JPH09157758A - 加工性に優れた高炭素鋼帯の製造方法 - Google Patents

加工性に優れた高炭素鋼帯の製造方法

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JPH09157758A
JPH09157758A JP34486595A JP34486595A JPH09157758A JP H09157758 A JPH09157758 A JP H09157758A JP 34486595 A JP34486595 A JP 34486595A JP 34486595 A JP34486595 A JP 34486595A JP H09157758 A JPH09157758 A JP H09157758A
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carbon steel
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清 福井
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Abstract

(57)【要約】 【課題】 軟質で加工性に優れた機械部品用の高炭素鋼
帯を、低コストで製造する。 【解決手段】 所定化学成分の高炭素鋼を、熱間圧延、
酸洗、脱スケールしたのち、95容量%以上の水素雰囲
気で、所定の加熱速度、均熱温度、均熱時間、冷却速度
で焼鈍処理する。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】この発明は、刃物、ワッシャ
ー、ばね、自動車部品、編み針、その他の機械部品の素
材として使用される加工性ならびに熱処理性に優れた高
炭素鋼帯の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】刃物、ワッシャー、ばね、自動車部品、
編み針、その他の機械部品は、高炭素鋼帯(JIS G
3311に規定のみがき特殊帯鋼)を素材とし、打ち
抜き、曲げ、プレス加工、切削等の加工工程と、焼入
れ、焼戻し、その他の熱処理工程を経て製造される。そ
の製品品質の向上、安定化、製造コストの低減等を図る
には、素材である高炭素鋼帯が軟質で加工性がよく、か
つ組織の均質性に優れていることが必要である。
【0003】高炭素熱延鋼帯は、一般にフェライトおよ
びパーライトからなる脆くて硬い組織を呈し、しかもそ
の組織は不均一で曲げ加工、プレス加工時に割れが発生
し易い。そこで高炭素熱延鋼帯は、熱延組織を球状化炭
化物組織に変えて軟質かつ伸びの向上を図ると共に、組
織の均質性を改善すべく箱焼鈍が施される。
【0004】また、必要に応じてさらに軟質化を行うた
めには、焼鈍後に冷間圧延を行い、引続き箱焼鈍(仕上
げ焼鈍)を行って冷間圧延で生じた鋼帯の加工組織を再
結晶させて軟質化した冷延鋼帯とすることもある。これ
らの工程における高炭素熱延鋼帯および冷延鋼帯の焼鈍
条件は、600〜720℃の温度範囲で10〜30時間
保持されることとされてきた。
【0005】上記の高炭素熱延鋼帯の製造方法では、製
造に時間がかかり、また、狙い通りの軟質な高炭素熱延
鋼帯が得られない場合が多く、さらに軟質化を進めるた
めには冷間圧延および焼鈍を繰り返す必要があるという
問題を有している。
【0006】そこで前記の問題を解決する手段として
は、例えば、特公昭57−53418号公報に開示のと
おり、熱延鋼帯を750〜900℃で1〜30分予備熱
処理したのち、冷間圧延、連続焼鈍を繰り返す方法、あ
るいは特公昭55−43049号公報に開示のとおり、
熱延鋼帯の球状化処理を連続焼鈍で実施する方法が提案
されている。しかし、軟質な高炭素鋼帯を製造するに
は、連続焼鈍後に冷間圧延および焼鈍を複数回施さなけ
ればならず、工程が煩雑で長くなってしまい、製造コス
トの上昇が避けられない。
【0007】さらに、他の高炭素鋼帯の製造方法として
は、C:0.27〜0.90%、Si:0.15〜0.
30%、Mn:0.60〜0.90%、P:0.030
%以下、S:0.035%以下、残部Feおよび不可避
的不純物からなる鋼に通常の熱間圧延を施し、次いで酸
洗をして得られた熱延鋼帯を出発材として、高炭素冷延
鋼帯を製造する方法において、前記出発材としての熱延
鋼帯を680〜720℃の温度に15時間以上保持する
一次焼鈍を行い、次いで20〜45%の圧下率で冷間圧
延を行い、その後630〜720℃の温度で10時間以
上保持する仕上げ焼鈍を行う方法(特開昭61−766
19号公報)、C:0.6〜1.3%、Si:0.15
%以下、Mn:1.0%以下、Cr:1.6%以下、残
部実質的にFeからなる化学組成を有する高炭素熱延鋼
帯を、50容量%以上の水素と、残部が窒素からなる雰
囲気炉中、Ac1点〜780℃の温度域に1時間以上均
熱保持後、60℃/Hr以下の冷却速度でAc1点直下
まで冷却する第1段の均熱・徐冷と、Ac1点直下に3
〜20時間均熱保持後、60℃/Hr以下の冷却速度で
Ar1点以下まで冷却する第2段の均熱・徐冷とからな
る一次焼鈍処理に付した後、冷間圧延を行い、ついで6
00°〜Ac1点直下の温度域での二次焼鈍を施す方法
(特開平4−202629号公報)が提案されている。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】上記特開昭61−76
619号公報に開示の方法は、熱延鋼帯の焼鈍温度が従
来と同等の温度であるため、十分に軟質な高炭素鋼帯が
得られない。また、特開平4−202629号公報に開
示の方法は、熱伝導度の良好な水素雰囲気炉でも最高加
熱点と最低加熱点との温度差が解消されず、コイル内の
機械的特性のバラツキが生じると共に、成分規定が共析
点付近のC量であり、Ac1点以上780℃以下の温度
まで焼鈍温度を上げると、焼鈍後に球状セメンタイトを
得ることが困難であり、加工性はかえって劣化し、その
後冷間圧延、焼鈍を繰り返しても高炭素鋼帯の加工性の
向上は望めない。
【0009】この発明の目的は、上記従来技術の問題点
を解消し、従来の高炭素鋼帯と同等以上の加工性を有
し、かつ組織の均質性に優れた高炭素鋼帯を安価に製造
できる高炭素鋼帯の製造方法を提供することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】この発明は、高炭素鋼帯
の加工性と組織の均質性を得るため、C:0.2〜0.
8%、Si:0.03〜0.30%、Mn:0.20〜
1.50%を含有し、Sol.Al:0.01〜0.1
0%、N:0.0020〜0.0100%で、かつSo
l.Al/N:5〜10を満足させ、残部が実質的にF
eおよび不可避的不純物からなる高炭素鋼、あるいは
C:0.2〜0.8%、Si:0.03〜0.30%、
Mn:0.20〜1.50%を含有し、Sol.Al:
0.01〜0.10%、N:0.0020〜0.010
0%で、かつSol.Al/N:5〜10を満足させ、
B:0.0005〜0.0030%を含有し、残部が実
質的にFeおよび不可避的不純物からなる高炭素鋼を素
材として用いると共に、容量95%以上の水素雰囲気で
下記(1)〜(3)の条件で焼鈍することとしている。 (1) 加熱速度 : 680℃以上の温度範囲で
v(℃/Hr):500×(0.01−N(%)as
AlN)〜2000×(0.1−N(%)asAl
N)で規定される加熱速度Tvで下記均熱温度TAまで加
熱すること、 (2) 均熱温度および均熱時間 : TA:Ac1
点〜222×C(%)2−411×C(%)+912で
規定される均熱温度TAで、1〜20時間均熱保持する
こと、 (3) 均熱保持後の冷却速度 : 100℃/H
r以下の冷却速度で室温まで冷却すること。
【0011】上記のように化学成分を限定すると共に、
容量95%以上の水素雰囲気で上記(1)〜(3)の条
件で焼鈍処理することによって、コイル内での昇温バラ
ツキを小さくでき、高炭素鋼帯の特性バラツキ、形状が
非常に良好となり、フェライトマトリックス中に粗大な
球状化セメンタイトが均一に分布し、軟質で加工性に優
れた高炭素鋼帯を得ることができる。
【0012】また、この発明は、前記焼鈍処理後、圧下
率20〜90%の冷間圧延、600〜700℃で仕上げ
焼鈍を行うこととしている。この冷間圧延、仕上げ焼鈍
を行うことによって、さらに高炭素鋼帯の特性バラツ
キ、形状が非常に良好となり、より軟質で加工性に優れ
た高炭素鋼帯を製造することができる。
【0013】
【発明の実施の形態】この発明の加工性に優れた高炭素
鋼帯の製造は、C:0.2〜0.8%、Si:0.03
〜0.30%、Mn:0.20〜1.50%を含有し、
Sol.Al:0.01〜0.10%、N:0.002
0〜0.0100%で、かつSol.Al/N:5〜1
0を満足させ、残部が実質的にFeおよび不可避的不純
物からなる高炭素鋼またはC:0.2〜0.8%、S
i:0.03〜0.30%、Mn:0.20〜1.50
%を含有し、Sol.Al:0.01〜0.10%、
N:0.0020〜0.0100%で、かつSol.A
l/N:5〜10を満足させ、B:0.0005〜0.
003%を含み、残部が実質的にFeおよび不可避的不
純物からなる高炭素鋼を、熱間圧延、酸洗、脱スケール
したのち、95容量%以上の水素と残部が実質的に窒素
および不可避的不純物からなる雰囲気炉で、下記(1)
〜(3)の条件で焼鈍処理する。 (1) 加熱速度:680℃以上の温度範囲でTv(℃
/Hr):500×(0.01−N(%)asAlN)
〜2000×(0.1−N(%)asAlN)で規定さ
れる加熱速度Tvで下記均熱温度TAまで加熱すること、 (2) 均熱温度および均熱時間:TA:Ac1点〜22
2×C(%)2−411×C(%)+912で規定され
る均熱温度TAで、1〜20時間均熱保持すること、 (3) 均熱保持後の冷却速度:100℃/Hr以下の
冷却速度で室温まで冷却すること。
【0014】また、この発明の加工性に優れた高炭素鋼
帯の製造は、C:0.2〜0.8%、Si:0.03〜
0.30%、Mn:0.20〜1.50%を含有し、S
ol.Al:0.01〜0.10%、N:0.0020
〜0.0100%で、かつSol.Al/N:5〜10
を満足させ、残部が実質的にFeおよび不可避的不純物
からなる高炭素鋼またはC:0.2〜0.8%、Si:
0.03〜0.30%、Mn:0.20〜1.50%を
含有し、Sol.Al:0.01〜0.10%、N:
0.0020〜0.0100%で、かつSol.Al/
N:5〜10を満足させ、B:0.0005〜0.00
3%を含み、残部が実質的にFeおよび不可避的不純物
からなる高炭素熱延鋼帯を、熱間圧延、酸洗、脱スケー
ルしたのち、95容量%以上の水素と残部が実質的に窒
素および不可避的不純物からなる雰囲気炉で、前記
(1)〜(3)の条件で焼鈍処理したのち、20〜90
%の圧下率で冷間圧延し、引続き600〜700℃の温
度範囲で箱焼鈍を行う。
【0015】この発明において、高炭素鋼の化学成分を
上記のとおり限定したのは、下記の理由による。
【0016】Cは焼入れ後の硬さと強度を得るために必
要な元素であるが、0.20%未満では必要な硬さと強
度が得られず、また、共析点である0.80%を超える
まで添加すると、焼鈍温度がAc1点以上になるとほぼ
100%オーステナイト組織となり、後述するように球
状化セメンタイトが析出しなくなるため、0.20〜
0.80%とした。
【0017】Siは脱酸剤として添加するもので、0.
03%未満では脱酸効果が小さく、0.30%を超える
と脱酸能力が飽和し、固溶硬化によって素材の硬度が上
昇するため、0.03〜0.30%とした。
【0018】Mnは焼入れ性を向上させると共に、セメ
ンタイトの安定化作用を有しているが、安定した焼入れ
性を確保するためには0.20%以上必要であり、ま
た、1.50%を超えると焼入れ性の改善効果が飽和す
るうえ、素材の硬度の上昇をもたらすので、0.20〜
1.50%とした。
【0019】AlはSiと同様脱酸剤として用いられる
が、Sol.Alが0.01%未満では脱酸能に問題が
生じ、また、0.10%を超えると脱酸能が飽和し、効
果がなくなるので、0.01〜0.10%とした。
【0020】Nは箱焼鈍時にAlNとして析出させ、組
織の制御(異常粒成長の抑制)に利用すると共に、熱処
理時のオーステナイト粒の異常粒成長による靭性の劣化
を防止するもので、0.0020%未満では組織の制御
を行うだけのAlNが析出せず、また、0.0100%
を超えると鋼片の鋳込み時に表面疵等が多発し、鋼板の
表面疵の原因となるので、0.0020〜0.0100
%とした。
【0021】Sol.AlとNの比を、Sol.Al/
N:5〜10としたのは、箱焼鈍における昇熱時、Al
Nの析出を利用して組織の制御を行うに際し、Sol.
Al/Nが5未満となるとAlNの析出が少なく、粗大
フェライト粒となって加工性に悪影響を及ぼすこととな
り、また、Sol.Al/Nが10を超えると、箱焼鈍
時のAlNの析出が多くなり、粒成長を阻害するため軟
質で加工性に優れた高炭素鋼帯が得られないためであ
る。
【0022】Bは極微量で鋼の焼入れ性を向上させる元
素であり、加工製品の用途に応じて必要により添加する
が、0.0005%以下ではその効果が十分でなく、ま
た、0.0030%を超えるとその効果が飽和し、さら
に連続鋳造後のスラブ表面割れが生じるので、0.00
05〜0.0030%とした。
【0023】この発明における高炭素熱延鋼帯の焼鈍雰
囲気を、95容量%以上の水素雰囲気としたのは、通常
バッチ焼鈍炉においては、窒素を主体とした混合ガス雰
囲気で行われるが、95容量%以上の水素雰囲気は、窒
素を主体とした混合ガス雰囲気に比較して熱伝導が良好
であり、コイル内での昇温バラツキを小さくできるた
め、高炭素鋼帯の特性バラツキ、形状が非常に良好とな
る。また、95容量%以上の水素雰囲気は、この発明で
規定している厳密な焼鈍温度制御を可能としている。
【0024】95容量%以上の水素雰囲気での高炭素熱
延鋼帯の焼鈍は、下記(1)〜(3)の条件を満たす範
囲で実施する。 (1) 加熱速度:680℃以上の温度範囲でTv(℃
/Hr):500×(0.01−N(%)asAlN)
〜2000×(0.1−N(%)asAlN)で規定さ
れる加熱速度Tvで下記TAまで加熱すること、 (2) 均熱温度および均熱時間:TA:Ac1点〜22
2×C(%)2−411×C(%)+912で規定され
る均熱温度TAで、1〜20時間均熱保持すること、 (3) 均熱保持後の冷却速度:100℃/Hr以下の
冷却速度で室温まで冷却すること。
【0025】フェライト−オーステナイト変態が起こる
際には、AlNの存在が核生成および成長に影響を与え
るが、AlNが多量に存在すると核生成が促進され、結
晶成長が阻害される結果、変態後の粒径が小さくなり、
また、AlNが少量であると核生成が遅延し結晶成長が
促進される結果、変態後の粒径が大きくなる。一方、加
熱速度Tvが大きい場合は、変態後の粒径が小さく、ま
た、加熱速度Tvが小さいと、変態後の粒径が大きくな
る。以上のことから、変態後のオーステナイト粒径を適
当な大きさにするためには、AlN量が多いときには加
熱速度Tvを小さく、また、AlN量が少ないときには
加熱速度を大きくする必要がある。このことから、
(0.01−(%)asAlN)という因子を導き出し
た。
【0026】本発明者らは、高炭素熱延鋼帯中のAlN
量と加熱速度Tvの関係を厳密に検討した結果、最も最
適なバランスは、Tv(℃/Hr):500×(0.0
1−N(%)asAlN)〜2000×(0.1−N
(%)asAlN)の範囲において得られることを見い
出した。Tv<500×(0.01−N(%)asAl
N)であれば、二相域温度範囲内でオーステナイトの異
常粒成長が起こる結果、焼鈍後のフェライト組織も粗大
粒となり、軟質ではあるが伸び等の性能が劣化し、かえ
って高炭素鋼帯の加工性が劣化する。一方、Tv>20
00×(0.1−N(%)asAlN)であれば、二相
域温度範囲内でのオーステナイト粒が微細化する結果、
焼鈍後のフェライト組織も微細化するため、硬度の上昇
および降伏応力の上昇が起こり、高炭素鋼帯の加工性お
よびプレス時の形状凍結性が悪化する。
【0027】また、フェライト−オーステナイト変態
は、723℃付近で起こるので、この温度付近の加熱速
度TAが問題となるが、実機焼鈍炉は、体積が大きいた
め、723℃以下の温度域から加熱速度制御を行う必要
がある。しかし、加熱速度制御を開始する温度を低くし
過ぎた場合には、焼鈍時間が非常に長くなる。本発明者
らは、これらのことを踏まえて検討した結果、680℃
以上の温度域で加熱速度制御を実施すれば、最も効率の
良いことが判明した。以上の理由により、前記条件
(1)が規定される。
【0028】さらに、TA<Ac1点の場合は、通常の箱
焼鈍と同様のフェライト域での焼鈍であり、球状セメン
タイトの粒径が小さく、焼鈍後の素材硬度も低減できな
い。前記条件(2)の222×C(%)2−411×C
(%)+912は、A3変態点を表している。TA>22
2×C(%)2−411×C(%)+912であれば、
オーステナイト単相域での焼鈍となり、Cがほぼ全量固
溶して球状セメンタイトの核が消失する結果、冷却時に
新たなパーライトが析出し、素材硬度が低下せず、曲げ
等の加工性も劣化する。以上の理由により、前記条件
(2)が規定される。
【0029】100℃/Hr以下の速度での冷却では、
均熱中に固溶したCが析出核(微細セメンタイト粒)の
周りに球状に析出し、軟質な素材が得られるが、100
℃/Hr以上の速度で冷却すると、Cはパーライトとし
て析出するため、素材の硬度が高くなり、曲げ等の加工
性が劣化するので、均熱保持後の冷却速度は100℃/
Hr以下とした。
【0030】上記の焼鈍処理された高炭素熱延鋼帯は、
フェライトマトリックス中に粗大な球状化セメンタイト
が均一に分布しているので、焼鈍処理しない高炭素熱延
鋼帯に比較すると勿論のこと、従来行われてきたAc1
点以下の温度での高炭素熱延鋼帯焼鈍材に比較しても、
非常に軟質で加工性も良好であるので、このまま加工素
材として使用できる。また、焼鈍処理した高炭素熱延鋼
帯は、その後冷間圧延、仕上げ焼鈍を行うことによっ
て、さらに軟質で加工性の向上した高炭素鋼帯製品を得
ることができる。
【0031】通常、高炭素鋼帯は、冷間圧延時に耳切れ
等の問題が発生し易く、また、強度が高いために冷間圧
延における圧下率も高くできない(冷間圧延における圧
下率≦75%)。そのため、高炭素鋼帯の冷間圧延で
は、中間焼鈍の追加、冷間圧延の追加が必要となる。し
かし、この発明方法による焼鈍処理を行った高炭素熱延
鋼帯の場合は、非常に軟質で加工性に富んでいるため、
冷間圧延における圧下率を約90%程度まで高めること
が可能となるため、焼鈍回数の削減、冷間圧延回数の削
減等の工程省略が可能となる。
【0032】焼鈍処理された高炭素熱延鋼帯の冷間圧延
における圧下率は、20%未満では鋼板の板厚プロフィ
ールの改善が困難であり、表面粗度の点からもロールマ
ットの転写が十分に行われず、また、90%を超えると
焼鈍処理された高炭素熱延鋼帯であっても、加工硬化に
よる硬度の上昇が大きく、伸びが減少して破断が非常に
発生し易くなり、さらに、現状の製品板厚から判断して
も90%以上の圧下率は不必要であるので、20〜90
%とした。
【0033】冷間圧延後の仕上げ焼鈍は、冷間圧延で生
じた加工組織を再結晶によって解消し、軟質な高炭素鋼
帯を得るために施すもので、再結晶による軟化を促進
し、コイル内の特性変動を低減するためには、600℃
以上の仕上げ焼鈍温度が必要であり、また、720℃を
超えるとオーステナイトが生成し、Cが大量にマトリッ
クス中に固溶するため、冷却時にパーライトが生成して
加工性の悪化が生じると共に、冷間圧延後の板厚の薄い
冷延コイルを高温で焼鈍すると、焼付きが生じて製品価
値がなくなるため、仕上げ焼鈍温度は600〜720℃
とした。なお、仕上げ焼鈍は、加工組織の回復、再結晶
が目的なので、セメンタイトの球状化ほど厳密な温度制
御は必要でないため、窒素雰囲気炉でも特に問題となる
ことはない。
【0034】前記高炭素熱延鋼帯の焼鈍処理において
は、「全体の加熱速度Tv≦(均熱温度TA−680
℃)/加熱時間」を満足していれば、この加熱中に一時
的に規定範囲を越えた加熱速度で、段階的に加熱して
も、実操業上構わない。
【0035】
【実施例】
実施例1 焼鈍雰囲気の影響を調査するため、表1に示す鋼種1、
2の高炭素鋼を溶製して連続鋳造により幅1000m
m、厚さ227mmのスラブとなし、通常の熱間圧延に
より製造した板厚2.3mm、幅1000mmの高炭素
熱延鋼帯を、酸洗、脱スケールしたのち、表2に示す焼
鈍条件でそれぞれ焼鈍し、焼鈍処理した高炭素熱延コイ
ルの先端部、中央部、後端部から試験片を採取し、JI
S Z 2241に規定の金属材料引張試験方法に準じ
た引張試験(降伏点YS、引張強さTS、伸びEL)
と、JIS Z 2244に規定のビッカース硬さ試験
方法に準じて硬度測定を実施した。その結果を表3に示
す。
【0036】
【表1】
【0037】
【表2】
【0038】
【表3】
【0039】表2および表3に示すとおり、この発明で
規定した水素雰囲気で焼鈍した鋼種1の場合は、コイル
長手方向の機械的特性ならびに硬さがほぼ均一である
が、窒素雰囲気で焼鈍した鋼種2の場合は、コイル長手
方向の機械的特性ならびに硬さのバラツキが大きく、ま
た、加工性も低下していることは明らかである。
【0040】実施例2 化学成分の影響を調査するため、表4に示すとおり、こ
の発明の規定範囲の鋼No.1〜14、比較例の鋼N
o.15〜25の高炭素鋼を溶製して連続鋳造により幅
1000mm、厚さ227mmのスラブとなし、通常の
熱間圧延により製造した板厚2.3mm、幅1000m
mの高炭素熱延鋼帯を、酸洗、脱スケールしたのち、表
5に示す焼鈍条件でそれぞれ焼鈍し、焼鈍処理した高炭
素熱延コイルの中央部から試験片を採取し、実施例1と
同様に引張試験と、硬度測定を実施した。その結果を表
6に示す。
【0041】
【表4】
【0042】
【表5】
【0043】
【表6】
【0044】表4〜表6に示すとおり、鋼No.15、
16の熱延コイルは、C量が適正でないため、伸び(E
l)が劣化している。鋼No.17の熱延コイルは、S
iが多いため、十分に軟質な材料が得られない。鋼N
o.18の熱延コイルは、Mn量が低く、焼入れ性が不
足し、鋼No.19の熱延コイルは、Mnが高いため硬
度が高い。鋼No.20の熱延コイルは、Sol.Al
が低いため脱酸が不十分であり、鋼No.21の熱延コ
イルは、脱酸に対するSol.Alの効果が飽和してい
る。鋼No.22の熱延コイルは、N量が少なく、伸び
が低減している。鋼No.23の熱延コイルは、N量が
多く硬度が高くなっている。鋼No.24の熱延コイル
は、Sol.Al/Nが低いため伸びが劣化している。
鋼No.25の熱延コイルは、Sol.Al/Nが高い
ため硬度が高くなっている。この結果から、適当な焼鈍
条件で焼鈍を行っても、鋼成分がこの発明の範囲外であ
れば、硬度の上昇あるいは伸びの減少が起こることが理
解できる。
【0045】実施例3 熱延鋼帯の焼鈍条件の調査のため、表7に示すとおり、
この発明の規定範囲の条件1〜12、比較例の条件13
〜18の高炭素鋼を溶製して連続鋳造により幅1000
mm、厚さ227mmのスラブとなし、通常の熱間圧延
により製造した板厚2.3mm、幅1000mmの高炭
素熱延鋼帯を、酸洗、脱スケールしたのち、表8に示す
焼鈍条件でそれぞれ焼鈍し、焼鈍処理した高炭素熱延コ
イルの中央部から試験片を採取し、前記実施例1と同様
に引張試験と硬度測定を実施した。その結果を表9に示
す。なお、表8中の※1の焼鈍条件は、710℃で20
時間保持したのち、10℃/Hrで加熱して750℃で
15時間保持した後、10℃/Hrで冷却を実施、※2
の焼鈍条件は、710℃で20時間保持したのち、10
℃/Hrで加熱して750℃で1時間保持した後、10
℃/Hrで冷却を実施、※3の焼鈍条件は、710℃で
20時間保持したのち、10℃/Hrで加熱して750
℃で19時間保持した後、10℃/Hrで冷却を実施し
たことを示す。
【0046】この場合における代表的な焼鈍パターンを
図1に示す。図1中のパターンのa、bは、表8中の条
件3、10(適合例)であり、パターンのcは、表8中
の条件17(比較例)である。図1中のパターンのaで
は、加熱条件、均熱条件、冷却条件がこの発明の規定範
囲内に収まっている。パターンのbは、熱延コイル径の
大きい場合に適用したもので、熱延コイル径が大きい場
合、均一に加熱する際に最も加熱され難い位置をAc1
点以上に加熱しようとすると、最も加熱され易い位置が
Ac1点以上に保持される時間がこの発明の規定範囲よ
り長くなることが多い。そこで、熱延コイル全体が均一
に加熱されるまでAc1点直下に保持し、その後Ac1
以上に加熱することによって、この発明の規定範囲内に
収めることができた。パターンのcは、加熱条件、均熱
条件がこの発明の規定範囲内に収まっているが、冷却条
件がこの発明の規定範囲外の例である。
【0047】
【表7】
【0048】
【表8】
【0049】
【表9】
【0050】表7〜表9に示すとおり、条件1〜12の
適合例は、機械的特性ならびに硬度のいずれも安定して
いる。特に図1に示すパターンaで焼鈍した条件3の熱
延コイルは、良好な機械的特性ならびに硬度が得られ、
パターンbで焼鈍した条件10の熱延コイルは、良好な
機械的特性ならびに硬度が得られている。これに対し条
件13の熱延コイルは、均熱温度TAが高すぎたため、
伸びElが劣化し、条件14の熱延コイルは、均熱温度
Aが低すぎたため、十分に軟化しなかった。条件15
の熱延コイルは、加熱速度Tvが小さすぎたので、伸び
Elが劣化し、条件16の熱延コイルは、加熱速度Tv
が大きすぎたため、硬度および降伏応力YSの上昇が起
こっている。図1に示すパターンcで焼鈍した条件17
の熱延コイルは、冷却速度が大きすぎたため、硬度の上
昇および伸びElの劣化が起こっている。条件18の熱
延コイルは、均熱時間TAが長すぎたため、軟質ではあ
るが伸びElが非常に劣化している。以上の結果から明
らかなとおり、加熱速度Tv、均熱温度TAおよび冷却
速度がこの発明の規定範囲内でないと、軟質でかつ加工
性に優れた高炭素鋼帯が製造できないことが明らかであ
る。
【0051】実施例4 冷間圧延における圧下率の影響を調査のため、表10に
示すとおり、この発明の規定範囲の条件21〜23、比
較例の条件24、25の高炭素鋼を溶製して連続鋳造に
より幅1000mm、厚さ227mmのスラブとなし、
通常の熱間圧延により製造した板厚2.3mm、幅10
00mmの高炭素熱延鋼帯を、酸洗、脱スケールしたの
ち、表11に示す焼鈍条件でそれぞれ焼鈍し、しかるの
ち、酸洗、脱スケールして表12に示す条件で冷間圧延
と仕上げ焼鈍を行った。得られた各高炭素冷延コイル
は、中央部から試験片を採取し、前記実施例1と同様に
引張試験と硬度測定を実施した。その結果を表13に示
す。
【0052】
【表10】
【0053】
【表11】
【0054】
【表12】
【0055】
【表13】
【0056】表10〜表13に示すとおり、この発明の
規定範囲内の圧下率の条件21〜23の冷延コイルは、
いずれも良好な機械的特性と硬度が得られた。これに対
し、条件24の冷延コイルは、冷間圧延における圧下率
が低すぎたため、表面粗度が不十分であった。また、条
件25の冷延コイルは、冷間圧延における圧下率が高す
ぎたため、破断が発生し、硬度も高くなっていた。以上
の結果から冷間圧延における圧下率は、この発明の規定
範囲外では製品品質の悪化や、製造上の問題が発生する
ことが判明した。
【0057】
【発明の効果】この発明は、C:0.2〜0.8%、S
i:0.30%以下、Mn:0.20〜1.50%を含
有し、Sol.Al:0.01〜0.10%、N:0.
0020〜0.0100%で、かつSol.Al/N:
5〜10を満足させ、残部が実質的にFeおよび不可避
的不純物からなる高炭素鋼を、熱間圧延、酸洗、脱スケ
ールしたのち、95容量%以上の水素と残部が実質的に
窒素および不可避的不純物からなる雰囲気炉で、前述の
(1)〜(3)の条件で焼鈍処理することにより、フェ
ライトマトリックス中に粗大な球状化セメンタイトが均
一に分布し、焼鈍を行わない熱延鋼板や従来のAc1
以下の温度で焼鈍した熱延鋼板に比較し、非常に軟質で
加工性の良好な高炭素熱延鋼板を得ることができる。
【0058】また、上記高炭素鋼に必要によりBを0.
0005〜0.0030%含有させることによって、加
工後の加工製品の熱処理性を向上させることができ、強
靭な機械部品を得ることができる。
【0059】さらに、前記焼鈍処理した高炭素熱延鋼板
を、20〜90%の圧下率で冷間圧延し、引続き600
〜700℃の温度範囲で箱焼鈍を行うことにより、さら
に、軟質で加工性の向上が達成されると共に、冷間圧延
回数の削減、仕上げ焼鈍回数の削減による製造工程の短
縮が可能となる。
【0060】上記の結果この発明は、高炭素鋼板の製造
コストの低減が可能となり、低コスト、高品質の機械部
品用の高炭素鋼板を提供することができるという顕著な
効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例3中のこの発明の代表的な焼鈍パターン
a、bと、比較例の焼鈍パターンcの説明図である。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (51)Int.Cl.6 識別記号 庁内整理番号 FI 技術表示箇所 C22C 38/00 301 C22C 38/00 301S 38/06 38/06

Claims (3)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 C:0.2〜0.8%、Si:0.03
    〜0.30%、Mn:0.20〜1.50%を含有し、
    Sol.Al:0.01〜0.10%、N:0.002
    0〜0.0100%で、かつSol.Al/N:5〜1
    0を満足させ、残部が実質的にFeおよび不可避的不純
    物からなる高炭素鋼を、熱間圧延、酸洗、脱スケールし
    たのち、95容量%以上の水素と残部が実質的に窒素お
    よび不可避的不純物からなる雰囲気炉で、下記(1)〜
    (3)の条件で焼鈍処理することを特徴とする加工性に
    優れた高炭素鋼帯の製造方法。 (1) 加熱速度:680℃以上の温度範囲でTv(℃
    /Hr):500×(0.01−N(%)asAlN)
    〜2000×(0.1−N(%)asAlN)で規定さ
    れる加熱速度Tvで下記均熱温度TAまで加熱すること、 (2) 均熱温度および均熱時間:TA:Ac1点〜22
    2×C(%)2−411×C(%)+912で規定され
    る均熱温度TAで、1〜20時間均熱保持すること、 (3) 均熱保持後の冷却速度:100℃/Hr以下の
    冷却速度で室温まで冷却すること。
  2. 【請求項2】 C:0.2〜0.8%、Si:0.03
    〜0.30%以下、Mn:0.20〜1.50%を含有
    し、Sol.Al:0.01〜0.10%、N:0.0
    020〜0.0100%で、かつSol.Al/N:5
    〜10を満足させ、残部が実質的にFeおよび不可避的
    不純物からなる高炭素鋼を、熱間圧延、酸洗、脱スケー
    ルしたのち、95容量%以上の水素と残部が実質的に窒
    素および不可避的不純物からなる雰囲気炉で、下記
    (1)〜(3)の条件で焼鈍処理したのち、20〜90
    %の圧下率で冷間圧延し、引続き600〜700℃の温
    度範囲で箱焼鈍を行うことを特徴とする加工性に優れた
    高炭素鋼帯の製造方法。 (1) 加熱速度:680℃以上の温度範囲でTv(℃
    /Hr):500×(0.01−N(%)asAlN)
    〜2000×(0.1−N(%)asAlN)で規定さ
    れる加熱速度Tvで下記均熱温度TAまで加熱すること、 (2) 均熱温度および時間:TA:Ac1点〜222×
    C(%)2−411×C(%)+912で規定される温
    度TAで、1〜20時間均熱保持すること、 (3) 均熱保持後の冷却速度:100℃/Hr以下の
    冷却速度で室温まで冷却すること。
  3. 【請求項3】 高炭素鋼がC:0.2〜0.8%、S
    i:0.03〜0.30%、Mn:0.20〜1.50
    %を含有し、Sol.Al:0.01〜0.10%、
    N:0.0020〜0.0100%で、かつSol.A
    l/N:5〜10を満足させ、B:0.0005〜0.
    003%を含み、残部が実質的にFeおよび不可避的不
    純物からなることを特徴とする請求項1および2記載の
    加工性に優れた高炭素鋼帯の製造方法。
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