JP2023059623A - 金属部材の製造方法及び金属樹脂接合体の製造方法 - Google Patents

金属部材の製造方法及び金属樹脂接合体の製造方法 Download PDF

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祐介 錦織
Yusuke Nishigori
正憲 遠藤
Masanori Endo
大樹 池田
Daiki Ikeda
優太 遠藤
Yuta Endo
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Abstract

【課題】十分な接合強度を有して、気密性にも優れた金属樹脂接合体を得るために、樹脂成形体を接合する接合面を備えた金属部材の製造方法を提供する。【解決手段】表面に接合対象物との接合面を備えた金属部材の製造方法であって、金属基材にレーザー光を照射するレーザー照射工程を備えて、該レーザー照射工程では、式(1)に基づき式(2)から求まるエネルギーEが0.18≦E≦0.75となるようにする。単位面積当たりの照射エネルギー=(ピークパワー)×(パルス幅)×(設定出力%)×(照射時間)×(周波数)/(照射面積) ・・・式(1)金属基材が受けるエネルギーE=(単位面積当たりの照射エネルギー)×(基材吸収率)2×√(熱拡散定数)/(レーザー照射前の金属基材の温度からレーザー照射後の金属基材の沸点までの温度上昇の差) ・・・式(2)【選択図】図1

Description

この発明は、接合対象物との接合面を備えた金属部材の製造方法、及び当該金属部材に接合対象物である樹脂成形体を接合させる金属樹脂接合体の製造方法に関する。
近年、自動車の各種センサー部品、家庭電化製品部品、産業機器部品等の分野では、放熱性や導電性が非常に高い銅又は銅合金からなる銅基材や、放熱性が高く、かつ、他金属と比較して軽量なアルミニウム又はアルミニウム合金からなるアルミ基材等の金属基材と、絶縁性能が高く、軽量でしかも安価である樹脂成形体とを一体に接合した金属樹脂接合体が幅広く用いられるようになり、その用途も拡大している。
このような異種材質である金属基材と樹脂成形体とを互いに一体的に接合した金属樹脂接合体を製造するための工業的に好適な方法として、代表的には、金属製材料を射出成形用金型内にインサートし、このインサートされた金属製材料の表面に向けて溶融した熱可塑性樹脂を射出して樹脂成形体を成形する方法がある。
その際、金属基材と樹脂成形体との接合強度をより向上させることを目的として、レーザー光を照射して金属基材を加熱したり、酸水溶液で金属基材をエッチングしたりするなどして、金属基材を粗化処理して表面凹凸を形成することが知られている。なかでも、樹脂を接合したい箇所のみが処理できる選択性の面で好都合であったり、処理後の廃液処理が問題にならないなどの理由から、金属基材にレーザー光を照射する方法についての検討がいくつかなされている。
例えば、特許文献1では、アルミダイカスト部材における高分子部材との接合面にレーザーを照射して、接合面の表層を融解させる上で、レーザーの照射密度を2J/mm以上40J/mm以下にするのがよいことを記載している。
また、特許文献2では、金属成形体と樹脂成形体とからなる複合成形体を得る上で、エネルギー密度を1MW/cm以上にすると共に、照射速度を2000mm/秒以上にして金属成形体にレーザー光を照射することで、金属成形体の表面に複雑な構造の孔が形成されることを記載する。
再公表2019/064344号公報 特開2019-63875号公報
金属基材と樹脂成形体とが互いに一体的に接合された金属樹脂接合体を得るにあたり、その接合強度を向上させるために、上述した特許文献1、2のように、金属基材に照射するレーザー光の諸条件について最適化を図ることはこれまでにも行われている。
しかしながら、従来の方法では、専らレーザー装置側での発振出力に関するものだけ着目され、レーザー光が照射される金属基材側の特性については考慮されていない。そのため、金属基材に対して所定の発振出力でレーザー光を照射しても、金属基材が受けるエネルギーが適切でない場合には、得られる金属樹脂接合体の接合強度が不十分であったり、金属基材と樹脂成形体との気密性が劣ってしまったりすることがある。
そこで、本発明者らは、上記問題を解決するために鋭意検討した結果、レーザー光の照射エネルギーを考慮しながら、金属基材が受けるエネルギーを制御できるようにすることで、接合強度や気密性に優れた金属樹脂接合体が再現性良く得られるようになることを見出し、本発明を完成させた。
したがって、本発明の目的は、十分な接合強度を有して、かつ気密性にも優れた金属樹脂接合体を再現性良く製造することができる金属樹脂接合体の製造方法を提供することにある。
また、本発明の別の目的は、このような金属樹脂接合体を得るために、接合対象となる樹脂成形体を接合するための接合面を備えた金属部材の製造方法を提供することにある。
すなわち、本発明の要旨は、次のとおりである。
〔1〕表面に接合対象物との接合面を備えた金属部材の製造方法であって、
金属製の金属基材の表面へレーザー光を照射するレーザー処理によって、前記金属基材に凹凸部を有した前記接合面を形成するレーザー照射工程を備え、
前記レーザー照射工程において、下記式(1)によって求められる単位面積当たりの照射エネルギーをもとに算出される、下記式(2)又は下記式(3)によって求められるレーザー光の照射によって前記金属基材が受けるエネルギーEが0.18≦E≦0.75である
ことを特徴とする金属部材の製造方法。
単位面積当たりの照射エネルギー=(ピークパワー)×(パルス幅)×(設定出力%)×(照射時間)×(周波数)/(照射面積) ・・・式(1)
金属基材が受けるエネルギーE=(単位面積当たりの照射エネルギー)×(基材吸収率)×√(熱拡散定数)/(レーザー照射前の金属基材の温度からレーザー照射後の金属基材の沸点までの温度上昇の差) ・・・式(2)
金属基材が受けるエネルギーE=(単位面積当たりの照射エネルギー)×(基材吸収率)×(蒸気吸収率)×√(熱拡散定数)/(レーザー照射前の金属基材の温度からレーザー照射後の金属基材の沸点までの温度上昇の差) ・・・式(3)
〔2〕前記金属基材は、アルミニウム、銅、鉄又はこれらの各金属を含む合金であることを特徴とする〔1〕に記載の金属部材の製造方法。
〔3〕前記接合面の表面粗さ(Rz)が、30μm以上、180μm以下であることを特徴とする〔1〕又は〔2〕に記載の金属部材の製造方法。
〔4〕〔1〕に記載の製造方法によって得られた金属部材の表面に、樹脂成形体を形成する樹脂成形工程を備え、
前記金属部材の接合面と前記樹脂成形体とが接合された金属樹脂接合体を製造する
ことを特徴とする金属樹脂接合体の製造方法。
〔5〕前記樹脂成形工程において、前記金属部材上に熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂を含む樹脂成形体を成形することを特徴とする金属樹脂接合体の製造方法。
本発明によれば、レーザー光の照射エネルギーを考慮しながら、金属基材が受けるエネルギーの制御が可能になることから、接合強度と気密性に優れた金属樹脂接合体を再現性良く製造することができるようになる。しかも、レーザー光の諸条件や金属基材の種類によらずに適用できることから、実用性に優れた方法であると言える。
図1は、レーザー光のビーム径と照射間隔との関係を示す模式図である。 図2は、接合強度評価(1)(せん断試験)の概要を説明するための図である。 図3は、接合強度評価(2)(せん断試験)の概要を説明するための図である。 図4は、金属樹脂接合体の気密性の評価の概要を説明するための図である。 図5は、金属樹脂金属接合体の気密性の評価の概要を説明するための図である。 図6は、接合強度評価に用いた金属樹脂接合体における金属部材について説明する模式図であり、(a)は金属部材における接合面を示すものであり、(b)は接合面におけるレーザー光の軌跡を示すものである。 図7は、気密性評価に用いた金属樹脂接合体における金属部材について説明する模式図であり、(a)は金属部材の接合面を示すものであり、(b)は接合面におけるレーザー光の軌跡を示すものである。 図8は、接合強度評価の金属樹脂接合体の概要を示すための図である。 図9は、気密性の評価の金属樹脂接合体の概要を示すための図である。 図10は、実施例25に係る、接合強度評価の金属樹脂金属接合体の概要を示すための図である。 図11は、実施例25に係る、気密性の評価の金属樹脂金属接合体の概要を示すための図である。 図12は、比較例1の金属樹脂接合体を厚さ方向に切断して断面の様子を観察した走査型電子顕微鏡写真である。 図13は、実施例1の金属樹脂接合体を厚さ方向に切断して断面の様子を観察した走査型電子顕微鏡写真である。 図14は、比較例2の金属樹脂接合体を厚さ方向に切断して断面の様子を観察した走査型電子顕微鏡写真である。 図15は、実施例1~25、比較例1~8の金属樹脂接合体について、その金属部材の接合面を形成する際の「金属基材が受けるエネルギーE」とその接合面の表面粗さRzとの関係をグラフにしたものである。
以下、本発明における金属部材の製造方法、及び、金属樹脂接合体の製造方法について詳しく説明する。本発明の以下に説明する構成要素は、一部又は全部を適宜組み合わせることができる。
[1.金属部材および金属樹脂接合体]
本発明における金属部材は、表面に接合対象物との接合面を備えており、金属製の金属基材の表面にレーザー光を照射して凹凸部を有した接合面を形成するレーザー照射工程を経て得られたものである。また、本発明における金属樹脂接合体は、上記によって得られた金属部材の接合面と樹脂成形体とが接合されたものである。
[1-1.金属部材]
<金属基材>
先ず、本発明の金属部材に使用する金属製の金属基材については、銅又は銅合金からなる銅基材や、鉄又は鉄合金からなる鉄基材や、アルミニウム又はアルミニウム合金からなるアルミ基材等、素材は制限されるものではなく、これを用いて形成される金属樹脂接合体の用途やその用途に要求される強度、耐食性、加工性等の種々の物性に基づいて決めることができる。また、所望の形状に適宜加工して得られる加工材、更にはこれらの加工材を適宜組み合わせて得られる組合せ材等が挙げられる。また、使用する用途にもよるが、通常はその厚みが0.3mm~10mm程度のものを用いる。通常、金属基材の表面には、酸化皮膜が形成されている。酸化皮膜は、大気中で自然に形成される自然酸化皮膜であってもよく、陽極酸化によって形成される陽極酸化皮膜であってもよい。また、熱間圧延によって形成される圧延酸化皮膜であってもよい。
<接合対象物>
金属基材との接合対象物としては、金属基材と接合可能な材料であれば特に限定されない。接合対象物は、金属基材の融点よりも低い温度で接合可能な材料を用いること好ましい。このような接合対象物は、好適には、樹脂材料からなる樹脂成形体である。樹脂成形体については後述する。
<接合面>
金属基材に形成する接合面については、金属基材の一面の一部だけでもよいし、一面の全部や、或いは、両面の一部又は全部などでもよく、使用する用途などに応じて、必要な部分に接合面が形成されればよい。また、接合面の形状、大きさ、配置等についても特に限定されない。組合せ材などの場合においても同様である。なお、本開示において、「接合面」とは、金属基材と樹脂との接合が予定されている領域であって、樹脂との接合のために金属基材の表面に所定の処理が施された領域を称呼するものとする。これに対して、金属基材と樹脂とが接合した領域を「接合部」と称呼して区別する。
<凹凸部>
接合面には、水酸基を含有する水酸基含有皮膜が形成されていることが好ましい。また、接合面には、水酸基含有皮膜が全面にわたって形成されていることがより好ましい。接合面は凹凸部を有するが、この凹凸部にはレーザー処理によって形成された水酸基含有皮膜が全面にわたって形成されていることが好ましい。また、この凹凸部については、巨視的には凹部と凸部が交互に連続して形成された「マクロ凹凸部」と、そのマクロ凹凸部の表面に形成された「微細凹凸部」とを有している。
水酸基含有皮膜は、金属基材を構成する金属に応じて、例えば、水酸化アルミニウム(Al(OH)3)、酸化水酸化アルミニウム(AlO(OH))、水酸化銅(Cu(OH)2)、水酸化鉄(II)(Fe(OH)2)、酸化水酸化鉄(III)(FeO(OH))、等の金属基材を構成する金属の水酸化物(金属水酸化物)、または金属基材を構成する金属の酸化水酸化物(金属酸化水酸化物)を含んでいる。また、水酸基含有皮膜は、金属基材を構成する金属に応じて、例えば、酸化アルミニウム(Al23)、酸化銅(I)(Cu2O)、酸化銅(II)(CuO)、酸化鉄(II)(FeO)、酸化鉄(II,III)(Fe34)、酸化鉄(III)(Fe23)、等の金属基材を構成する金属の酸化物(金属酸化物)を含んでいてもよい。
金属基材の表面には、レーザー照射に起因して形成される金属酸化物が照射部の周辺に堆積した堆積物が皮膜状に形成されている。このような堆積物からなる金属溶融層は、前記のとおりの金属酸化物として酸素を含有している。金属溶融層は、最表層に水酸基を有する水酸基含有皮膜を有している。本発明においては前記のとおり、接合面の全面が、マクロ凹凸部及び微細凹凸を有する水酸基含有皮膜で覆われていることが好ましい。
従来より、金属樹脂接合体の接合強度を高めるために、金属製材料をレーザー光で処理した際に所定の開口径及び深さを有するマクロ凹凸部を形成することにより、樹脂が入り込むことで機械的な相互作用を起こしやすい構造を形成することが有効であるとされている。また、該レーザー処理により生じる金属基材の溶融部が酸素を含有する酸素含有皮膜であり、この酸素含有皮膜が接合強度の発現に寄与することが知られていた。本発明者らが詳細に検討した結果、この酸素含有皮膜にはナノサイズの微細な開口部を有する構造(微細凹凸部)を持つことを新たに突き止めた。金属樹脂成形体の接合強度や気密性をより高めるためには、樹脂がこのような微細凹凸部に入り込むことや、酸素含有皮膜の官能基と樹脂中の官能基との化学的な結合による作用を有効に発揮させることが効果的であるとの考えに至った。さらには、このような酸素含有皮膜が接合面の全面に亘って形成されることで樹脂と酸素含有皮膜との作用を十分なものとできること、及びマクロ凹凸部の形状について、特に、凹部の開口径に対して深さを適正なものとすることで、比較的樹脂が入り込みやすい構造になるとともに、入り込む樹脂が浅くなりすぎない(樹脂と酸素含有皮膜との作用が比較的弱まらない)ようにすることが、さらに有効であるとの考えに至り、このような視点で金属基材の表面に接合面を構成することにより、樹脂成形体と接合した場合には、実際に高い接合強度が得られ、また十分な気密性を担保できる金属樹脂成形体が得られることを突き止めた。
また、マクロ凹凸部及び微細凹凸を有する水酸基含有皮膜を備えることによって、金属部材の表面に存在する水酸基と樹脂成形体の表面に存在する官能基との間で水素結合による化学的接合が発揮される。また、水酸基含有皮膜が、μmオーダーであって所定の開口径(D)、深さ(L)、及びアスペクト比(L/D)を満たすマクロ凹凸部を有することにより、マクロ凹凸部と樹脂成形体との間で機械的接合(アンカー効果)が発揮される。ここで、水酸基含有皮膜は、所定の形状のマクロ凹凸部を有することにより、マクロ凹凸部の凹部の深部にまで樹脂を入り込ませることができる。また、水酸基含有皮膜は、μmオーダーのサイズのマクロ凹凸部を有するとともに、マクロ凹凸部の表面にnmオーダーのサイズの微細凹凸部を有している。これにより、接合面の表面に提示される水酸基含有皮膜の表面積が増大し、樹脂成形体と相互作用する水酸基の量を増大させることができる。さらに、本発明の金属部材および金属樹脂接合体では、接合面の全体にわたって水酸基含有皮膜が形成されていることによって、水酸基含有皮膜が存在しない部位に起因して生じる、接合強度や気密性の低下を抑えるができる。このように、本発明によれば、機械的接合と化学的接合による作用を接合面の全面にわたって発揮させるとともに、マクロ凹凸部と微細凹凸部に樹脂が入り込んだ状態で金属部材と樹脂成形体との接合を行うことが可能となることで、機械的接合と化学的接合に寄与する接合面の面積を増大させている。よって、本発明の金属部材および金属樹脂接合体によれば、金属部材と樹脂成形体との機械的接合と化学的接合による作用が強まり、接合強度と気密性を向上させることが可能となっている。
なお、本明細書において、「接合面の全面」とは、必ずしも接合面の表面積の100%のみに限定されるわけでなく、未照射部によって水酸基含有皮膜に覆われていない面がごく微小のスポット的に存在している場合を排除するものではない。接合面は、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上が水酸基含有皮膜に覆われていることがよい。
<マクロ凹凸部>
マクロ凹凸部は、μmオーダーサイズの凹凸形状を有する構造体であって、水酸基含有皮膜の表面に形成されている。マクロ凹凸部は、レーザー光の照射を受けて金属基材が穿孔されることで生じる凹部と、レーザー光の照射によって生じた金属酸化物の堆積物からなる凸部とからなる構造を有している。そして、複数回のレーザー光の照射が互いに隣接して行われることで、凹部と凸部とからなる繰り返し構造を有している。マクロ凹凸部は、金属部材の表面または断面を、例えば、走査電子顕微鏡(Scanning Electron Microscopy:SEM)を用いて観察することで確認することができる。
<微細凹凸部>
微細凹凸部は、nmオーダーサイズの凹凸形状を有する構造体であって、水酸基含有皮膜の表面のマクロ凹凸部上に形成されている。微細凹凸部は、レーザー照射によって水酸基含有皮膜を有する金属溶融層が形成された際に、水酸基含有皮膜の表面に形成される。微細凹凸部は、金属部材の表面または断面を、例えば、走査電子顕微鏡を用いて観察することで確認することができる。
[1-2.樹脂成形体]
次いで、所定の接合面を有する金属部材に対して、接合対象物として好適に用いられる樹脂成形体について説明する。樹脂成形体は樹脂組成物を金属部材表面に成形させることにより形成することができる。樹脂成形体は、熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂を含んでいる。
熱可塑性樹脂としては、用途に応じて適宜公知のものから選択することができるが、例えば、ポリアミド系樹脂(PA6、PA66等の脂肪族ポリアミド、芳香族ポリアミド)、ポリスチレン、ABS樹脂、AS樹脂等のスチレン単位を含む共重合体、ポリエチレン、エチレン単位を含む共重合体、ポリプロピレン、プロピレン単位を含む共重合体、その他のポリオレフィン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリカーボネート系樹脂、アクリル系樹脂、メタクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアセタール系樹脂、ポリフェニレンスルフィド系樹脂を挙げることができ、これらを1種又は2種以上で使用することができる。この中でも、樹脂成形時の流動性が高く凹部に入り込みやすいなどの理由から、ポリアミド系樹脂、ポリフェニレンスルフィド系樹脂を用いることが好ましい。
熱硬化性樹脂としては、用途に応じて適宜公知のものから選択することができるが、例えば、尿素樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂、レソルシノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン、ビニルウレタンを挙げることができ、これらを1種又は2種以上で使用することができる。この中でも、反応硬化型接着剤は水酸基含有皮膜との相性がよく、反応面積が大きくなるに伴い高い接合強度が得られるなどの理由から、エポキシ樹脂系、アクリル樹脂系、ウレタン樹脂系を用いることが好ましい。
また、樹脂成形体として、例えば、接着剤を用いることもできる。接着剤としては、上述した熱可塑性樹脂もしくは熱硬化性樹脂、またはその他のエラストマーまたはゴムを含み、接着性を示す化合物を用いることができる。接着剤としては、用途に応じて適宜公知のものから選択することができるが、例えば、乾燥固化型背着剤として、アクリル樹脂系エマルジョン形、ゴム系ラテックス形、酢酸ビニル樹脂系溶剤形、ビニル共重合樹脂系溶剤形、ゴム系溶剤形などが挙げられ、また、反応硬化型接着剤として、エポキシ樹脂系、ウレタン樹脂系、変性シリコーン樹脂系ものなどを挙げることができ、これらを1種又は2種以上で使用することができる。この中でも、反応硬化型接着剤は水酸基含有皮膜との相性がよく、反応面積が大きくなるに伴い高い接合強度が得られるなどの理由から、エポキシ樹脂系、アクリル樹脂系、ウレタン樹脂系を用いることが好ましい。
さらに、熱可塑性エラストマーを用いることができ、例えば、スチレン系エラストマー、塩化ビニル系エラストマー、オレフィン系エラストマー、ウレタン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ニトリル系エラストマー、ポリアミド系エラストマーを挙げることができ、これらを1種又は2種以上で使用することができる。
また、上記のそれぞれの樹脂(樹脂組成物)においては、金属部材との間の密着性、機械的強度、耐熱性、寸法安定性(耐変形、反り等)、電気的性質等の性能をより改善するために、繊維状、粉粒状、板状等の充填剤や、各種のエラストマー成分を添加することができる。
更に、樹脂(樹脂組成物)には、一般的に添加されてもよい公知の添加剤、すなわち難燃剤、染料や顔料等の着色剤、酸化防止剤や紫外線吸収剤等の安定剤、可塑剤、潤滑剤、滑剤、離型剤、結晶化促進剤、結晶核剤等を、要求される性能や本発明の目的を阻害しない範囲において、適宜添加することができる。
[1-3.金属樹脂接合体]
金属樹脂接合体は、樹脂が金属部材表面の接合面(マクロ凹凸部、微細凹凸部)に入り込んだ状態で成形され、接合面を介して金属部材と樹脂成形体とが一体的に接合されている。金属部材及び樹脂成形体をそれぞれ1つずつ用いて接合させてもよいし、或いは、それらのいずれか又は両方を複数用いて接合させてもよく、さらには、それらの複数のセットを任意に積層させたような態様であってもよく、用途に応じて適宜決定することができる。
例えば、金属樹脂接合体は、金属部材と樹脂成形体とが、積層または連続して配置された状態で接合している金属-樹脂接合体であってもよい。または、金属樹脂接合体は、金属部材と樹脂成形体と金属部材とが、この順で積層または連続して配置された状態で接合している金属-樹脂-金属接合体であってもよい。または、金属樹脂接合体は、樹脂成形体と金属部材と樹脂成形体とが、この順で積層または連続して配置された状態で接合している樹脂-金属-樹脂接合体であってもよい。
金属樹脂接合体が、樹脂成形体を介して2以上の金属部材を接合する金属-樹脂-金属接合体である場合には、金属部材に挟まれた状態で熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂を成形した樹脂成形体を備えるものであってもよい。または、熱可塑性樹脂もしくは熱硬化性樹脂等を含む接着剤を樹脂成形体として用いて、金属部材が接着剤を介して接合されたものであってもよい。
[2.金属部材および金属樹脂接合体の製造方法]
本発明の金属部材の製造方法は、表面に接合対象物との接合面を備えた金属部材の製造方法であって、金属製の金属基材の表面へレーザー光を照射するレーザー処理によって、前記金属基材にマクロ凹凸部を有した接合面を形成するレーザー照射工程を備えている。また、本発明の金属樹脂接合体の製造方法は、上記で得られた金属部材の表面に樹脂成形体を接合させる樹脂成形工程を備えている。
[2-1.金属部材の製造方法]
<準備工程>
本発明の金属部材の製造方法では、レーザー照射工程に先駆けて、金属基材の表面の前処理として、脱脂処理、エッチング処理、デスマット処理、化学研磨処理、及び電解研磨処理等の前処理を施す準備工程を備えていてもよい。
<レーザー照射工程>
本発明は、金属製の金属基材の表面にレーザー光を照射する処理(以下、単に「レーザー処理」などという。)を施す。レーザー処理によって、接合対象物との接合面を形成させて、本発明に係る金属部材を得る。ここで、レーザーとしては、公知のレーザーを使用することができるが、本発明のようにスポット的に金属基材を加工することに好都合であることから、パルス発振レーザーを用いることが好ましく、例えば、YAGレーザー、YVO4レーザー、半導体レーザー、ファイバーレーザーを用いることがよい。
このレーザー処理によって金属基材にマクロ凹凸部を有した接合面を形成する原理は概ね次のとおりである。すなわち、レーザー照射によるエネルギーによって金属基材が溶融・蒸発するが、蒸発によって穿孔されることでその空間が凹部の基となり、その凹部の両側(両隣)のレーザーが照射されない部分が凸部の基となる。それと同時に、溶融した金属部分は一部又は全部が酸化されて金属酸化物となり、これが凹部となる照射部の周辺に堆積することにより、凸部が形成される。金属酸化物からなる堆積物は、凹部と凸部を覆って皮膜状に形成される。このように、金属基材の表面に形成された金属酸化物からなる堆積物によって、マクロ凹凸部の凹凸形状を形作る金属溶融層が形成される。さらに、金属酸化物は少なくとも多少の部分的イオン性を持っており、金属酸化物の新性表面には金属イオン(Al3+)と酸化物イオン(O2-)が存在している。静電的中和性から、空気中の水分と反応することで、金属溶融層の表面に存在する金属酸化物の水酸基化が起こり、金属溶融層の表面が水酸基で覆われることになる。このようにして金属基材にマクロ凹凸部が形成されると共に、その金属溶融層の最表層には水酸基を含有する水酸基含有皮膜が形成される。なお、この水酸基含有皮膜に着目すれば、巨視的に凹部と凸部が交互に連続して形成されたマクロ凹凸部と、そのマクロ凹凸部の表面に形成された微細凹凸部とを有している。
なお、金属部材にレーザー照射を受けないレーザー未照射部が存在している場合には、レーザー未照射部には金属溶融層が存在しておらず、上記のような水酸基含有皮膜も存在してない。通常、レーザー未照射部には、酸化皮膜が形成されている。レーザー未照射部は、水酸基含有皮膜を有さないため、樹脂成形体と接合する際における水酸基に起因する化学的接合による気密性の向上が生じない。また、レーザー未照射部が平坦な場合には、マクロ凹凸部に起因する機械的接合による接合強度の向上が見られない。したがって、接合面にレーザー未照射部が広く残存して、接合面の全体に水酸基含有皮膜が形成されていないような場合には、金属樹脂接合体の気密性および接合強度は低下する。
<レーザー照射工程で金属基材が受けるエネルギーE>
本発明では、下記式(1)で求められる単位面積当たりのレーザー光の照射エネルギーをもとに、下記式(2)又は(3)で求められる金属基材が受けるエネルギーEが0.18≦E≦0.75の範囲になるようにする。
単位面積当たりの照射エネルギー(J/m2)=(ピークパワー(W))×(パルス幅(s))×(設定出力(%))×(照射時間(s))×(周波数(Hz))/(照射面積(m2)) ・・・式(1)
金属基材が受けるエネルギーE(J/(m・K・√s))=(単位面積当たりの照射エネルギー(J/m2))×(基材吸収率(%))×√(熱拡散定数(m2/s))/(レーザー照射前の金属基材の温度からレーザー照射後の金属基材の沸点までの温度上昇の差(K)) ・・・式(2)
金属基材が受けるエネルギーE(J/(m・K・√s))=(単位面積当たりの照射エネルギー(J/m2))×(基材吸収率(%))×(蒸気吸収率(%))×√(熱拡散定数(m2/s))/(レーザー照射前の金属基材の温度からレーザー照射後の金属基材の沸点までの温度上昇の差(K)) ・・・式(3)
上述したように、金属基材にレーザーを照射すると、レーザーが照射された金属基材は、与えられたエネルギーにより温度上昇し、溶融、蒸発して爆発するように弾けて、金属基材の一部が飛び散ることで孔が形成される。その際、蒸発しきれなかった金属基材の一部は爆発により弾け飛んだ後、孔の周囲に堆積する。このとき、レーザーにより与えられたエネルギーは金属基材に吸収され、基材の温度上昇に使用される。その後、蒸発した金属基材にもエネルギーは吸収され、金属基材に与えられるエネルギーは低下する。また、そのとき金属基材は温度上昇するが、熱拡散によりエネルギーは拡散する。
これらの考えにより、本発明に係る式(1)~(3)を算出した。すなわち、先ず、レーザー光の照射による金属基材の影響を把握するためには、レーザー照射に伴う金属基材の溶融や蒸発現象を明らかにする必要があるところ、これらの現象は微小領域で生じ、尚且つそれが短時間に起こるため直接観察するのが難しい。そのため、例えば、分子動力学シミュレーション等による解析が進められており、参考文献1(大村悦二ほか、レーザーアブレーション現象の分子動力学シミュレーション、レーザー研究 26,800(1998))には、高エネルギー密度の短パルスレーザー光を照射して材料表面が瞬間的に溶融し、蒸発するレーザーアブレーションのシミュレーションが記載されている。
この参考文献1のなかで、アルミニウムに対してパワー密度10GW/cm、ビーム幅約28nmのガウシャンビームを3ps照射したときのAlの蒸発過程が図示されており、はじめ熱膨張によって表面が盛り上がり、液相中に小さなボイドが多数発生し、それらが結合して次第に大きくなるとボイドが爆発するようにはじけて、原子が比較的大きな固まりとなって散乱し、また、蒸発しきれなかった溶融金属は、表面張力により球状になって孔(穴)の周囲に堆積して、その結果、孔の周囲に盛り上がりが形成されると説明されている(Fig 5、804頁左欄の1段落目参照)。
一方、同じアルミニウムであってもパワー密度1GW/cmのガウシャンビームを30ps照射した場合には(ビーム幅は同じ)、蒸発原子は小さなクラスターを作りながらバラバラに飛散する。このときは先の場合のような爆発的な蒸発は見られずに、溶融金属は孔からあふれるように流出して周囲に堆積するとして、孔の深さも先の場合に比べて浅くなる(Fig 6、804頁左欄の2段落目参照)。
そのため、本発明では、レーザー光の照射によって金属基材が受けるエネルギーEとして、上記式(2)又は(3)で定義したものを使用する。つまり、レーザー光の照射によるエネルギーは熱拡散して金属基材に吸収され、金属基材の温度が上昇して蒸発が生じ、また、その金属基材では、金属蒸気によるエネルギーの吸収と溶融部の形成が起こり、結果として表面凹凸が形成されると考えられる。そのため、式(2)、(3)はこれらを考慮したものである。
上記式(2)又は(3)について、式中の『単位面積当たりの照射エネルギー(J/m2)』は、上記式(1)で求められる。『単位面積当たりの照射エネルギー(J/m2)』は、所定のピークパワー、所定のパルス幅、及び所定の周波数を有するパルスを含むパルスレーザーからなるレーザー光を、所定の設定出力、及び所定の照射時間での照射を行った場合に、レーザー光が照射される対象物(ワーク)において、レーザー光が照射されるレーザー被照射部が単位面積当たりに受けるレーザー光の照射エネルギーを表す。また、『基材吸収率』は、レーザー光源に対する金属基材(固体)の吸収率を示すが、レーザー光源の波長に対してその吸収率は変化することから、実際に金属樹脂接合体の製造に用いる金属基材の反射率(%)を100(%)から引いて求めるようにする(100-反射率)。その際、金属基材の反射率はJIS K 0115:2020の測定規則に準拠して、使用するレーザー光の波長の相対反射率を紫外線可視分光光度計により測定する。また、『熱拡散定数』は、金属基材内の熱の広がりやすさを示し、それが高いと形成されるマクロ凹凸部の凹凸構造が浅くなると考えられる。ここでは、金属基材の「熱伝導率/(比重×比熱)」により算出し、その際の熱伝導率、比重、及び比熱は、金属基材ごとの物性値である。更に、『レーザー照射前の金属基材の温度からレーザー照射後の金属基材の沸点までの温度上昇差』は、その金属基材の沸点T(物性値)からレーザー光を照射する前の実際の金属基材の温度Tを引いた温度差(T2-T1)である。
なお、上記式(2)及び(3)で『熱拡散定数』のルート(1/2乗)を採用しているのは、参考文献2(菊地竜也ほか、Alのアノード酸化とレーザー照射を利用した金属微細構造の作製-新LIGAプロセスを目指して-、表面化学,vol.50,No.8(1999)697-704)において、金属基材がレーザーアブレーションを引き起こすために必要な最小エネルギーEabは下記の式で表されることが知られていることから(参考文献2の698頁右欄31~39行参照)、これに基づいている。
ab=2H1ρk1/2τ-1/2
(式中、H1、ρ、kはそれぞれ金属の蒸発潜熱、密度、熱拡散定数を表し、τはパルス幅を表す。)
また、式(3)における『蒸気吸収率』は、前述の『基材吸収率』と同様の考え方に基づき、金属基材(蒸気)の吸収率を求めることもできるが、実際に、金属蒸気を測定するのは難しいことから、金属基材(固体)のエネルギー吸収率である『基材吸収率』と同じであるとみなして、式(2)で示したように『基材吸収率』の2乗として取り扱ってもよい。
また、本発明では、レーザー装置側の発振出力としては上記の式(1)を使用する。ここで、式(1)における『ピークパワー』は、パルスレーザーに含まれる一つのパルス分のエネルギーを表すパルスエネルギーをパルス幅で割ったものであり、この値が高いほどレーザー光の照射によって形成される金属基材の表面凹凸は、深い凹凸構造になると考えられる。また、『パルス幅』は、パルスレーザーから発振された1パルスあたりの時間幅であり、上記のピークパワーに影響を及ぼす。『設定出力』は、レーザーの発振出力を表わすことから、やはり、これが高いほど表面凹凸は深い凹凸構造となる。また、『周波数』は、1秒間あたりのレーザー照射数を表す。これらのうち、通常、ピークパワー、及び周波数は、レーザー装置に固有の値である。これに対して、パルス幅、設定出力は、通常、レーザー光の照射に際して、数値を変更して設定することができるようになっている。もちろん、ピークパワー、及び周波数について、数値を変更して設定することのできるレーザー装置を用いてもよい。
『照射時間』及び『照射面積』は金属基材にレーザー光を照射する際の照射条件である。このうち、『照射時間』は、金属基材にレーザー光を照射する際に、金属基材の表面にレーザー光を照射している時間と、レーザー光を照射していない時間との積算値(合計値)である。レーザー光を照射している時間とは、金属基材にパルスレーザーを照射している時間をいう。ここで、一例として、図6に示すように、黒色に図示された直線状の部分にレーザー光を照射してから、白色に図示された直線状の部分の間隔を空けて、縞模様を描くようにしてレーザー光を照射する場合を考える。この場合、まず、一方向に向けて始点から終点に向けてレーザー光を照射しながら走査する。次に、レーザー光を照射しないで逆方向に折り返すようにして、所定の間隔を空けた次の始点まで移動する。そして、再度一方向に向けて始点から終点に向けてレーザー光を照射しながら走査する。以後、この動作を繰り返す。このように、レーザー光を照射する際には、対象物(ワーク)において、レーザー光の出力をONにして照射する区間と、レーザー照射を行わず(OFFにして)移動するだけの区間と、これらの区間の切り替わり位置でのレーザー光の出力を行わない区間とが存在する。レーザー光を照射していない時間とは、このようなレーザー照射を行わっていない区間に要する時間をいう。また、『照射面積』は、樹脂成形体を接合させるための接合面の面積と同義である。
本発明では、上記の式(2)又は式(3)で求められる金属基材が受けるエネルギーE(J/(m・K・√s))が、通常0.18以上、好ましくは0.2以上、より好ましくは0.3以上、さらに好ましくは0.4以上であり、通常0.75以下、好ましくは0.7以下、より好ましくは0.6以下、さらに好ましくは0.5以下である。このような範囲となるようにして、金属基材の表面にレーザー光を照射して表面凹凸を形成し、接合対象物である樹脂成形体を接合するための接合面を備えた金属部材を得る。このエネルギーE(J/(m・K・√s))が上記下限値以上であると、金属基材がレーザーからのエネルギーを受けることで、十分な深さの孔を有したマクロ凹凸部が形成され、アンカー効果が十分に働き、樹脂成形体の接合が良好となりやすくなる。反対に、エネルギーE(J/(m・K・√s))が上記上限値以下になると、エネルギーが適度に抑えられ、孔の開口径に比べて孔の深さが相対的に深くなり過ぎることを防ぎ、空隙が残らないように樹脂が孔の深部まで到達して、気密性が十分に担保されやすくなる。
<レーザー処理条件>
本発明では、上述したように、式(1)で求められる単位面積当たりのレーザー光の照射エネルギーをもとに、式(2)又は(3)で求められる金属基材が受けるエネルギーEが所定の範囲になるようにして金属基材のレーザー処理を行うが、これを踏まえた上で、レーザー処理における個別の処理条件については以下のように設定するのが好ましい。
なお、レーザー処理は、エネルギー密度の影響も受ける。エネルギー密度は、レーザー光が照射されるレーザー処理の対象となる対象物(ワーク)において、レーザー光が照射されるレーザー被照射部が、単位面積と単位時間当たりに受けるレーザー出力を表す。エネルギー密度(J/mm2)は、レーザー光の出力W(W)、レーザー光の走査回数N(回)、レーザー光の照射間隔C(mm)、レーザー光の走査速度V(mm/s)、レーザー被照射部におけるレーザー光の照射方向と直行する長さLength、レーザー被照射部におけるレーザー光の照射方向と平行な幅Width、から、下記式(A1)によって表すこともできる。
エネルギー密度=(((Length/C)×Width×N)/V)×W)/(Length×Width) ・・・式(A1)
また、この式(A1)を変形すると以下の式(A2)が得られて、エネルギー密度は、式(A2)によって算出することができる。
エネルギー密度=(W×N)/(C×V) ・・・式(A2)
エネルギー密度は、好ましくは0.5J/mm2以上である。エネルギー密度が増加すると、レーザー処理を受けた金属部材の接合面には、水酸基を有する微細凹凸部が形成されやすくなる。また、所定の水酸基存在率を有する水酸基含有皮膜が形成されやすくなる。さらに、エネルギー密度が増加すると、金属基材の表面に形成されるマクロ凹凸部の凹部が深く形成されて、レーザー処理後の金属部材の表面粗さが大きくなる傾向にある。なお、金属基材を構成する金属の融点が高く、熱拡散が大きいほど、金属基材がレーザー光による作用を受けにくくなる傾向にある。上述した事情を考慮して、エネルギー密度は、レーザー処理の対象となる金属にあわせて変更することが望ましい。
アルミニウムを主金属とする金属基材に対してレーザー処理を行う場合には、エネルギー密度は、好ましくは0.5J/mm2以上、より好ましくは1J/mm2以上、さらに好ましくは1.5J/mm2以上である。また、アルミニウムを主金属とする金属基材に対してレーザー処理を行う場合には、エネルギー密度は、好ましくは5J/mm2以下、より好ましくは4J/mm2以下、さらに好ましくは3J/mm2以下である。
鉄を主金属とする金属基材に対してレーザー処理を行う場合には、エネルギー密度は、好ましくは1J/mm2以上、より好ましくは2J/mm2以上、さらに好ましくは3J/mm2以上である。また、鉄を主金属とする金属基材に対してレーザー処理を行う場合には、エネルギー密度は、好ましくは10J/mm2以下、より好ましくは8J/mm2以下、さらに好ましくは6J/mm2以下である。
銅を主金属とする金属基材に対してレーザー処理を行う場合には、エネルギー密度は、好ましくは2J/mm2以上、より好ましくは4J/mm2以上、さらに好ましくは6J/mm2以上である。また、銅を主金属とする金属基材に対してレーザー処理を行う場合には、エネルギー密度は、エネルギー密度は、好ましくは20J/mm2以下、より好ましくは15J/mm2以下、さらに好ましくは10J/mm2以下である。
エネルギー密度が上記下限値以上であることにより、レーザー処理を受けた金属部材の表面に、水酸基を有する微細凹凸部が形成されやすくなる。また、所定の水酸基存在率を有する水酸基含有皮膜が形成されやすくなる。したがって、水酸基を有する微細凹凸部及び水酸基含有皮膜によって、金属樹脂接合体の気密性及び接合強度が向上しやすくなる。また、エネルギー密度が上記下限値以上であることにより、金属基材の表面に形成されるマクロ凹凸部の凹部の深さ(L)が大きくなり、アスペクト比(L/D)が大きくなる傾向にある。したがって、マクロ凹凸部に樹脂成形体が入り込むことで、マクロ凹凸部と樹脂成形体との機械的接合(アンカー効果)が発揮されることにより、接合強度が向上しやすくなる。エネルギー密度が上記上限値以下であることにより、金属基材の表面に形成されるマクロ凹凸部の凹部深さ(L)が過度に大きくなり、アスペクト比(L/D)が過度に大きくなることを防ぎやすくなる。したがって、マクロ凹凸部の凹部の深部にまで樹脂成形体が入り込むことができ、マクロ凹凸部の全体で金属部材の水酸基と樹脂成形体との官能基との化学的接合が発揮されることにより、気密性が向上しやすくなる。また、マクロ凹凸部の凸部の構造が細長く尖った形状となることを防いで、凸部が折れるなどによる機械的強度の低下を抑えることができる。また、金属樹脂接合体が破断する際に金属部材での破壊が生じることを防ぐことができる。
レーザー処理におけるレーザー条件(レーザー処理条件)は、上述したエネルギー密度を達成するように適宜設定すればよい。レーザー処理条件のパラメータとしては、レーザー光の出力(W)、レーザー光の周波数(kHz)、レーザー光のビーム径(μm)、レーザー光の照射間隔(μm)、レーザー光の走査速度(mm/s)、レーザー光の走査回数(回)が挙げられる。なお、走査回数とは、同一の照射軌跡に沿ってレーザー光を繰り返し照射する回数をいう。ここで、レーザー光のビーム径と照射間隔との関係について、図1を参照して説明する。レーザー光の照射間隔とは、対象物に照射される一のレーザー光の軌跡6と、当該レーザーと隣接して照射される他のレーザー光の軌跡6’との間の間隔をいう。より具体的には、レーザー光の照射間隔は、当該一のレーザー光の軌跡6における走査方向3と直行する方向のいずれか一方側の端部と、当該他のレーザー光の軌跡6’における当該一のレーザー光と同じ側の端部との間の距離をいう。パルスレーザ―を照射した場合には、レーザー光の軌跡は、個々のレーザーパルスによって形成される細孔が連続した軌跡として表される。この場合、レーザー光の照射間隔5は、連続する細孔によって形成されるレーザー光の軌跡に挟まれた領域の幅と、ビーム径4の大きさとを足し合わせた長さに相当する。
レーザー処理の対象となる金属基材の主金属がアルミニウム、鉄、銅である場合について、レーザー処理条件の例を表1に示す。
Figure 2023059623000002
本発明により得られる金属部材の接合面は、表面粗さRzが、好ましくは30μm以上、より好ましくは40μm以上、さらに好ましくは60μm以上、特に好ましくは80μm以上であり、好ましくは180μm以下、より好ましくは160μm以下、さらに好ましくは140μm以下である。この表面粗さRzが上記下限値以上であれば、得られる金属樹脂接合体の接合強度が向上して、界面破壊を防いで樹脂破壊が生じやすくなる。また、表面粗さRzが上記上限値以下であれば、得られる金属樹脂接合体の気密性が向上しやすくなる。なお、この表面粗さRzはJIS B 0601-2001に準拠する最大高さを表す。表面粗さRzは実施例で説明する方法で測定することができる。
[2-2.金属樹脂接合体の製造方法]
金属樹脂接合体は、樹脂組成物を原料として、金属部材表面に樹脂成形体を成形させることによって製造する。
ここで、樹脂組成物の成形(樹脂成形体の形成)方法としては、使用される樹脂に合わせて適宜好ましい成形方法を採用することができる。例えば、熱可塑性樹脂を用いる場合には、金属部材上に熱可塑性樹脂を含む組成物を射出成形することにより樹脂成形体を一体的に接合させて金属樹脂接合体として得ることや、或いは、射出成形で予め樹脂成形体として得たうえで、得られた樹脂成形体を金属部材表面にレーザー溶着、振動溶着、超音波溶着、ホッとプレス溶着、熱板溶着、非接触熱板溶着又は高周波用着などの手段を用いた熱圧着により一体的に接合させる方法などを挙げることができるが、これらに限定されない。
また、例えば、熱硬化性樹脂を用いる場合には、金属部材上に熱硬化性樹脂を含む組成物の射出成形することにより樹脂成形体を一体的に接合させて金属樹脂接合体として得ることや、或いは、所定の粘度に調整した組成物を金属部材上に塗布するなどしてから一体的に加熱・加圧する圧縮成形する方法などを挙げることができるが、これらに限定されない。
また、接着剤を用いる場合には、金属部材上に塗布し、乾燥させて硬化させることができるが、必要により加温などの操作を行っても構わず、使用する接着剤に合った成形条件を採用することができる。
[3.作用効果]
本発明における金属部材の製造方法では、金属基材の表面にレーザー光を照射するレーザー処理によって、凹凸部を有した接合面を形成する。そのため、得られた金属部材と樹脂成形体の接合強度と気密性を向上させることが可能となる。しかも、本発明によれば、レーザー光の照射エネルギーを考慮しながら、金属基材が受けるエネルギーの制御が可能になることから、接合強度と気密性に優れた金属樹脂接合体を再現性良く製造することができる。また、本発明は、レーザー光の諸条件や金属基材の種類によらずに適用することができ、実用性に優れた方法である。言い換えれば、本発明は、レーザー光照射装置の性能や金属基材の種類に応じてレーザー処理条件を設定することで、金属基材が受けるエネルギーEを適切に設定してレーザー光を照射することができる。
以下、実施例、比較例及び試験例に基づいて、本発明の好適な実施の形態を具体的に説明するが、本発明がこれにより限定されて解釈されるものでもない。
<接合強度の評価(1)(せん断試験)>
金属樹脂接合体の接合強度の評価を、ISO19095に準じたせん断強度の測定によって行った。具体的には図2に示すように、金属部材8と樹脂成形体7とを接合した金属樹脂接合体9を専用治具10に固定し、10mm/minの速度で、接合面に対して平行な方向にせん断力が加わるように荷重を印加し、金属部材 と樹脂成形体との間の接合部を破壊する試験を実施した。金属樹脂接合体が破断したときの破断力を引張せん断強度(MPa)として求めた。
さらに、せん断試験を行った後の金属部材側の破断面を目視で観察し、破断形態を確認した。樹脂成形体で母材破壊が生じた場合を樹脂破壊(良)と判断した。金属部材と樹脂成形体との界面破壊が生じた場合は界面破壊(不良)と判断した。金属部材で母材破壊が生じた場合は金属破壊(不良)と判断した。樹脂成形体の射出成形を行った後に、金型から離型した際に、金属部材と樹脂接合体との間に破断が見られたものは、せん断強度を0MPaとした。
<接合強度の評価(2)(せん断試験)>
金属樹脂金属接合体の接合強度の評価を、JIS K 6850を参考にしたせん断強度の測定によって行った。具体的には図3に示すように、2枚の金属部材8及び8’を、後述の熱硬化性接着剤を用いて貼り合わせた金属樹脂金属接合体11を専用治具10に固定し、5mm/minの速度で、接合面に対して平行な方向にせん断力が加わるように荷重を印加し、接着剤を介した金属部材どうしの接合体の接合部を破壊する試験を実施した。金属樹脂金属接合体が破断したときの破断力を引張せん断強度(MPa)として求めた。
さらに、せん断強度の評価後の破断面を目視で観察し、破断形態を確認した。接着剤で凝集破壊が生じ、接合部全体に接着剤が残っていた場合は「樹脂破壊」(良)と判断した。金属部材と接着剤との界面破壊が生じた場合は「界面破壊」(不良)と判断した。
<気密性の評価>
金属樹脂接合体、又は金属樹脂金属接合体の気密性の評価を、エアーリーク試験によって行った。具体的には図4に示すように、金属部材8と樹脂成形体7とを接合した金属樹脂接合体9を専用気密性冶具15にクランプして固定した状態で、エアーを最大で正圧0.5MPaまで印加し、1分間保持した。その後,エアー漏れの有無を目視で確認した。または、図5に示すように、2枚の金属部材8及び8’を、後述の熱硬化性接着剤を用いて貼り合わせた金属樹脂金属接合体11を専用気密性冶具15にクランプして固定した状態で、エアーを最大で正圧0.5MPaまで印加し、1分間保持した。その後、エアー漏れの有無を目視で確認した。上述した専用気密性治具15では、金属樹脂接合体9、又は金属樹脂金属接合体11を、O-リング13を介装した状態で上下から固定治具で挟みこんで固定している。金属樹脂接合体9、又は金属樹脂金属接合体11を挟んで、専用気密性治具15の上側の開放部には水12が存在しており、専用気密性治具15の下側の密閉部には空気が存在している。通気管14を通じて密閉部にエアーを印加することで、接合界面から気泡が発生するかどうかを機序として、金属樹脂接合体9、又は金属樹脂金属接合体11を通じて、開放部側にエアーが漏れるかどうかを確認することができる。評価時間内においてエアーリークがない場合を「合格(良)」、エアーリークが観察された場合を「不合格(不良)」として評価した。
<接合面の表面粗さの評価>
接合面の表面粗さとして、キーエンス社製ワンショット3D形状測定機VR-3200を用いて、最大高さRzを測定した。測定は、3600×2800μmの測定範囲において、倍率80倍、カットオフλsなし、カットオフλcなしとして、基準長数1の条件で41箇所の平均値を測定値とした。レーザー光の縞模様状の軌跡と、測定器の投光レンズから照射される縞状の光とが、直角に交差する位置関係となるようにして測定を行った。
〔実施例1〕
JIS H0001に示された調質記号H34で処理したA5052アルミニウム合金(A5052-H34)から厚さ1.5mm×幅18mm×長さ45mmのアルミ板材と、厚さ2mm×外径Φ55mm×内径Φ20mmのドーナツ状のアルミ円形材とを切り出して、前者のアルミ板材は接合強度の評価(1)に使用するための金属基材とし、後者のドーナツ状アルミ円形材は気密性の評価に使用するための金属基材とした。
表2には、このA5052アルミニウム合金材の物性値が示されている。このうち、『比重』、『熱伝導』、『比熱』、及び『沸点』は文献値であり、『熱拡散定数』は「熱伝導率/(比重×比熱)」より算出したものである。また、吸収率は、その金属基材の反射率(%)を100(%)から引いて求めたものである。その際、金属基材の反射率はJIS K 0115:2020に準拠し、使用するレーザー光の波長の相対反射率を紫外線可視分光光度計により測定した。吸収率Aは、本実施例1を含めて実施例1~23、25、及び比較例1~8で使用したレーザー光照射装置Aを用いた場合の値である。なお、吸収率Bは、後述の実施例24で使用したレーザー光照射装置Bを用いた場合の値を表す。
Figure 2023059623000003
上記で準備した2つの金属基材に対して、レーザー光照射装置Aを用いて、それぞれレーザー光を照射した。ここで、レーザー光照射装置Aは、キーエンス社製レーザーマーカーMDF-5200である。この装置の仕様は、パルス式ファイバーレーザー、波長1090nm、最大出力50W、ビーム径60μmであり、本実施例1において接合面を形成するためのレーザー条件は、表3に示したように、出力85%、照射間隔90μm、走査速度340mm/s、周波数60kHz、走査回数1回とした。また、そのときのピークパワーは6.7kW、パルス幅は220nsであり、照射時間については、下記における接合強度の評価(せん断試験)に使用する金属基材では6.35sであり、気密性の評価に使用する金属基材では5.20sである。
なお、表3では、接合強度の評価(せん断試験)に使用する金属基材でのレーザー加工と気密性の評価に使用する金属基材でのレーザー加工について、それぞれ条件が区別される場合は前者を「せん断」、後者を「気密」として表記している。また、条件が共通の場合には「共通」としてまとめて表記している(下記の表4及び5についても同様)。
金属基材にレーザー光を照射して実際に接合面を形成するにあたり、先ず、接合強度評価用のアルミ板材からなる金属基材1では、図6(a)のように、一方の主面側の長手方向の端部において、長手方向に縦(t1)10mm×短手方向に横(t2)18mmの接合面1aを形成した。接合面1aの照射面積は、180mmであった。詳しくは、図6(b)に示したように、前述のビーム径(D)60μmのレーザー光を照射間隔(L)90μmにして、接合面1aに縞模様を描くようにして照射した。そして、この接合面1aに縞模様を描く軌跡を1回の走査により、接合強度評価用の金属部材を得た。
接合強度評価用の金属部材に対して、接合面の表面粗さの評価を行った。結果を下記の表5に示す。
また、気密性評価のドーナツ状アルミ円形材からなる金属基材2では、図7(a)のように、その中心の直径(R1)20mmの開口部2bの周りを幅2mmで縁取るようにして、外径(R2)24mm、内径(R1)20mmからなるドーナツ状の接合面2aを形成した。接合面2aの照射面積は、138mmであった。詳しくは、図7(b)に示したように、ビーム径(D)60μmのレーザー光を照射間隔(L)90μmにして、接合面2aに同心円を描くようにして照射した。そして、この接合面2aに同心円を描く軌跡を1回の走査により、気密性評価用の金属部材を得た。
ここで、表3に示したレーザー処理の設定条件の項目のなかの「処理面積(mm2)」は、上述の2種類の金属基材1、2における接合面1a、2aの面積を表す。また、レーザー出力の項目における「照射エネルギー(J)」は、式(1)に含まれる「(ピークパワー)×(パルス幅)×(設定出力)×(照射時間)×(周波数)」の値を表す。「単位面積照射エネルギー(J/m2)」は、式(1)から算出される単位面積当たりのレーザー光の照射エネルギーを表す。また、表5において、式(2)で求められる金属基材が受けるエネルギーEは、接合強度の評価(せん断試験)用のアルミ板材からなる金属基材の場合と、気密性の評価用のーナツ状アルミ円形材からなる金属基材の場合とのそれぞれについての計算値を表す。なお、この実施例1では、レーザー照射前の金属基材の温度は常温(25℃)として計算している。
Figure 2023059623000004
Figure 2023059623000005
Figure 2023059623000006
上記のようにして接合面が形成された各金属部材(レーザー処理後のアルミ板材及びアルミ円盤)を、射出成形機(日精樹脂工業製、FNX1103-18A)を用いて、ISO19095に準拠して作製した金型内にそれぞれインサート後、これらに対して、熱可塑性樹脂としてポリアミドMXD10をベースレジンとする芳香族ナイロン(三菱エンジニアリングプラスチックス社製、商品名:Reny(登録商標)、グレード:XL1002U)を使用して、これを樹脂温度250℃、金型温度140℃、射出速度30mm/s、保圧80MPaで射出成形した。それにより、樹脂成形体の厚さが3mm×幅10mm×長さ45mmの長方形状であって、アルミ板材と樹脂成形体との長方形状の接合部の面積(接合面積)が5mm×10mmである、アルミ板材(金属部材)8と樹脂成形体7との接合体(金属樹脂接合体9、図8)を作製した。また、樹脂成形体が厚さ2mm×Φ24mmの円盤状であって、アルミ円盤の内径側面との円環状の接合部の接合幅が2.0mm、接合面積が138.2mmである、アルミ円盤(金属部材)8と樹脂成形体7との接合体(金属樹脂接合体9、図9)を作製した。
上記で得られた接合強度評価用の金属樹脂接合体について、前述の接合強度の評価(1)により、アルミ板材(金属部材)8と樹脂成形体7との間の接合部を破壊する試験を実施し、金属樹脂接合体が破断したときの破断力を引張せん断強度(MPa)として求めた。また、引張せん断試験後の破断形態を目視で観察した。また、気密性評価用の金属樹脂接合体については、前述の気密性の評価により、エアーリークの有無を確認した。結果を併せて表3に示す。なお、表3においては、接合状態(破断形態)と気密性(エアー漏れ)のどちらか少なくともひとつで不良(×)又は不合格(×)となった場合には総合判断として「NG」を付している。また、いずれも良好(〇)又は合格(〇)の場合には「OK」を付している。
〔比較例1~3、実施例2~9〕
レーザー処理の条件を表3に示したように変更した以外は実施例1と同様にして、接合強度評価用及び気密性評価用の各金属樹脂接合体をそれぞれ得て、各種の評価を行った。結果を表5にまとめて示す。
〔実施例10~14、比較例4〕
ISO19095に準拠し、JIS H0001に示された調質記号T5で処理したA6063アルミニウム合金(A6063-T5)の中空押出し材から厚さ1.5mm×幅18mm×長さ45mmのアルミ板材と、厚さ2mm×外径Φ55mm×内径Φ20mmのドーナツ状のアルミ円形材とを切り出して、前者をせん断強度評価(接合強度評価)に使用するための金属基材とし、後者を気密性評価に使用するための金属基材とすると共に、レーザー処理の条件を表3に示したように変更した以外は実施例1と同様にして、接合強度評価用及び気密性評価用の各金属樹脂接合体をそれぞれ得て、各種評価を行った。結果を表2にまとめて示す。
〔実施例15~20、比較例5~6〕
JIS H3100に示された無酸素銅(C1020)の圧延材から厚さ1.5mm×幅18mm×長さ45mmのアルミ板材と、厚さ2mm×外径Φ55mm×内径Φ20mmのドーナツ状のアルミ円形材とを切り出して、前者をせん断強度評価(接合強度評価)に使用するための金属基材とし、後者を気密性評価に使用するための金属基材とすると共に、レーザー処理の条件を表2に示したように変更して接合面を形成した。また、金属樹脂接合体を得るにあたり、熱可塑性樹脂としてポリフェニレンスルフィド(PPS)(ポリプラスチック社製、商品名:ジュラファイド、グレード:1150MF1)を使用し、射出成形条件として、樹脂温度320℃、金型温度150℃、射出速度30mm/s、保圧80MPaで実施し、これら以外は実施例1と同様にして接合強度評価用及び気密性評価用の各金属樹脂接合体をそれぞれ得て、各種評価を行った。結果を表4にまとめて示す。
〔実施例21~23、比較例7~8〕
ステンレス板材(SUS304)から厚さ1.5mm×幅18mm×長さ45mmのアルミ板材と、厚さ2mm×外径Φ55mm×内径Φ20mmのドーナツ状のアルミ円形材とを切り出して、前者をせん断強度評価(接合強度評価)に使用するための金属基材とし、後者を気密性評価に使用するための金属基材とすると共に、レーザー処理の条件を表4に示したように変更して接合面を形成した。また、金属樹脂接合体を得るにあたり、熱可塑性樹脂としてポリフェニレンスルフィド(PPS)(ポリプラスチック社製、商品名:ジュラファイド、グレード:1150MF1)を使用し、射出成形条件として、樹脂温度320℃、金型温度150℃、射出速度30mm/s、保圧80MPaで実施し、これら以外は実施例1と同様にして接合強度評価用及び気密性評価用の各金属樹脂接合体をそれぞれ得て、各種評価を行った。結果を表4にまとめて示す。
〔実施例24〕
レーザー光照射装置をレーザー光照射装置Bに変えて、レーザー処理の条件を表3に示したように変更した以外は実施例1と同様にして、接合強度評価用及び気密性評価用の各金属樹脂接合体をそれぞれ得て、各種の評価を行った。結果を表2に示す。ここで、レーザー光照射装置Bは、キーエンス社製MDV-9600Aである。この装置の仕様は、Qスイッチ式YVO4レーザー、波長1064nm、最大出力8W、ビーム径40μmであり、本実施例24において接合面を形成するためのレーザー条件は、表4に示したように、出力95%、照射間隔100μm、走査速度30mm/s、周波数20kHz、走査回数1回とした。また、そのときのピークパワーは32kW、パルス幅は10.1nsであり、照射時間については、接合強度の評価(せん断試験)に使用する金属基材では35.00sであり、気密性の評価に使用する金属基材では51.04sである。
〔実施例25〕
JIS H0001に示された調質記号T5で処理したA6063アルミニウム合金(A6063-T5)の中空押出し材から厚さ5mm×幅25mm×長さ50mmの長方形状のアルミ板材を2枚と、厚さ2mm×外径Φ55mm×内径Φ20mmの円環状のアルミ円盤と、厚さ2mm×外径Φ24mmの円形状のアルミ円盤を、それぞれ金属基材として切り出して準備した。
次に、レーザー処理の条件を表4に示したように変更した以外は実施例1と同様にして、レーザー照射して、接合面を形成した。なお、2枚のアルミ板材では、一方の主面側の長手方向の端部において、長手方向に6mm×短手方向に25mmの長方形状の領域にそれぞれレーザー照射した。接合面の照射面積は、180mmであった。また、円環状のアルミ円盤では、内側から幅2.0mmの円環状の領域にレーザー照射した。また、円形状のアルミ円盤では、内側から幅2.0mmの円環状の領域にレーザー照射した。接合面の照射面積は、138mmであった。
接合面が形成された各金属部材(レーザー処理後のアルミ板材及びアルミ円盤)に対して、樹脂として熱硬化性接着剤(一液加熱硬化型エポキシ接着剤)(スリーエムジャパン株式会社社製、商品名:スコッチ・ウェルド(登録商標)SW2214)を使用して、接着剤の厚さが0.2mmとなるようにSUSワイヤーで調整して接合面に塗布した。接着剤の塗布後、2枚のアルミ板材どうしを貼り合わせ、0.01MPaの圧力をかけて、試験片温度が150℃到達した後に30分加熱した接着条件で、2枚のアルミ板材の長方形状の接合部の接合面積が6mm×25mmである、接着剤を介したアルミ板材(金属部材)8及び8'の接合体(アルミ板材と樹脂成形体とアルミ板材との接合体)(金属樹脂金属接合体11、図10)を作製した。また、接着剤の塗布後、円環状のアルミ円盤と円形状のアルミ円盤とを貼り合わせ、同様の接着条件で、円環状のアルミ円盤と円形状のアルミ円盤との円環状の接合部の接合幅が2.0mm、接合面積が138.2mmである、接着剤を介した円環状のアルミ円盤(金属部材)8と円形状のアルミ円盤(金属部材)8'との接合体(円環状のアルミ円盤と樹脂成形体と円形状のアルミ円盤との接合体)(金属樹脂金属接合体11、図11)を作製した。得られた金属樹脂接合体について、前述の接合強度の評価(2)と気密性の評価を行った。評価結果を表3にまとめて示す。
[検討]
上記の実験のうち、比較例1、実施例1、及び比較例2で得られた金属樹脂接合体について、それを厚さ方向に切断して断面を走査型電子顕微鏡(日本電子製、JSM-7200F)により倍率500倍で観察したものを図12、13及び14に示す。これらによれば、いずれも金属基材の表面に凹凸部を有した接合面が形成されていることが分かる。
このうち、図12は、比較例1における気密性評価用の金属樹脂接合体の断面を示したものである。この比較例1では気密性評価が不合格(×)であるところ、そのSEMによれば、金属部材(金属基材)の接合面に形成された表面凹凸での凹部が、細長く深い位置にまで形成されていることが分かる。つまり、樹脂が凹部の深部まで到達することができずに、気密性を低下させたと考えられる。また、金属部材の接合面に形成された表面凹凸での一部の突起が、互いに隣接するもの同士でその頂部が接触していることが分かる。つまり、突起の頂部が接触してその下方に閉ざされた孔(空間)が形成されたことで、樹脂成形体が侵入できない箇所が発生して気密性が低下したと考えられる。
また、図14は、比較例2における接合強度評価用の金属樹脂接合体の断面を示したものである。この比較例2では接合状態が不合格(×)であるところ、そのSEMによれば、金属部材の接合面に形成された表面凹凸の凹み(谷又は孔)が比較的小さいことが分かる。つまり、金属部材の接合面への樹脂成形体の食い込みが足りずに、アンカー効果(機械的結合・投錨効果)が不十分であったと考えられる。さらに、比較例2では、SEMによる断面の観察により、レーザー未照射部が存在していることが確認された。比較例2では、レーザー未照射部の影響により、気密性および接合強度が低下したと考えられる。
それに対して、図13は、実施例1における接合強度評価用の金属樹脂接合体の断面を示したものである。この実施例1では気密性、接合状態共に良好な結果を示している。実際に、そのSEMによれば、金属部材の接合面に形成された表面凹凸では、頂部側に十分な開口を有して、適度な深さの凹部を有し、形状の揃った突起が形成されていることが分かる。
また、図15には、上記実施例1~25、比較例1~8で得られた接合強度評価用の金属樹脂接合体について、その金属部材の接合面を形成する際の「金属基材が受けるエネルギーE」(式(2)で求められるエネルギーE、表3中での「計算値」)とその接合面の表面粗さRzとの関係をグラフにしたものである。また、この図15のグラフでは、破断形態と気密性との評価結果に応じて、破断形態と気密性との両方が良好(○)の場合を『接合OK』とし、破断形態と気密性とのいずれかが不良(×)の場合を『接合NG』としている。また、図15では、接合OKのものを黒塗丸印でプロットして、接合NGのものを黒塗三角印でプロットしている。これによると、「金属基材が受けるエネルギーE」が0.18≦E≦0.75の範囲であれば、引張せん断試験後の破断形態が良好であり、尚且つ、この範囲内であれば気密性(エアー漏れ)についても合格であることが分かる。
以上のとおり、本発明によれば、接合強度や気密性に優れた金属樹脂接合体を得ることができる。特に、本発明では、レーザー光の照射エネルギーを考慮しながら、金属基材が受けるエネルギーの制御が可能になることから、接合強度と気密性に優れた金属樹脂接合体を再現性良く製造することができ、しかも、レーザー光の諸条件や金属基材の種類が変わっても適用できることから、実用性に優れた方法であると言える。
1,2…金属基材、1a,2a…接合面、2b…開口部、3…走査方向、4…ビーム径、5…照射間隔、6(6’)…レーザー光の軌跡、7…樹脂成形体、8…金属部材、9…金属樹脂接合体、10…せん断試験用の専用治具、11…金属樹脂金属接合体、12…水、13…O-リング、14…エアー吹込み用の管、15…専用気密性治具。

Claims (5)

  1. 表面に接合対象物との接合面を備えた金属部材の製造方法であって、
    金属製の金属基材の表面へレーザー光を照射するレーザー処理によって、前記金属基材に凹凸部を有した前記接合面を形成するレーザー照射工程を備え、
    前記レーザー照射工程において、下記式(1)によって求められる単位面積当たりの照射エネルギーをもとに算出される、下記式(2)又は下記式(3)によって求められるレーザー光の照射によって前記金属基材が受けるエネルギーEが0.18≦E≦0.75である
    ことを特徴とする金属部材の製造方法。
    単位面積当たりの照射エネルギー=(ピークパワー)×(パルス幅)×(設定出力)×(照射時間)×(周波数)/(照射面積) ・・・式(1)
    金属基材が受けるエネルギーE=(単位面積当たりの照射エネルギー)×(基材吸収率)×√(熱拡散定数)/(レーザー照射前の金属基材の温度からレーザー照射後の金属基材の沸点までの温度上昇の差) ・・・式(2)
    金属基材が受けるエネルギーE=(単位面積当たりの照射エネルギー)×(基材吸収率)×(蒸気吸収率)×√(熱拡散定数)/(レーザー照射前の金属基材の温度からレーザー照射後の金属基材の沸点までの温度上昇の差) ・・・式(3)
  2. 前記金属基材は、アルミニウム、銅、鉄又はこれらの各金属を含む合金であることを特徴とする請求項1に記載の金属部材の製造方法。
  3. 前記接合面の表面粗さ(Rz)が、30μm以上、180μm以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の金属部材の製造方法。
  4. 請求項1に記載の製造方法によって得られた金属部材の表面に、樹脂成形体を形成する樹脂成形工程を備え、
    前記金属部材の接合面と前記樹脂成形体とが接合された金属樹脂接合体を製造する
    ことを特徴とする金属樹脂接合体の製造方法。
  5. 前記樹脂成形工程において、前記金属部材上に熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂を含む樹脂成形体を成形することを特徴とする請求項4に記載の金属樹脂接合体の製造方法。
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