JP2023036522A - 化学結合評価方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】シリカとシランカップリング剤との間の化学結合の有無を直接評価できる化学結合評価方法を提供する。【解決手段】ゴム成分、シリカ及びシランカップリング剤を含むゴム組成物の前記シリカと前記シランカップリング剤との間の化学結合の有無を評価する化学結合評価方法。【選択図】なし

Description

本発明は、化学結合評価方法に関する。
ゴム組成物の低発熱化などを図るために、補強性充填剤としてシリカを配合することが知られており、更にシリカの分散性を改良するために、シランカップリング剤を併用する技術が提案されている。このようなシリカ配合では、シランカップリング剤を介したシリカ-シランカップリング剤-ポリマーの結合の形成が重要とされているが、その結合の形成を確認する手法として、29Si-固体NMR測定などが利用されている。
例えば、特許文献1、2には、29Si-固体NMR測定を用いて、シリカ配合におけるシランカップリング剤の反応を評価する方法、シリカとシランカップリング剤との反応量を求める方法が開示されている。
特開2010-216952号公報 特開2006-337342号公報
しかしながら、特許文献1、2の方法は、シリカとシランカップリング剤との反応量しか定量できず、シリカ-シランカップリング剤に化学結合が形成されているか否かを直接的に評価できない。
本発明は、前記課題を解決し、シリカとシランカップリング剤との間の化学結合の有無を直接評価できる化学結合評価方法を提供することを目的とする。
本発明は、ゴム成分、シリカ及びシランカップリング剤を含むゴム組成物の前記シリカと前記シランカップリング剤との間の化学結合の有無を評価する化学結合評価方法に関する。
本発明によれば、ゴム成分、シリカ及びシランカップリング剤を含むゴム組成物の前記シリカと前記シランカップリング剤との間の化学結合の有無を評価する化学結合評価方法であるので、該化学結合の有無を直接評価できる。
2次元NMR測定用に使われるパルス・シーケンスの構成図である。 2次元NMR測定の概念図である。 29Si-29Si二次元同種核間固体核磁気共鳴スペクトルの一例である。
本発明は、ゴム成分、シリカ及びシランカップリング剤を含むゴム組成物の前記シリカと前記シランカップリング剤との間の化学結合の有無を評価する化学結合評価方法である。
例えば、前記特許文献1、2に開示されている1次元核磁気共鳴法(1次元NMR)では、シランカップリング剤と化学結合していない状態のシリカ量の方が遥かに多く、結合している状態のシリカは、ピークがスペクトル中に埋もれてしまい、シリカ-シランカップリング剤の化学結合を直接評価できない。これに対し、本発明では、多次元核磁気共鳴法(多次元NMR)などの手法を用いることで、これまで評価できなかったシリカ-シランカップリング剤の化学結合の有無を評価する手法を確立できる。従って、本発明によれば、シリカ及びシランカップリング剤を含むゴム組成物におけるシリカ-シランカップリング剤の化学結合の有無について、直接的に評価することが可能となる。
前記化学結合評価方法において、評価対象のゴム組成物は、ゴム成分、シリカ及びシランカップリング剤を含む。
ゴム成分としては、例えば、ジエン系ゴムを使用できる。ジエン系ゴムとしては、イソプレン系ゴム、ブタジエンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、スチレンイソプレンブタジエンゴム(SIBR)、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)、クロロプレンゴム(CR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)などが挙げられる。また、ブチル系ゴム、フッ素ゴムなども挙げられる。例えば、タイヤ用途には、SBR、BR、イソプレン系ゴムを好適に使用できる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
上記ジエン系ゴムは、非変性ジエン系ゴムでもよいし、変性ジエン系ゴムでもよい。
変性ジエン系ゴムとしては、シリカ等の充填剤と相互作用する官能基を有するジエン系ゴムであればよく、例えば、ジエン系ゴムの少なくとも一方の末端を、上記官能基を有する化合物(変性剤)で変性された末端変性ジエン系ゴム(末端に上記官能基を有する末端変性ジエン系ゴム)や、主鎖に上記官能基を有する主鎖変性ジエン系ゴムや、主鎖及び末端に上記官能基を有する主鎖末端変性ジエン系ゴム(例えば、主鎖に上記官能基を有し、少なくとも一方の末端を上記変性剤で変性された主鎖末端変性ジエン系ゴム)や、分子中に2個以上のエポキシ基を有する多官能化合物により変性(カップリング)され、水酸基やエポキシ基が導入された末端変性ジエン系ゴム等が挙げられる。
上記官能基としては、例えば、アミノ基、アミド基、シリル基、アルコキシシリル基、イソシアネート基、イミノ基、イミダゾール基、ウレア基、エーテル基、カルボニル基、オキシカルボニル基、メルカプト基、スルフィド基、ジスルフィド基、スルホニル基、スルフィニル基、チオカルボニル基、アンモニウム基、イミド基、ヒドラゾ基、アゾ基、ジアゾ基、カルボキシル基、ニトリル基、ピリジル基、アルコキシ基、水酸基、オキシ基、エポキシ基等が挙げられる。なお、これらの官能基は、置換基を有していてもよい。例えば、アミノ基(好ましくはアミノ基が有する水素原子が炭素数1~6のアルキル基に置換されたアミノ基)、アルコキシ基(好ましくは炭素数1~6のアルコキシ基)、アルコキシシリル基(好ましくは炭素数1~6のアルコキシシリル基)が好ましい。
SBRとしては特に限定されず、例えば、乳化重合スチレンブタジエンゴム(E-SBR)、溶液重合スチレンブタジエンゴム(S-SBR)等を使用できる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。SBRは、非変性SBRでもよいし、変性SBRでもよい。変性SBRとしては、変性ジエン系ゴムと同様の官能基が導入された変性SBRが挙げられる。
前記ゴム組成物がSBRを含有する場合、ゴム成分100質量%中のSBRの含有量は特に限定されず、例えば、好ましくは10質量%以上、より好ましくは20質量%以上であり、100質量%でもよい。
BRは特に限定されず、例えば、高シス含量のハイシスBR、シンジオタクチックポリブタジエン結晶を含有するBR、希土類系触媒を用いて合成したBR(希土類BR)等を使用できる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。BRは、非変性BRでもよいし、変性BRでもよい。変性BRとしては、変性ジエン系ゴムと同様の官能基が導入された変性BRが挙げられる。
前記ゴム組成物がBRを含有する場合、ゴム成分100質量%中のBRの含有量は特に限定されず、例えば、好ましくは10質量%以上、より好ましくは20質量%以上である。上限は、好ましくは90質量%以下、より好ましくは80質量%以下である。
イソプレン系ゴムとしては、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、改質NR、変性NR、変性IR等が挙げられる。NRとしては、例えば、SIR20、RSS♯3、TSR20等、ゴム工業において一般的なものを使用できる。IRとしては、特に限定されず、例えば、IR2200等、ゴム工業において一般的なものを使用できる。改質NRとしては、脱タンパク質天然ゴム(DPNR)、高純度天然ゴム(UPNR)等、変性NRとしては、エポキシ化天然ゴム(ENR)、水素添加天然ゴム(HNR)、グラフト化天然ゴム等、変性IRとしては、エポキシ化イソプレンゴム、水素添加イソプレンゴム、グラフト化イソプレンゴム等、が挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
前記ゴム組成物がイソプレン系ゴムを含有する場合、ゴム成分100質量%中のイソプレン系ゴムの含有量は特に限定されず、例えば、好ましくは10質量%以上、より好ましくは20質量%以上である。上限は、好ましくは90質量%以下、より好ましくは80質量%以下である。
シリカとしては特に限定されず、乾式法シリカ(無水シリカ)、湿式法シリカ(含水シリカ)などが挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
シリカの含有量は特に限定されず、例えば、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは20質量部以上、より好ましくは30質量部以上、更に好ましくは50質量部以上である。該含有量の上限は特に限定されないが、好ましくは300質量部以下、より好ましくは200質量部以下、更に好ましくは150質量部以下である。上限以下にすることで、良好な分散性が得られる傾向がある。
シリカの窒素吸着比表面積(NSA)は特に限定されず、例えば、好ましくは70m/g以上、より好ましくは140m/g以上、更に好ましくは160m/g以上である。該シリカのNSAの上限は特に限定されないが、好ましくは500m/g以下、より好ましくは300m/g以下、更に好ましくは250m/g以下である。
なお、シリカのNSAは、ASTM D3037-93に準じてBET法で測定される値である。
シランカップリング剤としては特に限定されず、例えば、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(2-トリエトキシシリルエチル)テトラスルフィド、ビス(4-トリエトキシシリルブチル)テトラスルフィド、ビス(3-トリメトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(2-トリメトキシシリルエチル)テトラスルフィド、ビス(2-トリエトキシシリルエチル)トリスルフィド、ビス(4-トリメトキシシリルブチル)トリスルフィド、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド、ビス(2-トリエトキシシリルエチル)ジスルフィド、ビス(4-トリエトキシシリルブチル)ジスルフィド、ビス(3-トリメトキシシリルプロピル)ジスルフィド、ビス(2-トリメトキシシリルエチル)ジスルフィド、ビス(4-トリメトキシシリルブチル)ジスルフィド、3-トリメトキシシリルプロピル-N,N-ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、2-トリエトキシシリルエチル-N,N-ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、3-トリエトキシシリルプロピルメタクリレートモノスルフィド、などのスルフィド系、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、2-メルカプトエチルトリエトキシシラン、Momentive社製のNXT、NXT-Zなどのメルカプト系、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシランなどのビニル系、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシランなどのアミノ系、γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、などのグリシドキシ系、3-ニトロプロピルトリメトキシシラン、3-ニトロプロピルトリエトキシシランなどのニトロ系、3-クロロプロピルトリメトキシシラン、3-クロロプロピルトリエトキシシランなどのクロロ系などが挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
前記ゴム組成物において、シランカップリング剤の含有量は特に限定されず、例えば、シリカ100質量部に対して、3質量部以上が好ましく、6質量部以上がより好ましい。また、上記含有量は、20質量部以下が好ましく、15質量部以下がより好ましい。
前記ゴム組成物は、シリカ以外の他のフィラー(充填剤)を配合してもよい。他のフィラーとしては、カーボンブラック、炭酸カルシウム、タルク、アルミナ、クレー、水酸化アルミニウム、酸化アルミニウム、マイカなどのゴム分野で公知のフィラーが挙げられる。
前記ゴム組成物は、ゴム物性の観点から、加硫剤を含むことが好ましい。
加硫剤としては特に限定されず、例えば、硫黄などが挙げられる。硫黄としては、ゴム工業において一般的に用いられる粉末硫黄、沈降硫黄、コロイド硫黄、不溶性硫黄、高分散性硫黄、可溶性硫黄などが挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
前記ゴム組成物において、硫黄の含有量は特に限定されず、例えば、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは0.5質量部以上、更に好ましくは0.7質量部以上である。該含有量は、好ましくは6.0質量部以下、より好ましくは4.0質量部以下、更に好ましくは3.0質量部以下である。
前記ゴム組成物は、ゴム物性の観点から、加硫促進剤を含むことが好ましい。
加硫促進剤の種類は特に制限はなく、通常用いられているものを使用可能である。加硫促進剤としては、2-メルカプトベンゾチアゾール、ジ-2-ベンゾチアゾリルジスルフィド、N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアジルスルフェンアミド等のチアゾール系加硫促進剤;テトラメチルチウラムジスルフィド(TMTD)、テトラベンジルチウラムジスルフィド(TBzTD)、テトラキス(2-エチルヘキシル)チウラムジスルフィド(TOT-N)等のチウラム系加硫促進剤;N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアゾールスルフェンアミド、N-t-ブチル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N-オキシエチレン-2-ベンゾチアゾールスルフェンアミド、N,N’-ジイソプロピル-2-ベンゾチアゾールスルフェンアミド等のスルフェンアミド系加硫促進剤;ジフェニルグアニジン、ジオルトトリルグアニジン、オルトトリルビグアニジン等のグアニジン系加硫促進剤を挙げることができる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
前記ゴム組成物において、加硫促進剤の含有量は特に限定されず、ゴム成分100質量部に対して、通常、0.3~10質量部、好ましくは0.5~7質量部である。
前記ゴム組成物は、前述の成分以外の他の配合剤を含んでもよい。
他の配合剤としては、ゴム分野で公知の材料が使用でき、例えば、可塑剤(オイル、液状樹脂、固体樹脂等)、老化防止剤、ステアリン酸、酸化亜鉛、ワックス、離型剤、顔料などが挙げられる。これらの配合剤、その含有量は、用途等に応じて適宜選択すれば良い。
前記ゴム組成物は、未加硫ゴム組成物(未加硫のゴム組成物)、加硫ゴム組成物(加硫済のゴム組成物)のいずれでもよく、両方を含むものでもよい。
前記ゴム組成物の製造方法としては、公知の方法を用いることができる。例えば、上記各成分をオープンロール、バンバリーミキサーなどのゴム混練装置を用いて混練することで、未加硫ゴム組成物を製造でき、また、更に架橋(加硫)することで、加硫ゴム組成物を製造できる。
前記化学結合評価方法は、前述のゴム成分、シリカ、シランカップリング剤などを含むゴム組成物(サンプル)について、該ゴム組成物中に含まれるシリカとシランカップリング剤との間の化学結合の有無を評価する方法であるが、前記化学結合の有無を評価する方法としては、例えば、固体NMR(固体核磁気共鳴法)を使用できる。なかでも、シリカとシランカップリング剤との間の化学結合の有無を評価する観点から、多次元固体NMR(多次元固体核磁気共鳴法)を用いることが望ましい。
NMR装置は、静磁場中に置かれた試料内の所定の原子核にラジオ周波数の磁場パルスを照射し、所定の原子核からのNMR信号を所定の時間後に検出する分析装置であり、近年のNMR分光法では、多次元NMR測定が幅広く行われている。多次元NMR測定は、NMR信号を二つ以上の周波数軸を有する周波数空間上に表示することにより、一次元NMR測定に比べ分解能が向上しスペクトルの解析が容易になり、原子核スピン間の相互作用を解明できる利点がある。
図1及び図2に、多次元NMR測定の一例として、2次元NMR測定の概念図を示す。3次元以上の多次元測定は、2次元測定の拡張であり、新しい概念を持たないため、別途説明は省略する。図1は、2次元NMR測定に使われるパルス・シーケンス(以下、2次元パルス・シーケンス)の一般的な構成を示す。2次元パルス・シーケンスは、準備期間(Preparation)、展開期間(Evolution)、混合期間(Mixing)、検出期間(Acquisition)、緩和期間(Relaxation)の5つの期間により構成される。
5つの期間の中で、準備期間と混合期間は各々1つ以上の磁場パルスの照射を含む。展開期間は準備期間から混合期間までの遅延時間であり、通常tと表記し展開期間と呼ぶ。検出期間はNMR信号を受信系で検出する期間であり、通常tと表記する。一般に、1回の検出期間を持つパルス・シーケンスの実行をスキャン(scan)と呼び、NMR測定の回数を測る単位とする。緩和期間は、原子核がパルス・シーケンスを照射する以前の状態に戻るまでの待ち時間(期間)である。
2次元NMR測定は、展開期間tを変えながら2次元パルス・シーケンスを繰り返すことにより達成される。図2はその概念図を示す。Nsはスキャン回数であり、展開期間tを固定しパルス・シーケンスをNa回スキャンを繰り返す。検出したNMR信号は受信処理器で全て積算する。そのため、Naは積算回数と呼ぶ。Na回のスキャンが終わったら、展開期間tをユーザーが予め入力した増分Δtだけ増加させ、再びNa回のスキャンを行う。2次元NMR測定は、展開期間tをユーザーが予め入力した回数、Nt回増加させるまで、この過程を繰り返すことにより達成される。
上述のようにしてNMR測定が実施されることにより、NMRスペクトルが得られる。
多次元固体NMR(多次元固体核磁気共鳴法)のうち、少なくとも一次元が29Si-固体核磁気共鳴法であることが好ましい。少なくとも一次元が29Si-固体核磁気共鳴法である限り、その他の次元については特に限定されず、例えば、H-固体核磁気共鳴法、13C-固体核磁気共鳴法などを用いることができる。例えば、13C-固体核磁気共鳴法を用いると、直接的な13Cとの結合を評価することができる。
更に、多次元固体NMR(多次元固体核磁気共鳴法)として、多次元の29Si-固体NMR測定(固体高分解能29Si-NMR測定)を利用できる。29Si-固体NMR測定としては、29Si-DD/MAS-NMR測定(DD/MAS法)、29Si-CP/MAS-NMR測定(CP/MAS法)を利用できる。ここで、DD/MAS法は、双極子デカップリング-マジック角回転法(Dipolar Decoupling - Magic Angle Spinning)であり、CP/MAS法は、交差分極-マジック角回転法(Cross Polarization - Magic Angle Spinning)である。
前記ゴム組成物(サンプル)に対し、多次元の29Si-固体NMR測定を行うことにより、例えば、図3に示すような29Si-29Si二次元同種核間固体核磁気共鳴スペクトルが得られる。該スペクトルは、縦軸が29Si DQ化学シフト軸、横軸が29Si SQ化学シフト軸である。
スペクトルの帰属は、上記特許文献2や、Udo Goerl他,“Investigations Into The Silica/Silane Reaction System”,Rubber Chemistry And Technology,Vol.70,p.608-623,1997に記載された通りで、-85~-95ppm付近にピークをもつのがQ2構造(Si原子に2個のOH基が結合)、-96~-105ppm付近にピークをもつのがQ3構造(Si原子に1個のOH基が結合)、-106~-115ppm付近にピークをもつのがQ4構造(Si原子にOH基が結合していない)をそれぞれ示す。
そして、図3の円(破線)で示されるcross peakが、シランカップリング剤と化学結合を形成した状態のシリカに帰属されるものである。つまり、図3の29Si-29Si二次元同種核間固体核磁気共鳴スペクトルには、シランカップリング剤と化学結合した状態のシリカを直接的に観測することが可能であることが示されている。一方、図3の上段は、同一ゴム組成物(サンプル)の一次元NMR測定に対応するものであるが、Q3とQ4の間に位置するQ4’のpeakは、何れの珪素に帰属されるpeakよりも遥かに小さいため、分離できずに埋もれてしまっており、シランカップリング剤と化学結合した状態のシリカを直接的に観測できない。
このように、図3には、ゴム組成物(サンプル)中のシリカとシランカップリング剤との間の化学結合の有無を評価する方法として、例えば、二次元固体NMRなどの多次元固体NMRを行うことにより、Q4’というシランカップリング剤と結合した状態のシリカを直接的に観測することが可能になったことが具体的に示されている。
なお、前記ゴム組成物(サンプル)は特に限定されず、例えば、タイヤ用部材に使用されているゴム組成物も適用できる。タイヤ用部材としては、トレッド(キャップトレッド)、サイドウォール、ベーストレッド、アンダートレッド、ショルダー、クリンチ、ビードエイペックス、ブレーカークッションゴム、カーカスコード被覆用ゴム、インスレーション、チェーファー、インナーライナー等が挙げられる。
前記タイヤ用部材を備えたタイヤとしては、乗用車用タイヤ、大型乗用車用、大型SUV用タイヤ、トラック・バス用タイヤ、二輪車用タイヤ、競技用タイヤ、冬用タイヤ(スタッドレスタイヤ、スノータイヤ、低温路面向けタイヤ、スタッドタイヤ)、オールシーズンタイヤ、ランフラットタイヤ、航空機用タイヤ、鉱山用タイヤ等が挙げられる。
実施例に基づいて、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。
以下に、実施例及び比較例で用いた各種薬品について説明する。
SBR:日本ゼオン(株)製のNS616(非油展SBR)
シリカ:エボニックデグッサ社製のウルトラシルVN3(NSA175m/g)
シランカップリング剤:エボニックデグッサ社製のSi266(ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド)
オイル:出光興産(株)製のダイアナプロセスNH-70S(アロマ系プロセスオイル)
ワックス:日本精蝋(株)製のオゾエース0355
老化防止剤:大内新興化学工業(株)製のノクラック6C(N-(1,3-ジメチルブチル)-N’-フェニル-p-フェニレンジアミン)
酸化亜鉛:三井金属鉱業(株)製の亜鉛華1号
ステアリン酸:日油(株)製のステアリン酸「椿」
硫黄:細井化学工業(株)製のHK-200-5(5質量%オイル含有粉末硫黄)
加硫促進剤CZ:大内新興化学工業(株)製のノクセラーCZ(N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド)
加硫促進剤DPG:大内新興化学(株)製のノクセラーD(ジフェニルグアニジン)
(ゴム組成物(加硫済)の製造)
表1に示す配合内容に従い、(株)神戸製鋼所製の1.7Lバンバリーミキサーを用いて、硫黄及び加硫促進剤以外の材料を150℃の条件下で5分間混練りし、混練り物を得た。次に、得られた混練り物に硫黄及び加硫促進剤を添加し、オープンロールを用いて、80℃の条件下で5分間練り込み、未加硫ゴム組成物を得た。得られた未加硫ゴム組成物を150℃の条件下で12分間プレス加硫し、加硫ゴム組成物(サンプル)を得た。
Figure 2023036522000001
<比較例>
通常の固体NMR測定において、9.4T以上の磁場でCP/MAS法を使用して、三日間以上の測定時間で測定した。
(測定条件)
装置:Bruker社製AvanceIII 600
使用プローブ:Bruker社製4mm MAS BB WB VTプローブ
29Si共鳴周波数:119.2MHz
MAS回転速度:12kHz(±5Hz)
測定モード:CP/MAS
90°パルス幅:3.5μs
遅延時間:8sec
観測温度:303K
外部基準物質:シリコーンゴム(化学シフト値は-22.3ppm)
<実施例>
一般的な二次元NMR測定法で、二次元展開期前後に何らかの同種核間相互作用のrecoupling手法を適用し、その内からphase cyclingにより、二次元展開期におけるDQ coherenceのみを選択するようなパルス系列を用いて測定した。
(測定条件)
装置:Bruker社製AvanceNEO 400
使用プローブ:Bruker社製4mm DNP-MAS BB WB LTプローブ
29Si共鳴周波数:79.5MHz
MAS回転速度:5kHz(±10Hz)
測定モード:CP/MAS
90°パルス幅:3.5μs
遅延時間:8sec
観測温度:100K
外部基準物質:シリコーンゴム(化学シフト値は-22.3ppm)
比較例の測定では、図3の上段のスペクトルが得られたが、Q4’のpeakが埋もれ、シランカップリング剤と化学結合した状態のシリカを観測できないのに対し、実施例の二次元NMR測定では、図3の29Si-29Si二次元同種核間固体核磁気共鳴スペクトルが得られ、Q4’というシランカップリング剤と結合した状態のシリカを直接的に観測することが可能であった。
本発明(1)は、ゴム成分、シリカ及びシランカップリング剤を含むゴム組成物の前記シリカと前記シランカップリング剤との間の化学結合の有無を評価する化学結合評価方法である。
本発明(2)は、前記ゴム組成物が加硫剤及び加硫促進剤を含む本発明(1)記載の化学結合評価方法である。
本発明(3)は、前記ゴム組成物が未加硫ゴム組成物及び/又は加硫ゴム組成物である本発明(1)又は(2)記載の化学結合評価方法である。
本発明(4)は、多次元固体核磁気共鳴法を用いて、前記化学結合の有無を評価する本発明(1)~(3)のいずれかに記載の化学結合評価方法である。
本発明(5)は、前記多次元固体核磁気共鳴法のうち、少なくとも一次元が29Si-固体核磁気共鳴法である本発明(4)記載の化学結合評価方法である。

Claims (5)

  1. ゴム成分、シリカ及びシランカップリング剤を含むゴム組成物の前記シリカと前記シランカップリング剤との間の化学結合の有無を評価する化学結合評価方法。
  2. 前記ゴム組成物は、加硫剤及び加硫促進剤を含む請求項1記載の化学結合評価方法。
  3. 前記ゴム組成物は、未加硫ゴム組成物及び/又は加硫ゴム組成物である請求項1又は2記載の化学結合評価方法。
  4. 多次元固体核磁気共鳴法を用いて、前記化学結合の有無を評価する請求項1又は2記載の化学結合評価方法。
  5. 前記多次元固体核磁気共鳴法のうち、少なくとも一次元が29Si-固体核磁気共鳴法である請求項4記載の化学結合評価方法。
JP2022109025A 2021-09-02 2022-07-06 化学結合評価方法 Pending JP2023036522A (ja)

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