JP2023108872A - 斜め控え支持杭式矢板岸壁 - Google Patents

斜め控え支持杭式矢板岸壁 Download PDF

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Abstract

【課題】工費の不要な増加を抑制して控え組杭式矢板岸壁等と比較して経済優位性を確保しながらも、巨大地震発生時においても大きな耐震性を発揮する。【解決手段】海と陸との境に設けられる斜め控え支持杭式矢板岸壁100であって、臨海部に沿って矢板壁10を備え、矢板壁10の陸側においてタイ材11により矢板壁10と繋がれた控え杭として、押し込み杭12のみを備え、押し込み杭12の下端部12aが押し込み杭の直径長以上、工学的基盤G2に根入れされている。【選択図】図1

Description

本発明は、海と陸との境に設けられる斜め控え支持杭式矢板岸壁に関する。
港湾構造物の主要な施設である岸壁には様々な構造形式があり、代表的なものに重力式岸壁、矢板式岸壁、桟橋がある。このうち矢板岸壁(矢板式岸壁とも言う)は、前面の鋼矢板壁と背面の控え杭(主に鋼管杭による)をタイ材で結合するもので、重力式岸壁のように壁体の重量を重くすることなく岸壁を構築するもので、主に軟弱地盤に適した工法である。
控え杭の形式としては、特許文献1の図7に示されるように、杭を鉛直方向に沿って打設する控え直杭式や、特許文献2の図1に示されるように、斜めに打設した杭を頭部で結合する控え組杭式がある。一般的に、当該控え組杭式は、地震などによる矢板式岸壁の背面土圧の影響による海側への変位により、押し込まれる側を押し込み杭、引き抜かれる側を引き抜き杭と呼んでいる。控え組杭式は、構造が複雑であり工費も控え直杭式と比較すると高いことから、採用例は少ない。
特開2021-063404号公報 特開平11-323872号公報
上述の控え杭を構造として有する控え工の地震荷重への抵抗メカニズムとしては、控え直杭式は地盤反力と杭の曲げ剛性(折れ曲がりに対する抵抗性能)で抵抗する。ただし、巨大地震作用時には控え杭前面の地盤は軟弱化するため、地盤反力は地震前より大幅に低下してしまう。さらに、設計計算上は、控え杭は十分に強固な地盤(工学的基盤)に根入れされる必要がないため、巨大地震作用時には軟弱化した地盤のみに支えられることになり、控え杭自体が海側へ変形してしまい、十分な耐震性を発揮できない場合が多い。
一方、控え組杭式は、基本的に杭の軸力(杭の延長方向に伝達される力)で地震荷重に抵抗するため、巨大地震作用時に地盤が軟弱化することの影響は小さい。控え組杭式矢板岸壁の特徴として、次のものが挙げられる。
第1に、矢板壁と控え杭頭部の距離は比較的短く設定される。矢板壁背後の主働崩壊面の背後に控え杭を設置することで、控え工には地盤変位の影響がなく、かつ工費を節減できる。
第2に、押し込み杭は、引き抜き杭と比較して同じ長さか、または短く設定される。また、工学的基盤まで根入れされることはほとんどない。これは杭に作用する軸力に対して杭先端の地盤支持力と杭周面の摩擦力で抵抗すればよいためである。引き抜き杭の方は先端支持力を見込むことができないので、杭周面摩擦力を大きくするために杭長が長くなる傾向があるが、こちらも工学的基盤まで根入れされることはほとんどない。
以上はあくまでも慣習的な設計法の想定する耐震機構に基づくものであり、実際の耐震性評価という観点からは問題が多い。現行設計法で設計された岸壁が十分な耐震性を確保できていなかった例としては、2011年東北地方太平洋沖地震で、控え組杭式の仙台塩釜港の高砂2号岸壁(-14m)がはらみだしなどの被災を受け、基幹輸送が長期間にわたり途絶えるという支障が生じた例が挙げられる。
控え組杭式矢板岸壁の現行設計法の問題点で、設計コード作成者や設計実務者が認識していないポイントは、控え工に関する問題点に限定すると、以下の通りである。
工学的基盤以浅の地盤は巨大地震動作用時には剛性が大きく低下する。このため、押し込み杭の先端支持力と周面摩擦力は設計で想定している値より大幅に低下する。
このほかの点として、控え工を控え組杭式にすることで、上述の通り、控え直杭式岸壁と比較すると工費が大きく増加する。
本発明は、上述の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、控え組杭式矢板岸壁などと比較して工費の不要な増加を抑制して経済優位性を確保しながらも、巨大地震発生時においても大きな耐震性を発揮できる斜め控え支持杭式矢板岸壁を提供することにある。
上記目的を達成するための斜め控え支持杭式矢板岸壁は、海と陸との境に設けられる控え杭式の矢板岸壁であって、その特徴構成は、
前記境に沿って矢板壁を備え、
前記矢板壁の陸側においてタイ材により前記矢板壁と繋がれた控え杭として、押し込み杭のみを備え、
前記押し込み杭の下端部が前記押し込み杭の直径長以上、工学的基盤に根入れされた点にある。
上記特徴構成によれば、矢板壁の陸側において当該矢板壁とタイ材により繋がれた控え杭として、押し込み杭のみを備え、押し込み杭の下端部が工学的基盤に根入れされているから、必要となる耐震性を確保しつつ、控え組杭式に比べ、引き抜き杭を設けないため、工費を低減して経済的優位性を確保できる。尚、控え組み杭式における引き抜き杭は、当該杭の周面摩擦力による引き抜き抵抗のみで地震動に抗うため、特に、巨大地震発生時には、工費に見合うだけの耐震性は見込めない。
また、工学的基盤以浅の地盤は、巨大地震作用時には剛性が大きく低下するため水平地盤反力はほとんど期待できないが、上記特徴構成の如く、押し込み杭の下端部を工学的基盤にその直径長以上根入れすることで、巨大地震作用時にも大きな支持力が期待できる。
更に、工学的基盤以浅の地盤は、巨大地震作用時には剛性が大きく低下するものの重量は変化しないため、押し込み杭の上部に存在する地盤の重量が、タイ材張力などで押し込み杭に大きな曲げ変形が生じることを抑制する効果も期待できる。
因みに、押し込み杭は、その下端部を海側へ向けて打設された斜め杭で、地震動等の作用により押し込まれる杭を意味するものとする。
尚、上記特徴構成において、押し込み杭とは、筒状体、円柱又は角柱を含む柱状の杭に加え、押し込み杭が連続する壁状の押し込み壁を含むものとする。
以上より、工費の不要な増加を抑制して経済優位性を確保しながらも、巨大地震発生時においても大きな支持力を発揮できる控え杭式矢板岸壁を実現できる。
斜め控え支持杭式矢板岸壁の更なる特徴構成は、
前記矢板壁と、前記押し込み杭の上端部との水平距離は、
前記控え杭として直杭を用いたときに、前記矢板壁から引いた主働崩壊面と、前記直杭の曲げモーメントが最初に零となる点の深さの1/3の点から引いた受働崩壊面とが前記タイ材に交差するときの前記直杭の位置を基準として決定される点にある。
さて、控え工としての控え杭は、矢板壁の陸側の主働崩壊面を避ければよいので、直杭と比較すると、組杭では矢板壁に近い位置に設置することができる。しかしながら、岸壁は水平成層地盤上に構築されないため、地震前の状態でもせん断応力が地盤に発生しており、その値は矢板壁に近いほど大きい。このため、地震時の地盤変形量も矢板壁に近い位置ほど大きい。控え杭は、タイ材張力を受けるとともに、地盤の変形の影響も受ける。よって、控え工を矢板壁に近すぎる場所に設置することは耐震性能的に不利である可能性がある。
そこで、上記特徴構成において、矢板壁と、押し込み杭の上端部との水平距離は、矢板壁から十分に離れた距離にすることによって、地震時の地盤変形の影響を受け難くする。
矢板壁と押し込み杭の上端部との水平距離は、設計条件によって異なるが、従来技術としての特許文献1に示されるような控え直杭式の場合のように、控え杭が直杭であるときに、矢板壁から引いた主働崩壊面と、直杭の曲げモーメントが最初に零となる点の深さの1/3の点から引いた受働崩壊面がタイ材に交差するときの直杭の位置を、基準として決定することができる。
斜め控え支持杭式矢板岸壁の更なる特徴構成は、
前記押し込み杭は、前記下端部よりも上方側において相対的に剛性が高められた高剛性部位を有する点にある。
従来技術としての特許文献1に示されるような控え直杭式の場合、直杭の曲げ剛性でタイ材張力に抵抗するが、地盤の剛性の変化点(土層の境界)では地震時に地盤変位が大きく変化するため、直杭に大きな曲げモーメントが発生する。これは特に地盤の剛性が複雑に変化する互層条件で顕著であり、耐震性の大きな低下につながる。さらに、地震時に液状化が発生すると、直杭を支える地盤反力がゼロとなるため、直杭の耐震性能は極端に低下する。この場合、地盤改良を行う必要があるが、地盤改良は施工費用の大幅な増加につながる。
これに対し、本発明の如く、押し込み杭の下端部を工学的基盤に根入れする構成の場合、地下深い土層の境界では直杭のような大きな曲げモーメントは発生し難いが、押し込み杭の上方側において大きな曲げモーメントが発生する傾向にある。
上記特徴構成によれば、押し込み杭が、下端部よりも上方側において相対的に剛性が高められる高剛性部位を有することができるから、経済的に許容される範囲で、発生する曲げモーメントに耐えうることができ、要求される耐震性を達成できる。さらに、大きな水平地盤反力を期待する形式ではないため、巨大地震作用時に液状化が発生したとしても耐震性能の低下は少ない。このため、条件にもよるが液状化対策は最小限でよく、工費の大幅な増加は生じないことから他形式と比較して有利である。
尚、押し込み杭は、耐震性上の必要に応じて、発生する曲げモーメントが杭の耐力としての曲げモーメント(全塑性モーメント)を超えないように、長手方向の所定の範囲において、相対的に剛性が高められた高剛性部位を有することが好ましいが、当該高剛性部位を設けない構成であっても構わない。
斜め控え支持杭式矢板岸壁の更なる特徴構成は、
前記押し込み杭が鉛直方向と成す角度が、10°以上40°以下の角度に設定されている点にある。
上記特徴構成の如く、押し込み杭が鉛直方向と成す角度を10°以上に設定することで、巨大地震が発生した場合に、工学的基盤に根入れされる押し込み杭の下端部において大きな支持力が期待できる。
一方、押し込み杭が鉛直方向と成す角度を40°以下の角度に設定することで、施工時に無理のない範囲で押し込み杭を打設することができる。
実施形態に係る斜め控え支持杭式矢板岸壁の断面図である。 実施例に係るシミュレーションによる耐震性能の解析のための斜め控え支持杭式矢板岸壁の断面図である。 比較例に係るシミュレーションによる耐震性能の解析のための直杭式矢板岸壁の断面図である。 最大加速度が3m/sの入力地震動のグラフ図である。 実施例としての斜め控え支持杭式矢板岸壁に、最大加速度が3m/sの地震動を入力した場合の矢板壁の上端部の水平変形量の経時変化を示すグラフ図である。 実施例としての斜め控え支持杭式矢板岸壁に、最大加速度が3m/sの地震動を入力した場合の矢板壁の鉛直方向の各深さ位置における最大曲げモーメントを示すグラフ図(a)と、控え杭の鉛直方向の各深さ位置における最大曲げモーメントを示すグラフ図(b)である。 比較例としての直杭式矢板岸壁に、最大加速度が3m/sの地震動を入力した場合の矢板壁の上端部の水平変形量の経時変化を示すグラフ図である。 比較例としての直杭式矢板岸壁に、最大加速度が3m/sの地震動を入力した場合の矢板壁の鉛直方向の各深さ位置における最大曲げモーメントを示すグラフ図(a)と、控え杭の鉛直方向の各深さ位置における最大曲げモーメントを示すグラフ図(b)である。 実施例としての斜め控え支持杭式矢板岸壁に、最大加速度が4m/sの地震動を入力した場合の矢板壁の上端部の水平変形量の経時変化を示すグラフ図である。 実施例としての斜め控え支持杭式矢板岸壁に、最大加速度が4m/sの地震動を入力した場合の矢板壁の鉛直方向の各深さ位置における最大曲げモーメントを示すグラフ図(a)と、控え杭の鉛直方向の各深さ位置における最大曲げモーメントを示すグラフ図(b)である。 比較例としての直杭式矢板岸壁に、最大加速度が4m/sの地震動を入力した場合の矢板壁の上端部の水平変形量の経時変化を示すグラフ図である。 比較例としての直杭式矢板岸壁に、最大加速度が4m/sの地震動を入力した場合の矢板壁の鉛直方向の各深さ位置における最大曲げモーメントを示すグラフ図(a)と、控え杭の鉛直方向の各深さ位置における最大曲げモーメントを示すグラフ図(b)である。 矢板壁と、押し込み杭の上端部との水平距離を説明するための直杭式矢板岸壁の断面図である。
本発明の実施形態に係る斜め控え支持杭式矢板岸壁100は、工費の不要な増加を抑制して経済優位性を確保しながらも、巨大地震発生時においても大きな支持力を発揮できるものに関する。以下、図1~13に基づいて、実施形態に係る斜め控え支持杭式矢板岸壁100を説明する。
当該実施形態に係る斜め控え支持杭式矢板岸壁100は、図1に示すように、海Sと陸との境(図1では、紙面に直交する方向に延びる海岸)に設けられる斜め控え支持杭式矢板岸壁であって、矢板壁10を備え、矢板壁10の陸側においてタイ材11により矢板壁10と繋がれた控え杭として、筒状体、円柱又は角柱を含む柱状体の押し込み杭12(押し込み杭の一例)のみを備え、押し込み杭12の下端部12aが、当該押し込み杭12の直径長以上、工学的基盤としての第2原地盤G2に根入れしている。
説明を加えると、当該実施形態に係る控え工としては、従来、控え工として用いられる引き抜き杭又は直杭は、設けておらず、押し込み杭12のみを備えている。
押し込み杭12は、ちなみに、図1に示す構成例では、第1原地盤G1を貫通して第2原地盤G2へ根入れされている。
当該実施形態に係る斜め控え支持杭式矢板岸壁100では、押し込み杭12は、その下端部12aが上方側の基端部Kよりも海側に位置している。
即ち、押し込み杭12が鉛直方向と成す角度(図1でα)は、10°以上40°以下の角度に設定することができ、現場の状況により可能な範囲で大きな角度に設定することが好ましい。
押し込み杭12の材料は、例えば、H型鋼、I型鋼や鋼管杭、コンクリート杭等の筒状又は柱状の材料を好適に採用することができ、その直径が0.3m以上3.0m以下程度のものを好適に用いることができる。当該押し込み杭12は、工学的基盤としての第2原地盤G2に対し、L2がその直径と同程度以上の長さが根入れされている。
ここで、当該実施形態に係る押し込み杭12には、巨大地震発生時等において、下端部12aよりも上方側の所定の範囲に高い曲げモーメントが発生することが想定される。
そこで、押し込み杭12は、下方側の下端部12aよりも上方側の大きな曲げモーメントが発生する範囲において相対的に剛性が高い高剛性部位(図示せず)を有する。説明を追加すると、押し込み杭12の高剛性部位は、他の部位よりも肉厚を厚く構成するなど剛性の高い部位により構成することができる。
矢板壁10の矢板の材料は、鋼製矢板を代表例として、鉄筋コンクリート、プレストレスコンクリート等の種々のものが用いられる。当該矢板壁10は、その延設方向に大凡直交する方向(図1で紙面左右方向)に沿って延びるタイ材11により押し込み杭12の上端部Kに接続されている。ここで、タイ材11は、高張力鋼から成るものであり、タイロッド、タイワイヤが好適に用いられる。
当該実施形態においては、一の押し込み杭12と一のタイ材11との組は、矢板壁の延設方向(紙面に直交する方向)で等間隔に複数備えられる。尚、一の押し込み杭12と一のタイ材11との組と組は、互いに近接した状態で設ける構成としても構わない。
次に、矢板壁10と押し込み杭12の上端部Kとの距離L1について以下に説明する。
平面視において、矢板壁10と押し込み杭12と押し込み杭12の上端部Kとの水平距離は、例えば、図13に示すように、原地盤Gに根入れされる直杭13と矢板壁10とをタイ材11にて繋ぐ岸壁構造300(控え直杭式)において、矢板壁10から引いた主働崩壊面Ss1と、直杭13の曲げモーメントが最初に零となる深さの1/3の点P0から引いた受働崩壊面Ss2がタイ材11に交差するときの直杭13の位置P(図13で矢板壁10から矢板壁10に直交する方向で距離Lpだけ離れた位置)を基準として、決定される。
ここで、直杭13の曲げモーメントが最初に零となる深さの1/3の点P0は、直杭13とタイ材11との接続部位としての上端部KよりもXだけ深い点である。
尚、前提として、タイ材11と押し込み杭Kとは、略同一鉛直面内にあるものとし、平面視において、矢板壁10はタイ材11と略直交するものとする。
例えば、図1において、矢板壁10と押し込み杭12の上端部Kとの距離L1は、図13の距離Lpとして設定することができる。
尚、矢板壁10と押し込み杭12の上端部Kとの距離L1は、耐震性能を向上する観点からは長いほうが好ましく、工費に余裕がある場合距離Lpよりも長くしても構わない。
また、押し込み杭12の下端部12aが、矢板壁10に干渉しない場合には、矢板壁10と押し込み杭12の上端部Kとの距離L1は、距離Lpよりも短くすることもできる。
より好ましくは、矢板壁10と押し込み杭12の上端部Kとの距離L1は、上限を距離Lpとする。
これまで説明した各種値については、矢板壁10と押し込み杭12とが互いに干渉しないよう設定される。例えば、図1において、矢板壁10の下端における陸側水平方向において、矢板壁10と押し込み杭12との間の距離L3が、0mより大きくなるように設定される。
〔シミュレーション結果〕
当該実施形態に係る斜め控え支持杭式矢板岸壁100(以下、本形式と表記する場合がある)と通常の控え直杭式矢板岸壁(以下、直杭式と表記する場合がある)の耐震性能を解析した結果を示す。
大水深岸壁への適用性を検証する観点から、水深-14mの条件とした。解析は2次元有限要素解析で行い、巨大地震作用時の地盤の非線形性を考慮している。解析は構造物被害予測プログラム(FLIP)を用いて行い、当該FLIPは、港湾構造物の巨大地震作用時の地震応答の評価において標準的に用いられているものである。図2に本形式の断面図、図3に比較対象とする直杭式の断面図を示す。本形式の押し込み杭12の傾斜角αは30°である。入力地震動は周期1秒の正弦波とした。当該周期は岸壁の変形に大きな影響を持つものとして設定した。最大加速度は3m/sおよび4m/sとした。最大加速度の値に対応して岸壁の変形量が変化するため、耐震性確保の観点から矢板壁10および控え杭(押し込み杭12及び直杭13)の諸元は最大加速度の値に応じて変化させている。
〔表1〕に地盤条件、〔表2〕に構造諸元を示す。控え杭の長さとタイ材長さ以外は本形式と直杭式で同じ条件としている。〔表2〕において、数値は何れも単位奥行きあたりの値であり、密度は7.85(t/m)、せん断剛性は、76900000(kPa)である。ちなみに、本形式における矢板壁10の長さは、34.5mであり、タイ材11の長さは、26.7mであり、押し込み杭12の長さは、43.4mであり、直杭式における矢板壁10の長さは、34.5mであり、タイ材11の長さは、22mであり、直杭13の長さは、23.6mである。ここで、直杭式の控え杭長さとタイ材長さは標準的と考えられる値を設定している。本形式においては、押し込み杭12は工学的基盤に2m根入れするものとしている。
Figure 2023108872000002
Figure 2023108872000003
地震応答解析前の自重解析は築堤段階を模擬した3段階解析とした。構造部材と地盤との境界条件は、矢板壁と地盤間はジョイント要素、控え直杭と地盤間は杭-地盤相互作用ばね要素、斜め支持杭と地盤間は軸方向はジョイント要素、軸直角方向は杭-地盤相互作用ばね要素とした。タイ材は質量を有さない非線形ばね要素(初期ばね剛性13778kN/m)とし、地盤とは非接触である。以上の設定は、構造物被害予測プログラム(FLIP)で標準的な設定方法である。
なお、上述のように直杭式の場合は、巨大地震動作用時に表層地盤で液状化が発生すると耐震性能の極端な低下を招くが、本形式は地盤の水平反力を期待しないため、特に表層地盤で液状化が発生したとしても大きな耐震性の低下にはつながらない。ただしこの例では、仮に液状化が発生しない条件においても提案する形式が有利であることを示すために、液状化は発生しない条件として解析を行っている。
図4に示す周期1秒で加速度最大値3m/sの地震動が発生した場合において、本形式の矢板上端部の水平変形時刻歴を図5に、矢板壁10に発生する最大曲げモーメントの深度分布を図6(a)に、押し込み杭12に発生する最大曲げモーメントの深度分布を図6(b)に示す。直杭式の矢板上端部の水平変形時刻歴を図7に、矢板壁10に発生する最大曲げモーメントの深度分布を図8(a)に、直杭13に発生する最大曲げモーメントの深度分布を図8(b)に示す。残留水平変形量は本形式では64cm(図5でH2)、直杭式では96cm(図7でH2)であり、本形式の残留水平変形量は直杭式の値の67%であり、大きな違いがある。ちなみに、最大変形量は本形式では74cm(図5でH1)、直杭式では103cm(図7でH1)で最大変形量の比は約72%である。
矢板壁10の最大曲げモーメントや控え杭の最大曲げモーメントは、本形式と直杭式で同程度である。図中のM0が最大曲げモーメント、Mpが全塑性モーメントであり、曲げモーメントが全塑性モーメントに達することは設計上許容されない。この点、本形式では、矢板壁10の最大曲げモーメントや押し込み杭12の最大曲げモーメントは、設計上許容される範囲に収まっている。
加速度最大値4m/sの場合について、本形式の矢板上端部の水平変形時刻歴を図9に、矢板壁10に発生する最大曲げモーメントの深度分布を図10(a)に、押し込み杭12に発生する最大曲げモーメントの深度分布を図10(b)に示す。直杭式の矢板上端部の水平変形時刻歴を図11に、矢板壁10に発生する最大曲げモーメントの深度分布を図12(a)に、直杭13に発生する最大曲げモーメントの深度分布を図12(b)に示す。
残留水平変形量は本形式では87cm(図9でH2)、直杭式では135cm(図11でH2)であり、本形式の残留水平変形量は直杭式の値の64%であり、大きな違いがある。ちなみに、最大変形量は本形式では98cm(図9でH1)、直杭式では143cm(図11でH1)で最大変形量の比は約68%である。
矢板壁の最大曲げモーメントは本形式と直杭式で同程度である。控え杭の最大曲げモーメントは本形式の方が直杭式よりも大きいが、最大値は全塑性モーメント以下であり、設計上許容される範囲にとどまっている。
以上より、本形式は直杭式と比較すると、同程度の構造健全性の条件で、地震時の残留水平変形量を大幅に低減することが可能な形式であるといえる。上記の通り、岸壁の耐震性能は構造健全性と変形量によって判断されるため、本形式の方が有利であることが示された。
次に、タイ材11の長さ、及び控え杭の傾斜角αを変化させた場合の残留変形量について、〔表3〕に示す解析結果に基づいて説明する。
因みに、〔表3〕において実施例1~4が本形式に対応するものであり、比較例が直杭式に対応するものである。〔表3〕に示す値以外の諸条件は、上述した本形式及び直杭式と同一とする。
まず、タイ材11の長さに関し、同一の傾斜角αである場合の実施例1と実施例2、タイ材の長さを4m短くした場合においては、残留変形量は0.04m増加するに留まり、実施例3と実施例4とを比較においても、残留変形量は0.10m増加するのに留まっており、タイ材11の長さを短くしても、耐震性能への影響は軽微であることがわかる。
次に、傾斜角αに関し、同一のタイ材長さの実施例2、実施例4、比較例を比較すると、傾斜角αが増加するに従って、残留変形量を低減できていることがわかる。
Figure 2023108872000004
〔別実施形態〕
(1)上記実施形態では、押し込み杭12は、下端部12aよりも上方側において剛性が高められる高剛性部位(図示せず)を有する構成例を示したが、当該高剛性部位は、必ずしも設けなくても構わない。
(2)上記実施形態では、押し込み杭の一例として、押し込み杭12を例示した。押し込み杭の他の構成例として、連続する壁状の押し込み壁であっても構わない。
尚、上記実施形態(別実施形態を含む、以下同じ)で開示される構成は、矛盾が生じない限り、他の実施形態で開示される構成と組み合わせて適用することが可能であり、また、本明細書において開示された実施形態は例示であって、本発明の実施形態はこれに限定されず、本発明の目的を逸脱しない範囲内で適宜改変することが可能である。
本発明の斜め控え支持杭式矢板岸壁は、工費の不要な増加を抑制して控え組杭式矢板岸壁等と比較して経済優位性を確保しながらも、巨大地震発生時においても大きな耐震性を発揮できる控え杭式矢板岸壁として、有効に利用可能である。
10 :矢板壁
11 :タイ材
12 :押し込み杭
12a :下端部
20 :直杭
100 :杭式矢板岸壁
G2 :第2原地盤
K :上端部
L1 :距離
Lp :距離
S :海
Ss1 :主働崩壊面
Ss2 :受働崩壊面
α :傾斜角
上記目的を達成するための斜め控え支持杭式矢板岸壁は、海と陸との境に設けられる控え杭式の矢板岸壁であって、その特徴構成は、
前記境に沿って矢板壁を備え、
前記矢板壁の陸側においてタイ材により前記矢板壁と繋がれた控え杭として、下端部が上方側の基端部よりも海側に位置している押し込み杭のみを備え、
前記押し込み杭の前記下端部が前記押し込み杭の直径長以上、工学的基盤に根入れされた点にある。
上記目的を達成するための斜め控え支持杭式矢板岸壁は、海と陸との境に設けられる控え杭式の矢板岸壁であって、その特徴構成は、
前記境に沿って矢板壁を備え、
前記矢板壁の陸側においてタイ材により前記矢板壁と繋がれた控え杭として、下端部が上方側の基端部よりも海側に位置している押し込み杭のみを備え、
前記押し込み杭の前記下端部が前記押し込み杭の直径長以上、工学的基盤に根入れされ
前記矢板壁と、前記押し込み杭の上端部との水平距離は、
前記控え杭として直杭を用いたときに、前記矢板壁から引いた主働崩壊面と、前記直杭の曲げモーメントが最初に零となる深さの1/3の点から引いた受働崩壊面とが前記タイ材に交差するときの前記直杭の位置を基準として決定され、
前記押し込み杭が鉛直方向と成す角度が、10°以上40°以下の角度に設定されている点にある。
そこで、上記特徴構成において、矢板壁と、押し込み杭の上端部との水平距離は、矢板壁から十分に離れた距離にすることによって、地震時の地盤変形の影響を受け難くする。
矢板壁と押し込み杭の上端部との水平距離は、設計条件によって異なるが、従来技術としての特許文献1に示されるような控え直杭式の場合のように、控え杭が直杭であるときに、矢板壁から引いた主働崩壊面と、直杭の曲げモーメントが最初に零となる点の深さの1/3の点から引いた受働崩壊面がタイ材に交差するときの直杭の位置を、基準として決定することができる。
上記特徴構成の如く、押し込み杭が鉛直方向と成す角度を10°以上に設定することで、巨大地震が発生した場合に、工学的基盤に根入れされる押し込み杭の下端部において大きな支持力が期待できる。
一方、押し込み杭が鉛直方向と成す角度を40°以下の角度に設定することで、施工時に無理のない範囲で押し込み杭を打設することができる。

Claims (4)

  1. 海と陸との境に設けられる斜め控え支持杭式矢板岸壁であって、
    前記境に沿って矢板壁を備え、
    前記矢板壁の陸側においてタイ材により前記矢板壁と繋がれた控え杭として、押し込み杭のみを備え、
    前記押し込み杭の下端部が前記押し込み杭の直径長以上、工学的基盤に根入れされた斜め控え支持杭式矢板岸壁。
  2. 前記矢板壁と、前記押し込み杭の上端部との水平距離は、
    前記控え杭として直杭を用いたときに、前記矢板壁から引いた主働崩壊面と、前記直杭の曲げモーメントが最初に零となる深さの1/3の点から引いた受働崩壊面とが前記タイ材に交差するときの前記直杭の位置を基準として決定される請求項1に記載の斜め控え支持杭式矢板岸壁。
  3. 前記押し込み杭は、前記下端部よりも上方側において相対的に剛性が高められた高剛性部位を有する請求項1又は2に記載の斜め控え支持杭式矢板岸壁。
  4. 前記押し込み杭が鉛直方向と成す角度が、10°以上40°以下の角度に設定されている請求項1~3の何れか一項に記載の斜め控え支持杭式矢板岸壁。
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