JP2023127855A - 板圧延の先進率予測方法及び圧延方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】圧延ロールの圧延距離による先進率の予測精度の悪化を解消できる板圧延の先進率予測方法、該先進率予測方法を用いる板厚予測方法及び該板厚予測方法を用いる圧延方法を提供する。【解決手段】圧延ロール1の入・出側の鋼板Sの板厚、張力及び変形抵抗、並びに前記圧延ロールの摩擦係数、ロール径及び弾性係数の各設定値を用い、圧延理論式に基づき先進率の暫定値を算出し、該暫定値に、前記圧延ロールの圧延距離の指数関数で減少する補正項を乗じて先進率の予測値とする。【選択図】図1
Description
本発明は、鋼板の圧延における特にセットアップ時の先進率を予測する板圧延の先進率予測方法及び該先進率予測方法を用いる圧延方法に関する。
鋼板の圧延において、先進率の予測精度を向上させることは、圧延ロールの出側の通板速度(出側板速)の適正化につながるため、圧延ロールの出側の板厚(出側板厚)の精度が向上し、板厚不良部の削減に寄与する。なお、先進率とは、ロール周速に対する出側板速の増加割合を意味する。すなわち、先進率の定義式は、先進率=(出側板速/ロール周速)―1である。
先進率の予測精度を向上させる従来技術として、圧延理論式に基づき算出した先進率の暫定値を種々の方法で補正する手法が提案されている。圧延理論式としては、Simsの式、Orowanの微分方程式、玉野・柳本の式、Brand&Fordの先進率式等が知られており、例えば非特許文献1又は2など、圧延理論に関する教科書等に詳説されている。
例えば、特許文献1では、要するに、圧延時のロール扁平形状が円弧とした圧延理論式により前記先進率の暫定値と共に扁平ロール半径を算出し、前記先進率の暫定値に、予め設定した扁平ロール半径比(前記扁平ロール半径/ロール半径)の線形増加関数としての先進率比である補正項を乗じて先進率の予測値とする方法(図5に手順の概略を示す。)を提案している。なお、特許文献1の実施形態では玉野・柳本の式を用い、圧延時のロール扁平形状が円弧とした扁平ロール半径式には、Hitchcockの扁平ロール半径式を用いている。
また、特許文献2では、先進率の暫定値に、シェイプファクタ(鋼板と圧延ロールの接触長/入側出側の平均板厚)に応じて設定した補正項を乗じて先進率の予測値とする方法を提案している。
また、特許文献1,2とも、圧延の実施形態として具体的に開示しているのは熱間圧延である。
日本鉄鋼協会編:板圧延の理論と実際(1984)第2章
山本ら:鉄と鋼第73年(1987)第10号第1358-1365頁
しかしながら、冷間圧延に適用すると、特許文献1,2に記載の方法では、圧延ロールの圧延距離によっては、先進率の予測値と実績値の乖離(ずれ)が大きくなり、予測精度が悪化するという問題が生じることが分かった。ここで、圧延ロールの圧延距離とは、ロール替えの設定初期からの圧延された鋼板の圧延方向の合計の鋼板長さを意味し、以下、単に、圧延距離ともいう。
そこで、本発明は、上述の事情に鑑み、圧延ロールの圧延距離による先進率の予測精度が向上する板圧延の先進率予測方法、該先進率予測方法を用いる圧延方法を提供することを目的とする。
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討し、その結果、先進率の実績値は、例えば図4に示すように圧延距離が増大すると、従来の予測値との乖離が大きくなり、指数関数的に減少する傾向があるという知見を得た。
ここで、先進率の実績値は、圧延ロールのロール周速及び出側板速の実測値から上記の定義式により算出し、圧延距離は、圧延ロールの使用記録を用いて計算した。これらの実績値のデータは全6圧延スタンドの冷間タンデム圧延機(図6参照)の第1圧延スタンド(1std)で採取されたものであり、データの範囲は、ロール周速=335~380m/分、出側板速=50~370m/分、圧延距離=1~134kmである。
なお、図4中で水平線となっているのは、従来の予測値の1例を示しており、従来の補正項が圧延距離を含まないため、このように圧延距離が変化しても原理的に同一値となるからである。
図4のような先進率の実績値の挙動は、本発明者らは、摩擦係数の挙動に関係すると考え、冷間圧延において、摩擦係数はロール替えから圧延した重量(又は圧延距離)の増大によりロール摩耗が進行し指数関数的に減少すると推測した。摩擦係数が減少すると出側板速が低下し、先進率が低下するので、摩擦係数を圧延距離の指数関数で減少する形式で与えれば、先進率の予測精度を向上できる。しかし、摩擦係数は、圧延荷重の設定計算などにも用いられており、摩擦係数を圧延距離の指数関数とする変更を採用することは、先進率以外の設定計算に影響するため、圧延制御システムの大幅な見直しが必要となる。
上述の考えから、本発明者らは、先進率の暫定値に乗ずる補正項を圧延距離に応じて指数関数で減少するものとして、さらに検討を行い、本発明をなした。すなわち、本発明は以下のとおりである。
[1] 鋼板の圧延におけるセットアップ時の先進率予測方法であって、圧延ロールの入・出側の鋼板の板厚、張力及び変形抵抗、並びに前記圧延ロールの摩擦係数、ロール径及び弾性係数の各設定値を用い、圧延理論式に基づき先進率の暫定値を算出し、該暫定値に、前記圧延ロールの圧延距離の指数関数で減少する補正項を乗じて先進率の予測値とすることを特徴とする板圧延の先進率予測方法。
[2] 前記圧延を行う圧延機が、タンデム圧延機であることを特徴とする[1]に記載の板圧延の先進率予測方法。
[3] 前記圧延が冷間圧延であり、前記入側の鋼板の板厚が1.0~6.0mmであることを特徴とする[1]又は[2]に記載の板圧延の先進率予測方法。
[4] 前記圧延理論式が、Bland&Fordの先進率式であることを特徴とする[1]~[3]のいずれか1つに記載の板圧延の先進率予測方法。
[5] [1]~[4]のいずれか1つに記載の板圧延の先進率予測方法により予測された先進率を用いる圧延方法であって、圧延スタンド出側の目標板厚に対して上記の先進率の予測値が達成されるように当該圧延スタンドのロール周速を調整することを特徴とする圧延方法。
[1] 鋼板の圧延におけるセットアップ時の先進率予測方法であって、圧延ロールの入・出側の鋼板の板厚、張力及び変形抵抗、並びに前記圧延ロールの摩擦係数、ロール径及び弾性係数の各設定値を用い、圧延理論式に基づき先進率の暫定値を算出し、該暫定値に、前記圧延ロールの圧延距離の指数関数で減少する補正項を乗じて先進率の予測値とすることを特徴とする板圧延の先進率予測方法。
[2] 前記圧延を行う圧延機が、タンデム圧延機であることを特徴とする[1]に記載の板圧延の先進率予測方法。
[3] 前記圧延が冷間圧延であり、前記入側の鋼板の板厚が1.0~6.0mmであることを特徴とする[1]又は[2]に記載の板圧延の先進率予測方法。
[4] 前記圧延理論式が、Bland&Fordの先進率式であることを特徴とする[1]~[3]のいずれか1つに記載の板圧延の先進率予測方法。
[5] [1]~[4]のいずれか1つに記載の板圧延の先進率予測方法により予測された先進率を用いる圧延方法であって、圧延スタンド出側の目標板厚に対して上記の先進率の予測値が達成されるように当該圧延スタンドのロール周速を調整することを特徴とする圧延方法。
本発明によれば、先進率の設定計算に、圧延距離の影響を簡易な形式で反映させることができ、先進率の予測精度が向上し、板厚不良部の長さを削減することができる。
本発明は、鋼板の圧延におけるセットアップ(圧延前の条件設定)に適用し、圧延中の条件変更(いわゆるダイナミック制御)は対象としない。
以下、本発明の実施形態(本実施形態ともいう)について説明する。本実施形態では、例えば図6に示す冷間圧延設備を用いる。この冷間圧延設備において、圧延機10は、第1~第6圧延スタンド(1std~6std)からなるタンデム圧延機であり、各圧延スタンドは上下1対の圧延ロール(ワークロール)1と補強ロール(バックアップロール)2を具備する。圧延機10の入・出側(入側及び出側の意)にはそれぞれ、帯状の鋼板Sへ張力を付与する入・出側のブライドルロール5,6が設置され、出側のブライドルロール6の下流側には鋼板Sを巻き取るカローゼルリール3が設置されている。なお、入側のブライドルロール5の上流側には、図示しないが、最上流側から、鋼板Sを払い出す(コイル状から帯状にする)ペイオフリール、繋ぎ溶接する溶接機、入側ルーパーがこの順に設置されている。
本実施形態では、鋼板Sの圧延ロール1の入側板厚は、1.8~3.0mmであり、各圧延スタンドでの圧下率は1stdで18~38%、2stdで18~38%、3stdで18~38%、4stdで18~38%、5stdで17~35%、6stdで17~35%である。
本発明による先進率の予測手順は、図1に概略を示すように、圧延ロール1の入・出側の鋼板Sの板厚、張力及び変形抵抗、並びに圧延ロール1の摩擦係数、ロール径及び弾性係数の各設定値を用い、先進率の暫定値を導出し、該暫定値を、圧延ロール1の圧延距離に応じて補正して、先進率の予測値とする。
先進率の暫定値の導出には、前述の圧延理論式(Simsの式、Orowanの微分方程式、玉野・柳本の式、Brand&Fordの先進率式等)のいずれを用いてもよい。本実施形態ではBrand&Fordの先進率式((1)式)を用いる。(1)式には扁平ロール半径R'が含まれるが、これはHitchcockの扁平ロール半径式((2)式)で計算する。
先進率の暫定値の計算に際し、(1)、(2)式への入力変数は、例えば以下のように与える。
入・出側板厚hin,hout及び入・出側張力σin,σoutは、圧延スケジュールに基づき鋼種ごと及び圧延スタンドごとに設定した値を用いる。ロール径Rは、圧延スタンドごとに実用されている値を用いる。入・出側変形抵抗kin,kout及び摩擦係数μは、過去の操業実績範囲の中心の値を用いる。圧延ロールの弾性係数E及びポアソン比νはロール材質ごとに既知である値を用いる。単位幅あたりの圧延荷重Pは、過去の操業実績範囲の中心の値を用いる。
前記暫定値を圧延距離に応じて補正するには、前記暫定値に、圧延ロール1の圧延距離の指数関数で減少する補正項を乗じる、すなわち、以下の(3)式を用いることとする。
f=f0×α=f0×(1-a×exp(-b×L)) ‥‥(3)
ここで、fは先進率の予測値、f0は先進率の暫定値(=(1)式のfs)、αは補正項、Lは圧延距離[km]である。
ここで、fは先進率の予測値、f0は先進率の暫定値(=(1)式のfs)、αは補正項、Lは圧延距離[km]である。
(3)式の定数a,bは正の実数であり、予め圧延スタンドごとに、実績値からの回帰分析(カーブフィッティング)により求めておく。
このようにして決定した補正項αを先進率の暫定値f0に乗ずることで、圧延距離による先進率の予測誤差を小さくすることができる。摩擦係数を用いた他の設定は従来通りであるから、圧延荷重の設定計算などへ影響を及ぼすことはない。
図2は、1例として、図6の冷間圧延設備の第1圧延スタンド(1std)において、求めた先進率の予測値の圧延距離に対する関係を、実績値と共に示すものである。なお、図2の実績値は、(3)式でカーブフィッティングを行ったときのサンプルデータよりも後に採取されたものである。前記サンプルデータの範囲は、図示しないが、圧延距離L=1~134km、先進率=4.8~9.8、N数=315であり、得られた(3)式の定数a,bは、a=0.65、b=0.02(表1にも示す)である。
図2において、予測値を表す曲線は、実績値の圧延距離依存性を良好に記述していることがわかる。図2の予測値と実績値との相関図は図3のとおりであり、プロット点が縦軸値=横軸値の直線沿いに分布し、決定係数R2(相関係数の2乗)は図示のとおり高位である。なお、図4の従来の予測値と実測値との相関図(図示せず)ではプロット点が縦軸に平行な1直線上に位置し、相関は認められない。
本発明の先進率予測方法は、単一の圧延スタンドの圧延機及びタンデム圧延機のいずれにも適用可能であるが、リバース圧延なしで1パスの連続圧延により仕上げうる点で優位なタンデム圧延機への適用が好ましい。
また、本発明の先進率予測方法は、冷間圧延及び熱間圧延のいずれにも適用可能であるが、先進率の圧延距離依存性が熱間圧延の場合と比べて顕著に現れる冷間圧延への適用が好ましい。冷間圧延では、前記入側の鋼板の板厚は現状の製造可能範囲を考慮すると、1.0~6.0mmとするのが好ましい。
また、本発明の先進率予測に用いる圧延理論式として、本実施形態で用いたBland&Fordの先進率式が好ましいのは、扁平ロール径を用いており、かつ収束性に優れ近似式の計算量が少なくて、冷間圧延に広く用いられているからである。中でもとくに製品板厚が薄い(出側板厚1.0mm以下程度)ラインでは、広く用いられている。
本発明では、上記の先進率の予測値を用いて圧延ロール1の出側(圧延スタンド出側)の板厚精度の向上が期待できる。この板厚精度を向上させる圧延方法としては、上述の先進率の定義式を用い、圧延スタンド出側の目標板厚に対して上記の先進率の予測値が達成されるように当該圧延スタンドのロール周速を調整する方法が挙げられる。
これにより、最終圧延スタンドの出側における鋼板の板厚不良部(本実施形態では目標板厚±3.5%以内を外れた部分)の圧延方向長さをより効果的に削減することができる。
本発明例として、図6に示した冷間圧延設備による缶用鋼板(鋼種は一般艇な低炭素鋼)の冷間圧延工程に本発明の先進率予測方法を適用し、図1の手順に従い、(1)~(3)式で各圧延スタンドにおける先進率の予測値を求めた。
各圧延スタンドにおける、(3)式の先進率の暫定値f0の範囲、補正項αの定数a,b及び圧延距離Lの範囲を表1に示す。
求めた先進率の予測値を用いて、前記先進率の定義式から、各圧延スタンドにおいて、出側の目標板厚に対し、上記の先進率の予測値が達成されるようにロール周速を調整して圧延を行った。第6圧延スタンド出側の目標板厚は0.127~0.80mmである。
一方、比較例として、本発明例において、図1の手順に代えて図5の手順で先進率の予測値を求め、それ以外は本発明例と同様とした。
その結果、本発明例では、圧延した鋼板コイルの総重量40千tonあたりの板厚不良部の圧延方向長さが、比較例を100とした相対値で87と、大幅に低減した。
1 圧延ロール(ワークロール)
2 補強ロール(バックアップロール)
3 カローゼルリール
5 入側のブライドルロール
6 出側のブライドルロール
10 圧延機
2 補強ロール(バックアップロール)
3 カローゼルリール
5 入側のブライドルロール
6 出側のブライドルロール
10 圧延機
Claims (5)
- 鋼板の圧延におけるセットアップ時の先進率予測方法であって、圧延ロールの入・出側の鋼板の板厚、張力及び変形抵抗、並びに前記圧延ロールの摩擦係数、ロール径及び弾性係数の各設定値を用い、圧延理論式に基づき先進率の暫定値を算出し、該暫定値に、前記圧延ロールの圧延距離の指数関数で減少する補正項を乗じて先進率の予測値とすることを特徴とする板圧延の先進率予測方法。
- 前記圧延を行う圧延機が、タンデム圧延機であることを特徴とする請求項1に記載の板圧延の先進率予測方法。
- 前記圧延が冷間圧延であり、前記入側の鋼板の板厚が1.0~6.0mmであることを特徴とする請求項1又は2に記載の板圧延の先進率予測方法。
- 前記圧延理論式が、Bland&Fordの先進率式であることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の板圧延の先進率予測方法。
- 請求項1~4のいずれか1項に記載の板圧延の先進率予測方法により予測された先進率を用いる圧延方法であって、圧延スタンド出側の目標板厚に対して上記の先進率の予測値が達成されるように当該圧延スタンドのロール周速を調整することを特徴とする圧延方法。
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