JP2024001300A - 補体活性のモジュレーター - Google Patents

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Victoria Parker Grace
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Ricardo Alonso
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Tobe Sylvia
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Abstract

【課題】補体活性のモジュレーターとして有用なポリペプチドを含む組成物を提供する。また、これらのモジュレーターを医薬として使用するための組成物を提供する。【解決手段】本開示医薬組成物は、a)C5阻害剤、b)塩化ナトリウム、およびc)リン酸ナトリウムを含む、水溶性の医薬組成物であって、C5阻害剤が、配列:Lys-Val-Glu-Arg-Phe-Asp-Xaa1-Xaa2-Tyr-Xaa3-Glu-Tyr-Pro-Xaa4-Lys、または当該配列に少なくとも90%の配列同一性を有する配列を含み、Xaa1が、N-メチル-アスパラギン酸であり、Xaa2が、tert-ブチルグリシンであり、Xaa3が、7-アザトリプトファンであり、Xaa4が、シクロヘキシルグリシンである。【選択図】なし

Description

本発明は、補体活性のモジュレーターとして有用である、ポリペプチドを含む化合物に関する。さらに提供されるのは、これらのモジュレーターを治療薬として利用する方法である。
脊椎動物の免疫反応は、適応免疫成分と先天性免疫成分とで構成される。適応免疫反応は、特定の病原体に対して選択的でありかつ反応が遅いが、先天性免疫反応の成分は、広範囲の病原体を認識しかつ感染すると迅速に反応する。先天性免疫反応のかかる成分の1つは補体系である。
補体系は、主に肝臓により合成される約20種の循環補体成分タンパク質を含む。この特定の免疫反応の成分は、細菌の破壊において抗体反応を補うことが観測されたため最初に「補体」と名付けられた。これらのタンパク質は、感染に反応して活性化される前は不活性形態を維持する。活性化は、病原体認識により開始されるタンパク質分解切断の経路を介して行われ、病原体破壊をもたらす。補体系では3つのかかる経路が知られており、古典経路、レクチン経路、および代替経路と呼ばれる。古典経路は、IgGまたはIgM分子が病原体の表面に結合したときに活性化される。レクチン経路は、細菌細胞壁の糖残基を認識するマンナン結合レクチンタンパク質により開始される。代替経路は、特定の刺激がなんら存在しなくても低レベルで活性状態を維持する。3つの経路はすべて開始イベントに関しては異なるが、3つの経路はすべて補体成分C3の切断に収斂する。C3は、C3aおよびC3bと称される2つの産物に切断される。これらのうち、C3bは病原体表面に共有結合され、一方、C3aは炎症の促進および循環免疫細胞の動員のための拡散性シグナルとして作用する。表面関連C3bは、他の成分との複合体を形成して補体系のより後段の成分間のカスケード反応を開始する。表面結合が要件となるため、補体活性は局在状態を維持し、非標的細胞の破壊を最小限に抑える。
病原体関連C3bは2つの方法で病原体破壊を促進する。一経路では、C3bは食細胞により直接認識されて病原体の貧食をもたらす。第2の経路では、病原体関連C3bは膜侵襲複合体(MAC)の形成を開始する。第1の工程では、C3bは他の補体成分と複合体化してC5コンバターゼ複合体を形成する。初期補体活性化経路に依存して、この複合体の成分は異なりうる。補体古典経路の結果として形成されるC5コンバターゼは、C3bのほかにC4bおよびC2aを含む。代替経路により形成される場合、C5コンバターゼは、2つのサブユニットのC3bおよび1つのBb成分を含む。
補体成分C5は、いずれかのC5コンバターゼ複合体によりC5aおよびC5bに切断される。C5aはC3aとほぼ同様に、循環系に拡散して炎症を促進し、炎症細胞に対する化学誘引剤として作用する。C5bは細胞表面に結合された状態を維持し、C6、C7、C8、およびC9との相互作用を介してMACの形成をトリガーする。MACは細胞膜全体に存在する親水性細孔であり、細胞へのおよび細胞からの流体の自由流動を促進することにより細胞を破壊する。
すべての免疫活性の重要な要素は、自己細胞と非自己細胞とを識別する免疫系の能力である。免疫系がこの識別を行えない場合に病理状態を生じる。補体系の場合、脊椎動物細胞は、補体カスケードの影響から自己を保護するタンパク質を発現する。これにより補体系の標的が病原細胞に限定されることが保証される。多くの補体関連の障害および疾患は、補体カスケードによる自己細胞の異常破壊が関係している。一例では、発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)に罹患している対象は、造血幹細胞上の補体調節タンパク質CD55およびCD59の機能体を合成することができない。この結果、補体媒介溶血およびさまざまな下流の合併症を生じる。他の補体関連の障害および疾患としては、自己免疫性の疾患および障害、神経性の疾患および障害、血液性の疾患および障害、ならびに感染性の疾患および障害が挙げられるが、これらに限定されるものではない。多くの補体関連障害は補体活性の阻害を介して軽減されることが実験的証拠から示唆される。したがって、関連徴候を治療するため、補体媒介細胞破壊を選択的にブロックするための組成物および方法が必要である。本発明は、関連する組成物および方法を提供することにより、この必要性を満たす。
発明の概要
一部の実施形態では、本開示は、R5000および薬学的に許容できる賦形剤を含む医薬組成物を提供し、ここで薬学的に許容できる賦形剤は、約25mM~約100mMの濃度の塩化ナトリウムおよび約10mM~約100mMの濃度のリン酸ナトリウムを含む。R5000は、約1mg/mL~約400mg/mLの濃度で存在してもよい。医薬組成物は、約6.5~約7.5のpHを含んでもよい。R5000は、C5に約0.1nM~約1nMの平衡解離定数(K)で結合してもよい。R5000は、補体活性化の代替経路の活性化に続くC5の産生をブロックしてもよい。R5000は、補体活性化の古典経路、代替経路、またはレクチン経路の活性化に続く膜侵襲複合体(MAC)の形成をブロックしてもよい。
一部の実施形態では、本開示は、対象における溶血を阻害する方法であって、R5000および薬学的に許容できる賦形剤を含む医薬組成物を投与することを含む、方法を提供し、ここで薬学的に許容できる賦形剤は、約25mM~約100mMの濃度の塩化ナトリウムおよび約10mM~約100mMの濃度のリン酸ナトリウムを含む。医薬組成物は、約0.1μg/mL~約20μg/mLのR5000の血漿レベルを達成するのに十分な用量で投与されてもよい。溶血は、投与後、約25%~100%阻害されうる。医薬組成物は、少なくとも2日間、毎日投与されてもよい。医薬組成物は、7日間、毎日投与されてもよい。医薬組成物は、少なくとも100日間、毎日投与されてもよい。一部の方法によると、投与後の少なくとも1か月間、有害な心血管、呼吸器、および/または中枢神経系(CNS)作用が認められない。一部の方法によると、投与後の少なくとも1か月間、心拍数および/または動脈圧における変化が認められない。一部の方法によると、投与後の少なくとも1か月間、呼吸数、一回換気量、および/または毎分換気量における変化が認められない。
一部の実施形態では、本開示は、対象における溶血を阻害する方法であって、R5000および薬学的に許容できる賦形剤を含む医薬組成物を投与することを含む、方法を提供し、ここで薬学的に許容できる賦形剤は、約25mM~約100mMの濃度の塩化ナトリウムおよび約10mM~約100mMの濃度のリン酸ナトリウムを含み、ここで医薬組成物は、皮下(SC)または静脈内(IV)に投与されてもよい。対象血漿中のR5000レベルの半減期(t1/2)は、少なくとも4時間であってもよい。対象血漿中のR5000レベルのt1/2は、約1日~約10日であってもよい。対象血漿中のR5000の定常状態分布容積は、約10mL/kg~約200mL/kgであってもよい。対象血漿中のR5000の定常状態分布容積は、全血液量の少なくとも50%に相当してもよい。対象血漿中のR5000の総クリアランス速度は、約0.04mL/時間/kg~約4mL/時間/kgであってもよい。対象血漿中のR5000のTmaxは、約1時間~約48時間であってもよい。R5000の測定可能量の存在は、血漿区画に実質的に制限されてもよい。医薬組成物は、約0.01mg~約2mg/kg対象体重のR5000を送達するのに十分な用量で投与されてもよい。対象におけるC5活性化の約50%~約99%が阻害されてもよい。医薬組成物は、約0.1mg~約0.4mg/kg対象体重のR5000を送達するのに十分な用量で投与されてもよい。医薬組成物は、皮下または静脈内に投与されてもよい。医薬組成物は、毎日1回以上投与されてもよい。医薬組成物は、7日間にわたり投与されてもよい。溶血のパーセント阻害は、初回投与後3時間で少なくとも90%~約95%以上であってもよい。溶血のパーセント阻害は、投与後少なくとも7日間の測定として少なくとも90%~約95%以上であってもよい。溶血のパーセント阻害は、投与後少なくとも4日間、少なくとも90%~約95%以上であってもよい。溶血の最大阻害および/または補体活性の最大阻害は、投与後の約2時間から投与後の約4時間で達成されてもよい。
一部の実施形態では、本開示は、対象における溶血を阻害する方法であって、R5000および薬学的に許容できる賦形剤を含む医薬組成物を投与することを含む、方法を提供し、ここで薬学的に許容できる賦形剤は、約25mM~約100mMの濃度の塩化ナトリウムおよび約10mM~約100mMの濃度のリン酸ナトリウムを含み、ここでR5000は、0.2mg/kgの用量で投与される。溶血は、最終投与の24時間後、≦3%でありうる。補体活性は、7日間で約1パーセントから約10パーセントに減少しうる。補体活性は、最終投与の24時間後、≦5%でありうる。医薬組成物は、約0.1mg/日~約60mg/日/kg対象体重のR5000を送達するのに十分な用量で皮下または静脈内注射により毎日投与されてもよい。達成される最高血清濃度(Cmax)は、約0.1μg/mL~約1000μg/mLであってもよい。曲線下面積(AUC)は、約200μg時間/mL~約10,000μg時間/mLであってもよい。
一部の実施形態では、本開示は、R5000および薬学的に許容できる賦形剤を含む医薬組成物の皮下または静脈内投与を含む、それを必要とする対象における発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)を治療する方法を提供し、ここで薬学的に許容できる賦形剤は、約25mM~約100mMの濃度の塩化ナトリウムおよび約10mM~約100mMの濃度のリン酸ナトリウムを含む。対象は、過去に抗体に基づく治療薬で治療されてもよい。対象におけるPNHは、抗体に基づく治療薬を用いる治療に対して抵抗性または非応答性があってもよい。抗体に基づく治療薬は、エクリズマブであってもよい。
一部の実施形態では、本開示は、R5000および薬学的に許容できる賦形剤を含む医薬組成物を含むキットを提供し、ここで薬学的に許容できる賦形剤は、約25mM~約100mMの濃度の塩化ナトリウムおよび約10mM~約100mMの濃度のリン酸ナトリウムを含む。
一部の実施形態では、本開示は、薬学的に許容できる賦形剤を含む自動注射装置を提供し、ここで薬学的に許容できる賦形剤は、約25mM~約100mMの濃度の塩化ナトリウムおよび約10mM~約100mMの濃度のリン酸ナトリウムを含む。
前述の他の目的、特徴および利点は、本発明の特定の実施形態の以下の記述、ならびに本発明の種々の実施形態の原理を例示する貼付の図面から明らかになるであろう。
C5a産生のR5000阻害を示す散布図。 膜侵襲複合体形成のR5000阻害を示す散布図。 カニクイザルモデルにおけるR5000阻害剤活性を示す散布図。 0.21mg/kgでの複数回皮下投与後の雄カニクイザルにおけるR5000の薬物動態および薬力学相関を示す散布図。 4.2mg/kgでの複数回皮下投与後の雄カニクイザルにおけるR5000の薬物動態および薬力学相関を示す散布図。 ラットおよびサルにおける皮下投与後の経時的なR5000レベルを示すグラフ。 サルにおける0.21および4.2mg/kgでの皮下複数回用量投与後の経時的な血漿濃度を示すグラフ。 R5000の毎日投与でヒトにおいて予測されるR5000血漿濃度を示すグラフ。 反復投与毒性試験における初回投与後のカニクイザルにおけるR5000の濃度を示す折れ線グラフ。 反復投与毒性試験における最終投与後のカニクイザルにおけるR5000の濃度を示す折れ線グラフ。 複数回投与ヒト試験におけるR5000濃度に対するパーセント溶血における変化を示すグラフ。 複数回投与ヒト試験におけるR5000の経時的な血漿濃度を示すグラフ。 複数回投与ヒト試験におけるR5000治療による補体活性の経時的変化を示すグラフ。 複数回投与ヒト試験におけるR5000治療による補体活性の長期間にわたる変化を示すグラフ。 ヒトでの単一漸増用量臨床試験におけるR5000用量依存性の最高血漿濃度レベルを示すグラフ。 R5000の単回用量投与後の経時的な血漿濃度を示すグラフ。 ヒトにおける4日の持続時間にわたるR5000の単回用量投与後の経時的なパーセント溶血を示すグラフ。 ヒトにおけるR5000の単回用量投与後の経時的なパーセントCH50を示すグラフ。 ヒトにおける28日の持続期間にわたる種々の用量でのパーセント溶血を示すグラフ。 ヒトにおけるR5000の単回用量投与後の経時的なパーセント補体活性を示すグラフ。
詳細な説明
I.化合物および組成物
本発明によると、補体活性を調節するように機能する化合物および組成物が提供される。本発明のかかる化合物および組成物は、補体活性化をブロックする阻害剤を含んでもよい。本明細書で用いられる場合、「補体活性」は、補体カスケードの活性化、C3もしくはC5などの補体成分からの切断生成物の形成、切断イベント後の下流複合体のアセンブリ、または、たとえばC3もしくはC5の補体成分の切断に付随するか、もしくは起因する任意のプロセスもしくはイベントを含む。補体阻害剤は、補体成分C5のレベルで補体活性化をブロックするC5阻害剤を含んでもよい。C5阻害剤は、C5に結合し、C5転換酵素による、切断生成物C5aおよびC5bへのその切断を阻止しうる。本明細書で用いられる場合、「補体成分C5」または「C5」は、C5転換酵素により少なくとも切断生成物C5aおよびC5bに切断される複合体と定義される。「C5阻害剤」は、本発明によると、切断前の補体成分C5複合体または補体成分C5の切断生成物のプロセシングまたは切断を阻害する任意の化合物または組成物を含む。
C5切断の阻害が、グリコシルホスファチジルイノシトール(GPI)接着性タンパク質欠損赤血球に対する細胞溶解的な膜侵襲複合体(MAC)のアセンブリおよび活性を阻止することが理解されている。それ故、いくつかの場合には、本発明のC5阻害剤はまた、C5bに結合し、C6の結合とその後のC5b-9MACのアセンブリを阻止しうる。
ペプチドに基づく化合物
一部の実施形態では、本発明のC5阻害剤は、ポリペプチドである。本発明によると、任意のアミノ酸に基づく分子(天然または非天然)は、「ポリペプチド」と称されてもよく、この用語は、「ペプチド」、「ペプチドミメティック」および「タンパク質」を包含する。「ペプチド」は、伝統的にはサイズが約4~約50アミノ酸の範囲であると考えられる。約50アミノ酸より大きいポリペプチドは、一般に「タンパク質」と称される。
C5阻害剤ポリペプチドは、線状または環状であってもよい。環状ポリペプチドは、それらの構造の一部として、ループおよび/または内部結合などの1つ以上の環状フィーチャを有する任意のポリペプチドを含む。一部の実施形態では、ある分子がポリペプチドの2つ以上の領域を連結するための架橋部分として作用するとき、環状ポリペプチドが形成される。本明細書で用いられる場合、用語「架橋部分」は、ポリペプチド中の2つの隣接または非隣接アミノ酸、非天然アミノ酸または非アミノ酸の間に形成される架橋の1つ以上の成分を指す。架橋部分は、任意のサイズの組成物であってもよい。一部の実施形態では、架橋部分は、2つの隣接もしくは非隣接アミノ酸、非天然アミノ酸、非アミノ酸残基またはその組み合わせの間に1つ以上の化学結合を含んでもよい。一部の実施形態では、かかる化学結合は、隣接もしくは非隣接アミノ酸、非天然アミノ酸、非アミノ酸残基またはその組み合わせにおける1つ以上の官能基間に存在してもよい。架橋部分は、アミド結合(ラクタム)、ジスルフィド結合、チオエーテル結合、芳香環、トリアゾール環、および炭化水素鎖の1つ以上を含んでもよい。一部の実施形態では、架橋部分は、アミン官能性とカルボン酸官能性(各々はアミノ酸、非天然アミノ酸または非アミノ酸残基側鎖に存在する)との間にアミド結合を含む。一部の実施形態では、アミンまたはカルボン酸官能性は、非アミノ酸残基または非天然アミノ酸残基の一部である。
C5阻害剤ポリペプチドは、カルボキシ末端、アミノ末端を介して、または任意の他の便宜的な付着点、たとえばシステインの硫黄など(たとえば、配列内の2つのシステイン残基間のジスルフィド結合の形成を介して)またはアミノ酸残基の任意の側鎖を介して環化されてもよい。さらに、環状ループを形成する結合は、限定はされないが、マレイミド結合、アミド結合、エステル結合、エーテル結合、チオールエーテル結合、ヒドラゾン結合、またはアセトアミド結合を含んでもよい。
一部の実施形態では、本発明の環状C5阻害剤ポリペプチドは、ラクタム部分を用いて形成される。かかる環状ポリペプチドは、たとえば、標準的Fmoc化学を用いての固体支持体のWang樹脂上での合成により形成されてもよい。いくつかの場合には、Fmoc-ASP(アリル)-OHおよびFmoc-LYS(アロック)-OHが、ラクタム架橋形成のための前駆体単量体として役立つようにポリペプチド中に組み込まれる。
本発明のC5阻害剤ポリペプチドは、ペプチドミメティックであってもよい。「ペプチドミメティック」または「ポリペプチドミメティック」は、分子が天然ポリペプチド(すなわち、20種のタンパク質構成アミノ酸のみで構成されたポリペプチド)には見いだされない構造エレメントを含有するポリペプチドである。一部の実施形態では、ペプチドミメティックは、天然ペプチドの生物学的作用の再現または模倣が可能である。ペプチドミメティックは、天然ポリペプチドとは多くの点で、たとえば骨格構造における変化を通じて、または天然に存在しないアミノ酸の存在を通じて異なってもよい。いくつかの場合には、ペプチドミメティックは、公知の20種のタンパク質構成アミノ酸に見いだされない側鎖;分子の末端間または内部間で環化を行うために使用される非ポリペプチド系架橋部分;メチル基(N-メチル化)または他のアルキル基によるアミド結合水素部分の置換;化学的または酵素的な処理に対して耐性のある化学基または化学結合とのペプチド結合の交換;N末端およびC末端の修飾;ならびに/または非ペプチド延長部(たとえば、ポリエチレングリコール、脂質、炭水化物、ヌクレオシド、ヌクレオチド、ヌクレオシド塩基、種々の低分子、またはホスフェート基もしくはスルフェート基)とのコンジュゲーションを有するアミノ酸を含みうる。
本明細書で用いられる場合、用語「アミノ酸」は、天然アミノ酸および非天然アミノ酸の残基を含む。20の天然タンパク質構成アミノ酸は、アスパラギン酸(Asp:D)、イソロイシン(Ile:I)、トレオニン(Thr:T)、ロイシン(Leu:L)、セリン(Ser:S)、チロシン(Tyr:Y)、グルタミン酸(Glu:E)、フェニルアラニン(Phe:F)、プロリン(Pro:P)、ヒスチジン(His:H)、グリシン(Gly:G)、リジン(Lys:K)、アラニン(Ala:A)、アルギニン(Arg:R)、システイン(Cys:C)、トリプトファン(Trp:W)、バリン(Val:V)、グルタミン(Gln:Q)メチオニン(Met:M)、アスパラギン(Asn:N)のような1文字または3文字名称のいずれかにより、本明細書中で同定および参照される。天然アミノ酸は、それらの左旋性(L)立体異性形態で存在する。本明細書中で参照されるアミノ酸は、特に指定がある場合を除き、L-立体異性体である。用語「アミノ酸」はまた、従来のアミノ保護基(たとえば、アセチルまたはベンジルオキシカルボニル)を有するアミノ酸、さらにはカルボキシ末端が保護された天然および非天然アミノ酸(たとえば、(C1~C6)アルキル、フェニル、もしくはベンジルエステルもしくはアミドとして;またはα-メチルベンジルアミドとして)を含む。他の好適なアミノ保護基およびカルボキシ保護基は、当業者に公知である(たとえば、グリーネ,T.W.(Greene,T.W.);ウッツ,P.G.M.(Wutz,P.G.M.)著、「有機合成の保護基(Protecting Groups In Organic Synthesis)」、第2版、1991年、ニューヨーク、ジョン・ワイリー・アンド・サンズ社(John Wiley & sons,Inc.)、およびその中で引用された文書(それら各々の内容物はその全体が参照により本明細書に組み込まれる)を参照)。本発明のポリペプチドおよび/またはポリペプチド組成物はまた、修飾アミノ酸を含んでもよい。
「非天然」アミノ酸は、以上に列挙した20種の天然アミノ酸に存在しない側鎖または他のフィーチャを有し、限定されるものではないが、当技術分野で公知のN-メチルアミノ酸、N-アルキルアミノ酸、α,α-置換アミノ酸、β-アミノ酸、α-ヒドロキシアミノ酸、D-アミノ酸、および他の非天然アミノ酸を含む(たとえば、ジョセフソン(Josephson)ら著、2005年、米国化学会誌(J.Am.Chem.Soc.)、第127巻、p.11727~11735;フォスター,A.C.(Forster,A.C.)ら著、2003年、米国科学アカデミー紀要(Proc.Natl.Acad.Sci.USA)、第100巻、p.6353~6357;サブテルニル(Subtelny)ら著、2008年、米国化学会誌(J.Am.Chem.Soc.)、第130巻、p.6131~6136;ハートマン,M.C.T.(Hartman,M.C.T.)ら著、2007年、プロス・ワン(PLoS ONE)、2:e972;およびハーマン(Hartman)ら著、2006年、米国科学アカデミー紀要(Proc.Natl.Acad.Sci.USA)、第103巻、p.4356~4361を参照されたい)。本発明に係るポリペプチドおよび/またはポリペプチド組成物の最適化に有用なさらなる非天然アミノ酸としては、1,2,3,4-テトラヒドロイソキノリン-1-カルボン酸、1-アミノ-2,3-ヒドロ-1H-インデン-1-カルボン酸、ホモリシン、ホモアルギニン、ホモセリン、2-アミノアジピン酸、3-アミノアジピン酸、β-アラニン、アミノプロピオン酸、2-アミノ酪酸、4-アミノ酪酸、5-アミノペンタン酸、5-アミノヘキサン酸、6-アミノカプロン酸、2-アミノヘプタン酸、2-アミノイソ酪酸、3-アミノイソ酪酸、2-アミノピメリン酸、デスモシン、2,3-ジアミノプロピオン酸、N-エチルグリシン、N-エチルアスパラギン、ホモプロリン、ヒドロキシリシン、アロ-ヒドロキシリシン、3-ヒドロキシプロリン、4-ヒドロキシプロリン、イソデスモシン、アロ-イソロイシン、N-メチルペンチルグリシン、ナフチルアラニン、オルニチン、ペンチルグリシン、チオプロリン、ノルバリン、tert-ブチルグリシン、フェニルグリシン、アザトリプトファン、5-アザトリプトファン、7-アザトリプトファン、4-フルオロフェニルアラニン、ペニシラミン、サルコシン、ホモシステイン、1-アミノシクロプロパンカルボン酸、1-アミノシクロブタンカルボン酸、1-アミノシクロペンタンカルボン酸、1-アミノシクロヘキサンカルボン酸、4-アミノテトラヒドロ-2H-ピラン-4-カルボン酸、(S)-2-アミノ-3-(1H-テトラゾール-5-イル)プロパン酸、シクロペンチルグリシン、シクロヘキシルグリシン、シクロプロピルグリシン、η-ω-メチル-アルギニン、4-クロロフェニルアラニン、3-クロロチロシン、3-フルオロチロシン、5-フルオロトリプトファン、5-クロロトリプトファン、シトルリン、4-クロロ-ホモフェニルアラニン、ホモフェニルアラニン、4-アミノメチル-フェニルアラニン、3-アミノメチル-フェニルアラニン、オクチルグリシン、ノルロイシン、トラネキサム酸、2-アミノペンタン酸、2-アミノヘキサン酸、2-アミノヘプタン酸、2-アミノオクタン酸、2-アミノノナン酸、2-アミノデカン酸、2-アミノウンデカン酸、2-アミノドデカン酸、アミノ吉草酸および2-(2-アミノエトキシ)酢酸、ピペコリン酸、2-カルボキシアゼチジン、ヘキサフルオロロイシン、3-フルオロバリン、2-アミノ-4,4-ジフルオロ-3-メチルブタン酸、3-フルオロ-イソロイシン、4-フルオロイソロイシン、5-フルオロイソロイシン、4-メチル-フェニルグリシン、4-エチル-フェニルグリシン、4-イソプロピル-フェニルグリシン、(S)-2-アミノ-5-アジドペンタン酸(本明細書では「X02」としても参照される)、(S)-2-アミノヘプト-6-エン酸(本明細書では「X30」としても参照される)、(S)-2-アミノペント-4-イン酸(本明細書では「X31」としても参照される)、(S)-2-アミノペント-4-エン酸(本明細書では「X12」としても参照される)、(S)-2-アミノ-5-(3-メチルグアニジノ)ペンタン酸、(S)-2-アミノ-3-(4-(アミノメチル)フェニル)プロパン酸、(S)-2-アミノ-3-(3-(アミノメチル)フェニル)プロパン酸、(S)-2-アミノ-4-(2-アミノベンゾ[d]オキサゾール-5-イル)ブタン酸、(S)-ロイシノール、(S)-バリノール、(S)-tert-ロイシノール、(R)-3-ヘチルブタン-2-アミン、(S)-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-アミン、および(S)-N,2-ジメチル-1-(ピリジン-2-イル)プロパン-1-アミン、(S)-2-アミノ-3-(オキサゾール-2-イル)プロパン酸、(S)-2-アミノ-3-(オキサゾール-5-イル)プロパン酸、(S)-2-アミノ-3-(1,3,4-オキサジアゾール-2-イル)プロパン酸、(S)-2-アミノ-3-(1,2,4-オキサジアゾール-3-イル)プロパン酸、(S)-2-アミノ-3-(5-フルオロ-1H-インダゾール-3-イル)プロパン酸、および(S)-2-アミノ-3-(1H-インダゾール-3-イル)プロパン酸、(S)-2-アミノ-3-(オキサゾール-2-イル)ブタン酸、(S)-2-アミノ-3-(オキサゾール-5-イル)ブタン酸、(S)-2-アミノ-3-(1,3,4-オキサジアゾール-2-イル)ブタン酸、(S)-2-アミノ-3-(1,2,4-オキサジアゾール-3-イル)ブタン酸、(S)-2-アミノ-3-(5-フルオロ-1H-インダゾール-3-イル)ブタン酸、および(S)-2-アミノ-3-(1H-インダゾール-3-イル)ブタン酸、2-(2’MeOフェニル)-2-アミノ酢酸、テトラヒドロ3-イソキノリンカルボン酸、およびそれらのステレオアイソマー(限定されるものではないが、DおよびL異性体を含む)が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
本発明に係るポリペプチドまたはポリペプチド組成物の最適化に有用なそのほかの非天然アミノ酸としては、1個以上の炭素結合水素原子がフッ素で置き換えられたフッ素化アミノ酸が挙げられるが、これに限定されるものではない。含まれるフッ素原子の数は、水素原子1個~全部の範囲内でありうる。かかるアミノ酸の例としては、3-フルオロプロリン、3,3-ジフルオロプロリン、4-フルオロプロリン、4,4-ジフルオロプロリン、3,4-ジフルロプロリン、3,3、4,4テトラフルオロプロリン、4-フルオロトリプトファン、5-フルロトリプトファン、6-フルオロトリプトファン、7-フルオロトリプトファン、およびそれらのステレオアイソマーが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
本発明に係るポリペプチドの最適化に有用なさらなる非天然アミノ酸としては、α-炭素が二置換されたものが挙げられるが、これらに限定されるものではない。これらは、α-炭素上の2個の置換基が同一であるアミノ酸、たとえば、α-アミノイソ酪酸および2-アミノ-2-エチルブタン酸、さらには置換基が異なるもの、たとえば、α-メチルフェニルグリシンおよびα-メチルプロリンを含む。さらに、α-炭素上の置換基が一緒になって環を形成してもよく、たとえば、1-アミノシクロペンタンカルボン酸、1-アミノシクロブタンカルボン酸、1-アミノシクロヘキサンカルボン酸、3-アミノテトラヒドロフラン-3-カルボン酸、3-アミノテトラヒドロピラン-3-カルボン酸、4-アミノテトラヒドロピラン-4-カルボン酸、3-アミノピロリジン-3-カルボン酸、3-アミノピペリジン-3-カルボン酸、4-アミノピペリジン-4-カルボン酸、およびそれらのステレオアイソマーであってもよい。
本発明に係るポリペプチドまたはポリペプチド組成物の最適化に有用なそのほかの非天然アミノ酸としては、N、O、またはSから独立して選択される0、1、2、3、または4個のヘテロ原子を含む他の9または10員二環式環系によりインドール環系が置き換えられたトリプトファンのアナログが挙げられるが、これらに限定されるものではない。各環系は、飽和、部分不飽和、または完全不飽和でありうる。環系は、任意の置換可能な原子が0,1、2、3、または4個の置換基により置換されうる。各置換基は、独立して、H、F、Cl、Br、CN、COOR、CONRR’、オキソ、OR、NRR’から選択されうる。各RおよびR’は、独立して、H、C1~C20アルキル、またはC1~C20アルキル-O-C1~20アルキルから選択されうる。
一部の実施形態では、トリプトファンの類似体(本明細書中で「トリプトファン類似体」とも称される)は、本発明のポリペプチドまたはポリペプチド組成物の最適化において有用でありうる。トリプトファン類似体は、限定はされないが、5-フルオロトリプトファン[(5-F)W]、5-メチル-O-トリプトファン[(5-MeO)W]、1-メチルトリプトファン[(1-Me-W)または(1-Me)W]、D-トリプトファン(D-Trp)、アザトリプトファン(限定はされないが、4-アザトリプトファン、7-アザトリプトファンおよび5-アザトリプトファンを含む、)5-クロロトリプトファン、4-フルオロトリプトファン、6-フルオロトリプトファン、7-フルオロトリプトファン、およびそれらの立体異性体を含んでもよい。異なる指定がある場合を除いて、用語「アザトリプトファン」およびその略称「azaTrp」は、本明細書で用いられる場合、7-アザトリプトファンを指す。
本発明に係るポリペプチドおよび/またはポリペプチド組成物の最適化に有用で修飾アミノ酸残基としては、化学的にブロックされているもの(可逆的もしくは不可逆的);N末端アミノ基またはその側鎖基が化学的に修飾されているもの;アミド骨格が化学的に修飾されているもの、たとえば、N-メチル化されているもの、D(非天然アミノ酸)およびL(天然アミノ酸)ステレオアイソマー、あるいは側鎖官能基が化学的に修飾されて他の官能基になっている残基が挙げられるが、これらに限定されるものではない。一部の実施形態では、修飾アミノ酸としては、メチオニンスルホキシド、メチオニンスルホン、アスパラギン酸-(β-メチルエステル)、アスパラギン酸の修飾アミノ酸、N-エチルグリシン、グリシンの修飾アミノ酸、アラニンカルボキサミドおよび/またはアラニンの修飾アミノ酸が挙げられるが、これらに限定されるものではない。非天然アミノ酸は、シグマ・アルドリッチ(Sigma-Aldrich)(ミズーリ州セントルイス)、バッケム(Bachem)(カリフォルニア州トランス)、または他の供給業者から購入しうる。非天然アミノ酸は、米国特許出願公開第2011/0172126号明細書(それらの内容はその全体が参照により本明細書に組み込まれる)の表2に列挙されたものをいずれもさらに含みうる。
本発明では、本明細書で提示されるポリペプチドの変異体および誘導体について検討する。これらは、置換、挿入、欠失、および共有結合による変異体および誘導体を含む。本明細書で用いられる場合、用語「誘導体」は、用語「変異体」と同義に使用され、参照分子または開始分子に対して多少なりとも修飾または改変されている分子を指す。
本発明のポリペプチドは、本明細書で使用される略称が次を含む場合、以下の成分、特徴、または部分のいずれかを含んでもよい。「Ac」および「NH2」は、それぞれ、アセチルおよびアミド化末端を表し、「Nvl」はノルバリンの略であり、「Phg」はフェニルグリシンの略であり、「Tbg」はtert-ブチルグリシンの略であり、「Chg」はシクロヘキシルグリシンの略であり、「(N-Me)X」は、N-メチル-Xとして記された変数「X」の代わりとして一文字または三文字アミノ酸コードにより表されたアミノ酸のN-メチル化形態の略であり[たとえば、(N-Me)Dまたは(N-Me)Aspは、アスパラギン酸のN-メチル化形態またはN-メチル-アスパラギン酸の略である]、「アザTrp」はアザトリプトファンの略であり、「(4-F)Phe」は4-フルオロフェニルアラニンの略であり、「Tyr(OMe)」はO-メチルチロシンの略であり、「Aib」はアミノイソ酪酸の略であり、「(ホモ)F」または「(ホモ)Phe」はホモフェニルアラニンの略であり、「(2-OMe)Phg」は2-O-メチルフェニルグリシンを意味し、「(5-F)W」は5-フルオロトリプトファンを意味し、「D-X」は所与のアミノ酸「X」のD-ステレオアイソマーを意味し[たとえば、(D-Chg)はD-シクロヘキシルグリシンの略である]、「(5-MeO)W」は5-メチル-O-トリプトファンを意味し、「ホモC」はホモシステインを意味し、「(1-Me-W)」または「(1-Me)W」は1-メチルトリプトファンを意味し、「Nle」はノルロイシンを意味し、「Tiq」はテトラヒドロイソキノリン残基を意味し、「Asp(T)」は(S)-2-アミノ-3-(1H-テトラゾール-5-イル)プロパン酸を意味し、「(3-Cl-Phe)」は3-クロロフェニルアラニンを意味し、「[(N-Me-4-F)Phe]」または「(N-Me-4-F)Phe」はN-メチル-4-フルオロフェニルアラニンを意味し、「(m-Cl-ホモ)Phe」はメタ-クロロホモフェニルアラニンを意味し、「(デス-アミノ)C」は3-チオプロピオン酸を意味し、「(α-メチル)D」はα-メチル-L-アスパラギン酸を意味し、「2Nal」は2-ナフチルアラニンを意味し、「(3-アミノメチル)Phe」は3-アミノメチル-L-フェニアラニンを意味し、「Cle」はシクロロイシンを意味し、「Ac-ピラン」は4-アミノ-テトラヒドロ-ピラン-4-カルボン酸を意味し、「(Lys-C16)」はN-ε-パルミトイルリシンを意味し、「(Lys-C12)」はN-ε-ラウリルリシンを意味し、「(Lys-C10)」はN-ε-カプリルリシンを意味し、「(Lys-C8)」はN-ε-カプリル酸リシンを意味し、「[xキシリル(y,z)]」は2個のチオール含有アミノ酸間のキシリル架橋部分を意味し、式中、xはm、p、またはoでありうるとともに、架橋部分を形成するために(それぞれ)メタ-、パラ-、またはオルト-ジブロモキシレンを使用することを表し、数値識別子yおよびzは、環化に関与するアミノ酸のポリペプチド内のアミノ酸位置を決定し、「[シクロ(y,z)]」は2個のアミノ酸残基間の結合の形成を意味し、式中、数値識別子yおよびzは、結合に関与する残基の位置を決定し、「[シクロ-オレフィニル(y,z)]」はオレフィンメタセシスによる2個のアミノ酸残基間の結合の形成を意味し、式中、数値識別子yおよびzは、結合に関与する残基の位置を決定し、「[シクロ-チオアルキル(y,z)]」は2個のアミノ酸残基間のチオエーテル結合の形成を意味し、式中、数値識別子yおよびzは、結合に関与する残基の位置を決定し、「[シクロ-トリアゾリル(y,z)]」は2個のアミノ酸残基間のトリアゾール環の形成を意味し、式中、数値識別子yおよびzは、結合に関与する残基の位置を決定する。「B20」はN-ε-(PEG2-γ-グルタミン酸-N-α-オクタデカン二酸)リシン[(1S,28S)-1-アミノ-7,16,25,30-テトラオキソ-9,12,18,21-テトラオキサ-6,15,24,29-テトラアザヘキサテトラコンタン-1,28,46-トリカルボン酸としても知られる]を意味する。
B20
「B28」はN-ε-(PEG24-γ-グルタミン酸-N-α-ヘキサデカノイル)リシンを意味する。
B28
「K14」はN-ε-1-(4,4-ジメチル-2,6-ジオキソシクロヘキス-1-イリデン)-3-メチルブチル--L-リシンを意味する。他の記号はすべて標準的な一文字アミノ酸コードを意味する。
一部のC5阻害剤ポリペプチドは、約5アミノ酸~約10アミノ酸、約6アミノ酸~約12アミノ酸、約7アミノ酸~約14アミノ酸、約8アミノ酸~約16アミノ酸、約10アミノ酸~約18アミノ酸、約12アミノ酸~約24アミノ酸、または約15アミノ酸~約30アミノ酸を含む。いくつかの場合には、C5阻害剤ポリペプチドは、少なくとも30のアミノ酸を含む。
本発明の一部のC5阻害剤は、C末端脂質部分を含む。かかる脂質部分は、脂肪酸アシル基(たとえば、飽和または不飽和脂肪酸アシル基)を含んでもよい。いくつかの場合には、脂肪酸アシル基は、パルミトイル基であってもよい。
脂肪酸アシル基を有するC5阻害剤は、脂肪酸をペプチドに連結する1つ以上の分子リンカーを含んでもよい。かかる分子リンカーは、アミノ酸残基を含んでもよい。いくつかの場合には、L-γグルタミン酸残基が分子リンカーとして用いてもよい。いくつかの場合には、分子リンカーは、1つ以上のポリエチレングリコール(PEG)リンカーを含んでもよい。本発明のPEGリンカーは、約1~約5、約2~約10、約4~約20、約6~約24、約8~約32、または少なくとも32のPEG単位を含んでもよい。
本発明のC5阻害剤は、約200g/モル~約600g/モル、約500g/モル~約2000g/モル、約1000g/モル~約5000g/モル、約3000g/モル~約4000g/モル、約2500g/モル~約7500g/モル、約5000g/モル~約10000g/モル、または少なくとも10000g/モルの分子量を有してもよい。
一部の実施形態では、本発明のC5阻害剤ポリペプチドは、R5000を含む。R5000のコアアミノ酸配列(配列番号1)は、4つの非天然アミノ酸(N-メチル-アスパラギン酸、tert-ブチルグリシン、7-アザトリプトファン、およびシクロヘキシルグリシン)を含む15のアミノ酸(すべてはL-アミノ酸);ポリペプチド配列のK1とD6との間のラクタム架橋;およびN-ε-(PEG24-γ-グルタミン酸-N-α-ヘキサデカノイル)リジン残基(本明細書中で「B28」とも称される)を形成する修飾側鎖を有するC末端リジン残基を含む。C末端リジン側鎖修飾は、ポリエチレングリコール(PEG)スペーサー(PEG24)を含み、ここでPEG24はパルミトイル基で誘導体化されたL-γグルタミン酸残基に付着されている。
一部の実施形態では、本発明は、R5000の変異体を含む。一部のR5000変異体では、C末端リジン側鎖部分は改変されてもよい。いくつかの場合には、C末端リジン側鎖部分の(24PEGサブユニットを有する)PEG24スペーサーは、より少ないもしくは追加的なPEGサブユニットを含んでもよい。その他の場合、C末端リジン側鎖部分のパルミトイル基は、別の飽和または不飽和脂肪酸で置換されてもよい。さらなる場合には、(PEGおよびアシル基の間の)C末端リジン側鎖部分のL-γグルタミン酸リンカーは、代替のアミノ酸または非アミノ酸リンカーで置換されてもよい。
一部の実施形態では、R5000変異体は、R5000の環状またはC末端リジン側鎖部分の特徴と併用されてもよい、R5000中のコアポリペプチド配列に修飾を含んでもよい。かかる変異体は、配列番号1のコアポリペプチド配列に対して、少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、または少なくとも95%の配列同一性を有してもよい。いくつかの場合には、R5000変異体は、ラクタム架橋を形成することにより、R5000中で使用されるアミノ酸以外のアミノ酸間で環化されてもよい。
本発明のC5阻害剤は、特異的な結合特性を達成するように開発または修飾されてもよい。阻害剤結合は、特定の標的との会合および/または解離の比を測定することにより評価されてもよい。いくつかの場合には、化合物は、低速の解離と組み合わされた標的との強力かつ迅速な会合を示す。一部の実施形態では、本発明のC5阻害剤は、C5との強力かつ迅速な会合を示す。かかる阻害剤は、C5との低速な解離をさらに示すことがある。
C5補体タンパク質に結合する本発明のC5阻害剤は、約0.001nM~約0.01nM、約0.005nM~約0.05nM、約0.01nM~約0.1nM、約0.05nM~約0.5nM、約0.1nM~約1.0nM、約0.5nM~約5.0nM、約2nM~約10nM、約8nM~約20nM、約15nM~約45nM、約30nM~約60nM、約40nM~約80nM、約50nM~約100nM、約75nM~約150nM、約100nM~約500nM、約200nM~約800nM、約400nM~約1,000nMまたは少なくとも1,000nMの平衡解離定数(K)でC5補体タンパク質に結合してもよい。
一部の実施形態では、本発明のC5阻害剤は、C5からのC5aの形成または産生をブロックする。いくつかの場合には、補体活性化の代替経路の活性化に続くC5aの形成または産生がブロックされる。いくつかの場合には、本発明のC5阻害剤は、膜侵襲複合体(MAC)の形成をブロックする。かかるMACの形成阻害は、C5阻害剤のC5bサブユニットへの結合に起因してもよい。C5阻害剤のC5bサブユニットへの結合は、C6の結合を阻止し、MAC形成の妨害をもたらすことがある。一部の実施形態では、このMAC形成の阻害は、古典、代替、またはレクチン経路の活性化後に生じる。
本発明のC5阻害剤は、化学プロセスを用いて合成されてもよい。いくつかの場合には、かかる合成は、哺乳動物細胞株における生物学的生成物の作製に関連するリスクを取り除く。いくつかの場合には、化学合成は、生物学的生成プロセスよりも単純でかつ費用効果がある場合がある。
同位体変異
本発明に係るポリペプチドは、同位体である1個以上の原子を含みうる。本明細書で用いられる場合、「同位体」という用語は、1個以上の追加の中性子を有する化学元素を意味する。一実施形態では、本発明に係るポリペプチドはジュウテリウム化されうる。本明細書で用いられる場合、「ジュウテリウム化」という用語は、ジューテリウム同位体により置き換えられた1個以上の水素原子を有する物質を意味する。ジューテリウム同位体は水素の同位体である。水素の核は1個のプロトンを含有するが、ジュウテリウム核はプロトンおよび中性子の両方を含有する。本発明に係る化合物および医薬組成物は、安定性などの物理的性質を変化させるためにまたは診断用途および実験用途で使用できるようにするために、ジュウテリウム化しうる。
II.使用方法
本明細書に提供されるのは、本発明の化合物および/または組成物を用いて補体活性を調節する方法である。
治療指標
すべての免疫活性(自然および適応)の重要な構成要素は、免疫系が自己および非自己細胞の間を区別する能力である。病変は、免疫系がこの区別を行うことができないときに生じる。補体系の場合、脊椎動物細胞は、補体カスケードの効果からそれらを保護する阻害性タンパク質を発現し、これは補体系が病原性微生物に特異的であることを保証する。多数の補体関連障害および疾患が、補体カスケードによる自己細胞の異常な破壊に関連している。
本発明の方法は、本発明の化合物および組成物を用いて補体関連障害を治療する方法を含む。「補体関連障害」は、本明細書で言及されるとき、補体系の機能障害、たとえばC5などの補体成分の切断またはプロセシングに関する任意の状態を含んでもよい。
一部の実施形態では、本発明の方法は、対象における補体活性を阻害する方法を含む。いくつかの場合には、対象において阻害される補体活性の百分率は、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、少なくとも99.5%、もしくは少なくとも99.9%であってもよい。いくつかの場合には、補体活性の阻害および/または最大阻害のこのレベルは、投与後約1時間~投与後約3時間、投与後約2時間~投与後約4時間、投与後約3時間~投与後約10時間、投与後約5時間~投与後約20時間、または投与後約12時間~投与後約24時間まで達成されてもよい。補体活性の阻害は、少なくとも1日、少なくとも2日、少なくとも3日、少なくとも4日、少なくとも5日、少なくとも6日、少なくとも7日、少なくとも2週、少なくとも3週、または少なくとも4週の期間全体を通じて継続してもよい。いくつかの場合には、阻害のこのレベルは、毎日投与を通じて達成されてもよい。かかる毎日投与は、少なくとも2日間、少なくとも3日間、少なくとも4日間、少なくとも5日間、少なくとも6日間、少なくとも7日間、少なくとも2週間、少なくとも3週間、少なくとも4週間、少なくとも2か月間、少なくとも4か月間、少なくとも6か月間、少なくとも1年間、または少なくとも5年間の投与を含んでもよい。いくつかの場合には、対象に、かかる対象の生命のため、本開示の化合物または組成物が投与されてもよい。
一部の実施形態では、本発明の方法は、対象におけるC5活性を阻害する方法を含む。「C5依存性補体活性」または「C5活性」は、本明細書で用いられる場合、C5の切断を介する補体カスケードの活性化、C5の下流切断産物のアセンブリ、またはC5の切断に伴うかもしくは起因する任意の他のプロセスもしくはイベントを指す。いくつかの場合には、対象において阻害されるC5活性の百分率は、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、少なくとも99.5%、もしくは少なくとも99.9%であってもよい。
一部の実施形態では、本発明の方法は、本発明の1つ以上の化合物または組成物を、それを必要とする対象または患者に投与することにより、溶血を阻害する方法を含んでもよい。一部のかかる方法によると、溶血は約25%~約99%まで低減することがある。他の実施形態では、溶血は、約10%~約40%、約25%~約75%、約30%~約60%、約50%~約90%、約75%~約95%、約90%~約99%、または約97%~約99.5%まで低減する。いくつかの場合には、溶血は、少なくとも50%、60%、70%、80%、90%もしくは95%まで低減する。
一部の方法によると、溶血のパーセント阻害は、約≧90%~約≧99%(たとえば、≧91%、≧92%、≧93%、≧94%、≧95%、≧96%、≧97%、≧98%)である。いくつかの場合には、溶血の阻害および/または最大阻害のこのレベルは、達成されてもよい。投与後約1時間~投与後約3時間、投与後約2時間~投与後約4時間、投与後約3時間~投与後約10時間、投与後約5時間~投与後約20時間または投与後約12時間~投与後約24時間まで達成されてもよい。溶血活性レベルの阻害は、少なくとも1日、少なくとも2日、少なくとも3日、少なくとも4日、少なくとも5日、少なくとも6日、少なくとも7日、少なくとも2週、少なくとも3週、または少なくとも4週の期間全体を通じて継続してもよい。いくつかの場合には、阻害のこのレベルは、毎日投与を通じて達成されてもよい。かかる毎日投与は、少なくとも2日間、少なくとも3日間、少なくとも4日間、少なくとも5日間、少なくとも6日間、少なくとも7日間、少なくとも2週間、少なくとも3週間、少なくとも4週間、少なくとも2か月間、少なくとも4か月間、少なくとも6か月間、少なくとも1年間、または少なくとも5年間の投与を含んでもよい。いくつかの場合には、対象に、かかる対象の生命のため、本開示の化合物または組成物が投与されてもよい。
本発明のC5阻害剤は、1つ以上の徴候を治療するため、用いてもよく、ここでC5阻害剤治療の結果として生じる有害作用はわずかであるか全くない。いくつかの場合には、有害な心血管、呼吸器、および/または中枢神経系(CNS)への作用が生じない。いくつかの場合には、心拍数および/または動脈圧における変化が生じない。いくつかの場合には、呼吸数、一回換気量、および/または毎分換気量に対する変化が生じない。
疾患マーカーまたは症状との関連での「低減させる」または「低下させる」は、かかるレベルでの有意な、多くは統計学的に有意な減少を意味する。その減少は、たとえば、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%またはそれ以上でありえ、また好ましくは、かかる障害を有しない個体における正常範囲内として認められるレベルまで減少する。
疾患マーカーまたは症状との関連での「増加させる」または「上昇させる」は、かかるレベルでの有意な、多くは統計学的に有意な上昇を意味する。その増加は、たとえば、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%またはそれ以上でありえ、また好ましくは、かかる障害を有しない個体における正常範囲内として認められるレベルまで上昇する。
治療または予防効果は、病態の1つ以上のパラメータにおける、または通常であれば予測されることになる症状を悪化もしくは発達させないことによる、有意な、多くは統計学的に有意な改善が認められるとき、明白である。例として、疾患の測定可能なパラメータにおける少なくとも10%、好ましくは少なくとも20%、30%、40%、50%またはそれ以上の好ましい変化は、効果的治療を示しうる。所与の化合物または組成物における有効性はまた、当該技術分野で公知の所与の疾患における実験動物モデルを用いて判断されうる。実験動物モデルを用いる場合、治療の有効性は、マーカーまたは症状における統計学的に有意な調節が認められるとき、証明される。
発作性夜間ヘモグロビン尿症
一部の実施形態では、本明細書に提供されるのは、発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)を本発明の化合物または組成物、たとえば医薬組成物を用いて治療する方法である。PNHは、多能性造血幹細胞に由来するホスファチジルイノシトールグリカンアンカー生合成クラスA(PIG-A)遺伝子における後天的突然変異によって引き起こされる希少な補体関連障害である(プー,J.J.(Pu,J.J.)ら著、クリニカル・アンド・トランスレイショナル・サイエンス(Clin Transl Sci.)、2011年6月、第4巻、第3号、p.219~24)。PNHは、骨髄障害、溶血性貧血および血栓症によって特徴付けられる。PIG-A遺伝子産物は、タンパク質を原形質膜に繋留するために利用される、糖脂質アンカーのグリコシルホスファチジルイノシトール(GPI)の生成にとって必要である。末端補体複合体のCD55(崩壊促進因子)およびCD59(反応性溶解の膜阻害剤)の溶解活性から細胞を保護することに関与する2つの補体調節タンパク質は、GPIの不在下で非機能的になる。これにより、C5の活性化および赤血球(RBC)の表面上の特異的な補体タンパク質の蓄積がもたらされ、これらの細胞の補体介在性破壊が生じる。
PNHを有する患者は、当初、血色素尿症、腹痛、平滑筋ジストニア、および疲労、たとえばPNH関連症状または障害を呈する。PNHはまた、血管内溶血(疾患の一次臨床症状)および静脈血栓症によって特徴付けられる。静脈血栓症は、限定はされないが、肝静脈、腸間膜静脈、大脳静脈、および皮膚静脈を含む異常な部位にて生じることがある(パーカー,C.(Parker,C.)ら著、2005年、ブラッド(Blood)、第106巻、p.3699~709およびパーカー,C.J.(Parker,C.J.)、2007年、エクスペリメンタル・ヘマトロジー(Exp Hematol.)、第35巻、p.523~33)。現在、C5阻害剤モノクローナル抗体のエクリズマブ(SOLIRIS(登録商標)、アレクシオン・ファーマシューティカルズ(Alexion Pharmaceuticals)、チェシャー、コネチカット州)が、PNHに対する唯一認可された治療薬である。
エクリズマブを用いる治療は、大部分のPNH患者において血管内溶血の十分な制御をもたらす(シュレゼンマイヤー,H.(Schrezenmeier,H.)ら著、2014年、ヘマトロジカ(Haematologica)、第99巻、p.922~9)。しかし、ニシムラ(Nishimura)や同僚は、エクリズマブのC5への結合を阻止し、抗体を用いる治療に対して応答しない、C5遺伝子における突然変異を有する、日本における患者11名(PNHを有する患者の3.2%)について記載している(ニシムラ,J-I.(Nishimura,J-I.)ら著、2014年、ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン(N Engl J Med.)、第370巻、p.632~9)。さらに、エクリズマブは、医療専門家の監督下でIV注入として2週毎に投与され、これは患者にとって不便であり負担を与える。
長期IV投与は、感染症、局所血栓症、血腫、および進行的に低下した静脈アクセスなどの重篤な合併症をもたらす可能性を有する。加えて、エクリズマブは、大きいタンパク質であり、免疫原性および過敏症のリスクに関連する。最終的に、エクリズマブがC5に結合し、C5bの産生を阻止する一方、不完全な阻害により産生される任意のC5bがMACの形成を開始させ、溶血を引き起こしうる。
PNHを有する患者の末梢血は、正常および異常細胞の比率が変動しうる。その疾患は、臨床的特徴、骨髄特性、およびGPI-AP欠損多形核白血球(PMN)の百分率に基づき、国際PNH専門家会議(International PNH Interest
Group)に従い、下位分類される。GPI-AP欠損赤血球がPNH患者における破壊に対してより感受性を示すことから、PMNのフローサイトメトリー分析がより有用な情報であると考えられる(パーカー,C.J.(Parker,C.J.)、2012年、カレント・オピニオン・イン・ヘマトロジー(Curr Opin Hematol)、第19巻、p.141~8)。古典的PNHにおけるフローサイトメトリー分析は、50~100%のGPI-AP欠損PMNを示す。
PNHの溶血性貧血は、自己抗体に非依存的であり(クームス陰性)、補体の代替経路(AP)の制御されない活性化に起因する。
一部の実施形態では、本発明の化合物および組成物、たとえば医薬組成物は、PNHの治療において特に有用である。かかる化合物および組成物は、C5阻害剤(たとえばR5000)を含んでもよい。PNHの治療にとって有用な本発明のC5阻害剤は、いくつかの場合には、C5のC5aおよびC5bへの切断をブロックしうる。いくつかの場合には、本発明のC5阻害剤は、PNHに対するエクリズマブ治療薬の代わりとして用いてもよい。エクリズマブと異なり、本発明のC5阻害剤は、C5bに結合し得、C6との結合、その後のC5b-9MACのアセンブリを阻止する。
いくつかの場合には、R5000およびその組成物は、対象におけるPNHを治療するため、用いてもよい。かかる対象は、(たとえばエクリズマブを用いる)他の治療に対して、有害作用を有し、非応答性であり、応答性低下を示し、または抵抗性を示していた対象を含んでもよい。一部の実施形態では、本開示の化合物および組成物を用いる治療は、PNH赤血球の溶血を用量依存的様式で阻害しうる。
一部の実施形態では、R5000は、並行または連続治療を含んでもよいレジメンで、エクリズマブと組み合わせて投与される。
配列および構造データに基づき、R5000は、エクリズマブのC5への結合を阻止するC5遺伝子における突然変異を有する限られた数の患者におけるPNHの治療にとって特に有用でありうる。かかる患者の例として、単一のミスセンスC5ヘテロ接合性突然変異c.2654G->Aが挙げられ、それは多型p.Arg885Hisを予測する(この多型の説明については、ニシムラ,J.(Nishimura,J.)ら著、ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン(N Engl J Med.)、2014年、第370巻、第7号、p.632~9を参照、その内容はその全体が参照により本明細書に組み込まれる)。エクリズマブと同様、R5000は、C5のC5aおよびC5bへのタンパク質分解切断をブロックする。エクリズマブと異なり、R5000はまた、C5bに結合し、C6との会合をブロックし得、その後のMACのアセンブリを阻止する。したがって有利なことに、R5000による不完全阻害から生じる任意のC5bは、C6に結合し、MACのアセンブリを完了することから阻止される。
いくつかの場合には、R5000は、IV投与の不便性および不利益性ならびにモノクローナル抗体に関連した免疫原性および過敏性の公知のリスクを伴わずにさらなる有効性をもたらしうる、PNHを有する患者向けのエクリズマブに対する治療的代替物として用いられる。さらに、長期IV投与の重篤な合併症、たとえば、感染症、静脈アクセスの低下、局所血栓症、および血腫は、皮下(SC)注射によって投与されるR5000により克服されうる。
炎症性適応症
いくつかの実施形態では、本発明に係る化合物および組成物、たとえば医薬組成物は、炎症に関連する疾患、障害、および/または病態を有する対象を治療するために使用しうる。炎症は、補体系のタンパク質分解カスケード時にアップレギュレートされうる。炎症は有益な効果でありうるが、過剰の炎症はさまざまな病理状態をもたらすおそれがある(マーキエウスキー(Markiewski)著、2007年、アメリカン・ジャーナル・オブ・パソロジー(Am J Pathol.)、第17巻、p.715~27)。したがって、本発明に係る化合物および組成物は、補体活性化に関連する炎症を低減または排除するために使用しうる。
無菌性炎症
いくつかの実施形態では、本発明に係る化合物および組成物、たとえば医薬組成物は、無菌性炎症の発症の治療、予防、または遅延のために使用しうる。無菌性炎症は、感染以外の刺激に反応して起こる炎症である。無菌性炎症は、物理的、化学的、または代謝的な侵害刺激により引き起こされるゲノムストレス、低酸素ストレス、栄養ストレス、小胞体ストレスなどのストレスに対する通常の反応でありうる。無菌性炎症は、多くの疾患、たとえば、限定されるものではないが、虚血誘発傷害、関節リウマチ、急性肺傷害、薬剤誘導肝傷害、炎症性腸疾患、および/または他の疾患、障害、もしくは病態の病理発生に寄与しうる。無菌性炎症の機序ならびに無菌性炎症の症状の治療、予防、および/または遅延のための方法および組成物は、ルバーテリ(Rubartelli)著、フロンティアズ・イン・イムノロジー(Frontiers in Immunology)、2013年、第4巻、p.398-99、ロック(Rock)ら著、アニュアル・レビュー・オブ・イムノロジー(Annu Rev Immunol.)、2010年、第28巻、p.321~342、または米国特許第8,101,586号明細書(その各内容はその全体が参照により本明細書に組み込まれる)に教示されるいずれかを含みうる。
全身性炎症反応(SIRS)および敗血症
いくつかの実施形態では、本発明に係る化合物および組成物、たとえば医薬組成物は、全身性炎症反応症候群(SIRS)の治療および/または予防のために使用しうる。SIRSは全身に影響を及ぼす炎症である。SIRSが感染により引き起こされる場合、敗血症として参照される。SIRSはまた、外傷、傷害、火傷、虚血、出血、および/または他の病態などの非感染性イベントにより引き起こされうる。SIRSおよび/または敗血症に関連した負の転帰の中に、多臓器不全(MOF)が含まれる。グラム陰性敗血症におけるC3レベルでの補体阻害は、大腸菌(E.coli)誘導進行性MOFに対して臓器を有意に保護するだけでなく、細菌クリアランスを邪魔する。本明細書に記載の化合物および組成物は、臓器保護の利点を、細菌クリアランスを有害に改変することなく提供するため、敗血症を有する対象に投与されてもよいC5補体成分阻害剤を含む。
一部の実施形態では、本開示は、敗血症を治療する方法を提供する。敗血症は、微生物感染により誘導されてもよい。微生物感染は、少なくとも1つのグラム陰性感染病原体を含んでもよい。本明細書で用いられる場合、用語「感染病原体」は、試料または対象の細胞、組織、臓器、区画、または体液に侵入するかまたはその他として感染する任意の実体を指す。いくつかの場合には、感染病原体は、細菌、ウイルス、または他の病原体であってもよい。グラム陰性感染病原体は、グラム陰性細菌である。グラム陰性感染病原体は、限定はされないが、大腸菌(E.coli)を含んでもよい。
敗血症を治療する方法は、1つ以上のC5阻害剤の対象への投与を含んでもよい。C5阻害剤は、R5000であってもよい。一部の方法によると、補体活性化が低下または阻止されうる。補体活性の低下または阻止は、対象試料中の補体活性の1つ以上の生成物を検出することにより、判定されてもよい。かかる生成物は、C5切断生成物(たとえばC5aおよびC5b)またはC5切断の結果として形成される下流複合体(たとえばC5b-9)を含んでもよい。一部の実施形態では、本開示は、敗血症をR5000を用いて治療する方法を提供し、ここでC5aおよび/またはC5b-9のレベルは、対象にてかつ/または対象から得られる少なくとも1つの試料中で低減または除去される。たとえば、C5aおよび/またはC5b-9レベルは、R5000が投与される対象において(またはかかる対象から得られる試料中で)、R5000で治療されない対象(または対象試料)(他の補体阻害剤で治療された対象を含む)と比較されるとき、または前治療期間もしくは治療の初期期間中の同じ対象(または対象試料)と比較されるとき、約0%~約0.05%、約0.01%~約1%、約0.05%~約2%、約0.1%~約5%、約0.5%~約10%、約1%~約15%、約5%~約25%、約10%~約50%、約20%~約60%、約25%~約75%、約50%~約100%低減されてもよい。
一部の実施形態では、R5000治療によって低下したC5b-9レベルは、補体活性化の古典経路、補体活性化の代替経路、および補体活性化のレクチン経路の1つ以上に関連したC5b-9レベルである。
一部の実施形態では、敗血症に関連した1つ以上の因子の存在、不在、および/またはレベルは、敗血症を有する対象にR5000を投与することにより調節されてもよい。かかる因子の存在または不在は、それらの検出用のアッセイを用いて判定されてもよい。因子レベルにおける変化は、R5000治療後、敗血症を有する対象におけるかかる因子のレベルを測定し、それらレベルを、同じ対象におけるより早期のレベル(R5000治療前または治療の1つ以上のより早期期間中のいずれか)またはR5000で治療されていない対象(全く治療を受けていない敗血症を有する対象または幾つかの他の形態の治療を受ける対象を含む)におけるレベルと比較することにより判定されてもよい。比較は、R5000で治療された対象とR5000で治療されていない対象との間の因子レベルにおける百分率差異により示されてもよい。
C5切断生成物は、C5切断から生じうる任意のタンパク質または複合体を含んでもよい。いくつかの場合には、C5切断生成物は、限定はされないが、C5aおよびC5bを含んでもよい。C5b切断生成物は、補体タンパク質C6、C7、C8、およびC9との複合体(本明細書中で「C5b-9」と称される)の形成に進む場合がある。したがって、補体活性が低減または阻止されているか否かを判定するため、C5b-9を含むC5切断生成物が検出および/または定量化されてもよい。C5b-9析出の検出は、たとえばウィエスラブ(WIESLAB)(登録商標)ELISA(ユーロダイアグノスティカ(Euro Diagnostica)、マルメ、スウェーデン)キットの使用を通じて実施されてもよい。切断生成物の定量については、他者によって記載のように「補体任意単位(complement arbitrary units)」(CAU)にて測定されてもよい(たとえば、ベルグセス G.(Bergseth G.)ら著、2013年、モレキュラー・イムノロジー(Mol Immunol.)、第56巻、p.232~9を参照(その内容はその全体が参照により本明細書に組み込まれる))。
一部の実施形態では、敗血症をC5阻害剤(たとえばR5000)で治療することにより、C5b-9の産生が低減または阻止されうる。
本発明によると、R5000の対象への投与により、対象におけるかつ/または対象から得られる少なくとも1つの試料中での細菌クリアランスの調節がもたらされうる。細菌クリアランスは、本明細書で参照されるとき、対象または試料からの細菌の部分的または完全な除去/低減である。クリアランスは、細菌を殺滅するかまたはその他として成長および/もしくは生殖を不能にすることを通じて生じることがある。いくつかの場合には、細菌クリアランスは、溶菌および/または免疫破壊を通じて(たとえば、食作用、細菌細胞溶解、オプソニン化などを通じて)生じることがある。一部の方法によると、C5阻害剤(たとえばR5000)で治療された対象における細菌クリアランスは、細菌クリアランスに対する効果または有益な効果を有しないことがある。これは、C5阻害によるC3bレベルに対する効果の不在または減少に起因して生じうる。一部の実施形態では、敗血症をR5000で治療する方法は、C3b依存性オプソニン化との干渉を回避するかまたはC3b依存性オプソニン化を増強することがある。
いくつかの場合には、R5000治療に伴う細菌クリアランスは、治療されていない対象または別形態の補体阻害剤、たとえばC3阻害剤で治療された対象における細菌クリアランスと比べて、増強されうる。一部の実施形態では、R5000で治療される敗血症を有する対象は、R5000で治療されない対象(他の補体阻害剤で治療される対象を含む)における細菌クリアランスと比べられるとき、またはR5000を用いる治療前もしくはR5000を用いるより早期の治療期間中での同じ対象におけるより早期の細菌クリアランスレベルと比べられるとき、0%~少なくとも100%増強された細菌クリアランスを経験しうる。たとえば、R5000で治療される対象におけるかつ/またはかかる対象から得られる少なくとも1つの試料中の細菌クリアランスは、R5000で治療されない対象(他の補体阻害剤で治療される対象を含む)と比べられるとき、および/またはかかる対象から得られる試料と比べられるとき、または前治療期間中もしくは治療の早期期間中の同じ対象と比べられるとき、および/または前治療期間中もしくは治療の早期期間中の同じ対象から得られる試料と比べられるとき、約0%~約0.05%、約0.01%~約1%、約0.05%~約2%、約0.1%~約5%、約0.5%~約10%、約1%~約15%、約5%~約25%、約10%~約50%、約20%~約60%、約25%~約75%、約50%~約100%増強されてもよい。
細菌クリアランスは、対象におけるかつ/もしくは対象試料中の細菌レベルを直接的に測定するか、または細菌クリアランスの1つ以上の指標(たとえば、溶菌後に放出される細菌成分のレベル)を測定することにより、対象において測定されてもよい。次に、細菌クリアランスレベルは、細菌/指標レベルの以前の測定値または治療を受けていないかまたは異なる治療を受けている対象における細菌/指標レベルとの比較により、判定されてもよい。いくつかの場合には、細菌レベルを決定するため、(たとえば、cfu/mlの血液をうるため)収集された血液からのコロニー形成単位(cfu)が試験される。
一部の実施形態では、R5000を用いる敗血症治療は、食作用に対する効果を伴わずに、または食作用の実質的障害を伴わずに実施されうる。これは、好中球依存性および/または単球依存性食作用を含んでもよい。R5000治療による損なわれていないまたは実質的に損なわれていない食作用は、R5000治療に伴うC3bレベルに対する限られたまたは存在しない変化に起因しうる。
酸化バーストは、病原体による負荷後、特定の細胞、特にマクロファージおよび好中球によるペルオキシドの生成によって特徴付けられるC5a依存性プロセスである(モルネス T.E.(Mollnes T.E.)ら著、2002年、ブラッド(Blood)、第100巻、p.1869~1877を参照、その内容はその全体が参照により本明細書に組み込まれる)。
一部の実施形態では、酸化バーストは、敗血症を有する対象において、R5000を用いる治療後、低減または阻止されうる。これは、R5000依存性C5阻害によるC5aレベルの低下に起因しうる。酸化バーストは、R5000が投与された対象において、R5000で治療されない対象(他の補体阻害剤で治療される対象を含む)と比べられるとき、または前治療期間中もしくは治療の早期期間中の同じ対象と比べられるとき、約0%~約0.05%、約0.01%~約1%、約0.05%~約2%、約0.1%~約5%、約0.5%~約10%、約1%~約15%、約5%~約25%、約10%~約50%、約20%~約60%、約25%~約75%、約50%~約100%低減されうる。
リポ多糖(LPS)は、公知の免疫刺激因子である細菌細胞外被の成分である。補体依存性溶菌は、LPSの放出をもたらし、炎症性応答、たとえば敗血症に特徴的なものに寄与しうる。一部の実施形態では、R5000を用いる敗血症の治療は、LPSレベルを低減しうる。これは、C5依存性補体活性の阻害による補体媒介溶菌における減少に起因しうる。一部の実施形態では、LPSレベルは、R5000が投与された対象において(またはかかる対象から得られる試料中で)、R5000で治療されない対象(または対象試料)(他の補体阻害剤で治療される対象を含む)と比べられるとき、または前治療期間中もしくは治療の早期期間中の同じ対象(または対象試料)と比べられるとき、約0%~約0.05%、約0.01%~約1%、約0.05%~約2%、約0.1%~約5%、約0.5%~約10%、約1%~約15%、約5%~約25%、約10%~約50%、約20%~約60%、約25%~約75%、約50%~約100%低減または除去されうる。
一部の実施形態では、LPSレベルは、R5000で治療される敗血症を有する対象(または対象試料)において、R5000で治療されない敗血症を有する対象(または対象試料)(1つ以上の他の形態の治療を受けている対象を含む)と比べて、または前治療期間中もしくは治療の早期期間中の同じ対象(または対象試料)と比べられるとき、100%低減されうる。
本開示の一部の実施形態では、1つ以上のサイトカインの敗血症に誘導されるレベルは、R5000治療とともに低減されてもよい。サイトカインは、感染に対する免疫応答を刺激する多数の細胞シグナル伝達分子を含む。「サイトカインストーム」は、細菌感染に起因し、かつ敗血症に寄与しうる、少なくとも4つのサイトカイン、インターロイキン(IL)-6、IL-8、単球化学誘引物質タンパク質-1(MCP-1)、および腫瘍壊死因子α(TNFα)の劇的な上方制御である。C5aは、これらのサイトカインの合成および活性を誘導することで知られる。したがって、C5の阻害剤は、C5aのレベルを低減することにより、サイトカインレベルを低減しうる。サイトカインレベルは、C5阻害剤が敗血症の間に上方制御される1つ以上の炎症性サイトカインのレベルを低減する能力を評価するため、対象または対象試料において評価されてもよい。IL-6、IL-8、MCP-1および/またはTNFαレベルは、R5000が投与される対象において、R5000で治療されない対象(他の補体阻害剤で治療される対象を含む)と比べられるとき、または前治療期間中もしくは治療の早期期間中の同じ対象と比べられるとき、約0%~約0.05%、約0.01%~約1%、約0.05%~約2%、約0.1%~約5%、約0.5%~約10%、約1%~約15%、約5%~約25%、約10%~約50%、約20%~約60%、約25%~約75%、約50%~約100%減少しうる。一部の実施形態では、IL-6、IL-8、MCP-1、および/またはTNFαレベルは、R5000で治療される敗血症を有する対象において、R5000で治療されない敗血症を有する対象(1つ以上の他の形態の治療を受けている対象を含む)と比べて、または前治療期間中もしくは治療の早期期間中の同じ対象と比べられるとき、100%低減されうる。
敗血症に関連する1つの合併症は、凝固および/または線維素溶解経路の調節不全である(レビ M.(Levi M.)ら著、2013年、セミナーズ・イン・トロンボシス・アンド・ヘモスタシス(Seminars in thrombosis and hemostasis)、第39巻、p.559~66;リッチルシュ D.(Rittirsch D.)ら著、2008年、ネイチャー・レビューズ・イムノロジー(Nature Reviews Immunology)、第8巻、p.776~87;およびデンプフル C.(Dempfle C.)著、2004年、トロンボシス・アンド・ヘモスタシス(A Thromb Haemost.)、第91巻、第2号、p.213~24、それら各々の内容はその全体が参照により本明細書に組み込まれる)。これらの経路の制御された局所的活性化が病原体に対する防御にとって重要である一方で、全身性の制御されない活性化は有害でありうる。細菌感染症に関連した補体活性は、MAC形成に関連した宿主細胞および組織損傷の増加に起因して、凝固および/または線維素溶解の調節不全を促進しうる。一部の実施形態では、R5000を用いる敗血症の治療は、凝固および/または線維素溶解経路を正常化しうる。
敗血症に関連した凝固および/または線維素溶解の調節不全は、播種性血管内凝固(DIC)を含んでもよい。DICは、小血管における凝固の活性化および血塊形成に起因して組織および臓器損傷をもたらす状態である。この活性は、組織および臓器への血流を低下させ、身体の他の部分にて凝固にとって必要な血液因子を消費する。血流中でのこれらの血液因子の不在は、身体の他の部分にて制御されない出血をもたらすことがある。一部の実施形態では、R5000を用いる敗血症の治療により、DICが低減または除去されうる。
敗血症に関連した凝固機能障害は、活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)および/またはプロトロンビン時間(PT)を測定することにより検出されてもよい。これらは、凝固因子レベルが低いか否かを判定するため、血漿試料に対して実施される試験である。DICを有する対象では、APTTおよび/またはPTは、凝固因子のレベル低下に起因して延長される。一部の実施形態では、R5000を用いる敗血症対象の治療により、治療された対象から得られる試料中のAPTTおよび/またはPTは低下し、かつ/または正常化しうる。
敗血症に関連した凝固機能障害は、トロンビン-アンチトロンビン(TAT)複合体レベルおよび/または組織因子(TF)mRNAの白血球発現の分析を通じて、さらに評価されてもよい。増加したTAT複合体のレベルおよびTF mRNAの白血球発現は、凝固機能障害に関連し、DICに合致する。一部の実施形態では、R5000を用いる敗血症の治療により、R5000で治療されない対象(他の補体阻害剤で治療される対象を含む)と比べられるとき、または前治療期間中もしくは治療の早期期間中の同じ対象と比べられるとき、TATレベルおよび/または白血球TF mRNAレベルにおける約0.005%~約0.05%、約0.01%~約1%、約0.05%~約2%、約0.1%~約5%、約0.5%~約10%、約1%~約15%、約5%~約25%、約10%~約50%、約20%~約60%、約25%~約75%、約50%~約100%の低下がもたらされうる。一部の実施形態では、TATレベルおよび/または白血球TF mRNAレベルは、R5000で治療される敗血症を有する対象において、R5000で治療されない敗血症を有する対象(1つ以上の他の形態の治療を受けている対象を含む)と比べて、または前治療期間中もしくは治療の早期期間中の同じ対象と比べられるとき、100%低下されうる。
第XII因子は、血漿中の正常な凝固にとって重要な因子である。第XII因子レベルは、凝固機能障害(たとえばDIC)を有する対象から採取される血漿試料中で、小血管内での凝固に関連する第XII因子の消費に起因して減少されうる。一部の実施形態では、R5000を用いる敗血症治療により、第XII因子の消費が低減されうる。したがって、第XII因子レベルは、R5000治療後、敗血症を有する対象から採取される血漿試料中で上昇されうる。第XII因子レベルは、血漿試料中で、R5000で治療されない対象(他の補体阻害剤で治療される対象を含む)と比べられるとき、または前治療期間中もしくは治療の早期期間中の同じ対象から採取される血漿試料と比べられるとき、約0.005%~約0.05%、約0.01%~約1%、約0.05%~約2%、約0.1%~約5%、約0.5%~約10%、約1%~約15%、約5%~約25%、約10%~約50%、約20%~約60%、約25%~約75%、約50%~約100%上昇されうる。一部の実施形態では、第XII因子レベルは、R5000で治療される敗血症を有する対象からの血漿試料中で、R5000で治療されない敗血症を有する対象(1つ以上の他の形態の治療を受けている対象を含む)からの血漿試料と比べて、または前治療期間中もしくは治療の早期期間中の同じ対象から採取される血漿試料と比べられるとき、100%上昇されうる。
線維素溶解は、血餅形成にとって決定的なプロセスである酵素活性に起因するフィブリンの分解である。線維素溶解の調節不全は、重篤な敗血症にて生じることがあり、大腸菌(E.coli)が負荷されたヒヒにおいて正常な凝固に影響することが報告されている(ピー・デ・ボア・ジェイ・ピー(P.de Boer J.P.)ら著、1993年、サーキュラトリー・ショック(Circulatory shock)、第39巻、p.59~67、その内容はその全体が参照により本明細書に組み込まれる)。敗血症依存性の線維素溶解機能障害(限定はされないが、DICに関連した線維素溶解機能障害を含む)の血漿指標は、限定はされないが、フィブリノーゲンレベルの低下(フィブリン血餅を形成する能力の低下を示す)、組織プラスミノーゲンアクチベーター(tPA)レベルの上昇、プラスミノゲンアクチベーターインヒビター1型(PAI-1)レベルの上昇、プラスミン-抗プラスミン(PAP)レベルの上昇、フィブリノーゲン/フィブリン分解産物の増加、およびD-二量体レベルの上昇を含んでもよい。一部の実施形態では、R5000を用いる敗血症の治療により、血漿フィブリノーゲンレベルにおける低下および/またはtPA、PAI-1、PAP、フィブリノーゲン/フィブリン分解産物、および/もしくはD-二量体の血漿レベルにおける上昇が、R5000で治療されない対象(他の補体阻害剤で治療される対象を含む)からの血漿試料中のレベルと比べられるとき、または前治療期間中もしくは治療の早期期間中の同じ対象から採取される血漿試料中のレベルと比べられるとき、約0.005%~約0.05%、約0.01%~約1%、約0.05%~約2%、約0.1%~約5%、約0.5%~約10%、約1%~約15%、約5%~約25%、約10%~約50%、約20%~約60%、約25%~約75%、約50%~約100%でもたらされうる。一部の実施形態では、血漿フィブリノーゲンレベルにおける敗血症に関連した低下および/またはtPA、PAI-1、PAP、フィブリノーゲン/フィブリン分解産物、および/もしくはD-二量体の血漿レベルにおける敗血症に関連した上昇は、R5000で治療される敗血症を有する対象からの血漿試料中のレベルと比べられるとき、少なくとも10,000%異なりうる。
敗血症に関連した過剰に活動する補体活性の別の結果が、補体依存性溶血および/またはC3b依存性オプソニン化に起因する赤血球における減少である。本開示に従ってR5000を用いて敗血症を治療する方法は、補体依存性溶血を低減することを含んでもよい。敗血症に関連した補体依存性溶血を評価する一方法は、完全血球数を取得することを含む。完全血球数は、血液試料中に存在する細胞型を計数する自動化プロセスを通じて取得されてもよい。完全血球数分析からの結果は、典型的には、ヘマトクリット、赤血球(RBC)数、白血球(WBC)数、および血小板のレベルを含む。ヘマトクリットレベルは、赤血球で構成される(容量による)血液の百分率を判定するため、用いられる。ヘマトクリットレベル、血小板レベル、RBCレベル、およびWBCレベルは、溶血に起因し、敗血症において低下されうる。一部の実施形態では、R5000を用いる敗血症の治療により、ヘマトクリットレベル、血小板レベル、RBCレベル、および/またはWBCレベルが上昇する。上昇は、即時的であってもよく、または治療(たとえば、単回または複数回投与治療)とともに経時的に生じてもよい。
一部の実施形態では、R5000を用いる対象の治療により、敗血症に関連した白血球(たとえば、好中球およびマクロファージ)の活性化が減少しうる。「活性化」は、白血球との関連で本明細書で用いられる場合、関連した免疫機能を実施するためのこれらの細胞の動員および/または成熟を指す。R5000治療による白血球活性化の減少は、治療対象または治療対象から得られる試料を評価することにより判定されてもよい。
一部の実施形態では、R5000を用いる敗血症の治療により、治療中の対象における1つ以上のバイタルサインが改善されうる。かかるバイタルサインは、限定はされないが、心拍数、平均全身動脈圧(MSAP)、呼吸速度、酸素飽和、および体温を含んでもよい。
一部の実施形態では、R5000を用いる敗血症の治療は、敗血症に関連した毛細管漏出および/または内皮バリアー機能障害を安定化または低減しうる(すなわち、毛細管漏出および/または内皮バリアー機能障害を維持または改善するため)。毛細管漏出および/または内皮バリアー機能障害の安定化または低減は、総血漿タンパク質レベルおよび/または血漿アルブミンレベルを測定することにより判定されてもよい。敗血症に関連した血漿レベルと比べてのいずれかのレベルにおける上昇は、毛細管漏出の減少を示しうる。したがって、R5000を用いる敗血症の治療により、総血漿タンパク質および/または血漿アルブミンのレベルが上昇しうる。
本開示の方法は、R5000を用いて敗血症を治療する方法を含んでもよく、ここでは1つ以上の急性期タンパク質のレベルが低下する。急性期タンパク質は、炎症条件下で肝臓によって産生されるタンパク質である。R5000治療により、敗血症に関連した炎症が低減され、肝臓による急性期タンパク質の産生低下がもたらされうる。
本発明の一部の方法によると、R5000を用いる治療により、敗血症誘導性臓器損傷および/または臓器機能障害が低減、反転、または阻止されうる。臓器機能の改善とともに低減されうる指標は、限定はされないが、血漿乳酸塩(改善された血管内灌流およびクリアランスを示す)、クレアチニン、血液尿素窒素(双方とも改善された腎機能を示す)、および肝トランスアミナーゼ(改善された肝機能を示す)を含んでもよい。一部の実施形態では、R5000を用いて敗血症に対して治療される対象において、発熱反応、二次感染のリスクおよび/または敗血症再発のリスクが低減される。
本開示の方法は、R5000を用いる治療を通じて、敗血症関連死を阻止し、かつ/または敗血症に苦しむ対象の生存時間を改善することを含んでもよい。改善された生存時間は、R5000で治療される対象における生存時間と治療されない対象(1つ以上の他の形態の治療で治療される対象を含む)における生存時間との比較を通じて判定されてもよい。一部の実施形態では、生存時間は、少なくとも1日、少なくとも2日、少なくとも3日、少なくとも4日、少なくとも5日、少なくとも6日、少なくとも7日、少なくとも2週、少なくとも1か月、少なくとも2か月、少なくとも4か月、少なくとも6か月、少なくとも1年、少なくとも2年、少なくとも5年、または少なくとも10年延長する。
一部の実施形態では、R5000の投与は、単回用量(single dose)で実施される。一部の実施形態では、R5000の投与は、複数回用量(multiple doses)で実施される。たとえば、R5000の投与は、初期用量、その後1回以上の反復用量(repeat doses)の投与を含んでもよい。反復用量は、以前の投与後、約1時間~約24時間、約2時間~約48時間、約4時間~約72時間、約8時間~約96時間、約12時間~約36時間、または約18時間~約60時間に投与されてもよい。いくつかの場合には、反復用量は、以前の投与後、1日、2日、3日、4日、5日、6日、7日、2週、4週、2か月、4か月、6か月、または6か月より後に投与されてもよい。いくつかの場合には、反復用量は、対象において敗血症を安定化または低減するかまたは敗血症に関連した1つ以上の作用を安定化または低減するといった要求に応じて投与されてもよい。反復用量は、R5000を同量含んでもよく、または異なる量含んでもよい。
本発明に係る化合物および組成物は、SIRS、敗血症、および/またはMOFの予防および治療のために、補体活性化の制御および/またはバランス調整のために使用しうる。SIRSおよび敗血症を治療するための補体阻害剤の適用方法は、米国特許出願公開第2013/0053302号明細書、または米国特許第8,329,169号明細書(その各内容はその全体が参照により本明細書に組み込まれる)に記載のものを含みうる。
急性呼吸窮迫症候群(ARDS)
いくつかの実施形態では、本発明に係る化合物および組成物、たとえば医薬組成物は、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)の発症の治療および/または予防のために使用しうる。ARDSは、肺の広汎性炎症であり、外傷、感染(たとえば敗血症)、重篤な肺炎、および/または有害物質の吸入により引き起こされうる。ARDSは典型的には重篤な命にかかわる合併症である。好中球は肺の傷害された肺胞および間質組織での多形核細胞の蓄積に影響を及ぼすことによりARDSの発症に寄与しうることが試験により示唆される。したがって、本発明に係る化合物および組成物は、肺胞好中球での組織因子の産生を低減および/または予防するために投与しうる。本発明に係る化合物および組成物はさらに、いくつかの場合には、国際公開第2009/014633号パンフレット(その内容はその全体が参照により本明細書に組み込まれる)に教示された方法のいずれかに従ってARDSの治療、予防、および/または遅延のために使用しうる。
歯周炎
いくつかの実施形態では、本発明に係る化合物および組成物、たとえば医薬組成物は、歯周炎および/または関連症状の発症を治療または予防するために使用しうる。歯周炎は、歯を取り囲んで支持している組織である歯周組織の破壊をもたらす広汎性慢性炎症である。病態はまた、歯槽骨損失(歯を保持する骨)を含む。歯周炎は、歯垢としても知られる歯肉線での細菌の蓄積をもたらす口腔衛生の欠如により起こりうる。ある特定の健康状態、たとえば、糖尿病または栄養失調および/または喫煙などの習慣は、歯周炎のリスクを増加させうる。歯周炎は、発作、心筋梗塞、アテローム硬化症、糖尿病、骨粗鬆症、早産、さらには他の健康上の問題のリスクを増加させうる。研究により歯周炎と局所補体活性との間の相関が実証されている。歯周細菌は、補体カスケードのある特定の成分を阻害または活性化しうる。したがって、本発明に係る化合物および組成物は、歯周炎ならびに関連する疾患および病態を予防および/または治療するために使用しうる。補体活性化阻害剤および治療方法は、ハジシェンガリス(Hajishengallis)著、バイオケミカル・ファーマコロジー(Biochem Pharmacol.)2010,15;80(12):1およびラムブリス(Lambris)または米国特許出願公開第2013/0344082号明細書(その各内容はその全体が参照により本明細書に組み込まれる)により教示されたいずれかを含みうる。
皮膚筋炎
一部の実施形態では、本発明の化合物、組成物、たとえば医薬組成物、および/または方法は、皮膚筋炎を治療するため、用いてもよい。皮膚筋炎は、筋力低下および慢性筋炎によって特徴付けられる炎症性筋疾患である。皮膚筋炎は、同時に随伴する皮膚発疹で始まるか、または筋力低下に先行することが多い。本発明の化合物、組成物、および/または方法は、皮膚筋炎を低減または予防するため、用いてもよい。
創傷および傷害
本発明に係る化合物および組成物、たとえば医薬組成物は、さまざまなタイプの創傷および/または傷害の治療および/または治癒の促進のために使用しうる。本明細書で用いられる場合、「傷害」という用語は、典型的には物理的外傷を意味するが、限局性の感染または疾患のプロセスを含みうる。傷害は、生体部分および/または器官に影響を及ぼす外部イベントにより引き起こされる損害、損傷、または破壊により特徴付けられうる。創傷は、皮膚の破壊または損傷をもたらす切傷、打撲傷、熱傷、および/または皮膚への他の衝撃に関連する。創傷および傷害は、多くの場合、急性であるが、適正に治癒されないと慢性の合併症および/または炎症を引き起こすおそれがある。
創傷および熱傷創傷
いくつかの実施形態では、本発明に係る化合物および組成物、たとえば医薬組成物は、創傷の治療および/または治癒の促進のために使用しうる。健常皮膚は、病原体および他の環境作用因子に対する防水性保護障壁を提供する。皮膚はまた体温および流体蒸発を制御する。皮膚が損傷した場合、これらの機能が破壊されて皮膚の治癒が困難になる。損傷は、組織を回復および再生する免疫系に関連する一群の生理学的プロセスを開始させる。補体活性化はこれらのプロセスの1つである。ファン・デ・グート(van de Goot)ら著、ジャーナル・オブ・バーン・ケア・アンド・リサーチ(J Burn Care Res)、2009年、第30巻、p.274~280、およびカザンダー(Cazander)ら著、クリニカル・アンド・ディベロップメンタル・イムノロジー(Clin Dev Immunol)、2012年、第2012巻、p.534291(その各内容はその全体が参照により本明細書に組み込まれる)により教示されるように、補体活性化の研究から創傷治癒に関与するいくつか補体成分が同定されてきた。いくつかの場合には、補体活性化は過度になって細胞死および炎症亢進を引き起こすおそれがある(創傷治癒障害および慢性創傷をもたらしうる)。いくつかの場合には、本発明に係る化合物および組成物は、かかる補体活性化を低減または排除して創傷治癒を促進するために使用しうる。本発明に係る化合物および組成物による治療は、国際公開第2012/174055号パンフレット(その内容はその全体が参照により本明細書に組み込まれる)に開示された創傷の治療方法のいずれかに従って行いうる。
頭部外傷
いくつかの実施形態では、本発明に係る化合物および組成物、たとえば医薬組成物は、頭部外傷の治療および/または治癒の促進のために使用しうる。頭部外傷は、頭皮、頭蓋、または脳への傷害を含む。頭部外傷の例としては、脳震盪、挫傷、頭蓋骨骨折、外傷性脳傷害、および/または他の傷害が挙げられるが、これらに限定されるものではない。頭部外傷は軽症または重篤でありうる。いくつかの場合には、頭部外傷は、長期の物理的および/もしくは精神的な合併症または死をもたらすおそれがある。頭部外傷は不適切な頭蓋内補体カスケード活性化を誘発するおそれがあり、そのため局所炎症反応を起こして脳浮腫および/またはニューロン死の発症による二次的脳損傷の原因となるおそれがあることが研究から示唆される(スタヘル(Stahel)ら著、ブレイン・リサーチ・レビューズ(Brain Research Reviews)、1998年、第27巻、p.243~56(その内容はその全体が参照により本明細書に組み込まれる))。本発明に係る化合物および組成物は、頭部外傷の治療および/または関連する二次合併症の低減もしくは予防のために使用しうる。頭部外傷での補体カスケード活性化を制御するための本発明に係る化合物および組成物の使用方法は、米国特許第8,911,733号明細書(その内容はその全体が参照により本明細書に組み込まれる)にホラーズ(Holers)らにより教示されたいずれかを含みうる。
挫滅傷害
いくつかの実施形態では、本発明に係る化合物および組成物、たとえば医薬組成物は、挫滅傷害の治療および/または治癒の促進のために使用しうる。挫滅傷害は、身体に加わる力または圧力により引き起こされる傷害であり、出血、打撲傷、骨折、神経傷害、創傷、および/または身体の他の損傷を引き起こす。本発明に係る化合物および組成物は、挫滅傷害後に補体活性化を低減することにより挫滅傷害後の治癒の促進(たとえば、神経再生の促進、骨折治癒の促進、炎症および/または他の関連合併症の予防または治療)を行いうるために使用しうる。本発明に係る化合物および組成物は、米国特許第8,703,136号明細書、国際公開第2012/162215号パンフレット、国際公開第2012/174055号パンフレット、または米国特許出願公開第2006/0270590号明細書(その各内容はその全体が参照により本明細書に組み込まれる)に教示された方法のいずれかに従って治療を促進するために使用しうる。
虚血/再灌流損傷
一部の実施形態では、本開示の化合物、組成物、たとえば医薬組成物、および/または方法は、虚血および/または再灌流に関連する損傷を治療するため、用いてもよい。かかる損傷は、外科的介入(たとえば移植)を伴ってもよい。したがって、本開示の化合物、組成物、および/または方法は、虚血および/または再灌流損傷を低減または予防するため、用いてもよい。
自己免疫性疾患
本発明に係る化合物および組成物、たとえば医薬組成物は、自己免疫性疾患および/または障害を有する対象を治療するために使用しうる。免疫系は、それぞれ非特異的即時防衛機序およびより複雑な抗原特異的系を表す先天性系および適応系に分けられうる。補体系は、先天性免疫系の一部であり、病原体を認識して排除する。そのほかに、補体タンパク質は、適応免疫を変調して、先天性反応と適応反応とを結び付けうる。自己免疫性の疾患および障害は、系が自己の組織および物質を標的とする免疫異常である。自己免疫性疾患は、生体のある特定の組織または器官を含みうる。本発明に係る化合物および組成物は、自己免疫性疾患の治療および/または予防の際に補体を変調するために使用しうる。いくつかの場合には、かかる化合物および組成物は、バランティ(Ballanti)ら著、イムノロジック・リサーチ(Immunol Res)、2013年、第56巻、p.477~491(その内容はその全体が参照により本明細書に組み込まれる)に提示された方法に従って使用しうる。
抗リン脂質症候群(APS)および劇症型抗リン脂質症候群(CAPS)
いくつかの実施形態では、本発明に係る化合物および組成物、たとえば医薬組成物は、補体活性化の制御により抗リン脂質症候群(APS)を予防および/または治療をするために使用しうる。APSは、血液を凝固させる抗リン脂質抗体により引き起こされる自己免疫性状態である。APSは、器官では再発性静脈または動脈血栓症を引き起こすおそれがあり、胎盤循環では合併症を引き起こして、妊娠関連合併症、たとえば、流産、死産、子癇前症、早産、および/または他の合併症をもたらすおそれがある。劇症型抗リン脂質症候群(CAPS)は、同時にいくつかの器官で静脈の閉塞をもたらす類似の病態の極限の急性状態である。補体活性化は、妊娠関連合併症、血栓(凝固)合併症、および血管合併症をはじめとするAPS関連合併症に寄与しうることが研究から示唆される。本発明に係る化合物および組成物は、補体活性化を低減または排除することによりAPS関連病態を治療するために使用しうる。いくつかの場合には、本発明に係る化合物および組成物は、サルモン(Salmon)ら著、アナルズ・オブ・ザ・リューマチック・ディジーズ(Ann Rheum Dis)、2002年、第61巻(Suppl II)、ii46~ii50、およびマックワース-ヤング(Mackworth-Young)著、クリニカル・アンド・エクスペリメンタル・イムノロジー(Clin Exp Immunol)、2004年、第136巻、p.393~401により教示された方法に従ってAPSおよび/またはAPS関連合併症を治療するために使用しうる。
寒冷凝集素症
いくつかの実施形態では、本発明に係る化合物および組成物、たとえば医薬組成物は、寒冷凝集素媒介溶血としても参照される寒冷凝集素症(CAD)を治療するために使用しうる。CADは、低温領域の体温で赤血球と相互作用する高濃度のIgM抗体により生じる自己免疫性疾患である[エンゲルハーツ(Engelhardt)ら著、ブラッド(Blood)、2002年、第100巻、第5号、p.1922~23]。CADは、貧血、疲労、呼吸困難、ヘモグロビン尿症、および/または先端チアノーゼなどの病態をもたらすおそれがある。CADは、ロバストな補体活性化に関連し、CADは、補体阻害剤療法で治療しうることが研究から示されている。したがって、本発明は、本発明に係る化合物および組成物を用いてCADを治療する方法を提供する。いくつかの場合には、本発明に係る化合物および組成物は、ロス(Roth)ら著、ブラッド(Blood)、2009年、第113巻、p.3885-86、または国際公開第2012/139081号パンフレット(その各内容はその全体が参照により本明細書に組み込まれる)に教示された方法に従ってCADを治療するために使用しうる。
重症筋無力症
一部の実施形態では、本発明の化合物、組成物、たとえば医薬組成物、および/または方法は、重症筋無力症を治療するため、用いてもよい。重症筋無力症は、自己免疫によって引き起こされる神経筋疾患である。本発明の化合物、組成物、および/または方法は、重症筋無力症に関連した神経筋問題を低減または予防するため、用いてもよい。
ギラン・バレー症候群
一部の実施形態では、本発明の化合物、組成物、たとえば医薬組成物、および方法は、ギラン・バレー症候群(GBS)を治療するため、用いてもよい。GBSは、末梢神経系の自己免疫発作を含む自己免疫性疾患である。本発明の化合物、組成物、および/または方法は、GBSに関連した末梢神経問題を低減または予防するため、用いてもよい。
血管適応症
いくつかの実施形態では、本発明に係る化合物および組成物、たとえば医薬組成物は、血管(たとえば、動脈、静脈、および毛細血管)に影響を及ぼす血管適応症を治療するために使用しうる。かかる適応症は、血液循環(血圧)、血流、器官機能、および/または、他の身体機能に影響を及ぼすおそれがある。
血栓性微小血管症(TMA)
いくつかの実施形態では、本発明に係る化合物および組成物、たとえば医薬組成物は、血栓性微小血管症(TMA)および関連疾患を治療および/または予防するために使用しうる。微小血管症は、身体の微小血管(毛細血管)に影響を及ぼして、毛細血管壁を厚く弱くし、出血および遅い血液循環を起こしやすくする。TMAは、血管血栓、内皮細胞損傷、血小板減少、および溶血の発症をもたらすために傾向がある。脳、腎臓、筋肉、胃腸系、皮膚、肺などの器官が罹患するおそれがある。TMAは、限定されるものではないが、造血幹細胞移植(HSCT)、腎障害、糖尿病、および/または他の病態をはじめとする医療操作および/または病態から生じうる。TMAは、メリ(Meri)ら著、ヨーロピアン・ジャーナル・オブ・インターナル・メディスン(European Journal of Internal Medicine)、2013年、第24巻、p.496~502(その内容はその全体が参照により本明細書に組み込まれる)により記載されるように、根底にある補体系機能不全により引き起こされうる。一般に、TMAは、血栓症をもたらすある特定の補体成分のレベルの増加に起因しうる。いくつかの場合には、これが補体タンパク質または関連する酵素の突然変異により引き起こされうる。生じる補体機能不全は、内皮細胞および血小板の補体標的化を引き起こし、血栓症の増加もたらしうる。いくつかの実施形態では、TMAは、本発明に係る化合物および組成物を用いて予防および/または治療しうる。いくつかの場合には、本発明に係る化合物および組成物を用いてTMAを治療する方は、米国特許出願公開第2012/0225056号明細書または米国特許出願公開第2013/0246083号明細書、(その各内容はその全体が参照により本明細書に組み込まれる)に記載に従って行いうる。
播種性血管内凝固(DIC)
いくつかの実施形態では、本発明に係る化合物および組成物、たとえば医薬組成物は、補体活性化を制御することにより播種性血管内凝固(DIC)を治療および/または予防するために使用しうる。DICは、血液中で凝固カスケードが広範に活性化され、特に毛細血管で血餅の形成をもたらす病理学的病態である。DICは、組織の血流の妨害を引き起こして最終的には器官を損傷するおそれがある。そのほかに、DICは、血液凝固の正常プロセスに影響を及ぼして重篤な出血を引き起こすおそれがある。本発明に係る化合物および組成物は、補体活性を変調することによりDICの治療、予防、または重症度の低下を行いうるために使用しうる。いくつかの場合には、本発明に係る化合物および組成物は、米国特許第8,652,477号明細書(その内容はその全体が参照により本明細書に組み込まれる)に教示されたDICの治療方法のいずれかに従って使用しうる。
血管炎
いくつかの実施形態では、本発明に係る化合物および組成物、たとえば医薬組成物は、血管炎を予防および/または治療するために使用しうる。一般に、血管炎は、白血球が組織を攻撃して血管の膨張を引き起こすことにより特徴付けられる、静脈および動脈を含めて血管の炎症に関連する障害である。血管炎は、ロッキー山紅斑熱または自己免疫病の場合のように感染に関連しうる。自己免疫関連血管炎の例は、抗好中球細胞質自己抗体(ANCA)血管炎である。ANCA血管炎は、身体の自己細胞および組織を攻撃する異常抗体により引き起こされる。ANCAは、ある特定の白血球および好中球の細胞質を攻撃して、生体のある特定の器官および組織で血管壁の攻撃引き起こす。ANCA血管炎は、皮膚、肺、眼、および/または腎臓に影響を及ぼしうる。ANCA疾患は補体副経路を活性化し、血管損傷をもたらす炎症増幅ループを形成するある特定の補体成分を生成することが研究から示される(ジャネット(Jennette)ら著、2013年、セミナーズ・イン・ネフロロジー(Semin Nephrol.)、第33巻、第6号、p.557~64(その内容はその全体が参照により本明細書に組み込まれる))。いくつかの場合には、本発明に係る化合物および組成物は、補体活性化を阻害することによりANCA血管炎を予防および/または治療するために使用しうる。
非定型溶血性尿毒症症候群
一部の実施形態では、本開示の化合物、組成物、たとえば医薬組成物、および/または方法は、非定型溶血性尿毒症症候群(aHUS)の治療にとって有用でありうる。aHUSは、小血管内での血塊形成によって特徴付けられる抑制のきかない補体活性化によって引き起こされる希少な疾患である。本発明の組成物および方法は、aHUSに関連した補体活性化を低減または阻止するために有用でありうる。
神経学的適応症
本発明に係る化合物および組成物、たとえば医薬組成物は、限定されるものではないが、神経変性疾患および関連障害をはじめとする神経学的適応症の症状の予防、治療、および/または緩和のために使用しうる。神経変性は、一般に、ニューロンの死をはじめとするニューロンの構造または機能の損失に関連する。こうした障害は、本発明に係る化合物および組成物を用いてニューロン細胞に対する補体の作用を阻害することにより治療しうる。神経変性関連障害としては、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、多発性硬化症(MS)、パーキンソン病、およびアルツハイマー病が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
筋萎縮性側索硬化症(ALS)
いくつかの実施形態では、本発明に係る化合物および組成物、たとえば医薬組成物は、ALSの予防、治療、および/または症状の緩和のために使用しうる。ALSは、脊髄ニューロン、脳幹、および運動皮質の変性により特徴付けられる致命的な運動ニューロン疾患である。ALSは、最終的には呼吸不全に至る筋力低下を引き起こす。補体機能不全はALSに寄与しうるので、補体活性を標的とする本発明に係る化合物および組成物を用いた療法により、ALSの予防、治療を行いうるとともに症状の低減を行いうる。いくつかの場合には、本発明に係る化合物および組成物は神経再生を促進するために使用しうる。いくつかの場合には、本発明に係る化合物および組成物は、米国特許出願公開第2014/0234275号明細書または米国特許出願公開第2010/0143344号明細書(その各内容はその全体が参照により本明細書に組み込まれる)に教示された方法のいずれかに従って補体阻害剤として使用しうる。
アルツハイマー病
いくつかの実施形態では、本発明に係る化合物および組成物、たとえば医薬組成物は、補体活性を制御することによりアルツハイマー病を予防および/または治療するために使用しうる。アルツハイマー病は、失見当識、記憶喪失、気分変動、行動上の問題、および最終的には身体機能の損失を含みうる症状を有する慢性神経変性疾患である。アルツハイマー病は、補体タンパク質などの炎症関連タンパク質に関連するアミロイドの細胞外脳蓄積物により引き起こされると考えられる(ショカバーグ(Sjoberg)ら著、2009年、トレンズ・イン・イムノロジー(Trends in Immunology)、第30巻、第2号、p.83~90(その内容はその全体が参照により本明細書に組み込まれる))。いくつかの場合には、本発明に係る化合物および組成物は、米国特許出願公開第2014/0234275号明細書(その内容はその全体が参照により本明細書に組み込まれる)に教示されたアルツハイマー病治療法のいずれかに従って補体阻害剤として使用しうる。
腎臓関連適応症
本発明に係る化合物および組成物、たとえば医薬組成物は、いくつかの場合には、補体活性を阻害することにより、腎臓に関連するある特定の疾患、障害、および/または病態を治療するために使用しうる。腎臓は、血流から代謝老廃物を除去することに関与する器官である。腎臓は、血圧、泌尿器系、および恒常性機序を制御するので、さまざまな身体機能に不可欠である。腎臓は、特異な構造上の特徴および血液への曝露に起因して炎症による影響をより深刻に受けるおそれがある(他の器官と比較して)。腎臓はまた、感染、腎疾患、および腎臓移植により活性化されうる独自の補体タンパク質を産生する。いくつかの場合には、本発明に係る化合物および組成物は、クイッグ(Quigg)著、ジャーナル・オブ・イムノロジー(J Immunol)、2003年、第171号、p.3319~24(その内容はその全体が参照により本明細書に組み込まれる)により教示された方法に従って、腎臓のある特定の疾患、病態、および/または障害の治療で補体阻害剤として使用しうる。
ループス腎炎
いくつかの実施形態では、本発明に係る化合物および組成物、たとえば医薬組成物は、補体活性を阻害することによりループス腎炎を予防および/または治療するために使用しうる。ループス腎炎は、全身性紅斑性狼瘡(SLE)と呼ばれる自己免疫性疾患により引き起こされる腎臓炎症である。ループス腎炎の症状としては、高血圧、泡状尿、脚、足、手、または顔の膨張、関節痛、筋肉痛、発熱、および皮疹が挙げられる。ループス腎炎は、本発明に係る化合物および組成物を含めて補体活性を制御する阻害剤により治療されるかもしれない。補体阻害によりループス腎炎を予防および/または治療するための方法および組成物は、米国特許出願公開第2013/0345257号明細書または米国特許第8,377,437号明細書(その各内容はその全体が参照により本明細書に組み込まれる)に教示されたいずれかを含みうる。
膜性糸球体腎炎(MGN)
いくつかの実施形態では、本発明に係る化合物および組成物、たとえば医薬組成物は、ある特定の補体成分の活性化を阻害することにより膜性糸球体腎炎(MGN)障害を予防および/または治療するために使用しうる。MGNは、炎症および構造変化にもたらしうる腎臓の障害である。MGNは、腎臓毛細血管(糸球体)中で可溶性抗原に結合する抗体により引き起こされる。MGNは、流体濾過などの腎機能に影響を及ぼすおそれがあり、腎不全を引き起こしうる。本発明に係る化合物および組成物は、米国特許出願公開第2010/0015139号明細書または国際公開第2000/021559号パンフレット(その各内容はその全体が参照により本明細書に組み込まれる)に教示された補体阻害によりMGNを予防および/または治療する方法に従って使用しうる。
血液透析合併症
いくつかの実施形態では、本発明に係る化合物および組成物、たとえば医薬組成物は、補体活性化を阻害することにより血液透析に関連する合併症を予防および/または治療するために使用しうる。血液透析は、腎不全の対象において腎機能を維持するために使用される医療手順である。血液透析では、血液に由来する、クレアチニン、ウレア、遊離水などの老廃物の除去は外部で行われる。血液透析治療の通常の合併症は、血液と透析膜との間の接触により引き起こされる慢性炎症である。他の通常の合併症は、血液循環を妨害する血餅の形成を表す血栓症である。こうした合併症は補体活性化に関連することが研究から示唆されている。血液透析は、腎不全に起因して血液透析を受ける対象において炎症反応および病理状態の制御ならびに/または血栓症の予防もしくは治療を行いうる手段を提供するために補体阻害剤療法と組み合わせうる。血液透析合併症の治療のための本発明に係る化合物および組成物の使用方法は、デアンゲリス(DeAngelis)ら著、イムノロジー(Immunobiology)、2012年、第217巻、第11号、p.1097~1105、またはクーツェリス(Kourtzelis)ら著、ブラッド(Blood)、2010年、第116巻、第4号、p.631~639(その各内容はその全体が参照により本明細書に組み込まれる)により教示された方法のいずれかに従って行いうる。
眼疾患
いくつかの実施形態では、本発明に係る化合物および組成物、たとえば医薬組成物は、ある特定の眼関連の疾患、障害、および/または病態を予防および/または治療するために使用しうる。健常眼では、補体系は低レベルで活性化され、病原体から保護する膜結合性および可溶性の眼内タンパク質により連続的に制御される。したがって、補体活性化は、眼に関連するいくつかの合併症で重要な役割を果たし、かかる疾患を治療するために補体活性化の制御を使用しうる。本発明に係る化合物および組成物は、ジァー(Jha)ら著、モレキュラー・イムノロジー(Mol Immunol.)、2007年、第44巻、第16号、p.3901~3908または米国特許第8,753,625号明細書(その各内容はその全体が参照により本明細書に組み込まれる)により教示された方法のいずれかに従って眼疾患の治療で補体阻害剤として使用しうる。
加齢黄斑変性(AMD)
いくつかの実施形態では、本発明に係る化合物および組成物、たとえば医薬組成物は、眼内補体活性化を阻害することにより加齢黄斑変性(AMD)を予防および/または治療するために使用しうる。AMDは、中心視覚障害、中心視覚盲点、および/または最終的な中心視覚損失を引き起こす慢性眼疾患である。中心視覚は、読書、車の運転、および/または顔認識の能力リードに影響を及ぼす。AMDは、一般に、非滲出性(ドライ)および滲出性(ウェット)の2つのタイプに分類される。ドライAMDは、網膜の中心の組織である黄斑の悪化を意味する。ウェットAMDは、血液および流体の漏れをもたらす網膜下の血管不全を意味する。ジャー(Jha)ら著、モレキュラー・イムノロジー(Mol
Immunol.)、2007年、第44巻、第16号、p.3901~8により考察されるように、いくつかのヒトおよび動物の試験では、AMDに関連する補体タンパク質が同定され、新規な治療戦略は補体活性化経路の制御を含むものであった。AMDの予防および/または治療のために本発明に係る化合物および組成物を使用することを含む本発明に係る方法は、米国特許出願公開第2011/0269807号明細書または米国特許出願公開第2008/0269318号明細書(その各内容はその全体が参照により本明細書に組み込まれる)に教示されたいずれかを含みうる。
角膜疾患
いくつかの実施形態では、本発明に係る化合物および組成物、たとえば医薬組成物は、眼内補体活性化を阻害することにより角膜疾患を予防および/または治療するために使用しうる。補体系は、病原性粒子および/または炎症性抗原からの角膜の保護に重要な役割を果たす。角膜は、虹彩、瞳孔、および前房を覆って保護する眼の最も外側のフロント部分であるので、外的因子に曝露される。角膜疾患としては、円錐角膜、角膜炎、眼性ヘルペス、および/または他の疾患が挙げられるが、これらに限定されるものではない。角膜合併症は、疼痛、霧視、催涙、充血、光過敏、および/または角膜瘢痕を引き起こすおそれがある。補体系は角膜保護に極めて重要であるが、補体活性化は、ある特定の補体化合物が高度に発現されるので、感染が除去された後、角膜組織の損傷を引き起こすおそれがある。角膜疾患の治療で補体活性を変調するための本発明に係る方法は、ジャー(Jha)ら著、モレキュラー・イムノロジー(Mol Immunol.)、2007年、第44巻、第16号、p.3901~8により教示されたいずれかを含みうる。
自己免疫性ブドウ膜炎
いくつかの実施形態では、本発明に係る化合物および組成物、たとえば医薬組成物は、眼のブドウ膜層の炎症であるブドウ膜炎を予防および/または治療するために使用しうる。ブドウ膜は、眼の脈絡膜、虹彩、および毛様体を含む眼の色素沈着領域である。ブドウ膜炎は、充血、霧視、疼痛、癒着を引き起こし、最終的には失明を引き起こすおそれがある。補体活性化産物は自己免疫性ブドウ膜炎の患者の眼内に存在し、補体は疾患発症に重要な役割を果たすことが研究から示唆されている。いくつかの場合には、本発明に係る化合物および組成物は、ジャー(Jha)ら著、モレキュラー・イムノロジー(Mol Immunol.)、2007年、第44巻、第16号、p.3901~8(その内容はその全体が参照により本明細書に組み込まれる)で同定された方法のいずれかに従ってブドウ膜炎を予防および/または治療するために使用しうる。
糖尿病性網膜症
いくつかの実施形態では、本発明に係る化合物および組成物、たとえば医薬組成物は、糖尿病患者において網膜血管の変化により引き起こされる疾患である糖尿病性網膜症を予防および/または治療するために使用しうる。網膜症は、血管膨張および流体漏出および/または異常血管成長を引き起こすおそれがある。糖尿病性網膜症は、視覚に影響を及ぼして最終的には失明をもたらすおそれがある。補体活性化は糖尿病性網膜症の進行に重要な役割を果たすことが研究から示唆されている。いくつかの場合には、本発明に係る化合物および組成物は、ジャー(Jha)ら著、モレキュラー・イムノロジー(Mol Immunol.)、2007年、第44巻、第16号、p.3901~8(その内容はその全体が参照により本明細書に組み込まれる)に記載の糖尿病性網膜症の治療方法に従って使用しうる。
視神経脊髄炎(NMO)
一部の実施形態では、本発明の化合物、組成物、たとえば医薬組成物、および/または方法は、視神経脊髄炎(NMO)を治療するため、用いてもよい。NMOは、視神経の破壊をもたらす自己免疫性疾患である。本発明の化合物および/または方法は、NMOを有する対象における神経破壊を予防するため、用いてもよい。
シェーグレン症候群
一部の実施形態では、本発明の化合物、組成物、たとえば医薬組成物、および/または方法は、シェーグレン症候群を治療するため、用いてもよい。シェーグレン症候群は、ほてりおよび/またはかゆみを生じうるドライアイによって特徴付けられる眼疾患である。それは、免疫系が眼および口における腺(それらの領域を湿らせることに関与する)を標的にする場合の自己免疫不全である。本開示の化合物、組成物、および/または方法は、シェーグレン症候群の症状を治療および/または低減するため、用いてもよい。
子癇前症およびHELLP症候群
いくつかの実施形態では、本発明に係る化合物および組成物、たとえば医薬組成物は、補体阻害剤療法により子癇前症および/またはHELLP(1)溶血、2)肝酵素亢進、および3)低血小板数の症候群フィーチャを表す略号)症候群を予防および/または治療するために使用しうる。子癇前症は、血圧上昇、膨張、息切れ、腎機能不全、肝機能障害、および/または低血小板数を含む症状を有する妊娠障害である。子癇前症は、典型的には、高尿中タンパク質レベルおよび高血圧により診断される。HELLP症候群は、溶血と肝酵素亢進と低血小板病態との組み合わせである。溶血は、赤血球からのヘモグロビンの放出をもたらす赤血球の破裂を含む疾患である。肝酵素亢進は妊娠誘導肝臓病態を表しうる。低血小板レベルは凝固能力の低減をもたらして出血過剰を引き起こす。HELLPは子癇前症および肝臓障害に関連する。HELLP症候群は、典型的には、妊娠のより後の段階または出産後に起こる。それは、典型的には、関与する3つの病態の存在を表す血液テストにより診断される。典型的にはHELLPは分娩の誘導により治療される。
HELLP症候群および子癇前症の時に補体活性化が起こり、HELLPおよび子癇前症の時に補体成分が増加レベルで存在するが研究から示唆される。補体阻害剤は、こうした病態を予防および/または治療するために治療剤として使用しうる。本発明に係る化合物および組成物は、ヒーガー(Heager)ら著、(オブステリスク・アンド・ギネコロジーObstetrics & Gynecology)、1992年、第79巻、第1号、p.19~26または国際公開第201/078622号パンフレット、(その各内容はその全体が参照により本明細書に組み込まれる)により教示されたHELLPおよび子癇前症の予防および/または治療の方法に従って使用しうる。
製剤
一部の実施形態では、本発明の化合物または組成物、たとえば医薬組成物は、水溶液中で製剤化される。いくつかの場合には、水溶液は、1つ以上の塩および/または1つ以上の緩衝剤をさらに含む。塩は、塩化ナトリウムを含んでもよく、それは、約0.05mM~約50mM、約1mM~約100mM、約20mM~約200mM、または約50mM~約500mMの濃度で含まれてもよい。さらに、溶液は、少なくとも500mMの塩化ナトリウムを含んでもよい。いくつかの場合には、水溶液は、リン酸ナトリウムを含む。リン酸ナトリウムは、水溶液中に約0.005mM~約5mM、約0.01mM~約10mM、約0.1mM~約50mM、約1mM~約100mM、約5mM~約150mM、または約10mM~約250mMの濃度で含まれてもよい。いくつかの場合には、少なくとも250mMのリン酸ナトリウム濃度が使用される。
本発明の組成物は、C5阻害剤を約0.001mg/mL~約0.2mg/mL、約0.01mg/mL~約2mg/mL、約0.1mg/mL~約10mg/mL、約0.5mg/mL~約5mg/mL、約1mg/mL~約20mg/mL、約15mg/mL~約40mg/mL、約25mg/mL~約75mg/mL、約50mg/mL~約200mg/mL、または約100mg/mL~約400mg/mLの濃度で含んでもよい。いくつかの場合には、本発明の組成物は、C5阻害剤を少なくとも400mg/mLの濃度で含む。
本発明の組成物は、C5阻害剤を、近似的に、大体でまたは正確に、以下の値:0.001mg/mL、0.2mg/mL、0.01mg/mL、2mg/mL、0.1mg/mL、10mg/mL、0.5mg/mL、5mg/mL、1mg/mL、20mg/mL、15mg/mL、40mg/mL、25mg/mL、75mg/mL、50mg/mL、200mg/mL、100mg/mL、または400mg/mLのいずれかの濃度で含んでもよい。いくつかの場合には、本発明の組成物は、C5阻害剤を少なくとも40mg/mLの濃度で含む。
一部の実施形態では、本発明の組成物は、少なくとも水およびC5阻害剤(たとえば環状C5阻害剤ポリペプチド)を含む水性組成物を含む。本発明の水性C5阻害剤組成物は、1つ以上の塩および/または1つ以上の緩衝剤をさらに含んでもよい。いくつかの場合には、本発明の水性組成物は、水、環状C5阻害剤ポリペプチド、塩、および緩衝剤を含む。
本発明の水性C5阻害剤製剤は、約2.0~約3.0、約2.5~約3.5、約3.0~約4.0、約3.5~約4.5、約4.0~約5.0、約4.5~約5.5、約5.0~約6.0、約5.5~約6.5、約6.0~約7.0、約6.5~約7.5、約7.0~約8.0、約7.5~約8.5、約8.0~約9.0、約8.5~約9.5、または約9.0~約10.0のpHレベルを有してもよい。いくつかの場合には、本発明の化合物および組成物は、優良製造規範(GMP)および/または現行GMP(cGMP)に従って調製される。GMPおよび/またはcGMPを実施するために使用されるガイドラインは、米国食品医薬品局(FDA)、世界保健機関(WHO)、および医薬品規制調和国際会議(ICH)の1か所以上から入手されてもよい。
用量および投与
ヒト対象の治療のため、C5阻害剤は、医薬組成物として製剤化されてもよい。治療されるべき対象、投与方法、および所望される治療のタイプ(たとえば、予防(prevention)、予防(prophylaxis)、または治療)に応じて、C5阻害剤は、これらのパラメータに適合する方法で製剤化されてもよい。かかる技術の概要は、「レミントン:薬学の科学と実践(Remington:The Science and Practice of Pharmacy)」、第21版、リッピンコット・ウィリアムズ・アンド・ウィルキンス(Lippincott Williams & Wilkins)、2005年;および「薬理学テクノロジー百科事典(Encyclopedia of Pharmaceutical Technology)」、J.スワーブリック(J.Swarbrick)およびJ.C.ボイラン(J.C.Boylan)編、1988~1999年、マーセル・デッカー(Marcel Dekker)、ニューヨークにて見いだされ、それらの各々は参照により本明細書中に組み込まれる。
本発明のC5阻害剤は、治療有効量で提供されてもよい。いくつかの場合には、本発明のC5阻害剤の治療有効量は、1つ以上のC5阻害剤の約0.1mg~約1mg、約0.5mg~約5mg、約1mg~約20mg、約5mg~約50mg、約10mg~約100mg、約20mg~約200mg、または少なくとも200mgの用量での投与により達成されうる。
一部の実施形態では、対象に、かかる対象の体重に基づく治療量のC5阻害剤が投与されてもよい。いくつかの場合には、C5阻害剤は、約0.001mg/kg~約1.0mg/kg、約0.01mg/kg~約2.0mg/kg、約0.05mg/kg~約5.0mg/kg、約0.03mg/kg~約3.0mg/kg、約0.01mg/kg~約10mg/kg、約0.1mg/kg~約2.0mg/kg、約0.2mg/kg~約3.0mg/kg、約0.4mg/kg~約4.0mg/kg、約1.0mg/kg~約5.0mg/kg、約2.0mg/kg~約4.0mg/kg、約1.5mg/kg~約7.5mg/kg、約5.0mg/kg~約15mg/kg、約7.5mg/kg~約12.5mg/kg、約10mg/kg~約20mg/kg、約15mg/kg~約30mg/kg、約20mg/kg~約40mg/kg、約30mg/kg~約60mg/kg、約40mg/kg~約80mg/kg、約50mg/kg~約100mg/kg、または少なくとも100mg/kgの用量で投与される。かかる範囲は、ヒト対象への投与に適した範囲を含んでもよい。用量レベルは、状況の本質;薬剤有効性;患者の病態;施術者の判断;ならびに頻度および投与方法に高度に依存してもよい。
いくつかの場合には、本発明のC5阻害剤は、試料、生体系、または対象におけるC5阻害剤の所望されるレベル(たとえば、対象における血漿レベル)を達成するように調整された濃度で提供される。いくつかの場合には、試料、生体系、または対象におけるC5阻害剤の所望される濃度は、約0.001μM~約0.01μM、約0.005μM~約0.05μM、約0.02μM~約0.2μM、約0.03μM~約0.3μM、約0.05μM~約0.5μM、約0.01μM~約2.0μM、約0.1μM~約50μM、約0.1μM~約10μM、約0.1μM~約5μM、または約0.2μM~約20μMの濃度を含んでもよい。いくつかの場合には、対象血漿中のC5阻害剤の所望される濃度は、約0.1μg/mL~約1000μg/mLであってもよい。その他の場合、対象血漿中のC5阻害剤の所望される濃度は、約0.01μg/mL~約2μg/mL、約0.02μg/mL~約4μg/mL、約0.05μg/mL~約5μg/mL、約0.1μg/mL~約1.0μg/mL、約0.2μg/mL~約2.0μg/mL、約0.5μg/mL~約5μg/mL、約1μg/mL~約5μg/mL、約2μg/mL~約10μg/mL、約3μg/mL~約9μg/mL、約5μg/mL~約20μg/mL、約10μg/mL~約40μg/mL、約30μg/mL~約60μg/mL、約40μg/mL~約80μg/mL、約50μg/mL~約100μg/mL、約75μg/mL~約150μg/mL、または少なくとも150μg/mLであってもよい。他の実施形態では、C5阻害剤は、少なくとも0.1μg/mL、少なくとも0.5μg/mL、少なくとも1μg/mL、少なくとも5μg/mL、少なくとも10μg/mL、少なくとも50μg/mL、少なくとも100μg/mL、または少なくとも1000μg/mLの最高血清濃度(Cmax)を達成するのに十分な用量で投与される。
一部の実施形態では、約0.1μg/mL~約20μg/mLのC5阻害剤レベルを維持するのに十分な用量が、対象における溶血を約25%~約99%低減するために提供される。
一部の実施形態では、C5阻害剤は、対象の1kg体重あたり約0.1mg/日~約60mg/日を送達するのに十分な用量で毎日投与される。いくつかの場合には、各投与とともに達成されるCmaxは、約0.1μg/mL~約1000μg/mLである。かかる場合においては、投与間の曲線下面積(AUC)は、約200μg時間/mL~約10,000μg時間/mLであってもよい。
本発明の一部の方法によると、本発明のC5阻害剤は、所望される効果をうるのに要求される濃度で提供される。いくつかの場合には、本発明の化合物および組成物は、所与の反応またはプロセスを半分低減するのに要求される量で提供される。かかる低減を達成するのに要求される濃度は、本明細書中で50%阻害濃度(half maximal inhibitory concentration)または「IC50」と称される。あるいは、本発明の化合物および組成物は、所与の反応、活性またはプロセスを半分増強させるのに要求される量で提供されてもよい。かかる増強に対して要求される濃度は、本明細書中で50%効果濃度(half maximal effective concentration)または「EC50」と称される。
本発明のC5阻害剤は、組成物の総重量の0.1~95重量%の総量で提示されてもよい。いくつかの場合には、C5阻害剤は、静脈内(IV)投与によって提供される。いくつかの場合には、C5阻害剤は、皮下(SC)投与によって提供される。
本発明のC5阻害剤のSC投与は、いくつかの場合には、IV投与をしのぐ利点を提供しうる。SC投与は、患者に自己治療を提供可能でありうる。かかる治療は、患者が患者自身の家で自分に対して治療を提供し、提供者または医療施設に移動する必要性を回避することができる点で有利でありうる。さらに、SC治療は、患者が、IV投与に関連した長期合併症、たとえば、感染症、静脈接近の低下、局所血栓症、および血腫を回避することを可能にしうる。一部の実施形態では、SC治療は、患者コンプライアンス、患者満足度、生活の質を増強し、治療コストおよび/または薬剤要件を低減しうる。
いくつかの場合には、毎日SC投与は、1~3用量内、2~3用量内、3~5用量内、または5~10用量内に達する定常状態のC5阻害剤濃度を提供する。いくつかの場合には、0.1mg/kgの毎日SC用量は、2.5μg/mL以上の持続的なC5阻害剤レベルおよび/または90%を超える補体活性の阻害を達成しうる。
本発明のC5阻害剤は、SC投与後、遅い吸収動態(4~8時間を超える最高観察濃度までの時間)および高い生物学的利用率(約75%~約100%)を示しうる。
一部の実施形態では、用量および/または投与は、対象または対象体液(たとえば血漿)におけるC5阻害剤レベルの半減期(t1/2)を調節するため、変更される。いくつかの場合には、t1/2は、少なくとも1時間、少なくとも2時間、少なくとも4時間、少なくとも6時間、少なくとも8時間、少なくとも10時間、少なくとも12時間、少なくとも16時間、少なくとも20時間、少なくとも24時間、少なくとも36時間、少なくとも48時間、少なくとも60時間、少なくとも72時間、少なくとも96時間、少なくとも5日、少なくとも6日、少なくとも7日、少なくとも8日、少なくとも9日、少なくとも10日、少なくとも11日、少なくとも12日、少なくとも2週間、少なくとも3週間、少なくとも4週間、少なくとも5週間、少なくとも6週間、少なくとも7週間、少なくとも8週間、少なくとも9週間、少なくとも10週間、少なくとも11週間、少なくとも12週間、または少なくとも16週間である。
一部の実施形態では、本発明のC5阻害剤は、長い終末t1/2を示しうる。延長された終末t1/2は、さらなる標的結合および/または追加的な血漿タンパク質結合に起因しうる。いくつかの場合には、本発明のC5阻害剤は、血漿および全血双方における24時間を超えるt1/2値を示す。いくつかの場合には、C5阻害剤は、37℃で16時間のヒト全血中でのインキュベーション後、機能的活性を失わない。
一部の実施形態では、用量および/または投与は、C5阻害剤の定常状態分布容積を調節するため、変更される。いくつかの場合には、C5阻害剤の定常状態分布容積は、約0.1mL/kg~約1mL/kg、約0.5mL/kg~約5mL/kg、約1mL/kg~約10mL/kg、約5mL/kg~約20mL/kg、約15mL/kg~約30mL/kg、約10mL/kg~約200mL/kg、約20mL/kg~約60mL/kg、約30mL/kg~約70mL/kg、約50mL/kg~約200mL/kg、約100mL/kg~約500mL/kg、または少なくとも500mL/kgである。いくつかの場合には、C5阻害剤の用量および/または投与は、定常状態分布容積が全血液量の少なくとも50%に等しいことを保証するように調整される。一部の実施形態では、C5阻害剤分布は、血漿区画に制限されてもよい。
一部の実施形態では、本発明のC5阻害剤は、約0.001mL/時間/kg~約0.01mL/時間/kg、約0.005mL/時間/kg~約0.05mL/時間/kg、約0.01mL/時間/kg~約0.1mL/時間/kg、約0.05mL/時間/kg~約0.5mL/時間/kg、約0.1mL/時間/kg~約1mL/時間/kg、約0.5mL/時間/kg~約5mL/時間/kg、約0.04mL/時間/kg~約4mL/時間/kg、約1mL/時間/kg~約10mL/時間/kg、約5mL/時間/kg~約20mL/時間/kg、約15mL/時間/kg~約30mL/時間/kg、または少なくとも30mL/時間/kgの総クリアランス速度を示す。
対象(たとえば対象血清)におけるC5阻害剤の最高濃度が維持される期間(Tmax値)は、用量および/または投与(たとえば皮下投与)を変更することにより調節されてもよい。いくつかの場合には、C5阻害剤は、約1分~約10分、約5分~約20分、約15分~約45分、約30分~約60分、約45分~約90分、約1時間~約48時間、約2時間~約10時間、約5時間~約20時間、約10時間~約60時間、約1日~約4日、約2日~約10日、または少なくとも10日のTmax値を有する。
一部の実施形態では、本発明のC5阻害剤は、オフターゲット効果なしに投与されてもよい。いくつかの場合には、本発明のC5阻害剤は、300μM以下の濃度であっても、hERG(ヒトエーテルアゴーゴー関連遺伝子)を阻害しない。本発明のC5阻害剤の、最大で10mg/kgの用量レベルでのSC注射は、十分に耐容性を示し、心血管系の有害作用(たとえば長期的心室再分極のリスク上昇)および/または呼吸器系の有害作用を全くもたらさない場合がある。
C5阻害剤の用量は、別種において認められる、観察されない有害作用レベル(NOAEL)を用いて決定されてもよい。かかる種は、限定はされないが、サル、ラット、ウサギ、およびマウスを含んでもよい。いくつかの場合には、ヒト等価用量(HED)は、他種において認められるNOAELからの非比例的スケーリングにより決定されてもよい。いくつかの場合には、HEDは、約2倍~約5倍、約4倍~約12倍、約5倍~約15倍、約10倍~約30倍、または少なくとも30倍の治療限界をもたらす。いくつかの場合には、治療限界は、霊長類への曝露およびヒトにおいて評価されたヒトCmaxレベルを用いることにより決定される。
一部の実施形態では、本発明のC5阻害剤は、補体系の長期的阻害が有害であることが判明している感染症の症例における急速な休薬期間を可能にする。
本発明に記載のC5阻害剤投与は、対象に対する潜在的な臨床的リスクを低減するため、変更されてもよい。髄膜炎菌(Neisseria meningitidis)による感染は、エクリズマブを含むC5阻害剤の公知のリスクである。いくつかの場合には、髄膜炎菌(Neisseria meningitidis)による感染のリスクは、1つ以上の予防ステップを開始することにより最小化される。かかるステップは、既にこれらの細菌によりコロニー形成されうる対象の除外を含んでもよい。いくつかの場合には、予防ステップは、1つ以上の抗生物質の同時投与を含んでもよい。いくつかの場合には、シプロフロキサシンが同時投与されてもよい。いくつかの場合には、シプロフロキサシンは、約100mg~約1000mg(たとえば500mg)の用量で経口的に同時投与されてもよい。
一部の実施形態では、C5阻害剤投与は、自動注射装置を用いて実施されてもよい。かかる装置は、自己投与(たとえば毎日投与)を可能にしうる。
投薬頻度
一部の実施形態では、本発明のC5阻害剤は、毎時間、2時間毎、4時間毎、6時間毎、12時間毎、18時間毎、24時間毎、36時間毎、72時間毎、84時間毎、96時間毎、5日毎、7日毎、10日毎、14日毎、週毎、2週毎、3週毎、4週毎、月毎、2か月毎、3か月毎、4か月毎、5か月毎、6か月毎、毎年、または少なくとも毎年の頻度で投与される。いくつかの場合には、C5阻害剤は、1日1回投与されるか、または一日全体を通して適切な間隔で2回、3回、もしくはより多くの部分用量で投与される。
一部の実施形態では、C5阻害剤は、一日複数回投与で投与される。いくつかの場合には、C5阻害剤は、7日間毎日投与される。いくつかの場合には、C5阻害剤は、7~100日間毎日投与される。いくつかの場合には、C5阻害剤は、少なくとも100日間毎日投与される。いくつかの場合には、C5阻害剤は、無期限にわたり毎日投与される。
静脈内送達されるC5阻害剤は、たとえば、5分間、10分間、15分間、20分間、または25分間にわたり、長期にわたる注入により送達されてもよい。投与は、たとえば、定期的に、たとえば、毎時間、毎日、毎週、隔週毎(すなわち2週毎)、1か月、2か月、3か月、4か月、または4か月超にわたり反復されてもよい。初期治療計画後、治療薬は、より低い頻度ベースで投与されてもよい。たとえば、3か月間の隔週投与後、投与は、1か月、6か月間または1年もしくは1年超につき1回、反復されてもよい。C5阻害剤の投与は、(たとえば、患者の細胞、組織、血液、尿または他の区画における)結合または任意の生理的に有害なプロセスを、少なくとも10%、少なくとも15%、少なくとも20%、少なくとも25%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%または少なくとも90%またはそれ以上、減少させるか、低減するか、増加させるかまたは変更しうる。
C5阻害剤および/またはC5阻害剤組成物の全用量の投与前、患者は、より少ない用量、たとえば全用量の5%が投与され、有害作用、たとえばアレルギー反応もしくは注入反応、または脂質レベルもしくは血圧の上昇について監視されうる。別の例では、患者は、望まれない免疫刺激効果、たとえばサイトカイン(たとえば、TNF-α、Il-1、Il-6、またはIl-10)レベルの上昇について監視されうる。
遺伝的素因は、一部の疾患または障害の発生における役割を担う。したがって、C5阻害剤を必要とする患者は、家族歴をとるか、またはたとえば、1つ以上の遺伝子マーカーもしくは変異体をスクリーニングすることにより同定されてもよい。本発明の治療組成物を処方または投与する前、医療提供者、たとえば医師、看護師、またはファミリーメンバーが家族歴を分析してもよい。
III.キット
本明細書に記載のC5阻害剤のいずれかは、キットの一部として提供されてもよい。非限定例では、C5阻害剤は、疾患を治療するためのキット中に含まれてもよい。キットは、滅菌した乾燥C5阻害剤粉末のバイアル、乾燥粉末を溶解するための滅菌溶液、およびC5阻害剤を投与するための注入セット用シリンジを含んでもよい。
C5阻害剤が乾燥粉末として提供されるとき、C5阻害剤の10マイクログラム~1000ミリグラムの間、または少なくとももしくは多くてそれらの量が本発明のキット中に提供されることが検討される。
典型的なキットは、中にC5阻害剤製剤が設けられ、好ましくは好適に割り当てられる、少なくとも1つのバイアル、試験管、フラスコ、ボトル、シリンジおよび/または他の容器もしくはデバイスを含んでもよい。キットはまた、滅菌された薬学的に許容できる緩衝液および/または他の希釈剤を有する1つ以上の二次的容器を含んでもよい。
一部の実施形態では、本発明の化合物または組成物は、ホウケイ酸塩バイアル内に提供される。かかるバイアルは、キャップ(たとえばゴム栓)を含んでもよい。いくつかの場合には、キャップは、フルロテック(FLUROTEC)(登録商標)でコーティングされたゴム栓を含む。キャップは、オーバーシール、限定はされないがアルミニウムのフリップオフオーバーシールなどでその場所に固定されてもよい。
キットは、キット中に含まれない任意の他の試薬の使用と同様、キット成分を利用するための使用説明書をさらに含んでもよい。使用説明書は、実行可能なバリエーションを含んでもよい。
IV.定義
生物学的利用率:本明細書で用いられる場合、用語「生物学的利用率」は、対象に投与される所与量の化合物(たとえばC5阻害剤)の全身利用能を指す。生物学的利用率は、非変化形態の化合物の、対象への化合物の投与後の曲線下面積(AUC)または最高血清もしくは血漿濃度(Cmax)を測定することにより評価されうる。AUCは、横軸(X軸)に沿う時間に対する縦座標(Y軸)に沿う化合物の血清もしくは血漿濃度をプロットするときの曲線下面積の測定値である。一般に、特定化合物におけるAUCは、当業者に公知の方法および/またはG.S.バンカー(G.S.Banker)著、モダン・ファーマシューティクス、ドラッグズ・アンド・ザ・ファーマシューティカル・サイエンシーズ(Modern Pharmaceutics,Drugs and the Pharmaceutical Sciences)、第72巻、マーセル・デッカー、ニューヨーク、インコーポレイテッド(Marcel Dekker,New York,Inc.)、1996年(その内容はその全体が参照により本明細書に組み込まれる)に記載のような方法を用いて算出されうる。
生体系:本明細書で用いられる場合、用語「生体系」は、細胞膜、細胞区画、細胞、細胞培養物、組織、臓器、臓器系、生物、多細胞生物、体液、または任意の生物学的実体の内部で少なくとも1つの生物学的機能または生物学的タスクを実施する細胞、細胞群、組織、臓器、臓器群、オルガネラ、体液、生物学的シグナル伝達経路(たとえば、受容体-活性化シグナル伝達経路、荷電活性化シグナル伝達経路(charge-activated signaling pathway)、代謝経路、細胞シグナル伝達経路など)、タンパク質群、核酸群、または分子群(限定はされないが生体分子を含む)を指す。一部の実施形態では、生体系は、細胞内および/または細胞外シグナル伝達生体分子を含む細胞シグナル伝達経路である。一部の実施形態では、生体系は、タンパク質分解カスケード(たとえば補体カスケード)を含む。
緩衝剤:本明細書で用いられる場合、用語「緩衝剤」は、pHにおける変化に抵抗することを意図して溶液中で使用される化合物を指す。かかる化合物は、限定はされないが、酢酸、アジピン酸、酢酸ナトリウム、安息香酸、クエン酸、安息香酸ナトリウム、マレイン酸、リン酸ナトリウム、酒石酸、乳酸、メタリン酸カリウム、グリシン、重炭酸ナトリウム、リン酸カリウム、クエン酸ナトリウム、および酒石酸ナトリウムを含む。
クリアランス速度:本明細書で用いられる場合、用語「クリアランス速度」は、特定化合物が生体系または体液から排除される時の速度を指す。
化合物:本明細書で用いられる場合、用語「化合物」は、特徴的な化学的実体を指す。一部の実施形態では、特定化合物は、1つ以上の異性体または同位体形態(限定はされないが、立体異性体、幾何異性体および同位体を含む)中に存在してもよい。一部の実施形態では、化合物は、単一のかかる形態中に限って提供または利用される。一部の実施形態では、化合物は、2つ以上のかかる形態の混合物(限定はされないが立体異性体のラセミ混合物を含む)として提供または利用される。当業者は、一部の化合物が異なる形態で存在し、異なる特性および/または活性(限定はされないが生物学的活性を含む)を示すことを理解するであろう。かかる場合、本発明に従う使用では、化合物の特定の形態を選択または回避することは当業者の範囲内に含まれる。たとえば、非対称的に置換された炭素原子を含有する化合物は、光学的活性またはラセミ形態で単離されうる。
環状または環化:本明細書で用いられる場合、用語「環状」は、連続ループの存在を指す。環状分子は、サブユニットの非破壊鎖を形成するために連結されるときに限り、環状である必要がない。環状ポリペプチドは、2つのアミノ酸が架橋部分により接続されるときに形成される「環状ループ」を含んでもよい。環状ループは、架橋されるアミノ酸間に存在するポリペプチドに沿うアミノ酸を含む。環状ループは、2、3、4、5、6、7、8、9、10またはそれ以上のアミノ酸を含んでもよい。
下流イベント:本明細書で用いられる場合、用語「下流」または「下流イベント」は、別のイベントの後および/またはその結果として生じる任意のイベントを指す。いくつかの場合には、下流イベントは、C5切断および/または補体活性化の後やその結果として生じるイベントである。かかるイベントは、限定はされないが、C5切断生成物の産生、MACの活性化、溶血、および溶血関連疾患(たとえばPNH)を含んでもよい。
平衡解離定数:本明細書で用いられる場合、用語「平衡解離定数」または「K」は、2つ以上の薬剤(たとえば2つのタンパク質)が可逆的に分離する傾向を表す値を指す。いくつかの場合には、Kは、二次薬剤の全レベルの半分が一次薬剤に関連する場合の一次薬剤の濃度を示す。
半減期:本明細書で用いられる場合、用語「半減期」または「t1/2」は、所与のプロセスまたは化合物濃度が最終値の半分に達するのにかかる時間を指す。「終末半減期」または「終末t1/2」は、因子の濃度が偽平衡に達してから、因子の血漿濃度が半分減少するのに要する時間を指す。
溶血:本明細書で用いられる場合、用語「溶血」は、赤血球の破壊を指す。
同一性:本明細書で用いられる場合、用語「同一性」は、ポリペプチドまたは核酸を参照するとき、配列間の比較による関係性を指す。同用語は、高分子配列間の配列関連性の度合いを記述するのに使用され、かつ特定の数学モデルまたはコンピュータプログラム(すなわち「アルゴリズム」)によって処理されるギャップアライメント(幾らか存在する場合)に整合する単量体成分の百分率を含んでもよい。関連ポリペプチドの同一性は、公知の方法により容易に算出されうる。かかる方法は、限定はされないが、他者(レスク,A.M.(Lesk,A.M.)編、「計算分子生物学(Computational Molecular Biology)」、オックスフォード大学出版局(Oxford
University Press)、ニューヨーク、1988年;スミス,D.W.(Smith,D.W.)編、「バイオコンピューティング:インフォマティクスおよびゲノムプロジェクト(Biocomputing:Informatics and Genome Projects)」、アカデミック・プレス(Academic Press)、ニューヨーク、1993年;グリフィン,A.M.(Griffin,A.M.)ら編、「配列データのコンピュータ解析(Computer Analysis of
Sequence Data)」、第1部、ヒューマナプレス(Humana Press)、ニュージャージー、1994年;フォン・ハインヘ,G.(von Heinje,G.)、「分子生物学における配列分析(Sequence Analysis in Molecular Biology)」、アカデミック・プレス(Academic Press)、1987年;グリブスコフ,M.(Gribskov,M.)ら編、「配列分析プライマー(Sequence Analysis Primer)」、Mストックトンプレス(M.Stockton Press)、ニューヨーク、1991年;およびカリロ(Carillo)ら著、アプライド・マセマティクス(Applied Math)、エスアイエーエム・ジャーナル(SIAM J)、1988年、第48巻、p.1073)に過去に記載されたものを含む。
阻害剤:本明細書で用いられる場合、用語「阻害剤」は、特異的イベント;細胞シグナル;化学的経路;酵素反応;細胞プロセス;2つ以上の実体間の相互作用;生物学的イベント;疾患;障害;または病態の発生をブロックするかまたはそれの低下を引き起こす任意の薬剤を指す。
静脈内:本明細書で用いられる場合、用語「静脈内」は、血管内部の領域を指す。静脈内投与は、典型的には、血管(たとえば静脈)内への注射を介した血液中への化合物の送達を指す。
in vitro:本明細書で用いられる場合、用語「in vitro」は、生物(たとえば、動物、植物、または微生物)内部ではなく、人工的環境下(たとえば、試験管または反応容器内、細胞培養下、ペトリ皿内など)で生じるイベントを指す。
in vivo:本明細書で用いられる場合、用語「in vivo」は、生物(たとえば、動物、植物、または微生物またはその細胞もしくは組織)内部で生じるイベントを指す。
ラクタム架橋:本明細書で用いられる場合、用語「ラクタム架橋」は、分子中の化学基間で架橋を形成するアミド結合を指す。いくつかの場合には、ラクタム架橋は、ポリペプチド中のアミノ酸間で形成される。
リンカー:用語「リンカー」は、本明細書で用いられる場合、2つ以上の実体を連結するのに使用される原子群(たとえば、10~1,000原子)、分子、または他の化合物を指す。リンカーは、かかる実体を共有結合性または非共有結合性(たとえば、イオン性または疎水性)相互作用を介して連結してもよい。リンカーは、2つ以上のポリエチレングリコール(PEG)単位の鎖を含んでもよい。いくつかの場合には、リンカーは、切断可能であってもよい。
毎分換気量:本明細書で用いられる場合、用語「毎分換気量」は、対象の肺から吸入または呼息される空気の毎分容量を指す。
非タンパク質構成:本明細書で用いられる場合、用語「非タンパク質構成」は、任意の非天然タンパク質、たとえば非天然成分、たとえば非天然アミノ酸を有する場合を指す。
患者:本明細書で用いられる場合、「患者」は、治療を求めるかもしくは必要とする場合がある対象、治療を必要とする対象、治療を受けている対象、治療を受けることになる対象、または特定の疾患もしくは病態についての熟練した専門家の看護下にある対象を指す。
医薬組成物:本明細書で用いられる場合、用語「医薬組成物」は、少なくとも1つの活性成分(たとえばC5阻害剤)を活性成分が治療的に有効であることを許容する形態および量で含む組成物を指す。
薬学的に許容できる:語句「薬学的に許容できる」は、ヒトおよび動物の組織との接触状態での使用に適する、過剰な毒性、刺激作用、アレルギー反応、または他の問題もしくは合併症を伴わない、妥当なリスク・ベネフィット比に釣り合う、健全な医学的判断の範囲内に含まれる、化合物、材料、組成物、および/または剤形を指すように本明細書中で使用される。
薬学的に許容できる賦形剤:語句「薬学的に許容できる賦形剤」は、本明細書で用いられる場合、医薬組成物中に存在する活性剤(たとえばR5000またはその変異体)以外の、患者において実質的に非毒性および非炎症性である特性を有する任意の成分を指す。一部の実施形態では、薬学的に許容できる賦形剤は、活性薬剤を懸濁または溶解可能な溶媒である。賦形剤は、たとえば、抗接着剤、抗酸化剤、結合剤、コーティング剤、圧縮助剤、崩壊剤、色素(着色剤)、皮膚軟化剤、乳化剤、充填剤(希釈剤)、膜形成剤またはコーティング剤、風味剤、香気剤、滑剤(流動促進剤)、滑沢剤、保存料、プリントインク、吸着剤、懸濁化剤または分散剤、甘味剤、および水和水を含んでもよい。例示的な賦形剤として、限定はされないが、ブチル化ヒドロキシトルエン(BHT)、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム(第2)、カルシウムステアレート、クロスカルメロース、架橋ポリビニルピロリドン、クエン酸、クロスポビドン、システイン、エチルセルロース、ゼラチン、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ラクトース、マグネシウムステアレート、マルチトール、マンニトール、メチオニン、メチルセルロース、メチルパラベン、微結晶セルロース、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、ポビドン、α化デンプン、プロピルパラベン、パルミチン酸レチニル、シェラック、二酸化ケイ素、ナトリウムカルボキシメチルセルロース、クエン酸ナトリウム、ナトリウムデンプングリコレート、ソルビトール、デンプン(トウモロコシ)、ステアリン酸、スクロース、タルク、二酸化チタン、ビタミンA、ビタミンE、ビタミンC、およびキシリトールが挙げられる。
血漿区画:本明細書で用いられる場合、用語「血漿区画」は、血漿によって占有される血管内空間を指す。
塩:本明細書で用いられる場合、用語「塩」は、カチオンと結合されたアニオンからなる化合物を指す。かかる化合物は、塩化ナトリウム(NaCl)または限定はされないが、酢酸塩、塩化物、炭酸塩、シアン化物、亜硝酸塩、硝酸塩、硫酸塩、およびリン酸塩を含む他のクラスの塩を含んでもよい。
試料:本明細書で用いられる場合、用語「試料」は、供給源から採取される、かつ/または分析もしくはプロセシングのために提供される一定分量または一部分を指す。一部の実施形態では、試料は、組織、細胞または構成成分(たとえば限定はされないが、血液、粘液、リンパ液、滑液、脳脊髄液、唾液、羊水、羊膜帯血液、尿、膣液および精液を含む体液)などの生物学的供給源に由来する。一部の実施形態では、試料は、ホモジネート、可溶化液または抽出物(全生物またはその組織、細胞もしくは構成成分のサブセット、またはその画分もしくは部分、限定はされないが、たとえば、血漿、血清、髄液、リンパ液、皮膚、気道、腸管、および泌尿生殖器の外部切片、涙、唾液、乳汁、血球、腫瘍、もしくは臓器などから調製される)であるかまたはそれらを含んでもよい。一部の実施形態では、試料は、培地、たとえば栄養ブロスもしくはゲルであるかまたはそれを含み、それは細胞成分、たとえばタンパク質を含有してもよい。一部の実施形態では、「一次」試料は、供給源の一定分量である。一部の実施形態では、分析または他の用途のための試料を調製するため、一次試料は1つ以上の処理(たとえば、分離、精製など)工程が施されてもよい。
皮下:本明細書で用いられる場合、用語「皮下」は、皮膚の下の空間を指す。皮下投与は、化合物の皮膚の下への送達である。
対象:本明細書で用いられる場合、用語「対象」は、たとえば、実験、診断、予防、および/または治療目的に、本発明に従う化合物が投与されてもよい任意の生物を指す。典型的な対象は、動物(たとえば、マウス、ラット、ウサギ、ブタ対象、非ヒト霊長類、およびヒトなどの哺乳類)を含む。
実質的に:本明細書で用いられる場合、用語「実質的に」は、対象とする特徴または特性の総量または総量に近い度合いまたは程度を示す質的状態を指す。生物学における当業者は、生物学的および化学的現象は、存在するにしても、完了まで至るおよび/もしくは完全性にまで進むか、または絶対的な結果を達成もしくは回避することが稀であることを理解するであろう。したがって、用語「実質的に」は、多数の生物学的および化学的現象に内在する完全性の潜在的な欠如をとらえるように本明細書中で使用される。
治療有効量:本明細書で用いられる場合、用語「治療有効量」は、疾患、障害、および/もしくは病態を患うかもしくはそれらに罹りやすい対象に投与されるとき、疾患、障害、および/もしくは病態を治療し、それらの症状を改善し、診断し、予防し、および/またはそれらの発症を遅延させるのに十分である送達されるべき薬剤(たとえばC5阻害剤)の量を意味する。
一回換気量:本明細書で用いられる場合、用語「一回換気量」は、(任意の余分な努力の不在下で)呼吸間で交換される空気の正常な肺容積を指す。
max:本明細書で用いられる場合、用語「Tmax」は、対象または体液中の化合物の最高濃度が維持される期間を指す。
治療する:本明細書で用いられる場合、用語「治療する」は、特定の疾患、障害、および/もしくは病態の1つ以上の症状または特徴を、部分的にまたは完全に軽減し、寛解し、改善し、解放し、それらの発症を遅延させ、それらの進行を阻害し、それらの重症度を低減し、かつ/またはそれらの発生率を低下させることを指す。治療は、疾患、障害、および/もしくは病態に関連する病理を発生させるリスクを低減することを目的として、疾患、障害、および/もしくは病態の徴候を呈しない対象に、および/または疾患、障害、および/もしくは病態の初期徴候のみを呈する対象に施されてもよい。
分布容積:本明細書で用いられる場合、用語「分布容積」または「Vdist」は、身体内の化合物の総量を血液または血漿中と同じ濃度で含有するのに必要とされる体液容量を指す。分布容積は、化合物が血管外組織内に存在する程度を反映しうる。大きい分布容積は、化合物が血漿タンパク質成分と比べての組織成分に結合する傾向を反映する。臨床状況では、Vdistを用いて化合物の負荷用量を決定し、化合物の定常状態濃度を達成することができる。
V.均等物および範囲
本発明の種々の実施形態を特定的には提示および説明してきたが、添付の特許請求の範囲に規定される本発明の趣旨および範囲から逸脱することなく、本明細書において形態および細部にさまざまな変更を加えうることは、当業者であれば理解されよう。
当業者であれば、通常の実験の域を出ることなく、本明細書に記載の本発明に係る特定の実施形態に対する多くの等価形態が分かるであろう。またはそれらを確認できるであろう。本発明の範囲は、以上の説明に限定されるものではなく、添付の特許請求の範囲に明記される通りである。
特許請求の範囲では、「a」、「an」、「the」などの冠詞は、相反する指示がないがきりまたは特に文脈から自明でないかぎり、1つ以上を意味しうる。グループの1つ以上のメンバー間に「or(または)」を含む特許請求の範囲または説明は、相反する指示がないがきりまたは特に文脈から自明でないかぎりに、グループメンバーの1つ、1つ超、またはすべてが、所与のプロダクトまたはプロセスに存在するか、そこで利用されるか、またはそれ以外の形でそれに適合する場合、満たされると考えられる。本発明は、厳密にグループの1つのメンバーが、所与のプロダクトまたはプロセスに存在するか、そこで利用されるか、またはそれ以外の形でそれに適合する、実施形態を含む。本発明は、グループメンバーの1つ超またはすべてが、所与のプロダクトまたはプロセスに存在するか、そこで利用されるか、またはそれ以外の形でそれに適合する、実施形態を含む。
また、「comprising(~を含む)」という用語は、オープンであることが意図され、追加の要素または工程の組込みを許容するものであるがそれを必要とするわけではないことにも留意されたい。したがって、「comprising(~を含む)」という用語が本明細書で用いられる場合、「consisting of(~からなる)」および「or including(または~を含む)」という用語もまた包含されて開示される。
範囲が与えられた場合、端点が含まれる。さらに、特に指定がないかぎりまたは特に文脈および当業者の理解から自明でないかぎり、範囲として表現された値は、文脈上明らかに異なる場合を除いて、範囲の下限の1/10単位まで、本発明のさまざまな実施形態で指定の範囲内の任意の特定の値または部分範囲を仮定しうると理解されるべきである。
それに加えて、先行技術に包含される本発明の特定の実施形態はいずれも、請求項の任意の1項以上から明示的に除外されうると理解されるべきである。そのような実施形態は、当業者に公知であるとみなされるので、たとえ本明細書で明示的に除外が明記されていないとしても、それらは除外されうる。本発明に係る組成物の特定の実施形態(たとえば、任意の核酸、それによりコードされたタンパク質、任意の製造方法、任意の使用方法など)はいずれも、先行技術の存在の有無にかかわらず、任意の理由で、いずれか1項以上の請求項から除外しうる。
引用された出典、たとえば、本明細書に引用された参考文献、出版物、データベース、データベース項目、および技術はすべて、たとえ引用の中にはっきりと明記されていないとしても、参照により本出願に組み込まれる。引用された出典の記載内容と本出願の記載内容とが矛盾する場合、本出願の記載内容が優先するものとする。
セクションおよび表題は限定を意図するものではない。
(実施例)
実施例1.R5000水溶液の調製
ポリペプチドは標準的な固相Fmoc/tBu法を用いて合成した。合成はRinkアミド樹脂を用いた標準的プロトコルを用いてLiberty自動マイクロ波ペプチドシンセサイザー(CEM、ノースカロライナ州マシューズ)で行ったが、マイクロ波機能を有していない他の自動シンセサイザーを使用してもよい。すべてのアミノ酸は供給業者から入手した。使用したカップリング反応剤は2-(6-クロロ-1-H-ベンゾトリアゾール-1-イル)-1,1,3,3-テトラメチルアミニウムヘキサフルオロホスフェート(HCTU)であり、塩基はジイソプロピルエチルアミン(DIEA)であった。ポリペプチドは、95%TFA、2.5%TIS、および2.5%水を用いて樹脂から3時間かけて切断し、エーテルを用いて沈殿により単離された。粗ポリペプチドは、C18カラムを用いた逆相分取HPLCにより20%~50%のグラジエントのアセトニトリル/水 0.1%TFAを用いて30分かけて精製した。純粋ポリペプチドを含有する画分は捕集および凍結乾燥され、すべてのポリペプチドはLC-MSにより分析された。
R5000(配列番号1)は、15アミノ酸(その中の4つが非天然アミノ酸)、アセチル化されたN末端、およびC末端カルボン酸を有する環状ペプチドとして調製した。コアペプチドのC末端リジンは、N-ε-(PEG24-γ-グルタミン酸-N-α-ヘキサデカノイル)リジン残基を形成する修飾側鎖を有する。この修飾側鎖は、パルミトイル基で誘導体化されているL-γグルタミン酸残基に付着されたポリエチレングリコールスペーサー(PEG24)を含む。R5000の環化は、L-Lys1およびL-Asp6の側鎖間のラクタム架橋を介する。R5000中のアミノ酸の全部がL-アミノ酸である。R5000は、3562.23g/モルの分子量およびC1722782455の化学式を有する。
エクリズマブと同様、R5000は、C5のC5aおよびC5bへのタンパク質分解切断をブロックする。エクリズマブと異なり、R5000はまた、C5bに結合し、C6との結合をブロックし得、その後のMACのアセンブリを阻止する。
R5000は、7.0±0.3のpHでの50mMのリン酸ナトリウムおよび75.7mMの塩化ナトリウムの製剤中に40mg/mLのR5000を含有する注射用水溶液として調製した。
実施例2.R5000の投与および貯蔵
R5000は、皮下(SC)または静脈内(IV)注射により投与し、投与する用量(投与容量)は、mg/kgに基づく対象体重に基づいて調節する。これは体重階層のセットに調節された一定の用量のセットを用いて得られる。全体として、ヒト投与は、43~109kgの幅広い体重範囲をサポートする。より重い体重(>109kg)を示す対象は、医学的監視を考慮しながらケースバイケースで対応する。
R5000は、2℃~8℃[36°~46°F]で貯蔵する。一旦対象に分注すると、R5000は、制御された室温(20℃~25℃[68°F~77°F])で最長で30日間貯蔵し、高熱などの過剰な温度変動の源または光への曝露から保護する。室温以外でのR5000の貯蔵は、好ましくは回避する。R5000は、これらの条件下で最長30日間貯蔵してもよい。
実施例3.安定性試験
安定性試験は、医薬品規制調和国際会議(ICH)Q1A「新しい原薬および製剤の安定性(Stability of New Drug Substances and Products)」に従って実施する。実施例1の水溶液からの試料を3つの温度:-20℃、5℃、および25℃で保持する。試験間隔は、1か月、2か月、および3か月の後3か月毎で、最長24か月である。試料は、外観(たとえば、透明性、色、沈殿物の存在)、pH、浸透圧、濃度、純度、標的活性(たとえばRBC溶解アッセイによる)、微粒子レベル、内毒素レベル、および無菌性について試験する。試験する温度条件の各々で試料が、可視的粒子を伴わずに透明で無色な外観;7±0.3のpH;260~340mOsm/kgの浸透圧;≧95%の純度(および>3%の単一不純物なし);参照標準に匹敵する標的活性;≧10μmの粒子については≦6,000個の微粒子/バイアルの微粒子レベルおよび≧25μmの粒子については≦600個の微粒子/バイアルのレベル;≦100EU/mLの内毒素レベル;および微生物の非成長を有する場合、試料は安定であると考えられる。
実施例4.凍結-解凍安定性
実施例1の水溶液の、複数の凍結および解凍サイクルに曝露されるときの安定性を試験するため、試験を実施した。R5000は、凍結および解凍の5サイクル後、分解または他の変化を示さなかった。
実施例5.表面プラズモン共鳴(SPR)に基づく結合の評価
R5000とC5との間の結合相互作用は、表面プラズモン共鳴を用いて測定した。R5000は、25℃で0.42nMの平衡解離定数(K)(n=3)および37℃で0.78nMのK(n=3)でC5に結合した。全体的な表面プラズモン共鳴データによると、高分解能共結晶構造の分析と組み合わせると、R5000がC5との特異的な強力かつ迅速な会合および緩徐な解離速度を呈することが示される。
実施例6.C5切断阻害の評価
R5000は、C5aおよびC5bへのC5切断の阻害について評価した。宿主C5とのR5000の阻害活性は、薬剤安全性に適した動物モデルを選択する上で重要な要素である。C5切断の阻害は、PNHの治療用に現在唯一認可されている治療薬であるエクリズマブに対する臨床的有効性における基礎である。R5000は、古典経路の活性化に続くC5a形成の用量依存的阻害(IC50=4.8nM;図1)ならびに古典および代替補体経路の活性化時の(C5b-9またはMACの形成による測定としての)C5bの用量依存的阻害(IC50=5.1nM;図2)を示した。
実施例7.補体誘導性の赤血球(RBC)溶血の阻害
RBC溶解アッセイは、さまざまな種からの血清/血漿中の補体阻害剤をスクリーニングし、被験物質の相対的活性を比較するのに信頼できる方法である。数種における補体機能に対する、R5000を含むペプチドの阻害活性を評価するため、in vitro機能アッセイを使用した。このアッセイでは、古典経路の補体成分が、ウサギ抗ヒツジRBC抗体で予備コーティングしたヒツジRBCを溶解する機能的能力を試験する。抗体でコーティングしたRBCを試験血清とともにインキュベートするとき、補体の古典経路が活性化され、溶血結果がヘモグロビンの放出により監視される。抗体感作ヒツジ赤血球は、このアッセイにおける溶解のためのビヒクルとして使用し、さまざまな種からの血清および/または血漿は、それらの所定の50%溶血性補体活性(CH50)で使用した。
R5000は、ヒト、非ヒト霊長類、およびブタの血清および/または血漿中で補体誘導性RBC溶血の強力な阻害を示した(下表を参照)。
ラット血漿中では弱い活性が認められ(カニクイザルよりも>100倍低い)、他の齧歯類、イヌ、またはウサギでは、活性がほとんど認められなかった。ヒトC5とR5000に密接に関連する分子との共結晶化から得られる構造データは、標的タンパク質の薬剤結合部位での一次アミノ酸配列に関する慎重な分析を通じて、この種の選択性についての説明を提示する。霊長類配列がR5000相互作用に関与する残基内で100%保存される一方で、タンパク質の同一部分が存在しない場合、齧歯類、特にイヌにおけるこれらの残基内で有意差が存在した。これらのアミノ酸の差異は、異種におけるR5000の活性特性を説明するのに十分であった。
赤血球の補体媒介溶解を古典および代替補体活性化経路を介して阻害するR5000の能力についても試験した。古典経路は、抗体感作ヒツジ赤血球を用いる2つの異なるアッセイを用いて評価した。一方法では、溶血は1%正常ヒト血清を用いて評価した一方で、第2のアッセイでは、0.5nMヒトC5を含有する1.5%C5枯渇ヒト血清を用いた。代替補体活性化経路の阻害は、カルシウムの不在下で6%正常ヒト血清中のウサギ赤血球を用いて評価した(下表を参照)。
R5000は、古典経路アッセイと代替経路アッセイの双方において補体媒介溶解を示した。
実施例8.カニクイザルにおける薬力学
R5000は、霊長類における補体の強力な阻害剤であることから、動物モデルにおけるR5000の阻害活性を評価するための複数回投与試験用にカニクイザルを選択した。血漿薬物濃度はLC-MSにより測定し、補体活性は、先行する実施例に記載のRBC溶解アッセイを用いてアッセイした。これらの試験からの全体的結果によると、補体活性の>90%阻害を達成するため、サルにおける血漿薬物濃度が2.5μg/mL以上である必要があることが示された(図3を参照)。
7日試験にて、R5000をカニクイザルに皮下注射(SC)を介して一日複数回投与で投与した。ex vivoヒツジRBC溶解アッセイ(アッセイにおいて1%血漿を用いる)を用いて、血液試料を、指定時刻に(初回投与後日数として1、4、および7日目、但し各日における投与前にデータを報告する)、補体活性の指標としての溶血について分析した。薬物濃度は、R5000に特異的なLC-MS法を用いて同じ試料から測定した。下表と図4Aおよび4Bに示すように、R5000を0.21または4.2mg/kgのいずれかで毎日7日間投与した時、最小の(前投与の<3%)補体活性が投与期間全体を通じて認められた。
ex vivoアッセイにおける溶血は、0.21mg/kg群における初回投与後、投与期間全体を通じて、また最終投与後の最長24時間、ベースラインの90%未満に維持された。治療を中断した後、溶血のレベル上昇が認められた。最終投与を施した後4日目で(図4A中の264時間)、溶血はベースラインの>75%であった。これは、投与中および投与後の化合物における測定した血漿レベルと十分に相関する(図4A中の点線)。複数回投与試験における第2の動物群には、毎日、4.2mg/kg用量のR5000を投与した。この群では、溶血は、投与全体を通じて本質的に完全に(<1%で)阻害され、最終投与後48時間、3%未満に維持された(図4B中で9日目;216時間)。最終投与後4日で(図4B中で264時間)、溶血はベースラインの約10%に達した。この結果もまた、血漿薬物濃度と相関して、投与期間全体を通じて(前投与の結果と比べて)補体活性の抑制を示し、また薬物動態値と薬力学値との間の優れた相関を示した。
R5000の補体阻害活性は、ex vivo RBC溶血アッセイを用いるカニクイザルにおける28日反復投与試験において評価した。R5000は、毎日、皮下注射を介して、0、1、2、もしくは4mg/kg/日のいずれかで28日間投与した(1日目:図7、および28日目:図8)。結果によると、初回用量の投与後2時間から投与28日目まで、溶血の完全な阻害が示され、溶血百分率は、1、2、および4mg/kg/日群では対照群における>90%と比べて<5%であった。28日の回復期間後、試料値はほぼベースラインの溶血レベルに戻り、補体系の阻害はほとんど認められなかった。回復期間の終了時での補体阻害活性の不在は、薬剤の動物からのクリアランスを示した。
補体阻害は、カニクイザルにおける13週反復投与試験の一部としても試験した。サル試料は、ex vivo RBC溶血アッセイを用いて分析した。R5000は、毎日、皮下注射を介して、0、0.25、1、2、もしくは10mg/kg/日用量のいずれかで13週間投与した。28日試験と同様、13週試験からの結果によると、初回用量の投与後2時間から投与13週まで、ex vivoで溶血の完全な阻害が示され、溶血百分率は、0.25、1、2、および10mg/kg/日群では対照群における>90%と比べて<5%であった。28日の回復期間後、試料値はほぼベースラインの溶血レベルに戻り、補体系の阻害はほとんど認められなかった。回復期間の終了時での補体阻害活性の不在は、薬剤の動物からのクリアランスを示した。
実施例9.安全性薬理
R5000をカニクイザルに投与したとき、心血管、呼吸器または中枢神経系パラメータに対する有害作用は認められなかった。安全性薬理パラメータは、in vitroでヒトエーテルアゴーゴー関連遺伝子(hERG)アッセイを用いて、またin vivoでサルを用いて、心血管、呼吸器、およびCNSパラメータについて評価した。CNS安全性薬理評価は、28日非ヒト霊長類毒物試験の一部として実施した。R5000を用いる安全性薬理試験の概要を下表に提示する。
ヒト胚性腎臓293細胞内で発現されるクローン化hERGカリウムチャネル電流(IKrに対するサロゲート、急速活性型遅延整流性心臓カリウム電流)に対するR5000のin vitro効果は、パラレルパッチクランプシステムを用いて評価した。最高の試験濃度(300μM)は、50%を超えるhERG阻害をもたらさなかった。したがって、R5000におけるIC50は、300μM(1.07mg/mL)よりも大きいと評価された。
in vivoでの心血管および呼吸器の安全性薬理試験は、意識下の雄カニクイザルにおいて実施した。R5000の投与後、死亡も有意な臨床的イベントも認められなかった。形態および完全な心拍間隔に対するR5000関連作用は、R5000用量のいずれでも(1日目および8日目での2または10mg/kg)見られなかった。正常な概日変化のみが心電図および体温において認められた(ビヒクル治療での読み取りに匹敵する)。さらに、最大10mg/kgの用量および最大79.1μg/mLの血漿薬物濃度でのR5000に起因しうる心拍数および動脈圧における変化は認められなかった。
R5000を2または10mg/kgで用いる治療後、前投与または溶媒の投与後に得られる値と比べて、呼吸パラメータ(呼吸数、一回換気量および毎分換気量)のいずれにおいても変化がなかった。
R5000は、毎日、カニクイザルに皮下注射を介して1、2、または4mg/kg/日で投与し、その中枢神経系(CNS)に対する効果を試験した。評価用のパラメータは、一般的態度、挙動、運動機能、脳神経、固有受容性感覚、姿勢反応および脊髄神経を含んだ。R5000を用いる治療後、神経学的変化は認められなかった。
結論として、R5000の、79.1μg/mLのCmaxをもたらす最大10mg/kgの用量レベルでの皮下(SC)注射により、十分な耐容性を示し、意識下のカニクイザルの心血管(QT延長のリスク上昇、遅延性心室再分極の測定を伴わない)、呼吸器、または中枢神経系に対して有害作用が全く生じなかった。
実施例10.動物における薬物動態および薬物代謝
R5000のin vitroおよびin vivo吸収、分布、代謝、および排泄を評価する試験を下表中に列挙する。下表では、CYPはチトクロムP450酵素を指し、UGTはUDP-グルクロノシルトランスフェラーゼ酵素を指す。
R5000は、ラット、サル、およびヒト血漿中、in vitroで極めて安定であるが、サルにおける静脈内(IV)およびSC投与後の薬物動態特性は、ラットと比べて異なった(図5A)。サルにおいて見られた緩徐な除去動態は主に、標的タンパク質C5および他の血漿タンパク質(たとえばアルブミン)との高い親和性相互作用によって駆動された。ラットにおける特異的な標的結合の欠如は、R5000のより迅速な除去をもたらし、それはサルにおける>3日と比べる場合の4~5時間の終末t1/2において反映された。
全体的に、前臨床データは、皮下投与後のR5000の高い生物学的利用率(>75%)を示した。サルでは、最高血液濃度(tmax)が、SC投与後8~16時間の間で達成され、これは皮下空間からの比較的緩徐な吸収を示す。分布容積、高度な血漿タンパク質結合、および全血中の血漿区画への分配を含む凝集体のデータは、R5000が主に血漿空間に制限され、組織へほとんど分布しないことを示す。
吸収
薬物動態(PK)試験は、ラット(単回投与)およびカニクイザル(単回および複数回投与)において、R5000をリン酸緩衝食塩水配合物(pH7.0)中で用いて実施した。
ラット試験においては、単回投与のR5000を雄スプラーグ・ドーリーラット(n=3)に1mg/kg、または10mg/kgで皮下注射した。測定した薬物動態(PK)パラメータは、Cmax(最高血漿薬物濃度)、Tmax(薬物投与後に最高血漿濃度に達するまでかかる時間)、t1/2(半減期)、AUC0-last(初回および最終投与間の血漿濃度時間曲線下面積)、およびAUC0-∞(時間0~無限大の血漿濃度時間曲線下面積)を含んだ。結果は下表にまとめる。
1mg/kgと10mg/kgの双方での平均AUC0-last値は、用量に比例した曝露を示唆する。
霊長類試験においては、薬物動態分析は、カニクイザルにおいて静脈内または皮下いずれかの0.4または0.5mg/kgでの単回投与後に実施した。測定した薬物動態(PK)パラメータは、クリアランス(CL)、V(分布容積)、Vss(定常状態での見かけの分布容積)、Cmax(最高血漿薬物濃度)、Tmax(薬物投与後に最高血漿濃度に達するまでかかる時間)、t1/2(半減期)、AUC0-last(初回および最終投与間の薬物濃度対時間曲線下面積)、AUC0-∞(時間0~無限大の薬物濃度対時間曲線下面積)、および%F(画分)を含んだ。結果は下表に提示する(NAは不適用を示す)。
0.4mg/kgの単回SC投与の結果、ivおよびsc投与後のR5000の血漿曝露(AUClast)は各々、429,638および325,317ng時間/mLであった。IVおよびSC投与後のR5000の最高血漿濃度(Cmax)は各々、4,745.5および2,490ng/mLであり、SC投与後のTmaxは8時間であった。0.4mg/kgでの皮下生物学的利用率は、75.7%であることが判定された。平均t1/2は、IVおよびSCに対して各々、182.5時間および177.5時間であった。IV投与における終末相(V)およびクリアランス(CL)に関連した平均分布容積は各々、175.5mL/kgおよび0.011mL/分/kgであることが判定された。この特性は、in vitro活性試験に基づき明らかな結合が期待されず、それ故、R5000のt1/2が4~5時間であったラットと対照的である(図5Aを参照)。
サルにおける反復投与薬物動態試験は、7日間にわたって毎日投与された0.21および4.2mg/kgの2つの皮下用量レベルを含み、各日及び最終投与後14日間で評価したPKを伴った。サルにおいて実施した複数回投与試験では、Cmaxは後続投与に伴って定常状態ピークまで増加し、トラフ薬物濃度に至った(2~3回投与後;図4A、4B、および5Bを参照)。0.2および4mg/kg投与群における血漿濃度は、各々が2,615および51,700ng/mLの初回投与後、平均Cmaxに達した。Cmaxは両群において増加し、各連続投与は分子の長い半減期のおかげである。4回目の投与までに、0.21および4.2mg/kg投与群における平均Cmaxは、5,305および68,750ng/mLであり、すなわち各々、初回投与の2.0および1.3倍であった。
全体的に、吸収は、皮下空間から緩徐であることと、皮下投与の高い生物学的利用率として特徴付けることができた。
分布
in vitroでの血漿タンパク質結合は、10および100μMの薬物濃度での平衡透析による測定によれば、ヒト、ラット、およびサル血漿中で>99.9%であった。高いタンパク質結合および限られた分布容積は、R5000が主に血漿区画に制限され得、血管周囲腔に容易に分布しないことを示す。
血液分配
血漿および赤血球間で分配される薬物の比は、薬物の薬物動態特性を評価するために要求される重要なパラメータであることから、算出した(下表を参照)。下表では、RBCは赤血球を示し、Pは血漿を表し、WBは全血を表す。
全血分配アッセイでは、R5000は、主に血漿画分中に存在することが見いだされ、赤血球画分中に有意な分布を示さなかった。
薬物動態・薬物相互作用
発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)患者において一般に投与される薬物は、シクロスポリン(CsA)である。計画された臨床試験に登録されるPNH患者ではR5000がCsAと同時投与される可能性が高いことから、R5000とCsAとの間の薬剤-薬剤相互作用の可能性をカニクイザルにて評価した。
R5000(2mg/kg、皮下、単回投与)およびシクロスポリンA(CsA)(15mg/kg、皮下、単回投与)は、雄サル2匹にて独立してまたは一緒に投与し、LC-MS/MS法を用いて血漿レベルを評価した。いずれの薬剤の血漿曝露においても有意な変化が認められず、薬剤-薬剤相互作用の可能性が低いことが示された(下表を参照)。下表では、Cmaxは最高血漿薬物濃度を示し、AUCは血漿濃度対時間曲線下面積を示し、「a」が隣接する曝露における差異は、R5000+シクロスポリン/R5000における曝露の比を示す。「b」が隣接する曝露における差異は、シクロスポリン+R5000/シクロスポリンにおける曝露の比を示す。
ビリルビン(OATP1およびOATP1B3の内因性基質)を含む血清化学パラメータに変化が認められず、これらのトランスポーターに対するCsAおよびR5000の相加効果がないことが示された。要するに、CsAとR5000との同時投与は、薬剤-薬剤相互作用の低い可能性を有し、臨床用途で想定される場合に対して近いかまたは上回る血漿レベルで血清化学パラメータに対する作用を伴わず、十分な耐容性を示した。
実施例11.薬物動態/薬力学モデリングおよびヒト薬物動態のシミュレーション
PK/PDモデルは、カニクイザルにおいて得られたin vivoデータを用いてインシリコで構築した。モデルの適合度および正確度は、シミュレーション結果を新規に生成された実験データと比較することにより評価した。一旦サルにおいて確認されると、最終モデルを用いて、非比例的スケーリングをそのパラメータに適用することにより、ヒト薬物動態を予測した。得られたシミュレーションは、ヒトにおける1日1回またはより少ない頻度の計画された投与間隔と、定常状態でほぼ90%の標的阻害を維持する0.1mg/kgの一日量とを支持する(図6を参照)。R5000の長い半減期が理由で、最終ピークおよびトラフ薬物濃度に達するために複数の用量が必要である。血漿Cmaxは、毎日投与で1週間後、薬物濃度が定常状態に達するとき、初回用量よりも約3倍高いことが予想される。
実施例12.ヒトにおける効果:第I相臨床試験設計
R5000の安全性および薬物動態を評価するため、18~65歳の健常ボランティア(小児および高齢者を除く)における無作為化プラセボ対照二重盲検単一漸増用量、および複数回用量試験を実施した。試験の第1部では、単一漸増用量(SAD)のR5000、またはプラセボを投与して被験者のコホートを分離した。試験の第2部では、複数回用量コホート(MD)は、0.2mg/kgのR5000(n=4)またはプラセボ(n=2)で毎日7日間投与された。R5000のすべての用量は、コホートの用量要件および被験者の体重によって決定される投与容量で皮下注射により投与した。妊娠中または授乳中の被験者、ならびに髄膜炎菌(Neisseria meningitides)の全身感染または定着を有する任意の被験者は除外した。さらに、すべての被験者がシプロフロキサシンによる予防を受け、最高単回用量コホート(すなわち0.4mg/kg)中の被験者、ならびに複数回用量コホート中の被験者は、試験前の少なくとも14日間、髄膜炎菌(Neisseria meningitides)に対するワクチン接種を受けた。
全部で22名の被験者を単回用量コホート試験(n=14)に登録し、その中の2名がR5000を0.05mg/kgで受け、4名ずつが0.10、0.20、および0.40mg/kgで受けた。これらの用量は、ヒトにおける評価された安全性マージンを用いて選択した(先行実施例および下表を参照)。下表では、Cmaxは最高血漿薬物濃度を示し、AUC0-lastは初回および最終投与間の血漿濃度対時間曲線下面積を示す。
0.05mg/kgの初期用量は、ヒト等価用量(HED)推定値の1/10をはるかに下回る。この用量は、補体の顕著な阻害がこの用量で予想されなかったことから、適切と考えられる。治験における提唱された最高単回SC用量の0.8mg/kgに続くと予測される全身曝露よりも、サルにおける最終(28日目)のNOAELでの曝露が上回る。
複数回用量コホートとして被験者6名が登録され、その中の4名がR5000(0.2mg/kg)を受け、2名がプラセボを受けた。
実施例13.PNHを有する患者の治療
PNHを患う患者は、R5000を0.1mg/kg/日~40mg/kg/日の有効用量で用いて治療する。これらの患者において、90%以上の補体阻害が認められ、Cmaxが3.1μg/mLに達する。
実施例14.R5000の複数回投与臨床試験
R5000の、1日1回、7日にわたる皮下(SC)注射後の安全性、耐容性、薬物動態ならびに薬物動態および薬力学を評価するように設計された、健常ヒトボランティアにおける第1相複数回投与臨床薬理試験を実施した。試験は、単一施設無作為化二重盲検およびプラセボ(PBO)対照であった。被験者は、臨床薬理学ユニットに収容されつつ、0.2mg/kgのR5000または適合するPBOのSC投与を毎日7日間受けた。安全性は、集中的な臨床的監視により評価し、毎日の血液試料は、液体クロマトグラフィー/高分解能質量分析によるR5000濃度およびex vivo抗体感作ヒツジ赤血球溶血アッセイにおける補体媒介RBC溶解を阻害する能力を測定するため、投与直前、および各日の投与から3時間後と6時間後に得た。
全部で6名の被験者を試験に登録した(4名がR5000を受け、2名がPBOを受けた)。被験者の人口統計を下表に提示する。
下表および関連の図9A(7日にわたるパーセント溶血および血漿濃度を示す)に見られる通り、血漿濃度は、投与の7日間にわたり曝露が安定的に増加することを示した。これらのデータから、R5000の半減期は、7日であると判定された。血漿レベルは、15日目までに約2000ng/mlに、また21日目までに約1000ng/mlに戻った(図9B)。
R5000の、7日間の複数回用量SC投与(0.2mg/kg/日)後のPKパラメータを下表に提示する。測定した薬物動態(PK)パラメータは、クリアランス(CL)、Cmax(最高血漿薬物濃度)、Tmax(薬物投与後に最高血漿濃度に達するまでかかる時間)、t1/2(半減期)、AUCtau(時間0~24時間の血漿濃度対時間曲線下面積)、AUC0-inf(時間0~無限大の血漿濃度対時間曲線下面積)、V/F(見かけの分布容積)、Kel(排出速度)、およびF(画分)を含む。
1日平均CmaxおよびAUCtauは各々、2533ng/mLおよび50,010ng時間/mLであり、同じ投与後期間にわたる0.2mg/kgの単回用量コホートからの結果に一致した。毎日7日間のSC投与後、CmaxおよびAUCtauは各々、約2.9倍(平均7日Cmax=7290ng/mL)および約3.0倍(平均7日AUCtau=151,300ng時間/mL)増加した。7日目の最高血漿濃度到達時間(Tmax)中央値は3.0時間であり、それは単回用量SC投与後のTmaxに一致した(1日Tmax中央値=3.0~4.6時間)。これは、反復投与によるR5000吸収の速度が一貫することを示す。R5000の見かけの全身クリアランスの7日平均(7日CL/F=1.3mL/時間/kg)は、0.2mg/kgでの単回SC投与後の全身クリアランスに対してやや増加した[単一漸増用量(SAD)は0.2mg/kg、CL/F=0.29mL/時間/kg]。しかし、R5000における排出速度定数(Kel)は、単回および反復投与(0.2mg/kgのSAD、平均Kel=0.0041時間-1;0.2mg/kgのMD、7日平均Kel=0.0043時間-1)後に一致したが、それはR5000のクリアランスが反復投与で有意には変化しないことを示す。R5000の見かけの分布容積(V/F)は、R5000の複数回用量の投与とともに幾らかの増加を示した(0.2mg/kgのSAD、平均V/F=71.4mL/kg;0.2mg/kgのMD、7日平均V/F=311.6mL/kg)。しかし、R5000における7日V/Fは依然として総体水分量未満であったが、それはR5000が反復SC投与時に血管外空間内に分布しないことを示唆する。
溶血のベースラインと比べた平均パーセント阻害は、1日目の投与後の開始時点に始まり投与から3時間後に≧95%に達し、7日間の投与全体にわたり継続した(下表を参照)。全被験者が、すべての時点で溶血の≧90%低減を示した。8日目(最終投与を受けてから24時間後)に溶血が、全被験者において≦3%であることが認められた。溶血は、最終投与後2週以内に前投与レベルに戻った。
試験によると、低い一日量が補体の完全かつ持続的な阻害および溶血の抑制に適した定常状態レベルを達成することが示唆される。試験によると、週1回投与がヒトにおいて補体活性を阻害し、溶血を低減するのに十分でありうることも示唆される。
被験者血漿試料における補体活性は、ウィエスラブ(WIESLAB)(登録商標)ELISA(ユーロダイアグノスティカ(Euro Diagnostica)、マルメ、スウェーデン)分析により測定した。このアッセイでは、補体活性化の代替経路を測定する。このアッセイを介した測定によると、補体活性の抑制は、全被験者における投与期間を通じて、迅速、完全、および持続的であった(図10Aおよび下表を参照)。下表では、SEMは平均の標準誤差を示す。
8日目(最終投与から24時間後)の補体活性は、全被験者において≦5%であることが認められた。補体活性は、最終投与後2週以内に前投与レベルに戻った(図10B)。
R5000は、健常ボランティアにおいて、6名中3名の被験者における疼痛、硬結、圧痛または腫脹を伴わないが幾らかの注射部位紅斑(ISE)を伴う点を除き、安全であり、かつ十分な耐容性を示した。すべてが自発的に回復した。バイタルサイン、臨床検査パラメータ(血液学、血液化学、凝固、および尿検査)、身体検査およびECGにおいて、臨床的に有意な変化は認められなかった。
R5000は、試験の複数回用量アームの0.20mg/kg投与群において測定した(下表を参照)。下表では、Cmaxは最高血漿薬物濃度を指し、AUC0-24は、時間0~24時間の血漿濃度対時間曲線下面積を指す。
実施例15.R5000の第1相単一漸増用量臨床試験
R5000の皮下(SC)注射後の安全性、耐容性、薬物動態および薬力学を評価するように設計された健常ヒトボランティアにおける第1相単一漸増用量臨床薬理試験を実施した。試験は無作為化二重盲検、およびプラセボ(PBO)対照試験であり、臨床薬理学ユニットに3日間収容された4つのSC単一漸増用量コホートを伴った。全被験者が、1日目に1用量のR5000を受けた。4名の被験者(2名がR5000を受け、2名がPBOを受ける)に最低用量レベル(0.05mg/kg)を投与し、1コホートあたり6名の被験者(4名がR5000を受け、2名がPBOを受ける)に3つのより高用量レベル(0.1、0.2、および0.4mg/kg)を逐次投与した。被験者の人口統計情報を下表に提示する。
安全性は、集中的な臨床的監視により評価し、液体クロマトグラフィー/高分解能質量分析によるR5000濃度およびex vivo抗体感作ヒツジ赤血球溶血アッセイにおける補体媒介RBC溶解を阻害する能力を測定するため、頻繁に血液試料を得た。
この試験にて測定した薬物動態(PK)パラメータは、クリアランス(CL)、Cmax(最高血漿薬物濃度、図11A)、Tmax(薬物投与に最高血漿濃度に達するまでかかる時間)、t1/2(半減期)、AUC0-24(時間0~24時間の血漿濃度対時間曲線下面積;経時的な血漿濃度については図11Bを参照)、AUC0-inf(時間0~無限大の血漿濃度対時間曲線下面積;経時的な血漿濃度については図11Bを参照)、V(終末相中の見かけの分布容積)、K(排出速度)、およびF(画分)を含む。各パラメータにおける結果を下表に提示する。
すべてのコホートが、非ヒト霊長類(NHP)試験からのデータを用いて作成したインシリコPKモデルからの予測値に一致するCmaxレベルを達成した。単回SC注射の血漿濃度は、Cmaxと用量レベルとの間の直線関係を示し(図11A)、すべての用量レベルを通じて用量依存的曝露が確認された(図11B)。平均最高血漿濃度(Cmax)は、投与を通じて1010~5873ng/mLの範囲であった。投与後時間0~24時間の濃度対時間曲線下平均面積(AUC0-24)は、投与を通じて21,440~112,300ng時間/mLの範囲であった。これらの結果は、R5000の用量増加に伴い、血漿濃度(Cmax)と曝露(AUC0-24)に概ね比例的増加があることを示す。最高観察血漿濃度到達時間(tmax)中央値は、投与を通じて3.0~4.6時間の範囲であり、これはR5000がSC空間から中心(血液)区画にかけての吸収の中間速度を呈することを示す。R5000投与後の見かけの全身クリアランス(CL/F)平均は低く、0.2481~0.4711mL/時間/kgの範囲であった。平均半減期(t1/2)は、用量レベルを通じて一貫しており、155.6~185.4時間の範囲であった。血管外投与後の終末相での見かけの全分布容積(V/F)平均は61.89~105.1mL/kgの範囲であったが、それはR5000が主に循環血液区画内に局在化され、血管外分布が最小であることを示す。全コホートを通じてのおよそのt1/2は7日であると判定された。
R5000はまた、溶血の急速な用量依存的阻害[直接溶血(図12A)および%CH50(図12B)および1%血漿での経時的な赤血球溶解(図12C)]および補体活性の抑制(単回投与後の全被験者におけるウィエスラブ(WIESLAB)(登録商標)ELISAによる測定として、図13を参照)を呈した。投与の約3時間後、最大薬力学効果が認められた。結果によると、最高血漿濃度で、溶血のベースラインと比べての最大パーセント阻害が、0.1、0.2、および0.4mg/kg用量コホートにおいて>90%、最低用量(0.05mg/kg)コホートにおいて60%に達することが示された。0.1、0.2、および0.4mg/kg用量コホートにおいて、最長4日間の溶血の用量依存的阻害が認められた。特に、平均溶血は、0.05mg/kgコホートにおいて最長2日間、0.1mg/kgコホートにおいて最長4日間、また0.2および0.4mg/kgコホートにおいて最長7日間、ベースラインを上回る状態であった。
同様に、補体活性の分析によると、補体活性の阻害が、0.4mg/kgの注射後、4日にわたって強力なままであることが示された(図13を参照)。0.4mg/kgの注射を受ける被験者から得られるヒト血漿試料に、ウィエスラブ(WIESLAB)(登録商標)ELISA(ユーロダイアグノスティカ(Euro Diagnostica)、マルメ、スウェーデン)分析を施した。このアッセイでは、補体活性の代替経路を測定する。このアッセイを介して測定した時、補体活性が投与後3時間で3%抑制され、R5000の投与から96時間後、13%未満のままであった。
R5000の単回SC投与は、健常ボランティアにおいて、安全であり、かつ十分な耐容性を示した。ISEが最高用量で被験者3名において認められたが、疼痛、硬結、圧痛、または腫脹を伴うことなく軽度であり(グレード1)、注射後2~5時間以内に自発的に回復した。バイタルサイン、臨床検査パラメータ、身体検査、およびECGにおいて、臨床的に有意な変化は認められなかった。
この試験によると、低い一日量で溶血の>80%抑制に適した定常状態レベルが達成され得、また週1回投与で十分でありうることが示唆される。詳細には、0.2mg/kgにより、補体活性の完全な抑制および溶血の完全な阻害がもたらされうる。
(付記)
好ましい実施形態として、上記実施形態から把握できる技術的思想について、記載する。
[項目1]
R5000および薬学的に許容できる賦形剤を含む医薬組成物であって、前記薬学的に許容できる賦形剤が約25mM~約100mMの濃度の塩化ナトリウムおよび約10mM~約100mMの濃度のリン酸ナトリウムを含む、医薬組成物。
[項目2]
R5000が約1mg/mL~約400mg/mLの濃度で存在する、項目1に記載の医薬組成物。
[項目3]
約6.5~約7.5のpHを含む、項目1に記載の医薬組成物。
[項目4]
R5000が約0.1nM~約1nMの平衡解離定数(K)でC5に結合する、項目1に記載の医薬組成物。
[項目5]
R5000が、補体活性化の代替経路の活性化に続くC5aの産生をブロックする、項目1に記載の医薬組成物。
[項目6]
R5000が、補体活性化の古典経路、代替経路、またはレクチン経路の活性化に続く膜侵襲複合体(MAC)の形成をブロックする、項目1に記載の医薬組成物。
[項目7]
対象における溶血を阻害する方法であって、項目1~6のいずれか一項に記載の医薬組成物を投与することを含む、方法。
[項目8]
前記医薬組成物が、約0.1μg/mL~約20μg/mLのR5000の血漿レベルを達成するのに十分な用量で投与される、項目1に記載の方法。
[項目9]
投与後、溶血が約25%~100%阻害される、項目8に記載の方法。
[項目10]
前記医薬組成物が、少なくとも2日間毎日投与される、項目9に記載の方法。
[項目11]
前記医薬組成物が、7日間毎日投与される、項目9に記載の方法。
[項目12]
前記医薬組成物が、少なくとも100日間毎日投与される、項目9に記載の方法。
[項目13]
投与後の少なくとも1か月間、心血管、呼吸器、および中枢神経系(CNS)の少なくとも1つへの有害な作用が認められない、項目9~12のいずれか一項に記載の方法。
[項目14]
投与後の少なくとも1か月間、心拍数および動脈圧の少なくとも一方における変化が認められない、項目13に記載の方法。
[項目15]
投与後の少なくとも1か月間、呼吸数、一回換気量、および毎分換気量の少なくとも1つに対する変化が認められない、項目13に記載の方法。
[項目16]
前記医薬組成物が、皮下(SC)または静脈内(IV)投与される、項目7~15のいずれか一項に記載の方法。
[項目17]
対象血漿中のR5000レベルの半減期(t1/2)が少なくとも4時間である、項目16に記載の方法。
[項目18]
対象血漿中のR5000レベルのt1/2が約1日~約10日である、項目16に記載の方法。
[項目19]
対象血漿中のR5000の定常状態分布容積が約10mL/kg~約200mL/kgである、項目16に記載の方法。
[項目20]
対象血漿中のR5000の定常状態分布容積が、全血液量の少なくとも50%に等しい、項目16に記載の方法。
[項目21]
対象血漿中のR5000の総クリアランス速度が約0.04mL/時間/kg~約4mL/時間/kgである、項目16に記載の方法。
[項目22]
対象血漿中のR5000のTmaxが約1時間~約48時間である、項目16に記載の方法。
[項目23]
R5000の測定可能量の存在が血漿区画に実質的に制限される、項目16に記載の方法。
[項目24]
前記医薬組成物が、約0.01mg~約2mg/kg対象体重のR5000を送達するのに十分な用量で投与される、項目7に記載の方法。
[項目25]
前記対象におけるC5活性化の約50%~約99%が阻害される、項目24に記載の方法。
[項目26]
前記医薬組成物が、約0.1mg~約0.4mg/kg対象体重のR5000を送達するのに十分な用量で投与される、項目7に記載の方法。
[項目27]
前記医薬組成物が皮下または静脈内に投与される、項目24~26のいずれか一項に記載の方法。
[項目28]
前記医薬組成物が毎日1回以上投与される、項目27に記載の方法。
[項目29]
前記医薬組成物が7日間にわたり投与される、項目28に記載の方法。
[項目30]
初回投与後3時間までの溶血のパーセント阻害が、少なくとも90%~約95%またはそれ以上である、項目27に記載の方法。
[項目31]
溶血のパーセント阻害が、投与の少なくとも7日後の測定によると、少なくとも90%~約95%またはそれ以上である、項目27に記載の方法。
[項目32]
溶血のパーセント阻害が、投与後の少なくとも4日間、少なくとも90%~約95%またはそれ以上である、項目27に記載の方法。
[項目33]
溶血の最大阻害および補体活性の最大阻害の少なくとも一方が、投与の約2時間後~投与の約4時間後に達成される、項目27に記載の方法。
[項目34]
R5000が0.2mg/kgの用量で投与される、項目33に記載の方法。
[項目35]
最終投与の24時間後、溶血が3%以下である、項目28に記載の方法。
[項目36]
前記7日間中、補体活性が約1パーセント~約10パーセントまで低下する、項目29に記載の方法。
[項目37]
最終投与の24時間後、補体活性が5%以下である、項目28に記載の方法。
[項目38]
前記医薬組成物が、約0.1mg/日~約60mg/日/kg対象体重のR5000を送達するのに十分な用量で、皮下または静脈内注射により毎日投与される、項目7に記載の方法。
[項目39]
達成される最高血清濃度(Cmax)が約0.1μg/mL~約1000μg/mLである、項目38に記載の方法。
[項目40]
曲線下面積(AUC)が約200μg時間/mL~約10,000μg時間/mLである、項目38に記載の方法。
[項目41]
項目1~6のいずれか一項に記載の医薬組成物の皮下または静脈内投与を含む、それを必要とする対象における発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)を治療する方法。
[項目42]
前記対象が抗体に基づく治療薬を用いて以前に治療されている、項目41に記載の方法。
[項目43]
前記対象におけるPNHが、前記抗体に基づく治療薬を用いる治療に対して抵抗性または非応答性を示した、項目42に記載の方法。
[項目44]
前記抗体に基づく治療薬がエクリズマブである、項目42または43に記載の方法。
[項目45]
項目1~6のいずれか一項に記載の医薬組成物およびその使用説明書を含むキット。
[項目46]
項目1~6のいずれか一項に記載の医薬組成物を含む自動注射装置。
[配列表]
Figure 2024001300000021

Figure 2024001300000022

Claims (14)

  1. a)C5阻害剤、
    b)塩化ナトリウム、および
    c)リン酸ナトリウムを含む、水溶性の医薬組成物であって、
    前記C5阻害剤が、以下の配列:
    Lys-Val-Glu-Arg-Phe-Asp-Xaa-Xaa-Tyr-Xaa-Glu-Tyr-Pro-Xaa-Lys、または当該配列に少なくとも90%の配列同一性を有する配列
    を含み、
    Xaaが、N-メチル-アスパラギン酸であり、
    Xaaが、tert-ブチルグリシンであり、
    Xaaが、7-アザトリプトファンであり、
    Xaaが、シクロヘキシルグリシンである、水溶性の医薬組成物。
  2. 前記C5阻害剤が、1位と6位の残基間にラクタム架橋を含む、請求項1に記載の医薬組成物。
  3. 前記C5阻害剤のN末端がアセチル化されている、請求項1または2に記載の医薬組成物。
  4. 前記C5阻害剤のC末端残基が、PEGおよび飽和または不飽和脂肪酸を含むリジン側鎖部分で修飾されたリジンである、請求項1~3のいずれか一項に記載の医薬組成物。
  5. 前記PEGと脂肪酸基との間にリンカーが存在する、請求項4に記載の医薬組成物。
  6. 医薬として使用するための水溶性の医薬組成物であって、
    a)C5阻害剤、
    b)塩、および
    c)緩衝剤を含み、
    前記C5阻害剤が、以下の配列:
    Lys-Val-Glu-Arg-Phe-Asp-Xaa-Xaa-Tyr-Xaa-Glu-Tyr-Pro-Xaa-Lys、または当該配列に少なくとも90%の配列同一性を有する配列
    を含み、
    Xaaが、N-メチル-アスパラギン酸であり、
    Xaaが、tert-ブチルグリシンであり、
    Xaaが、7-アザトリプトファンであり、
    Xaaが、シクロヘキシルグリシンであり、
    皮下投与される、医薬組成物。
  7. 前記C5阻害剤が、1位と6位の残基間にラクタム架橋を含む、請求項6に記載の医薬組成物。
  8. 前記C5阻害剤のN末端がアセチル化されている、請求項6または7に記載の医薬組成物。
  9. 前記C5阻害剤のC末端残基が、PEGおよび飽和または不飽和脂肪酸を含むリジン側鎖部分で修飾されたリジンである、請求項6~8のいずれか一項に記載の医薬組成物。
  10. 前記PEGと脂肪酸基との間にリンカーが存在する、請求項9に記載の医薬組成物。
  11. 前記塩が、塩化ナトリウムを含む、請求項6~10のいずれか一項に記載の医薬組成物。
  12. 前記緩衝剤が、リン酸ナトリウムを含む、請求項6~11のいずれか一項に記載の医薬組成物。
  13. 前記医薬組成物が、自己投与される、請求項6~12のいずれか一項に記載の医薬組成物。
  14. 毎日の皮下投与は、1~3用量内、2~3用量内、3~5用量内、または5~10用量内に達する定常状態の阻害剤濃度を提供する、請求項6~13のいずれか一項に記載の医薬組成物。
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