JP2022144466A - 新規微生物及び3-ヒドロキシ酪酸の製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】従来よりも優れた3HB生産能を有する新規微生物を提供する。【解決手段】この新規微生物は、3-ヒドロキシ酪酸生産能を有するハロモナス・エスピーK7F2株(受託番号NITE P-03415)である。【選択図】図3

Description

本発明は、3-ヒドロキシ酪酸生産能を有する新規微生物及び当該新規微生物を用いた3-ヒドロキシ酪酸の製造方法に関する。
3-ヒドロキシ酪酸やその塩(以下、単に「3HB」とも称する)は、もともと人の体内に存在する物質であるため生体親和性が高く、糖質に代わる画期的なエネルギー源として期待されている。また、3HBは、単なるエネルギー源という役割だけでなく、様々な遺伝子の発現やタンパク質の活性に影響するシグナル伝達物質としての作用があることがわかってきた。3HBは、例えば、遺伝子発現調節作用によって、ヒストン脱アセチル化酵素を阻害することによって認知機能や、長期持続記憶を改善することが知られ、アルツハイマーの予防に有効性が確認されている。また、ココナッツオイルに多く含まれる中鎖脂肪酸の摂取及び体内での代謝により生産される3HBが、脳や体内において糖質をうまく利用できないアルツハイマー病や糖尿病の患者の症状を改善させる効果を持つことが知られている。更に、3HBは、体内において糖質より速やかにエネルギーに変換されること、細胞への脂肪や糖の吸収を抑制する効果を有することから、アスリート向けのエネルギー物質や、ダイエット・健康食品分野などへの応用も盛んに行われている。
また、これらの用途の他、3HBは、生分解性樹脂の原料としての利用が可能であることが知られており、工業的用途においても利用価値が高まりつつある物質である。
このような3HBは、各種微生物にポリ3-ヒドロキシ酪酸(以下、単に「PHB」と称する)を生産させた後、得られたPHBを酵素等により分解することにより得ることができる(特許文献1)。また、このような微生物としてハロモナス・エスピー(Halomonas sp.)KM-1株が、好気条件でPHBを菌体内に蓄積し、微好気条件に移行することでPHBを分解して生成した3HBを培養液中に分泌産生することが見出されている(特許文献2)。尚、ハロモナス・エスピーKM-1株(以下、「KM-1株」とも称する)は、平成19年7月10日付けで、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センター(〒305-8566茨城県つくば市東1-1-1中央第6)に受託番号FERM P-21316として寄託されている。また、この菌株は、現在国際寄託に移管されており、その受託番号はFERM BP-10995である。当該ハロモナス・エスピーKM-1株の16S rRNA遺伝子は、DDJBにAccession Number AB477015として登録されている。
特開2010-168595号公報 特開2013-81403号公報
ところで、上記のような微生物を用いて3HBを生産しようとした場合、当該微生物が生産したPHBを一旦体内に蓄積した後、この蓄積されたPHBが3HBに分解される必要がある。しかしながら、上記微生物における菌体での蓄積量には限界があるため、3HBの生産量を向上させるためには、PHBの蓄積量を向上させる必要がある。
本発明は以上の実情に鑑みなされたものであり、従来よりも優れた3HB生産能を有する新規微生物、及び当該新規微生物を用いた3HBの製造方法の提供を、その目的とする。
上記目的を達成するための本発明に係る新規微生物は、
3-ヒドロキシ酪酸生産能を有するハロモナス・エスピーK7F2株(受託番号NITE P-03415)である。
ハロモナス・エスピーK7F2株(以下、「K7F2株」とも称する)の菌学的性質を調べたところ、上記KM-1と比較して、菌体内へのPHB蓄積能が大きく向上し、3HB生産能も向上していることを確認できた。
また、上記目的を達成するための本発明に係る3-ヒドロキシ酪酸の製造方法の特徴構成は、
ハロモナス・エスピーK7F2株を、無機塩と単一もしくは複数の有機炭素源とを含む培地で好気培養する好気発酵工程と、
好気発酵工程の培養条件を好気培養から微好気培養に変更して、前記ハロモナス・エスピーK7F2株を培養し、培養液にて3-ヒドロキシ酪酸又はその塩を産生する微好気発酵工程と、
微好気発酵工程で得られる培養液から、3-ヒドロキシ酪酸又はその塩を回収する回収工程と、を順に行う点にある。
上記特徴構成によれば、ハロモナス・エスピーK7F2株を用いることで、KM-1株を用いた場合と比較して、多量のPHBが蓄積され、当該PHBが分解された際に分泌生産される3HBの量も多くなる。つまり、上記特徴構成によれば、従来よりも3HBの生産性を大きく向上させることができる。
K7F2株及びKM-1株の3HB培地における増殖性を示すグラフである。 K7F2株及びKM-1株のPHB蓄積量を示すグラフである。 K7F2株及びKM-1株の3HB生産量を示すグラフである。
以下、本発明に係るハロモナス・エスピーK7F2株について説明する。尚、以下に好適な実施例を記すが、これら実施例はそれぞれ、本発明をより具体的に例示するために記載されたものであって、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々変更が可能であり、本発明は、以下の記載に限定されるものではない。また、以下において、特に言及しない限り、「%」とは質量体積パーセントを指す。
〔ハロモナス・エスピーK7F2株〕
本願発明者らは、以下のようにして、親株であるKM-1株に対して変異原性基質アナログであるN-アミノシチジン処理によって突然変異導入を行い、変異体ライブラリを得た。得られた変異体ライブラリの一つを用いて、密度勾配遠心法によりKM-1株よりも沈殿性の高い区分をグルコースを単一炭素源として含むSOT固体培地上にプレーティングし、複数の高沈殿性候補株を単離した。得られた複数の高沈殿性候補株からKM-1株よりも増殖性に優れたK7F2株を得た。以下、K7F2株の単離方法について具体的に示す。
〔突然変異導入〕
基質アナログ処理は、以下の手順にて行った。
0.1mMのN-アミノシチジンを含むグルコースを単一炭素源とするSOT培地(培地1)を用いてKM-1株の振とう培養を行った後、得られた培養液の最下層側1/100体積量を同じくN-アミノシチジンを含有する同組成の新しいSOT培地(培地1)に植え継ぎ、1回目と同様の条件にて振とう培養を行った。同様の継代培養操作を14回繰り返し実施した後、得られた培養液を変異体ライブラリとした。
〔密度勾配遠心〕
上記の得られた変異体ライブラリの一つを遠心チューブに移して密度勾配遠心を行い、主要分離層よりチューブ底側の菌体を回収した。その後、回収した菌体をグルコースを単一炭素源として含むSOT固体培地(培地1)上にプレーティングして静置培養することで、複数の高沈殿性候補株を単離した。
〔増殖性評価〕
上記のように得られた複数の高沈殿性候補株について、スクロースを単一炭素源として含有し、培地中のスクロースの終濃度が0.1%、1%及び25%である3種類のSOT液体培地(培地2)を用いて振とう培養を行い、KM-1株よりも優れた増殖性を示した1株(K7F2株)を選抜した。尚、図1は、KM-1株及びK7F2株を上記各培地で培養した際のOD値(OD600)を示すグラフである。
〔PHB及び3HBの生産性評価〕
上記選抜した1株及びKM-1株について、炭素源としてスクロースを含有するPHB・3HB生産用培地(培地3)を用いて、後述するPHB生産性試験及び3HB生産性試験を行い、PHB蓄積量及び3HB生産性を評価した。その結果、図2及び図3により、選抜した1株は、KM-1株よりも高いPHB蓄積量及び3HB生産性を示すことを確認した。この選抜した1株を3-ヒドロキシ酪酸生産能を有する新規微生物ハロモナス・エスピーK7F2株として得た。このK7F2株は、下記菌学的性質により、親株のKM-1株から変異した新規菌株であることが明らかであり、独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センター(NPMD)に、新規微生物K7F2株(受託番号NITE P-03415)として寄託されている。
上記各培地は、以下の組成のものを用いた。
(培地1)グルコースを単一炭素源として含有するSOT培地
成分 : 培地中の終濃度
グルコース : 10.0 g/L
NaHCO : 12.6 g/L
NaCO : 5.3 g/L
HPO : 2.0 g/L
NaNO : 12.5 g/L
SO : 1.0 g/L
MgSO・7HO : 0.2 g/L
CaCl・2HO : 0.053 g/L
FeSO・7HO : 0.01 g/L
NaEDTA : 0.08 g/L
BO : 2.86 mg/L
MnSO : 1.81 mg/L
ZnSO : 0.222 mg/L
CuSO・5HO : 0.079 mg/L
NaMoO・2HO : 0.39 mg/L
Co(NO・6HO : 0.049 mg/L
(培地2)スクロースを単一炭素源として含有するSOT培地
成分 : 培地中の終濃度
スクロース :1.0 g/L、10.0 g/L又は250.0 g/L
NaHCO : 12.6 g/L
NaCO : 5.3 g/L
HPO : 2.0 g/L
NaNO : 12.5 g/L
SO : 1.0 g/L
MgSO・7HO : 0.2 g/L
CaCl・2HO : 0.053 g/L
FeSO・7HO : 0.01 g/L
NaEDTA : 0.08 g/L
BO : 2.86 mg/L
MnSO : 1.81 mg/L
ZnSO : 0.222 mg/L
CuSO・5HO : 0.079 mg/L
NaMoO・2HO : 0.39 mg/L
Co(NO・6HO : 0.049 mg/L
(培地3)炭素源としてスクロースを含有するPHB・3HB生産用培地
成分 : 培地中の終濃度
スクロース : 300 g/L
NaHCO : 2.52 g/L
NaCO : 10.6 g/L
HPO : 2.0 g/L
SO : 1.0 g/L
MgSO・7HO : 0.2 g/L
CaCl・2HO : 0.053 g/L
FeSO・7HO : 0.01 g/L
NaEDTA : 0.08 g/L
グルタミン酸ナトリウム : 25 g/L
酵母エキス : 0.1g/L
(K7F2株の分類学上の位置)
得られたK7F2株は、親株KM-1株の突然変異体である。
KM-1株の分類学的性質は、好気性、生育温度20~37℃、生育可能pH8.0~11.0であり、K7F2株も同様の性質を持つことを確認した。また、16Sリボゾーム配列(1535bpの塩基配列)について、DDJBにてBLASTプログラムを用いた分析結果から、Halomonas属の菌株の10種類以上と96~99%の相同性を示したことからHalomonas sp.と同定した。
(K7F2株の科学的性質)
K7F2株は、KM-1とともに、各種炭素源(グルコース、スクロース、グリセロール、エタノール等)の資化能を有し、高濃度塩存在下で培養可能であり、好気培養によって著量のポリ3-ヒドロキシ酪酸(PHB)を菌体内に蓄積する。更に、好気条件から微好気条件への移行により、蓄積したPHBを加水分解し、3-ヒドロキシ酪酸(3HB)を菌体外に分泌する。このK7F2株は、KM-1株と比較して、好気培養終了時のPHB蓄積量及び微好気培養終了時の3HB分泌量が向上した菌株として単離された。
〔3HBの製造方法〕
以下、K7F2株を用いた3-ヒドロキシ酪酸の製造方法を説明する。尚、以下に好適な実施例を記すが、これら実施例はそれぞれ、本発明をより具体的に例示するために記載されたものであって、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々変更が可能であり、本発明は、以下の記載に限定されるものではない。
具体的には、以下の工程に従って培養を行う。
(1)K7F2株を、無機塩と単一若しくは複数の有機炭素源とを含む培地で好気培養する好気発酵工程と、
(2)好気発酵工程の培養条件を好気培養から微好気培養に変更して、K7F2株を培養し、培養液にて3HB又はその塩を産生する微好気発酵工程と、
(3)微好気発酵工程で得られる培養液から、3HB又はその塩を回収する回収工程。
<A:3HB生産菌>
3HB生産菌としては、上記K7F2株を下記により培養したものを用いる。
<B:培地>
好気発酵工程にて用いる培地は、無機塩及び有機炭素源を含有する。培地のpHは上記K7F2株の生育条件を満たすpHであれば特に限定されないが、具体的には、pH5~12程度にすればよく、pH8~11であることがより好ましい。尚、アルカリ性の培地を用いれば、他の菌のコンタミネーションを効果的に防止でき、また、分泌された3HBがクロトン酸へ変化するのを抑制できるので好ましい。
また、培地は、液体培地であってもよいし、固体培地であってもよい。
好気発酵工程にて用いる培地に配合する無機塩は、特に限定されることはなく、例えば、リン酸塩、硝酸塩、炭酸塩、硫酸塩、ナトリウム、マグネシウム、カリウム、マンガン、鉄、亜鉛、銅、コバルト等の金属塩が挙げられる。
例えば、ナトリウムを無機塩として用いる場合は、NaCl、NaNO、NaHCO、NaCO等を用いればよい。
これらの無機塩は、上記K7F2株にとって窒素源やリン源となるような化合物を用いることが好ましい。
窒素源は、硝酸塩、亜硝酸塩、尿素、アンモニウム塩、グルタミン酸等を用いればよく、特に限定されないが、例えば、NaNO、NaNO、NHCl等の化合物を用いればよい。
窒素源の使用量は、菌体の生育に影響を及ぼすことなく、本発明の実施形態に係る3HB又はその塩の生産目的が達成される範囲において適宜設定すればよく、具体的には、培養初期の培地100ml当たり通常であれば硝酸塩として500mg程度以上とすればよく、より好ましくは1000mg程度以上、更に好ましくは1250mg程度以上である。
リン源は、リン酸塩、リン酸一水素塩、リン酸二水素塩等を用いればよく、特に限定はされないが、例えば、KHPO、KHPO等の化合物を用いればよい。
リン源の使用量も、上記の窒素源の使用量と同様の観点から適宜設定すればよく、具体的には、リン酸二水素塩として培地100ml当たり通常は50~400mg程度とすればよく、より好ましくは100~200mg程度である。
これらの無機塩は単一で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
その他の化合物等も含めた無機塩は、総量で通常は0.1~2.5M程度となる濃度で
用いればよく、好ましくは0.2~1.0M程度、より好ましくは0.2~0.5M程度
である。
培地に配合する有機炭素源は、特に限定されない。例えば、トリプトン、酵母エキス、可溶性デンプン、エタノール、n-プロパノール、酢酸、酢酸ナトリウム、プロピオン酸、廃グリセロール、廃蜜糖、木材糖化液、プシコース、フルクトース、ソルボース、タガトース、アロース、アルトロース、グルコース、マンノース、グロース、イドース、ガラクトース、タロース等の六炭糖;リブロース、キシルロース、リボース、アラビノース、キシロース、リキソース、デオキシリボース等の五炭糖;スクロース、ラクトース、マルトース、トレハロース、ツラノース、セロビオース等の二糖;エリスリトール、グリセリン、マンニトール、ソルビトール、キシリトール等の糖アルコール等が挙げられる。
有機炭素源の濃度は、3HB又はその塩の生産量を確保できる範囲において適宜設定すればよい。
本発明に係る3HBの製造方法では、塩濃度が比較的高い条件の培地で、K7F2株を培養するので、他の菌体の混入、増殖の恐れ等がほとんどない。したがって、培地に対して滅菌処理等を行っても行わなくてもよく、且つ、簡便な設備で培養することも可能である。
<C:好気発酵工程>
好気発酵工程における上記K7F2株の培養は、好気培養を採用する。好気培養の条件は、当該菌体が増殖し、且つ、当該菌体内にPHBが著量蓄積するような条件であれば、特に限定されない。
具体的には、5ml程度の培地にK7F2株を植菌し、攪拌速度を120~250rpmとし、所定の温度にて1晩振とうしながら前培養を行う。続いて前培養して得られた菌体を、三角フラスコ、発酵槽、ジャーファーメンター等に入った培地中に100倍程度に希釈し本培養する。
本培養の培養温度は、通常20~45℃程度の範囲内で設定可能であるが、30~37℃程度の範囲内で設定することが好ましい。
好気発酵工程では、このような培養条件でK7F2株を好気培養すればよい。具体的に好気培養時の培地中の溶存酸素濃度は、特に限定はされないが、通常は0mg/L以上とすればよく、7mg/L以上が好ましい。
好気発酵工程での培養方法は、回分培養、半回分培養、連続培養等の培養方法が挙げられ、特に限定はされないが、K7F2株に他の菌が混入する可能性が極めて低いことを考慮すれば、3HB又はその塩を効率よく製造するための長期の連続培養も可能である。尚、培養環境は、培地が空気に触れる環境とすればよく、培地表面に積極的に酸素を含む気体を吹き付ける方法や当該気体を培地中に吹き込む方法により調整してもよい。また、培養環境は、非滅菌環境下であっても滅菌環境下であってもよい。
<D:微好気発酵工程>
本発明の製造方法における微好気発酵工程は、好気発酵工程の培養条件を好気培養から微好気培養に変更して、K7F2株を培養し、培養液にて3-ヒドロキシ酪酸又はその塩を産生する工程である。
尚、「培養液にて3-ヒドロキシ酪酸を産生する」とは、K7F2株が培養液に3HBを分泌することを意味する。また、「培養液にて3-ヒドロキシ酪酸の塩を産生する」とは、K7F2株が培養液に3HBの塩を分泌することのみならず、K7F2株が培養液に分泌した3HBが、培養液中に存在する陽イオン成分と反応して3HBの塩を形成することも意味する。3HBと反応して塩を形成する陽イオン成分としては、培養液中に含まれているものであれば、特に限定されないが、例えば、ナトリウムイオン、カリウムイオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、コバルトイオン、亜鉛イオン、鉄イオン、銅イオン、モリブデンイオン、アンモニウムイオン、マンガンイオン等が挙げられる。
具体的には、K7F2株をpH8.0以上のアルカリ性領域に調整及び/又は維持して培養し、培養液にてK7F2株に酸素供給を積極的には行わない条件下で3HB又はその塩を産生する工程である。K7F2株に積極的に酸素供給を行わずに培養を継続すると、系内の酸素が消費され無酸素に近い状態となるが、絶対嫌気とまではならない酸素濃度数%の環境が維持されるため、微好気培養に適した環境を維持できる。
尚、微好気培養の条件は、菌体内に蓄積されたPHBが3HBとして培地中に分泌されるような条件であれば、特に限定されない。
微好気培養を継続した場合、有機酸の生成により、培地のpHは下がる傾向がある。この様な培地のpHは適宜公知のpH測定用装置又はこれが付随したジャーファーメンター等によって確認することができる。
尚、「調整及び/又は維持」とは、上述のようなpHの確認を行いながら、pH調整剤を添加してpHの好適な状態を保つことや、単にpH調整剤を添加して培養開始時のpHを調整し、その後はpHの調整を行わないことを意味する。
微好気発酵工程にて調整及び維持するpHは好ましくは8.0以上とする。これにより、K7F2株による3HB生産性を高く維持することができる。
尚、K7F2株は、中程度の高塩濃度且つアルカリ条件下で培養することが可能であるため、夾雑菌の混入・繁殖(コンタミネーション)が少ない。しかしながら、一部乳酸菌には、中程度の高塩濃度且つpH8.4以下の環境下において増殖可能な菌も存在し、このような菌が本発明の培養系にコンタミネーションすると、K7F2株が分泌した3HB又はその塩を乳酸発酵の基質として消費してしまい、更には培地のpHの一段の低下を生じさせる恐れがある。
このため、本発明において培地を滅菌せず及び/又は非滅菌環境下でK7F2株を培養して、培地中に3HBを分泌させるためには、微好気発酵工程における培地のpHの調整及び維持をpH8.5程度以上とすることが好ましい。
pH調整剤としては、特に限定はされないが、例えば水酸化物、炭酸塩、炭酸水素塩等が挙げられる。より具体的には、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素カルシウム、炭酸水素マグネシウム、アンモニア水等が挙げられる。
pHの調整時期は、K7F2株内でのPHBの蓄積量がほぼ一定となる時期であれば特に限定されないが、例えば、好気発酵工程によって得られるK7F2株の菌体中のPHBの蓄積量が乾燥菌体100重量部当たり15重量部程度以上となる時期等が挙げられる。
具体的なK7F2株の菌体中のPHBの蓄積量は、公知の手法を用いて測定することができる。
<E:回収工程>
本発明の製造方法における回収工程は、微好気発酵工程で得られる培養液から、3HB又はその塩を回収する工程である。
回収工程では、公知の手法を用いて3HB又はその塩を回収すればよい。回収とは、培養液中に3HB又はその塩が存在しているときに、微好気発酵工程の培養を停止し、3HB又はその塩を含む培養液と、K7F2株の菌体とを分離することである。例えば、液体培地を使用して微好気発酵工程を行う場合、当該工程で得られる培養液に分泌された3HB又はその塩が存在するため、当該工程の培養を停止し、必要に応じて培養液とK7F2株とを分離手段で分離し、培養液を得ることである。
具体的な分離の手法は、遠心操作やろ過等の公知の固液分離操作を採用できる。また、培養の停止方法も特に限定されない。例えば、微好気発酵工程後にK7F2株を含む培養液を加熱、酸処理等の方法によって殺菌する方法や固液分離操作を行って培養液とK7F2株とを分離する方法等を採用し得る。
培養液中の3HB又はその塩の存在を確認する方法は、菌種、培地成分、培養条件等により変わり得るものであるので、これらの要素を考慮して適宜決定する。例えば、継時的に培養液を採取し、これをHPLC等の分析方法に供して、培養を停止する時間を決定することもできる。
尚、回収される3HBの塩が、培養液中に含まれる無機塩に基づくナトリウム、カルシウム等のアルカリ金属;アルカリ土類金属陽イオン等と反応したアルカリ金属塩として回収された場合、3HBを製造するには、回収した培養液を晶析等の常法に供すればよい。
また、回収した培養液を適切なカラムを用いたカラムクロマトグラフィーによって精製工程に供してもよい。これら以外の他の方法として、回収した培養液のpHを適宜変更して、所望の3HB又はその塩のいずれかを精製工程に供してもよい。また、回収した培養液に低級アルコール類を添加し、エステル化反応を経て、3HBエステルとして蒸留等で精製することも可能である。
以下、本発明を実施例に基づいてより詳細に説明する。尚、本発明が実施例に限定されないことは言うまでもない。
〔PHB生産性試験〕
上記好気発酵工程を、K7F2株にて行った場合とKM-1株にて行った場合とで、PHBの蓄積量がどの程度異なるかについて調べた。
具体的には、スクロースを炭素源として含む培地(培地3)を収容したバッフル付きのフラスコ培養容器に各菌株を添加して、200rpm以上の回転速度で振とうしつつ好気発酵工程を行った。これにより、各菌株により糖質が資化されてPHBが生産され、各菌株体内にPHBが蓄積された。
図2は、K7F2株及びKM-1株のPHB蓄積量と培養時間との関係を示すグラフである。KM-1株のPHB蓄積量は、培養開始からおよそ69時間後に最大値(75g/L)となったのに対し、K7F2株のPHB蓄積量は、培養開始からおよそ60時間後に最大値(121g/L)となっている。このことから、K7F2株は、KM-1株と比較してPHB蓄積量が極めて高いことが確認できた。
〔3HB生産性試験〕
次に、好気発酵工程から微好気発酵工程に移行することにより、各菌株体内に蓄積したPHBを3HBに変換し、培養液中への3HBの分泌生産を行った。微好気培養への移行にあたっては、振とう速度を培養液の均一性を保つための必要最低限の速度まで低下させ、培地中の酸素濃度を十分に低いレベルに維持した。
図3は、K7F2株及びKM-1株の3HB生産量と培養時間との関係を示すグラフである。KM-1株の3HB生産量は、最大で61g/Lであるのに対し、K7F2株の3HB生産量は、最大で89g/Lであった。このことから、K7F2株は、KM-1株と比較して3HB生産性も高いことが確認できた。
以上のことから、K7F2株は、KM-1株と比較して極めて高いPHB蓄積量及び3HB生産性を有し、当該K7F2株を用いることで、従来よりも3HBの生産性を大きく向上させることができることが確認できた。
本発明は、3HB又はその塩の製造方法に適用することができる。

Claims (2)

  1. 3-ヒドロキシ酪酸生産能を有するハロモナス・エスピーK7F2株(受託番号NITE P-03415)。
  2. ハロモナス・エスピーK7F2株を、無機塩と単一もしくは複数の有機炭素源とを含む培地で好気培養する好気発酵工程と、
    前記好気発酵工程の培養条件を好気培養から微好気培養に変更して、前記ハロモナス・エスピーK7F2株を培養し、培養液にて3-ヒドロキシ酪酸又はその塩を産生する微好気発酵工程と、
    前記微好気発酵工程で得られる培養液から、3-ヒドロキシ酪酸又はその塩を回収する回収工程と、を順に行う3-ヒドロキシ酪酸の製造方法。
JP2021045501A 2021-03-19 2021-03-19 新規微生物及び3-ヒドロキシ酪酸の製造方法 Pending JP2022144466A (ja)

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