JP2913123B2 - 変色のないビスフェノールaの分離方法 - Google Patents

変色のないビスフェノールaの分離方法

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JP2913123B2 JP23235691A JP23235691A JP2913123B2 JP 2913123 B2 JP2913123 B2 JP 2913123B2 JP 23235691 A JP23235691 A JP 23235691A JP 23235691 A JP23235691 A JP 23235691A JP 2913123 B2 JP2913123 B2 JP 2913123B2
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Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、ビスフェノールAとフ
ェノールとの結晶アダクトから高純度で色相にすぐれか
つ変色のないビスフェノールAを分離する方法に関す
る。ビスフェノールAはポリカーボネート樹脂やエポキ
シ樹脂の原料であり、近年は、特に光学用途に適した無
色透明かつ高純度のビスフェノールAの需要が著しく増
加している。
【0002】
【従来技術及びその問題点】ビスフェノールA〔2,2
−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン〕を製造す
るために、酸触媒の存在下、過剰のフェノールにアセト
ンを反応させることは知られている。また、この反応生
成物から高純度ビスフェノールAを分離回収するため
に、反応生成物を冷却してビスフェノールAとフェノー
ルとの結晶アダクト(以下、単に結晶アダクトとも言
う)を晶出させ、得られたアダクト結晶からフェノール
を除去すことも知られている。一方、結晶アダクトから
フェノールを分離するために、結晶アダクトを90〜1
20℃で溶融し、溶融液を180℃より上の温度及び減
圧下で蒸発処理し、得られた蒸気を分別凝縮してビスフ
ェノールAとフェノールとの分離する方法は知られてい
る(特公昭52−42790号)。このような結晶アダ
クトからフェノールを分離する方法において、得られる
ビスフェノールAの純度は、結晶アダクト自体の純度及
びフェノール除去率に依存することはもちろんである
が、これらの点を改良したとしても、得られる製品ビス
フェノールAに対する少量の着色原因物質の混入を防止
できないため、製品ビスフェノールAの色相が悪化する
とともに、その溶融物の色相の経時変化が著しいという
問題があった。そして、このような色相悪化(着色)の
問題は、その着色原因物質が結晶アダクト溶融液の蒸発
処理に際しての加熱に起因して生じることから、加熱処
理を用いる限り、不可避的なものと考えられていた。ま
た、このような理由により、色相の良好な製品ビスフェ
ノールを得る点からは、蒸発装置としては、蒸発表面積
を向上せしめる部材を内部に配設した滞留時間の長い充
填塔、たとえば充填塔の使用は不適当であると考えられ
ていた。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、従来技術に
見られる前記問題を解決し、結晶アダクトから、色相に
すぐれかつ色相の経時変化の少ない高純度ビスフェノー
ルAを分離する方法を提供することをその課題とする。
【0004】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、前記課題
を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、ビスフェノールA
に混入する着色原因物質の量は、結晶アダクトの溶融液
が接触する材質の表面に付着する酸素を除去することに
より、著しく低減させ得ることを見出し、本発明を完成
するに至った。
【0005】即ち、本発明によれば、ビスフェノールA
とフェノールとの結晶アダクトの溶融液を、蒸発表面積
を向上せしめる部材を内部に配設した少なくとも1個の
充填塔からなる蒸発処理工程に供給し、減圧下、フェノ
ールを蒸発除去するに際し、該充填塔の内壁面及び該充
填塔内部に配設された蒸発表面積を向上せしめる部材表
面に付着する酸素を、表面積1m当り10ミリモル以
下にあらかじめ除去した充填塔を用いることを特徴とす
る変色のないビスフェノールAの分離方法が提供され
る。
【0006】本発明において用いるビスフェノールAと
フェノールの結晶アダクトは、従来公知の方法によって
製造される。即ち、過剰のフェノールとアセトンとを酸
触媒の存在下で反応させてビスフェノールAを含む反応
生成物を得たのち、この反応生成物を晶析処理すること
によって、ビスフェノールAとフェノールとの結晶アダ
クトを得ることができる。このようにして得られる結晶
アダクトは、その純度を高めるために、フェノールを用
いる洗浄処理を施すのが好ましい。本発明者らは、結晶
アダクトの洗浄に適したフェノールを得るための工業用
フェノール精製法について鋭意研究を重ねた結果、工業
用フェノールを強酸型イオン交換樹脂と接触させた後、
蒸留処理して得られる精製フェノールは、着色原因物質
を含まず、この精製フェノールを用いて結晶アダクトを
洗浄し、洗浄された結晶アダクトからフェノールを除去
して得られる製品ビスフェノールAは、色相の極めてす
ぐれたものであることを見出した。前記工業用フェノー
ルとしては、市販品を用いることができ、一般的には、
フェノール純度99.5重量%以上のもの好ましくは9
9.93重量%以上のものであればよい。以下におい
て、この工業用フェノールの精製について詳述する。
【0007】工業用フェノールの処理に用いる強酸型イ
オン交換樹脂としては、スルホン基を有するものが用い
られ、このような強酸型イオン交換樹脂は、従来良く知
られているものである。例えば、ロームアンドハース社
から入手し得るアンバーライト及びアンバーリストや、
三菱化成社から入手し得るダイヤイオン等のゲル型のも
のを好ましく用いることができる。この強酸型イオン交
換樹脂を用いるフェノールの処理は、強酸型イオン交換
樹脂を含む充填塔にフェノールを流通させる方法や、強
酸型イオン交換樹脂を入れた撹拌槽にフェノールを入れ
て撹拌する方法等により実施することができる。処理温
度は45〜150、好ましくは50〜80℃である。強
酸型イオン交換樹脂とフェノールの接触時間は、5〜2
00分、好ましくは15〜60分程度である。この強酸
型イオン交換樹脂を用いてフェノールの処理を行う場
合、フェノール中の水分は、0.5重量%以下、好まし
くは0.1重量%以下にする。これより水分が多くなる
と、強酸型イオン交換樹脂による不純物除去効果が悪化
する。フェノール中からの0.5重量%以下までの水分
の除去は、フェノール中に公知の共沸剤を加え共沸させ
ることによって行うことができる。
【0008】前記強酸型イオン交換樹脂と接触処理され
たフェノールは、高沸点不純物を含むもので、蒸留処理
することにより、その高沸点不純物を蒸留残渣として分
離する。蒸留塔の運転条件はフェノールと高沸点不純物
が分離できればよいが、留出フェノール中に高沸点不純
物が混入しない条件で行う必要があり、留意すべきポイ
ントとして蒸留処理温度を185℃以下にすることであ
る。185℃以下の温度であれば運転圧力は任意に設定
されるが、通常50Torr〜600Torrの減圧下
で行われる。運転温度が185℃をこえると高沸点不純
物等の分解がおこり精製フェノールの品質を低下させる
ので好ましくない。前記処理によって得られた精製フェ
ノールは、APHA基準の色相が10以下のものであ
り、製品ビスフェノールに付着しても、その色相を特に
悪化させることはない。
【0009】精製フェノールによる結晶アダクトの洗浄
は、結晶アダクトと精製フェノールとの接触を充分に達
し得る方法であればよい。この洗浄処理は、例えば、結
晶アダクトを分離するための濾過機や遠心分離機等の固
液分離装置の中で、母液を結晶アダクトから除去した
後、精製フェノールをその固液分離装置内に導入して洗
浄する方法や、固液分離装置から排出される少量の母液
が付着する結晶アダクトを、別の撹拌槽において精製フ
ェノールにより洗浄することもできる。結晶アダクトに
対する精製フェノールの使用割合は、結晶アダクト10
0重量部に対して、30〜1000重量部、好ましくは
100〜300重量部の割合である。結晶アダクトの洗
浄に用いられた後の精製フェノールは、そのまま又は前
段の晶析工程で得られる粗製結晶アダクトの洗浄に用い
た後、ビスフェノールAの合成反応工程における原料フ
ェノールとして循環使用される。
【0010】前記のようにして得られた結晶アダクト
は、これを、それに付着又は同伴するフェノールととも
に、溶融した後、少なくとも1個の蒸発表面積を向上せ
しめる部材を内部に配設した充填塔からなる蒸発処理工
程に導き、フェノールを蒸発除去するが、本発明におい
ては、その充填塔の運転開始に先立ち、あらかじめ、充
填塔の内壁面及び蒸発表面積を向上せしめる部材の表面
に付着する酸素を除去する。充填塔の内壁及び蒸発表面
積を向上せしめる部材、たとえば充填材を構成する金属
の表面は、通常ステンレススチール、例えば、SUS3
04、SUS316、SUS316L等で形成されその
表面には通常、1m当り30〜60ミリモル程度の酸
素が付着結合している。本発明者らの研究によれば、そ
の金属表面に付着する酸素をあらかじめ除去して充填塔
を使用する時には、結晶アダクトの蒸発処理における加
熱により生じる着色原因物質の生成を著しく抑制するこ
とができ、色相が良好でかつ色相の経時変化の抑制され
た製品ビスフェノールAが得られることが見出された。
【0011】充填塔の内壁面及び蒸発表面積を向上せし
めた表面、たとえば充填材表面からの酸素除去は、その
表面を有機溶剤を用いて洗浄処理することによって行う
ことができる。有機溶剤としては、フェノール及び/又
はビスフェノールA、フェノールとビスフェノールAの
混合物等を用いることができる。洗浄処理温度は、10
0〜200℃、好ましくは120〜185℃である。洗
浄に際しての雰囲気としては、不活性ガス、例えば、窒
素ガスやアルゴンガスあるいは脱ガススチーム雰囲気等
の酸素濃度が0.1vol%以下、好ましくは0.05
vol%以下の雰囲気が用いられる。有機溶剤による充
填塔の内壁面及び蒸発表面積を向上せしめる部材表面の
洗浄は、その表面にスプレーノズルを介して有機溶剤を
噴射させることによって行うことができる他、充填塔内
に有機溶剤を流通させることによって行うことができ
る。
【0012】前記酸素除去処理においては、充填塔内壁
面及び蒸発表面積を向上せしめる部材表面に付着する酸
素量が、表面積1m当り、10ミリモル以下、好まし
くは5ミリモル以下になるように行う。本発明において
は、前記酸素除去処理は、充填塔の内壁面及び蒸発表面
積を向上せしめる部材表面に対して適用する他、結晶ア
ダクト溶融液あるいはビスフェノールA溶融液が接触す
る他の金属表面、例えば、結晶アダクトを溶融するため
の溶融装置の内壁面、溶融装置と充填塔の間の配管の内
壁面、さらには、充填塔に付設されたビスフェノールA
抜出し配管の内壁面等に対して適用するのが好ましい。
【0013】本発明においては、結晶アダクトは、これ
を加熱溶融させて溶融液とした後、充填塔へ供給し、こ
こでフェノールの蒸発除去を行う。結晶アダクトの溶融
装置としては、外壁面に加熱ジャケットを備えた外部加
熱方式の密閉型容器や、内部に加熱コイルを備えた内部
加熱方式の密閉型溶器等が用いられる。結晶アダクトを
溶融する際の操作条件としては、一般的には、温度:1
15〜180℃、好ましくは120〜150℃、圧力:
1.0〜5.0atm(絶対圧)、好ましくは1.0〜
1.9atm(絶対圧)の条件が採用される。また、結
晶アダクトの溶融雰囲気中の酸素濃度は、0.005v
ol%以下、好ましくは0.001vol%以下に保持
される。また、本発明においては、結晶アダクトを、短
時間で溶融させるために、その結晶アダクトを、前記し
た如き精製フェノールのような着色の殆どない熱フェノ
ールを用いて希釈して溶融する方法や、結晶アダクトの
溶融済みの液中に溶融させる方法等を採用することもで
きる。充填塔としては、少なくとも内壁面が金属材質、
特にステンレススチール、例えばSUS304、SUS
316、SUS316Lなどで形成されている筒体内部
に蒸発表面積を向上せしめる部材を配設したものが用い
られる。この充填塔は、その底部に加熱手段を配設する
ことができる。蒸発表面積を向上させる部材としては、
従来公知の充填材等を示すことができる。この場合、充
填材は、例えば、SUS304、SUS316、SUS
316L等のステンレススチールから構成される。ま
た、充填材は、ラッシヒリング、ポールリング、板体、
多孔板等であることができる。充填塔は、少なくとも1
個、好ましくは2個以上組合せて用いられる。この充填
搭は、スチームを用いる充填塔(スチームストリッピン
グ充填塔)であることができる。本発明による結晶アダ
クト溶融液の好ましい蒸発処理は、スチームを用いない
通常の充填塔と、スチームを用いるスチームストリッピ
ング充填塔との組合せを用いて行なわれる。
【0014】次に、スチームを用いない第1充填塔と、
スチームを用いる第2充填塔からなる蒸発処理装置系を
用いて結晶アダクト溶融液を蒸発処理する方法について
詳述する。この蒸発処理方法においては、結晶アダクト
溶融装置からの溶融液は、これを第1の充填塔に導入
し、ここでスチームの非存在下、減圧下において蒸発処
理し、その溶融液中のフェノールの一部を蒸発除去す
る。この第1充填塔の塔頂からは、フェノールを含む蒸
気が分離回収され、その底部からは、フェノールの一部
が蒸発除去された溶融液が分離回収される。この第1充
填塔からの塔底物は、これを第2充填塔に導入し、ここ
でスチームの存在下、減圧下において蒸発処理して、溶
融液中の残部フェノールを蒸発除去する。この第2充填
塔からは、その塔頂物として、フェノール、スチーム及
び少量のビスフェノールAを含む混合蒸気が排出され、
その塔底物として、高純度ビスフェノールAが分離回収
される。スチームを用いない第1充填塔の操作条件とし
ては、温度:125〜200℃、好ましくは130〜1
85℃、圧力:100トール以下、好ましくは5〜40
トールが採用される。充填塔内の蒸気雰囲気中の酸素濃
度は、0.005vol%以下、好ましくは0.001
vol%以下に保持される。この第1充填塔において、
結晶アダクト溶融液中に存在するフェノールの95〜9
9.8重量%、好ましくは98〜99.7重量%が蒸発
除去される。前記スチームを用いる第2充填塔の操作条
件としては、温度:130〜200℃、好ましくは16
0〜185℃、圧力:100トール以下、好ましくは5
〜40トール、ビスフェノールA溶融液1kg当りのス
チーム供給量:0.02〜0.2kg、好ましくは0.
04〜0.1kgの条件が採用される。充填塔内の蒸気
雰囲気中の酸素濃度は、0.005vol%以下、好ま
しくは0.001vol%以下に保持される。この第2
充填塔においては、第1充填塔から得られる結晶アダク
ト溶融液中のフェノールの実質的全量が蒸発除去され、
塔底物として、フェノール含有率200wtppm以
下、好ましくは50wtppm以下のビスフェノールA
が得られる。
【0015】前記のスチームを用いる第2充填塔から
は、スチーム、フェノール及び少量のビスフェノールA
を含む混合蒸気が得られるが、この混合蒸気からはフェ
ノール及びビスフェノールAを分離回収する。この混合
蒸気からのフェノール及びビスフェノールAの分離回収
は、従来公知の各種の方法で行うことができるが、本発
明においては、特に、2段階の冷却工程を用いて行うの
が好ましい。次に、この2段階の冷却工程を用いる混合
蒸気からのフェノールの分離回収について詳述する。こ
の方法においては、前記第2充填塔から得られフェノー
ル、スチーム及び少量のビスフェノールAを含む混合蒸
気は、これを、その減圧状態のまま第1冷却工程へ供給
し、ここでフェノール又はビスフェノールAを含むフェ
ノールからなる第1冷却媒体と向流接触させて冷却す
る。この第1冷却工程は、混合蒸気中のビスフェノール
Aの実質的全量を冷却媒体中に溶解するように実施す
る。混合蒸気中のスチームは、この第1冷却工程では実
質上凝縮されず、次の第2冷却工程へ送られる。混合蒸
気中のフェノールは、その一部がこの第1冷却工程で凝
縮され、残りの未凝縮のものはスチームとともに次の第
2冷却工程へ送られる。第1冷却工程で混合蒸気から分
離回収されたビスフェノールAとフェノールの混合液
は、その一部を冷却媒体として用いることができる。第
1冷却媒体の温度は、フェノールの凝固点より1〜50
℃程度高い温度である。この第1冷却工程における混合
蒸気からのフェノールの回収率は、この第1冷却工程に
対する全供給フェノールに対し、70重量%以上、好ま
しくは85重量%以上である。
【0016】第1冷却工程で用いる冷却媒体は、混合蒸
気を所望温度に冷却し得るに充分な量であればよく、通
常、混合蒸気に対する重量比で、5〜10、好ましくは
6〜9である。また、第1冷却工程で得られる混合蒸気
中のビスフェノールAとフェノールを溶解した冷却媒体
中に含まれるビスフェノールAの合計ビスフェノールA
のフェノールに対する重量比は、0.05〜0.20、
好ましくは0.08〜0.14である。この第1冷却工
程においては、ビスフェノールAに対し過剰のフェノー
ルが存在することから、ビスフェノールAの凝固点以下
の冷却温度であっても、ビスフェノールAとフェノール
とのアダクトが晶出するようなことはない。
【0017】第1冷却工程の圧力は、100トール以
下、好ましくは5〜40トールであり、前記第2充填塔
における圧力に対応する。また、第1冷却工程における
温度は、前記圧力条件下においてスチームが気体を保持
し、フェノールの一部が液体を保持する温度である。好
ましい冷却温度(ビスフェノールAを凝縮させる温度)
は、42〜90℃、好ましくは45〜55℃である。
【0018】第2冷却工程へ送られたスチームとフェノ
ールの混合蒸気は、ここでフェノールの水溶液からなる
第2冷却媒体と向流接触させて冷却する。この第2冷却
工程は、この工程へ送られたスチームとフェノールの実
質的全量が凝縮液化するように実施し、この工程からは
フェノールの水溶液が回収される。この第2冷却工程で
得られるフェノールの水溶液は、その一部を第2冷却媒
体として用いることができる。水溶液中のフェノール濃
度は、混合蒸気の組成及び第1冷却工程の条件で決まる
が、通常、55〜75重量%である。また、この第2冷
却媒体の温度は、スチームの凝縮温度より1〜10℃程
度低い温度である。
【0019】第2冷却工程で用いる第2冷却媒体は、混
合蒸気の全量を凝縮させるに充分な量であればよく、通
常、第1冷却工程から送られたスチームとフェノールと
の混合蒸気に対する重量比で、100〜300、好まし
くは190〜250である。この第2冷却工程の圧力
は、100トール以下、好ましくは5〜40トールであ
り、第1冷却工程の圧力に対応する。第2冷却工程にお
ける冷却温度(スチーム凝縮温度)は、前記圧力条件下
においてスチームとフェノールの混合蒸気の全量が凝縮
液化する温度であればよい。
【0020】第1冷却工程及び第2冷却工程において用
いる冷却器は、気液接触型の装置であればよく、任意の
ものが用いられる。このような冷却器としては、例え
ば、充填塔や、スプレー塔等を用いることができる。充
填塔を用いる場合、その充填物としては、圧力損失を抑
えるように、ラッシッヒリングや、ボールリング、多孔
金属板等を用いるのがよい。また、第1冷却工程と第2
冷却工程で用いる冷却器は、それぞれ別個に設置するこ
ともできるが、2つの冷却器を含む一塔型の装置であっ
てもよい。
【0021】次に、前記混合蒸気の凝縮処理方法の1つ
の実施態様について、図面を参照して説明する。図1に
おいて、1は第1冷却器、2は第2冷却器を示す。ライ
ン3は、スチームを用いる前記第2充填塔に接続する混
合蒸気ラインを示す。ライン4は排気ポンプ(図示され
ず)及び冷却器に接続する真空ラインであり、前記した
結晶アダクト溶融液からフェノールを蒸発除去する第1
充填塔(図示せず)、第2充填塔(図示され)、第1冷
却器1及び第2冷却器2を含む全装置系は減圧条件に保
持される。第2充填塔からの混合蒸気は、ライン3を通
つて第1冷却器1の下部に供給され、ここで、ライン5
を通って第1冷却器の上部から導入される第1冷却媒体
(フェノール又はビスフェノールAを含むフェノール)
と向流接触する。この第1冷却器で凝縮したビスフェノ
ールAとフェノールを溶解した冷却媒体は、抜出しポン
プ7を含むライン6を通って第1冷却器の底部から抜出
される。このライン6を通って抜出される冷却媒体は、
必要に応じ、その一部を所要温度に冷却した後、冷却媒
体としてライン5にリサイクルすることもできる。
【0022】第1冷却器1の頂部からライン8を通って
抜出されるスチームとフェノールの混合ガスは、第2冷
却器2の下部に導入され、ここで、ライン9を通って第
2冷却器の上部から導入される第2冷却媒体(フェノー
ルの水溶液)と向流接触する。この第2冷却器でスチー
ムとフェノールの混合蒸気は凝縮液化し、この凝縮液は
冷却媒体とともに第2冷却器2の底部から抜出しポンプ
11を含むライン10を通って抜出され、その一部はラ
イン13を通り、冷却媒体用の冷却器14を通って冷却
された後、ライン9を通り、第2冷却器にリサイクルさ
れる。ライン11を通って抜出された凝縮スチームとフ
ェノールを含む冷却媒体の残部はライン12を通って系
外へ抜出される。
【0023】次に、前記混合蒸気の凝縮処理法におい
て、第1冷却器と第2冷却器を含む一塔型の冷却装置を
用いた場合のフローシートを図2に示す。図2におい
て、30はその内部に第1冷却器1と第2冷却器2を備
えた一塔型の冷却装置である。この冷却装置は、第1冷
却器1と第2冷却器2との中間に中央部に開口を有する
仕切板25を配設し、その開口に筒体23を立設した構
造を有する。この装置において、筒体23の外周面と冷
却装置30の内壁との間に形成される環状中空室は、液
体を貯留するためのものである。22は、第2冷却器2
を流下する液体を前記環状中空室に案内するための案内
板である。筒状空間24はガス通路を示す。なお、図2
における符号において、図1に示したものと同じ符号は
同じ意味を示す。また、図2においては、図1に示した
流量コントロール系は図示されていない。
【0024】前記のような混合蒸気の凝縮処理によれ
ば、スチームを用いる第2充填塔から得られる、スチー
ム、フェノール及びビスフェノールAを含む混合蒸気
を、昇圧することなく、100トール以下の減圧状態の
ままで冷却凝縮させることができる。しかも、この場
合、100トール以下という低い圧力条件と、それに応
じた低いスチーム凝縮温度条件を採用したにもかかわら
ず、ビスフェノールAやフェノールの結晶は何ら析出し
ない。従って、このような凝縮処理法においては、固体
析出による冷却器の効率低下や、冷却器の閉塞トラブル
は何ら生じない。しかも、混合蒸気を構成するスチー
ム、フェノール及びビスフェノールAの全てが凝縮さ
れ、真空排気系にはそれらの蒸気は実質的に流入されな
い。従って、真空排気ポンプは、装置系を所定の減圧条
件に保持するだけであるので、排気容量の小さなもので
済み、設備コスト及びエネルギーコスト的に非常に有利
である。さらに、このような混合蒸気の凝縮処理を採用
するときには、混合蒸気の冷却凝縮処理を100トール
以下の極めて低い圧力で実施し得ることから、その前段
の第1充填塔及び第2充填塔を低圧で行うことができ
る。従って、第2充填塔からは、フェノール含有率が極
めて低い高純度のビスフェノールA、例えば、フェノー
ル含有率が200ppm以下、特に50ppm以下とい
う極めて低い高純度ビスフェノールAを得ることができ
る。
【0025】
【発明の効果】本発明によれば、結晶アダクト溶融液の
蒸発処理を、減圧条件下において、蒸発表面積の大きい
充填塔を用いて行うことから、その蒸発処理を効率よく
行うことができる。しかも、この場合、その充填塔とし
ては、あらかじめ、その内壁面及び内部に配設した部材
表面から酸素除去処理を施したものを用いることから、
その溶融液の蒸発に際しての加熱に起因する着色原因物
質の生成量を著しく減少させることができ、色相にすぐ
れ、かつ溶融液の色相の経時変化の著しく減少された高
純度ビスフェノールAを得ることができる。
【0026】
【実施例】次に本発明を実施例によりさらに詳細に説明
する。
【0027】 実施例1 結晶アダクト溶解装置として、SUS316製の外部加
熱式密閉容器を用い、結晶アダクト溶融液の蒸発処理装
置として、内部にSUS316製の充填材を充填したS
US304製の2つの充填塔を用いた。溶融装置には、
その上部に結晶アダクト供給管を付設し、その底部に溶
融液配管を付設し、この配管を第1充填塔の中間部に連
結した。この第1充填塔には、その塔頂部にフェノール
蒸気排出用配管を付設し、その底部にビスフェノールA
とフェノールを含む溶融液配管を付設し、この配管を第
2充填塔の中間部に連結した。この第2充填塔の塔頂部
はフェノール、スチーム及び少量のビスフェノールAを
含む混合蒸気排出用配管を付設し、この配管は、これを
図1に示した冷却凝縮装置に連結させた。また、この第
2充填塔の塔底部には、ビスフェノールA排出配管と、
スチーム供給配管を付設した。なお、前記した第1充填
塔及び第2充填塔の各底部には、加熱スチームを流通さ
せる加熱コイルを配設した。また、前記した各配管はい
ずれもSUS316製のものであった。次に、前記のよ
うにして構成された装置系において、その溶融装置の内
壁面、第1充填塔及び第2充填塔の内壁面及びその充填
材表面、溶融装置と第1充填塔との間の配管、第1充填
塔と第2充填塔との間の配管及び第2充填塔の底部に配
設したビスフェノールA排出配管に対して、以下のよう
にして付着酸素除去用の洗浄処理を施した。 (1)溶融装置内壁面の洗浄 スプレーノズルを介して常圧下、130℃のフェノール
液を内壁面に噴射させて、内壁面を充分に洗浄した後、
150℃のフェノール/ビスフェノールA混合液(混合
重量比=65/35)を噴射させて内壁面を充分に洗浄
した。 (2)充填塔内壁面及び充填材表面の洗浄 常圧下、130℃のフェノールを、その装置の上部に付
設されたスプレーノズルから流入させて装置内の洗浄を
行った後、130℃のフェノール次いで150℃のフェ
ノール/ビスフェノールA混合物(混合重量比=65/
35)により装置壁面および充填材表面が充分濡れるよ
うに流通させた。次いで180℃、10トールの条件で
フェノール/ビスフェノールA混合物(混合重量比=6
5/35)を流通させた。 (3)配管内壁面の洗浄 130℃のフェノールを配管内を流通させて洗浄した。
その際、管内壁面に気相が存在しないように注意した。
【0028】なお、前記の洗浄により、溶融装置内壁
面、充填塔内壁面とその充填材表面及び配管の内壁面に
付着する酸素量は、表面積1m当り5ミリモル以下で
あることが確認された。次に、結晶アダクトの溶融液及
びビスフェノールAの溶融液が接触する溶融装置、充填
塔、充填材及び配管の表面があらかじめ酸素除去された
前記装置系を用いて、以下のようにして製造した精製結
晶アダクト(溶融色APHA:5)からフェノールを蒸
発除去して、ビスフェノールAを分離回収するととも
に、第2充填塔の塔頂から得られる混合蒸気の冷却凝縮
処理を行った。 (結晶アダクトの製造) フェノールとアセトンを酸触媒の存在下で反応させて得
られる、溶融色50APHAであるビスフェノールA、
フェノールおよび不純物の混合物を晶析して、結晶アダ
クトを析出させた。このスラリー溶液を減圧濾過し、固
形状の結晶アダクトを得、これを後述する方法で得た精
製フェノールをアダクト1重量部に対し2.5重量部の
割合で用いて洗浄し、精製結晶アダクトを得た。なお、
上記で使用した精製フェノールは溶融色6APHAのも
のであり、市販工業用フェノール(水分濃度0.1wt
%、不純物濃度0.05wt%)をロームアンドハース
社製アンバーライトIR−118H+樹脂を用いて温度
80℃、接触時間50分で接触処理し、蒸留塔底温度1
75℃、塔頂圧力560トールで蒸留して得られたもの
である。
【0029】また、前記における溶融装置、第1充填
塔、第2充填塔及び冷却凝縮装置系のの操作条件は以下
の通りである。 (溶融装置) 温度:130℃ 圧力:常圧 雰囲気酸素濃度:0.0005vol% (第1充填塔) 温度:170℃ 圧力:10トール 蒸気雰囲気中酸素濃度:0.0015vol% (第2充填塔) 温度:180℃ 圧力:10トール スチーム供給量:溶融液1kg当り0.08kg 蒸気雰囲気中酸素濃度:0.0002vol% (図1の第1冷却器の操作条件) (1)ライン3から第1冷却器1に導入されるストリッ
ピングガス 圧力:10トール 温度:180℃ 組成:ビスフェノールA25wt%、フェノール25w
t%、スチーム50wt% (2)ライン5から導入される第1冷却媒体(フェノー
ル) 温度:50℃ 冷却媒体/ストリッピングガス重量比:6 (3)冷却器1におけるストリッピングガスからのビス
フェノールAの回収率:100%
【0030】 (図1の第2冷却器の操作条件) (1)ライン8から第2冷却器に導入される未凝縮ガス 圧力:10トール 温度:51℃ 組成:フェノール65wt%、スチーム35wt% (2)ライン9から第2冷却器2に導入される第2冷却
媒体(フェノール水溶液)温度:9℃ 冷却媒体/未凝縮ガス重量比:190 (3)冷却器2における未凝縮ガスからのフェノール及
びスチームの各回収率フェノール回収率:100% スチーム回収率:100%
【0031】 実施例2 実施例1において、酸素除去処理を、各充填塔の内壁面
及び充填材の表面のみに対して施した以外は同様にして
実験を行った。
【0032】 比較例1 実施例1において、酸素除去処理を全く行わない以外は
同様にして実験を行った。
【0033】 比較例2 実施例1において、各充填塔の内壁面及び充填材表面に
酸素除去処理を施さなかった充填塔を用いた以外は同様
にして実験を行った。以上の各実施例及び比較例で得ら
れたビスフェノールAの175℃における溶融色を次表
にまとめて示す。
【0034】
【表1】
【図面の簡単な説明】
【図1】冷却凝縮装置系の1つの実施態様についての説
明図を示す。
【図2】冷却凝縮装置系の他の実施態様についての説明
図を示す。
【符号の説明】
1 第1冷却器 2 第2冷却器 3 ストリッピングガスライン 4 真空ライン 30 第1冷却器と第2冷却器を含む一塔型冷却装置
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (72)発明者 浅岡 佐知夫 神奈川県横浜市鶴見区鶴見中央二丁目12 番1号 千代田化工建設株式会社内 (72)発明者 今関 隆士 神奈川県横浜市鶴見区鶴見中央二丁目12 番1号 千代田化工建設株式会社内 (56)参考文献 特開 平5−39238(JP,A) 特開 平5−32577(JP,A) (58)調査した分野(Int.Cl.6,DB名) C07C 39/16 C07C 37/74 - 37/80

Claims (2)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 ビスフェノールAとフェノールとの結晶
    アダクトの溶融液を、蒸発表面積を向上せしめる部材を
    内部に配設した少なくとも1個の充填塔からなる蒸発処
    理工程に供給し、減圧下、フェノールを蒸発除去するに
    際し、該充填塔の内壁面及び該充填塔内部に配設された
    蒸発表面積を向上せしめる部材表面に付着する酸素を、
    表面積1m当り10ミリモル以下にあらかじめ除去し
    た充填塔を用いることを特徴とする変色のないビスフェ
    ノールAの分離方法。
  2. 【請求項2】 該蒸発処理工程を、2個の充填塔を用
    い、該結晶アダクトの溶融液を、第1の充填塔におい
    て、スチームの非存在下、蒸発処理してフェノールの一
    部を除去した後、第2の充填塔において、スチームの存
    在下、蒸発処理してフェノールの残部を除去するように
    行う請求項1の方法。
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