JP2937346B2 - 球状化焼鈍用高炭素鋼材の製造方法 - Google Patents

球状化焼鈍用高炭素鋼材の製造方法

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【発明の詳細な説明】 <産業上の利用分野> 本発明は球状化熱処理用鋼材の製造方法に係わり、特
に高炭素鋼材の2次加工工程における球状化焼鈍処理を
短縮し、生産性の向上及び省エネルギー化を図るのに好
適な鋼材の製造方法に関するものである。
<従来の技術> 熱間圧延された中高炭素鋼及び合金鋼鋼材は2次加工
及び3次加工工程のおいて伸線、鋸断、引抜き、冷間鍛
造等の冷間加工により各種機械構造用部品に加工される
ことが多い。しかし、この種の鋼材は熱間圧延ままの状
態では粗大な網状セメンタイトと層状パーライト又はベ
イナイトとの混合組織となっており、このままでは変形
抵抗が高く冷間加工性が悪いため強度な加工度を付与す
ることができない。そこで、通常はこれらの欠点を取り
除く目的でセメンタイトを安定な球状化セメンタイトと
し加工性の向上を図るいわゆる球状化焼鈍処理が施され
る。
従来、球状化焼鈍には種々の方法が開発、実用化され
ているが、いずれも長時間の加熱と高価な熱処理炉が必
要であり生産性の低下やコストの上昇等を招いている。
例えば、この熱処理工程の簡略化を目的として、特開昭
58−207325号公報では2%以下のCを含有する鋼を冷間
で5〜90%の塑性加工を付与した後、Ar3点〜200℃の温
度域で5〜90%の塑性加工を加える方法が、また特公昭
50−24246号公報では熱間圧延後の連続冷却を制御する
ことによる単一の中間組織のクロム系線材の製造方法が
提案されている。また特開昭47−8503号公報では熱間圧
延後直ちに変態域を通し、オーステナイト結晶粒の成長
抑制と初析フェライトの生成を抑制し、その後の冷却に
て微細パーライト、ベイナイトあるいはマルテンサイト
組織とすることが提案されている。しかしながら、これ
らの方法においては、冷間で塑性加工を加えるために特
別な装置が必要であったり、あるいは工程が増加するの
で、球状化焼鈍処理自体が短縮化されても全体としての
生産性は逆に阻害される可能性がある。
本発明の目的は、比較的容易な手段からなる球状化焼
鈍用高炭素鋼材の製造方法を提案することである。
また本発明の他の目的は、球状化焼鈍の処理時間が短
くてすむ球状化焼鈍用高炭素鋼材の製造方法を提案する
ことである。
<課題を解決するための手段> 本発明者らは球状化焼鈍処理に及ぼす前組織と熱間圧
延条件の影響について詳細な研究を行った結果、鋼の組
成を特定し、熱間圧延条件を特定することにより、球状
化焼鈍処理時間の短縮に望ましい前組織が得られること
を見出し本発明を構成するに至った。
即ち、本発明は、重量比にて、 C :0.60〜2.0%, Si:0.05〜2.0%, Mn:0.10〜2.5%, S :0.4%以下, P :0.05%以下, Al:0.01〜0.10%, を含有し、必要に応じて、 Cr:0.05〜5.5%, Mo:0.05〜5.5%, Ni:0.05〜5.5%, Cu:0.05〜1.0%, Co:0.05〜5.5%, Nb:0.01〜0.5%, V :0.01〜0.5%,及びW :0.01〜0.5% の内から選択された一種又は二種以上を含有し、残部が
実質的にFe及び不可避的不純物よりなる鋼をAr1+200℃
以上の温度に加熱し圧下率20〜90%の熱間圧延を行い、
さらに引続きAr1変態点〜Ar1+200℃の温度域で20〜90
%の熱間圧延を行った後にAr1変態点〜Ar1+200℃の温
度域に5〜900秒間保持し、次いで放冷することを特徴
とする球状化焼鈍用高炭素鋼材の製造方法である。
<作 用> まず本発明における成分限定理由を説明する。
C:0.60〜2.0%(重量%以下同じ) Cは焼入性及び必要な強度、硬さを維持する上で基本
的な元素であり、このためには少なくとも0.60%以上を
添加する必要があるが、多量に含有すると1150℃以上の
加熱により液相が析出し、熱間圧延が不可能となるため
上限を2.0%とした。
Si:0.05〜2.0% Siは脱酸を促進し強度を上昇させるのに有効な元素で
あり、また鋼塊の表面欠陥の発生を防止し、更に焼入組
織の強化と焼戻し軟化を防止するのに極めて有効な元素
である。この効果は0.05%以上で顕著になるためにこの
値を下限とする。しかし、2.0%を超えるとこの効果は
飽和すると共に耐衝撃性及び冷間加工性が劣化するため
2.0%を上限とした。
Mn:0.10〜2.5% Mnは焼入性を向上し、強度並びに靱性を高めると共に
Sによる熱間加工性の劣化を防止することに有効であ
る。0.10%未満では、この効果が認められないためこの
値を下限とする。しかし、2.5%を超えるとこの効果は
飽和すると共に耐衝撃性及び切削性が劣化するため2.5
%を上限とした。
Al:0.01〜0.10% AlはSiと同様に有効な脱酸剤であり積極的に添加する
が、0.01%以下では効果がほとんど認められないことか
ら下限を0.01%とした。一方0.1%を超えて添加しても
効果は飽和し、かえって冷間加工性を害することから0.
10%を上限とした。
S:0.4%以下 Sは切削性を向上させる元素であり部品作製上必要な
元素であり必要に応じて添加する。この効果は添加量が
多いほど顕著になるが、多量に添加すると熱間加工性及
び冷間加工性を低下させることから上限を0.4%とし
た。
P:0.05%以下 Pは冷間加工性及び靱性に有害であるため多量の含有
は好ましくない。しかし切削性を向上させる元素であり
部品作製上必要な元素であり必要に応じて添加する。し
かし0.05%を超えての添加は熱間加工性及び冷間加工性
を低下させることから上限を0.05%とした。
上記したC,Si,Mn,P,S,Alの各限定量を持って本発明の
基本成分とするが、さらに必要に応じてCr,Mo,Cu,Ni,W,
Co,Nb,Vを下記限定量において一種または二種以上を同
時に含有する鋼においても本発明をより有効に達成する
ことができる。これらの限定理由は次のごとくである。
Cr:0.05〜5.5% Crは焼入性を向上し、強度並びに靱性を高めると共に
炭化物の形成を助長し耐摩耗性を向上させるのに有効で
ある。この効果は0.05%以上で顕著になるためこの値を
下限とする。しかし、5.5%を超えると耐衝撃性及び切
削性が劣化することと添加コストが上昇することから5.
5%を上限とした。
Mo:0.05〜5.5% Moは強い固溶強化性を有し、焼入性を向上させ、かつ
少量の含有は切削性を向上させる作用があることから添
加する。0.05%より少ないと効果が認められないことか
ら0.05%を下限とする。一方、5.5%を超える添加は冷
間加工性及び切削性を著しく劣化させることから5.5%
を上限とした。
Co:0.05〜5.5% Coは強い固溶強化性を有し、かつ少量の含有は切削性
を向上させる作用があるが、0.05%より少ないと効果が
認められないことから0.05%を下限とする。一方、5.5
%を超える添加は冷間加工性及び切削性を著しく劣化さ
せることから5.5%を上限とした。
W:0.01〜0.5% Wは強い固溶強化性を有し、かつ少量の含有は切削性
を向上させる作用があるが、0.01%より少ないと効果が
認められないことから0.01%を下限とする。一方、0.5
%を超える添加は冷間加工性及び切削性を著しく劣化さ
せることから0.5%を上限とした。
Cu:0.05〜1.0% Cuは強い固溶強化性を有し、焼入性を向上させ、かつ
少量の含有は切削性を向上させる作用があるが、0.05%
より少ないと効果が認められないことから0.05%を下限
とする。一方、1.0%を超える添加は熱間加工性を著し
く劣化させることから1.0%を上限とした。
Ni:0.05〜5.5% Niは強い固溶強化性を有し、かつ少量の含有は切削性
を向上させる作用があるが、0.05%より少ないと効果が
認められないことから0.05%を下限とする。一方、5.5
%を超える添加は冷間加工性及び切削性を著しく劣化さ
せることから5.5%を上限とした。
Nb,V:それぞれ0.01〜0.5% Nb,Vは析出強化型元素であり、それぞれ0.01%以上の
少量添加で強度を上昇させる効果を有するので下限を0.
01%とする。しかし、それぞれ0.5%を超えるとその効
果が飽和する傾向を示すことと、冷間加工性を著しく劣
化させることから0.5%をそれぞれ上限とした。
次に本発明の製造条件の限定理由について説明する。
上記化学成分の鋼材をまずAr1+200℃以上の温度で加
熱し20〜90%の圧下率で熱間圧延した後、さらに引き続
きAr1変態点〜Ar1+200℃の温度域で20〜90%の圧下率
で熱間圧延する。Ar1+200℃以上の加熱は鋼材の粗圧延
を低荷重で経済的に行う上で必要なためである。加熱温
度の上限は特に定める必要はないが、鋼材の寸法、加熱
炉の能力から適宜決定される。加熱された鋼材は20〜90
%の圧下率で熱間圧延されるが、圧下率の下限を20%と
した理由は加熱時に形成された粗大なオーステナイト
(γ)粒を細粒化し、次工程で本発明の目的を発揮させ
るために必要な最小の圧下率であるからである。20%未
満の圧下率ではγ粒は再結晶による微細化を起こさず、
歪誘起粒界移動により逆に粗大化する。上限を90%とし
たのは、この温度域では圧下率の増加に伴ってγ粒微細
化は進行するが、粒成長も引き続いて起こるために、加
工による微細化効果は飽和する。従って90%を超えて圧
下してもより以上の効果が無いことと、次工程での圧下
率を確保しておく必要があるためである。
上記熱間圧延後、さらに引き続きAr1変態点〜Ar1+20
0℃の温度域で20〜90%の圧下率で熱間圧延する。この
段階での熱間圧延の役割は、γ粒の微細化と初析セメン
タイトの微細析出を得るためである。
この温度域でのγ粒は再結晶が比較的進行し難く圧下
歪はγ粒を伸長させると共に粒内に変形帯、転位を多数
導入する。これらの格子欠陥は初析セメンタイトの析出
サイトとして有効に作用する。これら格子欠陥の多量導
入により、セメンタイトの微細な析出が可能となる。こ
の段階は本発明を実施する上での中心的なものである
が、この効果を発揮させる最小限の圧下率は20%である
ことから下限を20%とした。
この圧延の効果は圧下率の増加に伴って増加するが、
90%を超すと効果が飽和することと低温での高圧下率圧
延は変形抵抗が著大となり圧延機に大きな負荷が掛かる
ことから圧下率を過大にすることはメリットが少ない。
このところから圧下率の上限を90%とした。
その後Ar1変態点〜Ar1+200℃の温度域で5〜900秒間
保持する。この処理は先の熱間圧延により導入された格
子欠陥、あるいは十分微細化されたγ粒界に析出したセ
メンタイト相を十分析出、成長させると共に未再結晶γ
粒に再結晶微細化の時間を与えることにある。この際Ar
1変態点〜Ar1+200℃の一定の温度で必ずしも保持する
必要はなく、この温度域の通過時間を5〜900秒として
も同一の効果が得られる。保持時間を5〜900秒とした
理由として、5秒以下では初析セメンタイトの析出成長
及びγ粒の再結晶が不十分であるためである。一方900
秒を超える保持は初析セメンタイトの析出が完了し、各
粒子が凝集粗大化し始めるため好ましくない。また900
秒を超える保持はγ粒の再結晶が完了し粒成長を始める
ため放冷後の組織が粗大となり本発明の目的である球状
化焼鈍処理時間の短縮効果を減ずるためである。更に、
900秒を超える保持は鋼材寸法が小さく熱容量が少ない
場合には温度降下が大きく保持炉などが必要となること
から実用的でない。
熱間圧延後の鋼材は保持完了後放冷される。上記の熱
間圧延後は著しく多くの変態生成箇所が存在しておりAr
1変態点以下になれば短時間の内に変態が進行する。従
って圧延−保持後放冷することにより著しく微細なセメ
ンタイトを含む微細組織が得られる。
従来鋼では網状のセメンタイトが発達しておりその分
断と球状化に多大の時間を要することと、ミクロ組織が
粗いために炭化物の形成も遅くかつ不均一化し易く球状
化後の組織も良好とならないことから球状化焼鈍時間を
十分にとる必要があった。
一方本発明法におり製造された鋼では著しく微細なセ
メンタイトを含む微細組織であるため球状化焼鈍に必要
最小限の時間しか要しないのである。
<実施例> 実施例により本発明をさらに詳細に説明する。
実施例1 第1表に示す化学組成の実験用スラブをAr1+200℃以
上の温度で加熱後、第2表に示す条件で圧延、及び保持
を行い放冷した。この場合、圧下率は初期スラブ厚を変
化させることにより行った(但し、Ar1=713℃)。
冷却した鋼板につき初析セメンタイトの網状組織の有
無について評価した。
この結果を第2表に示す。
また、球状化焼鈍条件については、加熱温度:760℃で
6時間保持した後、10℃/hで600℃まで冷却してから室
温まで空冷したものである。さらに球状化率とはセメン
タイト粒子の長径と短径の比が5以下のものが全炭化物
数に占める割合を示したものである。
供試No.1,5,9及び15は本発明法の請求範囲外の条件に
より製造されたものでありいずれも網状セメンタイトが
認められる。また、炭化物の球状化率も低い。供試No.1
4は網状セメンタイトは認められないものの保持時間が
長すぎるために炭化物の凝集粗大化が進み球状化率が低
い。これに対して、供試No.2,3,4,6,7,8,10,11,12,13,1
6及び17はいずれも網状セメンタイトは認められず球状
化率も良好である。
実施例2 第3表に示す網を転炉にて溶製し、150mm角ビレット
に圧延した後、各鋼を1200℃に加熱後、Ar1+200℃以上
で圧下率50%以上の熱間圧延を施した後、Ar1変態点〜A
r1+200℃の温度域で70%の圧下率で熱間圧延を施し丸
棒とした後、引き続きAr1変態点〜Ar1+200℃の温度域
で300秒間保持し放冷した。冷却後、加熱温度:760℃で
6時間保持した後、50℃/hで600℃まで冷却してから室
温まで空冷する球状化焼鈍条件(モード1)で熱処理し
たものである。
比較として、第3表に示す鋼を同様に溶製し、150mm
角ビレットに圧延した後、各鋼を1200℃に加熱後、常法
で熱間圧延を行い丸棒とし空冷した。この丸棒を加熱温
度760℃で6時間保持した後、10℃/hで600℃まで冷却し
てから室温まで空冷する球状化焼鈍条件(モード2)で
熱処理した。
実施例1と同様の品質確性を行った。この結果を第4
表に示す。
供試No.18,20,22,24,26,28,30,32,34,36,38,40及び42
は球状化処理条件モード1の短時間の熱処理にも関わら
ず網状セメンタイトは認められず球状化率も良好であ
る。これに対して従来法で製造された供試No.19,21,23,
25,27,29,31,33,35,37,39,41及び43は球状化処理条件モ
ード2の長時間の熱処理にも関わらず網状セメンタイト
が認められ、球状化率も良好でない。以上のごとく本発
明法に依れば短時間の球状化処理により所期の目的とす
る良好な品質の鋼が製造できる。
<発明の効果> 本発明により上記実施例からも明らかなごとく、化学
組成及び熱間圧延条件を限定するという比較的容易な手
段で、球状化処理時間が短くてすむ球状化焼鈍用高炭素
鋼材を提供することができるようになった。また本発明
により製造された鋼は、熱間圧延ままで優れた加工性と
軸受鋼として最も重要である転動疲労寿命が従来より多
用されている高炭素鋼クロム軸受鋼のそれと遜色のない
特性を示しており、本発明により鋼材のコスト低減と生
産性向上の効果を挙げることができる。
フロントページの続き (58)調査した分野(Int.Cl.6,DB名) C21D 8/06 C21D 6/00

Claims (2)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】重量比にて、 C :0.60〜2.0%, Si:0.05〜2.0%, Mn:0.10〜2.5%, S :0.4%以下, P :0.05%以下, Al:0.01〜0.10%, を含有し、残部が実質的にFe及び不可避的不純物よりな
    る鋼をAr1+200℃以上の温度に加熱し圧下率20〜90%の
    熱間圧延を行い、さらに引続きAr1変態点〜Ar1+200℃
    の温度域で20〜90%の熱間圧延を行った後にAr1変態点
    〜Ar1+200℃の温度域に5〜900秒間保持し、次いで放
    冷することを特徴とする球状化焼鈍用高炭素鋼材の製造
    方法。
  2. 【請求項2】重量比にて、 C :0.60〜2.0%, Si:0.05〜2.0%, Mn:0.10〜2.5%, S :0.4%以下, P :0.05%以下, Al:0.01〜0.10%, を含有し、 Cr:0.05〜5.5%, Mo:0.05〜5.5%, Ni:0.05〜5.5%, Cu:0.05〜1.0%, Co:0.05〜5.5%, Nb:0.01〜0.5%, V :0.01〜0.5%,及びW :0.01〜0.5% の内から選択された一種又は二種以上を含有し、残部が
    実質的にFe及び不可避的不純物よりなる鋼をAr1+200℃
    以上の温度に加熱し圧下率20〜90%の熱間圧延を行い、
    さらに引続きAr1変態点〜Ar1+200℃の温度域で20〜90
    %の熱間圧延を行った後にAr1変態点〜Ar1+200℃の温
    度域に5〜900秒間保持し、次いで放冷することを特徴
    とする球状化焼鈍用高炭素鋼材の製造方法。
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