JP2024058325A - TiAl合金材及びTiAl中間合金材 - Google Patents

TiAl合金材及びTiAl中間合金材 Download PDF

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Abstract

【課題】特に優れた高温クリープ強度を得ることができるTiAl合金材を提供する。【解決手段】TiAl合金材は、Al:42.0原子%以上44.0原子%以下、Cu:0.5原子%以上2.5原子%以下、及びNb:3.0原子%以上7.0原子%以下、を含有し、残部がTi及び不可避的不純物からなり、ラメラ粒の平均粒径が20μm以上200μm以下である。【選択図】なし

Description

特許法第30条第2項適用申請有り 公益社団法人日本金属学会 2022年春期(第170回)講演大会 [G]力学特性と組織[339]の講演概要、掲載年月日:2022年3月1日、ウェブサイトのアドレス:https://confit.atlas.jp/guide/event/jim2022spring/proceedings/list 〔刊行物等〕 公益社団法人日本金属学会 2022年春期(第170回)講演大会 [G]力学特性と組織[339]の発表用資料、掲載年月日:2022年3月16日、ウェブサイトのアドレス:https://confit.atlas.jp/guide/event/jim2022spring/subject/2001-09-09/classlist
本発明は、特に優れた高温クリープ強度を有するTiAl合金材及び該TiAl合金材を得るためのTiAl中間合金材に関する。
TiAl合金の分野では、従来の鋳造欠陥が多く材料歩留りの低い鋳造合金に替わって、高強度で熱間加工性に優れた鍛造用TiAl合金が注目されている。特に、輸送機等の分野において、その軽量化を図り、燃費を向上させるために、航空機エンジンの材料としてTiAl合金材を採用する事例が増加している。
種々のTiAl合金のうち、鋳造用TiAl合金等のような従来のTiAl合金は、結晶構造が面心立方格子(FCC:Face Centered Cubic lattice)構造に近いγ相と、六方最密格子(HCP:Hexagonal Close-Packed lattice)構造のα相から構成されている。このようなTiAl合金の材料組織は、熱処理後の冷却過程において、α相に薄い板状のγ相が析出し、ラメラ組織を形成することが特徴である。
ところで、熱間鍛造品は、鋳造品と比較して、強度及び靱性がともに優れているため、特に、これらの特性が要求される部材に適用することを目的として、熱間鍛造用TiAl合金の開発が進められている。熱間鍛造用TiAl合金には、高温変形しやすい体心立方格子(BCC:Body Centered Cubic lattice)構造のβ相を安定化する成分が添加されており、β相が変形の大部分を担っているため、熱間鍛造加工を可能としている。
β相を安定化する成分としては、Mn、Cr、V、Nb等が挙げられ、これらのβ相安定化元素をTiAl合金に添加することが、熱間鍛造性の向上に効果的である。例えば、特許文献1には、Ti及びAlに、Nb、V及びBが添加され、硼化物の粒径が規定された鍛造用のTiAl合金が開示されている。また、特許文献2には、Al及びNbを含有し、添加成分の相対的な量が調整されたTiAl基合金、及びTi及びAlに、Nb、V、Cr及びMoが共添加されたTiAl基合金が開示されている。
さらに、特許文献3には、Ti、Al、Nb、Mo及び/又はMn、並びにB及び/又はC及び/又はSiを含有し、β/B2-Ti相の割合が規定されたチタン-アルミニウム系合金材料が開示されている。また、特許文献4には、チタンとアルミニウムとニオブを含有し、さらにCr、Zr、Mo、Fe、La、Sc、Y、Mn、Ta、V、Wから組成され、所定のラメラ組織が形成されたチタンアルミナイド合金が開示されている。そして、これらの合金はいずれも、熱間鍛造加工されることが想定されている。
特許文献1~4に示すように、NbはTiAl合金の耐酸化性を向上させる重要な元素であり、多くの熱間鍛造用TiAl合金にはNbが添加されている。しかし、ラメラ組織を含めたγ相の形成を前提として、高いAl濃度に設定された材料に、Nbを単独添加すると、1300℃未満の実用的な鍛造加熱温度域において、β相を十分に安定化させることはできない。そこで、多くの従来技術では、製造性の低い加工プロセスである「恒温鍛造」を用いるか、又はNbと他のβ安定化元素とを「共添加」して、鍛造加熱温度域で十分なβ相を形成させ、良好な熱間鍛造性を確保している。
また、鍛造用TiAl合金は、鍛造後に材料組織を調整するための熱処理が必要である。このような熱処理の方法としては、例えば、1回目の熱処理として、鍛造材のα相を再結晶させて、α単相化を促進する高温熱処理を実施し、その後、2回目の熱処理として、α相内にγ板を析出させ、ラメラ組織を導入するための、より低温な熱処理を実施する方法が挙げられる。そして、2回目の熱処理後の材料組織がTiAl合金材の組織となる。この場合に、1回目の熱処理によりα相の組織サイズや形態が決まり、そのα相にγ板が析出してラメラ組織を形成するため、実質的にラメラ粒のサイズは1回目の熱処理によってほぼ決定する。
なお、α相は、高温ではα相を維持するものの、室温付近では規則化が進み、「α2相」と表記されることがある。また、β相は室温付近では「B2構造」となる。ただし、本願明細書におけるα相、β相の記載は、特に温度を限定するものではない。
特許第6687118号公報 特開2009-215631号公報 特許第5926886号公報 特許第5512964号公報
しかしながら、上記特許文献1~4に記載の方法を用いて、Nbと他のβ安定化元素とを共添加しても、TiAl合金の熱処理後において多量のβ相が残留してしまい、熱間鍛造性を付与することはできても、TiAl合金材の機械特性の1つである高温クリープ強度が低下するという問題が生じる。
なお、TiAl合金の熱間鍛造としては、金型を室温又は数百度程度の予熱に留める通常の型鍛造と、金型を鍛造素材と同じ1200℃などの温度に加熱して、例えば、10-3/secのような、歪速度が遅い条件で、時間をかけて鍛造する恒温鍛造とが挙げられる。このような熱間鍛造方法のうち、恒温鍛造を用いた場合は、β相が不足しても加工可能な場合が多いが、恒温鍛造は1ストローク当りの時間が極めて長くなるため、工業製品を対象とした場合には、生産性が低下する。
TiAl合金に対して、β安定化元素を添加すると、熱間鍛造性を付与することはできるが、熱処理後もβ相が残留してしまい、TiAl合金材のクリープ強度の低下を招いてしまう。しかし、今後の多様な用途にTiAl合金材を適用していくためには、特に優れた高温クリープ強度が必要となる。
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたものであって、特に優れた高温クリープ強度を得ることができるTiAl合金材及び該TiAl合金材を得るためのTiAl中間合金材を提供することを目的とする。
本発明の上記目的は、TiAl合金材に係る下記[1]の構成により達成される。
[1] Al:42.0原子%以上44.0原子%以下、
Cu:0.5原子%以上2.5原子%以下、及び
Nb:3.0原子%以上7.0原子%以下、を含有し、
残部がTi及び不可避的不純物からなり、
ラメラ粒の平均粒径が20μm以上200μm以下であることを特徴とするTiAl合金材。
また、本発明の上記目的は、TiAl合金中間材に係る下記[2]の構成により達成される。
[2] TiAl合金材を得るためのTiAl中間合金材であって、
Al:42.0原子%以上44.0原子%以下、
Cu:0.5原子%以上2.5原子%以下、及び
Nb:3.0原子%以上7.0原子%以下、を含有し、
残部がTi及び不可避的不純物からなり、
α粒の平均粒径が20μm以上200μm以下であることを特徴とするTiAl中間合金材。
本発明によれば、特に優れた高温クリープ強度を有するTiAl合金材及び該TiAl合金材を得るためのTiAl中間合金材を提供することができる。
図1は、縦軸を最小クリープ速度とし、横軸をラメラ粒の平均粒径とした場合の、発明例及び比較例の関係を示すグラフである。
本発明者らは、Nb及びCuを規定の濃度で共添加することにより、熱間鍛造時のα相の変形能を向上させ、鍛造中はβ相を十分に確保しながら、熱処理後のβ相を低減することができることを見出した。また、本発明者らは、β安定化元素を適切な含有量で含有させたTiAl合金材において、特にCu濃度を適切に制御するとともに、ラメラ粒の粒径を規定することにより、優れた高温クリープ強度を得ることができることを見出した。
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」という。)について、詳細に説明する。なお、本発明は、以下で説明する実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変更して実施することができる。
[TiAl合金材]
本実施形態に係るTiAl合金材は、TiAl合金を鍛造し、熱処理を施すことにより得られる。以下、本発明に係るTiAl合金材に含有される成分と、その濃度の上限値及び下限値の限定理由、並びにラメラ粒の粒径及びα粒の粒径について、詳細に説明する。
<Al:42.0原子%以上44.0原子%以下>
Alは、TiAl合金材の表面へのAl保護膜の形成を促進する元素である。TiAl合金材中のAl濃度を適切に制御することにより、耐酸化性のベースを向上させるとともに、γ相を安定化し、α相へ多量のγ板を形成させて、ラメラ組織を形成することにより、TiAl合金材のクリープ強度を向上させることができる。
TiAl合金材におけるAl濃度が42.0原子%未満であると、所望のクリープ強度を得ることができない。したがって、TiAl合金材におけるAl濃度は42.0原子%以上とし、42.5原子%以上であることが好ましい。
一方、TiAl合金材におけるAl濃度が44.0原子%を超えると、γ相が過度に安定化し、γ粒が形成されるため、所望のクリープ強度を得ることができない。また、TiAl合金材を得るためのTiAl合金鋳塊の熱間鍛造性も低下する。したがって、TiAl合金材におけるAl濃度は44.0原子%以下とし、43.6原子%以下であることが好ましい。
<Cu:0.5原子%以上2.5原子%以下>
Cuは、高温においてβ相を安定化させる効果を有する元素であり、TiAl合金材中のCu含有量を適切に制御することは、本実施形態において、最も重要な要件である。従来のTiAl合金においては、熱間鍛造性向上のために、高温でのβ相の形成を促進すると、熱処理後もβ相が残留して、TiAl合金材の高温クリープ強度が低下するという問題があった。本実施形態においては、TiAl合金に、NbとCuを規定の濃度で共添加することにより、熱間鍛造時のα相の変形能を向上させ、鍛造中はβ相を十分に確保しながら、熱処理後のβ相を低減することができ、TiAl合金鋳塊の熱間鍛造性を向上させることができる。また、熱処理後の残留β相を最小限に留めることができ、優れた高温クリープ強度が得られ、TiAl合金鋳塊の熱間鍛造性と、TiAl合金材の高温クリープ強度を両立することができる。
TiAl合金材におけるCu濃度が0.5原子%未満であると、TiAl合金鋳塊の熱間鍛造時の温度でβ相を安定化させる作用を得ることができず、また、熱間鍛造時のα相の変形能を向上させて、熱間鍛造温度でのみβ相を形成させる作用を得ることができない。このため、TiAl合金鋳塊の熱間鍛造性が低下する。さらに、Cu濃度が0.5原子%未満であると、ラメラ粒の平均粒径が大きくなりすぎて、最小クリープ強度が低下する。したがって、TiAl合金材におけるCu濃度は0.5原子%以上とし、0.7原子%以上であることが好ましく、0.9原子%以上であることがより好ましい。
一方、TiAl合金材におけるCu濃度が2.5原子%を超えると、熱処理後にβ相が残留し、ラメラ粒の平均粒径が小さくなりすぎて、所望の高温クリープ強度を得ることができない。したがって、TiAl合金材におけるCu濃度は2.5原子%以下とし、2.0原子%以下であることが好ましく、1.5原子%以下であることがより好ましく、1.2原子%以下であることがさらに好ましい。
<Nb:3.0原子%以上7.0原子%以下>
Nbは、TiAl合金材の耐酸化性を向上させる効果を有する元素である。
TiAl合金材におけるNb濃度が3.0原子%未満であると、TiAl合金材の耐酸化性が低下する。また、Nb濃度が3.0原子%未満であると、ラメラ粒の平均粒径が大きくなりすぎて、最小クリープ強度が低下する。したがって、TiAl合金材におけるNb濃度は3.0原子%以上とし、4.5原子%以上であることが好ましい。
一方、TiAl合金材におけるNb濃度が7.0原子%を超えると、α相が不安定となり、ラメラ粒の形成を確保することができず、ラメラ粒の平均粒径が小さくなりすぎて、高温クリープ強度が低下する。したがって、TiAl合金材におけるNb濃度は7.0原子%以下とし、6.0原子%以下であることが好ましい。
<残部>
本実施形態に係るTiAl合金材の上記成分を除く残部は、Ti及び不可避的不純物である。不可避的不純物としては、C、N、O、H、Cl、Fe、Mg、Ca、Mn、Cr、V、Mo、Sn、Bi、Co、Ni、Zr、Na、Be、Zn等が挙げられる。
<ラメラ粒の平均粒径:20μm以上200μm以下>
ラメラ粒の粒径は、TiAl合金材のクリープ特性を左右する要素である。
TiAl合金材において、ラメラ粒の平均粒径が20μm未満であると、組織全体に占める粒界の割合が増加し、粒界近傍で進行しやすいクリープ変形中の組織劣化が、より組織全体で高い割合で生じるようになり、クリープ特性が悪くなる。したがって、TiAl合金材におけるラメラ粒の平均粒径は、20μm以上とし、30μm以上であることが好ましい。
一般に、金属材料においては、鍛造時の熱処理温度が高い方が破壊靭性は向上するが、ラメラ粒の平均粒径が200μmを超えると、熱処理温度が高温であっても極端に脆性的な挙動を示すようになる。その結果、クリープ試験開始直後に応力集中に起因した破断が生じるなどクリープ特性の著しい低下を招く。したがって、TiAl合金材におけるラメラ粒の平均粒径は、200μm以下とし、150μm以下出ることが好ましく、100μm以下であることがより好ましく、75μm以下であることがさらに好ましい。
ラメラ粒の平均粒径は、例えば以下のようにして求めることができる。まず、TiAl合金材の表面を機械化学研磨で鏡面化させて試験片を作製する。次に、走査電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)を用いて、試験片の板厚中央付近について、反射電子像を撮影する。その後、各SEM写真に対して、画像処理ソフトを用いてラメラ粒を描き、画像解析ソフト「Image Pro Plus」(Media Cybernetics社製)を用いて、描いたラメラ粒の円相当径を算出する。なお、β相が残留している場合は、β相を除いてラメラ粒の輪郭を描く。また、SEM写真の4つの辺に接したラメラ粒は解析から除外する。このようにして、複数のラメラ粒の円相当径から平均円相当径を算出することにより、ラメラ粒の平均粒径とすることができる。
なお、ラメラ粒の平均粒径を制御しない状態で、優れた高温クリープ強度を得るためには、例えば、TiAl合金材におけるCu含有量をより厳しく制御する方法が挙げられる。本実施形態においては、Cu添加量を2.5原子%まで増加させても、TiAl合金材におけるラメラ粒の平均粒径を制御することにより、優れたクリープ特性を得ることができる。
[TiAl中間合金材]
本実施形態に係るTiAl中間合金材は、上記TiAl合金材を得るための中間体である。したがって、TiAl中間合金材の組成は、上記TiAl合金材の組成と同じであり、TiAl中間合金材の各元素の含有量が上記のとおり制御されていれば、上記各元素による効果を得ることができる。また、本実施形態に係るTiAl中間合金材は、TiAl合金鋳塊を鍛造し、得られた鍛造材に対して、1回目の熱処理を施した後の合金材を表す。
<α粒の平均粒径:20μm以上200μm以下>
α粒の粒径は、ラメラ粒の粒径と同様に、TiAl合金材のクリープ特性を左右する要素である。上述のとおり、TiAl合金材の得るための1回目の熱処理工程(第1熱処理工程)によりα相の組織サイズや形態が決まり、そのα相にγ板が析出してラメラ組織を形成するため、実質的にラメラ粒のサイズは1回目の熱処理によってほぼ決定する。したがって、第1熱処理工程後のα相の平均粒径を規定することにより、ラメラ粒の平均粒径を所望の値に制御することができる。α粒の平均粒径の上限値、下限値及びその限定理由については、ラメラ粒の平均粒径で説明した内容と同じである。なお、α粒の平均粒径は、第1熱処理工程における温度及び時間等の条件と、Al、Nb及びCuの添加量に影響される。
[TiAl合金材の製造方法]
本実施形態に係るTiAl合金材は、上記TiAl合金材と同一の組成を有するTiAl合金鋳塊を鍛造し、鍛造材を得る工程と、この鍛造材を所定の温度で熱処理する工程と、により製造することができる。以下、本実施形態に係るTiAl合金材の製造方法について、詳細に説明する。
<TiAl合金鋳塊を鍛造する工程>
本実施形態において、TiAl合金を鍛造する際の鍛造条件は特に限定されない。鍛造する工程としては、例えば、TiAl合金鋳塊を所定の温度に加熱する工程と、加熱された鋳塊に圧力を印加する工程とを有する。
加熱温度及び加圧力等は、目的とする形状等によって、適切な範囲を選択することが好ましい。
<鍛造材を熱処理する工程>
本実施形態においては、上記鍛造する工程により得られた鍛造材に対して、2回の熱処理を実施する。1回目の熱処理工程(第1熱処理工程)において、鍛造材のα相を再結晶させて、α単相組織に近づける高温熱処理を実施し、本実施形態に係るTiAl中間合金材を得る。その後、TiAl中間合金材に対して、第1熱処理工程よりも低い温度で、2回目の熱処理工程(第2熱処理工程)を実施する。これにより、α相内にγ板を析出させて、[α2+γ]のラメラ組織を形成させることができる。本実施形態においては、TiAl合金材におけるラメラ粒の平均粒径、及びTiAl中間合金材におけるα粒の平均粒径を規定している。1回目の熱処理工程(第1熱処理工程)における温度及び時間等の条件と、Al、Nb及びCuの添加量によって、TiAl中間合金材のα粒の平均粒径が決定され、これによりTiAl合金材のラメラ粒の平均粒径が決定される。
第1熱処理工程における熱処理時間が短すぎると、再結晶α粒が十分に成長しないため、α粒(ラメラ粒)の平均粒径が小さくなりすぎ、熱処理時間が長すぎると、α粒(ラメラ粒)の平均粒径が大きくなりすぎる。また、NbおよびCuは、再結晶α粒の成長を阻害するβ相の形成量に影響するため、これらの濃度が低いとα粒(ラメラ粒)の平均粒径が大きくなりやすく、これらの濃度が高いとα粒(ラメラ粒)の平均粒径が小さくなりやすい。このため、第1熱処理工程の時間条件を、合金組成のうち、特にNb及びCuの濃度に合わせて適宜調整することにより、α粒及びラメラ粒の平均粒径を制御でき、所望のクリープ強度を確保することができる。
また、Cu及びNbを含有するTiAl合金においては、再結晶α粒の成長を阻害するβ相が、ある温度域で最も減少する傾向を示し、この温度域に熱処理温度を設定することでβ相を減少させ、α単相化を進行させることができる。高温での強度が低いβ相の残留は、クリープ強度のベースを下げる作用があるため、できるだけβ相の形成量を低減しておくことが望ましい。したがって、第1熱処理工程の温度条件は、合金組成のうち、特にAl濃度に合わせてβ相が最も減少する温度に適宜調整することにより、ラメラ粒の平均粒径を制御でき、所望のクリープ強度を確保することができる。
なお、本実施形態に係るTiAl合金材は、高温耐性に優れ、軽量であるとともに、優れたクリープ強度を有するため、このような材料特性が要求される部材として使用されることが好ましい。したがって、本実施形態に係るTiAl合金材は、例えば、輸送機及び産業機械等のタービン等の内燃機関用部材として、好適に使用することができる。
以下、本発明に係るTiAl合金材の発明例及び比較例について説明する。
[クリープ強度の評価]
(鍛造材の作製)
まず、Al、Nb、Cu濃度を種々に変更したTiAl合金の原料を準備し、コールドクルーシブル誘導溶解(CCIM:Cold Crucible Induction Melting)法により、重量が約9kgであるTiAl合金鋳塊を作製した。TiAl合金鋳塊は、テーパを有する円柱形状であり、軸方向の一端面の直径を110mm、他端面の直径を85mmとし、軸方向の長さを300mmとした。
次に、得られたTiAl合金鋳塊から、直径が80mmm、軸方向の長さが120mmである円柱形状の試験片を作製し、1250℃以上の温度で0.5時間以上保持した後、上記試験片の軸方向に対して、プレス機を使用し、圧下率を70~80%として1軸圧縮加工を行うことにより、円盤状の鍛造材を作製した。なお、圧下率を約10%変化させた場合であっても、熱間鍛造性及びクリープ強度の評価結果には大きく影響しないと考えられる。
(試験材の作製)
上記のようにして得た円盤状の鍛造材において、径方向の略中央位置から、幅が14mm、長さが130mm、厚さが24mmの角材を6本採取し、このうち任意の1本を、クリープ強度の評価試験用試験材とした。
(熱処理)
上記試験材に対して、下記表1に種々の条件で2回の熱処理を行った。なお、第1熱処理工程では、α単相組織に近づけることを目的としており、第1熱処理工程により、TiAl中間合金材を得た。そして、第2熱処理工程では、γ相を形成させて、[α2+γ]のラメラ組織を形成させることを目的としており、第2熱処理工程により、TiAl合金材(熱処理材)を得た。得られたTiAl合金材の合金組成を下記表1に併せて示す。
(クリープ強度の評価試験)
得られた熱処理材から、全長が80mm、平行部の直径が6mm、長さが30mmであり、ねじ部(試験片の長手方向両端部)がM12であるつば付きクリープ試験片を作製し、シングル式クリープ試験機でクリープレート試験を実施した。試験条件は、温度を800℃、応力を150MPaとし、試験データから、最小クリープ速度を求めた。なお、最小クリープ速度は、高温でどれだけ変形が生じるかの指標であり、クリープ強度の指標の1つとして一般的に用いられている値である。
クリープ強度の評価基準としては、最小クリープ速度が3.0×10-7(sec-1)以下であったものを合格とし、最小クリープ速度が3.0×10-7(sec-1)を超えたものを不合格とした。
[TiAl合金材の組織の観察]
(試験片の作成)
上記熱処理により得られた熱処理材から、クリープ試験片を採取した後の、長手方向端部の残材の表面を、機械化学研磨で鏡面化させ、組織観察用試験片を作製した。
(ラメラ粒の平均粒径の算出)
走査電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)を用いて、組織観察用試験片の反射電子像を撮影した。なお、撮影は、上記試験片の板厚の中央付近に対して実施し、各試験片についてラメラ粒を評価できるように、適宜倍率を調整して、1枚又は複数枚の写真を得た。そして、各SEM写真に対して、画像処理ソフトを用いてラメラ粒を描いた。その後、画像解析ソフト「Image Pro Plus」(Media Cybernetics社製)を用いて、ラメラ粒の平均粒径に相当する平均円相当径を算出した。
なお、一部のラメラ粒界にはβ相が残留していたが、β相は除いてラメラ粒の輪郭を描き、SEM写真の4つの辺に接したラメラ粒は解析から除外した。各試験片について、50個以上のラメラ粒から平均円相当径を算出したが、比較例No.10については、ラメラ粒の粒径が大きくなりすぎてSEM写真には納まらなかったため、18個のラメラ粒から平均円相当径を算出した。
ラメラ粒の平均粒径及び最小クリープ速度の測定結果を下記表1に併せて示す。なお、上述のとおり、TiAl合金材のラメラ粒の粒径は、第1熱処理工程後のTiAl中間合金材のα粒の粒径で決定されるため、下記表1に示すラメラ粒の平均粒径は、α粒の平均粒径と同様の値であるとみなすことができる。
Figure 2024058325000001
上記表1に示すように、発明例No.1~8は、TiAl中間合金材及びTiAl合金材の組成が、本発明において規定する要件を満たすとともに、TiAl中間合金材のα粒及びTiAl合金材のラメラ粒の平均粒径も本発明において規定する要件を満たしているため、優れた高温クリープ強度を得ることができた。
一方、比較例No.9は、TiAl中間合金材のα粒及びTiAl合金材のラメラ粒の平均粒径が本発明範囲の下限値未満であるため、高温クリープ強度が低下した。α粒及びラメラ粒の平均粒径が本発明範囲の下限値未満となった原因としては、比較例No.9のCu含有量は本発明で規定する範囲内であるものの、実施例と比較して多く、α粒の成長を阻害するβ相の形成量が多いことが挙げられる。なお、発明例No.1~4に示すように、熱処理時間を長時間化に伴ってラメラ粒の平均粒径が大きくなるため、比較例No.9の熱処理時間を長時間化することにより、α粒及びラメラ粒の平均粒径が規定の粒径に入るものと考えられる。
比較例No.10は、TiAl中間合金材のα粒及びTiAl合金材のラメラ粒の平均粒径が本発明範囲の上限を超えているため、脆性的な破壊を呈し、クリープ試験直後に破断した。α粒及びラメラ粒の平均粒径が本発明範囲の上限を超えた原因としては、比較例No.10のNb及びCuの含有量は本発明で規定する範囲内であるものの、実施例と比較して少ないため、β相が少なくなり、α粒が容易に粗大化してしまうことが挙げられる。このような場合には、熱処理温度を下げるか、又は極端に上げることで、β相又はγ相を形成し、これらがα粒の粗大化を抑制することで、結晶粒の粗大化が防止できると考えられる。このように、TiAl中間合金材及びTiAl合金材の組成が本発明で規定する範囲内であれば、熱処理条件を調整することにより、α粒及びラメラ粒の平均粒径を制御することができ、これにより、優れた高温クリープ強度を得ることができる。
図1は、縦軸をクリープ試験により得られた最小クリープ速度とし、横軸をラメラ粒の平均粒径とした場合の、発明例及び比較例の関係を示すグラフである。図1中において、黒塗りのひし形(◆)は、クリープ強度が良好であり、白抜きのひし形(◇)は、クリープ強度が不良であったことを表す。なお、図中に破線で示す範囲は、ラメラ粒の平均粒径(μm)が本発明の数値範囲内となる領域である。
図1に示すように、Cu及びNbを含むTiAl合金材において、組成が本発明において規定する範囲内であるとともに、ラメラ粒の平均粒径が本発明において規定する範囲内であると、特に優れたクリープ強度を有するTiAl合金材を得ることができることが示された。

Claims (2)

  1. Al:42.0原子%以上44.0原子%以下、
    Cu:0.5原子%以上2.5原子%以下、及び
    Nb:3.0原子%以上7.0原子%以下、を含有し、
    残部がTi及び不可避的不純物からなり、
    ラメラ粒の平均粒径が20μm以上200μm以下であることを特徴とするTiAl合金材。
  2. TiAl合金材を得るためのTiAl中間合金材であって、
    Al:42.0原子%以上44.0原子%以下、
    Cu:0.5原子%以上2.5原子%以下、及び
    Nb:3.0原子%以上7.0原子%以下、を含有し、
    残部がTi及び不可避的不純物からなり、
    α粒の平均粒径が20μm以上200μm以下であることを特徴とするTiAl中間合金材。
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