JP2670866B2 - 筒体内周回溝焼入れ装置 - Google Patents

筒体内周回溝焼入れ装置

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Description

【発明の詳細な説明】 (産業上の利用分野) 本発明は例えば中型ベアリングの外輪等として使用さ
れている如き筒体のトラツク,即ち内壁に形成されてい
る周回溝を誘導加熱手段を用いて一発焼入れする装置に
関する。
(従来の技術と問題点) 大型ベアリングの外輪等の内周溝焼入れでは、周知の
如く,当該内周溝の所定位置に小さい1ターンの加熱コ
イルを挿入し、溝内を相対移動で1周して加熱しつつ,
加熱コイルに追随する冷却ジヤケツトで被加熱部を順次
急冷する移動焼入れ手法が用いられている。
ところが、中型の筒体内壁に形成された周回溝は溝の
断面積が小さいため、上記手法を用いようとしても加熱
コイルの作成が困難なために適用不可能である。
他方、誘導加熱手段を用いた一発焼入れ手法を採ろう
としても以下に述べる不具合が生ずるため、これまで実
施されなかつた。
即ち、第6図(a)に示す如く,誘導加熱コイルCを
筒体W内に挿入する必要上,コイルCの直径を筒体Wの
内径よりも小にしなければならないことに起因して、周
回溝Gの縁部のみが二重斜線hで表されるように急速に
昇温・加熱され、従つて急冷・焼入れしても、肝要な底
部が焼入れされない。また、例えば加熱時間を長くする
等の処置によつて,強いて底部表層所定焼入れ温度まで
加熱されるようにしたとしても、周回溝Gの縁部がオー
バヒート状態となるとともに、底部の後背部分は加熱温
度がなだらかに低下する状態となる。それ故、急冷・焼
入れしても、第6図(b)に示す如く,周回溝Gの縁部
はHとして示されるように過剰焼入れとなつて焼き割れ
の虞を孕み、また底部には薄い硬化層しか形成し得ない
ばかりか,硬さの低下が著しい焼入れ遷移域tが点描示
するような巾広い範囲に亙つて生ずるので、信頼性,耐
久性を確保し難い。
上述の理由から、この種の中型筒体内周回溝は処理時
間が長い浸炭や、歪が大きく発現するため,後工程とし
て手間のかかる矯正工程を必須とする全体炉加熱焼入れ
等によらざるを得ないのが現況であつた。
(発明の目的) 本発明はこれまで実施されなかつた筒体内周回溝の誘
導加熱手段による一発焼入れを実現化するためになされ
たもので、溝の縁部にオーバヒートを生じさせず,充分
厚い焼入れ硬化層を確保するとともに,焼入れ遷移域を
極めて小巾に抑えることが可能な筒体内周回溝焼入れ装
置を提供することを目的とする。
(発明の構成) 本発明の要旨は、 (1)筒体を軸回転せしめつつ、その内壁に形成されて
いる周回溝の表面を焼入れする装置が、 (2)当該筒体内周半径より所定大とした半径の円弧を
180°よりも小さい所定角度範囲で描く,断面形状が溝
の断面より小に形成された円弧状加熱導体部と当該加熱
導体部の両端間を短絡する連結部とからなる誘導加熱コ
イル、 (3)および上記加熱導体部が描く円弧の中心軸延長線
上に所定間隔を隔てて同軸的に固定配置され、外径が筒
体内径より充分小なる冷却ジヤケツトを備え、 (4)加熱導体部および冷却ジヤケツトに共通する軸線
が筒体の軸線との相対的関係において所定寸法だけ横方
向へ平行移動,かつ軸方向移動可能とするとともに、 (5)上記冷却ジヤケツトが加熱導体部外周を含む円周
の全方向へ冷却流体を斜め噴射可能に構成されている ことを特徴とする筒体内周回溝焼入れ装置にある。
而して、上記装置の誘導加熱コイルにおける加熱導体
部が描く円弧の角度が120°に、また連結部の太さ寸法
を加熱導体部のそれよりも大に、さらに加熱導体部に磁
束を溝底方向へ集中する磁性材を付加することが好まし
い。
(発明の作用) 本発明焼入れ装置は中型筒体内への挿入・排出が容易
であるにも拘わらず、軸回転中の筒体内周回溝の可及的
大なる角度範囲にわたつて加熱導体部を溝内に位置させ
ることが可能、かつ溝の全周方向へ冷却流体を噴射し,
加熱導体部が対向する溝表面へも間隙を介して流入せし
め得るので、溝の全周表層を短時間で強力に所定焼入れ
温度まで均等加熱する作用、および被加熱部を一挙に急
冷する作用がある。
(実施例) 本発明を第1図(a)および(b)に示す1実施例に
従つて以下に詳述する。
第1図の(a)は正面断面図,(b)は(a)におけ
るX−X線視した平面図で、それぞれ筒体W内に本発明
実施例焼入れ装置10を挿入して周回溝G(以下単に溝と
云う)に対し位置決めした状態を示し、当該焼入れ装置
10は誘導加熱コイル1(以下単にコイルと云う)および
冷却ジヤケツト2を備えている。
上記コイル1は1aおよび1bとして示す太さの異なる2
部分で1ターンを形成し、リードR,Rを介して図示しな
い電源側給電端子に接続されている。上記1aは加熱導体
部であり、円弧を描く如く形成され、太さ寸法は溝Gの
断面よりも小であり、その円弧は筒体Wの内周半径rwよ
りも所定だけ大の半径rcであり、180°よりも小さい範
囲で所定角度θに相当する弧長である。而して上記半径
rcとした円弧を描く加熱導体部1aは図示の如く筒体W内
で溝Gがある位置においてのみ,その中心軸線Oを筒体
Wの軸線Owに一致させ得,かつ当該状態で溝G表面と所
定間隔を隔てて対向可能な如く諸元が設定されている。
上記1bは加熱導体部1aの両端を短絡する連結部である。
当該連結部1bは少なくとも加熱導体部1aが描く円弧の残
余の弧長より充分に短尺であり、後述する冷却ジヤケツ
ト2へ冷却液を供給するパイプPの邪魔にならない形状
であればよく、その太さ寸法は加熱導体部1aのそれより
大とすることが望ましい。連結部1bにはリードR,Rが接
続されている。尚、実施例のコイル1は管材であり、そ
の管内には自己冷却用の流体が流通している。
上記冷却ジヤケツト2はコイル1における加熱導体部
1aの中心軸線Oの延長線上に所定間隔を隔てて同軸的に
配置される。本実施例の場合はコイル1の下方配置とさ
れ、外径が筒体Wの内周径よりも充分小とした台形の中
空函体である。上面周縁の斜面21にはsとして示す複数
の小孔が孔設されており、冷却流体供給用のパイプPを
介して函体内に供給される冷却流体を図示の如く加熱導
体部1aの外周を含む円の全周方向へ向かつて斜め上方噴
射可能に構成されている。
而して、コイル1および冷却ジヤケツト2は4として
示す支持部材にそれぞれリードR,RおよびパイプPを介
して固定され、焼入れ装置10として一体化されている。
従つて、例えば焼入れ装置10を矢印abに従う上下方
向変位可能構成とするとともに、矢印cdに従う所定
寸法だけ横方向への移動可能構成とする。従つて、焼入
れ定位置である回転台上に端面を上下方向として軸回転
可能に載置された筒体Wの軸線Owに対し、焼入れ装置10
の軸線を筒体Wの軸線Owから所定寸法だけ離れてそれに
平行するO′位置,即ち矢印c側で矢印abに従つて
変位させれば、筒体W内への挿入・排出が可能である。
また、b位置の筒体W内溝に対応する深さに挿入された
状態下で矢印c側からd側へ所定寸法だけ横方向移動さ
せれば、当該焼入れ装置10の軸線O′位置からO位置へ
至らしめ、筒体Wの軸線Owに一致させることが可能であ
り、この状態において加熱導体部1aは溝G内で所定周範
囲と所定間隙を隔てて対向し、かつ冷却ジヤケツト2の
噴射孔sから噴射される冷却流体の指向先が溝全周とな
るので、筒体Wを軸回転せしめつつ,加熱および急冷可
能である。
ところで、上記構成とした焼入れ装置10では、加熱作
用のみを採り上げれば、加熱導体部1aを可及的に長い円
弧を描いて溝内に位置せしめることが望ましい。然し乍
ら、被加熱部を加熱終了後直ちに短時間かつ充分に急冷
することが表面に厚い硬化層を形成可能,かつ焼入れ遷
移域を狭くする要因であるので、当該急冷作用との兼ね
合いを考慮して,実施例では円弧の角度θを120°とし
て残余角度を空けた設定である。即ち,冷却作用の強化
には限界があるのに対し、加熱作用の強化は電源出力を
大とする等の措置で可能である。そこで、本発明は加熱
導体部1aの円弧を上記の如く設定するとともに、冷却ジ
ヤケツト2を加熱導体部1aから所定離した位置とするこ
とで冷却流体を回転中の筒体Wの溝全周方向へ斜め噴射
させ、加熱導体部1aが溝に対向する位置でも間隙から流
れ込んで溝表面に達するように配慮した構成である。換
言すれば、加熱作用の強化は加熱導体1aを溝内120°範
囲に位置させることで達成されており、さらに上記冷却
ジヤケツト2の構成で冷却作用を最大限に強化する意図
である。
また、コイル1の加熱導体部1aと連結部1bとを同一太
さ寸法に設定してもよいが、連結部1bを加熱導体部1aよ
り大きな太さ寸法とするほうが好ましい。その理由は、
加熱導体部1aを溝G内に位置させるためには当然溝Gの
断面寸法に対応した太さとするのは必定であるが、連結
部1bを太く設定することにより、通電電流密度を加熱導
体部1aで密,加熱に直接関係しない連結部1bで疎とし、
これに伴い発生する磁束の密度を加熱導体部1a側で密に
して強力な加熱作用を発揮させ、その反面連結部1b側で
疎として周囲への影響をなくすにある。
さらに、加熱導体部1aには第1図(a)に3として示
す,例えば積層磁性鋼板等からなる,磁性材を円弧の内
側に付加し、発生する磁束を可及的に溝Gの縁部へ向か
わせず,底方向へ集中させる構成とすることが好まし
い。
(実験例) 本発明にかかる実施例焼入れ装置を用いた筒体内周回
溝焼入れの実験例を以下に開示する。
☆実験方法:供試体の溝を焼入れし、焼入れされた溝部
を後記確性試験に付し、仕上がりが予め設定した目標値
を満足するや否やを調べた。
供試体の形状,寸法、焼入れ装置,焼入れ条件等は下
記のとおりであつた。尚、設定目標値は後述確性試験結
果との対比において第3表に掲示する。
○供試体:材質 SNCM 8相当材 形状 筒体で内周に周回溝あり 寸法 外径;φ136mm 内径;φ109mm 肉厚;13.5mm 溝の深さ;5mm ただし、涙滴半截型断面 ○焼入れ装置:第1図に示す実施例装置を使用した。た
だし加熱導体部は、 円弧の角度θ;120° 断面形状;半円の管(管内は冷却水通路) 磁性体;積層珪素鋼板の付加あり 加熱時の溝との間隙;1mm ○焼入れ条件: 加熱……電源:周波数 100KHz 出力 120Kw 加熱時間:10sec 焼入れ……冷却流体;高分子可溶性冷却剤の3.5%水 溶液 流量;85l/min ☆確性試験:上記諸元,条件に従つて焼入れされた溝部
を下記の試験に付した。
○硬さ測定試験:供試体の溝を第2図に矢線AおよびB
に従つて硬さを測定した。測定は焼入れ後および電気炉
焼戻後の試験片について実施され、測定値(HV)を矢線
A部は第1表,矢線B部は第2表に示す。また、第3図
および第4図は縦軸に硬さ,横軸に溝表面からの距離を
とつた図表上に第1表および第2表の測定値をそれぞれ
プロツトした線図であり、図上の○は焼入れ後,●は焼
戻後の測定値である。
目標値硬さHRc;56が矢線A部を示す第3図では表面か
ら3.5mm深さまで,また矢線B部を示す第4図では表面
から3.1mm深さまで続いており、また当該深さから硬さ
が素材硬さ以下まで急速に低下したうえ,素材硬さまで
回復する焼入れ遷移域の巾は矢線A部が1.45mm,矢線B
部が1.95mmであることが確認された。
○結晶粒度測定試験:第5図にイ〜ニとして示す位置か
ら作成した試験片について結晶粒度を測定した。その結
果を各位置に括弧書きした。結晶粒度はNo.8〜No.9であ
ることが確認された。
☆綜合判定:以上の確性試験結果をまとめて第3表に焼
入れ仕上がり目標値と対比して示す。
同表から、確性試験結果は各目標値を充分にクリアし
ており、本発明実施例焼入れ装置が溝部に深い焼入れ硬
化層を形成するとともに、焼入れ遷移域巾を狭小とする
のに有効であることが証明された。
(他の実施例) 上記実施例焼入れ装置では、冷却ジヤケツト2として
台形ブロクツ状のものを用いたが、例えば環状体であつ
てもよく、冷却流体を溝Gの全周方向へ斜め噴射可能で
あればその形状を問うものではない。
また、実施例では焼入れ装置を上下変位および横移動
する構成とした例を挙げて説明したが、例えば回転台側
を上下変位および横移動する構成としても何等支障はな
く、実施例同様の作用・効果を齎す。
尚、実施例は筒体Wの上方端面側から焼入れ装置を下
方変位させて筒体W内に挿入するようにしているが、回
転台をリング状とするとともに、実施例とは逆にコイル
1を下方,冷却ジヤケツト2とを上方配置とした焼入れ
装置を用い、当該焼入れ装置が回転台のリングを貫通し
て相対的上下変位および横移動可能な構成としてもよ
い。当該構成とすれば、両端面が開の筒体Wは勿論のこ
と、一方端面が閉である筒体の周回溝も回転台上に閉端
面を上として載置すれば焼入れ可能である。
(発明の効果) 本発明焼入れ装置は筒体内周回溝を誘導加熱手段を用
いた一発焼入れ手法により縁部にオーバヒートを生じさ
せることなく,かつ溝底の後背部分に巾広い焼入れ遷移
域を生じさせることなく、充分厚い焼入れ硬化層を形成
可能である。従つて、本発明焼入れ装置の実施は従来の
浸炭処理と比べると飛躍的に生産性を向上させ、また全
体炉加熱による熱処理に比べると靱性に富む素地を充分
に確保しつつ,所望高品質焼入れ仕上がりが得られ、か
つ矯正工程を不要とするるので、甚大な効果を齎すとし
れ賞用される。
【図面の簡単な説明】
第1図(a)および(b)は本発明一実施例焼入れ装置
の正面断面図および(a)におけるX−X線視平面図、
第2図は確性試験における溝部の硬さ測定位置を示す断
面図、第3図および第4図それぞれは硬さ測定試験結果
を示す線図、第5図は確性試験における結晶粒度測定試
験位置と結果を示す断面図、第6図(a)および(b)
それぞれは従来一発焼入れ手法が実施されなかつた理由
を説明する溝部の断面正面図である。 図において、W;筒体、G;周回溝、10;焼入れ装置、1;誘
導加熱コイル、1a;加熱導体部、1b;連結部、2;冷却ジヤ
ケツト、3;磁性材、rw;筒体の内周半径、rc;加熱導体部
の円弧半径、Ow;筒体の軸線、O,O′;加熱導体部,冷却
ジヤケツトに共通する軸線、θ;加熱導体部の円弧の角
度である。

Claims (4)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】筒体を軸回転せしめつつ,その内壁に形成
    されている周回溝の表面を焼入れする装置が、当該筒体
    内周半径より所定大とした半径の円弧を180°よりも小
    さい所定角度範囲で描く,断面形状が溝の断面より小に
    形成された円弧状加熱導体部と当該加熱導体部の両端間
    を短絡する連結部とからなる誘導加熱コイル、および上
    記加熱導体部が描く円弧の中心軸延長線上に所定間隔を
    隔てて同軸的に固定配置され,外径が筒体内径より充分
    小なる冷却ジヤケツトを備え、加熱導体部および冷却ジ
    ヤケツトに共通する軸線が筒体の軸線との相対的関係に
    おいて所定寸法だけ横方向へ平行移動,かつ軸方向移動
    可能とするとともに、上記冷却ジヤケツトが加熱導体部
    外周を含む円周の全方向へ冷却流体を斜め噴射可能に構
    成されていることを特徴とする筒体内周回溝焼入れ装
    置。
  2. 【請求項2】加熱導体部の描く円弧の角度が120°であ
    る請求項1記載の筒体内周回溝焼入れ装置。
  3. 【請求項3】加熱コイルにおける連結部の太さ寸法を加
    熱導体部のそれより大に設定した請求項1記載の筒体内
    周回溝焼入れ装置。
  4. 【請求項4】加熱導体部に磁束を溝底方向へ向かわせる
    磁性材が付加されている請求項1記載の筒体内周回溝焼
    入れ装置。
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