JP2023042825A - 保持装置 - Google Patents

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Figure 2023042825000001
【課題】対象物を保持する板状部に対する入熱が大きくなる場合であっても、保持装置における冷却性能を高めて、接合部の損傷等を抑える。
【解決手段】対象物を保持する保持装置は、板状に形成される板状部と、板状部を支持し、板状部を主に形成する材料の熱膨張率と異なる熱膨張率を有する材料を主とし、冷却機能を有し、板状に形成されるベース部と、板状部とベース部との間に配置され、接着剤を含み、板状部とベース部とを接合する接合部と、を備える。接合部の熱抵抗は、5.0×10-4(mK/W)以下であり、接合部の最大せん断応力時ひずみ量は、0.5mm以上である。
【選択図】図1

Description

本開示は、保持装置に関する。
従来、対象物を保持する保持装置として、例えば、半導体を製造する際にウェハ等の対象物を保持する静電チャックが知られている。静電チャックは、一般に、対象物が載置されるセラミック部と、冷媒流路が形成されるベース部と、セラミック部とベース部とを接合する接合部と、を備える。例えば、特許文献1には、接着剤層(接合部)の材質として、シリコーン樹脂や、シリコーン樹脂に酸化アルミニウムまたは窒化アルミニウム等の熱伝導性フィラーを添加した複合樹脂等からなる接着剤を用いることが記載されている。
特開2008-300491号公報
上記特許文献1に記載の技術によれば、接合部の材質としてシリコーン樹脂を用いることで、比較的高い温度条件下であっても、セラミック部とベース部との間の応力を緩和することができる。しかしながら、例えば静電チャックを、より高出力のプラズマに暴露して用いる場合のように、セラミック部に対する入熱が大きくなる場合には、セラミック部が過剰に昇温してウェハの加工精度が低下する可能性があった。また、セラミック部の過剰な温度上昇により接合部等に生じる応力に起因して、接合部が損傷する可能性があった。そのため、セラミック部に対する入熱が大きくなる場合であっても、保持装置における冷却性能を高めて、接合部の損傷等の不都合の発生を抑制できる技術が望まれていた。
本開示は、以下の形態として実現することが可能である。
(1)本開示の一形態によれば、保持装置が提供される。この保持装置は、板状に形成される板状部と、前記板状部を支持し、前記板状部を主に形成する材料の熱膨張率と異なる熱膨張率を有する材料を主とし、冷却機能を有し、板状に形成されるベース部と、前記板状部と前記ベース部との間に配置され、接着剤を含み、前記板状部と前記ベース部とを接合する接合部と、を備え、前記接合部の熱抵抗は、5.0×10-4(mK/W)以下であり、前記接合部の最大せん断応力時ひずみ量は、0.5mm以上である。
この形態の保持装置によれば、板状部に対する入熱が大きくなる場合であっても、保持装置における冷却性能を高めると共に、接合部に生じる応力に起因する不都合を抑えることができる。
(2)上記形態の保持装置において、前記接合部は、該接合部について引張試験を行い、せん断力による変形の長さが0.5mmになるときのせん断応力が、0.1MPa以上、3.5MPa以下であることとしてもよい。このような構成とすれば、接合部に発生するせん断応力を抑えることができるため、接合部に生じる応力に起因する不都合を抑える効果をさらに高めることができる。
(3)上記形態の保持装置において、前記接合部は、前記接着剤と無機フィラーとを含む複合物により構成されることとしてもよい。このような構成とすれば、接着剤により接合部の柔軟性を確保して最大せん断応力時ひずみ量を大きくすると共に、無機フィラーにより接合部の伝熱性を確保して、接合部の熱抵抗を抑えることができる。
(4)上記形態の保持装置において、前記無機フィラーを断面視したときの内接円の半径をR1とし、外接円の半径をR2とすると、R2/R1の値の平均値が1.10以上であることとしてもよい。このような構成とすれば、無機フィラー同士の接点がより多く形成されて、接合部内で熱伝導パスが形成され易くなり、接合部の熱抵抗を抑えることができる。
(5)上記形態の保持装置において、前記接合部の剛性率が0.03MPa以上、2.0MPa以下であることとしてもよい。このような構成とすれば、接合部の柔軟性が確保されるため、接合部における応力緩和性能を高めて、接合部にせん断力が加えられたときの接合部の損傷を抑えることができる。また、接合部の形状保持性を高めることができる。
(6)上記形態の保持装置において、前記接合部は、前記接着剤を含む樹脂層と、前記樹脂層内において前記接合部の面方向に広がるように形成されて、無機材料によって構成される無機シートと、を備えることとしてもよい。このような構成とすれば、無機シートを設けることにより、熱抵抗や最大せん断応力時ひずみ量を、接合部の面内で均一化することができると共に、接合部の面内の温度分布を、均一化することができる。
(7)上記形態の保持装置において、前記板状部は、セラミックを主成分とし、前記対象物を保持するための吸着電極を含み、前記対象物を加熱するためのヒータ電極を含まないこととしてもよい。このような構成とすれば、ヒータ電極により対象物および板状部が加熱されない場合であっても、板状部に対する入熱が大きく、板状部とベースとの温度差が大きくなり易い使用状態において、保持装置における冷却性能を高めると共に、接合部に生じる応力に起因する不都合を抑える効果を顕著に得ることができる。
本開示は、上記以外の種々の形態で実現可能であり、例えば、保持装置を含む半導体製造装置、保持装置の製造方法、接合部の形成方法などの形態で実現することができる。
第1実施形態の静電チャックの外観の概略を表す斜視図。 静電チャックの構成を模式的に表す断面図。 無機フィラーの粒子の「R2/R1」の求め方を示す説明図。 無機フィラーの粒子間で伝熱パスが形成される様子を示す説明図。 無機フィラーの含有割合と接合部の熱伝導率との関係を示す説明図。 接合部で発生する応力に関する説明図。 第2実施形態の静電チャックの構成を模式的に示す断面図。 各サンプルの測定結果と評価結果とを、まとめて示す説明図。 各サンプルの測定結果と評価結果とを、まとめて示す説明図。 各サンプルの測定結果と評価結果とを、まとめて示す説明図。 各サンプルの測定結果と評価結果とを、まとめて示す説明図。 最大せん断応力およびひずみ量の算出方法を模式的に示す説明図。 引張試験による実測値の一例(サンプルS25)を示す説明図。 引張試験による実測値の一例(サンプルS25)を示す説明図。
A.第1実施形態:
(A-1)静電チャックの構造:
図1は、第1実施形態における静電チャック10の外観の概略を表す斜視図である。図2は、静電チャック10の構成を模式的に表す断面図である。図1では、静電チャック10の一部を破断して示している。また、図1、図2、および後述する図6、図7には、方向を特定するために、互いに直交するXYZ軸を示している。各図に示されるX軸、Y軸、Z軸は、それぞれ同じ向きを表す。本願明細書においては、Z軸は鉛直方向を示し、X軸およびY軸は水平方向を示している。なお、上記各図は、各部の配置を模式的に表しており、各部の寸法の比率を正確に表すものではない。
静電チャック10は、対象物を静電引力により吸着して保持する装置であり、例えば半導体製造装置の真空チャンバ内で、対象物であるウェハWを固定するために使用される。静電チャック10は、セラミック部20と、ベース部30と、接合部40と、を備える。これらは、-Z軸方向(鉛直下方)に向かって、セラミック部20、接合部40、ベース部30の順に積層されている。本実施形態における静電チャック10を、「保持装置」とも呼ぶ。
セラミック部20は、略円形の板状部材であり、セラミック(例えば、酸化アルミニウムや窒化アルミニウム等)を主成分として形成されている。本願明細書において、特定成分が「主成分である」あるいは「主に形成する材料である」とは、当該特定成分の含有率が、50体積%以上であることを意味する。セラミック部20の直径は、例えば、50mm~500mm程度とすればよく、通常は200mm~350mm程度である。セラミック部20の厚さは、例えば1mm~10mm程度とすればよい。セラミック部20は、「板状部」とも呼ぶ。
図2に示すように、セラミック部20の内部には、吸着電極22が配置されている。吸着電極22は、例えば、タングステンやモリブデンなどの導電性材料により形成されている。吸着電極22に対して図示しない電源から電圧が印加されると、静電引力が発生し、この静電引力によってウェハWがセラミック部20の載置面24に吸着固定される。吸着電極22は、双極型であってもよく、単極型であってもよい。また、セラミック部20の内部には、導電性材料(例えば、タングステンやモリブデン等)により形成された抵抗発熱体で構成されて、載置面24に吸着固定されたウェハWを加熱するための、図示しないヒータ電極を設けてもよい。
ベース部30は、金属を含み、略円形に形成された板状部材である。ベース部30は、例えば、アルミニウム、マグネシウム、モリブデン、チタン、タングステン、ニッケルのうちの少なくとも一種の金属を含むこととすることができる。モリブデン、チタン、タングステンは、上記した金属の中でも熱膨張率が比較的小さいため、これらのうちの少なくとも一種の金属を用いてベース部30を構成する場合には、ベース部30とセラミック部20との間の熱膨張率差を抑えることができて望ましい。なお、本願明細書において、「熱膨張率」は、「線膨張率」を指す。また、マグネシウムは、ヤング率が比較的小さいため、マグネシウムを用いてベース部30を構成する場合には、ベース部30で生じる熱応力を低減することができて望ましい。また、アルミニウムは、熱伝導率が比較的高く、加工が容易で低コストである。そのため、アルミニウムを用いてベース部30を構成する場合には、ベース部30によるセラミック部20およびウェハWの冷却効率を高めることができ、静電チャック10の製造コストを抑えることができて望ましい。ベース部30による冷却効率を高めつつ製造コストを抑える観点からは、ベース部30における金属の含有割合が高い方が望ましく、ベース部30は、金属を主成分とすることが望ましい。例えば、汎用性が高いアルミニウムを90質量%以上含有すること(例えば、A6061、A5052などのアルミニウム合金により構成すること)が望ましい。ただし、ベース部30は、セラミックなどの金属以外の成分を含んでいてもよい。ベース部30の直径は、例えば、220mm~550mm程度とすればよく、通常は220mm~350mmである。ベース部30の厚さは、例えば、20mm~40mm程度とすればよい。
ベース部30の内部には、複数の冷媒流路32がXY平面に沿うように形成されている。冷媒流路32に、例えばフッ素系不活性液体や水や液体窒素等の冷媒を流すことにより、ベース部30が冷却される。そして、接合部40を介したベース部30とセラミック部20との間の伝熱によりセラミック部20が冷却され、セラミック部20の載置面24に保持されたウェハWが冷却される。これにより、ウェハWの温度制御が実現される。ベース部30の内部に冷媒流路32を有する形態の他、ベース部30の外部からベース部30を冷却することにより、ベース部30に冷却機能を持たせてもよい。
接合部40は、セラミック部20とベース部30との間に配置されて、セラミック部20とベース部30とを接合する。接合部40は、樹脂材料によって形成される接着剤を含む。接合部40は、さらに、接合部40の性質や接合部40を形成するためのペーストの性質を調整するための種々の充填材(無機フィラー)を含んでいてもよい。すなわち、接合部40は、接着剤と無機フィラーとを含む複合物により構成することができる。ただし、接合部40が後述する性質を満たすならば、接合部40は無機フィラーを含まないこととしてもよい。接合部40の厚みは、接合部40の熱抵抗を低減する観点から、例えば、1.00mm以下とすればよく、0.45mm以下が望ましく、0.40mm以下がより望ましく、0.35mm以下がさらに望ましい。接合部40の厚みは、例えば、接合部40の柔軟性および強度を確保する観点から、0.05mm以上とすればよい。
静電チャック10には、さらに、複数のガス供給路50が形成されている。ガス供給路50は、セラミック部20、接合部40、およびベース部30をZ方向に貫通して設けられており、載置面24に形成されたガス吐出口52において開口している(図1参照)。ガス供給路50は、図示しないガス供給装置から、例えばヘリウムガス等の不活性ガスを供給されて、載置面24とウェハWとの間の空間に対して、ガス吐出口52から不活性ガスを供給する。これにより、セラミック部20とウェハWとの間の伝熱性を高めて、ウェハWの温度分布の制御性がさらに高められる。なお、ガス供給路50は必須ではなく、静電チャック10にガス供給路50を設けないこととしてもよい。
(A-2)接合部の構成:
以下では、接合部40の構成について説明する。接合部40は、既述したように、樹脂によって構成される接着剤を備え、さらに、無機フィラー(充填材)を含むことができる。そして、本実施形態の静電チャック10が備える接合部40は、熱抵抗が5.0×10-4(mK/W)以下であり、最大せん断応力時ひずみ量が0.5mm以上である。最大せん断応力時ひずみ量とは、接合部40の柔軟性および応力緩和性能の指標となる数値である。最大せん断応力時ひずみ量については、後に詳しく説明する。
接合部40を構成する接着剤としては、例えば、シリコーン樹脂、アクリル樹脂、あるいはエポキシ樹脂等を用いることができる。特にシリコーン樹脂は、比較的耐熱性および柔軟性に優れるため望ましい。これらの樹脂の中でもシリコーン樹脂は、弾性率が比較的低いために、接合部40で生じる熱応力を緩和する機能が高く、また、耐熱温度が比較的高いため、望ましい。
無機フィラーとしては、セラミック、金属酸化物、金属、あるいは他の無機化合物を含む種々の無機材料から成る、粒状あるいは粉体状等の物質を用いることができる。具体的には、無機フィラーとしては、例えば、窒化アルミニウム(AlN)、酸化アルミニウム(アルミナ:Al)、酸化ジルコニウム(ジルコニア:ZrO)、酸化イットリウム(イットリア:Y)、フッ化イットリウム(YF)、炭化ケイ素(SiC)、窒化ケイ素(Si)、二酸化ケイ素(シリカ:SiO)、酸化鉄、硫酸バリウム、炭酸カルシウム等を用いることができる。無機フィラーを構成する上記のような無機材料は、一般に、接着剤である樹脂よりも熱伝導率が高いため、接合部40に無機フィラーを添加することにより、接合部40における熱伝導性を高めることができる。特に、熱伝導率が比較的高く、接合部40の熱抵抗を抑え易くなるという観点から、無機フィラーを構成する材料としては、窒化アルミニウムや酸化アルミニウムや炭化ケイ素が好ましく、窒化アルミニウムおよび酸化アルミニウムが特に好ましい。
なお、接合部40は、さらに、硬化反応を促進する触媒、硬化や接着を促進して接着性を付与するためのシランカップリング剤、架橋剤、接着剤の硬化速度を調整するための反応抑制剤、あるいは粘度調整剤等を含んでいてもよい。接合部40が含む触媒としては、従来知られる種々の触媒を利用可能であり、例えば、白金触媒、ロジウム触媒、チタン触媒、ビスマス触媒等を用いることができる。中でも、反応性が高い白金触媒を用いることが望ましい。接合部40が含むシランカップリング剤としては、特に制限は無く、例えば、有機反応性基としてビニル基、エポキシ基、メタクリル基、アミノ基、メルカプト基、イソシアネート基のいずれかを有するものなど、従来知られるシランカップリング剤の中から適宜選択することができる。また、上記シランカップリング剤の代わりに、チタネート系カップリング剤やアルミネート系カップリング剤を使用してもよい。接合部40が含む架橋剤としては、1分子中に少なくとも3つのヒドロシリル基を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンを用いることができる。より具体的には、例えば、ポリメチルハイドロジェンシロキサン、および、ポリ(ジメチルシロキサン-メチルハイドロジェンシロキサン)の少なくとも一方を用いることができる。
接合部40が含む反応抑制剤としては、従来知られる種々の反応抑制剤を利用可能であり、例えば、1,3,5,7-テトラメチル-1,3,5,7-テトラビニルシクロテトラシロキサン、1,1,3,3-テトラメチル-1,3-ジビニルジシロキサン、トリアリルイソシアヌレート等を用いることができる。接合部40が含む粘度調整剤としては、従来知られる種々の粘度調整剤を利用可能であり、例えば、煙霧質シリカ、ヒュームドシリカ、コロイダルシリカ、煙霧質アルミナ、ヒュームドアルミナ、コロイダルアルミナ等を用いることができる。上記した触媒、シランカップリング剤、架橋剤、反応抑制剤、あるいは粘度調整剤等の種類および添加量は、例えば接合部40を構成する樹脂の種類等に応じて、適宜選択すればよい。
既述したように、本実施形態では、接合部40の熱抵抗は、5.0×10-4(mK/W)以下としている。接合部40の熱抵抗は、4.5×10-4(mK/W)以下とすることが望ましく、4.0×10-4(mK/W)以下とすることがより望ましく、3.5×10-4(mK/W)以下とすることがさらに望ましい。なお、熱伝導率λおよび熱抵抗Rは、ここでは、室温(22℃)における値を指す。接合部40の熱抵抗をR(mK/W)、接合部40の厚みをt(m)、接合部40の熱伝導率をλ(W/mK)とすると、接合部40の熱抵抗Rは、以下の(1)式により求められる。
R(mK/W)=t(m)÷λ(W/mK) …(1)
接合部40の熱抵抗を上記の値にすることにより、接合部40を介したベース部30とセラミック部20との間の伝熱、すなわち、セラミック部20からベース部30への熱引きが行われ易くなり、静電チャック10における冷却効率を高めることができる。
接合部40の熱抵抗は、(1)式より、接合部40の厚さを薄くすることにより小さくすることができる。例えば、接合部40の厚みを0.5mm未満とすることで、接合部40の熱抵抗を5.0×10-4(mK/W)以下にすることが容易になる。ただし、接合部40の熱伝導率を高めて、例えば1.0W/mK以上にすることで、接合部40の厚みを0.5mm以上としても、接合部40の熱抵抗を5.0×10-4(mK/W)以下にすることが比較的容易になる。接合部40の熱伝導率を高めるには、例えば、後述するように、熱伝導率がより高い材料から成る無機フィラーを用いたり、無機フィラーの含有割合を高めたりすればよい。
また、接合部40の熱抵抗は、例えば、接合部40に含まれる無機フィラーの材料や、接合部40における無機フィラーの含有量や、接合部40に含まれる樹脂の種類により変更することができる。熱伝導率がより高い材料によって構成される無機フィラーを用いることにより、また、無機フィラーの含有量を増加させることにより、また、熱伝導率がより高い樹脂を用いることにより、接合部40の熱伝導率を高めて、接合部40の熱抵抗を小さくすることができる。
さらに、接合部40の熱抵抗は、接合部40に含まれる無機フィラーの粒子の形状により変更することができる。接合部40の熱抵抗を小さくするためには、無機フィラーを断面視したときの内接円の半径をR1とし、外接円の半径をR2としたときに、「R2/R1」の値の平均値が1.05以上であることが望ましく、1.10以上であることがより望ましい。「R2/R1」が1.0に近いほど、粒子の形状が真球に近い(以下では、真球度が高いともいう)ことを表す。
内接円および外接円の特定の方法、および、「R2/R1」の求め方は以下の通りである。すなわち、接合部40の断面を走査電子顕微鏡(SEM)にて観察した像において、観察される粒子1つに着目する。粒子を内包し、かつ粒子中の3つの頂点と接するように円を描き、これを外接円とする。また粒子中に内包され、かつ粒子の外周と3箇所で接するように円を描き、これを内接円とする。円が複数描ける場合は、円の半径が最小となる円を、内接円および外接円とする。粒子10個に対して同様に内接円および外接円を特定して、内接円の半径R1および外接円の半径R2の測定を行い、平均値から「R2/R1」を算出する。
図3は、無機フィラー42の粒子を断面視したときの「R2/R1」の求め方を示す説明図であり、図4は、無機フィラー42間で伝熱パスが形成される様子を示す説明図である。図3では、無機フィラー42を断面視したときの内接円を一点鎖線で示し、外接円を二点鎖線で示している。また、内接円の中心をOとして示し、外接円の中心をOとして示している。図4では、無機フィラー42同士が接する箇所に熱伝導パスが形成される様子を、両向き矢印により表している。無機フィラー42を断面視したときの「R2/R1」の値が上記した下限値以上であり、無機フィラー42の形状が真球とは異なって表面に凹凸を有するほど、図4に示すように無機フィラー42同士の接点が多くなって、接合部40内で熱伝導パスが形成され易くなり、接合部40の熱抵抗が小さくなる。
図5は、粒子形状の異なる2種類の無機フィラーについて、接合部40における無機フィラーの含有割合と、接合部40の熱伝導率と、の関係の例を示す説明図である。図5では、無機フィラーとして窒化アルミニウム(AlN)および酸化アルミニウム(アルミナ:Al)を用いており、ここで用いた無機フィラーでは、窒化アルミニウムの方が酸化アルミニウムよりも「R2/R1」の値が大きい。具体的には、図5に示す窒化アルミニウムの「R2/R1」は1.15であり、酸化アルミニウムの「R2/R1」は1.05である。
図5に示すように、接合部40における無機フィラーの含有割合が同じであっても、「R2/R1」の値が大きい窒化アルミニウムの方が、接合部40の熱伝導率の値がより大きくなる。図5に示すように、無機フィラーの含有割合が大きくなるほど、窒化アルミニウムと酸化アルミニウムとの間で、含有割合に対する熱伝導率の大きさの違いが顕著になっている。これは、無機フィラーの含有割合が大きくなるほど、無機フィラーの粒子間の距離が小さくなって接触し易くなり、無機フィラー同士の接点が多くなることによる熱伝導率への影響が現れ易くなるためと考えられる。すなわち、無機フィラーの含有割合がある程度多い場合には、無機フィラーが真球に近いと、含有割合をわずかに低下させただけで無機フィラー間の接点が大きく減少し易く、無機フィラーの表面に凹凸が多いと、含有割合を低下させても無機フィラー間の接点が減少する影響が比較的小さくなるためと考えられる。このように、無機フィラーの含有割合が比較的小さいとき(例えば20vol%以下のとき)には、無機フィラーの形状による熱伝導率への影響が小さく、無機フィラーそのものの熱伝導率の違いにより、接合部40の熱伝導率に若干の差が生じる。そして、無機フィラーの含有割合が比較的大きく無機フィラー同士が接触し易いときには、無機フィラーの形状による熱伝導率への影響が大きいことから、接合部40の熱伝導率に、大きな違いが生じると考えられる。なお、図5で用いた無機フィラーでは、窒化アルミニウムの方が酸化アルミニウムよりも「R2/R1」の値が大きいが、「R2/R1」の値は、無機フィラーの材質にかかわらず、製造方法等を調節することにより、種々変更可能である。
無機フィラーは、均質な材料により形成する他、例えば、無機フィラーの粒子本体を構成する材料とは異なる材料からなる被覆層を表面に設けてもよい。被覆層を構成する材料を適宜選択することにより、無機フィラーの耐水性を高めたり、無機フィラーと樹脂との馴染みを良好にして接合部40の柔軟性を高めたりすることが可能になる。例えば、無機フィラーとして窒化アルミニウムの粉末を用いる際に、無機フィラーを構成する窒化アルミニウム粒子の表面に、二酸化ケイ素(SiO)、酸化アルミニウム(Al)、あるいはリン酸アルミニウム(AlPO)を含む被覆層を設けることとしてもよい。
なお、接合部40の熱抵抗の下限値は、例えば、0.6×10-4(mK/W)とすることができる。接合部40の熱抵抗を抑えるためには、既述したように無機フィラーを構成する材料を適宜選択すると共に無機フィラーの含有割合を増加させる方法が考えられる。しかしながら、無機フィラーの含有割合を過剰に増加させると、接合部40の柔軟性が損なわれ、接合部40の後述する最大せん断応力時ひずみ量の大きさを十分に確保し難くなる可能性がある。また、接合部40の熱抵抗を抑えるためには、接合部40を薄くする方法が考えられる。しかしながら、接合部40を過剰に薄くすると、接合部40の強度が低下すると共に、接合部40の柔軟性を確保し難くなり、最大せん断応力時ひずみ量を所望の数値範囲にすることが困難になる可能性がある。そのため、接合部40の熱抵抗は、上記した0.6×10-4(mK/W)以上とすることが望ましい。
また、既述したように、本実施形態では、接合部40の最大せん断応力時ひずみ量は、0.5mm以上としている。接合部40の最大せん断応力時ひずみ量は、0.6mm以上とすることが望ましく、1.0mm以上とすることがより望ましく、1.1mm以上とすることがさらに望ましい。なお、接合部40の最大せん断応力時ひずみ量は、通常は、5.0mm以下となる。最大せん断応力時ひずみ量とは、接合部40の柔軟性や応力緩和性能を表す指標となる値であり、接合部40にせん断力を加えたときに接合部40で発生するせん断応力が最大になるとき、すなわち、接合部40で最大せん断応力が発生するときに、接合部40で生じるひずみの大きさ(せん断力方向の変位量)をいう。最大せん断応力時ひずみ量が大きいほど、接合部40の柔軟性が高いことを示す。最大せん断応力時ひずみ量を測定するための引張試験機を用いた具体的な測定方法については、後に詳しく説明する。接合部40の最大せん断応力時ひずみ量を上記の値にすれば、接合部40の柔軟性および応力緩和性能を十分に確保することが可能になる。
図6は、接合部40で発生する応力に関する説明図である。静電チャック10の使用時には、プラズマに暴露されること等によるセラミック部20への入熱により、セラミック部20が加熱され、膨張する。また、ベース部30は、冷媒流路32を備えることで冷却され、収縮する。図6では、セラミック部20が加熱され膨張する様子、および、ベース部30が冷却され収縮する様子を、白抜き矢印により示している。このとき、接合部40においては、セラミック部20およびベース部30を引っ張る力が働く。図6では、接合部40がセラミック部20を引っ張る力、および、ベース部30を引っ張る力を、それぞれ矢印で示している。さらに、図6では、接合部40に生じるX軸方向の変形量を、ひずみ量δとして示している。
また、静電チャック10においては、一般に、ベース部30の方がセラミック部20よりも熱膨張率が高く、温度変化により大きく膨張・収縮する。そのため、温度条件によっては、ベース部30が熱膨張する程度の方が、セラミック部20が熱膨張する程度よりも大きくなる場合もある。このように、セラミック部20とベース部30との間で膨張や収縮の程度が異なるために、接合部40においては、X軸方向のせん断力が加わり、せん断応力が発生する。そのため、上記したように接合部40の最大せん断応力時ひずみ量の大きさを、より大きくすることで、接合部40に大きなせん断力が加わる場合であっても、接合部40で生じるせん断応力を低減し、接合部40の損傷を抑えることができる。
接合部40の最大せん断応力時ひずみ量は、接合部40に含まれる接着剤(樹脂)により変更することができる。例えば、接合部40を構成する樹脂の種類により最大せん断応力時ひずみ量を変更できる他、同種の樹脂を用いる場合であっても、高分子材料である樹脂における架橋点間の距離を制御することで、接合部40の最大せん断応力時ひずみ量を変更できる。具体的には、上記樹脂における架橋点となる官能基の含有量(官能基当量)を少なくすると、架橋点間の距離が長くなって樹脂の柔軟性が向上するため、最大せん断応力時ひずみ量を大きくすることができる。また、樹脂における反応性官能基の含有量が同等の場合であっても、樹脂の硬化温度や硬化時間等の硬化条件により、架橋点間の距離を制御することができる。すなわち、硬化温度を高める場合、あるいは、硬化時間を長くする場合には、樹脂の硬化がさらに進行し、架橋密度が増加して、架橋点間の距離が短くなる。
また、接合部40の最大せん断応力時ひずみ量は、接合部40の厚みを厚くすることによって大きくすることもできる。
また、接合部40における無機フィラーの含有割合が大きいほど、接合部40の最大せん断応力時ひずみ量が小さくなる傾向がある。これは、無機フィラーの含有割合が大きいほど、無機フィラーが周囲の樹脂(樹脂組成物)を拘束する程度が大きくなり、接合部40の柔軟性が低下して、接合部40がひずみ難くなるためと考えられる。
以上のように構成された本実施形態の静電チャック10によれば、静電チャック10が備える接合部40の熱抵抗が5.0×10-4(mK/W)以下であり、最大せん断応力時ひずみ量が0.5mm以上であるため、セラミック部20に対する入熱がより大きくなる場合であっても、静電チャック10における冷却性能を高めると共に、接合部40に生じる応力に起因する不都合を抑えることができる。具体的には、既述したように、接合部40の熱抵抗を小さくするほど、静電チャック10における冷却効率を高めることができるため、接合部40の熱抵抗を上記の値とすることで、例えばセラミック部20の過剰な温度上昇が抑えられる。そのため、温度上昇に起因するウェハの加工精度の低下を抑えると共に、接合部40で発生するせん断応力を抑制することができる。また、接合部40の最大せん断応力時ひずみ量を大きくするほど、接合部40の応力緩和性能が高まるため、接合部40の最大せん断応力時ひずみ量を0.5mm以上とすることで、接合部40においてせん断応力が発生する場合であっても、せん断応力に起因する接合部40の損傷を抑えることができる。以上より、接合部40の熱抵抗および最大せん断応力時ひずみ量を上記の値にすることで、静電チャック10全体の性能を高めることができる。
このような効果は、特に、静電チャック10が、より高出力のプラズマに晒される場合のように、セラミック部に対する入熱が大きい場合に、顕著に得られる。例えば、セラミック部20を加熱するためのヒータ電極を設けない場合であっても、高いプラズマパワーと共に静電チャック10を使用する場合には、セラミック部20の載置面とベース部30との間の温度差が大きくなり易いため、本実施形態による効果が顕著に得られる。
接合部40における応力緩和性能を高めて、接合部40にせん断力が加えられたときの接合部40の損傷を抑えるためには、接合部40に対してせん断力が加えられたときに接合部40で発生するせん断応力が小さい方が望ましい。接合部40に発生するせん断応力を抑える観点から、接合部40について引張試験を行い、せん断力による変形の長さが0.5mmになるときに接合部40で生じるせん断応力(以下では、「せん断ひずみ量0.5mm時のせん断応力」とも呼ぶ)は、3.5MPa以下であることが望ましく、3.0以下であることがより望ましく、2.0以下であることがさらに望ましい。上記した「せん断ひずみ量0.5mm時のせん断応力」を測定するための引張試験機を用いた具体的な測定方法については、後に詳しく説明する。
なお、「せん断ひずみ量0.5mm時のせん断応力」は、0.1MPa以上とすることが望ましい。例えば、静電チャック10の使用態様として、静電チャック10が真空チャンバの外壁の一部を構成する構造があり、この場合には、静電チャック10においてセラミック部20側が真空中に露出され、ベース部30側が大気中に露出される状態となり得る。「せん断ひずみ量0.5mm時のせん断応力」を0.1MPa以上とするならば、上記のような使用態様であっても、接合部40における十分な強度を確保することが容易になる。なお、例えば使用態様が上記とは異なる場合には、「せん断ひずみ量0.5mm時のせん断応力」を0.1MPa未満としてもよい。
接合部40における応力緩和性能を高めて、接合部40にせん断力が加えられたときの接合部40の損傷を抑えるためには、既述したように、接合部40の柔軟性が確保されることが重要である。接合部40の柔軟性を表す他の指標として、接合部40の剛性率を挙げることができる。接合部40の剛性率は、例えば、2.5MPa以下であることが望ましく、2.0MPa以下であることがより望ましく、1.5MPa以下であることがさらに望ましい。ただし、接合部40の剛性率が小さすぎる場合には、接合部40の形状保持性が低下して、静電チャック10からウェハを着脱する際や、静電チャック10を搬送する際に、セラミック部20が望ましくない程度に動く可能性がある。そのため、このような不都合を抑える観点から、接合部40の剛性率は、0.03MPa以上とすればよい。剛性率の求め方については、後に詳しく説明する。
上述のように、接合部40は0.5mm以上のせん断歪み量が必要であり、これを満たすためには接合部40に用いる接着剤の引張伸びは、40%以上であることが望ましく、50%以上であることがより望ましく、60%以上であることがさらに望ましい。このように引張伸びは大きい方が好ましいが、通常は、500%以下になる。接着剤の引張伸びとは、引張試験機を用いた引張試験を行ったときに、硬化した接着剤のサンプルが破断したときの伸びの長さを、サンプルの最初の長さで除した値である。引張伸びが上記の所定量以上ある接着剤についてのみ、接合のための条件検討や、接合部40の柔軟性の指標となる測定、すなわち最大せん断応力、最大せん断応力時ひずみ量、せん断ひずみ量0.5mm時のせん断応力、剛性率の測定を行うことで、接着剤の選定の効率を高めることができる。
上記のように接合部40が十分な柔軟性を有することにより、静電チャック10のセラミック部20の載置面24の平面度を高めることができる。既述したように、静電チャック10において、温度変化に伴って接合部40にせん断力が加えられる場合であっても、接合部40の柔軟性を高めることにより、接合部40で生じるせん断応力が抑えられると共に、接合部40がセラミック部20を引っ張る力が抑えられ、セラミック部20の変形、すなわち、セラミック部20の平面度の低下が抑えられる。なお、平面度とは、JIS B0621「幾何偏差の定義及び表示」に定義されているように、「平面形体の幾何学的に正しい平面からの狂いの大きさ」を示す。
B.第2実施形態:
図7は、第2実施形態の静電チャック110の構成を模式的に示す断面図である。第2実施形態の静電チャック110は、単層の接合部40に代えて多層の接合部140を備えること以外は、第1実施形態と同様の構成を有している。第2実施形態の静電チャック110において、第1実施形態の静電チャック10と共通する部分には同じ参照番号を付す。なお、図7では、冷媒流路32等のベース部30内の構成の記載を省略している。
接合部140は、第1樹脂層142と、無機シート144と、第2樹脂層146と、を備える。接合部140においては、-Z軸方向(鉛直下方)に向かって、第1樹脂層142、無機シート144、第2樹脂層146、の順に積層されている。本実施形態において、第1樹脂層142と第2樹脂層146とを合わせて、単に「樹脂層」とも呼ぶ。本実施形態では、無機シート144は、樹脂層内において接合部140の面方向(X軸方向)に広がるように形成されている。そして、上記のように3層構造を有する接合部140の熱抵抗および最大せん断応力時ひずみ量は、第1実施形態の接合部40と同様の数値範囲となっている。すなわち、接合部140全体として、熱抵抗が5.0×10-4(mK/W)以下であり、最大せん断応力時ひずみ量が0.5mm以上となっている。
第1樹脂層142および第2樹脂層146は、樹脂によって構成される接着剤を備え、接着剤としては、第1実施形態の接合部40と同様の既述した接着剤を用いることができる。特に、弾性率が比較的低く、耐熱温度が比較的高いシリコーン樹脂を用いることが望ましい。また、第1樹脂層142および第2樹脂層146は、さらに、第1実施形態の接合部40と同様の既述した無機フィラーを含んでいてもよい。無機フィラーとしては、特に、窒化アルミニウムや酸化アルミニウムや炭化ケイ素は、熱伝導率が比較的高いため望ましい。第1樹脂層142および第2樹脂層146は、接着剤の種類、無機フィラーの有無、無機フィラーを含む場合には無機フィラーの含有量が、互いに異なっていてもよい。
無機シート144は、無機材料によって構成されており、例えば、セラミック部20と同様の、既述したセラミック(例えば、酸化アルミニウムや窒化アルミニウム等)を主成分として形成することができる。ただし、無機シート144とセラミック部20とは、異なる種類のセラミックを用いて形成してもよい。また、無機シート144は、セラミックに加えて、あるいは、セラミックに代えて、セラミック以外の無機材料、例えば炭素繊維やグラファイトや金属を用いて構成してもよい。また、無機シート144は、例えば、ヒータを構成していてもよい。
第2実施形態では、接合部140全体として、最大せん断応力時ひずみ量および熱抵抗の値が既述した数値範囲となるように、第1樹脂層142および第2樹脂層146の厚さ、無機シート144の厚さ、第1樹脂層142および第2樹脂層146を構成する樹脂の種類、第1樹脂層142および第2樹脂層146における無機フィラーの含有量(無機フィラーの有無を含む)等を、適宜設定すればよい。例えば、接合部140の最大せん断応力時ひずみ量は、第1樹脂層142および第2樹脂層146を厚くするほど大きくなり、また、第1樹脂層142および第2樹脂層146の最大せん断応力時ひずみ量を大きくするほど大きくなる。そして、接合部140の熱抵抗は、第1樹脂層142、無機シート144、および第2樹脂層146の各々の熱抵抗を小さくするほど小さくなる。
ここで、第1樹脂層142、無機シート144、および第2樹脂層146の各々の熱抵抗は、以下の(2)式により求められる。(2)式において、Rは各層の熱抵抗を表し、tは各層の厚みを表し、λは各層の熱伝導率を表す。ただし、(2)式において、第1樹脂層142はn=1であり、無機シート144はn=2であり、第2樹脂層146はn=3である。
(mK/W)=t(m)÷λ(W/mK) …(2)
そして、接合部140全体の熱抵抗Rは、以下の(3)式により求められる。(3)式において、Nは、樹脂層の数と無機シートの数との合計を表し、第2実施形態の接合部140では、N=3である。
R(mK/W)=R+R+…+R …(3)
このような構成とすれば、接合部140全体の熱抵抗および最大せん断応力時ひずみ量の値を既述した数値範囲とすることで、第1実施形態と同様の効果が得られる。さらに、接合部140が、樹脂層よりも熱伝導率が高い無機シート144を備えるため、第1樹脂層142および第2樹脂層146の厚さの合計を、第1実施形態の接合部40の厚さよりも薄くすることができる。これは、無機シート144を設ける場合には、無機シート144も熱抵抗になるため、接合部140全体の熱抵抗を既述した数値範囲に抑え、かつ樹脂層のみで同じ熱抵抗を得る場合と比べ、第1樹脂層142および第2樹脂層146の熱抵抗をより小さくできることになり、その結果、第1樹脂層142および第2樹脂層146の厚さの合計をより薄くできるためである。そのため、接合部140の側面(Z軸に平行な面)で露出する接着剤の層の表面積を低減し、接合部140の耐プラズマ性を高めることができる。さらに、第2実施形態によれば、接合部140が無機シート144を備えることにより、熱抵抗や最大せん断応力時ひずみ量を、接合部140の面内で均一化することができると共に、接合部140の面内の温度分布を、均一化することができる。
なお、第2実施形態では、接合部140は1層の無機シート144を備えることとしたが、複数の無機シートを備えることとしてもよい。この場合には、各無機シート間には、第1樹脂層142および第2樹脂層146と同様の樹脂層を配置すればよい。また、接合部が複数の無機シートを備える場合であっても、接合部におけるセラミック部20と接する面を含む層と、ベース部30と接する面を含む層は、樹脂層とすればよい。また、複数の無機シートを備える場合には、少なくとも1つの無機シートは、他の無機シートとは異なる材料により構成されていてもよい。複数の無機シートを備える場合であっても、接合部全体として、熱抵抗および最大せん断応力時ひずみ量の値が既述した数値範囲であれば、同様の効果を得ることができる。接合部が複数の無機シートを備える場合には、各無機シートおよび樹脂層の熱抵抗は、上記(2)式により求めることができ、接合部全体の熱抵抗は、上記(3)式により求めることができる。
C.他の実施形態:
本開示は、静電引力を利用してウェハWを保持する静電チャック以外の保持装置に適用してもよい。すなわち、板状部と、ベース部と、板状部とベース部とを接合する接合部と、を備え、セラミック部の表面上に対象物を保持する他の保持装置、例えば、CVD、PVD、PLD等の真空装置用ヒータ装置や、真空チャック等にも同様に適用可能である。
また、上記した各実施形態では、載置面を有する板状部は、セラミックを主成分とするセラミック部20としたが、板状部は、セラミック以外の材料を主成分とすることとしてもよい。そして、ベース部30は、板状部を主に形成する材料の熱伝導率とは異なる熱膨張率を有する材料を主成分としていればよい。このような板状部と、ベース部と、板状部とベース部とを接合する接合部と、を備える保持装置であれば、各実施形態で例示した本開示の構成を適用することにより、保持装置における冷却性能を高めて接合部で発生する応力を抑えると共に、接合部でせん断応力が発生しても接合部の損傷を抑える同様の効果が得られる。
以下では、本開示の保持装置について、実施例に基づいて説明する。ここでは、熱抵抗や最大せん断応力時ひずみ量が異なる種々の接合部に対応するサンプルとして、サンプルS1~サンプルS33までのシート状のサンプルを作製した。また、各シート状のサンプルS1~S33と同じ組成の接合部を備える静電チャック形態のサンプルを作製した。以下では、静電チャック形態のサンプルについても、接合部と同じ組成のシート状のサンプルと同じサンプル番号で呼ぶ。
図8~図11は、各サンプルの接合部の熱抵抗、最大せん断応力時ひずみ量、厚み、熱伝導率の値と共に、接合部を介したセラミック部の冷却性能、および、接合部の損傷しやすさ(剥がれ)を評価した結果を、まとめて示す説明図である。図10、図11ではさらに、サンプルS24~S33の接合部について引張試験を行って、せん断力による変形の長さが0.5mmになるときのせん断応力(せん断ひずみ量0.5mm時のせん断応力)の値と、静電チャックにおけるセラミック部20の平面度を評価した結果と、を併せて示している。図10ではさらに、サンプルS24~S29の剛性率についても示している。図11ではさらに、サンプルS30、31の接合部が備える無機フィラーの「R2/R1」の値についても示している。
<各サンプルの作製>
サンプルS1~S32の静電チャックは、いずれも、図2に示す第1実施形態の静電チャック10と同様の構成を有しており、サンプルS33の静電チャックは、図7に示す第2実施形態の静電チャック110と同様の構成を有している。以下では、まず、各サンプルに共通するシート状のサンプルおよび静電チャック形態のサンプルの作製方法を説明し、その後、各サンプルの材料および作製条件を説明する。
[シート状のサンプルの作製]
シート状のサンプルの作製方法は、以下の通りである。硬化前の接着剤である樹脂材料(100重量部)および無機フィラーに加えて、白金触媒(白金含有量で0.003重量部)、シランカップリング剤(2重量部)、および架橋剤(3重量部)を含む構成材料を、真空脱泡攪拌機を用いて真空下で撹拌した後、3本ロールミルで混練することにより、ペースト状の樹脂組成物(接着ペースト)を作製した。その後、作製した接着ペーストを、ドクターブレードを用いてポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムの上に塗り広げた。次に、接着ペーストが塗り広げられたPETフィルムを切断し、その後、切断されたPETフィルム付きの接着ペーストを、乾燥機を用いて、適宜設定した温度および時間の条件下で加熱することによって半硬化または硬化させることにより、各サンプルとしての接着シートを作製した。
各サンプルでは、接着剤として、シリコーン樹脂を用いた。具体的には、硬化前の接着剤材料(樹脂材料)として、ビニル末端ポリジメチルシロキサンを用いた。この樹脂材料を得るために、有機置換基を2個有する2官能性のD単位の原料として、ジメチルジクロロシラン((CHSiCl)を用いた。また、有機置換基を3個有する1官能性のM単位の原料として、トリメチルクロロシラン((CHSiCl)やヘキサメチルジシロキサン((CHSiOSi(CH)を用いた。さらに、末端に官能基を導入するために、官能基を有するM単位の原料であるジメチルビニルクロロシラン((CH(CH=CH)SiCl)を用い、分子鎖中に反応性の官能基を導入するために、官能基を有するD単位の原料であるCH(CH=CH)SiCl、および、(CH(CH=CH)SiClを用いた。サンプルS1~S25、S30~S33は、同じ樹脂材料を用いており、サンプルS26~S29は、それぞれ、D単位の原料とM単位の原料の混合割合を、上記サンプルS1等とは異ならせた樹脂材料を用いた。D単位の原料とM単位の原料の混合割合を異ならせて、樹脂材料の平均分子量を下げることで、樹脂材料における反応性官能基の含有量(密度)を増やした。具体的には、サンプルS1~S25、S30~S33の樹脂材料の平均分子量は63,000であり、サンプルS26の樹脂材料の平均分子量は33,000であり、サンプルS27の樹脂材料の平均分子量は30,000であり、サンプルS28の樹脂材料の平均分子量は18,000であり、サンプルS29の樹脂材料の平均分子量は15,000であり、この順で反応性官能基の含有量が多い。
[静電チャック形態のサンプルの作製]
静電チャック10の形態のサンプルは、上記した半硬化させた接着ペーストを、セラミック部20とベース部30との間に配置して、その後、接着ペーストを硬化させることにより作製した。静電チャック110の形態のサンプルは、上記した半硬化させた接着ペースト2枚によって、酸化アルミニウムを主成分とする無機シート144を挟み、これらをセラミック部20とベース部30との間に配置して、その後、接着ペーストを硬化させることにより作製した。セラミック部20としては、酸化アルミニウムによって構成されるセラミック部(熱膨張率は7ppm/K)を用い、ベース部30としては、アルミニウムによって構成されるベース部(熱膨張率は23ppm/K)を用いた。セラミック部20および接合部の直径は350mmとした。
[サンプルS1~S5]
サンプルS1~S5は、いずれも、既述した同じ樹脂材料を用い、無機フィラーとして窒化アルミニウム(平均粒子径10μm)を用いた。サンプルS1~S5における樹脂の硬化温度は、いずれも150℃とした。また、サンプルS1~S5における樹脂の硬化時間は、同じ最大せん断応力時ひずみ量となるよう、サンプルS1では10時間、サンプルS2では11時間、サンプルS3では15時間、サンプルS4では16時間、サンプルS5では28時間とした。サンプルS1~S5は、無機フィラーの添加量(含有割合)が異なっている。具体的には、無機フィラーの含有割合は、サンプルS1では32体積%、サンプルS2では28.5体積%、サンプルS3では21体積%、サンプルS4では20体積%、サンプルS5では11.5体積%とした。図8に示すように、無機フィラーの含有割合が高いサンプルほど、接合部の熱伝導率は大きくなり、熱抵抗の値は小さくなった。
[サンプルS6~S8]
サンプルS6~S8は、いずれも、既述した同じ樹脂材料を用いているが、硬化温度を異ならせることにより、樹脂中の架橋点間の距離を異ならせている。すなわち、サンプルS6は155℃、サンプルS7は165℃、サンプルS8は170℃で硬化を行った。硬化時間は、いずれも10時間とした。硬化温度が高いほど、架橋密度が増加して架橋点間の距離が短くなると考えられ、図8に示すように、硬化温度が高いほど、最大せん断応力時ひずみ量が小さくなった。なお、サンプルS6~S8は、無機フィラーとしてサンプルS1~S5と同様の窒化アルミニウムを含む。無機フィラーの添加量は、サンプルS6~S8のいずれにおいても、サンプルS1と同じ32体積%とした。
[サンプルS9~S20]
サンプルS9~S20は、いずれも、既述した同じ樹脂材料を用いているが、硬化温度を異ならせることにより、樹脂中の架橋点間の距離を異ならせている。すなわち、サンプルS9、S12、S15、S18の硬化温度は155℃、サンプルS10、S13、S16、S19の硬化温度は165℃、サンプルS11、S14、S17、S20の硬化温度は170℃とした。図8および図9に示すように、硬化温度が高いほど、最大せん断応力時ひずみ量が小さくなった。なお、硬化時間は、サンプルS9~S11が11時間、サンプルS12~S14が15時間、サンプルS15~S17が16時間、サンプルS18~S20が28時間とした。
また、サンプルS9~S20は、無機フィラーとしてサンプルS1~S5と同様の窒化アルミニウムを含む。無機フィラーの添加量は、サンプルS9~S11は28.5体積%、サンプルS12~S14は21体積%、サンプルS15~S17は21体積%、サンプルS18~S20は11.5体積%とした。図8および図9に示すように、無機フィラーの添加量が多いほど、接合部の熱伝導率は大きくなり、熱抵抗の値は小さくなった。
[サンプルS21~S23]
サンプルS21は、サンプルS1と同じである。サンプルS22、S23は、接合部の厚みのみを、サンプルS21(S1)とは異ならせた。接合部の厚みは、サンプルS21(S1)では0.3mmであり、サンプルS22では0.4mmであり、サンプルS23では0.5mmとした。図9に示すように、接合部が厚いほど、最大せん断応力時ひずみ量は大きくなった。
[サンプルS24~S29]
サンプルS24は、サンプルS1と同じである。サンプルS25~S29は、無機フィラーとしてサンプルS24(S1)と同様の窒化アルミニウムを含むが、無機フィラーの添加量は、いずれも、サンプルS24(S1)より多い44.4体積%とした。そのため、図10に示すように、サンプルS25~S29では、サンプルS24(S1)に比べて、接合部の熱伝導率は大きくなり、熱抵抗の値小さくなった。
また、サンプルS25~S29は、接合部を構成する接着剤の態様が異なっている。サンプルS25は、既述したようにサンプルS24(S1)と同じ樹脂材料を用いているが、硬化条件が140℃、10時間であり、硬化温度が低い。そのため、架橋密度が減少して架橋点間の距離が長くなったと考えられ、図10に示すように、サンプルS24(S1)に比べて、「せん断ひずみ量0.5mm時のせん断応力」が大きくなった。サンプルS26~S29は、サンプルS25と同じ硬化条件であるが、既述したように、樹脂における架橋点となる官能基の密度が変更されており、その結果、シリコーン樹脂における架橋点間の距離が異なっている。図10に示すように、反応性官能基の密度が高くなるほど、すなわち、サンプルS25~S29の順で、「せん断ひずみ量0.5mm時のせん断応力」および剛性率の値が大きくなった。
[サンプルS30~S32]
サンプルS30~S32は、いずれも、既述した同じ樹脂材料を用いているが、無機フィラーの種類が互いに異なっている。無機フィラーとして、サンプルS30は窒化アルミニウムを用い、サンプルS31は酸化アルミニウムを用い、サンプルS32は窒化ホウ素を用いた。
サンプルS30が含む無機フィラーは、図5に示した窒化アルミニウムと同じであり、サンプルS31が含む無機フィラーは、図5に示した酸化アルミニウムと同じである。サンプルS30およびサンプルS31では、無機フィラーの平均粒子径はいずれも10μmであり、接合部40における無機フィラーの含有割合は、いずれも44体積%とした。
サンプルS32では、無機フィラーである板状の窒化ホウ素の平均粒径は2μmである。窒化ホウ素を無機フィラーとして用いる場合には、窒化アルミニウムあるいは酸化アルミニウムを用いる場合に比べて接着ペーストの粘度が高くなり易く、接着ペーストにおける無機フィラーの含有割合を高めることが困難であった。そのため、接合部を形成可能な範囲に無機フィラーの含有割合を抑えて、サンプルS32の接合部では、無機フィラーである窒化ホウ素の含有割合を16体積%とした。
[サンプルS33]
サンプルS33の静電チャックは、既述したように、図7に示す第2実施形態の静電チャック110と同様の構成を有している。サンプルS33において、第1樹脂層142と第2樹脂層146とは、サンプルS25と同様の既述した樹脂材料を用い、硬化時間、無機フィラー、および無機フィラーの含有割合も、サンプルS25と同様とした。そして、第1樹脂層142および第2樹脂層146は、それぞれ、厚みが0.15mmであり、熱伝導率が1.44W/mKであり、熱抵抗が1.04×10-4K/Wとした。また、サンプルS33において、無機シート144は、酸化アルミニウム(アルミナ:Al)により構成され、厚みが1.0mmであり、熱伝導率が30W/mKであり、熱抵抗が0.33×10-4K/Wとした。
<熱伝導率の測定>
熱伝導率は、シート状のサンプルを対象として、公知の熱伝導率計(京都電子工業製迅速熱伝導率計QTM-710)を使用し、測定した。なお、シート状のサンプルに代えて、静電チャックに組み込まれた接合部を対象として熱伝導率を測定する場合には、静電チャックのセラミック部を平面研削盤等で削り取り、接合部を露出させた後に、ナイフ等を用いて接合部を剥ぎ取って、熱伝導率の測定を行えばよい。
<熱抵抗の算出>
熱抵抗Rは、上記のようにして測定した各サンプルの熱伝導率の測定値を用いて、以下の(1)式により求めた。(1)式において、tは接合部の厚みであり、λは接合部の熱伝導率、すなわち、上記の様に測定した各サンプルの熱伝導率である。
R(mK/W)=t(m)÷λ(W/mK) …(1)
<最大せん断応力の測定>
最大せん断応力、および、後述する最大せん断応力時ひずみ量は、公知の引張試験機(島津製作所製オートグラフAGSー5kNX)を使用し、引張試験によって測定した。
図12は、最大せん断応力およびひずみ量の算出方法を模式的に示す説明図である。図12(A)は、引張試験を正面から見た様子を表し、図12(B)および図12(C)は、側面から見た様子を表す。また、図12(A)および図12(B)は、試験開始時の様子を表し、図12(C)は、試験開始後の様子を表す。サンプルS1~S33の試験片70は、各サンプルの半硬化の接着シートを、幅25mm×長さ100mm×厚さ1mmの2枚のアルミニウム板72の端から12.5mmの位置までの、25mm×12.5mmの部分にそれぞれ貼り付け、2枚のアルミニウム板72を互いに逆方向に引っ張ることができる向きで貼り合わせた後、上記した半硬化の接着シートを硬化させることにより作製した。試験開始時の試験片70の厚さtは、図8~図11に示す接合部の厚さとした。次に、上記試験片にせん断力が作用するように、2つのアルミニウム板72を相対移動させた。ここでは、引張試験機を用いて、一方のアルミニウム板を接着面に平行な一方の方向に引張速度2mm/分で移動させながら、荷重と、移動距離としてのひずみ量δとを測定した(図12(C)参照)。図12(B)では、2つのアルミニウム板の相対的な移動の方向を、白抜き矢印で示している。荷重を移動前の試験片の接着面積(25mm×12.5mm)で除すことにより、せん断応力を算出した。このような2枚のアルミニウム板の相対移動を、試験片70が破断するまで継続し、せん断応力が最大となった時のせん断応力を、最大せん断応力(単位は、MPa)とした。
<最大せん断応力時ひずみ量の測定>
最大せん断応力時ひずみ量(単位は、mm)は、図12に示す引張試験において、せん断応力が最大になったときのひずみ量δとした。
図13は、引張試験による実測値の一例として、サンプルS25におけるひずみ量δとせん断応力との関係を示す説明図である。図13では、横軸にひずみ量(mm)を示し、縦軸にせん断応力(MPa)を示している。各サンプルについて、図13に示すように、引張試験の結果に基づいて、せん断応力が最大せん断応力τmaxになるときのひずみ量δaを求めた。
<せん断ひずみ量0.5mm時のせん断応力の測定>
せん断ひずみ量0.5mm時のせん断応力は、図12に示す引張試験において、ひずみ量δが0.5mmのときのせん断応力を指す。すなわち、各サンプルについて、図13に示すように、引張試験の結果に基づいて、ひずみ量δが0.5mmになるときのせん断応力τ0.5を求めた。
<剛性率>
剛性率Gは、以下の(4)式に示すように、せん断応力τをせん断ひずみγで除した値である。せん断ひずみγとは、以下の(5)式に示すように、ひずみ量δを、試験前のサンプルの厚みtで除した値である。
G(Mpa)=τ(MPa)÷γ(-) … (4)
γ(-)=δ(mm)÷t(mm) … (5)
図14は、図13と同様に、引張試験による実測値の一例としてサンプルS25の結果を示す説明図である。図14では、横軸において、ひずみ量(mm)に代えてひずみを示している。なお、図14の横軸に示すひずみは、上記(5)式のせん断ひずみγの値に100を乗じて百分率で示したものである。剛性率Gは、図14に示したひずみ-せん断応力線の傾きから算出される値である。各サンプルについて剛性率Gを導出した例として、サンプルS25について、ひずみ量δが0.5mmのときの数値を用いた算出結果を示す。サンプルS25の試験前の厚みtは0.3mmであるため(図10参照)、ひずみ量δが0.5mmのときのせん断ひずみγ0.5は、(5)式より「0.5÷0.3≒1.667(166.7%)」となる。そして、ひずみ量δが0.5mmのときのせん断応力τ0.5は、τ0.5=0.90であるため(図10参照)、剛性率Gは、(4)式より「0.90÷1.667≒0.54」となる。
なお、すでに静電チャックに組み込まれている接合部の最大せん断応力、最大せん断応力時ひずみ量、せん断ひずみ量0.5mm時のせん断応力、および剛性率を測定する場合には、例えば、以下のように行う。まず、レーザーカット等の加工方法により、接合部を被着体(セラミック部およびベース部)ごと切り出す。切り出す試験片の形状は、引張試験機の治具で保持することができ、かつ、接合されている2つの被着体を、図12に示されるように互いに逆方向に引っ張ることができる形状であればよい。引張試験を行う前に、切り出した試験片における接合部の面積と、接合部の厚さとを測定する。その後は、上述した方法と同様に引っ張り試験を行い、最大せん断応力、最大せん断応力時ひずみ量、せん断ひずみ量0.5mm時のせん断応力、および剛性率を測定すればよい。
<セラミック部の冷却性の評価>
静電チャックの各サンプルS1~S33について、接合部を介したセラミック部の冷却性を評価した。具体的には、各サンプルのセラミック部の初期温度を150℃に設定して、セラミック部が150℃になるまで加熱した。また、ベース部の冷媒流路に-10℃の冷媒を供給して、ベース部を冷却した。そして、セラミック部が150℃に達した後、セラミック部の加熱を停止し、セラミック部が20℃に冷却されるまでの時間を測定した。セラミック部が20℃に冷却されるまでに30秒以上かかる場合には、冷却性能が低い(×)と評価し、25秒以下の場合には、冷却性能が非常に優れている(◎)と評価した。セラミック部が20℃に冷却されるまでの時間が25秒よりも長く、30秒未満の場合には、冷却性能が良好である(○)と評価した。
<接合部の剥がれの評価>
静電チャック形態の各サンプルS1~S33について剥離試験を行い、接合部の剥がれの評価を行った。具体的には、各サンプルを市販の熱サイクル試験機に入れて最高温度150℃、最低温度0℃の熱サイクル試験を100サイクル行い、その後室温に戻し、セラミック部およびベース部との間における接合部の剥離の有無を評価した。接合部の剥離の有無は、公知の超音波探傷装置を用いて判定した。超音波をセラミック部側から照射し、セラミック部と接合部との接合界面に対応する深さから反射エコー(傷エコー)が検出されたら、セラミック部と接合部との接合界面に剥がれ有りと判定した。超音波をベース部側から照射し、ベースと接合部の接合界面に対応する深さから反射エコー(傷エコー)が検出されたら、ベース部と接合部との接合界面に剥がれ有りと判定した。上記した2つの界面の少なくとも一方で剥がれが見られたものを剥離「あり」、超音波探傷で剥がれが見られなかったものを剥離「なし」と評価した。
<R2/R1の算出>
「R2/R1」の値の算出のために、静電チャック10の形態の各サンプルについて、任意の個所を、図1に示すX-Y方向に50mm×50mmの大きさで、Z方向に貫通するように切り出し、得られた試験片から接合部40の部分をカッターで取り出した。切り出した接合部の断面を、鏡面研磨した後に走査電子顕微鏡(SEM)を用いて観察し、200μm×200μmの視野で観察される無機フィラーの粒子10個について、その形状を観察した。画像解析ソフトWinROOFを使用して内接円の半径R1と外接円の半径R2とを測定して「R2/R1」の値を求め(図3参照)、粒子10個の平均値として、各サンプルの「R2/R1」の値を算出した。
<平面度>
平面度の定義はJIS B0621「幾何偏差の定義及び表示」記載の通り、平面形体の幾何学的に正しい平面からの狂いの大きさ、であり、使用面を幾何学的に正しい平行二平面で挟んだとき、平行二平面の間隔が最小となる間隔の寸法を、平面度とした。 具体的な平面度の測定方法は、公知の三次元測定機を用いて測定すればよく、ここでは、キーエンス製ワンショット3D形状測定機「VRシリーズ」を用いた。上記した平行二平面の間隔が最小となる間隔の寸法が、50μm未満の場合には、平面度が非常に優れている(◎)と評価し、200μm以上の場合には、平面度が低い(×)と評価した。50μm以上、200μm未満の場合には、平面度が良好である(○)と評価した。
図8~図11に示すように、接合部の熱抵抗が5.0×10-4(mK/W)以下のときに、セラミック部を冷却する冷却性能が良好である(○)と評価され、接合部の熱抵抗が3.5×10-4(mK/W)以下のときに、冷却性能が非常に優れている(◎)と評価されることが確認された。また、接合部の最大せん断応力時ひずみ量が、0.5mm以上のときに、接合部において剥離が生じず、接合部におけるひずみの抑制と、接合部のひずみに起因する接合部の損傷抑制の効果が十分に得られることが確認された。安全率を2とすると、最大せん断応力時ひずみ量が1.0mm以上であることが特に望ましいと考えられる。
接合部における応力緩和性能を高めるために接合部の柔軟性を確保する指標としては、最大せん断応力時ひずみ量の他、「せん断ひずみ量0.5mm時のせん断応力」や接合部の剛性率が挙げられる。図10に示す各サンプルでは、既述したように、接合部を構成する樹脂の硬化温度や、無機フィラーの含有割合や、樹脂における反応性官能基の密度を異ならせることにより、上記した指標の値を異ならせている。図10に示すように、「せん断ひずみ量0.5mm時のせん断応力」を3.5MPa以下、あるいは、接合部の剛性率を2.0MPa以下とすることで、セラミック部の平面度が良好になることが確認された。特に、「せん断ひずみ量0.5mm時のせん断応力」を2.0MPa以下、あるいは、接合部の剛性率を1.2MPa以下とすることで、セラミック部の平面度がさらに良好になることが確認された。
また、図11のサンプルS30とサンプルS31とを比較して分かるように、無機フィラーの含有割合が同じであれば、R2/R1の値が1.10以上であり、真球度がより低いサンプルS30の方が、熱伝導率がより高くなり、接合部の熱抵抗がより小さくなることが確認された。ただし、図11でサンプルS32として示すように、無機フィラーとして板状の粒子である窒化ホウ素を用いる場合には、無機フィラーの真球度はより低いと考えられるが、既述したように接着ペーストの粘度が高くなり、無機フィラーの含有割合が抑えられるため、熱伝導率が比較的高くなった。その結果、熱抵抗も5.0×10-4(mK/W)を超えた。
なお、図11にデータは示していないが、サンプルS30~S32の他、カーボンナノチューブを無機フィラーとするサンプルの作製も行った。カーボンナノチューブ自体は、熱伝導率が非常に大きいことが知られているためである。しかし、この場合には接合部の熱伝導率の値がさらに小さくなった(0.27W/mK)。この結果は、カーボンナノチューブを無機フィラーとする場合には、無機フィラーの形状が繊維状のため、接着ペーストに配合できる無機フィラーの量が制限されて、熱伝導率が上昇しなかったと思われる。すなわち、繊維状の無機フィラーは、粒状や真球状の無機フィラーと比べ、無機フィラー自体の流動性が低いことにより、配合量が制限されたためと考えられる。
本開示は、上述の実施形態等に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の構成で実現することができる。例えば、発明の概要の欄に記載した各形態中の技術的特徴に対応する実施形態中の技術的特徴は、上述の課題の一部又は全部を解決するために、あるいは、上述の効果の一部又は全部を達成するために、適宜、差し替えや、組み合わせを行うことが可能である。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することが可能である。
10,110…静電チャック
20…セラミック部
22…吸着電極
24…載置面
30…ベース部
32…冷媒流路
40,140…接合部
42…無機フィラー
50…ガス供給路
52…ガス吐出口
70…試験片
72…アルミニウム板
142…第1樹脂層
144…無機シート
146…第2樹脂層

Claims (7)

  1. 対象物を保持する保持装置であって、
    板状に形成される板状部と、
    前記板状部を支持し、前記板状部を主に形成する材料の熱膨張率と異なる熱膨張率を有する材料を主とし、冷却機能を有し、板状に形成されるベース部と、
    前記板状部と前記ベース部との間に配置され、接着剤を含み、前記板状部と前記ベース部とを接合する接合部と、
    を備え、
    前記接合部の熱抵抗は、5.0×10-4(mK/W)以下であり、
    前記接合部の最大せん断応力時ひずみ量は、0.5mm以上であることを特徴とする
    保持装置。
  2. 請求項1に記載の保持装置であって、
    前記接合部は、該接合部について引張試験を行い、せん断力による変形の長さが0.5mmになるときのせん断応力が、0.1MPa以上、3.5MPa以下であることを特徴とする
    保持装置。
  3. 請求項1または2に記載の保持装置であって、
    前記接合部は、前記接着剤と無機フィラーとを含む複合物により構成されることを特徴とする
    保持装置。
  4. 請求項3に記載の保持装置であって、
    前記無機フィラーを断面視したときの内接円の半径をR1とし、外接円の半径をR2とすると、R2/R1の値の平均値が1.10以上であることを特徴とする
    保持装置。
  5. 請求項1から4までのいずれか一項に記載の保持装置であって、
    前記接合部の剛性率が0.03MPa以上、2.0MPa以下であることを特徴とする
    保持装置。
  6. 請求項1から5までのいずれか一項に記載の保持装置であって、
    前記接合部は、前記接着剤を含む樹脂層と、前記樹脂層内において前記接合部の面方向に広がるように形成されて、無機材料によって構成される無機シートと、を備えることを特徴とする
    保持装置。
  7. 請求項1から6までのいずれか一項に記載の保持装置であって、
    前記板状部は、セラミックを主成分とし、前記対象物を保持するための吸着電極を含み、前記対象物を加熱するためのヒータ電極を含まないことを特徴とする
    保持装置。
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