JP2024059021A - アルミニウム材の抵抗スポット溶接方法 - Google Patents

アルミニウム材の抵抗スポット溶接方法 Download PDF

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Abstract

【課題】アルミニウム材を重ね合わせて通電する際に、ナゲット径を大きくして継手強度を高め、且つナゲットの厚さ方向の成長を抑制するアルミニウム材の抵抗スポット溶接方法を提供する。【解決手段】アルミニウム材の抵抗スポット溶接方法は、複数のアルミニウム材を重ね合わせて電極間に挟み込み、電極間に挟まれたアルミニウム材同士の接触部を、アルミニウム材の融点未満の温度に加温する第一の通電を行う予備通電工程と、予備通電工程後に、アルミニウム材同士の間にナゲットを形成する第二の通電を行う本通電工程と、を含む。【選択図】図2

Description

本発明は、アルミニウム材の抵抗スポット溶接方法に関する。
アルミニウム材は、鋼材と比較して電気抵抗が小さく熱伝導率が高いため、抵抗スポット溶接を行う際、溶接電流を鋼材の場合の約3倍、スポット溶接の電極の加圧力を約1.5倍に高めなければならない。このため、アルミニウム材の抵抗スポット溶接には、鋼材の抵抗スポット溶接の溶接条件を適用し、応用することが非常に困難である。
アルミニウム材の抵抗スポット溶接方法の一例として、電極の加圧力を2段階に変化させ、この加圧力に合わせて電流値を2段階(大電流から小電流)に変化させる技術が開示されている(特許文献1)。
また、溶接の本通電後に冷却時間を設けて、冷却時間経過後に本通電の電流値よりも低い電流値によるテンパー通電を行う技術が開示されている(特許文献2)。
また、予備通電にて第1ナゲットを形成し、冷却工程後の本通電工程により、第1ナゲットをアルミニウム材の重ね方向に直交する厚さ方向へ優先的に成長させる技術が示されている(特許文献3)。
特許第3862640号公報 特開平5-383号公報 特開2019-188418号公報
アルミニウム材を重ね合わせて抵抗スポット溶接を行った継手の溶接強度は、スポット溶接によって形成されるナゲット径に応じて増減する。そのため、継手の溶接強度を向上させるには、ナゲット径を大径化することが一案である。しかしながら、ナゲット径を大径化させると、ナゲット厚も同時に増加してしまい、ナゲットがスポット溶接用の電極先端部に接するほどの大きさに成長することがある。その場合、電極先端部に溶融アルミニウムが付着して、電極表面に金属間化合物が形成することで、電極先端形状が変化するおそれがある。電極先端形状が変化した場合、適切なナゲットを得るために電極のドレッシングを行うことにより電極先端形状を整える必要が生じる。そのため、一般的にはアルミニウム材では鋼材と比較してドレッシングの頻度が多くなり、その結果、連続打点数が少なくなって生産性が低下するという問題がある。
上記した先行文献1、2に記載の方法では、ナゲット径を大径化することができても、同時にナゲットの厚さ方向の成長を抑制することは困難である。また、先行文献3では、厚板においてナゲット厚さを抑制する効果が認められるものの、薄板では同様の効果を得ることができなかった。
本発明の目的は、アルミニウム材を重ね合わせて通電する際に、ナゲット径を大きくして継手強度を高め、且つナゲットの厚さ方向の成長を抑制するアルミニウム材の抵抗スポット溶接方法を提供することにある。
本発明は、下記の構成からなる。
複数のアルミニウム材を重ね合わせて電極間に挟み込み、前記電極間に挟まれた前記アルミニウム材同士の接触部を、前記アルミニウム材の融点未満の温度に加温する第一の通電を行う予備通電工程と、
前記予備通電工程後に、前記アルミニウム材同士の間にナゲットを形成する第二の通電を行う本通電工程と、
を含むアルミニウム材の抵抗スポット溶接方法。
本発明によれば、アルミニウム材を重ね合わせて通電する際に、ナゲット径を大きくして継手強度を高め、且つナゲットの厚さ方向の成長を抑制できる。
図1は、アルミニウム材を溶接するスポット溶接機の概略構成図である。 図2は、溶接電流の波形の一例を示すタイミングチャートである。 図3Aは、予備通電工程から冷却工程までの様子を模式的に示す工程説明図である。 図3Bは、冷却工程後の本通電工程の様子を模式的に示す工程説明図である。 図3Cは、冷却工程後の本通電工程の様子を模式的に示す工程説明図である。 図4は、アルミニウム材の抵抗スポット溶接後における溶融凝固した第2ナゲットを模式的に示すアルミニウム溶接継手の断面図である。
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。アルミニウム材の抵抗スポット溶接は、次に示すようなスポット溶接機により行えるが、スポット溶接機の構成はこれに限らない。
<スポット溶接機>
図1は、アルミニウム材を溶接するスポット溶接機の概略構成図である。
スポット溶接機11は、一対の電極13,15と、一対の電極13,15に接続された溶接トランス部17と、溶接トランス部17に電源部18からの溶接電力を供給する制御部19と、一対の電極13,15を軸方向に移動させる電極駆動部20とを備える。制御部19は、スポット溶接における電流値、通電時間、電極の加圧力、通電タイミング、加圧タイミングを統合的に制御する。
スポット溶接機11は、一対の電極13,15の間に、アルミニウム材である第1アルミニウム板21と第2アルミニウム板23との少なくとも2枚の板材を重ね合わせて挟み込む。そして、電極駆動部20による電極13,15の駆動によって、第1アルミニウム板21と第2アルミニウム板23とを板厚方向に加圧する。この加圧状態を維持しつつ、制御部19からの指令に基づいて溶接トランス部17が電極13,15間に通電する。これにより、電極13,15に挟まれた第1アルミニウム板21と第2アルミニウム板23との間にナゲット(スポット溶接部)25が形成され、第1アルミニウム板21と第2アルミニウム板23が一体化されたアルミニウム溶接継手(接合体)27が得られる。
上記例では2枚のアルミニウム板を接合してアルミニウム溶接継手27を得ているが、本発明は2枚のアルミニウム板を接合する場合に限らず、3枚以上のアルミニウム板を接合する場合にも好適に用いられる。
一対の電極13,15は、それぞれ電極内部に冷却部を備える。冷却部の冷却方式は特に限定されないが、図示例の構成では、電極13(15も同様)に形成された凹部31に冷却用パイプ33が配置され、冷却用パイプ33から水等の冷却媒体が供給されることで、電極13(15)が冷却される。
<アルミニウム材>
第1アルミニウム板21及び第2アルミニウム板23のアルミニウム材、及び3枚以上用いる場合の各アルミニウム板を構成するアルミニウム材は、任意の材質のアルミニウム、又はアルミニウム合金とすることができる。具体的には、5000系、6000系、7000系、2000系、4000系のアルミニウム合金のほか、3000系、8000系のアルミニウム合金や1000系のアルミニウムを採用することができる。各アルミニウム板は、同一の材質であってもよく、上記した材質を組み合わせたものであってもよい。
第1アルミニウム板21と第2アルミニウム板23(さらに他のアルミニウム板を用いる場合はそのアルミニウム板を含む)は、0.8mm~1.5mmの板厚を有する薄板が好ましい。各アルミニウム板の板厚は等しくてもよく、いずれか一方が他方より厚くてもよい。また、アルミニウム材の形態は、上記したアルミニウム板(圧延板)に限らず、押出材や鍛造材、鋳造材であってもよい。
以下、第1アルミニウム板21と第2アルミニウム板23の2枚のアルミニウム板を接合する態様を説明するが、本発明はこの態様に限定されるものではない。
<溶接条件>
制御部19は、所定のタイミングで溶接トランス部17から一対の電極13,15間にて通電させる。図2は、溶接電流の波形の一例を示すタイミングチャートである。
図示例の溶接電流の波形は、第一の通電を行う予備通電工程(通電時間T)に対応する区間と、冷却工程(冷却時間Tc)に対応する区間と、第二の通電を行う本通電工程(通電時間T)に対応する区間とを有する。予備通電工程と本通電工程のパルス波形は、通電オン/オフの二値で構成される矩形状であるが、三角波や正弦波等の他の波形や、ダウンスロープ、アップスロープ制御された波形であってもよい。
本通電工程の溶接熱量は、予備通電工程の溶接熱量より高く設定される。図示例では、予備通電の電流値Iと本通電の電流値Iとが等しいが、これに限らず、電流値Iと電流値Iとは互いに異なっていてもよい。さらに、予備通電と本通電の波形は、連続した通電波形でもよく、単一又は複数のパルスから構成される間欠的なパルス波形でもよい。つまり、溶接電流の電流値や電流波形の形状は任意である。
予備通電においては、電流値Iによる通電で第1アルミニウム板21と第2アルミニウム板23との重ね合わせ面が溶融しない程度に加温できればよい。3枚以上のアルミニウム板の場合も同様に、各アルミニウム板同士の重ね合わせ面が溶融しない程度に加熱できればよい。ここでは、第1アルミニウム板21と第2アルミニウム板23との板間接触部を、アルミニウム材の融点未満の温度に加温する。
予備通電の電流値I1は、通電の電流値をI(kA)、複数の前記アルミニウム材のうち最大の厚さを有するアルミニウム材の厚さをt(mm)とした場合に、通電の電流値Iは、I≦20t-15を満足すると好ましい。
本通電は、接合強度に必要な大きさのナゲットを形成するための通電である。予備通電の電流値I及びその通電時間Tと、本通電の電流値I及びその通電時間Tは、アルミニウム材の材質や板厚等に合わせて適宜設定できる。
冷却工程は、予備通電で加熱された板間を冷却する工程である。なお、冷却時間Tcでの電流値は、図示例では電極13,15間の通電を停止させた0Aであるが、必ずしも0Aでなくてもよい。予備通電時よりも第1アルミニウム板21と第2アルミニウム板23への入熱量を低下させることができれば、0Aより高い電流であってもよい。冷却時間Tcは、80ms以下、好ましくは60ms以下、より好ましくは40ms以下である。
<電極の加圧力>
予備通電開始から本通電終了までの間は、電極13,15により第1アルミニウム板21と第2アルミニウム板23に付与する加圧力を一定にすることが好ましい。加圧力を一定にすることで、予備通電後の冷却期間における第1アルミニウム板21と電極13との密着性、及び第2アルミニウム板23と電極15との密着性がそれぞれ均一となり、電流値や通電タイミングを変更する等の複雑な制御が不要となる。この加圧力は、2kN~10kNの範囲がナゲットの形成を良好にできるため好ましい。
なお、スポット溶接機11(図1参照)の電極13,15は、F形、R形、CR形、CF形、DR形等の任意の形状の電極を使用できる。特に、R形及びDR形の電極では、電極の先端面が凸状の曲率半径rを持つ曲面であるため、安定して加圧でき、先端面が平坦状の電極と比較してアルミニウム材表面の酸化皮膜を破壊しやすいという利点がある。
<抵抗スポット溶接の手順>
以降の説明では、第1アルミニウム板21と第2アルミニウム板23との重ね方向を、板厚方向、ナゲットの厚さ方向(溶け込み深さの深さ方向)とも呼称する。ナゲットについては、上記の重ね方向に直交してナゲット中心から放射状に延びる方向をナゲット径方向とし、ナゲットの厚さ方向に直交する方向の最大径をナゲット径とする。なお、ナゲットの厚さ方向は、アルミニウム板の板厚方向と同じであるため、適宜、板厚方向とも呼称する。
図3Aは予備通電工程から冷却工程までの様子を模式的に示す工程説明図であり、第1アルミニウム板21と第2アルミニウム板23の断面を示している。
前工程として、第1アルミニウム板21と第2アルミニウム板23の表面に対し、酸洗処理、又は酸化物被膜又はフッ化物被膜を形成する表面処理としてTi/Zr処理が行われる。これらの表面処理によれば、電極13,15と接触する領域に酸化物被膜が付着しにくくなり、電極13,15のドレッシング頻度を低減できる。
<予備通電工程>
図3Aに示すように、一対の電極13,15の間に、溶接する第1アルミニウム板21と第2アルミニウム板23とを重ね合わせて、電極13,15を介して電流値Iの予備通電を行う。このとき、第1アルミニウム板21と第2アルミニウム板23との重ね合わせ面は、溶融を抑制して加温される。すなわち、予備通電では第1アルミニウム板21と第2アルミニウム板23との間に板間溶融は生じない。
<冷却工程>
その後、所定のインターバル期間にわたって、一対の電極13,15間の通電を中断することにより、第1アルミニウム板21と第2アルミニウム板23の予備通電が行われた部位を冷却する冷却工程を実行する。なお、冷却工程は必ずしも必要ではなく、予備通電から本通電まで連続して通電を行ってもよい。
<本通電工程>
図3B,図3Cは、冷却工程後の本通電工程の様子を模式的に示す工程説明図であり、第1アルミニウム板21と第2アルミニウム板23の断面を示している。
上記した冷却工程の終了時から本通電工程を開始する。本通電工程においては、図3Bに示すように、電極13,15間で電流値Iにより通電する。電流値Iで通電したとき、第1アルミニウム板21と第2アルミニウム板23との間を電流が通過する際に形成される第1ナゲット35の領域よりも、ナゲット外縁から更にナゲット径方向の外側の領域34の方が、電気抵抗が大きくなる。
通電により加熱された高温の第1ナゲット35は、ナゲット周囲の部材よりも電気抵抗が増加するが、外側の領域34の電気抵抗はそれ以上に大きい。したがって、本通電工程においては、外側の領域34が大きな発熱源となるため、第1ナゲット35の外縁よりナゲット径方向の外側の領域34の方が強く加熱される。このため、第1ナゲット35はナゲット径方向への成長が板厚方向よりも優先的に促進される。
これによって、図3Cに示すように、第1ナゲット35は、外周縁から外側に向けて放射状に成長する一方、板厚方向への成長はナゲット径方向と比較して抑制される。その結果、本通電後に偏平状の第2ナゲット39が形成される。
<本通電後のナゲットの寸法>
図4はアルミニウム材の抵抗スポット溶接後における溶融凝固した第2ナゲット39を模式的に示すアルミニウム溶接継手27の断面図である。
ここで、第2ナゲット39の直径をナゲット径D、第2ナゲット39の厚さ(溶け込み深さ)をh、第1アルミニウム板21の板厚をt、第2アルミニウム板23の板厚をtとする。
上記の抵抗スポット溶接により最終的に形成される第2ナゲット39における、ナゲット径D(mm)とナゲットの厚さh(mm)との寸法比(扁平率)D/hは3.5~5.0である。扁平率D/hの下限値は、好ましくは3.8以上、より好ましくは4.0以上であり、その上限値は好ましくは4.8以下、より好ましくは4.3以下である。ナゲットの扁平率/hが上記範囲に収まることで必要な接合強度が得られる。また、扁平率D/hが上記範囲を超えても接合強度の大幅な増加は望めない。
また、第2ナゲット39における、ナゲットの厚さh(mm)と、第1アルミニウム板の板厚t1及び第2アルミニウム板23の板厚t2の合計値(2t=t1+t2)との板厚比h/(2t)は、0.4~0.8である。板厚比h/(2t)の下限値は、好ましくは0.55であり、その上限値は、好ましくは0.70である。この範囲の板厚比h/tに設定することで、板厚に対するナゲットの厚さが過少となることに起因する、溶け込み不足、継手品質の不安定化、接合強度の低下等を招くことがない。よって、アルミニウム溶接継手27の接合強度(引張せん断強度、十字引張強度)を十分に高められる。
このように、寸法比D/hと板厚比h/(2t)とを所定の範囲に設定することで、継手品質を安定させつつ、ナゲットの大径化と電極寿命の向上との両立が可能になる。
<ナゲットの形状制御>
上記のように通電タイミングを予備通電と本通電とに分割し、予備通電で板間を融点未満の温度まで加温すると、薄板の場合でも、ナゲットの板厚方向への成長が抑制される。これは、予備通電により新生面を形成することで、本通電時において電気抵抗の高い領域、つまり、新生面の最外縁よりも外側の領域における抵抗発熱が、板厚方向の抵抗発熱よりも大きくなるためと推認される。その結果、第1ナゲット35は、ナゲット外縁よりナゲット径方向外側への成長が、板厚方向への成長よりも優先的になる。
その現象は、次のような過程を経ると推認される。
重ね合わせた複数枚のアルミニウム板の、互いの板面同士の重ね合わせ面が、酸化膜等の絶縁層で覆われている場合、予備通電を実施することで、アルミニウム板表面の絶縁層が破壊され、板表面に多数の新生面(絶縁層のない面)同士の接合部が一定領域に形成される。
この状態で本通電を実施すると、新生面接合領域の周囲に形成された僅かな隙間(空間、又は破壊されずに残存した絶縁層)による電気抵抗の高い部分で発熱が促進されるため、ナゲットは、新生面接合領域からナゲット径方向への成長が板厚方向よりも促進されると考えられる。
このため、複数枚のアルミニウム板を抵抗スポット溶接する際に、アルミニウム板の溶融により形成されるナゲットが、アルミニウム板の板厚方向に過大な厚さとならず偏平状に形成される。したがって、ナゲットが、重ねられたアルミニウム板の板厚方向外側の板面(電極側)まで達することが抑制される。また、ナゲット径を大きくしつつ、ナゲット厚さを小さく抑制することが、電極の加圧力と溶接電流の複雑な制御を要することなく簡単に実現できる。これにより、抵抗スポット溶接されたアルミニウム材の溶接部において溶接欠陥を生じさせることなく、高い継手強度を確保することができる。
次に、本発明に係るアルミニウム材の抵抗スポット溶接方法に基づいて2つの板材を接合した試験例を説明する。ここでは、材料及び溶接条件をそれぞれ異ならせた試験例1~14について検証した。各試験例の条件を表1に示す。
Figure 2024059021000002
<試験条件>
(供試材)
材質:A5182材(Al-Mg系アルミニウム合金)
板厚t:1.0mm(試験例1~8,11~13)、1.2mm(試験例9,10,14)
表面処理:酸洗(試験例1~9、11~14)、Ti/Zr処理(試験例10)
(使用した電極)
種別:クロム銅 R形電極
先端の曲率半径r:100mm(試験例1~7,9~14)、300mm(試験例8)
電極直径(元径):19mm
電極間加圧力:3kN,3.5kN
<試験結果>
試験例1~14の試験結果を表1~表5に纏めて示した。
(試験例1)
試験例1は、電流値8kA、20msの予備通電を行った後、さらに連続して電流値24kA、40msの本通電を行う条件とした。
この試験例1では、表2に示すようにスポット溶接を20回連続して行い、打点数が1~5と、10、13,15,20の打点において形成されたナゲットを代表データとして評価した。各ナゲットの切断面を顕微鏡観察してナゲット寸法を計測した結果、本通電後のナゲットの扁平率D/hは、3.32~4.40であった。15打点と20打点で、扁平率D/hが3.5未満であったが、他の打点数では3.5~5.0の範囲に収まった。ナゲットの評価方法は、以下の試験例についても同様である。なお、予備通電後において、板間溶融は認められなかった。板厚比h/(2t)は、0.56~0.84となり、15打点以降は0.8を超えたが、それまでは0.4~0.8の範囲に収まった。
(試験例2~4)
試験例2は、試験例1の条件の予備通電後に、通電を停止するインターバル期間を20msで設けた。その他の条件は試験例1と同様である。
試験例2では、表3に示すようにスポット溶接を15回連続して行い、打点数が1,5,10,15の打点において形成されたナゲットを代表データとして評価した。その結果、本通電後のナゲットの扁平率D/hは、3.26~3.98であった。15打点目で扁平率D/hが3.5未満となったが、他の打点数では3.5~5.0の範囲に収まった。板厚比h/(2t)は、0.59~0.76となり、0.4~0.8の範囲に収まった。
試験例3は、試験例2のインターバル期間を40msに増加させ、試験例4は、試験例2のインターバル期間を80msに増加させた。その他の条件は試験例2と同様である。
表3に示すように、試験例3では、スポット溶接を15回連続して行った結果、本通電後のナゲットの扁平率D/hは、3.54~4.68であった。板厚比h/(2t)は、0.48~0.77となり、0.4~0.8の範囲に収まった。
また、試験例4では、スポット溶接を15回連続して行った結果、本通電後のナゲットの扁平率D/hは、10打点に達するまでは5.0以上となり、10打点以上では3.5未満となった。板厚比h/(2t)は、0.41~0.81となり、10打点以降は0.8を超えたが、それまでは0.4~0.8の範囲に収まった。
試験例2~4のいずれも予備通電後の板間溶融は認められなかった。
インターバル期間は、40msまでは扁平率D/hを3.5~5.0の範囲に略収められるが、80msでは上記範囲から外れた。
(試験例5)
試験例5は、試験例1の予備通電の電流値を5kAに低下させた以外は、試験例1と同じ条件である。
試験例5では、表3に示すように本通電後のナゲットの扁平率D/hは、15打点に達すると3.40となったが、それまでは3.5~5.0の範囲に収まった。また、予備通電後の板間溶融は認められなかった。板厚比h/(2t)は、0.70~0.84となり、10打点以降は0.8を超えたが、それまでは0.4~0.8の範囲に収まった。
(試験例6,7)
試験例6は、試験例1の予備通電の通電時間を40msに延ばし、試験例7は、試験例1の予備通電の通電時間を80msに延ばした以外は、試験例1と同じ条件である。
試験例6では、表4に示すようにスポット溶接を15回連続して行った結果、本通電後のナゲットの扁平率D/hは、10打点目で3.67となった以外は、3.5~5.0の範囲から外れた。板厚比h/(2t)は、0.43~0.91となり、10打点までは0.4~0.8の範囲に収まった。
試験例7では、1打点目で4.22となった以外は、3.5~5.0の範囲から外れた。
また、試験例6,7には、予備通電後の板間溶融は認められなかった。このように、予備通電の通電時間の増加は、ナゲットの扁平率D/hのバラつきを生じさせた。板厚比h/(2t)は、0.58~0.92となり、5打点以降は0.8を超えた。
(試験例8)
試験例8は、試験例1の電極をR300に変更した以外は、試験例1と同様である。
試験例8では、表4に示すようにスポット溶接を15回連続して行った結果、予備通電後の板間溶融は認められず、本通電後のナゲットの扁平率D/hは、15打点目で3.08となった以外は、3.5~5.0の範囲に収まった。このように電極先端の曲率半径が大きくなっても、本通電後のナゲットの扁平率D/hを略適正に維持できた。板厚比h/(2t)は、0.56~0.90となり、10打点以降は0.8を超えたが、それまでは0.4~0.8の範囲に収まった。
(試験例9,10)
試験例9は、供試片の板厚を1.2mmとすることに伴い、予備通電の電流値を12kA、通電時間を60msに増加させ、本通電の通電時間を80msに増加させている。その他の条件は、試験例2と同様である。また、試験例10は、試験例9の表面処理の酸洗処理に代えて、Ti/Zr処理を施した以外は、試験例9と同様の条件である。
試験例9では、表5に示すようにスポット溶接を71回連続して行った結果、本通電後のナゲットの扁平率D/hは、15打点目までは3.5以上であったが、29打点目以降は更に減少して3.5~5.0の範囲から外れた。板厚比h/(2t)は、0.58~0.87となり、29打点以降は0.8を超えたが、それまでは0.4~0.8の範囲に収まった。
試験例10では、Ti/Zr膜の被膜量は3.5mg/mとなり、本通電後のナゲットの扁平率D/hは、29打点目までは3.5以上であったが、43打点目以降は更に減少して3.5~5.0の範囲から外れた。板厚比h/(2t)は、0.49~0.95となり、57打点以降は0.8を超えたが、それまでは0.4~0.8の範囲に収まった。
また、試験例9,10には、予備通電後の板間溶融は認められなかった。
(試験例11,12)
試験例11は、ISOに準拠したスポット溶接条件であり、予備通電を行わずに本通電を行った。試験例12は、試験例11の本通電における通電時間を40msに短縮した。
試験例11では、表2に示すようにスポット溶接を20回連続して行い、打点数が1,5,10,15の打点において形成されたナゲットを代表データとして評価した。その結果、本通電後のナゲットの扁平率D/hは、いずれも3.5未満となり、3.5~5.0の範囲から外れた。板厚比h/(2t)は、0.79~0.99となり、3打点以外は0.8を超えた。
また、試験例12では、本通電後のナゲットの扁平率D/hは、1打点目が3.70であった以外は、いずれも3.5未満となり、3.5~5.0の範囲から外れた。板厚比h/(2t)は、0.66~0.95となり、5打点以降は0.8を超えたが、それまでは0.4~0.8の範囲に収まった。
(試験例13)
試験例13は、試験例1の予備通電の電流値を10kAに増加させた以外は、試験例1の条件と同様である。
試験例13では、表2に示すように本通電後のナゲットの扁平率D/hは、20打点目が3.80であった以外は、いずれも3.5未満となり、3.5~5.0の範囲から外れた。また、予備通電後の板間溶融が認められた。板厚比h/(2t)は、0.72~0.95となり、2打点と20打点では0.4~0.8の範囲に収まったが、それ以外は0.8を超えた。
(試験例14)
試験例14は、試験例11と同様のISOに準拠したスポット溶接条件であり、板厚を1.2mmとして本通電の通電時間を80msとした。
試験例14では、表5に示すように本通電後のナゲットの扁平率D/hが全て3.5未満であり、3.5~5.0の範囲から外れた。板厚比h/(2t)は、0.68~0.92となり、43打点以降は0.8を超えたが、それまでは0.4~0.8の範囲に収まった。
Figure 2024059021000003
Figure 2024059021000004
Figure 2024059021000005
Figure 2024059021000006
予備通電と本通電とを行った試験例1~10と、予備通電を行わず本通電のみを行った試験例11,12,14とを比較すると、試験例11,12,14では、打点数にかかわらず、本通電後のナゲットの扁平率D/hが概ね3.5未満となった。これに対し、打点数が5以下の試験例1~10においては、本通電後のナゲットの扁平率D/hが概ね3.5以上となり、予備通電を行うことで本通電後のナゲットの厚さ方向の成長を抑制できることが分かった。これは、試験例11,12,14では新生面が形成されず、試験例1~10では予備通電後に新生面が形成されたためと推認される。
また、予備通電後にナゲットが形成されなかった試験例1~10と、予備通電後にナゲットが形成された試験例13とを比較すると、試験例13では、予備通電後に板間溶融が認められ、打点数にかかわらず、本通電後のナゲットの扁平率D/hが概ね3.5未満となった。これに対し、打点数が5以下の実施例1~10では、予備通電後に板間溶融が認められず、本通電後のナゲットの扁平率D/hが概ね3.5以上となり、板間溶融が生じない範囲で予備通電を行うことにより、本通電後のナゲットの厚さ方向の成長を抑制できることが分かった。
なお、試験例1~10において、例えば打点数が5を超えると、本通電後のナゲットの扁平率D/hが3.5未満となるものもあるが、その場合でも、扁平率D/hが概ね3.0以上となるため、使用条件によっては許容範囲といえる。
本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、実施形態の各構成を相互に組み合わせることや、明細書の記載、並びに周知の技術に基づいて、当業者が変更、応用することも本発明の予定するところであり、保護を求める範囲に含まれる。
以上の通り、本明細書には次の事項が開示されている。
(1) 複数のアルミニウム材を重ね合わせて電極間に挟み込み、前記電極間に挟まれた前記アルミニウム材同士の接触部を、前記アルミニウム材の融点未満の温度に加温する第一の通電を行う予備通電工程と、
前記予備通電工程後に、前記アルミニウム材同士の間にナゲットを形成する第二の通電を行う本通電工程と、
を含むアルミニウム材の抵抗スポット溶接方法。
このアルミニウム材の抵抗スポット溶接方法によれば、ナゲットの板厚方向への成長を抑制しつつナゲット径を大きくできるため、継手強度を高められる。また、ナゲットの外縁が、重ねられたアルミニウム材の外側の板面(電極側)に到達し難くなるため、電極表面への溶融アルミニウムの付着を抑制できる。これにより、電極のドレッシング頻度を低減でき、もって、スポット溶接のタクトタイムを短縮し、生産性を向上できる。
(2) 前記本通電工程により形成されたナゲットは、前記アルミニウム材の重ね方向に直交する方向のナゲット径D(mm)と、前記ナゲットの厚さhとの寸法比D/hが3.5~5.0である(1)に記載のアルミニウム材の抵抗スポット溶接方法。
このアルミニウム材の抵抗スポット溶接方法によれば、本通電におけるナゲットのナゲット径方向への成長が、板厚方向への成長と比較して大きくなる。
(3) 前記本通電工程により形成されたナゲットは、前記ナゲットの厚さh(mm)と、前記アルミニウム材の合計厚さ2t(mm)との板厚比h/(2t)が0.4~0.8である(1)又は(2)に記載のアルミニウム材の抵抗スポット溶接方法。
このアルミニウム材の抵抗スポット溶接方法によれば、アルミニウム材同士の接合強度を十分に高められる。
(4) 前記予備通電工程と前記本通電工程との間に、通電を停止するインターバル期間を設ける、(1)から(3)のいずれか1つに記載のアルミニウム材の抵抗スポット溶接方法。
このアルミニウム材の抵抗スポット溶接方法によれば、インターバル期間によりアルミニウム材同士の接触部が冷却されるため、本通電時に過剰な溶込みを抑制できる。
(5) 前記インターバル期間は、80ms以下である、(4)に記載のアルミニウム材の抵抗スポット溶接方法。
このアルミニウム材の抵抗スポット溶接方法によれば、予備通電により加温された状態を保持しつつ本通電を行える。
(6) 前記アルミニウム材の表面に、酸化物被膜又はフッ化物被膜を形成する表面処理を施す、(1)から(5)のいずれか1つに記載のアルミニウム材の抵抗スポット溶接方法。
このアルミニウム材の抵抗スポット溶接方法によれば、電極と接触する領域に酸化物被膜が付着しにくくなり、電極のドレッシング頻度を低減できる。
13,15 電極
21 第1アルミニウム板(アルミニウム材)
23 第2アルミニウム板(アルミニウム材)
25 ナゲット
27 アルミニウム溶接継手(接合体)
35 第1ナゲット
39 第2ナゲット

Claims (6)

  1. 複数のアルミニウム材を重ね合わせて電極間に挟み込み、前記電極間に挟まれた前記アルミニウム材同士の接触部を、前記アルミニウム材の融点未満の温度に加温する第一の通電を行う予備通電工程と、
    前記予備通電工程後に、前記アルミニウム材同士の間にナゲットを形成する第二の通電を行う本通電工程と、
    を含むアルミニウム材の抵抗スポット溶接方法。
  2. 前記本通電工程により形成されたナゲットは、前記アルミニウム材の重ね方向に直交する方向のナゲット径D(mm)と、前記ナゲットの厚さhとの寸法比D/hが3.5~5.0である請求項1に記載のアルミニウム材の抵抗スポット溶接方法。
  3. 前記本通電工程により形成されたナゲットは、前記ナゲットの厚さh(mm)と、前記アルミニウム材の合計厚さ2t(mm)との板厚比h/(2t)が0.4~0.8である請求項1に記載のアルミニウム材の抵抗スポット溶接方法。
  4. 前記予備通電工程と前記本通電工程との間に、通電を停止するインターバル期間を設ける、
    請求項1に記載のアルミニウム材の抵抗スポット溶接方法。
  5. 前記インターバル期間は、80ms以下である、
    請求項4に記載のアルミニウム材の抵抗スポット溶接方法。
  6. 前記アルミニウム材の表面に、酸化物被膜又はフッ化物被膜を形成する表面処理を施す、
    請求項1から5のいずれか1項に記載のアルミニウム材の抵抗スポット溶接方法。
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