JP2023125650A - ポリイミド粉体、ポリイミドワニス及びその製造方法 - Google Patents

ポリイミド粉体、ポリイミドワニス及びその製造方法 Download PDF

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Keizo Tanaka
博 伊藤
Hiroshi Ito
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Abstract

【課題】 耐熱性、透明性、機械特性及びレベリング性に優れたポリイミド膜を与える、有機溶媒に可溶でハンドリング性に優れたポリイミド粉体、並びに該ポリイミド粉体を用いたワニス、またそれらの製造方法を提供する。【解決手段】 還元粘度ηaが0.35dL/g≦ηa≦0.90dL/gの範囲である、芳香族ジアミン化合物に由来する構造単位とテトラカルボン酸二無水物に由来する構造単位とを有するポリイミドAと、還元粘度ηbが0.20dL/g≦ηb≦0.75dL/gの範囲である、芳香族ジアミン化合物に由来する構造単位とテトラカルボン酸二無水物に由来する構造単位とを有するポリイミドBとを含む、有機溶媒に可溶なポリイミド粉体であって、ηa/ηbの値が1.20以上であり、ポリイミド各成分のブレンドについて測定した還元粘度ηmが、0.27dL/g≦ηm≦0.85dL/gの範囲である、ポリイミド粉体である。【選択図】 なし

Description

本発明は、ポリイミド粉体、特に電子材料用途やディスプレイ用途に好適に用いられる、極めて優れた耐熱性、透明性及びレベリング性を兼ね備えたポリイミド膜を与えるポリイミド粉体、並びに該ポリイミド粉体を用いたワニス、またそれらの製造方法に関するものである。
ポリイミド樹脂は耐熱性に優れる高分子として、航空宇宙分野、電気絶縁分野、電子分野等の耐熱性や高信頼性が要求される幅広い分野で活用されている。また、近年では耐熱性と透明性を兼ね備えた透明ポリイミドが提案されてきており、例えば特許文献1には、フッ素原子を含有する特定のモノマーから合成される、光導波路に好適な透明性に優れた可溶性のポリイミドが提案されている。特許文献2には、特定の脂環式ジアミンを用いた有機溶剤に可溶な透明ポリイミドが提案されている。しかしながら、特許文献1及び特許文献2にはポリイミド粉体に関しては開示されておらず、また特許文献2に記載されたポリイミドは脂環式のジアミンを原料として用いているため、耐熱性に乏しく、加熱により着色するという問題があった。
ポリイミドの粉体としては、可溶性ポリイミドのワニスに水やメタノールなどの貧溶媒を添加して塊状のポリイミド樹脂を析出させる方法が開示されている(特許文献3)。
また、特許文献4にはジアミン類と酸二無水物類を重合して得られるポリアミド酸のイミド化物の粉末が提案されている。
しかしながら、特許文献3や特許文献4に記載されたポリイミドの粉体は、原料モノマーであるジアミン類のモル量と酸無水物のモル量を基本的に同じにして重合されたポリアミド酸を経由して製造されているが、そのような製造方法の場合、僅かなモノマーの秤量誤差、モノマーの溶け残り、モノマーの純度の変動等により、ポリアミド酸の重合度が大きく変動し、結果として得られるポリイミド粉体の重合度が安定しないという問題があった。それを防ぐために、ジアミンと酸無水物のモル量の比率を1から僅かにずらしてポリアミド酸を重合する方法が取り入れられているが、その場合でも溶媒中に含まれる水分量の影響により重合度が変動するという問題がある。また、ポリアミド酸溶液の段階では、同等の重合度の溶液であったとしても、その後のイミド化、粉体化、乾燥等の工程においても、ポリマーの解裂等により重合度が変化するという問題も生じることがある。
このように、重合度の変動したポリイミド粉体をそのまま溶媒に溶解してポリイミド溶液(ワニス)として用いた場合、ポリイミドワニスの粘度が著しく変動して、安定したポリイミドフィルムの製膜ができなくなるとともに、得られるポリイミドフィルムの機械特性が低下するケースがあるという問題があった。
かかる観点から特許文献5には還元粘度の異なるふたつのポリイミド粉体を混合することにより、ポリイミドの重合度の変動を抑制し、溶媒に溶解した際に安定した粘度のポリイミドワニスを与えるポリイミド粉体が提案されている。しかしながら、特許文献5に記載されたポリイミド粉体は還元粘度が1.7~2.5dL/gと大きいため、ポリイミドワニスとして使用する上でハンドリング性の良い粘度とするためにはポリイミドの濃度を下げる必要があり、その結果平坦な基体に塗膜する場合には問題はないものの、段差のある基体に塗膜した際にその表面が十分にレベリングしないという問題があった。
特開平4-235505号公報 特開2000-169579号公報 特開2004-285355号公報 特表2013-523939号公報 特開2019-59834号公報
本発明の目的は、耐熱性、透明性、機械特性及びレベリング性に優れたポリイミド膜を与える、有機溶媒に可溶でハンドリング性に優れたポリイミド粉体を与えることにある。
本発明者らは、特定の範囲にある異なる還元粘度を有するポリイミド同士を混合することにより、耐熱性、透明性、機械特性及びレベリング性に極めて優れたポリイミド膜を与える、ハンドリング性の良好なポリイミド粉体が得られることを見出し、本発明を完成させた。
本発明によれば、以下に示すポリイミド粉体又はポリイミドワニス、及びそれらの製造方法が提供される。
[1] 還元粘度ηaが0.35dL/g≦ηa≦0.90dL/gの範囲である、芳香族ジアミン化合物に由来する構造単位とテトラカルボン酸二無水物に由来する構造単位とを有するポリイミドAと、
還元粘度ηbが0.20dL/g≦ηb≦0.75dL/gの範囲である、芳香族ジアミン化合物に由来する構造単位とテトラカルボン酸二無水物に由来する構造単位とを有するポリイミドBとを含む、有機溶媒に可溶なポリイミド粉体であって、
ηa/ηbの値が1.20以上であり、
ポリイミド各成分のブレンドについて測定した還元粘度ηmが、0.27dL/g≦ηm≦0.85dL/gの範囲である、ポリイミド粉体。
[2] ηa、ηb及びηmがそれぞれ以下の範囲にあることを特徴とする、[1]記載のポリイミド粉体。
0.35dL/g≦ηa≦0.75dL/g
0.20dL/g≦ηb≦0.55dL/g
0.30dL/g≦ηm≦0.60dL/g
[3]前記芳香族ジアミン化合物に、少なくとも1種類の、フルオロ基を有する芳香族ジアミン化合物が含まれることを特徴とする、[1]又は[2]記載のポリイミド粉体。
[4]前記テトラカルボン酸二無水物に、少なくとも1種類の、フルオロ基を有する芳香族テトラカルボン酸二無水物が含まれることを特徴とする、[1]~[3]のいずれか記載のポリイミド粉体。
[5]ポリイミドがポリアミド酸の重合及び化学イミド化反応を経て合成されていることを特徴とする、[1]~[4]のいずれか記載のポリイミド粉体。
[6]γ-ブチロラクトンに可溶であることを特徴とする、[1]~[5]のいずれか記載のポリイミド粉体。
[7]γ-ブチロラクトンに20質量%の濃度で溶解させたとき、E型粘度計で30℃の温度で測定した粘度が500~3,000mPa・sの範囲となることを特徴とする、[6]記載のポリイミド粉体。
[8]厚さ25μmのポリイミドフィルムとしたときに、全光線透過率が85%以上、黄色度3以下のポリイミドフィルムを与えることを特徴とする、[1]~[7]のいずれか記載のポリイミド粉体。
[9]有機溶媒中に前記[1]~[8]のいずれか記載のポリイミド粉体が溶解していることを特徴とする、ポリイミドワニス。
[10](工程1A)芳香族ジアミン化合物及びテトラカルボン酸二無水物から、還元粘度ηaが0.35dL/g≦ηa≦0.90dL/gの範囲であるポリイミドAを合成し、ポリイミドAを含む溶液を得る工程
(工程2A)ポリイミドAを含む溶液に対し、ポリイミドの貧溶媒を用いて粉体化する工程
(工程3A)ポリイミドAの粉体に有機溶媒を加えてポリイミドワニスAを得る工程
(工程1B)芳香族ジアミン化合物及びテトラカルボン酸二無水物から、還元粘度ηbが0.20dL/g≦ηb≦0.75dL/gの範囲であるポリイミドBを合成し、ポリイミドBを含む溶液を得る工程
(工程2B)ポリイミドBを含む溶液に対し、ポリイミドの貧溶媒を用いて粉体化する工程
(工程3B)ポリイミドBの粉体に有機溶媒を加えてポリイミドワニスBを得る工程
(工程4)ポリイミドワニスAとポリイミドワニスBを混合する工程
を含む、ポリイミドワニスの製造方法。
[11](工程4)に代えて、(工程1A)及び(工程1B)の後に、ポリイミドAを含む溶液及びポリイミドBを含む溶液を混合する工程を含み、(工程2A)(工程3A)(工程2B)(工程3B)を、ポリイミドA及びBの混合物に対して行う、[10]記載の製造方法。
[12](工程4)に代えて、(工程2A)及び(工程2B)の後に、ポリイミドAの粉体及びポリイミドBの粉体を混合する工程を含み、(工程3A)及び(工程3B)を、ポリイミドA及びBの粉体の混合物に対して行う、[10]記載の製造方法。
本発明により、優れた耐熱性、透明性及び機械特性を有し、レベリング性にも優れたポリイミド膜を与える、ポリイミド粉体を提供することができる。
本発明のポリイミド粉体は、還元粘度ηaが0.35dL/g≦ηa≦0.90dL/gの範囲である、芳香族ジアミン化合物に由来する構造単位とテトラカルボン酸二無水物に由来する構造単位とを有するポリイミドAと、
還元粘度ηbが0.20dL/g≦ηb≦0.75dL/gの範囲である、芳香族ジアミン化合物に由来する構造単位とテトラカルボン酸二無水物に由来する構造単位とを有するポリイミドBとを含む、有機溶媒に可溶なポリイミド粉体であって、
ηa/ηbの値が1.20以上であり、
ポリイミド各成分のブレンドについて測定した還元粘度ηmが、0.27dL/g≦ηm≦0.85dL/gの範囲である、ポリイミド粉体である。
「還元粘度」とは、溶液の粘度が元の溶媒の粘度と比べてどのくらい増加したかの割合で表される値であり、ウベローデ粘度計のような毛細管粘度計を用いた公知の手段により測定可能である。
1.原料
1.1.芳香族ジアミン化合物
本発明のポリイミド粉体の製造には芳香族ジアミン化合物とテトラカルボン酸二無水物が原料として使用される。使用される芳香族ジアミン化合物としては、合わせて用いられるテトラカルボン酸二無水物との反応により、溶媒(例えば、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAC)やγ-ブチロラクトン)に可溶なポリイミドを与える芳香族ジアミン化合物であれば、任意の芳香族ジアミン化合物を使用することができる。具体的には、m-フェニレンジアミン、p-フェニレンジアミン、3,4’-ジアミノジフェニルエ-テル、4,4’-ジアミノジフェニルエ-テル、3,3’-ジアミノジフェニルスルフィド、3,4’-ジアミノジフェニルスルフィド、4,4’-ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’-ジアミノジフェニルスルホン、3,4’-ジアミノジフェニルスルホン、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、3,3’-ジアミノベンゾフェノン、3,3’-ジアミノジフェニルメタン、3,4’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、2,2-ビス(4-アミノフェニル)プロパン、2,2-ビス(3-アミノフェニル)プロパン、2-(3-アミノフェニル)-2-(4-アミノフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-アミノフェニル)-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス(3-アミノフェニル)-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、2-(3-アミノフェニル)-2-(4-アミノフェニル)-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル、3,3’-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル、3,4’-ビス(3-アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス〔4-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕スルフィド、ビス〔3-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕スルフィド、ビス〔4-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕スルフィド、ビス〔3-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕スルフィド、ビス〔3-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕スルフィド、ビス〔3-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕スルホン、ビス〔4-(4-アミノフェニル)スルホン、ビス〔3-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕スルホン、ビス〔4-(3-アミノフェニル)スルホン、ビス〔4-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕エ-テル、ビス〔4-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕エ-テル、ビス〔3-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕エ-テル、ビス〔4-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕メタン、ビス〔4-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕メタン、ビス〔3-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕メタン、ビス〔3-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕メタン、2,2-ビス〔4-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン、2,2-ビス〔4-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン、2,2-ビス〔3-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン、2,2-ビス〔4-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス〔4-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス〔3-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス〔3-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、1,3-ビス〔4-(4-アミノ-6-トリフルオロメチルフェノキシ)-α,α-ジメチルベンジル〕ベンゼン、1,3-ビス〔4-(4-アミノ-6-フルオロメチルフェノキシ)-α,α-ジメチルベンジル〕ベンゼン、2,2’-ジメチル-4,4’-ジアミノビフェニル、3,3’-ジメチル-4,4’-ジアミノビフェニル、3,3’-ビス(トリフルオロメチル)-4,4’-ジアミノビフェニル、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)-4,4’-ジアミノビフェニルなどの芳香族ジアミン化合物が挙げられる。これらの芳香族ジアミン化合物は単独で用いてもよく、2種類以上の芳香族ジアミン化合物を使用してもよいが、本発明において混合される少なくともひとつのポリイミドには、2,2-ビス(4-アミノフェニル)-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス(3-アミノフェニル)-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、2-(3-アミノフェニル)-2-(4-アミノフェニル)-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス〔4-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス〔4-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス〔3-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス〔3-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、1,3-ビス〔4-(4-アミノ-6-トリフルオロメチルフェノキシ)-α,α-ジメチルベンジル〕ベンゼン、1,3-ビス〔4-(4-アミノ-6-フルオロメチルフェノキシ)-α,α-ジメチルベンジル〕ベンゼン、3,3’-ビス(トリフルオロメチル)-4,4’-ジアミノビフェニル、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)-4,4’-ジアミノビフェニルなどのフルオロ基を有する芳香族ジアミン化合物を使用することが好ましい。このようなフルオロ基を有する芳香族ジアミン化合物を用いることで、ポリイミドの耐熱性、透明性、機械特性、溶媒への溶解性がより向上する。
1.2.テトラカルボン酸二無水物
本発明のポリイミド粉体の製造に使用されるテトラカルボン酸二無水物としては、上記芳香族ジアミン化合物と同様に、溶媒(例えば、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAC)やγ-ブチロラクトン)に可溶なポリイミドを与えるテトラカルボン酸二無水物であれば、任意のものを使用でき、具体的には、4,4’-(1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン-2,2-ジイル)ジフタル酸二無水物、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、1,4-ヒドロキノンジベンゾエ-ト-3, 3’,4,4’-テトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ジフェニルエーテルテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,4,5-シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物、ジシクロヘキシル-3,4,3’,4’-テトラカルボン酸二無水物などが例示される。これらのテトラカルボン酸二無水物は単独で用いてもよく、二種類以上のテトラカルボン酸二無水物を使用してもよい。そして、透明性、耐熱性、機械特性及び溶剤への可溶性をより高める観点から、混合されるポリイミドの少なくともひとつには4,4’-(1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン-2,2-ジイル)ジフタル酸二無水物など、フルオロ基を有するテトラカルボン酸二無水物を使用することが好ましい。
2.ポリイミドの合成方法
本発明において混合に使用されるポリイミドは、芳香族ジアミン化合物及びテトラカルボン酸二無水物を原料として、ポリアミド酸への重合及びイミド化反応の工程により合成される。
2.1.ポリアミド酸への重合
ポリアミド酸への重合は、生成するポリアミド酸が可溶な溶剤への溶解下で、上記芳香族ジアミン化合物及びテトラカルボン酸二無水物を反応させることにより行うことができる。ポリアミド酸への重合に用いる溶剤としては、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチル-2-ピロリドン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、ジメチルスルホキシド、γ-ブチロラクトン等の溶剤を好適に用いることができる。
ポリアミド酸への重合反応は、攪拌装置を備えた反応容器で攪拌しながら行うことが好ましい。例えば、上記溶剤に所定量の芳香族ジアミン化合物を溶解させて、攪拌しながらテトラカルボン酸二無水物を投入して反応を行いポリアミド酸を得る方法、テトラカルボン酸二無水物を溶剤に溶解させて、攪拌しながら芳香族ジアミン化合物を投入して反応を行いポリアミド酸を得る方法、芳香族ジアミン化合物とテトラカルボン酸二無水物を交互に投入して反応させてポリアミド酸を得る方法などが挙げられる。
ポリアミド酸への重合反応の温度については特に制約はないが、0~70℃の温度で行うことが好ましく、より好ましくは10~60℃であり、更に好ましくは20~50℃である。重合反応を上記範囲内で行うことで、着色が少なく透明性に優れたポリアミド酸を得ることが可能となる。
また、ポリアミド酸への重合に使用する芳香族ジアミン化合物とテトラカルボン酸二無水物の使用量(モル比率)は、得られるポリアミド酸の重合度をコントロールして所定の還元粘度のポリイミドを得るために、テトラカルボン酸二無水物のモル量/芳香族ジアミン化合物のモル量(モル比率)を0.8~1.2の範囲で変化させることも可能である。そして、還元粘度が0.35dL/g以上0.90dL/g以下もしくは還元粘度が0.20dL/g以上0.75dL/g以下のポリイミドを与えるポリアミド酸を重合するためには、テトラカルボン酸と芳香族ジアミン化合物のモル比率や溶媒中の水分量などを、うまくコントロールして製造することが重要である。テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミン化合物のモル比率(テトラカルボン酸のモル量/芳香族ジアミン化合物のモル量)が1.02~1.2の範囲であることが好ましく、1.03~1.15であることがより好ましい。このようにテトラカルボン酸二無水物を適切な範囲で過剰に用いることで、得られるポリアミド酸の重合度を所定の範囲に安定させることができるとともに、テトラカルボン酸二無水物由来のユニットをポリマーの末端に配置することができ、その結果、着色が少なく透明性に優れたポリイミドを与えることが可能となる。この場合、芳香族ジアミン化合物に対してテトラカルボン酸二無水物のモル比率が高いと得られるポリイミドの重合度が小さくなる傾向があり、モル比率が1に近いと得られるポリイミドの重合度が大きくなる傾向がある。
生成するポリアミド酸溶液の濃度は、溶液の粘度を適正に保ち、その後の工程での取り扱いが容易になるよう、適切な濃度(例えば、10~40重量%程度)に整えることが好ましい。
2.2.イミド化反応
次に得られたポリアミド酸溶液中のポリアミド酸をイミド化する。イミド化は、ポリアミド酸溶液を加熱して行う熱イミド化や、イミド化剤を用いて行う化学イミド化などにより行うことができる。そして、得られるポリイミドの還元粘度のコントロールのしやすさや、良好な耐熱性、機械特性及び透明性などのポリイミドの特性が得られるといった観点から、化学イミド化によるイミド化が好ましい。化学イミド化反応に用いられるイミド化剤としては、無水酢酸、無水プロピオン酸、無水コハク酸、無水フタル酸、無水安息香酸などのカルボン酸無水物を用いることができ、コストや反応後の除去のしやすさの観点から無水酢酸を使用することが好ましい。使用するイミド化剤の当量は化学イミド化反応を行うポリアミド酸のアミド結合の当量以上であり、アミド結合の当量の1.1~5倍であることが好ましく、1.5~4倍であることがより好ましい。このようにアミド結合に対して少し過剰のイミド化剤を使用することで、比較的低温でも効率的にイミド化反応を行うことができる。
また、化学イミド化反応には、イミド化促進剤として、ピリジン、ピコリン、キノリン、イソキノリン、トリメチルアミン、トリエチルアミン等の脂肪族、芳香族又は複素環式第三級アミン類を使用することができる。このようなアミン類を使用することで、低温で効率的にイミド化反応を行うことができ、その結果イミド化反応時の着色を抑えることが可能となり、より透明なポリイミドを得ることができる。
化学イミド化反応温度については特に制約はないが、10℃以上50℃未満で行うことが好ましく、15℃以上45℃未満で行うことがより好ましい。10℃以上50℃未満の温度で化学イミド化反応を行うことで、イミド化前のポリアミド酸の解裂が抑制され、還元粘度のコントロールが容易になるとともに、ポリイミドの着色が抑えられ、透明性に優れたポリイミドを得ることができる。
3.ポリイミド粉体の製造
3.1.粉体化
イミド化により得られたポリイミド溶液中のポリイミドの粉体化は、ポリイミド溶液中にポリイミドの貧溶媒を加えてポリイミドを析出させて粉体を形成させる方法、ポリイミドの貧溶媒中にポリイミド溶液を投入して析出させる方法など任意の方法で行うことが可能であるが、ポリイミド溶液中にポリイミドの貧溶媒を加えてポリイミドを析出させて粉体を形成させる方法が簡便であり好ましい。貧溶媒を加えてポリイミドの析出・粉体化を行う場合、貧溶媒としては、ポリイミドを析出することができる任意の貧溶媒が使用でき、ポリイミド溶液の溶媒とは混和性であることが望ましいので、具体的には、水、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール等を用いることができる。そして、貧溶媒としてメタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール等の低級アルコール系貧溶媒やそれらの混合溶媒を用いることで安定した形状のポリイミド粉体を収率良く得ることができ好ましい。
貧溶媒によるポリイミドの析出・粉体化を行う場合、使用する貧溶媒の量はポリイミドの析出粉体化を行うのに十分な量を投入する必要があり、ポリイミドの構造、ポリイミド溶液の溶媒、ポリイミドの溶液濃度等を考慮して決定するが、通常はポリイミド溶液重量の0.5倍以上、好ましくはポリイミド溶液重量の0.8倍以上、より好ましくはポリイミド溶液重量の1倍以上の重量の貧溶媒を使用する。ポリイミド溶液を重量の0.5倍以上の重量の貧溶媒を使用することで、安定した形状のポリイミド粉体を高収率で得ることができる。また、通常はポリイミド溶液重量の10倍以下、好ましくはポリイミド溶液重量の7倍以下、より好ましくはポリイミド溶液重量の5倍以下、更に好ましくはポリイミド溶液重量の4倍以下の重量の貧溶媒を使用する。
ポリイミドの粉体化を、上記のようにポリイミド溶液に貧溶媒を添加することで行う場合、ポリイミド溶液を攪拌しながら、貧溶媒を滴下する方法で行うことが好ましい。貧溶媒の拡散を容易にするため、ポリイミド溶液は予め10~40重量%程度の濃度に調整しておくことが望ましい。また、本発明により得られるポリイミド粉体の好ましい平均粒子径が0.02~0.8mmであるが、平均粒子径はポリイミド溶液への貧溶媒の添加速度によりコントロールすることができる。
本発明において、ポリイミドの粉体化の温度に特に制約はないが、貧溶媒の添加により析出・粉体化を行う場合は、貧溶媒の蒸発を抑え、析出を効率的に行うという観点から、50℃以下の温度で行うことが好ましく、40℃以下で行うことがより好ましい。
本発明では、後述の方法により還元粘度の異なる2以上のポリイミドの混合を行うが、ポリイミドの粉体化はそれらのポリイミドの混合を行う前に行ってもよく、ポリイミド溶液の状態で先に混合を行い、その後粉体化を行うことも可能である。
3.2.乾燥
次に得られたポリイミド粉体の乾燥を行い、溶媒、イミド化剤、イミド化促進剤、貧溶媒等を除去する。乾燥は、ポリイミド粉体を予め濾過装置により濾別し、更に必要に応じて洗浄することにより、上記ポリイミドの溶媒、イミド化剤、イミド化促進剤をあらかた取り除いた後に行うことが、乾燥を効率的に行う上で好ましい。
上記ポリイミド粉体の乾燥は、ポリイミド溶媒、イミド化剤、イミド化促進剤、貧溶媒等の残渣を除去することができれば任意の温度で行うことができるが、例えば上記貧溶媒にメタノール、エタノール、プロパノール等のヒドロキシ基を有する貧溶媒を用いた場合にいきなり100℃以上の温度で乾燥を行うと、ポリイミド中のカルボン酸基もしくはカルボン酸無水物基と上記貧溶媒が反応してエステル結合を生成してしまい、耐熱性の低下、着色更には分子量の低下といった問題を引き起こす可能性がある。従って乾燥工程は、100℃未満の温度と100~350℃の温度の2段階以上もしくは、100℃未満の温度から、100℃以上350℃以下の温度まで昇温させて行うことが好ましい。また、ポリイミド粉体の乾燥は、常圧で行ってもよく、減圧下で行っても差し支えない。
3.3.混合
本発明では還元粘度が異なる2以上のポリイミドを混合するが、その混合方法としては、予めそれぞれのポリイミドを上記方法により粉体化しておいて、粉体の状態のポリイミドを混合してもよく、それぞれのポリイミドを粉体化する前のポリイミド溶液の状態で混合してその後混合してもよい。更には粉体化前のポリイミド溶液に、別のポリイミド粉体を溶解させて混合することも可能である。
ポリイミド粉体の混合は、例えば回転型混合機を用いる方法、水平式攪拌型混合機を用いる方法、垂直式攪拌型混合機を用いる方法など、2以上のポリイミド粉体を均一に混合することが可能な任意の方法で行うことができる。またポリイミド溶液同士を混合させる場合や、ポリイミド溶液にポリイミド粉体を溶解させて混合する場合など、溶液状態で混合する場合においては、撹拌型混合装置、プラネタリーミキサー、混錬ロール等任意の混合装置を用いて混合することが可能である。
ポリイミド粉体同士をそのまま混合した場合は、得られたポリイミド粉体が本発明のポリイミド粉体となり、ポリイミド溶液の状態で混合した場合は、上記の粉体化並びに乾燥の工程を経て、本発明のポリイミド粉体とすることができる。
ポリイミドA及びポリイミドBは、混合後の還元粘度(ηm)が0.27dL/g以上0.85dL/g以下の範囲に収まる限り、任意の混合割合で使用することができる。ポリイミドAとポリイミドBとは、粉体の質量基準で5/95~95/5の割合で混合することができ、10/90~90/10の割合で混合されていることが好ましい。
4.ポリイミド粉体
本発明のポリイミド粉体は、還元粘度が異なる2以上の芳香族ジアミン化合物に由来する構造単位とテトラカルボン酸二無水物に由来する構造単位とを有するポリイミドであって、0.35dL/g以上0.90dL/g以下の還元粘度(ηa)を有するポリイミドAと、0.20dL/g以上0.75dL/g以下の還元粘度(ηb)を有するポリイミドBとを含み、最終的に粉体の形状である有機溶媒に可溶なポリイミド粉体である。混合されるポリイミドのうち、ポリイミドAの還元粘度(ηa)は0.35dL/g以上0.90dL/g以下であり、好ましくは0.35dL/g以上0.75dL/g以下である。また混合されるポリイミドのうち、ポリイミドBの還元粘度(ηb)は0.20dL/g以上0.75dL/g以下であり、好ましくは0.20dL/g以上0.55dL/g以下であって、ηa/ηb≧1.20の関係をもつ。ポリイミドAの還元粘度(ηa)を0.35~0.90dL/g、ポリイミドBの還元粘度(ηb)を0.20~0.75dL、それらの比率ηa/ηb≧1.20とし、混合して最終的に得られるポリイミド粉体の還元粘度(ηm)を0.27dL/g以上0.85dL/g以下、好ましくは0.30dL/g以上0.60dL/g以下とすることで、ハンドリングがよく、機械特性、透明性及びレベリング性に優れ、安定した還元粘度を有するポリイミド粉体を得ることができる。
本発明のポリイミド粉体は、上記ポリイミドA及びポリイミドBに加えて、その他のポリイミドを1種類以上含んでいてもよい。また、本発明の効果を損なう量でない限り、また混合して最終的に得られるポリイミド粉体の還元粘度(ηm)が0.27dL/g以上0.85dL/g以下の範囲に収まる限り、還元粘度ηが0.90dL/g以上又は0.20dL/g以下のポリイミドを含んでいてもよい。混合されるポリイミドの還元粘度については、ポリイミドAが各成分の中で最も還元粘度が大きく、ポリイミドBが各成分の中で最も還元粘度が小さくなるように選択されることが好ましい。
ポリイミドA又はポリイミドBの少なくとも一方が、少なくとも1種類のフルオロ基を有する芳香族ジアミン化合物もしくは少なくとも1種類のフルオロ基を有するテトラカルボン酸二無水物に由来する構造単位を有すると、ポリイミドの耐熱性、透明性、機械特性、溶媒への溶解性をより高める観点からは好ましい。
本発明のポリイミド粉体を、ポリイミドが可溶である有機溶媒に溶解することで、ポリイミドワニスを得ることができる。先に述べたように、ポリイミドA及びポリイミドBは任意の段階で混合することができる。よって、ポリイミドA及びポリイミドBの粉体を各々混合したのちワニスにしてもよいし、粉体化する前の段階の、ポリイミドAを含む溶液及びポリイミドBを含む溶液を混合したのち粉体化して、ワニスとしてもよいし、ポリイミドA及びポリイミドBの粉体を各々ワニスにしたのち混合してもよい。ワニスとする際に用いる有機溶媒は、ポリイミドA、ポリイミドB又はその混合物が有機溶媒に対し1~30重量%の濃度となるような量で用いることができる。
したがって、本発明のポリイミド粉体の製造方法及びポリイミドワニスの製造方法は、以下のような工程を含む方法としてまとめられる。
(工程1A)芳香族ジアミン化合物及びテトラカルボン酸二無水物から、還元粘度ηaが0.35dL/g≦ηa≦0.90dL/gの範囲であるポリイミドAを合成し、ポリイミドAを含む溶液を得る工程
(工程2A)ポリイミドAを含む溶液に対し、ポリイミドの貧溶媒を用いて粉体化する工程
(工程3A)ポリイミドAの粉体に有機溶媒を加えてポリイミドワニスAを得る工程
(工程1B)芳香族ジアミン化合物及びテトラカルボン酸二無水物から、還元粘度ηbが0.20dL/g≦ηb≦0.75dL/gの範囲であるポリイミドBを合成し、ポリイミドBを含む溶液を得る工程
(工程2B)ポリイミドBを含む溶液に対し、ポリイミドの貧溶媒を用いて粉体化する工程
(工程3B)ポリイミドBの粉体に有機溶媒を加えてポリイミドワニスBを得る工程
(工程4)ポリイミドワニスAとポリイミドワニスBを混合する工程
ここで、上記(工程4)は、ポリイミドワニスに対してだけでなく、粉体化する前の溶液同士、粉体同士、又は溶液-粉体-ワニスの3者の異なる2つの形態に対しても行うことができる。例えば、(工程4)に代えて、(工程1A)及び(工程1B)の後に、ポリイミドAを含む溶液及びポリイミドBを含む溶液を混合する工程を置き、(工程2A)(工程3A)(工程2B)(工程3B)を、ポリイミドA及びBの混合物に対して行うことができ、又は、(工程4)に代えて、(工程2A)及び(工程2B)の後に、ポリイミドAの粉体及びポリイミドBの粉体を混合する工程を置き、(工程3A)及び(工程3B)を、ポリイミドA及びBの粉体の混合物に対して行うこともできる。
5.ポリイミド特性(その1 粉体特性)
本発明の混合後のポリイミド粉体の還元粘度(ηm)は0.27dL/g以上0.85dL/g以下、好ましくは0.30dL/g以上0.60dL/g以下である。還元粘度ηmが0.27dL/g未満の場合、最終的に得られるポリイミド膜の機械特性が損なわれるとともに、ポリイミドへの吸湿が大きくなる虞があり、還元粘度ηmが0.85dL/gを超えると、所定の濃度とした際のポリイミド溶液の粘度が高くなりすぎてハンドリングを行い難くなるとともに、段差のある基体に塗膜した場合に充填性が悪くなるという問題があり、それを解決するために濃度を低くした場合、得られるポリイミド膜の厚さが小さくなり、段差のある基体に塗膜した場合のレベリング性が悪くなるという問題が生じる。
また、本発明において、高い還元粘度のポリイミドAと低い還元粘度のポリイミドBを混合することにより、従来のポリイミド合成において課題であった製造毎のポリイミドの還元粘度のコントロールが容易になるとともに、得られるポリイミドフィルムの機械特性が、混合を行わないポリイミド粉体から得られるポリイミドフィルムの機械特性よりも優れた傾向を示すという利点を有する。
また、ポリイミド粉体の平均粒子径は0.02~0.8mmであることが好ましく、0.03~0.6mmであることがより好ましい。平均粒子径が0.02~0.8mmの範囲にあれば、ポリイミド粉体中の溶媒、貧溶媒、イミド化剤などの残存揮発成分が効率的に除去され、着色が極めて少なく透明性に優れたポリイミドが得やすくなる。
本発明のポリイミド粉体の平均粒子径はレーザ回折/散乱式粒子径分布測定装置により測定することができる。
本発明のポリイミド粉体は溶媒ヘの溶解性に優れており、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン、γ-ブチロラクトン、アセトン、2-ブタノン、酢酸エチル等の溶媒に可溶なポリイミド粉体とすることができる。また、0.25dL/g以上0.90dL/g以下と比較的低分子量の領域で安定した還元粘度のポリイミド粉体であるため、例えばγ-ブチロラクトンに溶解させた場合に、濃度20%と比較的高濃度であっても、500~3,000mPa・sと低粘度のワニスとすることができ、その結果厚いポリイミド膜を得やすくなるとともに、段差のある基体に塗膜した場合のレベリング性が向上する。
6.ポリイミド特性(その2 膜特性)
本発明のポリイミド粉体中ポリイミドの透明性については、ポリイミド粉体をN,N-ジメチルアセトアミド(DMAC)やγ-ブチロラクトン(GBL)に溶解させてポリイミドワニスとした後、例えば乾燥後25μm厚みになるように石英ガラス等の透明な基体に塗布して得られたポリイミド膜を用いて、分光色彩計により測定される全光線透過率及び黄色度により求めることができる。そして、本発明のポリイミド粉体より得られるポリイミド膜の全光線透過率は好ましくは85%以上であり、より好ましくは90%以上である。また黄色度については、好ましくは-3~3であり、より好ましくは-2~2、更に好ましくは-1.5~1.5である。全光線透過率が上記の下限未満の場合や、黄色度が上記範囲外の場合は、ディスプレイや感光性レジスト等の用途に用いることができる透明性に優れた膜を与えることが困難となることがある。また、本発明のポリイミド粉体を構成するポリイミドのイミド化率は、90%以上であることが好ましく、95%以上であることがより好ましい。イミド化率は上記方法により得られるポリイミド膜のフーリエ変換赤外分光法(FT-IR法)により求めることができる。
また、ポリイミド膜のレベリング性や機械的強度(耐折り曲げ性)については、例えば回路上に塗膜乾燥した後の凹凸や、折り曲げた際のクラックの有無により評価することが可能である。
以下、実施例により、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
(ポリイミドの還元粘度の測定方法)
0.5g/dLの濃度となるようにN,N-ジメチルアセトアミド(DMAC)にポリイミド粉体を溶解したポリイミド溶液を作成した。ウベローデ粘度計を用いて、30℃の温度でポリイミド溶液の流出時間(T)と溶媒のDMACのみでの流出時間(T0)を測定し、下記の式から還元粘度を求めた。
還元粘度(dL/g)=(T-T0)/T0/0.5
(ポリイミド粉体の平均粒子径の測定方法)
レーザ回折/散乱式粒子径分布測定装置(株式会社堀場製作所製LA-950V2)を用い、分散媒としてエタノールを用いて測定した。
(ポリイミドの全光線透過率及び黄色度の測定方法)
(1)測定用ポリイミド膜サンプルの作成方法
ポリイミド粉体を下記実施例や比較例で指定された量となるようにγ-ブチロラクトンに溶解させた。つぎにアプリケータを用いて、平滑な厚み3mmの石英ガラス板上に乾燥後厚みが25μmとなるように製膜して、熱風オーブン内で、130℃で60分保持した後、130℃から260℃まで5℃/分で昇温し、更に260℃で10分間保持して乾燥して、石英ガラス上に膜形成されたまま測定用のポリイミド膜サンプルとした。
(2)全光線透過率の測定
分光色彩計(コニカミノルタ株式会社製、CM-5)を用いて、ASTM E 1164に基づき、光源C、視野2°の条件で、前記石英ガラス上に形成された厚み25μmのポリイミド膜の全光線透過率を求めた。
(3)黄色度(YI)の測定
分光色彩計(コニカミノルタ株式会社製、CM-5)を用いて、ASTM D 1925に基づき、光源C、視野2°の条件で360~740nmの波長範囲でスキャンして、前記石英ガラス上に形成された厚み25μmのポリイミド膜の黄色度(YI)を求めた。
(ポリイミド溶液粘度の測定方法)
下記実施例や比較例で作成されたポリイミド溶液(ポリイミドワニス)について、E型粘度計(東機産業株式会社製、TVE-25H)を用いて30℃で粘度を測定した。
(ポリイミドのレベリング性の評価)
厚みが25μmのポリイミドフィルム上に、導体となる厚み18μmの銅層が形成された回路基板用CCLを準備し、導体用銅を回路幅20μm、回路間隔20μmとなるように直線状に回路基板に回路を形成した。次に各実施例及び比較例で記載されたポリイミド粉体をGBLに溶解させて作成したポリイミドワニスを0.1g/cmの量となるように回路が形成された回路基板上に塗布し、130℃で30分、260℃で10分の乾燥を行った。その後、各実施例及び比較例で作成されたポリイミドが塗布された回路基板の断面を観察して、基材のポリイミドフィルム、導体回路、塗布して設けたポリイミド層からなる回路基板の導体部分の高さT1(μm)と、基材のポリイミドフィルムと塗布して設けたポリイミドからなる回路基板の導体のない部分の高さT2(μm)を測定し、その差(T1-T2)をレベリング性の指標として評価した。
(ポリイミドの耐折り曲げ性の評価)
前記のレベリング性評価用に作成した回路幅20μm、回路間隔20μmの回路上にポリイミド層が形成されたサンプルを用いて、回路に沿って180°に折り曲げた際のクラックの発生有無を調べた。
本実施例で使用する略号は以下のとおりである。
TFMB:2,2’-ビス(トリフルオロメチル)-4,4’-ジアミノビフェニル
BAPP-F:2,2-ビス〔4-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン
6FDA:4,4’-(1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン-2,2-ジイル)ジフタル酸二無水物
BPDA:3,4,3’,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物
DMAC:N,N-ジメチルアセトアミド
GBL:γ-ブチロラクトン
(合成例1)
攪拌装置と攪拌翼を備えたガラス製の2Lのセパラブルフラスコに、溶媒DMAC443g(100ppmの水分を含有する。以下、全ての実施例と比較例で使用するDMACも同様)とフルオロ基を有する芳香族ジアミン化合物であるTFMB64.047g(0.2000モル)を入れて攪拌し、TFMBをDMAC中に溶解させた。次いで、セパラブルフラスコ内を攪拌しながら、窒素気流下で、テトラカルボン酸二無水物である6FDA91.513g(0.2060モル)を10分程度かけて投入し、そのまま温度が20~40℃の温度範囲となるように調整しながら6時間攪拌を続けて重合反応を行い、粘稠なポリアミド酸溶液を得た。使用したテトラカルボン酸二無水物/芳香族ジアミン化合物のモル比率は1.03であり、ポリアミド酸溶液の濃度は26重量%であった。
得られたポリアミド酸溶液にイミド化促進剤としてピリジン(以下「Py」と表記することがある)15.82gを加えて、ポリアミド酸溶液を攪拌しながら30~40℃の温度範囲に保ち、そこにイミド化剤として、無水酢酸(以下「AN」と表記することがある)163.34g(1.60モル)を約10分間かけてゆっくりと滴下しながら投入し、その後更に液温を30~40℃に保って12時間攪拌を続けて化学イミド化反応を行って、ポリイミド溶液を得た。
次に、得られたイミド化剤及びイミド化促進剤を含むポリイミド溶液500gを、攪拌装置と攪拌翼を備えた3Lのセパラブルフラスコに移し変え、120rpmの速度で攪拌しながら15~25℃の温度に保ち、そこにメタノール750gを10g/分の速度で滴下させて、ポリイミドの析出を行った。
次にセパラブルフラスコの内容物を、吸引濾過装置により濾別し、更に500gのメタノールを用いて洗浄・濾別した。
その後、濾別したポリイミド粉体を局所排気装置のついた乾燥機を用いて、50℃で24時間乾燥させ、更に260℃で2時間乾燥させて、残りの揮発成分を除去して、ポリイミド粉体(i)を得た。ポリイミド粉体(i)について測定した還元粘度は0.74dL/gであった。
(合成例2)
合成例1において、使用するDMACの量を443gから445gに変更し、6FDAの量を91.513g(0.2060モル)から92.402g(0.2080モル)に変更した以外は実施例1と同様に行い、ポリイミド粉体(ii)を得た。使用したテトラカルボン酸二無水物/芳香族ジアミン化合物のモル比率は1.04であり、得られたポリイミド粉体(ii)の還元粘度は0.61dL/gであった。
(合成例3)
合成例1において、使用するDMACの量を443gから448gに変更し、6FDAの量を91.513g(0.2060モル)から93.290g(0.2100モル)に変更した以外は実施例1と同様に行い、ポリイミド粉体(iii)を得た。使用したテトラカルボン酸二無水物/芳香族ジアミン化合物のモル比率は1.05であり、得られたポリイミド粉体(iii)の還元粘度は0.51dL/gであった。
(合成例4)
合成例1において、使用するDMACの量を443gから461gに変更し、6FDAの量を91.513g(0.2060モル)から97.733g(0.2200モル)に変更した以外は実施例1と同様に行い、ポリイミド粉体(iv)を得た。使用したテトラカルボン酸二無水物/芳香族ジアミン化合物のモル比率は1.10であり、得られたポリイミド粉体(iv)の還元粘度は0.37dL/gであった。
(合成例5)
合成例1において、使用するDMACの量を443gから468gに変更し、6FDAの量を91.513g(0.2060モル)から100.398g(0.2260モル)とした以外は実施例1と同様に行い、ポリイミド粉体(v)を得た。使用したテトラカルボン酸二無水物/芳香族ジアミン化合物のモル比率は1.13であり、得られたポリイミド粉体(v)の還元粘度は0.26dL/gであった。
(合成例6)
合成例1において、使用するDMACの量を443gから439gに変更し、テトラカルボン酸二無水物として、6FDA91.513g(0.2060モル)の代わりに6FDAを83.961g(0.1890モル)及びBPDAを6.179g(0.0210モル)用いた以外は実施例1と同様に行い、ポリイミド粉体(vi)を得た。使用したテトラカルボン酸二無水物/芳香族ジアミン化合物のモル比率は1.05であり、得られたポリイミド粉体(vi)の還元粘度は0.50dL/gであった。
(合成例7)
合成例1において、使用するDMACの量を443gから470gに変更し、芳香族ジアミン化合物として、TFMB64.047g(0.2000モル)の代わりにTFMBを51.238g(0.1600モル)及びBAPP-Fを20.738g(0.0400モル)用いた以外実施例1と同様に行い、ポリイミド粉体(vii)を得た。使用したテトラカルボン酸二無水物/芳香族ジアミン化合物のモル比率は1.05であり、得られたポリイミド粉体(vii)の還元粘度は0.51dL/gであった。
(合成例8)
攪拌装置と攪拌翼を備えたガラス製の2Lのセパラブルフラスコに、DMAC460gとTFMB64.047g(0.2000モル)を入れて攪拌し、TFMBをDMAC中に溶解させた。次いで、セパラブルフラスコ内を攪拌しながら、窒素気流下で、(6FDA)89.292g(0.2010モル)を10分程度かけて投入し、そのまま温度が20~40℃の温度範囲となるように調整しながら6時間攪拌を続けて重合反応を行い、粘稠なポリアミド酸溶液を得た。使用したテトラカルボン酸二無水物/芳香族ジアミン化合物のモル比率は1.005であり、ポリアミド酸溶液の濃度は25重量%であった。
次に、得られたポリアミド酸溶液にDMAC409gを加えてポリアミド酸の濃度が15重量%になるように希釈した後、イミド化促進剤としてピリジン15.82gを加えて、ポリアミド酸溶液を攪拌しながら30~40℃の温度範囲に保ち、そこにイミド化剤として、無水酢酸163.34g(1.60モル)を約10分間かけてゆっくりと滴下しながら投入し、その後更に液温を30~40℃に保って12時間攪拌を続けて化学イミド化反応を行って、ポリイミド溶液を得た。
次に、得られたイミド化剤及びイミド化促進剤を含むポリイミド溶液1000gを、攪拌装置と攪拌翼を備えた5Lのセパラブルフラスコに移し変え、120rpmの速度で攪拌しながら15~25℃の温度に保ち、そこにメタノール1500gを10g/分の速度で滴下させて、ポリイミドの析出を行った。
次にセパラブルフラスコの内容物を、吸引濾過装置により濾別し、更に1000gのメタノールを用いて洗浄・濾別した。
その後、濾別したポリイミド粉体を局所排気装置のついた乾燥機を用いて、50℃で24時間乾燥させ、更に260℃で2時間乾燥させて、残りの揮発成分を除去して、ポリイミド粉体(viii)を得た。ポリイミド粉体(viii)について測定した還元粘度は1.83dL/gであった。
Figure 2023125650000001
(実施例1)
合成例1で得られた還元粘度0.74dL/gのポリイミド粉体(i)と、合成例4で得られた還元粘度0.37dL/gのポリイミド粉体(iv)とを、質量比でポリイミド粉体(i):ポリイミド粉体(iv)=10:90となるように回転型の混合装置を用いて十分に混合し、目的とするポリイミド粉体を得た。得られたポリイミド粉体の還元粘度は0.42dL/gであった。
次に得られた混合後のポリイミド粉体5gを20gのGBLに溶解させたところ、濃度20質量%の均一で粘度が820mPa・sのポリイミド溶液を得ることができた。このポリイミド溶液から前述の方法により石英ガラス上に塗膜して得られたポリイミド膜の全光線透過率は99%で、イエローインデックス(YI)は0.7であった。また、このポリイミド溶液を回路上に塗布して乾燥した後のポリイミド表面の凹凸差(T1-T2)は2μmと小さく、レベリング性が良好であることが確認された。さらに、折り曲げ試験によるポリイミド膜のクラックは見られなかった。
(実施例2)
合成例2で得られた還元粘度0.61dL/gのポリイミド粉体(ii)と、合成例4で得られた還元粘度0.37dL/gのポリイミド粉体(iv)とを、質量比でポリイミド粉体(ii):ポリイミド粉体(iv)=20:80となるように回転型の混合装置を用いて十分に混合し、目的とするポリイミド粉体を得た。得られたポリイミド粉体の還元粘度は0.43dL/gであった。
以下、実施例1と同様にしてポリイミドがGBLに20質量%の濃度で溶解したポリイミド溶液を作成したところ、均一なポリイミド溶液が得られ、粘度は880mPa・sであった。更に実施例1と同様にして石英ガラス上に作成した厚み25μmのポリイミド膜サンプルの全光線透過率は99%、黄色度は0.7であった。また、このポリイミド溶液を回路上に塗布して乾燥した後のポリイミド表面の凹凸差(T1-T2)は3μmと小さく、レベリング性が良好であることが確認された。さらに、折り曲げ試験によるポリイミド膜のクラックは見られなかった。
(実施例3)
合成例3で得られた還元粘度0.51dL/gのポリイミド粉体(iii)と、合成例5で得られた還元粘度0.26dL/gのポリイミド粉体(v)とを、質量比でポリイミド粉体(iii):ポリイミド粉体(v)=30:70となるように回転型の混合装置を用いて十分に混合し、目的とするポリイミド粉体を得た。得られたポリイミド粉体の還元粘度は0.32dL/gであった。
以下、実施例1と同様にしてポリイミドがGBLに20質量%の濃度で溶解したポリイミド溶液を作成したところ、均一なポリイミド溶液が得られ、粘度は500mPa・sであった。更に実施例1と同様にして石英ガラス上に作成した厚み25μmのポリイミド膜サンプルの全光線透過率は98%、黄色度は0.7であった。このポリイミド溶液を回路上に塗布して乾燥した後のポリイミド表面の凹凸差(T1-T2)は2μmと小さく、レベリング性が良好であることが確認された。さらに、折り曲げ試験によるポリイミド膜のクラックは見られなかった。
(実施例4)
合成例3で得られた還元粘度0.51dL/gのポリイミド粉体(iii)と、合成例5で得られた還元粘度0.37dL/gのポリイミド粉体(v)とを、質量比でポリイミド粉体(iii):ポリイミド粉体(v)=50:50となるように回転型の混合装置を用いて十分に混合し、目的とするポリイミド粉体を得た。得られたポリイミド粉体の還元粘度は0.44dL/gであった。
以下、実施例1と同様にしてポリイミドがGBLに20質量%の濃度で溶解したポリイミド溶液を作成したところ、均一なポリイミド溶液が得られ、粘度は1,050mPa・sであった。更に実施例1と同様にして石英ガラス上に作成した厚み25μmのポリイミド膜サンプルの全光線透過率は99%、黄色度は0.7であった。このポリイミド溶液を回路上に塗布して乾燥した後のポリイミド表面の凹凸差(T1-T2)は3μmと小さく、レベリング性が良好であることが確認された。さらに、折り曲げ試験によるポリイミド膜のクラックは見られなかった。
(実施例5)
合成例2で得られた還元粘度0.61dL/gのポリイミド粉体(ii)と、合成例4で得られた還元粘度0.37dL/gのポリイミド粉体(iv)、及び合成例3で得られた重要平均分子量0.51dL/gのポリイミド粉体(iii)とを、質量比でポリイミド粉体(ii):ポリイミド粉体(iv):ポリイミド粉体(iii)=20:70:10となるように回転型の混合装置を用いて十分に混合し、目的とするポリイミド粉体を得た。得られたポリイミド粉体の還元粘度は0.43dL/gであった。
以下、実施例1と同様にしてポリイミドがGBLに20質量%の濃度で溶解したポリイミド溶液を作成したところ、均一なポリイミド溶液が得られ、粘度は980mPa・sであった。更に実施例1と同様にして石英ガラス上に作成した厚み25μmのポリイミド膜サンプルの全光線透過率は99%、黄色度は0.7であった。このポリイミド溶液を回路上に塗布して乾燥した後のポリイミド表面の凹凸差(T1-T2)は2μmと小さく、レベリング性が良好であることが確認された。さらに、折り曲げ試験によるポリイミド膜のクラックは見られなかった。
(実施例6)
合成例6で得られた還元粘度0.50dL/gのポリイミド粉体(vi)と、合成例4で得られた還元粘度0.37dL/gのポリイミド粉体(iv)とを、質量比でポリイミド粉体(vi):ポリイミド粉体(iv)=50:50となるように回転型の混合装置を用いて十分に混合し、目的とするポリイミド粉体を得た。得られたポリイミド粉体の還元粘度は0.43dL/gであった。
以下、実施例1と同様にしてポリイミドがGBLに20質量%の濃度で溶解したポリイミド溶液を作成したところ、均一なポリイミド溶液が得られ、粘度は1,010mPa・sであった。更に実施例1と同様にして石英ガラス上に作成した厚み25μmのポリイミド膜サンプルの全光線透過率は99%、黄色度は0.7であった。このポリイミド溶液を回路上に塗布して乾燥した後のポリイミド表面の凹凸差(T1-T2)は2μmと小さく、レベリング性が良好であることが確認された。さらに、折り曲げ試験によるポリイミド膜のクラックは見られなかった。
(実施例7)
合成例7で得られた還元粘度0.51dL/gのポリイミド粉体(vii)と、合成例4で得られた還元粘度0.37dL/gのポリイミド粉体(iv)とを、質量比でポリイミド粉体(vii):ポリイミド粉体(iv)=50:50となるように回転型の混合装置を用いて十分に混合し、目的とするポリイミド粉体を得た。得られたポリイミド粉体の還元粘度は0.44dL/gであった。
以下、実施例1と同様にしてポリイミドがGBLに20質量%の濃度で溶解したポリイミド溶液を作成したところ、均一なポリイミド溶液が得られ、粘度は1,040mPa・sであった。更に実施例1と同様にして石英ガラス上に作成した厚み25μmのポリイミド膜サンプルの全光線透過率は99%、黄色度は0.7であった。このポリイミド溶液を回路上に塗布して乾燥した後のポリイミド表面の凹凸差(T1-T2)は3μmと小さく、レベリング性が良好であることが確認された。さらに、折り曲げ試験によるポリイミド膜のクラックは見られなかった。
(実施例8)
合成例1で得られた還元粘度0.74dL/gのポリイミド粉体(i)と、合成例3で得られた還元粘度0.51dL/gのポリイミド粉体(iii)とを、質量比でポリイミド粉体(i):ポリイミド粉体(iii)=10:90となるように回転型の混合装置を用いて十分に混合し、目的とするポリイミド粉体を得た。得られたポリイミド粉体の還元粘度は0.53dL/gであった。
以下、実施例1と同様にしてポリイミドがGBLに20質量%の濃度で溶解したポリイミド溶液を作成したところ、均一なポリイミド溶液が得られ粘度は2,140mPa・sであった。更に実施例1と同様にして石英ガラス上に作成した厚み25μmのポリイミド膜サンプルの全光線透過率は99%、黄色度は0.7であった。このポリイミド溶液を回路上に塗布して乾燥した後のポリイミド表面の凹凸差(T1-T2)は3μmと小さく、レベリング性が良好であることが確認された。さらに、折り曲げ試験によるポリイミド膜のクラックは見られなかった。
(実施例9)
合成例3で作成した粉体化前のポリイミド溶液と合成例4で作成した粉体化前のポリイミド溶液を採取し、溶解しているポリイミドの質量比が合成例3のポリイミド:合成例4のポリイミド=20:80、ポリイミド溶液の合計質量が500gとなるように、ポリイミド溶液同士を、撹拌翼を備えた3Lのセパラブルフラスコを用いて混合した。次にメタノール750mLを10mL/分の速度で滴下し、ポリイミドを析出させた。その後実施例1と同様に濾過、及び乾燥を行い、ポリイミド粉体とした。得られたポリイミド粉体の還元粘度は0.40dL/gであった。
以下、実施例1と同様にしてポリイミドがGBLに20質量%の濃度で溶解したポリイミド溶液を作成したところ、均一なポリイミド溶液が得られ、粘度は770mPa・sであった。更に実施例1と同様にして石英ガラス上に作成した厚み25μmのポリイミド膜サンプルの全光線透過率は99%、黄色度は0.7であった。このポリイミド溶液を回路上に塗布して乾燥した後のポリイミド表面の凹凸差(T1-T2)は2μmと小さく、レベリング性が良好であることが確認された。さらに、折り曲げ試験によるポリイミド膜のクラックは見られなかった。
(比較例1)
合成例8で作成した還元粘度1.83dL/gのポリイミド粉体(viii)のみを用いて、実施例1と同様にポリイミドがGBLに20質量%の濃度で溶解したポリイミド溶液の作成を試みたところ、830,000mPa・sと極めて粘度の高いポリイミド溶液となってしまいハンドリング性が悪く、かつこのポリイミド溶液を回路上に塗布・乾燥して断面を観察したところ、回路間の底辺部分に未充填の空隙のある箇所が確認されたため、更にGBLで希釈して、10質量%のポリイミド溶液とした。10質量%のポリイミド溶液の粘度は5,400mPa・sであった。作成した10質量%のポリイミド溶液を石英ガラス上にアプリケータを用いて塗膜して、実施例1と同様の乾燥条件で乾燥を行って作成した石英ガラス上の厚み25μmのポリイミド膜の全光線透過率は99%、黄色度は0.7と良好であった。しかし、このポリイミド溶液を回路上に塗布して乾燥した後のポリイミド表面の凹凸差(T1-T2)が12μmと大きく、レベリング性が良くないことが確認された。
(比較例2)
合成例5で作成した還元粘度0.26dL/gのポリイミド粉体(v)のみを用いて、実施例1と同様にしてポリイミドがGBLに20質量%の濃度で溶解したポリイミド溶液を作成したところ、粘度が400mPa・sの均一なポリイミド溶液を得ることができた。実施例1と同様にして石英ガラス上に作成した厚み25μmのポリイミド膜サンプルの全光線透過率は95%、黄色度は0.9と良好であったが、回路上に塗布して乾燥したサンプルを折り曲げたところ、形成したポリイミド膜にクラックが発生してしまい、耐折り曲げ性に劣ることが確認された。
Figure 2023125650000002
本発明に係るポリイミド粉体もしくはポリイミドワニスを用いれば、優れた耐熱性、透明性及び機械特性を有し、レベリング性にも優れたポリイミド膜、特にディスプレイ用途や電子材料用途に好適に用いられるポリイミド膜を製造することができ、産業上の価値は極めて高い。

Claims (12)

  1. 還元粘度ηaが0.35dL/g≦ηa≦0.90dL/gの範囲である、芳香族ジアミン化合物に由来する構造単位とテトラカルボン酸二無水物に由来する構造単位とを有するポリイミドAと、
    還元粘度ηbが0.20dL/g≦ηb≦0.75dL/gの範囲である、芳香族ジアミン化合物に由来する構造単位とテトラカルボン酸二無水物に由来する構造単位とを有するポリイミドBとを含む、有機溶媒に可溶なポリイミド粉体であって、
    ηa/ηbの値が1.20以上であり、
    ポリイミド各成分のブレンドについて測定した還元粘度ηmが、0.27dL/g≦ηm≦0.85dL/gの範囲である、ポリイミド粉体。
  2. ηa、ηb及びηmがそれぞれ以下の範囲にあることを特徴とする請求項1に記載のポリイミド粉体。
    0.35dL/g≦ηa≦0.75dL/g
    0.20dL/g≦ηb≦0.55dL/g
    0.30dL/g≦ηm≦0.60dL/g
  3. 前記芳香族ジアミン化合物に、少なくとも1種類の、フルオロ基を有する芳香族ジアミン化合物が含まれることを特徴とする、請求項1又は2に記載のポリイミド粉体。
  4. 前記テトラカルボン酸二無水物に、少なくとも1種類の、フルオロ基を有する芳香族テトラカルボン酸二無水物が含まれることを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載のポリイミド粉体。
  5. ポリイミドがポリアミド酸の重合及び化学イミド化反応を経て合成されていることを特徴とする、請求項1~4のいずれか一項に記載のポリイミド粉体。
  6. γ-ブチロラクトンに可溶であることを特徴とする、請求項1~5のいずれか一項に記載のポリイミド粉体。
  7. γ-ブチロラクトンに20質量%の濃度で溶解させたとき、E型粘度計で30℃の温度で測定した粘度が500~3,000mPa・sの範囲となることを特徴とする、請求項6に記載のポリイミド粉体。
  8. 厚さ25μmのポリイミドフィルムとしたときに、全光線透過率が85%以上、黄色度3以下のポリイミドフィルムを与えることを特徴とする、請求項1~7のいずれか一項記載のポリイミド粉体。
  9. 有機溶媒中に請求項1~8のいずれか一項に記載のポリイミド粉体が溶解していることを特徴とする、ポリイミドワニス。
  10. (工程1A)芳香族ジアミン化合物及びテトラカルボン酸二無水物から、還元粘度ηaが0.35dL/g≦ηa≦0.90dL/gの範囲であるポリイミドAを合成し、ポリイミドAを含む溶液を得る工程
    (工程2A)ポリイミドAを含む溶液に対し、ポリイミドの貧溶媒を用いて粉体化する工程
    (工程3A)ポリイミドAの粉体に有機溶媒を加えてポリイミドワニスAを得る工程
    (工程1B)芳香族ジアミン化合物及びテトラカルボン酸二無水物から、還元粘度ηbが0.20dL/g≦ηb≦0.75dL/gの範囲であるポリイミドBを合成し、ポリイミドBを含む溶液を得る工程
    (工程2B)ポリイミドBを含む溶液に対し、ポリイミドの貧溶媒を用いて粉体化する工程
    (工程3B)ポリイミドBの粉体に有機溶媒を加えてポリイミドワニスBを得る工程
    (工程4)ポリイミドワニスAとポリイミドワニスBを混合する工程
    を含む、ポリイミドワニスの製造方法。
  11. (工程4)に代えて、(工程1A)及び(工程1B)の後に、ポリイミドAを含む溶液及びポリイミドBを含む溶液を混合する工程を含み、(工程2A)(工程3A)(工程2B)(工程3B)を、ポリイミドA及びBの混合物に対して行う、請求項10記載の製造方法。
  12. (工程4)に代えて、(工程2A)及び(工程2B)の後に、ポリイミドAの粉体及びポリイミドBの粉体を混合する工程を含み、(工程3A)及び(工程3B)を、ポリイミドA及びBの粉体の混合物に対して行う、請求項10記載の製造方法。
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