JP2023064774A - 常磁性ガーネット型透明セラミックスの製造方法、並びに常磁性ガーネット型透明セラミックス製造用加圧焼結体 - Google Patents

常磁性ガーネット型透明セラミックスの製造方法、並びに常磁性ガーネット型透明セラミックス製造用加圧焼結体 Download PDF

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Abstract

【課題】テルビウムとアルミニウムを含有するガーネット型複合酸化物の焼結体であって、100W以上のハイパワーレーザーシステムヘの搭載可能な、光学透明性に優れた磁気光学デバイスとして利用できる常磁性ガーネット型透明セラミックスの製造方法を提供する。【解決手段】テルビウムとアルミニウムを含有するガーネット型複合酸化物の焼結体であって、焼結助剤としてSiO2を0質量%超0.1質量%以下含有する円柱形状の焼結体について加圧焼結し、更にこの加圧焼結体について酸化アニール処理を行う常磁性ガーネット型透明セラミックスの製造方法において、上記加圧焼結体を加圧焼結仕上り径D1が最終的に得られる常磁性ガーネット型透明セラミックスの最終直径D2に対して+0.1mm以上1.5mm以下であるニアネットシェイプ型の加圧焼結体とし、該加圧焼結体についてその直径が上記最終直径となるように研削した後、酸化アニール処理を行う。【選択図】図1

Description

本発明は、光アイソレータなどの磁気光学デバイスを構成するのに好適なテルビウムを含む常磁性ガーネット型透明セラミックスの製造方法、並びに常磁性ガーネット型透明セラミックス製造用加圧焼結体に関する。
近年、高出力化が可能となってきたこともあり、ファイバーレーザーを用いたレーザー加工機の普及が目覚しい。ところで、レーザー加工機に組み込まれるレーザー光源は、外部からの光が入射すると共振状態が不安定化し、発振状態が乱れる現象が起こる。特に発振された光が途中の光学系で反射されて光源に戻ってくると、発振状態は大きく撹乱される。これを防止するために、通常光アイソレータが光源の手前等に設けられる。
光アイソレータは、ファラデー回転子と、ファラデー回転子の光入射側に配置された偏光子と、ファラデー回転子の光出射側に配置された検光子とからなる。また、ファラデー回転子は、光の進行方向に平行に磁界を加えて利用する。このとき、光の偏波線分はファラデー回転子中を前進しても後進しても一定方向にしか回転しなくなる。更に、ファラデー回転子は光の偏波線分が丁度45度回転される長さに調整される。ここで、偏光子と検光子の偏波面を前進する光の回転方向に45度ずらしておくと、前進する光の偏波は偏光子位置と検光子位置で一致するため透過する。他方、後進する光の偏波は検光子位置から45度ずれている偏光子の偏波面のずれ角方向とは逆回転に45度回転することになる。すると、偏光子位置における戻り光の偏波面は偏光子の偏波面に対して45度-(-45度)=90度のずれとなり、偏光子を透過できない。こうして前進する光は透過、出射させ、後進する戻り光は遮断する光アイソレータとして機能する。
上記光アイソレータを構成するファラデー回転子として用いられる材料では、従来からTGG結晶(Tb3Ga512)とTSAG結晶((Tb(3-x)Scx)Sc2Al312)が知られている(特開2011-213552号公報(特許文献1)、特開2002-293693号公報(特許文献2))。TGG結晶は現在標準的なファイバーレーザー装置用として広く搭載されている。他方TSAG結晶のベルデ定数はTGG結晶の1.3倍程度あるとされており、こちらもファイバーレーザー装置に搭載されてもおかしくない材料であるが、Scが極めて高価な原料であるため、製造コストの面から採用が進んでいない。その後も、特許第5611329号公報(特許文献3)や特許第5935764号公報(特許文献4)のようにTSAG結晶の開発は続けられているが、いずれもSc使用量の低減が達成できず、普及には至っていない。
上記以外では、TSAGより更にベルデ定数が大きなファラデー回転子として、昔からTAG結晶(Tb3Al512)も知られている。ただしTAG結晶は分解溶融型結晶であるため、固液界面においてまずペロブスカイト相が最初に生成され、その後にTAG相が生成されるという制約があった。つまりTAG結晶のガーネット相とペロブスカイト相は常に混在した状態でしか結晶育成することができず、良質で大サイズのTAG結晶育成は実現していない。
特許第3642063号公報(特許文献5)や特許第4107292号公報(特許文献6)には、この混晶を抑制する手段として、FZ育成用の多結晶原料棒、ないしは種結晶を多孔質とすることで、初相であるペロブスカイト相を多孔質媒体中に優先的に析出させる方式が提案されている。ただし、実際には溶融位置が移動するにつれてペロブスカイト相が析出しやすい位置も移動してしまうため、種結晶と多結晶原料棒の界面だけを多孔質化したからといって、ペロブスカイト相の析出を完全に抑制することは本質的に不可能であった。
このような制約がある中、特開2008-7385号公報(特許文献7)に、TAG組成の酸化物をセラミックスで作製し、しかも透光性を持たせる材料が提案されている。セラミックスは融点より100℃以上低温で焼結製造することができるため、単結晶育成では問題となっていた分解溶融の問題をクリアすることが可能となる。実際にTAGの分解が始まるのは1,840℃以上であるため、この温度以下で理論密度ぎりぎりまで焼結緻密化することができれば、TAG単相の透明焼結体を得ることが可能となる。
特許文献7では、ガーネット構造を有し、テルビウム・アルミニウム酸化物からなるセラミックスの製造方法であって、原料を調合する工程と、仮焼する工程と、仮焼粉を粉砕する工程と、成形する工程と、焼成する工程とを備え、仮焼粉を粉砕する工程において、粉砕後の仮焼粉の平均粒径が0.2~1.6μmであり、成形する工程において、成形後の密度が3.26g/cm3以上であると透光率の大きいTAGセラミックスが作製できるとしている。
しかしながら、特許文献7では、その透光性は極めて不十分であり、たかだか厚み1.5mmでの直線透過率ですら、最大で35%にとどまっていた。ちなみにTAGを光アイソレータ等のファラデー素子として利用する場合、たとえば1.06μm帯レーザー用ではその光を45度回転させるために必要な素子長は約15mm必要であり、これは該文献の略10倍の長さに相当する。厚み1.5mmで35%しか光が透過しない材料では、その素子長を10倍に伸ばすと透過率が0.01%未満、即ちほぼゼロとなってまったく機能しなくなってしまう。即ち、たとえ異相発生を抑制可能なセラミックス製造法であっても、実用レベルのTAGはこれまで存在していなかった。
なお、特許文献6にはTAG結晶中のTbの一部をCeで置換するとTAGに比べてベルデ定数が大きくなることが示されている。ベルデ定数が大きくなれば入射光を45度回転させるのに必要な素子長を短くすることができるため、トータルの吸収量は少なくなるが、厚み1.5mmでの直線透過率が35%では、たとえ素子長が半分になっても45度回転厚み透過率は1%未満であり、実用化には程遠い。
また、上記のような状況の中で、最近、組成が(Tbx1-x3Al512(0.5≦x≦1.0)である緻密なセラミックス焼結体が既存のTGG結晶に比べて消光比が高く(既存のTGG結晶35dBが39.5dB以上に改善し)、挿入損失も低減できる(既存の0.05dBが0.01~0.05dBに改善する)ことが開示されている(Yan Lin Aung, Akio Ilkesue, Davelopment of optical grade (Tbx1-x3Al512 Ceramics as Faraday rotator material, J.Am.Ceram.Soc., (2017),100(9),4081-4087(非特許文献1))。この非特許文献1で開示された材料は、まずセラミックスであるため、TGG結晶で問題となっていたペロブスカイト異相の析出もなく、更にTbイオンの一部をYイオンで置換することで、更なる低損失化が可能になったものであり、きわめて高品質のガーネット型ファラデー回転子を得ることのできる材料である。
特開2011-213552号公報 特開2002-293693号公報 特許第5611329号公報 特許第5935764号公報 特許第3642063号公報 特許第4107292号公報 特開2008-7385号公報
Yan Lin Aung, Akio Ilkesue, Davelopment of optical grade (TbxY1-x)3Al5O12 Ceramics as Faraday rotator material, J.Am.Ceram.Soc., (2017),100(9),4081-4087
しかしながら、非特許文献1の材料について本発明者らが実際に追試をしてみると、確かにTGG結晶よりも挿入損失が小さい高品質なセラミックス焼結体が得られることは確認できたものの、再現性に乏しい点、たとえTGG結晶より低挿入損失であっても、100W以上のハイパワーレーザーを照射すると焦点位置が0.2m以上変化する(熱レンズ)現象が確認された。
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、テルビウム及びアルミニウムを含有するガーネット型複合酸化物の焼結体であって、特に100W以上のハイパワーレーザーシステムヘの搭載も可能な、真に光学透明性に優れた磁気光学デバイスとして利用できる常磁性ガーネット型透明セラミックスの製造方法、並びに常磁性ガーネット型透明セラミックス製造用加圧焼結体を提供することを目的とする。
本発明は、上記目的を達成するため、下記の常磁性ガーネット型透明セラミックスの製造方法、並びに常磁性ガーネット型透明セラミックス製造用加圧焼結体を提供する。
1.
少なくともテルビウムとアルミニウムを含有するガーネット型複合酸化物の焼結体であって、焼結助剤としてSiO2を0質量%超0.1質量%以下含有する円柱形状の焼結体について加圧焼結し、更にこの加圧焼結体について酸化アニール処理を行う常磁性ガーネット型透明セラミックスの製造方法において、
上記加圧焼結体を加圧焼結仕上り径が最終的に得られる常磁性ガーネット型透明セラミックスの最終直径に対して+0.1mm以上1.5mm以下であるニアネットシェイプ型の加圧焼結体とし、該加圧焼結体についてその直径が上記最終直径となるように研削した後、上記酸化アニール処理を行うことを特徴とする常磁性ガーネット型透明セラミックスの製造方法。
2.
上記ガーネット型複合酸化物が、更にイットリウムを含有する1に記載の常磁性ガーネット型透明セラミックスの製造方法。
3.
得られる常磁性ガーネット型透明セラミックスの平均粒径が10μm以上である1又は2に記載の常磁性ガーネット型透明セラミックスの製造方法。
4.
上記ニアネットシェイプ型の加圧焼結体の光学軸方向の加圧焼結仕上り長さが最終的に得られる常磁性ガーネット型透明セラミックスの光学軸方向の最終長さに対して+0.5mm以上である1~3のいずれかに記載の常磁性ガーネット型透明セラミックスの製造方法。
5.
上記最終的に得られる常磁性ガーネット型透明セラミックスの最終直径が3.6~8mmである1~4のいずれかに記載の常磁性ガーネット型透明セラミックスの製造方法。
6.
少なくともテルビウムとアルミニウムを含有するガーネット型複合酸化物からなり、焼結助剤としてSiO2を0質量%超0.1質量%以下含有する円柱形状の焼結体であって、加圧焼結仕上り径が最終的に得られる常磁性ガーネット型透明セラミックスの最終直径に対して+0.1mm以上1.5mm以下となったニアネットシェイプ型の常磁性ガーネット型透明セラミックス製造用加圧焼結体。
7.
上記ガーネット型複合酸化物が、更にイットリウムを含有する6に記載の常磁性ガーネット型透明セラミックス製造用加圧焼結体。
8.
光学軸方向の加圧焼結仕上り長さが最終的に得られる常磁性ガーネット型透明セラミックスの光学軸方向の最終長さに対して+0.5mm以上である6又は7に記載の常磁性ガーネット型透明セラミックス製造用加圧焼結体。
9.
上記最終的に得られる常磁性ガーネット型透明セラミックスの最終直径が3.6~8mmである6~8のいずれかに記載の常磁性ガーネット型透明セラミックス製造用加圧焼結体。
本発明によれば、テルビウム及びアルミニウムを含有するガーネット型複合酸化物であって、損失係数が極めて小さく、低散乱、高品質で、そして特に100W以上のハイパワーレーザーシステムへの搭載が可能で、真に光学透明性に優れた磁気光学材料として利用でき、更にセラミックス焼結体のためスケールアップも容易な、真に実用的な常磁性ガーネット型透明セラミックスを提供できる。
加圧焼結体の加圧焼結仕上り状態からその外周を研削して最終直径とした状態の例を示す概略図であり、(a)は本発明のニアネットシェイプ型の加圧焼結体であり、(b)は外周削り代の多い加圧焼結体である。 本発明で得られた常磁性ガーネット型透明セラミックスをファラデー回転子として用いた光アイソレータの構成例を示す断面模式図である。
以下に、本発明に係る常磁性ガーネット型透明セラミックスの製造方法、並びに常磁性ガーネット型透明セラミックス製造用加圧焼結体の構成について説明する。
[常磁性ガーネット型透明セラミックスの製造方法]
本発明に係る常磁性ガーネット型透明セラミックスの製造方法は、少なくともテルビウムとアルミニウムを含有するガーネット型複合酸化物の焼結体であって、焼結助剤としてSiO2を0質量%超0.1質量%以下含有する円柱形状の焼結体について加圧焼結し、更にこの加圧焼結体について酸化アニール処理を行う常磁性ガーネット型透明セラミックスの製造方法において、上記加圧焼結体を加圧焼結仕上り径が最終的に得られる常磁性ガーネット型透明セラミックスの最終直径に対して+0.1mm以上1.5mm以下であるニアネットシェイプ型の加圧焼結体とし、該加圧焼結体についてその直径が上記最終直径となるように研削した後、上記酸化アニール処理を行うことを特徴とするものである。
<常磁性ガーネット型透明セラミックス>
まず、本発明で製造する常磁性ガーネット型透明セラミックスについて説明する。
本発明で製造する常磁性ガーネット型透明セラミックスは、少なくともテルビウム(Tb)とアルミニウム(Al)を含有したガーネット型複合酸化物の焼結体であって、更に焼結助剤としてSiO2を0質量%超0.1質量%以下含有している透明セラミックスである。上記ガーネット型複合酸化物は、更にイットリウムを含有することが好ましい。
一般にガーネット構造の酸化物中ではテルビウムが3価の状態で安定に存在しやすいため、吸収の小さな高透明性の常磁性ガーネット型透明セラミックスが作製できるため好ましい。またアルミニウムを含有したガーネット構造にすると、格子定数を小さくすることができ、単位長さあたりのベルデ定数を大きくすることができるため好ましい。さらにSiO2を0質量%超0.1質量%以下含有させて焼結すると、緻密化が促進されて高透明性の焼結体が得られるため好ましい。さらにSiO2にはペロブスカイト相などの異相発生を抑制する効果も期待できるため、積極的に添加することが好ましい。
なお、SiO2を0.1質量%超添加すると、長さ(光路長)15~25mm(使用する光学素子の外径、及びこれを被覆するマグネットのサイズによって、この必要光路長は増減する)の常磁性ガーネット型透明セラミックスに波長1,064nmの100Wレーザー光線を照射した際の熱レンズ現象による焦点位置の最大変化量が0.25mを超えてしまうため好ましくない。
本発明にあっては、上記元素のほか、イットリウム(Y)、ルテチウム(Lu)、スカンジウム(Sc)、ガリウム(Ga)、セリウム(Ce)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)なども好適に添加することができる。
テルビウムのサイトの一部をイットリウム、ルテチウムで置換するとガーネット構造がより安定化して欠陥が低減するため好ましい。ただしあまり大量にこれらの元素でテルビウムを置換してしまうと得られる焼結体のベルデ定数が不必要に低下するため好ましくない。イットリウム、ルテチウムは、それぞれ典型的にはテルビウムを100モル%としたときに、0モル%以上40モル%以下の範囲で置換することが好ましく、5モル%以上40モル%以下の範囲で置換することが更に好ましい。
スカンジウムはガーネット構造を有する酸化物中でテルビウムのサイトにもアルミニウムの一部のサイトにも固溶することのできる中間的なイオン半径を有する材料であり、たとえば各種出発原料の秤量時のばらつきによって、得られる組成が化学量論比からずれた場合に、ちょうど化学量論比に合うように、そしてこれにより結晶子の生成エネルギーを最小にするように、自らテルビウム及びイットリウムからなる希士類サイトとアルミニウムサイトへの分配比を調整して固溶することのできるバッファ材料である。すなわち安定してガーネット単相を得ることのできる元素であるため、好適に添加することができる。
ただし、あまり大量にスカンジウムを添加すると、それに連動してテルビウムの置換割合も高まってしまうため、結果的にテルビウムの固溶濃度が不必要に低下してしまう。するとベルデ定数が小さくなるため好ましくない。また、スカンジウムは原料代が高額なため、スカンジウムを不必要に過剰ドープすることは製造コスト上からも好ましくない。スカンジウムは、典型的にはアルミニウムを100モル%としたときに0モル%以上20モル%以下の範囲で置換することが好ましく、0モル%以上5モル%以下の範囲で置換することが更に好ましい。
セリウムはテルビウム酸化物中に固溶存在することにより、488nmよりも長波長側まで吸収範囲を広げ、かつ対称性の縮退を解いてスピン軌道相互作用分裂を大きくさせることのできる材料であり、これにより波長1,064nmのレーザー光を入射させた場合のベルデ定数を大きくすることができる。ゆえに本発明においては添加することが好まれる元素である。ただしあまり大量に置換固溶させると、波長1,064nmでの吸収の影響が無視できなくなるため好ましくない。セリウムは、典型的にはテルビウムを100モル%としたときに、0モル%以上1モル%以下の範囲で置換することが好ましく、0モル%以上0.5モル%以下の範囲で置換することが更に好ましい。
マグネシウム及びカルシウムは共に2価のイオンであり、4価であるSiO2添加に伴うガーネット構造内部のチャージバランスのずれを補償することのできる元素であるため、好適に添加することができる。その添加量はSiO2添加量に合わせるように調整することが好ましい。
本発明で製造される常磁性ガーネット型透明セラミックスは、前記の元素群を主成分として含有する。ここで、「主成分として含有する」とは、前記の元素群から構成される複合酸化物を90質量%以上含有することを意味する。なお、このときの含有量は99質量%以上であることが好ましく、99.9質量%以上であることがより好ましく、99.99質量%以上であることが更に好ましく、99.999質量%以上であることが特に好ましい。
本発明で製造される常磁性ガーネット型透明セラミックスは、上記主成分の他にもさらに別の元素を含有していてもよい。典型的な他の元素としては、ナトリウム(Na)、燐(P)、タングステン(W)、モリブデン(Mo)等が例示できる。その他の元素の含有量は、テルビウムの全量を100質量部としたとき、10質量部以下であることが好ましく、0.1質量部以下であることが更に好ましく、0.001質量部以下(実質的にゼロ)であることが特に好ましい。
本発明では、上記のような常磁性ガーネット型透明セラミックスを以下のようにして製造する。
[原料]
本発明で用いる原料としては、少なくともテルビウム、アルミニウムを含み、さらに場合によっては、イットリウム、ルテチウム、スカンジウム、ガリウム、セリウム、マグネシウム、カルシウムなども加えたそれぞれの金属粉末、ないしは硝酸、硫酸、尿酸等の水溶液、あるいは上記元素の酸化物粉末等が好適に利用できる。また、上記原料の純度は99.9質量%以上が好ましく、99.99質量%以上が特に好ましい。
また、本発明で用いる焼結助剤としてのSiO2原料として、シリコンの酸化物粉末、ないしはTEOS(オルトケイ酸テトラエチル)が好適に利用できる。また、上記原料の純度は99.9質量%以上が好ましく、99.99質量%以上が特に好ましい。
上記元素が所定量(目的の常磁性ガーネット型透明セラミックスの組成比)となるように秤量し、混合並びに粉砕して出発原料粉末を得る。この際、混合した原料を一度焼成してから再度粉砕したものを出発原料粉末として用いてもよい。その際の焼成温度は、1,200℃以下であれば特に限定されない。
なお、前記の出発原料粉末の粉末形状については特に限定されないが、可能であればできる限り球状に近い粉末が成形性、流動性、焼結性などの点で優れるため好ましい。また、二次凝集している粉末であっても利用できる。ただし、この二次凝集粒子は後工程の1軸プレスで一定程度圧壊できる必要がある。そのため、後段に記述される有機添加剤のうち、結合剤と分散剤の割合を適宜調整して、二次凝集粒子の圧壊強度が1軸プレス圧力並みか、それ以下となる範囲を事前に探し出し、その条件下にある原料を出発原料とすることが好ましい。
また、これらの原料粉末の調製工程については特に限定されない。共沈法、粉砕法、噴霧熱分解法、ゾルゲル法、アルコキシド加水分解法、その他あらゆる合成方法で作製された原料粉末が好適に利用できる。更に、得られた原料粉末を適宜湿式ボールミル、ビーズミル、ジェットミルや乾式ジェットミル、ハンマーミル等によって処理してもよい。ただし、金属不純物、特にFeのコンタミを避けるため、湿式ボールミル、ビーズミル、湿式ジェットミルのいずれかを用いて分散処理することが特に好ましい。
本発明で用いる原料粉末中には、その後のセラミックス製造工程での品質安定性や歩留り向上の目的で、各種の有機添加剤が添加される場合がある。本発明においては、これらを積極的に活用することが好ましい。即ち、分散剤、結合剤、潤滑剤、可塑剤等を積極的に利用することが好ましい。ただし、一般的に過剰な結合剤の添加は、得られる原料粉末の過度な硬化をもたらす。そこで、予め好適な結合剤の添加割合を確認しておく必要がある。なお、これらの有機添加剤については、不要な金属イオンが含有されない、高純度のタイプを選定することが好ましい。
[製造工程]
本発明では、上記原料粉末を用いてプレス成形後に脱脂を行い、次いで焼結して、相対密度が最低でも94%以上に緻密化された焼結体を作製し、その後工程として熱間等方圧プレス(HIP(Hot Isostatic Pressing))処理を行う。なお熱間等方圧プレス処理をそのまま施すと、常磁性ガーネット型透明セラミックスが還元されて若干の酸素欠損を生じてしまう。そのため微酸化HIP処理、ないしはHIP処理後に酸化雰囲気でのアニール処理(酸化アニール処理)を施すことにより酸素欠損を回復させることが好ましい。これにより、欠陥吸収のない透明なガーネット型セラミックスを得ることができる。
(成形)
本発明では、上記原料粉末を用いて、所定寸法の円柱形状にプレス成形する。ここでいう所定寸法とは、緻密化後の外径寸法、すなわち加圧焼結仕上り径が、最終仕上り外径寸法、すなわち最終的に得られる常磁性ガーネット型透明セラミックスの最終直径に対してプラス(+)0.1mm以上1.5mm以下、好ましくは0.1mm以上1.0mm以下、より好ましくは0.1mm以上0.5mm以下であるニアネットシェイプ型の加圧焼結体(HIP体)となるように逆算して設計された内径寸法を有する金型治具を用いてプレス成形することにより得られる形状を指す。経験的には最終仕上り外径寸法(最終直径)よりも25~35%程度内径の大きなプレス用金型治具を用いることが好ましいが、その詳細な寸法については、数バッチの検証実験によって決定することが好ましい。
本発明では、通常のプレス成形工程を好適に利用できる。すなわち、ごく一般的な、型に充填して一定方向から加圧する一軸プレス工程が好適に利用できる。その一軸プレス治具の内径については、前述のとおり厳密に規定されたものであることが好ましい。またその長さは、一軸プレス後に、最終的に得られる常磁性ガーネット型透明セラミックスの最終仕上り長さプラス0.5mm以上の長さよりも更に25~35%程度長いプレス成形体を取り出すのに十分な長さが必要である。典型的には所望のプレス成形体の長さの2倍以上の長さは確保することが好ましい。本発明では、上記一軸プレス工程を経たのちに、冷間静水圧加圧(CIP(Cold Isostatic Pressing))工程や温間静水圧加圧(WIP(Warm Isostatic Pressing))工程を加えてもよい。なお、その際の印加圧力は得られる成形体の相対密度を確認しながら適宜調整すればよく、特に制限されないが、たとえば市販のCIP装置やWIP装置で対応可能な300MPa以下程度の圧力範囲で管理すると製造コストが抑えられてよい。
あるいは、プレス成形法ではなく、鋳込み成形法による成形体の作製も可能である。加圧鋳込み成形や遠心鋳込み成形、押出し成形等の成形法も、出発原料である酸化物粉末の形状やサイズと各種の有機添加剤との組合せを最適化することで、採用可能である。ただし、本発明においては成形体の寸法を、上述したようにニアネットシェイプ型の加圧焼結体(HIP体)の加圧焼結仕上り径が最終仕上り外径寸法(最終直径)よりわずかに大きな一定の範囲内となるように管理しようとするため、鋳込み成形法であっても、その成形用治具の内寸法は逆算により精密に管理する必要がある。
(脱脂)
本発明では、通常の脱脂工程を好適に利用できる。すなわち、加熱炉による昇温脱脂工程を経ることが可能である。また、このときの雰囲気ガスの種類も特に制限はなく、空気、酸素、水素等が好適に利用できる。脱脂温度も特に制限はないが、もしも有機添加剤が混合されている原料を用いる場合には、その有機成分が分解消去できる温度まで昇温することが好ましい。
(焼結)
本発明では、一般的な焼結工程を好適に利用できる。すなわち、抵抗加熱方式、誘導加熱方式等の加熱焼結工程を好適に利用できる。このときの雰囲気は特に制限されず、不活性ガス、酸素ガス、水素ガス、ヘリウムガス等の各種雰囲気、あるいはまた、減圧下(真空中)での焼結も可能である。ただし、最終的に酸素欠損の発生を防止することが好ましいため、より好ましい雰囲気としては、酸素ガス、減圧酸素ガス雰囲気である。
本発明の焼結工程における焼結温度は、1,390~1,750℃が好ましく、1,390~1,730℃が特に好ましい。焼結温度がこの範囲にあると、焼結体において異相析出を抑制しつつ緻密化が促進されるため好ましい。
本発明の焼結工程における焼結保持時間は数時間程度で十分だが、焼結体の相対密度は最低でも94%以上に緻密化させなければならず、かつ99%を超えてはならない。焼結体の相対密度が99%を超えるまでに焼結を進行させてしまうと、最終的な焼結体内部に残る気泡量が急激に増大してしまうため好ましくない。すなわち、焼結体の相対密度は94%以上99%以下が好ましく、94.5%以上99.0%以下がより好ましい。
さらに本発明においては、得られる焼結体の平均損失係数を0.0017cm-1以下に抑えるために、最終的な焼結平均粒径(すなわち、加圧焼結体の平均粒径)が10μm以上となるように焼結条件を調整することが好ましい。
(熱間等方圧プレス(HIP))
本発明では、焼結工程を経た後に更に熱間等方圧プレス(HIP)処理を行う。
このときの加圧ガス媒体種類は、アルゴン、窒素等の不活性ガス、又はAr-O2が好適に利用できる。加圧ガス媒体により加圧する圧力は、50~300MPaが好ましく、100~300MPaがより好ましい。加圧する圧力が50MPa未満では透明性改善効果が得られない場合があり、300MPa超では圧力を増加させてもそれ以上の透明性改善が得られず、装置への負荷が過多となり装置を損傷するおそれがある。印加圧力は市販のHIP装置で処理できる196MPa以下であると簡便で好ましい。
また、その際の処理温度(所定保持温度、HIP処理温度ともいう)は1,100~1,780℃、好ましくは1,200~1,730℃の範囲で設定される。熱処理温度が1,780℃超では酸素欠損発生リスクが増大するため好ましくない。また、熱処理温度が1,100℃未満では焼結体の透明性改善効果がほとんど得られない。なお、熱処理温度の保持時間については特に制限されないが、あまり長時間保持すると酸素欠損発生リスクが増大するため好ましくない。典型的には1~3時間の範囲で好ましく設定される。
なお、HIP処理するヒーター材、断熱材、処理容器は特に制限されないが、グラファイト、ないしはモリブデン、タングステン、白金が好適に利用でき、処理容器としてさらに酸化イットリウム、酸化ガドリニウムも好適に利用できる。特に処理温度が1,500℃以下である場合、ヒーター材、断熱材、処理容器として白金が使用でき、かつ加圧ガス媒体をAr-O2とすることができるため、HIP処理中の酸素欠損の発生を防止できるため好ましい。処理温度が1,500℃を超える場合にはヒーター材、断熱材としてグラファイトが好ましいが、この場合は処理容器としてグラファイト、モリブデン、タングステンのいずれかを選定し、さらにその内側に二重容器として酸化イットリウム、酸化ガドリニウムのいずれかを選定したうえで、容器内に酸素放出材を充填しておくと、HIP処理中の酸素欠損発生量を極力少なく抑えられるため好ましい。
本発明においては、前工程で焼結処理された焼結体の粒径を、当該HIP処理工程でさらに大きく粒成長させることにより、その最終的な焼結粒径を10μm以上とすることができる。なお、このHIP処理で得られた加圧焼結体の平均焼結粒径(平均粒径)は、後述する酸化アニール処理によっては変化しないことから、最終的に得られる常磁性ガーネット型透明セラミックスの平均焼結粒径(平均粒径)となる。
加圧焼結体や常磁性ガーネット型透明セラミックスの平均焼結粒径は、対象常磁性ガーネット型透明セラミックスの焼結粒子の粒径を金属顕微鏡で測定して求められるものであり、詳しくは以下のようにして求められる。
金属顕微鏡の透過モードを用いて、50倍の対物レンズを使用して両端面が研磨された常磁性ガーネット型透明セラミックスサンプルの透過オープンニコル像を撮影する。詳しくは、対物レンズの有効画像サイズと有効焦点深度を考慮して対象常磁性ガーネット型透明セラミックスの光学有効領域の全領域を撮影し、その撮影した画像について解析処理を行う。このとき、まず各撮影像に対角線を描き、当該対角線が横切る焼結粒子の総数をカウントし、その上で対角線長をこのカウント総数で割った値をその画像中の焼結粒子の平均粒径と定義する。更に解析処理で読み取った各撮影画像の平均粒径を合算したうえで、撮影枚数で割った値を対象常磁性ガーネット型透明セラミックスの平均焼結粒径とする(以下、同じ)。
(常磁性ガーネット型透明セラミックス製造用加圧焼結体)
本発明ではHIP処理により加圧焼結体を得る。
この加圧焼結体は、上述したように少なくともテルビウムとアルミニウムを含有するガーネット型複合酸化物からなり、焼結助剤としてSiO2を0質量%超0.1質量%以下含有する円柱形状の焼結体であって、加圧焼結仕上り径が最終的に得られる常磁性ガーネット型透明セラミックスの最終直径に対して+0.1mm以上1.5mm以下となったニアネットシェイプ型の常磁性ガーネット型透明セラミックス製造用加圧焼結体である。
本発明で得られる加圧焼結体は、加圧焼結仕上り径が最終的に得られる常磁性ガーネット型透明セラミックスの最終直径(最終仕上り外径)より大きいが、極力最終直径に近い直径で仕上がるようにしたニアネットシェイプ型の加圧焼結体である。また、該ニアネットシェイプ型の加圧焼結体の光学軸方向の加圧焼結仕上り長さが、最終的に得られる常磁性ガーネット型透明セラミックスの光学軸方向の最終長さ(最終仕上り長さ)より長いが、極力最終仕上り長さに近い長さで仕上るように、すなわちニアネットシェイプに加工調整された加圧焼結体であることが好ましい。
図1に、加圧焼結体の加圧焼結仕上り状態からその外周を研削して最終直径とした状態の例を示す。図1(a)は本発明のニアネットシェイプ型の加圧焼結体であり、図1(b)は比較として示す外周削り代の多い加圧焼結体である。
図1(a)の本発明のニアネットシェイプ型の加圧焼結体のように、可能な限り最終仕上りに近い寸法で焼結することができると、焼結及び加圧焼結時の気泡排出に要する拡散距離を極小化できるため、残留気泡が生じにくくなるため好ましい。特に直径(外径)寸法については焼結仕上がり径D1を極力最終直径(最終仕上り外径)D2に近づけることで、加圧焼結体中心部の残留気泡を低減できるため好ましい。なお、焼結仕上がり径D1と最終直径(最終仕上り外径)D2の中心は同じである。
本発明のニアネットシェイプ型の加圧焼結体10における加圧焼結仕上り径D1は、最終的に得られる常磁性ガーネット型透明セラミックス11の最終直径D2に対してプラス(+)0.1mm以上1.5mm以下であり、+0.1mm以上1.0mm以下であることが好ましく、+0.1mm以上0.5mm以下であることがより好ましい。すなわち、加圧焼結仕上り径D1と最終直径D2の差分の半分である削り代tが0.05mm以上0.75mm以下であり、0.05mm以上0.5mm以下であることが好ましく、0.05mm以上0.25mm以下であることがより好ましい。加圧焼結体の加圧焼結仕上り径D1と最終直径D2の差分、あるいは削り代tがこの範囲内にあると、最も残留気泡が残りやすい加圧焼結体中心部を含め、光学有効径の全範囲で残留気泡を抑制できる。
上記加圧焼結仕上り径が最終的に得られる常磁性ガーネット型透明セラミックスの最終直径D2に対してプラス(+)0.1mm未満の場合、アスペクト比の高い細長い加圧焼結体に特有の反りがあることから、加圧焼結体の光学軸方向の一方の端部から他方の端部までの全長で、磁気光学デバイス、特にはファラデー回転子として必要な直径(光学有効径)を確保することができなくなる。一方、図1(b)に示すように、上記加圧焼結仕上り径D1’が最終的に得られる常磁性ガーネット型透明セラミックスの最終直径D2に対してプラス(+)1.5mm超の場合(すなわち、削り代t’が0.75mm超の場合)、加圧焼結体90の内部、特に削り出し後の常磁性ガーネット型透明セラミックス91の光学有効径の中心部での残留気泡量が有意に増加して不適となる。
また、最終的に得られる常磁性ガーネット型透明セラミックスの光学軸方向の最終長さ(最終仕上り長さ)は、目的とする磁気光学デバイス(光学素子)の外径、及びこれを被覆するマグネットのサイズによって、その必要長は増減するが、いずれにせよニアネットシェイプ型の加圧焼結体の光学軸方向の加圧焼結仕上り長さが最終的に得られる常磁性ガーネット型透明セラミックスの光学軸方向の最終長さに対してプラス(+)0.5mm以上であることが好ましい。なお、その上限は特に制限がない。上記焼結及び加圧焼結時の気泡排出は主として径方向への拡散により実現するため、長手方向の長さにはほとんど依存しないためである。ただし、直径の太さを一定範囲に規定したまま、光学軸方向(長手方向)の長さを長くしたアスペクト比の高い成形体は、成形時に割れたり反ったりすることがあるため、加圧焼結仕上り長さとして必要な長さプラス5mm以下にとどめておくと、余分な問題が発生することがなく好適である。
なお、上記加圧焼結仕上り径が最終的に得られる常磁性ガーネット型透明セラミックスの最終直径に対してプラス(+)0.1mm以上という条件(すなわち、削り代tが0.05mm以上の条件)は、最終直径(最終仕上り外径)が3mm以下の常磁性ガーネット型透明セラミックス(光学素子)については適用されない。その理由は2つある。1つ目は、本発明で規定する、少なくともテルビウムとアルミニウムを含有したガーネット型複合酸化物の焼結体からなる常磁性ガーネット型透明セラミックス(光学素子)は、特に100W以上のハイパワーレーザーシステムヘの搭載も可能な、真に光学透明性に優れた磁気光学材料としての利用を想定した材料であり、そうしたハイパワー用途の磁気光学材料は通常その直径が3.5mm以上であるためである。2つ目は、直径が3mm以下の細物の常磁性ガーネット型透明セラミックス(光学素子)をニアネットシェイプで成形しようとすると、細長い1軸プレス治具の内のり面と、成形しようとする高さ方向に長く充填された粉末との相対ずり応力が急激に増加し、上手くパッキングできずに割れてしまうためである。
なお、光学素子の直径が3mm以下は低パワー用途のものであるが、このような細物の常磁性ガーネット型透明セラミックス(光学素子)を作製する場合には、直径の大きな大型成形体を作製し、それを後加工で多数の細長い光学素子に分割して作製するとよい。この場合、加圧焼結体の粒内気泡は本発明のものに比べて相当に増加するが、低パワー用途であれば、それでも利用できる場合が多い。
本発明における最終的に得られる常磁性ガーネット型透明セラミックスの最終直径は、3.6mm以上であり、好ましくは4mm以上であり、より好ましくは5mm以上である。最終的に得られる常磁性ガーネット型透明セラミックスの最終直径が5mm以上の場合、100Wを大きく超えて、150W級のハイパワーレーザーシステムヘの搭載も視野に入るため、特に好ましい。なお、最終的に得られる常磁性ガーネット型透明セラミックスの最終直径の上限に特に制限はないが、たとえば8.0mmである。
本発明のニアネットシェイプ型の加圧焼結体10における加圧焼結仕上り径D1は、最終的に得られる常磁性ガーネット型透明セラミックス11の最終直径D2に対してプラス(+)0.1mm以上1.5mm以下であることから、たとえば最終直径D2が3.6mmの場合、加圧焼結仕上り径D1は3.7mm以上5.1mm以下となり、最終直径D2が4mmの場合、加圧焼結仕上り径D1は4.1mm以上5.5mm以下となり、最終直径D2が5mmの場合、加圧焼結仕上り径D1は5.1mm以上6.5mm以下となる。なお、加圧焼結仕上り径D1は、いずれもHIP処理(緻密化処理)後の加圧焼結体10の仕上り径(外径)寸法を指しており、一軸プレス成形体の外径寸法はそれより35%程度大きく、焼結前の成形体(CIP成形体)の外径寸法はそれより20%程度大きい。
(外周研削)
上記のようにして得られた加圧焼結体について、後述する酸化アニール処理を施す前に、必ず加圧焼結体外周部の研削仕上げ加工処理を施し、最終的な利用が想定される磁気光学デバイスに求められる外径寸法でその公差の範囲内となるように整える。すなわち、上述したように、HIP処理で加圧焼結仕上り径が最終的に得られる常磁性ガーネット型透明セラミックスの最終直径(最終仕上り外径)に極力近い直径で仕上げられたニアネットシェイプ型の加圧焼結体について、該加圧焼結体の外周部をさらに研削して所望の最終直径(最終仕上り外径)に仕上げることが好ましい。この場合、外周部の研削加工として、一般的な加工機の有する加工精度内で所望の最終外径寸法を狙えば実用上の問題はないが、最終直径(最終仕上り外径)を実力値でプラスマイナス(±)15μm、公差値でプラスマイナス(±)30μmで仕上げることが好ましい。
本発明では、研削加工として、通常のセンタレス加工装置、円筒研削装置などが好適に利用できる。なお、特に100W以上のハイパワーレーザーシステムヘの搭載も可能な、真に透明で実用的な常磁性ガーネット型透明セラミックスを製造しようとする場合、その光学軸方向の長さが17mm以上は必要となり、焼結体としてかなり細長い形状となることから、センタレス加工装置との相性がよりよい。
(酸化アニール)
本発明では、加圧焼結体の外周部の研削加工処理により、その加工表面が一定深さのダメージを受ける(ダメージ層が形成される)。これを取り除く(回復する)ためには酸化アニール処理が不可欠となる。また、上記加圧焼結体は、還元雰囲気の焼結処理(HIP処理を含む)によって酸素欠損が内在している場合が多い。これを回復するための酸化アニール処理工程も必要である。そのため、これらの酸化アニール処理をまとめて1回で済ませるため、上記加圧焼結体の外周部の研削加工処理の後工程として実施する。
すなわち、本発明では、上記加圧焼結体の外周部の研削加工処理の後に、HIP処理温度以下、典型的には1,000~1,600℃、好ましくは1,100~1,500℃にて、大気雰囲気、ないしは酸素雰囲気下で、酸化アニール処理を施すことが好ましい。該処理により、外周研削済の加圧焼結体について酸素欠損の回復、並びに外周ダメージ層の回復を同時に達成することが可能となる。
当該酸化アニール工程における保持時間は特に制限されないが、酸素欠損が回復するのに十分な時間以上で、かつ無駄に長時間処理して電気代を消耗しない時間内で選択されることが好ましい。一般的には酸素欠損の回復に要する時間のほうが、外周ダメージ層の回復に要する時間よりも長時間となるため、前記の酸素欠損が回復するのに十分な時間以上確保することで、外周ダメージ層は同時に回復する。当該酸化アニール処理により、完全に無色透明で、酸素欠陥も外周部ダメージ欠陥もない、真に透明な常磁性ガーネット型透明セラミックスを得ることができる。
なお、当該酸化アニール工程で上記範囲を外れる高温長時間の処理をしてしまうと、加圧焼結体内部の残存気泡のサイズや量が増加する場合があり、波長1,064nmにおける光学有効径内の消光比が全面にわたり40dB以上確保することが困難となるため好ましくない。ただし、このような場合には、当該加圧焼結体に再度HIP処理を施したうえで、改めて酸化アニール処理を施すと、加圧焼結体内部の残存気泡を再び低減することも可能である。
本発明では、平均焼結粒径(平均粒径)を10μm以上とした、外周研削済の加圧焼結体を、大気中又は酸素雰囲気中にて十分にアニール処理して酸素欠損による色中心吸収を完全に解消し、光路長15mm以上25mm以下の範囲で、波長1,064nmにおける光学有効面内の消光比を全面にわたって40dB以上に向上させた常磁性ガーネット型透明セラミックスが得られる。この場合、加圧焼結体の平均焼結粒径(平均粒径)が10μm以上のときに、酸化アニール処理を施すと、光学有効面内の全面で消光比40dB以上を確保することが容易となる。逆に、加圧焼結体の平均焼結粒径(平均粒径)が10μm未満、特に5μm未満のとき、酸化アニール処理しても消光比が40dB以上に向上しない領域が部分的に残る場合がある。
(光学研磨)
上記一連の製造工程を経た酸化アニール処理済の加圧焼結体について、その光学的に利用する軸上にある両端面を光学研磨することが好ましい。このときの光学面精度は測定波長λ=633nmの場合、λ/2以下が好ましく、λ/8以下が特に好ましい。さらに光学研磨面の表面キズ残り等を生じさせないために、必ずポリッシュ仕上げ面とすることが好ましい。
(反射防止コート)
続いて、上記光学研磨された両端面にさらに反射防止膜(ARコート)を成膜することが好ましい。当該処理により、得られる常磁性ガーネット型透明セラミックスの、利用しようとする波長での光学損失を最大限低減させることができるため好ましい。この際、光学両端面上に汚れが残らないよう、反射防止膜処理を施す前に入念に光学面を清浄に拭き洗浄し、実体鏡や顕微鏡などで清浄度を検査することが好ましい。更に当該拭き洗浄工程で光学面にキズをつけたり、汚れをこすり付けることのないよう、取扱い治具は柔らかい材質でできているものを、拭くものは低発塵性のものを選定することが好ましい。
以上の製造方法により、テルビウムとアルミニウムを含有したガーネット型複合酸化物の焼結体であって、長さ(光路長)15mm以上25mm以下での波長1,064nmにおける光学有効径内の平均損失係数が0.0017cm-1以下であって、同じく光学有効径内の挿入損失の最大値と平均値との差が0.02dB以下であり、かつ光学有効径内の消光比が全面にわたり40dB以上ある、波長1,064nmにおける出力が100W以上のハイパワーレーザーを入射しても光学品質が良好な常磁性ガーネット型透明セラミックスを提供することができる。
なお、「光学有効径」とは、透明セラミックスの光学面において光学的に有効な領域(光学有効領域)のことをいい、詳しくは、円柱形状の常磁性ガーネット型透明セラミックスの場合、その光学的に利用する軸上にある光学面(円形面)において光学的に利用できない端面外縁部を除いた領域をいい、ここでは光学面の面積率にして10%に相当する光学面外縁部を除いた領域、つまり光学面の外縁から内側に入った面積率にして90%の領域のことをいう。
本発明で得られる常磁性ガーネット型透明セラミックスにあっては、その平均焼結粒径(平均粒径)が10μm以上であることが好ましい。常磁性ガーネット型透明セラミックスの平均焼結粒径が10μmと大きくなると、それ未満の焼結粒径を持つ酸化物焼結体透明セラミックスに比べて、光学有効径内に存在する粒界面積が減少し、その結果、粒界散乱の絶対量が低減できるため好ましい。特に常磁性ガーネット型透明セラミックスの平均焼結粒径が10μm以上となる場合に、光学有効径内の平均損失係数を0.0017cm-1以下に低減できるため好ましい。なお、常磁性ガーネット型透明セラミックスの平均焼結粒径(平均粒径)の上限については特に制限はないが、上記条件で製造される場合、通常35μmである。
挿入損失は、波長1,064nmの10~20mWのレーザー光をビーム径200~350μmに集束させた状態で対象の常磁性ガーネット型透明セラミックスの光学面に対して垂直に(光学的に利用する軸方向に)入射して半導体受光器で光強度を測定し、このときの該セラミックスを挿入しない場合の光強度(入射光強度)を基準として、それに対する光強度の低下をdB単位で表現したものである。
挿入損失係数は、対象の常磁性ガーネット型透明セラミックスの光学面の光学有効領域(光学有効径)内の全域でレーザー光を入射する位置を一定ピッチで移動しながら挿入損失を測定し、得られた全測定点における挿入損失の平均値を算出し、この平均値を基に以下の式で算出したものである。このときのレーザー光の位置移動量はビーム径の半分程度(100μm)が好ましい。

平均損失係数(/cm)=(挿入損失の平均値)/10×(1cm/試料長(mm))/log10
本発明で得られる常磁性ガーネット型透明セラミックスは、平均焼結粒径(平均粒径)が10μm以上であり、上記酸化アニール処理により酸素欠損による色中心吸収を完全に解消されていることから、光路長15mm以上25mm以下の範囲で、波長1,064nmにおける光学有効面内の消光比が全面にわたって40dB以上に向上している。
また、本発明で得られる常磁性ガーネット型透明セラミックスは、上述のように加圧焼結仕上り径を規定したニアネットシェイプ型の加圧焼結体を用いるため、当該透明セラミックスの中心部にわたるすべての領域で残留気泡が十分に低減され、その結果、光路長15mm以上25mm以下の範囲で、波長1,064nmにおける光学有効面内の挿入損失の最大値と平均値との差が0.02dB以下に抑えられている。
更に、本発明で得られる常磁性ガーネット型透明セラミックスにあっては、全光線透過率が反射防止コート無しで84.4%以上である。なお、常磁性ガーネット型透明セラミックスは100W以上のハイパワーレーザーシステムヘ搭載することを視野に入れていることから、その光学両端面には反射防止コートを施すことが好ましい。この場合、反射防止コートにより、波長1,064nmにおける全光線透過率は99.8%以上となる。
なお、「全光線透過率」とは、積分球が設置された測定光路中にサンプルを置かずにブランク(空間)状態で測定した対象波長の透過スペクトル(光の強度)を100%とした場合における透明セラミックスサンプルを透過させた後の積分球で集光される対象波長のすべての光の合計強度の比率(全光線透過率)を意味する。すなわち、ブランク状態で測定した対象波長の光の強度(入射光強度)をI0、透明セラミックスサンプルを透過させた後の積分球による集光光の強度をIとした場合、I/I0×100(%)で表すことができる。
[磁気光学デバイス]
本発明では、得られた常磁性ガーネット型透明セラミックスを磁気光学材料として利用することを想定しているため、該常磁性ガーネット型透明セラミックスにその光学軸と平行に磁場を印加したうえで、偏光子、検光子とを互いにその光軸が45度ずれるようにセットして磁気光学デバイスを構成するように利用することが好ましい。すなわち、本発明で得られる常磁性ガーネット型透明セラミックスは、磁気光学材料として、磁気光学デバイス用途に好適であり、特に波長0.9~1.1μmの光アイソレータのファラデー回転子として好適に使用される。
図2は、本発明で得られる常磁性ガーネット型透明セラミックスからなるファラデー回転子を光学素子として有する光学デバイスである光アイソレータの一例を示す断面模式図である。図2において、光アイソレータ100は、本発明で得られる常磁性ガーネット型透明セラミックスからなるファラデー回転子110を備え、該ファラデー回転子110の前後には、偏光材料である偏光子120及び検光子130が備えられている。また、光アイソレータ100は、偏光子120、ファラデー回転子110、検光子130の順序で配置され、それらの側面のうちの少なくとも1面に磁石140が載置されていることが好ましい。
また、上記光アイソレータ100は産業用ファイバーレーザー装置に好適に利用できる。即ち、レーザー光源から発したレーザー光の反射光が光源に戻り、発振が不安定になるのを防止するのに好適である。
以下に、実施例及び比較例を挙げて、本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
[実施例1]
信越化学工業(株)製の酸化テルビウム粉末、酸化スカンジウム粉末、及び大明化学(株)製の酸化アルミニウム粉末を入手した。更にキシダ化学(株)製のオルトケイ酸テトラエチル(TEOS)の液体を入手した。純度は粉末原料がいずれも99.99質量%以上、液体原料が99.999質量%以上であった。
上記原料を用いて、混合比率を調整して仕上り組成がTb3Al512:Sc(1質量%)、Si(100ppm)となる酸化物出発原料を用意した。
続いて、用意した酸化物出発原料をエタノール中でアルミナ製ボールミル装置にて分散・混合処理した。処理時間は10時間であった。その後スプレードライ処理を行って、いずれも平均粒径が20μmの顆粒状原料を作製した。
得られた顆粒状原料を用いて、内径寸法がそれぞれ異なる一軸プレス用金型で一軸プレス成形を行い、円柱形状の成形体を作製した。ここでは、一軸プレス用金型の内径を成形体の直径として表1に示す。
続いて、それらプレス成形体について198MPaの圧力での静水圧プレス処理を施してCIP成形体を得た。得られた成形体をマッフル炉中で1,000℃、2時間の条件にて脱脂処理して表1に示す長さL0の各種成形体を準備した。
続いて、すべての脱脂済み成形体をまとめて真空加熱炉に仕込み、1,600℃、3時間で焼結処理した。この時の昇温レートは100℃/hであった。得られたサンプルの焼結相対密度はいずれも94.5%から99.0%の範囲におさまっていた。
得られた各焼結体をカーボンヒーター製HIP炉に仕込み、Ar中、200MPa、1,700℃、3時間の条件でHIP処理した。その結果、得られた各加圧焼結体はいずれも外見上はわずかに灰色化(酸素欠損吸収)していたが、いずれも透明な状態に仕上がっていた。こうして得られたそれぞれの透明な加圧焼結体につき、ノギスを用いて直径(外径寸法)と長さを測定した(表1)。その後、センタレス研削機にて外周を研削して、すべて直径5mm(公差+0/-0.05mm)に仕上げた。
こうして得られた研削加工済み加圧焼結体について、各々のロット管理をしながら酸素雰囲気炉にて、1,500℃で6時間の酸化アニール処理を行い、酸素欠損を回復させる処置を施した。いずれのサンプルも無色透明であった。
さらに、得られた各セラミックス焼結体を、すべて長さ15mmとなるように研削及び研磨処理し、次いでそれぞれのサンプルの光学両端面を光学面精度λ/8(測定波長λ=633nmの場合)で最終光学研磨して、常磁性ガーネット型透明セラミックスサンプルを得た。以上の加工結果を表1に示す。
Figure 2023064774000002
上記のようにして得られた各サンプルについて、平均焼結粒径(平均粒径)と、光学有効径内の平均挿入損失、挿入損失変動及び平均損失係数、並びに消光比面内最低値を以下のように測定した。
(平均焼結粒径(平均粒径)の測定方法)
平均焼結粒径(平均粒径)は、ツァイス製光学顕微鏡を使い、50倍の対物レンズを用いて光学研磨された各サンプルの表面の粒界にピントを合わせて撮影し、得られる各々の画像を印刷したうえで、それぞれの印刷画像の左斜め上端から右斜め下隅に直線を引き、その直線と交わるすべての表面粒子の交わっている長さをカウントし、最後にその合計値を、直線と交わる粒子の個数で割ることにより算出した。
(平均挿入損失、挿入損失変動及び平均損失係数の測定方法)
挿入損失は、NKT Photonics社製の光源と、コリメータレンズ、ワークステージ、Gentec社製のパワーメータ並びにGeフォトディテクタを用いて内製した光学系を用い、波長1,064nmの光をビーム径200μmφの大きさに絞って透過させたときの光の強度により測定され、以下の式に基づき、測定した。

挿入損失(dB/試料長;15mm)=-10×log10(I/I0
(式中、Iは透過光強度(長さ25mmのサンプルを直線透過した光の強度)、I0は入射光強度を示す。)

その上で、サンプルを載せるワークステージにオートステッピングモータで上下左右に動かせる機構を付与し、サンプルを端から端まで100μmピッチで動かしながら、前述の挿入損失測定を繰り返すことで、光学有効径面内全体の挿入損失分布を測定した。またこのとき、得られた全測定点における挿入損失データの平均値を算出し、その値と最大値との差を挿入損失変動として読み取った。
また、挿入損失データの平均値を元に、さらに以下の式を用いて平均損失係数も算出した。

平均損失係数(/cm)=(挿入損失の平均値)/10×(1cm/試料長;15mm)/log10
(消光比面内最低値の測定方法)
上述の挿入損失測定で用いた系に偏光子と検光子ユニットを追加装填した状態で、消光比面内最低値の測定を以下の構成で行った。すなわち、NKT Photonics社製の光源と、コリメータレンズ、偏光子、ワークステージ、検光子、Gentec社製のパワーメータ並びにGeフォトディテクタをこの順に光軸上に並べて内製した光学系を用い、波長1,064nmの光をビーム径200μmφと絞った状態でサンプル中を透過させ、この状態で検光子の偏光面を偏光子の偏光面と一致させた際の光の強度I0’(レーザー光強度として最大値)を測定し、続いて検光子の偏光面を90度回転して偏光子の偏光面と直交させた状態で再度受光強度I’(レーザー光強度として最小値)を測定したうえで、以下の式に基づいて計算により求めた。その上で、サンプルを載せるワークステージにオートステッピングモータで上下左右に動かせる機構を付与し、焼結体サンプルを端から端まで100μmピッチで動かしながら、該消光比測定を繰り返すことで、光学有効径面内全体の消光比を測定し、その中の最小値を消光比面内最低値とした。

消光比(dB/試料長;15mm)=-10×log10(I’/I0’)
以上の結果を表2にまとめて示す。
Figure 2023064774000003
以上の結果から、加圧焼結体の加圧焼結仕上り径D1と最終直径D2(φ5mm)との差分が1.5mm以下に抑えられた実施例では、いずれも平均損失係数が0.0017cm-1以下、挿入損失変動(光学有効径内の挿入損失の最大値と平均値との差)が0.020dB以下であり、消光比面内最低値(光学有効径内部の消光比の最小値)が40dB以上であることが確認された。
一方、加圧焼結体の加圧焼結仕上り径D1と最終直径D2(φ5mm)との差分が1.75mm以上の比較例では、いずれも平均損失係数が0.0021cm-1以上、挿入損失変動(光学有効径内の挿入損失の最大値と平均値との差)が0.030dB以上であり、消光比面内最低値(光学有効径内部の消光比の最小値)が40dBを下回ることが確認された。なお、比較例1-1では平均粒径が10μmを超えているが、平均損失係数と挿入損失変動、消光比が仕様を満たしていないことから、加圧焼結体の加圧焼結仕上り径D1と最終直径D2(φ5mm)との差分が1.75mm以上大きな場合、所望の常磁性ガーネット型透明セラミックスを得ることは困難であることが分かる。
[実施例2]
信越化学工業(株)製の酸化テルビウム粉末、酸化イットリウム粉末、酸化スカンジウム粉末、及び大明化学(株)製の酸化アルミニウム粉末を入手した。更にキシダ化学(株)製のオルトケイ酸テトラエチル(TEOS)の液体を入手した。純度は粉末原料がいずれも99.99質量%以上、液体原料が99.999質量%以上であった。
上記原料を用いて、混合比率を調整して仕上り組成が(Tb0.80.23Al512:Sc(1質量%)、Si(100ppm)となる酸化物出発原料を用意した。
続いて、用意した酸化物出発原料をエタノール中でアルミナ製ボールミル装置にて分散・混合処理した。処理時間は10時間であった。その後スプレードライ処理を行って、いずれも平均粒径が20μmの顆粒状原料を作製した。
得られた顆粒状原料を用いて、内径寸法がそれぞれ異なる一軸プレス用金型で一軸プレス成形を行い、円柱形状の成形体を作製した。ここでは、一軸プレス用金型の内径を成形体の直径として表3に示す。
続いて、それらプレス成形体について198MPaの圧力での静水圧プレス処理を施してCIP成形体を得た。得られた成形体をマッフル炉中で1,000℃、2時間の条件にて脱脂処理して表3に示す長さL0の各種成形体を準備した。
続いて、すべての脱脂済み成形体をまとめて真空加熱炉に仕込み、1,600℃、4時間で焼結処理した。この時の昇温レートは100℃/hであった。得られたサンプルの焼結相対密度はいずれも94.5%から99.0%の範囲におさまっていた。
得られた各焼結体をカーボンヒーター製HIP炉に仕込み、Ar中、200MPa、1,700℃、3時間の条件でHIP処理した。その結果、得られた各加圧焼結体はいずれも外見上はわずかに灰色化(酸素欠損吸収)していたが、いずれも透明な状態に仕上がっていた。こうして得られたそれぞれの透明な加圧焼結体につき、ノギスを用いて直径(外径寸法)と長さを測定した(表3)。その後、センタレス研削機にて外周を研削して、すべて直径5mm(公差+0/-0.05mm)に仕上げた。
こうして得られた研削加工済み加圧焼結体について、各々のロット管理をしながら酸素雰囲気炉にて、1,500℃で6時間の酸化アニール処理を行い、酸素欠損を回復させる処置を施した。いずれのサンプルも無色透明であった。
さらに、得られた各セラミックス焼結体を、すべて長さ20mmとなるように研削及び研磨処理し、次いでそれぞれのサンプルの光学両端面を光学面精度λ/8(測定波長λ=633nmの場合)で最終光学研磨して、常磁性ガーネット型透明セラミックスサンプルを得た。以上の加工結果を表3に示す。
Figure 2023064774000004
上記のようにして得られた各サンプルについて、平均焼結粒径(平均粒径)と、光学有効径内の平均挿入損失、挿入損失変動及び平均損失係数、及び並びに消光比面内最低値を実施例1と同様に測定した。なお、計算式中の試料長については、15mmを20mmに置き換えた。得られた結果を表4にまとめて示す。
Figure 2023064774000005
以上の結果から、加圧焼結体の加圧焼結仕上り径D1と最終直径D2(φ5mm)との差分が1.5mm以下に抑えられた実施例では、いずれも平均損失係数が0.0016cm-1以下、挿入損失変動(光学有効径内の挿入損失の最大値と平均値との差)が0.015dB以下であり、消光比面内最低値(光学有効径内部の消光比の最小値)が40dB以上であることが確認された。
一方、加圧焼結体の加圧焼結仕上り径D1と最終直径D2(φ5mm)との差分が1.75mm以上の比較例では、いずれも平均損失係数が0.0018cm-1以上、挿入損失変動(光学有効径内の挿入損失の最大値と平均値との差)が0.025dB以上あり、消光比面内最低値(光学有効径内部の消光比の最小値)が40dBを下回ることが確認された。
[実施例3]
信越化学工業(株)製の酸化テルビウム粉末、酸化イットリウム粉末、酸化スカンジウム粉末、及び大明化学(株)製の酸化アルミニウム粉末を入手した。更にキシダ化学(株)製のオルトケイ酸テトラエチル(TEOS)の液体を入手した。純度は粉末原料がいずれも99.99質量%以上、液体原料が99.999質量%以上であった。
上記原料を用いて、混合比率を調整して仕上り組成が(Tb0.650.353Al512:Sc(1質量%)、Si(100ppm)となる酸化物出発原料を用意した。
続いて、用意した酸化物出発原料をエタノール中でアルミナ製ボールミル装置にて分散・混合処理した。処理時間は10時間であった。その後スプレードライ処理を行って、いずれも平均粒径が20μmの顆粒状原料を作製した。
得られた顆粒状原料を用いて、内径寸法がそれぞれ異なる一軸プレス用金型で一軸プレス成形を行い、円柱形状の成形体を作製した。ここでは、一軸プレス用金型の内径を成形体の直径として表5に示す。
続いて、それらプレス成形体について198MPaの圧力での静水圧プレス処理を施してCIP成形体を得た。得られた成形体をマッフル炉中で1,000℃、2時間の条件にて脱脂処理して表5に示す長さL0の各種成形体を準備した。
続いて、すべての脱脂済み成形体をまとめて真空加熱炉に仕込み、1,600℃、5時間で焼結処理した。この時の昇温レートは100℃/hであった。得られたサンプルの焼結相対密度はいずれも94.5%から99.0%の範囲におさまっていた。
得られた各焼結体をカーボンヒーター製HIP炉に仕込み、Ar中、200MPa、1,700℃、3時間の条件でHIP処理した。その結果、得られた各加圧焼結体はいずれも外見上はわずかに灰色化(酸素欠損吸収)していたが、いずれも透明な状態に仕上がっていた。こうして得られたそれぞれの透明な加圧焼結体につき、ノギスを用いて直径(外径寸法)と長さを測定した(表5)。その後、センタレス研削機にて外周を研削して、すべて直径5mm(公差+0/-0.05mm)に仕上げた。
こうして得られた研削加工済み加圧焼結体について、各々のロット管理をしながら酸素雰囲気炉にて、1,500℃で6時間の酸化アニール処理を行い、酸素欠損を回復させる処置を施した。いずれのサンプルも無色透明であった。
さらに、得られた各セラミックス焼結体を、すべて長さ25mmとなるように研削及び研磨処理し、次いでそれぞれのサンプルの光学両端面を光学面精度λ/8(測定波長λ=633nmの場合)で最終光学研磨して、常磁性ガーネット型透明セラミックスサンプルを得た。以上の加工結果を表5に示す。
Figure 2023064774000006
上記のようにして得られた各サンプルについて、平均焼結粒径(平均粒径)と、光学有効径内の平均挿入損失、挿入損失変動及び平均損失係数、及び並びに消光比面内最低値を実施例1と同様に測定した。なお、計算式中の試料長については、15mmを25mmに置き換えた。得られた結果を表6にまとめて示す。
Figure 2023064774000007
以上の結果から、加圧焼結体の加圧焼結仕上り径D1と最終直径D2(φ5mm)との差分が1.5mm以下に抑えられた実施例では、いずれも平均損失係数が0.0016cm-1以下、挿入損失変動(光学有効径内の挿入損失の最大値と平均値との差)が0.010dB以下であり、消光比面内最低値(光学有効径内部の消光比の最小値)が40dB以上であることが確認された。
一方、加圧焼結体の加圧焼結仕上り径D1と最終直径D2(φ5mm)との差分が2.5mm以上の比較例3-2、3-3では、いずれも平均損失係数が0.0025cm-1以上、挿入損失変動(光学有効径内の挿入損失の最大値と平均値との差)が0.035dB以上であり、消光比面内最低値(光学有効径内部の消光比の最小値)が40dBを下回ることが確認された。なお、加圧焼結体の加圧焼結仕上り径D1と最終直径D2(φ5mm)との差分が1.75mmの比較例3-1については、消光比面内最低値が40dBを超えていたが、平均粒径が10μmを下回っており、また平均損失係数が0.0019cm-1以上で、かつ、挿入損失変動が0.025dBであったため、所望の光学仕様を満足することは困難であると判定した。
なお、これまで本発明を上述した実施形態をもって説明してきたが、本発明はこれら実施形態に限定されるものではなく、他の実施形態、追加、変更、削除など、当業者が想到することができる範囲内で変更することができ、いずれの態様においても本発明の作用効果を奏する限り、本発明の範囲に含まれるものである。
10、90 加圧焼結体
11、91 常磁性ガーネット型透明セラミックス
100 光アイソレータ
110 ファラデー回転子
120 偏光子
130検光子
140 磁石
D1、D1’ 加圧焼結仕上り径
D2 最終直径
t、t’ 削り代

Claims (9)

  1. 少なくともテルビウムとアルミニウムを含有するガーネット型複合酸化物の焼結体であって、焼結助剤としてSiO2を0質量%超0.1質量%以下含有する円柱形状の焼結体について加圧焼結し、更にこの加圧焼結体について酸化アニール処理を行う常磁性ガーネット型透明セラミックスの製造方法において、
    上記加圧焼結体を加圧焼結仕上り径が最終的に得られる常磁性ガーネット型透明セラミックスの最終直径に対して+0.1mm以上1.5mm以下であるニアネットシェイプ型の加圧焼結体とし、該加圧焼結体についてその直径が上記最終直径となるように研削した後、上記酸化アニール処理を行うことを特徴とする常磁性ガーネット型透明セラミックスの製造方法。
  2. 上記ガーネット型複合酸化物が、更にイットリウムを含有する請求項1に記載の常磁性ガーネット型透明セラミックスの製造方法。
  3. 得られる常磁性ガーネット型透明セラミックスの平均粒径が10μm以上である請求項1又は2に記載の常磁性ガーネット型透明セラミックスの製造方法。
  4. 上記ニアネットシェイプ型の加圧焼結体の光学軸方向の加圧焼結仕上り長さが最終的に得られる常磁性ガーネット型透明セラミックスの光学軸方向の最終長さに対して+0.5mm以上である請求項1~3のいずれか1項に記載の常磁性ガーネット型透明セラミックスの製造方法。
  5. 上記最終的に得られる常磁性ガーネット型透明セラミックスの最終直径が3.6~8mmである請求項1~4のいずれか1項に記載の常磁性ガーネット型透明セラミックスの製造方法。
  6. 少なくともテルビウムとアルミニウムを含有するガーネット型複合酸化物からなり、焼結助剤としてSiO2を0質量%超0.1質量%以下含有する円柱形状の焼結体であって、加圧焼結仕上り径が最終的に得られる常磁性ガーネット型透明セラミックスの最終直径に対して+0.1mm以上1.5mm以下となったニアネットシェイプ型の常磁性ガーネット型透明セラミックス製造用加圧焼結体。
  7. 上記ガーネット型複合酸化物が、更にイットリウムを含有する請求項6に記載の常磁性ガーネット型透明セラミックス製造用加圧焼結体。
  8. 光学軸方向の加圧焼結仕上り長さが最終的に得られる常磁性ガーネット型透明セラミックスの光学軸方向の最終長さに対して+0.5mm以上である請求項6又は7に記載の常磁性ガーネット型透明セラミックス製造用加圧焼結体。
  9. 上記最終的に得られる常磁性ガーネット型透明セラミックスの最終直径が3.6~8mmである請求項6~8のいずれか1項に記載の常磁性ガーネット型透明セラミックス製造用加圧焼結体。
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