JP2023059621A - 金属部材の製造方法及び金属樹脂接合体の製造方法 - Google Patents

金属部材の製造方法及び金属樹脂接合体の製造方法 Download PDF

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正憲 遠藤
Masanori Endo
祐介 錦織
Yusuke Nishigori
大樹 池田
Daiki Ikeda
優太 遠藤
Yuta Endo
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Abstract

【課題】高い接合強度を有し十分な気密性を担保できるような金属樹脂成形体を得るための金属部材及び金属樹脂成形体の製造方法を提供する。【解決手段】金属基材の表面へのレーザー光の照射によって、表面にレーザー光の照射軌跡に沿って連続する凹凸部を有するマーキングパターンを形成する照射工程を備え、金属基材の表面に複数のマーキングパターンが形成された金属部材を製造する方法であって、マーキングパターンは、レーザー光の照射の開始点と終止点とが一致するように1本の連続した直線又は曲線からなり、且つ交差せず、照射工程において、隣接する部位へのレーザー光の照射によって、互いに隣接して並走する複数のマーキングパターンを形成し、レーザー光のビーム径Dが20μm~200μm、レーザー光の照射間隔Pが20μm~200μm、当該Dに対するPの比(P/D)が1.1以上2以下であることを特徴とする金属部材の製造方法、及びそれを用いた金属樹脂接合体の製造方法。【選択図】図1

Description

この発明は、特定の接合面を備えた金属部材の製造方法、及び当該金属部材と樹脂成形体との接合体の製造方法に関する。
近年、自動車の各種センサー部品、家庭電化製品部品、産業機器部品等の分野では、放熱性や導電性が非常に高い銅又は銅合金からなる銅基材や、放熱性が高く、かつ、他金属と比較して軽量なアルミニウム又はアルミニウム合金からなるアルミ基材などの金属製材料と、絶縁性能が高く、軽量でしかも安価である樹脂成形体とを一体に接合した金属樹脂接合体が幅広く用いられるようになり、また、その用途が拡大している。
そして、従来においては、このような異種材質である金属製材料と樹脂成形体とを互いに一体的に接合した金属樹脂接合体を製造するための工業的に好適な方法として、金属製材料を射出成形用金型内にインサートし、このインサートされた金属製材料の表面に向けて溶融した熱可塑性樹脂を射出し、熱可塑性樹脂の射出成形により樹脂成形体を成形する際に同時に金属製材料と樹脂成形体との間を接合する方法が開発され、より安価に、また、接合強度をより向上させるための幾つかの方法が提案されている。
例えば、本発明者らによれば、金属基材の表面に特定の処理を行うことにより、金属基材の表面に酸素を含有する酸素含有皮膜を形成し、この形成された酸素含有皮膜を介して、樹脂成形体を接合される技術を提案してきた(例えば、特許文献1~3)。これらの技術は、それ以前において提案されていた表面処理技術で問題となっていた金属部品や装置の腐食や、或いは、周辺の環境の汚染のおそれが少ない方法であって、一定の接合強度や気密性を得られるものであった。しかしながら、酸素含有皮膜を形成するために水和酸化物皮膜や亜鉛含有皮膜を形成する湿式処理する場合は、凹凸部が形成されないために樹脂接合体の接合強度が不十分であることから、処理方法の更なる改善の余地があった。これに対して、特許文献1~3の方法においてレーザー光を用いた場合には、凹凸部を形成することができる点で有利ではあるが、レーザー発振器固有のスポット径(ビーム径)に対して、照射間隔(ピット幅)が等しいあるいは小さくなる条件で実施されていた。この場合、所定の凹凸部が形成されず、結果として、接合強度の低下を引き起こし、気密性担保も困難になるケースがあったために、これについても更なる改善の余地があった。
一方で、前述のとおり、金属樹脂接合体を形成する方法として、金属製材料の表面をレーザー光で処理する技術がいくつか提案されている。
例えば、特許文献4では、金属成形体の接合面に対してレーザー光を照射して、多数の細孔群又は溝群を形成する際に、これら細孔群又は溝群の開口部の両側辺の面上にバリからなる「突起群」を形成し、とくにこの「突起群」が、接合される樹脂成形体に埋設されることで接合強度を高めることが開示されている。また、特許文献5では、金属成形体と樹脂成形体からなる複合成形体を製造するに際して、金属成形体の接合面に対して、一方向又は異なる方向に直線及び/又は曲線からなるマーキングを形成するようにレーザースキャンをする工程を有し、各直線及び/又は各曲線からなるマーキングが互いに交差しないようにして、このマーキングが形成された接合面に対して樹脂成形体をインサート成形することで、所望の方向への接合強度を高めることができるとしている。さらに、特許文献6では、金属表面に対して、一つの走査方向にレーザースキャニングする工程と、それにクロスする走査方向にレーザースキャニングする工程により、金属表面に対して樹脂と接合するための接合部を形成するためのレーザー加工条件が開示されている。これにより、当該接合部を凹凸形状としつつも、好適には、その一部を、凸部同士がつながってアーチ状になり下部に孔があいている「ブリッジ形状」として形成したり、或いは、凸部が「オーバーハング」してきのこ状・杉の木状に形成したりすることにより、接合部において異種材料とのアンカー効果を高めることができるとしている。
特許第6004046号公報 特許第6017675号公報 特許第6387301号公報 特許第5889775号公報 特許第6055529号公報 特許第4020957号公報
特許文献4では、突起群を構成するバリからなる突起に挟まれたレーザー未照射部が存在している。このようなレーザー未照射部が存在することにより、接合強度の低下を引き起こすと同時に気密性が担保できなくなるおそれがある。また、特許文献5では、前述のとおり所望の方向への接合強度を高める方法ではあるが、気密性の担保に関しては考慮されていない。さらに、特許文献6では、必ずクロスする2つの方向に対してレーザースキャンする必要があるため、加工時間が長く掛かりすぎるという点で改善の余地があり、また、好適な形状としている「ブリッジ形状」の下部にはレーザー未照射部(未処理部)が存在することで、接合強度および気密性が低下するおそれがある。
本発明の目的は、高い接合強度を有し、十分な気密性を担保できるような金属樹脂成形体及びそれを得るための金属部材の製造方法を提供することである。
すなわち、本発明の要旨は以下のとおりである。
[1]金属からなる金属基材の表面へのレーザー光の照射によって、前記金属基材の表面に前記レーザー光の照射軌跡に沿って連続する凹凸部を有するマーキングパターンを形成する照射工程を備え、
前記金属基材の表面に複数の前記マーキングパターンが形成された金属部材を製造する金属部材の製造方法であって、
前記マーキングパターンは、前記レーザー光の照射の開始点と終止点とが一致するように1本の連続した直線又は曲線からなり、且つ交差せず、
前記照射工程において、隣接する部位への前記レーザー光の照射によって、互いに隣接して並走する複数の前記マーキングパターンを形成し、前記レーザー光のビーム径Dが20μm~200μm、前記レーザー光の照射間隔Pが20μm~200μm、前記ビーム径Dに対する前記照射間隔Pの比(P/D)が1.1以上2以下であることを特徴とする金属部材の製造方法。
[2]前記金属基材の表面には、前記レーザー光が照射された箇所の前記金属が前記レーザー光の照射中心部から外方に向けて拡散することで形成される凹部と、前記凹部から拡散した前記金属が前記凹部の周囲に集積することで形成される凸部とからなる前記凹凸部が形成されており、
前記金属部材の表面において、互いに隣接する前記マーキングパターンに挟まれる領域には、互いに隣接する前記マーキングパターンにそれぞれ含まれる前記凸部どうしが接触して一体化するように形成されており、前記レーザー光の照射前の前記金属基材が露出する未処理部が形成されていないことを特徴とする[1]に記載の金属部材の製造方法。
[3]前記金属基材は、内部に中空部を有するとともに、前記中空部の周囲を囲む開口端部を有する中空形状を有し、
前記照射工程では、前記マーキングパターンが前記開口端部に形成されるようにレーザー光の照射を行うことを特徴とする[1]又は[2]に記載の金属部材の製造方法。
[4]前記開口端部において、前記マーキングパターンを挟んだ両側を連通するマーキングパターンを形成しないようにレーザー光の照射を行うことを特徴とする[3]に記載の金属部材の製造方法。
[5]前記照射工程を経て得られた金属部材の表面の算術平均粗さRaが、24μm~200μmであるようにレーザー光の照射を行うことを特徴とする[1]~[4]のいずれかに記載の金属部材の製造方法。
[6]前記金属は、アルミニウム、銅、鉄又はこれらの各金属を含む合金であることを特徴とする[1]~[5]のいずれかに記載の金属部材の製造方法。
[7][1]~[6]のいずれかに記載の製造方法によって得られた金属部材の表面に、樹脂成形体を形成する樹脂成形工程を備え、
前記金属基材と前記樹脂成形体とが接合された金属樹脂接合体を製造する金属樹脂接合体の製造方法であって、
前記樹脂成型工程では、前記金属部材と前記樹脂成形体とを、前記マーキングパターンの前記凹凸部に樹脂が入り込んだ状態で接合させることを特徴とする金属樹脂接合体の製造方法。
[8]前記樹脂成型工程においては、前記金属部材上に熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂を含む樹脂組成物を用いて成形することを特徴とする[7]に記載の金属樹脂接合体の製造方法。
本発明の金属部材および金属樹脂接合体の製造方法は、金属部材と樹脂成形体との接合強度に優れ、十分な気密性を担保できるような金属樹脂成形体を得ることができる。
図1は、マーキングパターンの例を示す模式図である。 図2は、中空部及び開口端部を有する金属部材(a)、及びそれを用いた金属樹脂接合体(b)を示す模式図である。いずれも上段の図は上面から見た上面図である。また、下段の図は、それぞれ上段の図のA-A断面又はB-B断面の断面図である。 図3は、図2において、交差するマーキングパターン存在する場合の模式図である。 図4は、レーザー光のビーム径と照射間隔との関係を示す模式図である。 図5は、凹凸部における開口径(T)と深さ(L)の求め方の一例を示す模式図である。 図6は、接合強度評価(1)(せん断試験)の概要を説明するための図である。 図7は、接合強度評価(2)(せん断試験)の概要を説明するための図である。 図8は、金属樹脂接合体の気密性の評価の概要を説明するための図である。 図9は、金属樹脂金属接合体の気密性の評価の概要を説明するための図である。 図10は、気密性の評価の金属樹脂接合体の概要を示すための図である。 図11は、実施例8に係る、気密性の評価の金属樹脂金属接合体の概要を示すための図である。 図12は、接合強度評価の金属樹脂接合体の概要を示すための図である。 図13は、実験例1で作製された金属樹脂接合体の接合断面をSEMで観察した際の図(写真)である。 図14は、実験例4で作製された金属樹脂接合体の接合断面をSEMで観察した際の図(写真)である。 図15は、実験例7で作製された金属樹脂接合体の接合断面をSEMで観察した際の図(写真)である。 図16は、実験例8に係る、接合強度評価の金属樹脂金属接合体の概要を示すための図である。 図17は、実験例9で作製された樹脂接合前の金属部材の、樹脂接合面側の断面をSEMで観察した際の図(写真)である。 図18は、実験例11で作製された樹脂接合前の金属部材の、樹脂接合面側の断面をSEMで観察した際の図(写真)である。 図19は、比較実験例1で作製された金属樹脂接合体の接合断面をSEMで観察した際の図(写真)である。 図20は、比較実験例4で作製された金属樹脂接合体の接合断面をSEMで観察した際の図(写真)である。
以下、本発明の金属部材、金属樹脂接合体の製造方法について、詳しく説明する。本発明の以下に説明する構成要素は、一部又は全部を適宜組み合わせることができる。
[金属部材および金属樹脂接合体の製造方法]
本発明の金属部材の製造方法は、金属からなる金属基材の表面へのレーザー光の照射によって、金属基材の表面にレーザー光の照射軌跡に沿って連続する凹凸部を有するマーキングパターン(以下、これを単に「マーキングパターン」とのみ記載する場合がある)を複数形成する照射工程を備えている。これにより、金属基材の表面に、前記のマーキングパターンが形成された金属部材を製造する。また、本発明の金属樹脂接合体の製造方法は、金属部材の表面に樹脂成形体を接合させる樹脂成形工程を備えている。
[1.金属部材の製造方法]
<金属基材>
先ず、本発明の金属部材の製造に使用する金属からなる金属基材については、銅又は銅合金からなる銅基材や、鉄又は鉄合金からなる鉄基材や、アルミニウム又はアルミニウム合金からなるアルミ基材等、素材は制限されるものではなく、これを用いて形成される金属樹脂接合体の用途やその用途に要求される強度、耐食性、加工性等の種々の物性に基づいて決めることができる。また、所望の形状に適宜加工して得られる加工材、更にはこれらの加工材を適宜組み合わせて得られる組合せ材等が挙げられる。また、使用する用途にもよるが、通常はその厚みが0.3mm~10mm程度のものを用いる。通常、金属基材の表面には、酸化皮膜が形成されている。酸化皮膜は、大気中で自然に形成される自然酸化皮膜であってもよく、陽極酸化によって形成される陽極酸化皮膜であってもよい。また、熱間圧延によって形成される圧延酸化皮膜であってもよい。
<準備工程>
本発明の金属部材の製造方法では、照射工程に先駆けて、金属基材の表面の前処理として、ブラスト処理、脱脂処理、エッチング処理、デスマット処理、化学研磨処理、及び電解研磨処理等の前処理を施す準備工程を備えていてもよい。
<照射工程>
本発明は、上記のように準備した金属基材の表面にレーザー光を照射する処理(以下、単に「レーザー処理」などという。)を施す照射工程を備える。レーザー処理によって、金属基材の表面に、該レーザー光の照射軌跡に沿って連続する凹凸部を有するマーキングパターンを複数形成させて、本発明に係る金属部材を得る。ここで、レーザーとしては、公知のレーザーを使用することができるが、本発明のようにスポット的に金属基材を加工することに好都合であることから、パルス発振レーザーを用いることが好ましく、例えば、YAGレーザー、YVO4レーザー、半導体レーザー、ファイバーレーザーを用いることがよい。
本発明においては、前記のマーキングパターンを金属基材の表面に複数形成させて、接合対象物との接合面を形成する。前記接合面は、金属基材の一面の一部だけに形成してもよいし、一面の全部や、或いは、両面の一部又は全部などでもよく、使用する用途などに応じて、必要な部分に接合面が形成されればよい。また、接合面の形状、大きさ、配置等についても特に限定されない。組合せ材などの場合においても同様である。なお、本発明において、「接合面」とは、金属基材と樹脂との接合が予定されている領域であって、樹脂との接合のために金属基材の表面に所定の処理が施された領域を称呼するものとする。これに対して、金属基材と樹脂とが接合した領域を「接合部」と称呼して区別する。
金属基材と接合する接合対象物としては、金属基材と接合可能な材料であれば特に限定されない。接合対象物は、金属基材の融点よりも低い温度で接合可能な材料を用いること好ましい。このような接合対象物は、好適には、樹脂材料からなる樹脂成形体である。樹脂成形体については後述する。
(マーキングパターンの形成)
前記マーキングパターンは、レーザー光の照射軌跡に沿って連続して金属基材の表面に形成されるが、照射工程におけるマーキングパターンの形成原理は概ね次のとおりである。すなわち、金属基材にレーザー照射が行われると、レーザー照射によるエネルギーによって金属基材が溶融・拡散・蒸発するが、照射中心部から外方に向けて金属が拡散・蒸発されて穿孔されることでその空間が凹部の基となり、その凹部の両側(両隣)のレーザーが照射されない部分が凸部の基となる。それと同時に、溶融した金属部分は一部又は全部が酸化されて金属酸化物となり、これが凹部となる照射部の周辺に拡散されて堆積して固化することにより、凸部が形成される。マーキングパターンに挟まれる領域には、互いに隣接するマーキングパターンのそれぞれ含まれる凸部どうしが接触して一体化するように凸部が形成されていることが好ましく、金属部材の表面においては、後述のレーザー未照射部に相当する金属基材の露出部(未処理部)が生じないようにすることが好ましい。金属酸化物からなる堆積物は、凹部と凸部を覆って皮膜状に形成される。このように、金属基材の表面に形成された金属酸化物からなる堆積物によって、凹凸部の凹凸形状を形作る金属溶融層が形成される。つまり、マーキングパターンは、レーザー光の照射軌跡においてこのような凹凸部(凹凸形状)を有する金属酸化物からなる堆積物(金属溶融層)が、レーザー光の照射軌跡に沿って連続して存在することよって形成されている。レーザー照射が互いに隣接して行われる場合には、凹部と凸部とが隣接して繰り返すような繰り返し構造を有するようになる。
なお、マーキングパターンにおけるこのような金属溶融層の形成状態の確認方法としては、例えば、アルカリエッチング処理により金属溶融層を溶解させることにより、溶解しない金属基材と判別して確認することができる。また、金属酸化物は少なくとも多少の部分的イオン性を持っており、金属酸化物の新性表面には金属イオン(Al3+)と酸化物イオン(O2-)が存在している。静電的中和性から、空気中の水分と反応することで、金属溶融層の表面に存在する金属酸化物の水酸基化が起こり、金属溶融層の表面は水酸基で覆われることになる。マーキングパターンにおける金属溶融層の最表層には、水酸基を含有する水酸基含有皮膜が形成される。
ここで、前記のとおり、金属部材にレーザー照射を受けないレーザー未照射部(未処理部)が存在している場合には、レーザー未照射部にはマーキングパターンが存在しておらず、凹凸部を形作る金属溶融層も存在してない。通常、レーザー未照射部には、酸化皮膜が形成されている。レーザー未照射部は、凹凸部を有さないために、通常は平坦であることから、その部分に樹脂などを接合すると凹凸部に起因する機械的接合による接合強度の向上が期待できず、また、平坦であるために空隙も生じやすいことから気密性の向上も期待できない。したがって、接合面にレーザー未照射部が残存しており、接合面の全体にマーキングパターンが形成されていない場合には、凹凸部を形作る金属溶融層が存在しないことから、金属樹脂接合体の接合強度が低下し、接合界面での破壊が起こるおそれがある。そのため、本発明においては、金属部材における接合面の全面にわたってマーキングパターンが形成されていることが好ましい。なお、レーザー未照射部には前記した水酸基含有皮膜も存在しないことから、水酸基に起因する化学的接合による相互作用の発揮も期待できない。
マーキングパターンは、前記のとおり、レーザー光の照射を受けて金属基材が穿孔されることで生じる凹部と、レーザー光の照射によって生じた金属酸化物の堆積物からなる凸部とからなる構造を有している。このような凹凸部は、金属部材の表面または断面を、例えば、走査電子顕微鏡(Scanning Electron Microscopy:SEM)を用いて観察することで確認することができる。凹凸部の構造については後記する。
また、本発明において各マーキングパターンは、レーザー光の照射の開始点と終止点とが一致するように1本の連続した直線又は曲線からなり、尚且つ、交差しないことが必要である。レーザー光の照射の開始点と終止点とが一致しない場合、マーキングパターンで囲まれない部分(開放部分)が必然的に存在することになり、その部分にはマーキングパターンにおける凹凸部や金属溶融層が存在しないため、凹凸部による嵌合効果などの発現が期待できない。そのため、このような開放部分に起因して、マーキングパターンで囲まれる内部(内側)と外部(外側)との気密性が損なわれる恐れがある。
また、レーザー光の照射が交差して行われてマーキングパターンが交差するような場合、該交差した部分は、1回目のレーザー光の照射によって形成された凹凸部が、交差する2回目のレーザー光の照射のエネルギーによって再度溶融・蒸発して穿孔されることで、溶融した金属が金属酸化物となって堆積されることになる。このとき、交差する2回目のレーザー光の照射によって生じる凹部の周辺に金属酸化物が堆積する際に、1回目のレーザー光の照射によって生じた凹部にまでも堆積されてしまうため、その部分は1回目よりも内部に空隙を含みやすく疎な状態で金属酸化物が堆積されることとなる。そのような空隙を多く含む部分に樹脂などが接合されると、気密性を損なう恐れが生じる。
レーザー光の照射の開始点と終止点とが一致する場合/一致しない場合の例、及び交差する場合/交差しない場合の例は図1に示すような例が挙げられる。すなわち、マーキングパターンが(a)のようなO字状、(b)のような□字状及び(d)のような8字状である場合には、開始点と終止点とが一致する(符合1)。これらのようなマーキングパターンでは、マーキングパターンで囲まれる内部と外部とは区切られる。一方で、(c)のようなU字状及び(e)のようなα字状である場合には、開始点(符合2)と終止点(符合3)は一致しないので、マーキングパターンで囲まれる内部と外部とが区切られないか、又は区切られない部分が一部存在することとなる。また、マーキングパターンが(a)のようなO字状、(b)のような□字状及び(c)のようなU字状である場合には、交差しない。一方で、(d)のような8字状及び(e)のようなα字状である場合には、交差する部分を有する。
したがって、マーキングパターンが(a)のようなO字状や(b)のような□字状、或いはこれらに類する形状(三角形状、多角形状、楕円状、半円状、扇形状、星形状など)となるようにレーザー光を照射することが好ましい。このような形状にすれば、レーザー光の照射の開始点と終止点とが一致してマーキングパターンで囲まれる内部と外部とが区切られ、しかも交差しない故に疎な金属酸化物の堆積も起こり難いことから、これらのマーキングパターンを介して樹脂などを接合した際には、気密性が十分に保たれる。なお、複数のマーキングパターンは、同じ形状であってもよく、互いに異なる形状であってもよい。マーキングパターンの間に挟まれる領域の面積を小さくして、マーキングパターンの密度を高める観点からは、複数のマーキングパターンの形状は同じであることが好ましい。
そして、前記のような好ましい形状のマーキングパターンを並走させるためには、例えば、1回目のレーザー照射の後に、それに対して同心状に、サイズが異なり互いに交差しない2回目以降のレーザー照射を行うようにする。それにより、複数のマーキングパターンを隣接(並走)して形成させることができる。あるいは、1回目のレーザー照射の後に、それに対して離心状に、サイズが異なり互いに交差しない2回目以降のレーザー照射を行うようにしてもよい。逆に、各マーキングパターンがO字状や□字状などであったとしても、これらを複数形成させるに際して、各マーキングパターンが並走せず、それぞれ独立に環列状に並設する等して配置する場合は、隣接するマーキングパターンの間に、マーキングパターンに囲まれない部分(開放部分)が存在することとなるため、複数のマーキングパターンに囲まれる内部の気密性が保たれない。
前記のとおりレーザー光の照射の開始点と終止点とが一致するとともに、且つ交差しないようにマーキングパターンを形成させることは、とくに図2に示すような形状を有する金属基材(金属部材)を使用する際に好適である。すなわち、図2は、マーキングパターンを形成後の金属部材6(a)と、該金属部材6に樹脂成形体7を接合した状態の金属樹脂接合体8(b)を示した模式図である。中央の白矢印は、(a)から(b)への変化を表すものである。(a)の上段の図は、金属部材6を上面から見た上面図であり、(a)の下段の図は該上面図のA-A断面の断面模式図である。これらの図から把握されるとおり、該金属部材6は、底面部と、底面部の周囲から上方に立ち上がる壁面部とを備え、壁面部の上端面に開口端部を有する。該金属部材6は、底面部及び壁面部によって囲まれる内部(内側)に中空部4を有するとともに、該中空部の周囲を囲む開口端部5を有する有底の中空形状部材である。なお、このような形状の金属基材(金属部材)としては、底面部を有さないものであってもよい(この場合、中空部4と、壁面部を含む開口端部5を有する)。さらに、中空部4を有してその周囲を囲むように開口端部5を有するものであれば、筒状(角柱状、円柱状など)、ドーナツ状、ワッシャ状等の形状であってもよい。他方、(b)に示すとおり、この開口端部5の表面を覆うように樹脂成形体7を接合させ、中空部4を密閉する。(b)の上段の図は、開口端部5を覆うように樹脂成形体7が接合されている。(b)の下段の図は該上段の図のB-B断面の断面模式図である。
そして、このような細い開口端部5を有する金属基材6のような形状の場合、その開口端部5に接合対象物(樹脂成形体など、符合7)を接合させた際には、接合部の面積が限られるため、内部(内側)と外部との気密性が損なわれやすい。そのため、開口端部5の表面を一周して囲むように、レーザー光の照射の開始点と終止点が一致させた前記所定のマーキングパターン9を形成させ、同心円状等に複数のマーキングパターン9を形成(並走)させることが好ましい。その後、樹脂成形体7を接合させる。
その際、マーキングパターン9が形成された開口端部5を挟んだ内部(内側)と外部との気密性を損なうマーキングパターンを形成しないようにすることが好ましい。例えば、図3に示すように、マーキングパターン9に交差するようなマーキングパターン10を形成するようなレーザー光を照射しないことが好ましい。このようなマーキングパターン10は、マーキングパターン9に交差するため、前記したような空隙を含む疎な状態での金属酸化物の堆積を生じることに加え、マーキングパターン9が形成された開口端部5を挟んだ両側(内部と外部)を連通して気密性を損なう(リークパスが生じる)おそれがある。
(レーザー処理条件)
照射工程において、所定の凹凸部を有するマーキングパターンを形成させるレーザー処理条件は以下のように設定する。
まず、本発明においては、マーキングパターンの凹凸部において、前記したようなレーザー未照射部(未処理部)が生じないようにする。そのためには、レーザー光のビーム径Dに対する照射間隔Pの比(P/D)が1.1以上2以下となるようにレーザー光を照射する。当該P/Dを前記下限値以上とすることで、レーザー光の照射に伴って隣接(並走)するマーキングパターンから相互に拡散した金属が過剰に集積して堆積物の間に空隙(疎な部分)が発生することを防ぐことができ、金属部材と接合対象物との接合強度及び気密性を高めることができる。また、当該P/Dを前記上限値以下とすることで、レーザー光の照射に伴って隣接(並走)するマーキングパターンの間の金属基材表面に、凹凸部を有さないレーザー未照射部(未処理部)が生じないため、金属部材と接合対象物との接合強度及び気密性を高めることができる。当該P/Dの好ましい下限は1.2であり、より好ましい下限は1.3であり、さらに好ましい下限は1.5である。また、当該P/Dの好ましい上限は1.9であり、より好ましい上限は1.8であり、さらに好ましい上限は1.6である。
ここで、レーザー光のビーム径と照射間隔との関係については、図4を参照して説明することができる。レーザー光の照射間隔Pは、対象物に照射される一のレーザー光の軌跡14と、当該レーザーと隣接して照射される他のレーザー光の軌跡14’との間の間隔をいう。より具体的には、レーザー光の照射間隔Pは、当該一のレーザー光の軌跡における走査方向11と直行する方向のいずれか一方側の端部と、当該他のレーザー光の軌跡における当該一のレーザー光と同じ側の端部との間の距離をいう。パルスレーザーを照射した場合には、レーザー光の軌跡は、個々のレーザーパルスによって形成される細孔が連続した軌跡として表される。この場合、レーザー光の照射間隔Pは符号13で表され、連続する細孔によって形成されるレーザー光の軌跡に挟まれた領域の幅と、レーザー光のビーム径D(符号12)の大きさとを足し合わせた長さに相当する。
また、レーザー光のビーム径Dは20μm~200μmとする。ビーム径Dを20μm以上とすることにより、形成される凹凸部が過度に細かくなることを防止することができ、また、接合面積に対するレーザー処理時間を短縮することができる。また、ビーム径Dを200μm以下とすることにより、形成される凹凸部が過度に大きくなることを防止することができ、レーザー照射密度が過度に小さくなることを防ぐことができる。ビーム径Dの好ましい下限は30μmであり、より好ましい下限は40μmであり、さらに好ましい下限は50μmである。また、ビーム径Dの好ましい上限は180μmであり、より好ましい上限は150μmであり、さらに好ましい上限は100μmである。
また、レーザー光の照射間隔Pは20μm~200μmとする。照射間隔Pを20μm以上とすることにより、隣接(並走)するマーキングパターンが過度に接近することを防止することができ、また、接合面積に対するレーザー処理時間を短縮することができる。また、照射間隔Pを200μm以下とすることにより、隣接(並走)するマーキングパターンが過度に離れることを防止することができる。照射間隔Pの好ましい下限は30μmであり、より好ましい下限は40μmであり、さらに好ましい下限は50μm、特に好ましい下限は60μmである。また、照射間隔Pの好ましい上限は180μmであり、より好ましい上限は150μmであり、さらに好ましい上限は120μmであり、特に好ましい上限は100μmである。
また、レーザー光の単位長さ当たりの照射本数は、5本/mm~50本/mmとすることが好ましい。該照射本数を上記下限値以上とすることにより、隣接(並走)するマーキングパターンが過度に接近することを防止することができ、また、接合面積に対するレーザー処理時間を短縮することができる。また、該照射本数を上記上限値以下とすることにより、隣接(並走)するマーキングパターンが過度に離れることを防止することができる。該照射本数のより好ましい下限は5.5本/mmであり、さらに好ましい下限は6本/mmであり、特に好ましい下限は8本/mm、さらに特に好ましい下限は10本/mmである。また、該照射本数のより好ましい上限は35本/mmであり、さらに好ましい上限は25本/mmであり、特に好ましい上限は20本/mmであり、さらに特に好ましい上限は17本/mmである。
レーザー処理は、単位面積当たりのレーザー光の照射エネルギー(以降、「エネルギー密度」とも称する。)の影響を受ける。エネルギー密度は、レーザー処理の対象となる対象物(ワーク)において、レーザー光が照射されるレーザー被照射部が、単位面積と単位時間当たりに受けるレーザー出力を表す。エネルギー密度(J/mm2)は、レーザー光の出力W(W)、レーザー光の走査回数N(回)、レーザー光の照射間隔P(mm)、レーザー光の走査速度V(mm/s)、レーザー被照射部におけるレーザー光の照射方向と直行する長さLength、レーザー被照射部におけるレーザー光の照射方向と平行な幅Width、から、下記式(A1)によって表される。
エネルギー密度=(((Length/P)×Width×N)/V)×W)/(Length×Width) ・・・式(A1)
式(A1)を変形すると以下の式(A2)が得られる。エネルギー密度は、式(A2)によって算出することができる。
エネルギー密度=(W×N)/(P×V) ・・・式(A2)
エネルギー密度は、好ましくは0.5J/mm2以上である。エネルギー密度が増加すると、金属基材の表面に形成されるマーキングパターンにおける凹凸部の凹部が深く形成されて、レーザー処理後の金属部材の表面粗さ(表面の算術平均粗さRa)が大きくなる傾向にある。なお、金属基材を構成する金属の融点が高く、熱拡散が大きいほど、金属基材がレーザー光による作用を受けにくくなる傾向にある。上述した事情を考慮して、エネルギー密度は、レーザー処理の対象となる金属にあわせて変更することが望ましい。
アルミニウムを主金属とする金属基材に対してレーザー処理を行う場合には、エネルギー密度は、好ましくは0.5J/mm2以上、より好ましくは1J/mm2以上、さらに好ましくは1.5J/mm2以上である。また、アルミニウムを主金属とする金属基材に対してレーザー処理を行う場合には、エネルギー密度は、好ましくは5J/mm2以下、より好ましくは3J/mm2以下、さらに好ましくは2.5J/mm2以下、特に好ましくは2J/mm2以下である。
鉄を主金属とする金属基材に対してレーザー処理を行う場合には、エネルギー密度は、好ましくは1J/mm2以上、より好ましくは2J/mm2以上、さらに好ましくは3J/mm2以上である。また、鉄を主金属とする金属基材に対してレーザー処理を行う場合には、エネルギー密度は、好ましくは10J/mm2以下、より好ましくは8J/mm2以下、さらに好ましくは6J/mm2以下、特に好ましくは4J/mm2以下である。
銅を主金属とする金属基材に対してレーザー処理を行う場合には、エネルギー密度は、好ましくは2J/mm2以上、より好ましくは4J/mm2以上、さらに好ましくは6J/mm2以上、特に好ましくは8J/mm2以上である。また、銅を主金属とする金属基材に対してレーザー処理を行う場合には、エネルギー密度は、好ましくは20J/mm2以下、より好ましくは15J/mm2以下、さらに好ましくは10J/mm2以下である。
エネルギー密度が上記下限値以上であることにより、金属基材の表面に形成されるマーキングパターンにおける凹凸部の凹部の深さ(L)が大きくなり、凹部の開口径(T)とのアスペクト比(L/T)が大きくなる傾向にある。したがって、凹凸部に樹脂成形体が入り込むことで、凹凸部と樹脂成形体との機械的接合(アンカー効果)が発揮されることにより、接合強度が向上しやすくなる。エネルギー密度が上記上限値以下であることにより、金属基材の表面に形成される該凹凸部の凹部深さ(L)が過度に大きくなり、凹部の開口径(T)とのアスペクト比(L/T)が過度に大きくなることを防ぎやすくなる。したがって、凹凸部の凹部の深部にまで樹脂成形体が入り込むことができ、凹凸部の全体で金属部材との効果的な接合が発揮されることにより、気密性が向上しやすくなる。また、凹凸部の凸部の構造が細長く尖った形状となることを防いで、凸部が折れるなどによる機械的強度の低下を抑えることができる。また、金属樹脂接合体が破断する際に金属部材での破壊が生じることを防ぐことができる。
レーザー処理におけるレーザー条件(レーザー処理条件)は、上述したエネルギー密度を達成するように適宜設定すればよい。レーザー処理条件のパラメータとしては、レーザー光の出力(W)、レーザー光の周波数(kHz)、レーザー光のビーム径D(μm)、レーザー光の照射間隔P(μm)、レーザー光の走査速度(mm/s)、レーザー光の走査回数(回)が挙げられる。なお、走査回数とは、一つのマーキングパターンを形成するにあたり、同一の照射軌跡に沿ってレーザー光を繰り返し照射する回数をいう。
レーザー処理の対象となる金属基材の主金属がアルミニウム、鉄、銅である場合について、レーザー処理条件の例を表1に示す。
Figure 2023059621000002
(凹凸部)
前記マーキングパターンに形成される凹凸部は、μmオーダーサイズの凹凸形状を有する構造体である。凹凸部は、マーキングパターン形成後の金属部材表面の算術平均粗さRaが、24μm~200μmであることが好ましい。Raを24μm以上にすることにより、表面に十分な凹凸を形成して過度に平滑ではないことから、樹脂の入り込みによる嵌合効果が発揮されやすくなり、接合強度や気密性を高めることができる。また、Raを200μm以下にすることにより、凹凸部の凸部の構造が過度に細長く尖った形状となることを防いで、凸部が折れるなどによる機械的強度の低下を抑えることができる。また、金属樹脂接合体が破断する際に金属部材での破壊が生じることを防ぐことができる。Raのより好ましい下限は27μmであり、さらに好ましい下限は30μmであり、特に好ましい下限は35μmである。また、Raのより好ましい上限は150μmであり、さらに好ましい上限は100μmであり、特に好ましい上限は50μmである。
また、凹凸部は、図5に示されるとおりの手順から求められる、所定の開口径(T)と深さ(L)を有することが好ましい。
ここで、凹凸部の開口径(T)と深さ(L)を算出するためには、SEMを用いて金属部材又は金属樹脂接合体の接合断面の観察を行い、少なくとも12個の凹部と11個の凸部とが交互に連続して配置されている、レーザー照射で形成された複数の凹凸部を含む断面写真を撮影する。そして、この断面写真に含まれる複数の凹凸部から、開口径(T)と深さ(L)を算出することができる。
具体的には、図5に示すように、断面写真に以下のような線を設けることにより求める。図5は、当該凹凸部の開口径(T)と深さ(L)を算出するために用いることができる断面写真を模式的に表した図の一例である。この図5は、マーキングパターン形成後であって凹凸部が形成された金属部材6に、樹脂成形体7を接合させた金属樹脂接合体を用いた場合を想定したものである。
まず、図5において、任意に選択した連続した凹部12個について、各凹部のそれぞれの中で最も深い位置となる最底部のうちで最も深いものを最低凹部Pb1とする。最低凹部Pb1を通過するか、またはPb1よりも低い位置を通過するとともに、各凹部のそれぞれの最底部の位置からの距離の和が最も小さくなる位置を通る基準線RL1を引く。次に、上述した12個の凹部に挟まれる各凸部の中で一番高い凸部を最頂凸部Pt1とする。最頂凸部Pt1を通過するとともに、基準線RL1と平行となる基準線RL2を引く。このように、RL1及びRL2がそれぞれ最低凹部Pb1、最頂凸部Pt1を通過するように引かれることにより、深さLを算出する際に、本来の値よりも過度に大きく又は小さく計算されて、アスペクト比(L/T)が大きく又は小さく算出されてしまうことを防止することができる。続いて、最底凹部Pb1を含む連続した12個の凹部について、各凹部の最底部から、基準線RL2に対して垂直となる方向に12本の直線を引き、これらの直線をそれぞれ順にa線~l線(図5では、破線で表示)とする。
上述したa線~l線について、互いに隣接する線の中間において平行な中線を引き、これらの中線をそれぞれ順にA~K線とする。A線~B線の間隔を、A線とB線とによって挟まれるとともに、b線が通過する凹部の開口径T1として得る。同様にして、A~K線の隣接する線同士の間隔を、開口径T1~T10として得る。また、b線~k線それぞれにおいて、各凹部の最底部から基準線RL2までの距離を、10個の凹部の深さL1~L10として得る。開口径T1~T10、及び深さL1~L10は、a線~l線のうち、両端のa線とl線とを除いたb線~k線がそれぞれ通過する、10個の凹部の開口径T及び深さLにそれぞれ対応するものである。
このようにして、図5に含まれるb線~k線がそれぞれ通過する10個の凹部について、深さL1~10、及び開口径T1~T10を得ることができる。さらに、深さL1~10、及び開口径T1~T10の中から、スミルノフ・グラブス検定を用いて外れ値を検出する。外れ値の検出を行うためには、まず、深さL1~L10の10個の凹部について、各深さLの値を深さL1~L10の平均値で減算した絶対偏差を算出し、算出された絶対偏差を深さL1~L10の不偏標準偏差で除算して検定統計量tを算出する。次に、検定統計量tがその値となる確率を表すp値を求める。そして、p値が5%未満となるものを外れ値として検出する。外れ値が検出された場合には、深さL1~L10の10個の凹部から外れ値が検出された凹部の深さLを除外して、残余の凹部の深さLについて再度外れ値の検出を行い、以降、外れ値が検出されなくなるまで繰り返す。同様にして、開口径T1~T10からも外れ値を検出する。さらに、図5に含まれるb線~k線がそれぞれ通過する10個の凹部について、深さLまたは開口径Tの一方または両方で外れ値が検出された凹部を除いた残余の凹部の深さLと開口径Tから、深さLの平均値と、開口径Tの平均値とを算出する。このようにして得られた深さLの平均値と、開口径Tの平均値とを、金属部材又は金属樹脂接合体の深さ(L)、開口径(T)とする。
またさらに、図5に含まれるb線~k線がそれぞれ通過する10個の凹部について、深さLまたは開口径Tの一方または両方で外れ値が検出された凹部を除いた残余の凹部の深さLと開口径Tから、各凹部の深さLを各凹部の開口径Tで除算して、それぞれのアスペクト比(L/T)を算出する。そして、各凹部それぞれのアスペクト比(L/T)から、複数の凹部のアスペクト比(L/T)の平均値を算出する。このようにして得られたアスペクト比(L/T)の平均値を、金属部材又は金属樹脂接合体のアスペクト比(L/T)とする。
開口径(T)は、通常20μm~200μm、好ましくは40μm~180μm、より好ましくは60μm~150μm、さらに好ましくは80μm~120μmである。当該開口径(T)が上記下限値以上となる場合、凹部が広くなることから、接合させる樹脂が凹部へ入り込みやすくなり、また、後述のアスペクト比を満足しやすくなる。一方で、開口径(T)が上記上限値以下となる場合、樹脂の入り込みによる嵌合効果が発揮されやすくなり、また、後述のアスペクト比を満足しやすくなる。
また、深さ(L)は、20μm~200μm、好ましくは40μm~180μm、より好ましくは60μm~150μm、さらに好ましくは80μm~120μmである。当該深さ(L)が上記下限値以上となる場合、十分な深さを有することから樹脂の入り込みによる嵌合効果が発揮されやすくなり、また、後述のアスペクト比を満足しやすくなる。一方で、深さ(L)が上記上限値以下となる場合、深さ(L)値及び開口径(T)がともに大きくなることによる粗大な凹凸構造が形成されることを防いで、樹脂の入り込みによる嵌合効果が発揮されやすくなり、また、後述のアスペクト比を満足しやすくなる。
また、開口径(T)と深さ(L)とのアスペクト比(L/T)が、通常0.5~5、好ましくは0.5~4、より好ましくは0.7~3、さらに好ましくは1~2である。このようなアスペクト比を満足することにより、凹部の深部まで樹脂が流入して凹凸部と樹脂との間に生じる空隙の発生を抑えて表面全体を封止することができる。このように、マーキングパターンにおける凹凸部を介した金属部材と樹脂とによる嵌合が十分に発揮されるような凹部の形状となることで、金属部材と樹脂成形体との接合強度及び気密性を高めることができる。L/Tが上記下限値を上回ることで、凹部の開口径に対して深さが相対的に小さすぎない程度のサイズとなって、凹部が適度な深さを有する形状となり、凹部に樹脂が流入した際に金属部材と樹脂との嵌合が発揮される形状となりやすくなる。また、アスペクト比が上記上限値を下回ることで、凹部の開口径に対して深さが相対的に大きすぎない程度のサイズとなって、凹部の幅が開口部から深部へ向けて次第に狭まる略三角形状の形状となり、凹部の深部まで樹脂が流入しやすくなる。
(水酸基含有皮膜)
レーザー光の照射によってマーキングパターンにおける金属溶融層の最表層には、水酸基を含有する水酸基含有皮膜が存在することが望ましい。
このような水酸基含有皮膜は、金属基材を構成する金属に応じて、例えば、水酸化アルミニウム(Al(OH)3)、酸化水酸化アルミニウム(AlO(OH))、水酸化銅(Cu(OH)2)、水酸化鉄(II)(Fe(OH)2)、酸化水酸化鉄(III)(FeO(OH))、等の金属基材を構成する金属の水酸化物(金属水酸化物)、または金属基材を構成する金属の酸化水酸化物(金属酸化水酸化物)を含んでいる。また、水酸基含有皮膜は、金属基材を構成する金属に応じて、例えば、酸化アルミニウム(Al23)、酸化銅(I)(Cu2O)、酸化銅(II)(CuO)、酸化鉄(II)(FeO)、酸化鉄(II,III)(Fe34)、酸化鉄(III)(Fe23)、等の金属基材を構成する金属の酸化物(金属酸化物)を含んでいてもよい。
水酸基含有皮膜については、例えば、グロー放電発光分析法(Glow discharge optical emission spectrometry:GD-OES)によって、金属部材の金属溶融層の最表層付近に存在する水酸基を検出することで確認することができる。具体的には、まず、GD-OESを用いて、金属部材の接合面における厚さ方向に対して、金属基材を構成する主金属および水酸基に由来する発光強度(V)を測定する。続いて、主金属に由来する発光強度の積算値(面積)から、金属基材を構成する主金属の検出量を算出する。また、水酸基に由来する発光強度の積算値から、水酸基の検出量を測定する。さらに、主金属の検出量と水酸基の検出量との合計量に対する、水酸基の検出量の割合を、水酸基存在率として算出する。GD-OESによって得られる発光スペクトルのうち、281nmおよび309nmに現れるピークを、水酸基に由来するピークとする。GD-OESによる金属部材の表層付近の発光強度の測定は、表面から200nmの深さまでの測定を行えばよい。具体的には、金属基材を構成する主金属の元素および水酸基に由来する発光強度が検出されてから、主金属の元素に対応する200nmのスパッタリングに要する時間が経過するまでの範囲を測定する。この測定の範囲(時間)は、測定対象となる主金属元素を高純度で含む標準試料のスパッタリングレート(μm/min)を予め測定することにより把握することができる。GD-OESを利用して発光強度を測定することで、金属部材の最表層に存在する成分だけではなく、樹脂との接合に寄与しうる、ある程度の深さまで存在する成分を検出して評価を行うことができる。
水酸基存在率は、好ましくは4%以上、より好ましくは5%以上、さらに好ましくは6%以上、特に好ましくは7%以上である。水酸基存在率が上記下限値以上であることにより、金属部材の表面付近に存在する水酸基が増加し、場合によっては、使用される接合対象物である樹脂成形体などに含まれる官能基と相互作用することが期待できる。また、このとき、金属樹脂接合体の接合強度や気密性も向上する傾向にある。水酸基存在率の上限は特に限定されないが、好ましくは70%以下、より好ましくは50%以下、さらに好ましくは40%以下、特に好ましくは30%以下である。水酸基存在率は、水酸基の形成方法によって変化する。例えば、金属基材がレーザー処理を受けた場合に比して、金属基材が、温水もしくは熱水による水和酸化物処理;化成処理;ジンケート処理;等の湿式処理を受けた場合の方が高くなる傾向にある。レーザー処理により水酸基含有皮膜が形成される場合には、水酸基含有率は、好ましくは30%以下、より好ましくは20%以下、さらに好ましくは15%以下、特に好ましくは10%以下である。
(水酸基含有皮膜の微細凹凸部)
水酸基含有皮膜の表面には微細凹凸部を有している。微細凹凸部は、nmオーダーサイズの凹凸形状を有する構造体であって、水酸基含有皮膜の表面に形成されている。微細凹凸部は、レーザー照射によって水酸基含有皮膜を有する金属溶融層が形成された際に、水酸基含有皮膜の表面に形成される。微細凹凸部は、金属部材の表面または断面を、例えば、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察することで確認することができる。
微細凹凸部は、10nm~50nmのナノサイズの微細な開口部が形成されているとともに、その膜厚が10nm~1000nmの微細な構造を持つ。SEMによる観察を行った場合、微細凹凸部は、上記サイズの微細な開口部を有する海綿状の構造体として観察される。微細凹凸部は、水酸基含有皮膜と同様に、金属水酸化物または金属酸化水酸化物を含んでいる。また、微細凹凸部は、水酸基含有皮膜と同様に、金属酸化物を含んでいてもよい。
[2.金属樹脂接合体の製造方法]
前記のとおりの金属部材を製造したのちに、次いで、その表面(接合面)に対して、樹脂成形体を形成させる樹脂成形工程によって、金属樹脂接合体を製造する。
<樹脂成形工程>
ここで、樹脂組成物の成形(樹脂成形体の形成)方法としては、使用される樹脂に合わせて適宜好ましい成形方法を採用することができる。例えば、熱可塑性樹脂を用いる場合には、金属部材上に熱可塑性樹脂を含む組成物を射出成形することにより樹脂成形体を一体的に接合させて金属樹脂接合体として得ることや、或いは、射出成形で予め樹脂成形体として得たうえで、得られた樹脂成形体を金属部材表面にレーザー溶着、振動溶着、超音波溶着、ホッとプレス溶着、熱板溶着、非接触熱板溶着又は高周波用着などの手段を用いた熱圧着により一体的に接合させる方法などを挙げることができるが、これらに限定されない。
また、例えば、熱硬化性樹脂を用いる場合には、金属部材上に熱硬化性樹脂を含む組成物の射出成形することにより樹脂成形体を一体的に接合させて金属樹脂接合体として得ることや、或いは、所定の粘度に調整した組成物を金属部材上に塗布するなどしてから一体的に加熱・加圧する圧縮成形する方法などを挙げることができるが、これらに限定されない。
また、接着剤を用いる場合には、金属部材上に塗布し、乾燥させて硬化させることができるが、必要により加温などの操作を行っても構わず、使用する接着剤に合った成形条件を採用することができる。
<樹脂成形体>
樹脂成形体は、熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂を含んでいる。
熱可塑性樹脂としては、用途に応じて適宜公知のものから選択することができるが、例えば、ポリアミド系樹脂(PA6、PA66等の脂肪族ポリアミド、芳香族ポリアミド)、ポリスチレン、ABS樹脂、AS樹脂等のスチレン単位を含む共重合体、ポリエチレン、エチレン単位を含む共重合体、ポリプロピレン、プロピレン単位を含む共重合体、その他のポリオレフィン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリカーボネート系樹脂、アクリル系樹脂、メタクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアセタール系樹脂、ポリフェニレンスルフィド系樹脂を挙げることができ、これらを1種又は2種以上で使用することができる。この中でも、樹脂成形時の流動性が高く凹部に入り込みやすいなどの理由から、ポリアミド系樹脂、ポリフェニレンスルフィド系樹脂を用いることが好ましい。
熱硬化性樹脂としては、用途に応じて適宜公知のものから選択することができるが、例えば、尿素樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂、レソルシノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン、ビニルウレタンを挙げることができ、これらを1種又は2種以上で使用することができる。この中でも、反応硬化型接着剤は水酸基含有皮膜との相性がよく、反応面積が大きくなるに伴い高い接合強度が得られるなどの理由から、エポキシ樹脂系、アクリル樹脂系、ウレタン樹脂系を用いることが好ましい。
また、樹脂成形体として、例えば、接着剤を用いることもできる。接着剤としては、上述した熱可塑性樹脂もしくは熱硬化性樹脂、またはその他のエラストマーまたはゴムを含み、接着性を示す化合物を用いることができる。接着剤としては、用途に応じて適宜公知のものから選択することができるが、例えば、乾燥固化型接着剤として、アクリル樹脂系エマルジョン形、ゴム系ラテックス形、酢酸ビニル樹脂系溶剤形、ビニル共重合樹脂系溶剤形、ゴム系溶剤形などが挙げられ、また、反応硬化型接着剤として、エポキシ樹脂系、ウレタン樹脂系、変性シリコーン樹脂系ものなどを挙げることができ、これらを1種又は2種以上で使用することができる。この中でも、反応硬化型接着剤は水酸基含有皮膜との相性がよく、反応面積が大きくなるに伴い高い接合強度が得られるなどの理由から、エポキシ樹脂系、アクリル樹脂系、ウレタン樹脂系を用いることが好ましい。
さらに、熱可塑性エラストマーを用いることができ、例えば、スチレン系エラストマー、塩化ビニル系エラストマー、オレフィン系エラストマー、ウレタン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ニトリル系エラストマー、ポリアミド系エラストマーを挙げることができ、これらを1種又は2種以上で使用することができる。
また、上記のそれぞれの樹脂(樹脂組成物)においては、金属部材との間の密着性、機械的強度、耐熱性、寸法安定性(耐変形、反り等)、電気的性質等の性能をより改善するために、繊維状、粉粒状、板状等の充填剤や、各種のエラストマー成分を添加することができる。
更に、樹脂(樹脂組成物)には、一般的に添加されてもよい公知の添加剤、すなわち難燃剤、染料や顔料等の着色剤、酸化防止剤や紫外線吸収剤等の安定剤、可塑剤、潤滑剤、滑剤、離型剤、結晶化促進剤、結晶核剤等を、要求される性能や本発明の目的を阻害しない範囲において、適宜添加することができる。
<金属樹脂接合体>
金属樹脂接合体は、樹脂が金属部材表面の接合面(金属溶融層、凹凸部)に入り込んだ状態で成形され、接合面を介して金属部材と樹脂成形体とが一体的に接合されている。金属部材及び樹脂成形体をそれぞれ1つずつ用いて接合させてもよいし、或いは、それらのいずれか又は両方を複数用いて接合させてもよく、さらには、それらの複数のセットを任意に積層させたような態様であってもよく、用途に応じて適宜決定することができる。
例えば、金属樹脂接合体は、金属部材と樹脂成形体とが、積層または連続して配置された状態で接合している金属-樹脂接合体であってもよい。または、金属樹脂接合体は、金属部材と樹脂成形体と金属部材とが、この順で積層または連続して配置された状態で接合している金属-樹脂-金属接合体であってもよい。または、金属樹脂接合体は、樹脂成形体と金属部材と樹脂成形体とが、この順で積層または連続して配置された状態で接合している樹脂-金属-樹脂接合体であってもよい。
金属樹脂接合体が、樹脂成形体を介して2以上の金属部材を接合する金属-樹脂-金属接合体である場合には、金属部材に挟まれた状態で熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂を成形した樹脂成形体を備えるものであってもよい。または、熱可塑性樹脂もしくは熱硬化性樹脂等を含む接着剤を樹脂成形体として用いて、金属部材が接着剤を介して接合されたものであってもよい。
[3.作用効果]
従来より、金属樹脂接合体の接合強度を高めるために、金属製材料をレーザー光で処理した際に所定の開口径及び深さを有する凹凸部を形成することにより、樹脂が入り込むことで機械的な相互作用を起こしやすい構造を形成することが有効であるとされている。また、該レーザー処理により生じる金属基材の溶融部が酸素を含有する酸素含有皮膜であり、この酸素含有皮膜が接合強度の発現に寄与することが知られていた。
本発明者らが詳細に検討した結果、金属樹脂成形体の接合強度や気密性を高めるためには、金属部材に所定のマーキングパターンを複数形成する所定の照射工程を備え、金属部材と樹脂成形体とが、接合面において所定のマーキングパターンを介して接合されるように製造することが必要であることを突き止めた。具体的には、該マーキングパターンはレーザー光の照射軌跡に沿って連続する凹凸部を有するようにするとともに、レーザー光の照射の開始点と終止点とが一致するように1本の連続した直誠意又は曲線からなり、且つ交差しないようにする。また、照射工程では、隣接する部位への前記レーザー光の照射によって、互いに隣接して並走する複数の前記マーキングパターンを形成し、前記レーザー光のビーム径Dが20μm~200μm、前記レーザー光の照射間隔Pが20μm~200μm、前記ビーム径Dに対する前記照射間隔Pの比(P/D)が1.1以上2以下であるようにする。
このような製造方法とすることにより、金属部材に形成されたマーキングパターンの凹凸部に樹脂が入り込んだ状態で接合される嵌合効果が発現される。また、該マーキングパターンが閉じていることで、マーキングパターンの内部(内側)と外部(外側)との気密性を高めることができる。また、マーキングパターンが交差していないことで、該交差部分において、凹凸部に空隙が発生することを防ぎ気密性を高めることができる。さらに、レーザー光のビーム径D及び照射間隔P並びにそれらの比P/Dを規定することで、レーザー光の照射に伴って隣接(並走)するマーキングパターン相互の距離を適正なものとし、それにより、相互に拡散した金属が過剰に集積して堆積物の間に空隙(疎な部分)が発生することを防ぐことができる。また、相互のマーキングパターンの間の金属基材表面に凹凸部を有さないレーザー未照射部(未処理部)が生じることを防ぐことができる。さらには、形成される凹凸部が過度に細かく又は大きくなることを防止することができる。
よって、本発明では、高い接合強度を有し、十分な気密性を担保できるような金属樹脂接合体を得ることができる。
また、本発明では、金属基材の表面には、前記レーザー光が照射された箇所の前記金属が前記レーザー光の照射中心部から外方に向けて拡散することで形成される凹部と、前記凹部から拡散した前記金属が前記凹部の周囲に集積することで形成される凸部とからなる前記凹凸部が形成されており、前記金属基材の表面において、互いに隣接する前記マーキングパターンに挟まれる領域には、互いに隣接する前記マーキングパターンにそれぞれ含まれる前記凸部どうしが接触して一体化するように形成されており、前記レーザー光の照射前の前記金属基材が露出する未処理部が形成されていない。そのため、接合対象物である樹脂等の入り込みによる嵌合効果が発揮されやすくなる。
また、本発明では、内部に中空部を有するとともに、前記中空部の周囲を囲む開口端部を有する中空形状を有した金属基材を用いた場合にとくに有用である。すなわち、前記マーキングパターンが前記開口端部に形成されるようにレーザー光の照射を行い、この開口端部及び中空部を覆うように接合対象物である樹脂成形体を接合させることで、金属基材の内部(中空部)と外部との気密性を保つことができる。その際、マーキングパターンを挟んだ両側を連通するマーキングパターンを形成しないようにレーザー光の照射を行うことが、前記気密性を損なわないようにするため好ましい。
また、本発明では、前記の方法によって、照射工程を経て得られた金属部材の表面の算術平均粗さRaが24μm~200μmとなる。これによって、対象物である樹脂等の入り込みによる嵌合効果が発揮されやすい。
以下、実施例、及び比較例、並びに実験例、及び比較実験例に基づいて、本発明の好適な実施の形態を具体的に説明するが、本発明がこれにより限定されて解釈されるものでもない。
[評価方法]
<接合断面の評価>
樹脂成形体を接合する前の金属部材、又は金属樹脂接合体を厚さ方向に切断して、エポキシ樹脂に埋め込んだ後、湿式研磨を行い、接合断面評価用のサンプルを作製した。接合断面評価用のサンプルに対して、厚さ方向断面を走査型電子顕微鏡(日本電子製、JSM-7200F)により倍率100~500倍で観察した。SEMによる断面の観察結果から、隣接するマーキングパターンの各凸部によって挟まれるとともに、レーザー光の照射前の金属基材が露出している略平面状の領域の長さを、未照射部の長さを測定した。測定結果を表5に示した。
<接合強度の評価(1)(せん断試験)>
金属樹脂接合体の接合強度の評価を、ISO19095に準じたせん断強度の測定によって行った。具体的には図6に示すように、金属部材6と樹脂成形体7とを接合した金属樹脂接合体8を専用治具15に固定し、10mm/minの速度で、接合面に対して平行な方向(アルミ板材の長手方向)にせん断力が加わるように荷重を印加し、金属部材と樹脂成形体との間の接合部分を破壊する試験を実施した。金属樹脂接合体が破断したときの破断力を引張せん断強度(MPa)として求めた。
さらに、せん断試験を行った後の金属部材側の破断面を目視で観察し、破断形態を確認した。樹脂成形体で母材破壊が生じた場合を樹脂破壊(良)と判断した。金属部材と樹脂成形体との界面破壊が生じた場合は界面破壊(不良)と判断した。金属部材で母材破壊が生じた場合は金属破壊(不良)と判断した。樹脂成形体の射出成形を行った後に、金型から離型した際に、金属部材と樹脂接合体との間に破断が見られたものは、せん断強度を0MPaとした。
<接合強度の評価(2)(せん断試験)>
金属樹脂金属接合体の接合強度の評価を、JIS K 6850を参考にしたせん断強度の測定によって行った。具体的には図7に示すように、2枚の金属部材6及び6’を、後述の熱硬化性接着剤を用いて貼り合わせた金属樹脂金属接合体16を専用治具15に固定し、5mm/minの速度で、接合面に対して平行な方向にせん断力が加わるように荷重を印加し、接着剤を介した金属部材どうしの接合体の接合部分を破壊する試験を実施した。金属樹脂金属接合体が破断したときの破断力を引張せん断強度(MPa)として求めた。
さらに、せん断強度の評価後の破断面を目視で観察し、破断形態を確認した。接着剤で凝集破壊が生じ、接合部全体に接着剤が残っていた場合は「樹脂破壊」(良)と判断した。金属部材と接着剤との界面破壊が生じた場合は「界面破壊」(不良)と判断した。
<気密性の評価>
金属樹脂接合体、又は金属樹脂金属接合体の気密性の評価を、エアーリーク試験によって行った。具体的には図8に示すように、金属部材6と樹脂成形体7とを接合した金属樹脂接合体8を専用気密性冶具20にクランプして固定した状態で、エアーを最大で正圧0.5MPaまで印加し、1分間保持した。その後,エアー漏れの有無を目視で確認した。または、図9に示すように、2枚の金属部材6及び6’を、後述の熱硬化性接着剤を用いて貼り合わせた金属樹脂金属接合体16を専用気密性冶具20にクランプして固定した状態で、エアーを最大で正圧0.5MPaまで印加し、1分間保持した。その後,エアー漏れの有無を目視で確認した。上述した専用気密性治具20では、金属樹脂接合体8、又は金属樹脂金属接合体16を、O-リング18を介装した状態で上下から固定治具で挟みこんで固定している。金属樹脂接合体8、又は金属樹脂金属接合体16を挟んで、専用気密性治具20の上側の開放部には水17が存在しており、専用気密性治具20の下側の密閉部には空気が存在している。通気管19を通じて密閉部にエアーを印加することで、接合界面から気泡が発生するかどうかを機序として、金属樹脂接合体8、又は金属樹脂金属接合体16を通じて、開放部側にエアーが漏れるかどうかを確認することができる。評価時間内においてエアーリークがない場合を「合格(良)」、エアーリークが観察された場合を「不合格(不良)」として評価した。
<表面の算術平均粗さRa>
接合面の表面粗さとして、キーエンス社製ワンショット3D形状測定機VR-3200を用いて、算術平均粗さRaを測定した。測定は、3600×2800μmの測定範囲において、倍率80倍、カットオフλsなし、カットオフλcなしとして、基準長数1の条件で41箇所の平均値を測定値とした。レーザー光の縞模様状の軌跡と、測定器の投光レンズから照射される縞状の光とが、直角に交差する位置関係となるようにして測定を行った。
[実施例1]
<金属部材の作製>
ISO19095に準拠し、JIS H0001に示された調質記号H34で処理したA5052アルミニウム合金(A5052-H34)の中空押出し材から、厚さ2mm×外径Φ55mm×内径Φ20mmの円環状のアルミ円盤を金属基材として切り出して準備した。
次に、アルミ円盤の被加工面に対して、以下の条件でレーザー照射するレーザー処理を行い、樹脂成形体との接合面を形成した。アルミ円盤では、内側から同心円状に幅2.0mmの円環状の領域にレーザー照射して、当該領域に同心円状に複数の円(曲線)が隣接(並走)してなる複数のマーキングパターンを形成した。レーザー処理条件は、以下の表2及び表3にまとめて示した。
<レーザー処理条件>
・装置:キーエンス社製、3Axis Fiberレーザマーカ(型式:MDF-5200)
・レーザー光波長:1090nm
・発信方式:パルス
・出力:42.5W
・周波数:60kHz
・ビーム径D:60μm
・照射間隔P:65μm
・走査速度:340mm/s
・走査回数(照射回数):1回
・照射本数:30本/2mm
・エネルギー密度:1.92J/mm
・P/D:1.1
<樹脂成形体の接合、金属樹脂接合体の作製>
上記のようにしてマーキングパターンが形成された金属部材(レーザー処理後のアルミ円盤)を、射出成形機(日精樹脂工業製、FNX1103-18A)を用いて,ISO19095に準拠して作製した金型内にそれぞれインサート後、これに対して、熱可塑性樹脂としてポリアミドMXD10をベースレジンとする芳香族ナイロン(三菱エンジニアリングプラスチックス社製、商品名:Reny(登録商標)、グレード:XL1002U)を使用して、これを樹脂温度250℃、金型温度140℃、射出速度30mm/s、保圧80MPaで射出成形した。それにより、樹脂成形体が厚さ2mm×Φ24mmの円盤状であって、アルミ円盤の内径側面との円環状の接合部の接合幅が2.0mm、接合面積が138.2mmである、アルミ円盤(金属部材)6と樹脂成形体7との接合体(金属樹脂接合体8、図10)を作製した。
<評価>
金属樹脂接合体に対して、気密性の評価を行った。評価結果を表4に示す。
[実施例2~6]
レーザー処理条件のうち、照射間隔Pをそれぞれ表2に記載の条件に変更し、それにより、照射本数(本/2mm)、エネルギー密度、P/Dがそれぞれ表2の記載のとおりに変更された。それ以外は、実施例1と同様にマーキングパターンを形成して、各金属部材(アルミ円盤)を作製するとともに、評価用の各金属樹脂接合体を作製した。
各金属樹脂接合体に対して、気密性の評価を行った。評価結果を表4に示す。
[実施例7]
レーザー処理条件のうち、出力を50.0W、周波数を120kHz、走査速度を400mm/sに変更し、また、照射間隔Pを120μmに変更した。それにより、照射本数(本/2mm)、エネルギー密度、P/Dが表2の記載のとおりに変更された以外は、実施例1と同様にマーキングパターンを形成して金属部材(アルミ円盤)を作製するとともに、評価用の金属樹脂接合体を作製した。
金属樹脂接合体に対して、気密性の評価を行った。評価結果を表4に示す。
[実施例8]
ISO19095に準拠し、JIS H0001に示された調質記号T5で処理したA6063アルミニウム合金(A6063-T5)の中空押出し材から、厚さ2mm×外径Φ55mm×内径Φ20mmの円環状のアルミ円盤と、厚さ2mm×外径Φ24mmの円形状のアルミ円盤を、それぞれ金属基材として切り出して準備した。
次に、レーザー処理条件のうち、走査速度を500mm/sに変更し、また、照射間隔Pを70μmに変更した。それにより、照射本数(本/2mm)、エネルギー密度、P/Dが表2の記載のとおりに変更された以外は、実施例1と同様にレーザー照射して、マーキングパターンを形成した。なお、円環状のアルミ円盤では、内側から同心円状に幅2.0mmの円環状の領域にレーザー照射した。また、円形状のアルミ円盤では、外周側から同心円状に幅2.0mmの領域にレーザー照射した。それにより、円環状のアルミ円盤と円形状のアルミ円盤のそれぞれの領域に、同心円状に複数の円(曲線)が隣接(並走)してなる複数のマーキングパターンを形成した。
上記のようにしてマーキングパターンが形成された金属部材(レーザー処理後のアルミ円盤)に対して、樹脂として熱硬化性接着剤(一液加熱硬化型エポキシ接着剤)(スリーエムジャパン株式会社社製、商品名:スコッチ・ウェルド(登録商標)SW2214)を使用して、接着剤の厚さが0.2mmとなるようにSUSワイヤーで調整して接合面に塗布した。接着剤の塗布後、円環状のアルミ円盤と円形状のアルミ円盤とを貼り合わせ、0.01MPaの圧力をかけて、試験片温度が150℃到達した後に30分加熱した接着条件で、円環状のアルミ円盤と円形状のアルミ円盤との円環状の接合部の接合幅が2.0mm、接合面積が138.2mmである、接着剤を介した円環状のアルミ円盤(金属部材)6と円形状のアルミ円盤(金属部材)6'との接合体(円環状のアルミ円盤と樹脂成形体と円形状のアルミ円盤との接合体)(金属樹脂金属接合体16、図11)を作製した。
金属樹脂金属接合体に対して、気密性の評価を行った。評価結果を表4に示す。
[実施例9]
金属として、JIS H3100に示された無酸素銅(C1020)の圧延材を用い、また、レーザー処理条件のうち、走査速度を400mm/s、走査回数を5回に変更し、さらに、照射間隔Pを90μmに変更した。それにより、照射本数(本/2mm)、エネルギー密度、P/Dが表2の記載のとおりに変更された。また、熱可塑性樹脂としてポリフェニレンスルフィド(PPS)(ポリプラスチック社製、商品名:ジュラファイド、グレード:1150MF1)を使用した。それ以外は、実施例1と同様にマーキングパターンを形成して、金属部材(銅円盤)を作製するとともに、評価用の金属樹脂接合体を作製した。
金属樹脂接合体に対して、気密性の評価を行った。評価結果を表4に示す。
[実施例10]
レーザー処理条件のうち、照射間隔Pを90μmに変更した。それにより、照射本数(本/2mm)、エネルギー密度、P/Dが表2の記載のとおりに変更された以外は、実施例9と同様にして金属部材(銅円盤)を作製するとともに、評価用の金属樹脂接合体を作製した。
また、金属樹脂接合体に対して、接気密性の評価を行った。評価結果を表4に示す。
[実施例11]
金属として、ステンレス板材(SUS304)を用い、レーザー処理条件のうち、走査回数を2回に変更し、また、照射間隔Pを90μmに変更した。それにより、照射本数(本/2mm)、エネルギー密度、P/Dが表2の記載のとおりに変更された。また、熱可塑性樹脂としてポリフェニレンスルフィド(PPS)(ポリプラスチック社製、商品名:ジュラファイド、グレード:1150MF1)を使用した。それ以外は、実施例1と同様にマーキングパターンを形成して、金属部材(鉄円盤)を作製するとともに、評価用の金属樹脂接合体を作製した。
金属樹脂接合体に対して、気密性の評価を行った。評価結果を表4に示す。
[実施例12]
レーザー処理条件のうち、照射間隔Pを65μmに変更した。それにより、照射本数(本/2mm)、エネルギー密度、P/Dが表2の記載のとおりに変更された。それ以外は、実施例11と同様にして金属部材(鉄円盤)を作製するとともに、評価用の金属樹脂接合体を作製した。
また、金属樹脂接合体に対して、気密性の評価を行った。評価結果を表4に示す。
[比較例1]
レーザー処理条件のうち、照射間隔Pを40μmに変更した。それにより、照射本数(本/2mm)、エネルギー密度、P/Dが表2の記載のとおりに変更された。それ以外は、実施例1と同様にしてマーキングパターンを形成し、金属部材(アルミ円盤)を作製するとともに、評価用の金属樹脂接合体を作製した。
金属樹脂接合体に対して、気密性の評価を行った。評価結果を表4に示す。
[比較例2~11]
レーザー処理条件のうち、照射間隔Pをそれぞれ表2に記載の条件に変更し、それにより、照射本数(本/2mm)、エネルギー密度、P/Dがそれぞれ表2の記載のとおりに変更された。それ以外は、比較例1と同様にマーキングパターンを形成して、各金属部材(アルミ円盤)を作製するとともに、評価用の金属樹脂接合体を作製した。
各金属樹脂接合体に対して、気密性の評価を行った。評価結果を表4に示す。
[実験例1]
<金属部材の作製>
ISO19095に準拠し、JIS H0001に示された調質記号H34で処理したA5052アルミニウム合金(A5052-H34)の中空押出し材から、厚さ1.5mm×幅18mm×長さ45mmの長方形状のアルミ板材を金属基材として切り出して準備した。
次に、アルミ板材の被加工面に対して、以下の条件でレーザー照射するレーザー処理を行い、樹脂成形体との接合面を形成した。アルミ板材では、一方の主面側の長手方向の端部において、長手方向に10mm×短手方向に18mmの長方形状の領域にレーザーを縞模様に照射した。アルミ板材の短手方向に沿って直線状にレーザーを照射して、直線が並走してなる複数のマーキングパターンを形成した。その他のレーザー処理条件は、実施例1と同様にして行った。
<樹脂成形体の接合、金属樹脂接合体の作製>
上記のようにしてマーキングパターンが形成された金属部材(レーザー処理後のアルミ板材)に対して、樹脂を射出成形して、アルミ板材(金属部材)6と樹脂成形体7との接合体(金属樹脂接合体8、図12)を作製した。射出成形の条件は、樹脂成形体7の厚さが3mm×幅10mm×長さ45mmの長方形状であって、アルミ板材と樹脂成形体との長方形状の接合部の面積(接合面積)が5mm×10mmである以外は、実施例1と同じにして行った。
<評価>
金属樹脂接合体に対して、接合断面の評価を行った。SEMによる断面の観察結果を図13に示す。
また、マーキングパターン形成後であって樹脂接合前の金属部材(レーザー処理後のアルミ板材)の表面粗さRaを測定した。測定結果を表5に示す。
また、金属樹脂接合体に対して、接合強度の評価を行った。評価結果を表5に示す。
[実験例2~7]
レーザー処理条件をそれぞれ実施例2~7と同様に、表2に記載の条件に変更した。それ以外は、実験例1と同様にマーキングパターンを形成して、各金属部材(アルミ板材)を作製するとともに、評価用の各金属樹脂接合体を作製した。
また、実験例4,7の金属樹脂接合体に対して、接合断面の評価を行った。実験例4のSEMによる断面の観察結果を図14に示す。実験例7のSEMによる断面の観察結果を図15に示す。
また、マーキングパターン形成後であって樹脂成形体接合前の各金属部材の表面粗さRaを測定した。測定結果を表5に示す。
また、各金属樹脂接合体に対して、接合強度の評価を行った。評価結果を表5に示す。
[実験例8]
JIS H0001に示された調質記号T5で処理したA6063アルミニウム合金(A6063-T5)の中空押出し材から、厚さ5mm×幅25mm×長さ50mmの長方形状の2枚のアルミ板材を、金属基材として切り出して準備した。
次に、レーザー処理条件をそれぞれ実施例8と同様に、表2に記載の条件に変更した。なお、2枚のアルミ板材では、一方の主面側の長手方向の端部において、6mm×25mmの長方形状の領域にそれぞれレーザーを縞模様に照射した。アルミ板材の短手方向に沿って直線状にレーザーを照射して、直線が並走してなる複数のマーキングパターンを形成した。それ以外は、実験例1と同様にマーキングパターンを形成して、金属部材(アルミ板材)を作製した。
上記のようにしてマーキングパターンが形成された金属部材(レーザー処理後のアルミ板材)に対して、2枚のアルミ板材の長方形状の接合部の接合面積を6mm×25mmに変更した以外は実施例8と同様にして、接着剤を介したアルミ板材(金属部材)6及び6'の接合体(アルミ板材と樹脂成形体とアルミ板材との接合体)(金属樹脂金属接合体16、図16)を作製した。
マーキングパターン形成後であって樹脂成形体(接着剤)接合前の金属部材の表面粗さRaを測定した。測定結果を表5に示す。
また、金属樹脂金属接合体に対して、接合強度の評価を行った。評価結果を表5に示す。
[実験例9,10]
金属として、JIS H3100に示された無酸素銅(C1020)の圧延材を用いた。また、レーザー処理条件をそれぞれ実施例9,10と同様に、表2に記載の条件に変更した。また、熱可塑性樹脂としてポリフェニレンスルフィド(PPS)(ポリプラスチック社製、商品名:ジュラファイド、グレード:1150MF1)を使用した。それ以外は、実験例1と同様にマーキングパターンを形成して、金属部材(銅板材)を作製するとともに、評価用の金属樹脂接合体を作製した。
実験例9の樹脂成形体を接合する前のレーザー処理後の金属部材に対して、接合断面の評価を行った。実験例9のSEMによる断面の観察結果を図17に示す。
マーキングパターン形成後であって樹脂接合前の金属部材の表面粗さRaを測定した。測定結果を表5に示す。
また、金属樹脂接合体に対して、接合強度の評価を行った。評価結果を表5に示す。
[実験例11,12]
金属として、ステンレス板材(SUS304)を用いた。また、レーザー処理条件をそれぞれ実施例11,12と同様に、表2に記載の条件に変更した。また、熱可塑性樹脂としてポリフェニレンスルフィド(PPS)(ポリプラスチック社製、商品名:ジュラファイド、グレード:1150MF1)を使用した。それ以外は、実験例1と同様にマーキングパターンを形成して、金属部材(鉄板材)を作製するとともに、評価用の金属樹脂接合体を作製した。
実験例11の樹脂成形体を接合する前のレーザー処理後の金属部材に対して、接合断面の評価を行った。実験例11のSEMによる断面の観察結果を図18に示す。
マーキングパターン形成後であって樹脂接合前の金属部材の表面粗さRaを測定した。測定結果を表5に示す。
また、金属樹脂接合体に対して、接合強度の評価を行った。評価結果を表5に示す。
[比較実験例1~11]
レーザー処理条件をそれぞれ比較例1~11と同様に、表2に記載の条件に変更した。それ以外は、実験例1と同様にしてマーキングパターンを形成し、金属部材(アルミ板材)を作製するとともに、評価用の金属樹脂接合体を作製した。
比較実験例1,4の金属樹脂接合体に対して、接合断面の評価を行った。比較実験例1のSEMによる断面の観察結果を図19に示す。比較実験例4のSEMによる断面の観察結果を図20に示す。
また、マーキングパターン形成後であって樹脂接合前の金属部材の表面粗さRaを測定した。測定結果を表5に示す。
また、金属樹脂接合体に対して、接合強度の評価を行った。評価結果を表5に示す。
Figure 2023059621000003
Figure 2023059621000004
Figure 2023059621000005
Figure 2023059621000006
[検討]
実験例1,4,7,9,11では、SEMによる断面観察から、凹部と凸部とからなる凹凸部を有するマーキングパターンが形成されていることが確認された。また、互いに隣接するマーキングパターンに挟まれる領域には、互いに隣接するマーキングパターンにそれぞれ含まれる凸部どうしが接触して一体化するように形成されており、レーザー光の照射前の金属基材が露出する未処理部(レーザー未照射部)が形成されていないことが確認された。また、表面の粗さが比較的大きい凹凸部を有するマーキングパターンが形成されていたことが観察された。また、金属部材のマーキングパターンにおける凹凸部に樹脂が入り込んで接合されていることが確認された。そして、実験例1~12の金属樹脂接合体では、せん断強度の値を満足しており、接合部での樹脂破壊が生じていた。これらの結果から、所定のP/Dを満たす条件でのレーザー処理を施すことで、所望の断面形状を有するマーキングパターンを形成することができることが分かる。そして、このようなマーキングパターンによって、凹凸部と樹脂とのアンカー効果が十分に発揮されるとともに、接合界面での破壊を防ぐことができ、十分な接合強度を有するものとなったと解される。
一方、比較実験例1のSEM断面観察では、レーザー未照射部(未処理部)は存在しなかったが、レーザー照射において溶融した金属が、凹凸部の形成される金属基材の表面全体を覆うように堆積して、この堆積部に空隙が生じていたことが確認された。また、表面の粗さが比較的小さいマーキングパターンが形成されていたことが観察された。そして、比較実験例1~3では、実験例1~7よりもせん断強度が低く、界面破壊が生じていた。これらの結果から、P/Dが過小となる場合には、凹凸部への樹脂の入り込みが十分でないこと、及び上述した空隙が生じることに起因して、接合界面での破壊が生じると共に、接合強度が不十分になったと解される。
また、比較実験例4のSEM断面観察では、レーザー未照射部(未処理部)(例えば、図20における符号21の領域)が形成されていたことが確認された。そして、比較実験例4~11では、実験例1~7より表面粗さRaが小さかった。また、比較実験例4~11では、実験例1~7よりもせん断強度が低く、界面破壊が生じていた。これらの結果から、P/Dが過大となる場合には、未処理部が生じ、凹凸部における嵌合効果の発現が不十分となることで、接合界面での破壊が生じると共に、気密性が不十分になったと解される。また、比較実験例4~11から、P/Dが大きくなるにしたがって、レーザー未照射部(未処理部)の領域が大きくなることで、接合強度が低下していったものと解される。
以上、実験例及び比較実験例の評価結果に基づいて、レーザー処理条件と、マーキングパターンと、接合強度との関係性について説明した。実験例1~12と同様のP/Dとなるレーザー処理条件でのレーザー処理を行った実施例1~12についても、同様の断面形状を有するマーキングパターンが形成されるとともに、十分な接合強度を有するものとなったと考えられる。
次に、実施例1~12では、気密性の評価が合格となっていた。実験例のSEMによる断面観察結果を参照して説明した通り、所定のP/Dを満たす条件でのレーザー処理を施すことで、未処理部(レーザー未照射部)が形成されていないマーキングパターンを形成することができる。これにより、金属基材の凹凸部と樹脂成形体との相互作用を接合面全体で生じさせることができ、気密性を向上させることができたと解される。これに加えて、レーザー光の照射の開始点と終止点とが一致するように1本の連続した曲線からなり、且つ交差しないマーキングパターンを、互いに隣接して並走するようにして複数形成したことで、マーキングパターンの内外での気密性を達成することができたと解される。
一方、比較例1~3では、気密性の評価が不合格となっていた。比較実験例1のSEMによる断面観察結果を参照して説明した通り、P/Dが過小となる場合には、レーザー照射において溶融した金属が金属基材の表面を覆うように堆積するとともに、この堆積部に空隙が生じる。比較例1~3では、レーザー光の照射の開始点と終止点とが一致するように1本の連続した曲線からなり、且つ交差しないマーキングパターンを形成したが、堆積部の空隙からのエアーのリークが生じたことで、気密性が不十分になったと解される。
また、比較例4~11では、気密性の評価が不合格となっていた。比較実験例4のSEMによる断面観察結果を参照して説明した通り、P/Dが過大となる場合には、レーザー未照射部(未処理部)が生じる。比較例4~11では、レーザー光の照射の開始点と終止点とが一致するように1本の連続した曲線からなり、且つ交差しないマーキングパターンを形成したが、未処理部からのエアーのリークが生じたことで、気密性が不十分になったと解される。
1…レーザー照射の開始点及び終止点、2…レーザー照射の開始点、3…レーザー照射の終止点、4…中空部、5…開口端部、6(6’)…金属部材、7…樹脂成形体、8…金属樹脂接合体、9…(開始点と終止点が一致する)マーキングパターン、10…(交差する)マーキングパターン、11…走査方向、12…ビーム径、13…照射幅、14(14’)…レーザー光の軌跡、15…せん断試験用の専用治具、16…金属樹脂金属接合体、17…水、18…O-リング、19…エアー吹込み用の管、20…専用気密性治具、21…レーザー未照射部(未処理部)

Claims (8)

  1. 金属からなる金属基材の表面へのレーザー光の照射によって、前記金属基材の表面に前記レーザー光の照射軌跡に沿って連続する凹凸部を有するマーキングパターンを形成する照射工程を備え、
    前記金属基材の表面に複数の前記マーキングパターンが形成された金属部材を製造する金属部材の製造方法であって、
    前記マーキングパターンは、前記レーザー光の照射の開始点と終止点とが一致するように1本の連続した直線又は曲線からなり、且つ交差せず、
    前記照射工程において、隣接する部位への前記レーザー光の照射によって、互いに隣接して並走する複数の前記マーキングパターンを形成し、前記レーザー光のビーム径Dが20μm~200μm、前記レーザー光の照射間隔Pが20μm~200μm、前記ビーム径Dに対する前記照射間隔Pの比(P/D)が1.1以上2以下であることを特徴とする金属部材の製造方法。
  2. 前記金属基材の表面には、前記レーザー光が照射された箇所の前記金属が前記レーザー光の照射中心部から外方に向けて拡散することで形成される凹部と、前記凹部から拡散した前記金属が前記凹部の周囲に集積することで形成される凸部とからなる前記凹凸部が形成されており、
    前記金属部材の表面において、互いに隣接する前記マーキングパターンに挟まれる領域には、互いに隣接する前記マーキングパターンにそれぞれ含まれる前記凸部どうしが接触して一体化するように形成されており、前記レーザー光の照射前の前記金属基材が露出する未処理部が形成されていないことを特徴とする請求項1に記載の金属部材の製造方法。
  3. 前記金属基材は、内部に中空部を有するとともに、前記中空部の周囲を囲む開口端部を有する中空形状を有し、
    前記照射工程では、前記マーキングパターンが前記開口端部に形成されるようにレーザー光の照射を行うことを特徴とする請求項1又は2に記載の金属部材の製造方法。
  4. 前記開口端部において、前記マーキングパターンを挟んだ両側を連通するマーキングパターンを形成しないようにレーザー光の照射を行うことを特徴とする請求項3に記載の金属部材の製造方法。
  5. 前記照射工程を経て得られた金属部材の表面の算術平均粗さRaが、24μm~200μmであるようにレーザー光の照射を行うことを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載の金属部材の製造方法。
  6. 前記金属は、アルミニウム、銅、鉄又はこれらの各金属を含む合金であることを特徴とする請求項1~5のいずれかに記載の金属部材の製造方法。
  7. 請求項1~6のいずれかに記載の製造方法によって得られた金属部材の表面に、樹脂成形体を形成する樹脂成形工程を備え、
    前記金属基材と前記樹脂成形体とが接合された金属樹脂接合体を製造する金属樹脂接合体の製造方法であって、
    前記樹脂成型工程では、前記金属部材と前記樹脂成形体とを、前記マーキングパターンの前記凹凸部に樹脂が入り込んだ状態で接合させることを特徴とする金属樹脂接合体の製造方法。
  8. 前記樹脂成型工程においては、前記金属部材上に熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂を含む樹脂組成物を用いて成形することを特徴とする請求項7に記載の金属樹脂接合体の製造方法。
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