JP2024035869A - アンギュラ玉軸受用保持器およびハブユニット軸受 - Google Patents
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Abstract
【課題】円周方向に隣り合うポケット同士の円周方向距離を縮め、保持できる玉数を増やすことができるだけでなく、回転抵抗を抑え、かつ、耐久性を確保することができる構造を実現する。【解決手段】柱部22は、軸方向一方側の端部から軸方向中間部にわたる範囲に、円周方向に隣り合う2つのポケット23同士を連通する切り欠き24を有し、かつ、該切り欠き24よりも径方向内側部分に内側柱片25を有する。内側柱片25の軸方向一方側の端部が、玉4の転動面のうちで自転軸αから最も遠い部分Eよりも軸方向一方側に位置する。内側柱片25が、径方向外側面に、軸方向一方側に向かうほど径方向内側に向かう方向に傾斜した傾斜面部26を有する。【選択図】図2
Description
本開示は、アンギュラ玉軸受用保持器およびハブユニット軸受に関する。
アンギュラ玉軸受においては、たとえば特開2014-77508号公報に記載されているように、冠型のアンギュラ玉軸受用保持器を用いて、複数個の玉を円周方向等間隔に配置し、それぞれの玉を転動自在に保持することが行われている。アンギュラ玉軸受用保持器は、円環状のリム部と、リム部の円周方向複数箇所から軸方向一方側に突出する複数本の柱部と、円周方向に隣り合う2本の柱部とリム部とにより三方が囲まれた、玉を保持するための複数のポケットとを備える。
アンギュラ玉軸受などの転がり軸受は、基本動定格荷重Crを表す下記の式(1)を利用して、軸受の選定に必要な定格荷重を求めることが行われている。
Cr=bmfc(icоsθ)0.7Z2/3Dw1.8・・・(1)
ここで、式(1)中、bmおよびfcは、軸受の材料、形状、および製造品質で定まる定数であり、iは、1個の軸受内の転動体の列数であり、θは、接触角であり、Zは、1列に含まれる転動体の数であり、Dwは、転動体の直径である。
Cr=bmfc(icоsθ)0.7Z2/3Dw1.8・・・(1)
ここで、式(1)中、bmおよびfcは、軸受の材料、形状、および製造品質で定まる定数であり、iは、1個の軸受内の転動体の列数であり、θは、接触角であり、Zは、1列に含まれる転動体の数であり、Dwは、転動体の直径である。
上記式(1)によれば、1列に含まれる玉数(Z)を増やすことで、アンギュラ玉軸受の基本動定格荷重Crを向上することが可能になり、軸受寿命を延長できることになる。
特開2019-173966号公報には、1列に含まれる玉数を増やすことができる、アンギュラ玉軸受用保持器の構造が開示されている。図5は、特開2019-173996号公報に記載された、従来構造のアンギュラ玉軸受用保持器100を備えたハブユニット軸受101を示している。
ハブユニット軸受101は、車体側部材に対して固定される外輪102の径方向内側に、車輪とともに回転するハブ103を、複数の玉104を介して回転自在に支持している。玉104は、外輪102の内周面に備えられた外輪軌道102aと、ハブ103の外周面に配置された内輪軌道103aとの間に、アンギュラ玉軸受用保持器100により保持された状態で転動自在に配置されている。
アンギュラ玉軸受用保持器100は、円環状のリム部105と、リム部105の円周方向複数箇所から軸方向一方側(図5の右側)に向けて突出する複数本の柱部106と、円周方向に隣り合う2本の柱部106とリム部105とにより三方が囲まれた複数のポケット107とを備える。それぞれの玉104は、ポケット107のそれぞれに1個ずつ転動自在に保持される。
それぞれのポケット107の内径は、それぞれの玉104の外径(玉径)よりもわずかに大きい。具体的には、それぞれのポケット107の内径は、それぞれの玉104の外径よりも2%~4%程度大きい。また、それぞれのポケット107の中心は、該ポケット107内に保持される玉104の中心と実質的に一致する。
アンギュラ玉軸受用保持器100は、柱部106の軸方向一方側の端部から軸方向中間部にわたる範囲に、円周方向に2つの隣り合うポケット107同士を連通する切り欠き108を備えている。これにより、柱部に切り欠きを備えない構造に比べて、円周方向に隣り合う玉104同士の距離を縮めることが可能になる。このため、アンギュラ玉軸受用保持器100により保持できる玉104の数を増やすことができ、アンギュラ玉軸受の基本動定格荷重Crの向上を図ることができる。
ただし、特開2019-173966号公報に記載の従来構造のアンギュラ玉軸受用保持器100は、ハブユニット軸受101の回転抵抗(動トルク)を小さく抑えたり、耐久性(転がり疲れ寿命)を向上させたりする面からは改良の余地がある。この点について、以下に説明する。
たとえば、ハブユニット軸受101の運転時、ハブ103が円周方向に回転すると、それぞれの玉104は、自転軸αを中心に自転しながら、ハブユニット軸受101の中心軸を中心に円周方向に公転することで、アンギュラ玉軸受用保持器100を円周方向に押して回転させる。たとえば、ハブ103が、図5の右側から見て反時計方向に回転する場合、それぞれの玉104は、自転軸αを中心に、図5の右上側から見て時計方向(図5に矢印βで示す方向)に自転しながら、ハブユニット軸受101の中心軸を中心に、ハブ103の回転方向と同じ方向に公転して、アンギュラ玉軸受用保持器100を、ハブ103の回転方向と同じ方向に押して回転させる。
ポケット107の内径は、玉104の外径よりもわずかに大きいため、玉104の転動面は、該玉104の公転方向に関して前側(図5の右側から見て反時計方向前側)に存在する柱部106の公転方向後側面を、弾性変形させながら公転方向前側に向けて押す。
特に、従来構造のアンギュラ玉軸受用保持器100においては、柱部106に切り欠き108が備えられている。このため、玉104の公転方向に関して柱部106の後側に存在する玉104の転動面は、柱部106に備えられた切り欠き108の内面のうちで玉104のピッチ円Cに近い側である径方向外側面の、玉104の公転方向に関する後側縁であって、玉104の転動面のうちで自転軸αから最も遠い赤道部分Eに対向する対向部Poutを、玉104の公転方向に関して前側に押すことになる。この結果、柱部106の公転方向前側面と、玉104の公転方向に関して柱部106の前側に存在する玉104の転動面との間の隙間が小さくなって、切り欠き108の内面のうちの径方向外側面の、玉104の公転方向に関する前側縁であって、玉104の転動面の赤道部分Eに対向する対向部Poutが、玉104の公転方向に関して柱部106の前側に存在する玉104の転動面に接触する可能性がある。
ハブユニット軸受101においては、玉104が配置される空間内にグリースが封入される。図5に示すような、内輪回転型のハブユニット軸受101では、玉104が配置される空間内に封入されたグリースは、ハブ103の回転および/または玉104の公転に伴う遠心力の作用により径方向外側に移動しやすい。このため、外輪軌道102aと転がり接触した直後の玉104の転動面にはグリースが付着している。
また、切り欠き108の径方向外側面の、玉104の公転方向に関する前側縁は、微分不能な角部からなる稜部である。
したがって、ハブ3が、図5の右側から見て反時計方向に回転することに伴って、それぞれの玉104が図5に矢印βで示す方向に自転しながら、玉104の公転方向に関して柱部106の前側に存在する玉104の転動面と、柱部106に備えられた切り欠き108の内面のうちの径方向外側面の公転方向前側縁に備えられた対向部Poutとが接触すると、該対向部Poutにおいて玉104の転動面に付着しているグリースがある程度の幅(図5にWで示す範囲)を持って掻き取られる。この結果、玉104の転動面のうちでグリースが掻き取られた部分が、内輪軌道103aと転がり接触し、ハブユニット軸受101の回転抵抗が増大したり、耐久性が低下したりする可能性がある。
玉104の転動面は、対向部Poutにてグリースを掻き取られた後、切り欠き108の内面のうちで玉104のピッチ円Cから遠い側である径方向内側面の、玉104の公転方向に関する前側縁であって、赤道部分Eに対向する対向部Pinの、ポケット107の径方向に関する内側を通過する。径方向内側の対向部Pinと、玉104の転動面との間には隙間が存在するため、径方向外側の対向部Poutにて掻き取られて押し退けられたグリースを、赤道部分E付近にある程度押し戻す、すなわち再度塗布する効果を期待できる。ただし、柱部106の弾性変形量が大きく、径方向外側の対向部Poutでグリースが掻き取られる幅が大きかったり、柱部106のうちで切り欠き108の径方向内側に存在する部分の軸方向一方側への突出量が小さかったりする場合、径方向外側の対向部Poutにおいて掻き取られて押し退けられたグリースを、径方向内側の対向部Pinと接触させることができず、グリースの押し戻し効果を十分に得られない可能性がある。
なお、上述したように、グリースは、ハブ103の回転および/または玉104の公転に伴う遠心力の作用により径方向外側に移動しやすいため、内輪軌道103aと転がり接触した直後は、玉104の転動面へのグリースの付着量は少なくなる。また、玉104の転動面は、内輪軌道103aと転がり接触した後、該玉104の公転方向に関して該玉104の前側の柱部106に備えられた切り欠き108の径方向内側面の、玉104の公転方向に関する後側縁であって、赤道部分Eに対向する対向部Pinの、ポケット107の径方向に関する内側を通過する。玉104の転動面と対向部Pinとの間には、隙間が存在する。このため、玉104の転動面からのグリースの掻き取り量も少なくなる。したがって、内輪回転型のハブユニット軸受101では、玉104の転動面のうちでグリースが掻き取られた部分が、外輪軌道102aと転がり接触するという問題は生じにくい。
本開示は、円周方向に隣り合うポケット同士の円周方向距離を縮め、保持できる玉数を増やすことができるだけでなく、回転抵抗を抑え、かつ、耐久性を確保することができるアンギュラ玉軸受用保持器の構造を実現することを目的としている。
本開示の一態様のアンギュラ玉軸受用保持器は、
円環状のリム部と、
前記リム部の円周方向複数箇所から軸方向一方側に突出する複数本の柱部と、
円周方向に隣り合う2本の前記柱部と前記リム部とにより三方が囲まれた、玉を保持するための複数のポケットと、
を備える。
円環状のリム部と、
前記リム部の円周方向複数箇所から軸方向一方側に突出する複数本の柱部と、
円周方向に隣り合う2本の前記柱部と前記リム部とにより三方が囲まれた、玉を保持するための複数のポケットと、
を備える。
前記柱部は、軸方向一方側の端部から軸方向中間部にわたる範囲に、円周方向に隣り合う2つの前記ポケット同士を連通する切り欠きを有し、かつ、該切り欠きよりも径方向内側部分に内側柱片を有する。
特に本開示の一態様のアンギュラ玉軸受用保持器においては、前記内側柱片の軸方向一方側の端部が、前記玉の転動面のうちで前記玉の自転軸から最も遠い部分よりも軸方向一方側に位置しており、かつ、前記内側柱片が、径方向外側面に、軸方向一方側に向かうほど径方向内側に向かう方向に傾斜した傾斜面部を有する。
本開示の一態様のハブユニット軸受は、
内周面にアンギュラ型の複列の外輪軌道を有する外輪と、
外周面にアンギュラ型の複列の内輪軌道を有するハブと、
前記複列の外輪軌道と前記複列の内輪軌道との間に配置された複数個の玉と、
前記玉を転動自在に保持するための保持器と、
を備える。
内周面にアンギュラ型の複列の外輪軌道を有する外輪と、
外周面にアンギュラ型の複列の内輪軌道を有するハブと、
前記複列の外輪軌道と前記複列の内輪軌道との間に配置された複数個の玉と、
前記玉を転動自在に保持するための保持器と、
を備える。
特に本開示の一態様のハブユニット軸受では、前記保持器が、本開示の一態様のアンギュラ玉軸受用保持器により構成される。
本開示の一態様のアンギュラ玉軸受用保持器によれば、円周方向に隣り合うポケット同士の円周方向距離を縮め、保持できる玉数を増やすことができるだけでなく、回転抵抗を抑え、かつ、耐久性を確保することができる。
本開示の実施の形態の1例について、図1~図4により説明する。本例は、本開示の一態様のアンギュラ玉軸受用保持器を、自動車の車輪を懸架装置に対して回転自在に支持するためのハブユニット軸受に適用した例である。以下、先ず、ハブユニット軸受1の全体構造を説明した後、アンギュラ玉軸受用保持器5の詳細について説明する。
<ハブユニット軸受の全体構造>
ハブユニット軸受1は、外輪2と、ハブ3と、複数個の玉4と、2つのアンギュラ玉軸受用保持器5を備える。
ハブユニット軸受1は、外輪2と、ハブ3と、複数個の玉4と、2つのアンギュラ玉軸受用保持器5を備える。
以下の説明において、ハブユニット軸受1に関して、軸方向、径方向、および円周方向とは、特に断らない限り、外輪2の軸方向、径方向、および円周方向をいう。外輪2の軸方向、径方向、および円周方向は、ハブ3の軸方向、径方向、および円周方向と一致する。また、軸方向外側は、ハブユニット軸受1を自動車に組み付けた状態での車体の幅方向外側をいい、軸方向内側は、ハブユニット軸受1を自動車に組み付けた状態での車体の幅方向内側をいう。
外輪2は、中炭素鋼などの硬質金属製で、略円筒形状を有し、かつ、内周面に、複列の外輪軌道6を有する。それぞれの外輪軌道6は、円弧形の母線形状を有する。
本例では、外輪2は、軸方向中間部に、径方向外側に向けて突出した静止フランジ7を有する。静止フランジ7は、径方向中間部の円周方向複数箇所に、軸方向に貫通するねじ孔8を有する。外輪2は、懸架装置のナックルに備えられた通孔を挿通した支持ボルトを、静止フランジ7のねじ孔8に軸方向内側から螺合することで、懸架装置に対し支持固定され、車輪が回転する際にも回転しない。
ハブ3は、外輪2の径方向内側に外輪2と同軸に配置される。ハブ3は、内周面のうち、複列の外輪軌道6に対向する部分に、複列の内輪軌道9を有する。それぞれの内輪軌道9は、円弧形の母線形状を有する。
本例では、ハブ3は、回転フランジ10と、パイロット部11と、スプライン孔12とを有する。
回転フランジ10は、ハブ3のうち、外輪2の軸方向外側の端部よりも軸方向外側に位置する部分に備えられ、かつ、径方向外側に向けて突出する。回転フランジ10は、径方向中間部の円周方向複数箇所に、軸方向に貫通する取付孔13を有する。
パイロット部11は、ハブ3の軸方向外側の端部に備えられ、円筒形状を有する。
スプライン孔12は、ハブ3の中心部を軸方向に貫通する。
ディスクやドラムなどの制動用回転体、および、車輪を構成するホイールは、それぞれの中心部を軸方向に貫通する中心孔にパイロット部11を挿通し、かつ、それぞれの径方向中間部の円周方向複数箇所を軸方向に貫通する通孔に、圧入孔である取付孔13に圧入されたスタッド28を挿通し、さらにスタッド28の先端部に、図示しないハブナットを螺合することにより、回転フランジ10に結合固定される。あるいは、制動用回転体およびホイールは、それぞれの中心部に備えられた中心孔にパイロット部11を挿通し、かつ、それぞれの径方向中間部の円周方向複数箇所に備えられた通孔を挿通したハブボルトを、ねじ孔である取付孔13に軸方向外側から螺合することにより、回転フランジ10に結合固定される。
スプライン孔12には、エンジンや電動モータを駆動源として回転駆動する駆動軸の先端部がスプライン係合される。自動車の走行時には、駆動軸によりハブ3を回転駆動することで、ハブ3の回転フランジ10に結合固定された車輪および制動用回転体を回転駆動する。すなわち、本例のハブユニット軸受1は、駆動輪用の構造を備える。
ただし、本開示の一態様のハブユニット軸受は、ハブが、中心部を軸方向に貫通するスプライン孔を備えていない中実構造を有する、従動輪用のハブユニット軸受に適用することもできる。
本例のハブ3は、内輪14とハブ輪15とを組み合わせてなる。
内輪14は、軸受鋼などの硬質金属により構成されている。内輪14は、外周面に、軸方向内側の内輪軌道9を有する。
ハブ輪15は、中炭素鋼などの硬質金属により構成されている。ハブ輪15は、軸方向外側の内輪軌道9と、回転フランジ10と、パイロット部11と、スプライン孔12とを有する。
ハブ輪15は、軸方向外側の内輪軌道9よりも軸方向内側に位置する部分に、軸方向外側に隣接する部分よりも外径が小さく、内輪14が外嵌される嵌合筒部16を有する。さらに、ハブ輪15は、嵌合筒部16の軸方向外側の端部に、軸方向内側を向いた段差面17を有し、かつ、嵌合筒部16の軸方向内側の端部から径方向外側に向けて折れ曲がったかしめ部18を有する。
内輪14は、ハブ輪15の嵌合筒部16に外嵌され、かつ、ハブ輪15の段差面17とかしめ部18との間で軸方向両側から挟持されている。これにより、内輪14とハブ輪15とが結合されることで、ハブ3が構成され、かつ、玉4に適正な予圧が付与されている。なお、ハブ輪のうちで内輪の軸方向内側の端部から突出した軸方向内側の端部にナットを螺合し、内輪を、ハブ輪の段差面とナットとの間で軸方向両側から挟持するように構成することもできる。
それぞれの玉4は、軸受鋼などの硬質金属、または、セラミックスにより構成される。玉4は、複列の外輪軌道6と複列の内輪軌道9との間に、列ごとに複数個ずつ、アンギュラ玉軸受用保持器5に保持された状態で転動自在に配置されている。複列に配置された玉4には、背面組み合わせ型(DB型)の接触角が付与されている。このため、玉4の転動面のうちで自転軸αから最も遠い赤道部分Eは、ハブ3の中心軸に平行な仮想直線に対して、接触角の大きさ分だけ傾斜している。
なお、本例では、軸方向内側列の玉4のピッチ円直径と、軸方向外側列の玉4bのピッチ円直径とを互いに同じとしているが、本開示は、軸方向内側列の玉のピッチ円直径と、軸方向外側列の玉のピッチ円直径とが互いに異なる、異径PCD型のハブユニット軸受に適用することもできる。
本例のハブユニット軸受1は、外輪2の内周面とハブ3の外周面との間に存在し、かつ、玉4が配置された、転動体設置空間19の軸方向両側の開口を塞ぐシール装置20a、20bをさらに備える。すなわち、シール装置20a、20bにより、転動体設置空間19内に封入されたグリースの漏洩を防止し、かつ、転動体設置空間19内に、泥水などの異物が侵入することを防止している。なお、転動体設置空間19の軸方向内側の端部開口を塞ぐシール装置20bに、エンコーダを備えることもできる。この場合には、懸架装置などに支持固定した図示しない回転速度センサを、エンコーダに対向させることで、車輪の回転速度を検出することが可能になり、ABSなどの車両制御装置の制御に利用することができる。
<アンギュラ玉軸受用保持器の構造>
次に、アンギュラ玉軸受用保持器5について、詳しく説明する。
次に、アンギュラ玉軸受用保持器5について、詳しく説明する。
アンギュラ玉軸受用保持器5に関して、軸方向、径方向、および円周方向とは、特に断らない限り、リム部21の軸方向、径方向、および円周方向をいう。また、軸方向に関して、ポケット23の開口側(柱部22の先端側、図2の右側)を一方側といい、ポケット23の奥側(柱部22の基端側、図2の左側)を他方側という。
本例のハブユニット軸受1に組み込まれる2つのアンギュラ玉軸受用保持器5は、軸方向に関して互いに逆向きに組み付けられている。換言すれば、図1中で右側に位置する軸方向内側のアンギュラ玉軸受用保持器5は、図1中で左側に位置する軸方向外側のアンギュラ玉軸受用保持器5と同一の形状を有するアンギュラ玉軸受用保持器5を、軸方向に関して反転させて使用している。すなわち、軸方向内側のアンギュラ玉軸受用保持器5に関しては、軸方向内側が軸方向一方側に相当し、かつ、軸方向外側が軸方向他方側に相当する。これに対し、軸方向外側のアンギュラ玉軸受用保持器5に関しては、軸方向外側が軸方向一方側に相当し、かつ、軸方向内側が軸方向他方側に相当する。
アンギュラ玉軸受用保持器5は、合成樹脂を射出成形(アキシアルドロー成形)することにより全体が一体に造られた、いわゆる冠型のアンギュラ玉軸受用保持器であって、全体として円環形状を有している。
アンギュラ玉軸受用保持器5を構成する合成樹脂としては、ポリアミド66(PA66)の他、ポリアミド6(PA6)、ポリアミド46(PA46)、ポリアミド9T(PA9T)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリアセタール(POM)、フェノール樹脂(PF)などの各種の合成樹脂を採用することができる。これらの合成樹脂には、必要に応じて、ガラス繊維、カーボン繊維、アラミド繊維などの各種の強化繊維を混入することができる。
アンギュラ玉軸受用保持器5は、リム部21と、複数本の柱部22と、複数のポケット23とを備える。
リム部21は、円環状に構成されている。
リム部21の内周面は、ハブ3の外周面のうちの複列の内輪軌道9同士の間部分の外径よりも大きい内径を有する円筒面により構成されている。また、リム部21の外周面は、外輪2の内周面のうちの複列の外輪軌道6同士の間部分の内径よりも小さい外径を有する円筒面により構成されている。
リム部21の軸方向一方側の側面の円周方向等間隔複数箇所には、柱部22の軸方向他方側の端部が接続されており、かつ、リム部21の軸方向一方側の側面のうち、柱部22から円周方向に外れた部分のそれぞれは、部分球状の凹曲面に構成されている。リム部21の軸方向他方側の側面は、リム部21の中心軸に直交する仮想平面上に存在する平坦面により構成されている。
複数本の柱部22は、リム部21の円周方向複数箇所から軸方向一方側に突出する。
それぞれの柱部22の円周方向両側の側面は、部分球面状の凹面により構成されている。
それぞれの柱部22の径方向内側面は、リム部21の内周面と同軸かつ同径の内径を有する部分円筒面により構成された軸方向他方側部分と、軸方向一方側に向かうほど内径が大きくなる方向に傾斜した直線状の断面形状を有する軸方向一方側部分とからなる。また、それぞれの柱部22の径方向外側面は、軸方向一方側に向かうほど径方向外側に伸長した略円弧形の断面形状を有する軸方向他方側部分と、リム部21の中心軸を中心とする円筒面状の軸方向一方側部分とからなる。このため、それぞれの柱部22は、軸方向他方側部分において、軸方向一方側に向かうほど径方向幅が大きくなっている。
それぞれのポケット23は、玉4を転動自在に保持する部分であって、円周方向に隣り合う2本の柱部22とリム部21とにより三方が囲まれている。ポケット23の内面は、円周方向に対向し、かつ、それぞれが凹曲面状の2本の柱部22の円周方向側面と、リム部21の軸方向一方側の側面のうちで柱部22から円周方向に外れた部分に備えられた部分球面状の凹面とにより、部分球面状に構成されている。また、ポケット23の内面は、玉4の転動面の曲率半径よりもわずかに大きい曲率半径を有する。
すなわち、それぞれの柱部22の円周方向側面は、径方向中間部(中央部)から径方向両側に向かうほど、ポケット23の内側に張り出すように湾曲している。これにより、円周方向に隣り合う2本の柱部22の円周方向側面同士の間隔(ポケット23の開口幅)は、柱部22の径方向外側の端部および径方向内側の端部において、玉4の直径よりも小さくなっている。このため、玉4が、ポケット23の内側から径方向外側および径方向内側に抜け出ることが防止される。
また、それぞれの柱部22の円周方向側面は、軸方向中間部から軸方向両側に向かうほど、ポケット23の内側に張り出すように湾曲している。これにより、円周方向に隣り合う2本の柱部22の円周方向側面同士の間隔は、柱部22の軸方向一方側の端部および軸方向他方側の端部において、玉4の直径よりも小さくなっている。このため、玉4が、ポケット23の内側から軸方向一方側に抜け出ることが防止される。
なお、ポケット23の中心は、ポケット23内に保持される玉4の中心と実質的に一致する。
本例のアンギュラ玉軸受用保持器5では、それぞれの柱部22は、玉4のピッチ円が通過する部分を含む軸方向一方側の端部から軸方向中間部にわたる範囲に、円周方向に隣り合う2つのポケット23同士を連通する切り欠き24を有する。換言すれば、切り欠き24は、柱部22の軸方向一方側の端面および円周方向両側面に開口している。切り欠き24は、柱部22の軸方向一方側の端部から軸方向中間部にわたる範囲を、円周方向から見て略U字形に切り欠いている。切り欠き24は、少なくとも軸方向他方側部分において、軸方向一方側に向かうほど径方向に関する開口幅が大きくなっている。
それぞれの柱部22は、軸方向一方側部分のうちで切り欠き24よりも径方向内側部分に内側柱片25を有する。
本例では、内側柱片25の軸方向一方側の端部は、玉4の転動面のうちで自転軸αから最も遠い赤道部分Eよりも軸方向一方側に位置している。換言すれば、アンギュラ玉軸受用保持器5の中心軸を含む仮想平面で切断した断面において、内側柱片25の径方向外側面の軸方向一方側の端部は、該内側柱片25の径方向外側面と、赤道部分Eとの交点よりも軸方向一方側に位置する。
具体的には、内側柱片25の軸方向一方側の端部は、内側柱片25と内輪軌道9との干渉を防ぐ観点から、赤道部分Eよりも、玉4の外径の5%以上20%以下、好ましくは6%以上15%以下、より好ましくは8%以上12%以下の長さL分だけ、軸方向一方側に位置している。
また、それぞれの内側柱片25は、径方向外側面に、軸方向一方側に向かうほど径方向内側に向かう方向に傾斜した傾斜面部26を有する。換言すれば、切り欠き24の内面のうちの径方向内側面は、軸方向一方側に向かうほど径方向内側に向かう方向に傾斜した傾斜面部26により構成されている。
なお、それぞれの傾斜面部26は、軸方向一方側に向かうほど外径が小さくなる部分円すい状の凸曲面、または、軸方向一方側に向かうほど径方向内側に向かう方向に傾斜した平坦面により構成することができる。
アンギュラ玉軸受用保持器5の中心軸を含む仮想平面で切断した断面において、該中心軸に平行な仮想直線に対する傾斜面部26の傾斜角度φは、特に限定されるものではないが、傾斜面部26にグリースを適量保持することを考慮すると、たとえば、5度以上15度以下とすることができ、8度以上12度以下とすることが好ましく、9度以上11度以下とすることがより好ましい。
さらに、本例のアンギュラ玉軸受用保持器5では、それぞれの柱部22は、軸方向一方側部分のうちで切り欠き24よりも径方向外側部分に外側柱片27を有する。
なお、それぞれの外側柱片27の径方向内側面、すなわち切り欠き24の内面のうちの径方向外側面は、軸方向一方側に向かうほど径方向外側に伸長した略円弧形の断面形状を有する軸方向他方側部分と、リム部21の中心軸を中心とする円筒面状の軸方向一方側部分とからなる。
本例では、内側柱片25の軸方向一方側の端部は、外側柱片27の軸方向一方側の端部よりも軸方向一方側に位置している。
本例のアンギュラ玉軸受用保持器5によれば、特開2019-173966号公報に記載のアンギュラ玉軸受用保持器100と同様の理由により、保持できる玉4の数を増やすことができる。
すなわち、本例のアンギュラ玉軸受用保持器5では、柱部22のうち、玉4のピッチ円が通過する部分を含む軸方向一方側の端部から軸方向中間部にわたる範囲に、円周方向に隣り合う2つのポケット23同士を連通する切り欠き24を備えている。このため、柱部に切り欠きを備えない構造に比べて、円周方向に隣り合う玉4同士の距離を縮めることができ、アンギュラ玉軸受用保持器5により保持できる玉4の数を増やすことができる。したがって、ハブユニット軸受1の基本動定格荷重を向上することができる。
さらに、本例のアンギュラ玉軸受用保持器5によれば、ハブユニット軸受1の回転抵抗(動トルク)を抑え、かつ、耐久性(転がり疲れ寿命)を確保することができる。この理由について、次に説明する。
ハブユニット軸受1では、転動体設置空間19内にグリースが封入されるため、玉4の転動面にはグリースが付着する。
ハブユニット軸受1の運転時、それぞれの玉4は、自転軸αを中心に自転しながら、円周方向に公転することで、アンギュラ玉軸受用保持器5を円周方向に押す。ポケット23の内径は、玉4の外径よりもわずかに大きいため、玉4の転動面は、公転方向前側に存在する柱部22の円周方向側面を、弾性変形させながら公転方向前側に向けて押す。
特に、本例のアンギュラ玉軸受用保持器5では、柱部22に切り欠き24が備えられている。このため、玉4の公転方向に関して柱部22の後側に存在する玉4の転動面は、柱部22に備えられた切り欠き24の内面のうちで玉4のピッチ円Cに近い側である径方向外側面、換言すれば外側柱片27の径方向内側面の、玉4の公転方向に関する後側縁であって、玉4の転動面の赤道部分Eに対向する対向部Poutを、玉4の公転方向に関して前側に押すことになる。この結果、柱部22の公転方向前側面と、玉4の公転方向に関して柱部22の前側に存在する玉4の転動面との間の隙間が小さくなって、切り欠き24の内面のうちの径方向外側面の、玉4の公転方向に関する前側縁であって、玉4の転動面の赤道部分Eに対向する対向部Poutが、公転方向に関して柱部22の前側に存在する玉4の転動面に接触する可能性がある。
ここで、切り欠き24の径方向外側面の円周方向側縁は、微分不能な角部からなる稜部であるため、玉4の転動面に付着しているグリースは、径方向外側の対向部Poutにて、ある程度の幅(図2にWで示す範囲)を持って掻き取られる。
なお、範囲Wは、アンギュラ玉軸受用保持器5を構成する材料や、玉4の外径およびポケット23の内径、ハブ3の回転トルクなどにもよるが、玉4の中心を中心とする3度~8度程度の範囲となる。
玉4の転動面は、対向部Poutにてグリースを掻き取られた後、切り欠き24の内面のうちで玉4のピッチ円Cから遠い側である径方向内側面、換言すれば内側柱片25の径方向外側面の、玉4の公転方向に関する後側縁であって、赤道部分Eに対向する対向部Pinの、ポケット23の径方向に関する内側を通過する。
径方向内側の対向部Pinと、玉4の転動面との間には隙間が存在する。また、本例では、それぞれの内側柱片25の軸方向一方側の端部が、玉4の転動面の赤道部分Eよりも軸方向一方側に位置している。このため、玉4の転動面が、径方向内側の対向部Pinの、ポケット23の径方向に関する内側を通過する際に、径方向外側の対向部Poutにて掻き取られて赤道部分E付近から押し退けられたグリースを、内側柱片25の径方向外側面の円周方向側縁により押し潰すようにして、赤道部分E付近に押し戻すことができる。すなわち、径方向外側の対向部Poutにて掻き取られて赤道部分E付近から押し退けられたグリースを、赤道部分E付近に再度塗布することができる。
さらに、本例では、それぞれの内側柱片25が、径方向外側面に、軸方向一方側に向かうほど径方向内側に向かう方向に傾斜した傾斜面部26を有している。このため、径方向外側の対向部Poutにて掻き取られて、玉4の転動面のうちの軸方向他方側部分に押し退けられたグリースを、玉4の転動面が、径方向内側の対向部Pinの、ポケット23の径方向に関する内側を通過する際に、軸方向一方側に向けて案内することができる。したがって、グリースを、再度赤道部分E付近に確実に塗布することができる。
本開示の一態様のアンギュラ玉軸受用保持器を実施する場合、切り欠きを、すべての柱部に形成することもできるし、一部の柱部にのみ形成することもできる。
本開示の一態様のアンギュラ玉軸受は、駆動輪用のハブユニット軸受に限らず、従動輪用のハブユニット軸受に適用することもできる。また、本開示の一態様のアンギュラ玉軸受は、第3世代のハブユニット軸受に限らず、例えば、第1世代のハブユニット軸受、第2世代のハブユニット軸受などの、他の世代のハブユニット軸受に適用することもできる。さらに、本開示の一態様のアンギュラ玉軸受は、ハブユニット軸受に限らず、各種機械装置に組み込まれる単列または複列のアンギュラ玉軸受に適用することができる。
1 ハブユニット軸受
2 外輪
3 ハブ
4 玉
5 アンギュラ玉軸受用保持器
6 外輪軌道
7 静止フランジ
8 ねじ孔
9 内輪軌道
10 回転フランジ
11 パイロット部
12 スプライン孔
13 取付孔
14 内輪
15 ハブ輪
16 嵌合筒部
17 段差面
18 かしめ部
19 転動体設置空間
20a、20b シール装置
21 リム部
22 柱部
23 ポケット
24 切り欠き
25 内側柱片
26 傾斜面部
27 外側柱片
28 スタッド
100 アンギュラ玉軸受用保持器
101 ハブユニット軸受
102 外輪
102a 外輪軌道
103 ハブ
103a 内輪軌道
104 玉
105 リム部
106 柱部
107 ポケット
108 切り欠き
2 外輪
3 ハブ
4 玉
5 アンギュラ玉軸受用保持器
6 外輪軌道
7 静止フランジ
8 ねじ孔
9 内輪軌道
10 回転フランジ
11 パイロット部
12 スプライン孔
13 取付孔
14 内輪
15 ハブ輪
16 嵌合筒部
17 段差面
18 かしめ部
19 転動体設置空間
20a、20b シール装置
21 リム部
22 柱部
23 ポケット
24 切り欠き
25 内側柱片
26 傾斜面部
27 外側柱片
28 スタッド
100 アンギュラ玉軸受用保持器
101 ハブユニット軸受
102 外輪
102a 外輪軌道
103 ハブ
103a 内輪軌道
104 玉
105 リム部
106 柱部
107 ポケット
108 切り欠き
Claims (2)
- 円環状のリム部と、
前記リム部の円周方向複数箇所から軸方向一方側に突出する複数本の柱部と、
円周方向に隣り合う2本の前記柱部と前記リム部とにより三方が囲まれた、玉を保持するための複数のポケットと、
を備え、
前記柱部は、軸方向一方側の端部から軸方向中間部にわたる範囲に、円周方向に隣り合う2つの前記ポケット同士を連通する切り欠きを有し、かつ、該切り欠きよりも径方向内側部分に内側柱片を有しており、
前記内側柱片の軸方向一方側の端部が、前記玉の転動面のうちで前記玉の自転軸から最も遠い部分よりも軸方向一方側に位置しており、
前記内側柱片が、径方向外側面に、軸方向一方側に向かうほど径方向内側に向かう方向に傾斜した傾斜面部を有する、
アンギュラ玉軸受用保持器。 - 内周面にアンギュラ型の複列の外輪軌道を有する外輪と、
外周面にアンギュラ型の複列の内輪軌道を有するハブと、
前記複列の外輪軌道と前記複列の内輪軌道との間に配置された複数個の玉と、
前記玉を転動自在に保持するための保持器と、
を備え、
前記保持器が、請求項1に記載のアンギュラ玉軸受用保持器により構成される、
ハブユニット軸受。
Priority Applications (1)
Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
---|---|---|---|
JP2022140471A JP2024035869A (ja) | 2022-09-05 | 2022-09-05 | アンギュラ玉軸受用保持器およびハブユニット軸受 |
Applications Claiming Priority (1)
Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
---|---|---|---|
JP2022140471A JP2024035869A (ja) | 2022-09-05 | 2022-09-05 | アンギュラ玉軸受用保持器およびハブユニット軸受 |
Publications (1)
Publication Number | Publication Date |
---|---|
JP2024035869A true JP2024035869A (ja) | 2024-03-15 |
Family
ID=90198399
Family Applications (1)
Application Number | Title | Priority Date | Filing Date |
---|---|---|---|
JP2022140471A Pending JP2024035869A (ja) | 2022-09-05 | 2022-09-05 | アンギュラ玉軸受用保持器およびハブユニット軸受 |
Country Status (1)
Country | Link |
---|---|
JP (1) | JP2024035869A (ja) |
-
2022
- 2022-09-05 JP JP2022140471A patent/JP2024035869A/ja active Pending
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