JP2024075099A - アンモニア代謝能力の検出方法 - Google Patents

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卓広 蓮村
幸一 三澤
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Abstract

【課題】アンモニア代謝能力を検出するためのマーカー、及び当該マーカーを用いたアンモニア代謝能力の検出方法の提供。
【解決手段】被験者から採取された生体試料について、31種の遺伝子群より選択される少なくとも1つの遺伝子又はその発現産物の発現レベルを測定する工程を含む、当該被験者におけるアンモニア代謝能力を検出する方法。
【選択図】なし

Description

本発明は、アンモニア代謝能力の検出方法に関する。
体内のアンモニアは、主にタンパク質代謝や運動中のATPの分解などの過程で発生する。血中アンモニア濃度の上昇は食後の倦怠感をもたらす。また、アンモニアは、ピルビン酸からアセチルCoAへの酸化を阻害して疲労を起こさせる(非特許文献1参照)。持久力が高い程、血中アンモニア濃度の上昇が抑制されることが知られている。さらに、アンモニアが神経系の機能低下をもたらして中枢性疲労の原因になることや、筋肉での乳酸の蓄積を促進して筋肉疲労を促すことが知られている(特許文献1)。アンモニアは、疲労時の体臭の原因成分の一つでもある。
また、従来、血中アンモニアレベルとアルツハイマー病との間の関連性が様々提唱・示唆されており、最近、アンモニア曝露の持続時間及び大きさに依存して、脳アンモニアの上昇は、記憶機能障害、認知及び空間学習障害を含むアルツハイマー病に共通する典型的な神経学的症状を引き起こすことが報告され、慢性的に上昇したアンモニアレベルがアルツハイマー病の発症に関連するとの従来の推定が妥当であることが報告されている(非特許文献2)。
体内のアンモニアは、主に肝臓の尿素回路により無毒な尿素へと変換され、尿中に排出される。当該アンモニアの代謝能力の把握は、持久力の評価やアンモニアがもたらす各種症状への早期かつ適切な対処を可能とする。しかし、従来、全血測定による血中アンモニア濃度の測定が行われているものの、アンモニアの代謝能力の検出手法は見出されていない。
近年、生体試料中のDNAやRNA等の核酸の解析によりヒトの生体内の現在さらには将来の生理状態を調べる技術が開発されている。生体由来の核酸は、血液等の体液、分泌物、組織等から抽出することができる。さらに最近、皮膚表上脂質(skin surface lipids;SSL)に含まれるRNAを生体の解析用の試料として利用可能であることが報告されている(特許文献2)。
特開2000-239179号公報 国際公開公報第2018/008319号
Takeda et al, J Nutr Sci Vitaminol, 2011, 57:246-250 Jin Y.Y. et.al., Nutrients, 2018, 10, 564
本発明は、アンモニア代謝能力を検出するための検出マーカー、及び当該検出マーカーを用いたアンモニア代謝能力の検出方法を提供することに関する。
本発明者は、アンモニア代謝能力の高い者と、アンモニア代謝能力の低い者からSSLを採取し、SSL中に含まれるRNAの発現状態をシーケンス情報として網羅的に解析した結果、特定の遺伝子の発現レベルが両群間で有意に異なり、これを指標としてアンモニア代謝能力を検出できることを見出した。
すなわち、本発明は、以下の1)~3)に係るものである。
1)被験者から採取された生体試料について、下記表1に示す31種の遺伝子群より選択される少なくとも1つの遺伝子又はその発現産物の発現レベルを測定する工程を含む、当該被験者におけるアンモニア代謝能力を検出する方法。
2)前記遺伝子又はそれに由来する核酸と特異的にハイブリダイズするオリゴヌクレオチド、又は前記遺伝子の発現産物を認識する抗体を含有する、1)の方法に用いられるアンモニア代謝能力を検出するための検査用キット。
3)下記表1に示す31種の遺伝子群より選択される少なくとも1つの遺伝子又はその発現産物からなる、アンモニア代謝能力を検出するためのマーカー。
Figure 2024075099000001
本発明によれば、簡便且つ非侵襲的に、アンモニア代謝能力を検出することが可能である。これにより、個々人のアンモニア代謝能力を客観的指標に基づいて把握できる。
本明細書中で引用された全ての特許文献、非特許文献、及びその他の刊行物は、その全体が本明細書中において参考として援用される。
本発明において、「核酸」又は「ポリヌクレオチド」と云う用語は、DNA又はRNAを意味する。DNAには、cDNA、ゲノムDNA、及び合成DNAのいずれもが含まれ、「RNA」には、total RNA、mRNA、rRNA、tRNA、non-coding RNA及び合成のRNAのいずれもが含まれる。
本発明において「遺伝子」とは、ヒトゲノムDNAを含む2本鎖DNAの他、cDNAを含む1本鎖DNA(正鎖)、当該正鎖と相補的な配列を有する1本鎖DNA(相補鎖)、及びこれらの断片を包含するものであって、DNAを構成する塩基の配列情報の中に、何らかの生物学的情報が含まれているものを意味する。
また、本発明における「遺伝子」には、特定の塩基配列で表される「遺伝子」だけではなく、その同族体(すなわち、ホモログもしくはオーソログ)、遺伝子多型等の変異体、及び誘導体が包含される。
ここで、本明細書中に開示される遺伝子の名称は、NCBI([www.ncbi.nlm.nih.gov/])に記載のあるOfficial Symbolに従う。
本発明において、遺伝子の「発現産物」とは、遺伝子の転写産物及び翻訳産物を包含する概念である。「転写産物」とは、遺伝子(DNA)から転写されて生じるRNAであり、「翻訳産物」とは、RNAに基づき翻訳合成される、遺伝子にコードされたタンパク質を意味する。
本発明において、「アンモニア代謝能力」とは、体内のアンモニアを無毒化、除去する能力をいう。体内のアンモニアの無毒化としては、肝臓の尿素回路での尿素への変換、骨格筋、脳、腎臓等におけるグルタミン合成酵素によるグルタミンへの変換等が挙げられる。
アンモニア代謝能力は、例えば、血中アンモニア変化量により、アンモニア代謝能力が高い(高アンモニア代謝能力)、又はアンモニア代謝能力が低い(低アンモニア代謝能力)のように分けることができる。「血中アンモニア変化量」は、運動直後の血中アンモニア濃度から運動直前(安静時)の血中アンモニア濃度を引いた値である。運動は、特に制限はないが、例えば、乳酸性閾値を超えるような、最大心拍数の75-80%程度の、中~高強度以上の運動強度の運動が挙げられる。本発明においては、血中アンモニア変化量が小さい、例えば、40N-μg/dL以下の時、アンモニア代謝能力が高い(高アンモニア代謝能力)と判断することができ、また、血中アンモニア変化量が大きい、例えば、60N-μg/dL以上の時、アンモニア代謝能力が低い(低アンモニア代謝能力)と判断される。
本発明において、アンモニア代謝能力の「検出」とは、アンモニア代謝能力の程度を明らかにする意味であり、検査、測定、判定又は評価等の用語で言い換えることもできる。なお、本発明におけるアンモニア代謝能力の「検出」、「検査」、「測定」、「判定」又は「評価」という用語は、医師による診断を含むものではない。
後述する実施例に示すように、アンモニア代謝能力が高い群と、アンモニア代謝能力が低い群の間で、全顔から採取したSSLにおいて発現レベルが異なっている遺伝子が見出された。すなわち、当該SSLから抽出されたRNAの発現量のデータ(リードカウント値)について、DESeq2(Love MI et al. Genome Biol. 2014)を用いて補正されたカウント値(Normalized count値)を用いて、アンモニア代謝能力が高い群とアンモニア代謝能力が低い群の2群間でFDR(False discovery rate)を制御した(FDR<0.25)調整済みp値が0.05未満である発現差異遺伝子を抽出することにより、アンモニア代謝能力が高い群で発現が上昇する遺伝子27種(下記表2の「up」)、発現が低下する遺伝子4種(下記表2の「down」)、計31遺伝子が同定された。
したがって、斯かる31種の遺伝子群より選択される遺伝子又はその発現産物は、アンモニア代謝能力を検出するためのマーカーとなり得る。この場合、アンモニア代謝能力が高い群で発現が上昇する27遺伝子又はその発現産物はポジティブマーカーであり、発現が低下する4遺伝子又はその発現産物はネガティブマーカーである。
Figure 2024075099000002
当該31種の遺伝子は、これまでにアンモニア代謝能力との関係が報告されていない遺伝子であり、これら遺伝子群より選択される遺伝子又はその発現産物は、アンモニア代謝能力を検出するための新規な検出マーカーである。
本発明では、当該31種の遺伝子群より選択される少なくとも1種の遺伝子又はその発現産物を検出マーカーとし、その発現レベルに基づいてアンモニア代謝能力を検出することが可能である。
アンモニア代謝能力の検出により、アンモニア代謝能力を把握することができ、持久力や体臭体質、タンパク質食耐性等の推定が可能であり、また、疲労や神経学的症状といったアンモニアがもたらす各種症状への対応に役立てることができる。
上記表2に示す31種の遺伝子は、それぞれ単独でアンモニア代謝能力を検出するための検出マーカーとなり得るが、このうち、精度向上の観点から、好ましくは2種以上、より好ましくは5種以上、さらに好ましくは31種全ての組み合わせを用いる。なかでも、NCOA3、KRT31、WDR44、ITGAX、PPIG、KRTAP1-1、KRTAP1-5及びKRTAP3-1の8種の遺伝子群から1種以上、好ましくは2種以上を選択することがより好ましい。
上記のアンモニア代謝能力を検出するためのマーカーとなり得る遺伝子(以下、「標的遺伝子」とも称す)には、アンモニア代謝能力を検出するためのマーカーとなり得る限り、当該遺伝子を構成するDNAの塩基配列と実質的に同一の塩基配列を有する遺伝子も包含される。ここで、実質的に同一の塩基配列とは、例えば、相同性計算アルゴリズムNCBI BLASTを用い、期待値=10;ギャップを許す;フィルタリング=ON;マッチスコア=1;ミスマッチスコア=-3の条件にて検索をした場合、当該遺伝子を構成するDNAの塩基配列と90%以上、好ましくは95%以上、より好ましくは98%以上、さらに好ましくは99%以上の同一性があることを意味する。
本発明のアンモニア代謝能力を検出する方法は、被験者から採取された生体試料について、表2で示される31種の遺伝子群より選択される少なくとも1つの遺伝子又はその発現産物の発現レベルを測定する工程を含む。
本発明における被験者は、例えば、アンモニア代謝能力の検出を所望するか又は必要とする被験者が挙げられる。例えば、アスリートのように身体能力向上の目標値/指標として自身の運動能力、運動適性を知りたい人や、客観的な疲労度を知る(客観的な休み時を知る)、脳機能低下の原因を知りたい人、体臭体質を知りたい人などが挙げられる。
本発明において用いられる生体試料としては、本発明の遺伝子が発現変化する細胞、組織及び生体材料であればよい。具体的には臓器、皮膚、血液、尿、唾液、汗、角層、皮膚表上脂質(SSL)、組織浸出液等の体液、血液から調製された血清、血漿、その他、便、毛髪等が挙げられ、好ましくは皮膚又は皮膚表上脂質(SSL)、より好ましくは皮膚表上脂質(SSL)が挙げられる。本発明において、SSLが採取される皮膚の部位としては、特に限定されず、頭、顔、首、体幹、手足等の身体の任意の部位の皮膚が挙げられるが、好ましくは顔、より好ましくは全顔の皮膚である。
本発明において、「皮膚表上脂質(SSL)」とは、皮膚の表上に存在する脂溶性画分をいい、皮脂と呼ばれることもある。一般に、SSLは、皮膚にある皮脂腺等の外分泌腺から分泌された分泌物を主に含み、皮膚表面を覆う薄い層の形で皮膚表上に存在している。SSLは、皮膚細胞で発現したRNAを含む。(前記特許文献2参照)。また本発明において、「皮膚」とは、特に限定しない限り、角層、表皮、真皮、毛包、ならびに汗腺、皮脂腺及びその他の腺等の組織を含む領域の総称である。
被験者の皮膚からのSSLの採取には、皮膚からのSSLの回収又は除去に用いられているあらゆる手段を採用することができる。好ましくは、後述するSSL吸収性素材、SSL接着性素材、又は皮膚からSSLをこすり落とす器具を使用することができる。SSL吸収性素材又はSSL接着性素材としては、SSLに親和性を有する素材であれば特に限定されず、例えばポリプロピレン、パルプ等が挙げられる。皮膚からのSSLの採取手順のより詳細な例としては、あぶら取り紙、あぶら取りフィルム等のシート状素材へSSLを吸収させる方法、ガラス板、テープ等へSSLを接着させる方法、スパーテル、スクレイパー等によりSSLをこすり落として回収する方法、等が挙げられる。SSLの吸着性を向上させるため、脂溶性の高い溶媒を予め含ませたSSL吸収性素材を用いてもよい。一方、SSL吸収性素材は、水溶性の高い溶媒や水分を含んでいるとSSLの吸着が阻害されるため、水溶性の高い溶媒や水分の含有量が少ないことが好ましい。SSL吸収性素材は、乾燥した状態で用いることが好ましい。
被験者から採取されたRNA含有SSLは一定期間保存されてもよい。採取されたSSLは、含有するRNAの分解を極力抑えるために、採取後できるだけ速やかに低温条件で保存することが好ましい。本発明における該RNA含有SSLの保存の温度条件は、0℃以下であればよく、好ましくは-20±20℃~-80±20℃、より好ましくは-20±10℃~-80±10℃、さらに好ましくは-20±20℃~-40±20℃、さらに好ましくは-20±10℃~-40±10℃、さらに好ましくは-20±10℃、さらに好ましくは-20±5℃である。該RNA含有SSLの該低温条件での保存の期間は、特に限定されないが、好ましくは12か月以下、例えば6時間以上12ヶ月以下、より好ましくは6ヶ月以下、例えば1日間以上6ヶ月以下、さらに好ましくは3ヶ月以下、例えば3日間以上3ヶ月以下である。
本発明において、標的遺伝子又はその発現産物の発現レベルの測定対象としては、RNA、そのRNAをエンコードするDNA、そのRNAにコードされるタンパク質、該タンパク質と相互作用をする分子、そのRNAと相互作用する分子、又はそのDNAと相互作用する分子等が挙げられ、RNAが好ましく、より好ましくはmRNAである。ここで、RNA、DNA又はタンパク質と相互作用する分子としては、DNA、RNA、タンパク質、多糖、オリゴ糖、単糖、脂質、脂肪酸、及びこれらのリン酸化物、アルキル化物、糖付加物等、及び上記いずれかの複合体が挙げられる。また、発現レベルとは、当該遺伝子又は発現産物の発現量や活性を包括的に意味する。
本発明の方法においては、好ましい態様として、生体試料としてSSLが用いられるが、この場合にはSSLに含まれるmRNAの発現レベルが解析され、具体的にはRNAを逆転写によりcDNAに変換した後、該cDNA又はその増幅産物が測定される。
SSLからのRNAの抽出には、生体試料からのRNAの抽出又は精製に通常使用される方法、例えば、フェノール/クロロホルム法、AGPC(acid guanidinium thiocyanate-phenol-chloroform extraction)法、又はTRIzol(登録商標)、RNeasy(登録商標)、QIAzol(登録商標)等のカラムを用いた方法、シリカをコーティングした特殊な磁性体粒子を用いる方法、Solid Phase Reversible Immobilization磁性体粒子を用いる方法、ISOGEN等の市販のRNA抽出試薬による抽出等を用いることができる。
該逆転写には、解析したい特定のRNAを標的としたプライマーを用いてもよいが、より包括的な核酸の保存及び解析のためにはランダムプライマーを用いることが好ましい。該逆転写には、一般的な逆転写酵素又は逆転写試薬キットを使用することができる。好適には、正確性及び効率性の高い逆転写酵素又は逆転写試薬キットが用いられ、その例としては、M-MLV Reverse Transcriptase及びその改変体、あるいは市販の逆転写酵素又は逆転写試薬キット、例えばPrimeScript(登録商標)Reverse Transcriptaseシリーズ(タカラバイオ社)、SuperScript(登録商標)Reverse Transcriptaseシリーズ(Thermo Scientific社)等が挙げられる。SuperScript(登録商標)III Reverse Transcriptase、SuperScript(登録商標)VILO cDNA Synthesis kit(いずれもThermo Scientific社)等が好ましく用いられる。
該逆転写における伸長反応は、温度を好ましくは42℃±1℃、より好ましくは42℃±0.5℃、さらに好ましくは42℃±0.25℃に調整し、一方、反応時間を好ましくは60分間以上、より好ましくは80~120分間に調整するのが好ましい。
発現レベルを測定する方法は、RNA、cDNA又はDNAを対象とする場合、これらにハイブリダイズするDNAをプライマーとしたPCR法、リアルタイムRT-PCR法、マルチプレックスPCR、SmartAmp法、LAMP法等に代表される核酸増幅法、これらにハイブリダイズする核酸をプローブとして用いるハイブリダイゼーション法(DNAチップ、DNAマイクロアレイ、ドットブロットハイブリダイゼーション、スロットブロットハイブリダイゼーション、ノーザンブロットハイブリダイゼーション等)、塩基配列を決定する方法(シーケンシング)、又はこれらを組み合わせた方法から選ぶことができる。
PCRでは、解析したい特定のDNAを標的としたプライマーペアを用いて該特定の1種のDNAのみを増幅してもよいが、複数のプライマーペアを用いて同時に複数の特定のDNAを増幅してもよい。好ましくは、該PCRはマルチプレックスPCRである。マルチプレックスPCRは、PCR反応系に複数のプライマー対を同時に使用することで、複数の遺伝子領域を同時に増幅する方法である。マルチプレックスPCRは、市販のキット(例えば、Ion AmpliSeqTranscriptome Human Gene Expression Kit;ライフテクノロジーズジャパン株式会社等)を用いて実施することができる。
該PCRにおけるアニーリング及び伸長反応の温度は、使用するプライマーに依存するため一概には言えないが、上記のマルチプレックスPCRキットを用いる場合、好ましくは62℃±1℃、より好ましくは62℃±0.5℃、さらに好ましくは62℃±0.25℃である。したがって、該PCRでは、好ましくはアニーリング及び伸長反応が1ステップで行われる。該アニーリング及び伸長反応のステップの時間は、増幅すべきDNAのサイズ等に依存して調整され得るが、好ましくは14~18分間である。該PCRにおける変性反応の条件は、増幅すべきDNAに依存して調整され得るが、好ましくは95~99℃で10~60秒間である。上記のような温度及び時間での逆転写及びPCRは、一般的にPCRに使用されるサーマルサイクラーを用いて実行することができる。
当該PCRで得られた反応産物の精製は、反応産物のサイズ分離によって行われることが好ましい。サイズ分離により、目的のPCR反応産物を、PCR反応液中に含まれるプライマーやその他の不純物から分離することができる。DNAのサイズ分離は、例えば、サイズ分離カラムや、サイズ分離チップ、サイズ分離に利用可能な磁気ビーズ等によって行うことができる。サイズ分離に利用可能な磁気ビーズの好ましい例としては、Ampure XP等のSolid Phase Reversible Immobilization(SPRI)磁性ビーズが挙げられる。
精製したPCR反応産物に対して、その後の定量解析を行うために必要なさらなる処理を施してもよい。例えば、DNAのシーケンシングのために、精製したPCR反応産物を、適切なバッファー溶液へと調製したり、PCR増幅されたDNAに含まれるPCRプライマー領域を切断したり、増幅されたDNAにアダプター配列をさらに付加したりしてもよい。例えば、精製したPCR反応産物をバッファー溶液へと調製し、増幅DNAに対してPCRプライマー配列の除去及びアダプターライゲーションを行い、得られた反応産物を、必要に応じて増幅して、定量解析のためのライブラリーを調製することができる。これらの操作は、例えば、SuperScript(登録商標)VILO cDNA Synthesis kit(ライフテクノロジーズジャパン株式会社)に付属している5×VILO RT Reaction Mix、及びIon AmpliSeq Transcriptome Human Gene Expression Kit(ライフテクノロジーズジャパン株式会社)に付属している5×Ion AmpliSeq HiFi Mix、及びIon AmpliSeq Transcriptome Human Gene Expression Core Panelを用いて、各キット付属のプロトコルに従って行うことができる。
ノーザンブロットハイブリダイゼーション法を利用して標的遺伝子又はそれに由来する核酸の発現量を測定する場合は、例えば、まずプローブDNAを放射性同位元素、蛍光物質等で標識し、次いで、得られた標識DNAを、常法に従ってナイロンメンブレン等にトランスファーした生体試料由来のRNAとハイブリダイズさせる。その後、形成された標識DNAとRNAとの二重鎖を、標識物に由来するシグナルを検出することにより測定する方法が挙げられる。
RT-PCR法を用いて標的遺伝子又はそれに由来する核酸の発現量を測定する場合は、例えば、まず生体試料由来のRNAから常法に従ってcDNAを調製し、これを鋳型として本発明の標的遺伝子が増幅できるように調製した一対のプライマー(上記cDNA(-鎖)に結合する正鎖、+鎖に結合する逆鎖)をこれとハイブリダイズさせる。その後、常法に従ってPCR法を行い、得られた増幅二本鎖DNAを検出する。増幅された二本鎖DNAの検出には、予めRI、蛍光物質等で標識しておいたプライマーを用いて上記PCRを行うことによって産生される標識二本鎖DNAを検出する方法等を用いることができる。
DNAマイクロアレイを用いて標的遺伝子又はそれに由来する核酸の発現量を測定する場合は、例えば、支持体に本発明の標的遺伝子由来の核酸(cDNA又はDNA)の少なくとも1種を固定化したアレイを用い、mRNAから調製した標識化cDNA又はcRNAをマイクロアレイ上に結合させ、マイクロアレイ上の標識を検出することによって、mRNAの発現量を測定することができる。
前記アレイに固定化される核酸としては、ストリンジェントな条件下に特異的(すなわち、実質的に目的の核酸のみに)にハイブリダイズする核酸であればよく、例えば、本発明の標的遺伝子の全配列を有する核酸であってもよく、部分配列からなる核酸であってもよい。ここで、「部分配列」とは、少なくとも15~25塩基からなる核酸が挙げられる。ここでストリンジェントな条件は、通常「1×SSC、0.1%SDS、37℃」程度の洗浄条件を挙げることができ、より厳しいハイブリダイズ条件としては「0.5×SSC、0.1%SDS、42℃」程度、さらに厳しいハイブリダイズ条件としては「0.1×SSC、0.1%SDS、65℃」程度の条件を挙げることができる。ハイブリダイズ条件は、J. Sambrook et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Thrd Edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press (2001)等に記載されている。
シーケンシングによって標的遺伝子又はそれに由来する核酸の発現量を測定する場合は、例えば、次世代シーケンサー(例えばIon S5/XLシステム、ライフテクノロジーズジャパン株式会社)が用いて解析することが挙げられる。シーケンシングで作成されたリードの数(リードカウント)に基づいて、RNA発現を定量することができる。
上記の測定に用いられるプローブ又はプライマー、すなわち、本発明の標的遺伝子又はそれに由来する核酸を特異的に認識し増幅するためのプライマー、又は該RNA又はそれに由来する核酸を特異的に検出するためのプローブがこれに該当するが、これらは、当該標的遺伝子を構成する塩基配列に基づいて設計することができる。ここで「特異的に認識する」とは、例えばノーザンブロット法において、実質的に本発明の標的遺伝子又はそれに由来する核酸のみを検出できること、また例えばRT-PCR法において、実質的に当該核酸のみが増幅される如く、当該検出物又は生成物が当該遺伝子又はそれに由来する核酸であると判断できることを意味する。
具体的には、本発明の標的遺伝子を構成する塩基配列からなるDNA又はその相補鎖に相補的な一定数のヌクレオチドを含むオリゴヌクレオチドを利用することができる。ここで「相補鎖」とは、A:T(RNAの場合はU)、G:Cの塩基対からなる2本鎖DNAの一方の鎖に対する他方の鎖を指す。また、「相補的」とは、当該一定数の連続したヌクレオチド領域で完全に相補配列である場合に限られず、好ましくは80%以上、より好ましくは85%以上、さらに好ましくは90%以上、よりさらに好ましくは95%以上、よりさらに好ましくは98%以上の塩基配列上の同一性を有すればよい。
塩基配列の同一性は、前記BLAST等のアルゴリズムにより決定することができる。
斯かるオリゴヌクレオチドは、プライマーとして用いる場合には、特異的なアニーリング及び鎖伸長ができればよく、通常、例えば10塩基以上、好ましくは15塩基以上、より好ましくは20塩基以上、かつ例えば100塩基以下、好ましくは50塩基以下、より好ましくは35塩基以下の鎖長を有するものが挙げられる。また、プローブとして用いる場合には、特異的なハイブリダイゼーションができればよく、本発明の標的遺伝子を構成する塩基配列からなるDNA(又はその相補鎖)の少なくとも一部若しくは全部の配列を有し、例えば10塩基以上、好ましくは15塩基以上、かつ例えば100塩基以下、好ましくは50塩基以下、より好ましくは25塩基以下の鎖長のものが用いられる。
なお、ここで、「オリゴヌクレオチド」は、DNAあるいはRNAであることができ、合成されたものでも天然のものでもよい。又、ハイブリダイゼーションに用いるプローブは、通常標識したものが用いられる。
また、本発明の標的遺伝子の翻訳産物(タンパク質)、当該タンパク質と相互作用する分子、RNAと相互作用する分子、又はDNAと相互作用する分子を測定する場合は、プロテインチップ解析、免疫測定法(例えば、ELISA等)、質量分析(例えば、LC-MS/MS、MALDI-TOF/MS)、1-ハイブリッド法(PNAS 100, 12271-12276(2003))や2-ハイブリッド法(Biol. Reprod. 58, 302-311 (1998))のような方法を用いることができ、対象に応じて適宜選択できる。
例えば、測定対象としてタンパク質が用いられる場合は、本発明の発現産物を特異的に認識する抗体、具体的には発現産物であるタンパク質を他のタンパク質から識別することが可能な構造的特徴部位(エピトープ)を認識する抗体を生体試料と接触させ、当該抗体に結合した試料中のポリペプチド又はタンパク質を検出し、そのレベルを測定することによって実施される。例えば、ウェスタンブロット法によれば、一次抗体として上記の抗体を用いた後、二次抗体として放射性同位元素、蛍光物質又は酵素等で標識した一次抗体に結合する抗体を用いて、その一次抗体を標識し、これら標識物質由来のシグナルを放射線測定器、蛍光検出器等で測定することが行われる。
尚、上記翻訳産物に対する抗体は、ポリクローナル抗体であっても、モノクローナル抗体であってもよい。これらの抗体は、公知の方法に従って製造することができる。具体的には、ポリクローナル抗体は、常法に従って大腸菌等で発現し精製したタンパク質を用いて、あるいは常法に従って当該タンパク質の部分ポリペプチドを合成して、家兎等の非ヒト動物に免疫し、該免疫動物の血清から常法に従って得ることが可能である。
一方、モノクローナル抗体は、常法に従って大腸菌等で発現し精製したタンパク質又は該タンパク質の部分ポリペプチドをマウス等の非ヒト動物に免疫し、得られた脾臓細胞と骨髄腫細胞とを細胞融合させて調製したハイブリドーマ細胞から得ることができる。また、モノクローナル抗体は、ファージディスプレイを用いて作製してもよい(Griffiths, A.D.; Duncan, A.R., Current Opinion in Biotechnology, Volume 9, Number 1, February 1998 , pp. 102-108(7))。
斯くして、被験者から採取された生体試料中の本発明の標的遺伝子又はその発現産物の発現レベルが測定され、当該発現レベルに基づいて当該被験者のアンモニア代謝能力が検出される。
また、本発明では、被験者から採取された生体試料中の本発明の標的遺伝子又はその発現産物の発現レベルを少なくとも2つの時期に測定し、発現レベルの変化、又は変化量を指標に、被験者におけるアンモニア代謝能力の変化の有無、又は変化の程度を検出することができる。
検出は、具体的には、測定された本発明の標的遺伝子又はその発現産物の発現レベルをカットオフ値(参照値)と比較することによって行われる。
シーケンシングにより複数の標的遺伝子の発現レベルの解析を行う場合は、上記したように、発現量のデータであるリードカウント値、当該リードカウント値をサンプル間の総リード数の違いを補正したRPM値、当該RPM値を底2の対数値に変換した値(Log2RPM値)又は整数1を加算した底2の対数値(Log2(RPM+1)値)、あるいはDESeq2を用いて補正されたカウント値(Normalized count値)又は整数1を加算した底2の対数値(Log2(count+1)値)を指標として用いるのが好ましい。また、RNA-seqの定量値として一般的な、fragments per kilobase of exon per million reads mapped (FPKM)、reads per kilobase of exon per million reads mapped (RPKM)、transcripts per million (TPM)などによって算出される値であってもよい。また、マイクロアレイ法によって得られるシグナル値、及びその補正値であってもよい。また、RT-PCRなどにより特定の標的遺伝子のみ発現レベルの解析を行う場合には、対象遺伝子の発現量をハウスキーピング遺伝子の発現量を基準とする相対的な発現量に変換(相対定量)して解析する方法、又は標的遺伝子の領域を含むプラスミドを用いて絶対的なコピー数を定量(絶対定量)して解析する方法が好ましい。デジタルPCR法によって得られるコピー数であってもよい。
ここで、「カットオフ値」(「参照値」)は、血中アンモニア変化量と、本発明の標的遺伝子又はその発現産物の発現レベルの関係に基づき、予め決定することができる。例えば、ある集団を、血中アンモニア変化量より、アンモニア代謝能力が高い(高アンモニア代謝能力)群と、アンモニア代謝能力が低い(低アンモニア代謝能力)群に分け、それぞれの群における当該標的遺伝子又はその発現産物の発現レベルの平均値や標準偏差等の統計値を参考に決定した値を、それぞれの群への属否を判別するカットオフ値(参照値)として決定することができる。
標的遺伝子として複数種の遺伝子を用いる場合は、それぞれ各々の遺伝子又はその発現産物についてカットオフ値(参照値)を求めることが好ましい。
集団としては、性別、人種、年齢毎に集団を形成してもよい。
例えば、本発明の標的遺伝子又はその発現産物がポジティブマーカーとなる場合、該マーカーの発現レベルがカットオフ値(参照値)よりも高い場合、被験者はアンモニア代謝能力が高いと検出され得、そうでない場合、被験者はアンモニア代謝能力が低いと検出され得る。例えば、被験者における標的遺伝子又はその発現産物の発現レベルがカットオフ値(参照値)と比べて統計学的に有意に高ければ、該被験者はアンモニア代謝能力が高いと検出され得、そうでない場合、被験者はアンモニア代謝能力が低いと検出され得る。また例えば、被験者における標的遺伝子又はその発現産物の発現レベルがカットオフ値(参照値)に対して、好ましくは110%以上、より好ましくは150%以上、さらに好ましくは200%以上であれば、該被験者はアンモニア代謝能力が高いと検出され得、そうでない場合、被験者はアンモニア代謝能力が低いと検出され得る。
一方、本発明の標的遺伝子又はその発現産物がネガティブマーカーとなる場合、該マーカーの発現レベルがカットオフ値(参照値)よりも低い場合、被験者はアンモニア代謝能力が高いと検出され得、そうでない場合、被験者はアンモニア代謝能力が低いと検出され得る。例えば、被験者における標的遺伝子又はその発現産物の発現レベルがカットオフ値(参照値)と比べて統計学的に有意に低ければ、該被験者はアンモニア代謝能力が高いと検出され得、そうでない場合、被験者はアンモニア代謝能力が低いと検出され得る。また例えば、被験者における標的遺伝子又はその発現産物の発現レベルがカットオフ値(参照値)に対して、好ましくは90%以下、より好ましくは75%以下、さらに好ましくは50%以下であれば、該被験者はアンモニア代謝能力が高いと検出され得、そうでない場合、被験者はアンモニア代謝能力が低いと検出され得る。
あるいは、複数の標的遺伝子又はその発現産物を組み合わせて用いる場合には、それらの標的遺伝子又はその発現産物の一定割合、例えば50%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは100%が上述した発現レベルの基準を満たすか否かに基づいて、被験者のアンモニア代謝能力を検出することができる。
さらに、アンモニア代謝能力が高い個体(高アンモニア代謝能力群)由来の標的遺伝子又はその発現産物の発現レベルと、アンモニア代謝能力が低い個体(低アンモニア代謝能力群)由来の標的遺伝子又はその発現産物の発現レベルの測定値(発現プロファイル)を利用してアンモニア代謝能力の高低を分ける判別式(予測モデル)を構築し、当該判別式を利用して、アンモニア代謝能力を検出することができる。
すなわち、高アンモニア代謝能力群由来の標的遺伝子又はその発現産物の発現レベルと、低アンモニア代謝能力群由来の標的遺伝子又はその発現産物の発現レベルの測定値を教師サンプルとして、高アンモニア代謝能力群と低アンモニア代謝能力群を分ける判別式(予測モデル)を構築し、当該判別式に基づいてアンモニア代謝能力を判別するカットオフ値(参照値)を求める。なお、判別式の作成においては、主成分分析(PCA)により次元圧縮を行ない、主要成分を説明変数とすることができる。
そして、被験者の生体試料から標的遺伝子又はその発現産物のレベルを同様に測定し、得られた測定値を当該判別式に代入し、当該判別式から得られた結果をカットオフ値(参照値)と比較することによって、被験者におけるアンモニア代謝能力を検出できる。
判別式の構築に用いる変数には説明変数と目的変数がある。説明変数としては、例えば、下記の方法で選択した標的遺伝子又はその発現産物の発現レベル(特徴量)を用いることができる。目的変数としては、例えば、そのサンプルのアンモニア代謝能力の程度(高アンモニア代謝能力群か低アンモニア代謝能力群か)、を用いることができる。
特徴量の選択には、判別する2群間の統計学的に有意な差異、例えば、発現レベルが2群間で有意に変動する遺伝子(発現変動遺伝子)又はその発現産物の発現レベルを用いることができる。また、機械学習に用いるアルゴリズムなどの公知のものを利用して特徴量遺伝子を抽出し、その発現レベルを用いたりすることができる。例えば、下記に示すランダムフォレストにおける変数重要度の高い遺伝子またはその発現産物の発現レベルを用いたり、R言語の"Boruta"パッケージなどを用いて特徴量遺伝子を抽出し、その発現レベルを用いたりすることができる。
判別式の構築におけるアルゴリズムは、機械学習に用いるアルゴリズムなどの公知のものを利用することができる。機械学習アルゴリズムの例としては、ランダムフォレスト(Random forest)、線形カーネルのサポートベクターマシン(SVM linear)、rbfカーネルのサポートベクターマシン(SVM rbf)、ニューラルネットワーク(Nerural net)、一般線形モデル(Generalized linear model)、正則化線形判別分析(Regularized linear discriminant analysis)、正則化ロジスティック回帰(Regularized logistic regression)などが挙げられる。構築した予測モデルに検証用のデータを入力して予測値を算出し、該予測値が実測値と最も適合するモデル、例えば正解率(Accuracy)が最も大きいモデルを最適な予測モデルとして選抜することができる。また、予測値と実測値から検出率(Recall)、精度(Precision)、及びそれらの調和平均であるF値を計算し、そのF値が最も大きいモデルを最適な予測モデルとして選抜することができる。
判別式の構築においてランダムフォレストのアルゴリズムを使用する場合、予測モデルの精度の指標として、未知データに対する推定の誤答率(OOB error rate)を算出することができる(Breiman L. Machine Learning (2001) 45;5-32)。
ランダムフォレストにおいては、ブートストラップ法という手法に従い、全サンプル中から重複を許して、サンプル数の約3分の2のサンプルをランダムに抽出し、決定木と呼ばれる分類器を作成する。この時抽出されなかったサンプルはOut of bug(OOB)と呼ばれ、1本の決定木を用いて、OOBの目的変数の予測を行い、正解ラベルと比較することでその誤答率を算出することができる(決定木におけるOOB error rate)。同様の作業を500回繰り返し行い、500本の決定木におけるOOB error rateの平均値をとった値を、該ランダムフォレストのモデルのOOB error rateとすることができる。
なお、ランダムフォレストのモデルを構築する決定木の数(ntree値)は、デフォルトでは500本であるが、必要に応じて1本から任意の本数に変更することができる。さらに、1つの決定木においてサンプルの判別式の作成に用いる変数の数(mtry値)は、デフォルトでは説明変数の数の平方根をとった値であるが、必要に応じて1つから全説明変数の数までの値のいずれかに変更することができる。
mtry値の決定にはR言語の“caret”パッケージを用いることができる。“caret”パッケージのメソッドにランダムフォレストを指定し、8通りのmtry値を試行し、例えばAccuracyが最大となるmtry値を最適なmtry値として選択することができる。なお、mtry値の試行回数は、必要に応じて任意の試行回数に変更することができる。
判別式の構築においてランダムフォレストのアルゴリズムを使用する場合、モデルの構築に用いた説明変数の重要度を数値(変数重要度)化することができる。変数重要度の値には、例えば、ジニ係数の減少量(Mean Decrease Gini)を用いることができる。
カットオフ値(参照値)の決定方法は特に制限されず、公知の手法に従って決定することができる。例えば、判別式を使用して作成されたROC(Receiver Operating Characteristic Curve)曲線より求めることができる。ROC曲線では、縦軸に陽性患者において陽性の結果がでる確率(感度)と、横軸に陰性患者において陰性の結果がでる確率(特異度)を1から減算した値(偽陽性率)がプロットされる。ROC曲線に示される「真陽性(感度)」及び「偽陽性(1-特異度)」に関し、「真陽性(感度)」-「偽陽性(1-特異度)」が最大となる値(Youden index)をカットオフ値(参照値)とすることができる。
本発明のアンモニア代謝能力の検出に用いられる予測モデルを構築するための特徴量遺伝子としては、上記表1で示される31遺伝子からなる遺伝子群が挙げられる。
本発明のアンモニア代謝能力を検出するための検査用キットは、被験者から分離した生体試料における本発明の標的遺伝子又はその発現産物の発現レベルを測定するための検査試薬を含有するものである。具体的には、本発明の標的遺伝子又はそれに由来する核酸と特異的に結合(ハイブリダイズ)するオリゴヌクレオチド(例えば、PCR用のプライマー)を含む、核酸増幅、ハイブリダイゼーションのための試薬、或いは、本発明の標的遺伝子の発現産物(タンパク質)を認識する抗体を含む免疫学的測定のための試薬等が挙げられる。当該キットに包含されるオリゴヌクレオチド、抗体等は、上述したとおり公知の方法により得ることができる。
また、当該検査用キットには、上記抗体や核酸の他、標識試薬、緩衝液、発色基質、二次抗体、ブロッキング剤や、試験に必要な器具やポジティブコントロールやネガティブコントロールとして使用するコントロール試薬、生体試料を採取するための用具(例えば、生体試料がSSLの場合、SSLを採取するための脂取りフィルム)、採取した生体試料を保存するための試薬、保存用の容器等を含むことができる。
実施例1 SSLから抽出されたRNAを用いたアンモニア代謝能力の検出
1)被験者及び運動時中アンモニア濃度の測定
20-65歳の健常男性18名を被検者として試験を行った。被験者には、昼食の約3時間後に屋内(気温24±1℃制御)でエルゴメーター:エアロバイク75X(コナミスポーツ(旧コンビ))を用いた漸増負荷運動を課した。被験者は心拍計、呼気マスクを装着した状態でエアロバイクのオリジナルモード(プログラムモード)にて、15w/分勾配の連続的多段階(漸次増加)負荷による5-20分ほどの運動負荷試験を行った。運動負荷は、随時ボルグ指数において負担の大きさ(RPE:自覚的運動強度)を被検者に確認し「かなりきつい」に達するか、若しくは、各被検者の最大心拍数(220-年齢)の約80%に達するまで負荷増加した直後終了した。運動直前(安静時)、及び運動直後に指先穿刺採血を行い、血中アンモニア濃度を血中アンモニア測定装置:ポケットケムTMBA PA-4140(アークレイ株式会社)にて測定した。運動直前(安静時)に対する運動直後の血中アンモニア濃度をアンモニア変化量(運動直後-運動直前)とした。
2)アンモニア代謝の能力の高低設定
アンモニア変化量が小さい者(40N-μg/dL以下、3名)をアンモニア代謝能力が高い(血中アンモニア濃度が高まりにくい)群、アンモニア変化量が大きい方(60N-μg/dL以上、3名)をアンモニア代謝能力が低い(血中アンモニア濃度が高まりやすい)群(3名)とした。なお、群間に運動時間(運動量及び到達最大運動強度)、及び最大RPEに差はなかった。
3)SSL採取
運動前の安静時に、各被験者の全顔からあぶら取りフィルム(5×8cm、ポリプロピレン製、3M社)を用いてSSLを回収後、該あぶら取りフィルムをバイアルに移し、RNA抽出に使用するまで-80℃にて保存した。
4)RNA調製及びシーケンシング
上記3)のあぶら取りフィルムを適当な大きさに切断し、QIAzol LysisReagent(Qiagen)を用いて、付属のプロトコルに準じてRNAを抽出した。抽出されたRNAを元に、SuperScript VILO cDNA Synthesis kit(ライフテクノロジーズジャパン株式会社)を用いて42℃、90分間逆転写を行いcDNAの合成を行った。逆転写反応のプライマーには、キットに付属しているランダムプライマーを使用した。得られたcDNAから、マルチプレックスPCRにより20802遺伝子に由来するDNAを含むライブラリーを調製した。マルチプレックスPCRは、Ion AmpliSeqTranscriptome Human Gene Expression Kit(ライフテクノロジーズジャパン株式会社)を用いて、[99℃、2分→(99℃、15秒→62℃、16分)×20サイクル→4℃、Hold]の条件で行った。得られたPCR産物は、Ampure XP(ベックマン・コールター株式会社)で精製した後に、バッファーの再構成、プライマー配列の消化、アダプターライゲーションと精製、増幅を行い、ライブラリーを調製した。調製したライブラリーをIon 540 Chipにローディングし、Ion S5/XLシステム(ライフテクノロジーズジャパン株式会社)を用いてシーケンシングした。シーケンシングで得られた各リード配列をヒトゲノムのリファレンス配列であるhg19 AmpliSeq Tran scriptome ERCC v1を用いて遺伝子マッピングすることで各リード配列の由来する遺伝子を決定した。
5)データ解析
得られた各被験者の試験品塗布前のSSL由来のRNAの発現量のデータ(リードカウント値)において、DESeq2法を用いて補正した。但し、全被験者の発現量データのうち90%以上の被験者で欠損値ではない発現量データが得られている遺伝子のみ以下の解析に使用した。解析には、DESeq2法を用いて補正されたカウント値(Normalized count値)を用いた。
6)RNA発現解析
取得された各被験者のSSL由来のRNA発現量(Normalized count値)を基に、アンモニア代謝能力が高い(血中アンモニア濃度が高まりにくい)群及びアンモニア代謝能力が低い(血中アンモニア濃度が高まりやすい)群において、2群間のFDR (False discovery rate)を制御した(FDR < 0.25)、調整済みp値(閾値 < 0.05)を元に発現差異遺伝子を抽出した。
7)結果
群間で統計学的に有意に発現が変動する31種の遺伝子が得られた。アンモニア代謝能力が低い(血中アンモニア濃度が高まりやすい)群に対し、アンモニア代謝能力が高い(血中アンモニア濃度が高まりにくい)群で以下の27遺伝子発現が有意に高かった。
NCOA3、KRT31、WDR44、CD69、CLEC4A、HSD17B11、ITGAX、RNF19B、TRIP11、PPIG、HSPA13、EXOC6、CAPRIN1、TBCD、TNFAIP3、CLASRP、CXCR2、ANPEP、PXDC1、PROK2、HCAR3、KRTAP1-1、KRTAP1-5、GRINA、KRTAP3-1、TAGAP、DDX60L。
また、アンモニア代謝能力が低い(血中アンモニア濃度が高まりやすい)群に対し、アンモニア代謝能力が高い(血中アンモニア濃度が高まりにくい)群で以下の4遺伝子発現が有意に低かった。
FAM193B、SMA5、WNT7A、RAPGEFL1。

Claims (7)

  1. 被験者から採取された生体試料について、下記表1に示す31種の遺伝子群より選択される少なくとも1つの遺伝子又はその発現産物の発現レベルを測定する工程を含む、当該被験者におけるアンモニア代謝能力を検出する方法。
    Figure 2024075099000003
  2. 前記遺伝子又はその発現産物の発現レベルがmRNAの発現量である請求項1記載の検出方法。
  3. 前記生体試料が被験者の皮膚表上脂質である請求項1又は2記載の検出方法。
  4. 前記被験者の皮膚が顔の皮膚である請求項3記載の検出方法。
  5. 発現レベルの測定値を前記各遺伝子又はその発現産物の参照値と比較し、アンモニア代謝能力を評価する、請求項1~4のいずれか1項記載の検出方法。
  6. 前記遺伝子又はそれに由来する核酸と特異的にハイブリダイズするオリゴヌクレオチド、又は前記遺伝子の発現産物を認識する抗体を含有する、請求項1~5のいずれか1項記載の検出方法に用いられるアンモニア代謝能力を検出するための検査用キット。
  7. 下記表2に示す31種の遺伝子群より選択される少なくとも1つの遺伝子又はその発現産物からなる、アンモニア代謝能力を検出するためのマーカー。
    Figure 2024075099000004
JP2022186296A 2022-11-22 アンモニア代謝能力の検出方法 Pending JP2024075099A (ja)

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