JP2023059627A - 金属部材及び金属樹脂接合体並びにそれらの製造方法 - Google Patents

金属部材及び金属樹脂接合体並びにそれらの製造方法 Download PDF

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正憲 遠藤
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優太 遠藤
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Abstract

【課題】高い接合強度を有して、かつ十分な気密性を備えた金属樹脂接合体及びそれを得るための金属部材を提供する。【解決手段】金属製の金属基材と、前記金属基材の表面に形成された凹凸部を有するマーキングパターンとを備え、前記マーキングパターンは、1本の連続した直線又は曲線からなり、複数の前記マーキングパターンは、互いに隣接して並走するように形成されており、複数の前記マーキングパターンの走行方向に対して直交する方向において、前記凹凸部による凹凸の最大高さ粗さRzと、前記凹凸部による凹凸の平均間隔Rsmとが、45≦(180/π)×Arctan(Rz/(Rsm/2))≦75となる関係を有する金属部材であり、この金属部材の表面に成形された樹脂成形体を備えた金属樹脂接合体である。【選択図】図1

Description

この発明は、特定の接合面を備えた金属部材、及び当該金属部材と樹脂成形体との接合体、並びにそれらの製造方法に関する。
近年、自動車の各種センサー部品、家庭電化製品部品、産業機器部品等の分野では、放熱性や導電性が非常に高い銅又は銅合金からなる銅基材や、放熱性が高く、かつ、他金属と比較して軽量なアルミニウム又はアルミニウム合金からなるアルミ基材などの金属製材料と、絶縁性能が高く、軽量でしかも安価である樹脂成形体とを一体に接合した金属樹脂接合体が幅広く用いられるようになり、また、その用途が拡大している。
そして、従来においては、このような異種材質である金属製材料と樹脂成形体とを互いに一体的に接合した金属樹脂接合体を製造するための工業的に好適な方法として、金属製材料を射出成形用金型内にインサートし、このインサートされた金属製材料の表面に向けて溶融した熱可塑性樹脂を射出し、熱可塑性樹脂の射出成形により樹脂成形体を成形する際に同時に金属製材料と樹脂成形体との間を接合する方法が開発され、より安価に、また、接合強度をより向上させるための幾つかの方法が提案されている。
例えば、本発明者らによれば、金属基材の表面に特定の処理を行うことにより、金属基材の表面に酸素を含有する酸素含有皮膜を形成し、この形成された酸素含有皮膜を介して、樹脂成形体を接合される技術を提案してきた(例えば、特許文献1~3)。これらの技術は、それ以前において提案されていた表面処理技術で問題となっていた金属部品や装置の腐食や、或いは、周辺の環境の汚染のおそれが少ない方法であって、一定の接合強度や気密性を得られるものであった。しかしながら、酸素含有皮膜を形成するために水和酸化物皮膜や亜鉛含有皮膜を形成する湿式処理する場合は、マクロ凹凸部が形成されないために樹脂接合体の接合強度が不十分であることから、処理方法の更なる改善の余地があった。これに対して、特許文献1~3の方法においてレーザー光を用いた場合には、マクロ凹凸部を形成することができる点で有利ではあるが、レーザー発振器固有のスポット径(ビーム径)に対して、照射間隔(ピット幅)が等しいあるいは小さくなる条件で実施されていた。この場合、所定のマクロ凹凸部が形成されず、結果として、接合強度の低下を引き起こし、気密性担保も困難になるケースがあったために、これについても更なる改善の余地があった。
一方で、前述のとおり、金属樹脂接合体を形成する方法として、金属製材料の表面をレーザー光で処理する技術がいくつか提案されている。
例えば、特許文献4では、金属/樹脂複合構造体について、金属部材の表面上の平行関係にある任意の3直線部、および当該3直線部と直交する任意の3直線部からなる合計6直線部について、JIS B0601に準拠して測定される表面粗さを測定して、表面粗さが切断レベル20%評価長さ4mmにおける粗さ曲線の負荷長さ率(Rmr)が30%以下である直線部を1直線以上含むようにすることが記載されている。すなわち、金属部材の表面に、鋭利な角のある凹凸形状が形成されることで、高い接合強度に加えて、気密性や水密性に優れるようになることが記載されている。
また、特許文献5では、異種材料と金属材料とが接合した界面において、レーザースキャニング加工時に金属表面に複数の溝部を有する接合部が形成されるようにして、この接合部について、溝部に対して垂直方向に切断した断面視において、溝部における溝幅をW、溝深さをH、レーザースキャンニング加工時に形成される溝部面積をA、及び、レーザースキャンニング加工時に溝部の両側辺の面上に形成されるバリからなる凸部面積をB、Cとしたときに、これらの面積比が所定の範囲になるようにすることが記載されている。すなわち、金属成形体に形成される細孔について、金属成形体の表面からの溝幅が、金属成形体の表面から深くなっていくにしたがってほぼ同じ幅の場合に、気密性を満たすことができるとしている。また、レーザースキャンニング加工時の彫り込み量及び彫り込んだ質量部分が、溝部周辺の凸部(バリ)形状として密着性の向上に寄与することを記載している。
更に、特許文献6では、金属表面に対して、一つの走査方向にレーザースキャニングする工程と、それにクロスする走査方向にレーザースキャニングする工程により、金属表面に対して樹脂と接合するための接合部を形成するためのレーザー加工条件が開示されている。これにより、当該接合部を凹凸形状としつつも、好適には、その一部を、凸部同士がつながってアーチ状になり下部に孔があいている「ブリッジ形状」として形成したり、或いは、凸部が「オーバーハング」してきのこ状・杉の木状に形成したりすることにより、接合部において異種材料とのアンカー効果を高めることができるとしている。
特許第6004046号公報 特許第6017675号公報 特許第6387301号公報 特許第5714193号公報 特許第5816763号公報 特許第4020957号公報
特許文献4では、金属部材の表面の凹凸形状の鋭利性について着目しており、特許文献5では、金属材料に形成される細孔とバリの形状について着目がなされているが、いずれも気密性を確保するためのさらなるアプローチが求められている。また、特許文献6では、必ずクロスする2つの方向に対してレーザースキャンする必要があるため、加工時間が長く掛かりすぎるという点で改善の余地があり、加えて、好適な形状としている「ブリッジ形状」の下部にはレーザー未照射部(未処理部)が存在するため、接合強度および気密性が低下するおそれがある。
本発明の目的は、高い接合強度を有し十分な気密性を担保できるような金属樹脂成形体及びそれを得るための金属部材並びにそのような金属樹脂成形体及び金属部材の製造方法を提供することである。
すなわち、本発明の要旨は以下のとおりである。
[1]金属製の金属基材と、前記金属基材の表面に形成された凹凸部を有するマーキングパターンとを備え、
前記マーキングパターンは、1本の連続した直線又は曲線からなり、
複数の前記マーキングパターンは、互いに隣接して並走するように形成されており、
複数の前記マーキングパターンの走行方向に対して直交する方向において、前記凹凸部による凹凸の最大高さ粗さRzと、前記凹凸部による凹凸の平均間隔Rsmとが、45≦(180/π)×Arctan(Rz/(Rsm/2))≦75となる関係を有することを特徴とする金属部材。
[2]複数の前記マーキングパターンの走行方向に対して直交する方向において、前記凹凸部の算術平均粗さRaと、前記凹凸部による凹凸の平均間隔Rsmとが、2.5≦Rsm/Ra≦9.5となる関係を有する[1]に記載の金属部材。
[3]前記金属基材の表面には、前記マーキングパターンの中央部において表面から深さ方向に向けて凹状に形成される凹部と、前記マーキングパターンの周辺部において表面から高さ方向に向けて凸状に形成される凸部とからなる前記凹凸部が形成されており、
前記金属部材の表面において、互いに隣接する前記マーキングパターンに挟まれる領域には、互いに隣接する前記マーキングパターンにそれぞれ含まれる前記凸部同士が接触して一体化するように形成されており、前記金属基材が露出する未処理部が形成されていないことを特徴とする[1]又は[2]に記載の金属部材。
[4]前記金属は、アルミニウム、銅、鉄又はこれらの各金属を含む合金であることを特徴とする[1]~[3]のいずれかに記載の金属部材。
[5][1]~[4]のいずれかに記載の金属部材と、前記金属部材の表面に成形された樹脂成形体とを備え、
前記金属部材と前記樹脂成形体とは、前記マーキングパターンの前記凹凸部に樹脂が入り込んだ状態で接合されていることを特徴とする金属樹脂接合体。
[6]前記樹脂成形体は、熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂を含むものであることを特徴とする[5]に記載の金属樹脂接合体。
[7]金属製の金属基材の表面へのレーザー光の照射によって、前記金属基材の表面に前記レーザー光の照射軌跡に沿って連続する凹凸部を有するマーキングパターンを形成する照射工程を備え、
前記金属基材の表面に複数の前記マーキングパターンが形成された金属部材を製造する金属部材の製造方法であって、
前記マーキングパターンは、1本の連続した直線又は曲線からなり、
前記照射工程において、隣接する部位への前記レーザー光の照射によって、互いに隣接して並走する複数の前記マーキングパターンを形成し、
複数の前記マーキングパターンの前記照射軌跡に対して直交する方向において、前記凹凸部による凹凸の最大高さ粗さRzと、前記凹凸部による凹凸の平均間隔Rsmとが、45≦(180/π)×Arctan(Rz/(Rsm/2))≦75となる関係を有することを特徴とする金属部材の製造方法。
[8]複数の前記マーキングパターンの走行方向に対して直交する方向において、前記凹凸部の算術平均粗さRaと、前記凹凸部による凹凸の平均間隔Rsmとが、2.5≦Rsm/Ra≦9.5となる関係を有する[7]に記載の金属部材の製造方法。
[9]前記金属基材の表面には、前記レーザー光が照射された箇所の前記金属が前記レーザー光の照射中心部から外方に向けて拡散することで形成される凹部と、前記凹部から拡散した前記金属が前記凹部の周囲に集積することで形成される凸部とからなる前記凹凸部が形成されており、
前記金属部材の表面において、互いに隣接する前記マーキングパターンに挟まれる領域には、互いに隣接する前記マーキングパターンにそれぞれ含まれる前記凸部同士が接触して一体化するように形成されており、前記レーザー光の照射前の前記金属基材が露出する未処理部が形成されていないことを特徴とする[7]又は[8]に記載の金属部材の製造方法。
[10]前記金属は、アルミニウム、銅、鉄又はこれらの各金属を含む合金であることを特徴とする[7]~[9]のいずれかに記載の金属部材の製造方法。
[11][7]~[10]のいずれかに記載の製造方法によって得られた金属部材の表面に、樹脂成形体を形成する樹脂成形工程を備え、
前記金属基材と前記樹脂成形体とが接合された金属樹脂接合体を製造する金属樹脂接合体の製造方法であって、
前記樹脂成型工程では、前記金属部材と前記樹脂成形体とを、前記マーキングパターンの前記凹凸部に樹脂が入り込んだ状態で接合させることを特徴とする金属樹脂接合体の製造方法。
[12]前記樹脂成型工程において、前記金属部材上に熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂を含む樹脂組成物を用いて成形することを特徴とする[11]に記載の金属樹脂接合体の製造方法。
本発明の金属部材および金属樹脂接合体は、金属部材と樹脂成形体との接合強度および気密性を向上させることができる。
図1は、レーザー光のビーム径と照射間隔との関係を示す模式図である。 図2は、金属部材の凹部のx軸成分とy軸成分とを最大高さ粗さRzと平均間隔Rsmとで整理した様子を説明するための模式図である。 図3は、実施例5の金属部材について、マーキングパターンの走行方向に対して直交する方向に測定した粗さ曲線である。 図4は、実施例5の金属部材に樹脂成形体を接合した金属樹脂接合体のSEMによる接合断面の観察結果(200倍)である。 図5は、比較例7の金属部材について、マーキングパターンの走行方向に対して直交する方向に測定した粗さ曲線である。 図6は、比較例7の金属部材に樹脂成形体を接合した金属樹脂接合体のSEMによる接合断面の観察結果(200倍)である。 図7(a)は、平板状の金属基材の一端に接合面を形成した様子を示すものであり、図7(b)は、その接合面におけるマーキングパターンの一例(縞模様)を示すものである。 図8(a)は、円盤状の金属基材において、その開口部を縁取るように接合面を形成した様子を示すものであり、図8(b)は、その接合面におけるマーキングパターンの一例(同心円模様)を示すものである。 図9は、接合強度評価(1)(せん断試験)の概要を説明するための図である。 図10は、接合強度評価(2)(せん断試験)の概要を説明するための図である。 図11は、金属樹脂接合体の気密性の評価の概要を説明するための図である。 図12は、金属樹脂金属接合体の気密性の評価の概要を説明するための図である。 図13は、接合強度評価の金属樹脂接合体の概要を示すための図である。 図14は、気密性の評価の金属樹脂接合体の概要を示すための図である。 図15は、実施例10に係る、接合強度評価の金属樹脂金属接合体の概要を示すための図である。 図16は、実施例10に係る、気密性の評価の金属樹脂金属接合体の概要を示すための図である。 図17は、比較例4で得られた金属樹脂接合体のSEMによる断面の観察結果(500倍)である。 図18は、比較例9得られた金属樹脂接合体のSEMによる断面の観察結果(500倍)である。 図19は、実施例5で得られた金属樹脂接合体のSEMによる断面の観察結果(500倍)である。
以下、本発明の金属部材、金属樹脂接合体について、その製造方法と共に詳しく説明する。本発明の以下に説明する構成要素は、一部又は全部を適宜組み合わせることができる。
[1.金属部材および金属樹脂接合体]
本発明の金属部材は、金属製の金属基材と、前記金属基材の表面に形成された凹凸部を有するマーキングパターンとを備えており、この金属部材は、その表面に接合対象物を接合させて用いることができる。また、本発明の金属樹脂接合体は、金属部材と、金属部材の表面に樹脂成形体とを備えている。
[1-1.金属部材]
<金属基材>
先ず、本発明の金属部材に使用する金属製の金属基材については、銅又は銅合金からなる銅基材や、鉄又は鉄合金からなる鉄基材や、アルミニウム又はアルミニウム合金からなるアルミ基材等、素材は制限されるものではなく、これを用いて形成される金属樹脂接合体の用途やその用途に要求される強度、耐食性、加工性等の種々の物性に基づいて決めることができる。また、所望の形状に適宜加工して得られる加工材、更にはこれらの加工材を適宜組み合わせて得られる組合せ材等が挙げられる。また、使用する用途にもよるが、通常はその厚みが0.3mm~10mm程度のものを用いる。通常、金属基材の表面には、酸化皮膜が形成されている。酸化皮膜は、大気中で自然に形成される自然酸化皮膜であってもよく、陽極酸化によって形成される陽極酸化皮膜であってもよい。また、熱間圧延によって形成される圧延酸化皮膜であってもよい。
<接合対象物>
金属部材との接合対象物としては、金属部材と接合可能な材料であれば特に限定されない。接合対象物は、金属部材を形成する金属基材の融点よりも低い温度で接合可能な材料を用いること好ましい。このような接合対象物は、好適には、樹脂材料からなる樹脂成形体である。樹脂成形体については後述する。
<接合面>
金属部材に接合対象物を接合させるために、金属部材は接合面を有する。この接合面を形成するにあたって、金属基材の一面の一部だけでもよいし、一面の全部や、或いは、両面の一部又は全部などでもよく、使用する用途などに応じて、必要な部分に接合面が形成されればよい。また、接合面の形状、大きさ、配置等についても特に限定されない。組合せ材などの場合においても同様である。なお、本開示において、「接合面」とは、金属基材と樹脂との接合が予定されている領域であって、樹脂との接合のために金属基材の表面に所定の処理が施された領域を称呼するものとする。これに対して、金属基材と樹脂とが接合した領域を「接合部」と称呼して区別する。
<マーキングパターン>
マーキングパターンは、レーザー光の照射軌跡に沿って連続して金属基材の表面に形成されるが、照射工程におけるマーキングパターンの形成原理は概ね次のとおりである。すなわち、金属基材にレーザー照射が行われると、レーザー照射によるエネルギーによって金属基材が溶融・拡散・蒸発するが、照射中心部から外方に向けて金属が拡散・蒸発されて穿孔されることでその空間が凹部の基となり、その凹部の両側(両隣)のレーザーが照射されない部分が凸部の基となる。それと同時に、溶融した金属部分は一部又は全部が酸化されて金属酸化物となり、これが凹部となる照射部の周辺に拡散されて堆積して固化することにより、凸部が形成される。マーキングパターンに挟まれる領域には、互いに隣接するマーキングパターンのそれぞれ含まれる凸部どうしが接触して一体化するように凸部が形成されていることが好ましく、金属部材の表面においては、後述のレーザー未照射部に相当する金属基材の露出部(未処理部)が生じないようにすることが好ましい。金属酸化物からなる堆積物は、凹部と凸部を覆って皮膜状に形成される。このように、金属基材の表面に形成された金属酸化物からなる堆積物によって、凹凸部の凹凸形状を形作る金属溶融層が形成される。つまり、マーキングパターンは、レーザー光の照射軌跡においてこのような凹凸部(凹凸形状)を有する金属酸化物からなる堆積物(金属溶融層)が、レーザー光の照射軌跡に沿って連続して存在することよって形成されている。レーザー照射が互いに隣接して行われる場合には、凹部と凸部とが隣接して繰り返すような繰り返し構造を有するようになる。
なお、マーキングパターンにおけるこのような金属溶融層の形成状態の確認方法としては、例えば、アルカリエッチング処理により金属溶融層を溶解させることにより、溶解しない金属基材と判別して確認することができる。また、金属酸化物は少なくとも多少の部分的イオン性を持っており、金属酸化物の新性表面には金属イオン(Al3+)と酸化物イオン(O2-)が存在している。静電的中和性から、空気中の水分と反応することで、金属溶融層の表面に存在する金属酸化物の水酸基化が起こり、金属溶融層の表面は水酸基で覆われることになる。マーキングパターンにおける金属溶融層の最表層には、水酸基を含有する水酸基含有皮膜が形成される。
ここで、前記のとおり、金属部材にレーザー照射を受けないレーザー未照射部(未処理部)が存在している場合には、レーザー未照射部にはマーキングパターンが存在しておらず、凹凸部を形作る金属溶融層も存在してない。通常、レーザー未照射部には、酸化皮膜が形成されている。レーザー未照射部は、凹凸部を有さないために、通常は平坦であることから、その部分に樹脂などを接合すると凹凸部に起因する機械的接合による接合強度の向上が期待できず、また、平坦であるために空隙も生じやすいことから気密性の向上も期待できない。したがって、接合面にレーザー未照射部が残存しており、接合面の全体にマーキングパターンが形成されていない場合には、凹凸部を形作る金属溶融層が存在しないことから、金属樹脂接合体の接合強度が低下し、接合界面での破壊が起こるおそれがある。そのため、本発明においては、金属部材における接合面の全面にわたってマーキングパターンが形成されていることが好ましい。なお、レーザー未照射部には前記した水酸基含有皮膜も存在しないことから、水酸基に起因する化学的接合による相互作用の発揮も期待できない。
マーキングパターンは、前記のとおり、レーザー光の照射を受けて金属基材が穿孔されることで生じる凹部と、レーザー光の照射によって生じた金属酸化物の堆積物からなる凸部とからなる構造を有している。このような凹凸部は、金属部材の表面または断面を、例えば、走査電子顕微鏡(Scanning Electron Microscopy:SEM)を用いて観察することで確認することができる。凹凸部の構造については後記する。
本発明において、マーキングパターンは1本の連続した線からなるようにする。すなわち、マーキングパターンは、連続せずに途切れたり、2本以上の線が交差したりしないことが好ましい。マーキングパターンは、直線からなるものであってもよく、曲線からなるものであってもよく、または、直線と曲線を組み合わせてなるものであってもよい。このようなマーキングパターンの複数が互いに隣接して並走するように形成され、しかも、それにより所定の凹凸部が設けられることで、本発明に係る金属部材の接合面を形成する。すなわち、複数のマーキングパターンの走行方向に対して直交する方向において、凹凸部による凹凸の最大高さ粗さRzと、凹凸部による凹凸の平均間隔Rsmとが下記の関係式(1)を満たすようにする。具体的には、金属基材の表面へのレーザー光の照射によって、そのレーザー光の照射軌跡に沿って連続する凹凸部を有するマーキングパターンを形成する照射工程において、隣接する部位へのレーザー光の照射によって互いに隣接して並走する複数のマーキングパターンを形成した際、それらマーキングパターンの照射軌跡に対して直交する方向において、凹凸部による凹凸の最大高さ粗さRzと、凹凸部による凹凸の平均間隔Rsmとが関係式(1)を満たすようにする。
45≦(180/π)×Arctan(Rz/(Rsm/2))≦75 ・・・(1)
ここで、凹凸の最大高さ粗さRzと凹凸の平均間隔Rsmは、ともにJIS B 0601-2001に準拠して測定される表面粗さであり、Rzは、基準長さ毎の最低谷底から最大山頂までの高さ(最高高さ)を表し、Rsmは、粗さ曲線が平均点と交差する交点から求めた山谷-周期の間隔の平均値(粗さ曲線要素の平均長さ)を表す。本発明では、図1に示したように、レーザー光の軌跡6と、当該レーザーと隣接して照射される他のレーザー光の軌跡6’とが並走するようにして、2以上のマーキングパターンを形成した際に、これらのマーキングパターンの照射軌跡に対して直交する方向2(走査方向3に直交する方向)に形成される凹部に着目する。
詳しくは、図2に示すように、凹部の形状を三角形に近似した場合に、当該三角形の底面と斜辺とでなす角度が角度θとなる。具体的には、凹部の形状を、凹部の最深点を頂点として、凹部の両側に位置する各凸部の頂部付近を金属基材の表面に対して平行になるように結んだ底面と、頂点と底面の両端部とを結んだ二つの斜辺とを備える、三角形と近似することができる。さらに、頂点から底辺に向けて垂直な線分を三角形の高さ方向に引いた場合に、この線分によって凹部を近似した三角形を二分することができる。角度θは、この片側の三角形の底面と斜辺とでなす角度を表している。このように、凹部をx軸成分とy軸成分とに分離すれば、Rz/(Rsm/2)=tanθとなり、形成される凹部を角度θで整理することができる。すなわち、凹部のx軸成分の要素は表面粗さRsmとして測定した結果を用いて、凹部のy軸成分の要素は表面粗さRzとして測定した結果を用いて整理できる。
前記の関係式(1)における(180/π)×Arctan(Rz/(Rsm/2))は、図2に示したように凹部の角度θを表す。角度θが小さい場合には、凹部を近似した三角形の頂点の角度が大きくなり、凹部が浅くなだらかな形状となる傾向にある。また、角度θが大きい場合には、凹部を近似した三角形の頂点の角度が小さくなり、凹部が深く尖った形状となる傾向にある。
最大高さ粗さRzと平均間隔Rsmとで表される角度θが下限値以上であることで、凹部の開口部の幅に対して凹部の深さが過度に小さくなって、凹部が浅い形状となり、凹部に樹脂が流入しても金属部材と樹脂との相互作用が弱まるような形状となってしまうことを防ぐことができる。また、最大高さ粗さRzと平均間隔Rsmとで表される角度θが上限値以下であることで、凹部の開口部の幅に対して凹部の深さが過度に大きくなって、凹部が深さ方向に向けて急峻に狭まる極細い形状となり、凹部の深部まで樹脂が流入し難くなってしまうような形状となることを防ぐことができる。したがって、凹部の深部まで樹脂が流入することで溝と樹脂との間に生じる空隙の発生を抑え、凹部の深部でも樹脂との化学的接合が保たれることで、気密性が向上しやすくなる。このように、最大高さ粗さRzを利用することで、最も深い(最も尖った)形状の凹部の角度θを評価して、この凹部に起因して生じうる接合強度の低下や気密性の欠如を評価することができる。
また、本発明において、好ましくは、複数のマーキングパターンの走行方向に対して直交する方向において、凹凸部の算術平均粗さRaと、凹凸部による凹凸の平均間隔Rsmとが、更に下記の関係式(2)を満たすのがよい。
2.5≦Rsm/Ra≦9.5 ・・・(2)
先の関係式(1)における最大高さ粗さRzは、凹凸部における最大高さと最大深さの差に着目することから、一部の最大値を評価するものである。最大高さ粗さRzのみによる評価を行った場合には、範囲内に存在する最も高い凸部と最も低い凸部との形状を評価することができるが、それら以外の凹凸形状を反映した評価を行うことができない。これに対して、算術表面粗さRaは全体の粗さを評価するものであることから、範囲内に存在する最も高い凸部と最も低い凸部とのそれ以外の部分も含めて形状を評価することができる。したがって、最大高さ粗さRzと算術表面粗さRaとを含んだ関係式(2)を利用することで、凹凸部における部分的な不具合まで評価することが可能になる。なお、算術表面粗さRaについてもJIS B 0601-2001に準拠して測定される表面粗さである。
算術表面粗さRaは、凹凸部による凹凸の大きさを表しているのに対して、粗さ曲線要素の平均長さRsmは、凹凸部による凹凸の長さ(間隔)を表している。すなわち、凹凸のx軸成分の要素は表面粗さRsmとして測定した結果を用いて、凹凸のy軸成分の要素は算術表面粗さRaとして測定した結果を用いることによっても整理できる。Rsm/Raが小さい場合には、凹凸の大きさに対して凹凸の間隔が相対的に小さく、凹凸が密に形成されている傾向にある。あるいは、Rsm/Raが小さい場合には、凹凸の間隔に対して凹凸の大きさが相対的に大きく、凹凸の変化が大きくなっており、細長い形状の凹部が形成されている傾向にある。また、Rsm/Raが大きい場合には、凹凸の大きさに対して凹凸の間隔が相対的に大きく、凹凸が比較的に粗に形成されている傾向にある。また、Rsm/Raが大きい場合には、凹凸の間隔に対して凹凸の大きさが相対的に小さく、凹凸の変化が小さくなっており、浅い形状の凹部が形成されている傾向にある。
さらに、複数のマーキングパターンが離隔して形成されることで金属部材に未照射部が存在している場合には、マーキングパターンの凹凸形状に挟まれた金属基材に由来する未照射部による平坦部分が存在することになる。複数のマーキングパターンが互いに隣接して形成されることで金属部材に未照射部が残存していない場合には、マーキングパターンによる凹凸部が繰り返し存在していることで、算術表面粗さRaが大きくなる傾向にある。これに対して、未照射部が存在している場合には、凹凸部に加えて、平坦部分が含まれることよる影響を受けて、算術表面粗さRaが小さくなる傾向にある。したがって、未照射部が存在している場合には、Rsm/Raが大きくなる傾向にある。
Rsm/Raが下限値以上であることで、凹部の開口部の幅に対して凹部の深さが過度に大きくなって、凹部が深さ方向に向けて急峻に狭まる極細い形状となり、凹部の深部まで樹脂が流入し難く、気密性が低下しやすい形状となることを防ぐことができる。また、Rsm/Raが上限値以下であることで、凹部の開口部の幅に対して凹部の深さが過度に小さくなって、凹部が浅い形状となり、凹部に樹脂が流入しても金属部材と樹脂との相互作用が弱まるような形状となることを防ぐことができる。さらに、Rsm/Raが上限値以下であることで、凹凸部が離隔して形成されて、凹凸部の間に金属基材が露出した未処理部が形成されることを防ぐことができる。
ここで、一例として、図3には、後述する実施例5の金属部材について、レーザー光の照射により形成されたマーキングパターンの走行方向に対して直交する方向に測定した粗さ曲線が示されている。また、図5には、同じく比較例7の金属部材についての粗さ曲線が示されている。このうち、図3に示した実施例5の粗さ曲線について、図4には、実際に実施例5の金属部材に樹脂成形体を接合した金属樹脂接合体のSEMによる接合断面の観察結果(200倍)が示されている。また、図6には、実際に比較例7の金属部材に樹脂成形体を接合した金属樹脂接合体のSEMによる接合断面の観察結果(200倍)が示されている。
これらの接合断面の観察結果から分かるように、いずれもマーキングパターンの中央部において表面から深さ方向に向けて凹状に形成された凹部と、マーキングパターンの周辺部において表面から高さ方向に向けて凸状に形成された凸部とからなる凹凸部を備えている。
このうち、比較例7に係る金属部材の凹凸部(図6)では、隣接する凹部の間にレーザー光が照射されていない金属基材の未処理部が露出している。それに対して、実施例3に係る金属部材の凹凸部(図4)では、レーザー光の照射により形成された凹部と、隣接する左右両側の凹部から拡散した金属基材由来の金属が凹部の周囲に集積して、それぞれにより形成される凸部同士が接触して一体化していることが分かる。つまり、実施例3の金属部材では、レーザー光が照射されていない金属基材の未処理部が形成されていない。
そして、図3に示した実施例3の金属部材の粗さ曲線によれば、前記の関係式(1)における(180/π)×Arctan(Rz/(Rsm/2))は72(すなわち角度θ=72°)であり、本発明の関係式(1)を満足する。また、前記の関係式(2)におけるRsm/Raは2.6であり、この関係式(2)についても満足する。一方で、図5に示した比較例7の金属部材の粗さ曲線では、(180/π)×Arctan(Rz/(Rsm/2))は44(すなわち角度θ=44°)であり、本発明の関係式(1)を満たさない。また、関係式(2)におけるRsm/Raは9.7であり、この関係式(2)についても満たさない。特に、図5の粗さ曲線には、レーザー光の未照射部の存在が示されており、このような最大高さ粗さRzと平均間隔Rsmと算術表面粗さRaとの組み合わせによって未照射部の検知が可能になることが分かる。
本発明において、金属部材のマーキングパターンは、樹脂成形体との接合面を形成するものであり、特に、複数のマーキングパターンの走行方向に対して直交する方向における凹凸部を上述した関係式(1)や(2)により特定するものである。そのため、これらの式を構成する最大高さ粗さRz、平均間隔Rsm、及び、算術表面粗さRaについて、それぞれを数値範囲で規定するのは難しく、特に制限はされないが、これまでに得られた数々の金属部材における凹凸部の傾向と、樹脂成形体との接合強度や気密性の観点から、次のように示すことができる。すなわち、最大高さ粗さRzは50μm以上、250μm以下であるのがよい。また、平均間隔Rsmは60μm以上、400μm以下であるのがよい。更に、算術表面粗さRaは10μm以上、40μm以下であるのがよい。
<水酸基含有皮膜>
前述したように、マーキングパターンにおける金属溶融層の最表層には、水酸基を含有する水酸基含有皮膜が形成されることから、接合面には、水酸基含有皮膜が全面にわたって形成されているのがよい。なお、本明細書において、「接合面の全面」とは、必ずしも接合面の表面積の100%のみに限定されるわけでなく、未照射部によって水酸基含有皮膜に覆われていない面がごく微小のスポット的に存在している場合を排除するものではない。接合面は、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上が水酸基含有皮膜に覆われていることがよい。
水酸基含有皮膜は、グロー放電発光分析法(Glow discharge optical emission spectrometry:GD-OES)によって、金属部材の表層付近に存在する水酸基を検出することで確認することができる。具体的には、まず、GD-OESを用いて、金属部材の接合面における厚さ方向に対して、金属基材を構成する主金属および水酸基に由来する発光強度(V)を測定する。続いて、主金属に由来する発光強度の積算値(面積)から、金属基材を構成する主金属の検出量を算出する。また、水酸基に由来する発光強度の積算値から、水酸基の検出量を測定する。さらに、主金属の検出量と水酸基の検出量との合計量に対する、水酸基の検出量の割合を、水酸基存在率として算出する。GD-OESによって得られる発光スペクトルのうち、281nmおよび309nmに現れるピークを、水酸基に由来するピークとする。GD-OESによる金属部材の表層付近の発光強度の測定は、表面から200nmの深さまでの測定を行えばよい。具体的には、金属基材を構成する主金属の元素および水酸基に由来する発光強度が検出されてから、主金属の元素に対応する200nmのスパッタリングに要する時間が経過するまでの範囲を測定する。この測定の範囲(時間)は、測定対象となる主金属元素を高純度で含む標準試料のスパッタリングレート(μm/min)を予め測定することにより把握することができる。GD-OESを利用して発光強度を測定することで、金属部材の最表層に存在する成分だけではなく、樹脂との接合に寄与しうる、ある程度の深さまで存在する成分を検出して評価を行うことができる。
水酸基存在率は、好ましくは4%以上、より好ましくは5%以上、さらに好ましくは6%以上、特に好ましくは7%以上である。水酸基存在率が上記下限値以上であることにより、金属部材の表面付近に存在する水酸基が増加し、樹脂成形体に含まれる官能基との作用が強まることで、金属樹脂接合体の気密性が向上する傾向にある、また、このとき、金属樹脂接合体の接合強度も向上する傾向にある。水酸基存在率の上限は特に限定されないが、好ましくは70%以下、より好ましくは50%以下、さらに好ましくは40%以下、特に好ましくは30%以下である。水酸基存在率は、水酸基の形成方法によって変化する。例えば、金属基材がレーザー処理を受けた場合に比して、金属基材が、温水もしくは熱水による水和酸化物処理;化成処理;ジンケート処理;等の湿式処理を受けた場合の方が高くなる傾向にある。レーザー処理により水酸基含有皮膜が形成される場合には、水酸基存在率は、好ましくは30%以下、より好ましくは20%以下、さらに好ましくは15%以下、特に好ましくは10%以下である。
水酸基含有皮膜は、金属基材を構成する金属に応じて、例えば、水酸化アルミニウム(Al(OH)3)、酸化水酸化アルミニウム(AlO(OH))、水酸化銅(Cu(OH)2)、水酸化鉄(II)(Fe(OH)2)、酸化水酸化鉄(III)(FeO(OH))、等の金属基材を構成する金属の水酸化物(金属水酸化物)、または金属基材を構成する金属の酸化水酸化物(金属酸化水酸化物)を含んでいる。また、水酸基含有皮膜は、金属基材を構成する金属に応じて、例えば、酸化アルミニウム(Al23)、酸化銅(I)(Cu2O)、酸化銅(II)(CuO)、酸化鉄(II)(FeO)、酸化鉄(II,III)(Fe34)、酸化鉄(III)(Fe23)、等の金属基材を構成する金属の酸化物(金属酸化物)を含んでいてもよい。
上述したように、金属基材の表面には、レーザー照射に起因して形成される金属酸化物が照射部の周辺に堆積した堆積物が皮膜状に形成されている。このような堆積物からなる金属溶融層は、前記のとおりの金属酸化物として酸素を含有している。金属溶融層は、最表層に水酸基を有する水酸基含有皮膜を有している。
<微細凹凸部>
本発明における金属部材は、凹凸部を有するマーキングパターンを備えており、巨視的には上述したような凹部と凸部が交互に連続して形成されている。そして、レーザー照射によって形成されたこのような凹凸部を「マクロ凹凸部」とすれば、そのマクロ凹凸部の表面には「微細凹凸部」を有していると考えられる。
微細凹凸部は、nmオーダーサイズの凹凸形状を有する構造体であって、水酸基含有皮膜の表面のマクロ凹凸部上に形成されている。微細凹凸部は、レーザー照射によって水酸基含有皮膜を有する金属溶融層が形成された際に、水酸基含有皮膜の表面に形成される。微細凹凸部は、金属部材の表面または断面を、例えば、走査電子顕微鏡を用いて観察することで確認することができる。
微細凹凸部は、10nm~50nmのナノサイズの微細な開口部が形成されているとともに、その膜厚が10nm~1000nmの微細な構造を持つ。SEMによる観察を行った場合、微細凹凸部は、上記サイズの微細な開口部を有する海綿状の構造体として観察される。微細凹凸部は、水酸基含有皮膜と同様に、金属水酸化物または金属酸化水酸化物を含んでいる。また、微細凹凸部は、水酸基含有皮膜と同様に、金属酸化物を含んでいてもよい。
[1-2.樹脂成形体]
次いで、所定の接合面を有する金属部材に対して、接合対象物として好適に用いられる樹脂成形体について説明する。樹脂成形体は樹脂組成物を金属部材表面に成形させることにより形成することができる。樹脂成形体は、熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂を含んでいる。
熱可塑性樹脂としては、用途に応じて適宜公知のものから選択することができるが、例えば、ポリアミド系樹脂(PA6、PA66等の脂肪族ポリアミド、芳香族ポリアミド)、ポリスチレン、ABS樹脂、AS樹脂等のスチレン単位を含む共重合体、ポリエチレン、エチレン単位を含む共重合体、ポリプロピレン、プロピレン単位を含む共重合体、その他のポリオレフィン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリカーボネート系樹脂、アクリル系樹脂、メタクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアセタール系樹脂、ポリフェニレンスルフィド系樹脂を挙げることができ、これらを1種又は2種以上で使用することができる。この中でも、樹脂成形時の流動性が高く凹部に入り込みやすいなどの理由から、ポリアミド系樹脂、ポリフェニレンスルフィド系樹脂を用いることが好ましい。
熱硬化性樹脂としては、用途に応じて適宜公知のものから選択することができるが、例えば、尿素樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂、レソルシノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン、ビニルウレタンを挙げることができ、これらを1種又は2種以上で使用することができる。この中でも、反応硬化型接着剤は水酸基含有皮膜との相性がよく、反応面積が大きくなるに伴い高い接合強度が得られるなどの理由から、エポキシ樹脂系、アクリル樹脂系、ウレタン樹脂系を用いることが好ましい。
また、樹脂成形体として、例えば、接着剤を用いることもできる。接着剤としては、上述した熱可塑性樹脂もしくは熱硬化性樹脂、またはその他のエラストマーまたはゴムを含み、接着性を示す化合物を用いることができる。接着剤としては、用途に応じて適宜公知のものから選択することができるが、例えば、乾燥固化型接着剤として、アクリル樹脂系エマルジョン形、ゴム系ラテックス形、酢酸ビニル樹脂系溶剤形、ビニル共重合樹脂系溶剤形、ゴム系溶剤形などが挙げられ、また、反応硬化型接着剤として、エポキシ樹脂系、ウレタン樹脂系、変性シリコーン樹脂系ものなどを挙げることができ、これらを1種又は2種以上で使用することができる。この中でも、反応硬化型接着剤は水酸基含有皮膜との相性がよく、反応面積が大きくなるに伴い高い接合強度が得られるなどの理由から、エポキシ樹脂系、アクリル樹脂系、ウレタン樹脂系を用いることが好ましい。
さらに、熱可塑性エラストマーを用いることができ、例えば、スチレン系エラストマー、塩化ビニル系エラストマー、オレフィン系エラストマー、ウレタン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ニトリル系エラストマー、ポリアミド系エラストマーを挙げることができ、これらを1種又は2種以上で使用することができる。
また、上記のそれぞれの樹脂(樹脂組成物)においては、金属部材との間の密着性、機械的強度、耐熱性、寸法安定性(耐変形、反り等)、電気的性質等の性能をより改善するために、繊維状、粉粒状、板状等の充填剤や、各種のエラストマー成分を添加することができる。
更に、樹脂(樹脂組成物)には、一般的に添加されてもよい公知の添加剤、すなわち難燃剤、染料や顔料等の着色剤、酸化防止剤や紫外線吸収剤等の安定剤、可塑剤、潤滑剤、滑剤、離型剤、結晶化促進剤、結晶核剤等を、要求される性能や本発明の目的を阻害しない範囲において、適宜添加することができる。
[1-3.金属樹脂接合体]
金属樹脂接合体は、樹脂が金属部材表面の接合面(マクロ凹凸部、微細凹凸部)に入り込んだ状態で成形され、接合面を介して金属部材と樹脂成形体とが一体的に接合されている。金属部材及び樹脂成形体をそれぞれ1つずつ用いて接合させてもよいし、或いは、それらのいずれか又は両方を複数用いて接合させてもよく、さらには、それらの複数のセットを任意に積層させたような態様であってもよく、用途に応じて適宜決定することができる。
例えば、金属樹脂接合体は、金属部材と樹脂成形体とが、積層または連続して配置された状態で接合している金属-樹脂接合体であってもよい。または、金属樹脂接合体は、金属部材と樹脂成形体と金属部材とが、この順で積層または連続して配置された状態で接合している金属-樹脂-金属接合体であってもよい。または、金属樹脂接合体は、樹脂成形体と金属部材と樹脂成形体とが、この順で積層または連続して配置された状態で接合している樹脂-金属-樹脂接合体であってもよい。
金属樹脂接合体が、樹脂成形体を介して2以上の金属部材を接合する金属-樹脂-金属接合体である場合には、金属部材に挟まれた状態で熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂を成形した樹脂成形体を備えるものであってもよい。または、熱可塑性樹脂もしくは熱硬化性樹脂等を含む接着剤を樹脂成形体として用いて、金属部材が接着剤を介して接合されたものであってもよい。
[2.金属部材および金属樹脂接合体の製造方法]
本発明の金属部材の製造方法は、金属製の金属基材の表面へのレーザー光の照射によって、前記金属基材の表面に前記レーザー光の照射軌跡に沿って連続する凹凸部を有するマーキングパターンを形成する照射工程を備えて、金属基材の表面に複数の前記マーキングパターンが形成された金属部材を得る。本発明の金属樹脂接合体の製造方法は、金属部材の表面に樹脂成形体を接合させる樹脂成形工程を備えている。
[2-1.金属部材の製造方法]
<準備工程>
本発明の金属部材の製造方法では、照射工程に先駆けて、金属基材の表面の前処理として、脱脂処理、エッチング処理、デスマット処理、化学研磨処理、及び電解研磨処理等の前処理を施す準備工程を備えていてもよい。
<照射工程>
本発明は、金属製の金属基材の表面にレーザー光を照射する処理(以下、単に「レーザー処理」などという。)を施す。レーザー処理によって、接合対象物との接合面を形成させて、本発明に係る金属部材を得る。ここで、レーザーとしては、公知のレーザーを使用することができるが、本発明のようにスポット的に金属基材を加工することに好都合であることから、パルス発振レーザーを用いることが好ましく、例えば、YAGレーザー、YVO4レーザー、半導体レーザー、ファイバーレーザーを用いることがよい。
このレーザー処理によって金属基材に所定の凹凸部を有したマーキングパターンを形成する原理は概ね次のとおりである。すなわち、レーザー照射によるエネルギーによって金属基材が溶融・蒸発するが、蒸発によって穿孔されることでその空間が凹部の基となり、その凹部の両側(両隣)のレーザーが照射されない部分が凸部の基となる。それと同時に、溶融した金属部分は一部又は全部が酸化されて金属酸化物となり、これが凹部となる照射部の周辺に堆積することにより、凸部が形成される。金属酸化物からなる堆積物は、凹部と凸部を覆って皮膜状に形成される。このように、金属基材の表面に形成された金属酸化物からなる堆積物によって、マクロ凹凸部の凹凸形状を形作る金属溶融層が形成される。さらに、金属酸化物は少なくとも多少の部分的イオン性を持っており、金属酸化物の新性表面には金属イオン(Al3+)と酸化物イオン(O2-)が存在している。静電的中和性から、空気中の水分と反応することで、金属溶融層の表面に存在する金属酸化物の水酸基化が起こり、金属溶融層の表面が水酸基で覆われることになる。このようにして金属基材にマクロ凹凸部が形成されると共に、その金属溶融層の最表層には水酸基を含有する水酸基含有皮膜が形成される。なお、この水酸基含有皮膜に着目すれば、巨視的に凹部と凸部が交互に連続して形成されたマクロ凹凸部と、そのマクロ凹凸部の表面に形成された微細凹凸部とを有している。
なお、金属基材にレーザー照射を受けないレーザー未照射部が存在している場合には、レーザー未照射部には金属溶融層が存在しておらず、水酸基含有皮膜も存在してない。通常、レーザー未照射部には、酸化皮膜が形成されている。レーザー未照射部は、水酸基含有皮膜を有さないため、水酸基に起因する化学的接合による気密性の向上が生じない。また、レーザー未照射部が平坦な場合には、マクロ凹凸部に起因する機械的接合による接合強度の向上が見られない。したがって、接合面にレーザー未照射部が残存しており、接合面の全体に水酸基含有皮膜が形成されていない場合には、金属樹脂接合体の気密性および接合強度が低下する。
本発明において、金属基材の表面にレーザー光の照射軌跡に沿って連続する凹凸部を有するマーキングパターンを形成するにあたり、そのマーキングパターンは1本の連続した線からなるようにする。マーキングパターンは、直線からなるものであってもよく、曲線からなるものであってもよく、または、直線と曲線を組み合わせてなるものであってもよい。そして、金属部材の接合面内において、隣接する部位へのレーザー光の照射によって、互いに隣接して並走する複数のマーキングパターンが形成されるようにする。接合面内に形成するマーキングパターンの形状については特に制限されないが、一例として次のようなものを示すことができる。例えば、図7(a)は、平板状の金属基材1の一端に接合面1aを形成した様子を示すものであり、この接合面1aには、図7(b)に示したように、直線のマーキングパターン16a、16b、16c等が複数描かれて、全体で縞模様のマーキングパターン16が形成されている。また、図8(a)は、中心に開口部12を有した円盤状の金属基材11において、その開口部12を縁取るように接合面11aを形成した様子を示すものであり、この接合面11aには、図8(b)に示したように、円形のマーキングパターン17a、17b等が複数描かれて、全体で同心円状のマーキングパターン17が形成されたものである。ここで、図7、8において、レーザー光の照射によるマーキングパターンの走査方向3と、複数のマーキングパターンの照射軌跡に対して直交する方向2は、それぞれ図示したとおりである。また、勿論、1本1本のマーキングパターンの並走の仕方や形状、大きさ等についてはこれらに制限されるものではない。
また、本発明では、互いに隣接するマーキングパターンに挟まれる領域には、互いに隣接するマーキングパターンにそれぞれ含まれる凸部同士が接触して一体化するように形成されるようにするのがよい。なかでも、好ましくは、レーザー光の照射前の金属基材がそのまま露出したような未処理部が金属部材の表面に存在しないようにするのがよい。
<レーザー処理条件>
本発明は、上述したような所定の凹凸部を有したマーキングパターンを形成するために、次のような点を考慮したレーザー処理条件に設定することが好ましい。
レーザー処理は、単位面積当たりのレーザー光の照射エネルギー(以降、「エネルギー密度」とも称する。)の影響を受ける。エネルギー密度は、レーザー処理の対象となる対象物(ワーク)において、レーザー光が照射されるレーザー被照射部が、単位面積と単位時間当たりに受けるレーザー出力を表す。エネルギー密度(J/mm2)は、レーザー光の出力W(W)、レーザー光の走査回数N(回)、レーザー光の照射間隔C(mm)、レーザー光の走査速度V(mm/s)、レーザー被照射部におけるレーザー光の照射方向と直行する長さLength、レーザー被照射部におけるレーザー光の照射方向と平行な幅Width、から、下記式(A1)によって表される。
エネルギー密度=(((Length/C)×Width×N)/V)×W)/(Length×Width) ・・・式(A1)
式(A1)を変形すると以下の式(A2)が得られる。エネルギー密度は、式(A2)によって算出することができる。
エネルギー密度=(W×N)/(C×V) ・・・式(A2)
エネルギー密度は、好ましくは0.5J/mm2以上である。エネルギー密度が増加すると、レーザー処理を受けた金属基材の表面にマーキングパターンができて、水酸基を有する微細凹凸部が形成されやすくなる。また、所定の水酸基存在率を有する水酸基含有皮膜が形成されやすくなる。さらに、エネルギー密度が増加すると、金属基材の表面に形成されるマクロ凹凸部の凹部が深く形成されて、レーザー処理後の金属部材の表面粗さが大きくなる傾向にある。なお、金属基材を構成する金属の融点が高く、熱拡散が大きいほど、金属基材がレーザー光による作用を受けにくくなる傾向にある。上述した事情を考慮して、エネルギー密度は、レーザー処理の対象となる金属にあわせて変更することが望ましい。
アルミニウムを主金属とする金属基材に対してレーザー処理を行う場合には、エネルギー密度は、好ましくは0.5J/mm2以上、より好ましくは1J/mm2以上、さらに好ましくは1.5J/mm2以上である。また、アルミニウムを主金属とする金属基材に対してレーザー処理を行う場合には、エネルギー密度は、好ましくは5J/mm2以下、より好ましくは4J/mm2以下、さらに好ましくは3J/mm2以下である。
鉄を主金属とする金属基材に対してレーザー処理を行う場合には、エネルギー密度は、好ましくは1J/mm2以上、より好ましくは2J/mm2以上、さらに好ましくは3J/mm2以上である。また、鉄を主金属とする金属基材に対してレーザー処理を行う場合には、エネルギー密度は、好ましくは10J/mm2以下、より好ましくは8J/mm2以下、さらに好ましくは6J/mm2以下である。
銅を主金属とする金属基材に対してレーザー処理を行う場合には、エネルギー密度は、好ましくは2J/mm2以上、より好ましくは4J/mm2以上、さらに好ましくは6J/mm2以上である。また、銅を主金属とする金属基材に対してレーザー処理を行う場合には、エネルギー密度は、エネルギー密度は、好ましくは20J/mm2以下、より好ましくは15J/mm2以下、さらに好ましくは10J/mm2以下である。
エネルギー密度が上記下限値以上であることにより、レーザー処理を受けた金属部材の表面にマーキングパターンが描かれて、水酸基を有する微細凹凸部が形成されやすくなる。また、所定の水酸基存在率を有する水酸基含有皮膜が形成されやすくなる。したがって、水酸基を有する微細凹凸部及び水酸基含有皮膜によって、金属樹脂接合体の気密性及び接合強度が向上しやすくなる。また、エネルギー密度が上記下限値以上であることにより、金属基材の表面に形成されるマクロ凹凸部の凹部の深さ(L)が大きくなる傾向にある。したがって、マクロ凹凸部に樹脂成形体が入り込むことで、マクロ凹凸部と樹脂成形体との機械的接合(アンカー効果)が発揮されることにより、接合強度が向上しやすくなる。エネルギー密度が上記上限値以下であることにより、金属基材の表面に形成されるマクロ凹凸部の凹部深さ(L)が過度に大きくなるのを防ぐことができる。したがって、マクロ凹凸部の凹部の深部にまで樹脂成形体が入り込むことができ、マクロ凹凸部の全体で金属部材の水酸基と樹脂成形体との官能基との化学的接合が発揮されることにより、気密性が向上しやすくなる。また、マクロ凹凸部の凸部の構造が細長く尖った形状となることを防いで、凸部が折れるなどによる機械的強度の低下を抑えることができる。また、金属樹脂接合体が破断する際に金属部材での破壊が生じることを防ぐことができる。
レーザー処理におけるレーザー条件(レーザー処理条件)は、上述したエネルギー密度を達成するように適宜設定すればよい。レーザー処理条件のパラメータとしては、レーザー光の出力(W)、レーザー光の周波数(kHz)、レーザー光のビーム径(μm)、レーザー光の照射間隔(μm)、レーザー光の走査速度(mm/s)、レーザー光の走査回数(回)が挙げられる。ここで、走査回数とは、同一の照射軌跡に沿ってレーザー光を繰り返し照射する回数をいう。また、レーザー光のビーム径と照射間隔との関係について、先の図1を参照して説明する。レーザー光の照射間隔とは、対象物に照射される一のレーザー光の軌跡6と、当該レーザーと隣接して照射される他のレーザー光の軌跡6’との間の間隔をいう。より具体的には、レーザー光の照射間隔は、当該一のレーザー光の軌跡6における走査方向3と直行する方向のいずれか一方側の端部と、当該他のレーザー光の軌跡6’における当該一のレーザー光と同じ側の端部との間の距離をいう。パルスレーザ―を照射した場合には、レーザー光の軌跡は、個々のレーザーパルスによって形成される細孔が連続した軌跡として表される。この場合、レーザー光の照射間隔5は、連続する細孔によって形成されるレーザー光の軌跡に挟まれた領域の幅と、ビーム径4の大きさとを足し合わせた長さに相当する。
レーザー処理の対象となる金属基材の主金属がアルミニウム、鉄、銅である場合について、レーザー処理条件の例を表1に示す。
Figure 2023059627000002
[2-2.金属樹脂接合体の製造方法]
金属樹脂接合体は、樹脂組成物を原料として、金属部材表面に樹脂成形体を成形させることによって製造する。
ここで、樹脂組成物の成形(樹脂成形体の形成)方法としては、使用される樹脂に合わせて適宜好ましい成形方法を採用することができる。例えば、熱可塑性樹脂を用いる場合には、金属部材上に熱可塑性樹脂を含む組成物を射出成形することにより樹脂成形体を一体的に接合させて金属樹脂接合体として得ることや、或いは、射出成形で予め樹脂成形体として得たうえで、得られた樹脂成形体を金属部材表面にレーザー溶着、振動溶着、超音波溶着、ホッとプレス溶着、熱板溶着、非接触熱板溶着又は高周波用着などの手段を用いた熱圧着により一体的に接合させる方法などを挙げることができるが、これらに限定されない。
また、例えば、熱硬化性樹脂を用いる場合には、金属部材上に熱硬化性樹脂を含む組成物の射出成形することにより樹脂成形体を一体的に接合させて金属樹脂接合体として得ることや、或いは、所定の粘度に調整した組成物を金属部材上に塗布するなどしてから一体的に加熱・加圧する圧縮成形する方法などを挙げることができるが、これらに限定されない。
また、接着剤を用いる場合には、金属部材上に塗布し、乾燥させて硬化させることができるが、必要により加温などの操作を行っても構わず、使用する接着剤に合った成形条件を採用することができる。
[3.作用効果]
従来より、金属樹脂接合体の接合強度を高めるために、金属製材料をレーザー光で処理した際に所定の開口径及び深さを有するマクロ凹凸部を形成することにより、樹脂が入り込むことで機械的な相互作用を起こしやすい構造を形成することが有効であるとされている。また、該レーザー処理により生じる金属基材の溶融部が酸素を含有する酸素含有皮膜であり、この酸素含有皮膜が接合強度の発現に寄与することが知られていた。本発明者らが詳細に検討した結果、レーザー処理により形成される凹凸部を有するマーキングパーンでの凹部を所定の形状に制御することが効果的であるという知見を得た。すなわち、マーキングパーンにおける凹部の形状が、最大高さ粗さRzと平均間隔Rsmとで表される角度θが所定の範囲内にあることで、凹部の深部まで樹脂が流入して凹部と樹脂との間に生じる空隙の発生を抑えるとともに、樹脂と作用する酸素含有皮膜の表面積が増加して、金属部材と樹脂とによる相互作用が十分に発揮されるような凹部を有する断面形状となるため、接合強度と気密性が向上する。
以下、実施例、比較例及び試験例に基づいて、本発明の好適な実施の形態を具体的に説明するが、本発明がこれにより限定されて解釈されるものでもない。
[評価方法]
<接合断面の評価>
樹脂成形体を接合する前の金属部材、又は金属樹脂接合体を厚さ方向に切断して、エポキシ樹脂に埋め込んだ後、湿式研磨を行い、接合断面評価用のサンプルを作製した。接合断面評価用のサンプルに対して、厚さ方向断面を走査型電子顕微鏡(日本電子製、JSM-7200F)により倍率100~500倍で観察した。
<接合強度の評価(1)(せん断試験)>
金属樹脂接合体の接合強度の評価を、ISO19095に準じたせん断強度の測定によって行った。具体的には図9に示すように、金属部材8と樹脂成形体7とを接合した金属樹脂接合体9を専用治具10に固定し、10mm/minの速度で、接合面に対して平行な方向にせん断力が加わるように荷重を印加し、金属部材と樹脂成形体との間の接合部を破壊する試験を実施した。金属樹脂接合体が破断したときの破断力を引張せん断強度(MPa)として求めた。
さらに、せん断試験を行った後の金属部材側の破断面を目視で観察し、破断形態を確認した。樹脂成形体で母材破壊が生じた場合を樹脂破壊であるとして〇と判断した。一方、金属部材と樹脂成形体との界面破壊が生じた場合は界面破壊であるとして×と判断した。
<接合強度の評価(2)(せん断試験)>
金属樹脂金属接合体の接合強度の評価を、JIS K 6850を参考にしたせん断強度の測定によって行った。具体的には図10に示すように、2枚の金属部材8及び8’を、後述の熱硬化性接着剤を用いて貼り合わせた金属樹脂金属接合体11を専用治具10に固定し、5mm/minの速度で、接合面に対して平行な方向にせん断力が加わるように荷重を印加し、接着剤を介した金属部材どうしの接合体の接合部を破壊する試験を実施した。金属樹脂金属接合体が破断したときの破断力を引張せん断強度(MPa)として求めた。
さらに、せん断強度の評価後の破断面を目視で観察し、破断形態を確認した。接着剤で凝集破壊が生じ、接合部全体に接着剤が残っていた場合は、樹脂破壊であるとして〇と判断した。金属部材と接着剤との界面破壊が生じた場合は界面破壊であるとして×と判断した。
<気密性の評価>
金属樹脂接合体、又は金属樹脂金属接合体の気密性の評価を、エアーリーク試験によって行った。具体的には図11に示すように、金属部材8と樹脂成形体7とを接合した金属樹脂接合体9を専用気密性冶具15にクランプして固定した状態で、エアーを最大で正圧0.5MPaまで印加し、1分間保持した。その後,エアー漏れの有無を目視で確認した。または、図12に示すように、2枚の金属部材8及び8’を、後述の熱硬化性接着剤を用いて貼り合わせた金属樹脂金属接合体11を専用気密性冶具15にクランプして固定した状態で、エアーを最大で正圧0.5MPaまで印加し、1分間保持した。その後、エアー漏れの有無を目視で確認した。上述した専用気密性治具15では、金属樹脂接合体9、又は金属樹脂金属接合体11を、O-リング13を介装した状態で上下から固定治具で挟みこんで固定している。金属樹脂接合体9、又は金属樹脂金属接合体11を挟んで、専用気密性治具15の上側の開放部には水12が存在しており、専用気密性治具15の下側の密閉部には空気が存在している。通気管14を通じて密閉部にエアーを印加することで、接合界面から気泡が発生するかどうかを機序として、金属樹脂接合体9、又は金属樹脂金属接合体11を通じて、開放部側にエアーが漏れるかどうかを確認することができる。評価時間内においてエアーリークがない場合は合格であるとして〇とし、エアーリークが観察された場合は不合格であるとして×にした。
<接合面の表面粗さの評価>
得られた金属部材の接合面の表面粗さとして、キーエンス社製ワンショット3D形状測定機VR-3200を用いて、前述の最大高さ粗さRz、平均間隔Rsm、及び算術平均粗さRaを測定した。測定は、3600×2800μmの測定範囲において、倍率80倍、カットオフλsなし、カットオフλcなしとして、基準長数1の条件で測定本数41本を測定して平均値を算出した。その際、レーザー光の縞模様状の軌跡と、測定器の投光レンズから照射される縞状の光とが、直角に交差する位置関係となるようにして測定を行った。すなわち、隣接する部位への前記レーザー光の照射によって形成されたマーキングパターンについて、互いに隣接して並走する複数のマーキングパターンの照射軌跡に対して直交する方向において、凹凸部による凹凸の最大高さ粗さRzと、凹凸部による凹凸の平均間隔Rsmと、凹凸部の算術平均粗さRaとを測定した。具体的には、後述するアルミ板材等からなる接合強度評価用の金属樹脂接合体を形成する金属部材では、図7(b)に示したように、縞模様からなるレーザー光の照射軌跡について、上記の測定範囲において、照射軌跡に対して直交する方向2に41本の測定を行い、各表面粗さの平均値を算出した。また、アルミ円盤等からなる気密性評価用の金属樹脂接合体を形成する金属部材では、図8(b)に示したような同心円状のレーザー光の照射軌跡について、同様に、照射軌跡に対して直交する方向2に41本の測定を行い、各表面粗さの平均値を算出した。
[実施例1]
<金属部材の作製>
ステンレス板材(SUS304)から厚さ1.5mm×幅18mm×長さ45mmの長方形状のSUS板材を用意した。また、SUS板材に穴を開けて、厚さ2mm×外径Φ55mm×内径Φ20mmの円環状のSUS円盤を用意した。そして、それぞれ金属基材として準備した。
次に、これらSUS板材及びSUS円盤のそれぞれの被加工面に対して、以下の条件でレーザー照射するレーザー処理を行い、樹脂成形体との接合面を形成した。ここで、SUS板材では、図7で示したように、一方の主面側の長手方向の端部において、長手方向に10mm×短手方向に18mmの長方形状の領域にレーザーを縞模様に照射して、接合強度評価用の金属樹脂接合体を得るための金属部材とした。また、SUS円盤では、図8に示したように、内側から同心円状に幅2.0mmの円環状の領域にレーザー照射して、気密性評価用の金属樹脂接合体を得るための金属部材とした。なお、これらのレーザー処理条件は、以下の表2にまとめて示した。
<レーザー処理条件>
・装置:キーエンス社製、3Axis Fiberレーザマーカ(型式:MDF-5200、最大出力50W)
・レーザー光波長:1090nm
・発信方式:パルス
・出力:85%(42.5W)
・周波数:60kHz
・ビーム径:60μm
・照射間隔:90μm
・走査速度:340mm/s
・走査回数(照射回数):1回
<樹脂成形体の接合、金属樹脂接合体の作製>
上記のようにして接合面が形成された各金属部材(レーザー処理後のSUS板材及びSUS円盤)を、射出成形機(日精樹脂工業製、FNX1103-18A)を用いて、ISO19095に準拠して作製した金型内にそれぞれインサート後、これらに対して、熱可塑性樹脂としてポリフェニレンスルフィド(PPS)(ポリプラスチック社製、商品名:ジュラファイド、グレード:1150MF1)を使用して、これを樹脂温度320℃、金型温度150℃、射出速度30mm/s、保圧80MPaで射出成形した。それにより、樹脂成形体の厚さが3mm×幅10mm×長さ45mmの長方形状であって、SUS板材と樹脂成形体との長方形状の接合部の接合面積が5mm×10mmである、SUS板材(金属部材)8と樹脂成形体7との接合体(金属樹脂接合体9、図13)を作製した。また、樹脂成形体が厚さ2mm×Φ24mmの円盤状であって、SUS円盤の内径側面との円環状の接合部の接合幅が2.0mm、接合面積が138.2mmである、アルミ円盤(金属部材)8と樹脂成形体7との接合体(金属樹脂接合体9、図14)を作製した。なお、いずれの金属樹脂接合体ともにサンプル数(N数)3で作製した。
Figure 2023059627000003
<評価>
本実施例1に係る各金属部材(レーザー処理後のSUS板材)について、上述した方法により凹凸部による凹凸の最大高さ粗さRz、凹凸部による凹凸の平均間隔Rsm、及び、凹凸部の算術平均粗さRaを測定して、関係式(1)における『(180/π)×Arctan(Rz/(Rsm/2))』(すなわち『角度θ』)と、関係式(2)における『Rsm/Ra』を求めた。これらの結果を表3にまとめて示す。なお、接合強度の評価に用いられる板材と、気密性の評価に用いられる円盤とは、同様のレーザー処理条件にてレーザー処理を行っている。このため、板材について測定した、凹凸部による凹凸の最大高さ粗さRz、凹凸部による凹凸の平均間隔Rsm、及び、凹凸部の算術平均粗さRa、並びに接合断面の評価の結果は、円盤においても同様の結果となる。
また、これらの金属部材を用いて得られた金属樹脂接合体に対して、接合断面の評価を行った。更に、接合強度評価用の金属樹脂接合体について、前述の接合強度の評価(1)により、SUS板材(金属部材)8と樹脂成形体7との間の接合部を破壊する試験を実施し、金属樹脂接合体が破断したときの破断力を引張せん断強度(MPa)として求めた。その際、引張せん断試験後の破断形態を目視で観察した。更にまた、気密性評価用の金属樹脂接合体については、前述の気密性の評価により、エアーリークの有無を確認した。結果を表3に示す。なお、表3においては、接合状態(破断形態)と気密性(エアー漏れ)のどちらか少なくともひとつで×となった場合には総合判断として「×」を付している。また、いずれも〇の場合には総合判断として「〇」を付している。
Figure 2023059627000004
[実施例2~3、比較例1~2]
レーザー処理条件を表2に示したとおりに変更した以外は、実施例1と同様にして、金属部材(SUS板材、SUS円盤)を作製するとともに、評価用の各金属樹脂接合体を作製した。
得られた各金属部材(レーザー処理後のSUS板材及びSUS円盤)について、実施例1と同様にして凹凸部による凹凸の最大高さ粗さRz、凹凸部による凹凸の平均間隔Rsm、及び、凹凸部の算術平均粗さRaを測定し、関係式(1)における『(180/π)×Arctan(Rz/(Rsm/2))』(すなわち『角度θ』)と、関係式(2)における『Rsm/Ra』を求めた。これらの結果を表3にまとめて示す。また、これらの金属部材を用いて得られた金属樹脂接合体に対して、前述の接合強度の評価(1)により、SUS板材(金属部材)8と樹脂成形体7との間の接合部を破壊する試験を実施し、金属樹脂接合体が破断したときの破断力を引張せん断強度(MPa)として求めた。また、引張せん断試験後の破断形態を目視で観察した。更に、気密性評価用の金属樹脂接合体については、前述の気密性の評価により、エアーリークの有無を確認した。実施例1と同様に結果を表3に示す。
[比較例3、実施例4]
JIS H3100に示された無酸素銅(C1020)の圧延材を用いて金属基材を準備し、また、レーザー処理条件を表2に示したとおりに変更した以外は、実施例1と同様にして、金属部材(Cu板材、Cu円盤)を作製するとともに、評価用の各金属樹脂接合体を作製した。
得られた各金属部材(レーザー処理後のCu板材及びCu円盤)について、実施例1と同様にして凹凸部による凹凸の最大高さ粗さRz、凹凸部による凹凸の平均間隔Rsm、及び、凹凸部の算術平均粗さRaを測定し、関係式(1)における『(180/π)×Arctan(Rz/(Rsm/2))』(すなわち『角度θ』)と、関係式(2)における『Rsm/Ra』を求めた。これらの結果を表3にまとめて示す。また、これらの金属部材を用いて得られた金属樹脂接合体に対して、前述の接合強度の評価(1)により、Cu板材(金属部材)8と樹脂成形体7との間の接合部を破壊する試験を実施し、金属樹脂接合体が破断したときの破断力を引張せん断強度(MPa)として求めた。また、引張せん断試験後の破断形態を目視で観察した。更に、気密性評価用の金属樹脂接合体については、前述の気密性の評価により、エアーリークの有無を確認した。実施例1と同様に結果を表3に示す。
[実施例5~9、比較例4~9]
ISO19095に準拠し、JIS H0001に示された調質記号H34で処理したA5052アルミニウム合金(A5052-H34)を用いて金属基材を準備し、レーザー処理条件を表2に示したとおりに変更した以外は、実施例1と同様にして、金属部材(アルミ板材、アルミ円盤)を作製した。
上記のようにして接合面が形成された各金属部材(レーザー処理後のアルミ板材及びアルミ円盤)について、熱可塑性樹脂としてポリアミドMXD10をベースレジンとする芳香族ナイロン(三菱エンジニアリングプラスチックス社製、商品名:Reny(登録商標)、グレード:XL1002U)を使用し、射出条件を樹脂温度250℃、金型温度140℃、射出速度30mm/s、保圧80MPaで射出成形して、実施例1と同様に、樹脂成形体の厚さが3mm×幅10mm×長さ45mmの長方形状であって、アルミ板材と樹脂成形体との長方形状の接合部の接合面積が5mm×10mmである、アルミ板材(金属部材)8と樹脂成形体7との接合体(金属樹脂接合体9)を作製し、また、樹脂成形体が厚さ2mm×Φ24mmの円盤状であって、アルミ円盤の内径側面との円環状の接合部の接合幅が2.0mm、接合面積が138.2mmである、アルミ円盤(金属部材)8と樹脂成形体7との接合体(金属樹脂接合体9)を作製した。
得られた各金属部材(レーザー処理後のアルミ板材及びアルミ円盤)について、実施例1と同様にして凹凸部による凹凸の最大高さ粗さRz、凹凸部による凹凸の平均間隔Rsm、及び、凹凸部の算術平均粗さRaを測定し、関係式(1)における『(180/π)×Arctan(Rz/(Rsm/2))』(すなわち『角度θ』)と、関係式(2)における『Rsm/Ra』を求めた。これらの結果を表3にまとめて示す。また、これらの金属部材を用いて得られた金属樹脂接合体に対して、前述の接合強度の評価(1)により、アルミ板材(金属部材)8と樹脂成形体7との間の接合部を破壊する試験を実施し、金属樹脂接合体が破断したときの破断力を引張せん断強度(MPa)として求めた。また、引張せん断試験後の破断形態を目視で観察した。更に、気密性評価用の金属樹脂接合体については、前述の気密性の評価により、エアーリークの有無を確認した。実施例1と同様に結果を表3に示す。
[実施例10]
JIS H0001に示された調質記号T5で処理したA6063アルミニウム合金(A6063-T5)の中空押出し材から厚さ5mm×幅25mm×長さ50mmの長方形状のアルミ板材を2枚と、厚さ2mm×外径Φ55mm×内径Φ20mmの円環状のアルミ円盤と、厚さ2mm×外径Φ24mmの円形状のアルミ円盤を、それぞれ金属基材として切り出して準備した。
次に、レーザー処理の条件を表2に示したように変更した以外は実施例1と同様にして、レーザー照射して、接合面を形成した。なお、2枚のアルミ板材では、一方の主面側の長手方向の端部において、長手方向に6mm×短手方向に25mmの長方形状の領域にそれぞれレーザー照射した。接合面の照射面積は、180mmであった。また、円環状のアルミ円盤では、内側から幅2.0mmの円環状の領域にレーザー照射した。また、円形状のアルミ円盤では、外周側から幅2.0mmの円環状の領域にレーザー照射した。接合面の照射面積は、138mmであった。
上記のようにして接合面が形成された各金属部材(レーザー処理後のアルミ板材及びアルミ円盤)に対して、樹脂として熱硬化性接着剤(一液加熱硬化型エポキシ接着剤)(スリーエムジャパン株式会社社製、商品名:スコッチ・ウェルド(登録商標)SW2214)を使用して、接着剤の厚さが0.2mmとなるようにSUSワイヤーで調整して接合面に塗布した。接着剤の塗布後、2枚のアルミ板材どうしを貼り合わせ、0.01MPaの圧力をかけて、試験片温度が150℃到達した後に30分加熱した接着条件で、2枚のアルミ板材の長方形状の接合部の接合面積が6mm×25mmである、接着剤を介したアルミ板材(金属部材)8及び8'の接合体(アルミ板材と樹脂成形体とアルミ板材との接合体)(金属樹脂金属接合体11、図15)を作製した。また、接着剤の塗布後、円環状のアルミ円盤と円形状のアルミ円盤とを貼り合わせ、同様の接着条件で、円環状のアルミ円盤と円形状のアルミ円盤との円環状の接合部の接合幅が2.0mm、接合面積が138.2mm2である、接着剤を介した円環状のアルミ円盤(金属部材)8と円形状のアルミ円盤(金属部材)8'との接合体(円環状のアルミ円盤と樹脂成形体と円形状のアルミ円盤との接合体)(金属樹脂金属接合体11、図16)を作製した。
得られた各金属部材(レーザー処理後のアルミ板材及びアルミ円盤)について、実施例1と同様にして凹凸部による凹凸の最大高さ粗さRz、凹凸部による凹凸の平均間隔Rsm、及び、凹凸部の算術平均粗さRaを測定し、関係式(1)における『(180/π)×Arctan(Rz/(Rsm/2))』(すなわち『角度θ』)と、関係式(2)における『Rsm/Ra』を求めた。これらの結果を表3にまとめて示す。また、これらの金属部材を用いて得られた金属樹脂接合体に対して、前述の接合強度の評価(1)により、アルミ板材(金属部材)8と樹脂成形体7との間の接合部を破壊する試験を実施し、金属樹脂接合体が破断したときの破断力を引張せん断強度(MPa)として求めた。また、引張せん断試験後の破断形態を目視で観察した。更に、気密性評価用の金属樹脂接合体については、前述の気密性の評価により、エアーリークの有無を確認した。実施例1と同様に結果を表3に示す。
[検討]
表3に示されているとおり、関係式(1)の下限値未満である比較例1~8では、界面破壊を示して接合強度で不良を示した。このうち、比較例4~9では、気密性の評価でも不合格(×)であった。また、関係式(1)の上限値超である比較例9では、接合強度の点では問題がなかったものの、気密性の評価が不合格であった。
ここで、図17には、比較例4で得られた金属樹脂接合体のSEMによる断面の観察結果(500倍)が示されている。この断面SEM画像に含まれる凹部について、各凹部の最深点の角度θを測定して平均値を取ったところ、断面SEM観察によって得られた金属部材の凹部における角度θ=43°となっていた。この角度は、最大高さ粗さRzと凹凸部によって表される関係式(1)によって求められた角度θ=38°に近い値を示しており、RzとRsmとによって、凹部の角度θを評価しうることが裏付けられた。また、比較例4では、関係式(1)によって求められた角度θが下限値を下回っていることで、最も深い形状の凹部であっても、開口部の幅に対して凹部が浅い形状になり、金属部材と樹脂との相互作用が弱まるような形状となっていることで、界面破壊が生じたと考えられる。
また、図18には、比較例9で得られた金属樹脂接合体のSEMによる断面の観察結果(500倍)が示されている。これによれば、断面SEM観察によって得られた金属部材の凹部における角度θ=80°となっていた。この角度は、関係式(1)によって求められた角度θ=76°と近い値を示しており、RzとRsmとによって、凹部の角度θを評価しうることが裏付けられた。また、関係式(1)によって求められた角度θが上限値を上回っていることで、最も深い形状の凹部において、開口部の幅に対して凹部が深い形状になり、凹部の深部まで樹脂が流入し難くなることで空隙が生じ、気密性が低下したと考えられる。
さらに、比較例4では、図17に示されるように、レーザー未照射部(未処理部)が存在していた。比較例4では、レーザー未照射部の影響により、気密性及び接合強度が低下したと考えられる。また、この結果から、凹凸部の算術平均粗さRaと凹凸部による凹凸の平均間隔Rsmとによって表される関係式(2)によって求められるRsm/Raが上限値を上回っている場合に、金属部材の表面に未照射部が存在することを評価することができることが裏付けられた。また、比較例4では、図17に示されるように、凹部が浅くなだらかな形状となっており、比較例9では、図18に示されるように、凹部が深く細長い形状となっていた。これらの結果から、関係式(2)によって求められるRsm/Raによって、凹部の形状を評価することができることが裏付けられた。
関係式(1)を満たす実施例1~10では、いずれも接合強度、気密性ともに良好な結果を示した。このうち、図19には、実施例5で得られた金属樹脂接合体のSEMによる断面の観察結果(500倍)が示されている。これによれば、断面SEM観察によって得られた金属部材の凹部における角度θ=66°となっていた。この角度は、関係式(1)によって求められた角度θ=72°に近い値を示しており、RzとRsmとによって、凹部の角度θを評価しうることが裏付けられた。また、関係式(1)によって求められた角度θが所定の範囲を満足することで、最も深い形状の凹部が、開口に対して深さが過度に小さかったり大きかったりせず、金属部材と樹脂とによる相互作用が十分に発揮されて接合強度に優れて、しかも気密性にも優れたものが得られたと考えられる。さらに、実施例5では、図19に示すように、互いに隣接するマーキングパターンにそれぞれ含まれる凸部同士が接触して一体化するように形成されて、金属基材が露出した未処理部が形成されている様子も伺われなかった。これらのことから、実施例に係る金属樹脂接合体では、関係式(2)によって求められるRsm/Raが上限値を下回っていることで、未処理部が形成されていない形状となっていると考えられる。
1…金属基材、2…マーキングパターン照射軌跡(走行方向)に対して直交する方向、3…走査方向、4…ビーム径、5…照射間隔、6(6’)…レーザー光の軌跡、7…樹脂成形体、8(8’)…金属部材、9…金属樹脂接合体、10…せん断試験用の専用治具、11…金属樹脂金属接合体、12…水、13…O-リング、14…エアー吹込み用の管、15…専用気密性治具、16、17…マーキングパターン。

Claims (12)

  1. 金属製の金属基材と、前記金属基材の表面に形成された凹凸部を有するマーキングパターンとを備え、
    前記マーキングパターンは、1本の連続した直線又は曲線からなり、
    複数の前記マーキングパターンは、互いに隣接して並走するように形成されており、
    複数の前記マーキングパターンの走行方向に対して直交する方向において、前記凹凸部による凹凸の最大高さ粗さRzと、前記凹凸部による凹凸の平均間隔Rsmとが、45≦(180/π)×Arctan(Rz/(Rsm/2))≦75となる関係を有することを特徴とする金属部材。
  2. 複数の前記マーキングパターンの走行方向に対して直交する方向において、前記凹凸部の算術平均粗さRaと、前記凹凸部による凹凸の平均間隔Rsmとが、2.5≦Rsm/Ra≦9.5となる関係を有する請求項1に記載の金属部材。
  3. 前記金属基材の表面には、前記マーキングパターンの中央部において表面から深さ方向に向けて凹状に形成される凹部と、前記マーキングパターンの周辺部において表面から高さ方向に向けて凸状に形成される凸部とからなる前記凹凸部が形成されており、
    前記金属部材の表面において、互いに隣接する前記マーキングパターンに挟まれる領域には、互いに隣接する前記マーキングパターンにそれぞれ含まれる前記凸部同士が接触して一体化するように形成されており、前記金属基材が露出する未処理部が形成されていないことを特徴とする請求項1又は2に記載の金属部材。
  4. 前記金属は、アルミニウム、銅、鉄又はこれらの各金属を含む合金であることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の金属部材。
  5. 請求項1~4のいずれかに記載の金属部材と、前記金属部材の表面に成形された樹脂成形体とを備え、
    前記金属部材と前記樹脂成形体とは、前記マーキングパターンの前記凹凸部に樹脂が入り込んだ状態で接合されていることを特徴とする金属樹脂接合体。
  6. 前記樹脂成形体は、熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂を含むものであることを特徴とする請求項5に記載の金属樹脂接合体。
  7. 金属製の金属基材の表面へのレーザー光の照射によって、前記金属基材の表面に前記レーザー光の照射軌跡に沿って連続する凹凸部を有するマーキングパターンを形成する照射工程を備え、
    前記金属基材の表面に複数の前記マーキングパターンが形成された金属部材を製造する金属部材の製造方法であって、
    前記マーキングパターンは、1本の連続した直線又は曲線からなり、
    前記照射工程において、隣接する部位への前記レーザー光の照射によって、互いに隣接して並走する複数の前記マーキングパターンを形成し、
    複数の前記マーキングパターンの前記照射軌跡に対して直交する方向において、前記凹凸部による凹凸の最大高さ粗さRzと、前記凹凸部による凹凸の平均間隔Rsmとが、45≦(180/π)×Arctan(Rz/(Rsm/2))≦75となる関係を有することを特徴とする金属部材の製造方法。
  8. 複数の前記マーキングパターンの走行方向に対して直交する方向において、前記凹凸部の算術平均粗さRaと、前記凹凸部による凹凸の平均間隔Rsmとが、2.5≦Rsm/Ra≦9.5となる関係を有する請求項7に記載の金属部材の製造方法。
  9. 前記金属基材の表面には、前記レーザー光が照射された箇所の前記金属が前記レーザー光の照射中心部から外方に向けて拡散することで形成される凹部と、前記凹部から拡散した前記金属が前記凹部の周囲に集積することで形成される凸部とからなる前記凹凸部が形成されており、
    前記金属部材の表面において、互いに隣接する前記マーキングパターンに挟まれる領域には、互いに隣接する前記マーキングパターンにそれぞれ含まれる前記凸部同士が接触して一体化するように形成されており、前記レーザー光の照射前の前記金属基材が露出する未処理部が形成されていないことを特徴とする請求項7又は8に記載の金属部材の製造方法。
  10. 前記金属は、アルミニウム、銅、鉄又はこれらの各金属を含む合金であることを特徴とする請求項7~9のいずれかに記載の金属部材の製造方法。
  11. 請求項7~10のいずれかに記載の製造方法によって得られた金属部材の表面に、樹脂成形体を形成する樹脂成形工程を備え、
    前記金属基材と前記樹脂成形体とが接合された金属樹脂接合体を製造する金属樹脂接合体の製造方法であって、
    前記樹脂成型工程では、前記金属部材と前記樹脂成形体とを、前記マーキングパターンの前記凹凸部に樹脂が入り込んだ状態で接合させることを特徴とする金属樹脂接合体の製造方法。
  12. 前記樹脂成型工程において、前記金属部材上に熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂を含む樹脂組成物を用いて成形することを特徴とする請求項11に記載の金属樹脂接合体の製造方法。
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