JP2023055531A - 防曇性プラスチック眼鏡レンズ - Google Patents

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Abstract

【課題】耐擦傷性及び滑り性が向上した防曇性プラスチック眼鏡レンズを提供する。【解決手段】防曇性プラスチック眼鏡レンズ1は、特定のモノマー(a-1)~(a-4)に由来する構成単位をそれぞれ特定の割合を有する(メタ)アクリル系樹脂(A)と、多官能イソシアネート化合物(B)と、複数のエポキシ基を有する有機化合物であるエポキシド(C)と、を含む組成物から得られる吸水層4を有している。前記(メタ)アクリル系樹脂(A)は、全構成単位100質量%に対し、モノマー(a-1)に由来する構成単位の割合が20質量%以上65質量%以下であり、モノマー(a-2)に由来する構成単位の割合が10質量%以上40質量%以下であり、且つモノマー(a-4)に由来する構成単位の割合が1質量%以上10質量%以下である。【選択図】図1

Description

本発明は、プラスチック製の基材を有する防曇性能を備えた眼鏡レンズ(度無し眼鏡レンズ、サングラスレンズを含む)である防曇性プラスチック眼鏡レンズに関する。
曇りを抑制する性質である防曇性の硬化膜を、物品の表面に対して形成可能な塗料組成物として、特許第6340539号公報(特許文献1)に記載されたものが知られている。この塗料組成物は、4種のモノマーに由来する各構成単位(a-1)~(a-4)を有する(メタ)アクリル系樹脂(A)、ポリオール化合物(B)、及び多官能イソシアネート化合物(C)を、それぞれ所定範囲内の質量%において含んでいる。
この塗料組成物は、次のように構成される。即ち、(A)の構成単位(a-1)は、アミド基を有しており、水分を抱え込み易く、水分を吸収し易い。(C)は(A)と架橋反応して硬化膜の形成に寄与するところ、(a-1)の硬化後の架橋密度が高すぎると、水分が入り込む隙間が小さくなり、水分が吸収され難くなるため、架橋補助剤として(B)が配合されることで、必要な架橋密度を保った状態で水分吸収のための隙間が設けられる。(A)の構成単位(a-2)は、ポリカプロラクトン構造を有し、その柔軟な化学骨格により、硬化膜の柔軟性、弾力性を向上させ、硬化膜の耐擦傷性を向上させる。(A)の構成単位(a-4)は、ポリジメチルシロキサン鎖を有し、硬化膜の滑り性を向上させ、硬化膜の耐擦傷性を向上させる。(A)の構成単位(a-3)は、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートであり、硬化膜において(a-2)より硬く、主に(a-2)によりもたらされる柔軟性を調整して、弾力性とのバランスの取れたものとする。
特許第6340539号公報
上述の塗料組成物により形成された硬化膜は、水分の吸収により防曇性を有するものの、耐擦傷性、及び滑り性に向上の余地が存在する。
特に、滑り性については、グリップ性(静止摩擦係数の低さ、静止状態の指等が動き出す際の抵抗の低さ)、及び動的滑り性(動摩擦係数の低さ、動いている指等に対する抵抗の低さ)の双方について、向上の余地が存在する。
本発明の主な目的は、耐擦傷性及び滑り性が向上した防曇性プラスチック眼鏡レンズを提供することである。
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明は、発明を実施するための形態で下記される一般式(1)で表されるモノマー(a-1)に由来する構成単位、下記一般式(2)で表されるモノマー(a-2)に由来する構成単位、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート(a-3)に由来する構成単位、及び、下記一般式(3)で表されるモノマー(a-4)に由来する構成単位を有する(メタ)アクリル系樹脂(A)と、多官能イソシアネート化合物(B)と、複数のエポキシ基を有する有機化合物であるエポキシド(C)と、を含む組成物から得られる吸水層を有しており、前記(メタ)アクリル系樹脂(A)は、全構成単位100質量%に対し、前記モノマー(a-1)に由来する構成単位の割合が20質量%以上65質量%以下であり、前記モノマー(a-2)に由来する構成単位の割合が10質量%以上40質量%以下であり、且つ前記モノマー(a-4)に由来する構成単位の割合が1質量%以上10質量%以下であることを特徴とするものである。
請求項2に記載の発明は、上記発明にあって、前記多官能イソシアネート化合物(B)の割合は、前記(メタ)アクリル系樹脂(A)100質量部に対して5質量部以上100質量部以下であることを特徴とする。
請求項3に記載の発明は、上記発明にあって、前記エポキシド(C)は、前記(メタ)アクリル系樹脂(A)及び前記多官能イソシアネート化合物(B)合わせて100質量部に対して、1質量部以上10質量部以下であることを特徴とする。
請求項4に記載の発明は、上記発明にあって、前記エポキシド(C)は、1以上の水酸基を有することを特徴とする。
請求項5に記載の発明は、上記発明にあって、更に、アミノ変性シリコーン及びメルカプト変性シリコーンの少なくとも一方を主成分とする撥水層を、前記吸水層の上に有することを特徴とする。
請求項6に記載の発明は、上記発明にあって、前記撥水層は、官能基当量が5000以上である前記アミノ変性シリコーン及び前記メルカプト変性シリコーンの少なくとも一方を主成分とすることを特徴とする。
本発明の主な効果は、耐擦傷性及び滑り性が向上した防曇性プラスチック眼鏡レンズが提供されることである。
本発明の実施形態に係る防曇性プラスチック眼鏡レンズの模式的な断面図である。
以下、本発明に係る実施の形態の例が、適宜図面に基づいて説明される。
尚、本発明の形態は、これらの例に限定されない。
又、化学式等における基(原子団)の表記において、置換か無置換かを記していない表記は、置換基を有さないもの及び置換基を有するものの双方を包含するものである。例えば、アルキル基は、置換基を有さないアルキル基(無置換アルキル基)だけでなく、置換基を有するアルキル基(置換アルキル基)を包含するものである。
更に、(メタ)アクリルは、アクリル及びメタアクリルの双方を包含する。(メタ)アクリレート等の類似する表記についても、同様である。
加えて、モノマー(a-1)に由来する構成単位が、構成単位(a-1)と呼ばれることがある。モノマー(a-2)に由来する構成単位等の類似する表記についても、同様である。
又、本発明の実施形態等における各種の物性等の説明には、実際に確認された性質の他、化学構造等から合理的に推測される性質が含まれる。
[全体構成等]
図1に示されるように、当該実施形態に係る防曇性プラスチック眼鏡レンズ1は、基材2と、吸水層4と、撥水層6と、を有する。
尚、撥水層6は、省略されても良い。
基材2は、プラスチック眼鏡レンズ基材である。
基材2の材質は、例えば、ポリジエチレングリコールビスアリルカーボネート(CR-39)等のアリル系樹脂、チオウレタン系樹脂、エピスルフィド系樹脂、ポリメチルメタクリレート、ポリメチルメタクリレートの共重合体、ポリカーボネート、セルロースアセテート、ポリエチレンテレフタレート、ポリ塩化ビニル、アクリル樹脂、及びポリウレタン樹脂の少なくとも何れかである。
吸水層4は、吸水性樹脂層である。
吸水層4は、基材2の片面又は両面に配置された成膜面Mの上(空気側)に形成される。
吸水層4は、次の成分を含有する組成物から形成される。
即ち、組成物は、(メタ)アクリル系樹脂(A)、多官能イソシアネート化合物(B)、エポキシド(C)を含有する。
(メタ)アクリル系樹脂(A)は、下記一般式(1)で表されるモノマー(a-1)に由来する構成単位と、下記一般式(2)で表されるモノマー(a-2)に由来する構成単位と、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート(a-3)に由来する構成単位と、下記一般式(3)で表されるモノマー(a-4)に由来する構成単位と、を有する。
Figure 2023055531000002
一般式(1)中、Rは水素原子又はメチル基であり、R及びRは水素原子又は炭素数1~3の直鎖若しくは分岐のアルキル基であり、R及びRは互いに同一であっても良いし、それぞれ異なっていても良い。
Figure 2023055531000003
一般式(2)中、Rは水素原子又はメチル基であり、nは1以上5以下の整数である。
Figure 2023055531000004
一般式(3)中、Rは水素原子又はメチル基であり、Rは2価の有機基であり、nは0又は1以上の整数である。
(メタ)アクリル系樹脂(A)は、当該樹脂を構成する全構成単位100質量%に対し、モノマー(a-1)に由来する構成単位が20質量%以上65質量%以下であり、モノマー(a-2)に由来する構成単位が10質量%以上40質量%以下であり、モノマー(a-4)に由来する構成単位が1質量%以上10質量%以下である。
多官能イソシアネート化合物(B)は、1分子中に2個以上のイソシアネート基を有する化合物である。イソシアネート基には、脱離性基で保護されたイソシアネート基が含まれる。
多官能イソシアネート化合物の官能基数は、好ましくは1分子当たり2個以上6個以下であり、更に好ましくは1分子当たり2個以上4個以下である。
エポキシド(C)は、複数のエポキシ基を有する有機化合物である。エポキシド(C)は、好ましくは2個のエポキシ基を有するものであり、更に好ましくは炭素原子について直鎖であり、その双方の末端にそれぞれエポキシ基が配されたものである。
エポキシド(C)は、他の成分からの遊離を抑制するため、好ましくは1以上の水酸基を有する。
尚、組成物は、他の成分を更に含んでも良い。他の成分として、組成物(塗料)を作製するうえで使われる添加剤が用いられても良い。
例えば、硬化触媒、紫外線吸収剤、光安定剤、界面活性剤、レベリング剤、及び消泡剤の少なくとも何れかが用いられても良い。
吸水層4は、かような組成物を成膜面Mに塗布して重合させることにより成膜される。
吸水層4の構成は、当該組成物の塗布という製法により特定されるものとみられる可能性があり、たとえそうであるとしても、いわゆる不可能・非実際的事情を有することから、かような特定は許されるものと思料される。
即ち、種々のモノマーを組み合わせた当該組成物の重合物として、多種多様なものが存在し、他の重合物と区別するために、具体例を羅列することで吸水層4をその構造又は特性により直接特定することはおよそ実際的でない。
又、かような組成物の重合物特有の構造及び特性は現状知られておらず、又その構造及び特性を探求することは、仮にかような構造及び特性が存在したとしても、多大な設備と時間を要しておよそ不可能あるいは非実際的であると思料される。
従って、吸水層4が、上記組成物の塗布という製法により特定されるものとみられたとしても、かような特定は許されるべきである。
尚、上記特許文献1では、特定の組成物から形成された硬化膜の発明が特許となっている(当該特許の請求項7参照)。
撥水層6は、吸水層4の上(空気側、基材2と反対側)に配置される。
撥水層6の物理膜厚は、好ましくは吸水層4の物理膜厚以下である。撥水層6の物理膜厚は、好ましくは0.5nm(ナノメートル)以上20nm以下である。
撥水層6の主成分は、アミノ変性シリコーン及びメルカプト変性シリコーンの少なくとも一方である。ここで、主成分とは、質量%において過半となることである。
撥水層6は、好ましくは、吸水層4の最上層(最も空気側に配置される層)とされる。
尚、撥水層6の上に、1以上の別の層が配置されても良い。又、吸水層4及び撥水層6の間に、1以上の別の層が配置されても良い。基材2及び吸水層4の間に、1以上の別の層が配置されても良い。基材2及び吸水層4の間の層は、プライマー層(下地層)であっても良い。基材2の表面にプライマー層等が形成されている場合には、プライマー層等の表面が基材2の表面と取り扱われても良い。プライマー層は、吸水層4と基材2との密着性の向上のために配置される連結層であっても良い。プライマー層は、例えば、ウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、メタクリル系樹脂、有機ケイ素系樹脂等である。プライマー層は、例えば、基材2をプライマー液に浸漬させて成膜させる(ディップ法)。プライマー層は、スプレー法、ロールコート法、スピンコート法の何れかによって成膜されても良い。
撥水層6は、アミノ変性シリコーン及びメルカプト変性シリコーンの少なくとも一方を主成分とする撥水剤から形成される。
撥水剤の量は、撥水層6において、吸水層4への水分の通過の妨害が抑制されつつ、撥水性が発揮される状態となるものに設定される。
撥水層6は、好ましくは、当該撥水剤が付着された吸水層4付き基材2が、乾燥されることにより形成され、更に好ましくは、当該撥水剤が付着された吸水層4付き基材2が、加熱乾燥されることにより形成される。
又、撥水層6の形成時、好ましくは、当該撥水剤の付着の前に、吸水層4付き基材2の洗浄処理(前処理)が行われる。洗浄処理は、例えば、超音波洗浄機による洗浄、プラズマ洗浄機による洗浄、酸-アルカリ等による脱脂の少なくとも何れかである。超音波洗浄機により、吸水層4付き基材2に超音波が作用する(超音波処理)。プラズマ洗浄機により、吸水層4付き基材2にプラズマが作用する(プラズマ処理)。かような洗浄処理により、撥水層6の密着性が向上する。尚、同様の前処理が、吸水層4及び他の層の少なくとも何れかの形成前に行われても良い。
撥水層6の構成は、当該撥水剤からの形成という製法により特定されるものとみられる可能性があり、たとえそうであるとしても、いわゆる不可能・非実際的事情を有することから、かような特定は許されるものと思料される。
即ち、撥水剤から導かれる撥水層6の分子構造として、多種多様なものが存在し、他の構造と区別するために、具体例を羅列することで撥水層6をその構造又は特性により直接特定することはおよそ実際的でない。
又、撥水剤から導かれる統一的な構造及び特性は現状知られておらず、又その統一的な構造及び特性を探求することは、仮にかような構造及び特性が存在したとしても、多大な設備と時間を要しておよそ不可能あるいは非実際的であると思料される。
従って、撥水層6が、上記撥水剤からの形成という製法により特定されるものとみられたとしても、かような特定は許されるべきである。
[吸水層4組成物の(メタ)アクリル系樹脂(A)等]
吸水層4に係る組成物の成分の一つである(メタ)アクリル系樹脂(A)が、更に詳述される。
構成単位(a-1)は、アミド基を有しており、親水性が大きく、水分を抱え込み易い。このため、吸水層4の上方に付着した水分は、吸水層4内部へと吸収され、防曇性プラスチック眼鏡レンズ1における曇りの発生が抑制される。即ち、構成単位(a-1)が含まれることにより、防曇性プラスチック眼鏡レンズ1に防曇性が付与される。
構成単位(a-2)は、いわゆるポリカプロラクトン構造を有する。ポリカプロラクトン構造は、その柔軟な化学骨格により、吸水層4の柔軟性及び弾力性の向上に寄与する。
構成単位(a-4)は、ポリジメチルシロキサン鎖を有する。ポリジメチルシロキサン鎖は、吸水層4の滑り性の向上に寄与する。
そして、吸水層4は、これら構成単位(a-2)及び構成単位(a-4)により、吸水層4側に加わる外力に対して、柔軟性及び弾力性で吸収作用を及ぼしつつ、滑り性で逃がす作用を及ぼすことで、傷の付着を抑制する。即ち、吸水層4に、耐裂傷性が付与される。
又、構成単位(a-2)は、末端に水酸基を有する。よって、多官能イソシアネート化合物(C)と架橋反応を起こし、吸水層4の形成に寄与する。
ここで、(メタ)アクリル系樹脂(A)と多官能イソシアネート化合物(C)との架橋反応が、構成単位(a-2)のみに係るものとされると、吸水層4は、柔らかくなり過ぎ、十分な柔軟性を呈しつつ弾力性に欠けるものとなる。
よって、(メタ)アクリル系樹脂(A)の成分として、構成単位(a-2)よりも硬い構成単位(a-3)が含まれることで、柔軟性及び弾力性が調和した吸水層4が得られる。構成単位(a-3)は、水酸基を含む。
更に、構成単位(a-2)は、ポリカプロラクトン構造により、吸水層4の柔軟性及び弾力性を高める一方、吸水層4の摩擦抵抗を高める。よって、構成単位(a-2)が優位である吸水層4を指で撫でると、指に引っ掛かりを感じ易く、抵抗を感じ易い。
他方、構成単位(a-4)は、ポリジメチルシロキサン鎖により、吸水層4に滑り性を付与し、吸水層4の摩擦抵抗を減らすところ、構成単位(a-4)の存在比率は、構成単位(a-2)の存在比率よりも小さいため、十分な耐裂傷性が得られたとしても、十分に低い摩擦抵抗は得難い。吸水層4における抵抗感の減少には、滑り性に加え、所定程度以上の硬さが必要である。
そこで、水酸基を有する構成単位(a-2)及び構成単位(a-3)の比率のバランスが取られた状態で、水酸基(分母)に対するイソシアネート基(分子)の比率である当量比(NCO/OH)が1未満となる特定の範囲に設定されることにより、摩擦抵抗が十分に低減される程度に吸水層4の硬さが向上される。当量比(NCO/OH)が1未満であると、イソシアネート基が水酸基より少なくなる。イソシアネート基が水酸基より少ないと、架橋に関与しないイソシアネート基が減少する。つまり、吸水層4の架橋密度が高くなり、吸水層4の硬さが向上し、摩擦抵抗が小さくなる。
但し、当量比(NCO/OH)が小さ過ぎる場合、吸水層4形成の基礎となる架橋点が少なくなり過ぎ、吸水層4の強度が不十分となる。よって、当量比(NCO/OH)には下限が存在する。
(メタ)アクリル系樹脂(A)は、典型的には、モノマー(a-1)、モノマー(a-2)、モノマー(a-3)及びモノマー(a-4)の重合により得られる。
尚、(メタ)アクリル系樹脂(A)の構成単位の全てが(メタ)アクリル系モノマーに由来する構成単位でなくても良い。即ち、(メタ)アクリル系樹脂(A)は、(メタ)アクリル系ではないモノマーに由来する構成単位を一部含んでいても良い。但し、(メタ)アクリル構造に由来する効果が十分に得られるようにするため、(メタ)アクリル系樹脂(A)の構成単位の50質量%以上が(メタ)アクリル系モノマーに由来する構成単位であることが好ましい。又、(メタ)アクリル系樹脂(A)の構成単位の80質量%以上が(メタ)アクリル系モノマーに由来する構成単位であることがより好ましく、(メタ)アクリル系樹脂(A)の構成単位の100質量%が(メタ)アクリル系モノマーに由来する構成単位であることが更に好ましい。
モノマー(a-1)は、上記一般式(1)の構造を持つものであれば、特に限定されない。モノマー(a-1)は、例えば、(メタ)アクリルアミド、N-メチルアクリルアミド、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N-エチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジエチル(メタ)アクリルアミド、N-n-プロピル(メタ)アクリルアミド、N-イソプロピル(メタ)アクリルアミドである。
モノマー(a-1)は、少なくとも1種を用いれば良く、2種以上を組み合わせて用いても良い。例えば、上記に挙げたモノマーのうち2種以上を用いて重合反応を行うことで(メタ)アクリル系樹脂(A)を得てもよい。
モノマー(a-1)は、吸水層4の防曇性能の向上の観点から、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジエチル(メタ)アクリルアミドを含むことが特に好ましい。
(メタ)アクリル系樹脂(A)中のモノマー(a-1)に由来する構成単位は、当該樹脂の全構成単位に対して、20質量%以上65質量%以下で含まれ、より好ましくは35質量%以上60質量%以下で含まれ、更に好ましくは40質量%以上55質量%以下で含まれる。
モノマー(a-1)に由来する構成単位が20質量%未満では、実用に適した防曇性能を発揮する吸水層4を形成することが困難である。一方、モノマー(a-1)に由来する構成単位が65質量%を超えると、相対的に他のモノマーに由来する構成単位の比率が低下して、組成物全体としてのバランスが比較的に悪くなる。
モノマー(a-2)は、上記一般式(2)の構造を持つものであれば、特に限定されない。モノマー(a-2)は、例えば、株式会社ダイセル製「プラクセルF」シリーズである。
(メタ)アクリル系樹脂(A)中のモノマー(a-2)に由来する構成単位は、当該樹脂の全構成単位に対して、10質量%以上40質量%以下で含まれ、より好ましくは20質量%以上38質量%以下で含まれ、更に好ましくは25質量%以上35質量%以下で含まれる。
モノマー(a-2)に由来する構成単位が10質量%未満では、吸水層4の柔軟性が不十分となる。一方、モノマー(a-2)に由来する構成単位が40質量%を超えると、吸水層4の弾力性が不十分となる。
尚、(メタ)アクリル系樹脂(A)は、モノマー(a-2)に由来する繰り返し単位を複数種含んでいても良い。例えば、上記「プラクセルF」シリーズに属する2種以上の化合物を含んだ状態での重合により、(メタ)アクリル系樹脂(A)が得られても良い。
モノマー(a-3)は、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートである。モノマー(a-3)は、例えば、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらの中でも、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートが好ましい。
(メタ)アクリル系樹脂中(A)のモノマー(a-3)に由来する構成単位は、(メタ)アクリル系樹脂(A)の全構成単位に対して、1質量%以上30質量%以下で含むことが好ましく、2質量%以上20質量%以下で含むことがより好ましく、3質量%以上15質量%以下で含むことが更に好ましい。
モノマー(a-3)は、モノマー(a-2)と同様に水酸基を有し、多官能イソシアネート化合物(C)と架橋反応を起こし、吸水層4を形成する。モノマー(a-2)だけで架橋反応を生じさせ、吸水層4が形成されるのではなく、モノマー(a-3)と共に多官能イソシアネート化合物(C)と架橋反応を生じさせ、吸水層4が形成されることで、吸水層4は、種々の物性を兼ね備えたものとなる。
(メタ)アクリル系樹脂(A)は、モノマー(a-2)及びモノマー(a-3)に由来する構成単位を含むため、全体として水酸基を有する、すなわち水酸基価を有する樹脂である。このため、(メタ)アクリル系樹脂(A)は、多官能イソシアネート化合物(C)と反応し、架橋構造を形成することができる。
(メタ)アクリル系樹脂(A)の水酸基価は、40mgKOH/g以上150mgKOH/g以下であることが好ましく、70mgKOH/g以上140mgKOH/g以下であることがより好ましく、90mgKOH/g以上130mgKOH/g以下であることが更に好ましい。ここで、水酸基価とは、試料1gをアセチル化させたとき、水酸基と結合した酢酸を中和するのに必要とする水酸化カリウムのmg(ミリグラム)数のことである。
水酸基価がかような数値範囲とされることで、多官能イソシアネート化合物(C)と反応し、架橋構造が適切に制御される。そのため、吸水層4の柔軟性・弾力性が維持された状態で、吸水層4が硬くなる。よって、吸水層4の耐擦傷性と摩擦抵抗の低減との、より高度な両立が図られる。
モノマー(a-4)は、上記一般式(3)の構造を持つものであれば特に限定されない。モノマー(a-4)は、例えば、JNC株式会社製サイラプレーン「FM-0711」、「FM-0721」、及び「FM-0725」、信越化学工業株式会社製「X-22-174DX」、及び「X-22-2426」、並びに東亞合成株式会社製「AK-5」、「AK-32」である。
(メタ)アクリル系樹脂(A)は、モノマー(a-4)に由来する繰り返し単位を複数種含んでいても良い。例えば、上記に挙げたモノマーのうち2種以上を用いて重合反応を行うことで(メタ)アクリル系樹脂(A)が得られても良い。
(メタ)アクリル系樹脂(A)中のモノマー(a-4)に由来する構成単位は、当該樹脂の全構成単位に対して、1質量%以上10質量%以下で含まれ、より好ましくは2質量%以上8質量%以下で含まれ、更に好ましくは3質量%以上7質量%以下で含まれる。
モノマー(a-4)に由来する構成単位が1質量%未満である場合、十分な耐擦傷性を有する吸水層4が得難い。一方、モノマー(a-4)に由来する構成単位が10質量%を超える場合、均質な(メタ)アクリル系樹脂(A)を合成することが難しくなる。これは、モノマー(a-1)がアミド基を有して極めて水になじみ易い親水性となっていることに対し、モノマー(a-4)が比較的疎水性に強いものとなっているため、互いに混ざり難いことによる。
(メタ)アクリル系樹脂(A)は、構成単位(a-1)、構成単位(a-2)、構成単位(a-3)、及び構成単位(a-4)以外の任意の構成単位(a-5)を含んでも良いし、含まなくても良い。構成単位(a-5)は、例えば、以下で表されるモノマーに由来する構成単位が挙げられる。(メタ)アクリル系樹脂(A)は、このような構成単位(a-5)を含むことで、そのガラス転移温度、及び吸水層4の物性(硬さ、柔らかさ等)の調整がなされる。
即ち、構成単位(a-5)は、例えば一般式CH2=CR-COO-R’で表されるモノマー由来の構成単位である。ここで、Rは水素原子またはメチル基であり、R’はアルキル基、単環または多環のシクロアルキル基、アリール基、又はアラルキル基である。かようなモノマーは、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、tert-ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、n-ラウリル(メタ)アクリレート、n-ステアリル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、及びベンジル(メタ)アクリレートである。これらの中でも、R’が炭素数1以上8以下のアルキル基であるものが好ましく、R’が1以上6以下のアルキル基であるものがより好ましく、R’が1以上4以下のアルキル基であるものが更に好ましい。
(メタ)アクリル系樹脂(A)は、構成単位(a-5)に該当する繰り返し単位を複数種含んでいても良い。例えば、上記モノマーのうち2種以上を用いて重合反応が行われることで、(メタ)アクリル系樹脂(A)が得られても良い。
(メタ)アクリル系樹脂(A)が構成単位(a-5)を含む場合、その含有量は、(メタ)アクリル系樹脂(A)の全構成単位に対して、好ましくは1質量%以上40質量%以下、より好ましくは3質量%以上30質量%以下、更に好ましくは5質量%以上20質量%以下である。
(メタ)アクリル系樹脂(A)の重量平均分子量(Mw)は、特に限定されないところ、好ましくは10000以上100000以下であり、より好ましくは20000以上70000以下であり、更に好ましくは30000以上60000以下である。重量平均分子量が10000以上であれば、防曇性能が付与され易く、重量平均分子量が100000以下であれば、塗装適性が付与され易い。
重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により、標準物質としてポリスチレンを用いて求めることができる。
(メタ)アクリル系樹脂(A)のガラス転移温度は、特に限定されないところ、好ましくは20℃以上120℃以下であり、より好ましくは30℃以上110℃以下であり、更に好ましくは35℃以上100℃以下である。尚、(メタ)アクリル系樹脂(A)のガラス転移温度は、種々の方法で求めることが可能である。当該ガラス転移温度は、例えば、フォックス(Fox)の式に基づいて求めることができる。特殊モノマー、多官能モノマー等のように、ガラス転移温度が不明のモノマーについては、ガラス転移温度が判明しているモノマーのみを用いてガラス転移温度が求められる。
(メタ)アクリル系樹脂(A)は、典型的には重合反応により得られる。重合反応は、ラジカル重合、カチオン重合、アニオン重合等の各種方法であれば良く、この中でもラジカル重合が好ましい。また、重合は、溶液重合、懸濁重合、及び乳化重合等の何れであっても良い。これらのうち、重合の精密な制御等の観点から、溶液重合が好ましい。
ラジカル重合の重合開始剤は、公知のものを用い得る。当該重合開始剤は、例えば、アゾビスイソブチロニトリル、2,2-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)、2,2-アゾビス(2-メチルプロピオニトリル)、及び2,2-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)等のアゾ系開始剤、ベンゾイルパーオキサイド、t-ブチルパーオキシオクタノエート、ジイソブチルパーオキサイド、ジ(2-エチルヘキシル)パーオキシピバレート、デカノイルパーオキサイド、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、及びt-ブチルパーオキシベンゾエート等の過酸化物系開始剤、過酸化水素と鉄(II)塩、過硫酸塩と亜硫酸水素ナトリウム等、酸化剤と還元剤とを組み合わせたレドックス系開始剤等が挙げられる。これらは、1種単独で用いられても良いし、2種以上併せて用いられても良い。
重合開始剤の配合量は、特に限定されないところ、重合するモノマーの混合液全体が100質量部とされた場合に、0.001質量部以上10質量部以下とされることが好ましい。
又、重合反応に際しては、適宜、公知の連鎖移動剤、重合禁止剤、分子量調整剤等が用いられても良い。更に、重合反応は、1段階で行われても良いし、2段階以上で行われても良い。重合反応の温度は、特に限定されないところ、典型的には50℃以上200℃以下であり、好ましくは80℃以上150℃以下である。
[吸水層4組成物の多官能イソシアネート化合物(B)等]
吸水層4に係る組成物の成分の一つである多官能イソシアネート化合物(B)が、更に詳述される。
多官能イソシアネート化合物(B)は、(メタ)アクリル系樹脂(A)に含まれる構成単位(a-2)及び構成単位(a-3)が有する水酸基と架橋反応を起こす。
多官能イソシアネート化合物(B)は、1分子中に2個以上のイソシアネート基(脱離性基で保護されたイソシアネート基を含む)を有する化合物である。多官能イソシアネート化合物(B)の官能基数は、好ましくは1分子あたり2個以上6個以下、更に好ましくは1分子あたり2個以上4個以下である。
多官能イソシアネート化合物(B)は、例えば、リジンイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート及びトリメチルヘキサンジイソシアネート等の脂肪族ジイソシアネート、水素添加キシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、メチルシクロヘキサン-2,4-(又は2,6)-ジイソシアネート、4,4’-メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)及び1,3-(イソシアナトメチル)シクロヘキサン等の環状脂肪族ジイソシアネート、並びに、リジントリイソシアネート等の3官能以上のイソシアネートである。
なお、多官能イソシアネート化合物(B)としては、上記列挙したものに加え、その多量体として、ビウレット型、イソシアヌレート型、アダクト型等が知られている。組成物として、これらの何れも用いることができるところ、この中でも、ビウレット型の多官能イソシアネート化合物を用いることが特に好ましい。これは、ビウレット型の持つ構造が、ヌレート型よりも柔らかく、一方で、アダクト型よりも硬く、より適切な硬さを持った構造であるためである。
多官能イソシアネート化合物(B)は、いわゆるブロックイソシアネートであっても良い。即ち、多官能イソシアネート化合物(B)のイソシアネート基の一部又は全部は、保護基によりブロックされた、ブロックイソシアネート基の形態であってもよい。ブロックイソシアネート基は、例えば、アルコール系、フェノール系、ラクタム系、オキシム系、及び活性メチレン系などの活性水素化合物によって、イソシアネート基がブロックされることで形成される。
特に、組成物が一液型である場合は、保存性(経時安定性)の観点から、ブロックイソシアネート基を有する多官能イソシアネート化合物(B)が好ましい。
多官能イソシアネート化合物(B)として、例えば、旭化成株式会社製「デュラネート」シリーズ、住化バイエルウレタン株式会社製「スミジュール」シリーズ、日本ポリウレタン株式会社製「コロネート」シリーズ等が用いられる。
組成物中における多官能イソシアネート化合物(B)の含有量は、特に制限がないところ、当量比(NCO)/(OH)に従って配合されることが好ましく、具体的には(メタ)アクリル系樹脂(A)100質量部に対して5質量部以上100質量部以下であることが好ましく、7質量部以上75質量部以下であることがより好ましく、10質量部以上70質量部以下であることが更に好ましい。多官能イソシアネート化合物(B)の含有量がこの数値範囲となることで、吸水層4内で十分な架橋がなされる。
[吸水層4組成物のエポキシド(C)等]
エポキシド(C)は、上述の通り、複数のエポキシ基を有する有機化合物である。
エポキシド(C)は、例えば、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ジエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコール#200ジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコール#400ジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、トリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコール#400ジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、グリセリンジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、水添ビスフェノールAジグリシジルエーテル、及びビスフェノールA PO2mol付加物ジグリシジルエーテル、の少なくとも何れかである。これらのうち、水酸基を有するエポキシド(C)は、例えばグリセリンジグリシジルエーテルである。
エポキシド(C)としては、例えば、共栄社化学株式会社製「エポライト」シリーズが用いられる。これらのうち、水酸基を有するエポキシド(C)は、「エポライト80MF」である。
組成物中におけるエポキシド(C)の含有量は、特に制限がないところ、吸水層4における吸水性等が過度に損なわれない状態で吸水層4の密着性が十分に得られるように決定されることが好ましく、具体的には(メタ)アクリル系樹脂(A)及び多官能イソシアネート化合物(B)合わせて100質量部に対して、1質量部以上10質量部以下であることが好ましく、3質量部以上8質量部以下であることがより好ましく、5質量部以上7質量部以下であることが更に好ましい。
エポキシド(C)の含有量がこの数値範囲となることで、吸水層4の密着性が、他の性能を過度に損なわない状態で十分なものとなる。
[吸水層4組成物の溶剤等]
組成物は、典型的には、各成分を溶剤に溶解または分散させた状態で用いる。
溶剤は、一態様として有機溶剤である。有機溶剤は、例えば、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶剤、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、n-ブタノール、イソブタノール等のアルコール系溶剤、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶剤、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル等のエステル系溶剤、プロピレングリコールモノメチルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロプレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のグリコールエーテル系溶剤が挙げられる。
溶剤の使用量は、特に限定されないところ、固形分(不揮発成分)の濃度が、好ましくは5質量%以上60質量%以下、より好ましくは10質量%以上50質量%以下となるような量とされる。
[吸水層4組成物の各成分の比率等]
組成物は、(メタ)アクリル系樹脂(A)、多官能イソシアネート化合物(B)及びエポキシド(C)の各成分の量比を適切に調整することで、硬化膜の柔軟性及び弾力性を一層向上させ、各種物性に優れた硬化膜を形成することができる。
特に、組成物中の水酸基の量に対するイソシアネート基の量の比が適切に調整されれば、最終的に得られる吸水層4の物性がより良好になる。
即ち、(メタ)アクリル系樹脂(A)が有する水酸基に対する、多官能イソシアネート化合物(B)が含有するイソシアネート基(ブロックイソシアネート基を含む)のモル量(当量比(NCO)/(OH))が、0.15以上0.55以下の範囲であることが好ましい。
その理由は、まず、当量比(NCO)/(OH)が0.15未満では、組成物に含まれる全てのイソシアネート基(NCO)が架橋反応を生じたとしても、その架橋密度が不十分で、吸水層4として必要なレベルにまで到達し難いためである。
一方、当量比(NCO)/(OH)が0.55を超えても、水酸基(OH)に対するイソシアネート基(NCO)の数が相対的に高くなり過ぎて、吸水層4全体として必要な架橋密度を得難い。その理由は、水酸基(OH)に対するイソシアネート基(NCO)の数が相対的に高いと、例えば、1分子の多官能イソシアネート化合物に着目した場合、その分子内で反応に関与するイソシアネート基と反応に関与しないイソシアネート基が生じる等の事態を生じ易くなるためであり、その結果として、架橋密度が比較的に低下して、吸水層4としての防曇性及び耐溶剤性等の機能が十分になり難いためである。
尚、当量比(NCO)/(OH)は、0.25以上0.50以下であることがより好ましく、0.35以上0.45以下であることが更に好ましい。
又、組成物において、(メタ)アクリル系樹脂(A)の水酸基価は、好ましくは80mgKOH/g以上190mgKOH/g以下の範囲であり、より好ましくは100mgKOH/g以上150mgKOH/gであり、更に好ましくは110mgKOH/g以上140mgKOH/g以下である。当該水酸基価がかような範囲とされることで、吸水層4の柔軟性及び弾力性を一層向上させ、各種物性に更に優れた吸水層4が形成される。
[吸水層4組成物の形態等]
組成物は、1液型、即ち溶剤以外の全成分が溶剤に実質的に均一に混合(溶解又は分散)された状態であっても良い。
多官能イソシアネート化合物(B)がブロックイソシアネートである場合には、1液型が好ましい。
又、組成物は、2液型であってもよい。組成物が2液型であれば、組成物の保存性をより高めることができる。例えば、組成物は、(1)(メタ)アクリル系樹脂(A)を含み、多官能イソシアネート化合物(B)を含まない第1液と、(2)多官能イソシアネート化合物(B)を含み、(メタ)アクリル系樹脂(A)を含まない第2液とから構成され、第1液と第2液とは別々の容器で保存され、使用(塗工)直前に第1液と第2液が混合される形態であっても良い。
(メタ)アクリル系樹脂(A)、及び多官能イソシアネート化合物(B)以外の成分は、第1液に含まれていても、第2液に含まれていても、あるいはその他の容器で準備されていても良い。特に、多官能イソシアネート化合物(B)が、ブロックイソシアネートではない場合(系中でイソシアネート基が-NCOの形で存在している場合)には、組成物は2液型であることが好ましい。
吸水層4の物理膜厚は、1μm(マイクロメートル)以上50μm以下であることが好ましく、5μm以上30μm以下であることがより好ましい。
当該物理膜厚がかような範囲内となることで、良好な外観(基材2単独の場合と比較した光学性能の低下の抑制)と、吸水層4の各種性質とのより高度な両立が図られる。
[撥水層6等]
続いて、撥水層6が、更に詳述される。
撥水層6の主成分は、例えば反応性シリコーンである。
反応性シリコーンは、有機ケイ素化合物を重縮合させたポリジメチルシロキサン(シリコーン)に反応性官能基が導入されたものであるところ、好ましくは、アミノ変性シリコーン又はメルカプト変性シリコーンの少なくとも一方である。
反応性シリコーンにおいてアミノ基及びメルカプト基が含有されると、エステル結合を持つ吸水層4との反性が良好になる。一方、シラノール基を有するシリコーン、及びフルオロアルキルシランは、吸水層4との反応性が比較的に悪く、撥水性能の点で劣る。
アミノ変性シリコーン及びメルカプト変性シリコーンの官能基当量は、好ましくは5000以上100000以下であり、より好ましくは10000以上60000以下である。
アミノ変性シリコーンは、例えば、信越化学工業株式会社製「KF-869」,「KF-8021」の少なくとも一方である。これらは、側鎖型のアミノ変性シリコーンであり、ジアミン変性タイプである。これらのうち、「KF-8021」((25℃での)粘度15000mm毎秒,官能基当量55000g/mol)が、「KF-869」(粘度1500mm毎秒,官能基当量3800g/mol)に対して、粘度及び官能基当量がより大きく、撥水層6の滑り性の向上に寄与する観点から好ましい。
撥水層6は、例えば、非反応性溶媒に上記成分を混合させて調整した溶液を、吸水層4の表面に、ディッピング法、スプレー法、ロールコート法、スピンコート法等の湿式法で適用することで、成膜可能である。上記非反応性溶媒は、例えば、ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン等の脂肪族炭化水素系溶剤性溶剤、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶剤等である。これらの溶剤は、単用されても良いし、併用されても良い。
撥水層6の物理膜厚は、好ましくは0.5nm以上20nmであり、より好ましくは吸水層4の吸水特性への影響を抑制するために10nm以下である。
撥水層6表面の水に対する接触角は、好ましくは100度以上である。接触角の大小は、吸水層4に含まれる界面活性剤等の水溶性成分の残存程度、及び変成シリコーンの吸水層4表面への固着程度等に依存する。より接触角を大きくするため、撥水層6の成膜時に、吸水層4付き基材2は、水及びアルコールの少なくとも一方等で処理されることで、水溶性成分が除去されても良いし、表面活性化処理によって、反応性が高められても良い。かような処理加工は、物理的処理加工が好ましく、例えば、プラズマ処理及び紫外線処理の少なくとも一方であり、これらの中でもプラズマ処理加工がより好ましい。
本発明に属する実施例が以下に示される。但し、実施例は、本発明の範囲を限定するものではない。尚、本発明の捉え方によって、下記の実施例の一部が、実質的には本発明に属さない比較例となり得る。
[実施例1~5の形成等]
屈折率が1.60であるチオウレタン(三井化学株式会社製「MR-8」)製の基材2であって、度数S-2.00の眼鏡レンズ基材である基材2に対し、上述の組成物がディッピング法により塗布され、更に130℃で2時間加熱することにより塗布された組成物を硬化することで吸水層4が成膜され、実施例1が形成された。尚、溶剤はプロピレングリコールモノメチルエーテル(PGM)とされた。
ここでの組成物の(メタ)アクリル系樹脂(A)は、構成単位(a-1)がジメチルアクリルアミド(DMAA)であって50質量%であり、構成単位(a-2)がポリカプロラクトン変性ヒドロキシエチルアクリレート(株式会社ダイセル製「プラクセルFA2D」であって35質量%であり、構成単位(a-3)が2-ヒドロキシルエチルメタクリレート(HEMA)であって10質量%であり、構成単位(a-4)が片末端メタクリレート変成ポリジメチルシロキサン(JNC株式会社製「サイラプレーンFM-0721」)であって5質量%である。
又、ここでの組成物の多官能イソシアネート化合物(B)は、ヘキサメチレンジイソシアネートのビウレットタイプ(旭化成株式会社製「24A-100」)であって、(メタ)アクリル系樹脂(A)100質量部に対して18重量部である。
更に、ここでの組成物のエポキシド(C)は、グリセリンジグリシジルエーテル(共栄社化学株式会社製「エポライト80M」)であって、(メタ)アクリル系樹脂(A)及び多官能イソシアネート化合物(B)100質量部に対して6質量部(組成物固形分の約6質量%)である。
実施例1の組成物における残存水酸基の量(残存OH Vol.)は、20%以上30%未満(20-30%)であり、樹脂における水酸基の量(樹脂OH Vol.)は中程度(中)である。残存OH Vol.は、出願人が材料メーカーではないため、幅のある状態の情報しか実質的に得られず(分析に多大な時間及びコストを要する)、樹脂OH Vol.は、樹脂の元素の分析に多大な時間及びコストを要するため、実質的には相対的な大小が把握される。
又、屈折率が1.60であるチオウレタン(三井化学株式会社製「MR-8」)製の基材2であって、厚さ2mm(ミリメートル)の平板である基材2に対し、実施例1と同様に組成物を硬化して吸水層4が成膜されることで、実施例2が形成された。
更に、実施例2に対し、アミノ変性シリコーン(信越化学工業株式会社製「KF-869」)がディッピング法で塗布されることで、吸水層4の上に撥水層6が成膜され、実施例3が形成された。実施例3の撥水層6の物理膜厚は、約10nmである。
又更に、アミノ変性シリコーンが信越化学工業株式会社製「KF-8021」とされたことを除き、実施例3と同様にして、実施例4が形成された。
加えて、アミノ変性シリコーンが塗布される前において吸水層4付き基材2にプラズマ処理が施されたことを除き、実施例4と同様にして、実施例5が形成された。
[比較例1~11の形成等]
比較例1は、組成物においてエポキシド(C)が使用されず、(メタ)アクリル系樹脂(A)の残存OH Vol.(5-8%)及び樹脂OH Vol.(小)が実施例1に対して減らされ、更に架橋補助剤としてのポリオール化合物(株式会社ダイセル製「CD205PL」)が組成物固形分全体に対して30質量%の分量で追加され、且つ硬化時間が1.5時間に減らされたことを除き、実施例1と同様に形成された。ポリオール化合物は、(メタ)アクリル系樹脂(A)と共に多官能イソシアネート化合物(B)と反応し、吸水層4を形成する。ポリオール化合物は、(メタ)アクリル系樹脂(A)と多官能イソシアネート化合物(B)との間に入り込んで反応し、橋渡しの役割を担って、吸水層4として十分な架橋密度を保ちつつ、水分が吸収されるための隙間を広げる役割を担っている。比較例1のポリオール化合物は、脂環骨格を有していない。
比較例2は、(メタ)アクリル系樹脂(A)の残存OH Vol.(9-11%)及び樹脂OH Vol.(中)が比較例1に比べて増加されたことを除き、比較例1と同様に形成された。
比較例3は、(メタ)アクリル系樹脂(A)の残存OH Vol.(12-15%)及び樹脂OH Vol.(大)が比較例2に比べて増加されたことを除き、比較例2と同様に形成された。
比較例4は、ポリオール化合物が脂環骨格を有するもの(ポリカプロラクトンジオール;株式会社ダイセル製「プラクセル205U」)とされ、多官能イソシアネート化合物(B)の質量%が40ポイント減少され、且つ残存OH Vol.が20-30%とされたことを除き、比較例2と同様に形成された。
比較例5は、比較例4と同様に脂環骨格を有するポリオール化合物が加えられ、更にエポキシド(C)が実施例1と同等に加えられ、樹脂OH Vol.が小とされたことを除き、比較例1と同様に形成された。
比較例6は、(メタ)アクリル系樹脂(A)の樹脂OH Vol.が比較例2と同等とされたことを除き、比較例5と同様に形成された。
比較例7は、硬化時間が2時間と増やされたことを除き、比較例6と同様に形成された。
比較例8は、硬化時間が2時間と増やされ、残存OH Vol.が7-10%とされたことを除き、比較例4と同様に形成された。
尚、実施例1、並びに比較例2,4,6,7における(メタ)アクリル系樹脂(A)は、同じである。比較例4では、多官能イソシアネート化合物(B)の質量%が40ポイント減少されているため、残存OH Vol.が多くなっている。又、実施例1、並びに比較例5~7の残存OH Vol.は、エポキシド(C)の残存OH Vol.を含んでいる。
比較例9は、基材2が実施例2と同様に平板とされたことを除き比較例1と同様に形成された。
比較例10は、比較例9の吸水層4付き基材2に対し、実施例2と同様の撥水層6(KF-869)を成膜して形成された。
比較例11は、撥水層6が実施例3と同様のもの(KF-8021)であることを除き、比較例10と同様に形成された。
実施例1及び比較例1~8(何れも撥水層6無し)に係る耐候性の試験結果が、次の表1の右部に示される。
実施例1及び比較例1~8(何れも撥水層6無し)に係る触感(滑り及びグリップ)、耐傷性及び防曇性の試験結果が、次の表2の右部に示される。
又、実施例2及び比較例9(何れも撥水層6無し)、並びに実施例3~5及び比較例10~11(何れも撥水層6有り)に係る滑り性の試験結果が、次の表3の右部に示される。
尚、表1及び表2の各左部には、実施例1及び比較例1~8における樹脂OH Vol.、エポキシドの有無、ポリオールに係る有無及び有る場合の脂環の有無、並びに残存OH Vol.について示されている。又、表3の左部には、撥水剤の種類(撥水層6無しの場合「-」)が示されている。
Figure 2023055531000005
Figure 2023055531000006
Figure 2023055531000007
[耐候性等]
実施例1及び比較例1~8について、次のような促進された状態の耐候密着試験が行われ、耐候性が評価された(上記表1参照)。
まず、吸水層4側の面において、カッターによって、100マスのマス目が、1マスを1辺の大きさが10mm(ミリメートル)である正方形とした状態で形成された。
次いで、マス目形成箇所に対するセロハンテープの付着及び勢いのある剥離が5回繰り返され、剥がれが生じなかったマスの数が確認された(初期の確認)。半マス分の剥がれは、0.5マスとして数えられた。
続いて、試験対象(実施例1等)がサンシャインウェザーメータ(スガ試験機株式会社製S80B)に60時間(hr.)投入され、その後、投入前と同様に、新たに形成されたマス目形成箇所に対して適用したセロハンテープによって剥がれが発生しなかったマスの数が数えられた(60hr.の確認)。
更にその後、同様に試験対象がサンシャインウェザーメータに60時間投入され剥がれなかったマス目数が確認され(述べ120hr.の確認)、かような投入と確認が、60時間毎に最初の投入から述べ240時間投入された後の確認まで繰り返された(180hr.の確認,240hr.の確認)。
又、240hr.の確認結果に基づいて、耐候密着性が評価された。即ち、剥がれの無いマスの数が95マス以上100マス以下である場合、評価は「○」とされた。又、剥がれの無いマスの数が80マス以上94マス以下である場合、評価は「△」とされた。又、剥がれの無いマスの数が79マス以下である場合、及び、240hr.より短い時間で試験が打ち切られた場合、評価は「×」とされた。
比較例1,2は、60hr.の確認の時点で剥がれが多くみられ、試験が途中で打ち切られた。比較例1,2の耐候密着性評価は、何れも「×」である。
比較例3~5は、120hr.の確認の時点で剥がれが多くみられ、試験が途中で打ち切られた。比較例3~5の耐候密着性評価は、何れも「×」である。
比較例6,7は、240hr.の確認時の残存マス数が順に99,100であり、それらの耐候密着性評価は、何れも「○」である。
比較例8は、240hr.の確認時の残存マス数が90であり、その耐候密着性評価は「△」である。
実施例1は、240hr.の確認時の残存マス数が98であり、その耐候密着性評価は「○」である。
[触感等]
実施例1及び比較例1~8について、次のような触感試験が行われ、触感が評価された(上記表2参照)。
即ち、試験者が試験対象を市販の眼鏡拭き布(ポリアミドマイクロファイバー製)で拭き始めた際に感じる抵抗(グリップ感)の大小が、試験者により評価された。拭き始めの抵抗即ちグリップ感が大きいと、眼鏡拭き布が試験対象に対する相対的な静止状態から動かし難く、試験者は試験対象を拭き難い。
又、試験者が試験対象を同じ眼鏡拭き布で拭いている最中に感じる抵抗(動的滑り性)の大小に基づく動的滑り性が、併せて試験者により評価された。拭いている間の抵抗が大きい場合、即ち動的滑り性が低い場合、試験者は試験対象の拭きを継続し難い。
そして、試験者は、これら2つの観点を総合して触感を評価し、触感が悪い場合の評価を「×」とし、触感が良いとは言えない場合の評価を「△」とし、触感が良い場合の評価を「○」とし、触感が極めて良い場合の評価を「◎」とし、「○」と「◎」の間の評価を「○-◎」とした。
比較例1~8の触感の評価は、「△」~「○-◎」であった。
これらに対し、実施例1の触感の評価は、「◎」であった。
[耐傷性等]
実施例1及び比較例1~8について、次のような耐傷性試験が行われ、耐傷性が評価された(上記表2参照)。
耐傷性試験の評価は、次の3種類の試験項目を総合して行われた。
まず、第1の耐傷性試験項目として、試験対象の吸水層4側に、純水パルプ100%の不織布(小津産業株式会社製「ピュアリーフL150」)が500g(グラム)の荷重で当てられ、50往復された後での、目視可能なキズの本数が数えられた。
次に、第2の耐傷性試験項目として、試験対象の吸水層4側に、セーム革(株式会社ソフト99コーポレーション製「マイクロセーマワイド」)が500gの荷重で当てられ、50往復された後での、目視可能なキズの本数が数えられた。
更に、第3の耐傷性試験項目として、予め上記セーム革及び試験対象が5分間水に浸漬された後、試験対象の吸水層4側に、浸漬により水を含んだ上記セーム革が500gの荷重で当てられ、50往復された後での、目視可能なキズの本数が数えられた。
耐傷性試験の評価は、次の手順で行われた。まず、上記3種類の試験項目で生じたそれぞれのキズの本数に対し、次の要領で評価点数を付けた。即ち、当該本数が11本以上である場合、評価点数が0点とされ、当該本数が9本以上10本以下である場合、評価点数が1点とされ、当該本数が7本以上8本以下である場合、評価点数が2点とされ、当該本数が5本以上6本以下である場合、評価点数が3点とされ、当該本数が3本以上4本以下である場合、評価点数が4点とされ、当該本数が1本以上2本以下である場合、評価点数が5点とされ、当該本数が0本である場合、評価点数が6点とされた。次いで、試験対象毎に、3種類の試験項目における評価点数の平均値が算出された。そして、当該平均値(6点満点)が大きい程、試験対象が耐傷性に優れるものと評価された。
比較例3の耐傷性の評価は、3.0と比較的に低かった。
比較例1,2,4,7の耐傷性の評価は、5.0~5.3であった。
これらに対し、比較例5,6,8及び実施例1の耐傷性の評価は、5.7であった。
[防曇性等]
実施例1及び比較例1~8について、次のような防曇性試験が行われ、防曇性が評価された(上記表2参照)。
即ち、試験者は、試験対象の吸水層4側に、呼気を、10mm程度の距離で2秒間かけ続けた直後、曇りの発生状況を確認した。
試験対象に曇りが発生しなかった場合、その試験対象は「○」と評価された。試験対象の一部に僅かに曇りが発生し、短時間で曇りが解消された場合、その試験対象は「△」と評価された。呼気吹きかけ直後に曇りが発生し、2秒間かけ続けた後で広範囲に曇りが発生した場合、その試験対象は「×」と評価された。
比較例2,3の防曇性の評価は、「△」と比較的に低かった。
これらに対し、比較例1,4~8及び実施例1の防曇性の評価は、「○」であった。
[滑り性等]
実施例2~5及び比較例9~11について、次のような摩擦摩耗試験が行われ、滑り性が評価された(上記表3参照)。
即ち、試験対象が、自動摩擦摩耗解析装置(協和界面科学株式会社製「TSf-502」)にかけられた。試験対象に擦り付けるために接触子にセットされる布は、ポリエステル長繊維100%のワイパ(アズワン株式会社製クリーンルームワイパ「AS-4000D」)であり、接触子に対し、両面テープで、たわみのない状態で1枚貼られた。当該布にかけられる荷重は、500gに設定された。当該布の速度は、1mm毎秒に設定された。当該布の往復動距離は、20mmに設定された。
試験者は、1つの試験対象当たり5回測定し、1回目の測定値について拭き始めのグリップ感に対応する静止摩擦係数μと扱い、2~5回目の測定値の平均について拭いている最中の動的滑り性に対応する動摩擦係数μと扱った。
静止摩擦係数μが大きいと、拭き始めの抵抗が強く、試験対象は拭き始め難いものとなる。動摩擦係数μが大きいと、拭いているときの抵抗が強く、試験対象は拭き続け難いものとなる。
比較例9は、吸水層4形成時にエポキシド(C)が使用されず、ポリオール化合物が使用されており、撥水層6が設けられないため、その静止摩擦係数μは0.426であり、動摩擦係数μは0.099である。
比較例10は、比較例9に対し、「KF-869」に係る撥水層6を加えたものであり、その静止摩擦係数μは0.392であり、動摩擦係数μは0.067であって、これらは比較例9に対して小さくなっている。
比較例11は、比較例9に対し、「KF-8021」に係る撥水層6を加えたものであり、その静止摩擦係数μは0.212であり、動摩擦係数μは0.026であって、これらは比較例10に対して小さくなっている。
実施例2は、(メタ)アクリル系樹脂(A)、多官能イソシアネート化合物(B)及びエポキシド(C)により吸水層4が形成されるため、その静止摩擦係数μは0.054であり、動摩擦係数μは0.077であって、これらは比較例9に対して大幅に小さくなっている。
実施例3は、実施例2と同様の吸水層4の上に、「KF-869」に係る撥水層6が形成されたもので、その静止摩擦係数μは0.020であり、動摩擦係数μは0.012であって、これらは実施例2に対して小さくなっている。
実施例4は、実施例2と同様の吸水層4の上に、「KF-8021」に係る撥水層6が形成されたもので、その静止摩擦係数μは0.019であり、動摩擦係数μは0.009であって、これらは実施例3に対して小さくなっている。
実施例5は、実施例2と同様の吸水層4に対し、プラズマ処理の後、「KF-8021」に係る撥水層6が形成されたもので、その静止摩擦係数μは0.010であり、動摩擦係数μは0.004であって、これらは実施例4に対して小さくなっている。
[まとめ等]
実施例1~5は、比較例1~11と異なり、(メタ)アクリル系樹脂(A)、多官能イソシアネート化合物(B)及びエポキシド(C)により吸水層4が形成されるため、防曇性、耐傷性、及び耐久性がより高い水準で併存するものとなった。(メタ)アクリル系樹脂(A)における各構成単位(a-1)~(a-4)の割合の範囲は、上記特許文献1のものに準じている。
実施例3~5は、撥水層6が付与されたため、実施例2より滑り性が向上した。実施例4の撥水層6は、実施例3の「KF-869」に比べ官能基当量が大きい「KF-8021」により形成されたため、実施例3より滑り性が向上した。実施例5の撥水層6は、実施例4では行われなかったプラズマ処理が行われたため、実施例4より滑り性が向上した。
又、実施例1~5とは別に、実施例1の多官能イソシアネート化合物(B)の分量を様々に変えた各種の変更例が作成され、各種の性能のより高い水準での保持の観点から、多官能イソシアネート化合物(B)の好ましい割合は、(メタ)アクリル系樹脂(A)100質量部に対して5質量部以上100質量部以下であることが確かめられた。
更に、実施例1~5とは別に、実施例1のエポキシド(C)の分量を様々に変えた各種の変更例が作成され、各種の性能(特に密着性)のより高い水準での保持の観点から、エポキシド(C)の好ましい割合は、(メタ)アクリル系樹脂(A)及び多官能イソシアネート化合物(B)合わせて100質量部に対して、1質量部以上10質量部以下であることが確かめられた。
加えて、実施例1~5とは別に、実施例2の撥水剤の種類(官能基当量)を様々に変えた各種の変更例が作成され、各種の性能(特に滑り性)のより高い水準での保持の観点から、撥水剤の官能基当量の好ましい範囲は、5000以上であることが確かめられた。
1・・防曇性プラスチック眼鏡レンズ、2・・基材、4・・吸水層、6・・撥水層、M・・成膜面。

Claims (6)

  1. 下記一般式(1)で表されるモノマー(a-1)に由来する構成単位、下記一般式(2)で表されるモノマー(a-2)に由来する構成単位、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート(a-3)に由来する構成単位、及び、下記一般式(3)で表されるモノマー(a-4)に由来する構成単位を有する(メタ)アクリル系樹脂(A)と、
    多官能イソシアネート化合物(B)と、
    複数のエポキシ基を有する有機化合物であるエポキシド(C)と、
    を含む組成物から得られる吸水層を有しており、
    前記(メタ)アクリル系樹脂(A)は、全構成単位100質量%に対し、前記モノマー(a-1)に由来する構成単位の割合が20質量%以上65質量%以下であり、前記モノマー(a-2)に由来する構成単位の割合が10質量%以上40質量%以下であり、且つ前記モノマー(a-4)に由来する構成単位の割合が1質量%以上10質量%以下である
    ことを特徴とする防曇性プラスチック眼鏡レンズ。
    Figure 2023055531000008
    一般式(1)中、Rは水素原子又はメチル基であり、R及びRは水素原子又は炭素数1~3の直鎖若しくは分岐のアルキル基であり、R及びRは互いに同一であっても良いし、それぞれ異なっていても良い。
    Figure 2023055531000009
    一般式(2)中、Rは水素原子又はメチル基であり、nは1以上5以下の整数である。
    Figure 2023055531000010
    一般式(3)中、Rは水素原子又はメチル基であり、Rは2価の有機基であり、nは0又は1以上の整数である。
  2. 前記多官能イソシアネート化合物(B)の割合は、前記(メタ)アクリル系樹脂(A)100質量部に対して5質量部以上100質量部以下である
    ことを特徴とする請求項1に記載の防曇性プラスチック眼鏡レンズ。
  3. 前記エポキシド(C)は、前記(メタ)アクリル系樹脂(A)及び前記多官能イソシアネート化合物(B)合わせて100質量部に対して、1質量部以上10質量部以下である
    ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の防曇性プラスチック眼鏡レンズ。
  4. 前記エポキシド(C)は、1以上の水酸基を有する
    ことを特徴とする請求項1ないし請求項3の何れかに記載の防曇性プラスチック眼鏡レンズ。
  5. 更に、アミノ変性シリコーン及びメルカプト変性シリコーンの少なくとも一方を主成分とする撥水層を、前記吸水層の上に有する
    ことを特徴とする請求項1ないし請求項4の何れかに記載の防曇性プラスチック眼鏡レンズ。
  6. 前記撥水層は、官能基当量が5000以上である前記アミノ変性シリコーン及び前記メルカプト変性シリコーンの少なくとも一方を主成分とする
    ことを特徴とする請求項5に記載の防曇性プラスチック眼鏡レンズ。
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