JP2618933B2 - 熱処理用鋼板 - Google Patents

熱処理用鋼板

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JP2618933B2
JP2618933B2 JP62289390A JP28939087A JP2618933B2 JP 2618933 B2 JP2618933 B2 JP 2618933B2 JP 62289390 A JP62289390 A JP 62289390A JP 28939087 A JP28939087 A JP 28939087A JP 2618933 B2 JP2618933 B2 JP 2618933B2
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Description

【発明の詳細な説明】 (産業上の利用分野) この発明は、低炭素鋼板並みの良好な加工性のもと
に、高炭素鋼板並みの焼入性を具備ししかも焼入−焼戻
し処理後の靭性にも優れる何処理用鋼板を提案しようと
するものである。
一般に、焼入れ−焼戻し処理等の熱処理工程を経た上
で使用される炭素鋼材は、炭素を少なくとも約0.3wt%
(以下単に%で示す)以上含有し、高炭素鋼と呼ばれる
が、このような高炭素鋼は硬度が高く、強度および耐摩
耗性に優れているので刃物、ばね、その他の各種機械部
品の分野にて広く使用さている。
このような用途分野において熱処理用鋼板はその熱処
理に先立って切削、打抜き、孔明け、曲げなどの各種加
工を受けるが、焼入性の高い鋼ほど高強度であって上記
のような加工が困難である。これを補うために、予め球
状化焼鈍などの軟質化処理を施すのが一般的であるにし
ても、このような処理で得られる球状化セメンタイト組
織での軟質化の程度には限界があり、到底低炭素鋼並み
の加工性を得ることは難しい。
つまり熱処理用の高炭素鋼においては通常、焼入性の
観点から材料の成分が決定されるため、難加工性となら
ざるを得ず、在来の考え方の下で、高炭素鋼につき低炭
素鋼並みの良加工性を期待するといったようなことは到
底無理な注文と言わざるを得なかった。
このようにして高炭素鋼を用いる場合、たとえば複雑
な形状の加工ができないと言った制約、また成形方法
や、成形用機械などの問題、さらには上記のような加工
工数および時間の増大など、製造コストの問題が生じて
いたわけである。
高炭素鋼における上記難点を解決する他の手段とし
て、複雑な成形加工を必要とする部品においては使用材
料として加工性の良好な低炭素鋼を用いて所定形状まで
の加工を施し、その後焼入性を確保するために浸炭ない
しはさらに浸窒処理などを施す方法もとられていはいる
が、このような浸炭、浸窒処理を行う方法の場合には当
然ながら工数の増加を伴い、経済的に不利益を来すこと
はいうまでもない。
(従来の技術) 特開昭60−52551号公報においては、炭素鋼材の加工
性を、格別に面倒な工程や装置を要することなくかつ必
要な強度を確保しつつ一段と向上させるために、鋼中P
及びSの含有量をP(%)×S(%)≦10×10-6のごの
く極力少なくすることによりグラファイト相の形成を導
いて、フェライト相とグラファイト相とを主体とした組
織にすることの有用性が提唱されている。
この場合熱処理用鋼としての使途に適合すべきC0.3%
以上のいわゆる高炭素鋼領域においては引張り強さがほ
ぼ60kgf/mm2から、86kgf/mm2にも及んでいるため、加工
性改善の効果はなお十分でない。
このほかフェライトとグラファイトを主体とする組織
とした場合に加工性が改善されることについては、特開
昭60−128245号公報にも開示されている。しかしこの事
例は焼入処理に供する分野の材料を対象としたものでな
くして、組織中のグラファイト相の持つ制振性を専ら利
用する構造用材料に限られたものであって、制振性の観
点から言うと組織中に存在するグラファイト相の粒子径
は大きい程良好となるので、むしろ粗大グラファイト粒
をもつ組織を目指しているのに反し熱処理用鋼にあって
は、このような粗大グラファイト粒をもつ組織は次の理
由によって適合しない。
一般に鋼をオーステナイト化温度まで加熱した時、鋼
中のCのオーステナイト相への溶け込みやすさは、Cが
セメンタイトの状態になっている場合に比べて、グラフ
ァイトの状態になっている方が劣り、ことにこの傾向は
グラファイト粒が粗大であればある程強くなるからであ
る。このように、オーステナイトへのCの溶解性が劣る
場合には、オーステナイト化後の焼入の際に所定の焼入
硬度を得られなくなるので、熱処理用鋼として使用でき
ないわけである。
(発明が解決しようとする問題点) 熱処理用鋼における以上の諸問題点に鑑み、切削、打
抜き、孔明け及び曲げなどの場合には低炭素鋼並みに軟
質であって、良好な加工性を有しているだけでなく、浸
炭、浸窒など手間のかさむ処理を施すことなくして、焼
入−焼戻処理を行う場合には通常の高炭素鋼並みの熱処
理性能を併せて具備する熱処理用鋼板を提供することが
この発明の目的である。
(問題点を解決するための手段) 上記の目的は次の事項を骨子とする構成によって有利
に実現される。
C :0.30〜1.20% Si:0.30〜2.00% Mn:0.05〜1.50% Al:0.001〜0.100% N :0.0060%以下 P :0.020%以下 S :0.015%以下及び Ca:0.0010〜0.0200%ただしCa/s1〜10、 を含み残部Feおよび不可避的不純物の組成になり、フェ
ライト相と直径が10μm以下の微細グラファイト粒を主
体とする組織を有し、引張り強さ50kgf/mm2以下であっ
て、加工性と焼入性に優れ、かつ焼入−焼戻し処理後の
靭性にも優れることを特徴とする熱処理用鋼板(第1発
明)。
C :0.30〜1.20%、 Si:0.30〜2.00%、 Mn:0.05〜1.50%、 Al:0.001〜0.100% N :0.0060%以下、 P :0.020%以下、 S :0.015%以下及び Ca:0.0010〜0.0200wt%ただしCa/s1〜10、 B :0.0005〜0.0500%、 を含み残部Feおよび不可避的不純物の組成になり、フェ
ライト相と直径が10μm以下の微細グラファイト粒を主
体とする組織を有し、引張り強さ50kgf/mm2以下であっ
て、加工性と焼入性に優れ、かつ焼入−焼戻し処理後の
靭性にも優れることを特徴とする熱処理用鋼板(第2発
明)。
C :0.30〜1.20%、 Si:0.30〜2.00%、 Mn:0.05〜1.50%、 Al:0.001〜0.100% N :0.0060%以下、 P :0.020%以下、 S :0.015%以下、 Ca:0.0010〜0.0200wt%ただしCa/s1〜10、 を含みかつ Cr,Mo及びNiよりなる群のうちから選んだ1種又は2種
以上:0.20〜1.0wt% を含有して残部Feおよび不可避的不純物の組成になり、
フェライト相と直径が10μm以下の微細グラファイト粒
を主体とする組織を有し、引張り強さ50kgf/mm2以下で
あって、加工性と焼入性に優れ、かつ焼入−焼戻し処理
後の靭性にも優れることを特徴とする熱処理用鋼板(第
3発明)。
C :0.30〜1.20% Si:0.30〜2.00% Mn:0.05〜1.50% Al:0.001〜0.100% N :0.0060%以下 P :0.020%以下 S :0.015%以下 Ca:0.0010〜0.0200wt%ただしCa/s1〜10、 B:0.0005〜0.0500% を含みかつ、 Cr,Mo及びNiよりなる群のうちから選んだ1種又は2種
以上:0.20〜1.0wt% を含有して残部Feおよび不可避的不純物の組成になり、
フェライト相と直径が10μm以下の微細グラファイト粒
を主体とする組織を有し、引張り強さ50kgf/mm2以下で
あって、加工性と焼入性に優れ、かつ焼入−焼戻し処理
後の靭性にも優れることを特徴とする熱処理用鋼板(第
4発明)。
第1〜4各発明は素材の材質特性として加工に際して
は低炭素鋼並みの軟質で良好な加工性をもたらし、しか
も熱処理に際しては通常の高炭素鋼並みに良好な焼入性
を有し、熱処理後の材料の靭性耐摩耗性および強度特性
に優れた鋼板であって、このような材質特性を達成する
ために鋼のミクロ組織を、フェライト相中に微細グラフ
ァイト相が均一に分散した組織(以下フェライト・グラ
ファイト組織と呼ぶ)に調整するのであり、そしてこの
ようなミクロ組織を得るために鋼の化学成分の調整と、
必要によっては熱間圧延時の圧延条件の調整に加えてそ
の後の焼鈍条件の調整を行うのである。
上に列記した何れの熱処理用鋼板も、所定の熱間圧延
を行った上で、ミクロ組織をフェライト・グラファイト
組織とする焼鈍処理を経た熱延板の形で得ることができ
るほか、またこのような熱延板を素材として圧延温度範
囲500℃以下の条件で温間ないしは冷間の圧延を施した
上で、やはり上記の焼鈍処理を加えた冷延板の形でも得
ることができ、このときとくに冷間圧延の際の加工性に
優れることから冷間圧延操業上の負荷が軽減され有利で
あるが、上記の熱間圧延を経て直接、通例どおりの工程
で温間ないし冷間の圧延に供し、これに焼鈍処理を施し
冷延板としてもよい。
熱間圧延はとくに熱延過程でγ粒をできるだけ微細化
し得る条件とすることにより、γ粒の再結晶微細化を進
めておくことが微細グラファイトの均一分散のためによ
りのぞましい。
温間ないし冷間圧延は20%以上の圧下率で所定板厚に
仕上げる。
焼鈍処理条件は、500℃〜750℃より望ましくは650℃
〜A1変態点間で1〜200hr保持で適合する。
(作 用) 上記の各発明で数値限定した理由について以下に詳述
する。
Cは、焼入性を確保する上で不可欠の元素であり、上
掲した熱処理用鋼板を使用して製造した各種製品の耐摩
耗性あるいは硬度、強度特性などの要請から0.30%以上
必要である。1.20%を上限とする理由は、これをこえる
C量で焼入性は飽和するばかりでなく、焼入前のオース
テナイト化時に不溶解のセメンタイト、あるいはグラフ
ァイト相の量が増加し、焼入処理後の耐衝撃特性の劣化
をもたらすからである。
Siは、次の二つの理由によりやはり不可欠の元素であ
る。
先ず第一には固溶硬化によって鋼素地を強化し、焼入
処理後においてCによる焼入硬化だけでは達成できない
範囲の高強度を得やすくし、これによって耐摩耗性の向
上、高硬度化を図ることができるためである。
第二には、良好な微細グラフェイト組織を得るためで
ある。すなわち、上記したように高炭素鋼の熱延ままの
ミクロ組織は、フェライトとパーライト、又はこれらに
ベイナイトを含む組織であって通常、非常に高強度であ
るため、成形加工性が著しく悪い。これを改善するため
には焼鈍によってミクロ組織を所期のフェライト・グラ
ファイト組織に変えるわけであるが、Siはこの焼鈍の
際、セメンタイトをグラファイト粒に変化し易くするよ
うに作用して、焼鈍後にフェライト・グラファイト組織
を得られ易くし、これによる軟質化と加工性の改善に寄
与する。なおSiはさらに焼入前の加熱に際してこんどは
グラファイト粒のオーステナイトへの溶解性改善を通し
て焼入性を向上するのにも役立つ。
ここにSiがセメンタイトのグラファイトへの変換を助
長する機構は次の通りである。
Siは非炭化物生成元素であるから平衡的にはセメンタ
イトには溶解し難いが、非平衡的に溶解した状態の場合
には、セメンタイトを非常に不安定化する。熱延後のAr
1変態によるセメンタイトの生成速度は非常に速いので
生成したセメンタイトの組成は変態前の母相の組成比を
濃厚に引き継ぎ、そのため平衡溶解度以上の過剰なSiを
含有することになる。母材のSi含有量が多いもの程、セ
メンタイト中における過剰Si量も増加するから、セメン
タイトの不安定化度合が増大して、グラファイトへの変
換が容易になるのである。
以上述べた二つの硬化を有利に得るためにはSiは0.3
〜2.0%とすることが必要であり、2.0%以下に限定する
理由は製造コストの観点、すなわち2.0%を超えて添加
しても固溶硬化に関係した耐摩耗性の改善についても、
また焼鈍時のグラファイト化促進作用に関しても飽和
し、製造コストが増加するのみだからである。Mnは焼入
性を向上させる元素であり、とくに焼入処理工程での臨
界冷却速度を下げる効果が大きいので、Mnを増量した場
合、焼入歪防止等の観点から焼入時の冷却速度を遅くす
ることが可能となり、この観点からは有効な元素である
とも云えるが、一方においてMnは、セメンタイト中に溶
解し易く、その量が多くなるとセメンタイトを著しく安
定化して、グラファイト化を阻害し、1.5%を超えると
このような悪影響が著しく大きくなって、焼鈍時のグラ
ファイト化が遅滞し、所望のフェライト・グラファイト
組織が得難くなるので、上限を1.5%とした。また、Mn
の下限を0.05%として定めたのは、これよりもMnが低く
なると不純物元素としてのSの固定が不十分となり、熱
間脆性を惹起し易くなるからである。
Alは、脱酸元素として鋼の清浄度を改善することおよ
びAlNとしてグラファイト化を阻害する固溶N低減効果
を期待するためには0.001%以上必要であるが、この効
果は0.100%を超えると飽和するため、0.001〜0.100%
の範囲とする。
Nはセメンタイト中のCと置換する形で溶解し、これ
を著しく安定化さす作用がありそのため、焼鈍の際にフ
ェライト・グラファイト組織を得難くすることから0.00
60%以下にしなければならない。
Pは、鋼の変態特性に及ぼす影響ならびに偏析の点か
ら、焼入性および加工性のいずれに対しても悪影響をお
よぼすことが第1の理由、またPはセメンタイト中に微
量溶解してこれを安定化する作用があるため焼鈍に際し
てフェライト・グラファイト組織の生成を阻害する作用
を示すことが第2の理由で好ましくなく、このようなP
の悪影響を避けるためには0.020%以下にしなければな
らない。しかし経済性をこえてまでむやみに低くするこ
とは必要でなく、0.002%程度よりも低くなくてもよ
い。
Sは非金属介在物を作り易く、加工性を悪化させると
ともに、焼鈍の際にグラファイト化を阻害する作用もあ
るので、0.015%以下にしなければならない。しかしS
についてもPと同じ理由で0.0005%程度よりも低くしな
くてもよい。
Caはとくに重要な役割を持つ元素であり、以下の作用
を有する。まず第1は、CaSとして硫化物の形態を加工
性に悪影響のない球状に制御する作用である。次に第2
はCaSとしてSを固定することによってグラファイト化
に対して悪影響の大きい微量のフリーSの弊害を除去す
る作用である。さらに第3はCaSがグラファイト化に際
してのグラファイト核としての作用を発揮し、グラファ
イト化速度の増大ならびにグラファイト粒の微細化と均
一化を向上する作用である。
このような効果を得るためにはCa添加量とCa/Sの比を
適正範囲に制御することが重要である。
Ca量は少なくとも0.0010%以上なければ、上記効果を
得ることが出来ない。しかし、0.0200%以上ではその効
果は飽和するとともに、Ca系非金属介在物の量が増大し
て、逆に加工性が劣化するので好ましくない。
また、Ca/Sの比が1未満の場合、CaSとしてのSの固
定が不十分になり、フリーSが残り、これがセメンタイ
ト中に溶解してその安定性を増し、グラファイト化を阻
害するとともに、CaSの量が少なくなるのでグラファイ
ト化核作用が減じて所期の効果が得られない。しかしCa
/Sの比が10を超えて大きくなるとCaSが凝集、粗大化
し、偏在するようになるから核サイトとしての数が減
じ、しかも分布状態が悪化するので得られる最終のグラ
ファイト粒の分散性が悪くなり、狙いとする均一、微細
なグラファイト組織が得られなくなる。
Bもまた有用な元素である。即ち、その作用のまず第
1の従来知られているように焼入性の向上を図るために
有用な元素となること、そして第2は鋼中のNと結びつ
いてBNとなり、グラファイト化を阻害するフリーNを減
じ、グラファイト化促進に必要なセメンタイトの不安定
化を助長すること、第3はBNやFe23(CB)6のような析
出物がグラファイト化に際しての核作用として働くこと
などの効果を発揮する。
以上の効果を期待するにはBは少なくとも0.0005%以
上必要である。しかし0.0500を超えて添加してもその効
果は飽和し、かえって経済的に不利益を招くのみであ
る。
Cr,Moはいずれも焼入性ならびに、焼入れ後の焼戻し
軟化抵抗を増大するので、適量の範囲で用いれば鋼の熱
処理性能を増す。しかし、一方においては熱延後のセメ
ンタイト中のFeと置換、固溶し、これを安定化する作用
を有するのでグラファイト化を阻害する作用をも有す
る。熱処理性能の改善を図るためにはいずれの元素にお
いても0.20%以上の添加が望ましいが、1.0%を超える
とグラファイト化が著しく悪化して狙いとするフェライ
ト+微細グラファイト組織が得られなくなるので1.0%
を上限とした。
Niは特に焼入時の臨界冷却速度を小さくする効果があ
るので、焼入性の向上に寄与すること、ならびに炭化物
を形成せず、上記CrやMoの如きグラファイト化に悪影響
を及ぼさず、むしろ逆に若干ながら助長をもたらす作用
を有する点で有用な元素である。この効果を得るために
は少なくとも0.20%以上の添加が必要であるが、高価な
元素であり、1.0%を超えると経済的に不利益になるの
で、上限を1.0%とした。
ここにCr,Mo及びNiは、焼入性の向上に寄与する点で
同効成分である。
次に上述のように加工性と焼入性を同時に満足させる
ため各発明を通じて、フェライト・グラファイト組織を
有することが限定され、その理由は発明者らの研究成果
に基づいて以下に説明するとおりである。
第1図はC:0.62%,Si:1.62%,Mn:0.78%,Al:0.015%,
N:0.0023%,P:0.007%,S:0.001%及びCa:0.0015%の成
分組成になる8mm厚さの熱延鋼帯より採取した小試片を
用い、種々の方法により、組織中のグラファイト化比率
の変化させて、フェライトと微細フェライトを主体とし
残りのCについては球状化したセメンタイトよりなる組
織に調整して、引張り特性とシャルピー衝撃特性を調査
した結果である。
また第2図はグラファイト粒子径が異なった場合の焼
入性の違いを示すものである。この焼入性の評価は、グ
ラファイト化率が80%以上のものであって、平均グラフ
ァイト粒子径が種々に異なる場合について、860℃での
加熱保持時間を種々変更しその保持後50℃/secの冷却速
度で焼入れをした場合の断面平均硬度で示してある。
第1図および第2図の結果に従って、 (1) 引張り特性、衝撃特性はグラファイト化比率に
依存し、このグラファイト化比率が80%をこえる場合に
は引張り強度が低く、伸び並びに衝撃特性も良好である
こと (2) 一方、焼入性に関してはグラファイトの平均粒
子径に依存し、10μmを超える大きいグラファイト粒の
場合オーステナイト化に要する加熱時間は著しく長くな
ること (3) このように、グラファイト化比率を高め、かつ
その平均粒径を10μm以下に調整した微細グラフイトが
フェライトと混在した組織とすることによって、加工性
と焼入性とを同時に満たす特性を持つこと の知見が得られた。
ここにグラファイト化焼鈍条件の範囲は十分な軟質化
のもとで加工性に最も有利な焼鈍組織を得ること、およ
び焼鈍コストが安いことの2つの観点から選択するのが
実際的である。例えば焼鈍温度範囲が500℃未満のよう
に低温焼鈍では軟化の進行が著しく遅くなり、また750
℃を超えると焼鈍中にオーステナイト相となる割合が大
きくなって、この部分が焼鈍後にパーライト相として残
り、軟質化組織の均一性を阻害する原因となり好ましく
ない。そのため焼鈍温度範囲として500〜750℃が推奨さ
れ、また焼鈍時間としては約1〜200時間程度が適当で
あるが、焼鈍温度が低い程長時間を必要とする。
なお、材質的にみた場合焼鈍温度の最適な範囲は650
℃〜A1変態点の範囲であり、特にA1変態点直下の温度を
選択すれば短時間の焼鈍で良好な材質が得られる。
また、焼鈍サイクルとして例えばいったんα+γ2相
温度領域となる温度まで加熱した後、非常に遅い冷却速
度でA1変態点以下の温度域で保持するとか、の方法を採
用しても焼鈍時間の短縮および材質の改善が図れる。
次にこのグラファイト化焼鈍に先立って冷間ないしは
温間圧延を施す場合にあっては、焼入性と冷間加工性の
観点から、フェライトと微細均一なグラファイト粒から
なるミクロ組織を一層効率的に得る手段となる。すなわ
ち化学成分中にグラファイト化核として作用するように
鋼中S量に応じ適量のCaを添加した熱延板に、グラファ
イト化焼鈍に先立ち冷間ないしは温間圧延を実施するこ
とでグラファイト化焼鈍に際して、グラファイト化核作
用が一層顕著になり、グラファイト化速度が増大するの
で容易にグラファイト粒が微細均一に分布する最終ミク
ロ組織が得られる。
ところで、このグラファイト化過程はまず最初にグラ
ファイトの核生成があって、ついでセメンタイトの分
解、Cの素地への固溶、グラファイト粒への拡散の順に
粒成長が進む。この中では核生成過程が非常に重要な要
素であって、核生成サイトが多く、しかも均一に分布し
ているもの程、最終のグラファイト粒が微細化し、かつ
均一化する。また、核が増加すればセメンタイト分解後
のCの拡散距離も短くて済むのでグラファイト成長速度
も増大する。またB添加の場合はBNあるいはFe23(CB)
6等の析出物がグラファイト化核として作用するわけで
あって、冷間もしくは温間圧延をこれに加えた場合、こ
れらの析出物の周辺においてミクロ的に転位密度が著し
く増加し、その核作用を増すことになる。
また、これ以外にも冷間もしくは温間圧延によって導
入される多量の点欠陥が核サイトとなるので、さら核生
成が容易となる。
加えるに、セメンタイトが上記圧延によって不安定化
し、分解し易くなること、さらに圧延によって導入され
た転位が、素地に固溶したCの拡散の経路として作用す
るので、グラファイトの成長速度をも増進するのであ
る。
また、上記のような冷間ないしは温間圧延による転位
密度の増大は、次工程の焼鈍に際してフェライト粒再結
晶核の数を増大させるので、焼鈍後のフェライト相素地
の結晶粒の微細化が達成される。その結果靭性および強
度−伸びバランスの向上にも寄与する。このような複合
的効果の積み重ねによって、効果が一層顕在化され、極
めて有効かつ、良好な結果が得られるのである。
このような効果を発揮せしめるためには500℃以下で
の温間ないしは冷間圧延温度領域で20%以上の圧下率が
必要である。この圧延温度は500℃を超えると、圧延後
に歪の回復やフェライト素地の再結晶によって、有効に
作用する転位や点欠陥の数が減少して、所期した効果が
十分に発揮されなくなるためである。また圧下率20%未
満では圧延によって導入される点欠陥、転位の割合が少
な過ぎるため、やはり効果が得られ難い。
実施例 1 表1に化学成分を示した鋼を用いて、通常の方法で熱
間圧延を行い、8mm厚の熱延鋼帯とし、続いてこの熱延
鋼帯に所定の焼鈍を施した。表2にこれらについての焼
鈍条件と焼鈍後の引張り特性、シャルビー特性、および
焼入−焼戻し後の硬度と靭性の成績を示す。
なお、引張り特性は8mm厚のJIS5号引張り試験片での
成績、そして硬度は850℃で30min加熱後、70℃/secの冷
却速度で油焼入れ後、250℃で60minの焼戻し処理を施し
た後の成績である。
この発明に従うミクロ組織上の特徴であるフェライト
・グラファイト組織による材質的特徴を明確にするため
表2に示した引張り強さと焼入−焼戻し後の硬度の関係
を第3図に、また引張り強度と伸びの関係を第4図に比
較して示す。
第3図、第4図からこの発明では引張り強度が50kgf/
mm2以下であって、高炭素鋼でありながら引張り特性
は、低炭素鋼並の低強度、高延性の特性を示し、しかも
焼入−焼戻し後の硬度は比較鋼のフェライト・球状化セ
メンタイト組織鋼と変わらない焼入性を有することがわ
かる。また焼入性はCr,Mo,Niを含有することによってさ
らに向上する。
さらに表2から発明鋼は比較鋼の球状化セメンタイト
組織鋼に比べて衝撃特性が著しく優れ、とくにこの効果
はBを添加した場合においてより著しいことがわかる。
(発明の効果) この発明によれば、従来加工性に乏しかった熱処理用
途の高炭素鋼を低炭素鋼並の軟質、良加工性の機械的性
質と、従来の高炭素鋼と変わらない優れた焼入性を併せ
有する鋼が得られる。本発明鋼を刃物、ばね、耐摩耗性
部品等の各種機械部品用として用いれば、熱処理前の成
形加工性が著しく改善されるので、加工工程の簡略化、
成形形状の複雑化が可能となり、省工程、省力、省コス
トの面で大きな効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
第1図はグラファイト比率が機械的性質および焼入性に
及ぼす影響を示すグラフ、 第2図はグラファイト粒の大きさが焼入性に及ぼす影響
を示すグラフ、 第3図は引張り強度と焼入−焼戻し後の硬度の比較を示
すグラフであり、 第4図は発明鋼と比較鋼の引張り強度と伸びの関係を示
すグラフである。
フロントページの続き (56)参考文献 特開 昭60−52551(JP,A) 特開 昭60−128245(JP,A) 特開 昭61−130454(JP,A) 特開 昭61−26726(JP,A) 特開 昭64−87748(JP,A)

Claims (4)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】C :0.30〜1.20wt%、 Si:0.30〜2.00wt%、 Mn:0.05〜1.50wt%、 Al:0.001〜0.100wt%、 N :0.0060wt%以下、 P :0.020wt%以下、 S :0.015wt%以下及び Ca:0.0010〜0.0200wt%ただしCa/s1〜10 を含み残部Feおよび不可避的不純物の組成になり、フェ
    ライト相と直径が10μm以下の微細グラファイト粒を主
    体とする組織を有し、引張り強さ50kgf/mm2以下であっ
    て、加工性と焼入性に優れ、かつ焼入−焼戻し処理後の
    靭性にも優れることを特徴とする熱処理用鋼板。
  2. 【請求項2】C :0.30〜1.20wt%、 Si:0.30〜2.00wt%、 Mn:0.05〜1.50wt%、 Al:0.001〜0.100wt%、 N :0.0060wt%以下、 P :0.020wt%以下、 S :0.015wt%以下、 Ca:0.0010〜0.0200wt%ただしCa/s1〜10、 B :0.0005〜0.0500wt%、 を含み残部Feおよび不可避的不純物の組成になり、フェ
    ライト相と直径が10μm以下の微細グラファイト粒を主
    体とする組織を有し、引張り強さ50kgf/mm2以下であっ
    て、加工性と焼入性に優れ、かつ焼入−焼戻し処理後の
    靭性にも優れることを特徴とする熱処理用鋼板。
  3. 【請求項3】C :0.30〜1.20wt% Si:0.30〜2.00wt% Mn:0.05〜1.50wt% Al:0.001〜0.100wt%、 N :0.0060wt%以下 P :0.020wt%以下 S :0.015wt%以下 Ca:0.0010〜0.0200wt%ただしCa/s1〜10、 を含みかつ、 Cr,Mo及びNiよりなる群のうちから選んだ1種又は2種
    以上:0.20〜1.0wt% を含有して残部Feおよび不可避的不純物の組成になり、
    フェライト相と直径が10μm以下の微細グラファイト粒
    を主体とする組織を有し、引張り強さ50kgf/mm2以下で
    あって、加工性と焼入性に優れ、かつ焼入−焼戻し処理
    後の靭性にも優れることを特徴とする熱処理用鋼板。
  4. 【請求項4】C :0.30〜1.20wt% Si:0.30〜2.00wt% Mn:0.05〜1.50wt% Al:0.001〜0.100wt%、 N :0.0060wt%以下 P :0.020wt%以下 S :0.015wt%以下および Ca:0.001〜0.0200wt%ただしCa/s1〜10、 B :0.0005〜0.0500wt% を含みかつ Cr,Moe及びNiよりなる群のうちから選んだ1種又は2種
    以上:0.2〜1.0wt% を含有して残部Feおよび不可避的不純物の組成になり、
    フェライト相と直径が10μm以下の微細グラファイト粒
    を主体とする組織を有し、引張り強さ50kgf/mm2以下で
    あって、加工性と焼入性に優れ、かつ焼入−焼戻し処理
    後の靭性にも優れることを特徴とする熱処理用鋼板。
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