JP2023136904A - ラセミ体3-ヒドロキシ酪酸の光学分割方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】ラセミ体3-ヒドロキシ酪酸やその塩を光学分割し、光学活性3-ヒドロキシ酪酸の製造を可能にする方法を提供する。【解決手段】ラセミ体3-ヒドロキシ酪酸又はその塩を光学分割する方法であって、ハロモナス属に属する好塩菌を、無機塩と有機炭素源としてのラセミ体3-ヒドロキシ酪酸又はその塩とを含む培地で好気培養する好気培養工程と、好気培養工程後の培養液から菌体を分離する分離工程と、分離工程で分離した菌体を、無機塩を含む培地で微好気培養し、培養液にて(R)-3-ヒドロキシ酪酸又はその塩を産生する微好気培養工程と、を順に行う。【選択図】図1

Description

本発明は、ラセミ体3-ヒドロキシ酪酸の光学分割方法に関する。
3-ヒドロキシ酪酸やその塩(以下、単に「3HB」とも称する)は、もともと人の体内に存在する物質であるため生体親和性が高く、糖質に代わる画期的なエネルギー源として期待されている。また、3HBは、単なるエネルギー源という役割だけでなく、様々な遺伝子の発現やタンパク質の活性に影響するシグナル伝達物質としての作用があることがわかってきた。3HBは、例えば、遺伝子発現調節作用によって、ヒストン脱アセチル化酵素を阻害することによって認知機能や、長期持続記憶を改善することが知られ、アルツハイマーの予防に有効性が確認されている。また、ココナッツオイルに多く含まれる中鎖脂肪酸の摂取及び体内での代謝により生産される3HBが、脳や体内において糖質をうまく利用できないアルツハイマー病や糖尿病の患者の症状を改善させる効果を持つことが知られている。更に、3HBは、体内において糖質より速やかにエネルギーに変換されること、細胞への脂肪や糖の吸収を抑制する効果を有することから、アスリート向けのエネルギー物質や、ダイエット・健康食品分野などへの応用も盛んに行われている。
また、これらの用途の他、3HBは、生分解性樹脂の原料としての利用が可能であることが知られており、工業的用途においても利用価値が高まりつつある物質である。
3HBに限らず、化合物を様々な用途に使用する上では、光学活性を有していると有利である場合が多いため、ラセミ体を光学分割して光学活性を有する化合物を分離する技術が求められる。そこで、例えば、ラセミ体ヒドロキシカルボン酸エステルを光学分割し、光学活性ヒドロキシカルボン酸エステルや光学活性ヒドロキシカルボン酸を製造する方法が提案されている(特許文献1)。
上記特許文献1記載の製法では、ラセミ体ヒドロキシカルボン酸エステルに、エンテロバクター属又はキトロバクター属に属し、カルボン酸エステル分解活性を有する微生物やその微生物培養液より得られる菌体等を作用させる。これにより、カルボン酸エステルを立体選択的に加水分解して光学分割し、残存する一方の光学活性ヒドロキシカルボン酸エステル又は加水分解で得られる他方の光学活性ヒドロキシカルボン酸を採取する。
特許第4069742号公報
ところが、上記特許文献1記載の製法は、ラセミ体ヒドロキシカルボン酸エステルを対象に限定した技術である。そのため、ラセミ体3-ヒドロキシ酪酸やその塩を光学分割し、光学活性3-ヒドロキシ酪酸やその塩を製造することができない。
本発明は以上の実情に鑑みなされたものであり、ラセミ体3-ヒドロキシ酪酸やその塩を光学分割し、光学活性3-ヒドロキシ酪酸の製造を可能にする方法の提供を、その目的とする。
上記目的を達成するための本発明に係るラセミ体3-ヒドロキシ酪酸の光学分割方法の特徴構成は、
ラセミ体3-ヒドロキシ酪酸又はその塩を光学分割する方法であって、
ハロモナス属に属する好塩菌を、無機塩と有機炭素源としてのラセミ体3-ヒドロキシ酪酸又はその塩とを含む培地で好気培養する好気培養工程と、
前記好気培養工程後の培養液から菌体を分離する分離工程と、
前記分離工程で分離した菌体を、無機塩を含む培地で微好気培養し、培養液にて(R)-3-ヒドロキシ酪酸又はその塩を産生する微好気培養工程と、を順に行う点にある。
本願発明者は、鋭意研究を重ねた結果、ハロモナス属に属する好塩菌を、有機炭素源としてラセミ体3-ヒドロキシ酪酸又はその塩を含む培地で好気培養することにより、当該好塩菌が(R)-3-ヒドロキシ酪酸を優先的に取り込み、ポリ[(R)-3-ヒドロキシ酪酸](以下、「PHB」ともいう)として蓄積することを見出し、本発明を完成させた。
即ち、上記特徴構成によれば、好気培養工程において、好塩菌がラセミ体3-ヒドロキシ酪酸のうち(R)-3-ヒドロキシ酪酸を優先的に取り込み、これが菌体内にPHBとして蓄積される一方、大部分の(S)-3-ヒドロキシ酪酸は、培養液中に残存することになる。そのため、(S)-3-ヒドロキシ酪酸は、分離工程で菌体が分離された培養液中に存在することになる。そして、分離工程で得られた菌体を微好気培養することにより、(R)-3-ヒドロキシ酪酸が菌体外(培養液中)に分泌生産される。このように、上記特徴構成を備えたラセミ体3-ヒドロキシ酪酸の光学分割方法によれば、ラセミ体3-ヒドロキシ酪酸を(R)-3-ヒドロキシ酪酸と(S)-3-ヒドロキシ酪酸とに分離できる。
本発明に係るラセミ体3-ヒドロキシ酪酸の光学分割方法の更なる特徴構成は、
前記微好気培養工程で得られる培養液から、(R)-3-ヒドロキシ酪酸又はその塩を回収するR体回収工程を行う点にある。
上記のように、微好気培養工程で得られる培養液には、菌体から分泌生産された(R)-3-ヒドロキシ酪酸やその塩が存在している。上記特徴構成によれば、R体回収工程によって、培養液から(R)-3-ヒドロキシ酪酸又はその塩を回収できる。したがって、上記特徴構成を備えた光学分割方法によれば、ラセミ体3-ヒドロキシ酪酸から光学活性3-ヒドロキシ酪酸としての(R)-3-ヒドロキシ酪酸の製造が可能である。
本発明に係るラセミ体3-ヒドロキシ酪酸の光学分割方法の更なる特徴構成は、
前記分離工程で菌体を分離した培養液から、(S)-3-ヒドロキシ酪酸又はその塩を回収するS体回収工程を行う点にある。
上記のように、分離工程で菌体を分離した培養液には、好塩菌に取り込まれにくい(S)-3-ヒドロキシ酪酸が存在している。上記特徴構成によれば、S体回収工程によって、菌体分離後の培養液から(S)-3-ヒドロキシ酪酸又はその塩を回収できる。したがって、上記特徴構成を備えたラセミ体3-ヒドロキシ酪酸の光学分割方法によれば、ラセミ体3-ヒドロキシ酪酸から光学活性3-ヒドロキシ酪酸としての(S)-3-ヒドロキシ酪酸の製造が可能である。
本発明に係るラセミ体3-ヒドロキシ酪酸の光学分割方法の更なる特徴構成は、
前記好塩菌が、ハロモナス・エスピー(Halomonas sp.)KM-1株である点にある。
本願発明者は、好塩菌がハロモナス・エスピーKM-1株である場合に、当該ハロモナス・エスピーKM-1株がラセミ体3-ヒドロキシ酪酸から(R)-3-ヒドロキシ酪酸を優先的に取り込み、PHBを菌体内に蓄積し、微好気培養に移行することで、(R)-3-ヒドロキシ酪酸を培養液中に分泌生産することを実験的に確認している。
実施例に係るラセミ体3-ヒドロキシ酪酸の光学分割方法の概要を説明するための図である。 好気培養時の分析データを示すグラフである。 微好気培養時の分析データを示すグラフである。
以下、本発明に係るラセミ体3-ヒドロキシ酪酸の光学分割方法について説明する。尚、以下に好適な実施例を記すが、これら実施例はそれぞれ、本発明をより具体的に例示するために記載されたものであって、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々変更が可能であり、本発明は、以下の記載に限定されるものではない。
〔ラセミ体3-ヒドロキシ酪酸の光学分割方法の概要〕
本発明の実施形態に係るラセミ体3-ヒドロキシ酪酸の光学分割方法は、以下の工程を行う。
(1)ハロモナス属に属する好塩菌を、無機塩と有機炭素源としてのラセミ体3-ヒドロキシ酪酸又はその塩とを含む培地で好気培養する好気培養工程。
(2)好気培養工程後の培養液から菌体を分離する分離工程。
(3)分離工程で分離した菌体を、無機塩を含む培地で微好気培養し、培養液にて(R)-3-ヒドロキシ酪酸又はその塩を産生する微好気培養工程。
更に、本実施形態においては、以下の工程を更に行う。
(4)微好気培養工程で得られる培養液から、(R)-3-ヒドロキシ酪酸又はその塩を回収するR体回収工程。
(5)分離工程で菌体を分離した培養液から、(S)-3-ヒドロキシ酪酸又はその塩を回収するS体回収工程。
〔好気培養工程〕
本発明の光学分割方法における好気培養工程は、ハロモナス属に属する好塩菌を培地で好気培養する工程である。
<A:ハロモナス属に属する好塩菌>
本発明で用いるハロモナス属に属する好塩菌は、無機塩とラセミ体3-ヒドロキシ酪酸(ラセミ体3HB)を含む培地にて好気的に増殖し、(R)-3-ヒドロキシ酪酸(R-3HB)を菌体内に取り込んでポリ[(R)-3-ヒドロキシ酪酸](PHB)として蓄積し、培養条件を変えることで、R-3HB又はその塩を菌体外の培地に分泌産生する性質を備えた菌であればよい。
上記ハロモナス属に属する好塩菌は、0.1~1.0Mの塩濃度を適とする好塩性を有し、時には塩を含まない培地においても生育する細菌である。そして、上述のハロモナス属に属する好塩菌は、通常はpH5~12程度の培地にて生育する。
上記ハロモナス属に属する好塩菌としては、例えば、ハロモナス・エスピー(Halomonas sp.)KM-1株が挙げられる。ハロモナス・エスピーKM-1株は、平成19年7月10日付で、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センター(〒305-8566茨城県つくば市東1-1-1中央第6)に受託番号FERM P-21316として寄託されている。また、この菌株は、現在国際寄託に移管されており、その受託番号はFERM BP-10995である。当該ハロモナス・エスピーKM-1株の16S rRNA遺伝子は、DDBJにAccession Number AB477015として登録されている。
また、上記好塩菌の生育特性等に鑑みて、本発明における好気培養工程で用いる好塩菌は、R-3HBを菌体内に優先的に取り込み、PHBを蓄積した後、後述する微好気培養工程でR-3HBを分泌するものであれば、ハロモナス・エスピーKM-1株に限られるものでない。そのようなハロモナス属に属する好塩菌としては、ハロモナス・パンテラリエンシス(Halomonas pantelleriensis:ATCC 700273)やハロモナス・カンピサリス(Halomonas campisalis:ATCC 7000597)等も挙げることができる。
更に、16SリボゾームRNA配列による分析から、上記の好塩菌に限らず、ハロモナス・ニトリトフィルス、ハロモナス・アリメンタリア等も、好気培養工程にて用いるハロモナス属に属する好塩菌として使用してもよい。
尚、上記ハロモナス属に属する好塩菌には、遺伝子が導入されていてもよい。導入される遺伝子は、本発明に係る光学分割方法において、ラセミ体3HBのうちR-3HBを優先的に取り込み、PHBを蓄積した後、後述する微好気培養工程でR-3HBを分泌する性質に影響を与えなければ特に限定されない。組換えDNAの当該菌体への導入方法及びこれによる形質転換方法としては、一般的な各種方法を採用できる。
<B:培地>
好気培養工程で用いる培地は、無機塩及び有機炭素源としてのラセミ体3HB又はその塩を含有する。培地のpHは上記好塩菌の生育条件を満たすpHであれば特に限定されないが、具体的には、pH5~12程度にすればよく、pH8.8~12であることがより好ましい。尚、アルカリ性の培地を用いれば、他の菌のコンタミネーションを効果的に防止できるため好ましい。
また、培地は、液体培地であってもよいし、固体培地であってもよい。
好気培養工程にて用いる培地に配合する無機塩は、特に限定されることはなく、例えば、リン酸塩、硝酸塩、炭酸塩、硫酸塩、ナトリウム、マグネシウム、カリウム、マンガン、鉄、亜鉛、銅、コバルト等の金属塩が挙げられる。
例えば、ナトリウムを無機塩として用いる場合は、NaCl、NaNO、NaHCO、NaCO等を用いればよい。
これらの無機塩は、上記好塩菌にとって窒素源やリン源となるような化合物を用いることが好ましい。
窒素源は、硝酸塩、亜硝酸塩、尿素、アンモニウム塩、グルタミン酸塩等を用いればよく、特に限定されないが、例えば、NaNO、NaNO、NHCl等の化合物を用いればよい。
窒素源の使用量は、菌体の生育に影響を及ぼすことなく、光学分割という目的が達成される範囲において適宜設定すればよく、具体的には、培養初期の培地100ml当たり通常であれば硝酸塩として500mg程度以上とすればよく、より好ましくは1000mg程度以上、更に好ましくは1250mg程度以上である。
リン源は、リン酸塩、リン酸一水素塩、リン酸二水素塩等を用いればよく、特に限定はされないが、例えば、KHPO、KHPO等の化合物を用いればよい。
リン源の使用量も、上記窒素源の使用量と同様の観点から適宜設定すればよい。具体的には、リン酸二水素塩として培地100ml当たり通常は50~400mg程度とすればよく、より好ましくは100~200mg程度である。
尚、これらの無機塩は単一で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
好気培養工程にて用いる培地には、ラセミ体3HB又はその塩のみを有機炭素源として配合する。ラセミ体3HBは、(R)-3-ヒドロキシ酪酸と(S)-3-ヒドロキシ酪酸との混合物であり、例えば、不斉合成でない通常の有機合成により得られるものである。
有機炭素源としてのラセミ体3HBの濃度は、R-3HBの菌体内への優先的な取り込みや、PHBの蓄積が進行し、ラセミ体3HBを光学分割するという目的が達成される範囲において適宜設定すればよい。
本発明に係る光学分割方法の好気培養工程では、塩濃度が比較的高い条件の培地で、ハロモナス属に属する好塩菌を培養するので、他の菌体の混入、増殖の恐れ等がほとんどない。したがって、培地に対して滅菌処理等を行っても行わなくてもよく、且つ、簡便な設備で培養することも可能である。
好気培養工程における好塩菌の培養は、好気培養を採用する。好気培養の条件は、当該菌体が増殖し、且つ、当該菌体内へR-3HBを取り込み、これがPHBとして蓄積するような条件であれば、特に限定されない。
具体的には、5ml程度の培地に当該好塩菌を植菌し、所定の撹拌速度で所定の温度にて、一晩振とうしながら前培養を行う。続いて前培養して得られた菌体を、三角フラスコ、発酵槽、ジャーファーメンター等に入った培地中に100倍程度に希釈し本培養(本願における好気培養に相当)する。
本培養の培養温度は、通常20~45℃程度の範囲内で設定可能であるが、30~37℃程度の範囲内で設定することが好ましい。また、撹拌速度は、三角フラスコを用いる場合、通常120~250rpm程度の範囲内で設定可能であるが、150~200rpm程度の範囲内で設定することが好ましい。発酵槽、ジャーファーメンターを用いる場合は上記に匹敵する酸素供給速度となるように酸素供給を行うことが好ましい。
好気培養工程では、このような培養条件でハロモナス属に属する好塩菌を好気培養すればよい。具体的に、好気培養時の培地中の溶存酸素濃度は、特に限定されないが、通常は0mg/L以上とすればよく、7mg/L以上が好ましい。
好気培養工程での培養方法は、回分培養、半回分培養、連続培養等の培養方法が挙げられ、特に限定はされないが、本発明に係る光学分割方法において用いる好塩菌が他の菌が混入する可能性が極めて低いことを考慮すれば、長期の連続培養も可能である。尚、培養環境は、培地が空気に触れる環境とすればよく、培地表面に積極的に酸素を含む気体を吹き付ける方法や係る気体を培地中に吹き込む方法により調整してもよい。また、培養環境は、非滅菌環境下であっても滅菌環境下であってもよい。
好気培養の培養時間は、培地からR-3HBが消失し、S-3HBが残存するのに要する時間であり、このような時間としては、例えば20時間以上50時間以下である。尚、HPLC等の分析方法を使用して、継時的に培地中のR-3HBの存在を確認し、R-3HBが消失した時点で、後述する分離工程を行い、培養を停止することが好ましい。
〔分離工程〕
本発明の光学分割方法における分離工程は、好気培養工程後の培養液から菌体を分離する工程であり、培養液から菌体を分離することによって好気培養工程が停止する。
分離工程では、公知の手法を用いて培養液から菌体を分離して、好気培養工程を停止さればよい。例えば、液体培地を使用して好気培養工程を行う場合、当該工程で得られる培養液には、好塩菌に取り込まれずに残存したS-3HB又はその塩が存在する。そのため、培養液から好塩菌を分離手段で分離して、好気培養工程の培養を停止することで、S-3HB又はその塩を含み、R-3HBを含まない、或いはほぼ含まない培養液を得ることができる。
尚、具体的な分離の手法は、遠心操作やろ過等の公知の固液分離操作を採用できる。
〔微好気培養工程〕
本発明の光学分割方法における微好気培養工程は、分離工程で分離した菌体を培地で微好気培養し、培養液にて(R)-3-ヒドロキシ酪酸又はその塩を産生する工程である。
尚、「培養液にて(R)-3-ヒドロキシ酪酸を産生する」とは、好塩菌が培養液に3HBを分泌することを意味する。また、「培養液にて(R)-3-ヒドロキシ酪酸の塩を産生する」とは、好塩菌が培養液に3HBの塩を分泌することのみならず、好塩菌が培養液に分泌した3HBが、培養液中に存在する陽イオン成分と反応してR-3HBの塩を形成することも意味する。R-3HBと反応して塩を形成する陽イオン成分としては、培養液中に含まれているものであれば、特に限定されないが、例えば、ナトリウムイオン、カリウムイオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、コバルトイオン、亜鉛イオン、鉄イオン、銅イオン、モリブデンイオン、アンモニウムイオン、マンガンイオン等が挙げられる。
具体的には、好塩菌をpH8.0以上のアルカリ性領域に調整及び/又は維持して培養し、培養液にて好塩菌に酸素供給を積極的には行わない条件下でR-3HB又はその塩を産生する工程である。好塩菌に積極的に酸素供給を行わずに培養を継続すると、系内の酸素が消費され無酸素に近い状態となるが、絶対嫌気とまではならない酸素濃度数%の環境が維持されるため、微好気培養に適した環境を維持できる。
微好気培養工程にて用いる培地は、無機塩を含有し、有機炭素源を含有しない培地であり、有機炭素源を含有しない点を除いて好気培養工程にて用いたものと同様の培地を用いることができる。
尚、微好気培養の条件は、菌体内に蓄積されたPHBがR-3HBとして培地中に分泌されるような条件であれば、特に限定されない。
微好気培養を継続した場合、有機酸の生成により、培地のpHは下がる傾向がある。この様な培地のpHは適宜公知のpH測定用装置又はこれが付随したジャーファーメンター等によって確認することができる。
尚、「調整及び/又は維持」とは、上述のようなpHの確認を行いながら、pH調整剤を添加してpHの好適な状態を保つことや、単にpH調整剤を添加して培養開始時のpHを調整し、その後はpHの調整を行わないことを意味する。
微好気培養工程にて調整及び維持するpHは好ましくは8.0以上とする。これにより、好塩菌によるR-3HBの生産性を高く維持することができる。
尚、本発明で用いる上記好塩菌は、中程度の高塩濃度且つアルカリ条件下で培養することが可能であるため、夾雑菌の混入・繁殖(コンタミネーション)が少ない。しかしながら、一部乳酸菌には、中程度の高塩濃度且つpH8.4以下の環境下において増殖可能な菌も存在し、このような菌が本発明の培養系にコンタミネーションすると、好塩菌が分泌したR-3HB又はその塩を乳酸発酵の基質として消費してしまい、更には培地のpHの一段の低下を生じさせる恐れがある。
このため、本発明において培地を滅菌せず及び/又は非滅菌環境下で好塩菌を培養して、培地中に3HBを分泌させるためには、微好気培養工程における培地のpHの調整及び維持をpH8.5程度以上とすることが好ましい。
pH調整剤としては、特に限定はされないが、例えば水酸化物、炭酸塩、炭酸水素塩等が挙げられる。より具体的には、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素カルシウム、炭酸水素マグネシウム、アンモニア水等が挙げられる。
〔R体回収工程〕
本発明の光学分割方法におけるR体回収工程は、微好気培養工程で得られる培養液から、(R)-3-ヒドロキシ酪酸又はその塩を回収する工程である。
R体回収工程では、公知の手法を用いてR-3HB又はその塩を回収すればよい。例えば、培養液中にR-3HB又はその塩が存在しているときに、微好気培養工程の培養を停止し、R-3HB又はその塩を含む培養液と菌体とを分離し、培養液からR-3HB又はその塩を回収できる。また、液体培地を使用して微好気培養工程を行う場合、当該工程で得られる培養液に分泌されたR-3HB又はその塩が存在するため、当該工程の培養を停止し、必要に応じて培養液と好塩菌とを分離手段で分離して培養液を得て、この培養液からR-3HB又はその塩を得ることができる。
具体的な分離の手法は、遠心操作やろ過等の公知の固液分離操作を採用できる。また、培養の停止方法も特に限定されない。例えば、微好気培養工程後に好塩菌を含む培養液を加熱、酸処理等の方法によって殺菌する方法や固液分離操作を行って培養液と好塩菌とを分離する方法等を採用し得る。
培養液中のR-3HB又はその塩の存在を確認する方法は、菌種、培地成分、培養条件等により変わり得るものであるので、これらの要素を考慮して適宜決定する。例えば、継時的に培養液を採取し、これをHPLC等の分析方法に供して、培養を停止する時間を決定することもできる。
尚、R-3HBが、培養液中に含まれる無機塩に基づくナトリウム、カルシウム等のアルカリ金属やアルカリ土類金属陽イオン等と反応したアルカリ金属塩として培養液中に存在するような場合、R-3HBを得るには、菌体を分離した培養液を晶析等の常法に供すればよい。
菌体分離後の培養液を適切なカラムを用いたカラムクロマトグラフィーによって精製し、R-3HBを回収してもよい。これら以外の他の方法として、菌体分離後の培養液のpHを適宜変更して、所望のR-3HB又はその塩のいずれかを精製してもよい。また、菌体分離後の培養液に低級アルコール類を添加し、エステル化反応を経て、R-3HBエステルとして蒸留等で精製することも可能である。
〔S体回収工程〕
本発明の光学分割方法におけるS体回収工程は、分離工程で菌体を分離した培養液から(S)-3-ヒドロキシ酪酸又はその塩を回収する工程である。
上記のように、分離工程で菌体を分離した培養液は、S-3HB又はその塩を含み、R-3HBをほとんど含まない培養液である。S体回収工程では、公知の手法を用いて、この分離工程で菌体を分離した培養液から(S)-3-ヒドロキシ酪酸(S-3HB)又はその塩を回収すればよい。
S-3HBが、培養液中に含まれる無機塩に基づくナトリウム、カルシウム等のアルカリ金属やアルカリ土類金属陽イオン等と反応したアルカリ金属塩として培養液中に存在するような場合、S-3HBを得るには、菌体を分離した培養液を晶析等の常法に供すればよい。
菌体分離後の培養液を適切なカラムを用いたカラムクロマトグラフィーによって精製し、S-3HBを回収してもよい。これら以外の他の方法として、菌体分離後の培養液のpHを適宜変更して、所望のS-3HB又はその塩のいずれかを精製してもよい。また、菌体分離後の培養液に低級アルコール類を添加し、エステル化反応を経て、S-3HBエステルとして蒸留等で精製することも可能である。
以下、本発明を実施例に基づいてより詳細に説明する。尚、本発明が実施例に限定されないことは言うまでもない。
実施例として、ハロモナス・エスピーKM-1株を好塩菌として用いて、本発明に係る光学分割方法によってラセミ体3HBを光学分割した。尚、図1は、実施例として行った光学分割方法の概要を示す図である。
具体的には、SOT培地にラセミ体3-ヒドロキシ酪酸(R-3HBを50%、S-3HBを50%)を炭素源として含む下記表1に示す組成の培地を収容したバッフル付きのフラスコ培養容器にKM-1株を添加して、200rpm以上の回転速度で振とうしつつ好気培養工程を行った。そして、培養液中のR-3HB及びS-3HBの濃度、並びに菌体に蓄積されたPHBの量を公知の手法によって、経時的に測定し、培養液中からR-3HBが消失した時点(図2より培養開始から31時間後)で培養液から菌体を分離して好気培養を停止した。
Figure 2023136904000002
図2は、好気培養時の分析データをまとめたグラフである。同図から分かるように、R-3HBの濃度は、培養開始後から徐々に低下して31時間後にはほぼ0となっているのに対し、S-3HBの濃度には、大きな低下は見られない。そして、PHBの蓄積量に関しては、R-3HB濃度の低下と反比例するように徐々に増加している。このことから、好気培養工程においては、KM-1株によってR-3HBが優先的に取り込まれ、これが菌体内でPHBとして蓄積されることが明らかである。
次に、培養液から分離した菌体をSOT培地(表1から(R)-3-ヒドロキシ酪酸及び(S)-3-ヒドロキシ酪酸を除いた組成の培地)を用いて、酸素供給を積極的に行わない条件で微好気培養工程を行った。そして、菌体内に蓄積されたPHBの量がほぼ一定となったことを確認し、培養開始から39時間経過した時点で培養液から菌体を分離して微好気培養を停止した。
図3は、微好気培養時の分析データをまとめたグラフである。同図から分かるように、R-3HBの濃度は、培養開始から15時間後までは徐々に上昇し、その後はほぼ一定となっているのに対し、S-3HBの濃度はほぼ0のまま変化が見られない。そして、PHBの蓄積量に関しては、R-3HBの濃度の上昇と反比例するように徐々に減少し、培養開始から15時間後以降はほぼ一定となっている。このことから、微好気培養工程においては、KM-1株の菌体内に蓄積したPHBがR-3HBとして培養液中に分泌産生されることが明らかである。
そして、好気培養工程後に菌体を分離した培養液からは、光学純度95%以上のS-3HBを回収でき、微好気培養工程後に菌体を分離した培養液からは、光学純度95%以上のR-3HBを回収できた。したがって、本発明に係る光学分割方法によれば、光学活性3-ヒドロキシ酪酸の製造が可能であることも確認できた。
本発明は、ラセミ体3-ヒドロキシ酪酸を光学分割する方法に適用することができる。

Claims (4)

  1. ラセミ体3-ヒドロキシ酪酸又はその塩を光学分割する方法であって、
    ハロモナス属に属する好塩菌を、無機塩と有機炭素源としてのラセミ体3-ヒドロキシ酪酸又はその塩とを含む培地で好気培養する好気培養工程と、
    前記好気培養工程後の培養液から菌体を分離する分離工程と、
    前記分離工程で分離した菌体を、無機塩を含む培地で微好気培養し、培養液にて(R)-3-ヒドロキシ酪酸又はその塩を産生する微好気培養工程と、を順に行う、ラセミ体3-ヒドロキシ酪酸の光学分割方法。
  2. 前記微好気培養工程で得られる培養液から、(R)-3-ヒドロキシ酪酸又はその塩を回収するR体回収工程を行う、請求項1に記載のラセミ体3-ヒドロキシ酪酸の光学分割方法。
  3. 前記分離工程で菌体を分離した培養液から、(S)-3-ヒドロキシ酪酸又はその塩を回収するS体回収工程を行う、請求項1又は2に記載のラセミ体3-ヒドロキシ酪酸の光学分割方法。
  4. 前記好塩菌が、ハロモナス・エスピー(Halomonas sp.)KM-1株である請求項1~3のいずれか一項に記載のラセミ体3-ヒドロキシ酪酸の光学分割方法。
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