JP2023114992A - ベーカリー用油脂組成物、ベーカリー生地、ベーカリー製品、並びに、ベーカリー製品のボリューム、食感の改良方法 - Google Patents

ベーカリー用油脂組成物、ベーカリー生地、ベーカリー製品、並びに、ベーカリー製品のボリューム、食感の改良方法 Download PDF

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Abstract

【課題】ボリュームが大きく、食感の良好なベーカリー製品、すなわち、ボリュームが大きく、しっとりとして軟らかく、歯切れの良いベーカリー製品やボリュームが大きく、良好なクリスピー感を呈し、歯切れの良いベーカリー製品の提供、そのようなベーカリー製品の提供を可能とするベーカリー生地、及び当該ベーカリー生地に配合するベーカリー用油脂組成物の提供、並びに、ベーカリー製品のボリュームや、食感の改良方法の提供。【解決手段】(A)マルトース生成アミラーゼ、(B)ヘミセルラーゼ、(C)グルコースオキシダーゼ、(D)アルギン酸エステル、及び(E)油脂を含むベーカリー用油脂組成物であって、10℃におけるSFC(固体脂含量)が25%以上、57%未満であり、20℃におけるSFCが12%以上、41%以下であり、比重が0.4以上、0.9以下である、ベーカリー用油脂組成物。【選択図】なし

Description

本発明は、ベーカリー用油脂組成物、ベーカリー生地、ベーカリー製品、並びに、ベーカリー製品のボリューム、食感の改良方法に関する。
市場ではしっとりとして軟らかいパンが人気である。しっとりして軟らかいパンを製造するために、従来、パン生地に加える水分を多くして、いわゆる多加水パンとする手法や、酵素系油脂と呼ばれる製パン用酵素(特にαアミラーゼ)を含有するマーガリン・ショートニングを使用する手法がとられてきた。
これらの手法によれば確かにしっとりして軟らかいパンを得ることが可能であるが、生地のべたつきによる作業性の低下や得られるパンの歯切れの悪化による食感の低下、得られるパンのボリュームが出ないことによる外観の低下が生じていた。
これを解決する手段のひとつとして、ジアセチル酒石酸モノグリセリド(DATEM)の生地への添加が挙げられる(例えば、特許文献1)。また、DATEMを用いることなく、上記課題が改善されたパンを製造する手法として、マルトース生成アミラーゼ(G2アミラーゼともいう)やヘミセルラーゼを併用した油脂組成物が多く検討されている(例えば、特許文献2)。
また、市場では、クロワッサンやデニッシュのように、いわゆる層状ベーカリー食品と呼ばれる、サクサクと良好なクリスピー感を呈し歯切れのよいパンも人気がある。層状ベーカリー食品は、折込油脂を折り込んだドウ生地(すなわち層状ベーカリー生地)を焼成することで製造されるが、ドウ生地に練りこまれる油脂組成物によっても、その食感が変化することが知られており、多く検討されている(例えば、特許文献3)。
特開2021-029118号公報 特開2021-036865号公報 特開2021-061759号公報
DATEMの添加は上記問題を解決し得るが、DATEM由来の強い酸味がパンの異味となる問題があり、使用を避けることが望ましい。しかし、DATEMを用いる代りに、マルトース生成アミラーゼ及びヘミセルラーゼを併用するだけでは、得られる油脂組成物を用いて得られるパンは、DATEM由来の異味はないが、ボリュームや、歯切れの良さ、しとり感、及び軟らかさ(ソフト性)といった食感を兼ね備えることが難しいという問題があった。
また、従前知られた、層状ベーカリー生地の製造に用いるドウ生地に練り込まれる油脂組成物は、層状ベーカリー食品を製造する際にのみ用いられるものであり、汎用性が乏しかった。
本発明の課題は、ボリュームが大きく、食感の良好なベーカリー製品、すなわち、ボリュームが大きく、しっとりとして軟らかく、歯切れの良いベーカリー製品やボリュームが大きく、良好なクリスピー感を呈し、歯切れの良いベーカリー製品の提供、そのようなベーカリー製品の提供を可能とするベーカリー生地、及び当該ベーカリー生地に配合するベーカリー用油脂組成物の提供、並びに、ベーカリー製品のボリュームや、食感の改良方法の提供である。
本発明者らの検討により、意外にも、マルトース生成アミラーゼ及びヘミセルラーゼに加え、特定の成分を配合し、特定範囲のSFC(固体脂含量)及び比重を有する油脂組成物を用いることで、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成した。
本発明は、具体的には以下のとおりである。
[1]
(A)マルトース生成アミラーゼ、(B)ヘミセルラーゼ、(C)グルコースオキシダーゼ、(D)アルギン酸エステル、及び(E)油脂を含むベーカリー用油脂組成物であって、
10℃におけるSFC(固体脂含量)が25%以上、57%未満であり、20℃におけるSFCが12%以上、41%以下であり、
比重が0.4以上、0.9以下である、ベーカリー用油脂組成物。
[2]
30℃におけるSFCが5%以上、29%以下である、上記[1]に記載のベーカリー用油脂組成物。
[3]
前記(E)油脂の含有量は、前記ベーカリー用油脂組成物の60質量%以上、99.6質量%以下である、上記[1]又は[2]に記載のベーカリー用油脂組成物。
[4]
前記(A)マルトース生成アミラーゼの含有量は、前記ベーカリー用油脂組成物の0.015質量%以上、0.15質量%以下である、上記[1]~[3]のいずれか1項に記載のベーカリー用油脂組成物。
[5]
前記(B)ヘミセルラーゼの含有量は、前記ベーカリー用油脂組成物の0.02質量%以上、0.2質量%以下である、上記[1]~[4]のいずれか1項に記載のベーカリー用油脂組成物。
[6]
前記(C)グルコースオキシダーゼの含有量は、前記ベーカリー用油脂組成物の0.015質量%以上、0.15質量%以下である、上記[1]~[5]のいずれか1項に記載のベーカリー用油脂組成物。
[7]
前記(D)アルギン酸エステルの含有量は、前記ベーカリー用油脂組成物の0.07質量%以上、0.8質量%以下である、上記[1]~[6]のいずれか1項に記載のベーカリー用油脂組成物。
[8]
前記(D)アルギン酸エステルは、アルギン酸プロピレングリコールエステルである、上記[1]~[7]のいずれか1項に記載のベーカリー用油脂組成物。
[9]
上記[1]~[8]のいずれか1項に記載のベーカリー用油脂組成物を含むベーカリー生地。
[10]
上記[9]に記載のベーカリー生地の焼成品であるベーカリー製品。
[11]
上記[1]~[8]のいずれか1項に記載のベーカリー用油脂組成物が生地に練り込まれたベーカリー生地を焼成することを含む、ベーカリー製品のボリューム改良方法。
[12]
上記[1]~[8]のいずれか1項に記載のベーカリー用油脂組成物が生地に練り込まれたベーカリー生地を焼成することを含む、ベーカリー製品の食感改良方法。
本発明により、ボリュームが大きく、食感の良好なベーカリー製品、すなわち、ボリュームが大きく、しっとりとして軟らかく、歯切れの良いベーカリー製品やボリュームが大きく、良好なクリスピー感を呈し、歯切れの良いベーカリー製品の提供、そのようなベーカリー製品の提供を可能とするベーカリー生地、及び当該ベーカリー生地に配合するベーカリー用油脂組成物の提供、並びに、ベーカリー製品のボリュームや、食感の改良方法の提供を可能とする。
以下、本発明について詳述する。本発明は以下の記述によって限定されるものではなく、各構成要素は本発明の要旨を逸脱しない範囲において適宜変更可能である。
<ベーカリー用油脂組成物>
本発明のベーカリー用油脂組成物は、(A)マルトース生成アミラーゼ、(B)ヘミセルラーゼ、(C)グルコースオキシダーゼ、(D)アルギン酸エステル、及び(E)油脂を含み、
10℃におけるSFC(固体脂含量)が25%以上、57%未満であり、20℃におけるSFCが12%以上、41%以下であり、
比重が0.4以上、0.9以下であることを特徴とする。
((A)マルトース生成アミラーゼ)
アミラーゼは、デンプンやグリコーゲン等が有するグリコシド結合を加水分解する酵素の総称であり、一般にアミラーゼはその作用部位の違いによって、α-1,4グルコシド結合をランダムに切断するα-アミラーゼ、非還元性末端からマルトース単位で逐次分解するβ-アミラーゼ、同じくα-1,4グルコシド結合をグルコース単位で分解し、また、分岐点のα-1,6結合をも分解するグルコアミラーゼ等が挙げられる。
本発明のベーカリー用油脂組成物においては、アミラーゼの中でも、マルトース生成型アミラーゼであることが必要である。本発明のベーカリー用油脂組成物は、マルトース生成型アミラーゼを用いることで、なかでも、澱粉の老化に伴う歯切れ等の食感の悪化を抑制することができる。
上記マルトース生成型アミラーゼとしては、α-1,4グルコシド結合を切断してマルトースを生成する酵素であれば特に限定されるものではなく、市販のマルトース生成型α-アミラーゼやβ-アミラーゼ等から選ばれた1種又は2種以上を選択することができるが、好ましくはマルトース生成型α-アミラーゼを使用する。
マルトース生成型α-アミラーゼ製剤としては、例えば、三菱化学フーズ社の「コクラーゼ(登録商標)」;Novozymes A/S(デンマーク)社の「Novamyl(登録商標;ノバミル)10000BG」、「Novamyl(登録商標)L」、「マルトゲナーゼ(登録商標)」;ダニスコジャパン社の「グリンドアミル(登録商標)MAX-LIFE100」等が挙げられる。
β-アミラーゼ製剤としては、例えば、ジェネンコア協和社の「オプチマルトBBA」;ナガセケムテックス社の「β-アミラーゼ#1500」、「β-アミラーゼL」、「β-アミラーゼ#1500S」;エイチビィアイ社の「ハイマルトシン(登録商標)G」、「ハイマルトシン(登録商標)GL」;ヤクルト薬品工業社の「ユニアーゼ(登録商標)L」;合同清酒社の「GODO-GBA」等が挙げられる。
本発明においては、上記マルトース生成型アミラーゼの中でも、酵素の至適温度が60℃以上である高温耐熱性マルトース生成型アミラーゼが好ましい。高温耐熱性マルトース生成型アミラーゼの至適温度は、好ましくは65~95℃、より好ましくは70~90℃である。
マルトース生成型アミラーゼの酵素活性は、例えば至適条件(至適温度、至適pH)下において、マルトトリオースを基質に酵素を作用させ、1分間に1マイクロモルのマルトースを生成する酵素量を指標とすることができる。本発明においてマルトース生成型アミラーゼの酵素活性は、該酵素量を1単位とする。マルトースの測定は、「還元糖の定量法第2版」(福井作蔵著、学会出版センター)を参照して行うことができる。
本発明においてマルトース生成アミラーゼの酵素活性をいうときは、特に記載した場合を除き、市販の酵素剤ノバミル10000BG(Novozymes A/S、デンマーク)1g、若しくは市販の酵素剤ノバミル3D BG(Novozymes A/S、デンマーク)1gを10000単位と定義する。
本発明のベーカリー用油脂組成物100gあたりのマルトース生成型アミラーゼの含有量は、好ましくは150単位以上、より好ましくは250単位以上、更に好ましくは300単位以上、更により好ましくは400単位以上であり、好ましくは1500単位以下、より好ましくは1000単位以下、更に好ましくは800単位以下、更により好ましくは700単位以下である。
また、本発明のベーカリー用油脂組成物中のマルトース生成アミラーゼの含有量は、好ましくは0.015質量%以上、より好ましくは0.025質量%以上、更に好ましくは0.03質量%以上、更により好ましくは0.04質量%以上であり、好ましくは0.15質量%以下、より好ましくは0.1質量%以下、更に好ましくは0.08質量%以下、更により好ましくは0.07質量%以下である。
マルトース生成型アミラーゼの含有量が上記範囲内であると本発明の効果が十分に得られやすく、特に、上記下限値以上であるとベーカリー製品の歯切れ、ボリュームの向上に優れる傾向があり、上記上限値以下であるとベーカリー製品のソフト性、しとり感、クリスピー感の向上に優れる傾向がある。
((B)ヘミセルラーゼ)
ヘミセルラーゼとはヘミセルロースを基質として加水分解する酵素の総称である。
本発明のベーカリー用油脂組成物は、ヘミセルラーゼを用いることで、歯切れやボリュームが向上したベーカリー製品を生地物性の悪化を抑制しつつ得ることができる。
へミセルロースとは、陸上植物細胞の細胞壁を構成する多糖類のうち、セルロースとペクチン以外のものであり、水溶性のものと不溶性のものがあるが、具体的には例えばキシラン、アラビノキシラン、アラビナン、マンナン、ガラクタン、キシログルカン、グルコマンナン等が挙げられる。
そのため、ヘミセルラーゼは具体的には、キシランを分解するキシラナーゼ、アラビノキシランを分解するアラビノキシラナーゼ等に分類することができるが、実態としてはこれらの活性を混合して有するものであることが多く、実際に市販されている酵素製品もこれらの活性を混合して有するものである場合が多い。
本発明のベーカリー用油脂組成物に用いることができるヘミセルラーゼを含む酵素剤が各種市販されており、例えば、DSMフードスペシャリティーズ社(又はディー・エス・エムジャパン(株))の「ベイクザイムBXP5001BG」、「ベイクザイムHS2000」、「ベイクザイムIConc」;天野製薬株式会社のヘミセルラーゼ「アマノ」;洛東化成工業社のエンチロンLQ;エイチビィアイ社の「ヘミセルラーゼM」;新日本化学工業社の「スミチーム(登録商標)X」等が挙げられる。
本発明では、上記ヘミセルラーゼの中でも、よりべたつきが少ないベーカリー生地が得られる点で、アラビノキシランを主基質とし、且つ、不溶性アラビノキシランへの基質親和性と水溶性アラビノキシランへの基質親和性との比(分解活性比:不溶性アラビノキシラン/水溶性アラビノキシラン)が10以上であるヘミセルラーゼを使用することが好ましい。
「アラビノキシランを主基質とする」とは、アラビノキシランを分解する活性が、好ましくは1000単位/g以上、より好ましくは2000単位/g以上、更に好ましくは3000単位/g以上であることを指すこととする。
尚、1単位とは、1分間につき1μmolのキシロース当量の還元糖を生じる酵素の量として定義されるものとする。
ヘミセルラーゼの酵素活性は、対象となる酵素を、至適条件(至適温度、至適pH)下で基質に作用させ、単位時間あたりに所定のモル数の分解物を生成する酵素量として定義することができる。本発明においてヘミセルラーゼの酵素活性をいうときは、特に記載した場合を除き、市販の酵素剤ベイクザイムBXP5001BG(DSMフードスペシャリティーズ株式会社)を5000単位/gと定義する。
また、不溶性アラビノキシランへの基質親和性と水溶性アラビノキシランへの基質親和性との比(分解活性比:不溶性アラビノキシラン/水溶性アラビノキシラン)は10以上であることが好ましいが、より好ましくは15以上、更に好ましくは20以上である。尚、その上限は好ましくは40以下、より好ましくは35以下、更に好ましくは30以下である。
上記分解活性比が10未満であると、例えば、食パン生地や菓子パン生地等の水分含量の高いベーカリー生地の場合に、生地のべたつきが強くなってしまうことがある。
不溶性アラビノキシランへの基質親和性と水溶性アラビノキシランへの基質親和性との比を算出する方法は、例えば下記(1)~(3)による方法が挙げられる。
(1)不溶性アラビノキシランに対する酵素活性の測定
不溶性アラビノキシラン製剤(XylazymeAX:メガザイム社製)の懸濁液(40mgの試料を8mlの脱イオン水に懸濁)300μlをマイクロプレートに分注し凍結乾燥したものを測定に用いる。このマイクロプレートの各ウェルに酵素液(ウシ血清アルブミン(0.5mg/ml)を含むpH4.6、0.1Mの酢酸ナトリウム緩衝液に、酵素を0~40単位懸濁したもの)25μlと該緩衝液25μlを分注して酵素反応を開始し、37℃で1時間酵素反応させた後、1%(w/v)トリス緩衝液200μlを添加して酵素反応を停止する。10分間室温でおいた後、遠心分離(3000g、15分)して得た上清について、分光光度計を用いて吸光度を600nmで読み取る。尚、酵素液の代わりに緩衝液を添加したものをブランクとして使用する。
(2)水溶性アラビノキシランに対する酵素活性の測定
水溶性アラビノキシラン溶液(AZOWAX:メガザイム社製)33μlと酵素液(ウシ血清アルブミン(0.5mg/ml)を含むpH4.6、0.1Mの酢酸ナトリウム緩衝液に、酵素を0~40単位懸濁したもの)33μlをマイクロプレートの各ウェルに分注して酵素反応を開始する。37℃で1時間酵素反応させた後、エタノール140μlを添加して酵素反応を停止する。10分間室温でおいた後、遠心分離(3000g、15分)して得た上清について、分光光度計を用いて吸光度を600nmで読み取る。尚、酵素液の代わりに緩衝液を添加したものをブランクとして使用する。
(3)不溶性アラビノキシランへの基質親和性と水溶性アラビノキシランへの基質親和性の比の算出
1つの酵素につき上記(1)と(2)の両方の酵素活性の測定を行い、それらの結果から以下のようにして、「不溶性アラビノキシランへの基質親和性と水溶性アラビノキシランへの基質親和性の比」を算出する。
それぞれの吸光度と酵素含量について非線形回帰曲線Y=Ymax×(1-e-K*X)(Yは吸光度、Xは酵素量)をプロットし、その直線性のある部分、好ましくはYの最大値の1/10以下の範囲で、その傾き(S)を下記の式により算出する。
傾き(S)=(Ymax×K)/1.0536
ここで、この傾きの比、すなわちS(不溶性アラビノキシラン)/S(水溶性アラビノキシラン)の値を「不溶性アラビノキシランへの基質親和性と水溶性アラビノキシランへの基質親和性の比」とする。
本発明のベーカリー用油脂組成物100gあたりのヘミセルラーゼの含有量は、アラビノキシランを基質とした場合の活性が、好ましくは100単位以上、より好ましくは150単位以上、更に好ましくは200単位以上、更により好ましくは250単位以上であり、好ましくは1000単位以下、より好ましくは600単位以下、更に好ましくは500単位以下、更により好ましくは400単位以下である。
また、ベーカリー用油脂組成物中のヘミセルラーゼの含有量は、好ましくは0.02質量%以上、より好ましくは0.03質量%以上、更に好ましくは0.04質量%以上、更により好ましくは0.05質量%以上であり、好ましくは0.2質量%以下、より好ましくは0.12質量%以下、更に好ましくは0.1質量%以下、更により好ましくは0.08質量%以下である。
ヘミセルラーゼの含有量が上記範囲内であると本発明の効果が十分に得られやすく、特に、上記下限値以上であるとベーカリー製品のしとり感の向上に優れる傾向があり、上記上限値以下であるとベーカリー製品のソフト性、しとり感、クリスピー感の向上に優れる傾向がある。
((C)グルコースオキシダーゼ)
グルコースオキシダーゼは、グルコース、水を基質としてグルコン酸と過酸化水素を生成する反応を触媒する酸化酵素である。この反応により生産された過酸化水素は、グルテン等のタンパク質中の-SH基を酸化することで-S-S-結合(ジスルフィド結合)生成を促進する。グルテン間に形成される架橋構造によりグルテン間の結合が強まり、適度に生地が締まることでベーカリー製品のボリュームを向上することができる。
グルコースオキシダーゼとしては、市販のいずれのグルコースオキシダーゼ製剤も使用することができ、例えば、DSMフードスペシャリティーズ社(又はディー・エス・エムジャパン(株))の「ベイクザイムGo Pure BG」、「ベイクザイムGO1500」、「マキサパールGO4」;ダニスコジャパン(株)の「グリンドアミルS757」、「グリンドアミルS700」;新日本化学工業(株)の「スミチームGOP」、ノボザイムジャパン(株)の「グルザイム10000BG」、「グルザイムBG」;天野エンザイム(株)の「ハイデラーゼ」、「ハイデラーゼ15」;ナガセ生化学工業(株)の「グルコースオキシダーゼAN1」等が例示できる。
グルコースオキシダーゼの酵素活性は、例えば、GOPU(Glucose Oxidase Penicillium Unit)で表示され、1 GOPUは、定められた測定条件下で、3mgのグルコースをグルコン酸に酸化するのに必要な酵素量である。具体的な酵素活性の測定は、グルコース及び酸素を基質として35℃、pH5.1の条件下に15分間インキュベートし、グルコースオキシダーゼによる反応、即ち、該酸素の存在下で過酸化水素を生成しグルコースをグルコン酸に変換する反応を過剰の水酸化ナトリウムによって終了させ、生成したグルコン酸を中和する。過剰に残った水酸化ナトリウムを滴定すると、グルコースオキシダーゼ活性に反比例しているので、反応終了後の水酸化ナトリウムの余剰分を塩酸で逆滴定する。必要な塩酸量は、酵素なしのブランク・インキュベーションの塩酸量と比較し、生成したグルコン酸の量(つまり酸化されたグルコースの量)を直接測定する。
本発明においてグルコースオキシダーゼの酵素活性をいうときは、特に記載した場合を除き、市販の「ベイクザイムGo Pure BG」(DSMフードスペシャリティーズ社)1gを3150単位と定義する。
本発明のベーカリー用油脂組成物100gあたりのグルコースオキシダーゼの含有量は、好ましくは45単位以上、より好ましくは78単位以上、更に好ましくは95単位以上、更により好ましくは125単位以上であり、好ましくは500単位以下、より好ましくは315単位以下、更に好ましくは250単位以下、更により好ましくは220単位以下である。
また、ベーカリー用油脂組成物中のグルコースオキシダーゼの含有量は、好ましくは0.015質量%以上、より好ましくは0.025質量%以上、更に好ましくは0.03質量%以上、更により好ましくは0.04質量%以上であり、好ましくは0.15質量%以下、より好ましくは0.1質量%以下、更に好ましくは0.08質量%以下、更により好ましくは0.07質量%以下である。
グルコースオキシダーゼの含有量が上記範囲内であると本発明の効果が十分に得られやすく、特に、上記下限値以上であるとベーカリー製品の歯切れ、しとり感の向上に優れる傾向があり、上記上限値以下であるとベーカリー製品のソフト性、しとり感、クリスピー感、ボリュームの向上に優れる傾向がある。
((D)アルギン酸エステル)
アルギン酸エステルは、アルギン酸を構成するカルボキシ基の少なくとも一部がエステル化されたものである。本発明のベーカリー用油脂組成物は、アルギン酸エステルを用いることで、なかでも、ベーカリー製品のボリュームを向上させることができる。
アルギン酸は、コンブやワカメに代表される褐藻類等に含まれる多糖類であり、β-D-マンヌロン酸と、α-L-グルロン酸とが1-4結合したヘテロポリマーであり、様々な分子量のものが知られている。
例えば、褐藻類の細胞間には、高分子のアルギン酸(分子量約100000~200000)が豊富に含まれているため、褐藻類を希硫酸で洗浄した後、炭酸ナトリウム溶液で抽出して、硫酸で沈殿させる方法を用いることによって、褐藻類からアルギン酸を高分子のアルギン酸として取得することができる。
また、上記高分子のアルギン酸は、例えば、高分子のアルギン酸に酵素を作用させる方法、酸化還元剤等と反応させる方法、熱分解する方法、又は加圧分解する方法等の公知の方法を用いることにより、容易に低分子のアルギン酸(分子量約40000以上100000未満)とすることができる。
本発明で使用するアルギン酸エステルは、上記アルギン酸を常法に従ってエステル化反応させたものであり、飲食品に使用可能なものであれば特に制限されず、分子量及びエステル化度等も特に制限されないが、本発明で使用するアルギン酸エステルの好ましいエステル化度は40%以上、より好ましくは70~95%である。
また、アルギン酸エステルの1%水溶液の20℃での粘度(B型粘度計使用)は、好ましくは10~1000mPa・s、より好ましくは50~300mPa・sである。
アルギン酸エステルとしては、市販品も使用することができ、例えば、株式会社フードケミファの「ダックロイドPF-H」、「ダックロイドPF」、「ダックロイドEF」、「ダックロイドLF-M」、「ダックロイドLF」、「ダックロイドSLF-3」(以上、アルギン酸プロピレングリコールエステル);キミカ社の「昆布酸501」、「キミロイドLV」(以上、アルギン酸プロピレングリコールエステル)等が例示できる。
アルギン酸エステルとしては、上記課題を効果的に改善でき、且つ広く一般に使用されている点から、アルギン酸の2価アルコールエステルが好ましく、例えばアルギン酸エチレングリコールエステル又はアルギン酸プロピレングリコールエステル等が挙げられ、中でも、アルギン酸プロピレングリコールエステルが更に好ましい。
本発明で用いるアルギン酸エステルとしては、平均分子量、分子量分布、エステル化度、構成糖比等は特に制限されない。
本発明のベーカリー用油脂組成物中のアルギン酸エステルの含有量は、好ましくは0.07質量%以上、より好ましくは0.1質量%以上、更に好ましくは0.15質量%以上、更により好ましくは0.2質量%以上であり、好ましくは0.8質量%以下、より好ましくは0.6質量%以下、更に好ましくは0.5質量%以下、更により好ましくは0.4質量%以下である。
アルギン酸エステルの含有量が上記範囲内であると本発明の効果が十分に得られやすく、特に、上記下限値以上であるとベーカリー製品のしとり感、歯切れの向上に優れる傾向があり、上記上限値以下であるとベーカリー製品のボリューム、ソフト性、クリスピー感の向上に優れる傾向がある。
((E)油脂)
本発明のベーカリー用油脂組成物には、食用に適する油脂であれば特に限定されず、種々のものを用いることができる。例えば、パーム油、パーム核油、ヤシ油、コーン油、綿実油、大豆油、菜種油、米油、ヒマワリ油、サフラワー油、シア脂、サル脂及びカカオ脂等の植物油脂、牛脂、乳脂、豚脂、魚油及び鯨油等の動物油脂、並びにこれらの油脂に、水素添加、分別及びエステル交換から選択される一又は二以上の処理を施した加工油脂が挙げられる。加工油脂の例としては、パーム油を例に挙げると、パームオレイン(パーム油を分別することにより得られる低融点画分)、パームスーパーオレイン(パーム油の低融点画分を更に分別することにより得られる低融点画分)、及びこれらのエステル交換油が挙げられる。本発明においては、これらの油脂を単独で用いることもでき、又は2種以上を組合せて油脂配合物として用いることもできる。
油脂としては、パーム油及び/又はパーム油の上記加工油脂を含むパーム系油脂が好ましく、なかでも、パーム油、パームオレインのランダムエステル交換油、パームスーパーオレインのランダムエステル交換油、パーム油とパーム極度硬化油との油脂混合物のランダムエステル交換油、パーム核油とパーム極度硬化油との油脂混合物のランダムエステル交換油、及びパームステアリンからなる群より選択される少なくとも2つを用いることがより好ましい。パーム系油脂に微量成分として含まれるジアシルグリセロールが乳化作用を有し得ることから、本発明のベーカリー用油脂組成物は、なかでもパーム系油脂を含む場合、例えば、後述のように更に乳化剤を含む必要がなく、乳化剤を含まないことが好ましい。
本発明のベーカリー用油脂組成物中の油脂の含有量(油脂配合物である場合は、油脂配合物としての含有量)は、好ましくは60質量%以上、より好ましくは65質量%以上、更に好ましくは70質量%以上、更により好ましくは75質量%以上、特に好ましくは80質量%以上であり、好ましくは99.6質量%以下、より好ましくは95質量%以下、更に好ましくは90質量%以下、更により好ましくは85質量%以下である。
なお、油脂組成物とは、油脂を含有する組成物の意である。本発明においては、マルトース生成アミラーゼ、ヘミセルラーゼ、グルコースオキシダーゼ等の酵素類は、油脂組成物中に含有された状態でベーカリー生地の製造に使用される。酵素類が油脂組成物として使用されることで、酵素類が生地に作用するタイミングを遅らせることができる。そのため、特に使用されるベーカリー生地の種類がパン生地である場合においては生地がべとついて作業性が低下することを抑制できる。また、酵素類が油脂組成物として使用されることで、ベーカリー生地に対する、酵素類の働きや作用するタイミングを遅らせると共に、ベーカリー生地中に均一に分散させることができるため、得られるベーカリー製品の食感が向上し得る。
(グリセリンモノ脂肪酸エステル)
本発明のベーカリー用油脂組成物は、更に、グリセリンモノ脂肪酸エステルを含有してもよい。グリセリンモノ脂肪酸エステルは歯切れの良さ、しとり感、ソフト性等の食感等に寄与することができる。
本発明において、グリセリンモノ脂肪酸エステルを構成する脂肪酸残基としては、例えば、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸、オレイン酸などの炭素数8~22の飽和又は不飽和の脂肪酸の残基を挙げることができ、グリセリンモノ脂肪酸エステルの構成脂肪酸残基の70質量%以上が飽和脂肪酸残基であるものが好ましい。
また、本発明において、グリセリンモノ脂肪酸エステルのHLBは8~10の範囲にあることが好ましい。
なお、グリセリンモノ脂肪酸エステルとしては1種のみを用いてもよく、これを構成する脂肪酸残基が異なるものを2種以上混合して用いてもよい。本発明の効果をより享受し得る観点から、1種のグリセリンモノ脂肪酸エステルのみを使用することが好ましい。
本発明のベーカリー用油脂組成物中のグリセリンモノ脂肪酸エステルの含有量は、好ましくは2質量%以上、より好ましくは3質量%以上、更に好ましくは3.5質量%以上であり、好ましくは6質量%以下、より好ましくは5質量%以下、更に好ましくは4.5質量%以下である。
なお、グリセリンモノ脂肪酸エステルを複数種使用する場合には、それらの含量の総和が上記範囲内であることが好ましい。
(SFC)
本発明のベーカリー用油脂組成物は、10℃におけるSFC(Solid Fat Content、固形脂肪含量ないし固形脂含量)が25%以上、57%未満であることが好ましく、下限値はより好ましくは30%以上、更に好ましくは35%以上、40%以上、更により好ましくは45%以上、特に好ましくは47.7%以上であり、上限値はより好ましくは56%以下、更に好ましくは55.5%以下、更により好ましくは55%以下、特に好ましくは54.1%以下である。また、20℃におけるSFCが12%以上、41%以下であることが好ましく、下限値はより好ましくは13%以上、更に好ましくは15%以上、20%以上、更により好ましくは23%以上、特に好ましくは23.1%以上であり、上限値はより好ましくは40%以下、更に好ましくは38%以下、更により好ましくは37%以下、特に好ましくは36.6%以下である。また更に、30℃におけるSFCが5%以上、29%以下であることが好ましく、下限値はより好ましくは8%以上、更に好ましくは10%以上、11%以上、更により好ましくは12%以上、特に好ましくは12.5%以上であり、上限値はより好ましくは28%以下、更に好ましくは27%以下、26%以下、更により好ましくは25%以下、特に好ましくは23.1%以下である。
本発明のベーカリー用油脂組成物のSFC、なかでも10℃と20℃におけるSFCの少なくとも何れか一方、好ましくはその両方が上記範囲内のように比較的高いことで、本発明の効果が十分に得られやすく、具体的には、所定の温度における油脂組成物の硬さが調整され、それにより酵素の生地への作用が調整されるため、生地のべたつきが抑制されて作業性が良く、かつ食感の向上が期待できる。
SFCの値は、所定温度における油脂中の固体脂の含有量を示すもので、油脂の熱膨張による比容の変化を利用して求める手法や、核磁気共鳴(NMR)を利用して求める手法等、常法により測定することが可能であるが、本発明においては、AOCS official methodのcd16b-93に記載のパルスNMR(ダイレクト法)にて、測定対象となる試料のSFCを測定した後、測定値を油相量に換算した値を使用する。すなわち、水相を含まない試料を測定した場合は、測定値がそのままSFCとなり、水相を含む試料を測定した場合は、測定値を油相量に換算した値がSFCとなる(以下、SFCの測定について同様である。)。
(比重)
本発明のベーカリー用油脂組成物は、比重が0.9以下であることが好ましい。本発明のベーカリー用油脂組成物の比重が上記範囲内のように比較的小さいことで、本発明の効果が十分に得られやすく、特に、当該油脂組成物の10℃と20℃におけるSFCの少なくとも何れか一方、好ましくはその両方が上述の範囲内のように比較的高い場合であっても、当該油脂組成物がベーカリー生地中に練り込まれやすく、生地の傷みやべたつきを抑制することができる。従来、そのようにSFCが比較的高い油脂組成物は、ベーカリー生地調製の際に生地中に練り込まれにくく、そのままではミキシング時間が長くなり、生地の傷みやべたつきに繋がる傾向にあった。
本発明のベーカリー用油脂組成物の比重は、より好ましくは0.88以下、更に好ましくは0.85以下、更により好ましくは0.8以下、特に好ましくは0.78以下である。本発明のベーカリー用油脂組成物の比重の下限は特に制限がないが、ベーカリー用生地を調製する際に必要となる当該油脂組成物の量や嵩が大きくなることと、本発明により得られる効果とのバランスを勘案すると、例えば、0.4以上、具体的には、0.45以上、0.5以上、0.55以上、0.6以上等であってもよい。
本発明において、上記比重は25℃における値である。
本発明のベーカリー用油脂組成物の比重は、種々の手法で測定することができ、該手法としては、例えば、比重瓶を用いた手法が挙げられる。
本発明のベーカリー用油脂組成物の比重を上記範囲とするためには、従前知られた手法を用いてよい。ベーカリー用油脂組成物の製造工程の任意の時点で、例えば、(i)空気や窒素、酸素等の食品に使用することのできるガスを、冷却可塑化中、あるいは冷却可塑化後の油脂組成物中に注入若しくは混和、あるいはその両方を行うことで、油脂組成物中にガスを分散させて比重を上記範囲内とする手法や、(ii)冷却可塑化した油脂組成物を泡立て器等でかき混ぜて空気を含気させ、比重を上記範囲内とする手法が挙げられる。
(その他の原料)
本発明のベーカリー用油脂組成物には、本発明の目的を損なわない限り、上述以外の原材料を含有させることができる。その他の原材料の例としては、水、糖類、澱粉類、デキストリン、食物繊維、食塩や塩化カリウム等の塩味剤、酢酸、乳酸、グルコン酸等の酸味料、脱脂粉乳・カゼイン・ホエーパウダー・脱脂濃縮乳、蛋白質濃縮ホエイ等の乳や乳製品、ステビア、アスパルテーム等の甘味料、β-カロチン、カラメル、紅麹色素等の着色料、トコフェロール、茶抽出物等の酸化防止剤、小麦蛋白や大豆蛋白等の植物蛋白、全卵・卵黄・酵素処理卵黄・卵白・卵蛋白質等の卵及び各種卵加工品、着香料、調味料、pH調整剤、食品保存料、日持ち向上剤、果実、果汁、コーヒー、ナッツペースト、香辛料、カカオマス、ココアパウダー、穀類、豆類、野菜類、肉類、魚介類等の食品素材や食品添加物が挙げられる。
その他原料は、本発明の目的を損なわない限り、本発明のベーカリー用油脂組成物に任意の量で含有させることができる。その他の原材料の含有量は、例えば、10質量%以下とすることができ、好ましくは5質量%以下である。
本発明のベーカリー用油脂組成物は、(D)アルギン酸エステルを含むことで本発明の効果が十分に得られることから、アルギン酸エステル以外の増粘多糖類を含む必要がなく、アルギン酸エステル以外の増粘多糖類を含まないことが好ましい。また、本発明のベーカリー用油脂組成物は、乳化物として調製する場合であっても、乳化物の調製に従来必要とされてきた乳化剤を含まなくても乳化物を得ることができるから、乳化剤を含む必要がなく、乳化剤を含まないことが好ましい。また、本発明のベーカリー用油脂組成物は、ジアセチル酒石酸モノグリセリド(DATEM)を含むとDATEM由来の強い酸味がベーカリー製品の異味となりやすいので、DATEM等の酒石酸モノグリセリドは含有しないことが好ましい。
(形態)
ベーカリー用油脂組成物は、水相を含まない油相のみからなるものであってもよいし、水相を含んだ乳化物であってもよい。ベーカリー用油脂組成物の形態としては、油脂を含有する食品、例えばマーガリン・ファットスプレッド・ショートニング・バター等の可塑性油脂組成物や、流動ショートニング、流動状マーガリン、液状油組成物、粉末油脂、純生クリーム、ホイップ用クリーム(コンパウンドクリーム)、植物性ホイップ用クリーム、クリームチーズ、チョコペースト等を挙げることができる。本発明では本発明品の効果が得られ易いことから、可塑性油脂組成物であることが好ましい。
ベーカリー用油脂組成物が可塑性油脂組成物である場合、ベーカリー生地の調製時の使用形態として、好ましくは練り込み油脂や折り込み油脂の形態が挙げられるが、練り込み油脂として、ベーカリー生地の調製時に用いることが、ベーカリー生地中に酵素等の油脂組成物の成分を均一に分散する観点から、特に好ましい。
なお、本発明のベーカリー用油脂組成物を層状ベーカリー食品の製造に用いる場合には、ドウ生地を製造する際の練込油脂として好適に用いることができる。
ベーカリー用油脂組成物が乳化物である場合、その乳化形態は特に問われず、油中水型、水中油型、及び二重乳化型のいずれでも構わないが、マーガリン、ファットスプレッド等の油中水型乳化物の形態であることが好ましい。
本発明のベーカリー用油脂組成物の好ましい形態の例として、ショートニング等の油相からなる可塑性油脂組成物、及び油中水型乳化物が挙げられるが、本発明のベーカリー用油脂組成物は、油相からなる可塑性油脂組成物の形態をとっても、油中水型乳化物の形態をとっても、同様の効果が得られる。
(作用・効果)
本発明のベーカリー用油脂組成物は、所定温度におけるSFCが上述の特定範囲内であるように比較的高融点の油脂と、グルコースオキシダーゼとを加えてベーカリー生地を締めつつ、アミラーゼ系の酵素の働きにより、歯切れの良さ、しとり感、ソフト性、クリスピー感等のベーカリー製品の食感の向上とボリュームとの両立を図るものであり、上述の特定範囲内のように比較的低比重とすることで、比較的高融点の油脂であってもベーカリー生地中への練り込みを容易にし、ベーカリー製品の食感とボリュームの悪化を抑制することができる。本発明のベーカリー用油脂組成物は、ベーカリー生地に配合することで、ベーカリー生地のべたつきによる作業性の低下も抑制することができ、また、DATEMを含有する必要がないからDATEM由来の強い酸味等のベーカリー製品の異味を回避できる。本発明のベーカリー用油脂組成物が奏する効果は、上述の(A)~(E)の成分を含有し、上述の特定範囲内のSFC及び比重を備えることで、相乗効果として初めて得られるものである。なお、本発明のベーカリー用油脂組成物は、ベーカリー製品の食感改良剤、ボリューム改良剤ということもできる。
<ベーカリー用油脂組成物の製造方法>
本発明のベーカリー用油脂組成物は、例えば、公知の方法で製造することができ、最終的に必要な酵素が油脂組成物中に含有され、上述の特定範囲内のSFC及び比重を備えることができるものであれば特に限定されず、例えば、必要な成分を含有する油相を溶解した後、冷却し、結晶化させることにより製造することができる。
ベーカリー用油脂組成物の製造方法においては、各酵素を順次、別個に油脂に添加することができるし、また、粉末状の酵素を事前に混合してから油脂に添加することもできる。また、各酵素が含有された水溶液を油脂に添加・混合することもできる。
本発明のベーカリー用油脂組成物が可塑性油脂組成物(例えば、ショートニング、マーガリン、ファットスプレッド等)の形態である場合、可塑性油脂組成物の製造の過程で、油脂中に上述の酵素を別個に、或いは前もって複数の酵素を混合したものを直接分散してから、急冷可塑化により可塑性油脂組成物を製造することができ、水相を含有する場合は水相に上述の酵素を別個に、或いは前もって複数の酵素を混合したものを分散させてから、油相と共に急冷可塑化することにより、可塑性油脂組成物を製造することができる。また、可塑性油脂組成物の製造の過程で、急冷可塑化後に上述の酵素、若しくは酵素が含有された水溶液を添加・混合する方法によることもできる。
本発明では、高い酵素活性を有し、かつ保存時の酵素活性の低下が防止される点で、急冷可塑化後に、酵素、若しくは酵素が含有された水溶液を添加・混合する方法であることが好ましい。
具体的な製造方法としては、本発明のベーカリー用油脂組成物がショートニング等の油相からなる可塑性油脂組成物の場合は、例えば、油脂に上述の(A)~(D)の成分を含有させ、更に必要に応じ油溶性の乳化剤やその他の材料を添加した油相を用意する。本発明のベーカリー用油脂組成物がマーガリン、ファットスプレッド等の油中水型乳化物の場合は、例えば、上記油相と、水に必要により水溶性の乳化剤やその他の材料を添加した水相を準備し、油中水型乳化物とする。
次に、ショートニング等の場合は油相を、マーガリン、ファットスプレッド等の場合は油中水型乳化物を、それぞれ殺菌処理するのが望ましい。殺菌方式は、タンクでのバッチ式でも、プレート型熱交換機や掻き取り式熱交換機を用いた連続方式でも構わない。また殺菌温度は好ましくは80~100℃、より好ましくは80~95℃、更に好ましくは80~90℃とする。その後、必要により油脂結晶が析出しない程度に予備冷却を行う。予備冷却の温度は好ましくは40~60℃、より好ましくは40~55℃、更に好ましくは40~50℃とする。
次に冷却、好ましくは急冷可塑化を行う。この急冷可塑化は、コンビネーター、ボテーター、パーフェクター、ケムテーター等の密閉型連続式掻き取りチューブラー冷却機(Aユニット)、プレート型熱交換機等が挙げられ、また、開放型冷却機のダイヤクーラーとコンプレクターとの組合せが挙げられる。
これらの装置の後に、ピンマシンなどの捏和装置(Bユニット)やレスティングチューブ、ホールディングチューブを使用してもよい。
本発明のベーカリー用油脂組成物の比重を0.9以下とする際は、可塑性油脂組成物の上記製造の過程において、食品に使用することのできるガスを油脂組成物中に分散させる含気を行う。ガスを油脂組成物中に分散させる工程は任意のタイミングで行ってよいが、ガスを均一に油脂組成物中に分散させ得る観点から、急冷可塑化の工程と同時にガスを注入、混和することで分散させることが好ましい。油脂組成物中にガスを分散させるには任意の手法を用いることができ、例えば、油中水型乳化物等の油脂組成物にエアレーションによりガスを注入する手法や、連続式の含気装置を使用してガスを油中水型の予備乳化物又は油相の油脂組成物に連続的に注入し、ピンマシン等の捏和装置で混和する手法が挙げられる。ガスとしては、例えば窒素、空気等を用いることができる。
上記のような工程を経て、本発明のベーカリー用油脂組成物を得ることができる。
<ベーカリー用油脂組成物を用いた生地、製品>
(ベーカリー生地)
本発明のベーカリー用油脂組成物を用いて、本発明のベーカリー生地を調製できる。ベーカリー生地の種類は、特に限定されず、例として、パン類の生地、菓子類の生地が挙げられ、より具体的には、パン類の生地としては、食パン生地、菓子パン生地、バラエティーブレッド生地、バターロール生地、ソフトロール生地、セミハードロール生地、ハードロール生地、スイートロール生地、クロワッサン生地、デニッシュ生地、ペストリー生地、フランスパン生地、ハンバーガーバンズ生地、イングリッシュマフィン生地等が挙げられ、菓子類の生地としては、パイ生地、シュー生地、ドーナツ生地、バターケーキ生地、スポンジケーキ生地、ハードビスケット生地、ワッフル生地、スコーン生地等が挙げられ、なかでも、パン類の生地が好ましい。本発明のベーカリー用油脂組成物は、特に製パン用に用いることが好ましい。
ベーカリー生地におけるベーカリー用油脂組成物の含有量は、ベーカリー生地の種類やベーカリー用油脂組成物中の酵素の含有単位数によっても異なるが、例えばパン類の場合、ベーカリー生地に用いられる澱粉類100質量部に対し、好ましくは30質量部以下であり、より好ましくは20質量部以下であり、更に好ましくは15質量部以下である。また、ベーカリー生地におけるベーカリー用油脂組成物の含有量は、上限値がいずれの場合であっても、ベーカリー生地に用いられる澱粉類100質量部に対し、好ましくは0.5質量部以上であり、より好ましくは1質量部以上であり、更に好ましくは1.5質量部以上である。市販のショートニング、マーガリン、ファットスプレッド、バター等の、本発明のベーカリー用油脂組成物以外の油脂組成物(本明細書において、「他の油脂組成物」ともいう。)を併用する場合、本発明のベーカリー用油脂組成物との合計量が上記範囲内の含有量であることが好ましく、本発明のベーカリー用油脂組成物と他の脂組成物との合計含有量に対する本発明のベーカリー用油脂組成物の含有量は、例えば0質量%超、好ましくは10質量%以上、より好ましくは20質量%以上、更に好ましくは30質量%以上、更により好ましくは40質量%以上であり、例えば100質量%未満、好ましくは90質量%以下、より好ましくは80質量%以下、更に好ましくは70質量%以下、更により好ましくは60質量%以下である。
ベーカリー生地に用いる澱粉類は特に限定されず、例えば、強力粉、準強力粉、中力粉、薄力粉、デュラム粉、全粒粉及び胚芽などの小麦粉類、ライ麦粉、大麦粉、米粉などのその他の穀粉類、アーモンド粉、へーゼルナッツ粉、カシューナッツ粉、オーナッツ粉及び松実粉などの堅果粉、コーンスターチ、タピオカ澱粉、小麦澱粉、甘藷澱粉、サゴ澱粉及び米澱粉などの澱粉並びにこれらの澱粉に酵素処理、α化処理、分解処理、エーテル化処理、エステル化処理、架橋処理及びグラフト化処理から選択される1以上の処理を施した化工澱粉等が挙げられ、これらの中から選ばれた1種又は2種以上を用いることができる。
本発明では、これらの中でも、小麦粉類を、澱粉類中、好ましくは50質量%以上、より好ましくは80質量%以上、更に好ましくは100質量%使用する。
ベーカリー生地のうち、パン類の生地を調製する場合に、小麦粉以外の澱粉類を使用する際、グルテンを別途添加することが好ましい。その添加量は、小麦粉以外の澱粉類とグルテンを合わせた合計量に対し、蛋白質含量が好ましくは5~20質量%、より好ましくは10~18質量%となる量である。
ベーカリー生地においては、必要に応じ、一般のパン類や菓子類の材料として使用することのできる、その他の原料を配合することができる。該その他の原料としては、例えば、水、油脂、イースト、糖類や甘味料、増粘安定剤、着色料、酸化防止剤、デキストリン、乳や乳製品、チーズ類、蒸留酒、醸造酒、各種リキュール、乳化剤、膨張剤、無機塩類、食塩、ベーキングパウダー、イーストフード、カカオ及びカカオ製品、コーヒー及びコーヒー製品、ハーブ、豆類、蛋白質、保存料、苦味料、酸味料、pH調整剤、日持ち向上剤、果実、果汁、ジャム、フルーツソース、調味料、香辛料、香料、各種食品素材や食品添加物等を挙げることができる。
その他の原料は、目的とする効果を損なわない限り、任意の量で使用することができるが、水については、例えばベーカリー生地のうち、パン類の場合、澱粉類100質量部に対して、好ましくは30~100質量部、より好ましくは30~70質量部となる範囲で使用する。また、水以外のその他の原料については、澱粉類100質量部に対して、合計で好ましくは100質量部以下、より好ましくは50質量部以下となる範囲で使用する。なお、その他の原料として、水分を含有する原料を使用した場合は、ここでいう水の量は、その他の原料に含まれる水分も含めた量である。
ベーカリー生地の製造方法は特に限定されず、通常使用されている、あらゆるパン類・菓子類のための製造方法を適用することができる。パン類の製造方法の例としては中種法、直捏法、液種法、中麺法、湯種法が挙げられ、菓子類の製造方法の例としてはシュガーバッター法、フラワーバッター法、オールインミックス法、共立て法、別立て法が挙げられる。
本発明のベーカリー製品のうち、とりわけパン類を中種法で製造する場合は、本発明のベーカリー用油脂組成物を中種生地及び/又は本捏生地に練り込み、含有させることにより製造することができるが、本捏生地に練り込み、含有させることが好ましい。なお、得られたベーカリー生地は、冷蔵、冷凍保存できる。
(ベーカリー製品)
本発明のベーカリー製品は、本発明のベーカリー用油脂組成物を含有するベーカリー生地を加熱処理することにより得られる。ベーカリー生地の加熱処理の方法は特に限定されず、例として、焼成したり、フライしたり、蒸したり、電子レンジ処理したりすることが挙げられる。
加熱処理により得られるベーカリー製品の種類は特に限定されず、各種のパン類や菓子類でありうる。このようなパンの例は、食パン、ソフトロール、セミハードロール、ハードロール、フランスパン、バターロール、ハンバーガーバンズ、イングリッシュマフィン、スイートロール、クロワッサン、デニッシュ、ペストリーである。
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明する。ただし、本発明は、これらの実施例により何ら制限されるものではない。
<使用した油脂>
以下の実施例、比較例では、下記の油脂を用いた。
ランダムエステル交換油脂A:パームスーパーオレインのランダムエステル交換油脂
ランダムエステル交換油脂B:パームオレインのランダムエステル交換油
ランダムエステル交換油脂C:パーム油とパーム極度硬化油との油脂混合物(質量比で65:35)のランダムエステル交換油
ランダムエステル交換油脂D:パーム核油とパーム極度硬化油との油脂混合物(質量比で75:25)のランダムエステル交換油
パーム油
パームステアリン
液状油
<使用した酵素剤、アルギン酸エステル等>
以下の実施例、比較例では、下記の酵素剤、アルギン酸エステル等を用いた。なお、「u/g」は酵素剤1gあたりの活性値である。各々の1uは製造者の示す定義による。
マルトース生成アミラーゼ:Novamyl 10000BG(10000u/g、Novozymes A/S)
ヘミセルラーゼ:ベイクザイムBXP5001BG(5000u/g、DSMフードスペシャリティーズ株式会社)(Bacillus subtili由来のヘミセルラーゼ)
グルコースオキシダーゼ:ベイクザイムGo Pure BG(3150u/g、DSMフードスペシャリティーズ株式会社)
アルギン酸エステル:昆布酸501(株式会社キミカ)(アルギン酸プロピレングリコールエステル)
脂肪酸モノグリセリド:エマルジーMP(理研ビタミン株式会社)(炭素数16の飽和脂肪酸残基を有するモノグリセリド)
<実施例1~15、17、比較例1~5>
後掲の各表に示す種類及び量の油脂を、それぞれ60℃に加熱して溶解・混合し、油脂配合物を調製してこれを油相とし、この中に水を水相として後掲の各表に示す量を加えて混合し、乳化させ、油中水型の予備乳化物を得た。この予備乳化物を-5℃/分の冷却速度で10℃まで急冷可塑化しながら、窒素ガスを注入、混和してガスを分散させた。続いて、後掲の各表に示す量の各種酵素及びアルギン酸エステルを添加・混合し、油中水型乳化物のベーカリー用油脂組成物を調製した。得られたベーカリー用油脂組成物の25℃における比重、並びに10℃、20℃及び30℃におけるSFC(%)を測定し、後掲の各表に示す。後掲の各表において、各油脂の量は、油脂の合計量(油脂配合物)を100質量%とする配合量(質量%)であり、各油脂以外の各成分の量は、ベーカリー用油脂組成物の合計配合量を100質量%とする各配合量(質量%)である。
<実施例16>
後掲の表に示す種類及び量の油脂を、それぞれ60℃に加熱して溶解・混合し、油脂配合物を調製し、常法に従って加熱殺菌、及び冷却可塑化した。この冷却可塑化した油脂配合物を-5℃/分の冷却速度で10℃まで急冷可塑化しながら、窒素ガスを注入、混和してガスを分散させた。続いて、後掲の表に示す量の各種酵素及びアルギン酸エステルを添加・混合し、ショートニングタイプのベーカリー用油脂組成物を調製した。得られたベーカリー用油脂組成物の25℃における比重、並びに10℃、20℃及び30℃におけるSFC(%)を測定し、後掲の表に示す。
<コントロール>
後掲の表に示す種類及び量の油脂と酵素類を用い、含気させないこと以外は実施例16と同様にして、後述の評価基準のコントロール用の油脂組成物を調製した。
<丸め成形菓子パンの製造>
調製したベーカリー用油脂組成物それぞれを用いて、下記の製法で、丸め成形菓子パンを製造した。
強力粉(商品名「カメリア」:日清製粉製、蛋白質含量11.8質量%及び灰分0.37質量%)70質量部、上白糖3質量部、生イースト3質量部、イーストフード0.1質量部及び水40質量部をミキサーボウルに投入し、フックを使用し、低速で2分、中速で2分混合し、中種生地を得た。捏ね上げ温度は26℃であった。
この中種生地を生地ボックスに入れ、温度28℃、相対湿度85%の恒温室で、2時間中種醗酵を行った。終点温度は29℃であった。
この中種醗酵の終了した生地を再びミキサーボウルに投入し、更に、強力粉30質量部、上白糖12質量部、脱脂粉乳2質量部、食塩1.4質量部及び水23質量部を添加し、低速で3分、中速で3分本捏ミキシングした。
ここで、調製したベーカリー用油脂組成物5質量部及びショートニング(商品名「プレミアムショート-CF」:ADEKA製)5質量部を投入し、フックを使用し、低速で3分、中速で4分ミキシングを行い、菓子パン用の本捏生地を得た。得られた菓子パン生地の捏ね上げ温度は28℃であった。
ここで、フロアタイムを30分とった後、50gに分割・丸めを行った。次いで、ベンチタイムを30分とった後、丸め成形し、38℃、相対湿度85%で45分ホイロをとった後、190℃に設定した固定窯に入れ11分焼成して丸め成形菓子パンを得た。
<ボリュームの評価>
得られた丸め成形菓子パンを室温で1時間置き、熱が取れた後、ポリエチレン袋に密封し、室温(25℃)に保管し、焼成1日後、3Dレーザースキャナー(株式会社アステックス製)にて体積(ml)を測定し、体積(ml)/質量(g)を比容績とし、パンのボリュームを評価した。結果を後掲の各表に示す。
<食感、異味の評価>
得られた丸め成形菓子パンの食感及び異味について、下記の評価基準で10名の専門パネラーにより官能評価を行った。それらの結果を、次のようにして後掲の各表に示す。
++:43~50点
+ :31~42点
± :25~30点
- :20~24点
--:19点以下
評価に先立ち、事前にパネラー間で各点数に対応する官能の程度をすり合わせた。なお、すべての項目について、+以上の評価を得たものを合格品とした。
●食感(ソフト性)
5点:コントロールと比較してきわめて良好。
3点:コントロールと比較して良好。
1点:コントロールと比較してやや悪い。
0点:コントロールと比較して悪い。
●食感(しとり感)
5点:コントロールと比較してきわめて良好。
3点:コントロールと比較して良好。
1点:コントロールと比較してやや悪い。
0点:コントロールと比較して悪い。
●食感(歯切れ)
5点:コントロールと比較してきわめて良好。
3点:コントロールと比較して良好。
1点:コントロールと比較してややくちゃつく。
0点:コントロールと比較してくちゃつきが激しい。
●異味
5点:コントロールと同等の風味であり、異味や刺激味が感じられない。
3点:コントロールと比較して、わずかに異味又は刺激味が感じられるが許容範囲である。
1点:コントロールと比較して、異味又は刺激味が感じられる。
0点:コントロールと比較して、強い異味又は刺激味が感じられる。
<評価結果>
各実施例及び各比較例のベーカリー用油脂組成物を用いた丸め成形菓子パンについて評価した結果を下表に示す。
Figure 2023114992000001
Figure 2023114992000002
Figure 2023114992000003
表1及び表2の実施例から、本発明のベーカリー用油脂組成物を配合して得られたパンは、ボリュームが大きく、しっとりとして軟らかく、歯切れが良く、また、DATEM由来の酸味等の異味がないことがわかった。
これに対し、所定温度におけるSFC及び/又は比重が上述の特定範囲内にない比較例のベーカリー用油脂組成物を配合して得られたパンは、ボリュームの大きさ、しとり感、軟らかさ(ソフト性)、及び歯切れの良さを兼ね備えることができず、特に、ボリューム、ソフト性、及び歯切れは何れも「+」以上の評価に至らず、実施例よりも劣ることがわかった。
具体的には、所定温度におけるSFC及び比重の何れもが上述の特定範囲内にない比較例4、5と、これら比較例4、5から比重を上述の特定範囲内に適正化した比較例1、2とを比較すると、比較例1、2の方がパンのボリュームが微増し、また、SFCが低すぎる比較例1は比較例4よりも歯切れが少しだけ改善し、SFCが高すぎる比較例2は比較例5よりもソフト性及びしとり感が少しだけ改善するが、比較例1、2は依然としてボリューム、ソフト性、しとり感及び歯切れが良好ではない。
また、比較例4、5と、これら比較例4、5から所定温度におけるSFCを上述の特定範囲内に適正化した比較例3とを比較すると、比較例3の方がパンのボリュームは微増するが、ソフト性、しとり感及び歯切れは比較例4と比較例5との間で依然として良好ではない。
一方、所定温度におけるSFC及び比重の何れもが上述の特定範囲内である各実施例の本発明のベーカリー用油脂組成物を用いると、上述のとおり、ボリューム、しとり感、ソフト性、及び歯切れの良さを兼ね備えたパンを得ることができ、これらの優れた特性ないし特性が改善された程度は、比較例4、5から比重を適正化した比較例1、2の改善の程度、及び、比較例4、5からSFCを適正化した比較例3の改善の程度をはるかに上回るものであり、上述の(A)~(E)の成分を含有し、上述の特定範囲内のSFC及び比重を備えることで、相乗効果として初めて得られるものである。
<クロワッサン及びデニッシュの製造>
丸め成形菓子パンを製造した際の評価が良好であった、実施例6のベーカリー用油脂組成物を用いて、下記の製法で、クロワッサン及びデニッシュを製造した。得られたクロワッサン及びデニッシュは、丸目成形菓子パンと同様にボリュームの評価を行うと共に、後述する評価基準により、「クリスピー感」、「歯切れ」、「異味」の評価を行った。評価結果は、表4に示すとおりである。
(クロワッサンの製造)
強力粉(商品名「カメリア」:日清製粉製、蛋白質含量11.8質量%及び灰分0.37質量%)75質量部、フランスパン用粉(「Fナポレオン」:ニップン製、蛋白質含量11.8質量%及び灰分0.42質量%)25質量部、パン酵母5質量部、イーストフード0.1質量部、上白糖12質量部、モルト0.3質量、食塩1.8質量部、汎用マーガリン若しくは実施例6のベーカリー用油脂組成物のいずれかを6.0質量部、水52質量部をミキサーボウルに投入し、フックを使用し、低速で4分、中速で5分混合し、ドウ生地を得た。捏ね上げ温度は18℃であった。
得られたドウ生地について、フロアタイムを30分とった後、このドウ生地をリタード工程に供した。リタード工程は、生地を-20℃の冷凍庫で30分静置した後、2℃の冷蔵庫に移して1時間以上静置することにより行った。
リタード工程を終えた後、折込油脂(「アロマーデマイルドシート」:株式会社ADEKA製)を40質量部用いて、常法により折り込んで(3つ折り3回)、クロワッサン生地を製造した。
得られたクロワッサン生地を生地厚4mm、縦130mm、横190mmに成形し、34℃、相対湿度75%で55分ホイロをとった後、溶いた全卵を塗布し、上火200℃、下火200℃に設定した固定窯に入れ15分焼成してクロワッサンを得た。
(デニッシュの製造)
強力粉(商品名「カメリア」:日清製粉製、蛋白質含量11.8質量%及び灰分0.37質量%)100質量部、パン酵母4質量部、イーストフード0.1質量部、上白糖15質量部、モルト0.3質量、全卵5.0質量部、食塩1.4質量部、汎用マーガリン若しくは実施例6のベーカリー用油脂組成物のいずれかを6.0質量部、水55質量部をミキサーボウルに投入し、フックを使用し、低速で4分、中速で5分混合し、ドウ生地を得た。捏ね上げ温度は18℃であった。
得られたドウ生地について、フロアタイムを30分とった後、このドウ生地をリタード工程に供した。リタード工程はクロワッサンを製造する際と同様の条件で行った。
リタード工程を終えた後、折込油脂(「アロマーデマイルドシート」:株式会社ADEKA製)を40質量部用いて、常法により折り込んで(3つ折り3回)、デニッシュ生地を製造した。
得られたデニッシュ生地を生地厚4mm、縦100mm、横100mmに成形し、34℃、相対湿度75%で55分ホイロをとった後、溶いた全卵を塗布し、上火190℃、下火190℃に設定した固定窯に入れ16分焼成してデニッシュを得た。
<食感、異味の評価>
得られたクロワッサン及びデニッシュの食感及び異味について、下記の評価基準で10名の専門パネラーにより官能評価を行った。それらの結果を、次のようにして後掲の表4に示す。表4においては、実施例6のベーカリー用油脂組成物を用いて製造したクロワッサン及びデニッシュをそれぞれ実施例18及び19として示す。なお、実施例6のベーカリー用油脂組成物を用いずに製造されたクロワッサン及びデニッシュをコントロールとして評価を行った。
++:43~50点
+ :31~42点
± :25~30点
- :20~24点
--:19点以下
●食感(クリスピー感)
5点:コントロールと比較してきわめて良好。
3点:コントロールと比較して良好。
1点:コントロールと比較してやや悪い。
0点:コントロールと比較して悪い。
●食感(歯切れ)
5点:コントロールと比較してきわめて良好。
3点:コントロールと比較して良好。
1点:コントロールと比較してややくちゃつく。
0点:コントロールと比較してくちゃつきが激しい。
●異味
5点:コントロールと同等の風味であり、異味や刺激味が感じられない。
3点:コントロールと比較して、わずかに異味又は刺激味が感じられるが許容範囲である。
1点:コントロールと比較して、異味又は刺激味が感じられる。
0点:コントロールと比較して、強い異味又は刺激味が感じられる。
Figure 2023114992000004
表4から、本発明のベーカリー用油脂組成物を配合して得られたクロワッサン及びデニッシュは、ボリュームが大きく、良好なクリスピー感を呈し、歯切れが良く、また、DATEM由来の酸味等の異味がないことが確認された。

Claims (12)

  1. (A)マルトース生成アミラーゼ、(B)ヘミセルラーゼ、(C)グルコースオキシダーゼ、(D)アルギン酸エステル、及び(E)油脂を含むベーカリー用油脂組成物であって、
    10℃におけるSFC(固体脂含量)が25%以上、57%未満であり、20℃におけるSFCが12%以上、41%以下であり、
    比重が0.4以上、0.9以下である、ベーカリー用油脂組成物。
  2. 30℃におけるSFCが5%以上、29%以下である、請求項1に記載のベーカリー用油脂組成物。
  3. 前記(E)油脂の含有量は、前記ベーカリー用油脂組成物の60質量%以上、99.6質量%以下である、請求項1に記載のベーカリー用油脂組成物。
  4. 前記(A)マルトース生成アミラーゼの含有量は、前記ベーカリー用油脂組成物の0.015質量%以上、0.15質量%以下である、請求項1に記載のベーカリー用油脂組成物。
  5. 前記(B)ヘミセルラーゼの含有量は、前記ベーカリー用油脂組成物の0.02質量%以上、0.2質量%以下である、請求項1に記載のベーカリー用油脂組成物。
  6. 前記(C)グルコースオキシダーゼの含有量は、前記ベーカリー用油脂組成物の0.015質量%以上、0.15質量%以下である、請求項1に記載のベーカリー用油脂組成物。
  7. 前記(D)アルギン酸エステルの含有量は、前記ベーカリー用油脂組成物の0.07質量%以上、0.8質量%以下である、請求項1に記載のベーカリー用油脂組成物。
  8. 前記(D)アルギン酸エステルは、アルギン酸プロピレングリコールエステルである、請求項1に記載のベーカリー用油脂組成物。
  9. 請求項1~8のいずれか1項に記載のベーカリー用油脂組成物を含むベーカリー生地。
  10. 請求項9に記載のベーカリー生地の焼成品であるベーカリー製品。
  11. 請求項1~8のいずれか1項に記載のベーカリー用油脂組成物が生地に練り込まれたベーカリー生地を焼成することを含む、ベーカリー製品のボリューム改良方法。
  12. 請求項1~8のいずれか1項に記載のベーカリー用油脂組成物が生地に練り込まれたベーカリー生地を焼成することを含む、ベーカリー製品の食感改良方法。
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