JP2716909B2 - 脂質分解酵素の新規固定化担体 - Google Patents

脂質分解酵素の新規固定化担体

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Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は脂質分解酵素の固定化担
体として用いられ、エステル類の合成及び交換反応に適
した高活性な固定化酵素を得るための新規固定化担体に
関するものである。
【0002】
【従来の技術及び発明が解決しようとする課題】脂質分
解酵素の1種であるリパーゼは温和な条件下で反応する
こと、位置選択性、アルキル選択性等の特異性を有する
ことを利用して油脂及びエステル類の合成・交換反応に
利用されている。しかし、これらの反応はリパーゼ本来
の加水分解反応と異なり水分の限定された系でのみ進み
うる反応である。一方リパーゼのエステル合成活性や交
換活性を増大せしめるためには、少量の水分を必要とす
る。特開昭55−71797 号公報に開示された低水分系の反
応では、充分な反応速度が得られず、また反応速度を増
大させるために必要以上の水分を与えると、エステルの
分解反応が優先的に進行するという問題点がある。また
特開昭60−19495 号公報及び特開昭60−203196号公報に
開示された、反応を多水分系の分解工程と、水分を除去
する合成工程の二段階に分けて行う方法の提案もある
が、後者の合成反応速度は通常のエステル交換速度に比
して充分であるとは言えず、工程操作の複雑化も避けら
れない。以上の問題点を解決し、かつリパーゼを効率的
に使用する目的で、リパーゼを固定化する試みが行われ
てきた。リパーゼの固定化により期待される利点は次の
通りである。従来リパーゼを水溶液の状態で使用すると
油中に均一に混合・分散することが困難であったが、リ
パーゼを不溶性担体表面に固定化する事により油中に容
易に分散可能となり、かつ担体に適当量の水分を保持で
きるため、低水分下でのエステル合成・交換反応が行い
やすくなる。また触媒としてコストの高いリパーゼの回
収再使用がしやすく、エステル合成反応または交換反応
の工業的実施においても反応装置の連続化が容易となる
等の点である。
【0003】しかし、以上のような利点を有する固定化
酵素においても、リパーゼの合成活性増大のために必要
な水分量を保持する事と、逆反応である加水分解の抑制
とを両立するには至っていない。例えば、Journal of A
merican oil Chemist's Soc-iety, 第60巻, 291 −294
(1983)にも微量な水分を与えた場合加水分解反応が進
行することが指摘されている。また、水に代えてグリセ
リンのような多価アルコールを添加した場合では加水分
解反応はある程度抑制されるが、エステル合成・交換反
応は遅くなる。また、酵素水分の保持を狙い多孔質担
体、高吸水性樹脂をキトサンで包括結合後、粉砕した担
体を用いる方法(特開昭59−213390号公報)によっても
固定化酵素のエステル合成・交換反応と分解反応を両立
させるため、二段階反応法(特開昭60−203196号公報)
を採用している。また特開昭60−98984号公報および特
開昭61−202688号公報には耐熱性を持ち80℃までの反応
が可能なエステル交換、エステル合成を目的とした固定
化酵素についての開示もあるが、この固定化方法が有効
なのはムコール属の特定のリパーゼのみであり、ムコー
ル属由来のリパーゼを固定化して用いた場合でも、その
特徴とする60℃〜80℃という温度では、ジグリセリドの
1,2 位から1,3 位への酵素的および非酵素的転移が速
く、カカオ脂に類似したグリセリドの2位にオレイン酸
を多く含有する対称型油脂の製造を目的とする場合に
は、よりエステル交換反応速度の速い固定化酵素の開発
が望まれる。
【0004】以上のようにエステル合成及び交換反応に
おいては反応系内の水分を確実にコントロールするか、
またはよりエステル合成及び交換活性の高い固定化酵素
の開発が望まれる。エステル交換反応についてみると、
水分コントロールについては先に述べた二段階反応(特
開昭60−203196号公報)においても行われているが、装
置的にも煩雑であること、また第1段の分解工程におい
て1,2 −ジグリセリドを選択的、高収率で得ることと、
更に第2段で1,2 −ジグリセリドから1,3 −ジグリセリ
ドへの転移をさせることなく、選択的にトリグリセリド
を合成することは難しく、特に温度が高くなるほどこの
転移の悪影響を抑える事は難しくなり、溶剤の使用等が
必要となる制約された条件に限られる。またエステル合
成反応についてみると、従来の方法ではほとんどの例が
リパーゼを水溶液として使用しており、分解と合成の平
衡関係が大きく分解にかたよっており、目的とするエス
テルの収量は低いものにとどまっている(特開昭51−77
54号公報、特開昭61−187795号公報)。しかし固定化酵
素によって反応を行えば、より低水分条件下においても
エステル合成が行われ、酵素の回収も容易であるが、こ
の場合においても通常の化学的方法と同等の反応速度を
得るためには、より高活性な固定化酵素の開発が望まれ
る。
【0005】リパーゼのエステル合成及びエステル交換
活性を増加させる方法として、特開昭60−251884号公報
に開示されたリパーゼに油脂を加え加水分解反応をさせ
ることにより、油脂と脂肪酸の共存下で固定化を行う方
法や、特開昭62−134090号公報に開示された脂肪酸誘導
体の共存下に乾燥する方法があるが、こうした方法によ
り得られた固定化リパーゼのエステル合成活性およびエ
ステル交換活性は前述の工業的実施にあたっては実質的
には未だ十分であるとは言えない。一方酵素固定化にお
ける、活性収率の面から見ると、特開昭52−87293 号公
報に開示されたイオン交換樹脂の有機金属誘導体を担体
としてリパーゼを固定化する方法や、特開昭53−27787
号公報に開示された多糖類の高級脂肪酸エステルを担体
としてリパーゼを固定化する方法、あるいはEur. J. Ap
pl. Microbiol. Bi-otechnol. に記載されたY.Kimura等
のイオン交換樹脂にリパーゼを単にイオン結合により固
定化する方法等の従来の方法ではいずれも低収率にとど
まり、他の挟雑物の共存下でリパーゼのみを選択的に固
定化することは極めて困難であると考えられていた。
【0006】
【課題を解決するための手段】そこで、本発明者らは脂
質分解酵素の分解活性のみならずエステル合成及びエス
テル交換活性を増大させる因子について鋭意研究を重ね
た結果、1種もしくは2種以上の油性化合物を、水溶性
有機溶剤中で、均一に吸着させた担体が、脂質分解酵素
の固定化担体として優れ、このような固定化担体を用い
て得られる固定化酵素はエステル合成及びエステル交換
活性が増大することを見出し、本発明を完成するに到っ
た。即ち、本発明は、1種もしくは2種以上の油性化合
物を、水溶性有機溶剤中で、予め担体表面積の吸着分布
において、変動係数C(C=σ/m、σ:標準偏差、
m:平均吸着量)が0.5 以下であり、吸着量が担体重量
の5〜30重量%となるように、担体に均一吸着させてな
ることを特徴とする脂質分解酵素の新規固定化担体を提
供するものである。
【0007】本発明に用いられる油性化合物としては、
脂肪酸、脂肪酸誘導体、アルコール類、エーテル類、カ
ルボニル化合物類及びハロゲン化アルキル類から選ばれ
た1種もしくは2種以上の油性化合物が挙げられる。
【0008】本発明の固定化担体を用いて脂質分解酵素
を固定化すると、本発明の担体に吸着されている油性化
合物が脂質分解酵素に接触結合し、著しく活性化できる
事がわかった。これは、前述した様に界面で働く脂質分
解酵素は、界面に配向した時に活性を発現する高次構造
をとり、この高活性な状態を作り出すのに必要な物質と
して油性化合物、即ち比較的炭素数の大きな脂肪酸、脂
肪酸誘導体、アルコール、エーテル、カルボニル化合
物、ハロゲン化アルキル等の様に分子内に親油基と官能
基を併せ持つ物質が非常に良好であることが分かった。
また、リパーゼ等の脂質分解酵素においては、当然のこ
とながら水と油脂の界面で働くため、水溶液で使用した
場合には、界面と水溶液中に酵素の分散する平衡が存在
すると考えられ、水溶液中の酵素を全て有効に使用でき
ない。しかし本発明の担体を用いて酵素を固定化するこ
とにより、酵素を不溶性担体表面上に並べることができ
れば、用いた酵素を効率良く利用する事が可能となる。
更に本発明の固定化担体のように、油性化合物を予め不
溶性担体上に吸着させておくことにより、酵素を含む培
養液など他の挟雑蛋白質や他の物質の中から酵素を短時
間かつ選択的に高収率で固定化できる。
【0009】すでに本出願人はこれらの知見を応用し
て、少量の水と油脂の共存下でリパーゼと不溶性担体を
接触させ、界面に配向させると同時に固定化を行うとい
う発明を完成し特許出願した(特開昭60−251884号公
報)。しかし、このような従来の方法、即ち、1種また
は2種以上の油性化合物を水系溶媒中で担体に予め吸着
させた場合、油性化合物は、その溶解度から全担体表面
と内部に不均一に吸着した。その場合の吸着分布を分散
度の指標となる変動係数C(C=σ/m、σ:標準偏
差、m:平均吸着量)から計算すると、0.75であった
が、本発明の担体のように水溶性有機溶剤中で吸着処理
した場合、変動係数は0.5 以下となり、油性化合物を全
担体表面と内部に均一に吸着させることが可能となっ
た。
【0010】図1に、担体重量の15重量%に当たる油性
化合物を水系溶媒中で担体に吸着させた場合と、本発明
のように水溶性有機溶剤中で担体重量の15重量%に当た
る油性化合物を担体に吸着させた場合について、それぞ
れ担体表面の吸着濃度分布について示した。これによ
り、水系溶媒中で行ったものは、油性化合物が全担体表
面と内部に不均一に吸着し、本発明のものは全担体表面
と内部に均一に吸着していることがわかる。
【0011】本発明の担体は、全担体表面と内部に油性
化合物が均一に吸着しており、更に担体表面に油性化合
物からなる一定の厚みの層を形成させることができるた
め、高活性な固定化酵素を製造することができる。更に
本発明の新規固定化担体の特徴としては、下記の使用例
に示すように、本発明の新規固定化担体にリパーゼを固
定化した固定化酵素によるエステル交換において、固定
化酵素の含水量が2重量%未満の低水分領域でも従来不
可能とされているエステル交換能が十分に発揮できるこ
とである。
【0012】以下、本発明を詳細に説明する。本発明の
固定化担体を製造する方法としては、水溶性有機溶剤中
に1種または2種以上の油性化合物を分散もしくは溶解
させた後、不溶性担体を加えて油性化合物を担体上に吸
着させた後、濾別、乾燥させる方法が挙げられる。ここ
で用いる油性化合物と不溶性担体の比率は、不溶性担体
1重量部に対し油性化合物0.05〜0.3 重量部が適当であ
り、更に好ましくは 0.1〜0.2 重量部が適当である。過
剰量の油性化合物は不溶性担体に吸着されず溶液中に遊
離して酵素を吸着するため、不溶性担体上への固定化収
率の低下を引き起こす事になるため有効ではない。適当
な吸着温度としては0〜60℃、好ましくは5〜30℃が適
当である。吸着時間としては5分〜2時間が適当であ
る。以上の温度・時間は何れもこれらに限定されるもの
ではない。本発明の固定化担体における油性化合物の吸
着量は担体重量の5〜30重量%であり、その場合、吸着
分布は変動係数C=0.5 以下とし、担体表面に油性化合
物からなる一定の厚みの層を形成させるよう均一吸着さ
せることが望ましい。油性化合物の吸着量が5重量%未
満であると、リパーゼ等の脂質分解酵素の高活性な構造
を維持するのに不十分であり、また高活性発現はできな
いばかりでなく失活しやすくなる。30重量%を越える
と、リパーゼ等の脂質分解酵素と固定化担体表面との接
触が不十分となり、脂質分解酵素の安定性が低下し、更
に脱離が起こる。また、変動係数Cが 0.5を越えると、
上記の吸着量が5重量%未満あるいは30重量%を越える
状態と同じ部分が担体表面にできることにより失活ある
いは脱離が生じる。
【0013】本発明に用いられる不溶性担体としては、
水およびアルコール、各種有機溶剤、油脂類に不溶性の
担体なら何れでも良く、セライト、ケイソウ土、カオリ
ナイト、モレキュラーシーブ、多孔質ガラス、活性炭、
炭酸カルシウム、セラミックス等の無機担体、及びセル
ロースパウダー、ポリビニルアルコール、キトサン、イ
オン交換樹脂、吸着樹脂、キレート樹脂等の有機高分子
等の様なリパーゼ活性に影響を与えず、操作上から物理
的・化学的に安定なものであれば何れも使用できる。ま
た担体の形状としては、粉末状、果粒状、繊維状、スポ
ンジ状等種々あるが、そのいずれでも使用できる。特に
工程操作上の面からは400 〜1000μm の粒径を有し、細
孔径 100〜1500Åの多孔性の担体を用いるのが好適であ
る。特にこの種の固定化担体として、マクロ多孔性の吸
着樹脂及びイオン交換樹脂、キレート樹脂があげられ
る。
【0014】本発明に用いられる水溶性有機溶剤として
は、好ましくはメタノール、エタノール、アセトン等が
挙げられる。水溶性有機溶剤の使用量は、不溶性担体1
重量部に対して5〜10重量部が適当であるがこれらに限
定されるものではない。
【0015】本発明に用いられる油性化合物としては、
脂肪酸、脂肪酸誘導体、アルコール類、エーテル類、カ
ルボニル化合物類及びハロゲン化アルキル類から選ばれ
たものが特に好ましい。本発明に用いられる脂肪酸とし
ては特に規定はないが、通常自然界に存在する炭素数4
〜24の直鎖状の飽和脂肪酸、例としてカプリル酸、ラウ
リン酸等の他、オレイン酸、リノール酸等の不飽和脂肪
酸、リシノール酸等のヒドロキシ脂肪酸、もしくはイソ
ステアリン酸等の化学的合成により得られた分岐脂肪酸
等が挙げられる。本発明に用いられる適当な脂肪酸誘導
体としては、モノグリセリド、ジグリセリド、及びその
誘導体、あるいはプロピレングリコール、ポリグリセリ
ン等の多価アルコール脂肪酸エステル、蔗糖脂肪酸エス
テル等の糖エステル、ソルビタン脂肪酸エステル等の糖
アルコールエステル、燐脂質等が挙げられる。またトリ
グリセリドそのものでも良い。
【0016】本発明に用いられるアルコール類としては
特に規定はないが、炭素数8〜24の直鎖脂肪族1価アル
コール、例としてはオクタノール、ラウリルアルコール
等の飽和アルコール、オレイルアルコール等の不飽和ア
ルコール、もしくは5−デカノール、イソステアリルア
ルコール等の分岐状のものでもよい。さらにヘキサメチ
レングリコール等の2価アルコールや多価アルコールも
有効である。このほかに、アルキル置換フェノール等の
フェノール化合物や、コレステロール、スチグマステロ
ール、ブラシカステロール、カンペステロール等のステ
ロール類が挙げられる。又、フィトール、ゲラニオー
ル、ファルネソール、リナロール等のテルペンアルコー
ル類、レチノール、トコフェロール等の脂溶性ビタミン
類も有効である。
【0017】本発明に用いられるエーテル類の例として
は、ジオクチルエーテル等の長鎖のエーテル類、チミル
アルコール、バチルアルコール等のグリセリルエーテル
類、またはグリシジルエーテル等のグリセリド類似化合
物、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、ポリ
エチレングリコール等のポリオキシ化合物、前記アルコ
ールのトリメチルシリルエーテル誘導体、ポリメチルシ
ロキサン等のシリコン化合物もよい。本発明に用いられ
るカルボニル化合物の例としては、2,4 −デカジエナー
ル、デカナール、ヘキサデカナール等の脂肪族アルデヒ
ド類、レチナール等のテルペン系アルデヒド類、2−オ
クタノン、2−デカノン、オクチルデシルケトン等の脂
肪族ケトン類等が挙げられる。本発明に用いられるハロ
ゲン化アルキルの例としては、オレイルクロライド、オ
クチルクロライド、オクチルブロマイドのような長鎖ア
ルキルハライド等が挙げられる。
【0018】上記の油性化合物はいずれも常温で液状で
あることが工程操作上好ましいがこれに限定されるもの
ではない。またこれらは単独で用いてもよいが、適当な
組み合せにより一層の効果が発揮される。本発明の担体
に固定化される脂質分解酵素としては、リパーゼ、ホス
ホリパーゼ、コレステロールエステラーゼ、スフィンゴ
ミエリナーゼ及び各種のエステラーゼが挙げられる。こ
れらのうちリパーゼとしては、位置選択性に優れたリゾ
プス(Rhizopus)属、アスペルギルス(Aspergillus)属、
ムコール(Mucour)属、脂肪酸特異性を有するジオトリケ
ム(Geotrichum)属、特異性を示さないキャンディダ(Can
dida) 属、シュードモナス (Pseudomonas) 属、ペニシ
リウム(Penicillium)属、クロモバクテリウム(Chromo
bacterium)属等の微生物起源のリパーゼ及びすい臓リパ
ーゼ等の動物リパーゼが挙げられる。これらのうち、特
に合成活性の増加し易いリパーゼとしては中鎖以上のア
ルキル基に活性位の強いリゾプス属、ムコール属、クロ
モバクテリウム属起源のリパーゼが一層好ましい。コレ
ステロールエステラーゼの例としては、キャンディダ(C
andida)属等の微生物起源の物が挙げられる。また、ホ
スホリパーゼの例としては、キャベツ、ピーナッツ、ニ
ンジン等の植物由来の物、及びストレプトマイセス属等
の微生物起源の物、苔類由来の物等が挙げられる。
【0019】本発明の担体を用いて固定化酵素を製造す
る方法としては、本発明の担体に酵素溶液を加えて接触
撹拌させる事により該担体上に脂質分解酵素を吸着固定
化し、次いで該溶液より不溶性担体を濾過しイオン交換
水または緩衝液により洗浄する方法が挙げられる。酵素
は予め水、緩衝溶液等の水性媒体に分散もしくは溶解し
て用いるか、或いは醗酵液より菌体を除去した濾液をそ
のまま用いることもできる。
【0020】不溶性担体上に固定化する酵素量として
は、不溶性担体1重量部に対し酵素0.001 〜1重量部
(乾燥重量)が適当であるが、これに限定されるもので
はない。適当な固定化温度としては0〜40℃、好ましく
は5〜30℃がよいがこれに限定されるものではない。適
当な接触時間としては5分〜5時間程度で良い。
【0021】こうして得られた固定化酵素は水分5重量
%以下に乾燥することが好ましい。このようにして得ら
れた固定化酵素を用いてカラム連続反応を行うには水分
1〜2重量%に乾燥することが好ましく、1〜1.5 重量
%に乾燥することが更に好ましい。乾燥温度としては室
温〜80℃が良く、減圧下での乾燥が乾燥速度の点から好
ましいが、これに限定されるものではない。乾燥速度は
酵素活性発現上は特に重要ではないが、工程操作上可能
な限り速いことが好ましい。
【0022】酵素は各種緩衝液等の水性媒体に分散もし
くは溶解して用いる。この場合に必要に応じて不溶分を
遠心分離または濾過等の操作により除去することも有効
である。酵素を分散もしくは溶解する溶液のpHは酵素の
変性が起きないような範囲であればよく、pH3〜9の範
囲が好ましい。緩衝液の種類は特に規定しないが、一般
的な酢酸緩衝液、リン酸緩衝液、トリス塩酸緩衝液等を
用いることができる。
【0023】本発明の担体に固定化した固定化酵素を用
いたエステル合成反応の例としては、通常のメタノー
ル、エタノール、プロパノール、オレイルアルコール等
の1価アルコール、ないしはプロピレングリコール、グ
リセリン、ソルビトール及びポリグリセリン等の多価ア
ルコール、またはゲラニオール、シトロネロール、メン
トール等のテルペンアルコール、あるいはコレステロー
ル等のステロールと炭素数2〜24の脂肪酸とのエステル
化反応が挙げられる。
【0024】また本発明の担体に固定化した固定化酵素
を用いたエステル交換反応の例としては、大豆油、オリ
ーブ油、パーム油等の植物油脂、牛脂、豚脂、魚油など
の動物油脂のエステル交換反応が挙げられる。これらの
油脂は単独で用いてもよいが、2種以上の油脂を用いる
か、油脂と高級脂肪酸あるいは油脂と高級脂肪酸の低級
アルコールエステル間でエステル交換する事が好まし
い。特定の油脂と他の油脂、脂肪酸もしくはその誘導体
間でエステル交換する場合、両者の量比は特定の油脂1
重量部に対し他の物質は0.05〜20重量部、好ましくは0.
1 〜10重量部でないと油脂の改質効果は得られにくい。
特に好ましくは、パーム油等の2位にオレイン酸残基を
多く有する油脂とステアリン酸とのエステル交換であ
る。この反応においてはステアリン酸の融点が高く、油
脂の粘度が高いため、カラム反応で連続エステル交換反
応を無溶剤で行なうためには、反応系の温度を60〜90℃
に保つ必要がある。本発明の担体を用いた固定化酵素は
この目的に好適であり、また得られる油脂はチョコレー
ト用として有用なものである。
【0025】
【実施例】以下、本発明について実施例、比較例をもっ
て詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定さ
れるものではない。
【0026】実施例1 市販の弱アニオン交換樹脂〔フェノールホルムアルデヒ
ド系樹脂、商品名:デュオライト(Duolite)A-568、デュ
オライト・インターナショナル社製〕50gを0.1 N NaO
H 500ml に加え、水洗後、pH5、500mM ,50mMの酢酸緩
衝液で緩衝化を行う。濾別乾燥後10%オレイン酸(試
薬、東京化成(株)製)エタノール溶液500 mlを加えて
30分攪拌した。濾別乾燥して担体を得た。得られた担体
のオレイン酸吸着量は15重量%であり、変動係数C=0.
25であった。得られた担体に、市販のリパーゼ〔リゾプ
ス・ジャポニカス起源のリパーゼ製剤、商品名:リリパ
ーゼA−10、ナガセ生化学工業社製〕を50mMのpH5、酢
酸緩衝液に予め10%濃度で溶解させたリパーゼ溶液を50
0 ml加え2時間攪拌し、固定化を行った。次に樹脂を濾
別後、pH5、50mM酢酸緩衝液で1時間洗浄後、樹脂を濾
別し水分量2%になるよう常温にて減圧乾燥した。濾液
中のリパーゼ活性より求めた活性収率は96%となり、加
えたリパーゼのほとんどが固定化されていることがわか
った。
【0027】比較例1 実施例1の10%オレイン酸エタノール溶液に代えてpH
5、50mM酢酸緩衝液に分散させたオレイン酸溶液を使用
する以外は実施例1と同様の方法で担体を得た。得られ
た担体のオレイン酸吸着量は15重量%であり、変動係数
C=0.75であった。得られた担体を用い実施例1と同様
にして固定化リパーゼを得た。濾液中のリパーゼ活性よ
り求めた活性収率は96%となり、加えたリパーゼのほと
んどが固定化されていることがわかった。
【0028】実施例2 実施例1において、濾別分離した固定化リパーゼの水分
含量を1.5 %になるように乾燥する以外は実施例1と同
様の方法で行い、低含水量の固定化リパーゼを得た。
【0029】比較例2 比較例1において、オレイン酸溶液による処理をせず、
濾別分離した固定化リパーゼの水分含量を5.3 %になる
ように乾燥する以外は比較例1と同様の方法で行い、固
定化リパーゼを得た。
【0030】使用例 流通管型の連続反応装置を用いてエステル交換反応を行
った。実施例1〜2及び比較例1〜2で得られた固定化
酵素を酵素塔に38g充填し、パーム油中融点部(ヨウ素
価32.5、ジグリセリド含量4.6 %)1重量部に対して1.
5 重量部の割合で市販のステアリン酸(商品名:ルナッ
クS−90、ステアリン酸純度93%、花王株式会社製)を
混合溶解した原料を、水分含量を0.10〜0.11%に調整し
た後、酵素塔に通液させた(70℃)。反応物のGLC によ
るトリグリセリド組成、ステアリン酸取り込み率から反
応速度定数(Kst) を求めた。酵素の活性により酵素塔
内の滞留時間を0.23〜1.3 時間の範囲で流量を操作しエ
ステル交換活性を測定した。結果を表1に示す。
【0031】
【表1】
【0032】
【発明の効果】本発明の担体は、油性化合物を担体表面
及び内部に均一に吸着し、更に担体表面に油性化合物か
らなる一定の厚みの層を形成させているため、高活性な
固定化酵素を製造でき、リパーゼ等の脂質分解酵素の持
つ合成活性を十分に発揮させることができる。更に従来
困難と考えられていた固定化酵素含水量2%未満でも十
分なエステル交換能を発揮できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】担体重量の15重量%に当たる油性化合物を水系
溶媒中で担体に吸着させた場合と、本発明のように水溶
性有機溶剤中で担体重量の15重量%に当たる油性化合物
を担体に吸着させた場合について、それぞれ担体表面の
吸着濃度分布を示す図である。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (72)発明者 野村 誠治 茨城県香取郡小見川町小見川1569−3

Claims (2)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 1種もしくは2種以上の油性化合物を、
    水溶性有機溶剤中で、予め担体表面積の吸着分布におい
    て、変動係数C(C=σ/m、σ:標準偏差、m:平均
    吸着量)が0.5 以下であり、吸着量が担体重量の5〜30
    重量%となるように、担体に均一吸着させてなることを
    特徴とする脂質分解酵素の新規固定化担体。
  2. 【請求項2】 油性化合物が、脂肪酸、脂肪酸誘導体、
    アルコール類、エーテル類、カルボニル化合物類及びハ
    ロゲン化アルキル類から選ばれたものである請求項1記
    載の新規固定化担体。
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