JP2606043B2 - BiSrCaCuO系超電導層と酸化ビスマス絶縁層とからなる受動デバイス用の多層膜、及びその製造方法 - Google Patents

BiSrCaCuO系超電導層と酸化ビスマス絶縁層とからなる受動デバイス用の多層膜、及びその製造方法

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Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明はBiSrCaCuO系超
電導層と酸化ビスマス絶縁層とからなる多層膜及びその
製造方法に係り、詳しくは、酸化ビスマス絶縁層が、B
iSrCaCuO系超電導体を用いた高周波デバイス等
の受動デバイスを作製する上で、当該超電導層の極めて
有効な保護膜として作用する、BiSrCaCuO系超
電導層と酸化ビスマス絶縁層とからなる受動デバイス用
多層膜及びその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】BiSrCaCuO系超電導薄膜は超電
導臨界温度(Tc)が高く、高周波デバイスや赤外線セ
ンサ等の受動素子への応用が期待されている。BiSr
CaCuO系超電導薄膜をこれらの各種デバイスに利用
する場合、該超電導層を保護するための優れた保護膜及
びその作製方法が望まれている。
【0003】ところで、従来、酸化物系超電導薄膜や絶
縁薄膜を製造する方法としては、スパッタリング法や蒸
着法等の物理的気相成長法(PVD法)や化学的気相成
長法(CVD法)が知られている。これらのうち、PV
D法では成膜速度の下限及び上限が比較的CVD法より
狭いという欠点がある。一方、CVD法は成膜速度の制
御範囲が広いため、原子層レベルの膜厚制御から、線材
用厚膜作製のための高速成膜まで可能である。更に、C
VD法は、PVD法に比べ、製造装置に要する経費、大
型化への容易性、高いスループット等の多くの利点を備
えている。
【0004】このようなことから、酸化物系超電導薄膜
やそれと絶縁薄膜との多層膜は、CVD法により製造す
るのが工業的に有利である。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】前述の如く、酸化物高
温超電導体を各種デバイスに利用する場合、超電導層を
保護するための優れた保護膜及びその作製方法が望まれ
ている。
【0006】しかして、従来において、スパッタリング
法や蒸着法等のPVD法により、保護膜が形成されてい
るが、BiSrCaCuO系超電導薄膜用の保護膜とし
て最適な材料は未だ見出されていない。また、PVD法
は製造装置に要する経費が高い、製造装置の大型化が難
しい、スループットが低いといった欠点を持っているた
め、最適な製造方法と言えなかった。このようなことか
ら、受動素子に極めて有効な保護膜を有するBiSrC
aCuO系超電導薄膜及びその製造技術が望まれてい
た。
【0007】本発明は上記従来の実情に鑑みてなされた
もので、高周波デバイスや赤外線センサ等の受動素子と
して極めて好適な、BiSrCaCuO系超電導薄膜と
絶縁層とからなる受動デバイス用の多層膜及びその製造
方法を提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】請求項1のBiSrCa
CuO系超電導層と酸化ビスマス絶縁層とからなる受動
デバイス用の多層膜は、MgO(100)単結晶よりな
る基板上に、BiSrCaCuO系超電導層と酸化ビス
マス絶縁層とが順次積層形成されてなる多層膜であっ
て、該BiSrCaCuO系超電導層の厚さが300〜
1000Åで、酸化ビスマス絶縁層の厚さが50〜50
0Åであり、かつ、該酸化ビスマス絶縁層を表面層とす
ことを特徴とする。
【0009】請求項のBiSrCaCuO系超電導層
と酸化ビスマス絶縁層とからなる受動デバイス用の多層
膜の製造方法は、請求項1の受動デバイス用の多層膜を
製造する方法であって、MgO(100)単結晶よりな
る基板上に、化学的気相成長法により、BiSrCaC
uO系薄膜と酸化ビスマス絶縁層とを連続して順次積層
形成するに当り、該BiSrCaCuO系薄膜を300
〜900℃の成膜温度で100〜0.1nm/minの
成膜温度で形成し、酸化ビスマス絶縁層を300〜85
0℃の成膜温度で10〜0.1nm/minの成膜速度
で形成することを特徴とする。
【0010】以下に本発明を詳細に説明する。本発明の
受動デバイス用の多層膜中のBiSrCaCuO系超電
導層を構成するBiSrCaCuO系超電導体として
は、例えば、 Bi2 Sr2 CaCu2 x Bi2 Sr2 Ca2 Cu3 y 等の化学組成を有するものが挙げられる。また、Tc
(臨界温度)を向上させるために、上記組成に更にPb
が一部含まれたものであっても良い。
【0011】一方、多層膜中の絶縁層を構成する絶縁体
としては、Bi2 3 の化学組成からなる酸化ビスマス
が採用される。
【0012】しかして、このようなBiSrCaCuO
系超電導層と酸化ビスマス絶縁層とからなる本発明の
動デバイス用の多層膜は、MgO(100)単結晶基板
上に、該BiSrCaCuO系超電導層と酸化ビスマス
絶縁層とを、所定の膜厚となるように、かつ、表面層が
酸化ビスマス絶縁層となるように化学的気相成長法(C
VD法)により連続的に順次成膜することにより製造さ
れる。
【0013】以下に本発明のBiSrCaCuO系超電
導層と酸化ビスマス絶縁層とからなる受動デバイス用の
多層膜の製造方法について説明する。
【0014】本発明のBiSrCaCuO系超電導層と
酸化ビスマス絶縁層とからなる受動デバイス用の多層膜
のうち、BiSrCaCuO系超電導層の薄膜は、当該
超電導体の化学組成に従った夫々の原料ガス、キャリア
ガス、酸化性ガスを用いて、上記MgO(100)単結
晶基板上に薄膜を堆積するCVD法によって製造する。
また、絶縁層である酸化ビスマス薄膜は、基板上にBi
SrCaCuO系超電導薄膜を形成した後、連続してB
iSrCaCuO系超電導薄膜の場合と同じBi原料ガ
ス、キャリアガス、酸化性ガスを用いて、当該BiSr
CaCuO系超電導薄膜上に形成される。
【0015】本発明で用いる原料ガスとしては、Bi,
Sr,Ca,Cu等の各々の有機金属錯体が挙げられ
る。有機金属錯体の有機部分、即ち、錯体の配位子とし
ては、アセチルアセトン(以下、「acac」と略
記)、ジピバロイルメタン(以下、「DPM」と略
記)、シクロペンタジエン、その他下記構造式で示され
る化合物が挙げられる。
【0016】 R−CO−CH2 −CO−C(CH3 3 (式中、Rは炭素数1〜4のフッ素化低級アルキル基を
示す。)これらの配位子を用いた場合には、金属錯体の
合成及び単離が容易となるため、原料ガスの調製に有利
であり、かつ、蒸気圧が比較的高いため、CVD用原料
ガスとして最適である。その他、配位子としては、フェ
ニル基(以下、「ph」と略記)、メチル基(以下、
「Me」と略記)、エチル基(以下、「Et」と略記)
等のアルキル基、アリール基も適用できる。なお、上記
構造式中Rで示されるフッ素化低級アルキル基として
は、具体的にはトリフルオロメチル基、ペンタフルオロ
エチル基(以下、「PPM」と略記)、ヘプタフルオロ
プロピル基等が挙げられる。
【0017】原料ガスとして用いられる具体的な有機金
属錯体としては、次のものを挙げることができる。 Bi(ph)3 ,Bi(DPM)3 , BiMe3 ,BiEt3 ,Biアルコラート, Sr(DPM)2 ,Sr(PPM)2 , Ca(DPM)2 ,Ca(PPM)2 , Cu(DPM)2 ,Cu(PPM)2 ,Cu(acac)2 本発明で原料ガスを反応器に供給するのに用いられるキ
ャリヤーガスとしては、Ar,He,Ne等の不活性ガ
ス、その他N2 等が挙げられる。
【0018】また、本発明で用いられる酸化性ガスとし
ては、O2 ,O3 ,Air,N2 O,NO,NO2 等が
挙げられる。更に、酸化力を高めるために、レーザーや
ランプを光源とする可視光や紫外光を酸化性ガスと併用
することや、上記酸化性ガスをプラズマ化することも可
能である。これらの酸化性ガスの全ガス中の分圧は、
0.01〜760torr、特に1〜100torrと
するのが好ましい。
【0019】本発明の方法において、BiSrCaCu
O系超電導薄膜の成膜温度は300〜900℃、好まし
くは600〜820℃とする。この成膜温度が300℃
未満では原料ガスの基板上での分解が困難となり、ま
た、900℃を超えると薄膜の溶融が起こるため、薄膜
の品質の劣化を招き好ましくない。成膜速度は、100
〜0.1nm/minとする。
【0020】一方、絶縁層である酸化ビスマス薄膜の成
膜温度は300〜850℃、好ましくは500〜800
℃とする。この成膜温度が300℃未満ではBi原料ガ
スの基板上での分解が困難となり、また、850℃を超
えると膜の溶融や界面での化学反応が起こるため、多層
膜の品質の劣化を招き好ましくない。成膜速度は、1
〜0.1nm/minとする。
【0021】このような本発明の多層膜は、例えば、M
gO(100)単結晶基板上にBiSrCaCuO系超
電導層と酸化ビスマス絶縁層とを積層形成した2層構造
の多層膜として、酸化ビスマス絶縁層を保護膜とする、
薄膜のBiSrCaCuO系超電導層を有する各種受動
素子等に極めて有用である。
【0022】本発明の多層膜において、BiSrCaC
uO系超電導層の膜厚300〜1000Å、酸化ビス
マス絶縁層の膜厚50〜500Åとする。本発明にお
いて、特に、BiSrCaCuO系超電導層の膜厚は重
要であり、この膜厚が300Å未満でも1000Åを超
えても、高周波デバイス等の受動デバイスとしての特性
に優れた多層膜を得ることはできない。
【0023】
【作用】MgO(100)単結晶よりなる基板に、所定
の膜厚のBiSrCaCuO系超電導層と酸化ビスマス
絶縁層とを酸化ビスマス層が表面層となるようにCVD
法により連続して順次積層形成することにより、超電導
体層を保護する良好な保護膜としての絶縁層を有する構
造の受動デバイス用の多層膜が容易かつ効率的に提供さ
れる。
【0024】
【実施例】以下に実施例及び比較例を挙げて、本発明を
より具体的に説明する。なお、以下において、ガス流量
はcc/minを1atm,25℃に換算した値scc
mで示す。実施例1 原料ガスとして下記表1のものを用い、表2に示す基板
及び成膜条件でBiSrCaCuO系超電導層の製造を
行なった。この、該BiSrCaCuO系超電導層の形
成後、連続して該BiSrCaCuO系超電導層で用い
たと同様のBi原料を用いて、表3に示す成膜条件で、
該BiSrCaCuO系超電導層上に酸化ビスマス層を
形成した。
【0025】
【表1】
【0026】
【表2】
【0027】
【表3】
【0028】その結果、厚さが約500ÅのBiSrC
aCuO系超電導層の上に、約100Å厚みの酸化ビス
マス層が形成された2層構造の多層膜を作製することが
できた。
【0029】得られた多層膜は、図1に示すように、B
iSrCaCuO系超電導層と絶縁層である酸化ビスマ
ス層との間で明確な超電導トンネルスペクトルが観察さ
れた。
【0030】即ち、トンネル測定は、超電導体−絶縁体
−常電導体(S−I−N)の準粒子トンネルを測定する
ことにより、超電導エネルギーギャップや状態密度を調
べるための測定である。その際、超電導体と絶縁体の間
に相互拡散があると、トンネルスペクトルが観察されな
くなることが知られている。図1からわかるように、本
実施例では、トンネルスペクトルは比較的はっきりとし
ており、超電導エネルギーギャップが認められる。これ
はBiSrCaCuO系超電導層と酸化ビスマス層との
間で相互拡散が生起していないことを示している。この
ことから、本発明の方法で作製された酸化ビスマス層
は、下層のBiSrCaCuO系超電導層にダメージを
与えない優れた保護膜であることが確認される。
【0031】
【発明の効果】以上詳述した通り、請求項1のBiSr
CaCuO系超電導層と酸化ビスマス絶縁層とからなる
受動デバイス用の多層膜によれば、高周波デバイス等の
受動デバイス等として有用な、超電導層の極めて有効な
保護膜を備える多層膜が提供される。
【0032】請求項の方法によれば、このような高特
性超電導材料よりなる受動デバイス用の多層膜が容易か
つ効率的に製造される。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例1で得られた多層膜の超電導トンネルス
ペクトルを示すグラフである。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (72)発明者 杉本 常実 東京都江東区東雲1丁目14番3号 財団 法人国際超電導産業技術研究センター超 電導工学研究所内 (72)発明者 藤田 重人 東京都江東区東雲1丁目14番3号 財団 法人国際超電導産業技術研究センター超 電導工学研究所内 (72)発明者 中尾 公一 東京都江東区東雲1丁目14番3号 財団 法人国際超電導産業技術研究センター超 電導工学研究所内 (72)発明者 塩原 融 東京都江東区東雲1丁目14番3号 財団 法人国際超電導産業技術研究センター超 電導工学研究所内 (56)参考文献 特開 平1−239027(JP,A) 特開 平1−275434(JP,A) 特開 平2−96386(JP,A) 特開 平2−87688(JP,A)

Claims (2)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 MgO(100)単結晶よりなる基板上
    に、BiSrCaCuO系超電導層と酸化ビスマス絶縁
    層とが順次積層形成されてなる多層膜であって、該Bi
    SrCaCuO系超電導層の厚さが300〜1000Å
    で、酸化ビスマス絶縁層の厚さが50〜500Åであ
    り、かつ、該酸化ビスマス絶縁層を表面層とすることを
    特徴とするBiSrCaCuO系薄膜と酸化ビスマス絶
    縁層とからなる受動デバイス用の多層膜。
  2. 【請求項2】 MgO(100)単結晶よりなる基板上
    に、化学的気相成長法により、BiSrCaCuO系薄
    膜と酸化ビスマス絶縁層とを連続して順次積層形成する
    受動デバイス用の多層膜の製造方法であって、該BiS
    rCaCuO系薄膜を300〜900℃の成膜温度で1
    00〜0.1nm/minの成膜温度で形成し、酸化ビ
    スマス絶縁層を300〜850℃の成膜温度で10〜
    0.1nm/minの成膜速度で形成することを特徴と
    する請求項1に記載の受動デバイス用の多層膜の製造方
    法。
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