JP2023059620A - 金属部材及び金属樹脂接合体並びにそれらの製造方法 - Google Patents

金属部材及び金属樹脂接合体並びにそれらの製造方法 Download PDF

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祐介 錦織
Yusuke Nishigori
正憲 遠藤
Masanori Endo
大樹 池田
Daiki Ikeda
優太 遠藤
Yuta Endo
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Abstract

【課題】高い接合強度を有し十分な気密性を担保できるような金属樹脂成形体及びそれを得るための金属部材並びにそのような金属樹脂成形体及び金属部材の製造方法を提供する。【解決手段】金属からなる金属基材と、前記金属基材の表面に形成された水酸基を含有する水酸基含有皮膜とを備え、前記水酸基含有皮膜は、グロー放電発光分析法によって表面から深さ方向に向けて分析を行った際に、前記金属基材の前記金属の検出量と前記水酸基の検出量との合計量に対する前記水酸基の検出量の割合が4%以上70%以下であることを特徴とする金属部材、及びそれを用いた金属樹脂接合体。【選択図】図8

Description

この発明は、所定の水酸基含有皮膜を備えた金属部材、及び当該金属部材と樹脂成形体との接合体、並びにそれらの製造方法に関する。
近年、自動車の各種センサー部品、家庭電化製品部品、産業機器部品等の分野では、放熱性や導電性が非常に高い銅又は銅合金からなる銅基材や、放熱性が高く、かつ、他金属と比較して軽量なアルミニウム又はアルミニウム合金からなるアルミ基材などの金属製材料と、絶縁性能が高く、軽量でしかも安価である樹脂成形体とを一体に接合した金属樹脂接合体が幅広く用いられるようになり、また、その用途が拡大している。
そして、従来においては、このような異種材質である金属製材料と樹脂成形体とを互いに一体的に接合した金属樹脂接合体を製造するための工業的に好適な方法として、金属製材料を射出成形用金型内にインサートし、このインサートされた金属製材料の表面に向けて溶融した熱可塑性樹脂を射出し、熱可塑性樹脂の射出成形により樹脂成形体を成形する際に同時に金属製材料と樹脂成形体との間を接合する方法が開発され、より安価に、また、接合強度をより向上させるための幾つかの方法が提案されている。
例えば、本発明者らによれば、金属基材の表面に特定の処理を行うことにより、金属基材の表面に酸素を含有する酸素含有皮膜を形成し、この形成された酸素含有皮膜を介して、樹脂成形体を接合される技術を提案してきた(例えば、特許文献1)。この技術は、それ以前において提案されていた表面処理技術で問題となっていた金属部品や装置の腐食や、或いは、周辺の環境の汚染のおそれが少ない方法であって、一定の接合強度や気密性を得られるものであった。しかしながら、特許文献1の方法においては、あくまで酸素含有皮膜の最表層から3μm程度までの電子線プローブマイクロアナライザ(EPMA)分析や、或いは最表層に存在する物質(水酸基)をグロー放電発光分析法(GD-OES)により測定しているに留まり、接合強度や気密性に関する評価が十分とは言えなかった。しかも、また、レーザー光を用いた場合には、アルミ基材の表面に酸素含有皮膜を形成するためのレーザー出力について記載されておらず、レーザー処理条件に検討の余地が残っていた。また、酸素含有皮膜を形成するために水和酸化物皮膜や亜鉛含有皮膜を形成する湿式処理をする場合には、後述するように、特定の元素により、酸素含有皮膜表層の酸素量(水酸基量)に影響を与えることが懸念されることから、処理方法の更なる改善の余地があった。
一方で、金属材料の表面に水酸基を有するようにする処理を施して、その処理面に対して高分子材料などを成形する技術がいくつか提案されている。
例えば、特許文献2では、アルミダイカスト部材と高分子部材との接合面を形成するに際し、アルミダイカスト部材に対してレーザーを照射して表層を融解させて接合面を形成することにより、接合面に水酸基を生成させる技術が開示されている。また、レーザー照射により融解させたあとにも、接合面にプラズマ処理(改質工程)を行ってさらに多くの水酸基を生成させることが記載されている。また、特許文献3では、金属基材の表面に、例えばレーザー処理によってエネルギーを加えて、基材表面に水酸基を有する金属水酸化物を形成した状態で所定の化合物を含むプライマーを塗布し、プライマー層を介して他の部材と接合させる技術が提案されている。
特許第6387301号公報 WO2019/064344号 特開2010-005838号公報
特許文献2及び特許文献3のいずれも、金属材料の表面に水酸基を設けて樹脂成分との接着・接合する技術であるが、金属表面の水酸基の存在を検討しているに過ぎず、樹脂成分との接着や接合に寄与し得る水酸基の存在状態の検証が十分ではなく、接合強度や気密性に関する評価が十分とは言えない。
本発明の目的は、高い接合強度を有し十分な気密性を担保できるような金属樹脂成形体及びそれを得るための金属部材並びにそのような金属樹脂成形体及び金属部材の製造方法を提供することである。
すなわち、本発明の要旨は以下のとおりである。
[1]金属からなる金属基材と、前記金属基材の表面に形成された水酸基を含有する水酸基含有皮膜とを備え、
前記水酸基含有皮膜は、グロー放電発光分析法によって表面から深さ方向に向けて分析を行った際に、前記金属基材の前記金属の検出量と前記水酸基の検出量との合計量に対する前記水酸基の検出量の割合が4%以上70%以下であることを特徴とする金属部材。
[2]前記金属は、アルミニウム、銅、鉄又はこれらの各金属を含む合金であることを特徴とする[1]に記載の金属部材。
[3][1]又は[2]に記載の金属部材と、
前記金属部材の表面に成形されて、前記水酸基含有皮膜を介して前記金属部材と接合した樹脂成形体と、を備えることを特徴とする金属樹脂接合体。
[4]前記樹脂成形体は、熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂を含むものであることを特徴とする[3]に記載の金属樹脂接合体。
[5]金属からなる金属基材の表面への表面処理によって、水酸基を含有する水酸基含有皮膜を形成する皮膜形成工程を備え、前記金属基材の表面に前記水酸基含有皮膜が形成された金属部材を製造する金属部材の製造方法であって、
前記皮膜形成工程では、前記表面処理によって、グロー放電発光分析法によって表面から深さ方向に向けて分析を行った際に、前記金属基材の前記金属の検出量と前記水酸基の検出量との合計量に対する前記水酸基の検出量の割合が4%以上70%以下である前記水酸基含有皮膜を形成することを特徴とする金属部材の製造方法。
[6]前記表面処理が、前記金属基材の表面へレーザー光を照射するレーザー処理であり、当該レーザー処理におけるエネルギー密度が0.4J/mm以上であることを特徴とする[5]に記載の金属部材の製造方法。
[7]前記金属は、アルミニウムであるか、又はアルミニウムを含む合金であり、前記表面処理が、前記金属基材を50℃以上の温水に60秒以上浸漬する温水浸漬処理であり、当該温水浸漬処理におけるケイ素量が2mg/L以下であることを特徴とする[5]に記載の金属部材の製造方法。
[8][5]~[7]のいずれかに記載の製造方法によって金属部材を得たのちに、次いで、この得られた金属部材の表面に樹脂成形体を接合させる樹脂成形工程を備え、
前記金属部材と樹脂成形体とをそれぞれ少なくとも1つずつ備えた金属樹脂接合体を製造する方法であって、
これら金属部材と樹脂成形体とは、前記水酸基含有皮膜を介して接合されるようにすることを特徴とする金属樹脂接合体の製造方法。
[9]前記樹脂成形体は、熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂を含むことを特徴とする[8]に記載の金属樹脂接合体の製造方法。
本発明の金属部材および金属樹脂接合体は、金属部材と樹脂成形体との接合強度および気密性を向上させることができる。
図1は、レーザー光のビーム径と照射間隔との関係を示す模式図である。 図2は、接合強度評価(1)(せん断試験)の概要を説明するための図である。 図3は、接合強度評価(2)(せん断試験)の概要を説明するための図である。 図4は、金属樹脂接合体の気密性の評価の概要を説明するための図である。 図5は、金属樹脂金属接合体の気密性の評価の概要を説明するための図である。 図6は、接合強度評価の金属樹脂接合体の概要を示すための図である。 図7は、気密性の評価の金属樹脂接合体の概要を示すための図である。 図8は、実施例1で作製された樹脂接合前の金属部材をGD-OESにより表面分析を行った結果を示す図(グラフ)である。 図9は、実施例1で作製された金属樹脂接合体の接合断面をSEMで観察した際の図(写真)である。 図10は、実施例1で作製された金属樹脂接合体の接合断面をSEMで観察した際の精密断面評価用の図(写真)である。 図11は、実施例1で作製された樹脂接合前の金属部材の表面をSEMで観察した際の図(写真)である。 図12は、実施例1で作製された金属樹脂接合体に対してアルカリ処理を行った後に、樹脂成形体の表面をSEMで観察した際の図(写真)である。 図13は、実施例1で作製された樹脂接合前の金属部材に対してリン酸クロム酸処理を行った後に、金属部材の表面をSEMで観察した際の図(写真)である。 図14は、実施例1で作製された樹脂接合前の金属部材をEPMAにより断面マッピングを行った結果を示す図である。 図15は、実施例2で作製された金属樹脂接合体の接合断面をSEMで観察した際の図(写真)である。 図16は、実施例2で作製された樹脂接合前の金属部材の表面をSEMで観察した際の図(写真)である。 図17は、実施例2で作製された金属樹脂接合体に対してアルカリ処理を行った後に、樹脂成形体の表面をSEMで観察した際の図(写真)である。 図18は、実施例2で作製された樹脂接合前の金属部材に対してリン酸クロム酸処理を行った後に、金属部材の表面をSEMで観察した際の図(写真)である。 図19は、実施例6,実施例19に係る、接合強度評価の金属樹脂金属接合体の概要を示すための図である。 図20は、実施例6,実施例19に係る、気密性の評価の金属樹脂金属接合体の概要を示すための図である。 図21は、実施例15で作製された、温水浸漬処理後及び樹脂接合前の金属部材の表面をSEMで観察した際の図(写真)である。
以下、本発明の金属部材、金属樹脂接合体について、その製造方法と共に詳しく説明する。本発明の以下に説明する構成要素は、一部又は全部を適宜組み合わせることができる。
[1.金属部材および金属樹脂接合体]
本発明の金属部材は、表面に接合対象物との接合面を備えた金属部材であって、金属製の金属基材と、金属基材の表面に形成された水酸基を含有する水酸基含有皮膜とを備えている。本発明の金属樹脂接合体は、金属部材と、金属部材の表面に樹脂成形体とを備えている。
[1-1.金属部材]
<金属基材>
先ず、本発明の金属部材に使用する金属製の金属基材については、銅又は銅合金からなる銅基材や、鉄又は鉄合金からなる鉄基材や、アルミニウム又はアルミニウム合金からなるアルミ基材等、素材は制限されるものではなく、これを用いて形成される金属樹脂接合体の用途やその用途に要求される強度、耐食性、加工性等の種々の物性に基づいて決めることができる。また、所望の形状に適宜加工して得られる加工材、更にはこれらの加工材を適宜組み合わせて得られる組合せ材等が挙げられる。また、使用する用途にもよるが、通常はその厚みが0.3mm~10mm程度のものを用いる。通常、金属基材の表面には、酸化皮膜が形成されている。酸化皮膜は、大気中で自然に形成される自然酸化皮膜であってもよく、陽極酸化によって形成される陽極酸化皮膜であってもよい。また、熱間圧延によって形成される圧延酸化皮膜であってもよい。
<接合対象物>
金属基材との接合対象物としては、金属基材と接合可能な材料であれば特に限定されない。接合対象物は、金属基材の融点よりも低い温度で接合可能な材料を用いること好ましい。このような接合対象物は、好適には、樹脂材料からなる樹脂成形体である。樹脂成形体については後述する。
<接合面>
金属基材には、前記接合対象物との接合面が形成される。接合面は金属基材の一面の一部だけでもよいし、一面の全部や、或いは、両面の一部又は全部などでもよく、使用する用途などに応じて、必要な部分に接合面が形成されればよい。また、接合面の形状、大きさ、配置等についても特に限定されない。組合せ材などの場合においても同様である。なお、本発明において、「接合面」とは、金属基材と樹脂との接合が予定されている領域であって、樹脂との接合のために金属基材の表面に所定の処理が施された領域を称呼するものとする。これに対して、金属基材と樹脂とが接合した領域を「接合部」と称呼して区別する。
<水酸基含有皮膜>
金属基材の前記接合面には、水酸基含有皮膜が形成されている。水酸基含有皮膜は、前記接合面における一部又は全面に形成され得るが、接合対象物との接合強度及び気密性を十分なものとするために接合面の全面に形成されることが好ましい。「接合面の全面」とは、必ずしも接合面の表面積の100%のみに限定されるわけでなく、水酸基含有皮膜に覆われていない面がごく微小のスポット的に存在している場合を排除するものではない。接合面は、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上が水酸基含有皮膜に覆われていることがよい。水酸基含有皮膜は、金属基材の表面に、後述するレーザー処理、又は温水浸漬処理を施すことで形成することができる。
水酸基含有皮膜は、グロー放電発光分析法(Glow discharge optical emission spectrometry:GD-OES)によって、金属部材の表層付近に存在する水酸基を検出することで確認することができる。具体的には、まず、GD-OESを用いて、金属部材の接合面における厚さ方向に対して、金属基材を構成する主金属および水酸基に由来する発光強度(V)を測定する。続いて、主金属に由来する発光強度の積算値(面積)から、金属基材を構成する主金属の検出量を算出する。また、水酸基に由来する発光強度の積算値から、水酸基の検出量を測定する。さらに、主金属の検出量と水酸基の検出量との合計量に対する、水酸基の検出量の割合を、水酸基存在率として算出する。GD-OESによって得られる発光スペクトルのうち、281nmおよび309nmに現れるピークを、水酸基に由来するピークとする。GD-OESによる金属部材の表層付近の発光強度の測定は、表面から200nmの深さまでの測定を行えばよい。具体的には、金属基材を構成する主金属の元素および水酸基に由来する発光強度が検出されてから、主金属の元素に対応する200nmのスパッタリングに要する時間が経過するまでの範囲を測定する。この測定の範囲(時間)は、測定対象となる主金属元素を高純度で含む標準試料のスパッタリングレート(μm/min)を予め測定することにより把握することができる。GD-OESを利用して発光強度を測定することで、金属部材の最表層に存在する成分だけではなく、樹脂との接合に寄与しうる、ある程度の深さまで存在する成分を検出して評価を行うことができる。
水酸基存在率は4%以上70%以下とする。水酸基存在率が前記下限値以上であることにより、金属部材の表面付近に存在する水酸基が増加し、樹脂成形体に含まれる官能基との作用が強まることで、金属樹脂接合体の気密性が向上する傾向にある、また、このとき、金属樹脂接合体の接合強度も向上する傾向にある。前記下限値は、好ましくは5%以上、より好ましくは6%以上、さらに好ましくは7%以上である。
また、水酸基存在率が前記上限値以下となるようにすることは、金属基材に対する後述のレーザー処理や温水浸漬処理を過剰に行うことを防止し、形成された水酸基含有皮膜の機械的強度が過度に弱くなることを防止して、金属樹脂接合体の気密性の低下や、接合強度の低下を防止することができる。前記上限値は、好ましくは60%以下、より好ましくは50%以下、さらに好ましくは40%以下である。
水酸基存在率は、水酸基の形成方法によって変化する。例えば、金属基材がレーザー処理を受けた場合に比して、金属基材が、温水浸漬処理を受けた場合の方が高くなる傾向にある。レーザー処理により水酸基含有皮膜が形成された場合には、水酸基存在率は、好ましくは5%以上、より好ましくは6%以上、さらに好ましくは7%以上であり、好ましくは30%以下、より好ましくは20%以下、さらに好ましくは15%以下、特に好ましくは10%以下である。温水浸漬処理により水酸基含有皮膜が形成された場合には、水酸基存在率は、好ましくは10%以上、より好ましくは30%以上、さらに好ましくは40%以上であり、
好ましくは60%以下、より好ましくは55%以下、さらに好ましくは50%以下である。
水酸基含有皮膜は、金属基材を構成する金属に応じて、例えば、水酸化アルミニウム(Al(OH)3)、酸化水酸化アルミニウム(AlO(OH))、水酸化銅(Cu(OH)2)、水酸化鉄(II)(Fe(OH)2)、酸化水酸化鉄(III)(FeO(OH))、等の金属基材を構成する金属の水酸化物(金属水酸化物)、または金属基材を構成する金属の酸化水酸化物(金属酸化水酸化物)を含んでいる。また、水酸基含有皮膜は、金属基材を構成する金属に応じて、例えば、酸化アルミニウム(Al23)、酸化銅(I)(Cu2O)、酸化銅(II)(CuO)、酸化鉄(II)(FeO)、酸化鉄(II,III)(Fe34)、酸化鉄(III)(Fe23)、等の金属基材を構成する金属の酸化物(金属酸化物)を含んでいてもよい。
水酸基含有皮膜が後述のレーザー処理によって形成される場合には、通常、凹部と凸部が交互に連続して形成されたマイクロオーダーサイズの凹凸部(以下、「マクロ凹凸部」ということがある)が形成されるようにすることが好ましい。また、水酸基含有皮膜にはその表面にナノオーダーサイズの微細な凹凸部(以下、「微細凹凸部」ということがある)を有している。金属基材の表面にレーザー照射による処理を行うと、レーザー照射に起因して形成される金属酸化物が照射部の周辺に堆積した堆積物が皮膜状に形成される。このような堆積物からなる金属溶融層は、前記のとおりの金属酸化物として酸素を含有している。このような金属溶融層は、最表層に水酸基を有する水酸基含有皮膜を有しており、前記マクロ凹凸部及び微細凹凸を有する水酸基含有皮膜で覆われている。
水酸基含有皮膜が後述の温水浸漬処理によって形成される場合には、nmオーダーサイズの凸部と凹部とからなる凹凸状の立体構造体が形成される。凸部は金属基材(アルミ基材)の表面に網目状に広がり、凹部は凸部に挟まれる領域となる。凸部に囲まれる一つの領域は、数十~100nm程度の大きさである。凹凸状の立体構造体は、金属部材の表面または断面を、例えば、走査電子顕微鏡(Scanning Electron Microscopy:SEM)を用いて観察することで確認することができる。凹凸状の立体構造体は、アルミ基材と樹脂との接合強度と密着性の向上に寄与している。
<マクロ凹凸部>
レーザー光の照射により形成される水酸基含有皮膜のマクロ凹凸部は、μmオーダーサイズの凹凸形状を有する構造体であって、水酸基含有皮膜の表面に形成されている。前記のとおりマクロ凹凸部は、レーザー光の照射を受けて金属基材が穿孔されることで生じる凹部と、レーザー光の照射によって生じた金属酸化物の堆積物からなる凸部とからなる構造を有している。そして、複数回のレーザー光の照射が互いに隣接して行われることで、凹部と凸部とからなる繰り返し構造を有している。マクロ凹凸部は、金属部材の表面または断面を、例えば、走査電子顕微鏡(Scanning Electron Microscopy:SEM)を用いて観察することで確認することができる。マクロ凹凸部は、水酸基含有皮膜と同様に、金属水酸化物または金属酸化水酸化物を含んでいる。また、マクロ凹凸部は、水酸基含有皮膜と同様に、金属酸化物を含んでいてもよい。
マクロ凹凸部は、例えば、図9や図15を参照して説明する手順から求められる、所定の開口径(D)と深さ(L)を有する。また、これら開口径(D)と深さ(L)に応じて、マクロ凹凸部は所定のアスペクト比(L/D)を有する。マクロ凹凸部は、水酸基含有皮膜と同様に、金属水酸化物または金属酸化水酸化物を含んでいる。また、マクロ凹凸部は、水酸基含有皮膜と同様に、金属酸化物を含んでいてもよい。
ここで、開口径(D)と深さ(L)を算出するためには、SEMを用いて金属部材又は金属樹脂接合体の接合断面の観察を行い、少なくとも12個の凹部と11個の凸部とが交互に連続して配置されている、レーザー照射で形成された複数の凹凸部を含む断面写真を撮影する。そして、この断面写真に含まれる複数の凹凸部から、開口径(D)と深さ(L)を算出することができる。
具体的には、図9や図15に示すように、断面写真に以下のような線を設けることにより求める。まず、上述した断面写真において、任意に選択した連続した凹部12個について、各凹部のそれぞれの中で最も深い位置となる最底部のうちで最も深いものを最低凹部Pb1とする。最低凹部Pb1を通過するか、またはPb1よりも低い位置を通過するとともに、各凹部のそれぞれの最底部の位置からの距離の和が最も小さくなる位置を通る基準線RL1を引く。次に、上述した断面写真において、上述した12個の凹部に挟まれる各凸部の中で一番高い凸部を最頂凸部Pt1とする。最頂凸部Pt1を通過するとともに、基準線RL1と平行となる基準線RL2を引く。このように、RL1及びRL2がそれぞれ最低凹部Pb1、最頂凸部Pt1を通過するように引かれることにより、深さLを算出する際に、本来の値よりも過度に大きく又は小さく計算されて、アスペクト比が大きく又は小さく算出されてしまうことを防止することができる。続いて、上述した断面写真において、最底凹部Pb1を含む連続した12個の凹部について、各凹部の最底部から、基準線RL2に対して垂直となる方向に12本の直線を引き、これらの直線をそれぞれ順にa線~l線(図9や図15では、破線で表示)とする。
上述したa線~l線について、互いに隣接する線の中間において平行な中線を引き、これらの中線をそれぞれ順にA~K線とする。A線~B線の間隔を、A線とB線とによって挟まれるとともに、b線が通過する凹部の開口径D1として得る。同様にして、A~K線の隣接する線同士の間隔を、開口径D1~D10として得る。また、b線~k線それぞれにおいて、各凹部の最底部から基準線RL2までの距離を、10個の凹部の深さL1~L10として得る。開口径D1~D10、及び深さL1~L10は、a線~l線のうち、両端のa線とl線とを除いたb線~k線がそれぞれ通過する、10個の凹部の開口径D及び深さLにそれぞれ対応するものである。
このようにして、上述した断面写真に含まれるb線~k線がそれぞれ通過する10個の凹部について、深さL1~10、及び開口径D1~D10を得ることができる。さらに、深さL1~10、及び開口径D1~D10の中から、スミルノフ・グラブス検定を用いて外れ値を検出する。外れ値の検出を行うためには、まず、深さL1~L10の10個の凹部について、各深さLの値を深さL1~L10の平均値で減算した絶対偏差を算出し、算出された絶対偏差を深さL1~L10の不偏標準偏差で除算して検定統計量tを算出する。次に、検定統計量tがその値となる確率を表すp値を求める。そして、p値が5%未満となるものを外れ値として検出する。外れ値が検出された場合には、深さL1~L10の10個の凹部から外れ値が検出された凹部の深さLを除外して、残余の凹部の深さLについて再度外れ値の検出を行い、以降、外れ値が検出されなくなるまで繰り返す。同様にして、開口径D1~D10からも外れ値を検出する。さらに、上述した断面写真に含まれるb線~k線がそれぞれ通過する10個の凹部について、深さLまたは開口径Dの一方または両方で外れ値が検出された凹部を除いた残余の凹部の深さLと開口径Dから、深さLの平均値と、開口径Dの平均値とを算出する。このようにして得られた深さLの平均値と、開口径Dの平均値とを、金属部材又は金属樹脂接合体の深さ(L)、開口径(D)とする。
またさらに、上述した断面写真に含まれるb線~k線がそれぞれ通過する10個の凹部について、深さLまたは開口径Dの一方または両方で外れ値が検出された凹部を除いた残余の凹部の深さLと開口径Dから、各凹部の深さLを各凹部の開口径Dで除算して、それぞれのアスペクト比(L/D)を算出する。そして、各凹部それぞれのアスペクト比(L/D)から、複数の凹部のアスペクト比(L/D)の平均値を算出する。このようにして得られたアスペクト比(L/D)の平均値を、金属部材又は金属樹脂接合体のアスペクト比(L/D)とする。
本発明においては、開口径(D)が、20μm~200μmであることが好ましく、より好ましくは40μm~180μm、さらに好ましくは60μm~150μm、とくに好ましくは80μm~120μmである。当該開口径(D)が上記下限値以上となる場合、凹部が広くなることから、接合させる樹脂が凹部へ入り込みやすくなり、また、後述のアスペクト比を満足しやすくなる。一方で、開口径(D)が上記上限値以下となる場合、樹脂の入り込みによる嵌合効果が発揮されやすくなり、また、後述のアスペクト比を満足しやすくなる。
本発明においては、深さ(L)が、20μm~200μmであることが好ましく、より好ましくは40μm~180μm、さらに好ましくは60μm~150μm、とくに好ましくは80μm~120μmである。当該深さ(L)が上記下限値以上となる場合、十分な深さを有することから樹脂の入り込みによる嵌合効果が発揮されやすくなり、また、後述のアスペクト比を満足しやすくなる。一方で、深さ(L)が上記上限値以下となる場合、深さ(L)値及び開口径(D)がともに大きくなることによる粗大な凹凸構造が形成されることを防いで、樹脂の入り込みによる嵌合効果が発揮されやすくなり、また、後述のアスペクト比を満足しやすくなる。
そして、本発明においては、開口径(D)と深さ(L)とのアスペクト比(L/D)が、0.5~5であることが好ましく、より好ましくは0.5~4、さらに好ましくは0.7~3、とくに好ましくは1~2である。このようなアスペクト比を満足することにより、凹部の深部まで樹脂が流入してマクロ凹凸部と樹脂との間に生じる空隙の発生を抑えて水酸基含有皮膜の表面全体を封止するとともに、樹脂と作用する水酸基含有皮膜の表面積が増加する。このように、金属部材と樹脂とによる相互作用が十分に発揮されるような凹部の形状となることで、金属部材と樹脂成形体との接合強度及び気密性を高めることができる。L/Dが上記下限値を上回ることで、凹部の開口径に対して深さが相対的に小さすぎない程度のサイズとなって、凹部が適度な深さを有する形状となり、凹部に樹脂が流入した際に金属部材と樹脂との相互作用が発揮される形状となりやすくなる。また、アスペクト比が上記上限値を下回ることで、凹部の開口径に対して深さが相対的に大きすぎない程度のサイズとなって、凹部の幅が開口部から深部へ向けて次第に狭まる略三角形状の形状となり、凹部の深部まで樹脂が流入しやすくなる。
<微細凹凸部>
前記のとおり、水酸基含有皮膜の表面には微細凹凸部を有している。微細凹凸部は、nmオーダーサイズの凹凸形状を有する構造体であって、水酸基含有皮膜の表面のマクロ凹凸部上に形成されている。微細凹凸部は、レーザー照射によって水酸基含有皮膜を有する金属溶融層が形成された際に、水酸基含有皮膜の表面に形成される。微細凹凸部は、金属部材の表面または断面を、例えば、走査電子顕微鏡を用いて観察することで確認することができる。
微細凹凸部は、10nm~50nmのナノサイズの微細な開口部が形成されているとともに、その膜厚が10nm~1000nmの微細な構造を持つ。SEMによる観察を行った場合、微細凹凸部は、上記サイズの微細な開口部を有する海綿状の構造体として観察される。微細凹凸部は、水酸基含有皮膜と同様に、金属水酸化物または金属酸化水酸化物を含んでいる。また、微細凹凸部は、水酸基含有皮膜と同様に、金属酸化物を含んでいてもよい。
本発明者らの検証によれば、樹脂がマクロ凹凸部や微細凹凸部に入り込むことや、或いは、水酸基含有皮膜の水酸基と樹脂中の官能基との化学的な結合による作用が、接合強度や気密性の担保に寄与していることが確認された。このことについては、いまだ不明な点もあるが、後述の実施例(実施例1、実施例2)でも確認されているとおり、水酸基含有皮膜が形成された金属部材に対して、i)リン酸クロム酸処理を行うことや、ii)ステアリン酸処理を行う検証により、水酸基含有皮膜(微細凹凸部)の存在の有効性を確認することができる。その機序としては次のとおりである。i)リン酸クロム酸水溶液は、アルミニウム酸化物の溶解速度に比して、アルミニウム基材の溶解速度が緩やかである。金属部材をリン酸クロム水酸溶液によって処理することで、最表層のアルミニウム酸化物を選択的に溶解させて、処理後の最表層としてアルミニウム基材が残るようにすることができる。このとき、水酸基含有皮膜の微細凹凸構造が消失するとともに、表層の水酸基も消失される。また、ii)ステアリン酸は、親水基であるカルボキシ基(-COOH)と、疎水基であるアルキル基(-C1735)とを合わせ持ち一分子の厚みを持つ単分子膜を形成する性質がある。金属部材がステアリン酸によって処理されると、水酸基含有皮膜の表面に存在する水酸基がステアリン酸のCOOH基と相互作用(水素結合)することで、水酸基含有皮膜の表面がステアリン酸の疎水基によって覆われる。これにより、微細凹凸部の形状は維持されているものの、微細凹凸部の表面に存在する水酸基の活性を消失させることができる。
[1-2.樹脂成形体]
次いで、所定の接合面を有する金属部材に対して、接合対象物として好適に用いられる樹脂成形体について説明する。樹脂成形体は樹脂組成物を金属部材表面に成形させることにより形成することができる。樹脂成形体は、熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂を含んでいる。
熱可塑性樹脂としては、用途に応じて適宜公知のものから選択することができるが、例えば、ポリアミド系樹脂(PA6、PA66等の脂肪族ポリアミド、芳香族ポリアミド)、ポリスチレン、ABS樹脂、AS樹脂等のスチレン単位を含む共重合体、ポリエチレン、エチレン単位を含む共重合体、ポリプロピレン、プロピレン単位を含む共重合体、その他のポリオレフィン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリカーボネート系樹脂、アクリル系樹脂、メタクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアセタール系樹脂、ポリフェニレンスルフィド系樹脂を挙げることができ、これらを1種又は2種以上で使用することができる。この中でも、樹脂成形時の流動性が高く凹部に入り込みやすいなどの理由から、ポリアミド系樹脂、ポリフェニレンスルフィド系樹脂を用いることが好ましい。
熱硬化性樹脂としては、用途に応じて適宜公知のものから選択することができるが、例えば、尿素樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂、レソルシノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン、ビニルウレタンを挙げることができ、これらを1種又は2種以上で使用することができる。この中でも、反応硬化型接着剤は水酸基含有皮膜との相性がよく、反応面積が大きくなるに伴い高い接合強度が得られるなどの理由から、エポキシ樹脂系、アクリル樹脂系、ウレタン樹脂系を用いることが好ましい。
また、樹脂成形体として、例えば、接着剤を用いることもできる。接着剤としては、上述した熱可塑性樹脂もしくは熱硬化性樹脂、またはその他のエラストマーまたはゴムを含み、接着性を示す化合物を用いることができる。接着剤としては、用途に応じて適宜公知のものから選択することができるが、例えば、乾燥固化型接着剤として、アクリル樹脂系エマルジョン形、ゴム系ラテックス形、酢酸ビニル樹脂系溶剤形、ビニル共重合樹脂系溶剤形、ゴム系溶剤形などが挙げられ、また、反応硬化型接着剤として、エポキシ樹脂系、ウレタン樹脂系、変性シリコーン樹脂系ものなどを挙げることができ、これらを1種又は2種以上で使用することができる。この中でも、反応硬化型接着剤は水酸基含有皮膜との相性がよく、反応面積が大きくなるに伴い高い接合強度が得られるなどの理由から、エポキシ樹脂系、アクリル樹脂系、ウレタン樹脂系を用いることが好ましい。
さらに、熱可塑性エラストマーを用いることができ、例えば、スチレン系エラストマー、塩化ビニル系エラストマー、オレフィン系エラストマー、ウレタン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ニトリル系エラストマー、ポリアミド系エラストマーを挙げることができ、これらを1種又は2種以上で使用することができる。
また、上記のそれぞれの樹脂(樹脂組成物)においては、金属部材との間の密着性、機械的強度、耐熱性、寸法安定性(耐変形、反り等)、電気的性質等の性能をより改善するために、繊維状、粉粒状、板状等の充填剤や、各種のエラストマー成分を添加することができる。
更に、樹脂(樹脂組成物)には、一般的に添加されてもよい公知の添加剤、すなわち難燃剤、染料や顔料等の着色剤、酸化防止剤や紫外線吸収剤等の安定剤、可塑剤、潤滑剤、滑剤、離型剤、結晶化促進剤、結晶核剤等を、要求される性能や本発明の目的を阻害しない範囲において、適宜添加することができる。
[1-3.金属樹脂接合体]
金属樹脂接合体は、接合面に形成された水酸基含有皮膜を介して、金属部材と樹脂成形体とが一体的に接合されている。その際、樹脂が水酸基含有皮膜に形成されたマクロ凹凸部や微細凹凸部に入り込んだ状態で成形されていることが好ましい。金属部材及び樹脂成形体をそれぞれ1つずつ用いて接合させてもよいし、或いは、それらのいずれか又は両方を複数用いて接合させてもよく、さらには、それらの複数のセットを任意に積層させたような態様であってもよく、用途に応じて適宜決定することができる。
例えば、金属樹脂接合体は、金属部材と樹脂成形体とが、積層または連続して配置された状態で接合している金属-樹脂接合体であってもよい。または、金属樹脂接合体は、金属部材と樹脂成形体と金属部材とが、この順で積層または連続して配置された状態で接合している金属-樹脂-金属接合体であってもよい。または、金属樹脂接合体は、樹脂成形体と金属部材と樹脂成形体とが、この順で積層または連続して配置された状態で接合している樹脂-金属-樹脂接合体であってもよい。
金属樹脂接合体が、樹脂成形体を介して2以上の金属部材を接合する金属-樹脂-金属接合体である場合には、金属部材に挟まれた状態で熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂を成形した樹脂成形体を備えるものであってもよい。または、熱可塑性樹脂もしくは熱硬化性樹脂等を含む接着剤を樹脂成形体として用いて、金属部材が接着剤を介して接合されたものであってもよい。
[2.金属部材および金属樹脂接合体の製造方法]
本発明の金属部材の製造方法は、表面(接合面)に水酸基含有皮膜を備えた金属部材の製造方法であって、金属製の金属基材の表面への表面処理によって水酸基を含有する水酸基含有皮膜を形成する皮膜形成工程を備えている。本発明の金属樹脂接合体の製造方法は、金属部材の表面に樹脂成形体を接合させる樹脂成形工程を備えている。
[2-1.金属部材の製造方法]
<準備工程>
本発明の金属部材の製造方法では、皮膜形成工程に先駆けて、金属基材の表面の前処理として、ブラスト処理、脱脂処理、エッチング処理、デスマット処理、化学研磨処理、及び電解研磨処理等の前処理を施す準備工程を備えていてもよい。
<皮膜形成工程>
本発明の皮膜形成工程における表面処理は、上記のように準備した金属基材の表面にレーザー光を照射する処理(以下、単に「レーザー処理」などという。)か、又は、上記のように準備した金属基材を50℃以上の温水に60秒以上浸漬する温水浸漬処理(以下、単に「温水浸漬処理」などという。)を施す。以下、それぞれの処理について説明する。
<2-1-1.レーザー処理>
レーザー処理によって、接合対象物との接合面に水酸基含有皮膜を形成させて、本発明に係る金属部材を得る。ここで、レーザーとしては、公知のレーザーを使用することができるが、本発明のようにスポット的に金属基材を加工することに好都合であることから、パルス発振レーザーを用いることが好ましく、例えば、YAGレーザー、YVO4レーザー、半導体レーザー、ファイバーレーザーを用いることがよい。
水酸基含有皮膜の形成原理は概ね次のとおりである。すなわち、レーザー照射によるエネルギーによって金属基材が溶融・蒸発するが、蒸発によって穿孔されることでその空間が凹部の基となり、その凹部の両側(両隣)のレーザーが照射されない部分が凸部の基となる。それと同時に、溶融した金属部分は一部又は全部が酸化されて金属酸化物となり、金属酸化物は少なくとも多少の部分的イオン性を持っており、金属酸化物の新性表面には金属イオン(Al3+)と酸化物イオン(O2-)が存在している。静電的中和性から、空気中の水分と反応することで、金属溶融層の表面に存在する金属酸化物の水酸基化が起こり、金属溶融層の表面が水酸基で覆われることになる。このようにして、金属溶融層の最表層に、水酸基を含有する水酸基含有皮膜が形成される。この過程において、金属酸化物が凹部となる照射部の周辺に堆積することにより、凸部が形成される。金属酸化物からなる堆積物は、凹部と凸部を覆って皮膜状に形成される。このように、金属基材の表面に形成された金属酸化物からなる堆積物によって、水酸基含有皮膜が形成される。また、水酸基含有皮膜にはマクロ凹凸部の凹凸形状を形作る金属溶融層が形成される。
なお、金属部材にレーザー照射を受けないレーザー未照射部が存在している場合には、レーザー未照射部には金属溶融層が存在しておらず、水酸基含有皮膜も存在してない。通常、レーザー未照射部には、酸化皮膜が形成されている。レーザー未照射部は、水酸基含有皮膜を有さないため、水酸基に起因する化学的接合による気密性の向上効果が低下する可能性がある。また、レーザー未照射部が平坦な場合には、マクロ凹凸部に起因する機械的接合による接合強度の向上効果が低下する可能性がある。したがって、接合面にレーザー未照射部が残存しており、接合面の全体に水酸基含有皮膜が形成されていない場合には、金属樹脂接合体の気密性および接合強度の向上効果が低下する可能性がある。そのため、金属基材の接合面においては、レーザー未照射部が存在しないように水酸基含有皮膜が全面に亘って形成されていることが好ましい。
<レーザー処理条件>
本発明は、上述したような水酸基含有皮膜を備えるようにするためには、次のような点を考慮したレーザー処理条件に設定することが好ましい。
レーザー処理は、単位面積当たりのレーザー光の照射エネルギー(以降、「エネルギー密度」とも称する。)の影響を受ける。エネルギー密度は、レーザー処理の対象となる対象物(ワーク)において、レーザー光が照射されるレーザー被照射部が、単位面積と単位時間当たりに受けるレーザー出力を表す。エネルギー密度(J/mm2)は、レーザー光の出力W(W)、レーザー光の走査回数N(回)、レーザー光の照射間隔C(mm)、レーザー光の走査速度V(mm/s)、レーザー被照射部におけるレーザー光の照射方向と直行する長さLength、レーザー被照射部におけるレーザー光の照射方向と平行な幅Width、から、下記式(A1)によって表される。
エネルギー密度=(((Length/C)×Width×N)/V)×W)/(Length×Width) ・・・式(A1)
式(A1)を変形すると以下の式(A2)が得られる。エネルギー密度は、式(A2)によって算出することができる。
エネルギー密度=(W×N)/(C×V) ・・・式(A2)
エネルギー密度は、好ましくは0.4J/mm2以上である。エネルギー密度が増加すると、レーザー処理を受けた金属部材の表面に、所定の水酸基存在率を有する水酸基含有皮膜が形成されやすくなる。また、水酸基を有する微細凹凸部が形成されやすくなる。さらに、エネルギー密度が増加すると、金属基材の表面に形成されるマクロ凹凸部の凹部が深く形成されて、レーザー処理後の金属部材の表面粗さが大きくなる傾向にある。なお、金属基材を構成する金属の融点が高く、熱拡散が大きいほど、金属基材がレーザー光による作用を受けにくくなる傾向にある。上述した事情を考慮して、エネルギー密度は、レーザー処理の対象となる金属にあわせて変更することが望ましい。
アルミニウムを主金属とする金属基材に対してレーザー処理を行う場合には、エネルギー密度は、好ましくは0.4J/mm2以上、より好ましくは0.6J/mm2以上、さらに好ましくは1J/mm2以上、特に好ましくは1.3J/mm2以上である。また、アルミニウムを主金属とする金属基材に対してレーザー処理を行う場合には、エネルギー密度は、好ましくは5J/mm2以下、より好ましくは4J/mm2以下、さらに好ましくは3J/mm2以下、特に好ましくは2J/mm2以下である。
鉄を主金属とする金属基材に対してレーザー処理を行う場合には、エネルギー密度は、好ましくは0.4J/mm2以上、より好ましくは1J/mm2以上、さらに好ましくは2J/mm2以上、特に好ましくは3J/mm2以上である。また、鉄を主金属とする金属基材に対してレーザー処理を行う場合には、エネルギー密度は、好ましくは10J/mm2以下、より好ましくは8J/mm2以下、さらに好ましくは7J/mm2以下、特に好ましくは5J/mm2以下である。
銅を主金属とする金属基材に対してレーザー処理を行う場合には、エネルギー密度は、好ましくは0.4J/mm2以上、より好ましくは1J/mm2以上、さらに好ましくは3J/mm2以上、特に好ましくは5J/mm2以上である。また、銅を主金属とする金属基材に対してレーザー処理を行う場合には、エネルギー密度は、エネルギー密度は、好ましくは30J/mm2以下、より好ましくは20J/mm2以下、さらに好ましくは15J/mm2以下、特に好ましくは10J/mm2以下である。
エネルギー密度が上記下限値以上であることにより、レーザー処理を受けた金属部材の表面に、所定の水酸基存在率を有する水酸基含有皮膜が形成されやすくなる。また、水酸基を有する微細凹凸部が形成されやすくなる。したがって、水酸基を有する水酸基含有皮膜(及び微細凹凸部)によって、金属樹脂接合体の気密性及び接合強度が向上しやすくなる。また、エネルギー密度が上記上限値以下であることにより、金属基材の表面に形成される水酸基含有皮膜の水酸基存在率が高すぎることなく、水酸基含有皮膜の機械的強度などが低下することを防止することができる。
レーザー処理におけるレーザー条件(レーザー処理条件)は、上述したエネルギー密度を達成するように適宜設定すればよい。レーザー処理条件のパラメータとしては、レーザー光の出力(W)、レーザー光の周波数(kHz)、レーザー光のビーム径(μm)、レーザー光の照射間隔(μm)、レーザー光の走査速度(mm/s)、レーザー光の走査回数(回)が挙げられる。なお、走査回数とは、同一の照射軌跡に沿ってレーザー光を繰り返し照射する回数をいう。ここで、レーザー光のビーム径と照射間隔との関係について、図1を参照して説明する。レーザー光の照射間隔とは、対象物に照射される一のレーザー光の軌跡4と、当該レーザーと隣接して照射される他のレーザー光の軌跡4’との間の間隔をいう。より具体的には、レーザー光の照射間隔は、当該一のレーザー光の軌跡4における走査方向1と直行する方向のいずれか一方側の端部と、当該他のレーザー光の軌跡4’における当該一のレーザー光と同じ側の端部との間の距離をいう。パルスレーザ―を照射した場合には、レーザー光の軌跡は、個々のレーザーパルスによって形成される細孔が連続した軌跡として表される。この場合、レーザー光の照射間隔3は、連続する細孔によって形成されるレーザー光の軌跡に挟まれた領域の幅と、ビーム径2の大きさとを足し合わせた長さに相当する。
レーザー処理の対象となる金属基材の主金属がアルミニウム、鉄、銅である場合について、レーザー処理条件の例を表1に示す。
Figure 2023059620000002
<2-1-2.温水浸漬処理>
また、温水浸漬処理によって、接合対象物との接合面に水酸基含有皮膜を形成させて、本発明に係る金属部材を得る。
温水浸漬処理による水酸基含有皮膜の形成原理は概ね次のとおりである。すなわち、例えば、アルミニウムを主金属とする金属基材を50℃以上の温水に浸漬した場合、アルミニウムが温水と反応することにより、酸化水酸化アルミニウム(AlO(OH))を含む水酸基含有皮膜が形成される。温水浸漬処理に用いられる金属基材については制限されないが、前記の所望の水酸基存在率を有する水酸基含有皮膜を形成されるために、アルミニウムか、又はアルミニウムを含む合金を用いることが好ましい。
<温水浸漬処理条件>
上述したような水酸基含有皮膜を備えるようにするためには、次のような点を考慮した温水浸漬条件に設定することが好ましい。温水浸漬処理を行う際においても、前記した金属基材表面の前処理として、ブラスト処理、脱脂処理、エッチング処理、デスマット処理、化学研磨処理、及び電解研磨処理等の前処理を施す準備工程を備えていてもよい。脱脂処理としては、レーザー又はオゾンを利用した乾式処理を行ってもよく、酸またはアルカリを利用した湿式処理を行ってもよい。また、これらの前処理のうち、一つの処理を施してもよく、二つ以上の処理を組み合わせて施してもよい。この中でも、前処理として、投射材を噴射するブラスト処理を行うことにより、金属基材の表面の凹凸や表面粗さを増やして表面積を増やすことで、温水浸漬処理において水酸基を比較的多く存在させることができるため好ましい。また、ブラスト処理と他の前処理を組み合わせてもよく、ブラスト処理を行った後に他の前処理を施すことが好ましい。ブラスト処理は公知の方法を採用することができる。
温水の温度は50℃以上とする。好ましくは、60℃以上、より好ましくは90℃以上、さらに好ましくは95℃以上とする。温度を50℃以上とすることにより、上記反応を生じることができ、上記の水酸基存在率を満足するような水酸基含有皮膜の生成が可能となる。温度の上限値は限定されないが、反応が過度になることを避ける観点から、100℃以下とすることがより好ましい。
また、温水に浸漬する時間は60秒以上とする。好ましくは5分以上、より好ましくは10分以上とする。浸漬時間を60秒以上とすることにより、上記反応を生じることができ、上記の水酸基存在率を満足するような水酸基含有皮膜の生成が可能となる。浸漬時間の上限値は限定されないが、反応が過度になることや、水酸基含有皮膜が厚く形成されることで脆くなり、接合強度が低下することを避ける観点から、60分以下とすることが好ましく、30分以下とすることがより好ましく、20分以下とすることがさらに好ましい。
また、使用する温水ついては、温水中のケイ素(Si)(ケイ素イオン)の含有量を2ミリグラム/リットル(mg/L)以下とする。好ましくは1mg/L以下、より好ましくは0.5mg/L以下、さらに好ましくは0.25mg/L以下とする。可及的に少ないことが最も好ましく、ケイ素の含有量がこの範囲であるイオン交換水や純水を用いることが好ましい。このように温水中のケイ素含有量を所定量以下とすることの有効性については必ずしも理由が明確ではないが、ケイ素が所定量を超えて存在すると、水酸基含有皮膜の形成過程において水酸基の形成が阻害されて、水酸基含有皮膜の形成が妨げられるからと考えられる。また、ケイ素が所定量を超えて存在した状態に長時間の反応を行った場合には、水酸基含有皮膜が形成されたとしても、脆い皮膜になる。そのため、水酸基含有皮膜の水酸基存在率を上記の範囲とするために、温水中のケイ素含有量を上記上限値以下とする。
また、使用する温水については、上記ケイ素含有量が所定量であることに加えて、温水の導電率が0.01mS/m以上10mS/mであることが好ましい。温水の導電率が0.01mS/m未満は超純水の領域となるため、純粋製造コストや実用性などを考慮して上記下限値以上とする。より好ましい下限値は0.02mS/m以上、さらに好ましい下限値は0.05mS/m以上である。また、水酸基含有皮膜の皮膜生成速度が遅くなることや皮膜の欠陥を生じにくくするために、導電率を上記上限値以下とする。より好ましい上限値は5mS/m以下、さらに好ましい上限値は2mS/m以下である。
[2-2.金属樹脂接合体の製造方法]
金属樹脂接合体は、樹脂組成物を原料として、金属部材表面に樹脂成形体を成形させることによって製造する。
ここで、樹脂組成物の成形(樹脂成形体の形成)方法としては、使用される樹脂に合わせて適宜好ましい成形方法を採用することができる。例えば、熱可塑性樹脂を用いる場合には、金属部材上に熱可塑性樹脂を含む組成物を射出成形することにより樹脂成形体を一体的に接合させて金属樹脂接合体として得ることや、或いは、射出成形で予め樹脂成形体として得たうえで、得られた樹脂成形体を金属部材表面にレーザー溶着、振動溶着、超音波溶着、ホッとプレス溶着、熱板溶着、非接触熱板溶着又は高周波用着などの手段を用いた熱圧着により一体的に接合させる方法などを挙げることができるが、これらに限定されない。
また、例えば、熱硬化性樹脂を用いる場合には、金属部材上に熱硬化性樹脂を含む組成物の射出成形することにより樹脂成形体を一体的に接合させて金属樹脂接合体として得ることや、或いは、所定の粘度に調整した組成物を金属部材上に塗布するなどしてから一体的に加熱・加圧する圧縮成形する方法などを挙げることができるが、これらに限定されない。
また、接着剤を用いる場合には、金属部材上に塗布し、乾燥させて硬化させることができるが、必要により加温などの操作を行っても構わず、使用する接着剤に合った成形条件を採用することができる。
[3.作用効果]
従来より、金属樹脂接合体の接合強度を高めるために、金属製材料をレーザー光で処理した際に所定の開口径及び深さを有する凹凸部を形成することにより、樹脂が入り込むことで機械的な相互作用を起こしやすい構造を形成することが有効であるとされている。また、該レーザー処理により生じる金属基材の溶融部が酸素を含有する酸素含有皮膜であり、この酸素含有皮膜が接合強度の発現に寄与することが知られていた。また、レーザーの照射密度や照射強度について開示する文献が存在していたが、これらの文献では詳細な定義が一義的に定まらないため、接合強度と気密性を向上させることのできるレーザー処理条件は明らかになっていない状況にあった。
本発明者らが詳細に検討した結果、金属樹脂成形体の接合強度を高め、また十分な気密性を担保できる金属樹接合体を得るためには、金属部材と樹脂成形体とが、接合面において所定の水酸基含有皮膜を介して接合されていることが必要であることを突き止めた。具体的には、水酸基含有皮膜の表面に存在する水酸基について、GD-OESを利用して発光強度を測定することで、金属部材の最表層に存在する成分だけではなく、樹脂との接合に寄与しうる、ある程度の深さまで存在する成分を検出して評価を行う。そして、これによって評価される水酸基存在率を所定の範囲内に規定することが、水酸基含有皮膜の水酸基と樹脂中の官能基との化学的な結合の向上に有効であるとの考えに至った。このような視点で金属基材の表面に所定の水酸基含有皮膜を形成することにより、樹脂成形体と接合した場合には、実際に高い接合強度が得られ、また十分な気密性を担保できる金属樹脂成形体が得られることを突き止めた。
本発明の金属部材および金属樹脂接合体では、GD-OESによって表面から深さ方向に向けて分析を行った際に評価される水酸基存在率が4%以上70%以下である水酸基含有皮膜が接合面に形成されている。このような水酸基含有皮膜を有することによって、金属部材の表面に存在する水酸基と樹脂成形体の表面に存在する官能基との間で水素結合による化学的接合が発揮される。また、水酸基含有皮膜が、μmオーダーのマクロ凹凸部を有することにより、マクロ凹凸部と樹脂成形体との間で機械的接合(アンカー効果)が期待できる。さらに、水酸基含有皮膜は、マクロ凹凸部の表面にnmオーダーのサイズの微細凹凸部を有している。これにより、接合面の表面に提示される水酸基含有皮膜の表面積が増大し、樹脂成形体と相互作用する水酸基の量を増大させることが期待できる。これによって、本発明の金属部材および金属樹脂接合体によれば、金属部材と樹脂成形体との化学的接合と機械的接合とによる作用が強まり、接合強度と気密性を向上させることが可能となっている。
本発明の金属部材及び金属樹脂接合体の製造方法では、金属基材の表面処理により、前記のGD-OESによって評価される所定の水酸基存在率を有する水酸基含有皮膜を形成する皮膜形成工程を備える。表面処理としてレーザー処理を行う場合には、レーザー処理におけるエネルギー密度が0.4J/mm2以上である。また、本発明のエネルギー密度は、レーザー光が照射されるレーザー被照射部が単位面積と単位時間当たりに受けるレーザー出力を表し、レーザー光の出力Wとレーザー光の走査回数Nに加えて、レーザー光の照射間隔Cとレーザー光の走査速度Vを用いて算出される。これにより、前記水酸基含有皮膜を形成しやすくなり、金属部材と樹脂成形体の接合強度と気密性を向上させることが可能となっている。
また、表面処理として温水浸漬処理を行う場合には、金属基材としてアルミニウムであるか又はアルミニウムを含む合金を用いるとともに、ケイ素含有量が2mg/L以下であって温度が50℃以上の温水に60秒以上浸漬させることによって、前記した所望の水酸基含有皮膜を形成しやすくなり、金属部材と樹脂成形体の接合強度と気密性を向上させることが可能となっている。
以下、実施例、比較例及び試験例に基づいて、本発明の好適な実施の形態を具体的に説明するが、本発明がこれにより限定されて解釈されるものでもない。
[評価方法]
<接合強度の評価(1)(せん断試験)>
金属樹脂接合体の接合強度の評価を、ISO19095に準じたせん断強度の測定によって行った。具体的には図2に示すように、金属部材6と樹脂成形体5とを接合した金属樹脂接合体7を専用治具8に固定し、10mm/minの速度で、接合面に対して平行な方向にせん断力が加わるように荷重を印加し、金属部材と樹脂成形体との間の接合部分を破壊する試験を実施した。金属樹脂接合体が破断したときの破断力を引張せん断強度(MPa)として求めた。
さらに、せん断試験を行った後の金属部材側の破断面を目視で観察し、破断形態を確認した。樹脂成形体で母材破壊が生じた場合を樹脂母材破壊(〇)(良)と判断した。一方、一部の樹脂母材破壊(△)や、金属部材と樹脂成形体との界面で破壊が生じた場合(×)は不良と判断した。樹脂成形体の射出成形を行った後に、金型から離型した際に、金属部材と樹脂接合体との間に破断が見られたものは、せん断強度を0MPaとした。
<接合強度の評価(2)(せん断試験)>
金属樹脂金属接合体の接合強度の評価を、JIS K 6850を参考にしたせん断強度の測定によって行った。具体的には図3に示すように、2枚の金属部材6及び6’を、後述の熱硬化性接着剤を用いて貼り合わせた金属樹脂金属接合体9を専用治具8に固定し、5mm/minの速度で、接合面に対して平行な方向にせん断力が加わるように荷重を印加し、接着剤を介した金属部材どうしの接合体の接合部分を破壊する試験を実施した。金属樹脂金属接合体が破断したときの破断力を引張せん断強度(MPa)として求めた。
さらに、せん断強度の評価後の破断面を目視で観察し、破断形態を確認した。接着剤で凝集破壊が生じ、接合部全体に接着剤が残っていた場合は樹脂母材破壊(〇)(良)と判断した。アルミ板材(金属板材)と接着剤との界面破壊が生じた場合(×)は不良と判断した。
<気密性の評価>
金属樹脂接合体、又は金属樹脂金属接合体の気密性の評価を、エアーリーク試験によって行った。具体的には、具体的には図4に示すように、金属部材6と樹脂成形体5とを接合した金属樹脂接合体7を専用気密性冶具13にクランプして固定した状態で、エアーを最大で正圧0.5MPaまで印加し、1分間保持した。その後,エアー漏れの有無を目視で確認した。または、図5に示すように、2枚の金属部材6及び6’を、後述の熱硬化性接着剤を用いて貼り合わせた金属樹脂金属接合体9を専用気密性冶具13にクランプして固定した状態で、エアーを最大で正圧0.5MPaまで印加し、1分間保持した。その後,エアー漏れの有無を目視で確認した。上述した専用気密性治具13では、金属樹脂接合体7、又は金属樹脂金属接合体9を、O-リング11を介装した状態で上下から固定治具で挟みこんで固定している。金属樹脂接合体7、又は金属樹脂金属接合体9を挟んで、専用気密性治具13の上側の開放部には水10が存在しており、専用気密性治具13の下側の密閉部には空気が存在している。通気管12を通じて密閉部にエアーを印加することで、接合界面から気泡が発生するかどうかを機序として、金属樹脂接合体7、又は金属樹脂金属接合体9を通じて、開放部側にエアーが漏れるかどうかを確認することができる。評価時間内においてエアーリークがない場合を「合格(良)」、エアーリークが観察された場合を「不合格(不良)」として評価した。
<GD-OES表面分析>
樹脂成形体を接合する前の金属部材に対して、グロー放電発光分析装置(Glow discharge optical emission spectrometry:GD-OES)(堀場製作所製:GD-Profiler2)を用いた表面分析を行った。測定条件は分析径(アノード径):4mmφ、ガス圧力:600Pa、RF出力:35W、取込間隔:0.1s、測定元素:Al(測定波長396.157nm、光電子増倍管の高電圧600V)、測定元素:Fe(測定波長374.954nm)、測定元素:Cu(測定波長324.759nm)、測定元素:OH基(測定波長306.775nm、光電子増倍管の高電圧900V)である。また,測定方法は、Arプラズマにより試料をスパッタリングさせ、スパッタされた原子を原子発光させることで、元素分析を行い、金属部材または水酸基が検出されてから金属部材を構成する主たる元素(Al、Cu、Fe)に対応する200nmのスパッタリングに要する時間が経過するまでの範囲で検出された発光強度から、水酸基存在率を算出した。200nmのスパッタリングに要する時間については、上記の元素を高純度で含む各標準試料(Al:日本軽金属株式会社製のA995、Cu:株式会社ニラコ製のCu-113514、Fe:株式会社ニラコ製のFe-223469)を上記と同じ装置及び分析条件で予め測定し、得られたスパッタリングレート(μm/min)から求めた。各標準資料の純度、並びに各標準資料のスパッタリングレート及び200nmのスパッタリングに要する時間は以下の表2のとおりである。
Figure 2023059620000003
<接合断面の評価>
樹脂成形体を接合する前の金属部材、又は金属樹脂接合体を厚さ方向に切断して、エポキシ樹脂に埋め込んだ後、湿式研磨を行い、接合断面評価用のサンプルを作製した。接合断面評価用のサンプルに対して、厚さ方向断面を走査型電子顕微鏡(日本電子製、JSM-7200F)により倍率100~500倍で観察した。観察断面から、マクロ凹凸部の深さ(L)、開口径(D)を測定するとともに、アスペクト比(L/D)を算出した。また、樹脂成形体を接合する前の接合断面評価用のサンプルを厚さ方向に切断して、クロスセクションポリッシャ(日本電子製、SM-09010)を用いて、精密断面評価用のサンプルを作製した。精密断面評価用のサンプルに対して、厚さ方向断面を走査型電子顕微鏡(日本電子製、JSM-7200F)により倍率50000倍で断面を観察した。
<接合前の金属部材の表面の評価>
樹脂成形体を接合する前の金属部材に対して、走査型電子顕微鏡(日本電子製、JSM-7200F)を用いて、表面を走査型電子顕微鏡(日本電子製、JSM-7200F)により倍率50000倍で表面を観察した。
<アルカリ処理による接合界面の評価>
アルミニウムを主金属とする金属樹脂接合体に対して、5wt%水酸化ナトリウム溶液に、50℃で12時間浸漬するアルカリ処理を施して、金属を完全溶解させて、試験樹脂成形体を得た。アルカリ処理により、金属樹脂接合体の金属部材を溶解除去して、樹脂成形体を残すことができる。
アルカリ処理を行った後の試験樹脂成形体に対して、走査型電子顕微鏡(日本電子製、JSM-7200F)により倍率50000倍で表面を観察した。
<リン酸クロム酸処理による水酸基含有皮膜の評価>
樹脂接合前の金属部材(アルミ板材、アルミ円盤)を、リン酸35mL、酸化クロム(VI)20gに蒸留水を加えて1Lとしたリン酸クロム水酸溶液に95℃~100℃で10分間浸漬するリン酸クロム酸処理を施して、試験金属部材を得た。本実施例では、リン酸クロム酸処理によって、微細凹凸部および水酸基含有皮膜の表面に存在する水酸基を除去するとともに、マクロ凹凸部が溶け切らずに残存する条件で処理を行っている。
次いで、リン酸クロム酸処理後の試験金属部材に対して、後述する樹脂成形体の接合方法によって樹脂成形体を接合させて、リン酸クロム酸処理後の試験接合体を作製した。
リン酸クロム酸処理後の試験接合体に対して、上述した評価方法により接合強度と気密性を評価した。
また、リン酸クロム酸処理を行う前の金属部材と、リン酸クロム酸処理を行った後の試験金属部材に対して、走査型電子顕微鏡(日本電子製、JSM-7200F)を用いて、表面を観察した。
<ステアリン酸処理による水酸基含有皮膜の評価>
100℃に保持した電気炉中でステアリン酸粉末を揮発させ、その中に樹脂接合前の金属部材(アルミ板材、アルミ円盤)を24時間暴露するステアリン酸処理を施して、試験金属部材を得た。
次いで、ステアリン酸処理後の試験金属部材に対して、後述する樹脂成形体の接合方法によって樹脂成形体を接合させて、ステアリン酸処理後の試験接合体を作製した。
ステアリン酸処理後の試験接合体に対して、上述した評価方法により接合強度と気密性を評価した。
<EPMA断面マッピング>
樹脂成形体を接合する前の金属部材に対して、電子プローブマイクロアナライザー (Electron Probe Micro Analyzer:EPMA)(島津製作所製:EPMA-1610)を用いた断面マッピングを行った。測定条件は、照射径が40μm/stepで縦横方向にそれぞれ512step測定するマッピング分析を実施した。ここで、測定面積は20.48mm×20.48mmであり、1stepのサンプリングタイムは20msであって、加速電圧は15kVであり、酸素の深さ方向の分解能は3μm以下である。次に、検出された酸素強度を事前に作成した検量線から重量百分率(wt%)として算出した。なお、検量線は、Al23標準試料(酸素量:48wt%)の酸素強度と高純度Al箔の酸素強度の2点から算出し作成したものを使用した。
<温水中のイオン濃度>
温水浸漬処理に使用する温水について、以下の1)~5)の方法ごとに、各カチオン及び各アニオンの濃度を測定した。
1)Si
温水中のSiイオン濃度は、JIS K 0101のモリブデン青吸光光度法に準じ、分光光度計を用いて波長λ=810nmの吸光度を測定して、事前に作成したシリカ標準液の検量線からイオン状シリカの濃度(mg/L)を算出した。
2)B、Mg、Ca、Fe、Ni、Al、Zn
温水中のホウ素(B)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、鉄(Fe)、ニッケル(Ni)、アルミニウム(Al)、亜鉛(Zn)の各イオン濃度は、ICP発光分析法に準じ、試料溶液である温水および各元素の標準液を添加した検量線溶液を高周波誘導結合プラズマ中に導入し、各元素における発光波長の発光強度を測定して、各元素の標準液を添加した検量線から温水中の各イオン濃度を算出した。発光波長は以下に示すとおりである。
B:249.773nm
Mg:279.553nm
Al:396.152nm
Ca:393.366nm
Fe:238.204nm
Zn:213.856nm
Ni:231.604nm
3)Na、K
温水中のナトリウム(Na)、カリウム(K)の各イオン濃度は、フレーム原子吸光法に準じ、試料溶液である温水および各元素の標準液を添加した検量線溶液をアセチレン-空気フレームに噴霧し、ホローカソードランプと呼ばれる各元素固有の波長(Na:589.0nm、K:766.5nm)の光を出すランプを光源とし、原子化された元素毎の光の吸収量を測定して各元素の標準液を添加した検量線から温水中のNa、Kのイオン濃度を算出した。
4)Li
温水中のリチウム(Li)イオン濃度は、フレーム光度法に準じ、試料溶液である温水およびLi元素の標準液を添加した検量線溶液をアセチレン-空気フレームに噴霧し、励起され発光した元素特有の輝線スペクトル(Li:670.8nm)の輝度を測定してLi元素の標準液を添加した検量線から温水中のLiイオン濃度を算出した。
5)F,Cl,NO,Br,NO,SO,PO
温水中のフッ素(F)、塩素(Cl)、亜硝酸(NO)、臭素(Br)、硝酸(NO3)、硫酸(SO)、リン酸(PO)の各イオン濃度は、イオンクロマトグラフ法に準じ、試料溶液である温水および各イオンの標準液を添加した検量線溶液を装置に導入し、分離カラムで各イオンを分離し、電気伝導度検出器によって各イオンの電気伝導度を測定して、各イオンの標準液を添加した検量線から温水中の各イオン濃度を算出した。
[実施例1]
<金属部材の作製>
ISO19095に準拠し、JIS H0001に示された調質記号T5で処理したA6063アルミニウム合金(A6063-T5)の中空押出し材から厚さ1.5mm×幅18mm×長さ45mmの長方形状のアルミ板材と、厚さ2mm×外径Φ55mm×内径Φ20mmの円環状のアルミ円盤とを、それぞれ金属基材として切り出して準備した。
次に、これらアルミ板材及びアルミ円盤のそれぞれの被加工面に対して、以下の条件でレーザー照射するレーザー処理を行い、水酸基含有皮膜を表面に形成させ、樹脂成形体との接合面を形成した。なお、アルミ板材では、一方の主面側の長手方向の端部において、長手方向に10mm×短手方向に18mmの長方形状の領域にレーザーを縞模様に照射した。また、アルミ円盤では、内側から同心円状に幅2.0mmの円環状の領域にレーザー照射した。レーザー処理条件は、以下の表5にまとめて示した。
<レーザー処理条件>
・装置:キーエンス社製、3Axis Fiberレーザマーカ(型式:MDF-5200)
・レーザー光波長:1090nm
・発信方式:パルス
・出力:42.5W
・周波数:60kHz
・ビーム径:60μm
・照射間隔:90μm
・走査速度:320mm/s
・走査回数(照射回数):1回
・エネルギー密度:1.48J/mm2
<樹脂成形体の接合、金属樹脂接合体の作製>
上記のようにして水酸基含有皮膜が表面に形成されて接合面が形成された各金属部材(レーザー処理後のアルミ板材及びアルミ円盤)を、射出成形機(日精樹脂工業製、FNX1103-18A)を用いて,ISO19095に準拠して作製した金型内にそれぞれインサート後、これらに対して、熱可塑性樹脂としてポリアミドMXD10をベースレジンとする芳香族ナイロン(三菱エンジニアリングプラスチックス社製、商品名:Reny(登録商標)、グレード:XL1002U)を使用して、これを樹脂温度250℃、金型温度140℃、射出速度30mm/s、保圧80MPaで射出成形した。それにより、樹脂成形体の厚さが3mm×幅10mm×長さ45mmの長方形状であって、アルミ板材と樹脂成形体との長方形状の接合部の接合面積が5mm×10mmである、アルミ板材(金属部材)6と樹脂成形体5との接合体(金属樹脂接合体7、図6)を作製した。また、樹脂成形体が厚さ2mm×Φ24mmの円盤状であって、アルミ円盤の内径側面との円環状の接合部の接合幅が2.0mm、接合面積が138.2mmである、アルミ円盤(金属部材)6と樹脂成形体5との接合体(金属樹脂接合体7、図7)を作製した。
<評価>
先ず、GD-OESによる表面分析を行った。GD-OESによる測定結果を図8に示す。GD-OESによる測定結果から、アルミニウムおよび水酸基に由来する発光強度が検出されてから、200nmのスパッタリングに要する3.33秒間が経過するまでの範囲において、アルミニウムの検出量が39.7であり、水酸基の検出量が3.6であった。水酸基存在率は8.31%と算出された。水酸基存在率を表7に示す。
また、金属樹脂接合体に対して、接合断面の評価を行った。SEMによる断面の観察結果を図9に示す。具体的には、図9で示した連続した凹部12個について、後述のとおり白破線cを付した右から3番目の凹部を最低凹部Pb1として、Pb1を通過するように基準線RL1を引いた。また、後述のとおりの白実線Hが通過している凸部を最頂凸部Pt1として、Pt1を通過すると共にRL1に平行となる基準線RL2を引いた。さらに、12個の各凹部の最低部からRL2に対して垂直となる方向に直線を引き、これらを破線a~lで示した。そして、破線a~lの互いに隣接する中間に平行な中線を引き、これらを実線A~Kで示した。最後に、図に示したとおりの深さL1~L10、開口径D1~D10の測定値を求めた。各測定値は以下の表3、表4のとおりであった。
次に、得られた測定値に対して、前記の手順でスミルノフ・グラブス検定を行って外れ値の検出を行った。表4に示したとおり開口径D10のp値が0.022(2.2%)となったため、D10を除外した。そして、除外後のD1~D9について再度同じ検定を行った結果、外れ値は検出されなかったため、外れ値が検出されたD10に対応する凹部を除いた、L1~L9の平均値とD1~D9の平均値とを、それぞれ実施例1における深さ(L)、開口径(D)とし、アスペクト比(L/D)を求めた。その結果、深さ(L)は143.0μm、開口径(D)は88.2μm、アスペクト比(L/D)は1.6であった。
Figure 2023059620000004
Figure 2023059620000005
また、SEMによる断面の精密断面評価用の観察結果を図10に示す。
また、レーザー処理後の金属部材に対して、接合前の金属部材の表面の評価を行った。レーザー処理後の金属部材の表面の観察結果を図11に示す。
また、金属樹脂接合体に対して、アルカリ処理による接合界面の評価を行った。アルカリ処理後の樹脂成形体の表面の観察結果を図12に示す。
また、樹脂接合前の金属部材に対して、リン酸クロム酸処理による水酸基含有皮膜の評価を行った。リン酸クロム酸処理後の金属部材のSEMによる表面の観察結果を図13に示す。リン酸クロム酸処理を行う前と後の接合強度と気密性の評価結果を表8に示す。
また、樹脂接合前の金属部材に対して、ステアリン酸暴露処理による水酸基含有皮膜の評価を行った。ステアリン酸処理を行う前と後の接合強度と気密性の評価結果を表8に示す。
また、金属樹脂接合体に対して、接合強度の評価と気密性の評価を行った。評価結果を表7に示す。
また、EPMAによる断面マッピングを行った。EPMAによる測定結果を図14に示す。
[実施例2]
金属として、JIS H0001に示された調質記号H34で処理したA5052アルミニウム合金(A5052-H34)を用い、レーザー処理条件のうち、出力を50W、照射間隔を110μm、走査速度を400mm/s、エネルギー密度を1.14J/mm2に変更した以外は、実施例1と同様にして金属部材(アルミ板材、アルミ円盤)を作製するとともに、評価用の各金属樹脂接合体を作製した。
GD-OESによる表面分析を行った。GD-OESによる測定結果(水酸基存在率)を表7に示す。
また、金属樹脂接合体に対して、接合断面の評価を行った。SEMによる断面の観察結果を図15に示す。実施例1と同じ方法で評価を行い、L1~10、D1~10を測定してスミルノフ・グラブス検定を行ったが、外れ値は検出されなかった。そのため、L1~L10の平均値とD1~D10の平均値とを、それぞれ実施例2における深さ(L)、開口径(D)とし、アスペクト比(L/D)を求めた。その結果、深さ(L)は126.0μm、開口径(D)は114.0μm、アスペクト比(L/D)は1.1であった。
また、レーザー処理後の金属部材に対して、接合前の金属部材の表面の評価を行った。レーザー処理後の金属部材の表面の観察結果を図16に示す。
また、金属樹脂接合体に対して、アルカリ処理による接合界面の評価を行った。アルカリ処理後の樹脂成形体の表面の観察結果を図17に示す。
また、樹脂接合前の金属部材に対して、リン酸クロム酸処理による水酸基含有皮膜の評価を行った。リン酸クロム酸処理を行う前と後の接合強度と気密性の評価結果を表8に示す。リン酸クロム酸処理後の金属部材のSEMによる表面の観察結果を図18に示す。
また、樹脂接合前の金属部材に対して、ステアリン酸暴露処理による水酸基含有皮膜の評価を行った。ステアリン酸処理を行う前と後の接合強度と気密性の評価結果を表8に示す。
また、金属樹脂接合体に対して、接合強度の評価と気密性の評価を行った。評価結果を表7に示す。
[実施例3]
金属として、JIS H0001に示された調質記号H34で処理したA5052アルミニウム合金(A5052-H34)を用い、レーザー処理条件のうち、走査速度を340mm/s、エネルギー密度を1.45J/mm2に変更した。それ以外は、実施例1と同様にして金属部材(アルミ板材、アルミ円盤)を準備した。
次に、レーザー処理後のアルミ板材及びアルミ円盤を、射出成形機(日精樹脂工業製、FNX1103-18A)を用いて,ISO19095に準拠して作製した金型内にそれぞれインサート後、これらに対して、熱可塑性樹脂としてポリフェニレンスルフィド(PPS)(ポリプラスチック社製、商品名:ジュラファイド、グレード:1150MF1)を使用して、これを樹脂温度320℃、金型温度150℃、射出速度30mm/s、保圧80MPaで射出成形した。それにより、樹脂成形体の厚さが3mm×幅10mm×長さ45mmの長方形状であって、アルミ板材と樹脂成形体との長方形状の接合部の接合面積が5mm×10mmである、アルミ板材(金属部材)6と樹脂成形体5との接合体(金属樹脂接合体7、図6)を作製した。また、樹脂成形体が厚さ2mm×Φ24mmの円盤状であって、アルミ円盤の内径側面との円環状の接合部の接合幅が2.0mm、接合面積が138.2mmである、アルミ円盤(金属部材)6と樹脂成形体5との接合体(金属樹脂接合体7、図7)を作製した。
GD-OESによる表面分析を行った。GD-OESによる測定結果(水酸基存在率)を表7に示す。
また、金属樹脂接合体に対して、接合強度の評価と気密性の評価を行った。評価結果を表7に示す。
[実施例4]
レーザー処理条件のうち、出力を35W、エネルギー密度を1.18J/mm2に変更した以外は、実施例3と同様にして金属部材(アルミ板材、アルミ円盤)を作製するとともに、評価用の各金属樹脂接合体を作製した。
GD-OESによる表面分析を行った。GD-OESによる測定結果(水酸基存在率)を表7に示す。
また、金属樹脂接合体に対して、接合強度の評価と気密性の評価を行った。評価結果を表7に示す。
[実施例5]
レーザー処理条件のうち、出力を15W、エネルギー密度を0.51J/mm2に変更した以外は、実施例3と同様にして金属部材(アルミ板材、アルミ円盤)を作製するとともに、評価用の各金属樹脂接合体を作製した。
GD-OESによる表面分析を行った。GD-OESによる測定結果(水酸基存在率)を表7に示す。
また、金属樹脂接合体に対して、接合強度の評価と気密性の評価を行った。評価結果を表7に示す。
[比較例1]
レーザー処理条件のうち、出力を5W、エネルギー密度を0.17J/mm2に変更した以外は、実施例3と同様にして金属部材(アルミ板材、アルミ円盤)を作製するとともに、評価用の各金属樹脂接合体を作製した。
GD-OESによる表面分析を行った。GD-OESによる測定結果(水酸基存在率)を表7に示す。
また、金属樹脂接合体に対して、接合強度の評価と気密性の評価を行った。評価結果を表7に示す。
[比較例2]
実施例1と同様の金属基材(アルミ板材、アルミ円盤)を準備したが、レーザー処理を行わなかった。実施例3と同様に、評価用の各金属樹脂接合体の作製を試みたが、樹脂が金属部材と接合せずに、金属樹脂接合体を作製できなかった。
GD-OESによる表面分析を行った。GD-OESによる測定結果(水酸基存在率)を表7に示す。
[実施例6]
JIS H0001に示された調質記号H34で処理したA5052アルミニウム合金(A5052-H34)の中空押出し材から厚さ5mm×幅25mm×長さ50mmの長方形状のアルミ板材を2枚と、厚さ2mm×外径Φ55mm×内径Φ20mmの円環状のアルミ円盤と、厚さ2mm×外径Φ24mmの円形状のアルミ円盤とを、それぞれ金属基材として切り出して準備した。
次に、レーザー処理条件のうち、走査速度を500mm/s、エネルギー密度を0.99J/mm2に変更した以外は、実施例3と同様の条件でレーザー照射した。なお、2枚のアルミ板材では、一方の主面側の長手方向の端部において、6mm×25mmの長方形状の領域にそれぞれレーザーを縞模様に照射した。また、円環状のアルミ円盤では、内側から同心円状に幅2.0mmの円環状の領域にレーザー照射した。また、円形状のアルミ円盤では、外周側から同心円状に幅2.0mmの領域にレーザー照射した。
レーザー処理後のアルミ板材及びアルミ円盤に対して、樹脂として熱硬化性接着剤(一液加熱硬化型エポキシ接着剤)(スリーエムジャパン株式会社社製、商品名:スコッチ・ウェルド(登録商標)SW2214)を使用して、接着剤の厚さが0.2mmとなるようにSUSワイヤーで調整して接合面に塗布した。接着剤の塗布後、2枚のアルミ板材どうしを貼り合わせ、0.01MPaの圧力をかけて、試験片温度が150℃到達した後に30分加熱した接着条件で、2枚のアルミ板材の長方形状の接合部の接合面積が6mm×25mmである、接着剤を介したアルミ板材(金属部材)6及び6'の接合体(アルミ板材と樹脂成形体とアルミ板材との接合体)(金属樹脂金属接合体9、図19)を作製した。また、接着剤の塗布後、円環状のアルミ円盤と円形状のアルミ円盤とを貼り合わせ、同様の接着条件で、円環状のアルミ円盤と円形状のアルミ円盤との円環状の接合部の接合幅が2.0mm、接合面積が138.2mmである、接着剤を介した円環状のアルミ円盤(金属部材)6と円形状のアルミ円盤(金属部材)6’との接合体(円環状のアルミ円盤と樹脂成形体と円形状のアルミ円盤との接合体)(金属樹脂金属接合体9、図20)を作製した。
GD-OESによる表面分析を行った。GD-OESによる測定結果(水酸基存在率)を表7に示す。
また、金属樹脂接合体に対して、接合強度の評価と気密性の評価を行った。評価結果を表7に示す。
[比較例3]
レーザー光照射装置をミヤチテクノス製レーザーマーカーML-7112Aを用いて実施した。装置の仕様は、Qスイッチパルス、波長1064nm、最大出力7W、ビーム径50~60μmである。レーザー条件は、出力100%、照射間隔50μm、走査速度500mm/s、周波数10kHz,走査回数1回、エネルギー密度が0.30J/mm2の条件でレーザー照射を実施した。それ以外は、実施例3と同様にして金属部材(アルミ板材、アルミ円盤)を作製するとともに、評価用の各金属樹脂接合体を作製した。
GD-OESによる表面分析を行った。GD-OESによる測定結果(水酸基存在率)を表7に示す。
また、金属樹脂接合体に対して、接合強度の評価と気密性の評価を行った。評価結果を表7に示す。
[比較例4]
金属として、JIS H3100に示された無酸素銅(C1020)の圧延材を用い、実施例3と同様の寸法で、厚さ1.5mm×幅18mm×長さ45mmの長方形状の銅板材と、厚さ2mm×外径Φ55mm×内径Φ20mmの円環状の銅円盤とを、それぞれ金属基材として切り出して準備したが、レーザー処理を行わなかった。それ以外は実施例3と同様に、評価用の各金属樹脂接合体の作製を試みたが、樹脂が金属部材と接合せずに、金属樹脂接合体を作製できなかった。
GD-OESによる表面分析を行った。GD-OESによる測定結果(水酸基存在率)を表7に示す。
[実施例7]
比較例4と同様に、金属としてJIS H3100に示された無酸素銅(C1020)の圧延材を用い、厚さ1.5mm×幅18mm×長さ45mmの長方形状の銅板材と、厚さ2mm×外径Φ55mm×内径Φ20mmの円環状の銅円盤とを、それぞれ金属基材として切り出して準備した。
次に、レーザー処理条件のうち、走査速度を200mm/s、エネルギー密度を2.47J/mm2に変更した以外は、実施例3と同様にしてレーザー照射を行って金属部材(銅板材、銅円盤)を作製するとともに、評価用の各金属樹脂接合体を作製した。
GD-OESによる表面分析を行った。GD-OESによる測定結果(水酸基存在率)を表7に示す。
また、金属樹脂接合体に対して、接合強度の評価と気密性の評価を行った。評価結果を表7に示す。
[実施例8]
レーザー処理条件のうち、走査速度を400mm/s、走査回数(照射回数)を5回、エネルギー密度を6.21J/mm2に変更した以外は、実施例7と同様にしてレーザー照射を行って金属部材(銅板材、銅円盤)を作製するとともに、評価用の各金属樹脂接合体を作製した。
GD-OESによる表面分析を行った。GD-OESによる測定結果(水酸基存在率)を表7に示す。
また、金属樹脂接合体に対して、接合強度の評価と気密性の評価を行った。評価結果を表7に示す。
[比較例5]
レーザー処理条件のうち、出力を35W、走査速度を400mm/s、走査回数(照射回数)を1回、エネルギー密度を0.32J/mm2に変更した以外は、実施例7と同様にしてレーザー照射を行って金属部材(銅板材、銅円盤)を作製するとともに、評価用の各金属樹脂接合体を作製した。
GD-OESによる表面分析を行った。GD-OESによる測定結果(水酸基存在率)を表7に示す。
また、金属樹脂接合体に対して、接合強度の評価と気密性の評価を行った。評価結果を表7に示す。
[比較例6]
金属として、ステンレス板材(SUS304)を用い、実施例3と同様の寸法で、厚さ1.5mm×幅18mm×長さ45mmの長方形状の鉄板材と、厚さ2mm×外径Φ55mm×内径Φ20mmの円環状の鉄円盤とを、それぞれ金属基材として切り出して準備したが、レーザー処理を行わなかった。それ以外は実施例3と同様に、評価用の各金属樹脂接合体の作製を試みたが、樹脂が金属部材と接合せずに、金属樹脂接合体を作製できなかった。
GD-OESによる表面分析を行った。GD-OESによる測定結果(水酸基存在率)を表7に示す。
[実施例9]
比較例6と同様に、金属として、ステンレス板材(SUS304)を用い、厚さ1.5mm×幅18mm×長さ45mmの長方形状の鉄板材と、厚さ2mm×外径Φ55mm×内径Φ20mmの円環状の鉄円盤とを、それぞれ金属基材として切り出して準備した。
次に、実施例3と同様の条件でレーザー処理を行って金属部材(鉄板材、鉄円盤)を作製するとともに、評価用の各金属樹脂接合体を作製した。
GD-OESによる表面分析を行った。GD-OESによる測定結果(水酸基存在率)を表7に示す。
また、金属樹脂接合体に対して、接合強度の評価と気密性の評価を行った。評価結果を表7に示す。
[実施例10]
レーザー処理条件のうち、走査回数(照射回数)を2回、エネルギー密度を2.91J/mm2に変更した以外は、実施例9と同様にしてレーザー照射を行って金属部材(鉄板材、鉄円盤)を作製するとともに、評価用の各金属樹脂接合体を作製した。
GD-OESによる表面分析を行った。GD-OESによる測定結果(水酸基存在率)を表7に示す。
また、金属樹脂接合体に対して、接合強度の評価と気密性の評価を行った。評価結果を表7に示す。
[実施例11]
レーザー処理条件のうち、走査回数(照射回数)を3回、エネルギー密度を4.37J/mm2に変更した以外は、実施例9と同様にしてレーザー照射を行って金属部材(鉄板材、鉄円盤)を作製するとともに、評価用の各金属樹脂接合体を作製した。
GD-OESによる表面分析を行った。GD-OESによる測定結果(水酸基存在率)を表7に示す。
また、金属樹脂接合体に対して、接合強度の評価と気密性の評価を行った。評価結果を表7に示す。
[実施例12]
<金属部材の作製>
ISO19095に準拠し、JIS H0001に示された調質記号H34で処理したA5052アルミニウム合金(A5052-H34)の中空押出し材から厚さ1.5mm×幅18mm×長さ45mmの長方形状のアルミ板材と、厚さ2mm×外径Φ55mm×内径Φ20mmの円環状のアルミ円盤とを、それぞれ金属基材として切り出して準備した。
次に、これらアルミ板材及びアルミ円盤のそれぞれに、まず、脱脂処理として30wt%硝酸水溶液に常温で1分間浸漬した後に、エッチング処理として5wt%水酸化ナトリウム水溶液に50℃で1分間浸漬し、その後に更にデスマット処理として30wt%硝酸水溶液に常温で1分間浸漬した。その後、導電率0.27mS/mのイオン交換水で十分に洗浄した後に、温水浸漬処理として、同じ導電率0.27mS/mのイオン交換水の95℃の温水に1分間浸漬させて水酸基含有皮膜を表面に形成させた。なお、温水中のSiイオン濃度は、JIS K 0101のモリブデン青吸光光度法に準じ、分光光度計を用いて波長λ=810nmの吸光度を測定して、事前に作成したシリカ標準液の検量線からイオン状シリカの濃度(mg/L)を算出し、0.1mg/L以下であった。これらの温水浸漬処理条件などは、以下の表6にまとめて示した。
また、使用した温水中のカチオン及びアニオンの濃度を以下の表9及び表10にまとめて示した。
<樹脂成形体の接合、金属樹脂接合体の作製>
上記のようにして水酸基含有皮膜が形成されて接合面が形成された各金属部材(温水浸漬処理後のアルミ板材及びアルミ円盤)を、射出成形機(日精樹脂工業製、FNX1103-18A)を用いて,ISO19095に準拠して作製した金型内にそれぞれインサート後、これらに対して、熱可塑性樹脂としてポリフェニレンスルフィド(PPS)(ポリプラスチック社製、商品名:ジュラファイド、グレード:1150MF1)を使用して、これを樹脂温度320℃、金型温度150℃、射出速度30mm/s、保圧80MPaで射出成形した。それにより、樹脂成形体の厚さが3mm×幅10mm×長さ45mmの長方形状であって、アルミ板材と樹脂成形体との長方形状の接合部の接合面積が5mm×10mmである、アルミ板材(金属部材)6と樹脂成形体5との接合体(金属樹脂接合体7、図6)を作製した。また、樹脂成形体が厚さ2mm×Φ24mmの円盤状であって、アルミ円盤の内径側面との円環状の接合部の接合幅が2.0mm、接合面積が138.2mmである、アルミ円盤(金属部材)6と樹脂成形体5との接合体(金属樹脂接合体7、図7)を作製した。
GD-OESによる表面分析を行った。GD-OESによる測定結果(水酸基存在率)を表7に示す。
また、金属樹脂接合体に対して、接合強度の評価と気密性の評価を行った。評価結果を表7に示す。
[実施例13]
温水浸漬処理として、温水浸漬時間を5分に変更した以外は、実施例12と同様に温水浸漬処理を行って金属部材(アルミ板材、アルミ円盤)を作製するとともに、評価用の各金属樹脂接合体を作製した。
GD-OESによる表面分析を行った。GD-OESによる測定結果(水酸基存在率)を表7に示す。
また、温水浸漬処理後の金属部材に対して、接合前の金属部材の表面の評価を行った。温水浸漬処理後の金属部材の表面の観察結果を図21に示す。
また、金属樹脂接合体に対して、接合強度の評価と気密性の評価を行った。評価結果を表7に示す。
[比較例7]
温水浸漬処理の温水として、イオン交換水に水道水を添加して、Siイオン濃度が2.2mg/L、導電率が1.45mS/mとなるように調整し、その95℃の温水に5分間浸漬させた以外は、実施例12と同様に温水浸漬処理を行って金属部材(アルミ板材、アルミ円盤)を作製するとともに、評価用の各金属樹脂接合体を作製した。
GD-OESによる表面分析を行った。GD-OESによる測定結果(水酸基存在率)を表7に示す。
また、金属樹脂接合体に対して、接合強度の評価と気密性の評価を行った。評価結果を表7に示す。
[実施例14]
実施例12と同様に、金属基材としてアルミ板材及びアルミ円盤を準備した。次に、そのそれぞれの被加工面に、前処理として、手動式エアーブラスト装置を用いるとともに、投射材として、多角形の形状を有する白色溶融アルミナ(番手:#80、粒径:150~180μm)を使用し、これを噴射圧力0.1MPaで約5秒間の噴射を実施した。続いて、実施例12と同様に、脱脂処理、エッチング処理、デスマット処理を行った。その後、実施例12と同様の温水(イオン交換水)を用いて、温水浸漬時間を5分に変更した以外は、実施例12と同様に温水浸漬処理を行って金属部材(アルミ板材、アルミ円盤)を作製するとともに、評価用の各金属樹脂接合体を作製した。
GD-OESによる表面分析を行った。GD-OESによる測定結果(水酸基存在率)を表7に示す。
また、金属樹脂接合体に対して、接合強度の評価と気密性の評価を行った。評価結果を表7に示す。
[実施例15]
温水浸漬処理の温水として、イオン交換水に硫酸水溶液を添加して、Siイオン濃度が0.1mg/L以下、導電率が1.68mS/mに調整された95℃の温水に5分間浸漬させた以外は、実施例12と同様に温水浸漬処理を行って金属部材(アルミ板材、アルミ円盤)を作製するとともに、評価用の各金属樹脂接合体を作製した。
GD-OESによる表面分析を行った。GD-OESによる測定結果(水酸基存在率)を表7に示す。
また、金属樹脂接合体に対して、接合強度の評価と気密性の評価を行った。評価結果を表7に示す。
[実施例16]
温水浸漬処理として、60℃の温水に10分間浸漬させた以外は、実施例12と同様に温水浸漬処理を行って金属部材(アルミ板材、アルミ円盤)を作製するとともに、評価用の各金属樹脂接合体を作製した。
GD-OESによる表面分析を行った。GD-OESによる測定結果(水酸基存在率)を表7に示す。
また、金属樹脂接合体に対して、接合強度の評価と気密性の評価を行った。評価結果を表7に示す。
[比較例8]
温水浸漬処理の温水として、イオン交換水に水道水を添加して、Siイオン濃度が2.9mg/L、導電率が1.51mS/mとなるように調整し、その60℃の温水に10分間浸漬させた以外は、実施例12と同様に温水浸漬処理を行って金属部材(アルミ板材、アルミ円盤)を作製するとともに、評価用の各金属樹脂接合体を作製した。
GD-OESによる表面分析を行った。GD-OESによる測定結果(水酸基存在率)を表7に示す。
また、金属樹脂接合体に対して、接合強度の評価と気密性の評価を行った。評価結果を表7に示す。
[実施例17]
JIS H0001に示された調質記号H34で処理したA5052アルミニウム合金(A5052-H34)の中空押出し材から厚さ5mm×幅25mm×長さ50mmの長方形状のアルミ板材を2枚と、厚さ2mm×外径Φ55mm×内径Φ20mmの円環状のアルミ円盤と、厚さ2mm×外径Φ24mmの円形状のアルミ円盤を、それぞれ金属基材として切り出して準備した。
次に、温水浸漬処理として、95℃の温水に5分間浸漬させた以外は、実施例12と同様に温水浸漬処理を行って金属基材の表面に水酸基含有皮膜を形成して、金属部材(アルミ板材、アルミ円盤)を作製した。
各金属部材(温水浸漬処理後のアルミ板材及びアルミ円盤)に対して、樹脂として熱硬化性接着剤(一液加熱硬化型エポキシ接着剤)(スリーエムジャパン株式会社社製、商品名:スコッチ・ウェルド(登録商標)SW2214)を使用して、接着剤の厚さが0.2mmとなるようにSUSワイヤーで調整して接合面に塗布した。接着剤の塗布後、2枚のアルミ板材どうしを貼り合わせ、0.01MPaの圧力をかけて、試験片温度が150℃到達した後に30分加熱した接着条件で、2枚のアルミ板材の長方形状の接合部の接合面積が6mm×25mmである、接着剤を介したアルミ板材(金属部材)6及び6'の接合体(アルミ板材と樹脂成形体とアルミ板材との接合体)(金属樹脂金属接合体9、図19)を作製した。また、接着剤の塗布後、円環状のアルミ円盤と円形状のアルミ円盤とを貼り合わせ、同様の接着条件で、円環状のアルミ円盤と円形状のアルミ円盤との円環状の接合部の接合幅が2.0mm、接合面積が138.2mmである、接着剤を介した円環状のアルミ円盤(金属部材)6と円形状のアルミ円盤(金属部材)6’との接合体(円環状のアルミ円盤と樹脂成形体と円形状のアルミ円盤との接合体)(金属樹脂金属接合体9、図20)を作製した。
GD-OESによる表面分析を行った。GD-OESによる測定結果(水酸基存在率)を表7に示す。
また、金属樹脂接合体に対して、接合強度の評価と気密性の評価を行った。評価結果を表7に示す。
[実施例18]
温水浸漬処理の温水として、イオン交換水にメタケイ酸ナトリウム(NaSiO)を添加して、Siイオン濃度が0.54mg/L、導電率が0.29mS/mとなるように調整し、その95℃の温水に5分間浸漬させた以外は、実施例12と同様に温水浸漬処理を行って金属部材(アルミ板材、アルミ円盤)を作製するとともに、評価用の各金属樹脂接合体を作製した。
GD-OESによる表面分析を行った。GD-OESによる測定結果(水酸基存在率)を表7に示す。
また、金属樹脂接合体に対して、接合強度の評価と気密性の評価を行った。評価結果を表7に示す。
[実施例19]
温水浸漬処理の温水として、イオン交換水にメタケイ酸ナトリウム(NaSiO)を添加して、Siイオン濃度が0.93mg/L、導電率が0.51mS/mとなるように調整し、その95℃の温水に5分間浸漬させた以外は、実施例12と同様に温水浸漬処理を行って金属部材(アルミ板材、アルミ円盤)を作製するとともに、評価用の各金属樹脂接合体を作製した。
GD-OESによる表面分析を行った。GD-OESによる測定結果(水酸基存在率)を表7に示す。
また、金属樹脂接合体に対して、接合強度の評価と気密性の評価を行った。評価結果を表7に示す。
[実施例20]
温水浸漬処理の温水として、イオン交換水にメタケイ酸ナトリウム(NaSiO)を添加して、Siイオン濃度が1.21mg/L、導電率が0.65mS/mとなるように調整し、その95℃の温水に5分間浸漬させた以外は、実施例12と同様に温水浸漬処理を行って金属部材(アルミ板材、アルミ円盤)を作製するとともに、評価用の各金属樹脂接合体を作製した。
GD-OESによる表面分析を行った。GD-OESによる測定結果(水酸基存在率)を表7に示す。
また、金属樹脂接合体に対して、接合強度の評価と気密性の評価を行った。評価結果を表7に示す。
Figure 2023059620000006
Figure 2023059620000007
Figure 2023059620000008
Figure 2023059620000009
Figure 2023059620000010
Figure 2023059620000011
[検討]
GD-OESによる表面分析により算出される水酸基存在率から、金属部材の表層に水酸基を有する水酸基含有皮膜が形成されていることが確認された。また、EPMAによる断面マッピングからも、金属部材の最表層に酸素元素が局在していることが観察された。これらの結果から、金属部材の表面に水酸基を含有する水酸基含有皮膜を備えていることが確認された。そして、実施例1~20、比較例1~8の結果から、当該水酸基存在率が所定の範囲内であると、金属樹脂接合体及び金属樹脂金属接合体において、接合強度および気密性が良好であることも確認された。
実施例1~11、比較例1~2、比較例4~6の結果から、皮膜形成工程の表面処理がレーザー処理である場合、金属基材がアルミ基材、銅基材及び鉄基材のいずれにおいても、レーザー処理を行わないか、或いは、レーザー処理におけるエネルギー密度が低い場合には、水酸基存在率が下限値未満となって、接合強度および気密性が不十分となることが確認できる。
また、実施例12~20、比較例7~8の結果から、所定の条件の温水浸漬処理により、金属基材の表面に所定の水酸基存在率を満足する水酸基含有皮膜を形成させることができることが分かった。しかしながら、温水温度や浸漬時間が適正であっても、温水中のSi(Siイオン)量が多いと、水酸基存在率が低くなって、接合強度および気密性が不十分となることが確認される。温水中のSi(Siイオン)が多い場合、何らかの機序により水酸基含有皮膜中の水酸基の形成が阻害されたものと推測される。
実施例1、2の金属樹脂接合体に対するSEMによる断面観察から、表面処理がレーザー処理の場合、μmオーダーサイズの凹凸形状を有するマクロ凹凸部が、接合面の全面にわたって形成されていることが確認された。また、マクロ凹凸部内に樹脂が入り込んで接合していることが確認された。また、金属部材に対するSEMによる断面観察から、マクロ凹凸部の表面には、nmオーダーサイズの微細凹凸部が形成されていることが確認された。
実施例1,2の接合前の金属部材に対するSEMによる表面観察からも、金属部材の表面にマクロ凹凸部と微細凹凸部とが形成されていることが確認された。また、実施例1,2のアルカリ処理を行った後の試験樹脂成形体に対するSEMによる表面観察から、金属部材を溶解除去した後に残る樹脂成形体の表面は、微細凹凸部をレプリカ状に写し取ったようなnmオーダーサイズの凹凸形状を有していることが確認された。この結果から、金属樹脂接合体では、微細凹凸部内に樹脂が入り込んで接合していることが確認された。
実施例1,2のリン酸クロム酸処理を行う前後のSEMによる表面観察から、リン酸クロム酸処理によって、マクロ凹凸部は残っているもの、微細凹凸部が除去されたことが確認された。さらに、実施例1,2のリン酸クロム酸処理を行った後では、リン酸クロム酸処理を行う前よりもせん断強度がやや低下していた。また、実施例1,2のリン酸クロム酸処理を行った後では、気密性の評価が不合格となっていた。またさらに、実施例1,2のステアリン酸処理を行った後では、ステアリン酸処理を行う前よりもせん断強度がやや低下していた。また、実施例1,2のステアリン酸処理を行った後では、気密性の評価が不合格となっていた。これらの結果から、微細凹凸部の有無によらずにある程度のせん断強度が維持されていたことから、マクロ凹凸による機械的接合(アンカー効果)が接合強度の向上に寄与していると考えられる。また、微細凹凸部の形状の存否によらず、水酸基が無い場合に気密性が不合格となっていたことから、金属部材の表面に存在する水酸基含有皮膜の水酸基と、樹脂に含まれる官能基との水素結合による化学的接合が気密性の発現にとりわけ寄与していると考えられる。
1…走査方向、2…ビーム径、3…照射間隔、4(4’)…レーザー光の軌跡、5…樹脂成形体、6(6’)…金属部材、7…金属樹脂接合体、8…せん断試験用の専用治具、9…金属樹脂金属接合体、10…水、11…O-リング、12…エアー吹込み用の管、13…専用気密性治具、14…最頂凸部Pt1、15…最低凹部Pb1、16…微細凹凸部(水酸基含有皮膜)

Claims (9)

  1. 金属からなる金属基材と、前記金属基材の表面に形成された水酸基を含有する水酸基含有皮膜とを備え、
    前記水酸基含有皮膜は、グロー放電発光分析法によって表面から深さ方向に向けて分析を行った際に、前記金属基材の前記金属の検出量と前記水酸基の検出量との合計量に対する前記水酸基の検出量の割合が4%以上70%以下であることを特徴とする金属部材。
  2. 前記金属は、アルミニウム、銅、鉄又はこれらの各金属を含む合金であることを特徴とする請求項1に記載の金属部材。
  3. 請求項1又は2に記載の金属部材と、
    前記金属部材の表面に成形されて、前記水酸基含有皮膜を介して前記金属部材と接合した樹脂成形体と、を備えることを特徴とする金属樹脂接合体。
  4. 前記樹脂成形体は、熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂を含むものであることを特徴とする請求項3に記載の金属樹脂接合体。
  5. 金属からなる金属基材の表面への表面処理によって、水酸基を含有する水酸基含有皮膜を形成する皮膜形成工程を備え、前記金属基材の表面に前記水酸基含有皮膜が形成された金属部材を製造する金属部材の製造方法であって、
    前記皮膜形成工程では、前記表面処理によって、グロー放電発光分析法によって表面から深さ方向に向けて分析を行った際に、前記金属基材の前記金属の検出量と前記水酸基の検出量との合計量に対する前記水酸基の検出量の割合が4%以上70%以下である前記水酸基含有皮膜を形成することを特徴とする金属部材の製造方法。
  6. 前記表面処理が、前記金属基材の表面へレーザー光を照射するレーザー処理であり、当該レーザー処理におけるエネルギー密度が0.4J/mm以上であることを特徴とする請求項5に記載の金属部材の製造方法。
  7. 前記金属は、アルミニウムであるか、又はアルミニウムを含む合金であり、
    前記表面処理が、前記金属基材を50℃以上の温水に60秒以上浸漬する温水浸漬処理であり、当該温水浸漬処理におけるケイ素量が2mg/L以下であることを特徴とする請求項5に記載の金属部材の製造方法。
  8. 請求項5~7のいずれかに記載の製造方法によって金属部材を得たのちに、次いで、この得られた金属部材の表面に樹脂成形体を接合させる樹脂成形工程を備え、
    前記金属部材と樹脂成形体とをそれぞれ少なくとも1つずつ備えた金属樹脂接合体を製造する方法であって、
    これら金属部材と樹脂成形体とは、前記水酸基含有皮膜を介して接合されるようにすることを特徴とする金属樹脂接合体の製造方法。
  9. 前記樹脂成形体は、熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂を含むことを特徴とする請求項8に記載の金属樹脂接合体の製造方法。
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