始から2時間後の還流液中の膜成分量の測定
を、以下の市販試薬を用い、各々の現品説明書に記載の
標準操作法に従って測定を行った。
蛋白質:マイクロTP−テストワコー(和光純薬工業
(株)製)。
リン脂質:リン脂質B−テストワコー(和光純薬工業
(株)製)。
コレステロール:コレステロールC−テストワコー(和
光純薬工業(株)製)。
遊離脂肪酸:NEFA−C−テストワコー(和光純薬工業
(株)製)。
(結果) 得られた結果を表2に示す。
表2の結果から明らかな如く、本発明に係るCDのヒド
ロキシアルキル誘導体のうち、HP−α−CDは鼻粘膜刺激
性が他と比べて特に低いことが、また、HP−β−CDは、
同じβ−CDの誘導体であるDM−β−CDよりも鼻粘膜刺激
性が明らかに低いことが判る。
実験例3.直腸粘膜刺激性試験 (還流液) 実験例2と同じ。
(操作法) 西畑らの方法(後藤茂編「生物薬剤学実験マニュア
ル」清至書院、162〜171貢、1985。)に準じて以下のよ
うに行った。
体重200〜300gのWistar系雄性ラット(カルバミド酸
エチルの25%生理食塩水溶液を、6ml/kg腹腔内に投与し
て麻酔済み)を、背位固定後、腹部を正中線に沿って開
腹し、小骨盤より1〜2cm上部から肛門までの直腸部分
を実験に使用した。この上部にカニューレを挿入し、縫
合糸で固定後、37℃の生理食塩水30mlで直腸内を3回洗
浄した。次いで、肛門部位にカニューレを挿入し、縫合
糸で固定後、還流液10mlを37℃、流速1.0ml/minで還流
させた。
還流開始から2時間後の還流液中の膜成分量の測定
を、実験例2と同様にして測定した。
(結果) 得られた結果を表3に示す。
表3の結果から明らかな如く、本発明に係るCDのヒド
ロキシルアルキル誘導体のうち、HP−α−CDは直腸粘膜
刺激性が他と比べて特に低いことが、また、HP−β−CD
は、同じβ−CDの誘導体であるDM−β−CDよりも直腸粘
膜刺激性が明らかに低いことが判る。
[発明の効果] 以上述べた如く、本発明は、従来から経粘膜製剤の吸
収促進剤として用いられてきたCDやそのメチル誘導体等
の代りに、CDのヒドロキシプロピル誘導体を用いた点に
特徴を有する発明であり、従来の経粘膜製剤に比較し
て、生物学的利用能が高く且つ粘膜刺激性の少ない経粘
膜製剤を提供することができる点に顕著な効果を奏する
ものであり、斯業に貢献するところ大なる発明である。
【図面の簡単な説明】 第1図は、実験例1に於いて得られた、種々のシクロデ
キストリン又はその誘導体とインスリンとを含む経粘膜
製剤を直腸に投与した際の、血清中のインスリン濃度の
経時変化を測定した結果を示したものである。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (56)参考文献 特開 平3−86833(JP,A) 特開 昭59−21613(JP,A) 特開 昭58−189118(JP,A) 特開 昭64−61430(JP,A) (58)調査した分野(Int.Cl.6,DB名) A61K 9/02 A61K 37/26

Claims (2)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】インスリンとシクロデキストリンのヒドロ
    キシアルキル誘導体とを含有して成る経粘膜製剤。
  2. 【請求項2】直腸投与を目的とする請求項1に記載の経
    粘膜製剤。
JP1220936A 1989-08-28 1989-08-28 経粘膜製剤 Expired - Lifetime JP2921872B2 (ja)

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