JP2023157965A - アトピー性皮膚炎の検出方法 - Google Patents

アトピー性皮膚炎の検出方法 Download PDF

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直人 高田
Naoto Takada
高良 井上
Takayoshi Inoue
哲矢 桑野
Tetsuya Kuwano
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Abstract

【課題】アトピー性皮膚炎を検出するためのマーカー、及び該マーカーを用いたアトピー性皮膚炎の検出方法を提供する。【解決手段】被験者から採取された生体試料について、MECR、RASA4CP、ARRDC4、EIF1AD、FDFT1、ZNF706、TEX2、TMPRSS11E、RPS6KB2、CTBP1、ZNF335、DGKA、PPP1R9B、SPDYE7P、DNASE1L1、GNB2及びCSNK1G2からなる17種の遺伝子群より選択される少なくとも1つの遺伝子又はその発現産物の発現レベルを測定する工程を含む、当該被験者におけるアトピー性皮膚炎の検出方法。【選択図】なし

Description

本発明は、アトピー性皮膚炎マーカーを用いたアトピー性皮膚炎の検出方法に関する。
アトピー性皮膚炎(以下、「AD」とも称する)は、アトピー素因を有する者に主に発
症する湿疹性皮膚疾患である。アトピー性皮膚炎の典型的な症状は、左右対側性に発生す
る、慢性及び反復性の痒み、皮疹、紅斑等、ならびに角化不全、バリア能低下、乾燥肌な
どである。アトピー性皮膚炎の多くは乳幼児に発症し、成長と共に軽快傾向を示すが、近
年では成人型や難治性のアトピー性皮膚炎も増加している。
アトピー性皮膚炎の症度の判断は、肉眼による所見を頼りに行われているのが現状であ
る。所見項目としては、乾燥症状、紅斑、鱗屑、丘疹、掻破痕、浮腫、痂疲の付着、小水
疱、びらん、痒診結節など様々が存在するが、いずれも主観的要素が入り込むため、医師
の技量により判断に差が生じる可能性を含んでいる。斯様に、アトピー性皮膚炎の症度の
判断は客観性に乏しいという問題がある。
近年、バイオマーカーを用いてアトピー性皮膚炎を検出する方法として、血液の末梢血
好酸球数、血清総IgE値、LDH(乳酸デヒドロゲナーゼ)値、血清中のThymus
and Activation-Regulated Chemokine(TARC
)やSquamous cell carcinoma antigen 2(SCCA2)
を検出すること(非特許文献1、2、3)や、皮膚細菌叢における黄色ブドウ球菌のag
rC変異依存性のRNAIII遺伝子発現量を検出すること(特許文献1)等が提案され
ているが、必ずしも十分な精度で診断が可能であるとは云えない。
一方、生体試料中のDNAやRNA等の核酸の解析によりヒトの生体内の現在さらには
将来の生理状態を調べる技術が開発されている。核酸を用いた解析は、網羅的な解析方法
が確立されており一度の解析で豊富な情報を得られる、及び一塩基多形やRNA機能等に
関する多くの研究報告に基づいて解析結果の機能的な紐付けが容易であるといった利点を
有する。生体由来の核酸は、血液等の体液、分泌物、組織等から抽出することができるが
、最近、皮膚表上脂質(skin surface lipids;SSL)に含まれる
RNAを生体の解析用の試料として用いること、SSLから表皮、汗腺、毛包及び皮脂腺
のマーカー遺伝子が検出できることが報告されている(特許文献2)。
特開2019-30272号公報 国際公開公報第2018/008319号
Sugawara et al., Allergy (2002) 57:180-181 Ohta et al., Ann Clin Biochem.(2012) 49:277-84 加藤ら、日皮会誌(2018)128: 2431-2502
本発明は、アトピー性皮膚炎を検出するためのマーカー、及び該マーカーを用いたアト
ピー性皮膚炎の検出方法を提供することに関する。
本発明者らは、成人のアトピー性皮膚炎患者と健常人からSSLを採取し、SSL中に
含まれるRNAの発現状態をシーケンス情報として網羅的に解析した結果、特定の遺伝子
の発現レベルが両者の間で有意に異なり、これを指標としてアトピー性皮膚炎を検出でき
ることを見出した。
すなわち、本発明は、以下の1)~3)に係るものである。
1)被験者から採取された生体試料について、MECR、RASA4CP、ARRDC
4、EIF1AD、FDFT1、ZNF706、TEX2、TMPRSS11E、RPS
6KB2、CTBP1、ZNF335、DGKA、PPP1R9B、SPDYE7P、D
NASE1L1、GNB2及びCSNK1G2からなる17種の遺伝子群より選択される
少なくとも1つの遺伝子又はその発現産物の発現レベルを測定する工程を含む、当該被験
者におけるアトピー性皮膚炎の検出方法。
2)前記遺伝子と特異的にハイブリダイズするオリゴヌクレオチド、又は前記遺伝子の
発現産物を認識する抗体を含有する、1)の方法に用いられるアトピー性皮膚炎を検出す
るための検査用キット。
3)後記表Bに示される210種の遺伝子群より選択される少なくとも1つの遺伝子又
はその発現産物からなる、アトピー性皮膚炎の検出マーカー。
本発明によれば、簡便且つ非侵襲的に、アトピー性皮膚炎を早期に、高い精度、感度及
び特異度で検出することが可能となる。
本明細書中で引用された全ての特許文献、非特許文献、及びその他の刊行物は、その全
体が本明細書中において参考として援用される。
本発明において、「核酸」又は「ポリヌクレオチド」と云う用語は、DNA又はRNA
を意味する。DNAには、cDNA、ゲノムDNA、及び合成DNAのいずれもが含まれ
、「RNA」には、total RNA、mRNA、rRNA、tRNA、non-co
ding RNA及び合成のRNAのいずれもが含まれる。
本発明において「遺伝子」とは、ヒトゲノムDNAを含む2本鎖DNAの他、cDNA
を含む1本鎖DNA(正鎖)、当該正鎖と相補的な配列を有する1本鎖DNA(相補鎖)
、及びこれらの断片を包含するものであって、DNAを構成する塩基の配列情報の中に、
何らかの生物学的情報が含まれているものを意味する。
また、当該「遺伝子」は特定の塩基配列で表される「遺伝子」だけではなく、これらの
同族体(すなわち、ホモログもしくはオーソログ)、遺伝子多型等の変異体、及び誘導体
をコードする核酸が包含される。
本明細書中に開示される遺伝子の名称は、NCBI([www.ncbi.nlm.nih.gov/])に記
載のあるOfficial Symbolに従う。一方で遺伝子オントロジー(GO)に
関しては、String([string-db.org/])に記載のあるPathway ID.に従
う。
本発明において、遺伝子の「発現産物」とは、遺伝子の転写産物及び翻訳産物を包含す
る概念である。「転写産物」とは、遺伝子(DNA)から転写されて生じるRNAであり
、「翻訳産物」とは、RNAに基づき翻訳合成される、遺伝子にコードされたタンパク質
を意味する。
本発明において、「アトピー性皮膚炎」とは、増悪・寛解を繰り返す、そう痒のある湿
疹を主病原とする疾患を指し、その患者の多くは、アトピー素因を持つとされている。ア
トピー素因としては、i)家族歴・既往歴(気管支喘息,アレルギー性鼻炎・結膜炎,ア
トピー性皮膚炎のうちいずれか,あるいは複数の疾患)、又はii)IgE 抗体を産生
し易い素因が挙げられる。
本発明において、アトピー性皮膚炎の「検出」とは、アトピー性皮膚炎の存在又は不存
在を明らかにする意味であり、検査、測定、判定、評価又は評価支援という用語で言い換
えることもできる。なお、本明細書において「判定」又は「評価」という用語は、医師に
よる判定や評価を含むものではない。
本明細書において、「特徴量」とは機械学習における「説明変数」と同義であり、アト
ピー性皮膚炎検出マーカーから選択される機械学習に使用する遺伝子又はその発現産物を
合わせて「特徴量遺伝子」と称する。
後述する実施例に示すように、成人の健常者14名及びアトピー性皮膚炎患者29名の
SSLから抽出されたRNAの発現量のデータ(リードカウント値)について、DESe
q2(Love MI et al. Genome Biol. 2014)を用いて補正されたカウント値(Norma
lized count値)を用いて、健常者と比較してアトピー性皮膚炎患者における
尤度比検定によるp値の補正値(FDR)が0.05未満となるRNAを抽出することに
より、発現上昇遺伝子48種、発現低下遺伝子75種(計123遺伝子(表1-1~1-
3)が同定された。表中、「UP」で示される遺伝子は、アトピー性皮膚炎患者で発現レ
ベルが上がる遺伝子であり、「DOWN」で示される遺伝子は、アトピー性皮膚炎患者で
発現レベルが下がる遺伝子である。
したがって、斯かる123種の遺伝子群より選択される遺伝子又はその発現産物は、ア
トピー性皮膚炎を検出するためのアトピー性皮膚炎マーカーとなり得る。当該遺伝子群の
うち107遺伝子(表1-1~1-3において*を付し太字で表示)は、これまでにアト
ピー性皮膚炎との関係が報告されていない遺伝子である。
また、被験者からの全てのSSL由来RNAの発現量のデータ(7429遺伝子のLo
(RPM+1)値)を説明変数とし、健常者とアトピー性皮膚炎患者を目的変数とし
、機械学習アルゴリズムとしてランダムフォレスト(Breiman L. Machine Learning (200
1) 45;5-32)を用いて特徴量遺伝子の抽出及び予測モデルの構築を試みた。後述する実施
例に示すように、ジニ係数に基づく変数重要度の上位150遺伝子(表3-1~3-4)
を特徴量遺伝子として選択し、これを用いて予測モデルを構築したところ、アトピー性皮
膚炎の予測が可能であることが示された。
したがって、斯かる150種の遺伝子群より選択される遺伝子又はその発現産物は、ア
トピー性皮膚炎を検出するための好適なアトピー性皮膚炎マーカーとなり得る。そして、
このうち127遺伝子(表3-1~3-4において*を付し太字で表示)は、これまでに
アトピー性皮膚炎との関係が報告されていない新規なアトピー性皮膚炎マーカーである。
後述する実施例に示すように、これら新規のアトピー性皮膚炎マーカーを用いた予測モデ
ルでもアトピー性皮膚炎の予測が可能である。
また、健常者とアトピー性皮膚炎患者で発現変動が見られた上記の123遺伝子又はそ
のうちの107遺伝子の発現量のデータ(Log(RPM+1)値)を用いて、同様に
ランダムフォレストを用いて予測モデルの構築を試みたところ、いずれにおいてもアトピ
ー性皮膚炎の予測が可能であることが示された。
また、機械学習アルゴリズムとしてBoruta法(Kursa et al. Fundamental Infor
maticae (2010) 101;271-286)を用いて特徴量遺伝子の抽出(最大試行回数1000回、
p値0.01未満)を行ったところ、45遺伝子(表4)が特徴量遺伝子として抽出され
、後述の実施例で示すように、これを用いたランダムフォレストによる予測モデルでアト
ピー性皮膚炎の予測が可能であることが示された。
したがって、斯かる45種の遺伝子群より選択される遺伝子又はその発現産物は、アト
ピー性皮膚炎を検出するための好適なアトピー性皮膚炎マーカーとなり得る。そして、こ
のうち39遺伝子(表4において*を付し太字で表示)は、これまでにアトピー性皮膚炎
との関係が報告されていない新規なアトピー性皮膚炎マーカーである。後述する実施例に
示すように、これら新規のアトピー性皮膚炎マーカーを用いた予測モデルでもアトピー性
皮膚炎の予測が可能である。
上述した発現変動解析で抽出された表1-1~1-3で示される123種の遺伝子群(
A)と、ランダムフォレストにより特徴量遺伝子として選択された表3-1~3-4で示
される150種の遺伝子群(B)と、Boruta法により特徴量遺伝子として選択され
た表4で示される45種の遺伝子群(C)の和(A∪B∪C)である245遺伝子(表A
)はアトピー性皮膚炎マーカーとなり、そのうち210遺伝子(表B)は新規なアトピー
性皮膚炎マーカーである。
Figure 2023157965000001
Figure 2023157965000002
本発明のMECR、RASA4CP、ARRDC4、EIF1AD、FDFT1、ZN
F706、TEX2、TMPRSS11E、RPS6KB2、CTBP1、ZNF335
、DGKA、PPP1R9B、SPDYE7P、DNASE1L1、GNB2及びCSN
K1G2からなる17種の遺伝子は、上述した発現変動解析で抽出された表1-1~1-
3で示される123種の遺伝子群(A)と、ランダムフォレストにより特徴量遺伝子とし
て選択された表3-1~3-4で示される150種の遺伝子群(B)と、Boruta法
により特徴量遺伝子として選択された表4で示される45種の遺伝子群(C)に共通する
遺伝子(A∩B∩C)であって、従来アトピー性皮膚炎と関連付けられていない遺伝子で
ある(各表において*を付し太字で表示)。したがって、これらの遺伝子群より選択され
る少なくとも1つの遺伝子又はその発現産物は、アトピー性皮膚炎を検出するための、新
規なアトピー性皮膚炎マーカーとして特に有用である。
斯かる17種の遺伝子はそれぞれ単独でアトピー性皮膚炎マーカーとなり得るが、2種
以上、好ましくは5種以上、より好ましくは10種以上を組み合わせて用いることが好ま
しく、17種全てを用いるのがよりさらに好ましい。
なお、上記のアトピー性皮膚炎マーカーとなり得る遺伝子(以下、「標的遺伝子」とも
称す)には、アトピー性皮膚炎を検出するためのバイオマーカーとなり得る限り、当該遺
伝子を構成するDNAの塩基配列と実質的に同一の塩基配列を有する遺伝子も包含される
。ここで、実質的に同一の塩基配列とは、例えば、相同性計算アルゴリズムNCBI BLASTを
用い、期待値=10;ギャップを許す;フィルタリング=ON;マッチスコア=1;ミス
マッチスコア=-3の条件にて検索をした場合、当該遺伝子を構成するDNAの塩基配列
と90%以上、好ましくは95%以上、さらにより好ましく98%以上の同一性があるこ
とを意味する。
本発明のアトピー性皮膚炎の検出方法は、被験者から採取された生体試料について、標
的遺伝子、一態様として、MECR、RASA4CP、ARRDC4、EIF1AD、F
DFT1、ZNF706、TEX2、TMPRSS11E、RPS6KB2、CTBP1
、ZNF335、DGKA、PPP1R9B、SPDYE7P、DNASE1L1、GN
B2及びCSNK1G2からなる17種の遺伝子群より選択される少なくとも1つの遺伝
子又はその発現産物の発現レベルを測定する工程を含む。
本発明において用いられる生体試料としては、アトピー性皮膚炎の発症、進行に伴い本
発明の遺伝子が発現変化する組織及び生体材料であればよい。具体的には臓器、皮膚、血
液、尿、唾液、汗、皮膚表上脂質(SSL)、組織浸出液等の体液、血液から調製された
血清、血漿、その他、便、毛髪等が挙げられ、好ましくは皮膚または皮膚表上脂質(SS
L)、より好ましくは皮膚表上脂質(SSL)が挙げられる。
また、生体試料を採取する被験体は、アトピー性皮膚炎の検出を必要とする人又はアト
ピー性皮膚炎の発症が疑われる人が好ましく、性別及び年齢は限定されないが、好ましく
は成人であり、具体的には16歳以上の人であり、好ましくは20歳以上の人である。
ここで、「皮膚表上脂質(SSL)」とは、皮膚の表上に存在する脂溶性画分をいい、
皮脂と呼ばれることもある。一般に、SSLは、皮膚にある皮脂腺等の外分泌腺から分泌
された分泌物を主に含み、皮膚表面を覆う薄い層の形で皮膚表上に存在している。SSL
は、皮膚細胞で発現したRNAを含む。(前記特許文献3参照)。また本明細書において
、「皮膚」とは、特に限定しない限り、体表の表皮、真皮、毛包、ならびに汗腺、皮脂腺
及びその他の腺等の組織を含む領域の総称である。
被験者の皮膚からのSSLの採取には、皮膚からのSSLの回収又は除去に用いられて
いるあらゆる手段を採用することができる。好ましくは、後述するSSL吸収性素材、S
SL接着性素材、又は皮膚からSSLをこすり落とす器具を使用することができる。SS
L吸収性素材又はSSL接着性素材としては、SSLに親和性を有する素材であれば特に
限定されず、例えばポリプロピレン、パルプ等が挙げられる。皮膚からのSSLの採取手
順のより詳細な例としては、あぶら取り紙、あぶら取りフィルム等のシート状素材へSS
Lを吸収させる方法、ガラス板、テープ等へSSLを接着させる方法、スパーテル、スク
レイパー等によりSSLをこすり落として回収する方法、等が挙げられる。SSLの吸着
性を向上させるため、脂溶性の高い溶媒を予め含ませたSSL吸収性素材を用いてもよい
。一方、SSL吸収性素材は、水溶性の高い溶媒や水分を含んでいるとSSLの吸着が阻
害されるため、水溶性の高い溶媒や水分の含有量が少ないことが好ましい。SSL吸収性
素材は、乾燥した状態で用いることが好ましい。SSLが採取される皮膚の部位としては
、特に限定されず、頭、顔、首、体幹、手足等の身体の任意の部位の皮膚が挙げられ、皮
脂の分泌が多い部位、例えば顔の皮膚が好ましい。
被験者から採取されたRNA含有SSLは一定期間保存されてもよい。採取されたSS
Lは、含有するRNAの分解を極力抑えるために、採取後できるだけ速やかに低温条件で
保存することが好ましい。本発明における該RNA含有SSLの保存の温度条件は、0℃
以下であればよく、好ましくは-20±20℃~-80±20℃、より好ましくは-20
±10℃~-80±10℃、さらに好ましくは-20±20℃~-40±20℃、さらに
好ましくは-20±10℃~-40±10℃、さらに好ましくは-20±10℃、さらに
好ましくは-20±5℃である。該RNA含有SSLの該低温条件での保存の期間は、特
に限定されないが、好ましくは12か月以下、例えば6時間以上12ヶ月以下、より好ま
しくは6ヶ月以下、例えば1日間以上6ヶ月以下、さらに好ましくは3ヶ月以下、例えば
3日間以上3ヶ月以下である。
本発明において、標的遺伝子又はその発現産物の発現レベルの測定対象としては、RN
Aから人工的に合成されたcDNA、そのRNAをエンコードするDNA、そのRNAに
コードされるタンパク質、該タンパク質と相互作用をする分子、そのRNAと相互作用す
る分子、又はそのDNAと相互作用する分子等が挙げられる。ここで、RNA、DNA又
はタンパク質と相互作用する分子としては、DNA、RNA、タンパク質、多糖、オリゴ
糖、単糖、脂質、脂肪酸、及びこれらのリン酸化物、アルキル化物、糖付加物等、及び上
記いずれかの複合体が挙げられる。また、発現レベルとは、当該遺伝子又は発現産物の発
現量や活性を包括的に意味する。
本発明の方法においては、好ましい態様として、生体試料としてSSLが用いられるが
、この場合にはSSLに含まれるRNAの発現レベルが解析され、具体的にはRNAを逆
転写によりcDNAに変換した後、該cDNA又はその増幅産物が測定される。
SSLからのRNAの抽出には、生体試料からのRNAの抽出又は精製に通常使用され
る方法、例えば、フェノール/クロロホルム法、AGPC(acid guanidin
ium thiocyanate-phenol-chloroform extrac
tion)法、又はTRIzol(登録商標)、RNeasy(登録商標)、QIAzo
l(登録商標)等のカラムを用いた方法、シリカをコーティングした特殊な磁性体粒子を
用いる方法、Solid Phase Reversible Immobilizat
ion磁性体粒子を用いる方法、ISOGEN等の市販のRNA抽出試薬による抽出等を
用いることができる。
該逆転写には、解析したい特定のRNAを標的としたプライマーを用いてもよいが、よ
り包括的な核酸の保存及び解析のためにはランダムプライマーを用いることが好ましい。
該逆転写には、一般的な逆転写酵素又は逆転写試薬キットを使用することができる。好適
には、正確性及び効率性の高い逆転写酵素又は逆転写試薬キットが用いられ、その例とし
ては、M-MLV Reverse Transcriptase及びその改変体、ある
いは市販の逆転写酵素又は逆転写試薬キット、例えばPrimeScript(登録商標
)Reverse Transcriptaseシリーズ(タカラバイオ社)、Supe
rScript(登録商標)Reverse Transcriptaseシリーズ(T
hermo Scientific社)等が挙げられる。SuperScript(登録
商標)III Reverse Transcriptase、SuperScript(
登録商標)VILO cDNA Synthesis kit(いずれもThermo
Scientific社)等が好ましく用いられる。
該逆転写における伸長反応は、温度を好ましくは42℃±1℃、より好ましくは42℃
±0.5℃、さらに好ましくは42℃±0.25℃に調整し、一方、反応時間を好ましく
は60分間以上、より好ましくは80~120分間に調整するのが好ましい。
発現レベルを測定する方法は、RNA、cDNA又はDNAを対象とする場合、これら
にハイブリダイズするDNAをプライマーとしたPCR法、リアルタイムRT-PCR法
、マルチプレックスPCR、SmartAmp法、LAMP法等に代表される核酸増幅法
、これらにハイブリダイズする核酸をプローブとして用いるハイブリダイゼーション法(
DNAチップ、DNAマイクロアレイ、ドットブロットハイブリダイゼーション、スロッ
トブロットハイブリダイゼーション、ノーザンブロットハイブリダイゼーション等)、塩
基配列を決定する方法(シーケンシング)、又はこれらを組み合わせた方法から選ぶこと
ができる。
PCRでは、解析したい特定のDNAを標的としたプライマーペアを用いて該特定の1
種のDNAのみを増幅してもよいが、複数のプライマーペアを用いて同時に複数の特定の
DNAを増幅してもよい。好ましくは、該PCRはマルチプレックスPCRである。マル
チプレックスPCRは、PCR反応系に複数のプライマー対を同時に使用することで、複
数の遺伝子領域を同時に増幅する方法である。マルチプレックスPCRは、市販のキット
(例えば、Ion AmpliSeqTranscriptome Human Gen
e Expression Kit;ライフテクノロジーズジャパン株式会社等)を用い
て実施することができる。
該PCRにおけるアニーリング及び伸長反応の温度は、使用するプライマーに依存する
ため一概には言えないが、上記のマルチプレックスPCRキットは用いる場合、好ましく
は62℃±1℃、より好ましくは62℃±0.5℃、さらに好ましくは62℃±0.25
℃である。したがって、該PCRでは、好ましくはアニーリング及び伸長反応が1ステッ
プで行われる。該アニーリング及び伸長反応のステップの時間は、増幅すべきDNAのサ
イズ等に依存して調整され得るが、好ましくは14~18分間である。該PCRにおける
変性反応の条件は、増幅すべきDNAに依存して調整され得るが、好ましくは95~99
℃で10~60秒間である。上記のような温度及び時間での逆転写及びPCRは、一般的
にPCRに使用されるサーマルサイクラーを用いて実行することができる。
当該PCRで得られた反応産物の精製は、反応産物のサイズ分離によって行われること
が好ましい。サイズ分離により、目的のPCR反応産物を、PCR反応液中に含まれるプ
ライマーやその他の不純物から分離することができる。DNAのサイズ分離は、例えば、
サイズ分離カラムや、サイズ分離チップ、サイズ分離に利用可能な磁気ビーズ等によって
行うことができる。サイズ分離に利用可能な磁気ビーズの好ましい例としては、Ampu
re XP等のSolid Phase Reversible Immobiliza
tion(SPRI)磁性ビーズが挙げられる。
精製したPCR反応産物に対して、その後の定量解析を行うために必要なさらなる処理
を施してもよい。例えば、DNAのシーケンシングのために、精製したPCR反応産物を
、適切なバッファー溶液へと調製したり、PCR増幅されたDNAに含まれるPCRプラ
イマー領域を切断したり、増幅されたDNAにアダプター配列をさらに付加したりしても
よい。例えば、精製したPCR反応産物をバッファー溶液へと調製し、増幅DNAに対し
てPCRプライマー配列の除去及びアダプターライゲーションを行い、得られた反応産物
を、必要に応じて増幅して、定量解析のためのライブラリーを調製することができる。こ
れらの操作は、例えば、SuperScript(登録商標)VILO cDNA Sy
nthesis kit(ライフテクノロジーズジャパン株式会社)に付属している5×
VILO RT Reaction Mix、及びIon AmpliSeq Tran
scriptome Human Gene Expression Kit(ライフテ
クノロジーズジャパン株式会社)に付属している5×Ion AmpliSeq HiF
i Mix、及びIon AmpliSeq Transcriptome Human
Gene Expression Core Panelを用いて、各キット付属のプ
ロトコルに従って行うことができる。
ノーザンブロットハイブリダイゼーション法を利用して標的遺伝子又はそれに由来する
核酸の発現量を測定する場合は、例えば、まずプローブDNAを放射性同位元素、蛍光物
質等で標識し、次いで、得られた標識DNAを、常法に従ってナイロンメンブレン等にト
ランスファーした生体試料由来のRNAとハイブリダイズさせる。その後、形成された標
識DNAとRNAとの二重鎖を、標識物に由来するシグナルを検出することにより測定す
る方法が挙げられる。
RT-PCR法を用いて標的遺伝子又はそれに由来する核酸の発現量を測定する場合は
、例えば、まず生体試料由来のRNAから常法に従ってcDNAを調製し、これを鋳型と
して本発明の標的遺伝子が増幅できるように調製した一対のプライマー(上記cDNA(
-鎖)に結合する正鎖、+鎖に結合する逆鎖)をこれとハイブリダイズさせる。その後、
常法に従ってPCR法を行い、得られた増幅二本鎖DNAを検出する。増幅された二本鎖
DNAの検出には、予めRI、蛍光物質等で標識しておいたプライマーを用いて上記PC
Rを行うことによって産生される標識二本鎖DNAを検出する方法等を用いることができ
る。
DNAマイクロアレイを用いて標的遺伝子又はそれに由来する核酸の発現量を測定する
場合は、例えば、支持体に本発明の標的遺伝子由来の核酸(cDNA又はDNA)の少な
くとも1種を固定化したアレイを用い、mRNAから調製した標識化cDNA又はcRN
Aをマイクロアレイ上に結合させ、マイクロアレイ上の標識を検出することによって、m
RNAの発現量を測定することができる。
前記アレイに固定化される核酸としては、ストリンジェントな条件下に特異的(すなわ
ち、実質的に目的の核酸のみに)にハイブリダイズする核酸であればよく、例えば、本発
明の標的遺伝子の全配列を有する核酸であってもよく、部分配列からなる核酸であっても
よい。ここで、「部分配列」とは、少なくとも15~25塩基からなる核酸が挙げられる
。ここでストリンジェントな条件は、通常「1×SSC、0.1%SDS、37℃」程度
の洗浄条件を挙げることができ、より厳しいハイブリダイズ条件としては「0.5×SS
C、0.1%SDS、42℃」程度、さらに厳しいハイブリダイズ条件としては「0.1
×SSC、0.1%SDS、65℃」程度の条件を挙げることができる。ハイブリダイズ
条件は、J. Sambrook et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Thrd Edition
, Cold Spring Harbor Laboratory Press (2001)等に記載されている。
シーケンシングによって標的遺伝子又はそれに由来する核酸の発現量を測定する場合は
、例えば、次世代シーケンサー(例えばIon S5/XLシステム、ライフテクノロジ
ーズジャパン株式会社)が用いて解析することが挙げられる。シーケンシングで作成され
たリードの数(リードカウント)に基づいて、RNA発現を定量することができる。
上記の測定に用いられるプローブ又はプライマー、すなわち、本発明の標的遺伝子又は
それに由来する核酸を特異的に認識し増幅するためのプライマー、又は該RNA又はそれ
に由来する核酸を特異的に検出するためのプローブがこれに該当するが、これらは、当該
標的遺伝子を構成する塩基配列に基づいて設計することができる。ここで「特異的に認識
する」とは、例えばノーザンブロット法において、実質的に本発明の標的遺伝子又はそれ
に由来する核酸のみを検出できること、また例えばRT-PCR法において、実質的に当
該核酸のみが増幅される如く、当該検出物又は生成物が当該遺伝子又はそれに由来する核
酸であると判断できることを意味する。
具体的には、本発明の標的遺伝子を構成する塩基配列からなるDNA又はその相補鎖に
相補的な一定数のヌクレオチドを含むオリゴヌクレオチドを利用することができる。ここ
で「相補鎖」とは、A:T(RNAの場合はU)、G:Cの塩基対からなる2本鎖DNA
の一方の鎖に対する他方の鎖を指す。また、「相補的」とは、当該一定数の連続したヌク
レオチド領域で完全に相補配列である場合に限られず、好ましくは80%以上、より好ま
しくは90%以上、さらに好ましくは95%以上の塩基配列上の同一性を有すればよい。
塩基配列の同一性は、前記BLAST等のアルゴリズムにより決定することができる。
斯かるオリゴヌクレオチドは、プライマーとして用いる場合には、特異的なアニーリン
グ及び鎖伸長ができればよく、通常、例えば10塩基以上、好ましくは15塩基以上、よ
り好ましくは20塩基以上、かつ例えば100塩基以下、好ましくは50塩基以下、より
好ましくは35塩基以下の鎖長を有するものが挙げられる。また、プローブとして用いる
場合には、特異的なハイブリダイゼーションができればよく、本発明の標的遺伝子を構成
する塩基配列からなるDNA(又はその相補鎖)の少なくとも一部若しくは全部の配列を
有し、例えば10塩基以上、好ましくは15塩基以上、かつ例えば100塩基以下、好ま
しくは50塩基以下、より好ましくは25塩基以下の鎖長のものが用いられる。
なお、ここで、「オリゴヌクレオチド」は、DNAあるいはRNAであることができ、
合成されたものでも天然のものでもよい。又はイブリダイゼーションに用いるプローブは
、通常標識したものが用いられる。
また、本発明の標的遺伝子の翻訳産物(タンパク質)、当該タンパク質と相互作用する
分子、RNAと相互作用する分子、又はDNAと相互作用する分子を測定する場合は、プ
ロテインチップ解析、免疫測定法(例えば、ELISA等)、質量分析(例えば、LC-
MS/MS、MALDI-TOF/MS)、1-ハイブリッド法(PNAS 100, 12271-1227
6(2003))や2-ハイブリッド法(Biol. Reprod. 58, 302-311 (1998))のような方法を
用いることができ、対象に応じて適宜選択できる。
例えば、測定対象としてタンパク質が用いられる場合は、本発明の発現産物に対する抗
体を生体試料と接触させ、当該抗体に結合した試料中のタンパク質を検出し、そのレベル
を測定することによって実施される。例えば、ウェスタンブロット法によれば、一次抗体
として上記の抗体を用いた後、二次抗体として放射性同位元素、蛍光物質又は酵素等で標
識した一次抗体に結合する抗体を用いて、その一次抗体を標識し、これら標識物質由来の
シグナルを放射線測定器、蛍光検出器等で測定することが行われる。
尚、上記翻訳産物に対する抗体は、ポリクローナル抗体であっても、モノクローナル抗
体であってもよい。これらの抗体は、公知の方法に従って製造することができる。具体的
には、ポリクローナル抗体は、常法に従って大腸菌等で発現し精製したタンパク質を用い
て、あるいは常法に従って当該タンパク質の部分ポリペプチドを合成して、家兎等の非ヒ
ト動物に免疫し、該免疫動物の血清から常法に従って得ることが可能である。
一方、モノクローナル抗体は、常法に従って大腸菌等で発現し精製したタンパク質又は
該タンパク質の部分ポリペプチドをマウス等の非ヒト動物に免疫し、得られた脾臓細胞と
骨髄腫細胞とを細胞融合させて調製したハイブリドーマ細胞から得ることができる。また
、モノクローナル抗体は、ファージディスプレイを用いて作製してもよい(Griffiths, A
.D.; Duncan, A.R., Current Opinion in Biotechnology, Volume 9, Number 1, Februar
y 1998 , pp. 102-108(7))。
斯くして、被験者から採取された生体試料中の本発明の標的遺伝子又はその発現産物の
発現レベルが測定され、当該発現レベルに基づいてアトピー性皮膚炎が検出される。検出
は、具体的には、測定された本発明の標的遺伝子又はその発現産物の発現レベルを対照レ
ベルと比較することによって行われる。
シーケンシングにより複数の標的遺伝子の発現レベルの解析を行う場合は、上記したよ
うに、発現量のデータであるリードカウント値、該リードカウント値をサンプル間の総リ
ード数の違いを補正したRPM値、当該RPM値を底2の対数値に変換した値(Log
RPM値)又は整数1を加算した底2の対数値(Log(RPM+1)値)、あるいは
DESeq2を用いて補正されたカウント値(Normalized count値)又
は整数1を加算した底2の対数値(Log(count+1)値)を指標として用いる
のが好ましい。また、RNA-seqの定量値として一般的な、fragments p
er kilobase of exon per million reads ma
pped (FPKM)、reads per kilobase of exon p
er million reads mapped (RPKM)、transcrip
ts per million (TPM)などによって算出される値であってもよい。
また、マイクロアレイ法によって得られるシグナル値、及びその補正値であってもよい。
また、RT-PCRなどにより特定の標的遺伝子のみ発現レベルの解析を行う場合には、
対象遺伝子の発現量をハウスキーピング遺伝子の発現量を基準とする相対的な発現量に変
換(相対定量)して解析する方法、又は標的遺伝子の領域を含むプラスミドを用いて絶対
的なコピー数を定量(絶対定量)して解析する方法が好ましい。デジタルPCR法によっ
て得られるコピー数であってもよい。
ここで、「対照レベル」とは、例えば、健常人における当該標的遺伝子又はその発現産
物の発現レベルが挙げられる。健常人の発現レベルは、健常人集団から測定した当該遺伝
子又はその発現産物の発現レベルの統計値(例えば平均値等)であってもよい。標的遺伝
子が複数の場合は、各々の遺伝子又はその発現産物について基準発現レベルを求めること
が好ましい。
また、本発明におけるアトピー性皮膚炎の検出は、本発明の標的遺伝子又はその発現産
物の発現レベルの上昇/減少により行うこともできる。この場合は、被験者由来の生体試
料における標的遺伝子又はその発現産物の発現レベルが、各遺伝子又はその発現産物のカ
ットオフ値(参照値)と比較される。カットオフ値は、予め健常者における当該標的遺伝
子又はその発現産物の発現レベルを基準データとして取得しておき、それに基づく発現レ
ベルの平均値や標準偏差等の統計的数値に基づき、適宜決定すれば良い。
さらに、アトピー性皮膚炎患者由来の標的遺伝子又はその発現産物の発現レベルと、健
常人由来の標的遺伝子又はその発現産物の発現レベルの測定値を利用して、アトピー性皮
膚炎患者と健常人とを分ける判別式(予測モデル)を構築し、当該判別式を利用して、ア
トピー性皮膚炎を検出することができる。すなわち、アトピー性皮膚炎患者由来の標的遺
伝子又はその発現産物の発現レベルと、健常者由来の標的遺伝子又はその発現産物の発現
レベルの測定値を教師サンプルとして、アトピー性皮膚炎患者と健常人を分ける判別式(
予測モデル)を構築し、当該判別式に基づいてアトピー性皮膚炎患者と健常人を判別する
カットオフ値(参照値)を求める。なお、判別式の作成においては、主成分分析(PCA
)により次元圧縮を行ない、主要成分を説明変数とすることができる。
そして、被験者から採取された生体試料から標的遺伝子又はその発現産物のレベルを同
様に測定し、得られた測定値を当該判別式に代入し、当該判別式から得られた結果を参照
値と比較することによって、被検者におけるアトピー性皮膚炎の存在又は不存在を評価で
きる。
判別式の構築に用いる変数には説明変数と目的変数がある。説明変数としては、例えば
、下記の方法で選択した標的遺伝子又はその発現産物の発現レベルを用いることができる
。目的変数としては、例えば、そのサンプルが健常人由来かアトピー性皮膚炎患者由来か
、を用いることができる。
特徴量の選択には、判別する2群間の統計学的に有意な差異、例えば、発現レベルが2
群間で有意に変動する遺伝子(発現変動遺伝子)またはその発現産物の発現レベルを用い
ることができる。また、機械学習に用いるアルゴリズムなどの公知のものを利用して特徴
量遺伝子を抽出し、その発現レベルを用いたりすることができる。例えば、下記に示すラ
ンダムフォレストにおける変数重要度の高い遺伝子またはその発現産物の発現レベルを用
いたり、R言語の“Boruta”パッケージなどを用いて特徴量遺伝子を抽出し、その
発現レベルを用いたりすることができる。
判別式の構築におけるアルゴリズムとしては、機械学習に用いるアルゴリズムなどの公
知のものを利用することができる。機械学習アルゴリズムの例としては、ランダムフォレ
スト(Random forest)、線形カーネルのサポートベクターマシン(SVM
linear)、rbfカーネルのサポートベクターマシン(SVM rbf)ニュー
ラルネットワーク(Nerural net)、一般線形モデル(Generalize
d linear model)、正則化線形判別分析(Regularized li
near discriminant analysis)、正則化ロジスティック回帰
(Regularized logistic regression)などが挙げられ
る。構築した予測モデルに検証用のデータを入力して予測値を算出し、該予測値が実測値
と最も適合するモデル、例えば正解率(Accuracy)が最も大きいモデルを最適な
予測モデルとして選抜することができる。また、予測値と実測値から検出率(Recal
l)、精度(Precision)、及びそれらの調和平均であるF値を計算し、そのF
値が最も大きいモデルを最適な予測モデルとして選抜することができる。
判別式の構築においてランダムフォレストのアルゴリズムを使用する場合、予測モデル
の精度の指標として、未知データに対する推定の誤答率(OOB error rate)
を算出することができる(Breiman L. Machine Learning (2001) 45;5-32)。
ランダムフォレストにおいては、ブートストラップ法という手法に従い、全サンプル中
から重複を許して、サンプル数の約3分の2のサンプルをランダムに抽出し、決定木と呼
ばれる分類器を作成する。この時抽出されなかったサンプルはOut of bug(OO
B)と呼ばれ、1本の決定木を用いて、OOBの目的変数の予測を行い、正解ラベルと比
較することでその誤答率を算出することができる(決定木におけるOOB error r
ate)。同様の作業を500回繰り返し行い、500本の決定木におけるOOB er
ror rateの平均値をとった値を、該ランダムフォレストのモデルのOOB err
or rateとすることができる。
なお、ランダムフォレストのモデルを構築する決定木の数(ntree値)は、デフォ
ルトでは500本であるが、必要に応じて任意の本数に変更することができる。さらに、
1つの決定木においてサンプルの判別式の作成に用いる変数の数(mtry値)は、デフ
ォルトでは説明変数の数の平方根をとった値であるが、必要に応じて1つから全説明変数
の数までの値のいずれかに変更することができる。
mtry値の決定にはR言語の“caret”パッケージを用いることができる。“c
aret”パッケージのメソッドにランダムフォレストを指定し、8通りのmtry値を
試行し、例えばAccuracyが最大となるmtry値を最適なmtry値として選択
することができる。なお、mtry値の試行回数は、必要に応じて任意の試行回数に変更
することができる。
判別式の構築においてランダムフォレストのアルゴリズムを使用する場合、モデルの構
築に用いた説明変数の重要度を数値(変数重要度)化することができる。変数重要度の値
には、例えば、ジニ係数の減少量(Mean Decrease Gini)を用いること
ができる。
カットオフ値(参照値)の決定方法は特に制限されず、公知の手法に従って決定するこ
とができる。例えば、判別式を使用して作成されたROC(Receiver Oper
ating Characteristic Curve)曲線より求めることができる
。ROC曲線では、縦軸に陽性患者において陽性の結果がでる確率(感度)と、横軸に陰
性患者において陰性の結果がでる確率(特異度)を1から減算した値(偽陽性率)がプロ
ットされる。ROC曲線に示される「真陽性(感度)」及び「偽陽性(1-特異度)」に
関し、「真陽性(感度)」-「偽陽性(1-特異度)」が最大となる値(Youden
index)をカットオフ値(参照値)とすることができる。
既に述べたとおり、MECR、RASA4CP、ARRDC4、EIF1AD、FDF
T1、ZNF706、TEX2、TMPRSS11E、RPS6KB2、CTBP1、Z
NF335、DGKA、PPP1R9B、SPDYE7P、DNASE1L1、GNB2
及びCSNK1G2からなる17種の遺伝子、及び当該17種の遺伝子を含む表1-1~
1-3で示される123遺伝子、表3-1~3-4で示される150遺伝子、又は表4で
示される45遺伝子を特徴量遺伝子として、アトピー性皮膚炎の予測が可能な予測モデル
を構築することができる。
したがって、上記アトピー性皮膚炎患者群と健常人群とを分ける判別式を作成する場合
に、特徴量遺伝子としてMECR、RASA4CP、ARRDC4、EIF1AD、FD
FT1、ZNF706、TEX2、TMPRSS11E、RPS6KB2、CTBP1、
ZNF335、DGKA、PPP1R9B、SPDYE7P、DNASE1L1、GNB
2及びCSNK1G2からなる17種の遺伝子から選択される1つの遺伝子又は2種以上
、好ましくは5種以上、より好ましくは10種以上、よりさらに好ましくは17種全て選
択し、その遺伝子又はその発現産物の発現データを用いる。さらに、複数の遺伝子を選択
する場合、これら遺伝子の表3-1~3-4における変数重要度のより上位の遺伝子から
順に特徴量遺伝子として選択し、判別式を作成するのが好ましい。また、当該17種の遺
伝子に、前記表Aで示される245遺伝子、表1-1~1-3で示される123遺伝子、
表3-1~3-4で示される150遺伝子又は表4で示される45遺伝子において、当該
17種の遺伝子以外の遺伝子から選ばれる少なくとも1つ、5以上、10以上、20以上
又は50以上の遺伝子又はその発現産物の発現データを適宜加えることにより、判別式を
作成し、アトピー性皮膚炎の検出をすることも可能である。当該17種の遺伝子以外の遺
伝子を表3-1~3-4に示される150遺伝子から選択する場合は、変数重要度のより
上位の遺伝子から順に、あるいは変数重要度が上位から50位以内、好ましくは30位以
内の遺伝子から特徴量遺伝子を選択しても良い。さらに、当該17種の遺伝子以外の遺伝
子を特徴量遺伝子として選択する場合には、表1-1~1-3、表3-1~3-4及び表
4において*を付し太字で表示された新規のアトピー性皮膚炎マーカーから特徴量遺伝子
を選択するのが好ましい。
好ましくは、上記17遺伝子、表1-1~1-3で示される123遺伝子又は107遺
伝子(表1-1~1-3において*を付し太字で表示)、表3-1~3-4で示される1
50遺伝子又は127遺伝子(表3-1~3-4において*を付し太字で表示)、又は表
4で示される45遺伝子又は39遺伝子(表4において*を付し太字で表示)を特徴量遺
伝子とする判別式が挙げられる。
本発明のアトピー性皮膚炎を検出するための検査用キットは、患者から分離した生体試
料における本発明の標的遺伝子又はその発現産物の発現レベルを測定するための検査試薬
を含有するものである。具体的には、本発明の標的遺伝子又はそれに由来する核酸と特異
的に結合(ハイブリダイズ)するオリゴヌクレオチド(例えば、PCR用のプライマー)
を含む、核酸増幅、ハイブリダイゼーションのための試薬、或いは、本発明の標的遺伝子
の発現産物(タンパク質)を認識する抗体を含む免疫学的測定のための試薬等が挙げられ
る。当該キットに包含されるオリゴヌクレオチド、抗体等は、上述したとおり公知の方法
により得ることができる。
また、当該検査用キットには、上記抗体や核酸の他、標識試薬、緩衝液、発色基質、二
次抗体、ブロッキング剤や、試験に必要な器具やポジティブコントロールやネガティブコ
ントロールとして使用するコントロール試薬、生体試料を採取するための用具(例えば、
SSLを採取するための脂取りフィルムなど)等を含むことができる。
本発明の態様及び好ましい実施態様を以下に示す。
<1>被験者から採取された生体試料について、MECR、RASA4CP、ARRD
C4、EIF1AD、FDFT1、ZNF706、TEX2、TMPRSS11E、RP
S6KB2、CTBP1、ZNF335、DGKA、PPP1R9B、SPDYE7P、
DNASE1L1、GNB2及びCSNK1G2からなる17種の遺伝子群より選択され
る少なくとも1つの遺伝子又はその発現産物の発現レベルを測定する工程を含む、当該被
験者におけるアトピー性皮膚炎の検出方法。
<2>遺伝子又はその発現産物の発現レベルがmRNAの発現量の測定である、<1>
の方法。
<3>遺伝子又はその発現産物が前記被験者の皮膚表上脂質に含まれるRNAである、
<1>又は<2>の方法。
<4>発現レベルの測定値を前記各遺伝子又はその発現産物の参照値と比較し、アトピ
ー性皮膚炎の存在又は不存在を評価する、<1>~<3>のいずれかの方法。
<5>アトピー性皮膚患者由来の前記遺伝子又はその発現産物の発現レベルと、健常者
由来の同遺伝子又はその発現産物の発現レベルの測定値を教師サンプルとして、アトピー
性皮膚炎患者と健常者を分ける判別式を作成し、被験者から採取された生体試料から得ら
れた同遺伝子又はその発現産物の発現レベルの測定値を当該判別式に代入し、得られた結
果を参照値と比較することによって、被検者におけるアトピー性皮膚炎の存在又は不存在
を評価する、<1>~<3>のいずれかの方法。
<6>判別式の構築におけるアルゴリズムが、ランダムフォレスト、線形カーネルのサ
ポートベクターマシン、rbfカーネルのサポートベクターマシン、ニューラルネットワ
ーク、一般線形モデル、正則化線形判別分析、又は正則化ロジスティック回帰である<5
>の方法。
<7>前記17種の遺伝子群の全ての遺伝子又はその発現産物の発現レベルが測定され
る、<5>又は<6>の方法。
<8>前記7種の遺伝子群より選択される少なくとも1つの遺伝子の他に、後記表1-
1~1-3で示される1123種、後記表3-1~3-4で示される150種、表4で示
される45種のうち前記17種の遺伝子を除いた遺伝子群より選択される少なくとも1つ
の遺伝子又はその発現産物の発現レベルが測定される、<5>~<7>のいずれかの方法

<9>後記表3-1~3-4で示される150種がランダムフォレストを用いて抽出さ
れた特徴量遺伝子である、<8>の方法。
<10>後記表4で示される45種がBoruta法を用いて抽出された特徴量遺伝子
である、<8>の方法。
<11>前記遺伝子又はそれに由来する核酸と特異的にハイブリダイズするオリゴヌク
レオチド、又は前記遺伝子の発現産物を認識する抗体を含有する、<1>~<10>のい
ずれかの方法に用いられるアトピー性皮膚炎を検出するための検査用キット。
<12>前記Bに示される210種の遺伝子群より選択される少なくとも1つの遺伝子
又はその発現産物からなる、アトピー性皮膚炎の検出マーカー。
<13>MECR、RASA4CP、ARRDC4、EIF1AD、FDFT1、ZN
F706、TEX2、TMPRSS11E、RPS6KB2、CTBP1、ZNF335
、DGKA、PPP1R9B、SPDYE7P、DNASE1L1、GNB2及びCSN
K1G2からなる17種の遺伝子群より選択される少なくとも1つの遺伝子又はその発現
産物である、<12>のアトピー性皮膚炎の検出マーカー。
以下、実施例に基づき本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるも
のではない。
実施例1 SSLから抽出されたRNAにおけるアトピー性皮膚炎関連の発現変動遺伝子
の検出
1)SSL採取
成人の健常者(HL)(25~57歳、男性)14名、及びアトピー性皮膚を有する成
人(AD)(23~56歳、男性)29名を被験者とした。アトピー性皮膚炎の被検者は
、皮膚科専門医により、少なくとも顔面部に皮疹を有し、かつ重症度が軽症又は中等症の
アトピー性皮膚炎であるとの診断を受けている。各被験者の全顔(AD患者は皮疹部を含
む)からあぶら取りフィルム(5×8cm、ポリプロピレン製、3M社)を用いて皮脂を
回収後、該あぶら取りフィルムをバイアルに移し、RNA抽出に使用するまで-80℃で
、約1ヶ月間保存した。
2)RNA調製及びシーケンシング
上記1)のあぶら取りフィルムを適当な大きさに切断し、QIAzol Lysis
Reagent(Qiagen)を用いて、付属のプロトコルに準じてRNAを抽出した
。抽出されたRNAを元に、SuperScript VILO cDNA Synth
esis kit(ライフテクノロジーズジャパン株式会社)を用いて42℃、90分間
逆転写を行いcDNAの合成を行った。逆転写反応のプライマーには、キットに付属して
いるランダムプライマーを使用した。得られたcDNAから、マルチプレックスPCRに
より20802遺伝子に由来するDNAを含むライブラリーを調製した。マルチプレック
スPCRは、Ion AmpliSeqTranscriptome Human Ge
ne Expression Kit(ライフテクノロジーズジャパン株式会社)を用い
て、[99℃、2分→(99℃、15秒→62℃、16分)×20サイクル→4℃、Ho
ld]の条件で行った。得られたPCR産物は、Ampure XP(ベックマン・コー
ルター株式会社)で精製した後に、バッファーの再構成、プライマー配列の消化、アダプ
ターライゲーションと精製、増幅を行い、ライブラリーを調製した。調製したライブラリ
ーをIon 540 Chipにローディングし、Ion S5/XLシステム(ライフ
テクノロジーズジャパン株式会社)を用いてシーケンシングした。
3)データ解析
i)使用データ
上記2)で測定した被験者由来のRNAの発現量のデータ(リードカウント値)におい
て、DESeq2という手法を用いて補正した。但し、全サンプル被験者の発現量データ
のうち90%以上のサンプル被験者で欠損値ではない発現量データが得られている742
9遺伝子のみ以下の解析に使用した。解析には、DESeq2という手法を用いて補正さ
れたカウント値(Normalized count値)を用いた。
ii)RNA発現解析
上記i)で測定した健常者、及びADのSSL由来RNA発現量(Normalized
count値)を基に、健常者と比較してADにおいて尤度比検定によるp値の補正値
(FDR)が0.05未満となるRNA(発現変動遺伝子)を同定した。その結果、75
種のRNAがADにおいて低下(DOWN)、48種のRNAがADにおいて上昇(UP
)した(表1-1~1-3)。
Figure 2023157965000003
Figure 2023157965000004
Figure 2023157965000005
表1-1~1-3に示された123遺伝子について、公共データベースであるSTRI
NGを用いて遺伝子オントロジー(GO)エンリッチメント解析によるbiologic
al process(BP)の探索を行った。その結果、AD患者において発現低下し
た遺伝子群と関連したBPが27個得られ、脂質代謝やアミノ酸代謝に関するタームが含
まれることが示され(表2)。また、発現上昇した遺伝子群と関連したBPが4個得られ
、白血球の活性化に関するタームなどが含まれていることが示された(表2)。一方で、
前記表1-1~1-3に示された123遺伝子のうちの107遺伝子(各表において*を
付し太字で表示)については、これまでにアトピー性皮膚炎との関連性を示唆する報告が
ないことから、新規なアトピー性皮膚炎マーカーとなり得ると判断された。
Figure 2023157965000006
実施例2 ランダムフォレストの変数重要度の高い遺伝子を用いた判別モデルの構築
1)使用データ
実施例1と同様の方法で、被験者からのSSL由来RNAの発現量のデータ(リードカ
ウント値)を取得し、サンプル間の総リード数の違いを補正したRPM値に変換した。た
だし、全サンプル中90%以上のサンプルで欠損値ではない発現量データが得られている
7429遺伝子のみ以下の解析に使用した。機械学習モデルの構築には、負の二項分布に
従うRPM値を正規分布に近似するため、整数1を加算した底2の対数値(Log(R
PM+1)値)を用いた。
2)特徴量遺伝子の選択
ランダムフォレストのアルゴリズムを用いて特徴量遺伝子の選択を行うために、全サン
プル中90%以上のサンプルで欠損値ではない発現量データが得られている7429遺伝
子のLog(RPM+1)値を説明変数とし、健常者(HL)とADを目的変数として
用いた。R言語の“caret”パッケージにおいてランダムフォレストのアルゴリズム
をメソッドとして指定し、1回の決定木の構築に用いる変数の数(mtry値)の最適値
をチューニングした。チューニングによって決定したmtry値を用いて、ランダムフォ
レストのアルゴリズムを実行し、ジニ係数に基づく変数重要度の上位150遺伝子を算出
した(表3-1~3-4)。そして、これら150遺伝子もしくは、そのうちこれまでに
アトピー性皮膚炎との関係が報告されていない127遺伝子(各表において*を付し太字
で表示)を特徴量遺伝子として選択した。
Figure 2023157965000007
Figure 2023157965000008
Figure 2023157965000009
Figure 2023157965000010
3)モデル構築
上記150遺伝子または127遺伝子のLog(RPM+1)値を説明変数とし、H
LとADを目的変数として用いた。R言語の“caret”パッケージにおいてランダム
フォレストのアルゴリズムをメソッドとして指定し、1回の決定木の構築に用いる変数の
数(mtry値)の最適値をチューニングした。チューニングによって決定したmtry
値を用いて、ランダムフォレストのアルゴリズムを実行し、推定誤答率(OOB err
or rate)を算出した。その結果、150遺伝子を用いた場合のモデルではOOB
error rateが6.98%、127遺伝子を用いた場合のモデルでは6.98%
であった。
実施例3 発現変動遺伝子を用いた判別モデルの構築
1)使用データ
実施例1と同様の方法で、被験者からのSSL由来RNAの発現量のデータ(リードカ
ウント値)を取得し、サンプル間の総リード数の違いを補正したRPM値に変換した。機
械学習モデルの構築には、負の二項分布に従うRPM値を正規分布に近似するため、整数
1を加算した底2の対数値(log(RPM+1)値)を用いた。
2)特徴量遺伝子の選択
実施例1において健常者(HL)と比較してADで有意に発現が変動していた123遺
伝子(表1-1~1-3)もしくは、そのうちこれまでにアトピー性皮膚炎との関係が報
告されていない107遺伝子(各表において*を付し太字で表示)を特徴量遺伝子として
選択した。
3)モデル構築
上記123遺伝子または107遺伝子のLog(RPM+1)値を説明変数とし、H
LとADを目的変数として用いた。R言語の“caret”パッケージにおいてランダム
フォレストのアルゴリズムをメソッドとして指定し、1回の決定木の構築に用いる変数の
数(mtry値)の最適値をチューニングした。チューニングによって決定したmtry
値を用いて、ランダムフォレストのアルゴリズムを実行し、OOB error rate
を算出した。その結果、123遺伝子を用いた場合のモデルではOOB error ra
teが13.95%、107遺伝子を用いた場合のモデルでは13.95%であった。
実施例4 Boruta法により抽出した特徴量遺伝子を用いた判別モデルの構築
1)使用データ
実施例1と同様の方法で、被験者からのSSL由来RNAの発現量のデータ(リードカ
ウント値)を取得し、サンプル間の総リード数の違いを補正したRPM値に変換した。た
だし、全サンプル中90%以上のサンプルで欠損値ではない発現量データが得られている
7429遺伝子のみ以下の解析に使用した。機械学習モデルの構築には、負の二項分布に
従うRPM値を正規分布に近似するため、整数1を加算した底2の対数値(log(R
PM+1)値)を用いた。
2)特徴量遺伝子の選択
全サンプル中90%以上のサンプルで欠損値ではない発現量データが得られている74
29遺伝子のLog(RPM+1)値を説明変数とし、健常者(HL)とADを目的変
数として用い、R言語の“Boruta”パッケージのアルゴリズムを実行した。最大試
行回数を1000回とし、p値が0.01未満である45遺伝子を算出した(表4)。こ
れら45遺伝子もしくは、そのうちこれまでにアトピー性皮膚炎との関係が報告されてい
ない39遺伝子(表4において*を付し太字で表示)を特徴量遺伝子として選択した。
Figure 2023157965000011
3)モデル構築
上記45遺伝子または39遺伝子のLog(RPM+1)値を説明変数とし、HLと
ADを目的変数として用いた。R言語の“caret”パッケージにおいてランダムフォ
レストのアルゴリズムをメソッドとして指定し、1回の決定木の構築に用いる変数の数(
mtry値)の最適値をチューニングした。チューニングによって決定したmtry値を
用いて、ランダムフォレストのアルゴリズムを実行し、OOB error rateを算
出した。その結果、45遺伝子を用いた場合のモデルではOOB error rateが
6.98%、39遺伝子を用いた場合のモデルでは9.3%であった。
実施例5 複数の実施例で重複して用いられた特徴量遺伝子に基づく判別モデルの構築
1)使用データ
実施例1と同様の方法で、被験者からのSSL由来RNAの発現量のデータ(リードカ
ウント値)を取得し、サンプル間の総リード数の違いを補正したRMP値に変換した。機
械学習モデルの構築には、負の二項分布に従うRPM値を正規分布に近似するため、整数
1を加算した底2の対数値(log(RPM+1)値)を用いた。
2)特徴量遺伝子の選択
実施例2~4において用いた特徴量遺伝子のうち、実施例2~4全ての実施例において
用いた遺伝子はMECR、RASA4CP、HMGCS1、ARRDC4、EIF1AD
、FDFT1、ZNF706、TEX2、TMPRSS11E、RPS6KB2、CTB
P1、ZNF335、CAPN1、DGKA、PPP1R9B、SPDYE7P、DNA
SE1L1、GNB2、CSNK1G2の19遺伝子であった(表5)。これら19遺伝
子のうちこれまでにアトピー性皮膚炎との関係が報告されていない17遺伝子(表5にお
いて*を付し太字で表示)を特徴量遺伝子として選択した。
3)モデル構築
上記17遺伝子のLog(RPM+1)値を説明変数とし、HLとADを目的変数と
して用いた。R言語の“caret”パッケージにおいてランダムフォレストのアルゴリ
ズムをメソッドとして指定し、1回の決定木の構築に用いる変数の数(mtry値)の最
適値をチューニングした。チューニングによって決定したmtry値を用いて、ランダム
フォレストのアルゴリズムを実行し、OOB error rateを算出した。その結果
、OOB error rateは6.98%であった。
Figure 2023157965000012

Claims (12)

  1. 被験者から採取された生体試料について、MECR、RASA4CP、ARRDC4、
    EIF1AD、FDFT1、ZNF706、TEX2、TMPRSS11E、RPS6K
    B2、CTBP1、ZNF335、DGKA、PPP1R9B、SPDYE7P、DNA
    SE1L1、GNB2及びCSNK1G2からなる17種の遺伝子群より選択される少な
    くとも1つの遺伝子又はその発現産物の発現レベルを測定する工程を含む、当該被験者に
    おけるアトピー性皮膚炎の検出方法。
  2. 遺伝子又はその発現産物の発現レベルがmRNAの発現量の測定である、請求項1記載
    の方法。
  3. 遺伝子又はその発現産物が前記被験者の皮膚表上脂質に含まれるRNAである、請求項
    1又は2記載の方法。
  4. 発現レベルの測定値を前記各遺伝子又はその発現産物の参照値と比較し、アトピー性皮
    膚炎の存在又は不存在を評価する、請求項1~3のいずれか1項記載の方法。
  5. アトピー性皮膚炎患者由来の前記遺伝子又はその発現産物の発現レベルと、健常人由来
    の同遺伝子又はその発現産物の発現レベルの測定値を教師サンプルとして、アトピー性皮
    膚炎患者と健常人を分ける判別式を作成し、被験者から採取された生体試料から得られた
    同遺伝子又はその発現産物の発現レベルの測定値を当該判別式に代入し、得られた結果を
    参照値と比較することによって、被検者におけるアトピー性皮膚炎の存在又は不存在を評
    価する、請求項1~4のいずれか1項記載の方法。
  6. 前記17種の遺伝子群の全ての遺伝子又はその発現産物の発現レベルが測定される、請
    求項5記載の方法。
  7. 前記17種の遺伝子群より選択される少なくとも1つの遺伝子の他に、下記表Aで示さ
    れる245種のうち前記17種の遺伝子を除いた遺伝子群より選択される少なくとも1つ
    の遺伝子又はその発現産物の発現レベルが測定される、請求項5又は6記載の方法。
    Figure 2023157965000013
  8. 前記17種の遺伝子群より選択される少なくとも1つの遺伝子の他に、下記表1-1~
    1-3の123種、表3-1~3-4で示される150種又は表4で示される45種の遺
    伝子群のうち前記17種の遺伝子を除いた遺伝子群より選択される少なくとも1つの遺伝
    子又はその発現産物の発現レベルが測定される、請求項5又は6記載の方法。
    Figure 2023157965000014
    Figure 2023157965000015
  9. 前記17種の遺伝子群より選択される少なくとも1つの遺伝子の他に、下記表の107
    種、127種及び39種の遺伝子群のうち前記17種の遺伝子を除いた遺伝子群より選択
    される少なくとも1つの遺伝子又はその発現産物の発現レベルが測定される、請求項7又
    は8記載の方法。
    Figure 2023157965000016
    Figure 2023157965000017
    Figure 2023157965000018
  10. 前記遺伝子又はそれに由来する核酸と特異的にハイブリダイズするオリゴヌクレオチド
    、又は前記遺伝子の発現産物を認識する抗体を含有する、請求項1~9のいずれか1項記
    の方法に用いられるアトピー性皮膚炎を検出するための検査用キット。
  11. 下表Bに示される210種の遺伝子群より選択される少なくとも1つの遺伝子又はその
    発現産物からなる、アトピー性皮膚炎の検出マーカー。
    Figure 2023157965000019
  12. MECR、RASA4CP、ARRDC4、EIF1AD、FDFT1、ZNF706
    、TEX2、TMPRSS11E、RPS6KB2、CTBP1、ZNF335、DGK
    A、PPP1R9B、SPDYE7P、DNASE1L1、GNB2及びCSNK1G2
    からなる17種の遺伝子群より選択される少なくとも1つの遺伝子又はその発現産物であ
    る、請求項11記載のアトピー性皮膚炎の検出マーカー。
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