JP2024121511A - リン含有ビニルベンジル化合物、その製造方法、これを含む難燃性樹脂組成物および電子回路基板用積層板 - Google Patents

リン含有ビニルベンジル化合物、その製造方法、これを含む難燃性樹脂組成物および電子回路基板用積層板 Download PDF

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Abstract

【課題】反応型リン系難燃剤として有用であり、硬化物における耐熱性と誘電特性に優れるリン含有化合物、これを含む硬性樹脂組成物、およびその硬化物を提供する。【解決手段】一般式(1)で表されるリン含有ビニルベンジル化合物。TIFF2024121511000023.tif14128(Arは、置換/非置換のC6~C30の芳香族環基;R1は、独立に一般式(2)で表される置換基又はビニルベンジル基であり、化合物中に式(2)で表される置換基とビニルベンジル基をそれぞれ少なくとも1つ含む;mは、3~6の整数)TIFF2024121511000024.tif32136(R2およびR3は、それぞれ独立してC1~C5の直鎖または分岐鎖のアルキル基;n2、n3は、独立に0~5の整数)【選択図】なし

Description

本発明は反応型リン化合物、特にリン含有ビニルベンジル化合物に関し、プラスチック材料の反応型難燃剤として有用である。
プラスチック材料は、優れた機械的特性、成形加工性から、建材や電気電子機器まで幅広い用途に使用されている。しかしながら、大抵のプラスチック材料は、燃えやすいため、使用される用途、例えば電気・電子製品やOA機器、通信機器等では、発熱発火、火災に対する安全性のため難燃化が必須となっている。
プラスチック材料の難燃化技術としては、ハロゲン系難燃剤、無機系難燃剤、リン系難燃剤等の添加型難燃剤の添加が樹脂種、用途に限らず一般的となっている。しかしながら、これらの中で臭素系を主とするハロゲン系難燃剤は、発がん性の高いダイオキシンの発生源となる可能性が指摘されており、昨今の環境負荷物質低減の動きに対応して使用を制限する方向に進んでいる。また、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム等無機系難燃剤は、吸熱による難燃化効果があるものの、十分な難燃化を達成するためには大量に添加する必要があり、プラスチック成形品の各種特性を低下させる原因となっている。
そのため、有害物質を発生させず、比較的少量の添加で難燃化が可能なリン系難燃剤が多く使用されているが、それでもブリードアウト等による加工性の低下や、ガラス転移温度の低下等、特性への影響は避けられない。
これら添加型難燃剤の問題を解決するために、難燃成分であるリン原子を含み、且つ反応性基を持つ反応型難燃剤が開発され、広く使用されてきた。電子・電機分野で多用されるエポキシ樹脂組成物に適用可能な反応型難燃剤としては、例えば、特許文献1には、エポキシ樹脂用の硬化剤として、ビスフェノールAとホルムアルデヒドを反応させ、ヒドロキシメチルビスフェノールAを得た後に9,10-ジヒドロ-9-オキサ-10-ホスファフェナントレン-10-オキサイド(以下、「DOPO」と略記する。)を反応させる事で得られるフェノール樹脂が開示され、特許文献2には、DOPOとキノン類を反応させた後にエポキシ樹脂と反応する事で得られるリン含有エポキシ樹脂が開示されている。これらの樹脂では、難燃剤のブリードアウト等加工性の問題は解決され、耐熱性等熱特性の悪化は見られない。この様に、添加型難燃剤に比較し、反応性の難燃剤を使用することで、一般的に添加型難燃剤の欠点を補うことが可能となることから、多くの難燃性エポキシ樹脂等が開発されている。
一方で近年、難燃性が必須となる電子・電気材料分野では、スマートフォンに代表される電子機器の急激な進化により、難燃剤を含む樹脂成分に対する要求は高度なものへと変化している。特に情報・通信分野では情報処理量の増大に伴い信号の高周波化が進行、伝送損失低減のために、この分野に使用される樹脂成分には低誘電率、低誘電正接が強く求められている。そこで、回路基板に代表される電子・電気材料分野では、エポキシ樹脂に変わって、より低誘電率・低誘電正接化が可能なラジカル重合性の樹脂が広く使用されるようになっている。そのため、反応性基がエポキシ基やエポキシ樹脂と反応性を有する難燃剤だけでなく、ラジカル重合性の樹脂と反応が可能な低誘電率・低誘電正接なハロゲンフリー難燃剤が求められている。
ラジカル重合性の官能基を持つハロゲンフリー難燃剤としては、特許文献3および特許文献4にDOPO骨格を含むビニルベンジルエーテル化合物が開示されている。また特許文献5には、リン酸エステル構造を含むビニルベンジル化合物化合物が開示されているが、低誘電率・低誘電正接の点で十分な特性とは言えない。また難燃性も十分とは言えず、難燃性を発現するためには多量の難燃剤を配合する必要があり、使用方法が限られる等の問題があった。そのため、ハロゲンフリー難燃性、耐熱性等の熱特性および誘電特性を満足するラジカル重合性基を含む難燃剤は未だ無い。
特開2013-166938号公報 特開平11-279258号公報 特開2004-331537号公報 特開2004-277322号公報 特開2022-16423号公報
従って、本発明が解決しようとする課題は、反応型リン系難燃剤として有用であり、硬化物における耐熱性と誘電特性、および難燃性に優れるリン含有化合物、これを含む硬性樹脂組成物、およびその硬化物を提供することにある。
本発明者は前記課題を鋭意検討した結果、特定の構造を持ったリン含有ビニルベンジ化合物が、耐熱性、誘電特性に優れることを見出し、本発明に至った。
すなわち、本発明は一般式(1)で表されることを特徴とするリン含有ビニルベンジル化合物である。
Figure 2024121511000001
一般式(1)において、Arは置換基を有しても良い炭素原子数6~30の芳香族環基であり、R1はそれぞれ独立に下記一般式(2)または(3)で表される置換基であるが、化合物中に一般式(2)で表される置換基と一般式(3)で表される置換基をそれぞれ少なくとも1つ含む。mは、3~6の整数である。
Figure 2024121511000002
一般式(2)において、R2およびR3は、それぞれ独立して炭素原子数1~5の直鎖または分岐鎖のアルキル基であり、n2、n3はそれぞれ独立に0~5の整数である。
Figure 2024121511000003
本発明は、Arが置換基を有していても良いベンゼン環、ナフタレン環、ビフェニル環およびアントラセン環から選択される芳香族環基である上記のリン含有ビニルベンジル化合物である。
本発明は、Arがベンゼン環である上記のリン含有ビニルベンジル化合物である。
本発明は、mが3である上記のリン含有ビニルベンジル化合物である。
本発明は、R1の2つが上記一般式(3)であり、1つが一般式(2)で表される置換基である化合物を10~80モル%、R1の1つが一般式(3)、2つが一般式(2)で表される置換基である化合物を5~50モル%、R1の3つが一般式(2)で表される置換基である化合物を1~50モル%含むことを特徴とする上記のリン含有ビニルベンジル化合物である。
本発明は、下記一般式(4)で表されるリン含有フェノール化合物とビニルベンジルハライドを反応させることを特徴とする上記のリン含有ビニルベンジル化合物の製造方法である。
Figure 2024121511000004
一般式(4)において、Ar、mは一般式(1)と同義であり、R4はそれぞれ独立に水素または下記一般式(2)で表される置換基であるが、少なくとも1つのR4は一般式(2)で表される置換基を含む。
Figure 2024121511000005
一般式(2)において、R2、R3、n2およびn3は上記と同じである。
本発明は、上記のリン含有ビニルベンジ化合物に熱硬化性樹脂又は熱可塑性樹脂の一種以上を配合してなることを特徴とする難燃性樹脂組成物である。
上記の難燃性樹脂組成物を使用して得られる電子回路基板用積層板である。
本発明のリン含有ビニルベンジル化合物は、従来にない、低い誘電率・誘電正接を示し、耐熱性の低下が少なく、更にハロゲンフリー難燃性の高い、電子機器の情報処理量増大に伴う高周波化における伝送損失を低減する反応型リン系難燃剤として非常に有用である。
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明のリン含有ビニルベンジル化合物は、下記一般式(1)で表される。
Figure 2024121511000006
一般式(1)において、Arは置換基を有しても良い炭素原子数6~30の芳香族環基である。芳香族環基としては、特に制限されないが、ベンゼン、フラン、ピロール、チオフェン、イミダゾール、ピラゾール、オキサゾール、イソキサゾール、チアゾール、イソチアゾール、ピリジン、ピリミジン、ピリダジン、ピラジン、トリアジン等の単環芳香族化合物から水素原子がm個除かれたもの;ナフタレン、アントラセン、フェナレン、フェナントレン、キノリン、イソキノリン、キナゾリン、フタラジン、プテリジン、クマリン、インドール、ベンゾイミダゾール、ベンゾフラン、アクリジン等の縮環芳香族化合物から水素原子がm個除かれたもの等が挙げられる。また、これらの芳香族化合物を複数組み合わせたものであってもよく、例えば、ビフェニル、ビナフタレン、ビピリジン、ビチオフェン、フェニルピリジン、フェニルチオフェン、テルフェニル、ジフェニルチオフェン、クアテルフェニル等の環集合芳香族化合物から水素原子がm個除かれたもの等が挙げられる。好ましくは、ベンゼン、ナフタレン、ビフェニルおよびアントラセンである。さらに好ましくは、ベンゼンである。
Arで表される芳香環上には、-OR1以外の置換基を含んでいても良い。置換基としては、炭素原子数1~10のアルキル基および炭素原子数1~10のアルコキシ基を、好ましくは炭素原子数1~10のアルキル基を挙げることができる。
炭素原子数1~10のアルキル基としては、特に制限されないが、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、tert-ペンチル基、ネオペンチル基、1,2-ジメチルプロピル基、n-ヘキシル基、イソヘキシル基、n-ノニル基、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、シクロノニル基が挙げられ、好ましくはメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基であり、さらに好ましくはメチル基、エチル基である。
炭素原子数1~10のアルコキシ基としては、特に制限されないが、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基、2-エチルヘキシルオキシ基、オクチルオキシ基、ノニルオキシ基等が挙げられる。これらの置換基を単独でも、2種以上を組み合わせても良い。
一般式(1)において、mは3~6の整数で、3または4が好ましく、3がより好ましい。R1はそれぞれ独立に下記一般式(2)または下記一般式(3)で表される置換基であるが、化合物中に一般式(2)で表される置換基と一般式(3)で表される置換基をそれぞれ少なくとも1つ含む。
一般式(1)のR1は、化合物中に一般式(2)で表されるリン含有基を少なくとも1つ含む。
Figure 2024121511000007
一般式(2)において、R2およびR3は、それぞれ独立して炭素原子数1~5の直鎖または分岐鎖のアルキル基である。
炭素原子数1~5のアルキル基の具体例としては、メチル、エチル、プロピル、イソプロピルn-ブチル、イソブチル、tert-ブチル、n-ペンチル、イソペンチル、ネオペンチル等が挙げられる。これらの中でも、製造面での反応性および入手のし易さの観点からメチル、エチル、プロピル、イソプロピルが好ましく、メチル基が特に好ましい。
n2、n3はそれぞれ独立に0~5の整数で、好ましくは0または2以上の整数であり、より好ましくは2である。n2、n3が1以上である場合、R、Rのベンゼン環上での置換位置は、特に限定されないが、それぞれ独立して、リン酸エステル結合に対して、オルト位またはメタ位に存在することが好ましい。オルト位にアルキル基がある事で、リン酸エステルが疎水的に遮断され、吸水率を低減、加水分解を抑制するため本発明のリン含有ビニルベンジル化合物の特性を更に向上する事ができる。そのため、リン酸エステル結合に対し2つのオルト位にアルキル基が置換されている事が特に好ましく、n2、n3は2以上が好ましい。
一般式(1)のR1は、化合物中に一般式(3)で表されるビニルベンジル基を少なくとも1つ含む。
Figure 2024121511000008
式(3)中、ビニル基のベンゼン環上での置換位置は、特に限定されないが、メチレン鎖の結合位置に対して、メタ位またはパラ位が好ましい。
本発明のリン含有ビニルベンジル化合物は、単一化合物で用いる必要は無く、一般式(2)で表される置換基の個数が異なる化合物を複数含んだ混合物であっても良い。一般式(2)で表される置換基の個数が増えるほど、難燃性、誘電特性が向上し、一般式(2)の構造が減少するほど反応性基である一般式(3)で表されるビニルベンジル基が増えるため、耐熱性が向上するとともに、難燃剤のブリードアウトを防止する事ができる。そのため、一般式(2)で表される置換基の個数が異なる化合物を複数含むことにより、バランスの良い特性とすることができる。そのため、本発明のリン含有ビニルベンジル化合物は、すべてのR1が一般式(2)である構造や、すべてのR1が一般式(3)で表される置換基である構造を含んでも良いが、難燃性と耐熱性をバランス良く発現するためには、下記のリン含有率を満たす必要がある。すなわち本発明のビニルベンジル化合物のリン含有率は1.5~12.0重量%であり、好ましくは2.0~11重量%であり、更に好ましくは3.0~10重量%である。
なお、本発明のリン含有ビニルベンジル化合物(混合物)は、効果を阻害しない限り、反応原料の多価ヒドロキシ化合物を含んでもよい。
本発明のリン含有ビニルベンジル化合物は、Arがベンゼンで、mが3である事が、原料入手の点から好ましい。更に好ましくは、R1の1つが一般式(2)で表される置換基であり、R1の2つが一般式(3)である化合物(リン含有基の1置換体、ビニルベンジル基の2置換体)を10~80モル%、R1の2つが一般式(2)で表される置換基であり、R1の1つが一般式(3)で表される化合物(リン含有基の2置換体、ビニルベンジル基の1置換体)を5~50モル%、R1の3つが一般式(2)で表される置換基である化合物(リン含有基の3置換体)を1~50モル%含むことで、難燃性、耐熱性及び誘電特性のバランスに優れる硬化物を得ることができる。より好ましくは、一般式(2)で表されるリン含有基の1置換体(ビニルベンジル基の2置換体)20~70モル%、リン含有基の2置換体(ビニルベンジル基の1置換体)10~40モル%、リン含有基の3置換体2~40モル%である。なお、すべてのR1が一般式(3)で表される化合物(ビニルベンジル基の3置換体)を含んでも良いが、その場合は30モル%未満であることが望ましい。
本発明のリン含有ビニルベンジル化合物(樹脂)は、平均分子量(Mw)が好ましくは200~3000、より好ましくは300~1500の範囲である。
上記の1置換体、2置換体、3置換体の組成は、液体クロマトグラフィー、サイズ排除クロマトグラフィー等で確認する事ができる。
次に、本発明のリン含有ビニルベンジル化合物の製造方法について説明する。本発明のリン含有ビニルベンジル化合物は、一般式(4)で表されるリン含有フェノール化合物とビニルベンジルハライドを反応させることで得られる。
Figure 2024121511000009
一般式(4)において、Ar、mは一般式(1)と同義であり、Rは水素または上記一般式(2)で表される置換基である。
一般式(4)で表されるリン含有フェノール化合物のリン含有率は、好ましくは1.5~15.0質量%であり、より好ましくは3.0~12.0質量%、さらに好ましくは5.0~10.0質量%であり、水酸基当量としては、好ましくは80~800g/eqであり、より好ましくは100~600g/eqである。上記の範囲のリン含有フェノール化合物を用いることで、好ましいリン含有率をもつ本発明のリン含有ビニルベンジル化合物を得ることができる。
一般式(4)で表されるリン含有フェノール化合物は、原料として一般式(5)で表される多価ヒドロキシ化合物を使用し、リン酸エステル化反応によって得ることができる。
Figure 2024121511000010
一般式(5)において、Ar、mは、一般式(1)と同義である。
ここで、mは3~6の数であり、水酸基を3個以上有する多価ヒドロキシ芳香族化合物を使用することが必要である。
一般式(4)で表されるリン含有フェノール化合物は、一般的な芳香族リン酸エステルの製造方法に準じて得ることができ、反応形態の一例としては、オキシハロゲン化リン(ハロゲン化ホスホリル)とフェノール類(多価ヒドロキシ芳香族化合物)を原料とするエステル化反応であり、脱ハロゲン化水素反応により、対応するリン酸エステルを得ることが出来る。
本発明の一般式(1)で表されるリン含有ビニルベンジルエーテル化合物は、式(4)で表されるリン含有フェノール化合物とビニルベンジルハライドの反応で得ることができる。
本発明に用いるビニルベンジルハライドとしては、例えば、p-ビニルベンジルクロライド、m-ビニルベンジルクロライド、p-ビニルベンジルブロマイド、m-ビニルベンジルブロマイド等が挙げられるが、これらに限定されるものではなく、単独で使用しても、2種類以上混合して使用してもよい。市販品としては、CMS-14(AGCセイミケミカル株式会社製、p-ビニルベンジルクロライド)、CMS-P(AGCセイミケミカル株式会社製、p-ビニルベンジルクロライドとm-ビニルベンジルクロライドの混合物)等が挙げられる。
リン含有フェノール化合物とビニルベンジルハライドとの配合割合は、リン含有フェノール化合物中の水酸基1モルに対して、ビニルベンジルハライドが0.8~4.0モルであり、0.95~2.0モルが好ましく、1.0~1.5モルがより好ましい。リン含有フェノール化合物1モルに対して、ビニルベンジルハライドが0.8モル未満では残存する水酸基が多くなり、耐熱性が低下し、また、4.0モルを越えると、未反応のビニルベンジルハライドの残存量が多くなるか、副反応の重合物が多くなりすぎる。
式(4)で表されるリン含有フェノール化合物とビニルベンジルハライドの反応では、ビニルベンジルハライドのハロゲンと反応し、リン含有フェノール化合物との反応を促進させる目的でアルカリ性化合物を加えることが好ましい。アルカリ性化合物としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物や、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム等のアルカリ土類金属の水酸化物や、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等アルカリ金属の炭酸塩等のアルカリ性の化合物が挙げられる。中でも、反応の促進効果と加水分解の抑制という点から、アルカリ金属の炭酸塩が好ましい。また、単独で使用しても、2種類以上併用してもよい。また、固形で使用しても水溶液等の溶液で使用してもよいが、水溶液が好ましい。アルカリ性化合物の使用量は、ビニルベンジルハライド1モルに対して、0.5~5.0モルであり、1~4モルが好ましく、1.2~3モルがより好ましい。アルカリ性化合物の使用量が0.5モル未満の場合、反応が十分行われない。一方、5.0モルを越えると、中和に必要な酸が多量に必要となる等経済的に好ましくない。
反応には、必要に応じて、触媒を使用することもできる。使用する触媒としては、例えば、ベンジルジメチルアミン等の第3級アミン類や、テトラメチルアンモニウムクロライド、テトラメチルアンモニウムブロマイド、テトラブチルアンモニウムブロマイド等の第4級アンモニウム塩類や、トリフェニルホスフィン、トリス(2,6-ジメトキシフェニル)ホスフィン等のホスフィン類や、ベンジルトリフェニルホスホニウムクロライド、テトラブチルホスホニウムブロマイド、エチルトリフェニルホスホニウムブロマイド、テトラブチルホスホニウムイオダイド等のホスホニウム塩類や、2-メチルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール等のイミダゾール類等の各種触媒が挙げられるが、これらに限定されるものではなく、単独で使用しても、2種類以上併用してもよい。触媒の使用量は、原料100重量部に対して、10重量部以下である。
反応に用いる溶媒としては、特に限定はなく、ヘキサン、へプタン、オクタン、デカン、ジメチルブタン、ペンテン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン等の炭化水素類や、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、アミルアルコール、ペンタノール、ヘキサノール、メチルアミルアルコール、ヘプタノール、シクロヘキサノール、ベンジルアルコール、フリフリルアルコール等のアルコール類や、エチルエーテル、イソプロピルエーテル、ブチルエーテル、ジイソアミルエーテル、メチルフェニルエーテル、エチルフェニルエーテル、アミルフェニルエーテル、エチルベンジルエーテル、ジオキサン、メチルフラン、テトラヒドロフラン等のエーテル類や、アセトン、メチルアセトン、メチルエチルケトン、メチルプロピルケトン、メチルブチルケトン、メチルアミルケトン、ジエチルケトン、エチルブチルケトン、ジプロピルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類や、メチルセロソルブ、メチルセロソルブアセテート、エチルセロソルブ、セロソルブアセテート、エチレングリコールイソプロピルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、メチルエチルカルビトール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド等が挙げられるが、これらに限定されるものではなく、単独で使用しても、2種類以上混合して使用してもよい。また、反応で生成した塩を水洗により除去する場合は水層を分液可能な溶媒を使用することが好ましい。例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等が挙げられる。
反応は、重合禁止剤の存在下で行ってもよい。重合禁止剤を添加することにより、反応に供するビニルベンジルハライド、または目的生成物であるビニルベンジルエーテル化合物が重合してオリゴマーを副生することを防止することができる。重合禁止剤には公知のものを制限なく用いることができ、ヒドロキノン、ヒドロキシモノメチルエーテル、t- ブチルカテコール、t - ブチルハイドロキノン、4-メトキシフェノール、4-メトキシ-1-ナフトール、フェノチアジン等の有機化合物の他、塩化銅、硫化銅等の銅化合物等が挙げられ、これらを組み合わせて使用してもよい。
この反応の終了後、得られた反応液(反応混合物)を必要により、反応溶媒の留去、溶媒置換等を実施し、水等による洗浄や、活性炭処理、シリカゲルクロマトグラフィー等の手段を利用して精製し、目的物である本発明のビニルベンジルエーテル化合物を取り出すことができる。
次に、本発明のリン含有ビニルベンジルエーテル化合物を必須成分とし、硬化性樹脂又は熱可塑性樹脂の一種以上を配合してなる難燃性樹脂組成物について説明する。
本発明の難燃性樹脂組成物において、配合割合は特に限定されるものではないが、例えば、硬化性樹脂及び熱可塑性樹脂の合計量100重量部に対して、リン含有ビニルベンジルエーテル化合物を10~300重量部配合するとよい。好ましくは50~250重量部、より好ましくは70~230重量部である。
硬化性樹脂としては、例えば、不飽和ポリエステル樹脂、硬化型マレイミド樹脂、エポキシ樹脂、ポリシアナート樹脂、フェノール樹脂、分子中に1個以上の重合性不飽和炭化水素基を有する1種以上のビニル化合物類等を挙げることができ、好ましくは、エポキシ樹脂、分子中に1個以上の重合性不飽和炭化水素基を有する1種以上のビニル化合物類である。
硬化性樹脂がエポキシ樹脂である場合、1分子中に2以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂から選ばれる1種以上のエポキシ樹脂であることが好ましい。かかるエポキシ樹脂としては、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、トリフェニルメタン型エポキシ樹脂、ビフェニルエポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、ビスフェノールA型エポキシ樹脂及びビスフェノールF型エポキシ樹脂等が挙げられる。これらは、単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。このようなエポキシ樹脂を用いることによって、本発明の難燃性樹脂組成物の有する、優れた誘電特性と流動性への影響を最小限に留め、硬化物の耐熱性と密着性を充分に高められると考えられる。
また、エポキシ樹脂を含む場合には、エポキシ樹脂の他に硬化剤を使用しても良い。硬化剤としては、特に制限されるものではなく、例えばフェノール系硬化剤、アミン系化合物、アミド系化合物、酸無水物系化合物、ナフトール系硬化剤、活性エステル系硬化剤、ベンゾオキサジン系硬化剤、シアネートエステル系硬化剤等が挙げられる。これらは1種又は2種以上組み合わせて使用してもよい。
更に、エポキシ樹脂を配合する場合には、必要に応じて硬化促進剤を用いることができる。例えば、アミン類、イミダゾール類、有機ホスフィン類、ルイス酸等である。添加量は、通常、エポキシ樹脂100重量部に対して、0.2~5重量部の範囲である。
硬化性樹脂として、分子中に1個以上の重合性不飽和炭化水素基を有する1種以上のビニル化合物類(以下、ビニル化合物類ともいう。)である場合、その種類は特に限定されない。すなわち、ビニル化合物類は、本発明のリン含有ビニルベンジルエーテル化合物と反応させることによって、架橋を形成させて、硬化させることができるものであればよい。重合性不飽和炭化水素基が炭素-炭素不飽和二重結合であるものがより好ましく、炭素-炭素不飽和二重結合を分子中に2個以上有する化合物がより好ましい。
硬化性樹脂としてのビニル化合物類の1分子当たりの炭素-炭素不飽和二重結合の平均個数(ビニル基(置換ビニル基を含む)の数。末端二重結合数ともいう。)は、ビニル化合物類のMwによって異なるが、例えば、1~20個であることが好ましく、2~18個であることがより好ましい。この末端二重結合数が少なすぎると、硬化物の耐熱性としては充分なものが得られにくい傾向がある。また、末端二重結合数が多すぎると、反応性が高くなりすぎ、例えば、硬化性樹脂組成物の保存安定性が低下したり、硬化性樹脂組成物の流動性が低下したりする等の不具合が発生するおそれがある。
ビニル化合物類としては、トリアリルイソシアヌレート(TAIC)等のトリアルケニルイソシアヌレート化合物、末端が(メタ)アクリロイル基やスチリル基で変性された変性ポリフェニレンエーテル(PPE)、分子中に(メタ)アクリロイル基を2個以上有する多官能(メタ)アクリレート化合物、ポリブタジエン等のように分子中にビニル基を2個以上有するビニル化合物(多官能ビニル化合物)、及びスチレン、ジビニルベンゼン等のビニルベンジル化合物等が挙げられる。この中でも、炭素-炭素二重結合を分子中に2個以上有するものが好ましく、具体的には、TAIC、多官能(メタ)アクリレート化合物、変性PPE樹脂、多官能ビニル化合物、及びジビニルベンゼン化合物等が挙げられる。これらを用いると、硬化反応により架橋がより好適に形成されると考えられ、硬化性樹脂組成物の硬化物の耐熱性をより高めることができる。また、これらを単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、炭素-炭素不飽和二重結合を分子中に1個有する化合物を併用してもよい。炭素-炭素不飽和二重結合を分子中に1個有する化合物としては、分子中にビニル基を1個有する化合物(モノビニル化合物)等が挙げられる。
熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリスチレン、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリエーテルサルホン樹脂、PPS樹脂、ポリシクロペンタジエン樹脂、ポリシクロオレフィン樹脂等や、既知の熱可塑性エラストマー(例えば、スチレン-エチレン-プロピレン共重合体、スチレン-エチレン-ブチレン共重合体、スチレン-ブタジエン共重合体、スチレン‐イソプレン共重合体、水添スチレン-ブタジエン共重合体、水添スチレン-イソプレン共重合体等)や、あるいはゴム類(例えばポリブタジエン、ポリイソプレン)を挙げることができる。好ましくは、ポリフェニレンエーテル樹脂(未変性)、水添スチレン-ブタジエン共重合体を挙げることができる。
本発明の樹脂組成物には、ラジカル重合開始剤(重合触媒ないし架橋剤)を配合しても良い。ラジカル開始剤としては、ベンゾイルパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、2,5-ジメチルヘキサン-2,5-ジハイドロパーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキシン-3、ジ-t-ブチルパーオキサイド、t-ブチルクミルパーオキサイド、1,3-ビス(ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、α,α’-ビス(t-ブチルパーオキシ-m-イソプロピル)ベンゼン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン、ジクミルパーオキサイド、ジ-t-ブチルパーオキシイソフタレート、t-ブチルパーオキシベンゾエート、2,2-ビス(t-ブチルパーオキシ)ブタン、2,2-ビス(t-ブチルパーオキシ)オクタン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、ジ(トリメチルシリル)パーオキサイド、トリメチルシリルトリフェニルシリルパーオキサイド等の過酸化物があるがこれらに限定されない。また過酸化物ではないが、2,3-ジメチル-2,3-ジフェニルブタンも、ラジカル重合開始剤として使用できる。しかし、これらの例に限定されるものではなく、ラジカル開始剤2種以上を組み合わせて用いてもよい。
ラジカル重合開始剤の配合量は、リン含有ビニルベンジルエーテル化合物100重量部に対して、好ましくは0.01~10重量部、より好ましくは0.1~5重量部である。
本発明の難燃性樹脂組成物には、充填剤を配合することができる。充填剤としては、難燃性樹脂組成物およびその硬化物の、耐熱性や難燃性を高めるために添加するもの等が挙げられ、公知の充填剤を使用することができるが、特に限定されない。また、充填剤を含有させることによって、耐熱性、寸法安定性や難燃性等をさらに高めることができる。具体的には、球状シリカ等のシリカ、アルミナ、酸化チタン、及びマイカ等の金属酸化物、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等の金属水酸化物、タルク、ホウ酸アルミニウム、硫酸バリウム、及び炭酸カルシウム等が挙げられる。水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムなどの金属水酸化物を用いた場合、難燃助剤として作用し、リン含有率が少なくても難燃性を確保することが出来る。この中でも、シリカ、マイカ、及びタルクが好ましく、球状シリカがより好ましい。また、これらの1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
充填剤は、そのまま用いてもよいが、エポキシシランタイプ、又はアミノシランタイプ等のシランカップリング剤で表面処理したものを用いてもよい。このシランカップリング剤としては、ラジカル重合開始剤との反応性との観点から、ビニルシランタイプ、メタクリロキシシランタイプ、アクリロキシシランタイプ、及びスチリルシランタイプのシランカップリング剤が好ましい。これにより、金属箔との接着強度や樹脂同士の層間接着強度が高まる。また、充填剤に予め表面処理する方法でなく、上記シランカップリング剤をインテグラルブレンド法で添加して用いてもよい。
充填剤の含有量は、充填剤を除く固形分(モノマー等の有機成分と難燃剤を含み、溶剤を除く。)の合計100重量部に対して、10~200重量部であることが好ましく、30~150重量部であることが好ましい。
本発明の樹脂組成物には、上記以外の添加剤をさらに含有してもよい。添加剤としては、例えば、シリコーン系消泡剤及びアクリル酸エステル系消泡剤等の消泡剤、熱安定剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤、染料や顔料、滑剤、湿潤分散剤等の分散剤等が挙げられる。
本発明の難燃性樹脂組成物またはこれを硬化させて得られる硬化物は、成型物、積層物、注型物、接着剤、塗膜、フィルムとして使用できる。例えば、半導体封止材料の硬化物は注型物又は成型物であり、かかる用途の硬化物を得る方法としては、難燃性樹脂組成物を注型、或いはトランスファ-成形機、射出成形機などを用いて成形し、さらに80~230℃で0.5~10時間に加熱することにより硬化物を得ることができる。
本発明の難燃性樹脂組成物は、プリプレグとして使用することもできる。プリプレグを製造する際には、プリプレグを形成するための基材(繊維質基材)に含浸する目的、あるいは回路基板を形成する回路基板材料とする目的でワニス状に調製して、樹脂ワニスとすることができる。この樹脂ワニスは、回路基板用に適し、回路基板材料用ワニスとして使用できる。なお、ここでいう回路基板材料の用途は、具体的には、プリント配線基板、プリント回路板、フレキシブルプリント配線板、ビルドアップ配線板等が挙げられる。
上記の樹脂ワニスに用いられる有機溶媒としては、硬化反応を阻害しないものであれば、特に限定されない。例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類;酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル等のエステル類;ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド等の極性溶剤類;トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素溶剤類等が挙げられ、これらを1種または2種以上を混合して使用することも可能である。誘電特性の観点から、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類が好ましい。
樹脂ワニスを作成する際に、使用する有機溶剤の量は、本発明の難燃性樹脂組成物100重量部に対して、好ましくは5~900重量部、より好ましくは10~700重量部、特に好ましくは20~500重量部である
プリプレグを作成するのに用いられる基材としては、公知の材料が用いられるが、例えば、ガラス繊維、カーボン繊維、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維、アルミナ繊維、紙などの基材がそれぞれ単独で、あるいは2種以上併せて用いられる。これら基材には、必要に応じて樹脂と基材の界面における接着性を改善する目的でカップリング剤を用いることができる。カップリング剤としては、シランカップリング剤、チタネートカップリング剤、アルミニウム系カップリング剤、ジルコアルミネートカップリング剤など一般のものが使用できる。
プリプレグを得る方法としては、上記樹脂ワニスを基材に含浸させた後、乾燥する方法が挙げられる。含浸は浸漬(ディッピング)、塗布等によって行われる。含浸は必要に応じて複数回繰り返すことも可能であり、またこの際、組成や濃度の異なる複数の溶液を用いて含浸を繰り返し、最終的に希望とする樹脂組成及び樹脂量に調整することも可能である。含浸後に、100~180℃で1~30分加熱乾燥することでプリプレグを得ることができる。ここで、プリプレグ中の樹脂量は、樹脂分30~80重量%とすることが好ましい。
本発明の難燃性樹脂組成物は、積層板としても使用することもできる。プリプレグを用いて積層板を形成する場合は、プリプレグを一又は複数枚積層し、片側又は両側に金属箔を配置して積層物を構成し、この積層物を加熱・加圧して積層一体化する。ここで金属箔としては、銅、アルミニウム、真鍮、ニッケル等の単独、合金、複合の金属箔を用いることができる。積層物を加熱加圧する条件としては、難燃性樹脂組成物が硬化する条件で適宜調整して加熱加圧すればよいが、加圧の圧力があまり低いと、得られる積層板の内部に気泡が残留し、電気的特性が低下する場合があるため、成形性を満足する条件で加圧することが好ましい。例えば温度を180~250℃、圧力を49.0~490.3N/cm2(5~50kgf/cm2)、加熱加圧時間を40~240分間にそれぞれ設定することができる。更にこのようにして得られた単層の積層板を内層材として、多層板を作製することができる。この場合、まず積層板にアディティブ法やサブトラクティブ法等にて回路形成を施し、形成された回路表面を酸溶液で処理して黒化処理を施して、内層材を得る。この内層材の、片側又は両側の回路形成面に、樹脂シート、樹脂付き金属箔、又はプリプレグにて絶縁層を形成すると共に、絶縁層の表面に導体層を形成して、多層板を形成するものである。
また、本発明の難燃性組成物をビルドアップフィルムに使用することもできる。本発明の樹脂組成物からビルドアップフィルムを製造する方法は、例えば、上記樹脂ワニスを、支持フィルム上に塗布、乾燥させてフィルム状の絶縁層を形成する方法が挙げられる。このようにして形成させたフィルム状の絶縁層は、多層プリント配線板用のビルドアップフィルムとして使用できる。
次に、実施例により本発明を説明するが、本発明はこれらにより限定されるものではない。各例中の部はいずれも質量部である。
なお、実施例中の各硬化物サンプルの物性測定は、以下に示す方法により行った。
(1)化合物の分子量及び分子量分布:分子量及び分子量分布測定はGPC(東ソー製、HLC-8120GPC)を使用し、溶媒にテトラヒドロフラン、流量1.0ml/min、カラム温度38℃、単分散ポリスチレンによる検量線を用いて行った。
(2)水酸基当量:100mLの共栓付フラスコに約6mg/eqの試料を精秤し、無水酢酸/ピリジン=3/1(容量比)で混合した試薬を3mL加え、冷却管を付け、ホットプレートで5分間加熱還流させ、5分間の放冷の後、1mLの水を加える。その液を、0.5mol/LのKOH/MeOH溶液で電位差滴定する事で算出した。
(3)リン含有率:試料に硫酸、塩酸、過塩素酸を加え、加熱して湿式灰化し、全てのリン原子をオルトリン酸とした。硫酸酸性溶液中でメタバナジン酸塩及びモリブデン酸塩を反応させ、生じたリンバナードモリブデン酸錯体の420nmにおける吸光度を測定し、予めリン酸二水素カリウムを用いて作成した検量線により、求めたリン原子含有率を質量%で表した。
(4)ガラス転移温度:株式会社日立ハイテクサイエンス製、示差走査熱量測定を用いて10℃/分の昇温速度で、ベースラインシフトから求めた。
(5)比誘電率及び誘電正接:IPC-TM-650 2.5.5.9規格に準じてマテリアルアナライザー(AGILENT Technologies社製)を用い、25℃、湿度60%環境下で容量法により周波数1GHzにおける誘電率(Dk)及び誘電正接(Df)を求めた。
(6)難燃性:UL94に準じ、試験片5本を用いて垂直法により評価した。評価は、試験片5本の合計燃焼時間とV-0、V-1、V-2の分類で記した。
合成例において下記の化合物を原料として用いた。
・オキシ塩化リン(東京化成工業株式会社製)
・2,6-ジメチルフェノール(東京化成工業株式会社製)
・フロログルシノール(東京化成工業株式会社製)
(合成例1)ジ2,6-キシリルホスホロクロリデート(DXPC)の合成
撹拌機、温度計および塩酸回収装置(水スクラバーを連結したコンデンサー)を備えた2Lの4つ口フラスコに、オキシ塩化リン(下記構造式)767g(5mol)、
Figure 2024121511000011
2,6-ジメチルフェノール(下記構造式)1200g(9.8mol)、
Figure 2024121511000012
溶剤としてのキシレン140g、触媒として塩化マグネシウム6.2g(0.065mol)を充填した。得られた混合溶液を撹拌しながら約3時間かけて温度160℃まで徐々に加熱昇温して反応させ、発生する塩化水素ガスを水スクラバーで回収した。その後、同温度でフラスコ内の圧力を徐々に20kPaまで減圧し、キシレンや未反応のオキシ塩化リンおよび2,6-ジメチルフェノール、副生する塩化水素を除去し、ジ2,6-キシリルホスホロクロリデート(DXPC:下記構造式)を主成分とする反応生成物1700gを得た。また、反応混合物の塩素含有率は10.9質量%であった。
Figure 2024121511000013
(合成例2)リン含有フェノール化合物Aの合成
撹拌機、温度計、塩酸回収装置(水スクラバーを連結したコンデンサー)を備えた200mLの4つ口フラスコに、メシチレン51.6g、フロログルシノール(下記構造式)
Figure 2024121511000014
12.6g(0.1mol)、合成例1で得られたジ2,6-キシリルホスホロクロリデート(DXPC)21.8g(0.06mol)、触媒として無水塩化マグネシウム0.4g(0.004mol)を充填した。得られた混合溶液を撹拌しながら155℃まで徐々に加熱昇温し155℃に到達してから18時間反応させ発生する塩化水素を捕集した。60℃に冷却後、酢酸エチル35gを加え、酸洗い、中和、2回の水洗いを行い、溶媒除去を行って化合物A26.1gを得た。
化合物Aは、水酸基当量125g/eq、リン含有率が6.4質量%であった。更に、GPCによりフロログルシノールの水酸基の1つがジ2,6-キシリルホスホロクロリデート(DXPC)と反応した化合物(1置換体、下記構造式)を68モル%、水酸基の2つがDXPCと反応した化合物(2置換体、下記構造式)を10モル%、水酸基の3つがDXPCと反応した化合物(3置換体、下記構造式)を2モル%、フロログルシノールを20モル%含むことを確認した。
Figure 2024121511000015
(合成例3)リン含有フェノール化合物Bの合成
撹拌機、温度計、塩酸回収装置(水スクラバーを連結したコンデンサー)を備えた200mLの4つ口フラスコに、メシチレン110.9g、フロログルシノール12.6g(0.1mol)、合成例1で得られたジ2,6-キシリルホスホロクロリデート54.5g(0.15mol)、触媒として無水塩化マグネシウム0.8g(0.008mol)を充填した。得られた混合溶液を撹拌しながら155℃まで徐々に加熱昇温し155℃に到達してから18時間反応させ発生する塩化水素を捕集した。60℃に冷却後、酢酸エチル60gを加え、酸洗い、中和、2回の水洗いを行い、溶媒除去を行ってリン含有フェノール化合物B51.2gを得た。
リン含有フェノール化合物Bは、水酸基当量412g/eq、リン含有率が8.4質量%であった。更に、GPCによりフロログルシノールの水酸基の1つがジ2,6-キシリルホスホロクロリデート(DXPC)と反応した化合物(1置換体)を39.5%、水酸基の2つがDXPCと反応した化合物(2置換体)を34.0モル%、水酸基の3つがDXPCと反応した化合物(3置換体)を25.0モル%、フロログルシノールを1.5モル%含むことを確認した。
(合成例4)リン含有フェノール化合物Cの合成
撹拌機、温度計、塩酸回収装置(水スクラバーを連結したコンデンサー)を備えた300mLの4つ口フラスコに、メシチレン249.5g、フロログルシノール12.6g(0.1mol)、合成例1で得られたジ2,6-キシリルホスホロクロリデート(DXPC)87.2g(0.24mol)、触媒として無水塩化マグネシウム1.2g(0.012mol)を充填した。得られた混合溶液を撹拌しながら155℃まで徐々に加熱昇温し155℃に到達してから18時間反応させ発生する塩化水素を捕集した。60℃に冷却後、酢酸エチル60gを加え、酸洗い、中和、2回の水洗いを行い、溶媒除去を行ってリン含有フェノール化合物C51.2gを得た。
化合物Cは、水酸基当量587g/eq、リン含有率が9.0質量%であった。更に、GPCによりフロログルシノールの水酸基の1つがジ2,6-キシリルホスホロクロリデート(DXPC)と反応した化合物(1置換体)を25モル%、水酸基の2つがDXPCと反応した化合物(2置換体)を35モル%、水酸基の3つがDXPCと反応した化合物(3置換体)を40モル%含むことを確認した。
(実施例1)リン含有ビニルベンジル化合物Aの合成
攪拌装置、温度計、冷却管を備えたガラス製セパラブルフラスコに、リン含有フェノール化合物A 100.0g、ジエチレングリコールジメチルエーテル 66.7gを仕込み、窒素雰囲気化で75℃に加温、溶解させた。ビニルベンジルクロライド(CMS-P、下記構造式)139.9g
Figure 2024121511000016
を加え、均一になった後にテトラブチルアンモニウムブロマイド7.2g、50%炭酸カリウム水溶液331.7gを加え、10時間反応を行った。
続いて、反応液を濃縮し、トルエン481.8gに溶解後、10%リン酸二水素ナトリウム水溶液で反応液を中和、水による洗浄を行った。更に、脱水して、ろ過、更に溶媒を濃縮することで、リン含有ビニルベンジルエーテル化合物Aの50%トルエン溶液 371.6gを得た。
リン含有ビニルベンジルエーテル化合物Aのリン含有率は、4.2%であった。更に、GPCによりリン含有フェノール化合物Aの1置換体の2つの水酸基がビニルベンジルエーテル基に置換された成分を69モル%、2置換体の1つの水酸基がビニルベンジルエーテル基に置換された成分を10モル%、3置換体の成分を3モル%、フロログルシノールの3つの水酸基がビニルベンジルエーテル基に置換された成分を18モル%含むことを確認した。
(実施例2)リン含有ビニルベンジル化合物Bの合成
攪拌装置、温度計、冷却管を備えたガラス製セパラブルフラスコに、リン含有フェノール化合物B 100.0g、ジエチレングリコールジメチルエーテル 66.7gを仕込み、窒素雰囲気化で75℃に加温、溶解させた。CMS-P 42.5gを加え、均一になった後にテトラブチルアンモニウムブロマイド4.3g、50%炭酸カリウム水溶液100.6gを加え、10時間反応を行った。
続いて、反応液を濃縮し、トルエン308.7gに溶解後、10%リン酸二水素ナトリウム水溶液で反応液を中和、水による洗浄を行った。更に、脱水して、ろ過、更に溶媒を濃縮することで、リン含有ビニルベンジルエーテル化合物Bの50%トルエン溶液238.2gを得た。
リン含有ビニルベンジルエーテル化合物Bのリン含有率は、6.9%であった。更に、GPCによりリン含有フェノール化合物Bの1置換体の2つの水酸基がビニルベンジルエーテル基に置換された成分を40モル%、2置換体の1つの水酸基がビニルベンジルエーテル基に置換された成分を34モル%、3置換体の成分を24モル%、フロログルシノールの3つの水酸基がビニルベンジル基に置換された成分を2モル%含むことを確認した。
(実施例3)リン含有ビニルベンジル化合物Cの合成
攪拌装置、温度計、冷却管を備えたガラス製セパラブルフラスコに、リン含有フェノール化合物C 100.0g、ジエチレングリコールジメチルエーテル 66.7gを仕込み、窒素雰囲気化で75℃に加温、溶解させた。CMS-P 29.8gを加え、均一になった後にテトラブチルアンモニウムブロマイド1.3g、50%炭酸カリウム水溶液70.6gを加え、10時間反応を行った。
続いて、反応液を濃縮し、トルエン286.2gに溶解後、10%リン酸二水素ナトリウム水溶液で反応液を中和、水による洗浄を行った。更に、脱水して、ろ過、更に溶媒を濃縮することで、リン含有ビニルベンジル化合物Cの50%トルエン溶液220.8 gを得た。
リン含有ビニルベンジル化合物Cのリン含有率は、7.6%であった。更に、GPCによりリン含有フェノール化合物Cの1置換体の2つの水酸基がビニルベンジルエーテル基に置換された成分を25モル%、2置換体の1つの水酸基がビニルベンジルエーテル基に置換された成分を35モル%、3置換体の成分を40モル%含むことを確認した。
(比較合成例1)リン含有ビニルベンジル化合物Dの合成
特開2022-16423に従って合成した。具体的には、撹拌機、温度計、滴下ロートおよびコンデンサーを備えた容量2リットルの4つ口フラスコに、2,3,5-トリメチルハイドロキノン320g、塩化水素捕捉剤としてピリジン135g、溶剤としてトルエン200gを充填した。また、滴下ロートに上記DXPC203gを充填した。
4つ口フラスコ中の混合溶液を撹拌しながら温度20℃まで加熱し、同温度(20℃)で維持しながら、滴下ロート中のDXPCを2時間かけて滴下した。滴下終了後、65℃まで加熱し、5時間撹拌し反応生成物を得た。得られた反応生成物を希塩酸および水で洗浄後、温度150℃まで加熱し、2kPaまで減圧して水、トルエン、低沸分を留去し、常温まで冷却することで黒褐色固体のリン含有フェノール化合物D330gを得た。
攪拌装置、温度計、冷却管、滴下ロートを備えたガラス製セパラブルフラスコに、リン含有フェノール化合物D200g、ジエチレングリコールジメチルエーテル 133.2gを仕込み、窒素雰囲気化で75℃に加温、溶解させた。CMS-P 128.6g加え、均一になった後にテトラブチルアンモニウムブロマイド8.2g、50%炭酸カリウム水溶液213.4gを加え、15時間反応を行った。
続いて、反応液を濃縮し、トルエン665.0gに溶解後、10%リン酸二水素ナトリウム水溶液で反応液を中和、水による洗浄を行った。更に、脱水して、ろ過、更に溶媒を濃縮することで、リン含有ビニルベンジルエーテル化合物Dのトルエン溶液381.5gを得た。
得られたリン含有メタクリロイル化合物Dのリン含有率は、5.2%であった。
実施例4~9、比較例1~5
<硬化性樹脂組成物の調整及び硬化物の作成>
各種成分を表1の割合で配合することでワニスを作成し、ペットフィルム上に塗布、130℃オーブンで5分乾燥させ樹脂組成物のフィルムを作成した。次に、このフィルムを粉砕することで、樹脂組成物の粉末を得た。更に、この粉末をステンレス製の鏡面板にスペーサーと伴に挟み、真空オーブンを用いて210℃90分間で成形することで硬化物のサンプルを得た。
<難燃試験片の作成>
各種成分を表1の割合で配合することでワニスを作成し、この樹脂ワニスをガラスクロス(日東紡績株式会社製;7628タイプ;品番 H258)に含浸させた後、130℃で5分間加熱することにより乾燥し、プリプレグを得た。
得られたプリプレグ8枚と、上下に銅箔(三井金属鉱業株式会社製、3EC-III、厚み35μm)を重ね、130℃×15分+190℃×80分の温度条件で2MPaの真空プレスを行い、1.6mm厚の積層板を得た。銅箔をエッチングし、カットすることで、難燃性試験片を得た。
OPE-2St:三菱ガス化学製株式会社製 末端スチリル変性ポリフェニレンエーテル樹脂
PX-200:大八化学工業株式会社製 芳香族縮合リン酸エステル、リン含有率9.0%
パーブチルP:日油社製1,3-ビス(ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン
その結果を表1に示した。
Figure 2024121511000017
本発明のリン含有ビニルベンジル化合物は、電気・電子製品やOA機器、通信機器、建材等に使用されるプラスチック材料の難燃化に有用であり、特に電子機器の情報処理量増大に伴う高周波化における伝送損失低減の反応型リン系難燃剤として有用である。

Claims (8)

  1. 一般式(1)で表されるリン含有ビニルベンジル化合物。
    Figure 2024121511000018
    一般式(1)において、Arは置換基を有しても良い炭素原子数6~30の芳香族環基であり、R1はそれぞれ独立に下記一般式(2)または(3)で表される置換基であるが、化合物中に一般式(2)で表される置換基と一般式(3)で表される置換基をそれぞれ少なくとも1つ含む。mは、3~6の整数である。
    Figure 2024121511000019
    一般式(2)において、R2およびR3は、それぞれ独立して炭素原子数1~5の直鎖または分岐鎖のアルキル基であり、n2、n3はそれぞれ独立に0~5の整数である。
    Figure 2024121511000020
  2. Arが置換基を有していても良いベンゼン環、ナフタレン環、ビフェニル環およびアントラセン環から選択される芳香族環基である請求項1に記載のリン含有ビニルベンジル化合物。
  3. Arがベンゼン環である請求項1に記載のリン含有ビニルベンジル化合物。
  4. mが3である請求項1に記載のリン含有ビニルベンジル化合物。
  5. R1の2つが上記一般式(3)で表される置換基であり、1つが一般式(2)で表される置換基である化合物を10~80モル%、R1の1つが一般式(3)で表される置換基であり、2つが一般式(2)で表される置換基である化合物を5~50モル%、およびR1の3つが一般式(2)で表される置換基である化合物を1~50モル%含むことを特徴とする請求項1に記載のビニルベンジル化合物。
  6. 一般式(4)で表されるリン含有フェノール化合物とビニルベンジルハライドを反応させることを特徴とする請求項1に記載のリン含有ビニルベンジルエーテル化合物の製造方法。
    Figure 2024121511000021
    一般式(4)において、Ar、mは一般式(1)と同義であり、R4はそれぞれ独立に水素または下記一般式(2)で表される置換基であるが、少なくとも1つのR4は一般式(2)で表される置換基を含む。
    Figure 2024121511000022
    一般式(2)において、R2、R3、n2およびn3は上記と同じである。
  7. 請求項1~5のいずれか1項に記載のリン含有ビニルベンジル化合物に熱硬化性樹脂又は熱可塑性樹脂の一種以上を配合してなることを特徴とする難燃性樹脂組成物。
  8. 請求項7に記載の難燃性樹脂組成物を使用して得られる電子回路基板用積層板。
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