JP2024015143A - 嗅覚受容体の発現方法及び応答測定方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】嗅覚受容体を発現かつ機能させることができる手法の提供。【解決手段】嗅覚受容体ポリペプチドの発現方法であって、目的の嗅覚受容体のアミノ酸配列においてコンセンサスアミノ酸配列と異なるアミノ酸残基の少なくとも1つをこれに相当する位置の該コンセンサスアミノ酸配列のアミノ酸残基に改変したアミノ酸配列からなる嗅覚受容体ポリペプチドを細胞に発現させることを含み、該コンセンサスアミノ酸配列が、該目的の嗅覚受容体のアミノ酸配列及び特定の嗅覚受容体のアミノ酸配列のアラインメントから導き出されるアミノ酸配列である、方法。【選択図】なし

Description

本発明は、嗅覚受容体の発現方法及び応答測定方法に関する。
従来、好ましい芳香や悪臭を消臭するための香料開発においては、候補物質の匂いの評
価は専門家による官能試験によって行われてきた。しかし、官能試験には、ばらつきが大
きくスループット性が低いなどの問題や匂いを適切に評価できる専門家の育成が必要な問
題があった。そこで近年では、ヒトの嗅覚を最もよく反映する客観指標として嗅覚受容体
を指標にした香料開発方法が報告されている。
ヒト等の哺乳動物においては、匂い物質は、鼻腔内最深部に広がる嗅上皮に存在する嗅
神経細胞の嗅覚受容体によって認識される。鼻腔内に取り込まれた匂い分子は、嗅覚受容
体に作用して活性化させ、活性化した嗅覚受容体に引き起こされた嗅神経細胞からのシグ
ナルが中枢神経系へと伝達されることにより、匂いが知覚される。嗅覚受容体をコードす
る遺伝子はヒトの場合、2014年の報告では機能的な遺伝子として396種存在するこ
とが予想されている(非特許文献1)。特定の匂い物質に対して我々が知覚する匂いの質
は、該匂い物質によって上記約400種の嗅覚受容体のうちのどの組み合わせが活性化さ
れたかによって決定されると予想されている。
この嗅覚受容体のうち、特定の芳香に選択的に応答する受容体を特定し、その受容体を
指標とした香料をデザインすることでより好ましい芳香を獲得できる方法が開示されてい
る(特許文献1)。一方で、悪臭を認識する嗅覚受容体を特定すれば、その嗅覚受容体の
悪臭認識を抑制する受容体アンタゴニストとして働く香料を消臭のために有効な香料とし
て利用することができる(特許文献2)。さらに、悪臭認識に重要な嗅覚受容体を活性化
するが悪臭を呈さない香料を利用すれば、交差順応により悪臭認識を抑え、悪臭課題を解
決できることが開示されている(特許文献3)。これらのように、匂い物質を認識する嗅
覚受容体を特定することで、好ましい香料開発を高効率で行うという産業上有用な取り組
みが可能になる。
多くの嗅覚受容体の応答は匂い物質に選択的であるため、最初に標的とする匂いに選択
性を有する嗅覚受容体を見つけ出すことが肝要である。しかし、これまで特定の匂いに感
受性がある嗅覚受容体を見出すことは容易ではないという問題があった。既存の受容体解
析方法では、全ヒト受容体の12%程度しか機能解析に成功していない(非特許文献2)
。この状況は、たとえば特定の悪臭を消臭するアンタゴニスト香料を利用するアプローチ
において、その悪臭認識に関わる嗅覚受容体のうち限られた一部の受容体しか特定して制
御することができないことを意味する。
この課題は嗅覚受容体遺伝子が発見された1991年から実に30年近く議論され続け
ている。目的の嗅覚受容体を解析しようと培養細胞に発現させても、嗅覚受容体タンパク
質は合成されるものの、それが細胞表面に移行せず内側にとどまってしまう。そのために
、細胞外から目的の匂い物質を投与しても受容体に届かず結合性をテストすることができ
ない。その原因は、嗅覚受容体が細胞表面に移行する(膜発現する)ために必須の分子が
鼻の嗅神経細胞には備えられており、それが鼻の嗅神経細胞以外を由来とする培養細胞に
は存在しないためだと考えられた。そうした必須分子の一つとして2004年にRTP(
Receptor-transporting protein)が特定され、解析可能
になった嗅覚受容体は現在の数まで到達した(非特許文献3)。しかし、RTP以外にも
あると考えられる必須分子の特定は進まず、なおかつ嗅神経細胞由来の培養細胞は確立さ
れていないことから、嗅覚受容体の解析と機能理解は立ち遅れ、30年近くを経ても12
%程度の成功例にとどまっている。
そうした中、細胞表面に発現するマウス嗅覚受容体と発現しないマウス嗅覚受容体が比
較解析された(非特許文献4)。その結果、膜発現しない嗅覚受容体は立体構造の安定性
が低い可能性が見出された。そして重要なことに、膜発現可能な嗅覚受容体と不可能な嗅
覚受容体との間にはタンパク質の一次アミノ酸配列において統計学上有意にアミノ酸の性
質が異なる箇所が存在し、そのアミノ酸箇所とは、約一千種の全マウス嗅覚受容体におい
て共通性の高いアミノ酸であることが示された。すなわち、膜発現しない嗅覚受容体とは
、本来共通するアミノ酸が使われるべきポリペプチドの位置に、異なるアミノ酸への変異
が起きたために、立体構造の安定性を欠き、培養細胞内で、細胞膜に移行させない判断が
下されている可能性が示唆された。このことを踏まえると、嗅覚受容体間で共通性の高い
アミノ酸を導入する「コンセンサス化法」によって、目的の嗅覚受容体を安定的なタンパ
ク質として獲得することや、効率よく細胞膜上に発現させることが可能になると考えられ
る。
こうした考えのもと、特許文献4では、ヒト嗅覚受容体を効率よく解析する方法につい
て開示している。約400のヒト嗅覚受容体は系統発生学的に18のグループに分類され
る。それぞれのグループについて、グループを構成する嗅覚受容体群の中で最も共通性の
高いアミノ酸配列(パラログ間のコンセンサス)を採用してデザインした1種類のコンセ
ンサス嗅覚受容体を解析に用いている。ただし、この方法では、ヒトがもつ約400の嗅
覚受容体それぞれの機能を評価することはできない。一方で、非特許文献2では、ヒトの
特定の嗅覚受容体の機能を理解するために、上記のグループ間での共通性ではなく、進化
的な相同遺伝子間での共通性を指標に、当該受容体のコンセンサス化が行われた。具体的
には、ヒト嗅覚受容体OR6Y1、OR6B2、OR56A4の3種類について、それぞ
れ10種類の哺乳類(ゴリラ、ボノボ、チンパンジー、スマトラオランウータン、アカゲ
ザル、ドリル、コモンマーモセット、ハイイロネズミキツネザル、ラット、マウス)の相
同遺伝子間での共通性の高いアミノ酸を、それぞれのヒト嗅覚受容体に導入したコンセン
サス嗅覚受容体OR6Y1、OR6B2、OR56A4を作製した。その結果、3種の嗅
覚受容体のうちOR6Y1は培養細胞を用いて匂い物質に対する応答測定を行うことが可
能になったことが開示されている。したがって、特定のヒト嗅覚受容体を解析するために
進化的な相同遺伝子間での共通アミノ酸を導入すれば、1/3の確率で応答解析が可能に
なることが示唆されている。
同時に、この方法を適用しても、解析可能になる約400種類のヒト嗅覚受容体は1/
3程度にとどまることが予測される。この効率の低さは、これまでの研究知見からも支持
される。コンセンサス化方法は産業上有用な酵素を安定的なものにデザインするために古
くから実施されてきた。しかし、本法に関する総説である非特許文献5によれば、ある一
か所のアミノ酸配列にコンセンサス化を導入して改善効果が得られる確率は50%程度で
あり、残る40%は逆にタンパク質を改悪してしまうリスクがあることが、コンセンサス
化方法の利用を難しくしていると指摘する。また、嗅覚受容体の本来の機能を推定するこ
とを目的とした研究においては、コンセンサス化方法の適用は適切ではないとする考え方
がある。すなわち、アミノ酸置換を導入するアプローチには、オリジナル嗅覚受容体のリ
ガンド結合部位を変化させ、その結果、本来のにおい応答性を観察させなくなる懸念があ
る。以上より、コンセンサス化には成功率の低さと、目的の嗅覚受容体本来の機能を変容
させてしまうリスクの二つが予測されることから、幅広い嗅覚受容体に対する有効性が検
証された例はない。
特開2018-074944号公報 特開2020-10629号公報 特開2016-224039号公報 国際公開公報第2020/006108号
Niimura Y et al. Genome Research 24, 1485-1496 (2014) Trimmer C et al. PNAS 116:9475-9480(2019) Saitou H et al. Cell. 119:679-91 (2004) Ikegami K et al. PNAS 117:2957-2967 (2020) Porebski TB et al. Protein Engineering, Design & Selection 29:245-251 (2016)
多くの嗅覚受容体のリガンドは未だ解明されていない。それらの嗅覚受容体のリガンド
又は匂い応答性の解明が求められている。
本発明者は、培養細胞での膜発現が不十分なために機能解析が不可能な嗅覚受容体が多
いことに鑑み、嗅覚受容体を培養細胞膜上に発現かつ機能させることができる手法につい
て鋭意検討した。その結果、本発明者は、従来の方法とは異なる嗅覚受容体のコンセンサ
ス化により、嗅覚受容体の培養細胞での膜発現をオリジナルの嗅覚受容体に比べて向上で
きること、嗅覚受容体の匂い応答性を向上できること、また、嗅覚受容体の培養細胞での
膜発現がオリジナルの嗅覚受容体に比べて向上しない場合であっても嗅覚受容体の匂い応
答性を向上できること、さらに、コンセンサス化した嗅覚受容体がコンセンサス化前のオ
リジナルの嗅覚受容体のリガンド選択性をよく維持できること、コンセンサス化した嗅覚
受容体によりもたらされる解析結果はヒトの嗅覚をよく反映するものであることを見出し
た。
したがって、本発明は、以下の1)~12)を提供する。
1)嗅覚受容体ポリペプチドの発現方法であって、
目的の嗅覚受容体のアミノ酸配列においてコンセンサスアミノ酸配列と異なるアミノ酸
残基の少なくとも1個をこれに相当する位置の該コンセンサスアミノ酸配列のアミノ酸残
基に改変したアミノ酸配列からなる嗅覚受容体ポリペプチドを細胞に発現させることを含
み、
該コンセンサスアミノ酸配列が、該目的の嗅覚受容体のアミノ酸配列及び下記(a)~
(d)のいずれかの嗅覚受容体:
(a)該目的の嗅覚受容体の由来の生物種と同じ目における該目的の嗅覚受容体のオル
ソログにコードされる嗅覚受容体からなる群より選択される少なくとも11種の嗅覚受容
体;
(b)該目的の嗅覚受容体の由来の生物種と同じ目における該目的の嗅覚受容体のオル
ソログにコードされる嗅覚受容体及び該目的の嗅覚受容体のパラログにコードされる嗅覚
受容体からなる群より選択される少なくとも11種の嗅覚受容体であって、該11種の嗅
覚受容体に該目的の嗅覚受容体のパラログにコードされる嗅覚受容体を少なくとも1種含
む嗅覚受容体;
(c)脊椎動物における該目的の嗅覚受容体のオルソログにコードされる嗅覚受容体か
らなる群より選択される少なくとも11種の嗅覚受容体であって、該11種の嗅覚受容体
に該目的の嗅覚受容体の由来の生物種と異なる目の脊椎動物のオルソログにコードされる
嗅覚受容体を少なくとも1種含む嗅覚受容体;
(d)脊椎動物における該目的の嗅覚受容体のオルソログにコードされる嗅覚受容体と
、脊椎動物にオルソログが11種以上存在する該目的の嗅覚受容体のパラログのうち該目
的の嗅覚受容体と最も相同性の高いパラログの脊椎動物におけるオルソログにコードされ
る嗅覚受容体とからなる群より選択される少なくとも11種の嗅覚受容体であって、該1
1種の嗅覚受容体に該目的の嗅覚受容体の由来の生物種と異なる目の脊椎動物のオルソロ
グにコードされる嗅覚受容体を少なくとも1種含む嗅覚受容体、及び該パラログにコード
される嗅覚受容体、
のアミノ酸配列のアラインメントから導き出されるアミノ酸配列である、
方法。
2)嗅覚受容体ポリペプチドの発現方法であって、
目的の嗅覚受容体のアミノ酸配列においてコンセンサスアミノ酸配列と異なるアミノ酸
残基の少なくとも1個をこれに相当する位置の該コンセンサスアミノ酸配列のアミノ酸残
基に改変したアミノ酸配列からなる嗅覚受容体ポリペプチドを細胞に発現させることを含
み、
該嗅覚受容体ポリペプチドが、ヒト嗅覚受容体OR7E24の配列番号96で示される
アミノ酸配列において配列番号210で示されるコンセンサスアミノ酸配列と異なるアミ
ノ酸残基の少なくとも1個をこれに相当する位置の該コンセンサスアミノ酸配列のアミノ
酸残基に改変したアミノ酸配列からなるか、
該嗅覚受容体ポリペプチドが、ヒト嗅覚受容体OR9K2の配列番号484で示される
アミノ酸配列において配列番号642で示されるコンセンサスアミノ酸配列と異なるアミ
ノ酸残基の少なくとも1個をこれに相当する位置の該コンセンサスアミノ酸配列のアミノ
酸残基に改変したアミノ酸配列からなるか、
該嗅覚受容体ポリペプチドが、ヒト嗅覚受容体OR5I1の配列番号850で示される
アミノ酸配列において配列番号900で示されるコンセンサスアミノ酸配列と異なるアミ
ノ酸残基の少なくとも1個をこれに相当する位置の該コンセンサスアミノ酸配列のアミノ
酸残基に改変したアミノ酸配列からなる、
方法。
3)目的の嗅覚受容体の応答の測定方法であって、
1)又は2)記載の方法により発現された嗅覚受容体ポリペプチドの応答を測定するこ
と、
を含む方法。
4)目的の嗅覚受容体のリガンドの探索方法であって、
試験物質存在下で、1)又は2)記載の方法により発現された嗅覚受容体ポリペプチド
の応答を測定すること、及び
該嗅覚受容体ポリペプチドが応答した試験物質を選択すること、
を含む方法。
5)目的の嗅覚受容体のリガンドのにおいの抑制剤の評価及び/又は選択方法であって、
1)又は2)記載の方法により発現された嗅覚受容体ポリペプチドに試験物質及び目的
の嗅覚受容体のリガンドを添加すること、及び
該リガンドに対する該嗅覚受容体ポリペプチドの応答を測定すること、
を含む方法。
6)目的の嗅覚受容体のリガンドのにおいの抑制剤の評価及び/又は選択方法であって、
1)又は2)記載の方法により発現された嗅覚受容体ポリペプチドに試験物質を添加す
ること、及び
該試験物質に対する該嗅覚受容体ポリペプチドの応答を測定すること、
を含む方法。
7)目的の嗅覚受容体のリガンドのにおいの増強剤の評価及び/又は選択方法であって、
1)又は2)記載の方法により発現された嗅覚受容体ポリペプチドに試験物質及び目的
の嗅覚受容体のリガンドを添加すること、及び
該リガンドに対する該嗅覚受容体ポリペプチドの応答を測定すること、
を含む方法。
8)改変嗅覚受容体ポリペプチドであって、
目的の嗅覚受容体のアミノ酸配列においてコンセンサスアミノ酸配列と異なるアミノ酸
残基の少なくとも1個をこれに相当する位置の該コンセンサスアミノ酸配列のアミノ酸残
基に改変したアミノ酸配列からなり、
該コンセンサスアミノ酸配列が、該目的の嗅覚受容体のアミノ酸配列及び下記(a)~
(d)のいずれかの嗅覚受容体:
(a)該目的の嗅覚受容体の由来の生物種と同じ目における該目的の嗅覚受容体のオル
ソログにコードされる嗅覚受容体からなる群より選択される少なくとも11種の嗅覚受容
体;
(b)該目的の嗅覚受容体の由来の生物種と同じ目における該目的の嗅覚受容体のオル
ソログにコードされる嗅覚受容体及び該目的の嗅覚受容体のパラログにコードされる嗅覚
受容体からなる群より選択される少なくとも11種の嗅覚受容体であって、該11種の嗅
覚受容体に該目的の嗅覚受容体のパラログにコードされる嗅覚受容体を少なくとも1種含
む嗅覚受容体;
(c)脊椎動物における該目的の嗅覚受容体のオルソログにコードされる嗅覚受容体か
らなる群より選択される少なくとも11種の嗅覚受容体であって、該11種の嗅覚受容体
に該目的の嗅覚受容体の由来の生物種と異なる目の脊椎動物のオルソログにコードされる
嗅覚受容体を少なくとも1種含む嗅覚受容体;
(d)脊椎動物における該目的の嗅覚受容体のオルソログにコードされる嗅覚受容体と
、脊椎動物にオルソログが11種以上存在する該目的の嗅覚受容体のパラログのうち該目
的の嗅覚受容体と最も相同性の高いパラログの脊椎動物におけるオルソログにコードされ
る嗅覚受容体とからなる群より選択される少なくとも11種の嗅覚受容体であって、該1
1種の嗅覚受容体に該目的の嗅覚受容体の由来の生物種と異なる目の脊椎動物のオルソロ
グにコードされる嗅覚受容体を少なくとも1種含む嗅覚受容体、及び該パラログにコード
される嗅覚受容体、
のアミノ酸配列のアラインメントから導き出されるアミノ酸配列である、
改変嗅覚受容体ポリペプチド。
9)改変嗅覚受容体ポリペプチドであって、
ヒト嗅覚受容体OR7E24の配列番号96で示されるアミノ酸配列において配列番号
210で示されるコンセンサスアミノ酸配列と異なるアミノ酸残基の少なくとも1個をこ
れに相当する位置の該コンセンサスアミノ酸配列のアミノ酸残基に改変したアミノ酸配列
からなるか、
ヒト嗅覚受容体OR9K2の配列番号484で示されるアミノ酸配列において配列番号
642で示されるコンセンサスアミノ酸配列と異なるアミノ酸残基の少なくとも1個をこ
れに相当する位置の該コンセンサスアミノ酸配列のアミノ酸残基に改変したアミノ酸配列
からなるか、
該嗅覚受容体ポリペプチドが、ヒト嗅覚受容体OR5I1の配列番号850で示される
アミノ酸配列において配列番号900で示されるコンセンサスアミノ酸配列と異なるアミ
ノ酸残基の少なくとも1個をこれに相当する位置の該コンセンサスアミノ酸配列のアミノ
酸残基に改変したアミノ酸配列からなる、
改変嗅覚受容体ポリペプチド。
10)8)又は9)記載の改変嗅覚受容体ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド。
11)10)記載のポリヌクレオチドを含むベクター又はDNA断片。
12)11)記載のベクター又はDNA断片を含有する形質転換細胞。
本発明は、オリジナルの嗅覚受容体のリガンド選択性をよく維持した嗅覚受容体を細胞
膜に発現かつ機能させることができる手法を提供する。斯かる嗅覚受容体を用いることで
、これまでにリガンド又は匂い応答性が確認されていないオリジナルの嗅覚受容体の機能
や性質を調べることができる。したがって本発明は、ある匂い物質がヒトの嗅覚にどのよ
うに作用し、どのような匂い知覚を生み出すのかを説明及び予測するのに有効な手法であ
る。
デザインしたコンセンサス嗅覚受容体の細胞膜発現量とにおい応答性。左から4つのヒストグラムと1つのバーグラフは、Flowcytometry法により求められたHEK293細胞膜上の受容体タンパク質量を表す。対照として受容体を発現させない細胞(Mock)と効率よく膜発現する受容体M2AcRを発現させた細胞を解析した。右には受容体のリガンド応答性をルシフェラーゼアッセイにより測定した結果を表す。エラーバーはSEMを表す(n=3)。 デザインしたコンセンサス嗅覚受容体のリガンド選択性。ルシフェラーゼアッセイの結果を示す。エラーバーはSEMを表す(n=3)。 デザインしたコンセンサス嗅覚受容体のリガンド選択性。ルシフェラーゼアッセイの結果を示す。エラーバーはSEMを表す(n=3)。下段に示す番号は、それぞれ下記表8に示す匂い物質の番号に対応する。 デザインしたコンセンサス嗅覚受容体の細胞膜発現量。Flowcytometry法により求められたHEK293細胞膜上の受容体タンパク質量を表す。34受容体それぞれについて、オリジナルのヒト嗅覚受容体とMammalsのコンセンサス化を適用した受容体との比較を図示した。エラーバーはSEMを表す(n=3又は4)。 嗅覚受容体のルシフェラーゼアッセイ。3種類のヒト嗅覚受容体及びそのコンセンサス嗅覚受容体について、匂い物質を濃度を変えて投与し、応答を測定した。エラーバーはSEMを表す(n=3)。 嗅覚受容体のルシフェラーゼアッセイ。8種類のヒト嗅覚受容体及びそのコンセンサス嗅覚受容体について、匂い物質を濃度を変えて投与し応答を測定した。エラーバーはSEMを表す(n=3)。 嗅覚受容体のルシフェラーゼアッセイ。4種類のコンセンサス嗅覚受容体それぞれについて、個人差が報告されるアミノ酸置換を導入したものをHEK293細胞に発現させ、匂い物質を濃度を変えて投与し応答を測定した。エラーバーはSEMを表す(n=3)。 デザインしたコンセンサス嗅覚受容体の細胞膜発現量。Flowcytometry法により求められたHEK293細胞膜上の受容体タンパク質量を表す。それぞれの受容体について、オリジナルのヒト嗅覚受容体とMammalsのコンセンサス化を適用した受容体との比較を図示した。エラーバーはSEMを表す(n=3)。 A及びB:OR5AN1とコンセンサスOR5AN1の細胞膜発現量。Aは、それぞれの受容体を発現させた細胞集団のPE蛍光シグナルの分布を表すヒストグラム。対照として受容体を発現させない細胞(Mock)と効率よく膜発現する受容体M2AchRを発現させた細胞を解析した。Bは、Aの膜発現量を定量化した結果。エラーバーはSEMを表す(n=3)。C:各種におい物質(100μM)に対するOR5AN1(Ori.)及びコンセンサスOR5AN1(Con.)の応答。エラーバーはSEMを表す(n=3)。縦軸の番号は、下記表19に示す匂い物質の番号に対応する。D:7つのにおい物質に対する用量依存性。一度の実験からの三つの複製からの平均値とSEMを示す。 嗅覚受容体のルシフェラーゼアッセイ。各コンセンサス嗅覚受容体及びオリジナル嗅覚受容体についてメチルメルカプタン(MeSH)、ジメチルスルフィド(DMS)、ジメチルジスルフィド(DMDS)もしくはジメチルトリスルフィド(DMTS)を濃度を変えて投与した際の応答強度をバーグラフで示す。エラーバーはSEMを表す(1回の実験における3つの複製から)。 嗅覚受容体のルシフェラーゼアッセイ。各コンセンサス嗅覚受容体及びオリジナル嗅覚受容体についてMeSH、DMS、DMDSもしくはDMTS 100μMを、銅イオン存在下又は非存在下で投与した際のシグナル値をバーグラフで示す。エラーバーはSEMを表す(1回の実験における3つの複製から)。
本明細書において、「嗅覚受容体ポリペプチド」とは、嗅覚受容体又はそれと同等の機
能を有するポリペプチドをいい、嗅覚受容体と同等の機能を有するポリペプチドとは、嗅
覚受容体と同様に、細胞膜上に発現することができ、匂い分子の結合によって活性化し、
且つ活性化されると、細胞内のGαsと共役してアデニル酸シクラーゼを活性化すること
で細胞内cAMP量を増加させる機能を有するポリペプチドをいう(Nat.Neuro
sci.,2004,5:263-278)。
本明細書において、細胞で嗅覚受容体ポリペプチドが「機能的に発現する」とは、発現
された該嗅覚受容体ポリペプチドが、該細胞において匂い物質受容体として機能すること
をいう。
本明細書において「アゴニスト」とは、受容体に結合し、活性化させる物質をいう。一
方、本明細書において「アンタゴニスト」とは、受容体に結合するが、受容体を活性化し
ないか、又はアゴニストに対する受容体の応答を抑制する物質をいう。
本明細書において、「嗅覚受容体アゴニズム」とは、受容体に結合して、その受容体を
活性化することをいう。
本明細書において、標的においに関する「においの交差順応(又は嗅覚の交差順応)」
とは、該標的においの原因物質とは別の物質のにおいを予め受容し、そのにおいに慣れる
ことによって、該標的においの原因物質に対する嗅覚感受性が低下又は変化する現象を指
す。本発明者らは、以前、「においの交差順応」が、嗅覚受容体アゴニズムに基づく現象
であることを明らかにした(国際公開公報第2016/194788号)。すなわち、「
においの交差順応」においては、標的においの原因物質に対する嗅覚受容体が、該標的に
おいの原因物質への応答に先だって異なるにおいの原因物質に応答し、次いで脱感作する
ことにより、後から該標的においの原因物質に曝されても低い応答しかできず、その結果
、個体に認識される標的においの強度の低下又は変質が生じる。こうした嗅覚受容体の挙
動により引き起こされるにおいの交差順応の仕組みを、本明細書において「嗅覚受容体ア
ゴニズムによるにおいの交差順応」とも呼ぶ。
本明細書において、標的においの「嗅覚受容体アンタゴニズムによる抑制」とは、標的
においを有する物質に対する嗅覚受容体の応答を、アンタゴニストにより抑制し、結果的
に個体に認識される標的においを抑制することをいう。
本明細書において、ヌクレオチド配列及びアミノ酸配列の同一性は、リップマン-パー
ソン法(Lipman-Pearson法;Science,1985,227:143
5-41)によって計算される。具体的には、遺伝情報処理ソフトウェアGenetyx
-Win(Ver.5.1.1;ソフトウェア開発)のホモロジー解析(Search
homology)プログラムを用いて、Unit size to compare(
ktup)を2として解析を行うことにより算出される。
本明細書において、「アミノ酸残基」とは、タンパク質を構成する20種のアミノ酸残
基、アラニン(Ala又はA)、アルギニン(Arg又はR)、アスパラギン(Asn又
はN)、アスパラギン酸(Asp又はD)、システイン(Cys又はC)、グルタミン(
Gln又はQ)、グルタミン酸(Glu又はE)、グリシン(Gly又はG)、ヒスチジ
ン(His又はH)、イソロイシン(Ile又はI)、ロイシン(Leu又はL)、リシ
ン(Lys又はK)、メチオニン(Met又はM)、フェニルアラニン(Phe又はF)
、プロリン(Pro又はP)、セリン(Ser又はS)、トレオニン(Thr又はT)、
トリプトファン(Trp又はW)、チロシン(Tyr又はY)及びバリン(Val又はV
)を意味する。
本明細書において、アミノ酸の改変は、公認されているIUPACの1文字のアミノ酸
略記により、[元のアミノ酸、位置、改変されたアミノ酸]で表記されることがある。例
えば、43位のヒスチジンのアルギニンへの改変は、「H43R」と示される。
本明細書において、アミノ酸配列上の「相当する位置」は、目的配列と基準配列(本発
明においてはオリジナルの嗅覚受容体のアミノ酸配列)とを、最大の相同性を与えるよう
に整列(アラインメント)させることにより決定することができる。アミノ酸配列のアラ
インメントは、公知のアルゴリズムを用いて実行することができ、その手順は当業者に公
知である。例えば、アラインメントは、Clustal Wマルチプルアラインメントプ
ログラム(Thompson,J.D.et al,1994,Nucleic Aci
ds Res.22:4673-4680)をデフォルト設定で用いることにより、行う
ことができる。あるいは、Clustal Wの改訂版であるClustal W2やC
lustal omegaを使用することもできる。Clustal W、Clusta
l W2及びClustal omegaは、例えば、University Coll
ege Dublinが運営するClustalのウェブサイト[www.clusta
l.org]、欧州バイオインフォマティクス研究所(European Bioinf
ormatics Institute:EBI[www.ebi.ac.uk/ind
ex.html])や、国立遺伝学研究所が運営する日本DNAデータバンク(DDBJ
[www.ddbj.nig.ac.jp/searches-j.html])のウェ
ブサイト上で利用することができる。上述のアラインメントにより基準配列の任意の位置
にアラインされた目的配列の位置は、当該任意の位置に「相当する位置」とみなされる。
当業者であれば、上記で得られたアミノ酸配列のアラインメントを、最適化するように
さらに微調整することができる。そのような最適アラインメントは、アミノ酸配列の類似
性や挿入されるギャップの頻度等を考慮して決定するのが好ましい。ここでアミノ酸配列
の類似性とは、2つのアミノ酸配列をアラインメントしたときにその両方の配列に同一又
は類似のアミノ酸残基が存在する位置の数の全長アミノ酸残基数に対する割合(%)をい
う。類似のアミノ酸残基とは、タンパク質を構成する20種のアミノ酸のうち、極性や電
荷の点で互いに類似した性質を有しており、いわゆる保存的置換を生じるようなアミノ酸
残基を意味する。そのような類似のアミノ酸残基からなるグループは当業者にはよく知ら
れており、例えば、アルギニンとリシン又はグルタミン;グルタミン酸とアスパラギン酸
又はグルタミン;セリンとトレオニン又はアラニン;グルタミンとアスパラギン又はアル
ギニン;ロイシンとイソロイシン等がそれぞれ挙げられるが、これらに限定されない。
加えて、上記で得られたアミノ酸配列のアラインメントは、例えば、嗅覚受容体間で高
度に保存されたアミノ酸もしくはアミノ酸モチーフを基準に、最適化するようにさらに微
調整することができる。この目的に使用される嗅覚受容体間で高度に保存されたアミノ酸
の例としては、各嗅覚受容体において、膜貫通領域を構成するアミノ酸の中で最も保存性
が高いアミノ酸が挙げられる。加えて分子内でジスルフィド結合を形成するシステインが
挙げられる。また、嗅覚受容体間で高度に保存されたアミノ酸モチーフの例としては、第
一細胞内ループに位置するLHTPMY、第三膜貫通領域の後半から第二細胞内ループの
前半にかけて位置するMAYDRYVAIC、第五膜貫通領域の後半に位置するSY、第
六膜貫通領域の前半に位置するKAFSTCASH、第七膜貫通領域に位置するPMLN
PFIYなどが挙げられる。
本明細書において、プロモーター等の制御領域と遺伝子の「作動可能な連結」とは、遺
伝子と制御領域とが、該遺伝子が該制御領域の制御の下で発現し得るように連結されてい
ることをいう。遺伝子と制御領域との「作動可能な連結」の手順は当業者に周知である。
本明細書において、遺伝子に関する「上流」及び「下流」とは、該遺伝子の転写方向の
上流及び下流をいう。例えば、「プロモーターの下流に配置された遺伝子」とは、DNA
センス鎖においてプロモーターの3’側に該遺伝子が存在することを意味し、遺伝子の上
流とは、DNAセンス鎖における該遺伝子の5’側の領域を意味する。
本明細書において、「ホモログ」とは、共通の祖先に由来する相同遺伝子を指す。「オ
ルソログ」とは、「オーソログ」とも呼ばれ、種分化の際に分岐したホモログを指し、異
なる生物種に存在し、同一又は類似の機能を有する。しかし、一般に嗅覚受容体遺伝子は
、それぞれの生物種で高頻度に重複と欠失が起こり、かつ偽遺伝子が多数存在することか
ら、オルソログ関係を厳密に求めることは困難とされる。一例において、本発明で用いる
オルソログは、目的の嗅覚受容体遺伝子の相同遺伝子のうち、目的の嗅覚受容体遺伝子と
同一の名称を含む目的の嗅覚受容体が由来する生物種とは異なる生物種の嗅覚受容体遺伝
子であり得る。ある生物種の嗅覚受容体の命名法が目的の嗅覚受容体が由来する生物種に
おける命名法と異なる場合、オルソログは、該ある生物種における目的の嗅覚受容体遺伝
子と高い相同性を有する嗅覚受容体遺伝子、好ましくは最も高い相同性を有する嗅覚受容
体遺伝子であり得る。あるいは、該ある生物種における目的の嗅覚受容体遺伝子のオルソ
ログであることが知られている嗅覚受容体遺伝子であり得る。別の一例において、本発明
で用いるオルソログは、上記オルソログのうち、系統樹解析により種分化の際に分岐した
可能性が示唆される嗅覚受容体遺伝子であり得る。一方、「パラログ」とは、遺伝子重複
によって生じたホモログを指し、同一生物種内に存在する。パラログの機能に関しては、
同一又は類似である場合もあるが、異なる場合もある。一例において、本発明で用いるパ
ラログは、目的の嗅覚受容体が由来する生物種の嗅覚受容体遺伝子のうち、目的の嗅覚受
容体遺伝子と高い相同性を有する嗅覚受容体遺伝子、好ましくは最も高い相同性を有する
嗅覚受容体遺伝子であり得る。
後述の実施例に示すとおり、本発明者は、ヒト嗅覚受容体のアミノ酸配列を、該ヒト嗅
覚受容体のアミノ酸配列と該ヒト嗅覚受容体の特定のオルソログ又は特定のオルソログ及
びパラログにコードされる嗅覚受容体のアミノ酸配列とから導き出されるコンセンサスア
ミノ酸配列に基づいて改変し、得られた嗅覚受容体ポリペプチドを細胞に発現させたとこ
ろ、該嗅覚受容体ポリペプチドの細胞での膜発現が改変前のヒト嗅覚受容体に比べて増加
し得ることを見出した(図1)。マウス嗅覚受容体についても、ヒト嗅覚受容体の場合と
同様に改変し、得られた嗅覚受容体ポリペプチドを細胞に発現させたところ、該嗅覚受容
体ポリペプチドの細胞での膜発現が改変前のマウス嗅覚受容体に比べて増加し得ることを
見出した。すなわち、該嗅覚受容体ポリペプチドは、改変前の嗅覚受容体に比べて発現時
の安定性が向上している。本明細書において、改変前の嗅覚受容体を「オリジナルの嗅覚
受容体」と称し、嗅覚受容体のアミノ酸配列をコンセンサスアミノ酸配列に基づいて改変
することを「コンセンサス化する」と称し、コンセンサス化された嗅覚受容体を「コンセ
ンサス嗅覚受容体」あるいは「改変嗅覚受容体ポリペプチド」と称することがある。
後述する実施例に示すとおり、本発明者は、また、コンセンサス嗅覚受容体の細胞での
膜発現がオリジナルのヒト嗅覚受容体に比べて増加すると応答性も向上すること、コンセ
ンサス嗅覚受容体の膜発現がわずかでも増加すると応答性が十分に向上すること(図1)
、さらに重要なことに、コンセンサス嗅覚受容体がオリジナルのヒト嗅覚受容体のリガン
ド選択性をよく維持していること(図2、3)を見出した。また、本発明者は、先行研究
において、リガンド候補物質が特定されているにも関わらず、そのリガンド候補物質に対
する応答性が実証されなかったヒト嗅覚受容体34種類についてコンセンサス化を行った
ところ、約85%もの嗅覚受容体で膜発現が増加することを見出した(図4)。さらに、
本発明者は、これまで機能解析ができなかったヒト嗅覚受容体のコンセンサス化により、
ある匂い物質についてこれに応答する嗅覚受容体の候補として予測されていた嗅覚受容体
が実際に該匂い物質に対し応答性を示すことを確認した(図5、6)。それら嗅覚受容体
の中には、非特許文献2でコンセンサス化が試されたものの応答測定の成功が報告されな
かった受容体が含まれる。さらに、これまで機能解析ができなかったヒト嗅覚受容体に、
コンセンサス化を適用した上でヒト集団で個人差が認められるアミノ酸配列を導入すれば
、ヒト集団に認められる官能評価結果の差に合致する受容体応答性が観察できるようにな
ることを確認した(図7)。そして本発明者は、本発明のコンセンサス化がさらに多数の
嗅覚受容体に有効であることを明らかにした(図8、表12、14、15、17)。
後述する実施例に示すとおり、本発明者は、さらに、コンセンサス嗅覚受容体の細胞で
の膜発現がオリジナルのヒト嗅覚受容体と比べて同程度であり増加しない場合でも、コン
センサス嗅覚受容体がオリジナルのヒト嗅覚受容体のリガンド選択性をよく維持している
こと、コンセンサス嗅覚受容体の応答性が向上することを見出した(図9)。膜発現量が
増加しないにもかかわらず応答性が向上する理由としては、嗅覚受容体のコンセンサス化
により、嗅覚受容体の活性化型構造への移行効率や細胞内のGタンパク質との共役効率が
高まっている可能性が考えられる。
よって、嗅覚受容体の上記コンセンサス化は、嗅覚受容体、特にこれまで培養細胞での
膜発現が不十分なために機能解析が不可能であった嗅覚受容体について、該嗅覚受容体の
リガンド選択性をよく維持した嗅覚受容体を細胞の細胞膜に発現かつ機能させるのに有用
である。したがって、一態様において本発明は、嗅覚受容体ポリペプチドの発現方法を提
供する。本発明の発現方法は、嗅覚受容体の発現向上(例えば、発現増加、発現安定化)
を可能とするので、当該方法は、好ましくは、嗅覚受容体ポリペプチドの発現向上方法で
ある。当該方法は、目的の嗅覚受容体のアミノ酸配列においてコンセンサスアミノ酸配列
と異なるアミノ酸残基の少なくとも1個をこれに相当する位置の該コンセンサスアミノ酸
配列のアミノ酸残基に改変したアミノ酸配列からなる嗅覚受容体ポリペプチドを細胞に発
現させることを含み、
該コンセンサスアミノ酸配列が、該目的の嗅覚受容体のアミノ酸配列及び下記(a)~
(d)のいずれかの嗅覚受容体:
(a)該目的の嗅覚受容体の由来の生物種と同じ目における該目的の嗅覚受容体のオル
ソログにコードされる嗅覚受容体からなる群より選択される少なくとも11種の嗅覚受容
体;
(b)該目的の嗅覚受容体の由来の生物種と同じ目における該目的の嗅覚受容体のオル
ソログにコードされる嗅覚受容体及び該目的の嗅覚受容体のパラログにコードされる嗅覚
受容体からなる群より選択される少なくとも11種の嗅覚受容体であって、該11種の嗅
覚受容体に該目的の嗅覚受容体のパラログにコードされる嗅覚受容体を少なくとも1種含
む嗅覚受容体;
(c)脊椎動物における該目的の嗅覚受容体のオルソログにコードされる嗅覚受容体か
らなる群より選択される少なくとも11種の嗅覚受容体であって、該11種の嗅覚受容体
に該目的の嗅覚受容体の由来の生物種と異なる目の脊椎動物のオルソログにコードされる
嗅覚受容体を少なくとも1種含む嗅覚受容体;
(d)脊椎動物における該目的の嗅覚受容体のオルソログにコードされる嗅覚受容体と
、脊椎動物にオルソログが11種以上存在する該目的の嗅覚受容体のパラログのうち該目
的の嗅覚受容体と最も相同性の高いパラログの脊椎動物におけるオルソログにコードされ
る嗅覚受容体とからなる群より選択される少なくとも11種の嗅覚受容体であって、該1
1種の嗅覚受容体に該目的の嗅覚受容体の由来の生物種と異なる目の脊椎動物のオルソロ
グにコードされる嗅覚受容体を少なくとも1種含む嗅覚受容体、及び該パラログにコード
される嗅覚受容体、
のアミノ酸配列のアラインメントから導き出されるアミノ酸配列である、方法である。
本発明の発現方法において、目的の嗅覚受容体は、特に制限されないが、好ましくは細
胞での応答性、又は細胞膜発現及び応答性の向上を所望する嗅覚受容体である。目的の嗅
覚受容体は、いずれの生物種の嗅覚受容体であってもよく、哺乳類の嗅覚受容体が好まし
く、ヒト嗅覚受容体がより好ましい。また、いずれのファミリー、サブファミリー、メン
バーの嗅覚受容体であってもよい。嗅覚受容体のファミリーは、種によって異なり、例え
ば、ヒト嗅覚受容体であれば、OR1、OR2、OR3、OR4、OR5、OR6、OR
7、OR8、OR9、OR10、OR11、OR12、OR13、OR14、OR51、
OR52、OR55、及びOR56が挙げられる。目的の嗅覚受容体としては、従来法に
よる培養細胞を用いた機能解析が可能な嗅覚受容体であっても、不可能な嗅覚受容体であ
ってもよいが、本発明の方法は、従来法による培養細胞を用いての機能解析が不可能な嗅
覚受容体により好適に適用される。
本発明の発現方法において、(a)の嗅覚受容体は、目的の嗅覚受容体の由来の生物種
と同じ目における該目的の嗅覚受容体のオルソログにコードされる嗅覚受容体である。該
オルソログとしては、特に制限されないが、目的の嗅覚受容体遺伝子との相同性が高いオ
ルソログ程好ましい。
本実施形態の好ましい一例において、(a)の目的の嗅覚受容体の由来の生物種と同じ
目における該目的の嗅覚受容体のオルソログは、該目に属する生物種が有する嗅覚受容体
遺伝子のうち、目的の嗅覚受容体遺伝子と同じ名称を含む遺伝子である。斯かるオルソロ
グは、例えば、以下の手順で選択することができる。目的の嗅覚受容体のアミノ酸配列を
問い合わせ配列(query配列)とし、検索対象生物名を目的の嗅覚受容体の由来の生
物種と同じ目として、NCBIのBLASTなどでデータベース検索を行う。その結果得
られた相同遺伝子群(例えば、上位500遺伝子、好ましくは上位250遺伝子、より好
ましくは上位100遺伝子、さらに好ましくは上位50遺伝子)から、目的の嗅覚受容体
遺伝子と同じ名称を含む遺伝子を選択する。
本実施形態のより好ましい一例において、(a)の目的の嗅覚受容体の由来の生物種と
同じ目における該目的の嗅覚受容体のオルソログは、該目に属する生物種が有する嗅覚受
容体遺伝子であって、目的の嗅覚受容体遺伝子と同じ名称を含む遺伝子のうち、系統樹解
析により種分化の際に分岐した可能性が示唆される遺伝子である。斯かるオルソログは、
例えば、以下の手順で選択することができる。目的の嗅覚受容体のアミノ酸配列をque
ry配列とし、検索対象生物名を目的の嗅覚受容体の由来の生物種と同じ目として、NC
BIのBLASTなどでデータベース検索を行う。その結果得られた相同遺伝子群(例え
ば、上位500遺伝子、好ましくは上位250遺伝子、より好ましくは上位100遺伝子
、さらに好ましくは上位50遺伝子)を用いて公知の手法により系統樹を作成し、目的の
嗅覚受容体と同じ名称を含む遺伝子をなるべく多く含みかつそれ以外の遺伝子をなるべく
含まないクレードを特定する。その後、特定したクレードに含まれる遺伝子を選択する。
尚、オルソログとして、同一生物種に由来する遺伝子が複数選択される場合、目的の嗅
覚受容体遺伝子と最も相同性が高い1遺伝子のみを選択してもよい。また、ある生物種の
嗅覚受容体の命名法が目的の嗅覚受容体が由来する生物種における命名法と異なる場合、
オルソログとして、該ある生物種における目的の嗅覚受容体遺伝子と高い相同性を有する
遺伝子、好ましくは最も高い相同性を有する遺伝子を選択してもよい。あるいは、該ある
生物種における目的の嗅覚受容体遺伝子のオルソログであることが知られている遺伝子を
選択してもよい。
(a)の嗅覚受容体の種類数は、受容体数として、少なくとも11種類であり、好まし
くは少なくとも15種類である。一方、種類数の上限は、目的の嗅覚受容体の由来の生物
種と同じ目の生物種におけるオルソログの全種類数であり、該種類数は、受容体数として
、好ましくは500種類以下、より好ましくは250種類以下、さらに好ましくは100
種類以下、さらに好ましくは50種類以下である。(a)の嗅覚受容体の種類数は、受容
体数として、例えば、11種類~目的の嗅覚受容体の由来の生物種と同じ目の生物種にお
けるオルソログの全種類、11~500種類、11~250種類、11~100種類、1
1~50種類、15~50種類であり得る。
本発明の発現方法において、(b)の嗅覚受容体は、目的の嗅覚受容体の由来の生物種
と同じ目における該目的の嗅覚受容体のオルソログにコードされる嗅覚受容体及び該目的
の嗅覚受容体のパラログにコードされる嗅覚受容体である。該オルソログとしては、特に
制限されないが、目的の嗅覚受容体遺伝子との相同性が高いオルソログ程好ましい。該パ
ラログとしては、特に制限されないが、目的の嗅覚受容体遺伝子と高い相同性を有するパ
ラログが好ましく、最も高い相同性を有するパラログがより好ましい。
本実施形態の好ましい一例において、(b)の目的の嗅覚受容体の由来の生物種と同じ
目における該目的の嗅覚受容体のオルソログは、該目に属する生物種が有する嗅覚受容体
遺伝子のうち、目的の嗅覚受容体遺伝子と同じ名称を含む遺伝子である。斯かるオルソロ
グは、上記(a)の場合と同様に選択することができる。
本実施形態のより好ましい一例において、(b)の目的の嗅覚受容体の由来の生物種と
同じ目における該目的の嗅覚受容体のオルソログは、該目に属する生物種が有する嗅覚受
容体遺伝子であって、目的の嗅覚受容体遺伝子と同じ名称を含む遺伝子のうち、系統樹解
析により種分化の際に分岐した可能性が示唆される遺伝子である。斯かるオルソログは、
上記(a)の場合と同様に選択することができる。
本実施形態の好ましい一例において、(b)の目的の嗅覚受容体のパラログは、目的の
嗅覚受容体が由来する生物種が有する嗅覚受容体遺伝子のうち、目的の嗅覚受容体遺伝子
と高い相同性を有する遺伝子である。斯かるパラログは、目的の嗅覚受容体のアミノ酸配
列をquery配列とし、検索対象生物名を目的の嗅覚受容体の由来の生物種として、N
CBIのBLASTなどでデータベース検索を行い、その結果得られた相同遺伝子群(例
えば、上位500遺伝子、好ましくは上位250遺伝子、より好ましくは上位100遺伝
子、さらに好ましくは上位50遺伝子)から選択することができる。
あるいは、上記(b)の目的の嗅覚受容体の由来の生物種と同じ目における該目的の嗅
覚受容体のオルソログ及び該目的の嗅覚受容体のパラログは、例えば、以下の手順で選択
することもできる。目的の嗅覚受容体のアミノ酸配列をquery配列とし、検索対象生
物名を目的の嗅覚受容体の由来の生物種と同じ目として、NCBIのBLASTなどでデ
ータベース検索を行う。その結果得られた相同遺伝子群(例えば、上位500遺伝子、好
ましくは上位250遺伝子、より好ましくは上位100遺伝子、さらに好ましくは上位5
0遺伝子)を用いて公知の手法により系統樹を作成し、目的の嗅覚受容体と同じ名称を含
む遺伝子をなるべく多く含みかつそれ以外の遺伝子をなるべく含まないクレードを特定す
る。特定したクレードと隣接し、目的の嗅覚受容体遺伝子と最も相同性が高い目的の嗅覚
受容体の由来の生物種の遺伝子が含まれるクレードを特定する。特定したクレード群に含
まれる遺伝子を選択する。このとき、該クレード群に目的の嗅覚受容体の由来の生物種と
同じ目の生物種の相同遺伝子群の上位50位より下位の遺伝子が含まれる場合は、該遺伝
子を除外することが好ましい。
(b)の嗅覚受容体の種類数は、受容体数として、少なくとも11種類であり、好まし
くは少なくとも25種類であり、より好ましくは少なくとも35種類である。一方、種類
数の上限は、目的の嗅覚受容体の由来の生物種と同じ目の生物種におけるオルソログ及び
該目的の嗅覚受容体のパラログの全種類数であり、該種類数は、受容体数として、好まし
くは500種類以下、より好ましくは250種類以下、さらに好ましくは100種類以下
、さらに好ましくは50種類以下である。(b)の嗅覚受容体の種類数は、受容体数とし
て、例えば、11種類~目的の嗅覚受容体の由来の生物種と同じ目の生物種におけるオル
ソログ及び該目的の嗅覚受容体のパラログの全種類、11~500種類、11~250種
類、11~100種類、11~50種類、25~50種類、35~50種類であり得る。
このうち、目的の嗅覚受容体のパラログにコードされる嗅覚受容体の種類数は、受容体数
として、少なくとも1種類である。一方、種類数の上限は、目的の嗅覚受容体のパラログ
の全種類数であり、該種類数は、受容体数として、好ましくは50種類以下、より好まし
くは10種類以下である。目的の嗅覚受容体のパラログにコードされる嗅覚受容体の種類
数は、受容体数として、例えば、1種類~目的の嗅覚受容体のパラログの全種類、1~5
0種類、1~10種類であり得る。該パラログにコードされる嗅覚受容体は、より好まし
くは目的の嗅覚受容体遺伝子と最も相同性が高い1種である。
例えば、目的の嗅覚受容体がヒト嗅覚受容体である場合、(a)又は(b)の「目的の
嗅覚受容体の由来の生物種と同じ目」とは、脊椎動物門哺乳網霊長目を指す。霊長目に属
する生物種を霊長類(Primates)と称し、約220種が現存することが知られて
いる。霊長類としては、ヒト、チンパンジー、ボノボ、ゴリラ、スマトラオランウータン
、キタホウジロテナガザル、ドリル、ゲラダヒヒ、アカゲザル、アヌビスヒヒ、スーティ
ーマンガベイ、グリーンモンキー、ハイアカコロブス、アンゴラコロブス、ガーネットガ
ラゴ、ハイイロネズミキツネザル、コクレルシファカ、フィリピンメガネザルなどが挙げ
られるが、これらに限定されるものではない。また、目的の嗅覚受容体がヒト嗅覚受容体
である場合、「目的の嗅覚受容体遺伝子と同じ名称を含む遺伝子」とは、目的のヒト嗅覚
受容体遺伝子と同じファミリー名、サブファミリー名、及びメンバー名を含む遺伝子を指
す。
本発明の発現方法において、(c)の嗅覚受容体は、脊椎動物における目的の嗅覚受容
体のオルソログにコードされる嗅覚受容体であって、該目的の嗅覚受容体の由来の生物種
と異なる目の脊椎動物のオルソログにコードされる嗅覚受容体を少なくとも1種含む。脊
椎動物における目的の嗅覚受容体のオルソログにコードされる嗅覚受容体は、好ましくは
哺乳類、鳥類、爬虫類、両生類及び魚類における目的の嗅覚受容体のオルソログにコード
される嗅覚受容体から選択される嗅覚受容体であり、より好ましくは哺乳類、鳥類、爬虫
類及び両生類における目的の嗅覚受容体のオルソログにコードされる嗅覚受容体から選択
される嗅覚受容体であり、さらに好ましくは哺乳類における目的の嗅覚受容体のオルソロ
グにコードされる嗅覚受容体である。目的の嗅覚受容体の由来の生物種と異なる目とは、
該生物種が属する目以外の目であればよく、目よりも上位の分類階級は該生物種のものと
同じであっても異なっていてもよい。該オルソログとしては、特に制限されないが、目的
の嗅覚受容体遺伝子との相同性が高いオルソログ程好ましい。ここで、哺乳類(Mamm
als)とは、脊椎動物門哺乳網に属する生物種を指し、上記の霊長類も含めて、約55
00種が現存することが知られている。哺乳類としては、上記の霊長類以外では、マウス
、ラット、ウサギ、ネコ、イヌ、キツネ、タヌキ、イタチ、トラ、チーター、クマ、アシ
カ、アザラシ、オットセイ、ウマ、サイ、ラクダ、ブタ、イノシシ、ウシ、ヤギ、ヒツジ
、シカ、キリン、カバ、ゾウ、センザンコウ、モグラ、コウモリなどが挙げられるが、こ
れらに限定されるものではない。鳥類(Aves)とは、脊椎動物門鳥網に属する生物種
を指す。鳥類としては、ニワトリ、カモ、アヒル、ガチョウ、シチメンチョウ、ダチョウ
、キジ、ハト、オウム、カナリア、ジュウシマツ、ハチドリ、マイコドリ、ウズラ、ヒタ
キなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。爬虫類(Reptilia)
とは、脊椎動物門爬虫網に属する生物種を指す。爬虫類としては、カメ、トカゲ、ワニ、
イグアナ、カメレオン、ヤモリ、ヘビなどが挙げられるが、これらに限定されるものでは
ない。両生類(Amphibia)とは、脊椎動物門両生網に属する生物種を指す。両生
類としては、カエル、イモリ、サンショウウオなどが挙げられるが、これらに限定される
ものではない。魚類(Fish)とは、脊椎動物門ヌタウナギ類、ヤツメウナギ類、軟骨
魚綱及び硬骨魚綱に属する生物種を指す総称である。魚類としては、ヌタウナギ、ヤツメ
ウナギ、サメ、エイ、マグロ、カツオ、サケ、マス、タラ、タイ、ヒラメ、ブリ、アジ、
サバなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
本実施形態の好ましい一例において、(c)の脊椎動物における目的の嗅覚受容体のオ
ルソログは、脊椎動物に属する生物種が有する嗅覚受容体遺伝子のうち、目的の嗅覚受容
体遺伝子と同じ名称を含む遺伝子である。斯かるオルソログは、例えば、以下の手順で選
択することができる。目的の嗅覚受容体のアミノ酸配列をquery配列とし、NCBI
のBLASTなどでデータベース検索を行う。その結果得られた相同遺伝子群(例えば、
上位500遺伝子、好ましくは上位250遺伝子、より好ましくは上位100遺伝子、さ
らに好ましくは上位50遺伝子)から、目的の嗅覚受容体遺伝子と同じ名称を含む遺伝子
を選択する。
尚、オルソログとして、同一生物種に由来する遺伝子が複数選択される場合、目的の嗅
覚受容体遺伝子と最も相同性が高い1遺伝子のみを選択してもよい。例えば、目的の嗅覚
受容体がヒト嗅覚受容体であり、オルソログとして、ヒト以外のある生物種の遺伝子が複
数選択される場合、目的のヒト嗅覚受容体遺伝子と最も相同性が高い該ある生物種の遺伝
子を選択すればよい。また、ある生物種の嗅覚受容体の命名法が目的の嗅覚受容体が由来
する生物種における命名法と異なる場合、オルソログとして、該ある生物種における目的
の嗅覚受容体遺伝子と高い相同性を有する遺伝子、好ましくは最も高い相同性を有する遺
伝子を選択してもよい。あるいは、該ある生物種における目的の嗅覚受容体遺伝子のオル
ソログであることが知られている遺伝子を選択してもよい。
(c)の嗅覚受容体の種類数は、受容体数として、少なくとも11種類であり、好まし
くは少なくとも15種類であり、より好ましくは少なくとも30種類である。一方、種類
数の上限は、脊椎動物における目的の嗅覚受容体のオルソログの全種類数であり、該種類
数は、受容体数として、好ましくは500種類以下、より好ましくは400種類以下、さ
らに好ましくは300種類以下である。(c)の嗅覚受容体の種類数は、受容体数として
、例えば、11種類~脊椎動物における目的の嗅覚受容体のオルソログの全種類、11~
500種類、11~400種類、11~300種類、15~300種類、30~300種
類であり得る。このうち、目的の嗅覚受容体の由来の生物種と異なる目の脊椎動物のオル
ソログにコードされる嗅覚受容体の種類数は、受容体数として、少なくとも1種類であり
、好ましくは5種類であり、より好ましくは10種類である。一方、種類数の上限は、目
的の嗅覚受容体の由来の生物種と異なる目の脊椎動物のオルソログの全種類数であり、該
種類数は、好ましくは250種類以下、より好ましくは100種類以下、さらに好ましく
は50種類以下である。目的の嗅覚受容体の由来の生物種と異なる目の脊椎動物のオルソ
ログにコードされる嗅覚受容体の種類数は、受容体数として、例えば、1種類~目的の嗅
覚受容体の由来の生物種と異なる目の脊椎動物のオルソログの全種類、1~250種類、
5~250種類、10~250種類、10~100種類、10~50種類であり得る。
本発明の発現方法において、(d)の嗅覚受容体は、脊椎動物における目的の嗅覚受容
体のオルソログにコードされる嗅覚受容体と、脊椎動物にオルソログが11種以上存在す
る目的の嗅覚受容体のパラログのうち該目的の嗅覚受容体と最も相同性の高いパラログの
脊椎動物におけるオルソログにコードされる嗅覚受容体とからなる群より選択される嗅覚
受容体であって、該目的の嗅覚受容体の由来の生物種と異なる目の脊椎動物のオルソログ
にコードされる嗅覚受容体を少なくとも1種含む嗅覚受容体、及び該パラログにコードさ
れる嗅覚受容体である。脊椎動物における目的の嗅覚受容体のオルソログにコードされる
嗅覚受容体は、好ましくは哺乳類、鳥類、爬虫類、両生類及び魚類における目的の嗅覚受
容体のオルソログにコードされる嗅覚受容体から選択される嗅覚受容体であり、より好ま
しくは哺乳類、鳥類、爬虫類及び両生類における目的の嗅覚受容体のオルソログにコード
される嗅覚受容体から選択される嗅覚受容体であり、さらに好ましくは哺乳類における目
的の嗅覚受容体のオルソログにコードされる嗅覚受容体である。目的の嗅覚受容体の由来
の生物種と異なる目とは、該生物種が属する目以外の目であればよく、目よりも上位の分
類階級は該生物種のものと同じであっても異なっていてもよい。該オルソログとしては、
特に制限されないが、目的の嗅覚受容体遺伝子との相同性が高いオルソログ程好ましい。
パラログの脊椎動物におけるオルソログとしては、特に制限されないが、上記パラログと
の相同性が高いオルソログ程好ましい。ここで、哺乳類、鳥類、爬虫類、両生類及び魚類
としては、上記(c)の場合と同様の生物種を挙げることができる。
本実施形態の好ましい一例において、(d)の脊椎動物における目的の嗅覚受容体のオ
ルソログは、脊椎動物に属する生物種が有する嗅覚受容体遺伝子のうち、目的の嗅覚受容
体遺伝子と同じ名称を含む遺伝子である。斯かるオルソログは、上記(c)の場合と同様
に選択することができる。脊椎動物における目的の嗅覚受容体のオルソログを選択できな
い場合、(d)の嗅覚受容体は、脊椎動物にオルソログが11種以上存在する目的の嗅覚
受容体のパラログのうち該目的の嗅覚受容体と最も相同性の高いパラログの脊椎動物にお
けるオルソログにコードされる嗅覚受容体であって、該目的の嗅覚受容体の由来の生物種
と異なる目の脊椎動物のオルソログにコードされる嗅覚受容体を少なくとも1種含む嗅覚
受容体、及び該パラログにコードされる嗅覚受容体であり得る。(d)の脊椎動物にオル
ソログが11種以上存在する目的の嗅覚受容体のパラログのうち該目的の嗅覚受容体と最
も相同性の高いパラログの脊椎動物におけるオルソログは、好ましくは、脊椎動物に属す
る生物種が有する嗅覚受容体遺伝子であって、脊椎動物にオルソログが11種以上存在す
る目的の嗅覚受容体のパラログのうち該目的の嗅覚受容体遺伝子と最も相同性の高いパラ
ログと同じ名称を含む遺伝子であり、かつ該目的の嗅覚受容体遺伝子と相同性の高いパラ
ログから選択される。斯かるオルソログは、例えば、以下の手順で選択することができる
。目的の嗅覚受容体のアミノ酸配列をquery配列とし、NCBIのBLASTなどで
データベース検索を行う。その結果得られた相同遺伝子群(例えば、上位500遺伝子、
好ましくは上位250遺伝子、より好ましくは上位100遺伝子、さらに好ましくは上位
50遺伝子)から、目的の嗅覚受容体遺伝子に最も相同性の高いパラログを選択する。次
いで、該パラログと同じ名称を含む遺伝子を選択する。選択された遺伝子が11遺伝子未
満の場合は、目的の嗅覚受容体遺伝子に2番目に相同性の高いパラログを選択して、上記
同様に該パラログと同じ名称を含む遺伝子を選択する。最終的に11遺伝子以上が選択さ
れるまで、この手順を繰り返せばよい。
尚、オルソログとして、同一生物種に由来する遺伝子が複数選択される場合、目的の嗅
覚受容体遺伝子と最も相同性が高い1遺伝子のみを選択してもよい。例えば、目的の嗅覚
受容体がヒト嗅覚受容体であり、オルソログとして、ヒト以外のある生物種の遺伝子が複
数選択される場合、目的のヒト嗅覚受容体遺伝子と最も相同性が高い該ある生物種の遺伝
子を選択すればよい。また、ある生物種の嗅覚受容体の命名法が目的の嗅覚受容体が由来
する生物種における命名法と異なる場合、オルソログとして、該ある生物種における目的
の嗅覚受容体遺伝子と高い相同性を有する遺伝子、好ましくは最も高い相同性を有する遺
伝子を選択してもよい。あるいは、該ある生物種における目的の嗅覚受容体遺伝子のオル
ソログであることが知られている遺伝子を選択してもよい。
(d)の嗅覚受容体の種類数は、受容体数として、少なくとも11種類であり、好まし
くは少なくとも30種類であり、より好ましくは少なくとも60種類である。一方、種類
数の上限は、脊椎動物における目的の嗅覚受容体のオルソログ、及び脊椎動物にオルソロ
グが11種以上存在する該目的の嗅覚受容体のパラログのうち該目的の嗅覚受容体と最も
相同性の高いパラログの脊椎動物におけるオルソログの全種類数であり、該種類数は、受
容体数として、好ましくは500種類以下、より好ましくは400種類以下、さらに好ま
しくは300種類以下である。(d)の嗅覚受容体の種類数は、受容体数として、例えば
、11種類~脊椎動物における目的の嗅覚受容体のオルソログ、及び脊椎動物にオルソロ
グが11種以上存在する該目的の嗅覚受容体のパラログのうち該目的の嗅覚受容体と最も
相同性の高いパラログの脊椎動物におけるオルソログの全種類、11~500種類、11
~400種類、11~300種類、30~300種類、60~300種類であり得る。こ
のうち、目的の嗅覚受容体の由来の生物種と異なる目の脊椎動物のオルソログにコードさ
れる嗅覚受容体の種類数は、受容体数として、少なくとも1種類であり、好ましくは5種
類であり、より好ましくは10種類である。一方、種類数の上限は、目的の嗅覚受容体の
由来の生物種と異なる目の脊椎動物のオルソログの全種類数であり、該種類数は、好まし
くは250種類以下、より好ましくは100種類以下、さらに好ましくは50種類以下で
ある。目的の嗅覚受容体の由来の生物種と異なる目の脊椎動物のオルソログにコードされ
る嗅覚受容体の種類数は、受容体数として、例えば、1種類~目的の嗅覚受容体の由来の
生物種と異なる目の脊椎動物のオルソログの全種類、1~250種類、5~250種類、
10~250種類、10~100種類、10~50種類であり得る。
目的の嗅覚受容体のコンセンサス化に際しては、より多くの種の嗅覚受容体遺伝子に基
づくコンセンサスを反映できる点で、(a)~(d)の嗅覚受容体のうち、(c)の嗅覚
受容体をコンセンサス化に利用することが好ましい。尚、目的の嗅覚受容体のコンセンサ
ス化に(c)の嗅覚受容体を利用できない場合、換言すれば、目的の嗅覚受容体のオルソ
ログが11種類未満しか特定できない場合、(d)の嗅覚受容体をコンセンサス化に好適
に利用できる。
本発明の発現方法において、「コンセンサスアミノ酸配列」とは、目的の嗅覚受容体の
アミノ酸配列及び(a)~(d)のいずれかの嗅覚受容体のアミノ酸配列のアラインメン
トから導き出されるアミノ酸配列である。具体的には、「コンセンサスアミノ酸配列」と
は、目的の嗅覚受容体のアミノ酸配列及び(a)~(d)のいずれかの嗅覚受容体のアミ
ノ酸配列のアラインメントから以下の(i)~(iii)の基準に従い同定したコンセン
サス残基からなるアミノ酸配列である。
(i)該アラインメントの各アミノ酸位置において、
(i-i)該目的の嗅覚受容体のアミノ酸残基と異なり且つ出現頻度50%以上のアミ
ノ酸残基が1種存在する場合、該アミノ酸残基をコンセンサス残基と同定する、
(i-ii)出現頻度50%のアミノ酸残基が2種存在する場合、該目的の嗅覚受容体
のアミノ酸残基をコンセンサス残基と同定する、
(i-iii)該目的の嗅覚受容体にアミノ酸残基が存在し且つ出現頻度40%以上で
アミノ酸残基が存在しない場合、コンセンサス残基なしと同定する、
(i-iv)該目的の嗅覚受容体にアミノ酸残基が存在せず且つ出現頻度60%以上で
アミノ酸残基が存在する場合、最も出現頻度が高いアミノ酸残基をコンセンサス残基と同
定し、最も出現頻度が高いアミノ酸残基が2種以上存在する場合は、該アミノ酸残基のう
ち最も分子量が小さいアミノ酸残基をコンセンサス残基と同定する、
(i-v)上記(i-i)~(i-iv)のいずれにも該当しない場合、該目的の嗅覚
受容体のアミノ酸残基をコンセンサス残基と同定する、
(ii)上記(i)の基準に従いコンセンサス残基を同定したときに、最もN末端側のコ
ンセンサス残基が該目的の嗅覚受容体のN末端又はそれよりもC末端側に相当する位置の
コンセンサス残基であり且つメチオニン残基でない場合、最もN末端に近い位置のメチオ
ニン残基からなるコンセンサス残基よりN末端側のコンセンサス残基をコンセンサス残基
なしに変更する、
(iii)上記(i)の基準に従いコンセンサス残基を同定したときに、最もN末端側の
コンセンサス残基が該目的の嗅覚受容体のN末端よりもN末端側に相当する位置のコンセ
ンサス残基であり且つメチオニン残基でない場合、該アラインメントの該コンセンサス残
基の位置よりN末端側にアミノ酸位置を1つずつ遡り、メチオニン残基が出現するまで、
最も出現頻度が高いアミノ酸残基をコンセンサス残基と同定し、最も出現頻度が高いアミ
ノ酸残基が2種以上存在する場合は、該アミノ酸残基のうち最も分子量が小さいアミノ酸
残基をコンセンサス残基と同定する。
ここで、「出現頻度」とは、アミノ酸配列のアラインメントの各アミノ酸位置における
特定のアミノ酸残基の出現数をアラインメントに供したアミノ酸配列数に対する百分率で
示したものである。アミノ酸配列のアラインメントは、公知のアルゴリズムにより実行す
ることができる。
基準(i)の(i-i)は、目的の嗅覚受容体のアミノ酸配列及び(a)~(d)のい
ずれかの嗅覚受容体のアミノ酸配列のアラインメントのあるアミノ酸位置において、目的
の嗅覚受容体にアミノ酸残基が存在する場合の基準である。このとき、目的の嗅覚受容体
のアミノ酸残基と異なり且つ出現頻度50%以上のアミノ酸残基が1種存在すれば、該出
現頻度50%以上のアミノ酸残基を該位置のコンセンサス残基と同定する。一方、目的の
嗅覚受容体のアミノ酸残基以外のアミノ酸残基の出現頻度がいずれも50%未満であれば
、基準(i-v)に従い、該目的の嗅覚受容体のアミノ酸残基を該位置のコンセンサス残
基と同定する。
基準(i)の(i-ii)は、目的の嗅覚受容体のアミノ酸配列及び(a)~(d)の
いずれかの嗅覚受容体のアミノ酸配列のアラインメントのあるアミノ酸位置において、目
的の嗅覚受容体にアミノ酸残基が存在する場合の基準である。このとき、出現頻度50%
のアミノ酸残基が2種存在すると、2種のうち片方のアミノ酸残基は必ず目的の嗅覚受容
体のアミノ酸残基であり、該目的の嗅覚受容体のアミノ酸残基を該位置のコンセンサス残
基と同定する。
基準(i)の(i-iii)は、目的の嗅覚受容体のアミノ酸配列及び(a)~(d)
のいずれかの嗅覚受容体のアミノ酸配列のアラインメントのあるアミノ酸位置において、
目的の嗅覚受容体にアミノ酸残基が存在する場合の基準である。このとき、出現頻度40
%以上でアミノ酸残基が存在しなければ、該位置にはコンセンサス残基なしと同定する。
一方、アミノ酸残基なしの出現頻度が40%未満であれば、上記基準(i-i)に該当す
るときは、該基準に従って該位置のコンセンサス残基を同定し、該当しないときは、基準
(i-v)に従って該目的の嗅覚受容体のアミノ酸残基を該位置のコンセンサス残基と同
定する。
基準(i)の(i-iv)は、目的の嗅覚受容体のアミノ酸配列及び(a)~(d)の
いずれかの嗅覚受容体のアミノ酸配列のアラインメントのあるアミノ酸位置において、目
的の嗅覚受容体にアミノ酸残基が存在しない場合の基準である。このとき、出現頻度60
%以上でアミノ酸残基が存在すれば、最も出現頻度が高いアミノ酸残基を該位置のコンセ
ンサス残基と同定し、最も出現頻度が高いアミノ酸が2種以上存在する場合は、最も出現
頻度が高いアミノ酸のうち最も分子量が小さいアミノ酸残基をコンセンサス残基と同定す
る。例えば、最も出現頻度が高いアミノ酸残基が1種であれば、該1種のアミノ酸残基を
該位置のコンセンサス残基と同定し、最も出現頻度が高いアミノ酸残基が2種以上あれば
、そのうちの最も分子量が小さいアミノ酸残基を該位置のコンセンサス残基と同定すれば
よい。尚、該変更によりコンセンサスアミノ酸配列の全長が目的の嗅覚受容体のアミノ酸
配列の全長よりN末端側に10%以上長くなる場合には、嗅覚受容体の構造の維持の観点
から、該コンセンサスアミノ酸配列において該目的の嗅覚受容体のN末端に相当する位置
のコンセンサス残基をメチオニン残基とし、該メチオニン残基よりN末端側のコンセンサ
ス残基をなしに変更してもよい。すなわち、該目的の嗅覚受容体のN末端構造をそのまま
維持してもよい。一方、アミノ酸残基ありの出現頻度が60%未満であれば、基準(i-
v)に従い、該目的の嗅覚受容体のアミノ酸残基を該位置のコンセンサス残基と同定する
。すなわち、該位置にはアミノ酸残基なしと同定する。
目的の嗅覚受容体のアミノ酸配列及び(a)~(d)のいずれかの嗅覚受容体のアミノ
酸配列のアラインメントのあるアミノ酸位置において、上記(i)の(i-i)~(i-
iv)のいずれにも該当しない場合、目的の嗅覚受容体のアミノ酸残基を該位置のコンセ
ンサス残基と同定する。このとき、目的の嗅覚受容体にアミノ酸残基が存在しなければ、
コンセンサスアミノ酸配列の該位置にはアミノ酸残基なしと同定すればよい。
基準(ii)は、上記基準(i)に従って目的の嗅覚受容体のアミノ酸配列及び(a)
~(d)のいずれかの嗅覚受容体のアミノ酸配列のアラインメントの各アミノ酸位置にお
いてコンセンサス残基を同定したときに、コンセンサス残基のうち最もN末端側に位置す
るコンセンサス残基が該目的の嗅覚受容体のN末端又はそれよりもC末端側に相当する位
置のコンセンサス残基であり且つメチオニン残基でない場合の基準である。このとき、N
末端のコンセンサス残基がメチオニン残基となるように、言い換えれば、嗅覚受容体ポリ
ペプチドの翻訳の開始アミノ酸がメチオニン残基となるように、コンセンサス残基のうち
最もN末端に近い位置のメチオニン残基からなるコンセンサス残基よりN末端側のコンセ
ンサス残基をコンセンサス残基なしに変更する。例えば、N末端からコンセンサス残基を
1残基ずつ確認していき、メチオニン残基でなければ、その位置にはコンセンサス残基な
しと同定し、初めてメチオニン残基が出現するまでこれを繰り返せばよい。尚、該変更に
よりコンセンサスアミノ酸配列の全長が目的の嗅覚受容体のアミノ酸配列の全長より10
%以上短くなる場合には、嗅覚受容体のヘリックス構造の維持の観点から、該変更前のコ
ンセンサス残基のうち最もN末端側のコンセンサス残基をメチオニン残基からなるコンセ
ンサス残基に変更してもよい。このとき、該変更前のコンセンサス残基のうち最もN末端
側のコンセンサス残基が、糖鎖修飾及び/又は膜移行に関わるアスパラギン、セリン又は
スレオニンであれば、嗅覚受容体の構造の維持の観点から、該変更前のコンセンサス残基
のうち最もN末端側のコンセンサス残基は変更せず、該コンセンサス残基に相当する位置
よりもN末端側の該目的の嗅覚受容体のアミノ酸残基をコンセンサス残基としてもよい。
すなわち、該目的の嗅覚受容体のN末端構造をそのまま維持してもよい。
基準(iii)は、上記基準(i)に従って目的の嗅覚受容体のアミノ酸配列及び(a
)~(d)のいずれかの嗅覚受容体のアミノ酸配列のアラインメントの各アミノ酸位置に
おいてコンセンサス残基を同定したときに、最もN末端側のコンセンサス残基が該目的の
嗅覚受容体のN末端よりもN末端側に相当する位置のコンセンサス残基であり且つメチオ
ニン残基でない場合の基準である。このとき、N末端のコンセンサス残基がメチオニン残
基となるように、言い換えれば、嗅覚受容体ポリペプチドの翻訳の開始アミノ酸がメチオ
ニン残基となるように、最もN末端側のコンセンサス残基の位置よりN末端側にアミノ酸
位置を1つずつ遡ってアラインメントを確認し、メチオニン残基が出現するまで、最も出
現頻度が高いアミノ酸残基をコンセンサス残基と同定し、最も出現頻度が高いアミノ酸残
基が2種以上存在する場合は、該アミノ酸残基のうち最も分子量が小さいアミノ酸残基を
コンセンサス残基と同定する。
斯くして同定されたコンセンサス残基からなるアミノ酸配列が、コンセンサスアミノ酸
配列である。本発明で用いられる嗅覚受容体ポリペプチドは、目的の嗅覚受容体のアミノ
酸配列においてコンセンサスアミノ酸配列と異なるアミノ酸残基の少なくとも1個をこれ
に相当する位置の該コンセンサスアミノ酸配列のアミノ酸残基に改変したアミノ酸配列か
らなる改変嗅覚受容体ポリペプチドである。ここで、「改変」とは、置換、欠失、付加、
挿入のいずれをも含む概念である。目的の嗅覚受容体のアミノ酸配列とコンセンサスアミ
ノ酸配列の違いは、例えば、公知のアルゴリズムによりアミノ酸配列のアラインメントを
とって両アミノ酸配列を比較することで見出すことができる。例えば、目的の嗅覚受容体
のアミノ酸配列とコンセンサスアミノ酸配列を比較し、目的の嗅覚受容体のアミノ酸配列
のあるアミノ酸位置のアミノ酸残基が、コンセンサスアミノ酸配列のこれに相当する位置
のアミノ酸残基と異なるアミノ酸残基であれば、目的の嗅覚受容体のアミノ酸残基をコン
センサスアミノ酸配列のアミノ酸残基で置換すればよい。あるいは、目的の嗅覚受容体の
アミノ酸配列とコンセンサスアミノ酸配列を比較し、コンセンサスアミノ酸配列において
目的の嗅覚受容体のアミノ酸配列のあるアミノ酸位置に相当する位置にアミノ酸残基が存
在しなければ、目的の嗅覚受容体の該アミノ酸位置のアミノ酸残基を欠失させればよい。
あるいは、目的の嗅覚受容体のアミノ酸配列とコンセンサスアミノ酸配列を比較し、目的
の嗅覚受容体のアミノ酸配列においてアミノ酸残基が存在しない位置に相当する位置にコ
ンセンサスアミノ酸配列ではアミノ酸残基が存在すれば、目的の嗅覚受容体の該アミノ酸
位置にコンセンサスアミノ酸配列のアミノ酸残基を挿入すればよい。尚、目的の嗅覚受容
体のアミノ酸配列とコンセンサスアミノ酸配列を比較し、コンセンサスアミノ酸配列の方
が目的の嗅覚受容体のアミノ酸配列に比べN末端が長ければ、目的の嗅覚受容体のアミノ
酸配列のN末端にコンセンサスアミノ酸配列にのみ存在するN末端部を付加すればよい。
あるいは、目的の嗅覚受容体のアミノ酸配列とコンセンサスアミノ酸配列を比較し、コン
センサスアミノ酸配列の方が目的の嗅覚受容体のアミノ酸配列に比べC末端が長ければ、
目的の嗅覚受容体のアミノ酸配列のC末端にコンセンサスアミノ酸配列にのみ存在するC
末端部を付加すればよい。
コンセンサスアミノ酸配列が目的の嗅覚受容体及び(a)の嗅覚受容体より導き出され
る配列である場合、目的の嗅覚受容体のアミノ酸配列において改変されるアミノ酸残基数
は、少なくとも1個であり、好ましくは少なくとも3個であり、より好ましくは少なくと
も5個であり、目的の嗅覚受容体のアミノ酸配列においてコンセンサスアミノ酸配列と異
なるアミノ酸残基の全てがこれらに相当する位置のコンセンサスアミノ酸配列のアミノ酸
残基に改変される(すなわち、目的の嗅覚受容体のアミノ酸配列がコンセンサスアミノ酸
配列に改変される)のがさらに好ましい。コンセンサスアミノ酸配列が目的の嗅覚受容体
及び(b)の嗅覚受容体より導き出される配列である場合、目的の嗅覚受容体のアミノ酸
配列において改変されるアミノ酸残基数は、少なくとも1個であり、好ましくは少なくと
も3個であり、より好ましくは少なくとも5個であり、目的の嗅覚受容体のアミノ酸配列
においてコンセンサスアミノ酸配列と異なるアミノ酸残基の全てがこれらに相当する位置
のコンセンサスアミノ酸配列のアミノ酸残基に改変される(すなわち、目的の嗅覚受容体
のアミノ酸配列がコンセンサスアミノ酸配列に改変される)のがさらに好ましい。コンセ
ンサスアミノ酸配列が目的の嗅覚受容体及び(c)の嗅覚受容体より導き出される配列で
ある場合、目的の嗅覚受容体のアミノ酸配列において改変されるアミノ酸残基数は、少な
くとも1個であり、好ましくは少なくとも5個であり、より好ましくは少なくとも10個
であり、目的の嗅覚受容体のアミノ酸配列においてコンセンサスアミノ酸配列と異なるア
ミノ酸残基の全てがこれらに相当する位置のコンセンサスアミノ酸配列のアミノ酸残基に
改変される(すなわち、目的の嗅覚受容体のアミノ酸配列がコンセンサスアミノ酸配列に
改変される)のがさらに好ましい。コンセンサスアミノ酸配列が目的の嗅覚受容体及び(
d)の嗅覚受容体より導き出される配列である場合、目的の嗅覚受容体のアミノ酸配列に
おいて改変されるアミノ酸残基数は、少なくとも1個であり、好ましくは少なくとも5個
であり、より好ましくは少なくとも10個であり、目的の嗅覚受容体のアミノ酸配列にお
いてコンセンサスアミノ酸配列と異なるアミノ酸残基の全てがこれらに相当する位置のコ
ンセンサスアミノ酸配列のアミノ酸残基に改変される(すなわち、目的の嗅覚受容体のア
ミノ酸配列がコンセンサスアミノ酸配列に改変される)のがさらに好ましい。
あるいは、目的の嗅覚受容体のアミノ酸配列において改変されるアミノ酸残基数は、コ
ンセンサスアミノ酸配列と異なるアミノ酸残基数の好ましくは少なくとも10%、より好
ましくは少なくとも30%、さらに好ましくは少なくとも50%、さらに好ましくは少な
くとも70%、さらに好ましくは少なくとも90%、さらに好ましくは100%(すなわ
ち、目的の嗅覚受容体のアミノ酸配列がコンセンサスアミノ酸配列に改変される)の数で
あり得る。
尚、目的の嗅覚受容体のアミノ酸配列に比べコンセンサスアミノ酸配列のN末端が長け
れば、アミノ酸残基数にかかわらず、目的の嗅覚受容体のアミノ酸配列のN末端にコンセ
ンサスアミノ酸配列にのみ存在するN末端部を一体として付加して改変するのが好ましい
。目的の嗅覚受容体のアミノ酸配列に比べコンセンサスアミノ酸配列のN末端が短ければ
、アミノ酸残基数にかかわらず、目的の嗅覚受容体のアミノ酸配列のN末端から目的の嗅
覚受容体のアミノ酸配列にのみ存在するN末端部を一体として欠失させて改変するのが好
ましい。目的の嗅覚受容体のアミノ酸配列に比べコンセンサスアミノ酸配列のC末端が長
ければ、アミノ酸残基数にかかわらず、目的の嗅覚受容体のアミノ酸配列のC末端にコン
センサスアミノ酸配列にのみ存在するC末端部を一体として付加して改変するのが好まし
い。目的の嗅覚受容体のアミノ酸配列に比べコンセンサスアミノ酸配列のC末端が短けれ
ば、アミノ酸残基数にかかわらず、目的の嗅覚受容体のアミノ酸配列のC末端から目的の
嗅覚受容体のアミノ酸配列にのみ存在するC末端部を一体として欠失させて改変するのが
好ましい。
本発明で用いられる嗅覚受容体ポリペプチドとしては、その機能が損なわれない限り、
上記のコンセンサスアミノ酸配列に基づく改変の対象アミノ酸位置以外のアミノ酸位置に
1~数個(例えば、1~10個、1~5個、1~3個)のアミノ酸残基の置換、欠失、付
加又は挿入を含むポリペプチドも本発明に含まれる。
本実施形態の好ましい一例において、嗅覚受容体ポリペプチドは、下記表1-1~1-
5の(1)の嗅覚受容体の(2)の配列番号で示されるアミノ酸配列において(3)の配
列番号で示されるコンセンサスアミノ酸配列と異なるアミノ酸残基の少なくとも1個をこ
れに相当する位置の該コンセンサスアミノ酸配列のアミノ酸残基に改変したアミノ酸配列
からなる。より好ましくは、該嗅覚受容体ポリペプチドは、下記表1-1~1-5の(3
)の配列番号で示されるコンセンサスアミノ酸配列からなる。さらに好ましくは、該嗅覚
受容体ポリペプチドは、配列番号99~104、109~118、121、123、12
5~130、133、136、138、140~146、149~210、485~64
2、及び851~900のいずれかで示されるアミノ酸配列からなる。尚、配列番号97
~107、109~121、123、125~133、135~210、485~639
、641、642、及び851~900のいずれかで示されるアミノ酸配列からなる嗅覚
受容体ポリペプチドは、オリジナルの嗅覚受容体に比べて、膜発現が高度に向上している
。表1-1~1-5において、No.1~270及び272~322の(1)の嗅覚受容
体はヒト嗅覚受容体であり、No.271の(1)の嗅覚受容体はマウス嗅覚受容体であ
り、Accession No.とは、GenBankにおけるAccession N
o.を示す。
Figure 2024015143000001
Figure 2024015143000002
Figure 2024015143000003
Figure 2024015143000004
Figure 2024015143000005
上記表1-1~1-5において、(3)の配列番号97、104、107、119、1
22、131、134、137、及び146のいずれかで示されるアミノ酸配列からなる
嗅覚受容体ポリペプチドは、(a)の嗅覚受容体をコンセンサス化に利用したコンセンサ
スアミノ酸配列からなる嗅覚受容体ポリペプチドである。配列番号98、105、108
、120、123、132、135、138、及び147のいずれかで示されるアミノ酸
配列からなる嗅覚受容体ポリペプチドは、(b)の嗅覚受容体をコンセンサス化に利用し
たコンセンサスアミノ酸配列からなる嗅覚受容体ポリペプチドである。配列番号99~1
03、106、109~118、121、124~130、133、136、139~1
44、148~167、169~178、180~210、485、486、488~5
24、526~589、591~598、600~627、629~642、及び850
~885、及び887~900のいずれかで示されるアミノ酸配列からなる嗅覚受容体ポ
リペプチドは、(c)の嗅覚受容体をコンセンサス化に利用したコンセンサスアミノ酸配
列からなる嗅覚受容体ポリペプチドである。そのうち、配列番号210又は900で示さ
れるアミノ酸配列からなる嗅覚受容体ポリペプチドは、上記基準(ii)において、コン
センサス残基のうち最もN末端側のコンセンサス残基をメチオニン残基からなるコンセン
サス残基に変更して得られたコンセンサスアミノ酸配列からなる嗅覚受容体ポリペプチド
であり、配列番号642で示されるアミノ酸配列からなる嗅覚受容体ポリペプチドは、上
記基準(i)の(i-iv)において、目的の嗅覚受容体のN末端構造をそのまま維持し
て得られたコンセンサスアミノ酸配列からなる嗅覚受容体ポリペプチドである。配列番号
145、168、179、487、525、590、599、628、及び886のいず
れかで示されるアミノ酸配列からなる嗅覚受容体ポリペプチドは、(d)の嗅覚受容体を
コンセンサス化に利用したコンセンサスアミノ酸配列からなる嗅覚受容体ポリペプチドで
ある。
本発明の嗅覚受容体ポリペプチドの「発現」とは、当該ポリペプチドをコードするポリ
ヌクレオチドから、翻訳産物が産生され、且つ翻訳産物が機能的な状態でその作用部位で
ある細胞膜に局在することをいう。本発明の嗅覚受容体ポリペプチドは、当技術分野で公
知の手法により、細胞に発現させればよい。例えば、嗅覚受容体ポリペプチドは、該ポリ
ペプチドをコードするポリヌクレオチドを含有するベクターを宿主となる細胞に導入する
か、又は該ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含むDNA断片を宿主となる細
胞のゲノムに導入することで、該細胞の細胞膜に発現させることができる。好ましくは、
嗅覚受容体ポリペプチドは、該ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含有するベ
クターを用いて宿主細胞を形質転換することで、該宿主細胞の細胞膜に発現される。宿主
細胞は、外来の嗅覚受容体を機能的に発現できる細胞であればよい。具体的な細胞の例と
しては、ヒト胚性腎臓細胞(HEK293細胞)、チャイニーズハムスター細胞(CHO
細胞)、サル細胞(COS細胞)、単離嗅神経細胞、アフリカツメガエル卵母細胞、昆虫
細胞、酵母または細菌等が挙げられるが、これに限定されない。
嗅覚受容体ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドは、当技術分野で公知の各種の
変異導入技術を使用して得ることができる。例えば、嗅覚受容体ポリペプチドをコードす
るポリヌクレオチドは、目的の嗅覚受容体のアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチド
において、改変すべきアミノ酸残基をコードするヌクレオチド配列を、改変後のアミノ酸
残基をコードするヌクレオチド配列に改変することにより得ることができる。
目的の嗅覚受容体のアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドへの目的の変異の導入
は、当業者に周知の様々な部位特異的変異導入法を用いて行うことができる。部位特異的
変異導入法は、例えば、インバースPCR法やアニーリング法などの任意の手法により行
うことができる。市販の部位特異的変異導入用キット(例えば、Stratagene社
のQuickChange II Site-Directed Mutagenesi
s Kitや、QuickChange Multi Site-Directed M
utagenesis Kit等)を使用することもできる。
あるいは、嗅覚受容体ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドは、人工DNA切断
酵素(artificial DNA nucleases又はProgrammabl
e nuclease)を用いたゲノム編集、そのヌクレオチド配列に基づいたDNA合
成などによっても取得することができる。
嗅覚受容体ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドは、一本鎖又は二本鎖のDNA
、cDNA、RNAもしくは他の人工核酸を含み得る。該DNA、cDNA及びRNAは
、化学合成されていてもよい。また該ポリヌクレオチドは、オープンリーディングフレー
ム(ORF)に加えて、非翻訳領域(UTR)のヌクレオチド配列を含んでいてもよい。
また該ポリヌクレオチドは、嗅覚受容体の発現用細胞の種にあわせて、コドンが最適化さ
れていてもよい。各種生物が使用するコドンの情報は、Codon Usage Dat
abase([www.kazusa.or.jp/codon/])から入手可能である。
好ましい一例において、嗅覚受容体ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドは、配
列番号211~324、643~800、及び901~950のいずれかで示される塩基
配列からなる。該ポリヌクレオチドは、それぞれ、配列番号97~210及び485~6
42、及び851~900で示されるアミノ酸配列からなる嗅覚受容体ポリペプチドをコ
ードする。より好ましい一例において、嗅覚受容体ポリペプチドをコードするポリヌクレ
オチドは、配列番号213~218、223~232、235、237、239~244
、247、250、252、254~260、263~324、643~800、及び9
01~950のいずれかで示される塩基配列からなる。該ポリヌクレオチドは、それぞれ
、配列番号99~104、109~118、121、123、125~130、133、
136、138、140~146、149~210、485~642、及び851~90
0で示されるアミノ酸配列からなる嗅覚受容体ポリペプチドをコードする。
得られた嗅覚受容体ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドは、ベクター又はDN
A断片に組み込むことができる。好ましくは、該ベクターは発現ベクターである。また好
ましくは、該ベクターは、嗅覚受容体ポリヌクレオチドを宿主細胞に導入することができ
、かつ宿主細胞内で該ポリヌクレオチドを発現することができる発現ベクターである。好
ましくは、該ベクターは、プラスミド等の染色体外で自立増殖及び複製可能なベクターで
あってもよく、又は染色体内に組み込まれるベクターであってもよい。具体的なベクター
の例としては、pME18Sが挙げられるが、これに限定されない。
該ベクターは、好ましくは、嗅覚受容体ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、
及びこれと作動可能に連結された制御領域を含む。該制御領域は、該ベクターが導入され
た宿主細胞内で、導入された嗅覚受容体ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを発
現させるための配列であり、例えば、プロモーターやターミネーター等の発現調節領域、
転写開始点などが挙げられる。該制御領域の種類は、ベクターの種類に応じて適宜選択す
ることができる。必要に応じて、該ベクター又はDNA断片はさらに、アンピシリン等の
薬剤耐性遺伝子を選択マーカーとして有していてもよい。該制御領域及び選択マーカー遺
伝子は、該ベクターに元々含まれているものを使用してもよく、又は嗅覚受容体ポリペプ
チドをコードするポリヌクレオチドと一緒に又は別々に該ベクターに組み込まれてもよい
嗅覚受容体ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含有するDNA断片の例とし
ては、PCR増幅DNA断片及び制限酵素切断DNA断片が挙げられる。好ましくは、該
DNA断片は、該ポリヌクレオチド、及びこれと作動可能に連結された制御領域を含む発
現カセットであり得る。使用できる制御領域の例は、ベクターの場合と同様である。
好適には、嗅覚受容体ポリペプチドの細胞膜発現を促進するために、嗅覚受容体ポリペ
プチドをコードするポリヌクレオチドとともに、RTP(receptor-trans
porting protein)をコードするポリヌクレオチド(本明細書において、
RTP遺伝子ともいう)を細胞に導入する。例えば、RTP遺伝子と嗅覚受容体ポリペプ
チドをコードするポリヌクレオチドとを含むベクターを構築し、それを宿主細胞に導入し
てもよく、又はRTP遺伝子を含むベクターと嗅覚受容体ポリペプチドをコードするポリ
ヌクレオチドを含むベクターをそれぞれ宿主細胞に導入してもよい。RTPの例としては
RTP1Sが挙げられ、RTP1Sの例としては、ヒトRTP1Sが挙げられる。ヒトR
TP1Sは、GenBankにAY562235として登録されており、配列番号325
のヌクレオチド配列を有する遺伝子にコードされる、配列番号326のアミノ酸配列から
なるポリペプチドである。
宿主細胞へのベクター又はDNA断片の導入には、哺乳動物細胞に関して一般的な形質
転換法、例えばエレクトロポレーション法、リポフェクション法、パーティクル・ガン法
などを用いることができる。目的のベクター又はDNA断片が導入された形質転換細胞は
、選択マーカーを利用して選択することができる。あるいは、細胞のDNAの配列を調べ
ることで目的のベクター又はDNA断片の導入を確認することもできる。
上記手順で細胞に導入されたベクター又はDNA断片に含まれる本発明の嗅覚受容体ポ
リペプチドをコードするポリヌクレオチドから該嗅覚受容体ポリペプチドが産生され、細
胞膜に組み込まれる。よって、本発明の発現方法により発現された嗅覚受容体ポリペプチ
ドは、該嗅覚受容体ポリペプチドを発現するように遺伝的に操作された形質転換細胞の細
胞膜に発現される。
本発明の嗅覚受容体ポリペプチドの細胞膜発現(量)は、例えば、該嗅覚受容体ポリペ
プチドに予めFLAGタグなどのタグを融合させておき、該タグを特異的に認識する抗体
を用いてフローサイトメトリー法などの公知の手法により測定することができる。
本発明の発現方法により発現された嗅覚受容体ポリペプチドは、オリジナルの嗅覚受容
体に比して匂い応答性が向上しており、また、オリジナルの嗅覚受容体のリガンド選択性
をよく維持している。よって、該嗅覚受容体ポリペプチドの匂い物質に対する応答は、オ
リジナルの嗅覚受容体の嗅細胞における応答を反映していると見做すことができる。した
がって、別の一態様において本発明は、目的の嗅覚受容体の応答の測定方法を提供する。
当該方法は、本発明の嗅覚受容体ポリペプチドの発現方法により発現された嗅覚受容体ポ
リペプチドの応答を測定すること、を含む。本発明の応答測定方法によれば、目的の嗅覚
受容体の応答測定効率を改善でき、従来培養細胞の細胞膜での発現が不十分なために機能
解析ができなかった目的の嗅覚受容体の応答の測定を可能にする。
本発明の応答測定方法に使用される嗅覚受容体ポリペプチドは、本発明の発現方法で発
現された嗅覚受容体ポリペプチドであればよい。該嗅覚受容体ポリペプチドについては、
上述のとおりである。該嗅覚受容体ポリペプチドの具体例としては、好ましくは、配列番
号97~210、485~642、及び851~900のいずれかで示されるアミノ酸配
列からなる嗅覚受容体ポリペプチドが挙げられ、より好ましくは、配列番号99~104
、109~118、121、123、125~130、133、136、138、140
~146、149~210、485~642、及び851~900のいずれかで示される
アミノ酸配列からなる嗅覚受容体ポリペプチドが挙げられる。該嗅覚受容体ポリペプチド
は、匂い物質に対する応答性を失わない限り、任意の形態で使用され得る。例えば、該嗅
覚受容体ポリペプチドは、該嗅覚受容体ポリペプチドを発現する形質転換細胞又はその培
養物、該嗅覚受容体ポリペプチドを有する該形質転換細胞の膜、該嗅覚受容体ポリペプチ
ドを有する人工脂質二重膜、などの形態で使用され得る。好ましくは、該嗅覚受容体ポリ
ペプチドとして、該嗅覚受容体ポリペプチドを発現する形質転換細胞又はその培養物が使
用される。
本発明の応答測定方法において、嗅覚受容体ポリペプチドの応答の測定は、嗅覚受容体
の応答を測定する方法として当該分野で知られている任意の方法、例えば、細胞内cAM
P量測定等によって行えばよい。例えば、嗅覚受容体は、匂い分子によって活性化される
と、細胞内のGsファミリーに分類されるGタンパク質αサブユニットと共役してアデニ
ル酸シクラーゼを活性化することで、細胞内cAMP量を増加させることが知られている
(Nat.Neurosci.,2004,5:263-278)。一方で、嗅覚受容体
は匂い分子により活性化されると、細胞内でGα15などGqファミリーに属するタンパ
ク質とも共役し、細胞内でカルシウムイオン量を増加させることもできる。したがって、
匂い分子添加後の細胞内cAMP量もしくはカルシムイオン量、もしくはそれらを介して
活性化する下流分子の挙動を指標にすることで、嗅覚受容体ポリペプチドの応答を測定す
ることができる。cAMP量を測定する方法としては、ELISA法やレポータージーン
アッセイ等が挙げられる。カルシウムイオン濃度を測定する方法は、カルシウムイメージ
ング法やTGFα shedding assayが挙げられる。また、cAMP量を介
して活性化する下流分子の挙動を指標とした方法の例として、アフリカツメガエル卵母細
胞において、cAMPシグナルにより活性化する嚢胞性線維症膜コンダクタンス制御因子
CFTRを介した細胞膜内外の電位変化を測定する二電極膜電位固定法も有効である。
上述したように、本発明の発現方法により発現された嗅覚受容体ポリペプチドの応答は
、オリジナルの嗅覚受容体の嗅細胞における応答を反映していると見做すことができるの
で、該嗅覚受容体ポリペプチドを用いてオリジナルの嗅覚受容体のリガンドを探索するこ
とができる。したがって、別の一態様において本発明は、目的の嗅覚受容体のリガンドの
探索方法を提供する。当該方法は、試験物質存在下で、本発明の発現方法により発現され
た嗅覚受容体ポリペプチドの応答を測定すること、及び該嗅覚受容体ポリペプチドが応答
した試験物質を選択すること、を含む。本発明のリガンド探索方法によれば、目的の嗅覚
受容体のリガンド探索効率を改善でき、従来培養細胞の細胞膜での発現が十分でないため
に機能解析ができなかった目的の嗅覚受容体のリガンドの探索を可能にする。
本発明のリガンド探索方法に使用される試験物質は、目的の嗅覚受容体のリガンドであ
るか否かの確認を所望する物質であれば、特に制限されない。試験物質は、天然に存在す
る物質であっても、化学的もしくは生物学的方法などで人工的に合成した物質であっても
よく、又は化合物であっても、組成物もしくは混合物であってもよい。
本発明のリガンド探索方法に使用される嗅覚受容体ポリペプチド及びその形態について
は、本発明の応答測定方法に使用される嗅覚受容体ポリペプチド及びその形態と同様であ
る。
本発明のリガンド探索方法においては、本発明の発現方法により発現された嗅覚受容体
ポリペプチドに試験物質が適用される。嗅覚受容体ポリペプチドに試験物質を適用する手
段としては、該嗅覚受容体ポリペプチドを発現する細胞を培養する培地に試験物質を添加
する方法などが挙げられるが、特に限定されない。
本発明のリガンド探索方法においては、嗅覚受容体ポリペプチドへの試験物質の添加に
続いて、該試験物質に対する該嗅覚受容体ポリペプチドの応答が測定される。応答を測定
する方法としては、本発明の応答測定方法と同様の手法を使用できる。
次いで、測定された嗅覚受容体ポリペプチドの応答に基づいて、試験物質を評価する。
該嗅覚受容体ポリペプチドの応答を引き起こす試験物質は、該嗅覚受容体ポリペプチドの
リガンド、すなわちオリジナルの嗅覚受容体のリガンドと判定することができる。したが
って、本発明のリガンド探索方法においては、該嗅覚受容体ポリペプチドが応答した試験
物質がオリジナルの嗅覚受容体のリガンドとして選択される。
好適には、試験物質に対する嗅覚受容体ポリペプチドの応答は、試験物質を添加した嗅
覚受容体ポリペプチド(試験群)の応答を、対照群における該嗅覚受容体ポリペプチドの
応答と比較することによって評価することができる。対照群としては、試験物質を添加し
ていない該嗅覚受容体ポリペプチド、対照物質を添加した該嗅覚受容体ポリペプチド、よ
り低濃度の試験物質を添加した該嗅覚受容体ポリペプチド、試験物質を添加する前の該嗅
覚受容体ポリペプチド、などを挙げることができる。試験群における応答が対照群と比べ
てより高い場合、該嗅覚受容体ポリペプチドは該試験物質に応答したと評価され、該試験
物質はオリジナルの嗅覚受容体のリガンドとして選択される。
したがって、本発明のリガンド探索方法の一実施形態においては、試験物質の存在下及
び非存在下での嗅覚受容体ポリペプチドの応答が測定され、次いで、試験物質の存在下で
の応答が、試験物質非存在下での応答に比べて高いか否かが判定される。試験物質の存在
下での応答がより高い場合、該試験物質はリガンドとして選択される。好ましい実施形態
においては、試験物質の存在下での嗅覚受容体ポリペプチドの応答強度が、試験物質非存
在下と比較して、好ましくは120%以上、より好ましくは150%以上、さらに好まし
くは200%以上であれば、該試験物質はオリジナルの嗅覚受容体のリガンドとして選択
される。別の好ましい実施形態においては、試験物質の存在下での嗅覚受容体ポリペプチ
ドの応答強度が、試験物質非存在下と比較して統計学的に有意に増加していれば、該試験
物質はオリジナルの嗅覚受容体のリガンドとして選択される。
また、上述したように、本発明の発現方法により発現された嗅覚受容体ポリペプチドの
応答は、オリジナルの嗅覚受容体の嗅細胞における応答を反映していると見做すことがで
きるので、該嗅覚受容体ポリペプチドを用いてオリジナルの嗅覚受容体におけるリガンド
(におい物質)のにおい認識を抑制する物質を評価及び/又は選択することができる。該
嗅覚受容体ポリペプチドの応答を抑制する物質は、該嗅覚受容体ポリペプチドのリガンド
応答に変化を生じさせ、すなわちオリジナルの嗅覚受容体のリガンド応答に変化を生じさ
せ、結果として、嗅覚受容体アンタゴニズムに基づいてリガンドのにおいを選択的に抑制
することができる。一方、該嗅覚受容体ポリペプチドの応答を増強する物質は、該嗅覚受
容体ポリペプチドのリガンド応答に変化を生じさせ、すなわちオリジナルの嗅覚受容体受
容体のリガンド応答に変化を生じさせ、結果として、嗅覚受容体アゴニズムによるにおい
の交差順応に基づいてリガンドのにおいを選択的に抑制することができる。
したがって、別の一態様において本発明は、目的の嗅覚受容体のリガンドのにおいの抑
制剤の評価及び/又は選択方法を提供する。当該方法は、試験物質添加後の該嗅覚受容体
ポリペプチドの応答を測定することを含む。測定された応答に基づいて、該嗅覚受容体ポ
リペプチドの応答を抑制又は増強する試験物質が検出される。検出された試験物質は、標
的のリガンドのにおいの抑制剤として選択される。すなわち、該嗅覚受容体ポリペプチド
の応答を抑制する試験物質は、嗅覚受容体アンタゴニズムに基づく該リガンドのにおいの
抑制剤として選択され、該嗅覚受容体ポリペプチドの応答を増強する試験物質は、嗅覚受
容体アゴニズムによるにおいの交差順応に基づく該リガンドのにおいの抑制剤として選択
される。目的の嗅覚受容体のリガンドとしては、本発明のリガンドの探索方法により選択
されたリガンドが好ましい。本発明のにおい抑制剤の評価及び/又は選択方法によれば、
標的のリガンドのにおいを選択的に抑制することができる物質を効率よく評価又は選択す
ることができ、標的のリガンドが従来培養細胞の細胞膜での発現が十分でないために機能
解析ができなかった嗅覚受容体のリガンドである場合でも、該リガンドのにおいを選択的
に抑制することができる物質を評価又は選択することができる。
本発明のにおい抑制剤の評価及び/又は選択は、in vitro又はex vivo
で行われる方法であり得る。
本発明のにおい抑制剤の評価及び/又は選択方法に使用される試験物質は、標的のリガ
ンドのにおいの抑制剤として使用することを所望する物質であれば、特に制限されない。
試験物質は、天然に存在する物質であっても、化学的若しくは生物学的方法等で人工的に
合成した物質であってもよく、又は化合物であっても、組成物若しくは混合物であっても
よい。
本発明のにおい抑制剤の評価及び/又は選択方法に使用される嗅覚受容体ポリペプチド
及びその形態については、本発明の応答測定方法に使用される嗅覚受容体ポリペプチド及
びその形態と同様である。
本発明のにおい抑制剤の評価及び/又は選択方法においては、本発明の発現方法により
発現された嗅覚受容体ポリペプチドに試験物質が適用される。嗅覚受容体ポリペプチドに
試験物質を適用する手段としては、該嗅覚受容体ポリペプチドを発現する細胞を培養する
培地に試験物質を添加する方法などが挙げられるが、特に限定されない。
本発明のにおい抑制剤の評価及び/又は選択方法においては、嗅覚受容体ポリペプチド
への試験物質の添加に続いて、該試験物質に対する該嗅覚受容体ポリペプチドの応答が測
定される。応答を測定する方法としては、本発明の応答測定方法と同様の手法を使用でき
る。
第一の実施形態において、本発明のにおい抑制剤の評価及び/又は選択方法は、本発明
の発現方法により発現された嗅覚受容体ポリペプチドに試験物質及び標的のリガンドを添
加すること、及び該リガンドに対する該嗅覚受容体ポリペプチドの応答を測定すること、
を含む。嗅覚受容体ポリペプチドにリガンドを適用する方法としては、試験物質を適用す
る方法と同様の手法を使用できる。次いで、測定した応答に基づいて、該リガンドに対す
る該嗅覚受容体ポリペプチドの応答を抑制する試験物質を検出する。検出された試験物質
は、該リガンドのにおいの抑制剤として選択される。
該第一の実施形態においては、該嗅覚受容体ポリペプチドの該リガンドに対する応答を
抑制する試験物質は、嗅覚受容体アンタゴニズムに基づく該リガンドのにおいの抑制剤と
して選択される。該嗅覚受容体ポリペプチドの該リガンドへの応答に対して該試験物質が
及ぼす作用は、例えば、試験物質を添加した該嗅覚受容体ポリペプチド(試験群)の該リ
ガンドに対する応答を、対照群における該リガンドに対する応答と比較することによって
評価することができる。対照群の例としては、試験物質を添加していない該嗅覚受容体ポ
リペプチド、対照物質を添加した該嗅覚受容体ポリペプチド、より低濃度の試験物質を添
加した該嗅覚受容体ポリペプチド、試験物質を添加する前の該嗅覚受容体ポリペプチド、
該嗅覚受容体ポリペプチドが発現していない細胞、などを挙げることができる。好ましく
は、該第一の実施形態における本発明のにおい抑制剤の評価及び/又は選択方法は、試験
物質の存在下及び非存在下で、該リガンドに対する該嗅覚受容体ポリペプチドの活性を測
定することを含む。
例えば、試験群における応答が、対照群よりも抑制されていた場合、該試験物質を、標
的のリガンドに対する該嗅覚受容体ポリペプチドの応答を抑制する物質、すなわち該リガ
ンドに対するオリジナルの嗅覚受容体の応答を抑制する物質として同定することができる
。例えば、試験群における該嗅覚受容体ポリペプチドの応答が、対照群と比較して好まし
くは60%以下、より好ましくは50%以下、さらに好ましくは25%以下に抑制されて
いれば、該試験物質を、該リガンドに対する該嗅覚受容体ポリペプチドの応答を抑制する
物質、すなわち該リガンドに対するオリジナルの嗅覚受容体の応答を抑制する物質として
同定することができる。あるいは、試験群における該嗅覚受容体ポリペプチドの応答が、
対照群と比較して統計学的に有意に抑制されていれば、該試験物質を、該リガンドに対す
る該嗅覚受容体ポリペプチドの応答を抑制する物質、すなわち該リガンドに対するオリジ
ナルの嗅覚受容体の応答を抑制する物質として同定することができる。
第二の実施形態において、本発明のにおい抑制剤の評価及び/又は選択方法は、本発明
の発現方法により発現された嗅覚受容体ポリペプチドに試験物質を添加すること、及び該
試験物質に対する該嗅覚受容体ポリペプチドの応答を測定すること、を含む。次いで、測
定した応答に基づいて、標的のリガンドに対する該嗅覚受容体ポリペプチドの応答を増強
する試験物質を検出する。検出された試験物質は、該リガンドのにおいの抑制剤として選
択される。
該嗅覚受容体ポリペプチドの応答を増強する試験物質は、先に嗅覚受容体の応答を増強
させておくことで、後で標的のリガンドに曝露されたときの該嗅覚受容体の応答を弱める
ことができる。結果、におい交差順応に基づいて、個体による該リガンドのにおいの認識
を抑制することができる。したがって、該第二の実施形態では、嗅覚受容体アゴニズムに
よるにおいの交差順応に基づくリガンドのにおいの抑制剤が選択される。
該嗅覚受容体ポリペプチドに対する試験物質の作用は、例えば、試験物質を添加した該
嗅覚受容体ポリペプチド(試験群)の応答を、対照群における応答と比較することによっ
て評価することができる。対照群の例としては、上述したものが挙げられる。好ましくは
、該第二の実施形態における本発明のにおい抑制剤の評価及び/又は選択方法は、試験物
質の存在下及び非存在下での該嗅覚受容体ポリペプチドの活性を測定することを含む。ま
た好ましくは、該第二の実施形態における本発明のにおい抑制剤の評価及び/又は選択方
法は、試験物質の存在下で、該嗅覚受容体ポリペプチドが発現した細胞及び未発現の細胞
の該リガンドに対する応答を測定することを含む。
例えば、試験群における応答が対照群と比べて増強されていた場合、該試験物質を、標
的のリガンドに対する該嗅覚受容体ポリペプチドの応答を抑制する物質、すなわち該リガ
ンドに対するオリジナルの嗅覚受容体の応答を抑制する物質として同定することができる
。例えば、試験群における該嗅覚受容体ポリペプチドの応答が、対照群と比較して、好ま
しくは120%以上、より好ましくは150%以上、さらに好ましくは200%に増強さ
れていれば、該試験物質を、該リガンドに対する該嗅覚受容体ポリペプチドの応答を抑制
する物質、すなわち該リガンドに対するオリジナルの嗅覚受容体の応答を抑制する物質と
して同定することができる。あるいは、試験群における該嗅覚受容体ポリペプチドの応答
が、対照群と比較して統計学的に有意に増強されていれば、該試験物質を、該リガンドに
対する該嗅覚受容体ポリペプチドの応答を抑制する物質、すなわち該リガンドに対するオ
リジナルの嗅覚受容体の応答を抑制する物質として同定することができる。
上記の手順で同定された試験物質は、標的のリガンドに対する嗅覚受容体の応答を抑制
することによって、個体による該リガンドのにおいの認識を抑制することができる物質で
ある。したがって、上記手順で同定された試験物質は、該リガンドのにおいの抑制剤とし
て選択することができる。本発明のにおい抑制剤の評価及び/又は選択方法によって標的
のリガンドのにおいの抑制剤として選択された物質は、該リガンドに対する嗅覚受容体の
応答抑制によって、該リガンドのにおいを抑制することができる。
したがって、一実施形態において、本発明のリガンドのにおい抑制剤の評価及び/又は
選択方法によって選択された物質は、該リガンドのにおいの抑制剤の有効成分であり得る
。あるいは、本発明のリガンドのにおいの抑制剤の評価及び/又は選択方法によって選択
された物質は、該リガンドのにおいを抑制するための化合物又は組成物に、該リガンドの
においを抑制するための有効成分として含有され得る。またあるいは、本発明のリガンド
のにおいの抑制剤の評価及び/又は選択方法によって選択された物質は、該リガンドのに
おいの抑制剤の製造のため、又は該リガンドのにおいを抑制するための化合物若しくは組
成物の製造のために使用することができる。該物質によれば、従来の消臭剤または芳香剤
を用いる消臭方法において生じていた芳香剤の強いにおいに基づく不快感等や、他のにお
いをも抑えてしまうという問題を生じることがなく、標的のリガンドのにおいを消臭する
ことができる。
以下に、本発明の目的の嗅覚受容体のリガンドの探索方法及び目的の嗅覚受容体のリガ
ンドのにおいの抑制剤の評価及び/又は選択方法の一例について述べる。
後述の実施例に示すとおり、いずれも硫黄化合物であるメチルメルカプタン、ジメチル
スルフィド、ジメチルジスルフィド又はジメチルトリスルフィドの存在下で、本発明の発
現方法により発現されたコンセンサス嗅覚受容体の応答を測定したところ、コンセンサス
OR2T29、コンセンサスOR4K17、コンセンサスOR2T27、コンセンサスO
R2T5、コンセンサスOR2T4、コンセンサスOR11H2、コンセンサスOR6B
3、コンセンサスOR12D3、コンセンサスOR2T11、コンセンサスOR2T1、
コンセンサスOR4C15、コンセンサスOR4E2及びコンセンサスOR2L13は、
金属イオン存在下でメチルメルカプタンに応答した(図10)。コンセンサスOR4K1
7、コンセンサスOR11H2、コンセンサスOR4C15及びコンセンサスOR4E2
は、金属イオン存在下でジメチルスルフィドに応答した(図10)。コンセンサスOR2
T29、コンセンサスOR4K17、コンセンサスOR2T27、コンセンサスOR2T
5、コンセンサスOR2T4、コンセンサスOR11H2、コンセンサスOR6B3、コ
ンセンサスOR12D3、コンセンサスOR2T11、コンセンサスOR2T1、コンセ
ンサスOR4C15、コンセンサスOR4E2及びコンセンサスOR2L13は、金属イ
オン存在下でジメチルジスルフィドに応答した(図10)。また、コンセンサスOR2T
29、コンセンサスOR2T4、コンセンサスOR11H2、コンセンサスOR6B3、
コンセンサスOR12D3、コンセンサスOR6B1、コンセンサスOR2T11、コン
センサスOR2T1、コンセンサスOR4C15、コンセンサスOR4E2及びコンセン
サスOR2L13は、金属イオン存在下でジメチルトリスルフィドに応答した(図10)
。上記の各コンセンサス嗅覚受容体の応答を引き起こす各硫黄化合物は、該各コンセンサ
ス嗅覚受容体のリガンド、すなわち該各コンセンサス嗅覚受容体が由来するオリジナルの
嗅覚受容体のリガンドである。
OR2T29、OR4K17、OR2T27、OR2T5、OR2T4、OR11H2
、OR6B3、OR12D3及びOR6B1が硫黄化合物に応答すること、特に金属イオ
ン存在下で応答すること、又はその可能性があることはこれまで認識されていなかった。
一方、OR2T11及びOR2T1が金属イオン存在下でメチルメルカプタンに応答する
こと(特許第6122181号公報)、OR4C15及びOR2L13がジメチルトリス
ルフィドに応答すること(特表2020-510436号公報)、OR4E2が金属イオ
ン存在下で3-メルカプト-3-メチルブタノール及びジアリルトリスルフィドに応答す
ること(特表2020-513564号公報)、OR2T11がジメチルジスルフィド、
メタンチオール、エタンチオール、1-プロパンチオール、2-プロパンチオール、1-
ブタンチオール、2―メチル-2-プロパンチオール、2-メチル―1-プロパンチオー
ル、2-ブタンチオール、3-メチル-2-ブタンチオール、2-ペンタンチオール、シ
クロペンタンチオールに応答すること(Block E et al. Nat. Prod. Rep., 34(5):529-55
7 (2017))は知られていたが、これらがその他の硫黄化合物に応答すること、特に金属イ
オン存在下で応答することはこれまで知られていなかった。
よって、OR2T29、OR4K17、OR2T27、OR2T5、OR2T4、OR
11H2、OR6B3、OR12D3及びOR6B1は、新たに見出された硫黄化合物受
容体である。換言すれば、硫黄化合物は、OR2T29、OR4K17、OR2T27、
OR2T5、OR2T4、OR11H2、OR6B3、OR12D3及びOR6B1の新
たに見出されたリガンドである。また、OR4C15、OR4E2及びOR2L13は、
新たに見出されたメチルメルカプタン受容体であり、OR4C15及びOR4E2は、新
たに見出されたジメチルスルフィド受容体であり、OR2T1、OR4C15、OR4E
2及びOR2L13は、新たに見出されたジメチルジスルフィド受容体であり、OR2T
11、OR2T1及びOR4E2は、新たに見出されたジメチルトリスルフィド受容体で
ある。換言すれば、メチルメルカプタンは、OR4C15、OR4E2及びOR2L13
の新たに見出されたリガンドであり、ジメチルスルフィドは、OR4C15及びOR4E
2の新たに見出されたリガンドであり、ジメチルジスルフィドは、OR2T1、OR4C
15、OR4E2及びOR2L13の新たに見出されたリガンドであり、ジメチルトリス
ルフィドは、OR2T11、OR2T1及びOR4E2の新たに見出されたリガンドであ
る。
したがって、本発明の目的の嗅覚受容体のリガンドのにおい抑制剤の評価及び/又は選
択方法に従い、試験物質添加後のコンセンサスOR2T29、コンセンサスOR4K17
、コンセンサスOR2T27、コンセンサスOR2T5、コンセンサスOR2T4、コン
センサスOR11H2、コンセンサスOR6B3、コンセンサスOR12D3及びコンセ
ンサスOR6B1からなる群より選択される少なくとも1種の嗅覚受容体ポリペプチドの
応答を金属イオン存在下で測定することで、硫黄化合物を原因とするにおいの抑制剤を評
価及び/又は選択することが可能となる。該方法においては、コンセンサスOR2T11
、OR4S2、コンセンサスOR2T1、コンセンサスOR4C15、コンセンサスOR
4E2及びコンセンサスOR2L13からなる群より選択される少なくとも1種の嗅覚受
容体ポリペプチドの応答をさらに測定してもよい。より具体的には、試験物質添加後のコ
ンセンサスOR4C15、コンセンサスOR4E2及びコンセンサスOR2L13からな
る群より選択される少なくとも1種の嗅覚受容体ポリペプチドの応答を金属イオン存在下
で測定することで、メチルメルカプタンを原因とするにおいの抑制剤を評価及び/又は選
択することが可能となる。試験物質添加後のコンセンサスOR4C15及びコンセンサス
OR4E2からなる群より選択される少なくとも1種の嗅覚受容体ポリペプチドの応答を
金属イオン存在下で測定することで、ジメチルスルフィドを原因とするにおいの抑制剤を
評価及び/又は選択することが可能となる。試験物質添加後のコンセンサスOR2T1、
コンセンサスOR4C15、コンセンサスOR4E2及びコンセンサスOR2L13から
なる群より選択される少なくとも1種の嗅覚受容体ポリペプチドの応答を金属イオン存在
下で測定することで、ジメチルジスルフィドを原因とするにおいの抑制剤を評価及び/又
は選択することが可能となる。また、試験物質添加後のコンセンサスOR2T11、コン
センサスOR2T1及びコンセンサスOR4E2からなる群より選択される少なくとも1
種の嗅覚受容体ポリペプチドの応答を金属イオン存在下で測定することで、ジメチルトリ
スルフィドを原因とするにおいの抑制剤を評価及び/又は選択することが可能となる。
ここで、「硫黄化合物」とは、硫黄を含有する化合物の総称である。好ましくは、硫黄
化合物は、チオール又はスルフィド化合物である。より好ましい硫黄化合物の例としては
、メチルメルカプタン、ジメチルスルフィド、ジメチルジスルフィド又はジメチルトリス
ルフィドが挙げられる。
「硫黄化合物を原因とするにおい」とは、上述した硫黄化合物により生じるにおいであ
り、好ましくは、チオール又はスルフィド化合物により生じるにおいであり、より好まし
くは、メチルメルカプタン、ジメチルスルフィド、ジメチルジスルフィド及びジメチルト
リスルフィドからなる群より選択される少なくとも1種により生じるにおいである。例え
ば、メチルメルカプタンのにおいは、パーマネント剤から発せられる悪臭、糞便臭、体臭
、口臭、わきが、加齢臭、老人臭、生ごみ臭等に含まれる。ジメチルスルフィド、ジメチ
ルジスルフィド又はジメチルトリスルフィドのにおいは、パーマネント剤から発せられる
悪臭、口臭、生ごみ臭、汚水臭、排水口から発せられる悪臭等に含まれる。したがって、
代表的には、「硫黄化合物を原因とするにおい」とは、パーマネント剤から発せられる悪
臭、糞便臭、体臭、口臭、わきが、加齢臭、老人臭、生ごみ臭、汚水臭、排水口から発せ
られる悪臭であり得、好ましくは、パーマネント剤の悪臭、口臭である。本発明のにおい
の抑制剤の評価及び/又は選択方法によれば、悪臭である硫黄化合物を原因とするにおい
を選択的に抑制することができる物質を効率よく評価又は選択することができる。
また、上述したように、本発明の発現方法により発現された嗅覚受容体ポリペプチドの
応答は、オリジナルの嗅覚受容体の嗅細胞における応答を反映していると見做すことがで
きるので、該嗅覚受容体ポリペプチドを用いてオリジナルの嗅覚受容体におけるリガンド
(におい物質)のにおい認識を増強する物質を評価及び/又は選択することができる。該
嗅覚受容体ポリペプチドの応答を増強する物質は、該嗅覚受容体ポリペプチドのリガンド
応答に変化を生じさせ、すなわちオリジナルの嗅覚受容体のリガンド応答に変化を生じさ
せ、結果として、リガンドのにおいを選択的に増強することができる。
したがって、別の一態様において本発明は、目的の嗅覚受容体のリガンドのにおいの増
強剤の評価及び/又は選択方法を提供する。当該方法は、本発明の発現方法により発現さ
れた嗅覚受容体ポリペプチドに試験物質及び標的のリガンドを添加すること、及び該リガ
ンドに対する該嗅覚受容体ポリペプチドの応答を測定すること、を含む。目的の嗅覚受容
体のリガンドとしては、本発明のリガンドの探索方法により選択されたリガンドが好まし
い。本発明のにおい増強剤の評価及び/又は選択方法によれば、標的のリガンドのにおい
を選択的に増強することができる物質を効率よく評価又は選択することができ、標的のリ
ガンドが従来培養細胞の細胞膜での発現が十分でないために機能解析ができなかった嗅覚
受容体のリガンドである場合でも、該リガンドのにおいを選択的に増強することができる
物質を評価又は選択することができる。
本発明のにおい増強剤の評価及び/又は選択は、in vitro又はex vivo
で行われる方法であり得る。
本発明のにおい増強剤の評価及び/又は選択方法に使用される試験物質は、標的のリガ
ンドのにおいの増強剤として使用することを所望する物質であれば、特に制限されない。
試験物質は、天然に存在する物質であっても、化学的若しくは生物学的方法等で人工的に
合成した物質であってもよく、又は化合物であっても、組成物若しくは混合物であっても
よい。
本発明のにおい増強剤の評価及び/又は選択方法に使用される嗅覚受容体ポリペプチド
及びその形態については、本発明の応答測定方法に使用される嗅覚受容体ポリペプチド及
びその形態と同様である。
本発明のにおい増強剤の評価及び/又は選択方法においては、本発明の発現方法により
発現された嗅覚受容体ポリペプチドに試験物質及び標的のリガンドが適用される。嗅覚受
容体ポリペプチドに試験物質及び標的のリガンドを適用する手段としては、該嗅覚受容体
ポリペプチドを発現する細胞を培養する培地に試験物質及び標的のリガンドを添加する方
法などが挙げられるが、特に限定されない。
本発明のにおい増強剤の評価及び/又は選択方法においては、嗅覚受容体ポリペプチド
への試験物質及び標的のリガンドの添加に続いて、該リガンドに対する該嗅覚受容体ポリ
ペプチドの応答が測定される。応答を測定する方法としては、本発明の応答測定方法と同
様の手法を使用できる。
次いで、測定した応答に基づいて、該リガンドに対する該嗅覚受容体ポリペプチドの応
答を増強する試験物質を検出する。検出された試験物質は、該リガンドのにおいの増強剤
として選択される。
該嗅覚受容体ポリペプチドの該リガンドに対する応答を増強する試験物質は、該リガン
ドのにおいの増強剤として選択される。該嗅覚受容体ポリペプチドの該リガンドへの応答
に対して該試験物質が及ぼす作用は、例えば、試験物質を添加した該嗅覚受容体ポリペプ
チド(試験群)の該リガンドに対する応答を、対照群における該リガンドに対する応答と
比較することによって評価することができる。対照群の例としては、試験物質を添加して
いない該嗅覚受容体ポリペプチド、対照物質を添加した該嗅覚受容体ポリペプチド、より
低濃度の試験物質を添加した該嗅覚受容体ポリペプチド、試験物質を添加する前の該嗅覚
受容体ポリペプチド、該嗅覚受容体ポリペプチドが発現していない細胞、などを挙げるこ
とができる。好ましくは、本発明のにおい増強剤の評価及び/又は選択方法は、試験物質
の存在下及び非存在下で、該リガンドに対する該嗅覚受容体ポリペプチドの活性を測定す
ることを含む。
例えば、試験群における応答が、対照群よりも増強されていた場合、該試験物質を、標
的のリガンドに対する該嗅覚受容体ポリペプチドの応答を増強する物質、すなわち該リガ
ンドに対するオリジナルの嗅覚受容体の応答を増強する物質として同定することができる
。例えば、試験群における該嗅覚受容体ポリペプチドの応答が、対照群と比較して好まし
くは120%以上、より好ましくは150%以上、さらに好ましくは200%以上に増強
されていれば、該試験物質を、該リガンドに対する該嗅覚受容体ポリペプチドの応答を増
強する物質、すなわち該リガンドに対するオリジナルの嗅覚受容体の応答を増強する物質
として同定することができる。あるいは、試験群における該嗅覚受容体ポリペプチドの応
答が、対照群と比較して統計学的に有意に増強されていれば、該試験物質を、該リガンド
に対する該嗅覚受容体ポリペプチドの応答を増強する物質、すなわち該リガンドに対する
オリジナルの嗅覚受容体の応答を増強する物質として同定することができる。
上記の手順で同定された試験物質は、標的のリガンドに対する嗅覚受容体の応答を増強
することによって、個体による該リガンドのにおいの認識を増強することができる物質で
ある。したがって、上記手順で同定された試験物質は、該リガンドのにおいの増強剤とし
て選択することができる。本発明のにおい増強剤の評価及び/又は選択方法によって標的
のリガンドのにおいの増強剤として選択された物質は、該リガンドに対する嗅覚受容体の
応答増強によって、該リガンドのにおいを増強することができる。
したがって、一実施形態において、本発明のリガンドのにおいの増強剤の評価及び/又
は選択方法によって選択された物質は、該リガンドのにおいの増強剤の有効成分であり得
る。あるいは、本発明のリガンドのにおいの増強剤の評価及び/又は選択方法によって選
択された物質は、該リガンドのにおいを増強するための化合物又は組成物に、該リガンド
のにおいを増強するための有効成分として含有され得る。またあるいは、本発明のリガン
ドのにおいの増強剤の評価及び/又は選択方法によって選択された物質は、該リガンドの
においの増強剤の製造のため、又は該リガンドのにおいを増強するための化合物若しくは
組成物の製造のために使用することができる。該物質によれば、例えば、標的のリガンド
の良好なにおいを増強することができる。
本発明の例示的実施形態として、さらに以下の組成物、製造方法、用途あるいは方法を
本明細書に開示する。ただし、本発明はこれらの実施形態に限定されない。
〔1〕嗅覚受容体ポリペプチドの発現方法であって、
目的の嗅覚受容体のアミノ酸配列においてコンセンサスアミノ酸配列と異なるアミノ酸
残基の少なくとも1個をこれに相当する位置の該コンセンサスアミノ酸配列のアミノ酸残
基に改変したアミノ酸配列からなる嗅覚受容体ポリペプチドを細胞に発現させることを含
み、
該コンセンサスアミノ酸配列が、該目的の嗅覚受容体のアミノ酸配列及び下記(a)~
(d)のいずれかの嗅覚受容体:
(a)該目的の嗅覚受容体の由来の生物種と同じ目における該目的の嗅覚受容体のオル
ソログにコードされる嗅覚受容体からなる群より選択される少なくとも11種の嗅覚受容
体;
(b)該目的の嗅覚受容体の由来の生物種と同じ目における該目的の嗅覚受容体のオル
ソログにコードされる嗅覚受容体及び該目的の嗅覚受容体のパラログにコードされる嗅覚
受容体からなる群より選択される少なくとも11種の嗅覚受容体であって、該11種の嗅
覚受容体に該目的の嗅覚受容体のパラログにコードされる嗅覚受容体を少なくとも1種含
む嗅覚受容体;
(c)脊椎動物における該目的の嗅覚受容体のオルソログにコードされる嗅覚受容体か
らなる群より選択される少なくとも11種の嗅覚受容体であって、該11種の嗅覚受容体
に該目的の嗅覚受容体の由来の生物種と異なる目の脊椎動物のオルソログにコードされる
嗅覚受容体を少なくとも1種含む嗅覚受容体;
(d)脊椎動物における該目的の嗅覚受容体のオルソログにコードされる嗅覚受容体と
、脊椎動物にオルソログが11種以上存在する該目的の嗅覚受容体のパラログのうち該目
的の嗅覚受容体と最も相同性の高いパラログの脊椎動物におけるオルソログにコードされ
る嗅覚受容体とからなる群より選択される少なくとも11種の嗅覚受容体であって、該1
1種の嗅覚受容体に該目的の嗅覚受容体の由来の生物種と異なる目の脊椎動物のオルソロ
グにコードされる嗅覚受容体を少なくとも1種含む嗅覚受容体、及び該パラログにコード
される嗅覚受容体、
のアミノ酸配列のアラインメントから導き出されるアミノ酸配列である、
方法。
〔2〕嗅覚受容体ポリペプチドの発現向上方法である、〔1〕記載の方法。
〔3〕目的の嗅覚受容体の機能化方法であって、
目的の嗅覚受容体のアミノ酸配列においてコンセンサスアミノ酸配列と異なるアミノ酸
残基の少なくとも1個をこれに相当する位置の該コンセンサスアミノ酸配列のアミノ酸残
基に改変したアミノ酸配列からなる嗅覚受容体ポリペプチドを細胞に発現させることを含
み、
該コンセンサスアミノ酸配列が、該目的の嗅覚受容体のアミノ酸配列及び下記(a)~
(d)のいずれかの嗅覚受容体:
(a)該目的の嗅覚受容体の由来の生物種と同じ目における該目的の嗅覚受容体のオル
ソログにコードされる嗅覚受容体からなる群より選択される少なくとも11種の嗅覚受容
体;
(b)該目的の嗅覚受容体の由来の生物種と同じ目における該目的の嗅覚受容体のオル
ソログにコードされる嗅覚受容体及び該目的の嗅覚受容体のパラログにコードされる嗅覚
受容体からなる群より選択される少なくとも11種の嗅覚受容体であって、該11種の嗅
覚受容体に該目的の嗅覚受容体のパラログにコードされる嗅覚受容体を少なくとも1種含
む嗅覚受容体;
(c)脊椎動物における該目的の嗅覚受容体のオルソログにコードされる嗅覚受容体か
らなる群より選択される少なくとも11種の嗅覚受容体であって、該11種の嗅覚受容体
に該目的の嗅覚受容体の由来の生物種と異なる目の脊椎動物のオルソログにコードされる
嗅覚受容体を少なくとも1種含む嗅覚受容体;
(d)脊椎動物における該目的の嗅覚受容体のオルソログにコードされる嗅覚受容体と
、脊椎動物にオルソログが11種以上存在する該目的の嗅覚受容体のパラログのうち該目
的の嗅覚受容体と最も相同性の高いパラログの脊椎動物におけるオルソログにコードされ
る嗅覚受容体からなる群より選択される少なくとも11種の嗅覚受容体であって、該11
種の嗅覚受容体に該目的の嗅覚受容体の由来の生物種と異なる目の脊椎動物のオルソログ
にコードされる嗅覚受容体を少なくとも1種含む嗅覚受容体、及び該パラログにコードさ
れる嗅覚受容体、
のアミノ酸配列のアラインメントから導き出されるアミノ酸配列である、
方法。
〔4〕前記コンセンサスアミノ酸配列が、前記目的の嗅覚受容体のアミノ酸配列及び前記
(a)~(d)のいずれかの嗅覚受容体のアミノ酸配列のアラインメントから以下の(i
)~(iii)の基準に従い同定したコンセンサス残基からなるアミノ酸配列である、〔
1〕~〔3〕のいずれか1項記載の方法:
(i)該アラインメントの各アミノ酸位置において、
(i-i)該目的の嗅覚受容体のアミノ酸残基と異なり且つ出現頻度50%以上のアミ
ノ酸残基が1種存在する場合、該アミノ酸残基をコンセンサス残基と同定する、
(i-ii)出現頻度50%のアミノ酸残基が2種存在する場合、該目的の嗅覚受容体
のアミノ酸残基をコンセンサス残基と同定する、
(i-iii)該目的の嗅覚受容体にアミノ酸残基が存在し且つ出現頻度40%以上で
アミノ酸残基が存在しない場合、コンセンサス残基なしと同定する、
(i-iv)該目的の嗅覚受容体にアミノ酸残基が存在せず且つ出現頻度60%以上で
アミノ酸残基が存在する場合、最も出現頻度が高いアミノ酸残基をコンセンサス残基と同
定し、最も出現頻度が高いアミノ酸残基が2種以上存在する場合は、該アミノ酸残基のう
ち最も分子量が小さいアミノ酸残基をコンセンサス残基と同定する、
(i-v)上記(i-i)~(i-iv)のいずれにも該当しない場合、該目的の嗅覚
受容体のアミノ酸残基をコンセンサス残基と同定する、
(ii)上記(i)の基準に従いコンセンサス残基を同定したときに、最もN末端側のコ
ンセンサス残基が該目的の嗅覚受容体のN末端又はそれよりもC末端側に相当する位置の
コンセンサス残基であり且つメチオニン残基でない場合、最もN末端に近い位置のメチオ
ニン残基からなるコンセンサス残基よりN末端側のコンセンサス残基をコンセンサス残基
なしに変更する、
(iii)上記(i)の基準に従いコンセンサス残基を同定したときに、最もN末端側の
コンセンサス残基が該目的の嗅覚受容体のN末端よりもN末端側に相当する位置のコンセ
ンサス残基であり且つメチオニン残基でない場合、該アラインメントの該コンセンサス残
基の位置よりN末端側にアミノ酸位置を1つずつ遡り、メチオニン残基が出現するまで、
最も出現頻度が高いアミノ酸残基をコンセンサス残基と同定し、最も出現頻度が高いアミ
ノ酸残基が2種以上存在する場合は、該アミノ酸残基のうち最も分子量が小さいアミノ酸
残基をコンセンサス残基と同定する。
〔5〕前記(a)の嗅覚受容体が、前記目的の嗅覚受容体の由来の生物種と同じ目におけ
る該目的の嗅覚受容体のオルソログにコードされる嗅覚受容体からなる群より選択される
好ましくは少なくとも15種の嗅覚受容体である、〔1〕~〔4〕のいずれか1項記載の
方法。
〔6〕前記(b)の嗅覚受容体が、前記目的の嗅覚受容体の由来の生物種と同じ目におけ
る該目的の嗅覚受容体のオルソログにコードされる嗅覚受容体及び該目的の嗅覚受容体の
パラログにコードされる嗅覚受容体からなる群より選択される好ましくは少なくとも25
種の嗅覚受容体、より好ましくは少なくとも35種の嗅覚受容体であり、
該目的の嗅覚受容体をコードする遺伝子と最も高い相同性を有するパラログにコードさ
れる嗅覚受容体を含む、〔1〕~〔4〕のいずれか1項記載の方法。
〔7〕前記(c)の嗅覚受容体が、前記脊椎動物における該目的の嗅覚受容体のオルソロ
グにコードされる嗅覚受容体からなる群より選択される好ましくは少なくとも15種の嗅
覚受容体、より好ましくは少なくとも30種の嗅覚受容体であり、
該目的の嗅覚受容体の由来の生物種と異なる目の脊椎動物のオルソログにコードされる
嗅覚受容体を少なくとも1種、好ましくは5種、より好ましくは10種含む、〔1〕~〔
4〕のいずれか1項記載の方法。
〔8〕前記(d)の嗅覚受容体が、前記脊椎動物における該目的の嗅覚受容体のオルソロ
グにコードされる嗅覚受容体と、前記脊椎動物にオルソログが11種以上存在する前記目
的の嗅覚受容体のパラログのうち該目的の嗅覚受容体と最も相同性の高いパラログの脊椎
動物におけるオルソログにコードされる嗅覚受容体とからなる群より選択される好ましく
は少なくとも30種の嗅覚受容体、より好ましくは少なくとも60種の嗅覚受容体、及び
該パラログにコードされる嗅覚受容体であり、
該目的の嗅覚受容体の由来の生物種と異なる目の脊椎動物のオルソログにコードされる
嗅覚受容体を少なくとも1種、好ましくは5種、より好ましくは10種含む、〔1〕~〔
4〕のいずれか1項記載の方法。
〔9〕前記アラインメントが、好ましくは前記目的の嗅覚受容体のアミノ酸配列及び前記
(c)の嗅覚受容体のアラインメントである、〔1〕~〔8〕のいずれか1項記載の方法

〔10〕前記目的の嗅覚受容体がヒト嗅覚受容体である、〔1〕~〔9〕のいずれか1項
記載の方法。
〔11〕前記嗅覚受容体ポリペプチドが、好ましくは下記表2-1~2-5の(1)の嗅
覚受容体の(2)の配列番号で示されるアミノ酸配列において(3)の配列番号で示され
るコンセンサスアミノ酸配列と異なるアミノ酸残基の少なくとも1個をこれに相当する位
置の該コンセンサスアミノ酸配列のアミノ酸残基に改変したアミノ酸配列からなり、より
好ましくは下記表2-1~2-5の(3)の配列番号で示されるコンセンサスアミノ酸配
列からなる、〔1〕~〔8〕のいずれか1項記載の方法。
Figure 2024015143000006
Figure 2024015143000007
Figure 2024015143000008
Figure 2024015143000009
Figure 2024015143000010
〔12〕前記嗅覚受容体ポリペプチドが、好ましくは配列番号97~209、485~6
41、及び851~899のいずれかで示されるアミノ酸配列からなり、より好ましくは
配列番号99~104、109~118、121、123、125~130、133、1
36、138、140~146、149~209、485~641、及び851~899
のいずれかで示されるアミノ酸配列からなる、〔11〕記載の方法。
〔13〕嗅覚受容体ポリペプチドの発現方法であって、
目的の嗅覚受容体のアミノ酸配列においてコンセンサスアミノ酸配列と異なるアミノ酸
残基の少なくとも1個をこれに相当する位置の該コンセンサスアミノ酸配列のアミノ酸残
基に改変したアミノ酸配列からなる嗅覚受容体ポリペプチドを細胞に発現させることを含
み、
該嗅覚受容体ポリペプチドが、ヒト嗅覚受容体OR7E24の配列番号96で示される
アミノ酸配列において配列番号210で示されるコンセンサスアミノ酸配列と異なるアミ
ノ酸残基の少なくとも1個をこれに相当する位置の該コンセンサスアミノ酸配列のアミノ
酸残基に改変したアミノ酸配列からなり、好ましくは配列番号210で示されるアミノ酸
配列からなるものであるか、
該嗅覚受容体ポリペプチドが、ヒト嗅覚受容体OR9K2の配列番号484で示される
アミノ酸配列において配列番号642で示されるコンセンサスアミノ酸配列と異なるアミ
ノ酸残基の少なくとも1個をこれに相当する位置の該コンセンサスアミノ酸配列のアミノ
酸残基に改変したアミノ酸配列からなり、好ましくは配列番号642で示されるアミノ酸
配列からなるものであるか、
該嗅覚受容体ポリペプチドが、ヒト嗅覚受容体OR5I1の配列番号850で示される
アミノ酸配列において配列番号900で示されるコンセンサスアミノ酸配列と異なるアミ
ノ酸残基の少なくとも1個をこれに相当する位置の該コンセンサスアミノ酸配列のアミノ
酸残基に改変したアミノ酸配列からなるものである、
方法。
〔14〕嗅覚受容体ポリペプチドの発現向上方法である、〔13〕記載の方法。
〔15〕目的の嗅覚受容体の機能化方法であって、
目的の嗅覚受容体のアミノ酸配列においてコンセンサスアミノ酸配列と異なるアミノ酸
残基の少なくとも1個をこれに相当する位置の該コンセンサスアミノ酸配列のアミノ酸残
基に改変したアミノ酸配列からなる嗅覚受容体ポリペプチドを細胞に発現させることを含
み、
該嗅覚受容体ポリペプチドが、ヒト嗅覚受容体OR7E24の配列番号96で示される
アミノ酸配列において配列番号210で示されるコンセンサスアミノ酸配列と異なるアミ
ノ酸残基の少なくとも1個をこれに相当する位置の該コンセンサスアミノ酸配列のアミノ
酸残基に改変したアミノ酸配列からなり、好ましくは配列番号210で示されるアミノ酸
配列からなるものであるか、
該嗅覚受容体ポリペプチドが、ヒト嗅覚受容体OR9K2の配列番号484で示される
アミノ酸配列において配列番号642で示されるコンセンサスアミノ酸配列と異なるアミ
ノ酸残基の少なくとも1個をこれに相当する位置の該コンセンサスアミノ酸配列のアミノ
酸残基に改変したアミノ酸配列からなり、好ましくは配列番号642で示されるアミノ酸
配列からなるものであるか、
該嗅覚受容体ポリペプチドが、ヒト嗅覚受容体OR5I1の配列番号850で示される
アミノ酸配列において配列番号900で示されるコンセンサスアミノ酸配列と異なるアミ
ノ酸残基の少なくとも1個をこれに相当する位置の該コンセンサスアミノ酸配列のアミノ
酸残基に改変したアミノ酸配列からなるものである、
方法。
〔16〕前記嗅覚受容体ポリペプチドが前記細胞の細胞膜に発現するものである、〔1〕
~〔15〕のいずれか1項記載の方法。
〔17〕好ましくは、RTP1Sを前記細胞に発現させることをさらに含む、〔1〕~〔
16〕のいずれか1項記載の方法。
〔18〕前記細胞がHEK293細胞である、〔1〕~〔17〕のいずれか1項記載の方
法。
〔19〕目的の嗅覚受容体の応答の測定方法であって、
〔1〕~〔18〕のいずれか1項記載の方法により発現された嗅覚受容体ポリペプチド
の応答を測定すること、
を含む方法。
〔20〕目的の嗅覚受容体のリガンドの探索方法であって、
試験物質存在下で、〔1〕~〔18〕のいずれか1項記載の方法により発現された嗅覚
受容体ポリペプチドの応答を測定すること、及び
該嗅覚受容体ポリペプチドが応答した試験物質を選択すること、
を含む方法。
〔21〕好ましくは、試験物質非存在下での前記嗅覚受容体ポリペプチドの応答を測定す
ることをさらに含む、〔20〕記載の方法。
〔22〕好ましくは、前記試験物質存在下での前記嗅覚受容体ポリペプチドの応答を、前
記試験物質非存在下での応答の120%以上に増加させる試験物質を選択する、〔21〕
記載の方法。
〔23〕好ましくは、前記試験物質存在下での前記嗅覚受容体ポリペプチドの応答を、前
記試験物質非存在下での応答と比べて統計学的に有意に増加させる試験物質を選択する、
〔21〕記載の方法。
〔24〕目的の嗅覚受容体のリガンドのにおいの抑制剤の評価及び/又は選択方法であっ
て、
〔1〕~〔18〕のいずれか1項記載の方法により発現された嗅覚受容体ポリペプチド
に試験物質及び目的の嗅覚受容体のリガンドを添加すること、及び
該リガンドに対する該嗅覚受容体ポリペプチドの応答を測定すること、
を含む方法。
〔25〕前記リガンドが〔20〕~〔23〕のいずれか1項記載の方法により選択された
リガンドである、〔24〕記載の方法。
〔26〕測定された応答に基づいて前記嗅覚受容体ポリペプチドの応答を抑制する試験物
質を同定することをさらに含む、〔24〕又は〔25〕記載の方法。
〔27〕前記試験物質を添加しなかった前記嗅覚受容体ポリペプチドの前記リガンドに対
する応答を測定することをさらに含む、〔24〕~〔26〕のいずれか1項記載の方法。
〔28〕前記試験物質を添加した前記嗅覚受容体ポリペプチドの前記リガンドに対する応
答が、該試験物質を添加しなかった該嗅覚受容体ポリペプチドの該リガンドに対する応答
よりも抑制されていたときに、該試験物質を、該リガンドに対する該嗅覚受容体ポリペプ
チドの応答を抑制する物質として同定することをさらに含む、〔27〕記載の方法。
〔29〕目的の嗅覚受容体のリガンドのにおいの抑制剤の評価及び/又は選択方法であっ
て、
〔1〕~〔18〕のいずれか1項記載の方法により発現された嗅覚受容体ポリペプチド
に試験物質を添加すること、及び
該試験物質に対する該嗅覚受容体ポリペプチドの応答を測定すること、
を含む方法。
〔30〕前記リガンドが〔20〕~〔23〕のいずれか1項記載の方法により選択された
リガンドである、〔29〕記載の方法。
〔31〕測定された応答に基づいて前記嗅覚受容体ポリペプチドの応答を増強する試験物
質を同定することをさらに含む、〔29〕又は〔30〕記載の方法。
〔32〕前記試験物質を添加しなかった前記嗅覚受容体ポリペプチドの応答を測定するこ
とをさらに含む、〔29〕~〔31〕のいずれか1項記載の方法。
〔33〕前記試験物質を添加した前記嗅覚受容体ポリペプチドの応答が、該試験物質を添
加しなかった該嗅覚受容体ポリペプチドの応答よりも増強されていたときに、該試験物質
を、前記リガンドに対する該嗅覚受容体ポリペプチドの応答を抑制する物質として同定す
ることをさらに含む、〔32〕記載の方法。
〔34〕目的の嗅覚受容体のリガンドのにおいの増強剤の評価及び/又は選択方法であっ
て、
〔1〕~〔18〕のいずれか1項記載の方法により発現された嗅覚受容体ポリペプチド
に試験物質及び目的の嗅覚受容体のリガンドを添加すること、及び
該リガンドに対する該嗅覚受容体ポリペプチドの応答を測定すること、
を含む方法。
〔35〕前記リガンドが〔20〕~〔23〕のいずれか1項記載の方法により選択された
リガンドである、〔34〕記載の方法。
〔36〕測定された応答に基づいて前記嗅覚受容体ポリペプチドの応答を増強する試験物
質を同定することをさらに含む、〔34〕又は〔35〕記載の方法。
〔37〕前記試験物質を添加しなかった前記嗅覚受容体ポリペプチドの前記リガンドに対
する応答を測定することをさらに含む、〔34〕~〔36〕のいずれか1項記載の方法。
〔38〕前記試験物質を添加した前記嗅覚受容体ポリペプチドの前記リガンドに対する応
答が、該試験物質を添加しなかった該嗅覚受容体ポリペプチドの該リガンドに対する応答
よりも増強されていたときに、該試験物質を、該リガンドに対する該嗅覚受容体ポリペプ
チドの応答を増強する物質として同定することをさらに含む、〔37〕記載の方法。
〔39〕好ましくは、前記嗅覚受容体ポリペプチドの応答が、ELISAもしくはレポー
タージーンアッセイによる細胞内cAMP量測定、カルシウムイメージングもしくはTG
Fα shedding assayによるカルシウムイオン量測定、又はアフリカツメ
ガエル卵母細胞を用いた二電極膜電位固定法による細胞膜内外の電位変化測定により測定
される、〔19〕~〔38〕のいずれか1項記載の方法。
〔40〕改変嗅覚受容体ポリペプチドであって、
目的の嗅覚受容体のアミノ酸配列においてコンセンサスアミノ酸配列と異なるアミノ酸
残基の少なくとも1個をこれに相当する位置の該コンセンサスアミノ酸配列のアミノ酸残
基に改変したアミノ酸配列からなり、
該コンセンサスアミノ酸配列が、該目的の嗅覚受容体のアミノ酸配列及び下記(a)~
(d)のいずれかの嗅覚受容体:
(a)該目的の嗅覚受容体の由来の生物種と同じ目における該目的の嗅覚受容体のオル
ソログにコードされる嗅覚受容体からなる群より選択される少なくとも11種の嗅覚受容
体;
(b)該目的の嗅覚受容体の由来の生物種と同じ目における該目的の嗅覚受容体のオル
ソログにコードされる嗅覚受容体及び該目的の嗅覚受容体のパラログにコードされる嗅覚
受容体からなる群より選択される少なくとも11種の嗅覚受容体であって、該11種の嗅
覚受容体に該目的の嗅覚受容体のパラログにコードされる嗅覚受容体を少なくとも1種含
む嗅覚受容体;
(c)脊椎動物における該目的の嗅覚受容体のオルソログにコードされる嗅覚受容体か
らなる群より選択される少なくとも11種の嗅覚受容体であって、該11種の嗅覚受容体
に該目的の嗅覚受容体の由来の生物種と異なる目の脊椎動物のオルソログにコードされる
嗅覚受容体を少なくとも1種含む嗅覚受容体;
(d)脊椎動物における該目的の嗅覚受容体のオルソログにコードされる嗅覚受容体と
、脊椎動物にオルソログが11種以上存在する該目的の嗅覚受容体のパラログのうち該目
的の嗅覚受容体と最も相同性の高いパラログの脊椎動物におけるオルソログにコードされ
る嗅覚受容体とからなる群より選択される少なくとも11種の嗅覚受容体であって、該1
1種の嗅覚受容体に該目的の嗅覚受容体の由来の生物種と異なる目の脊椎動物のオルソロ
グにコードされる嗅覚受容体を少なくとも1種含む嗅覚受容体、及び該パラログにコード
される嗅覚受容体、
のアミノ酸配列のアラインメントから導き出されるアミノ酸配列である、
改変嗅覚受容体ポリペプチド。
〔41〕前記コンセンサスアミノ酸配列が、前記目的の嗅覚受容体のアミノ酸配列及び前
記(a)~(d)のいずれかの嗅覚受容体のアミノ酸配列のアラインメントから以下の(
i)~(iii)の基準に従い同定したコンセンサス残基からなるアミノ酸配列である、
〔40〕記載の改変嗅覚受容体ポリペプチド:
(i)該アラインメントの各アミノ酸位置において、
(i-i)該目的の嗅覚受容体のアミノ酸残基と異なり且つ出現頻度50%以上のアミ
ノ酸残基が1種存在する場合、該アミノ酸残基をコンセンサス残基と同定する、
(i-ii)出現頻度50%のアミノ酸残基が2種存在する場合、該目的の嗅覚受容体
のアミノ酸残基をコンセンサス残基と同定する、
(i-iii)該目的の嗅覚受容体にアミノ酸残基が存在し且つ出現頻度40%以上で
アミノ酸残基が存在しない場合、コンセンサス残基なしと同定する、
(i-iv)該目的の嗅覚受容体にアミノ酸残基が存在せず且つ出現頻度60%以上で
アミノ酸残基が存在する場合、最も出現頻度が高いアミノ酸残基をコンセンサス残基と同
定し、最も出現頻度が高いアミノ酸残基が2種以上存在する場合は、該アミノ酸残基のう
ち最も分子量が小さいアミノ酸残基をコンセンサス残基と同定する、
(i-v)上記(i-i)~(i-iv)のいずれにも該当しない場合、該目的の嗅覚
受容体のアミノ酸残基をコンセンサス残基と同定する、
(ii)上記(i)の基準に従いコンセンサス残基を同定したときに、最もN末端側のコ
ンセンサス残基が該目的の嗅覚受容体のN末端又はそれよりもC末端側に相当する位置の
コンセンサス残基であり且つメチオニン残基でない場合、最もN末端に近い位置のメチオ
ニン残基からなるコンセンサス残基よりN末端側のコンセンサス残基をコンセンサス残基
なしに変更する、
(iii)上記(i)の基準に従いコンセンサス残基を同定したときに、最もN末端側の
コンセンサス残基が該目的の嗅覚受容体のN末端よりもN末端側に相当する位置のコンセ
ンサス残基であり且つメチオニン残基でない場合、該アラインメントの該コンセンサス残
基の位置よりN末端側にアミノ酸位置を1つずつ遡り、メチオニン残基が出現するまで、
最も出現頻度が高いアミノ酸残基をコンセンサス残基と同定し、最も出現頻度が高いアミ
ノ酸残基が2種以上存在する場合は、該アミノ酸残基のうち最も分子量が小さいアミノ酸
残基をコンセンサス残基と同定する。
〔42〕前記(a)の嗅覚受容体が、前記目的の嗅覚受容体の由来の生物種と同じ目にお
ける該目的の嗅覚受容体のオルソログにコードされる嗅覚受容体からなる群より選択され
る好ましくは少なくとも15種の嗅覚受容体である、〔40〕又は〔41〕記載の改変嗅
覚受容体ポリペプチド。
〔43〕前記(b)の嗅覚受容体が、前記目的の嗅覚受容体の由来の生物種と同じ目にお
ける該目的の嗅覚受容体のオルソログにコードされる嗅覚受容体及び該目的の嗅覚受容体
のパラログにコードされる嗅覚受容体からなる群より選択される好ましくは少なくとも2
5種の嗅覚受容体、より好ましくは少なくとも35種の嗅覚受容体であり、
該目的の嗅覚受容体をコードする遺伝子と最も高い相同性を有するパラログにコードさ
れる嗅覚受容体を含む、〔40〕又は〔41〕記載の改変嗅覚受容体ポリペプチド。
〔44〕前記(c)の嗅覚受容体が、前記脊椎動物における該目的の嗅覚受容体のオルソ
ログにコードされる嗅覚受容体からなる群より選択される好ましくは少なくとも15種の
嗅覚受容体、より好ましくは少なくとも30種の嗅覚受容体であり、
該目的の嗅覚受容体の由来の生物種と異なる目の脊椎動物のオルソログにコードされる
嗅覚受容体を少なくとも1種、好ましくは5種、より好ましくは10種含む、〔40〕又
は〔41〕記載の改変嗅覚受容体ポリペプチド。
〔45〕前記(d)の嗅覚受容体が、前記脊椎動物における該目的の嗅覚受容体のオルソ
ログにコードされる嗅覚受容体と、前記脊椎動物にオルソログが11種以上存在する前記
目的の嗅覚受容体のパラログのうち該目的の嗅覚受容体と最も相同性の高いパラログの脊
椎動物におけるオルソログにコードされる嗅覚受容体とからなる群より選択される好まし
くは少なくとも30種の嗅覚受容体、より好ましくは少なくとも60種の嗅覚受容体、及
び該パラログにコードされる嗅覚受容体であり、
該目的の嗅覚受容体の由来の生物種と異なる目の脊椎動物のオルソログにコードされる
嗅覚受容体を少なくとも1種、好ましくは5種、より好ましくは10種含む、〔40〕又
は〔41〕記載の改変嗅覚受容体ポリペプチド。
〔46〕前記アラインメントが、好ましくは前記目的の嗅覚受容体のアミノ酸配列及び前
記(c)の嗅覚受容体のアラインメントである、〔40〕~〔45〕のいずれか1項記載
の改変嗅覚受容体ポリペプチド。
〔47〕前記目的の嗅覚受容体がヒト嗅覚受容体である、〔40〕~〔46〕のいずれか
1項記載の改変嗅覚受容体ポリペプチド。
〔48〕好ましくは、上記表2-1~2-5の(1)の嗅覚受容体の(2)の配列番号で
示されるアミノ酸配列において(3)の配列番号で示されるコンセンサスアミノ酸配列と
異なるアミノ酸残基の少なくとも1個をこれに相当する位置の該コンセンサスアミノ酸配
列のアミノ酸残基に改変したアミノ酸配列からなり、より好ましくは、上記表2-1~2
-5の(3)の配列番号で示されるコンセンサスアミノ酸配列からなる、〔40〕~〔4
5〕のいずれか1項記載の改変嗅覚受容体ポリペプチド。
〔49〕好ましくは、配列番号97~209、485~641、及び851~899のい
ずれかで示されるアミノ酸配列からなり、より好ましくは、配列番号99~104、10
9~118、121、123、125~130、133、136、138、140~14
6、149~209、485~641、及び851~899のいずれかで示されるアミノ
酸配列からなる、〔48〕記載の改変嗅覚受容体ポリペプチド。
〔50〕改変嗅覚受容体ポリペプチドであって、
ヒト嗅覚受容体OR7E24の配列番号96で示されるアミノ酸配列において配列番号
210で示されるコンセンサスアミノ酸配列と異なるアミノ酸残基の少なくとも1個をこ
れに相当する位置の該コンセンサスアミノ酸配列のアミノ酸残基に改変したアミノ酸配列
からなり、好ましくは配列番号210で示されるアミノ酸配列からなるものであるか、
ヒト嗅覚受容体OR9K2の配列番号484で示されるアミノ酸配列において配列番号
642で示されるコンセンサスアミノ酸配列と異なるアミノ酸残基の少なくとも1個をこ
れに相当する位置の該コンセンサスアミノ酸配列のアミノ酸残基に改変したアミノ酸配列
からなり、好ましくは配列番号642で示されるアミノ酸配列からなるものであるか、
該嗅覚受容体ポリペプチドが、ヒト嗅覚受容体OR5I1の配列番号850で示される
アミノ酸配列において配列番号900で示されるコンセンサスアミノ酸配列と異なるアミ
ノ酸残基の少なくとも1個をこれに相当する位置の該コンセンサスアミノ酸配列のアミノ
酸残基に改変したアミノ酸配列からなるものである、
改変嗅覚受容体ポリペプチド。
〔51〕〔40〕~〔50〕のいずれか1項記載の改変嗅覚受容体ポリペプチドをコード
するポリヌクレオチド。
〔52〕配列番号211~324、643~800、及び901~950のいずれかで示
される塩基配列からなり、好ましくは配列番号213~218、223~232、235
、237、239~244、247、250、252、254~260、263~324
、643~800、及び901~950のいずれかで示される塩基配列からなる、〔51
〕記載のポリヌクレオチド。
〔53〕〔51〕又は〔52〕記載のポリヌクレオチドを含むベクター又はDNA断片。
〔54〕〔53〕記載のベクター又はDNA断片を含有する形質転換細胞。
〔55〕好ましくは、RTP1Sをコードするポリヌクレオチドを含むベクター又はDN
A断片をさらに含む、〔54〕記載の形質転換細胞。
〔56〕前記細胞がHEK293細胞である、〔54〕又は〔55〕記載の形質転換細胞
以下、実施例を示し、本発明をより具体的に説明する。
実施例1 コンセンサス嗅覚受容体の作製及び解析
1)嗅覚受容体遺伝子の作製
コンセンサス嗅覚受容体をデザインするにあたり、目的の嗅覚受容体遺伝子の相同遺伝
子候補の検索はNCBI BLASTを用いて行った。得られた遺伝子群についてオルソ
ログ群もしくはオルソログ及びパラログ群を特定した。
具体的には、ヒト嗅覚受容体を目的の嗅覚受容体とするとき、(a)の霊長類のオルソ
ログの特定は、BLASTにより検索された霊長類の候補遺伝子について系統樹解析を行
うことで実施した。例えばヒトOR2A25に(a)の方法を適用する場合、ヒトOR2
A25(NP_001004488.1)のアミノ酸配列をquery配列とし、検索対
象生物名を霊長類としたBLAST検索によって得られた相同遺伝子について系統樹解析
を行い、ヒトOR2A25を含み他生物種のOR2A25が多く網羅され、かつOR2A
25以外の遺伝子をできる限り含まないクレードを選択し、そのクレードに含まれる全1
8遺伝子のうちヒトOR2A25を除く17遺伝子を霊長類オルソログとして特定した。
結果としてこれら17遺伝子は、ヒトOR2A25とのアミノ酸相同性は82%以上を示
した。次いで、これら18遺伝子のアミノ酸配列(表3)について以下に述べるようにア
ラインメント解析及びコンセンサスアミノ酸の特定を行った。
ヒト嗅覚受容体を目的の嗅覚受容体とするとき、(b)の霊長類のオルソログ及びパラ
ログの特定では、上記(a)の霊長類オルソログ特定の際の系統樹解析の結果、特定した
霊長類オルソログのクレードと隣接し、目的の嗅覚受容体遺伝子と最も相同性が高い目的
の嗅覚受容体の由来の生物種の遺伝子が含まれるクレードを特定した。特定したクレード
群に含まれる遺伝子をパラログとして選択した。なお、これらパラログのうち、BLAS
Tにより検索される霊長類遺伝子における目的の嗅覚受容体遺伝子と相同な遺伝子の上位
50位に含まれないパラログは除外した。例えばヒトOR2A25に(b)の方法を適用
する場合、上記(a)の系統樹解析の結果において選択した18遺伝子と最も近接するク
レードを選択した。このクレードには20遺伝子が属しており、ヒトの嗅覚受容体遺伝子
としてOR2A7及びヒトOR2A4が含まれていた。これら20遺伝子はヒトOR2A
25との相同性が高い霊長類遺伝子群の上位50遺伝子に含まれていた。このようにして
パラログを含む20遺伝子を選択し、(a)で用いた18遺伝子に加えた計38遺伝子の
アミノ酸配列(表3)について以下に述べるようにアラインメント解析及びコンセンサス
アミノ酸配列の特定を行った。
ヒト嗅覚受容体を目的の嗅覚受容体とするとき、(c)のオルソログの特定では、BL
ASTにより検索された相同性上位の遺伝子から、目的の嗅覚受容体と同じ名称をもつ遺
伝子をオルソログとして選択した。例えばヒトOR2A25に(c)の方法を適用する場
合、ヒトOR2A25(NP_001004488.1)のアミノ酸配列をquery配
列とし、BLASTにより検索された相同性上位の250遺伝子の中から、名称にOR2
A25を含む67遺伝子を選択した。加えて異なる嗅覚受容体名称体系が用いられている
Mus musculus及びRattus norvegicusの遺伝子に関しては
、該検索結果上位250遺伝子に含まれていた遺伝子のうち、最も相同性が高い遺伝子を
1つずつ選択した。これら69遺伝子をオルソログとして特定した。これら69遺伝子に
ヒトOR2A25を加えた計70遺伝子のアミノ酸配列(表3)について以下に述べるよ
うにアラインメント解析及びコンセンサスアミノ酸の特定を行った。
OR2T11、OR2W1、OR4Q3、OR4S2、OR6Y1、OR7D4、OR
7A17、及びOR11H4の各ヒト嗅覚受容体を目的の嗅覚受容体とする場合について
も、同様にしてオルソログ群もしくはオルソログとパラログ群を特定した。特定したオル
ソログ群もしくはオルソログとパラログ群にオリジナルのヒト嗅覚受容体遺伝子を加え、
これら遺伝子のアミノ酸配列について以下に述べるようにアラインメント解析及びコンセ
ンサスアミノ酸の特定を行った。
特定した遺伝子群についてのアラインメント解析はClustalWを用いて行い、嗅
覚受容体間で高度に保存されたアミノ酸もしくはアミノ酸モチーフを基準に、最適化する
ようにさらに調整した。Ballesteros-Weinstein residue
numberingは、非特許文献4に示されるマウス全嗅覚受容体をアラインメント
した結果を参照して付与した。アラインメント結果に基づき、Jalviewを用いてコ
ンセンサス嗅覚受容体の設計を行った。該アラインメントにおいて、基準となるオリジナ
ルのヒト嗅覚受容体アミノ酸配列の各アミノ酸位置に相当する位置に該基準アミノ酸配列
のアミノ酸残基と異なり且つ出現頻度が50%以上のアミノ酸残基が1種存在する場合に
該基準アミノ酸配列のアミノ酸残基を該アミノ酸残基に改変した。尚、基準となるオリジ
ナルのヒト嗅覚受容体アミノ酸配列の各アミノ酸位置に相当する位置に該基準アミノ酸配
列のアミノ酸残基と異なり且つ出現頻度が50%のアミノ酸残基が1種存在する場合であ
っても、該基準アミノ酸配列のアミノ酸残基の出現頻度も50%の場合には該基準アミノ
酸配列のアミノ酸残基を改変しなかった。該アラインメントにおいて、基準となるオリジ
ナルのヒト嗅覚受容体アミノ酸配列の各アミノ酸位置に相当する位置に出現頻度が40%
以上で欠失が存在する場合に該基準アミノ酸配列のアミノ酸残基を欠失に改変した。例え
ばC末端のアミノ酸位置に相当する位置に出現頻度が40%以上で欠失が存在する場合、
該基準アミノ酸配列のアミノ酸残基を欠失に改変した。さらに、ヒトの配列における開始
メチオニン位置に相当する位置に出現頻度40%以上で欠失が認められる場合、上記手順
による改変後のアミノ酸配列において最初のメチオニンを開始メチオニンとして選択し、
それ以前のアミノ酸配列を削除した。このように最もN末端側のコンセンサス残基が該目
的の嗅覚受容体のN末端又はそれよりもC末端側に相当する位置のコンセンサス残基であ
り且つメチオニン残基でない場合、最もN末端に近い位置のメチオニン残基からなるコン
センサス残基よりN末端側のコンセンサス残基をコンセンサス残基なしに変更した。一方
で、基準となるオリジナルのヒト嗅覚受容体アミノ酸配列の欠失位置に相当する位置に出
現頻度が60%以上でアミノ酸が存在する場合に該基準アミノ酸配列の欠失位置に最も保
存性の高いアミノ酸を挿入するよう改変した。例えば、基準となるオリジナルのヒト嗅覚
受容体のアミノ酸配列のC末端の欠失位置に相当する位置に出現頻度が60%以上でコン
センサスアミノ酸が存在する場合、C末端に最も保存性の高いアミノ酸を挿入するよう改
変した。最も保存性の高いアミノ酸が2種以上ある場合は、最も分子量が小さいアミノ酸
を挿入するように改変した。
設計における嗅覚受容体のトポロジーの確認は、TMHMM(Transmembra
ne Hidden Markov Model)を使用した。デザインした各種嗅覚受
容体ポリペプチドをコードするDNA配列は、そのアミノ酸配列に対応する塩基配列コド
ンをヒト培養細胞での発現用に最適化した上でDNA合成により獲得した。この塩基配列
の両末端にはEcoRI、XhoIサイトを付加しており、pME18Sベクター上のF
lag-Rhoタグ配列の下流に作製したEcoRI、XhoIサイトへと組換えた。培
養細胞内で作られた嗅覚受容体タンパク質を細胞膜上へ移行するヒトRTP1Sをコード
する遺伝子を、別のpME18SベクターのEcoRI、XhoIサイトへ組込み、pM
E18S-RTP1Sベクターを作製した。
Figure 2024015143000011
2)嗅覚受容体遺伝子で形質転換した培養細胞の作製
ルシフェラーゼアッセイのために、表4に示す組成の反応液を調製し、クリーンベンチ
内で20分静置した後、96ウェルプレート(BD)の各ウェルに添加した。次いで、D
MEM(Nacalai)で懸濁させたHEK293細胞を100μLずつ各ウェルに2
×10細胞/cmで播種し、37℃、5%COを保持したインキュベータ内で24
時間培養した。対照として、嗅覚受容体を発現させない細胞(mock)を用意した。
Flowcytometry法のために、6 well dishのそれぞれのwel
lに、3.3×10cellsを播種して24時間後に、表5に示す組成の反応液を調
製し、クリーンベンチ内で20分静置した後、6 well dishの各ウェルに添加
した。37℃、5%COを保持したインキュベータ内で24時間培養した。図3に示す
実験において、OR7A17及びOR7D4のオリジナルの受容体に関しては42時間培
養した。対照として、受容体を発現させない細胞(mock)を用意した。
Figure 2024015143000012
Figure 2024015143000013
3)細胞膜上の嗅覚受容体タンパク量の測定(Flowcytometry法)
Cellstripperを用いて回収した細胞に一次抗体として抗FLAG抗体(コ
スモバイオ社)を1時間氷上で作用させた。細胞を洗浄後、二次抗体としてPE(phy
coerythrin)-conjugated anti-mouse IgG(アブ
カム株式会社)を30分間氷上で作用させた。洗浄後0.25μgの7-AAD(7-A
minoactinomycin D、富士フイルム和光純薬株式会社)を添加してフロ
ーサイトメトリーシステム(BD)により7-AADが陰性である細胞集団のPEシグナ
ルの平均値を、細胞膜上の受容体量の指標として測定した。各実験回で、FLAG-M2
アセチルコリン受容体を発現させた細胞を陽性コントロール(PC)として、受容体を発
現させない細胞を陰性コントロール(NC)として上記と同様にPEシグナルの平均値を
求めた。NCのPEシグナルを0%、PCのPEシグナルを100%として基準化を行い
、各種嗅覚受容体のPEシグナル(%)を膜発現量(Cell surface exp
ression)として図示した。
4)ルシフェラーゼアッセイ
上記2)で作製した培養物から、培地を取り除き、新しい培地で調製した所定の濃度の
試験物質溶液を75μL添加した。細胞をCOインキュベータ内で4時間培養し、ルシ
フェラーゼ遺伝子を細胞内で十分に発現させた。ルシフェラーゼ活性は、Dual-Gl
TMluciferase assay system(Promega)を用いて、
製品の操作マニュアルに従って測定した。96ウェルプレートの各ウェルにおいて、試験
物質刺激により誘導されたホタルルシフェラーゼ由来の発光値をウミシイタケルシフェラ
ーゼ由来の発光値で除した値をシグナルとして算出し解析に用いた。各トランスフェクシ
ョン条件でのシグナルに対して、刺激を行わない条件のシグナルを0%、30μMホルス
コリンで刺激した時のシグナルを100%として基準化を行い、Response(%)
として解析に用いた。
5)結果
(i)嗅覚受容体のコンセンサス化
はじめに、既にリガンドと対応付けられている嗅覚受容体を9種類(OR2A25、O
R2T11、OR2W1、OR4Q3、OR4S2、OR6Y1、OR7D4、OR7A
17、OR11H4)選択し、コンセンサス化をテストした。リガンドが既知の受容体を
選択することは、もし膜発現量が実験的に検出できない範囲で向上した場合にも、リガン
ド応答性を指標に推し量る手段をとることができる点で重要である。
次に、選択した嗅覚受容体に対し、進化的にどの程度の範囲の相同遺伝子を対象にコン
センサスアミノ酸を決定するのかについて、次の3種類を選択した。(a)Primat
e ortholog=霊長類オルソログ、(b)Primate ortholog/
paralog=霊長類のオルソログ及び最も近縁のパラログ、(c)Ortholog
=オルソログ。
表6に、各嗅覚受容体について、コンセンサス嗅覚受容体の作製のために導入したアミ
ノ酸置換数、参照遺伝子数(オリジナルの嗅覚受容体遺伝子と、特定した霊長類オルソロ
グ、霊長類のオルソログ及び最も近縁のパラログ、あるいはオルソログとの合計数)とそ
れらのうち最小の相同性を示す。(c)の参照遺伝子数の括弧内の数は、参照遺伝子数の
うち霊長類のオルソログの数を表す。前記9種の嗅覚受容体に対してコンセンサス嗅覚受
容体をデザインした結果、(a)の方法ではオリジナルのヒト嗅覚受容体(平均307ア
ミノ酸)に導入した置換は平均9.3アミノ酸であるが、(b)や(c)ではそれぞれ平
均27.1、19.9アミノ酸と増加し、より多様な遺伝子の中でのコンセンサスが反映
されたことになる。いずれの方法においても、コンセンサスアミノ酸を決定するために用
いた相同遺伝子の数は、膜発現増加が認められなかったOR7A17のPrimate
orthologの7遺伝子を除いて、非特許文献2の10遺伝子と比べて多数である。
Figure 2024015143000014
(ii)コンセンサス化による膜発現量の増加
Flowcytometry法を用いた解析の結果、9種類全ての嗅覚受容体が、3種
類いずれかのコンセンサス化方法で膜発現量を顕著に増加させた(図1及び表7)。言い
換えれば、3種類のコンセンサス化を全て適用すれば確率の上では100%の嗅覚受容体
について膜発現量を増加させられる可能性を示した。オリジナルのヒト嗅覚受容体と比べ
て、膜発現量の平均値に増加が生じた嗅覚受容体の数は、(a)Primate ort
hologの方法で7個(約78%)、(b)Primate ortholog/pa
ralogの方法で8個(約89%)、(c)Orthologの方法で9個(100%
)であり、非特許文献2で応答解析に成功した割合3個中1個(約33%)よりも汎用性
が高い可能性が見出された。なお、膜発現量の増加を示したコンセンサス嗅覚受容体群は
必ずしも共通するアミノ酸部位にコンセンサス化が導入されたわけではなかったことから
、受容体の種類によってコンセンサス化するべきアミノ酸部位は異なることが判明した。
Figure 2024015143000015
(iii)コンセンサス化によるにおい応答性の向上
次に、膜発現量の向上がにおい応答性の高感度化に繋がるのかを検証するため、各受容
体についてリガンド応答性を測定した(図1)。結果として分かったことは次の2つであ
る。コンセンサス化により膜発現量が向上するとほぼ全てのケースで応答性は高まる。膜
発現量の向上度合いと応答性の上昇度合いは単純な比例関係にはなく、膜発現量がわずか
でも向上すれば応答性は十分に向上することがある。後者は例えば、2T11、6Y1、
11H4のように、コンセンサス化による膜発現量の増加に伴いリガンド応答性の上昇が
認められるケースがある一方で、2W1のように、コンセンサス化によってオリジナルの
ヒト受容体と比して膜発現量が増加しても、リガンド応答性については上昇が認められな
いケースがあった。オリジナルのヒトOR2W1はそれ自体が十分な膜発現量を示し、膜
発現量がそれ以上増加しても発生する細胞内シグナルに増幅の余地がないのかもしれない
。そして2A25の(b)Primate ortholog/paralogsのコン
センサス受容体や7D4の(c)Orthologのコンセンサス受容体のように、オリ
ジナルのヒト受容体と比べて膜発現量の増加がわずかであっても、十分にリガンド応答性
が上昇する例が認められた。
(iv)コンセンサス化によるリガンド選択性の変化
コンセンサス化のようにアミノ酸改変を導入するアプローチには、オリジナルの嗅覚受
容体のリガンド結合部位を変化させ、その結果、本来のにおい応答性を観察させなくなる
懸念があった。
そこで、今回選択した9種類の嗅覚受容体のうち、アゴニストが複数判明していた5種
類の受容体2A25、2T11、2W1、11H4、7D4について、2種類のアゴニス
トへの親和性の序列が(a)、(b)又は(c)のコンセンサス化によって変化するか否
かを調べた(図2)。いずれのコンセンサス化によってもオリジナルの受容体と同じ親和
性の序列を維持していることが明らかになった。例えば2A25はGeranyl fo
rmateと比べてGeraniolに対してより低濃度から応答するが、その応答選択
性は3パターンのコンセンサス受容体でも維持されていることが判明した。
コンセンサス化によりリガンド選択性に変化が生じる可能性についてさらに検証するた
めに、既知のアゴニスト自体とその構造類似物質を多数用いて試験し(表8)、応答性の
序列がコンセンサス化によって変化するか否かを調べた(図3)。その結果、全ての嗅覚
受容体で、オリジナルのヒト受容体に対して最も高い応答を生じさせた匂い物質は、それ
らのコンセンサス受容体に対しても最も高い応答を引き起こした。加えて、オリジナルの
ヒト受容体が応答する匂い物質に対して、コンセンサス化によって応答しなくなる例は認
められなかったことからも、概してリガンド選択性は維持されていると解釈できる。また
、6Y1の例のように、コンセンサス化によって膜発現量が増加した場合、オリジナルの
ヒト受容体では応答が認められなかった匂い物質についてコンセンサス化によって応答が
認められるようになるケースが複数得られた。この結果は、一見リガンド選択性が変化し
たことによりもたらされた結果のようにも思わせるが、そうではなく、全体的な応答性が
上昇したことによって、オリジナルの嗅覚受容体が嗅神経細胞上では応答できるリガンド
への応答を評価可能になったと考えることができる。実際に非特許文献2にて開示される
ように、6Y1が匂い物質#5のジアセチルに応答することは、官能評価によって測定さ
れた嗅覚現象(ジアセチルのにおいを強く感じる人と弱く感じる人との間で異なる遺伝子
は6Y1)をよく説明する妥当な結果である。これは、コンセンサス化によって初めて応
答測定可能になった匂い物質が、単なるバックグラウンドではなく、ヒトの嗅覚感覚を正
しく反映するものであることの実例である。このことは以下に述べる実施例でもさらに支
持されることになる。
一方で、7A17について、オリジナルのヒト受容体では匂い物質#4と比べて#6が
より大きな応答を引き起こしたが、(c)Orthologの方法によるコンセンサス化
を適用した場合、その序列が逆転する傾向が認められるなど、応答選択性が完全に同一に
はならない例も複数判明した。しかし、このような膜発現量の増加に伴うリガンド選択性
の変化は、先行研究において報告されているような妥当なものと考えられる。例えば、Z
huangらによる報告(J Biol Chem. 2007 May 18;282(20):15284-93)では、同じ嗅
覚受容体について培養細胞膜上の発現量を変化させた際のリガンド選択性の変化を解析し
た結果、変化が認められたことを報告している。その変化の妥当性について、嗅覚受容体
を含むGタンパク質共役型受容体では、膜発現量の増加に伴い細胞内シグナルが増幅され
る場合、特に微弱にしかアゴニスト活性をもたないリガンドに対する応答検出が顕著に高
感度化するという先行知見を引用して議論されている。重要なことに、嗅神経細胞上には
嗅覚受容体は高発現していることから、培養細胞膜上においても高発現条件下にある嗅覚
受容体が示すリガンド選択性が、生理的な嗅覚受容体の性質を反映するものだと考察され
ている。
Figure 2024015143000016
実施例2:これまで機能解析できなかった嗅覚受容体へのコンセンサス化の有効性1
以上の検討は、これまでリガンドが特定されるなど、培養細胞の膜上に発現させられ機
能解析が可能な嗅覚受容体について実施した検討である。本発明によるコンセンサス化が
、実際にこれまで解析されていなかった嗅覚受容体に対してどれ程有効なのかを検証した

非特許文献2及びErikssonらによる報告(Flavour 1:22(2012))では、個々の
においについて感じ方の異なる集団について、比較ゲノム解析を実施することにより、当
該におい物質への感受性を担う嗅覚受容体の候補を報告している。言い換えれば、これら
報告は嗅覚受容体のリガンド候補物質を特定したものであるが、それにも関わらずリガン
ド候補物質への応答性を実証することができていない嗅覚受容体を34種類(表10のヒ
ト嗅覚受容体)残している。そして、応答測定に成功しない理由として、これら34種類
の嗅覚受容体はそもそも偽陽性すなわち正しいリガンド物質を特定できていなかった可能
性と共に、正しいリガンド物質を特定できているが培養細胞での膜発現が非効率であるた
めに応答を検出できなかった可能性が指摘されている。そこで、これら34種類の嗅覚受
容体について、上記(a)~(c)の3パターンのコンセンサス化のうち、11H1以外
の嗅覚受容体には(c)Orthologの方法によるコンセンサス化を適用し、11H
1には(d)の方法によるコンセンサス化を適用した。
(d)の方法によるコンセンサス化では、目的の嗅覚受容体と相同性がより高いかつオ
ルソログを少なくとも11種類特定可能なパラログを特定し、該パラログのオルソログ群
を選択した。ヒトOR11H1を目的の嗅覚受容体としたとき、ヒトOR11H1(NP
_001005239)のアミノ酸配列をquery配列とした以外は実施例1の(c)
の場合と同様にしてオルソログ群の特定を試みたが、オルソログ群として6遺伝子しか選
択されなかった。そこでヒトOR11H1のアミノ酸配列をquery配列として検索さ
れた相同性上位の250遺伝子の中から、ヒトOR11H1と相同性が高いパラログであ
るヒトOR11H12(NP_001013372.1)に着目し、ヒトOR11H1と
相同性が高いOR11H12のオルソログ群を特定し、90遺伝子をオルソログとして選
択した。これら90遺伝子にヒトOR11H1及びヒトOR11H1のオルソログ6遺伝
子、ヒトOR11H12を加えた計98遺伝子のアミノ酸配列(表9)について実施例1
と同様にしてアラインメント解析及びコンセンサスアミノ酸の特定を行い、嗅覚受容体を
コンセンサス化した。
Figure 2024015143000017
表10に、コンセンサス嗅覚受容体の作製のために使用した参照遺伝子数(オリジナル
の嗅覚受容体遺伝子と特定したオルソログとの合計数)を示す。嗅覚受容体のうち、2W
3、2Y1、3A2、4C15、4D5、4D6、4F15、10D3、10Q1、11
H1及び13G1についてはn=4で、それ以外の嗅覚受容体についてはn=3で試験し
た。それら受容体の細胞膜上の発現量を測定したところ、29個(約85%)の受容体に
ついて平均値として増加が認められた(図4及び表11)。このことから、コンセンサス
化により、これまで解析不可能であった受容体の多くについて機能解析が可能になると考
えられた。膜発現量が増加しなかった残りの5受容体に関しても、(a)もしくは(b)
のコンセンサス化を適用することで、増加する可能性がある。
Figure 2024015143000018
Figure 2024015143000019
続いて、コンセンサス化による膜発現量の増加が、実際に応答測定の成功をもたらすの
かを検証した。非特許文献2の中では、イソブチルアルデヒドの感受性と関連する嗅覚受
容体として6B2、シトラールについては5C1、イソオイゲノールについて10D3が
報告されている。これら嗅覚受容体を培養細胞に発現させ、対応するにおい物質に対する
応答性を実証することには成功していなかったが、今回これら嗅覚受容体に(c)Ort
hologの方法によるコンセンサス化を適用し、応答解析を実施したところ、コンセン
サス化によって初めて応答を検出可能になる例が得られた(図5)。重要なことに、6B
2は、非特許文献2において10種の哺乳類でのコンセンサス化が試されたものの、イソ
ブチルアルデヒドに対する応答解析の成功が報告されなかった受容体である。本発明によ
るコンセンサス化は、既報よりも高い汎用性を持つ方法として6B2を解析可能とした。
同様に、Erikssonらによる報告(Flavour 1:22(2012))では、パクチーを由来
とするにおいに対する感じ方の個人差を説明する嗅覚受容体候補として8つ(2AG2、
2AG1、6A2、10A2、10A5、10A4、2D2、2D3)が特定されたが、
実際にどの受容体がパクチーを由来とするにおい物質の受容体なのか機能解析に成功して
いなかった。そこで本研究ではそれら8受容体に(c)Orthologのコンセンサス
化を適用し、パクチーの主要香気成分((E)-2-decenal、(E)-2-do
decenal)に対する応答解析を実施した(図6)。その結果、コンセンサス化を適
用することによって初めて、10A2と10A4がそれらにおい物質を認識できることを
明らかにした。
実施例3:これまで機能解析できなかった嗅覚受容体へのコンセンサス化の有効性2
図5、図6で新たに特定されたヒト嗅覚受容体それぞれについて、(c)のコンセンサ
ス化を適用した上で個人差が報告されるアミノ酸配列を導入し、官能評価での個人差に符
合する応答性が得られるかを検証した(図7)。
例えば、OR10A2は、NP_001004460.1で登録されるアミノ酸配列の
出現頻度が集団の68%であるのに対して、H43R、H207R、K258Tの3変異
を有するアミノ酸配列が32%で出現することが報告されている(出現頻度は1000
genomes project phase 3 allele frequenci
esより)。なお、3か所の変異のうち、H207Rは(c)の方法で同定されるコンセ
ンサスアミノ酸でもある。集団に認められるこれら二種類のアミノ酸配列型は、それぞれ
パクチーの主要香気成分((E)-2-decenal、(E)-2-dodecena
l)に対する応答性に変化をもたらし、その結果としてヒトがパクチーの香りを不快な石
鹸様として感じるか否かの違いをもたらしていると予想される。実験の結果、予想通りH
43R、H207R、K258Tの変異型では、上記香気成分に対する応答性が顕著に低
いことが判明した。上記香気成分に対する応答性が10A2よりも低かった嗅覚受容体1
0A4にも集団の31%に出現するR262Q変異型が報告されるが、この変異型は上記
香気成分に応答性の変化をもたらさなかった。したがって、パクチーの香りの感じ方の個
人差を説明する受容体として、コンセンサス化方法の適用により初めて、10A2を特定
することが可能になった。
同様に6B2に関しても、R122CかつC179Rの変異型が集団(非特許文献2で
の試験参加者)の1%に認められ、この集団は非特許文献2によれば、低濃度のイソブチ
ルアルデヒドのにおいを強く感じることができない。この官能評価での個人差に符合して
、コンセンサス嗅覚受容体6B2にR122CかつC179Rの変異を導入すると、イソ
ブチルアルデヒドへの応答性が顕著に低下することが確認された。
5C1に関しては、N5Kの変異型が集団(1000 genomes projec
t phase 3 allele frequencies)の1%に認められ、この
集団は非特許文献2によれば、低濃度のシトラールのにおいを強く感じることができない
。この官能評価での個人差に符合して、コンセンサス嗅覚受容体5C1にN5Kの変異を
導入すると、シトラールへの応答性が顕著に低下することが確認された。
以上より、本発明のコンセンサス化方法は、ヒトの嗅覚を推し量るうえで極めて有効で
あることが判明した。
実施例4:コンセンサス化方法の適用可能範囲1
嗅覚受容体遺伝子ファミリーは非常に多様性に富んだ遺伝子群であり、異なるファミリ
ー間の嗅覚受容体同士の相同性は40%を下回る。したがって、個々の嗅覚受容体はまる
で異なるGタンパク質共役型受容体とも考えられる。そこで、本発明のコンセンサス化方
法の嗅覚受容体全般に対する有効性、すなわち、本発明のコンセンサス化方法の適用可能
範囲を明確にするべくさらなる検証を行った。上記の実施例1の9種類及び実施例2の3
4種類以外の嗅覚受容体群について検証を行った。具体的には、対象とする嗅覚受容体(
図8及び表12の58種類のヒト嗅覚受容体)に対して、(c)Orthologもしく
は(d)の方法によるコンセンサス化を適用した。OR2T7及びOR4F5以外の嗅覚
受容体には(c)のコンセンサス化を適用し、OR2T7及びOR4F5には(d)のコ
ンセンサス化を適用した。
(c)のコンセンサス化を適用した嗅覚受容体のうち、OR7E24については、最も
N末端側のコンセンサス残基が基準となるオリジナルのヒトOR7E24のN末端よりも
C末端側に相当する位置のコンセンサス残基であり且つメチオニン残基ではないため、最
もN末端に近い位置のメチオニン残基からなるコンセンサス残基よりN末端側のコンセン
サス残基をコンセンサス残基なしに変更すると、その結果として生じるコンセンサス受容
体のアミノ酸配列の全長がオリジナルのヒトOR7E24のアミノ酸配列の全長より10
%以上短くなるので、この方法に代えて最もN末端に近いコンセンサス残基をメチオニン
に置換した。
(d)の方法によるコンセンサス化では、ヒトOR4F5を目的の嗅覚受容体としたと
き、ヒトOR4F5(NP_001005484.2)のアミノ酸配列をquery配列
とした以外は実施例1の(c)の場合と同様にしてオルソログ群の特定を試みたが、OR
4F5のオルソログは他の生物種から特定されなかった。そこでヒトOR4F5のアミノ
酸配列をquery配列として検索された相同性上位の250遺伝子の中から、ヒトOR
4F5と相同性が高いパラログであるヒトOR4F4(NP_001004195.2)
に着目し、ヒトOR4F5と相同性が高いOR4F4のオルソログ群を特定し、99遺伝
子をオルソログとして選択した。これら99遺伝子にヒトOR4F5及びヒトOR4F4
を加えた計101遺伝子のアミノ酸配列について実施例1と同様にしてアラインメント解
析及びコンセンサスアミノ酸の特定を行い、嗅覚受容体をコンセンサス化した。
ヒトOR2T7を目的の嗅覚受容体としたとき、ヒトOR2T7(NP_001372
981.1)のアミノ酸配列をquery配列とした以外は実施例1の(c)の場合と同
様にしてオルソログ群の特定を試みたが、オルソログ群として5遺伝子しか選択されなか
った。そこでヒトOR2T7のアミノ酸配列をquery配列として検索された相同性上
位の250遺伝子の中から、ヒトOR2T7と最も相同性が高いパラログであるヒトOR
2T27に着目し、オルソログ群を特定したところ、100遺伝子がオルソログ群として
選択された。これら105遺伝子にヒトOR2T7及びヒトOR2T27を加えた計10
7遺伝子のアミノ酸配列について実施例1と同様にしてアラインメント解析及びコンセン
サスアミノ酸の特定を行い、嗅覚受容体をコンセンサス化した。
(c)もしくは(d)の方法によって、膜発現量が増加した例を図8及び表12に示す
。表13に、コンセンサス嗅覚受容体の作製のために使用した参照遺伝子数(オリジナル
の嗅覚受容体遺伝子と、特定したオルソログあるいはオルソログとパラログとの合計数)
を示す。図8及び表12の結果より、本発明のコンセンサス化方法により、極めて多数の
嗅覚受容体の膜発現量を増加できることが明らかになった。
Figure 2024015143000020
Figure 2024015143000021
実施例5:コンセンサス化方法の適用可能範囲2
上記の実施例1の9種類、実施例2の34種類、及び実施例4の58種類以外の嗅覚受
容体群についてコンセンサス化方法の適用可能性の検証を行った。具体的には、対象とす
る嗅覚受容体(表14及び15の156種類のヒト嗅覚受容体)に対して、(c)Ort
hologもしくは(d)の方法によるコンセンサス化を適用した。OR1D4、OR3
A3、OR11H2、OR51A2及びOR52E6以外の嗅覚受容体には(c)のコン
センサス化を適用し、OR1D4、OR3A3、OR11H2、OR51A2及びOR5
2E6には(d)のコンセンサス化を適用した。
(c)のコンセンサス化を適用した嗅覚受容体のうち、OR9K2については、コンセ
ンサス受容体のアミノ酸配列の全長がオリジナルのヒト嗅覚受容体のアミノ酸配列の全長
よりN末端側に10%以上長くなるので、コンセンサス受容体のアミノ酸配列においてオ
リジナルのヒト嗅覚受容体のN末端構造をそのまま維持した。
(c)もしくは(d)の方法によって、膜発現量が増加した例を表14及び15に示す
(n=3)。表16に、コンセンサス嗅覚受容体の作製のために使用した参照遺伝子数(
オリジナルの嗅覚受容体遺伝子と、特定したオルソログあるいはオルソログとパラログと
の合計数)を示す。表14及び15の結果より、本発明のコンセンサス化方法により、極
めて多数の嗅覚受容体の膜発現量を増加できることが明らかになった。
Figure 2024015143000022
Figure 2024015143000023
Figure 2024015143000024
実施例6:コンセンサス化方法の適用可能範囲3
上記の実施例1の9種類、実施例2の34種類、実施例4の58種類、及び実施例5の
156種類以外の嗅覚受容体群についてコンセンサス化方法の適用可能性の検証を行った
。具体的には、対象とする嗅覚受容体(表17の50種類のヒト嗅覚受容体)に対して、
(c)Orthologもしくは(d)の方法によるコンセンサス化を適用した。OR8
H2以外の嗅覚受容体には(c)のコンセンサス化を適用し、OR8H2には(d)のコ
ンセンサス化を適用した。
(c)のコンセンサス化を適用した嗅覚受容体のうち、OR5I1については、最もN
末端側のコンセンサス残基が基準となるオリジナルのヒトOR5I1のN末端よりもC末
端側に相当する位置のコンセンサス残基であり且つメチオニン残基ではないため、最もN
末端に近い位置のメチオニン残基からなるコンセンサス残基よりN末端側のコンセンサス
残基をコンセンサス残基なしに変更すると、その結果として生じるコンセンサス受容体の
アミノ酸配列の全長がオリジナルのヒトOR5I1のアミノ酸配列の全長より10%以上
短くなるので、この方法に代えて最もN末端に近いコンセンサス残基をメチオニンに置換
した。
(c)もしくは(d)の方法によって、膜発現量が増加した例を表17に示す(n=3
)。表18に、コンセンサス嗅覚受容体の作製のために使用した参照遺伝子数(オリジナ
ルの嗅覚受容体遺伝子と、特定したオルソログあるいはオルソログとパラログとの合計数
)を示す。表17の結果より、本発明のコンセンサス化方法により、極めて多数の嗅覚受
容体の膜発現量を増加できることが明らかになった。
Figure 2024015143000025
Figure 2024015143000026
実施例7:コンセンサス化方法の適用可能範囲4
ムスク受容体として詳細な解析がなされているOR5AN1に対して(c)Ortho
logの方法によるコンセンサス化を適用した。ところが、コンセンサス化によっても膜
発現量に増加は認められなかった(図9A,B)。一方で、オリジナルのOR5AN1と
コンセンサスOR5AN1との間で既知のアゴニストに対する応答性を比較すると、コン
センサス化による応答性の上昇が認められた(図9C,Dのにおい物質#1-8)。用い
たにおい物質は表19に示す。におい物質#7と#8は、オリジナルのOR5AN1に応
答を引き起こさなかったが、コンセンサスOR5AN1に応答を引き起こした。この結果
は、一見コンセンサス化によってリガンド選択性がオリジナルのものから変化してしまっ
た可能性を思わせるが、その可能性は低いと考えられる。なぜならにおい物質#7と#8
は、Sato-Akuharaらによる報告(J Neurosci. 36(16):4482-4491(2016))に
おいてオリジナルのOR5AN1に弱いながらも応答を引き起こせることが示されている
。したがって、オリジナルのOR5AN1からにおい物質#7と#8に対する応答が認め
られなかった原因は、本評価系が先行研究のものと比べて低感度であるためだと考えられ
る。これに対し、コンセンサス化によって応答が認められた結果は、リガンド選択性に異
常が生じたことを示すものではなく、本来のアゴニストに対する応答感度の上昇を示すも
のと考えられる。におい物質#9-21には、OR5AN1アゴニストと化学構造もしく
は匂いの質が類似する物質が含まれており、さらにSato-Akuharaらによる報
告においてOR5AN1を活性化しない物質が含まれている。これらについて応答測定を
行った結果、オリジナルのOR5AN1が認識しない物質に対してはコンセンサスOR5
AN1も応答しないことが示され、コンセンサス化によってリガンド選択性が大きく変化
しないことがさらに支持された。膜発現量が増加しないにも関わらず応答性を上昇させる
コンセンサス化の例はOR5AN1に限定的なものではなく、図1のOR4S2(Pri
mate ortholog/paralog)、OR7A17(Primate or
tholog)に関しても認められている。これらコンセンサス化は、受容体タンパクの
活性化型構造への移行効率や、Gタンパク質との共役効率などを高めている等の可能性が
考えられる。以上より、本発明のコンセンサス化法は、膜発現量を増加させなかったとし
ても、嗅覚受容体の機能を高感度に解析するために有効な場合があることが示された。
Figure 2024015143000027
実施例8:コンセンサス化方法の適用可能範囲5
マウスの嗅覚受容体の解析にもコンセンサス化が有効であることを確認した。古くから
解析されてきた代表的なマウス嗅覚受容体としてM71(Olfr151,MOR171
-2)に注目し、(c)Orthologの方法によるコンセンサス化を適用した。すな
わち、M71のアミノ酸配列と相同性が高い249遺伝子を選択し、コンセンサスアミノ
酸配列の決定を行った。コンセンサス化したM71を、ヒト嗅覚受容体と同様にpME1
8SベクターのFLAGタグ、Rhoタグの下流に挿入し、HEK293細胞にトランス
フェクションした。そして、24時間後に細胞膜上に発現するタンパク量を測定した(n
=3)。その結果、オリジナルのM71の膜発現量(Cell surface exp
ression(%))が0.78±0.07(平均±SEM)であったのに対して、コ
ンセンサス化M71では3.20±0.19と増加が認められた。したがって、コンセン
サス化はヒト以外の生物種の嗅覚受容体にも有効であることが示された。
実施例9:硫黄化合物に応答する嗅覚受容体の同定
1)嗅覚受容体発現細胞の作製
上記実施例にて作製したコンセンサス嗅覚受容体について、上記表4に示す組成の反応
液を調製し、クリーンベンチ内で20分静置した後、96ウェルプレート(BD)の各ウ
ェルに添加した。尚、OR4S2についてはオリジナルの嗅覚受容体を用いた。また、O
R11H2、OR4E2については、表20に示す組成を用いた。次いで、DMEM(N
acalai)で懸濁させたHEK293細胞を100μLずつ各ウェルに2×10
胞/cmで播種し、37℃、5%COを保持したインキュベータ内で24時間培養し
た。対照として、嗅覚受容体を発現させない細胞(Mock)を用意した。
Figure 2024015143000028
2)ルシフェラーゼアッセイ
上記1)で作製した培養物から、培地を取り除き、新しい培地で調製した試験物質溶液
(メチルメルカプタン(MeSH)(CAS:74-93-1、東京化成工業)、ジメチ
ルスルフィド(DMS)(CAS:75-18-3、富士フイルム和光純薬)、ジメチル
ジスルフィド(DMDS)(CAS:624-92-0、東京化成工業)、濃度範囲0μ
M、1μM、3μM、10μM、30μM、100μM、300μM、又はジメチルトリ
スルフィド(DMTS)(CAS:3658-80-8、東京化成工業)、濃度範囲0μ
M、0.1μM、0.3μM、1μM、3μM、10μM、30μM)を75μL添加し
た。銅イオン添加条件においては、上記におい物質に加えて塩化銅(II)(富士フイル
ム和光純薬)を30μM含むように調整したものを試験物質溶液とした。細胞をCO
ンキュベータ内で4時間培養し、ルシフェラーゼ遺伝子を細胞内で十分に発現させた。ル
シフェラーゼ活性は、Dual-GloTMluciferase assay sys
tem(Promega)を用いて、製品の操作マニュアルに従って測定した。96ウェ
ルプレートの各ウェルにおいて、試験物質刺激により誘導されたホタルルシフェラーゼ由
来の発光値をウミシイタケルシフェラーゼ由来の発光値で除した値(fluc/hRlu
c)をシグナルとして算出し解析に用いた。各トランスフェクション条件でのシグナルに
対して、におい物質による刺激を行わない条件のシグナル値(fluc/hRluc)を
0%、10μMホルスコリンで刺激した時のシグナル値(fluc/hRluc)を10
0%として基準化を行い、Response(%)として解析に用いた。
3)結果
試験した嗅覚受容体のうち、銅イオン存在下で、メチルメルカプタン、ジメチルスルフ
ィド、ジメチルジスルフィド又はジメチルトリスルフィドに応答した嗅覚受容体を図10
に示す。図10には個々の嗅覚受容体について各濃度のメチルメルカプタン、ジメチルス
ルフィド、ジメチルジスルフィド又はジメチルトリスルフィドに対する応答値を示す。各
嗅覚受容体は、OR4S2を除いて、コンセンサス嗅覚受容体である。試験した最高濃度
300μM(DMTSは30μM)に対する各嗅覚受容体の応答値(Response(
%))と、受容体を発現させないMock条件の細胞の応答値(Response(%)
)との間には統計学上有意な差が認められた(Student’s t-test、P<
0.05)。なお、各嗅覚受容体において、におい物質による刺激を行わない条件のシグ
ナル値(fluc/hRluc)と、最高濃度300μM(DMTSは30μM)で刺激
した条件のシグナル値(fluc/hRluc)を比較しても同じ統計学手法における有
意差が認められた。表21~24中の数値は、Response(%)値をシグモイド曲
線に回帰することにより算出されたEC50(μM)である。図10に挙げられているが
、表21~24でEC50(μM)の記載がない嗅覚受容体は、メチルメルカプタン、ジ
メチルスルフィド、ジメチルジスルフィド又はジメチルトリスルフィドに応答できる受容
体であるものの、今回試験した濃度範囲ではシグモイド曲線に回帰するために十分なデー
タが得られず、EC50が算出されなかったことを意味する。したがって、コンセンサス
OR2T29、コンセンサスOR4K17、コンセンサスOR2T27、コンセンサスO
R2T5、コンセンサスOR2T4、コンセンサスOR11H2、コンセンサスOR6B
3、コンセンサスOR12D3、コンセンサスOR2T11、OR4S2、コンセンサス
OR2T1、コンセンサスOR4C15、コンセンサスOR4E2及びコンセンサスOR
2L13は、メチルメルカプタンに応答した。なかでも、コンセンサスOR2T29、コ
ンセンサスOR2T5、コンセンサスOR2T4、コンセンサスOR2T11、コンセン
サスOR2T1及びコンセンサスOR4E2については、メチルメルカプタンに対する用
量依存的な応答も確認した。また、コンセンサスOR4K17、コンセンサスOR11H
2、OR4S2、コンセンサスOR4C15及びコンセンサスOR4E2は、ジメチルス
ルフィドに用量依存的に応答した。また、コンセンサスOR2T29、コンセンサスOR
4K17、コンセンサスOR2T27、コンセンサスOR2T5、コンセンサスOR2T
4、コンセンサスOR11H2、コンセンサスOR6B3、コンセンサスOR12D3、
コンセンサスOR2T11、OR4S2、コンセンサスOR2T1、コンセンサスOR4
C15、コンセンサスOR4E2及びコンセンサスOR2L13は、ジメチルジスルフィ
ドに応答した。なかでも、コンセンサスOR4K17、コンセンサスOR6B3、コンセ
ンサスOR2T11、OR4S2、コンセンサスOR4C15及びコンセンサスOR4E
2については、ジメチルジスルフィドに対する用量依存的な応答も確認した。さらに、コ
ンセンサスOR2T29、コンセンサスOR2T4、コンセンサスOR11H2、コンセ
ンサスOR6B3、コンセンサスOR12D3、コンセンサスOR6B1、コンセンサス
OR2T11、OR4S2、コンセンサスOR2T1、コンセンサスOR4C15、コン
センサスOR4E2及びコンセンサスOR2L13は、ジメチルトリスルフィドに応答し
た。なかでも、コンセンサスOR2T11、OR4S2及びコンセンサスOR4E2につ
いては、ジメチルトリスルフィド対する用量依存的な応答も確認した。例えば、OR2T
11及びOR2T1が金属イオン存在下でメチルメルカプタンに応答することは知られて
おり(特許第6122181号公報)、コンセンサスOR2T11及びコンセンサスOR
2T1がメチルメルカプタンに応答するとの結果は斯かる知見と整合するものである。よ
って、コンセンサスOR2T29、コンセンサスOR4K17、コンセンサスOR2T2
7、コンセンサスOR2T5、コンセンサスOR2T4、コンセンサスOR11H2、コ
ンセンサスOR6B3、コンセンサスOR12D3、コンセンサスOR6B1、コンセン
サスOR2T11、OR4S2、コンセンサスOR2T1、コンセンサスOR4C15、
コンセンサスOR4E2及びコンセンサスOR2L13がメチルメルカプタン、ジメチル
スルフィド、ジメチルジスルフィド及びジメチルトリスルフィドからなる群より選択され
る少なくとも1種の硫黄化合物に応答することが判明した。
Figure 2024015143000029
Figure 2024015143000030
Figure 2024015143000031
Figure 2024015143000032
また、試験した嗅覚受容体のうち、銅イオン存在下において銅イオン非存在下に比べ、
メチルメルカプタン、ジメチルスルフィド、ジメチルジスルフィド又はジメチルトリスル
フィドに対する応答性が向上した嗅覚受容体を図11に示す。図11には個々の嗅覚受容
体について100μMのメチルメルカプタン、ジメチルスルフィド、ジメチルジスルフィ
ド又はジメチルトリスルフィドに対するシグナル値を示す。各嗅覚受容体は、OR4S2
を除いて、コンセンサス嗅覚受容体である。コンセンサスOR2T29、コンセンサスO
R4K17、コンセンサスOR2T27、コンセンサスOR2T5、コンセンサスOR2
T4、コンセンサスOR2T11、OR4S2、コンセンサスOR2T1、コンセンサス
OR4C15及びコンセンサスOR4E2は、銅イオン存在下において銅イオン非存在下
に比べ、メチルメルカプタン、ジメチルスルフィド、ジメチルジスルフィド又はジメチル
トリスルフィドに対する応答性が向上した。
コンセンサス嗅覚受容体のにおい物質に対する応答は、オリジナルの嗅覚受容体の嗅細
胞での応答を反映している。よって、上記の結果から、オリジナルのOR2T29、OR
4K17、OR2T27、OR2T5、OR2T4、OR11H2、OR6B3、OR1
2D3、OR6B1、OR2T11、OR4S2、OR2T1、OR4C15、OR4E
2及びOR2L13が硫黄化合物の受容体として同定された。
上記実施例1~9で用いたオリジナル嗅覚受容体のアミノ酸配列、コンセンサス嗅覚受
容体のアミノ酸配列、及びコンセンサス化方法を下記表25-1~25-5に示す。
Figure 2024015143000033
Figure 2024015143000034
Figure 2024015143000035
Figure 2024015143000036
Figure 2024015143000037
以上より、本コンセンサス化方法は実際に嗅覚受容体の細胞膜発現量を増加させて嗅覚
受容体の応答性を向上すること、あるいは細胞膜発現量が増加しない場合でも嗅覚受容体
の応答性を向上すること、により機能解析を可能にするものである。また、この方法によ
り得られた知見は、先行知見で得られていた嗅覚の個人差などを適切に説明するものであ
る。したがって、本方法は冒頭に述べたようにヒトの嗅覚の性質を推し量ることや、嗅覚
を制御できる物質の探索方法を提供するために有用である。

Claims (1)

  1. 嗅覚受容体ポリペプチドの発現方法であって、
    目的の嗅覚受容体のアミノ酸配列においてコンセンサスアミノ酸配列と異なるアミノ酸
    残基の少なくとも1個をこれに相当する位置の該コンセンサスアミノ酸配列のアミノ酸残
    基に改変したアミノ酸配列からなる嗅覚受容体ポリペプチドを細胞に発現させることを含
    み、
    該コンセンサスアミノ酸配列が、該目的の嗅覚受容体のアミノ酸配列及び下記(a)~
    (d)のいずれかの嗅覚受容体:
    (a)該目的の嗅覚受容体の由来の生物種と同じ目における該目的の嗅覚受容体のオル
    ソログにコードされる嗅覚受容体からなる群より選択される少なくとも11種の嗅覚受容
    体;
    (b)該目的の嗅覚受容体の由来の生物種と同じ目における該目的の嗅覚受容体のオル
    ソログにコードされる嗅覚受容体及び該目的の嗅覚受容体のパラログにコードされる嗅覚
    受容体からなる群より選択される少なくとも11種の嗅覚受容体であって、該11種の嗅
    覚受容体に該目的の嗅覚受容体のパラログにコードされる嗅覚受容体を少なくとも1種含
    む嗅覚受容体;
    (c)脊椎動物における該目的の嗅覚受容体のオルソログにコードされる嗅覚受容体か
    らなる群より選択される少なくとも11種の嗅覚受容体であって、該11種の嗅覚受容体
    に該目的の嗅覚受容体の由来の生物種と異なる目の脊椎動物のオルソログにコードされる
    嗅覚受容体を少なくとも1種含む嗅覚受容体;
    (d)脊椎動物における該目的の嗅覚受容体のオルソログにコードされる嗅覚受容体と
    、脊椎動物にオルソログが11種以上存在する該目的の嗅覚受容体のパラログのうち該目
    的の嗅覚受容体と最も相同性の高いパラログの脊椎動物におけるオルソログにコードされ
    る嗅覚受容体とからなる群より選択される少なくとも11種の嗅覚受容体であって、該1
    1種の嗅覚受容体に該目的の嗅覚受容体の由来の生物種と異なる目の脊椎動物のオルソロ
    グにコードされる嗅覚受容体を少なくとも1種含む嗅覚受容体、及び該パラログにコード
    される嗅覚受容体、
    のアミノ酸配列のアラインメントから導き出されるアミノ酸配列である、
    方法。
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